説明

自動車車体の衝突試験装置及び衝突試験方法

【課題】衝突時の車室に作用する加速度を計測しながら衝突試験を行うことができる衝突試験装置を提供する。
【解決手段】自動車車体0の第1の部分8に固定され、自動車車体0を下方向きの姿勢で保持する保持部材2と、案内部材5に案内されて下方へ落下するとともにこの姿勢で保持される自動車車体0の第1の部分8よりも下方に位置する第2の部分9に固定されることによって落下時における自動車車体0の姿勢を所定の姿勢に維持する姿勢維持部材3と、自動車車体0を保持する保持部材2を所定の高さから落下させる落下機構4と、落下時の保持部材2を下方へ案内する案内部材5と、案内部材5の下部に配置され、落下する自動車車体0が衝突する被衝突部材6と、自動車車体0の室内に装着されて自動車車体の車室に作用する加速度を検出する加速度センサーが出力する測定値に基づいて演算を行うための演算装置とを備える衝突試験装置1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車車体の衝突試験装置及び衝突試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、現在の多くの自動車の車体は、軽量化と高剛性とを両立するために、フレームと一体化したボディー全体により荷重を支えるモノコックボディによって構成される。自動車の車体は、車両の衝突時には、車両の機能の損傷を抑制し、かつキャビン内の乗員の生命を守る機能を有さなければならない。このため、新車の開発時には、車両の衝突試験を行い、この衝突試験により得られる各種データに基づいて、衝突時の衝突エネルギーを吸収してキャビンへの衝撃力を緩和することによってキャビンの損傷をできるだけ低減することができるように、車体が設計される。
【0003】
非特許文献1〜3には、このような衝突試験が開示されている。非特許文献1には、前突や側突等といった、車両の各種の衝突試験の手法が開示されている。非特許文献2には、台上試験装置(クラッシュシミュレーター)を用いた側面衝突試験の概要が開示されている。さらに、非特許文献3には、斜めオフセット衝突を想定した衝突試験の概要が開示されている。これらの衝突試験は、実際に発生する事故時の衝突を再現して評価するものであり、いずれも、自動車車両の衝突安全性の向上を図るために有効な試験法である。
【0004】
しかし、これらの衝突試験は、実際の衝突時の状況を忠実に再現するために、車体にエンジン、トランスミッション、デファレンシャルギヤさらにはタイヤ等の各種部品を搭載・装着した車両を対象として行われてきた。このため、このような衝突試験の結果に基づいても、衝突時の車体に作用する負荷を正確に把握することは難しく、車体各部の設計は、設計者がこれらの車両の衝突試験の結果を踏まえたうえで適宜行っていた。このため、車体各部が高強度になり過ぎたり、あるいは逆に強度が不足するといった問題があった。
【0005】
また、これらの衝突試験は被試験体である車両や試験台を相対的に水平方向に走行させて衝突壁に衝突させるものであるため、この試験に用いる試験装置の設置面積は、大きくなる。このため、このような試験装置の設置コストが嵩むため、簡単に設置して衝突試験を行うことはできなかった。このため、新車の開発時に多数の衝突試験を行い難くさせる原因の一つになっていた。
【0006】
非特許文献4には、市販車のホワイトボディから切り出した車体のエンジンコンパートメントを供試体としてロードセル上に垂直に立てて配置しておき、これに大型の落錘衝撃試験機から大型の錘を落下させることにより、自動車車体のエンジンコンパートメントの各部の破壊の状況を解析する発明が開示されている。この発明は、衝突時のロードセルが検出する荷重が衝突時の車体に生じる加速度とある程度対応するとの前提にたったものである。この発明によれば、大型の落錘衝撃試験機を用いるので、比較的狭い設置面積で車体のエンジンコンパートメントの衝突試験を行うことができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】文献「自動車技術」(Vol.59,No.12,2005. 27〜32頁)
【非特許文献2】文献「自動車技術」(Vol.59,No.12,2005. 62〜67頁)
【非特許文献3】文献「自動車技術」(Vol.59,No.12,2005. 56〜61頁)
【非特許文献4】文献「社団法人 自動車技術会 学術講演会前刷集No.119−04) 240自動車構造体の衝撃試験評価技術の開発 1〜3頁」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
