説明

自動車用水系ホースの製法およびそれにより得られた自動車用水系ホース

【課題】振動吸収性に優れた自動車用水系ホースの製法を提供する。
【解決手段】EPDMおよびEPMの少なくとも一方と,過酸化物架橋剤とを含有し,加硫剤として硫黄を含有しない内層用材料を準備する工程と、EPDMと,硫黄とを含有する外層用材料を準備する工程と、これら材料を用いて内層1の外周に外層3が形成されてなるホース積層体を作製する工程と、上記ホース積層体を室温で24〜840時間放置した後,加硫接着することにより,上記加硫接着後の内層1の外周面近傍の架橋密度(a)と,上記内層1の内周面近傍の架橋密度(b)とが,下記の式(X)および(Y)を満たすように架橋密度を制御する工程とを備えた自動車用水系ホースの製法である。
a/b≦0.85 …(X)
b≧1.0×10-5(mol/cm3 )…(Y)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用水系ホースの製法およびそれにより得られた自動車用水系ホースに関するものであり、詳しくは、ヒーターホース,ラジエーターホース等の自動車用水系ホースの製法およびそれにより得られた自動車用水系ホースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車等の車両におけるエンジンとヒーターコアとの接続に用いられるヒーターホースや、エンジンとラジエーターとの接続に用いられるラジエーターホース等の自動車用水系ホースは、冷却水(必要によりグリコール類等が添加されている)等の流体を流通させる目的で使用されている。このようなホースとしては、例えば、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)をベースとし、亜鉛化合物無配合処方で、かつ、共架橋剤として硫黄を含む過酸化物系のゴム配合物で形成されてなる内側ゴム層と、EPDMをベースとし、亜鉛化合物配合処方で、かつ、硫黄加硫系のゴム配合物で形成されてなる外側ゴム層とが加硫接着されてなるホースが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−180941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に記載のホースは、内側ゴム層(内層)および外側ゴム層(外層)のいずれにも加硫剤としての硫黄が配合されているため、加硫後のホースの内層,外層および境界面において、架橋密度が均一であり、振動吸収性が劣るという難点がある。近年、車両の静寂性の向上に伴い、ヒーターホース,ラジエーターホース等の自動車用水系ホースにも振動吸収性が求められているが、上記特許文献1に記載のホースは、この要求特性を充分に満足させるものではない。
【0004】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、低コストかつ振動吸収性に優れた自動車用水系ホースの製法およびそれにより得られた自動車用水系ホースの提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明は、管状の内層と、その外周に形成される外層とを備えた自動車用水系ホースの製法であって、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)およびエチレン−プロピレン共重合体(EPM)の少なくとも一方と,過酸化物架橋剤とを含有し,加硫剤として硫黄を含有しない内層用材料を準備する工程と、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体と,硫黄とを含有する外層用材料を準備する工程と、これら材料を用いて内層の外周に外層が形成されてなるホース積層体を作製する工程と、上記ホース積層体を室温で24〜840時間放置した後,加硫接着することにより,上記加硫接着後の内層の外周面近傍の架橋密度(a)と,上記内層の内周面近傍の架橋密度(b)とが,下記の式(X)および(Y)を満たすように架橋密度を制御する工程とを備えた自動車用水系ホースの製法を第1の要旨とする。また、本発明は、管状の内層と、その外周に形成される外層とを備えた自動車用水系ホースであって、上記内層の外周面近傍の架橋密度(a)と、上記内層の内周面近傍の架橋密度(b)とが、下記の式(X)および(Y)を満たす、上記製法によって得られた自動車用水系ホースを第2の要旨とする。
a/b≦0.85 …(X)
b≧1.0×10-5(mol/cm3 ) …(Y)
【0006】
