説明

自己分散顔料の合成方法、自己分散顔料、インクジェット用のインク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法

【課題】例えば、インクジェット用のインクに用いた場合に、インクの長期的な吐出安定性を損なうことなく、しかも画像の耐擦過性に優れた顔料の提供、さらには、このような有用な顔料を得ることができる顔料の合成方法を提供すること。
【解決手段】顔料粒子の表面に直接又は他の原子団を介して結合している酸性基に、ラクトン類を開環付加することで、エステル基を含む官能基を顔料粒子の表面に結合させることを特徴とする自己分散顔料の合成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己分散顔料の合成方法、自己分散顔料、インクジェット用のインク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、顔料は単独では分散媒に分散しにくい。このため、安定した顔料分散体を得る目的で、これまで数々の検討がなされてきている。例えば、顔料を分散させる分散剤として樹脂や界面活性剤を使用することで、各種分散媒への顔料の分散安定性を高めてきた。例えば、ポリアミンで構成される主鎖に、側鎖としてポリエステル鎖を結合させたグラフト構造を有する樹脂を顔料の分散剤として用いた印刷インキについての提案がある(特許文献1)。また、顔料粒子の表面に化学的な処理を施し、イオン性基を結合させることで、顔料そのものの分散媒への分散性を高める試みもなされてきた(特許文献2)。
【0003】
近年、インクジェット記録装置は、オフィスや一般家庭において頻繁に使用されている。そのような環境下、画像の耐擦過性に対する要求は増大している。この課題を解消するために、これまでに様々な試みがなされてきた。例えば、インクの構成成分として、自己分散顔料と、ポリエステル構造を有する樹脂エマルションとを併用することについての提案がある(特許文献3)。
【0004】
また、顔料を樹脂で被覆するマイクロカプセル化顔料に加え、顔料粒子の表面に樹脂を化学的に結合させて、顔料を改質することについての提案がある(特許文献4及び5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08−143813号公報
【特許文献2】特表2008−524400号公報
【特許文献3】特開2004−143272号公報
【特許文献4】特表2003−519709号公報
【特許文献5】特表2008−531762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本発明者らの検討の結果、上記で挙げたような従来の技術には、それぞれ、以下の課題があることがわかった。
特許文献1や2に記載されている樹脂分散剤や界面活性剤による顔料の分散や、顔料粒子の表面へのイオン性基の修飾は、いずれも、インクを構成する分散媒への顔料の親和性を高める処理である。このため、インクが記録媒体に付与された後に固液分離が生じにくく、画像の耐擦過性が低下しやすい傾向にあった。また、特許文献1に記載されている樹脂分散剤は水性インクへの適用が困難であった。
【0007】
一方で、画像の耐擦過性を向上するため、インク中にバインダとして樹脂エマルションを添加する手法が知られている。しかし、この場合は、樹脂濃度の増加によるインクの粘度の上昇やインクの安定性の低下を引き起こし、長期的な吐出安定性が得られにくくなる傾向にあった。例えば、特許文献3では、インクに自己分散顔料とポリエステル構造を有する樹脂エマルションとを含有させている。しかし、顔料に樹脂が吸着ないしは結合しているものではないため、画像の耐擦過性を改善するためには、樹脂エマルションを多量に添加する必要が生じていた。このため、結果として長期的な吐出安定性が得られにくくなっていた。また、水溶性樹脂の添加により画像の耐擦過性の改善を試みても、樹脂にイオン性基などを組み込む必要があり、先に述べた顔料の場合と同様に、インクが記録媒体に付与された後に固液分離が生じにくく、画像の耐擦過性を大きく改善するには至らなかった。
【0008】
つまり、画像の耐擦過性とインクの長期的な吐出安定性との両立のためには、顔料粒子の表面に樹脂を結合させることこそが必要となる。これに対し、例えば、特許文献4には、顔料粒子の表面に反応性基を結合させておき、後から樹脂と反応させることにより顔料に樹脂を結合させる手法が示されている。しかし、この手法により合成された顔料では、顔料、樹脂ともに未反応の反応性基の残留が避けられず、インク調製後においても顔料間の相互作用が生じるため、長期的な顔料の分散安定性が保てず、結果として長期的な吐出安定性が得られなかった。
【0009】
また、特許文献5には、顔料粒子の表面からラジカル重合によって樹脂鎖を伸長させ、顔料に樹脂を結合させる手法が示されている。しかし、この手法によって合成された顔料は、ラジカル重合による樹脂伸長ゆえ、結合させた樹脂の主鎖が疎水的なC−C結合の連鎖となるため、顔料粒子の表面に樹脂が吸着したままとなる。そのため、樹脂を結合させる効果の一つである立体的な反発による顔料の分散安定化が望めず、樹脂中に、親水性単量体に由来するユニットを多く導入することで分散安定化を図る必要が生じてしまう。その結果、画像の耐擦過性の改善にはつながっていなかった。
【0010】
したがって、本発明の目的は、例えば、インクジェット用のインクに用いた場合に、インクの長期的な吐出安定性が得られ、しかも画像の耐擦過性に優れた自己分散顔料を提供することにある。さらには、このような有用な顔料を得ることができる自己分散顔料の合成方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、上記自己分散顔料を用いたインクジェット用のインク、インクカートリッジ及びインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、顔料粒子の表面に直接又は他の原子団を介して結合している酸性基に、ラクトン類を開環付加することで、エステル基を含む官能基を顔料粒子の表面に結合させることを特徴とする自己分散顔料の合成方法を提供する。また、本発明は、顔料粒子の表面に、下記一般式(1)で表される官能基が結合してなることを特徴とする自己分散顔料、該自己分散顔料を含有してなることを特徴とするインクジェット用のインクを提供する。