実車での衝突安全の評価には、乗員に作用する加速度が大きく影響する。このため、衝突試験における車体側の加速度の計測は、実車評価での必須の測定項目である。
しかしながら、非特許文献4により開示された発明は、落錘衝撃試験機の下部に配置された供試体に上方から大型の錘を落下させてエンジンコンパートメントの各部の破壊の状況を解析するものである。このため、この発明では、破壊されるエンジンコンパートメントの各部材に作用する局所的な加速度を計測することは確かに可能であるものの、衝突時の乗員に作用する加速度、つまり衝突時の車室に生じる加速度を計測することはできない。車体評価試験時には車室は基本的には壊れないので、固定された試験体で壊れない部位に加速度計を貼り付けて加速度を測定しても、試験全体の振動しか測定できないからである。
【0009】
このため、この発明によっても、衝突時の車室に生じる加速度を計測しながら衝突試験を行うことはできないため、衝突安全性を確保するために有効なデータを得ることはできない。
【0010】
本発明は、従来の技術が有するこのような課題に鑑みてなされたものであり、比較的狭い設置面積で、衝突時の車室に生じる加速度を計測しながら衝突試験を行うことができる自動車車体の衝突試験装置及び衝突試験方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、自動車車両を構成する自動車車体を落下させて被衝突部材に衝突させることによって衝突時における自動車車体の各部の破壊状況を解析するという衝突試験方法を用いれば、比較的狭い設置面積で、衝突時の車室に作用する加速度を計測しながら、試験体の走行機構を設けることなく衝突試験を行うことができ、これにより、衝突安全性を高めるために極めて有用なデータを低コストで得られるという独創的な技術思想に基づく発明である。
【0012】
本発明は、カバー類を装着されたボディーシェルからなる自動車車体の第1の部分に固定され、この自動車車体を所定の姿勢で保持する保持部材と、自動車車体を保持する保持部材を所定の高さから落下させる落下機構と、落下時の保持部材を下方へ案内する案内部材と、この案内部材の下部に配置され、落下する自動車車体が衝突する被衝突部材と、案内部材から離れた位置に配置され、自動車車体の所望の位置に装着されて自動車車体の車室に作用する加速度を検出する加速度センサーが出力する測定値に基づいて演算を行うための演算装置とを備え、かつ被衝突部材が、複数個のロードセルと、これらロードセルの上部に配置されて自動車車体が衝突する定盤とを備えることを特徴とする自動車車体の衝突試験装置である。
【0013】
この本発明では、定盤が、複数個のロードセルに対応して複数に分割されて構成されることが望ましい。
これらの本発明では、さらに、演算装置が、複数個のロードセルが出力する測定値に基づいて演算を行うことが望ましい。
【0014】
これらの本発明は、さらに、案内部材に案内されて下方へ落下するとともに、所定の姿勢で保持される自動車車体における第1の部分とは異なる位置に存在する第2の部分に固定されることによって落下時における自動車車体の姿勢を所定の姿勢に維持する姿勢維持部材を備えることが望ましい。
【0015】
この姿勢維持部材は、第2の部分に固定される保持部を有し、自動車車体の後部又は前部の少なくとも一部を被包する箱状の枠体であることが望ましい。
これらの本発明では、所定の姿勢が、下方向き、上方向き又は横向きの姿勢であることが望ましい。
【0016】
これらの本発明では、保持部材は、第1の部分に固定される保持部を有し、自動車車体の後部、前部又は側部の少なくとも一部を被包する箱状の枠体であることが望ましい。
これらの本発明では、案内部材が、保持部材の水平面内における少なくとも対向する二辺に沿って略垂直に配設された複数本の軌道であることが望ましい。
【0017】
これらの本発明では、保持部材及び姿勢維持部材には、軌道を走行するローラが装着されることが望ましい。
別の観点からは、本発明は、カバー類を装着されたボディーシェルからなる自動車車体を、所定の高さから落下させて下方に配置された、複数個のロードセルと、これらロードセルの上部に配置されて自動車車体が衝突する定盤とを備える被衝突部材に衝突させることによって、衝突時における自動車車体の各部の破壊状況を、自動車車体の車室に作用する加速度の測定値に基づいて演算を行うことにより解析することを特徴とする自動車車体の衝突試験方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る自動車車体の衝突試験装置及び衝突試験方法により、比較的狭い設置面積で、衝突時の車室に作用する加速度を計測しながら衝突試験を行うことができる。これにより、衝突時の自動車車体の変形の状況を正確に解析することができるので、衝突安全性を高めた自動車車体を確実に設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施の形態の自動車車体の衝突試験装置の概略構成を示す説明図である。