すなわち、本発明者らは、振動吸収性に優れた自動車用水系ホースを得るため、鋭意研究を重ねた。そして、ホースの内層(チューブ材)と外層(カバー材)との界面付近の架橋密度の制御を行うことを中心に実験を続けたところ、内層の外周に外層を積層させてなるホース積層体を、積層直後に加硫接着すると、内層と外層との界面における架橋が強固で振動吸収性に劣ることを突き止めた。本発明者らは、さらに実験を続けた結果、ホース積層体を積層直後に加硫接着するのではなく、ホース積層体を室温で24〜840時間放置した後、加硫接着することにより、上記加硫接着後の内層の外周面近傍の架橋密度と、上記内層の内周面近傍の架橋密度との架橋密度とが特定の関係になるように架橋密度を制御すると、振動吸収性に優れることを見いだし、本発明に到達した。この理由は明らかではないが、ホース積層体を室温で24〜840時間放置した後、加硫接着すると、図1に示すように、外層3中の硫黄(S)が内層1側(矢印方向)に移行して、内層1中の過酸化物架橋剤の反応が適度に阻害され、内層1中のポリマー(EPDM,EPM)の架橋密度が最内表面と比較して密に形成されない。これにより、内層1と外層3との界面付近の架橋による拘束力が適度に弱まり、分子運動が比較的容易となり、振動を伝えにくくなるため、振動吸収性が向上するものと思われる。
【発明の効果】
【0007】
このように、本発明は、ホース積層体を積層直後に加硫接着するのではなく、上記ホース積層体を室温で24〜840時間放置した後、加硫接着することにより、上記加硫接着後の内層の外周面近傍の架橋密度と、上記内層の内周面近傍の架橋密度との架橋密度とが特定の関係になるように架橋密度を制御しているため、内層と外層との界面付近の架橋による拘束力が適度に弱まり、振動を伝えにくくなる結果、振動吸収性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0009】
本発明の自動車用水系ホースの製法は、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体およびエチレン−プロピレン共重合体の少なくとも一方と,過酸化物架橋剤とを含有し,加硫剤として硫黄を含有しない内層用材料を準備する工程と、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体と,硫黄とを含有する外層用材料を準備する工程と、これら材料を用いて内層の外周に外層が形成されてなるホース積層体を作製する工程と、上記ホース積層体を室温で24〜840時間放置した後,加硫接着することにより,上記加硫接着後の内層の外周面近傍の架橋密度(a)と,上記内層の内周面近傍の架橋密度(b)とが,下記の式(X)および(Y)を満たすように架橋密度を制御する工程とを備えている。
a/b≦0.85 …(X)
b≧1.0×10-5(mol/cm3 ) …(Y)
【0010】
上記内層を形成する内層用材料(ゴム組成物)は、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)およびエチレン−プロピレン共重合体(EPM)の少なくとも一方と、過酸化物架橋剤とを含有し、加硫剤として硫黄を含有していない。
【0011】
上記EPDMは、特に限定するものではないが、ヨウ素価が6〜30の範囲、エチレン比率が45〜75重量%の範囲が好ましく、特に好ましくはヨウ素価が10〜24の範囲、エチレン比率が50〜65重量%の範囲である。
【0012】
上記EPDMに含まれるジエン系モノマー(第3成分)としては、特に限定はないが、炭素数5〜20のジエン系モノマーが好ましく、具体的には、1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、2,5−ジメチル−1,5−ヘキサジエン、1,4−オクタジエン、1,4−シクロヘキサジエン、シクロオクタジエン、ジシクロペンタジエン(DCP)、5−エチリデン−2−ノルボルネン(ENB)、5−ブチリデン−2−ノルボルネン、2−メタリル−5−ノルボルネン、2−イソプロペニル−5−ノルボルネン等があげられる。これらジエン系モノマー(第3成分)のなかでも、ジシクロペンタジエン(DCP)、5−エチリデン−2−ノルボルネン(ENB)が好ましい。
【0013】
上記EPDM等のゴム成分とともに用いられる過酸化物架橋剤としては、例えば、2,4−ジクロロベンゾイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、1,1−ジ−t−ブチルペルオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジベンゾイルペルオキシヘキサン、n−ブチル−4,4′−ジ−t−ブチルペルオキシバレレート、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルペルオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルペルオキシ−ジイソプロピルベンゼン、t−ブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルペルオキシヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルペルオキシヘキシン−3等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。これらのなかでも、臭気が問題ない点で、ジ−t−ブチルペルオキシ−ジイソプロピルベンゼンが好適に用いられる。
