説明

自動車用変速機

【課題】自動車用変速機において、潤滑油の撹拌による動力損失を減少させる。
【解決手段】自動車用変速機は、エンジン10に連結される入力軸12と、この入力軸12と同軸的に相対回転可能に配置されて駆動車輪に連結される出力軸15と、入力軸12及び出力軸15の下側にこの両軸と平行に配置された第1及び第2中間軸13,14を備えている。低変速段時には、入力軸12の回転は低変速段の第1変速機構TM1により第1中間軸13に伝達され、第1中間軸13の回転は出力側減速ギヤ対17及び第1変速クラッチC5により出力軸15に伝達される。高変速段時には、入力軸12の回転は第4変速クラッチC4及び入力側減速ギヤ対18により第2中間軸14に伝達され、第2中間軸14の回転は第2変速機構TM2によりにより出力軸15に伝達される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用変速機、特に潤滑油の撹拌による動力損失が少ない自動車用変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などにおいて、エンジンの回転を変速して駆動車輪に伝達する変速機には、図4及び図5に示すように、クラッチ2を介してエンジン1に連結される入力軸3と、この入力軸3と同軸的に相対回転自在に配置されて駆動車輪に連結される出力軸5と、この両軸3,5をそれらの間で回転が変速して伝達されるように仲介する中間軸4を備えたものがある。この種の変速機の動力伝達効率を低下させる要因の一つとして、各軸に設けたギヤ及び変速クラッチによる変速機ケース内の底部に収容された潤滑油の撹拌がある。
【0003】
この種の変速機を備えたエンジンユニット、例えば最も一般的な前側エンジン後輪駆動方式のエンジンユニットの変速機では、入力軸3及び出力軸4の下側に中間軸4を配置するのが一般的であるので、潤滑油の撹拌による動力損失は中間軸4とともに回転するギヤ及び変速クラッチによるものが大部分を占め、中間軸4の回転速度の増減に応じて増減する。中間軸4とともに回転して潤滑油を撹拌するするギヤ及び変速クラッチのうち、一部のギヤは変速段の切換により入れ代わるが、それは一部の交代であるので撹拌による動力損失に及ぼす影響は比較的少ないと考えられ、潤滑油の撹拌による動力損失の低減には、中間軸4の回転速度を低下させるのが有効であると考えられる。
【0004】
この種の自動車用変速機には、入力軸3の回転を先ず入力側減速ギヤ対7により減速して中間軸4に伝達し、次いで中間軸4の回転を複数対の変速ギヤよりなる変速機構6により変速して出力軸5に伝達する入力側減速ギヤ方式のもの(図4参照)と、入力軸3の回転を先ず複数対の変速歯車列よりなる変速機構6により変速して中間軸4に伝達し、次いで中間軸4の回転を出力側減速ギヤ対8により減速して出力軸5に伝達する出力側減速ギヤ方式のもの(図5参照)がある。この図4及び図5に示す各方式の変速機は何れも前進6段後進1段の変速機の例を示し、図6には入力側及び出力側減速ギヤ対7,8のギヤ比が同一である場合の、この両方式の変速機の各変速段における変速機構6の変速ギヤ比r1、入力側及び出力側の各減速ギヤ対7,8のギヤ比r2、トータルギヤ比r3(=r1×r2)の数値の一例を示している。また図7は、このような数値例の入力側減速ギヤ方式及び出力側減速ギヤ方式の各変速機において、エンジン1により駆動される入力軸3の回転速度が2500rpmである場合の、中間軸4と出力軸5の回転速度を示している。
【0005】
この図7によれば、中間軸4の回転速度は、図4に示す入力側減速ギヤ方式の変速機では一定値(=2083rpm)となり、図5に示す出力側減速ギヤ方式の変速機では、低変速段では低く(第1速段で833rpm)、高変速段では高く(第6速段で4167rpm)なるように変化している。そして中間軸4の回転速度は、低変速段である第1速〜第3速では出力側減速ギヤ方式のものの方が入力側減速ギヤ方式のものよりも低く、高変速段である第4速〜第6速では入力側減速ギヤ方式のものの方が出力側減速ギヤ方式のものよりも低くなることが示されている。図7の数値は入力軸3の回転速度が2500rpmである場合の例であり、それ以外の回転速度では数値そのものは入力軸3の回転速度に比例して異なる値となるが、中間軸4の回転速度は、低変速段である第1速〜第3速では出力側減速ギヤ方式のものの方が入力側減速ギヤ方式のものよりも低く、高変速段である第4速〜第7速では入力側減速ギヤ方式のものの方が出力側減速ギヤ方式のものよりも低くなることに変わりはない。
