説明

自在軸継手用ブーツ

【課題】自在軸継手と自在軸継手用ブーツが密着する部分の、若干の寸法変動を吸収して良好なシール性を達成し、汎用性の高い自在軸継手用ブーツを提供することを目的とする。
【解決手段】ゴム状弾性体で形成され、小径リング部12と大径リング部14との間が蛇腹部16とされている分割タイプの自在軸継手用ブーツ。分割部17の両側に形成される分割厚肉部18、18には、シールファスナ30を備えている。小径リング部12および大径リング部14で周方向に沿って複数本の撓み可能で線シール可能なフィン群13、15が形成されている。フィン群13、15で形成される溝部41、42を塞ぐように、フィン群13、15の分割部17となる位置(周方向における両端)にシール膜対11、19が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、工作機械、建設機械、各種の産業機械などの自在軸継手部位に保護部材として使用されるゴム状弾性体製の自在軸継手用ブーツ(以下、単に「ブーツ」と称することがある。)に関する。さらに詳しくは、メンテナンスが容易なように縦方向に分割され、該分割部にシールファスナが配されるブーツに関する。
【背景技術】
【0002】
上記分割タイプのブーツとして、例えば下記構成の自在軸継手用ブーツが、本願出願人と同一人により提案されたものがある(特許文献1の「請求項1」の前提部等参照)。
【0003】
「ゴム状弾性体で形成され、小径リング部と大径リング部との間が蛇腹部とされ、前記小径リング部から前記大径リング部まで母線に沿って分割されるとともに、該分割位置の両側に形成される分割厚肉部と、該分割厚肉部より薄肉で略同一肉厚とされ周方向で連結する一般部とを備え、
前記分割厚肉部には、一方の端縁に沿って形成され、首部を介して先端に膨出係合部を備えた帯状の咬合部と、他方の端縁に沿って、導入溝部を介して奥側に前記膨出係合部と係合する係合溝を備えた帯状の被咬合部とからなるシールファスナが形成された構成の自在継手用ブーツ。」
昨今、工場で生産される自動車の自在軸継手ブーツは、軽量化・コスト低減の見地から樹脂(熱可塑性エラストマー:TPE)化される傾向にある。
【0004】
耐用期間が過ぎた自在軸継手ブーツには、ゴム製ブーツも含まれている。
【0005】
そして、それらのブーツを交換する場合、純正品(工場ラインオフ品)を使用することが要求されている。
【0006】
自在軸継手のハウジング部および継手シャフトにおけるブーツの締結部の形態(形状、外径)は、ゴム製ブーツと樹脂製ブーツとでは異なり、さらに、同じクラス車(例えば小型車)であっても、自在軸継手のハウジング径やシャフト径が若干異なっている場合がある。
【0007】
このため、耐用期間が経過した後の交換部品としての純正品は、従来、「一品種一部品」が原則であり、純正品の品番数が増大する傾向にあった。すなわち、ブーツの種類によって、取り付けられるハウジングおよびシャフトに対する密着性が異なるためである。
【0008】
この品番数の増加は、マイノリティな品番のものも含め、多数の品番在庫を抱えることで、部品の在庫管理上の負担が増大している。
【0009】
なお、本発明の特許性に影響を与えるものではないが、装着部の内周面を形成する内周層と、内周層の外側に密接し装着部の外周面を形成する外周層と、を有し、内周層が外周層よりも低硬度の材料で形成され、装着部の秀逸なシール性を有する等速ジョイントブーツに係る発明が、特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−278410号公報
【特許文献2】特開平11−13883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記にかんがみて、自在軸継手と自在軸継手用ブーツが密着する部分の、若干の寸法変動を吸収して良好なシール性を達成し、汎用性の高い自在軸継手用ブーツを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、小径リング部および大径リング部の一般部で周方向に沿って複数本の撓み可能で線シール可能な複数本のフィンからなるフィン群が形成されるとともに、フィン群で形成される溝部を塞ぐように、フィン群の分割部となる位置にシール膜対が形成されている。