一般式(1) −(X)p−Y−(Z−COO)n
(上記一般式(1)中、Xは他の原子団であり、pは0又は1の数であり、Yはエステル基であり、Zはアルキレン基であり、nは1以上20以下の数であり、Mは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムである。)
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、顔料粒子の表面にエステル基を含む特定の官能基が結合してなる自己分散顔料、該顔料の合成方法を提供することができる。また、本発明の別の目的によれば、上記自己分散顔料を用いることで、画像の耐擦過性と、長期的な吐出安定性とに優れたインクジェット用のインク、インクカートリッジ及びインクジェット記録方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明者らの検討の結果、以下の知見を得て本発明に至った。すなわち、顔料粒子の表面に直接又は他の原子団を介して結合している酸性基(イオン性基)にラクトン類を開環付加することで、エステル基を含む官能基を顔料粒子の表面に結合させる。このようにして合成された自己分散顔料の官能基は親水−疎水のバランスのとれたものであるので、かかる顔料をインクジェット用のインクに使用した場合には、インクの長期的な吐出安定性が得られ、さらに、画像の耐擦過性の改善が可能になることがわかった。
【0014】
<自己分散顔料、合成方法>
以下、本発明の、エステル基を含む特定の官能基が顔料粒子の表面に結合してなる自己分散顔料、さらに、該顔料の合成方法について説明する。
【0015】
(粒子表面に直接又は他の原子団を介して酸性基が結合している顔料)
本発明の自己分散顔料の合成方法(以下、単に「本発明の合成方法」と記載する場合がある。)では、その原料として、粒子表面に直接又は他の原子団を介して酸性基が結合している顔料を使用する。酸性基としては、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基などが挙げられる。中でも、ラクトン類との反応性の観点から、カルボキシ基であることが好ましい。
【0016】
上記酸性基は、顔料粒子の表面に直接又は他の原子団を介して結合していることを要する。他の原子団としては、アリーレン基、炭素数1乃至12程度のアルキレン基、エーテル基、エステル基、アミド基、アミノ基、スルホニル基、カルボニル基や、これらのうち少なくとも2つを組み合わせた基などが挙げられる。
【0017】
本発明では、顔料粒子の表面に酸性基が直接結合しているものとして、下記に挙げるような市販されている酸性顔料を用いることが可能である。例えば、No.:2700、2650、2400、2350、1000、MA:7、77、8、11、100、100R、220、230(以上、三菱化学製)などが挙げられる。また、カラーブラック:FW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S170、プリンテックス:U、V、140U、スペシャルブラック:6、5、4(以上、デグッサ製)などが挙げられる。これらの酸性顔料は粉末状であり、本発明の合成方法で好適に使用することができる。
【0018】
また、上記に限らず、顔料粒子の表面に酸性基が他の原子団を介して結合しているものとして、下記に挙げるような市販されている自己分散顔料を用いることが可能である。例えば、Cab−O−Jet:200、300、400、270Y、470Y、740Y、554B、480V、352B、260M、265M、465M、250C、450C、1027R(以上、キャボット製)などが挙げられる。また、BONJET BLACK:CW−1、CW−2、M−800(以上、オリヱント化学工業製)、Aqua−Black:001、162(東海カーボン製)などが挙げられる。これらの中には、自己分散顔料が水中に分散された顔料分散液の形態のものもあるが、粉末状のものと同様に本発明の合成方法で好適に使用することができる。
【0019】
さらには、本発明では、上記したような市販の顔料を含め、顔料を酸化処理したものを用いてもよい。この際に使用する酸化剤は、一般的なものを使用することができるが、水性媒体に対して少なくとも部分的に溶解性を有しているものを用いることが好ましい。好ましい酸化剤の具体例としては、下記のものが挙げられる。酸素ガス、オゾンなどの酸化性ガス、過酸化水素などの過酸化物、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩、次亜塩素酸ナトリウムなどの次亜ハロゲン酸塩、硝酸などの酸化性酸、過マンガン酸塩、四酸化オスミウム、酸化クロム、硝酸アンモニウムセリウムなどの遷移金属含有酸化剤が挙げられる。これらの中でも、本発明においてはオゾンを用いて酸化処理された顔料を用いることが特に好ましい。
【0020】
上記の酸化剤を用いて行う酸化処理の際には、一般的な反応器や容器を用いることができる。例えば、オゾンをオゾン発生器で生成させ、顔料を分散させた水性媒体中にバブリングしてもよい。バブリングの時間を調整することで、所望の量の酸性基を顔料粒子の表面に直接又は他の原子団を介して結合させることが可能である。また、酸化剤の種類に応じて様々な反応条件、例えば、反応時間、反応器のサイズ、反応温度を決定することが可能である。
【0021】