【0006】
また以上は入力軸3の回転速度を一定とした場合であり、これに対し駆動車輪に連結される出力軸5の回転速度を一定とした場合には、中間軸4の回転速度は、出力側減速ギヤ方式の変速機では一定となり、入力側減速ギヤ方式の変速機では低変速段では高く高変速段では低くなるように変化するが、中間軸4の回転速度は、低変速段である第1速〜第3速では出力側減速ギヤ方式のものの方が入力側減速ギヤ方式のものよりも低くなり、高変速段である第4速〜第7速では入力側減速ギヤ方式のものの方が出力側減速ギヤ方式のものよりも低くなるということについては、入力軸3の回転速度を一定とした場合と変わりはない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、この種の変速機において、低変速段では中間軸4の回転速度が入力側減速ギヤ方式の場合よりも低くなる出力側減速ギヤ方式を選択し、高変速段では中間軸4の回転速度が出力側減速ギヤ方式の場合よりも低くなる入力側減速ギヤ方式を選択するような構成として、潤滑油の撹拌による動力損失を減少させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このために、本発明による自動車用変速機は、エンジンに連結される入力軸と、この入力軸と同軸的に相対回転可能に配置されて駆動車輪に連結される出力軸と、入力軸及び出力軸の下側にこの両軸と平行に配置された中間軸を備え、入力軸と出力軸は中間軸を介して回転を変速して伝達するように連結されている自動車用変速機において、中間軸は、それぞれ入力軸及び出力軸と平行に配置された第1中間軸及び第2中間軸よりなり、入力軸の回転を複数の変速比で変速して第1中間軸に伝達する低変速段の第1変速機構、第1中間軸の回転を出力軸に伝達する出力側減速ギヤ対、及びこの出力側減速ギヤ対の回転伝達経路に直列に設けられ低変速段のときに連結されて出力側減速ギヤ対による回転の伝達を選択する第5変速クラッチよりなる低変速段時の動力伝達経路と、入力軸の回転を第2中間軸に伝達する入力側減速ギヤ対、この入力側減速ギヤ対の回転伝達経路に直列に設けられ高変速段のときに連結されて入力側減速ギヤ対による回転の伝達を選択する第4変速クラッチ、及び第2中間軸の回転を複数の変速比で変速して出力軸に伝達する高変速段の第2変速機構よりなる低変速段時の動力伝達経路を備えたことを特徴とするものである。
【0009】
前項に記載の自動車用変速機において、第1変速機構の変速クラッチは入力軸に設けることが好ましい。
【0010】
前各項に記載の自動車用変速機において、第2変速機構の変速クラッチは第2中間軸に設けることが好ましい。
【0011】
前各項に記載の自動車用変速機は、入力軸と出力軸の間の回転速度比が1または1付近となる変速段より低変速段側では第5変速クラッチが連結されて出力側減速ギヤ対による回転の伝達を選択し、その変速段より高変速段側では第4変速クラッチが連結されて入力側減速ギヤ対による回転の伝達を選択することが好ましい。
【0012】
前各項に記載の自動車用変速機は、入力軸と出力軸の間の回転速度比が1または1付近となる変速段では、入力軸と出力軸は1つの変速クラッチにより直結し、その変速段より低変速段側では第5変速クラッチが連結されて出力側減速ギヤ対による回転の伝達を選択し、その変速段より高変速段側では第4変速クラッチが連結されて入力側減速ギヤ対による回転の伝達を選択することが好ましい。
【0013】
前各項に記載の自動車用変速機において、第1及び第2中間軸の何れか一方の軸は中空軸とし、他方の軸は一方の軸内を相対回転自在に貫通させることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、中間軸は、それぞれ入力軸及び出力軸と平行に配置された第1中間軸及び第2中間軸よりなり、入力軸の回転を複数の変速比で変速して第1中間軸に伝達する低変速段の第1変速機構、第1中間軸の回転を出力軸に伝達する出力側減速ギヤ対、及びこの出力側減速ギヤ対の回転伝達経路に直列に設けられ低変速段のときに連結されて出力側減速ギヤ対による回転の伝達を選択する第5変速クラッチよりなる低変速段時の動力伝達経路と、入力軸の回転を第2中間軸に伝達する入力側減速ギヤ対、この入力側減速ギヤ対の回転伝達経路に直列に設けられ高変速段のときに連結されて入力側減速ギヤ対による回転の伝達を選択する第4変速クラッチ、及び第2中間軸の回転を複数の変速比で変速して出力軸に伝達する高変速段の第2変速機構よりなる低変速段時の動力伝達経路を備えている。