【0013】
複数本の撓み可能で線シール可能な複数本のフィンからなるフィン群により、形状の異なる自在軸継手でも柔軟に変形可能となるので自在軸継手の継手ハウジング径や継手シャフト径が若干違っていてもその寸法差を吸収して所要のシール性を達成することができる。また、各フィン群で形成される溝部を塞ぐシール膜対が互いに密接することにより各フィン群の分割部となる位置からブーツ内部に封入されたグリースの漏れを防止することができる。
【0014】
従って、若干継手ハウジング径や継手シャフト径が異なる自在軸継手であっても、「一品種一部品」対応で自在軸継手用ブーツを在庫管理する必要が無くなる。
【0015】
また、各フィン群を、継手ハウジング及び継手シャフトの周方向に沿って形成される溝部に対応する高さを有する位置決めフィンを有する構成とすれば、位置決めフィンが継手ハウジング及び継手シャフトの周方向に沿って形成される溝部に入り込むことによって取り付け位置が決まる。自在軸継手用ブーツを自在軸継手に対する取り付け作業性が向上する。
【0016】
また、分割部の開き時に大径リング部と小径リング部との間に形成され、自在軸継手用ブーツの軸心方向からみた扇形の開口部において、扇形の頂点が自在軸継手用ブーツの軸心より奥側に位置する構成とすることもできる。
【0017】
扇形の開口部の頂点を自在軸継手用ブーツの軸心に位置している場合に比べ、前記扇形の開き角度を相対的に小さくできる。
【0018】
分割部の閉じ時に自在軸継手用ブーツが受ける歪度が小さくなり、結果的に分割部の閉じ時の大径リング部と小径リング部の真円度を確保しやすくなる。よって、フィン群による寸法差吸収の作用をより達成しやすくなる。
【0019】
また、自在軸継手用ブーツを自在軸継手に取り付ける作業は、通常大径リング部を締め付けた後、小径リング部を締め付ける。このため、小径リング部側の分割部における開閉支点(扇形の頂点)からのスパンが、扇形の頂点を自在軸継手用ブーツの軸心に位置した場合に比して長くなり、分割部における小径リング部側の閉抵抗が小さくなり、自在軸継手用ブーツの取り付け作業が容易となる。
【0020】
また、シールファスナを、分割部の一方の端縁に沿って形成し、首部を介して先端に膨出係合部を備えた帯状の咬合部と、分割部の他方の端縁に沿って形成し、導入溝部を介して奥側に膨出係合部と係合する係合溝を備えた帯状の被咬合部と、で構成することもできる。これにより、膨出係合部と係合溝との係合によりシールファスナに解除方向に力が作用しても分割部を開き難くすることが可能となる。即ち、分割部におけるシール性、特にシール膜対相互のシール性を確保しやすくなる。
【0021】
また、シールファスナの咬合作業性及び咬合強度確保の見地から、被咬合部の咬合溝の外周部には、線状ばね材からなり、横断面形状が実質的に角部を有しない茄子形である挟持インサートが埋設されて、被咬合部の開口部端部間にばね挟持力が付与されているとともに、咬合部には、線材からなり波型平面を有する又は帯板からなる被挟持インサートが埋設されている構成とするのが望ましい。即ち、分割部におけるシール性、シール膜対相互のシール性をさらに確保しやすくなる。
【0022】
また、フィン群及びシール膜対を、別体のグロメットで形成して、小径リング部および大径リング部の少なくとも一方に配する構成とすることができる。
【0023】
これにより、継手ハウジングの径や継手シャフトの径が異なる自在軸継手であっても、小径リング部、大径リング部に配されるグロメットの基部厚さ及びフィン高さを調整することで、ブーツ全体を変更することなく対応することが可能となり、多品種により対応が容易となるので、「一品種一部品」対応でブーツを在庫管理する必要が無くなる。
【0024】
また、フィン群のシール性が悪くなった時でも、ブーツ全体を取り換えずにグロメットのみの交換ですむ。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の自在軸継手用ブーツの一実施形態における開き時の斜視図である。
【図2】図1のシールファスナ部位の要部断面図である。
【図3】図2のシールファスナ部位の咬合部及び被咬合部に埋設される、挟持インサート(A)及び被挟持インサートの斜視図(B)である。