【0014】
上記過酸化物架橋剤の配合割合は、上記EPDM等のゴム成分100重量部(以下「部」と略す)に対して、0.1〜20部の範囲が好ましく、特に好ましくは2.0〜10.0部の範囲である。すなわち、過酸化物架橋剤が少なすぎると、架橋が不充分で、ホースの強度に劣り、逆に過酸化物架橋剤が多すぎると、硬くなりすぎ、ホースの柔軟性が劣る傾向がみられるからである。
【0015】
なお、上記内層用材料(ゴム組成物)には、EPDM等のゴム成分および過酸化物架橋剤とともに、カーボンブラック、白色充填剤(クレー,タルク,ハイドロタルサイト)、可塑剤、加工助剤、老化防止剤、共架橋剤(コエージェント)、発泡剤、難燃剤(水酸化アルミニウム等)、受酸剤(酸化亜鉛, 酸化マグネシウム, ハイドロタルサイト, ゼオライト等)、レゾルシノール系化合物、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等を必要に応じて適宜配合しても差し支えない。
【0016】
上記カーボンブラックとしては、特に限定はなく、例えば、SAF級,ISAF級,HAF級,MAF級,FEF級,GPF級,SRF級,FT級,MT級等の種々のグレードのカーボンブラックがあげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。これらのなかでも、コスト、耐久性等の点から、FEF級カーボンブラックが好適に用いられる。
【0017】
上記可塑剤としては、例えば、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、アロマ系オイル等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。これらのなかでも、パラフィン系オイルが好適に用いられる。
【0018】
上記老化防止剤としては、特に限定はないが、例えば、アミン−ケトン系,芳香族第二級アミン系,モノフェノール系,ビスフェノール系,ポリフェノール系,ベンズイミダゾール系,ジチオカルバミン酸塩系,ジチオカルバミン酸系,チオウレア系,亜リン酸系,有機チオ酸系,キサントゲン酸塩系,特殊ワックス系等の老化防止剤があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0019】
上記共架橋剤(コエージェント)は、加硫(架橋)助剤とも称されるものであって、モノマー架橋助剤とポリマー架橋助剤があり、モノマー架橋助剤が好適に用いられるが、具体的には、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、エチレンジメタクリレート、1,3−ブチレンジメタクリレート、1,4−メチレンジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、2,2′−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2′−ビス(4−アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、オリゴエステルアクリレート、アルミニウム(メタ)アクリレート、ジンク(メタ)アクリレート、マグネシウム(メタ)アクリレート、カルシウム(メタ)アクリレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルトリメリテート、ジアリルフタレート、ジアリルクロレンデート、ジビニルベンゼン、2−ビニルピリジン、N,N′−メチレンビスアクリルアミド、p−キノンジオキシム、p,p′−ジベンゾイルキノンジオキシム、1,2−ポリブタジエン、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0020】
上記共架橋剤(コエージェント)の配合割合は、上記EPDM等のゴム成分100部に対して、0.1〜10部の範囲が好ましい。
【0021】
なお、上記内層用材料(ゴム組成物)は、加硫剤としての硫黄を実質的に含有していない、いわゆる非硫黄系材料(非硫黄系ゴム組成物)である。これは加硫剤としての硫黄を配合すると、内層と外層との界面部分の架橋密度が均一になり、振動吸収性が悪くなるからである。