低変速段では第5変速クラッチが連結されて、出力側減速ギヤ対により第1中間軸と出力軸を連結し、入力軸と第1中間軸13を連結する低変速段の第1変速機構と組み合わせて出力側減速ギヤ方式の変速機を構成して入力軸の回転を出力軸に伝達し、高変速段では第4変速クラッチが連結されて、入力側減速ギヤ対により入力軸と第2中間軸を連結し、第2中間軸と出力軸を連結する高変速段の第2変速機構と組み合わせて入力側減速ギヤ方式の変速機を構成して入力軸の回転を出力軸に伝達している。低変速段のときには第5変速クラッチにより出力側減速ギヤ対による回転の伝達が選択されて、前述のように入力側減速ギヤ方式の場合の第2中間軸よりも回転速度が低い出力側減速ギヤ方式の第1中間軸を介して回転が伝達され、高変速段のときには第4変速クラッチにより入力側減速ギヤ対による回転の伝達が選択されて、前述のように出力側減速ギヤ方式の場合の第1中間軸よりも回転速度が低い入力側減速ギヤ方式の第2中間軸を介して回転が伝達される。本発明ではこのように変速段の高低に応じて、回転速度が低い方となる第1中間軸または第2中間軸を選択して回転の伝達を行うので、選択された中間軸の回転に伴う潤滑油の撹拌による動力損失を減少させることができる。
【0015】
第1変速機構の変速クラッチを第1中間軸側に設ければ、高変速段で第1中間軸が回転を伝達していない状態でも、第1変速機構の各ギヤ対の従動側ギヤは入力軸側から駆動されて第2中間軸より低い回転速度ではあるが回転されるのでそれらの従動側ギヤにより潤滑油が撹拌され、その分だけ動力損失は増大する。しかしながら、第1変速機構の変速クラッチを入力軸に設けた請求項2の発明によれば、高変速段では第1変速機構の各ギヤ対の従動側ギヤは抵抗を受ければ回転が低下または停止するので、その分だけ動力損失を減少させることができる。
【0016】
また第2変速機構の変速クラッチを出力軸側に設けると、低変速段で第2中間軸が回転を伝達していない状態でも、第2変速機構の各ギヤ対の駆動側ギヤは出力軸側から逆駆動されて回転されてそれらの駆動側ギヤにより潤滑油が撹拌されるので、その分だけ動力損失は増大する。しかしながら、第2変速機構の変速クラッチを第2中間軸に設けた請求項3の発明によれば、低変速段では第2変速機構の各ギヤ対の駆動側ギヤは抵抗を受ければ回転が低下または停止するので、その分だけ動力損失を減少させることができる。
【0017】
前述のように第1中間軸と第2中間軸の各回転速度の値の大小関係は、入力軸と出力軸の間の回転速度比が1または1付近となる変速段を境界として逆転する。従って、
入力軸と出力軸の間の回転速度比が1または1付近となる変速段より低変速段側では第5変速クラッチが連結されて出力側減速ギヤ対による回転の伝達を選択し、その変速段より高変速段側では第4変速クラッチが連結されて入力側減速ギヤ対による回転の伝達を選択する請求項4の発明によれば、第1中間軸と第2中間軸の各回転速度の値の大小関係が丁度逆転するところで入力側減速ギヤ方式と出力側減速ギヤ方式の選択が入れ代わるので、入力側減速ギヤ方式と出力側減速ギヤ方式とが入れ替わる付近において回転速度が高い方の中間軸を選択することはなくなる。これにより実際に回転される中間軸の回転速度の平均値は多少ながらさらに低下されるので、潤滑油の撹拌による動力損失を一層減少させることができる。
【0018】
入力軸と出力軸の間の回転速度比が1または1付近となる変速段では、入力軸と出力軸は1つの変速クラッチにより直結し、その変速段より低変速段側では第5変速クラッチが連結されて出力側減速ギヤ対による回転の伝達を選択し、その変速段より高変速段側では第4変速クラッチが連結されて入力側減速ギヤ対による回転の伝達を選択する請求項5の発明によれば、入力軸と出力軸の間の回転速度比が1または1付近となる変速段で使用する変速ギヤ対は不要となり、その分だけ構造が簡略化されるので、自動車用変速機の重量及び製造コストを低下させることができる。
【0019】
第1及び第2中間軸の何れか一方の軸は中空軸とし、他方の軸は一方の軸内を相対回転自在に貫通させるようにした請求項6の発明によれば、第1及び第2中間軸に設ける各ギヤ及び各変速クラッチを一直線上に同軸的に配置できるので、自動車用変速機をコンパクトにまとめることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による自動車用変速機の第1実施形態の全体構造を示すスケルトン図である。