また、上記酸化処理には種々の反応条件を利用してもよいが、特には、顔料がある程度水性媒体中に分散しているような条件下で酸化処理を行うことが好ましい。例えば、酸化処理前ないしは処理中に、超音波分散機、高圧ホモジナイザー、クレアミックス(エムテクニック製)などを使用することが可能である。
【0022】
一般に、顔料、特に、カーボンブラックのような炭素顔料を酸化剤で処理すると、酸性化学種、特に、酸性基を生じることが知られている。したがって、酸化処理により顔料を含む液体のpHが低下することが予想される。pHの低下は、酸化処理時に顔料の分散状態の不安定化を招き、また、それに伴って生じる粘度の上昇も予想される。このため、pHの調整を行うことが好ましい。pH調整のタイミングは、酸化処理の前、間、後のいずれでもよい。pHの調整のためには水溶性塩基を用いることができ、この際に使用する水溶性塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、水溶性アミンなどが挙げられる。
【0023】
十分量の酸性基(又は塩型の酸性基)を顔料粒子の表面に結合させた後、酸性条件となるように処理することにより、本発明に用いるのに好適な、粒子表面に直接又は他の原子団を介して酸性基が結合している顔料を得ることができる。
【0024】
顔料粒子の表面に直接又は他の原子団を介して結合している酸性基の量は、以下のようにして求めることができる。先ず、0.976mol/Lの炭酸水素ナトリウム水溶液500mLの中に、測定対象の顔料(固形分)を2g添加して30時間撹拌する。その後、0.1mol/Lの水酸化カリウム水溶液を用いて滴定することで、当該顔料の粒子表面に直接又は他の原子団を介して結合している酸性基の量を求めることができる。
【0025】
(顔料粒子の表面に直接又は他の原子団を介して結合している酸性基とラクトン類との反応)
本発明の自己分散顔料の合成方法では、顔料粒子の表面に直接又は他の原子団を介して結合している酸性基にラクトン類を開環付加することで、顔料粒子の表面に、エステル基を含む官能基を結合させる。本発明のより好ましい態様では、上記開環付加に引き続いて、ラクトン類の開環重合を行う。ここで、酸性基へのラクトン類の開環付加によるエステル基の形成と、ラクトン類の開環重合は、通常、一連の反応によって行われる。つまり、顔料粒子の表面に直接又は他の原子団を介して結合している酸性基にラクトン類が開環付加してエステル基が形成されると、このラクトン類の開環によって、顔料とは反対の末端には、カルボキシ基が新たに生じる。ここでさらに反応成分となり得る量のラクトン類が存在していれば、この新たに生じたカルボキシ基に、さらにラクトン類の付加が行われる。このようにして、ラクトン類の開環付加とその繰り返しである開環重合により顔料粒子の表面に形成される官能基には、顔料とは反対の末端に常にカルボキシ基を有することになる。
【0026】
このように、ラクトン類を開環する反応を含む合成方法により形成される官能基は、適度な親水性を有するラクトン類に由来するエステル基をその構造中に有するため、顔料粒子の表面に結合していても、顔料粒子の表面に吸着しにくい。このため、インクジェット用の水性インクの色材として使用した場合には、水性媒体中において官能基が広がって存在することが可能である。その結果、顔料に立体的な反発力を付与できるため、顔料の分散安定性を高めることが可能となり、インクジェット用のインクとして使用したときの長期的な吐出安定性が得られる。また、顔料に立体的な反発力を付与できるため、親水性基の量を少なくすることが可能であり、インクとして使用したときに記録媒体において固液分離が生じやすく、その画像の耐擦過性の改善が期待できる。
【0027】
さらには、一般的に、ラクトン類を開環して得られる構造は割れを伴う破壊が生じにくく、破断伸度が大きい部類に属する。本発明では、そのような特徴を有する構造を含む官能基を顔料に化学的に結合させることで、画像を含む記録物を形成したときに、その記録物に対し、物理的な力を加えても破壊されにくくなる。その結果、画像の耐擦過性に優れると考えられる。
【0028】
顔料粒子の表面に直接又は他の原子団を介して結合している酸性基の量に対するラクトン類の使用量は、目的とする官能基の分子量に応じて決定される。例えば、上記で求められた顔料粒子の表面に直接又は他の原子団を介して結合している酸性基量が200μmol/gであるときは以下のようになる。すなわち、顔料1g当たり91.2g(0.8mol)のε−カプロラクトンを反応させることで、酸性基1mol当たり、平均4.0molのラクトンが付加したことになる。つまり、酸性基に、反応に用いたラクトン類の平均繰り返し数nが4.0である官能基が結合している顔料を得ることができる。
【0029】
このようにして、顔料粒子の表面に結合させた官能基は、下記一般式(1)で表される構造を有する。
一般式(1) −(X)p−Y−(Z−COO)n
(上記一般式(1)中、Xは他の原子団であり、pは0又は1の数であり、Yはエステル基であり、Zはアルキレン基であり、nは1以上20以下の数であり、Mは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムである。)
【0030】
Xは顔料粒子の表面に結合していてもよい他の原子団を表す。具体的には、アリーレン基、炭素数1乃至12程度のアルキレン基、エーテル基、エステル基、アミド基、アミノ基、スルホニル基、カルボニル基や、これらのうち少なくとも2つを組み合わせた基などが挙げられる。なお、pが0である場合は他の原子団が存在せず、−Y−(Z−COO)nMが官能基として顔料粒子の表面に結合していることを示す。
【0031】
Yは顔料粒子の表面に直接又は他の原子団を介して結合していた酸性基とラクトン類の開環付加により形成されるエステル基を表す。このエステル基とは広義のエステル基を意味し、顔料粒子の表面に直接又は他の原子団を介して結合していた酸性基の種類によって決定される。具体的には、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、リン酸エステル基、ホスホン酸エステル基などが挙げられる。