【図2】図2(a)は図1におけるI矢視図であり、図2(b)は図1におけるII矢視図である。
【図3】図3(a)は図2(a)におけるA部を示す断面図であり、図3(b)は図2(a)におけるB部を示す断面図であり、図3(c)は図2(a)におけるC部を示す断面図である。
【図4】図4(a)〜図4(c)は、自動車車体をBピラー付近で側面衝突させる試験をする場合の状況を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(実施の形態1)
以下、本発明に係る自動車車体の衝突試験装置及び衝突試験方法を実施するための形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
図1は、本実施の形態の自動車車体0の衝突試験装置1の概略構成を示す説明図である。図2(a)は図1におけるI矢視図であり、図2(b)は図1におけるII矢視図である。さらに、図3(a)は図2(a)におけるA部を示す断面図であり、図3(b)は図2(a)におけるB部を示す断面図であり、図3(c)は図2(a)におけるC部を示す断面図である。
【0022】
図1〜3に示すように、本実施の形態の衝突試験装置1は、保持部材2、姿勢維持部材3、落下機構4、案内部材5、被衝突部材6及び演算装置7を備えるので、これらの構成要素2〜7について順次説明する。
【0023】
[保持部材2]
はじめに、本実施の形態で衝突試験の対象とする自動車車体0とは、エンジンコンパートメント、フロアー、ルーフ、ボディーサイド、リアフェンダー、トランクリッドさらには各種メンバー類等を備えるボディーシェルに、フード、フロントフェンダー、ドアーさらにはトランクリッド又はバックドアー等のカバー類を装着した、いわゆるボディーを意味する。本試験では、他の部品の衝突時の挙動を完全に排除して衝突時の車体に作用する負荷を正確に把握するため、このボディーのみについて衝突試験を行うこととし、エンジン、トランスミッション、デファレンシャルギヤさらにはタイヤ等の車両を構成する各種部品は、装着しない。このような自動車車体0としては、塗装を行われる前のいわゆるホワイトボディーを用いてもよいし、あるいは塗装済のボディを用いてもよい。塗装済のボディーとしては、完成車両から、エンジン、トランスミッション、デファレンシャルギヤさらにはタイヤ等の車両を構成する各種部品を取り除いたものでもよい。
【0024】
なお、衝突試験の対象としては、上述したボディーシェル以外に、ボディーシェルの一部のみを用いる場合から、タイヤに至るまでの全ての部品を装着した実車を用いる場合までの全ての場合を、対象とすることができる。
【0025】
保持部材2は、衝突試験の開始から終了までの間、この自動車車体0を所定の姿勢で確実に保持するためのものである。ここで、「所定の姿勢」とは、下方向き(例えば略鉛直下方向き)、上方向き(例えば略鉛直上方向き)又は横向き(例えば略水平向き)の姿勢である。前突試験を行う場合には自動車車体0を下方向きに保持し、後衝突試験を行う場合には自動車車体0を上方向きに保持し、側突試験を行う場合には自動車車体を横向きに保持する。さらに、斜め衝突試験を行う場合には、下方向き、上方向き又は横向きの姿勢からある方向へ若干傾斜させた向きに自動車車体0を保持すればよい。図1〜3に示す本実施の形態の例は、前突試験を行う場合である。
【0026】
保持部材2は、自動車車体0を確実に保持することができる部材であればよく、特定の型式のものには限定されない。例えば、図1〜3に示すセダン、クーペさらにはステーションワゴン等の車高が低いボディーの場合には、保持部材2は、自動車車体0のフロントフロアーのボディー幅方向略中央部に設定した第1の部分8に、例えば締結等の適宜手段により固定される保持部2aを有するとともに自動車車体0の後部0a(後突の場合には前部0b、側突の場合には側部0c)を被包する箱状の枠体であることが望ましい。
【0027】
保持部材2をなすこの枠体は、適当な寸法を有する角材2bを図示するように箱型に組み合わせて溶接することにより、構成することが簡便で望ましい。
第1の部分8は、衝突する部分(本例ではエンジンコンパートメント)から離れており衝突により損傷を受けるおそれがない部分とすることが、衝突により保持部材2の損傷や変形から保持部材2を守るために、望ましい。
【0028】