【図4】咬合部側の部分の半切断端面図である。
【図5】図4の矢印方向から見た斜視図である。
【図6】被咬合部側の部分の半切断端面図である。
【図7】図6の矢印方向から見た斜視図である。
【図8】本発明の自在軸継手用ブーツの一実施形態における開き時の底面図である。
【図9】本発明を適用する自在軸継手用ブーツの装着態様を示す断面図及び部分拡大図である。
【図10】本発明の自在軸継手用ブーツの他の実施形態における断面図及び部分拡大図である。
【図11】本発明の自在軸継手用ブーツの他の実施形態における変形例の断面図及び部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明をするが、本発明のブーツは当該構成に限定されるものではない。即ち、本発明の要旨を逸脱しない限り各種の設計変更等が可能である。
【0027】
本発明のブーツ10は、大径リング部14と嵌着する継手ハウジング36と、小径リング部12と嵌着する継手シャフト39と、を備える自在軸継手38に取り付けられるものである。
【0028】
ブーツ10は、ゴム状弾性体で形成され、図1、2、3に示すように、小径リング部12と大径リング部14との間が蛇腹部16とされている。そして、小径リング部12から大径リング部14まで直線状(母線に沿って)に分割部17が形成され、該分割部17の両側が分割厚肉部18、18とされるとともにシールファスナ30が配され、分割厚肉部18、18より薄肉で略同一肉厚とされ周方向で分割厚肉部18、18を連結する一般部20とを備えた形態である。
【0029】
本実施形態のブーツ10(通常、ブーツ10内にはグリースを封入する。)は、耐グリース性を有するゴム状弾性体、具体的には、クロロプレンゴム、アクリルゴム等のゴム材料又はポリエステル系、ポリオレフィン系など熱可塑性エラストマー(TPE)を使用して射出成形により拡開状態に成形をする。ゴム状弾性体として、ポリエステル系、ポリオレフィン系など熱可塑性エラストマー(TPE)で成形する場合は、射出ブロー成形も可能である。
【0030】
小径リング部12及び大径リング部14は、ブーツ10を自在軸継手38に装着する際に固定部位としての役割を担う。また、蛇腹部16は、ブーツ10を自在軸継手38に装着後、装着部位を包被して保護する役割を担う。図1においては、蛇腹部16の山部50、谷部60がともに3箇所とされているが、蛇腹状でありさえすれば、2箇所以下でも、4箇所以上でもよい。
【0031】
ブーツ10に分割部17を形成するのは、ブーツ10の自在軸継手38への装着・脱着作業を容易化するためである。ブーツ10は継手保護部材であるため定期的に交換を行うことが多く、交換時における装着・脱着作業等の容易化は有益である。
【0032】
即ち、分割部17を形成しないと、装着作業において、ブーツ10を小径リング部12側もしくは大径リング部14側から自在軸継手38に挿入する必要があり、ブーツ10を装着可能な状態まで自在軸継手38を分解する必要性が出てくる。しかし、分割することで、ブーツ10は自在軸継手38を挟み込むようにして装着可能となる。よって、特にステアリングユニット等に装着する際には、分解作業後の調整作業が不要となる。
【0033】
そして、上記分割部17を閉じるために、ブーツ10は、分割部17の両側が一般部20と内側において略面一となるように外側へ偏在して形成されている分割厚肉部18、18とされるとともに、シールファスナ30が配されている。
【0034】
シールファスナ30は、分割部17の一方の端縁に沿って形成され、首部21を介して先端に膨出係合部22を備えた帯状の咬合部24と、分割部17の他方の端縁に沿って形成され、導入溝部25を介して奥側に膨出係合部22と係合する係合溝26を備えた帯状の被咬合部28と、を備えている。
【0035】
係合溝26の外周部には、線状ばね材からなり、横断面形状が実質的に角部を有しない茄子形である挟持インサート32が埋設されて、被咬合部28の開口部端部間にばね挟持力が付与されているとともに、被咬合部28には、線材からなる波形平面の又は帯板状の被挟持インサート34が埋設されている。これらの挟持インサート32、被挟持インサート34は、挿入作業性及びシール性の見地から埋設する。
【0036】