【0032】
Zは、反応に使用するラクトン類によって決定されるアルキレン基を表し、直鎖及び分岐鎖状のいずれであってもよい。具体的には、ZがCm2mであって、そのmが2以上5以下であることが好ましく、さらには、mが5であることがより好ましい。したがって、本発明の合成方法において用いるラクトン類としては、以下のものが好ましい。例えば、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、及び、これらのいずれかのラクトン構造を分子内に有する化合物などが挙げられる。特に、反応性が高く、インクとして用いたときに不純物の混入が抑制され、インクの長期的な吐出安定性がより良好となるため、β−プロピオラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンを用いることが好ましい。さらには、親水−疎水のバランスが適度であり、インクの長期的な吐出安定性がさらに優れる点から、ε−カプロラクトンがより好ましい。これらのラクトン類と顔料粒子の表面に直接又は他の原子団を介して結合している酸性基により形成される官能基を先の一般式(1)で表したとき、該官能基におけるZ、すなわちCm2mのmは、それぞれ、以下のようになる。β−プロピオラクトンではm=2、γ−ブチロラクトンではm=3、δ−バレロラクトンではm=4、ε−カプロラクトンではm=5となる。
【0033】
nは顔料粒子の表面に直接又は他の原子団を介して結合している酸性基1つ当たりに付加するラクトン類の平均繰り返し数を表し、1以上20以下の数であることが好ましい。nが1未満であると、インクとして用いたとき、結着成分の不足により画像の耐擦過性に十分な効果が得られない場合がある。一方、nが20を超えると、顔料粒子の表面に結合した官能基間の相互作用により、インクの粘度が上昇し、十分な吐出安定性が得られない場合がある。なお、nは平均値であるので、整数及び小数のいずれの場合もある。
【0034】
また、顔料粒子の表面に直接又は他の原子団を介して結合している酸性基へのラクトン類の開環付加、さらにはラクトン類の開環重合においては、触媒を使用することが好ましい。触媒としては、塩化アルミニウム、塩化第二スズ、硫酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、スルホン酸型イオン交換樹脂などが使用できる。なお、これらの触媒は、塩、無水物、水和物などの形態としても使用することができる。反応溶媒への溶解性の観点から硫酸、p−トルエンスルホン酸が好ましい。また、反応溶媒としては、上記反応を阻害しないものであればよく、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
【0035】
酸性基1つ当たりに付加したラクトン類の平均繰り返し数(先に述べたn)は、以下のようにして求めることが可能である。まず、反応に使用したラクトン類の反応率を液相のクロマトグラフ(ガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフ)の結果から算出する。得られたラクトン類の反応量を、顔料粒子の表面に直接又は他の原子団を介して結合している酸性基量で割ることにより、酸性基1つ当たりに付加したラクトン類の平均繰り返し数nを求めることができる。
【0036】
顔料粒子の表面に直接又は他の原子団を介して結合している酸性基がラクトン類の開環付加によりエステル基となっていることや、官能基中にラクトン類に由来する構造が含まれていることは、以下のように確認することが可能である。得られた自己分散顔料を含む分散液を30,000回転、8時間の超遠心分離により処理し、上澄みと沈殿とに分離する。それぞれを真空乾燥した後、上澄みから得られた不揮発物をテトラヒドロフラン(以下、THFと略す)に溶解させる。その後、THFを溶離液として用いたポリスチレン換算のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で分析することにより、顔料に結合していない樹脂などの成分の有無を確認することができる。また、沈殿から得られた不揮発分を熱重量測定(TG)で分析することにより、官能基成分と顔料成分とが同一相内に存在することの確認、さらには、官能基部分と顔料の質量比率の算出も可能である。上記で示した通り、顔料粒子の表面に直接又は他の原子団を介して結合している酸性基量は測定可能であるため、この測定からも酸性基1つ当たりに結合しているラクトン類の平均繰り返し数を求めることができる。
【0037】
上記の反応を経て得られた、官能基を結合させた顔料は、官能基の、顔料とは反対の末端に存在するカルボキシ基を塩基で中和することにより、水性媒体中に容易に分散する。すなわち、前記した一般式(1)におけるMは、水素原子でもよいが、アルカリ金属、アンモニウム、有機アンモニウムであることが好ましい。中和に使用する塩基としては、水への溶解度の観点から、特に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアのうち1種以上を使用することが好ましい。
【0038】
本発明を特徴づける自己分散顔料は、これを分散させる場合に、超音波分散機、高圧ホモジナイザー、バッチ式撹拌機(例えば、商品名:クレアミックス;エムテクニック製)、ビーズミル、ナノマイザーなど、一般的な分散機を使用することが可能である。
【0039】
<インク>
上記した本発明を特徴づける自己分散顔料は、インクジェット用のインクの色材として好適である。以下、本発明のインクジェット用のインクを構成する各成分について説明する。
【0040】
(色材)