なお、本例とは異なり、例えばミニバンやワンボックスワゴンのように車高が高いために自動車車体0と後述する案内部材5との間に図1〜3に示すような枠体からなる保持部材2を配置することが難しい場合には、第1の部分8に固定される保持部を有するとともに自動車車体0の後部、前部又は側部の床部を貫通して固定される1又は2以上の棒状部材を、保持部材2として代用してもよい。
【0029】
保持部材2をなす枠体の外面には、後述する軌道5を走行するための溝形の断面形状を有するローラー2cが装着される。図1〜3に示す例では、ローラー2cは、B部には枠体の隅部4箇所に、C部には枠体の隅部4箇所と長辺部中央2箇所との合計6箇所に、それぞれ装着される。
【0030】
合計10個の各ローラー2cはいずれも軌道5に案内されて下方へ走行する。このため、保持部材2をなす枠体は、安定して下方に落下することができる。このため、この保持部材2により保持される自動車車体0も、上述した「所定の姿勢」である下方向き(後述の場合は上方向き、側突の場合は横向き)の一定の姿勢で、安定して下方に落下する。
【0031】
本実施の形態の保持部材2は、以上のように構成され、自動車車体0の第1の部分8に固定され、この自動車車体0を所定の姿勢で保持するものである。
[姿勢維持部材3]
姿勢維持部材3は、必ずしも設ける必要はないが、用いることにより、落下時における自動車車体0の姿勢を、試験開始時から終了時まで所定の姿勢に確実に調整及び維持することができるので、用いることが望ましい。
【0032】
このような機能を有するものであれば特定の形態には限定されない。本実施の形態の姿勢維持部材3は、図1〜3に示すように棒状の部材であり、上述した下方向きの所定の姿勢で保持される自動車車体0における第1の部分8よりも下方であってボディー幅方向略中央部に位置する第2の部分9に、例えば締結等の適宜手段により固定される。これにより、保持部材2により保持される自動車車体2の前側の向き、すなわち自動車車体の姿勢を、所定の姿勢に確実に調整及び維持することができる。
【0033】
姿勢維持部材3の両端部には、案内部材5である軌道を走行するローラー2cが装着される。このため、姿勢維持部材3は、案内部材5に案内されて下方へ落下する。
このようにして、自動車車体0は、保持部材2が接続する第1の部分8、及びこの姿勢維持部材3が接続する第2の部分9という、落下方向に離間したボディー幅方向中央部の2箇所8、9で保持されるので、衝突試験の開始から終了までの間、上述した所定の姿勢を維持しながら安定して落下することができる。
【0034】
姿勢維持部材3は、以上のように構成され、案内部材5に案内されて下方へ落下するとともに、所定の姿勢で保持される自動車車体0における第1の部分8よりも下方に位置する第2の部分9に固定されることによって落下時における自動車車体0の姿勢を所定の姿勢に確実に維持するものである。
【0035】
[落下機構4]
本実施の形態における落下機構4は、円柱状のマグネット4aと、マグネット4aを昇降自在に支持する懸垂装置4bとを備える。マグネット4aは、図2(a)に示す、保持部材2をなす枠体の端部に固定されたマグネット装着板2dに吸着及び解放することができる。
【0036】
マグネット4aがマグネット装着板2dに吸着した状態で懸垂装置4bによりマグネット4aを上昇させると、これに伴って、自動車車体0を保持した保持部材2を、所定の高さまで上昇させることができる。そして、この状態でマグネット4aを解放すれば、マグネット4aからマグネット装着板2dが離れ、自動車車体0を保持した保持部材2を初速零で自由落下させることができる。本実施の形態では、保持部材2を初速零で自由落下させることとしているが、油圧機構等からなる公知の加速装置(例えば非特許文献4に記載された大型の落錘衝撃試験機に用いられる加速装置参照。)を用い、保持部材2を所定の初速で落下させるようにしてもよい。
【0037】
なお、本発明における落下機構は、この落下機構4に限定されるものではなく、機械式や磁石式等の公知の各種落下機構を等しく用いることができる。
本実施の形態の落下機構4は、以上のように構成され、自動車車体0を保持した保持部材2を所定の高さまで持ち上げ、この位置から保持部材2を初速零で自由落下させるものである。
【0038】
[案内部材5]
案内部材5は、保持部材2の水平面内における少なくとも対向する二辺に沿って略垂直に配設された複数本(本実施の形態では一辺当り3本、合計6本)のアングルからなる軌道5aにより構成される。
【0039】
本実施の形態の軌道5aの長さは、数10mにも達するので、高さ方向の適当な位置の数箇所に、並設される各軌道5aをそれぞれ固定するための梁5bが、各軌道5aの外面を介して取り付けられる。