シールファスナ30を咬合(係合)させると、ブーツ10は一般部20及び分割厚肉部18、18を閉じた周方向連続形状となる。分割部17を閉じると、シールファスナ30は膨出係合部22と係合溝26とが係合して、厚肉に形成された分割厚肉部18、18で埋没(埋入)された状態となり、保護部材として必要なシール性を確保する構成とされている。
【0037】
ここまでは、従来例と同様の構成である。そして、本実施形態においては、従来と異なる下記のような特徴的構成を備えている。
【0038】
ブーツ10は、図4〜9に示すように、小径リング部12および大径リング部14で周方向に沿って複数本の撓み可能で線シール可能な、シールフィン13a、15aと位置決めフィン13b、15bと、からなるフィン群13、15が形成されている。
【0039】
シールフィン13aは小径リング部12の内周面12aから、シールフィン15aは、大径リング部14の内周面14aから、ブーツ10の軸心O方向にそれぞれ突出して形成されている。
【0040】
位置決めフィン13b、15bは、シールフィン13a、15aより高さ、厚みを大きくして、形成されている。位置決めフィン13bは、小径リング部12の内周面12aから、位置決めフィン15bは、大径リング部14の内周面14aから、ブーツ10の軸心O方向にそれぞれ突出して形成され、それぞれ継手ハウジング36及び継手シャフト39の周方向に沿って形成される溝部36a、39aに対応する高さを有している。
【0041】
上記構成のシールフィン13a、15aと、位置決めフィン13b、15bの設定数値は、ブーツ10の大きさにより決まるが、例えば、小径リング部12の内径が約20〜40mm、大径リング部14の内径が約70〜120mmの場合、ブーツ10の軸心O方向からみて径方向内側に向かう方向でのシールフィン13a、15aのフィン高さ:1〜2mm、ブーツ10の軸心方向におけるシールフィン13a、15aのフィン厚み:0.8〜1.5mm、ブーツ10の軸心O方向からみて径方向内側に向かう方向における位置決めフィン13b、15bのフィン高さ:2〜3mm、ブーツ10の軸心方向における位置決めフィン13b、15bのフィン厚み:0.8〜1.5mmとする。
【0042】
なお、位置決めフィン13b、15bは、シールフィン13a、15aより高さ、厚みを大きく形成されているが、シールフィン13a、15aより高剛性の部材を用いることによっても形成することができる。
【0043】
また、シールフィン13a、15a及び位置決めフィン13b、15bの断面形状は、特に限定されない。例えば、圧接シール性が要求されるならばベントし難い肉厚の台形状、矩形状、半円状等に形成することができる。ベントシール性が要求されるならば、ベントしやすい肉厚が薄い矩形状、三角形状等とすることができる。さらに、小径リング部12の内周面12aからブーツ10の軸心O方向に向かって、大径リング部14の内周面14aからブーツ10の軸心O方向に向かって、それぞれ狭小となるように形成することもできる。
【0044】
フィン群13の分割部17となる位置(周方向における両端)に、フィン群13及び小径リング部12の内周面12aで囲まれる部分に形成される溝部41を塞ぐように、シール膜対11が形成されている。
【0045】
フィン群15の分割部17となる位置(周方向における両端)に、フィン群15及び大径リング部14の内周面14aで囲まれる部分に形成される溝部42を塞ぐように、シール膜対19が形成されている。
【0046】
シール膜対11は、膨出係合部22が形成される側に設けられるシール膜111と、導入溝部25が形成される側に設けられるシール膜112と、からなる構造である。
【0047】
シール膜対19は、膨出係合部22が形成される側に設けられるシール膜191と、導入溝部25が形成される側に設けられるシール膜192と、からなる構造である。
【0048】
シール膜111、シール膜112の分割部17の開き時の開き部分側の端面111a、112aは、互いに圧接可能な平面に形成されている。
【0049】
シール膜191、シール膜192の分割部17の開き時の開き部分側の端面191a、192aは、互いに圧接可能な平面に形成されている。
上記構成のシール膜111、112、及びシール膜191、192は、それぞれ周方向における膜壁の厚さ:0.3〜0.8mmとする。