【図2】本発明による自動車用変速機の第2実施形態の全体構造を示すスケルトン図である。
【図3】第1及び第2実施形態の変速動作の説明図である。
【図4】従来技術による入力側減速ギヤ方式の自動車用変速機の一例の全体構造を示すスケルトン図である。
【図5】従来技術による出力側減速ギヤ方式の自動車用変速機の一例の全体構造を示すスケルトン図である。
【図6】従来技術による自動車用変速機のギヤ比の一例を示す図である。
【図7】図4及び5に示す入力側減速ギヤ方式及び出力側減速ギヤ方式の自動車用変速機における中間軸及び出力軸の回転速度の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
先ず図1に示す第1実施形態により本発明の説明をする。この第1実施形態は、前進6段後進1段の自動車用変速機に本発明を適用したものであり、図1に示すように、摩擦クラッチ11を介してエンジン10に連結される入力軸12と、駆動車輪に連結される出力軸15と、入力軸12及び出力軸15の下側に配置された第1及び第2中間軸13,14と、入力軸12の回転を第1中間軸13に伝達する低変速段の第1変速機構TM1と、第1中間軸13の回転を出力軸15に伝達する出力側減速ギヤ対17と、この出力側減速ギヤ対17に対し直列に設けられた第5変速クラッチC5と、入力軸12の回転を第2中間軸14に伝達する入力側減速ギヤ対18と、この入力側減速ギヤ対18に対し直列に設けられた第4変速クラッチC4(後進ギヤ列GRの変速クラッチと兼用)と、第2中間軸14の回転を出力軸15に伝達する高変速段の第2変速機構TM2よりなるものである。第1変速機構TM1、出力側減速ギヤ対17及び第5変速クラッチC5は低変速段時の動力伝達経路を構成し、入力側減速ギヤ対18、第4変速クラッチC4(同前)及び第2変速機構TM2は高変速段時の動力伝達経路を構成している。
【0022】
入力軸12と出力軸15は、出力軸15に固定されたカップリング16により互いに同軸的に回転自在に連結されて、後述する第2変速クラッチC2(第3速ギヤ対G3の変速クラッチと兼用)により離脱可能に連結されている。第1中間軸13は入力軸12及び出力軸15と平行な中空軸とし、第2中間軸14はこの第1中間軸13を同軸的かつ回転自在に貫通して設けられ、その両端は第1中間軸13から突出している。摩擦クラッチ11を介してエンジン10により駆動される入力軸12の回転は、後述のように第2変速クラッチC2により入力軸12と出力軸15が直結される第4速の場合を除き、先ず入力軸12から第1または第2中間軸13,14に伝達され、次いで第1または第2中間軸13,14から出力軸15に伝達される。
【0023】
図1に示すように、入力軸12には、入力側減速ギヤ対18、後進ギヤ列GR及び第1〜第3速ギヤ対G1〜G3の駆動側ギヤ、並びにカップリング16が回転自在に設けられている。入力側減速ギヤ対18と後進ギヤ列GRの各駆動側ギヤの間には、両側の駆動側ギヤを入力軸12に選択的に連結する第4変速クラッチC4が設けられ、第1速ギヤ対G1と第2速ギヤ対G2の各駆動側ギヤの間には、両側の駆動側ギヤを入力軸12に選択的に連結する第1変速クラッチC1が設けられ、第3速ギヤ対G3の駆動側ギヤとカップリング16の間には、両側の駆動側ギヤ及びカップリング16を入力軸12に選択的に連結する第2変速クラッチC2が設けられている。後進ギヤ列GR及び第1〜第3速ギヤ対G1〜G3の各従動側ギヤは第1中間軸13に固定され、入力側減速ギヤ対18の従動側ギヤは第1中間軸13から一方に突出する第2中間軸14の一端に固定されている。
【0024】
出力軸15には、第5速及び第6速ギヤ対G5,G6の従動側ギヤが固定されている。また出力軸15には出力側減速ギヤ対17の従動側ギヤが回転自在に設けられ、この従動側ギヤを出力軸15に選択的に連結する第5変速ギヤクラッチC5が設けられている。第5速及び第6速ギヤ対G5,G6の各駆動側ギヤは、第1中間軸13から他方に突出する第2中間軸14の一部に回転自在に設けられ、この各駆動側ギヤはそれらの間に設けられた第3変速クラッチC3により、第2中間軸14に選択的に連結される。出力側減速ギヤ対17の駆動側ギヤは第1中間軸13の一端部に固定されている。
【0025】
