説明

自動遠心機

【課題】
試料の自動搬出入のための開口部とドアの間の隙間に起因する風損の上昇を低減させた自動遠心機を提供する
【解決手段】
検体を保持するロータと、ロータを収容するロータ室と、ロータ室を冷却することで検体を冷却する冷却機と、ロータ室上面から検体の搬入および搬出を行うために形成されたロータの径よりも小さい形状の開口部21と、開閉可能であって開口部を閉鎖するドア31と、ドア31を開閉させる開閉機構を有する自動遠心機において、ドア31の外周辺22は曲線状に形成され、ドア31は開口部21の形状とほぼ同形に形成した。ドア31の下面31bの形状は回転中の風の流れに逆らわないような扇状にし、外周辺22に形成した角逃げ部25により生ずる溝が風の抵抗にならないようし、風損の増大を抑えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液などの検体試料をハンドリング装置を用いて人手を介さずに自動的にロータ室内に搬入及び搬出を行い、遠心分離運転を自動で行うことができる自動遠心機に関する。
【背景技術】
【0002】
血液などの検体を遠心分離する遠心分離機において、ハンドリング装置を用いて検体試料をロータ室内のロータに自動的に収容し、遠心分離運転後にハンドリング装置を用いて検体試料をロータから自動的に取り出す装置が知られている。このようにハンドリング装置を用いて検体試料の装着及び取り外しを自動で行う遠心分離機は、自動遠心機と呼ばれている。自動遠心機は、ロータ室の上部を覆う開閉カバー又はテーブルの一部に検体の搬入搬出を行うための小さな開口部を設け、この開口部を介してハンドリング装置がアダプタ等に搭載された検体試料を移動させる。開口部は開閉自在なドアによって閉鎖可能に構成される。このハンドリング装置の制御やドアの開閉操作を行う開閉機構の制御は、制御手段によって行われる。
【0003】
自動遠心機に限らず通常の遠心機においては、遠心運転時にロータがロータ室内の空気を撹拌することにより空気による摩擦回転損失(以下「風損」と称する)が発生する。風損は遠心機において最も大きなエネルギー損失であり、摩擦熱はロータひいては検体の温度を上昇させる。そこで、検体の温度上昇を防ぐためにロータ室内は冷却機によって所定の温度に冷却される。
【0004】
自動遠心機ではハンドリング機構など各種搬送機構により、ドアの開閉や検体の搬入搬出を人手を介さないで自動で行うように構成される。検体の搬入搬出の際には、ドアが開閉されるが、遠心機のドアは特許文献1に開示されているようにロータの破壊に対するために十分な強度を確保することが重要である。また、ロータ室内を冷却するので冷却効果を高めるために、ドア自体に断熱層を設ける等の考慮することが重要である。
【0005】
ドアに対するこれらの要求を満たすと、ドアは必然的に厚く重たい物になってしまう傾向にあり、モータなどの動力により開閉させるためには、特許文献2の図2に記載されているようにロータ室上面を全開するのではなく検体を搬入搬出させるのに必要な最小限の開口部のみを塞ぐように構成するのが一般的である。また、ロータ室内では突起やへこみによる凹凸は風損増大の原因となるので避けなければならず、特許文献2ではスライド式ドアを水平、上下方向に可動可能な搬送手段にて押圧し、ドア裏部の凹凸を低減させるように構成されている。
【0006】
しかし、特許文献2の技術ではハンドリング機構である搬送手段を使用してドアを押圧する方法をとっているので遠心運転している間、搬送手段はドアを押圧し続けなければならない。自動遠心機においてハンドリング機構は検体を移動、遠心機のロータに挿入するために、自由度の高い運動機能を有している場合が多い。近年、自動遠心機における検体処理速度アップのニーズの高まりから、ハンドリング機構は遠心運転中でも検体処理速度アップに寄与するための動作を行う必要性が出てきている。例えば遠心運転中に次の検体を整理してロータに挿入しやすく並べておくことが考えられる。しかしながら、特許文献2の技術では遠心運転中にハンドリング機構はドアを押圧し続けなければならないので、検体処理速度アップに寄与させることができない。
【0007】
また、上述したようにドアはロータ室に面する下面の凹凸をなくし、風損の増大を抑えなければならない。このため特許文献2ではドアを横にスライドさせて、その後下方向に移動させてドアを閉める方式が発案されているが、この方式ではドアの開閉機構に少なくても2自由度を持つ機構が必要となり、ドアの開閉を行う機構が複雑になってしまう。
