説明

自動車用部品の建て付けバラツキ予測方法

【課題】高精度での建て付け成立性の検証を行なうことができるように、部品剛性を考慮した自動車用部品の建て付けのバラツキを予測する方法を提供する。
【解決手段】各部品の図面データに基づいて公差解析によって各部品のバラツキ値を取得する第一の段階S2と、第一の段階S2によって得られた各部品のバラツキ値を部品データとして、バラツキを持った各部品の有限要素解析モデルを作成し、これらの有限要素解析モデルを相互に組み付けるようにFEM解析を行い、FEM解析によって変形を考慮したバラツキ値を取得する第二の段階S3と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車体等を構成する部品の建て付けのバラツキを予測する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、コンピュータにより、例えば自動車の車体を構成する部品、例えばフロントバンパー,フロントフェンダー,ヘッドランプ,フード,リヤバンパー,フロントドア,リヤドア等の部品の図面を作成する場合に、図面完成度を向上させる目的で、建て付け成立性の検証を行なうために、各部品の図面における図面データに基づいて建て付けのバラツキ予測及び部品剛性予測を、それぞれ解析ツールを利用して実施している。この建て付けバラツキ予測は、具体的には、所謂公差解析により行なわれ、また部品剛性予測は所謂FEM解析により行なわれている。
【0003】
ここで、上述した公差解析においては、図8に示すように、各部品の図面データAに基づいて、剛体に関する公差解析Bにより公差の分布に応じて寸法にバラツキを有する多数の部品を仮想的に生成して、これらを組み合わせる手法、所謂モンテカルロ法に基づいて、三次元空間における建て付けのバラツキCを予測する。
【0004】
さらに、この公差解析においては、建て付けのバラツキに影響を与えるような因子の寄与度を算出することによって、最適構造への絞り込みを行なう。この場合、剛体部品同士の組み合わせであることから、建て付けバラツキに個々の部品の変形が大きく寄与する場合には、予測精度が低下することになる。
【0005】
一方、FEM解析においては、同様に図8に示すように、各部品の図面データAに基づいて、弾性体に関するFEM解析Dにより有限要素解析モデルを作成して、外力による変形、即ち部品剛性Eを予測する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような公差解析Bによる建て付けバラツキ予測Cにおいては、建て付けバラツキに個々の部品の変形が大きく寄与するような場合には、公差解析による建て付けバラツキ予測Cが個々の部品の変形を考慮していないことから、建て付けバラツキ予測Cの精度が低下してしまうことになる。
【0007】
また、FEM解析による部品剛性予測Eにおいては、各部品のデータは、バラツキのない所謂正寸部品のデータであることから、個々の部品の寸法バラツキを考慮していないので、正寸部品に対する部品剛性予測に限定されることになってしまう。
【0008】
このようにして、従来は部品の剛性を考慮した建て付けバラツキ予測を行なう手法がないことから、公差解析Bによる建て付けバラツキ予測C及びFEM解析Dによる部品剛性予測Eを並行してそれぞれ独立的に実施している。
しかしながら、上述したように、個々の部品の変形や寸法バラツキを考慮した建て付けバラツキ予測や部品剛性予測を行なうことができないため、例えばバラツキを持った部品同士の組み付けにより変形が生じた場合の建て付けバラツキ予測を行なうことができず、高精度の建て付け成立性の検証を行なうことができなかった。
【0009】
本発明は、以上の点にかんがみ、高精度の建て付け成立性の検証を行なうことができるように、部品剛性を考慮した自動車用部品の建て付けバラツキ予測方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の自動車用部品の建て付けのバラツキ予測方法は、各部品の図面データに基づいて公差解析によって各部品のバラツキ値を取得する第一の段階と、第一の段階によって得られた各部品のバラツキ値を部品データとして、バラツキを持った各部品の有限要素解析モデルを作成し、これらの有限要素解析モデルを相互に組み付けるようにFEM解析を行い、FEM解析によって変形(剛性)を考慮したバラツキ値を取得する第二の段階と、を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
上記構成によれば、FEM解析により作成された有限要素解析モデルが、公差解析により取得された各部品のバラツキ値に基づいて作成される。
従って、このようなバラツキを含んだ有限要素解析モデルに基づいて組み付け解析を行なうことにより、部品同士の組み付けの際に部品に変形が生じたとしても、各部品のこのような変形、そして部品剛性を考慮した建て付けバラツキを予測することができる。
【0012】
このようにして、本発明によれば、寸法バラツキを持った部品同士を組み付ける場合でも、組み付けによる各部品の変形を予測して、建て付けバラツキの予測を行なうことができるので、正確な建て付けバラツキの予測が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面に示した実施形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明による自動車用部品の建て付けバラツキ予測方法の一実施形態を実施するための建て付けバラツキ予測装置の構成を示している。
【0014】
図1において、建て付けバラツキ予測装置10は、制御部11と記憶部12と表示部13とから構成されている。
制御部11は、例えばパーソナルコンピュータから構成されており、インストールされたプログラムを稼動させることにより、自動車用部品の設計図面を作成し、さらに後述する建て付けバラツキ予測のために必要な公差解析,FEM解析等の処理動作を行なう。
【0015】
記憶部12は、ハードディスクドライブ等から構成されており、制御部11から各種データやプログラムが読み書き可能に登録される。さらに、記憶部12は、自動車用部品の設計に必要な諸データや、各部品の作成済みや作成途中の図面データそして解析結果が登録される。
【0016】
表示部13は、例えば液晶ディスプレイ装置であって、制御部11によって制御されることで、作成する各部品に関する図面データや、解析結果等が画面表示されるようになっていると共に、図示しない入力部による入力時に、入力操作に必要な各種情報が画面表示される。