【0040】
図3(a)〜図3(c)に示すように、各軌道5aは、好ましくはその直角の頂点が互いに対向するようにして、配設されるとともに、各軌道5aの直角の頂点に溝形のローラー2cが係合する。これにより、軌道5aに係合する溝形のローラー2cを有する保持部材2及び姿勢維持部材3が、自動車車体2を保持したまま、案内部材5によって下方へ向けて案内される。
【0041】
軌道5aは、基礎5cに適宜手段により固定される。
本実施の形態の案内部材5は、以上のように構成され、落下時の保持部材2を下方へ案内するものである。
【0042】
[被衝突部材6]
被衝突部材6は、この案内部材5の下方に配置され、落下する自動車車体0が衝突するためのバリヤーを構成する。
【0043】
本実施の形態の被衝突部材6は、複数個(本例では10個)のロードセル10a〜10jと、これらのロードセル10a〜10jの上部に配置されて自動車車体0が衝突する定盤11とを備えるものである。
【0044】
本実施の形態では、定盤10を、複数個のロードセル10a〜10jのそれぞれに対応して、10個に分割して構成したが、定盤10をロードセル10の個数にあわせて分割する必要はなく、例えば2個のロードセル毎に一枚の定盤を対応させるようにしてもよい。
【0045】
ただし、近年、車体車の衝突で重視される車体衝突安全性能の一つとして、対向車に衝突する場合に、衝撃エネルギーを吸収するために部分的に配置される高強度部材が、衝突によっても潰れずに対向車に突き刺さって部分的に多大な損傷を与えることを防止するために、部分的に高強度部材を配置するのではなく、衝突時の荷重を受ける通常強度部材の設置数を増加して受圧面積を拡げることによって対向車に部分的に多大な損傷を与えることを防止するという、コンパティビリティーという車体設計が重視される傾向にある。このような車体設計の妥当性を評価するためには、衝突試験の際の車体各部に発生する荷重分布をできるだけ詳細に計測することが有用である。このため、上述した定番11は、ロードセル10の個数にあわせて多数に分割することが、荷重分布の測定精度を高めることができるとともに衝突時の車体各部に発生する荷重分布を詳細に計測できるために、望ましい。
【0046】
各ロードセル10a〜10jの検出値は、各ロードセル10a〜10jに設けられた配線10kを介して、後述する演算装置7に入力される。
被衝突部材6は、以上のように構成され、案内部材5の下部に配置され、落下する自動車車体0が衝突するものである。
【0047】
[演算装置7]
演算装置7は、試験体である自動車車体0の所望の位置(例えば、フロントメンバー先端及び後端、Aピラー、サイドシル、ダッシュパネル、フロントフロアー等)に装着された加速度センサーやひずみ計等の検出部材が出力する測定値を入力されて、演算を行うための装置である。加速度センサーやひずみ計等は、この種の衝突試験で周知慣用のものを用いることができる。
【0048】
演算装置7は、加速度センサーやひずみ計等と配線12(図1では図面が判読し難くなることを防ぐために自動車車体0側の配線の一部を省略してある)により接続されており、これにより、実際に落下する自動車車体0からは離れた位置に配置される。また、本実施の形態では、演算装置7は、各ロードセル10a〜10jが出力する測定値に基づいて、演算を行う。演算手法は、この種の衝突試験で周知慣用のものを用いることができる。
【0049】
本実施の形態に係る衝突試験装置1は以上のように構成される。次に、この衝突試験装置1を用いて自動車車体0の衝突試験を行う状況を経時的に説明する。
初めに、保持部材2である枠体は、案内部材5に設けられた図示しないストッパーにより案内部材5の最下部に存在する。そして、この位置で、自動車車体0を、保持部材2により支持される第1の部分8、及びこの姿勢維持部材3により支持される第2の部分9という、落下方向について離間した2箇所で、自動車車体0が所望の姿勢となるように、保持する。
【0050】
試験体である自動車車体0の所望の位置(例えば、フロントメンバー先端及び後端、Aピラー、サイドシル、ダッシュパネル、フロントフロアー等)に加速度センサーやひずみ計等の検出部材を装着しておく。この検出部材は配線12を介して演算装置7に接続しておく。また、図示しないが、被衝突部材6との衝突の状況を解析するために、被衝突部材6の周囲適宜方向に高速度光学撮影装置を配置しておき、衝突の状況を撮影することが望ましい。
【0051】
次に、マグネット4aを下降させて、マグネット装着板2dに吸着させる。そして、懸垂装置4bによりマグネット4aを上昇させ、自動車車体0を保持した保持部材2を、所定の高さh(m)まで上昇させる。衝突時の速度は√(2gh)により与えられるので、例えば衝突速度を55km/hとするにはhを11.9mとすればよい。