【0008】
ドアの開閉を行う機構をシンプルにするために、ヒンジによる回転運動を用いてドアを開閉することが提案されている。この場合は、ヒンジを中心とした回転運動のみの1自由度しか持たない機構になるので構造が単純になる。しかしながら、この機構では開閉動作中にドアの回転軌道により開口部とドアの角部が接触し易くなってしまうという問題がある。この従来の自動遠心機を説明するのが図8〜図11である。図8は、自動遠心機のロータ室から上部の構造を示す断面図である。
【0009】
自動遠心機は、ロータ室7の内部で検体1を所定の回転速度で回転させる装置である。検体1は複数の保持穴を有するアダプタ2に挿入され、アダプタ2はロータボディ4にスイング可能に保持されるバケット3に装着される。ロータボディ4は電気モータ等の駆動手段5の駆動軸5aに装着される。ロータボディ4は、保持する検体に応じて任意に交換可能である。ロータボディ4は、ボウル6によってその空間が画定されるロータ室7内に保持される。ボウル6の周囲には冷凍配管8が巻かれ、ロータ室7の温度を冷やすことによって検体1の温度上昇を防ぐように構成される。冷凍配管8には冷媒が供給され、冷凍配管8の内部で冷媒が蒸発することによりロータ室7の内部が冷却される。冷凍配管8には、冷媒を圧縮するための圧縮機(図示せず)と、圧縮されて温度上昇した冷媒を冷却ファン(図示せず)によって冷却する凝縮機(図示せず)が接続される。
【0010】
冷凍配管8の周囲には、冷却効率を上げるための断熱材9が配置される。ボウル6の上部にはボウル6の径とほぼ同じ径を有する開口11が形成され、開口11の全体はテーブル120によって塞がれる。開口11とテーブル120の間にはテーブルパッキン12が介在され、ロータ室7内の密閉度を向上させて冷却効率を向上させている。テーブル120は蝶番(図示せず)を用いて自動遠心機の筐体10に固定され、テーブル120は開閉可能であり、ロータボディ4の交換やメンテナンス、さらにロータ室の清掃等を行う際にはテーブル120が開閉される。テーブル120は一定の厚さを有し、ステンレス等の金属製の上面120aと、合成樹脂製の下面120bと、これらの間に設けられた断熱材128を含んで構成される。テーブル120の一部には、検体1を搭載したアダプタ2の搬入及び搬出を行うための専用の開口部121が設けられる。
【0011】
開口部121は、小型のドア131によって開閉される。ドア131は、一定の厚さを有し、ステンレス等の金属製の上面131aと、合成樹脂製の下面131bと、これらの間に設けられた断熱材134を含んで構成される。開口部121の周囲には、ロータ室7の気密性をあげるためにドアパッキン136が設けられる。ドア131の内周側の端部には、ドアヒンジ135が設けられ、ドアヒンジ135はテーブル120の上面120aに軸支される。ドア131は、開閉機構48によって自動で開閉操作できるように構成される。開閉機構48は、小プーリ46に結合されたモータ(図示せず)の動力をタイミングベルト45を介して大プーリ44に伝え、大プーリ44に固定されたプーリーバー43が1/4回転程度回動することにより、プーリーバー43に摺動可能に連結されたリンクバー42及び接続バー41を介してドア131をドアヒンジ135を中心に回動させることによって、ドア131を開閉させるように動作する。図示しない電気モータは、モータハウジング47の内部に収容される。開閉機構48の動作は、図示しない自動遠心機の制御手段によって制御される。
【0012】
図9は、従来の自動遠心機のC−C断面からテーブル120の下面120bを見た図である。本図のテーブル120はロータ室7に接する側を示している。従来の自動遠心機においては、テーブル120の下面120bはロータ室7に生ずる空気の流れ(矢印127)を妨げないように平面状に形成していた。テーブル120には開口部121が設けられ、開口部121にはドア131の本体部分が位置することにより開口部121が閉鎖される。開口部121は、一つのバケット3(図5参照)をロータボディ4にセット可能にするために形成されたものであって、ドア131の下面131bの大きさ(径方向の長さ又は周方向の長さ)は、ロータ室7の直径の半分以下に形成され、アダプタ2を開口部121を介して取り付け及び取り外しをするのに必要十分な大きさとしている。