【0050】
分割部17の開き時に大径リング部14と小径リング部12との間に形成される、ブーツ10の軸心O方向からみた仮想扇形Q(特許請求の範囲の扇形に相当する。)の開口部40において、仮想扇形Qの頂点Pがブーツ10の軸心Oより奥側に位置している。
【0051】
詳説すると、図8に示すように、分割部17開き時に形成されるブーツ10の開口部40は、ブーツ10の軸心O方向からみて、小径リング部12の分割部17となる両端部と、大径リング部14の分割部17となる両端部と、を結んで形成される仮想扇形Qの仮想円弧の長さが、小径リング部12側より大径リング部14側のほうが大きくなるように形成されている。
【0052】
仮想扇形Qの頂点Pの位置は、従来、ブーツ10の軸心Oであったのを、本実施形態では、ブーツ10の軸心O方向からみて開口部40の大径リング部14の仮想円弧からブーツ10の軸心Oに向かう方向を奥方向としたときの、ブーツ10の軸心Oより奥側に偏心した位置としている。
【0053】
分割部17の合わせ形状を考慮するならば、ブーツ10の軸心Oを通る仮想扇形Qの開き角を二分割する線上の、ブーツ10の軸心Oから所定距離離れた位置に仮想扇形Qの頂点Pが来るように形成されているのが望ましい。
【0054】
上記構成のブーツ10は、通常、小径リング部12の内径:約20〜40mm、大径リング部14の内径:約70〜120mm、蛇腹部16の山部50のピッチ:約15〜20mm、仮想扇形Qの角角度:20°、頂点Pと軸心Oとの距離:8〜20mmとする。
【0055】
次に上記実施形態のブーツ10の使用態様を説明する(図9参照)。
【0056】
従来と同様にして、図1に示す拡開状態から、咬合部24を被咬合部28に咬合させて分割厚肉部18を閉じることにより、自在軸継手38の、継手ハウジング36に大径リング部14を嵌着し、かつ、継手シャフト39に小径リング部12を嵌着して、ブーツ10を自在軸継手38に組み付ける。なお、自在軸継手38のベアリング部(軸受け部:図示せず。)にグリースが封入されている。
【0057】
分割厚肉部18の咬合部24(膨出係合部22)を手で把持しながら被咬合部28の係合溝26に大径リング部14側から、順次、押し込んで行く。
【0058】
咬合部24の膨出係合部22が、被咬合部28の導入溝部25を介して係合溝26に至って係合する。このとき、咬合部24には被挟持インサート34が埋設され、挿入方向の剛性が付与されているため、咬合作業性が良好である。また、膨出係合部22と係合溝26とは角係合するため、咬合部24と被咬合部28との間に大きな抜け止め力が発生する。
【0059】
そして、大径リング部14は、通常、図示しない金属製の締めバンドで固定を確実にしておく。このとき、咬合部24または被咬合部28の一方または双方にシリコーンオイルを塗布して咬合作業を行うことが、咬合作業性及び咬合部分のシール性が改善され望ましい。
【0060】
そして、長期間使用後、ブーツ10を取り替えるためには、大径リング部14の図示しない締めバンドを取り外し、手で大径リング部14の分割部両端部を把持して、大径リング部14側から両側に引き裂くように力を加えると、強制的に咬合部24と被咬合部28との咬合状態が解除される。このため、ブーツ10を拡開状態にして、自在軸継手38から取り外しが可能となる。
【0061】
シール作用について説明する。
【0062】
図9に示すように、取り付け時には、大径リング部14側の分割部17が係合され、継手ハウジング36に大径リング部14を継手シャフト39側から嵌め込むので、位置決めフィン15bが継手ハウジング36の周方向に沿って形成される溝部36aに、入り込むことによって大径リング部14の取り付け位置が決まる。よって、ブーツ10を自在軸継手38に対する取り付け作業性が向上する。
【0063】
この際、シールフィン15aは、小径リング部12側に撓んで継手ハウジング36の取付部分の外周面と密着して、形状の異なる自在軸継手38でも柔軟に変形可能となるので、シール性を確保できる。
【0064】