本発明のインクは、色材として、上記で説明した本発明の合成方法により合成された自己分散顔料を含有してなる。このような自己分散顔料を用いることにより、顔料をインク中に分散するための樹脂などの分散剤の添加が不要となる、又は分散剤の添加量を少量とすることができる。インク中の前記自己分散顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。本発明のインクには、前記自己分散顔料の他に、染料や顔料などのその他の色材をさらに含有させることもできる。さらに、別の分散方式の顔料、別の種類の自己分散顔料を併用してもよい。
【0041】
本発明のインクは、水性媒体中に自己分散顔料を分散してなる水性のインクとすることが好ましい。水性媒体としては、水、又は、水及び水溶性有機溶剤の混合媒体を用いることが好ましい。水としては脱イオン水を用いることが好ましい。また、水溶性有機溶剤としては、アルコール類、グリコール類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類などのインクジェット用のインクに使用可能なものをいずれも用いることができ、1種又は2種以上をインクに含有させることができる。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。また、インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。
【0042】
(その他の成分)
また、本発明のインクには、上記成分の他に、尿素や糖類、その誘導体、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの常温で固体の水溶性有機化合物を含有させてもよい。また、必要に応じて、界面活性剤、樹脂、pH調整剤、消泡剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、キレート剤などの種々の添加剤を含有させてもよい。特に、樹脂としては、バインダ性能を高めるため、水溶性樹脂、水分散性樹脂、樹脂エマルションなどを用いることが好ましい。
【0043】
<インクカートリッジ>
本発明のインクカートリッジは、インクと、このインクを収容するインク収容部を備える。そして、インク収容部に収容されているインクが、上記で説明した本発明のインクである。インクカートリッジの構造としては、インク収容部が、負圧によりインクを含浸した状態で保持する負圧発生部材を収容する負圧発生部材収容室、及び、負圧発生部材により含浸されない状態でインクを収容するインク収容室で構成されるものが挙げられる。又は、上記のようなインク収容室を持たず、インクの全量を負圧発生部材により含浸した状態で保持する構成や、負圧発生部材を持たず、インクの全量を負圧発生部材により含浸されない状態で収容する構成のインク収容部としてもよい。さらには、インク収容部と記録ヘッドとを有するように構成された形態のインクカートリッジとしてもよい。
【0044】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、上記で説明した本発明のインクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出させて記録媒体に画像を記録する方法である。インクを吐出する方式としては、インクに力学的エネルギーを付与する方式やインクに熱エネルギーを付与する方式が挙げられ、本発明においては、熱エネルギーを利用するインクジェット記録方法を採用することが特に好ましい。本発明のインクを用いること以外、インクジェット記録方法の工程は公知のものとすればよい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。なお、自己分散顔料の合成、及び、インクの調製の記載における「部」及び「%」とは、特に指定のない限り、質量基準である。
【0046】
<自己分散顔料の合成>
実施例1〜13は、エステル基を含む官能基が顔料粒子の表面に結合している自己分散顔料を得る、本発明の合成方法の合成例である。合成した自己分散顔料(以下、単に顔料と記載する場合がある)には適量の水を加えて、顔料(固形分)の含有量が20.0%である水分散体とした。
【0047】
(実施例1)
撹拌機、及びpHメーターを備えたフラスコに、Cab−O−Jet300(キャボット製)500gを加え、撹拌しながら1mol/Lの塩酸をpHが2.0になるまで滴下した。なお、Cab−O−Jet300は、顔料粒子の表面にフェニレン基(−C64−)を介して−COONa基が結合しているカーボンブラックを含む顔料分散体であり、顔料(固形分)の含有量は15.0%である。1時間撹拌を続けた後、遠心分離処理を行い、沈殿を回収した。得られた沈殿について、水洗と遠心分離処理をそれぞれ2回繰り返し、不純物の除去を行った後、真空乾燥により粉末化した。得られた粉末状の顔料について、その粒子表面に結合しているカルボキシ基の量を、下記のようにして滴定により確認した。0.976mol/Lの炭酸水素ナトリウム水溶液500mLの中に、粉末化した顔料2gを添加して30時間撹拌した。その後、0.1mol/Lの水酸化カリウム水溶液を用いて滴定することで、粉末化した顔料は、その粒子表面にフェニレン基を介して結合している酸性基(カルボキシ基)量が250μmol/gであることを確認した。
【0048】