【0013】
開口部121の位置は、ロータボディ4の回転中心126とテーブルパッキン12が下面120bと接触する接触領域129にほぼ含まれる位置に設けられる。ドア131は上面131aが開口部121よりも十分大きく形成される。開口部121及びドア131の上面131aの形状は略四角形であり、これらの大きさは、冷却されるロータ室7の冷気を漏らさないために、図示しないハンドリング機構によってアダプタ2をバケット3に装着及び取り外しをするのに必要最小限の大きさとするのが好ましい。ドア131を固定するドアヒンジ135は、回転中心126を通る位置に配置され、開閉機構48は回転中心126を隔ててドア131と反対側に配置される(尚、図中の開閉機構48を示す点線位置には、駆動用のモータ(図示せず)の位置は含まれない)。
【0014】
ロータ室7の内部でロータボディ4が回転すると矢印127に示す空気の流れが発生する。この空気の流れを極力乱さないために、開口部121とドア131の間の隙間は、すべての辺においてできるだけ小さくするように構成するのが好ましい。また、ドア131の下面131b(ロータ室7に接する面:図8参照)とテーブル120の下面120bは共に平らで同じ高さに形成され、凹凸を極力抑えることにより風損を抑えるように構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2005−305400号公報
【特許文献2】特開2006−142181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上述した従来技術において、開口部121とドア131の間の隙間を小さくする場合に、ドア131の開閉方法によっては、隙間を小さくことが難しい場合がある。この状態を示すのが図11である。図11は、図8及び図9に示すドア131を採用する以前のタイプのドア231を示す図である。図8と同じ構成の部分は同じ参照符号を付しているので、繰り返しの説明は省略する。
【0017】
ドア231は上下方向に見て、下から開口部121を塞ぐ部分となる本体部231dと、本体部231dよりも横方向に十分な大きさを有し、開口部121と本体部231dの上面を覆うための覆い部231cを有して形成される。そして、覆い部231cの下側であって、テーブル120の上面120aと対面する位置には、ドアパッキン136が設けられる。
【0018】
図11に示すようにドア231の一方は、ドアヒンジ135を軸点にして回動できるように構成される。ドア231の中央付近上部には接続バー41が固定され、接続バー41はリンクバー42に軸支される。ドア231はドアヒンジ135を軸点に回動するので、ドアヒンジ135が開口部121よりも十分離れた位置に無い場合は、図11の下側の図で示すように、ドア231を開閉する際に鎖線Eで示す部分がドア開閉時に接触してしまう。このような接触を防ぐためには、ドアヒンジ135の位置を図中右方向に開口部から十分遠ざけるようにすると角部はより垂直に近い方向に軌道するようになるので接触しにくい方向に行くが、ドア231の覆い部231cの大きさが大きくなり現実的でない。別の方法として、ドア231と開口部121との隙間を大きくとることが考えられるが、その場合は、隙間によってロータ室7の空気の流れが乱されることになる。
【0019】
そこで、従来の自動遠心機では図10に示すように、ドア131の形状を改良し、ドアヒンジ135から遠い角部を斜めに切り落としたような角逃げ部125を設けるようにした。角逃げ部125は、ドア131の開閉時に接触する本体部131dの形状を一部変更することにより、ドア131の下面131bの角が開口部121に接触しないようにしたものである。覆い部131cの形状は、図11の覆い部231cと同様に四角形の形状である。このように構成することにより、図10の下側の図の矢印Dで示すように開口部121に接触しないため、ドア131をスムーズに開閉させることが可能となる。しかしながら、この構成ではドア131が閉まった状態において、開口部121とドア131の間に、角逃げ部125を形成したことにより比較的大きめの溝125aが発生してしまう。この溝125aの存在により、ロータ室7の空間の境界領域に凹凸ができることになり、空気の流れが乱れ、風損が増大する。