大径リング部14側から小径リング部12側に向かって分割部17が係合され、継手シャフト39に小径リング部12を取付ける時には、溝部39aより小径リング部12が大径リング部14側となるようにして、継手ハウジング36側から嵌め込むので、位置決めフィン13bが継手シャフト39の周方向に沿って形成される溝部39aに、入り込むことによって小径リング部12の取り付け位置が決まる。よって、位置決めフィン15bと同様の効果を奏する。
【0065】
この際、シールフィン13aは、大径リング部14側に撓んで継手シャフト39の取付部分の外周面と密着するので、シールフィン15aと同様の効果を奏する。
【0066】
シール膜対11、19は、端面111a、112aどうし、端面191a、192aどうしがそれぞれ密接してシールされるので、フィン群13、15の分割部17となる位置からブーツ10内部に封入されたグリースの径方向外側への漏れを阻止することができる。シール膜対11は、フィン群13及び小径リング部12の内周面12aと連接し、シール膜対19は、フィン群15及び大径リング部14の内周面14aと連接しているので、所要の剛性を有し撓みを低減できグリースの漏れ防止に有利に作用する。
【0067】
また、フィン群13及び小径リング部12の内周面12aで囲まれる部分に形成される溝部41と、フィン群15及び大径リング部14の内周面14aで囲まれる部分に形成される溝部42とを塞ぐシール膜対11、19により、溝部41、溝部42に入り込んだグリース等の潤滑油をシール膜111、112、及びシール膜191、192で周方向への流れを遮断する。よって、フィン群13、15の分割部17となる位置からブーツ10内部に封入されたグリースの漏れを阻止することができる。
【0068】
よって、自在軸継手38の継手ハウジング36の径や継手シャフト39の径が若干違っていてもその寸法差を吸収して所要のシール性を達成することができる。従って、若干継手ハウジング36の径や継手シャフト39の径が異なる自在軸継手38であっても、「一品種一部品」対応でブーツ10を在庫管理する必要が無くなる。
【0069】
また、仮想扇形Qの頂点Pを、分割部17の開き時に大径リング部14と小径リング部12との間に形成される、ブーツ10の軸心O方向からみた仮想扇形Qの開口部40において、ブーツ10の軸心Oより奥側の位置としている。
【0070】
仮想扇形Qの頂点Pをブーツ10の軸心Oに位置させる場合に比べ、前記仮想扇形Qの開き角度を相対的に小さくできる。
【0071】
分割部17の閉じ時にブーツ10が受ける歪度が小さくなり、結果的に分割部17の閉じ時の大径リング部14と小径リング部12の真円度を確保しやすくなる。よって、フィン群13、15による寸法差吸収の作用がより達成しやすくなる。
【0072】
また、ブーツ10を自在軸継手38に取り付ける作業は、通常大径リング部14を締め付けた後、小径リング部12を締め付ける。このため、小径リング部12側の分割部17における開閉支点(仮想扇形Qの頂点P)からのスパンが、仮想扇形Qの頂点Pをブーツ10の軸心Oに位置した場合に比して長くなり、分割部17における小径リング部12側の閉抵抗が小さくなり、ブーツ10の取り付け作業が容易となる。
【0073】
本発明の他の実施形態を図面に基づいて説明をする。ブーツ10と共通する構成については、同一符号を付し説明の全部又は一部を省略する。
【0074】
本実施形態のブーツ10Aは、図10に示すように、フィン群13及びシール膜対11が別体の小径グロメット70(特許請求の範囲のグロメットに相当する)で形成され、フィン群15及びシール膜対19が別体の大径グロメット71(特許請求の範囲のグロメットに相当する)で形成され、小径グロメット70が小径リング部12の内周面12aに、大径グロメット71が大径リング部14の内周面14a側に配されている。
【0075】
小径グロメット70は、小径リング部12の内周面12aに対応した形状の円筒状の円筒部70aと、フィン群13と、を有して小径リング部12の内周側に嵌着されている。
【0076】
円筒部70aは、直線状(母線に沿って)に分割部70bが形成され、外周面にはブーツ10の軸心O方向からみて径方向外側に向かう方向に半円状に突出するストッパ70cが周方向に沿って一か所設けられている。
【0077】
大径グロメット71は、大径リング部14の内周面14aに対応した形状の円筒状の円筒部71aと、フィン群15と、を有して大径リング部14の内周側に嵌着されている。