次に、撹拌機、還流冷却装置、滴下ロート及び窒素ガス導入管を備えたフラスコに、超音波分散処理を施した上記で得られた粉末状の顔料50g(カルボキシ基量として12.5mmol)とアセトン200gとを加え、混合溶液とした。該混合溶液に、p−トルエンスルホン酸(一水和物として使用)0.6gを加え、撹拌しながら56℃まで昇温した。その後、フラスコ内の温度を56℃に維持しながら、滴下ロートからε−カプロラクトン6.0g(52.6mmol)を1時間かけて滴下した。その後、さらに2時間、同温度で撹拌することにより、顔料粒子の表面にフェニレン基を介して結合しているカルボキシ基に、ε−カプロラクトンの開環付加と未反応のε−カプロラクトンの開環重合を行った。ガスクロマトグラフにより未反応のε−カプロラクトン量を測定し、95%のε−カプロラクトンが反応した時点で反応を終了させた。得られた顔料のアセトン分散液を室温まで冷却し、遠心分離処理を行った。得られた沈殿は、アセトン中への分散と遠心分離処理をそれぞれ2回繰り返し、未反応のε−カプロラクトン、及びp−トルエンスルホン酸を除去し、顔料1を得た。該顔料1は、反応前の顔料粒子の表面にフェニレン基を介して結合している酸性基であるカルボキシ基1mol当たりに平均4.0molのε−カプロラクトンが付加した構造(ポリエステル鎖)を含む官能基が結合している。すなわち、顔料1の官能基を一般式(1)で表した場合、X=フェニレン基、p=1、Y=カルボン酸エステル基、Z=C510、m=5、n=4.0、M=Hである。
【0049】
(実施例2)
実施例1で得られた顔料1の全量に適量のアセトンを加え、超音波分散処理を行いながら、顔料粒子の表面に結合している官能基中のカルボキシ基の90%相当(中和率90%)を中和するのに必要な水酸化カリウムを含む水溶液を加えた。この際、0.63g(11.2mmol)の水酸化カリウムを溶解させた水酸化カリウム水溶液200gを用いた。超音波分散処理を30分間継続した後、減圧下でアセトンを除去し、顔料2の水分散体を得た。該顔料2は、上記実施例1で合成した顔料1を中和したものであり、一般式(1)におけるMがHのものとKのものとが混在している。
【0050】
(実施例3〜6)
実施例3〜6では、実施例2で得た顔料2における、一般式(1)で表される官能基のn(平均繰り返し数)が異なる顔料3〜6の水分散体をそれぞれ得た。実施例1で用いたε−カプロラクトンとp−トルエンスルホン酸の使用量を、表1に示したように変更した以外は、実施例1の合成方法及び実施例2の中和方法(中和率90%)と同様にして、顔料3〜6の水分散体をそれぞれ得た。なお、実施例3で得た顔料3は、n=1である顔料を含むが、n<1である顔料も含み、平均値として求められるnの値は0.7となる。同様に、実施例6で得た顔料6は、n=20である顔料を含むが、n>20である顔料も含み、平均値として求められるnの値は21.0となる。表1に、各顔料の合成条件と特性を示した。
【0051】

【0052】
(実施例7及び8)
実施例7では、実施例1で用いたε−カプロラクトン(m=5)に代えて、δ−バレロラクトン(m=4)を用いて、一般式(1)で表される官能基のZ(Cm2mのmの値)が異なる顔料7を合成した。その際、nを実施例1で得られた顔料1と同程度になるように、添加するラクトン類の量、及びp−トルエンスルホン酸の使用量を変更した以外は、実施例1の合成方法及び実施例2の中和方法(中和率90%)と同様にして、顔料7の水分散体を得た。同様に実施例8では、β−プロピオラクトン(m=2)を用いて、顔料8の水分散体を得た。表2に、各顔料の合成条件と特性を示した。
【0053】

【0054】
(実施例9〜11)
実施例9〜11では、実施例1で用いた顔料種を変更して、顔料の合成を行った。顔料として、スペシャルブラック4、プリンテックス90(以上、デグッサ製)、ハンザブリリアントイエロー5GX(クラリアント製)をそれぞれ用いた。顔料粒子の表面に酸性基であるカルボキシ基が結合しているスペシャルブラック4はそのまま用いた。また、プリンテックス90とハンザブリリアントイエロー5GXは、オゾン酸化処理を施して顔料粒子の表面に酸性基であるカルボキシ基を結合させたものを使用した。オゾン酸化処理は、以下のようにして行った。顔料60.0gをイオン交換水340.0g中にそれぞれ加え、超音波分散処理を行った。それら分散処理液を用いて、特表2008−524400号公報(特許文献2)の実施例1にしたがって、オゾン酸化処理顔料を合成し、顔料(固形分)の含有量が15.0%である顔料分散体をそれぞれ得た。得られたそれぞれの顔料分散体を、実施例1のCab−O−Jet300の代わりに使用した以外は、実施例1の合成方法及び実施例2の中和方法(中和率90%)と同様にして、顔料9〜11の水分散体を得た。表3に、各顔料の合成条件と特性を示した。なお、表3中、酸性基量とは、顔料粒子の表面に直接又は他の原子団を介して結合している酸性基量のことである。
【0055】

【0056】
(実施例12及び13)
実施例2の中和方法において使用した水酸化カリウムを、水酸化ナトリウム又は48%アンモニア水に変更した以外は実施例2と同様にして、一般式(1)で表される官能基のMが異なる顔料12及び13の水分散体をそれぞれ得た。水酸化ナトリウム又は48%アンモニア水の使用量は、実施例2と同様に、中和率が90%となる量とした。このとき、一般式(1)で表される官能基において、顔料12ではMがHのものとNaのものとが混在し、顔料13ではMがHのものとNH4のものとが混在している。表4に、各顔料の合成条件と特性を示した。
【0057】

【0058】
(比較例1)
本比較例では、ラクトン類を使用して、本発明とは異なる手法によりポリエステル鎖を含む官能基を結合している顔料の合成を行った。具体的には、予め、ラクトン類の開環重合によりポリエステル鎖を伸長した後、得られたポリエステル鎖を顔料粒子の表面に結合している酸性基と反応させることを試みた。先ず、下記のようにしてポリエステル樹脂1を合成した。撹拌機、還流冷却装置、滴下ロート及び窒素ガス導入管を備えたフラスコに、グリコール酸8g(105mmol)、アセトン500g、p−トルエンスルホン酸一水和物0.5gを加え、撹拌しながら56℃まで昇温した。その後、フラスコ内の温度を56℃に維持しながら滴下ロートからε−カプロラクトン60g(526mmol)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに2時間、同温度で撹拌を継続した。反応後、ガスクロマトグラフにより未反応のε−カプロラクトン量を測定することで97%のε−カプロラクトンが反応したことを確認した。すなわち、グリコール酸1mol当たり、平均4.9molのε−カプロラクトンが開環付加したポリエステル樹脂1のアセトン溶液を得た。得られたポリエステル樹脂1は、樹脂の一方の末端に水酸基を有し、もう一方の末端にカルボキシ基を有していた。