【0020】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的は、テーブルの一部に開口部を設けた自動遠心機において、試料の自動搬出入のための改良された開口形状及びドア形状を提供することにある。
【0021】
本発明の他の目的は、試料の自動搬出入のための開口部とドアの間に生ずる隙間による風損の上昇を低減させることができる自動遠心機を提供することにある。
【0022】
本発明のさらに他の目的は、ロータ室の上面形状を改良することによりロータ室内の空気の流れをスムーズにするようにした自動遠心機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本願において開示される発明のうち代表的なものの特徴を説明すれば次の通りである。
【0024】
本発明の一つの特徴によれば、検体を保持するロータと、ロータを収容するロータ室と、ロータ室を冷却することで検体を冷却する冷却機と、ロータ室上面から検体の搬入および搬出を行うために形成されたロータの径よりも小さい形状の開口部と、開閉可能であって開口部を閉鎖するドアと、ドアを開閉させる開閉機構を有する自動遠心機において、ドアの外周辺は曲線状に形成され、ドアは開口部の形状とほぼ同形に形成した。このドアは、開口部を塞ぐ本体部と本体部の上面を覆う覆い部を有し、ドアの本体部の内部に断熱部材を収容した。覆い部の一部にはヒンジが設けられて回動可能され、開閉機構は覆い部の一部を移動させることによりヒンジを中心にドアを開閉させるように構成した。
【0025】
本発明の他の特徴によれば、開口部およびドアの本体部の外周辺は、ロータの回転中心と同心円の円弧状に形成した。外周辺の曲率半径R1は、内周辺の曲率半径R2よりも大きくなるように形成され、特に好ましくは、曲率半径R1が曲率半径R2の2倍以上になるように構成すると好ましい。外周辺の周方向幅L1は、内周辺の周方向幅L2よりも大きくなるように構成される。
【0026】
本発明のさらに他の特徴によれば、ロータ室を画定する壁の上面に、開口部およびドアの下面の外周辺の間の隙間と円周方向に連続するように環状の溝を設けた。この環状の溝は、円周方向に連続して設けられる円環状の溝とすると好ましい。
【発明の効果】
【0027】
請求項1の発明によれば、検体をロータへの取り付け及び取り出しを行うためのドアを自動で開閉させる開閉機構を有する自動遠心機において、ドアの外周辺は曲線状に形成され、ドアは開口部の形状とほぼ同形に形成したので、ドアの角逃げ部の形成によって形成される比較的大きな溝を回転方向に沿うように円弧形状にすることができ、ロータ室内の風損の増大を抑えることができる。
【0028】
請求項2の発明によれば、ドアは、開口部を塞ぐ本体部と本体部の上面を覆う覆い部を有し、ドアの本体部の内部に断熱部材を収容したので、ロータ室内の密閉性を向上させることができるとともに、断熱性を大幅に向上させることができる。また、ヒンジを使用した単純な機構により回転開閉するドアを採用でき、しかも風損増大を抑えることが可能となるので、自動遠心機の製造コストの上昇を大幅に抑えることが可能となる。
【0029】
請求項3の発明によれば、覆い部の一部にヒンジを設けて回動可能とし、開閉機構は覆い部の一部を移動させることによりヒンジを中心にドアを開閉させるので、ヒンジを中心とした回転運動のみの1自由度しか持たない開閉機構にてドアの開閉を行うことが可能となる。
【0030】
請求項4の発明によれば、開口部およびドアの本体部の外周辺は、ロータの回転中心と同心円の円弧状に形成されるので、空気の流れの多くは回転方向が支配的であるロータ室内において、風損増大に与える影響度を少なくすることができる。
【0031】
請求項5の発明によれば、開口部およびドアの本体部の内周辺は、円弧状に形成され、外周辺の曲率半径R1は、内周辺の曲率半径R2よりも大きくなるように形成されるので、開口部およびドアの本体部の隙間のうち、外周辺と内周辺の両方において、風損増大に与える影響度を軽減させることができる。
【0032】
請求項6の発明によれば、外周辺の曲率半径R1は、内周辺の曲率半径R2の2倍以上であるので、ロータ室内に発生する支配的な空気の流れの方向に近い形で開口部およびドアの本体部の内周辺及び外周辺を形成でき、風損増大に与える影響度を効果的に軽減させることができる。