各変速クラッチC1〜C4は、周知のシンクロメッシュ機構よりなるもので、図1に示すように、入力軸12(または第2中間軸14)に固定されたクラッチハブLと、その外周に軸線方向摺動自在にスプライン係合されたスリーブMを備えている。各スリーブMは、シフトフォークF1〜F4を介して、自動的にあるいは手動により軸線方向に往復動されて両側のギヤに固定された係合部材S1〜S7,SRに係合することにより、両側のギヤをクラッチハブLを介して入力軸12または第2中間軸14に選択的に連結するものである。第5変速クラッチC5は係合部材S8を設けたギヤを片側だけに設けた点が異なるだけで、その他の構成及び作用は上述した各変速クラッチC1〜C4と同一であるので詳細な説明は省略する。なお、シンクロナイザリングは図示を省略してある。
【0026】
上述した各構成のうち、第1速〜第3速ギヤ対G1〜G3及び後進ギヤ列GR、並びに、後述するように、低変速段である第1速〜第3速及び後進段においてこれらの各ギヤ対及びギヤ列の各駆動側ギヤを入力軸12に選択的に連結する第1、第2及び第4変速クラッチC1,C2,C4(C4は入力側減速ギヤ対18の変速クラッチと兼用)が、入力軸12の回転を変速して第1中間軸13に伝達する第1変速機構TM1を構成する。また後述するように、出力側減速ギヤ対17の従動側ギヤは、低変速段において第5変速クラッチC5により選択的に出力軸15に連結されて、第1中間軸13の回転を出力軸15に伝達する。同様に、入力側減速ギヤ対18の駆動側ギヤは、高変速段である第5速及び第6速において第4変速クラッチC4(後進ギヤ列GRの変速クラッチと兼用)により選択的に入力軸12に連結されて、入力軸12の回転を第2中間軸14に伝達する。また、第5速及び第6速ギヤ対G5,G6、並びに、高変速段においてこれらの各ギヤ対の駆動側ギヤを選択的に第2中間軸14に連結する第3変速クラッチC3が、第2中間軸14の回転を変速して出力軸15に伝達する第2変速機構TM2を構成する。
【0027】
次にこの第1実施形態を手動変速機に適用した場合の作動につき説明する。図3は変速レバーの位置に対する各変速クラッチC1〜C5の位置を示している。エンジンを停止した停車状態では、各変速クラッチC1〜C5のスリーブMは何れも中立位置にあり、摩擦クラッチ11は係合されている。この状態からエンジンを起動し、クラッチペダル(図示省略)を踏み込んで摩擦クラッチ11を解除し、変速レバーを第1速の位置にシフトすれば、図3に示すように、第1変速クラッチC1のスリーブMは第1速係合部材S1に係合され、第5変速クラッチC5のスリーブMは入力側減速ギヤ係合部材S8に係合され、その他の変速クラッチC2〜C4のスリーブMは何れも中立位置にある。この状態でアクセルペダルを適当に踏み込みアクセル開度を増大させてエンジン10の回転速度を増大させ、クラッチペダルを戻して摩擦クラッチ11を係合させれば、自動車は第1速で走行を開始する。この状態では、第1変速クラッチC1のスリーブMが第1速係合部材S1に係合することで第1変速機構TM1の第1速ギヤ対G1が入力軸12から第1中間軸13に動力を伝達する変速ギヤ対として選択され、また第5変速クラッチC5の入力側減速ギヤ係合部材S8にスリーブMが係合することで出力側減速ギヤ対17が第1中間軸13から出力軸15に回転を伝達するギヤ対として選択され、これによりエンジン10の回転は、第1速ギヤ対G1の変速ギヤ比r1と出力側減速ギヤ対17の減速比r2の積であるトータルギヤ比r3(=3.600)で減速されて出力軸15に伝達される。
【0028】
アクセル開度が増大するなどして自動車の作動状態が第2速走行に適した状態となったところで、クラッチペダルを踏み込んで摩擦クラッチ11を解除し、アクセルペダルを多少戻して変速レバーを第2速の位置にシフトすれば、図3に示すように、第1変速クラッチC1のスリーブMは第1速係合部材S1から離脱されて第2速係合部材S2に係合され、その他の変速クラッチC2〜C5の係合離脱状態はそれまでと変わらない。この状態では、第1変速機構TM1の第2速ギヤ対G2が入力軸12から第1中間軸13に回転を伝達する変速ギヤ対として選択され、また第1速の場合と同様、出力側減速ギヤ対17が第1中間軸13から出力軸15に回転を伝達するギヤ対として選択され、これによりエンジン10の回転は、第2速ギヤ対G2の変速ギヤ比r1と出力側減速ギヤ対17の減速比r2の積であるトータルギヤ比r3(=2.040)で減速されて出力軸15に伝達される。
【0029】
