説明

自己凝集力を利用する球状の高分子微粒子の製造方法

【課題】電子写真の現像材、印刷用インク、塗料等の構成材料としての用途が見込まれる高分子の集合体よりなるモノマー共重合体、その微粒子及びその微粒子の製造を提供する。
【解決手段】超臨界二酸化炭素ないしは亜臨界二酸化炭素中に、フッ素含有モノマーとアルキル基含有モノマーからなる共重合体を投入することにより、該共重合体のアルキル基セグメントがファンデルワールス力により凝集し、図2に示す原理により高分子集合体よりなる球状微粒子が得られることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜臨界ないしは超臨界二酸化炭素中で高分子の自己凝集力を利用する球状の微粒子及びその微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
以前から、電子写真や印刷用および塗料の分野で用いられる高分子微粒子の製造方法としては、水もしくは有機溶剤を媒体とした懸濁重合法や乳化重合法が用いられてきた。すなわち、溶媒に重合性モノマーおよび着色剤、ワックス等を分散させ、開始剤を加えて重合後、溶媒を除去し、形成された高分子微粒子を洗浄、捕集、乾燥して高分子微粒子を得る方法である。
しかし、従来の高分子微粒子の製造法では、以下のような難点が生じ、結果として、高画質化できないとか、環境に対する負荷が大きいなどの不都合が生じる。
1)10マイクロメートル以下の高分子微粒子を製造することが困難。
2)粒径分布の範囲が広く、分級による粒度調整が必要。
3)微粒子から溶媒を除去するための溶媒除去工程が必要。
4)廃水処理もしくは廃溶剤処理工程が必要。
5)高分子微粒子にモノマーが残留する。
【0003】
下記特許文献1に見られるように、従来法で得られた高分子粒子塊を機械式粉砕機とか圧縮空気を使用する高速ジェットミルで粉砕して高分子微粒子を得ることも行なわれるが、一般に高分子塊を機械的な粉砕手段で数百マイクロメートル、例えば、100マイクロメートル以下のいわゆる微粒子を得るのは困難である。
【特許文献1】特開平8−1669号公報
【特許文献2】特開2005−181489号公報
【非特許文献1】新高分子実験化学2;高分子の合成―反応(1);付加系高分子の合成、高分子学会編―共立出版1995
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来の高分子微粒子の製造法では困難であった粒径が10マイクロメートル以下好ましくは粒径が2〜5マイクロメートルの範囲で、かつ粒度分布を調整するための分級工程が不要な程度に粒度の揃った高分子超微粒子を提供する。これにより、高分子微粒子を電子写真の現像材、印刷用インク、塗料等の構成材料として使用する上で不可欠な、高分子微粒子の低粒度化あるいは所望の粒度調整を可能にする。さらに、本発明は、高分子超微粒子の形成過程において、溶媒として水あるいは有機溶剤を用いないことで、高分子超微粒子形成後の溶媒除去工程ならびに廃溶媒処理工程が不要な球状の高分子超微粒子の製造方法を提供する。これにより、高分子微粒子の製造工程を簡素化すると共に、環境負荷の少ない製造方法を提供することを目指す。
【課題を解決するための手段】
【0005】
〔1〕下記一般式(1)で示されるフッ素含有モノマーと下記一般式(2)で示されるアルキル基含有モノマーの共重合体を提供する。
【化1】