【0078】
円筒部71aは、直線状(母線に沿って)に分割部71bが形成され、外周面にはブーツ10の軸心O方向からみて径方向外側に半円状に突出するストッパ71cが周方向に沿って一か所設けられている。
【0079】
小径リング部12の内周面12aには、ブーツ10の軸心O方向からみて径方向内側に向かってストッパ70cに対応した形状の溝12bが、周方向に沿って三か所形成されている。
【0080】
大径リング部14の内周面14aには、ブーツ10の軸心O方向からみて径方向内側に向かってストッパ71cに対応した形状の溝14bが、周方向に沿って一か所形成されている。
【0081】
フィン群13の分割部70bとなる位置(周方向における両端)に、フィン群13及び円筒部70aの内周面で囲まれる部分に形成される溝部70dを塞ぐように、シール膜対11が形成されている。
【0082】
フィン群15の分割部71bとなる位置(周方向における両端)に、フィン群15及び円筒部71aの内周面で囲まれる部分に形成される溝部71dを塞ぐように、シール膜対19が形成されている。
【0083】
次に上記実施形態のブーツ10Aの使用態様を説明する。
【0084】
図1に参照するように拡開状態から、咬合部24を被咬合部28に咬合させて分割厚肉部18を閉じることにより、自在軸継手38の、継手ハウジング36に大径リング部14を配置し、かつ、継手シャフト39に小径リング部12を配置して、ブーツ10を自在軸継手38に組み付ける。
【0085】
分割厚肉部18を閉じた後に小径リング部12の開口側から小径グロメット70を、大径リング部14の開口側から大径グロメット71を、差し込む。差し込まれた、小径グロメット70のストッパ70cが小径リング部12の溝12bに入り込み、差し込まれた大径グロメット71のストッパ71cが大径リング部14の溝14bに入り込み、それぞれの位置が決まる。
【0086】
そして、長期間使用後フィン群13、15のシール性が悪くなった場合には、咬合部24と被咬合部28との咬合状態を解除し、ブーツ10を拡開状態にして、小径グロメット70及び大径グロメット71を取り外して、上記の手順により新たな小径グロメット70と大径グロメット71に交換する。
【0087】
本実施形態のブーツ10Aでは、継手ハウジング36の径や継手シャフト39の径が異なる自在軸継手38であっても、小径グロメット70及び大径グロメット71を調整することで、ブーツ10A全体を変更することなく、対応することが可能となり多品種に対応可能となるので、「一品種一部品」対応でブーツ10Aを在庫管理する必要が無くなる。
【0088】
また、フィン群13、15のシール性が悪くなった時でも、ブーツ10A全体を取り換えずに小径グロメット70及び大径グロメット71のみの交換ですむ。
【0089】
ストッパ70c、71cが溝部70d、71にそれぞれ入り込むことにより、クリック感が生まれ作業者が位置決めする際に、差し込みが完了したことを感じることができるので、作業性を向上させることができる。
【0090】
小径グロメット70及び大径グロメット71は、耐グリース性を有するゴム状弾性体、具体的には、クロロプレンゴム、アクリルゴム等のゴム材料又はポリエステル系、ポリオレフィン系など熱可塑性エラストマー(TPE、TPO)を使用することができる。
【0091】
また、小径リング部12及び大径リング部14と小径グロメット70及び大径グロメット71の一方または双方にシリコーンオイルを塗布して作業を行うことで、差し込み作業性及び差し込み部分のシール性が改善することも可能である。
【0092】
また、小径リング部12及び大径リング部14と小径グロメット70及び大径グロメット71との剛性は、同程度か、小径グロメット70及び大径グロメット71側を高めに設定するのが望ましい。
【0093】
また、図11に示すように、図10において現わされる小径グロメット70の円筒部71aのつば部分をなくして、小径グロメット70を小径リング部12に対してブーツ10Aの軸心O方向に沿って移動可能とすることができる。図11において、小径グロメット70は、図10における小径グロメット70の位置に対して、小径リング部12の端部から突出するように移動させた位置に位置決めされているが、大径リング部14側に移動させた位置に位置決めすることも可能である。さらに、大径リング部14及び大径グロメット71にも同様の構成を適用することも可能である。