【0022】
つぎに、上記外層を形成するゴム組成物(外層用材料)は、EPDMと、硫黄(加硫剤)とを含有する。
【0023】
上記EPDMとしては、前記内層用材料(ゴム組成物)で例示したものと同様のものが用いられる。
【0024】
上記硫黄(加硫剤)の配合割合は、上記ゴム成分(EPDM)100部に対して、0.1〜20.0部の範囲が好ましく、特に好ましくは1.0〜10.0部の範囲である。すなわち、上記硫黄(加硫剤)が少なすぎると、架橋が不充分で、ホースの強度に劣り、逆に硫黄(加硫剤)が多すぎると、硬くなりすぎ、ホースの柔軟性、耐スコーチ性に劣る傾向がみられるからである。
【0025】
なお、上記外層用材料(ゴム組成物)には、ゴム成分(EPDM)および硫黄(加硫剤)とともに、酸化亜鉛、カーボンブラック、白色充填剤(クレー,タルク,ハイドロタルサイト)、加工助剤(黒サブ)、可塑剤、老化防止剤、受酸剤(酸化マグネシウム, ハイドロタルサイト, ゼオライト)、ファクチス、発泡剤、難燃剤、加硫促進剤等を必要に応じて適宜配合しても差し支えない。
【0026】
つぎに、本発明の自動車用水系ホースの製法について、図2にもとづいて具体的に説明する。すなわち、図2に示す自動車用水系ホースは、管状の内層1の外周面に補強糸層2が形成され、さらにその外周面に外層3が形成されて構成されている。なお、本発明は、図2に示した構造のホースを対象とするものに限定されるものではない。
【0027】
まず、EPDMおよびEPMの少なくとも一方と、カーボンブラック、白色充填剤、可塑剤、加工助剤等を適宜配合し、ニーダー,バンバリミキサー等の混練機を用いて混練する。これらに過酸化物架橋剤と、必要に応じて共架橋剤等をロールを用いて添加し、内層用材料を調製する。また、EPDMと、カーボンブラック、白色充填剤、可塑剤、加工助剤等を適宜配合し、ニーダー,バンバリミキサー等の混練機を用いて混練し、これらに硫黄(加硫剤)および加硫促進剤をロール等の混練機を用いて添加し、外層用材料を調製する。つぎに、上記内層用材料を押出成形しながら、補強糸をスパイラル状に巻き付けて補強糸層2を形成する。その後これらの内層用材料および補強糸層2の外周面表面に、必要に応じて接着剤を塗布し、上記外層用材料を押出成形して、ホース積層体を作製する。つぎに、上記ホース積層体を室温で24〜840時間放置(保管)した後、所定の条件(160℃×60分)で加硫接着する。これにより、管状の内層1の外周面に補強糸層2が形成され、さらにその外周面に外層3が形成されてなる自動車用水系ホース(図2参照)を作製することができる。
【0028】
ここで、本発明において、室温とは25℃をいう。
【0029】
なお、上記補強糸層2を形成する補強糸としては、特に限定はなく、例えば、ビニロン(ポリビニルアルコール)糸、ポリアミド糸(ナイロン)糸、アラミド糸、ポリエチレンテレフタレート(PET)糸、ワイヤー等があげられる。これらのなかでも、特にポリアミド糸(ナイロン)糸が好適に用いられる。
【0030】
上記補強糸の編み組み方法は、特に限定はなく、例えば、スパイラル編,ブレード編,ニッティング編等があげられる。
【0031】
上記補強糸層2における補強糸の編角は、35〜65°の範囲が好ましい。上記編角とは、内層1の表面に補強糸を編組して補強糸層2を形成する際の、ホースの長軸方向に対する補強糸の編組角度をいう。そして、この編角は、例えば、分度器等によって測定することができる。
【0032】
本発明においては、上記加硫接着後の内層の外周面近傍の架橋密度(a)と、加硫接着後の内層の内周面近傍の架橋密度(b)とが、下記の式(X)および(Y)の関係を満たすように架橋密度を制御することが、最大の特徴である。
a/b≦0.85 …(X)
b≧1.0×10-5(mol/cm3 ) …(Y)
【0033】
ここで、加硫接着後の内層1の外周面近傍aとは、前記図1に示すように、外層3との積層界面近傍を示し、具体的には、内層1の外周表面から内周面側(流体側)へ1.0mm迄の部位を示す。また、加硫接着後の内層1の内周面近傍bとは、図1に示すように、流体側の内層1の表面近傍を示し、具体的には、内層1の内周表面から外周面側へ1.0mm迄の部位を示す。
【0034】
上記加硫接着後の内層1の外周面近傍の架橋密度(a)と、加硫接着後の内層1の内周面近傍の架橋密度(b)との比(a/b)は、0.85以下であり、好ましくは0.75〜0.80の範囲である。すなわち、両者の比(a/b)が0.85を超えると、振動吸収性が劣るからである。
【0035】
また、加硫接着後の内層1の内周面近傍の架橋密度(b)は、1.0×10-5(mol/cm3 )以上必要である。すなわち、上記架橋密度(b)が小さすぎると、引っ張り強さ(TS)のゴム強度が劣るからである。