ここで、上記一般式(1)中、Rは水素原子またはメチル基、xは1〜4の整数、yは5〜15の整数である。
【化2】

ここで、上記一般式(2)中、Rは水素原子またはメチル基、R、R、Rは水素原子またはアルキル基である。
【0006】
〔2〕上記〔1〕に記載の共重合体からなる微粒子である。
【0007】
〔3〕上記〔1〕に記載の共重合体からなる微粒子の表面が、前記一般式(1)で示されるフッ素含有モノマーのフッ素含有セグメントに被われ、且つ微粒子の内部が、主に前記一般式(2)で示されるアルキル基含有セグメント及びフッ素を含有しない主ボリマー鎖からなる微粒子である。
【0008】
〔4〕上記〔2〕又は〔3〕記載の微粒子は、球状で2〜5マイクロメートルである。
【0009】
〔5〕超臨界ないしは亜臨界二酸化炭素に上記〔1〕の共重合体を投入し、処理することによって製造された共重合体からなる微粒子である。
【0010】
〔6〕上記〔1〕記載の共重合体からなる微粒子の製造方法であって、超臨界ないしは亜臨界二酸化炭素に上記〔1〕の共重合体を投入し、処理する。
【0011】
〔7〕上記〔1〕記載のフッ素含有モノマーとアルキル基含有モノマーの割合を、モル比で7:3〜4:6にする。
【0012】
〔8〕上記〔2〕〜〔7〕に記載の微粒子は、球状に近い形状である。
【0013】
本発明者らは鋭意検討した結果、超臨界もしくは亜臨界二酸化炭素中で、フッ素含有モノマーとアルキル基含有モノマーの共重合体がファンデルワールス力で相互作用することで、2〜5マイクロメートルの範囲の球状高分子微粒子が得られることを見出し、本発明を完成した。なお、本発明で言う微粒子とは粒径が2〜5マイクロメートルの範囲の粒子もしくは粒子群を指す。
【0014】
すなわち、本発明においは、前記一般式(1)で示されるフッ素含有モノマーと前記一般式(2)で示されるアルキル基含有モノマーの共重合体を得る。この共重合体を超臨界もしくは亜臨界二酸化炭素中に投入することにより、高分子の集合体からなる球状微粒子が形成される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、比較的粒径の揃った2〜5マイクロメートルの範囲の高分子の集合体からなる球状微粒子を製造することができる。また超臨界もしくは亜臨界二酸化炭素中で高分子の微粒子化を行なうため、常温常圧では二酸化炭素が気体に戻り、いわゆる溶媒除去工程が不要であるという利点を有する。したがって廃水ないしは廃溶剤の処理工程も不要である。
【0016】
さらに本発明はモノマー成分の重合により直接高分子微粒子を得る製造法ではないので、残存モノマーの心配がないなど、環境にやさしい技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を図1に従って詳細に説明する。図1は本発明に基づいて構成された設備の1例であり、本発明に基づく高分子微粒子の製造設備はこれに限るものではない。前記一般式(1)で示されるフッ素含有モノマーと前記一般式(2)で示されるアルキル基含有モノマーの共重合体を、温度制御装置5のついた高圧反応セル6に入れて蓋8をした後、ボンベ1に詰められた二酸化炭素を加圧用ポンプを経由して高圧反応セル6に供給する。高圧反応セル6内を所定の温度(20〜65℃、好ましくは35〜55℃)および所定の圧力(10〜20MPa、好ましくは15MPa)に保つ。温度制御は温度制御装置5を使って行なう。また圧力は圧力計を参照しながら加圧用ポンプ2、バルブ9を操作して所定値に保つ。この際、高圧反応セル6内は攪拌子等の手段により攪拌されるのが望ましい。所定の温度・圧力に5分間保った後、バルブ10を開放して減圧するとともに、二酸化炭素とともに噴射される生成した球状の高分子微粒子を捕集する。
【0018】
ここで、該球状の高分子微粒子が生成されるメカニズムを図2に基づいて説明する。前記一般式(1)で示されるフッ素含有モノマーと前記一般式(2)で示されるアルキル基含有モノマーの共重合体の側鎖はパーフルオロアルキル基とアルキル基である。これを超臨界もしくは亜臨界二酸化炭素中に投入すると、アルキル基同士がファンデルワールス力で非共有的に結合し、高分子間で凝集する。一方、凝集に関わらないパーフロロアルキル基は外側に位置するので図2に示すような球状の高分子凝集体となる。このようにパーフロロアルキル基で覆われた球状の微粒子には強固な撥水性があり、電子写真の現像材、印刷用インク、塗料等の構成材料として用いられた場合、水に濡れてもにじまない印刷物等が得られるメリットがある。さらにパーフロロアルキル基には耐油性もあり、より恒常的な用途も考えられる。
【0019】
さらに本発明は、高分子を超臨界もしくは亜臨界二酸化炭素中に投入することよって高分子が自発的に凝集する、すなわち自己組織化することにより微粒子を形成するもので、モノマー成分の重合により直接得た高分子微粒子ではないこと、また該架橋はファンデルワールス力という非共有的結合によって形成されるものであり、共有結合による架橋ではない点が従来の高分子微粒子と異なる。
【0020】
本発明で製造される高分子微粒子は目的に応じて、共重合体を構成するモノマーの種類や組成比を選択することができるばかりでなく、亜臨界ないしは超臨界二酸化炭素に不溶な化合物を微粒子内に取り込むこともできる。すなわち、このような化合物と前記一般式(1)および(2)の共重合体とを同時に亜臨界ないしは超臨界二酸化炭素に投入することで、内部にこれらの化合物を包含した高分子微粒子を得ることができる。さらに、機能を有した化合物を用いることで機能性の高分子超微粒子を合成することができる。例えば、触媒、染料、顔料、生理活性、脱臭、光エネルギー変換・蓄積、光捕集、磁性、伝導性などの機能性化合物を選ぶことにより形成できる。
【0021】
前記一般式(1)で示されるフッ素含有モノマーと前記一般式(2)で示されるアルキル基含有モノマーの共重合体にはランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、グループトランスファー共重合による共重合体等が挙げられる。これらの共重合体の重合方法は、たとえばラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合、グループトランスファー重合等すでに公知の方法により可能である。(上記非文献文献1:新高分子実験化学2;高分子の合成―反応(1);付加系高分子の合成、高分子学会編―共立出版1995/06/15初版1刷発行) また前記一般式(1)で示されるフッ素含有モノマーと前記一般式(2)で示されるアルキル基含有モノマーの割合は、生成する高分子微粒子の粒度調整の観点から、モル比で7:3〜4:6が望ましい。反応条件としては前記一般式(2)で示されるアルキル基含有モノマーの割合が大きいほど高い反応圧力を必要とする。該フッ素含有モノマーの割合が7:3より多くなると、高分子が凝集しにくい。また4:6より少ないと過大な反応圧力が必要となり望ましくない。
【0022】
前記一般式(1)で示されるフッ素含有モノマーにおけるCH基の数xは、1〜4が適当であるが、好ましくは1あるいは2である。xが5以上になると超臨界二酸化炭素中への溶解が悪くなり、前記架橋反応に支障をきたす。またCF基の数yは5〜15の整数が適当であるが、好ましくは6〜10である。5より小さいと十分な粒子形成が得られず、15より大きいと共重合体をつくる際、溶媒への溶解性が悪くなるので不都合を生じる。
【0023】
前記一般式(1)で示されるモノマーと、前記一般式(2)で示される化合物の具体例としては以下のものが挙げられるが本発明はこれに限るものではない。
【0024】
一般式(1)で示されるモノマーの具体例は次のとおりである。
【0025】
【化3】