【0052】
次に、この状態でマグネット4aを解放することにより、マグネット4aからマグネット装着板2dが離れ、自動車車体0を保持した保持部材2を初速零で自由落下させる。
自由落下した自動車車体0は、落下方向に離間した2箇所8、9で保持されるので、上述した所定の姿勢を維持しながら安定して落下する。そして、被衝突部材6に衝突速度√(2gh)で衝突する。
【0053】
衝突の際には、被衝突部材6の4方向から高速度光学撮影装置により衝突の状況を撮影することが望ましい。
衝突により得られる加速度は自動車車体の各部に搭載された加速度センサーにより検出され、また荷重がロードセル10a〜10jにより検出され、さらにひずみが自動車車体の各部に搭載されたひずみゲージにより検出され、これらの検出値が演算装置7に入力される。
【0054】
このようにして、本実施の形態では、自動車車体0を、所定の高さから落下させて下方に配置された被衝突部材6に衝突させることによって、衝突時における自動車車体0の各部の破壊状況を演算装置7により解析することにより、自動車車体0の衝突試験を行って、所定の計測を行うことができる。
【0055】
このように、本実施の形態の衝突試験装置1によれば、比較的狭い設置面積で衝突試験を行うことができる。このため、試験装置に要する費用を抑制できるので、確実にこの衝突試験を行うことができる。
【0056】
また、この衝突試験装置1によれば、衝突時の車室に作用する加速度を計測しながら衝突試験を行うことができる。これにより、衝突時の自動車車体0の変形の状況を正確に解析することができるので、衝突安全性を高めた自動車車体を確実に設計することができる。
【0057】
なお、本実施の形態では、自動車車体0を特に停止させる機構は設けていないが、試験の内容によっては所定の変位量で自動車車体0を停止させ、衝突の初期や中期までの変形状態を観察する場合もある。この場合には、例えば、試験装置側には被衝突部材6や案内部材5あるいはこれらとは別の部材に、自動車車体0を停止させるためのストッパーを設けるとともに、自動車車体0側には例えば保持部材2あるいはこれとは別に設けた部材に、上述したストッパーと当接する部分を設けておき、この部分がこのストッパーに当接することにより、自動車車体0がそれ以上落下しないようにすればよい。
【0058】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2を説明する。以降の説明では、上述した実施の形態1と相違する部分を説明し、共通する部分は重複する説明を省略する。
【0059】
実施の形態1の説明では、自動車車体を正面衝突させる試験を例にとったが、本実施の形態では、自動車車体をBピラー付近で側面衝突させる試験について説明する。
図4(a)〜図4(c)は、自動車車体をBピラー付近で側面衝突させる試験をする場合の状況を示す上面図である。
【0060】
側面衝突の試験を行うには、車体0を横向きの姿勢で保持する必要があるので、保持部材2−1により車体0全体を包むように保持する場合(図4(a))、保持部材2−2により車体0の全長ではなく、例えばAピラー前部0dからCピラー後部0eまでを抱えるように保持する場合(図4(b))、さらには、車体0を二つの保持部材2−3、2−4により車体0を長手方向二箇所で保持する場合(図4(c))等がある。いずれの場合にも、被衝突部材6と衝突する側とは逆側に位置する車体0の側面が、鉛直方向上側を指向する搬送姿勢となる。
【0061】
このように車体0を横向きの搬送姿勢で保持して落下させる場合は、車体0の前方又は後方を保持する第1の部分にまず車体0を保持する保持部材を設け、さらに横向きに落下する車体0の姿勢を維持するために、例えば第1の部分と車体長さ方向で前後逆側に位置する第2の部分を保持する姿勢維持部材を設けておく。
【0062】
図4(a)〜図4(c)に示すようにして車体0を保持しておき、上述した実施の形態1と同様に衝突試験を行って車体0のBピラー付近を被衝突部材6に衝突させる。
このように、本実施の形態においても用いる保持部材2−1〜2−4は、自動車車体0の第1の部分に固定される保持部を有し、自動車車体0の後部、前部又は側部の少なくとも一部を被包する箱状の枠体であるとともに、姿勢維持部材は、第2の部分に固定される保持部を有し、自動車車体0の後部又は前部の少なくとも一部を被包する箱状の枠体である。
【0063】
なお、本実施の形態では、車体0の全てを試験対象とするが、これとは異なり、車体の長手方向の前後一部(例えば前後輪よりも外側に位置する部分)を切断した車体を試験対象とすることももちろん可能である。