【0033】
請求項7の発明によれば、外周辺の周方向幅L1は、内周辺の周方向幅L2よりも大きいので、開口部の側辺を回転方向に対してほぼ垂直方向に配置でき、開口部およびドアの本体部のわずかな隙間による風の乱れを最小に抑えることができる。
【0034】
請求項8の発明によれば、ロータ室を画定する壁の上面に、開口部およびドアの下面の外周辺の間の隙間と円周方向に連続するように環状の溝を設けたので、ロータ室内の空気の流れを整流でき、風損増大に与える影響度を低減することができる。
【0035】
請求項9の発明によれば、溝は、円周方向に連続して形成された円環状の溝であるので、風損増大に与える影響度をさらに低減させることが可能となる。
【0036】
本発明の上記及び他の目的ならびに新規な特徴は、以下の明細書の記載及び図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施例に係る自動遠心機のロータ室から上部の構造を示す断面図である。
【図2】本発明の実施例に係る自動遠心機のA−A断面からテーブル20を見た図である。
【図3】本発明の第2の実施例に係る自動遠心機のロータ室から上部の構造を示す断面図である。
【図4】本発明の第2の実施例に係る自動遠心機のB−B断面からテーブル70を見た図である。
【図5】本発明の第3の実施例に係る自動遠心機のドアの下面と開口部の形状を示す図である。
【図6】本発明の第4の実施例に係る自動遠心機のドアの下面と開口部の形状を示す図である。
【図7】本発明の第5の実施例に係る自動遠心機のドアの下面と開口部の形状を示す図である。
【図8】従来の自動遠心機のロータ室から上部の構造を示す断面図である。
【図9】従来の自動遠心機のC−C断面からテーブル120を見た図である。
【図10】従来の自動遠心機のドア開閉状態を説明するためのドア131の部分断面図である(その1)。
【図11】従来の自動遠心機のドア開閉状態を説明するためのドア231の部分断面図である(その2)。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0038】
以下、本発明の実施例を図1及び図2に基づいて説明する。なお、以下の図において、図8〜図11で説明した従来の技術と同一の部分には同一の符号を付しており繰り返しの説明を一部省略している。
【0039】
自動遠心機は、ロータ室7の内部で検体1を所定の回転速度で回転させる装置である。検体1は複数の保持穴を有するアダプタ2に挿入され、アダプタ2はロータボディ4によってスイング可能に保持されるバケット3に装着される。アダプタ2は、図示しないハンドリング機構によって、検体の受け渡し場所とロータ室7の内部との間で搬送される。ロータボディ4は電気モータ等の駆動手段5の駆動軸5aに装着される。ロータボディ4は交換可能であり、保持する検体に応じて任意に選択して装着できる。ロータボディ4は、ボウル6によって画定されるロータ室7内に回転可能なように保持される。
【0040】
ボウル6の外周には冷凍配管8が巻かれ、冷凍配管8には冷媒が供給され冷凍配管8の内部で冷媒が蒸発することによりロータ室7の内部が冷却される。冷凍配管8の周囲には、冷却効率を上げるための断熱材9が設けられる。ボウル6の上部には開口11が形成され、開口11は、開口11よりも十分大きいテーブル20によって塞がれることによってロータ室7が密閉状態に保たれる。ロータ室7の内部は所定の温度に冷却されるため、開口11とテーブル20の間に、ゴム等で形成されたテーブルパッキン12が介在される。テーブル20は上から見て略四角形の形状であり、そのうちの一辺に蝶番(図示せず)が取り付けられ、筐体10に開閉可能なように固定される。ロータボディ4の交換やメンテナンス、さらにロータ室の清掃等を行う際には、テーブル20が開閉される。テーブル20は一定の厚さを有し、ステンレス等の金属製の上面20aと、合成樹脂製の下面20bと、これらの間に設けられた断熱材28を含んで構成される。テーブル20の一部には、検体1を搭載したアダプタ2の搬入及び搬出を行うための専用の開口部21が設けられる。
【0041】