【0059】
次に、特表2003−519709号公報(特許文献4)の例10に示された、p−アミノ安息香酸が結合しているカーボンブラックとポリ(ビニルアルコール)との反応を参考に、以下の処理を試みた。具体的には、例10に示される反応において、ポリ(ビニルアルコール)の代わりに上記で得られたポリエステル樹脂1を使用し、顔料粒子の表面に結合しているp−アミノ安息香酸に、ポリエステル樹脂1のカルボキシ基を結合させる反応を行った。反応後の顔料分の熱重量測定(TG)を行った結果、樹脂由来の揮発分が確認できなかった。このことは、p−アミノ安息香酸が結合しているカーボンブラックに対して、ポリエステル樹脂1は反応しなかったことを示している。
【0060】
<インクの調製>
下記に示すようにして、実施例14〜25及び比較例2〜6のインクを調製した。なお、アセチレノールE100は川研ファインケミカル製のノニオン性界面活性剤であり、ポリエチレングリコールとしては平均分子量1,000のものを使用した。
【0061】
(実施例14〜25)
上記で合成した各顔料を含む水分散体(顔料の含有量:20.0%)を用いて、下記表5に示す成分を混合し、実施例の各インクを調製した。調製したインク中の顔料の含有量はいずれのインクについても5.0%であった。
【0062】

【0063】

【0064】
(比較例2)
下記に示す成分を混合し、比較例2のインクを調製した。このインクは、ポリエステル鎖を含む官能基ではなく、フェニレン基を介して酸性基(カルボキシ基)のみを結合している自己分散顔料を使用したものである。なお、調製したインク中の顔料の含有量は5.0%であった。
・Cab−O−Jet300 33.3部
・2−ピロリドン 10.0部
・グリセリン 10.0部
・エチレングリコール 5.0部
・ポリエチレングリコール 5.0部
・アセチレノールE100 0.5部
・イオン交換水 36.2部
【0065】
(比較例3)
下記に示す成分を混合し、比較例3のインクを調製した。このインクは、ポリエステル鎖を含む官能基ではなく、フェニレン基を介して酸性基(カルボキシ基)のみを結合している自己分散顔料と、実施例2の顔料の官能基に含まれるものと同等のポリエステル樹脂を、顔料と結合させていない状態で含有するものである。ポリエステル樹脂1は、先に比較例1で合成したものを使用した。その際、Cab−O−Jet300中の顔料とポリエステル樹脂1との合計量(固形分)及び比率を、実施例2の顔料における、顔料粒子分と官能基に含まれるポリエステル鎖部分との合計量及び比率と同程度になるようにした。すなわち、顔料(固形分)の含有量が15.0%であるCab−O−Jet300を29.7部(顔料として4.5部)、ポリエステル樹脂1を0.5部(固形分)使用することで、合計量(固形分)を5.0部とした。しかし、これらの成分を混合しても、ポリエステル樹脂1は水性媒体に溶解しなかったため、後述する評価を行うことはできなかった。
・Cab−O−Jet300 29.7部
・ポリエステル樹脂1 0.5部
・2−ピロリドン 10.0部
・グリセリン 10.0部
・エチレングリコール 5.0部
・ポリエチレングリコール 5.0部
・アセチレノールE100 0.5部
・イオン交換水 39.3部
【0066】
(比較例4)
下記に示す成分を混合し、比較例4のインクを調製した。このインクは、ポリエステル鎖を含む官能基ではなく、フェニレン基を介して酸性基(スルホン酸基)を結合している自己分散顔料Aと、エマルション状態のポリエステル樹脂を含有するものである。特開2004−143272号公報(特許文献3)記載の実施例1に示される、自己分散顔料Aとポリエステル構造を有する樹脂エマルションFとを使用した。なお、比較例3と同様に、自己分散顔料A(Cab−O−Jet200)中の顔料と樹脂エマルションF中のポリエステル樹脂との合計量(固形分)及び比率を、実施例2の顔料における、顔料粒子分と官能基に含まれるポリエステル鎖部分との合計量及び比率と同程度になるようにした。すなわち、自己分散顔料Aの分散体を29.7部(顔料として4.5部)、樹脂エマルションFを2.1部(ポリエステル樹脂として0.5部)使用することで、合計量(固形分)を5.0部とした。
・自己分散顔料Aの分散体 29.7部
・樹脂エマルションF 2.1部
・2−ピロリドン 10.0部
・グリセリン 10.0部
・エチレングリコール 5.0部
・ポリエチレングリコール 5.0部
・アセチレノールE100 0.5部
・イオン交換水 37.7部
【0067】
(比較例5)
顔料分散体に、下記で得た顔料分散体を用いた以外は実施例14と同様の成分を混合し、比較例5のインクを調製した。このインクは、顔料粒子の表面からリビング重合によって樹脂を伸長させた、アクリル樹脂を結合している自己分散顔料を含有するものであり、特表2008−531762号公報(特許文献5)記載の例11にしたがって調製した。具体的には、例11に示されるn−ブチルアクリル酸及びt−ブチルアクリル酸のブロック共重合体の脱アルキル化樹脂が結合しているカーボンブラックを水酸化カリウムで中和し、固形分の含有量を20.0%に調整し、顔料分散体を得た。そして、実施例14のインクに使用した顔料2の水分散体に代えて、上記で得た顔料分散体を使用した以外は実施例14と同様にして、比較例5のインクを調製した。
【0068】
(比較例6)