同様にして自動車の作動状態が第3速走行に適した状態となったところで、クラッチペダル及びアクセルペダルを同様に作動して変速レバーを第3速の位置にシフトすれば、図3に示すように、第1変速クラッチC1のスリーブMは中立位置に戻され、第2変速クラッチC2のスリーブMは第3速係合部材S3に係合され、その他の変速クラッチC3〜C5の係合離脱状態はそれまでと変わらない。この状態では、第1変速機構TM1の第3速ギヤ対G3が入力軸12から第1中間軸13に回転を伝達する変速ギヤ対として選択され、また出力側減速ギヤ対17は第1中間軸13から出力軸15に回転を伝達するギヤ対として選択されたままで、これによりエンジン10の回転は、第3速ギヤ対G3の変速ギヤ比r1と出力側減速ギヤ対17の減速比r2の積であるトータルギヤ比r3(=1.464)で減速されて出力軸15に伝達される。
【0030】
次に、自動車の作動状態が第4速走行に適した状態となったところで、クラッチペダル及びアクセルペダルを同様に作動して変速レバーを第4速の位置にシフトすれば、図3に示すように、第2変速クラッチC2のスリーブMはカップリング16の第4速係合部材S4に係合され、その他の変速クラッチC1,C3〜C5のスリーブMは全て中立位置に戻される。この状態では、入力軸12と出力軸15は第5変速クラッチC5によりにより直結されて、エンジン10の回転はそのまま(トータルギヤ比r3=1.000)出力軸15に伝達される。
【0031】
また、自動車の作動状態が第5速走行に適した状態となったところで、クラッチペダル及びアクセルペダルを同様に作動して変速レバーを第5速の位置にシフトすれば、図3に示すように、第4変速クラッチC4のスリーブMが出力側減速ギヤ係合部材S7に係合されることで入力側減速ギヤ対18が入力軸12から第2中間軸14に回転を伝達するギヤ対として選択され、第3変速クラッチC3のスリーブMが第5速係合部材S5に係合されることで第2変速機構TM2の第5速ギヤ対G5が第2中間軸14から出力軸15回転を伝達する変速ギヤ対として選択され、またその他の変速クラッチC1,C2,C5のスリーブMは何れも中立位置にある。これによりエンジン10の回転は、第5速ギヤ対G5の変速ギヤ比r1と入力側減速ギヤ対18の積であるトータルギヤ比r3(=0.840)で減速(実質的には増速)されて出力軸15に伝達される。
【0032】
また、自動車の作動状態が第6速走行に適した状態となったところで、クラッチペダル及びアクセルペダルを同様に作動して変速レバーを第6速の位置にシフトすれば、図3に示すように、第3変速クラッチC3のスリーブMは第5速係合部材S5から離脱されて第6速係合部材S6に係合され、その他の変速クラッチC1,C2,C4,C5の係合離脱状態はそれまでと変わらない。この状態では、第5速の場合と同様、入力側減速ギヤ対18が入力軸12から第2中間軸14に回転を伝達するギヤ対として選択されたままであるが、第2変速機構TM2の第6速ギヤ対G6が第2中間軸14から出力軸15に回転動力を伝達する変速ギヤ対として選択される。これによりエンジン10の回転は、第6速ギヤ対G6の変速ギヤ比r1と入力側減速ギヤ対18の減速比r2の積であるトータルギヤ比r3(=0.720)で減速(実質的には増速)されて出力軸15に伝達される。変速段を低下させる場合の作動は、以上とは逆に行えばよい。
【0033】
また後進の場合は、第1速の場合と同様、停止状態からエンジンを起動し、クラッチペダルを踏み込んで摩擦クラッチ11を解除し、変速レバーを後進の位置にシフトすれば、図3に示すように、第4変速クラッチC4のスリーブMは後進係合部材SRに係合され、第5変速クラッチC5のスリーブMは入力側減速ギヤ係合部材S8に係合され、その他の変速クラッチC2〜C4のスリーブMは何れも中立位置にある。この状態でアクセルペダルを適当に踏み込んでアクセル開度を増大させ、クラッチペダルを戻して摩擦クラッチ11を係合させれば、自動車は後進を開始する。この状態では、第4変速クラッチC4のスリーブMが後進係合部材SRに係合することで第1変速機構TM1の後進ギヤ列GRが入力軸12から第2中間軸14に回転を伝達する変速ギヤ列として選択され、また第5変速クラッチC5のスリーブMが入力側減速ギヤ係合部材S8に係合することで出力側減速ギヤ対17が第1中間軸13から出力軸15に回転を伝達するギヤ対として選択され、これによりエンジン10の回転は、後進ギヤ列GRの変速ギヤ比r1と出力側減速ギヤ対17の減速比r2の積であるトータルギヤ比r3(=3.360)で減速されて出力軸15に伝達される。
【0034】