開口部21は、ドアパッキン36を挟んで小型のドア31によって閉鎖される。ドア31は、一定の厚さを有し、ステンレス等の金属製の上面31aと、合成樹脂製の下面31bと、これらの間に設けられた断熱材34を含んで構成される。ドア31の内周側の端部には、ドアヒンジ35が設けられ、ドアヒンジ35はテーブル20の上面20aに軸支される。ドア31は、開閉機構48によって自動で開閉操作できるように構成される。開閉機構48は、小プーリ46に結合されたモータ(図示せず)の動力をタイミングベルト45を介して大プーリ44に伝え、大プーリ44に固定されたプーリーバー43が回動することにより、プーリーバー43およびドア31に摺動可能に連結されたリンクバー42及び接続バー41を介してドア31をドアヒンジ35中心に開閉させるように動作する。
【0042】
本実施例においては、図1の断面図で見ると図8で示した従来の自動遠心機と構造上の差異がないように見える。しかしながら、本実施例では開口部21の形状、及び、ドア31の形状(特に本体部分の外郭形状)が図8で示した従来の自動遠心機と異なるものである。
【0043】
図2は本発明の実施例に係る自動遠心機のA−A断面からテーブル20を見た図である。図2から明らかなように、本実施例におけるは開口部21の形状及びドア31の下面31bの形状は、四角形状でなく略扇状に形成される。開口部21にフィットするドア31の下面31bの形状は、円弧状の外周辺22を有し、外周辺22に接続される2つの側辺24a、24bが内周側から外周側にいくにつれてその間隔が広がるように配置される。さらに内周辺23を円弧状に形成した。外周辺22の曲率半径をR1、内周辺23の曲率半径をR2とすると、曲率半径R1は曲率半径R2よりも大きくなるようにすると好ましく、特に曲率半径R1は曲率半径R2の2倍以上の関係となるように設定すると良い。また、曲率半径R1の中心及び/又は曲率半径R2の中心は、ロータボディ4の回転中心26と一致するように同心円状に構成すると、角逃げ部25の溝の配置が風の流れ27に逆らわないような位置関係に形成されるので、風損の低減のために大きな効果がある。
【0044】
ドア31の上面31aの大きさは、図8のドア131の上面と同じサイズである。ドア31は、ドアヒンジ35を中心に回動されるが、ドアヒンジ35の位置は図8で示した従来例の位置と同じである。従って、ドア31を開閉するための開閉機構48は従来例と同一のものを用いることができ、テーブル20の上面20aであって、テーブルパッキン12の接触領域29の内周側に設けることができる。図2の例では、回転中心26を隔てて一方側に開口部21及びドア31が配置され、他方側に開閉機構48が配置されるので、自動遠心機の実現のための機構をテーブル20の上面20aにすべて配置できるので、コンパクトな自動遠心機を実現できる。
【0045】
図2では図示されないが、開口部21の外側に沿ってドアパッキン36がドア31に配置される。開口部21の大きさは、バケット3にアダプタ2をスムーズに出し入れできるように、バケット3よりもやや大きいサイズとすると好ましい。
【0046】
風損の発生原因は上述したようにロータの回転によりロータ室7内の空気が撹拌され摩擦熱が発生することで起きる。よってロータ室7内に凹凸があるとそれらが抵抗になり風損は増大してしまう。通常、ロータ室7内部の空気流の多くは、回転方向が支配的であるので回転方向に対して抵抗となる凹凸が風損を増大させる原因となる。しかしながら、本実施例では角逃げ部25が回転中心26から同心円状に形成され、角逃げ部25により凹凸が生ずる領域25aが円周方向に沿っているので、回転方向に対する抵抗増大が少なくて済み、風損の増大に与える影響度は図8及び図9で示す従来例の構成に比べて大幅に小さくすることができた。
【実施例2】
【0047】
次に図3及び図4を用いて本発明の第2の実施例を説明する。図3は本発明の第2の実施例に係る自動遠心機のロータ室7から上部の構造を示す断面図である。第2の実施例において第1の実施例と異なる点は、テーブル70の形状であり、その他の構成要素は第1の実施例と同じであるので、同じ番号の参照符号を付与し繰り返しの説明は省略する。本実施例では、テーブル70の下面70bの形状に特徴がある。テーブル70は角逃げ部75の凹部に連続するように円周方向に連続する溝、即ち円周溝78を設けた。
【0048】