【0036】
本発明の製法により得られる自動車用水系ホースの寸法は、特に限定されるものではなく、ホース内径は5.0〜80.0mmの範囲が好ましく、特に好ましくは10.0〜40.0mmの範囲であり、ホース外径は10.0〜90.0mmの範囲が好ましく、特に好ましくは20.0〜50.0mmの範囲である。また、内層1の厚みは2.0〜10.0mmの範囲が好ましく、特に好ましくは3.0〜7.0mmの範囲であり、外層3の厚みは1.0〜10.0mmの範囲が好ましく、特に好ましくは2.0〜5.0mmの範囲である。
【実施例】
【0037】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0038】
〔実施例1〕
(内層用材料の調製)
後記の表1に示す各成分を同表に示す割合で配合し、これらをバンバリーミキサーおよびロールを用いて混練して、内層用材料(ゴム組成物)を調製した。
【0039】
(外層用材料の調製)
EPDM(住友化学社製、エスプレン532)100部と、酸化亜鉛(三井金属鉱業社製、酸化亜鉛2種)5部と、ステアリン酸(花王社製、ルナックS30)1部と、カーボンブラック(昭和キャボット社製、ショウブラックIP200)120部と、充填剤(日本ミストロン社製、ミストロンペーパータルク)60部と、オイル(出光興産社製、ダイアナプロセスPW−380)60部とを、バンバリーミキサーを用いて素練り〔5分間の素練り(最終温度180℃)〕した。つぎに、これをオープンロールに移し、さらに加硫促進剤(三新化学社製、サンセラーTT)4部および硫黄(大都産業社製、イオウ−PTC)1部を添加して、2分間の混練りを行い、外層用材料(ゴム組成物)を調製した。
【0040】
(ホースの作製)
上記内層用材料を管状に押し出し成形した後、この表面に、編組機を用いて補強糸(ナイロン糸)をスパイラル状に巻き付けて補強糸層を形成した。つぎに、この補強糸層の外周面に、上記外層用材料を押出成形して、ホース積層体を作製した。つぎに、これを室温(25℃)で24時間放置した後、加硫接着(160℃×60分)した。これにより、管状の内層(厚み2mm)の外周面に補強糸層が形成され、さらにその外周面に外層(厚み2mm)が形成されてなるホース(内径16mm、外径24mm)を作製した。
【0041】
〔実施例2〜5、比較例1〜3〕
下記の表1および表2に示すように、内層用材料の各成分の配合量等を変更する以外は、実施例1に準じて、内層用材料(ゴム組成物)を調製した。また、ホース積層体の加硫接着前の室温での放置時間を、下記の表1および表2に示すように変更した。それ以外は、実施例1に準じて、管状の内層(厚み2mm)の外周面に補強糸層が形成され、さらにその外周面に外層(厚み2mm)が形成されてなるホース(内径16mm、外径24mm)を作製した。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
なお、上記表1および表2に示した内層用材料は、下記のとおりである。
【0045】
〔EPDM〕
住友化学工業社製、エスプレン532、ヨウ素価:12、エチレン比率:51重量%
【0046】
〔EPM〕
住友化学工業社製、エスプレン201、ヨウ素価:0、エチレン比率:49重量%
【0047】
〔過酸化物架橋剤〕
ジクミルパーオキサイド(日本油脂社製、パークミルD−40)
【0048】
〔硫黄〕
大都産業社製、イオウPTC
【0049】
〔共架橋剤〕
エチレングリコールジメタクリレート(精工化学社製、ハイクロスED)
【0050】
〔カーボンブラック〕
旭カーボン社製、旭♯52
【0051】
〔クレー〕
R.T.Vanderbilt社製、デキシクレー
【0052】
〔パラフィン系オイル〕
出光石油社製、ダイアナプロセスPW−380
【0053】
このようにして得られた実施例品および比較例品を用い、下記の基準に従って、各特性の評価を行った。その結果を、上記の表1および表2に併せて示した。
【0054】
〔架橋密度〕
上記加硫接着後の内層の外周面近傍の架橋密度(a)と、加硫接着後の内層の内周面近傍の架橋密度(b)とを、TMA(Thermal Mecanical Analysis)により測定した。すなわち、外周面近傍(a)および内周面近傍(b)より、厚み1.0mmのシートを採取し、アセトン中80℃雰囲気下24時間ソックスレー抽出を行い、室温にて24時間乾燥を行なった。それらのゴムシートより、縦2.0mm±0.1mm×横2.0mm±0.1mm×高さ縦1.0mm±0.1mmの試料を成形し、投影機にて採寸し、断面積および厚みを算出した。その後、トルエン/THF(体積比1:1)2mlで室温条件下24時間で膨潤させ、全架橋密度をTMA分析機器(島津製作所社製、TA−50)にて測定し、充填材の体積比を考慮しながら算出した。