【0026】
一般式(2)で示されるモノマーの具体例は次のとおりである。
【0027】
【化4】

【実施例1】
【0028】
前記一般式(1)で示されるフッ素含有モノマーにおいて、Rが水素原子、xが2、yが7の化合物、すなわち前記化合物No.7と、前記一般式(2)で示されるアルキル基含有モノマーにおいて、Rが水素原子、R、R、Rがいずれもメチル基の化合物、すなわち前記化合物No.39を、モル比で6:4の割合でラジカル共重合させて得られたランダム共重合体30ミリグラム及び攪拌子を、図1に示すのと同型の内容量3.75mlの反応セルに仕込み、冷却した二酸化炭素を封入した。つづいて温度を35℃、圧力を15MPa程度に上げ、5分間程度撹拌した。その後、バルブ10からガスを抜いて圧力を下げるとともに生成物を捕集した。得られた生成物を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図3に示す。図3は本発明により2〜5マイクロメートルの範囲の球状高分子超微粒子が得られたことを示す。
【0029】
次に、本発明の共重合体の合成方法について、図4を参照しながら説明する。 図4は本発明の共重合体の合成方法を示しており、前記一般式(1)で示されるフッ素含有モノマーにおいて、Rが水素原子、xが2、yが7の化合物、すなわち前記化合物No.7の4.26グラムと前記化合物No.39の0.707グラムを混合し、重合開始剤としてのAIBN(アゾビスイソブチロニトル)を23ミリグラム添加して脱気封管後、50℃で40分間、塊状重合した。生成物をヘキサフルオロベンゼンに溶解させ、メタノールに沈殿させると、前記化合物No.7とNo.39の共重合体が得られる。

【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に基づいて高分子微粒子を製造する装置の例を示す図である。
【図2】高分子微粒子が生成されるメカニズムを説明する図である。
【図3】高分子微粒子の電子顕微鏡写真(実施例1)(図面代用写真)である。
【図4】本発明の共重合体の合成方法を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるフッ素含有モノマーと下記一般式(2)で示されるアルキル基含有モノマーの共重合体。
【化1】

ここで、上記一般式(1)中、Rは水素原子またはメチル基、xは1〜4の整数、yは5〜15の整数である。
【化2】

ここで、上記一般式(2)中、Rは水素原子またはメチル基、R、R、R は水素原子またはアルキル基である。
【請求項2】
請求項1に記載の共重合体からなる高分子微粒子。
【請求項3】
請求項1に記載の共重合体からなる微粒子の表面が、前記一般式(1)で示されるフッ素含有モノマーのフッ素含有セグメントに被われ、且つ微粒子の内部が、主に前記一般式(2)で示されるアルキル基含有セグメント及びフッ素を含有しない主ポリマー鎖からなる微粒子。
【請求項4】
前記微粒子が球状で粒径が2〜5マイクロメートルの範囲にある請求項2又は3に記載の微粒子。
【請求項5】
超臨界ないしは亜臨界二酸化炭素に請求項1に記載の共重合体を投入することによって製造された共重合体からなる高分子微粒子。
【請求項6】
超臨界ないしは亜臨界二酸化炭素に請求項1の共重合体を投入して処理する微粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載のフッ素含有モノマーとアルキル基含有モノマーの割合が、モル比で7:3〜4:6である請求項1に記載の共重合体。
【請求項8】
前記微粒子が球状に近い形状である請求項2〜5に記載の微粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−144104(P2008−144104A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−335596(P2006−335596)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【Fターム(参考)】