顔料分散体に、下記で得た顔料分散体を用いた以外は実施例14と同様の成分を混合し、比較例6のインクを調製した。このインクは、顔料粒子の表面にポリビニルアルコールを修飾した自己分散顔料を含有するものである。特表2003−519709号公報(特許文献4)記載の例10に示されるポリビニルアルコール修飾自己分散顔料を用い、固形分の含有量を20.0%に調整し、顔料分散体を得た。そして、実施例14のインクに使用した顔料2の水分散体に代えて、上記で得た顔料分散体を使用した以外は実施例14と同様にして、比較例6のインクを調製した。
【0069】
(比較例7)
特開平08−143813号公報(特許文献1)記載の実施例14を参考にして、水性インクの調製を試みた。先ず、製造例1にしたがって中間体1を合成し、実施例1の反応を行って、ポリアミンの主鎖にポリエステルの側鎖が結合した構造の樹脂(分散剤1)を得た。そして、顔料分散体を調製するため、20部のカーボンブラック(MA−100;三菱化学製)、4部の分散剤1及び適量の水を混合して、分散処理を行った。しかし、分散処理を行っても、分散剤1は水に溶解しなかったため、顔料を分散することができず、後述する評価を行うことはできなかった。
【0070】
<インクの評価>
(インクの吐出安定性)
上記で得られた各インクをインクカートリッジに充填し、熱エネルギーの作用によりインクを吐出するインクジェット記録装置PIXUS iP3100(キヤノン製)に搭載した。この装置では、解像度が1200dpi×1200dpiであり、1/1200インチ×1/1200インチの単位領域に5ピコリットルのインク滴を1滴付与する条件で記録した画像が、記録デューティが100%であるベタ画像と定義される。A4サイズのPPC用紙GF−500(キヤノン製)に、記録デューティを100%として、19cm×26cmのベタ画像を20枚記録した。このときの10枚目及び20枚目のベタ画像の記録物を目視で観察することにより、インクの吐出安定性を評価した。吐出安定性の評価基準は下記の通りである。評価結果を表6に示した。本発明においては、以下の評価基準のCを許容できないレベルとした。
A:20枚目においても白スジやカスレが生じていなかった。
B:10枚目においては白スジやカスレはなかったが、20枚目において白スジやカスレがあった。
C:10枚目において白スジやカスレが見られた。
【0071】
(画像の耐擦過性)
インクの吐出安定性の評価で使用したものと同じ記録装置及び記録媒体を用いて、記録デューティを100%として、1inch×0.5inchのベタ画像を記録した。記録の10分後及び1日後に、それぞれ別のベタ画像を用いて、ベタ画像の上にシルボン紙及び面圧40g/cm2の分銅を置き、ベタ画像とシルボン紙を擦り合わせた。その後、シルボン紙及び分銅を取り除き、非記録部への画像の転写を目視により観察した。耐擦過性の評価基準は下記の通りである。評価結果を表6に示した。本発明においては、以下の評価基準のCを許容できないレベルとした。
A:10分後において非記録部の汚れがなかった。
B:10分後において目立たないレベルの非記録部の汚れがあったが、1日後は汚れがなかった。
C:10分後において非記録部が著しく汚れており、1日後も著しく汚れていた。
【0072】

【0073】
なお、実施例21のインクの吐出安定性は、他のAランクの実施例のインクよりもやや劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料粒子の表面に直接又は他の原子団を介して結合している酸性基に、ラクトン類を開環付加することで、エステル基を含む官能基を顔料粒子の表面に結合させることを特徴とする自己分散顔料の合成方法。
【請求項2】
前記ラクトン類の開環付加に引き続いて、前記ラクトン類の開環重合を行う請求項1に記載の合成方法。
【請求項3】
前記官能基が、下記一般式(1)で表される請求項1又は2に記載の合成方法。
一般式(1) −(X)p−Y−(Z−COO)n
(上記一般式(1)中、Xは他の原子団であり、pは0又は1の数であり、Yはエステル基であり、Zはアルキレン基であり、nは1以上20以下の数であり、Mは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムである。)
【請求項4】
前記一般式(1)中のZがCm2mであって、該mが2以上5以下の数である請求項3に記載の合成方法。
【請求項5】
前記mが5である請求項4に記載の合成方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の合成方法により合成されてなることを特徴とする自己分散顔料。
【請求項7】
顔料粒子の表面に、下記一般式(1)で表される官能基が結合してなることを特徴とする自己分散顔料。
一般式(1) −(X)p−Y−(Z−COO)n
(上記一般式(1)中、Xは他の原子団であり、pは0又は1の数であり、Yはエステル基であり、Zはアルキレン基であり、nは1以上20以下の数であり、Mは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムである。)
【請求項8】
請求項6又は7に記載の自己分散顔料を含有してなることを特徴とするインクジェット用のインク。
【請求項9】
インクと、前記インクを収容するインク収容部とを備えたインクカートリッジであって、
前記インクが請求項8に記載のインクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項10】
インクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出させて記録媒体に画像を記録するインクジェット記録方法であって、
前記インクが、請求項8に記載のインクであることを特徴とするインクジェット記録方法。

【公開番号】特開2012−136691(P2012−136691A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235435(P2011−235435)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】