図4は、本発明の第2の実施例に係る自動遠心機のB−B断面からテーブル70を見た図である。この図から理解できるように、開口部71(ドア31の下面)の外周部の周方向幅L1は、内周部の周方向幅L2よりも大きくなるように形成される。円周溝78は、角逃げ部75の風上側75b及び風下側75cに連続するように形成され、本実施例では円周方向に連続して環状に円周溝78を形成する。この円周溝78の回転半径は、テーブルパッキン12の接触領域79の内周側であって、開口部71の外周辺72の曲率半径R1と同じに形成すると好ましい。また、円周溝78の回転中心は、ロータボディ4の回転中心と一致するように配置すると良い。円周溝78の幅(径方向の距離)は、角逃げ部25によって生ずる隙間の幅とほぼ同じであるように構成すると良い。
【0049】
以上のように構成することにより、風の流れ77に対して角逃げ部75の抵抗を少なくすることが可能となる。これにより遠心分離運転時に角逃げ部75に生ずる凹部(溝)による風損の増大を十分抑えることが可能となる。また、円周溝78を形成するには、テーブル70の下面70bの形状を変えるだけで良いが、下面70bはプラスチック等の合成樹脂で形成するようにすれば加工も容易であり、製造コストの上昇の影響を最小に抑えることが可能となる。
【実施例3】
【0050】
次に図5〜図7を用いて第3から第5の実施例を説明する。これらの実施例では、小さいドアの上面の形状、ドアヒンジの位置、開閉機構48は第1及び第2の実施例と同じであるものの、開口部及び小さいドアの下面の形状が異なる。第3の実施例において開口部80の形状は、外周辺82は曲率半径R1の円弧状に形成されるが、内周辺83は直線状に形成される。内周辺83と外周辺82に接続される2つの側辺84a、84bは、内周側から外周側にいくにつれてその間隔が広がるように配置され、ロータの回転によりロータ室7内の風の流れに対して側辺84a、84bの配置が垂直に近くなるように構成される。
【0051】
ドアの下面81bの外周辺82には、ドアの開閉時に開口部に接触しないように角逃げ部85が形成される。このように角逃げ部85を形成することにより、外周辺82付近に生ずる角逃げ部85の凹凸が風損の増大に与える影響を小さくすることができる。尚、図中の点線で示すのはバケット3の大きさであり、開口部80を介してバケット3を十分に出し入れできることが理解できるであろう。
【0052】
第3の実施例においては、第1及び第2の実施例に比べて内周辺の形状が単純であるので、開口部の製造及びドアの製造が容易であり、自動遠心機の製造コストを低下させることができる。特に、ドアの下面81bに鋭角となるような角部が形成されないので製造しやすい。
【実施例4】
【0053】
図6は第4の実施例に係る開口部86及びドアの下面86bの形状である。第4の実施例において開口部86の形状は、外周辺88は曲率半径R1よりも大きい円弧状に形成されるが、内周辺89は直線状に形成される。第4の実施例では内周辺89と外周辺88に接続される2つの側辺90a、90bが平行になるように形成される。このように形成されることによって、図8で示した従来のドア131とほぼ同様の開口形状を有しながら角逃げ部91の凹凸が風損の増大に与える影響を小さくすることができる。この開口形状は、従来の形状からさほど変更が無いので、開口形状とドアの形状の一部分を変更するだけで済み、コストアップの影響を最小に抑えつつ角逃げ部による空気流の影響をより小さく抑えることができる。
【実施例5】
【0054】
図7は第5の実施例に係る開口部92及びドアの下面93bの形状である。第5の実施例において開口部92の形状は、外周辺94は図2に示した外周辺22の曲率半径R1よりも大きい円弧状に形成される。また内周辺95は、図2に示した内周辺23の曲率半径R2よりも大きくされる。第5の実施例では内周辺95と外周辺94に接続される2つの側辺96a、96bが平行になるように形成される。このように第1の実施例ほど曲率を大きくしなくても、十分な効果を達成できる。特に、角逃げ部98の凹凸が風損の増大に与える影響を小さくすることができる。
【0055】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、開口部及びドアの下面の形状は、上述した形状だけでなくその他の任意の形状に形成しても良い。また、図3で示した溝の数は1本だけでなく複数本でも良い。さらに、テーブルやドアの構成は、上面が金属製、下面が樹脂製だけに限られずに、その他の材料によって製造するようにしても良い。