【0055】
〔振動吸収性〕
図3に示す測定装置を用い、ホース21の両端を芯金22に取り付けてホースの振動吸収性を測定した。測定条件は、周波数:400Hz、加速度:3G、自由長:300mm、取付形状:ストレート、内圧:0.1MPa、捩り角:なしである。なお、図において、23は加振側加速度(A0 )測定部、24は受振側加速度(A1 )測定部、25はラバー、26は箱形定盤を示す。評価は、−47dB以下のものを○、−45dB以下で−47dBより大きいものを△、−45dBより大きいものを×とした。
【0056】
〔引っ張り物性〕
各内層用材料を用いて作製したホースの内層より厚み2mmのゴムシートを採取し、JIS5号ダンベル状のテストピースを作製した。そして、このダンベルを用い、JIS K 6251に準拠して、引っ張り強さ(TS)および引っ張り伸び(Eb )を測定した。なお、引っ張り強さ(TS)は10.0MPa以上が好ましく、引っ張り伸び(Eb )は300%以上が好ましい。
【0057】
上記表1および表2の結果から、実施例品は、室温で所定時間放置した後、加硫接着を行っているため、振動吸収性およびゴム物性が優れていた。
【0058】
これに対して、比較例1品は、室温での放置時間が短すぎるため、架橋密度の比(a/b)が高く、振動吸収性が劣っていた。比較例2品は、室温での放置時間が長すぎるため、(b)の架橋密度が低く、架橋密度の比(a/b)も高いため、ゴム物性が劣っていた。比較例3品は、過酸化物架橋剤とともに硫黄(加硫剤)を用いてEPDMを架橋して内層を形成しているため、架橋密度の比(a/b)が高く、振動吸収性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の製法により得られる自動車用水系ホースは、自動車等の車両におけるエンジンとヒーターコアとの接続に用いられるヒーターホースや,エンジンとラジエーターとの接続に用いられるラジエーターホース等に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の製法により得られた自動車用水系ホースの一部を示す模式図である。
【図2】本発明の製法により得られた自動車用水系ホースの一例を示す模式図である。
【図3】振動吸収性の評価方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0061】
1 内層
2 補強糸層
3 外層
a 外周面近傍
b 内周面近傍

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状の内層と、その外周に形成される外層とを備えた自動車用水系ホースの製法であって、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体およびエチレン−プロピレン共重合体の少なくとも一方と,過酸化物架橋剤とを含有し,加硫剤として硫黄を含有しない内層用材料を準備する工程と、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体と,硫黄とを含有する外層用材料を準備する工程と、これら材料を用いて内層の外周に外層が形成されてなるホース積層体を作製する工程と、上記ホース積層体を室温で24〜840時間放置した後,加硫接着することにより,上記加硫接着後の内層の外周面近傍の架橋密度(a)と,上記内層の内周面近傍の架橋密度(b)とが,下記の式(X)および(Y)を満たすように架橋密度を制御する工程とを備えたことを特徴とする自動車用水系ホースの製法。
a/b≦0.85 …(X)
b≧1.0×10-5(mol/cm3 ) …(Y)
【請求項2】
上記自動車用水系ホースが、ヒーターホースまたはラジエーターホースである請求項1記載の自動車用水系ホースの製法。
【請求項3】
管状の内層と、その外周に形成される外層とを備えた自動車用水系ホースであって、上記内層の外周面近傍の架橋密度(a)と、上記内層の内周面近傍の架橋密度(b)とが、下記の式(X)および(Y)を満たす、請求項1または2記載の製法によって得られた自動車用水系ホース。
a/b≦0.85 …(X)
b≧1.0×10-5(mol/cm3 ) …(Y)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−246751(P2008−246751A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−88935(P2007−88935)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】