【符号の説明】
【0064】
0 自動車車体
0a 後部
0b 前部
0c 側部
1 衝突試験装置
2、2−1〜2−4 保持部材
2b 角材
2c ローラー
2d マグネット装着板
3 姿勢維持部材
4 落下機構
4a 円柱状のマグネット
4b 懸垂装置
5 案内部材
5a 軌道
5b 梁
5c 基礎
6 被衝突部材
7 演算装置
8 第1の部分
9 第2の部分
10a〜10j ロードセル
10k,12 配線
11 定盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カバー類を装着されたボディーシェルからなる自動車車体の第1の部分に固定され、該自動車車体を所定の姿勢で保持する保持部材と、
自動車車体を保持する前記保持部材を所定の高さから落下させる落下機構と、
落下時の前記保持部材を下方へ案内する案内部材と、
該案内部材の下部に配置され、落下する前記自動車車体が衝突する被衝突部材と、
前記案内部材から離れた位置に配置され、前記自動車車体の所望の位置に装着されて前記自動車車体の車室に作用する加速度を検出する加速度センサーが出力する測定値に基づいて演算を行うための演算装置と
を備え、かつ
前記被衝突部材は、複数個のロードセルと、該ロードセルの上部に配置されて前記自動車車体が衝突する定盤とを備えること
を特徴とする自動車車体の衝突試験装置。
【請求項2】
前記定盤は、前記複数個のロードセルに対応して複数に分割されて構成される請求項1に記載された自動車車体の衝突試験装置。
【請求項3】
さらに、前記演算装置は、前記複数個のロードセルが出力する測定値に基づいて演算を行う請求項1または請求項2に記載された自動車車体の衝突試験装置。
【請求項4】
さらに、前記案内部材に案内されて下方へ落下するとともに、前記所定の姿勢で保持される自動車車体における前記第1の部分とは異なる位置に存在する第2の部分に固定されることによって落下時における該自動車車体の姿勢を前記所定の姿勢に維持する姿勢維持部材を備えることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された自動車車体の衝突試験装置。
【請求項5】
前記姿勢維持部材は、前記第2の部分に固定される保持部を有し、前記自動車車体の後部又は前部の少なくとも一部を被包する箱状の枠体である請求項4に記載された自動車車体の衝突試験装置。
【請求項6】
前記所定の姿勢は、下方向き、上方向き又は横向きの姿勢である請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載された自動車車体の衝突試験装置。
【請求項7】
前記保持部材は、前記第1の部分に固定される保持部を有し、前記自動車車体の後部、前部又は側部の少なくとも一部を被包する箱状の枠体である請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載された自動車車体の衝突試験装置。
【請求項8】
前記案内部材は、前記保持部材の水平面内における少なくとも対向する二辺に沿って略垂直に配設された複数本の軌道である請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載された自動車車体の衝突試験装置。
【請求項9】
前記保持部材及び前記姿勢維持部材には、前記軌道を走行するローラが装着される請求項4から請求項8までのいずれか1項に記載された自動車車体の衝突試験装置。
【請求項10】
カバー類を装着されたボディーシェルからなる自動車車体を、所定の高さから落下させて下方に配置された、複数個のロードセルと、該ロードセルの上部に配置されて前記自動車車体が衝突する定盤とを備える被衝突部材に衝突させることによって、衝突時における前記自動車車体の各部の破壊状況を、該自動車車体の車室に作用する加速度の測定値に基づいて演算を行うことにより解析することを特徴とする自動車車体の衝突試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−149947(P2011−149947A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41828(P2011−41828)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【分割の表示】特願2006−123527(P2006−123527)の分割
【原出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】