上述した第1実施形態によれば、低変速段では第5変速クラッチC5が連結されて、出力側減速ギヤ対17により第1中間軸13と出力軸15を連結し、入力軸12と第1中間軸13を連結する低変速段の第1変速機構TM1と組み合わせて出力側減速ギヤ方式の変速機を構成して入力軸12の回転を出力軸15に伝達し、高変速段では第4変速クラッチC4が連結されて、入力側減速ギヤ対18により入力軸12と第2中間軸14を連結し、第2中間軸14と出力軸15を連結する高変速段の第2変速機構TM2と組み合わせて入力側減速ギヤ方式の変速機を構成して入力軸12の回転を出力軸15に伝達している。低変速段のときには第5変速クラッチC5により出力側減速ギヤ対17による回転の伝達が選択されて、前述のように入力側減速ギヤ方式の場合の第2中間軸14よりも回転速度が低い出力側減速ギヤ方式の第1中間軸13を介して回転が伝達され、高変速段のときには第4変速クラッチC4により入力側減速ギヤ対18による回転の伝達が選択されて、前述のように出力側減速ギヤ方式の場合の第1中間軸13よりも回転速度が低い入力側減速ギヤ方式の第2中間軸14を介して回転が伝達される。このように変速段の高低に応じて、回転速度が低い方となる第1中間軸13または第2中間軸14を選択して回転の伝達を行うので、選択された中間軸の回転に伴う潤滑油の撹拌による動力損失を減少させることができる。なお、選択されない方の中間軸は、回転されないかあるいは潤滑油による撹拌抵抗を受けて回転が低下または停止されるので、潤滑油の撹拌による動力損失が生じることはほとんどない。
【0035】
第1変速機構TM1の変速クラッチC1,C2を第1中間軸13側に設ければ、高変速段で第1中間軸13が回転を伝達していない状態でも、第1変速機構TM1の各ギヤ対の従動側ギヤは入力軸12側から駆動されて第2中間軸14より低い回転速度ではあるが回転されるのでそれらの従動側ギヤにより潤滑油が撹拌され、その分だけ動力損失は増大する。この第1実施形態のように第1変速機構TM1の変速クラッチC1,C2を入力軸12に設ければ、高変速段では第1変速機構TM1の各ギヤ対の従動側ギヤは抵抗を受ければ回転が低下または停止するので、その分だけ動力損失を減少させることができる。しかしその減少の程度は大きくはない。
【0036】
同様に、第2変速機構TM2の変速クラッチC3を出力軸15側に設けると、低変速段で第2中間軸14が回転を伝達していない状態でも、第2変速機構TM2の各ギヤ対の駆動側ギヤは出力軸15側から逆駆動されて回転されてそれらの駆動側ギヤにより潤滑油が撹拌されるので、その分だけ動力損失は増大する。この実施形態1のように第2変速機構TM2の変速クラッチC3を第2中間軸14に設ければ、低変速段では第2変速機構TM2の各ギヤ対の駆動側ギヤは抵抗を受ければ回転が低下または停止するので、その分だけ動力損失を減少させることができる。しかしその減少の程度は大きくはない。
【0037】
第1中間軸13と第2中間軸14の各回転速度の値の大小関係は、入力軸12と出力軸15の間の回転速度比が1または1付近となる変速段を境界として逆転する。従って、この第1実施形態のように入力軸12と出力軸15の間の回転速度比が1または1付近となる変速段よりも低変速段側では第5変速クラッチC5が連結されて出力側減速ギヤ対17による回転の伝達を選択し、その変速段よりも高変速段側では第4変速クラッチC4が連結されて入力側減速ギヤ対18による回転の伝達を選択すれば、第1中間軸13と第2中間軸14の各回転速度の値の大小関係が丁度逆転する付近で入力側減速ギヤ方式と出力側減速ギヤ方式の選択が入れ替わるので、入力側減速ギヤ方式と出力側減速ギヤ方式とが入れ替わる付近において回転速度が高い方の中間軸を選択することはなくなる。このようにすれば実際に回転される中間軸の回転速度の平均値は多少低下するので、潤滑油の撹拌による動力損失を一層減少させることができる。
【0038】
上述した第1実施形態では、入力軸12と出力軸15の間の回転速度比が1または1付近となる変速段では、入力軸12と出力軸15は1つの変速クラッチC2により直結し、その変速段より低変速段側では第5変速クラッチC5が連結されて出力側減速ギヤ対17による回転の伝達を選択し、その変速段より高変速段側では第4変速クラッチC4が連結されて入力側減速ギヤ対18による回転の伝達を選択しており、このようにすれば、入力軸12と出力軸15の間の回転速度比が1または1付近となる変速段で使用する変速ギヤ対は不要となり、その分だけ構造が簡略化されるので、自動車用変速機の重量及び製造コストを低下させることができる。
【0039】