【0017】
そして、建て付けバラツキ予測装置10は、プログラムの動作により、図2のフローチャートに従って、自動車用部品の建て付けのバラツキ予測を行ない、その解析結果を表示部13に表示する。
【0018】
即ち、図2にて、まずステップS1において、制御部11は、建て付けバラツキの予測を行なおうとする複数個の部品に関して、各部品の図面データ12aを記憶部12から読み出す。
【0019】
次に、ステップS2において、制御部11は、読み出した部品の図面データ12aに基づいて公差解析を実施することにより、正寸データに対する図面データ上の部品の評価ポイントのバラツキを評価し、図3に示すような評価ポイントにおけるバラツキのグラフを得て、評価ポイントにおけるバラツキ値12bとして記憶部12に登録する。このバラツキ値12bは、評価ポイントにおけるバラツキが最大になる、即ち、図3のグラフにおいて評価ポイントのバラツキの上下限における、各部品の管理部位のバラツキ値である。
【0020】
具体的には、制御部11は、図4に示すように、各部品に関するボディ精度(L,W,H)、即ち、第一の部品P1のボディ精度(L1,W1,H1),第二の部品P2のボディ精度(L2,W2,H2),第三の部品P3のボディ精度(L3,W3,H3),第四の部品P4のボディ精度(L4,W4,H4)について、それぞれバラツキ値を取得する。例えば、部品P4であれば図中の☆(白星)印が評価ポイントであり、この評価ポイントにおけるバラツキが最大になる場合の各部品のバラツキ値、具体的には図に○(白丸)印で示す接合ポイントである各部品の管理部位のバラツキ値を取得する。
【0021】
続いて、ステップS3において、制御部11は、ステップS2で取得した各部品のバラツキ値12bを部品データとして、FEM解析を実施する。具体的には、制御部11は、公差解析によって得られた各部品のバラツキ値を部品データとしてバラツキを持った有限要素解析モデルを各部品毎に作成し、これらの有限要素解析モデルを相互に組み付けるようにFEM解析を行う。即ち、FEM解析によって、所謂組み付け解析を実行する。そして、FEM解析を行うことで、有限要素解析モデルが部品の寸法バラツキを含んでいるので、図5に示すように、例えば部品P4には、寸法バラツキを持った部品同士の組み付けにより変形が生じる。
【0022】
そして、制御部11は、FEM解析を行って各部品を相互に組み付け、評価ポイントの正寸データとのズレ量を取得する。これを評価ポイントのバラツキ値とし、図6に示す評価ポイントのバラツキのグラフを得る。これにより、寸法バラツキを持った部品同士の組み付けの際に、各部品に組み付けによって変形が生じたときでも、建て付けバラツキの予測を行なうことができる。なお、図3のグラフで示す公差解析による評価ポイントのバラツキはその範囲が広いが、これに比べて、図6のグラフで示すFEM解析による評価ポイントのバラツキはその範囲が狭い。
【0023】
その後、制御部11は、ステップS4にて、予測結果、即ち建て付けバラツキ予測の解析結果を記憶部12に登録すると共に、表示部13に画面表示する。
以上で、自動車用部品の建て付けバラツキ予測の作業が完了する。
【0024】
この場合、図7に示すように、制御部11により、部品の図面における図面データ21に基づいて、公差解析22とFEM解析23が互いに連携しながら実施される。これにより、従来のような正寸部品による変形予測ではなく、部品の寸法バラツキを考慮した建て付けバラツキ予測24が行なわれることになるので、より正確な建て付け成立性の検証が可能になる。
【0025】
本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において様々な形態で実施をすることができる。例えば、本発明は、各部品の組み付けによって自動車の車体を構成する部品、例えばフロントバンパー,フロントフェンダー,ヘッドランプ,フード,リヤバンパー,フロントドア,リヤドア等の部品について図面の完成度を検証する場合にも利用可能であることは明白である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明による自動車用部品の建て付けバラツキ予測方法を実施するための建て付けバラツキ予測装置の構成例を示すブロック図である。
【図2】図1の装置を使用した建て付けバラツキ予測方法の一実施形態の構成を示すフローチャートである。
【図3】公差解析によって得た評価ポイントにおけるバラツキを示すグラフである。
【図4】図2のフローチャートにおいて、ステップS2における公差解析の具体例を示す概略図である。
【図5】図2のフローチャートにおいて、ステップS3におけるFEM解析の具体例を示す概略図である。
【図6】FEM解析によって得た評価ポイントにおけるバラツキを示すグラフである。
【図7】図2のフローチャートにおいて、公差解析とFEM解析の関係を示す説明図である。
【図8】従来の自動車用部品の建て付け成立性を検証するための方法の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0027】
10 建て付けバラツキ予測装置
11 制御部
12 記憶部
13 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各部品の図面データに基づいて公差解析によって各部品のバラツキ値を取得する第一の段階と、
第一の段階によって得られた各部品のバラツキ値を部品データとして、バラツキを持った各部品の有限要素解析モデルを作成し、これらの有限要素解析モデルを相互に組み付けるようにFEM解析を行い、FEM解析によって変形を考慮したバラツキ値を取得する第二の段階と、
を含んでいることを特徴とする、自動車用部品の建て付けバラツキ予測方法。
【請求項2】
前記各部品が、フロントバンパー,フロントフェンダー,ヘッドランプ,フード,リヤバンパー,フロントドア,リヤドア等の車体を構成する部品であることを特徴とする、請求項1に記載の自動車用部品の建て付けバラツキ予測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−129727(P2008−129727A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−312079(P2006−312079)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)
【Fターム(参考)】