【符号の説明】
【0056】
1 検体 2 アダプタ 3 バケット 4 ロータボディ
5 駆動手段 5a 駆動軸 6 ボウル 7 ロータ室
8 冷凍配管 9 断熱材 10 筐体 11 開口
12 テーブルパッキン 19 断熱材 20 テーブル
20a 上面 20b 下面 21 開口部 22 外周辺
23 内周辺 24a、24b 側辺 25 角逃げ部
25a 領域 26 回転中心 27 風の流れ 28 断熱材
29 (テーブルパッキンの)接触領域 31 ドア 31a 上面
31b 下面 34 断熱材 35 ドアヒンジ
36 ドアパッキン 41 接続バー 42 リンクバー
43 プーリーバー 44 大プーリ 45 タイミングベルト
46 小プーリ 47 モータハウジング 48 開閉機構
70 テーブル 70a 上面 70b 下面
71 開口部 72 外周辺 75 角逃げ部
75a 領域 75b (角逃げ部の)風上側
75c (角逃げ部の)風下側 77 風の流れ
78 円周溝 79 接触領域
80、86、92 開口部 82、88、94 外周辺
83、89、95 内周辺
84a、90a、96a (風上側の)側辺
84b、90b、96b (風下側の)側辺
85、91、98 角逃げ部 87b、93b (ドアの)下面
120 テーブル 120a 上面 120b 下面
121 開口部 121b 下面 125 角逃げ部
125a 溝 126 回転中心 127 矢印
128 断熱材 129 接触領域 131 ドア
131a 上面 131b 下面 131c 覆い部
131d 本体部 134 断熱材 135 ドアヒンジ
136 ドアパッキン 231 ドア 231a 上面
231b 下面 231c 覆い部 231d 本体部
R1、R2 曲率半径 L1、L2 周方向幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体を保持するロータと、
前記ロータを収容するロータ室と、
前記ロータ室を冷却することで前記検体を冷却する冷却機と、
前記ロータ室上面から検体の搬入および搬出を行うために形成された前記ロータの径よりも小さい形状の開口部と、
開閉可能であって前記開口部を閉鎖するドアと、
前記ドアを開閉させる開閉機構を有する自動遠心機において、
前記ドアの外周辺は曲線状に形成され、
前記ドアは前記開口部の形状とほぼ同形に形成されることを特徴とする自動遠心機。
【請求項2】
前記ドアは、前記開口部を塞ぐ本体部と該本体部の上面を覆う覆い部を有し、
前記ドアの本体部の内部に断熱部材を収容したことを特徴とする請求項1に記載の自動遠心機。
【請求項3】
前記覆い部の一部にヒンジを設けて回動可能とし、
前記開閉機構は前記覆い部の一部を移動させることにより前記ヒンジを中心に前記ドアを開閉させることを特徴とする請求項2に記載の自動遠心機。
【請求項4】
前記開口部および前記ドアの本体部の外周辺は、前記ロータの回転中心と同心円の円弧状に形成されることを特徴とする請求項3に記載の自動遠心機。
【請求項5】
前記開口部および前記ドアの本体部の内周辺は、円弧状に形成され、
前記外周辺の曲率半径R1は、前記内周辺の曲率半径R2よりも大きくなるように形成されることを特徴とする請求項4に記載の自動遠心機。
【請求項6】
前記外周辺の曲率半径R1は、前記内周辺の曲率半径R2の2倍以上であることを特徴とする請求項5に記載の自動遠心機。
【請求項7】
前記外周辺の周方向幅L1は、前記内周辺の周方向幅L2よりも大きいことを特徴とする請求項5に記載の自動遠心機。
【請求項8】
前記ロータ室を画定する壁の上面に、前記開口部および前記ドアの下面の外周辺の間の隙間と円周方向に連続するように環状の溝を設けたことを特徴とする請求項7に記載の自動遠心機。
【請求項9】
前記溝は、円周方向に連続して形成された円環状の溝であることを特徴とする請求項8の自動遠心機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−61396(P2012−61396A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206173(P2010−206173)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】