上述した第1実施形態では、第1及び第2中間軸13,14の何れか一方の軸は中空軸とし、他方の軸は一方の軸内を相対回転自在に貫通させるようにしており、このようにすれば、第1及び第2中間軸13,14に設ける各ギヤ及び変速クラッチC3を一直線上に同軸的に配置できるので、自動車用変速機をコンパクトにまとめることができる。しかしながら本発明はこれに限られるものではなく、図2に示す第2実施形態のように、第1及び第2中間軸13,14を離して設けるようにして実施することもできる。この第2実施形態は第1及び第2中間軸13,14を離して設けた以外には何の変更もないので、図で示すだけとし、詳細な説明は省略する。
【符号の説明】
【0040】
10…エンジン、12…入力軸、13…第1中間軸、14…第2中間軸、15…出力軸、17…出力側減速ギヤ対、18…入力側減速ギヤ対18、C1…第1変速クラッチ、C2…第2変速クラッチ、C3…第3変速クラッチ、C4…第4変速クラッチ、C5…第5変速クラッチ、TM1…第1変速機構、TM2…第2変速機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに連結される入力軸と、この入力軸と同軸的に相対回転可能に配置されて駆動車輪に連結される出力軸と、前記入力軸及び出力軸の下側にこの両軸と平行に配置された中間軸を備え、前記入力軸と出力軸は前記中間軸を介して回転を変速して伝達するように連結されている自動車用変速機において、
前記中間軸は、それぞれ前記入力軸及び出力軸と平行に配置された第1中間軸及び第2中間軸よりなり、
前記入力軸の回転を複数の変速比で変速して前記第1中間軸に伝達する低変速段の第1変速機構、前記第1中間軸の回転を前記出力軸に伝達する出力側減速ギヤ対、及びこの出力側減速ギヤ対の回転伝達経路に直列に設けられ低変速段のときに連結されて前記出力側減速ギヤ対による回転の伝達を選択する第5変速クラッチよりなる低変速段時の動力伝達経路と、
前記入力軸の回転を前記第2中間軸に伝達する入力側減速ギヤ対、この入力側減速ギヤ対の回転伝達経路に直列に設けられ高変速段のときに連結されて前記入力側減速ギヤ対による回転の伝達を選択する第4変速クラッチ、及び前記第2中間軸の回転を複数の変速比で変速して前記出力軸に伝達する高変速段の第2変速機構よりなる低変速段時の動力伝達経路
を備えたことを特徴とする自動車用変速機。
【請求項2】
請求項1に記載の自動車用変速機において、前記第1変速機構の変速クラッチは前記入力軸に設けたことを特徴とする自動車用変速機。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の自動車用変速機において、前記第2変速機構の変速クラッチは前記第2中間軸に設けたことを特徴とする自動車用変速機。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の自動車用変速機において、前記入力軸と出力軸の間の回転速度比が1または1付近となる変速段より低変速段側では前記第5変速クラッチが連結されて前記出力側減速ギヤ対による回転の伝達を選択し、その変速段より高変速段側では前記第4変速クラッチが連結されて前記入力側減速ギヤ対による回転の伝達を選択することを特徴とする自動車用変速機。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の自動車用変速機において、前記入力軸と出力軸の間の回転速度比が1または1付近となる変速段では、前記入力軸と出力軸は1つの変速クラッチにより直結し、その変速段より低変速段側では前記第5変速クラッチが連結されて前記出力側減速ギヤ対による回転の伝達を選択し、その変速段より高変速段側では前記第4変速クラッチが連結されて前記入力側減速ギヤ対による回転の伝達を選択することを特徴とする自動車用変速機。
【請求項6】
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の自動車用変速機において、前記第1及び第2中間軸の何れか一方の軸は中空軸とし、他方の軸は前記一方の軸内を相対回転自在に貫通させたことを特徴とする自動車用変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−24337(P2013−24337A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160233(P2011−160233)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】