【0094】
このような形態とすれば、軸心Oに沿った方向における形状が異なる自在軸継手38であっても、小径グロメット70及び大径グロメット71を軸心O方向に沿って移動させて位置決めすることで、ブーツ10A全体を変更することなく、対応することが可能となり多品種に対応可能となる。よって、「一品種一部品」対応でブーツ10Aを在庫管理する必要が無くなる。
【符号の説明】
【0095】
10 ブーツ
10A ブーツ
11 シール膜対
12 小径リング部
13 フィン群
13b 位置決めフィン
14 大径リング部
15 フィン群
15b 位置決めフィン
16 蛇腹部
17 分割部
18 分割厚肉部
19 シール膜対
20 一般部
21 首部
22 膨出係合部
24 咬合部
25 導入溝部
26 係合溝
28 被咬合部
30 シールファスナ
32 挟持インサート
34 被挟持インサート
36 継手ハウジング
36a 溝部
39 継手シャフト
39a 溝部
38 自在軸継手
41 溝部
42 溝部
70 小径グロメット
71 大径グロメット
O 軸心
P 頂点
Q 仮想扇形

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大径リング部と嵌着する継手ハウジングと、小径リング部と嵌着する継手シャフトと、を備える自在軸継手に取り付けられる自在軸継手用ブーツであって、
ゴム状弾性体で形成され、前記小径リング部と前記大径リング部との間が蛇腹部とされ、
前記小径リング部から前記大径リング部まで直線状に分割部が形成され、該分割部の両側が分割厚肉部とされるとともにシールファスナが配され、前記分割厚肉部より薄肉で略同一肉厚とされ周方向で前記分割厚肉部を連結する一般部とを備え、
前記小径リング部および大径リング部で周方向に沿って撓み可能で線シール可能な複数本のフィンからなるフィン群が形成されるとともに、
該各フィン群で形成される溝部を塞ぐように、前記各フィン群の前記分割部となる位置にシール膜対が形成されていることを特徴とする自在軸継手用ブーツ。
【請求項2】
前記各フィン群は、前記継手ハウジング及び前記継手シャフトの周方向に沿って形成される溝部に対応する高さを有する位置決めフィンを有していることを特徴とする請求項1記載の自在軸継手用ブーツ。
【請求項3】
前記分割部の開き時に前記大径リング部と前記小径リング部との間に形成され、前記自在軸継手用ブーツの軸心方向からみた扇形の開口部において、該扇形の頂点が前記自在軸継手用ブーツの軸心より奥側に位置していることを特徴とする請求項1又は2記載の自在軸継手用ブーツ。
【請求項4】
前記シールファスナが、
前記分割部の一方の端縁に沿って形成され、首部を介して先端に膨出係合部を備えた帯状の咬合部と、
前記分割部の他方の端縁に沿って形成され、導入溝部を介して奥側に前記膨出係合部と係合する係合溝を備えた帯状の被咬合部と、
からなることを特徴とする請求項1、2又は3記載の自在軸継手用ブーツ。
【請求項5】
前記被咬合部の咬合溝の外周部には、線状ばね材からなり、横断面形状が実質的に角部を有しない茄子形である挟持インサートが埋設されて、前記被咬合部の開口部端部間にばね挟持力が付与されているとともに、前記咬合部には、線材からなり波型平面を有する又は帯板からなる被挟持インサートが埋設されていることを特徴とする請求項4記載の自在軸継手用ブーツ。
【請求項6】
前記フィン群及び前記シール膜対が、別体のグロメットで形成され、前記小径リング部および大径リング部の少なくとも一方に配されていることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の自在軸継手用ブーツ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−100895(P2013−100895A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−88773(P2012−88773)
【出願日】平成24年4月9日(2012.4.9)
【出願人】(000224950)株式会社徳重 (9)
【Fターム(参考)】