説明

自己発電型パネル

【課題】 人工衛星の構造部材あるいは人工衛星に搭載される太陽電池の支持部材として使用可能なパネルであって、高い強度を有するとともに軽量であり、さらに利用可能な電力を供給することのできる、自己発電型パネルを提供する。
【解決手段】 高温側スキン層、低温側スキン層、高温側スキン層と低温側スキン層とに挟まれた発泡材層、及び、発泡材層の内部に配置された熱電対回路を備える自己発電型パネルであって、熱電対回路は、熱電対を構成する異種金属を交互に連続的に接合してなり、異種金属の接合点が、高温側スキン層近傍及び低温側スキン層近傍に交互に配置されており、熱電対回路の両末端から起電力を取り出すことができるよう構成されている、自己発電型パネル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己発電型パネル、特に、人工衛星の構造部材あるいは人工衛星に搭載される太陽電池の支持部材として使用可能な自己発電型パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
人工衛星の構造部材あるいは人工衛星に搭載される太陽電池の支持部材として使用するパネルとしては、従来、図1に示すような、一般にハニカムパネルと呼ばれる構造体パネルが使用されてきた。このハニカムパネルは、通常アルミニウム製のハニカム構造体11を、主としてCFRPからなる表側スキン12と裏側スキン12’とで挟み、これらのスキンを接着剤13でハニカム構造体11に接着して固定することにより形成される。人工衛星の構造部材は、特に人工衛星の打ち上げ時に、著しい振動、衝撃及び音響などに起因する過酷な条件にさらされることが知られており、このような条件に耐えうる構造強度を有していることが要求されるものである。一方、人工衛星に使用される材料については、例外なく軽量化の要請がある。ハニカムパネルの場合、十分な構造強度を担保するためには部材要素を削減することが困難であり、軽量化を図ることが難しい。
近年、ハニカムパネルに代わる構造体パネルとして、図2に示すような発泡パネルが開発されている。この発泡パネルは、ポリウレタン等からなる発泡材の層21を、主としてCFRPからなる表側スキン層22及び裏側スキン層22’で挟んだ構造を有している。発泡パネルは、上記ハニカムパネルと比較して軽量化を図ることが容易であり、また人工衛星の打ち上げ時にパネルがさらされる過酷な条件に耐えうる構造強度を付与することが可能である。
このように、人工衛星において使用される構造体パネルについては、軽量化と構造強度とのバランスをとることを中心に開発が進められているのが現状であり、構造体パネルに何らかの機能を持たせて付加価値を得ようとする試みは皆無である。
一方、宇宙空間にある人工衛星にとって、宇宙環境から受け取るエネルギーを電気に変換して人工衛星の利用に供する技術は、極めて重要なものである。このような技術として現在実現されているものは、人工衛星に搭載した太陽電池を利用して太陽光を電気に変換する太陽光発電システムのみである。今後は人工衛星に搭載される機器が高性能化するのに伴ってその電力使用量が増大することが予想されるため、この太陽光発電システムを補助することのできる電力供給源に対する要請があるが、人工衛星の軽量化を犠牲にすることなく設けることのできる補助電力源は得られていないのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、人工衛星の構造部材あるいは人工衛星に搭載される太陽電池の支持部材として使用可能なパネルであって、高い強度を有するとともに軽量であり、さらに利用可能な電力を供給することのできる、自己発電型パネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、人工衛星の構造部材には、人工衛星が宇宙環境から受ける外部熱入力によって、構造部材の高温側と低温側で著しい温度差が発生し、特に、太陽電池パネル面が太陽光線のベクトルと直交する場合には、熱流束が最大となるため、太陽電池パネルの表面と裏面との温度差は最大で100℃にまでなると考えられることに着目し、この温度差を起電力に変換して利用可能な電力を取り出す手段を得ることについて鋭意研究した結果、発泡体パネルを基本構造として、パネルの発泡体部分に熱電対からなる回路を設けることにより、上記課題を解決し得ることを見いだした。
すなわち、本発明は、
高温側スキン層、
低温側スキン層、
前記高温側スキン層と前記低温側スキン層とに挟まれた発泡材層、及び、
前記発泡材層の内部に配置された熱電対回路、
を備える自己発電型パネルであって、
前記熱電対回路は、熱電対を構成する異種金属を交互に連続的に接合してなり、該異種金属の接合点が、前記高温側スキン層近傍及び前記低温側スキン層近傍に交互に配置されており、該熱電対回路の両末端から起電力を取り出すことができるよう構成されていることを特徴とする、自己発電型パネルを提供する。
前記熱電対回路は、前記接合点を頂点とするジグザグ形状を有するのが好ましい。
また、前記異種金属によって構成される熱電対は、クロメル−アルメル、クロメル−コンスタンタン、鉄−コンスタンタン、銅−コンスタンタン、白金・10%ロジウム−白金、白金・13%ロジウム−白金、及び白金・30%ロジウム−白金からなる群から選択することができる。
さらに、前記発泡材層は、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン及びポリイミドからなる群から選ばれる発泡材からなるものとすることができる。
また、前記自己発電型パネルは、太陽電池の支持部材とすることができる。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、人工衛星の打ち上げ時にさらされる過酷な条件に耐えうる高い強度を有するとともに、軽量であって、さらに宇宙環境から受ける外部熱入力を効率よく熱伝変換して、人工衛星及びその搭載機器等が利用することのできる電力を供給し得る、自己発電型パネルが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図3aは、本発明による自己発電型パネルの一実施例の断面図である。自己発電型パネル31は、外部からの熱入力を受ける高温側スキン層32、外部からの熱入力を直接受けない低温側スキン層32’、高温側スキン層32と低温側スキン層32’とに挟まれた発泡材層33、及び発泡材層33の内部に配置された熱電対回路34を備えている。熱電対回路34は、熱電対を構成する異種金属の線35及び36を交互に連続的に接合してなり、異種金属の線35及び36の接合点37が、高温側スキン層32近傍及び低温側スキン層32’近傍に交互に配置されており、熱電対回路34の両末端から起電力を取り出すことができるよう構成されている。
【0007】
高温側スキン層32及び低温側スキン層32’は、従来の発泡パネルにおけるスキン層と同様の材料及び寸法のものであってよい。これらのスキン層32及び32’は、CFRPなどの繊維強化プラスチック材料からなるのが一般的である。
本発明で使用するスキン層の材料としては、本発明のパネルから取り出すことのできる起電力を最大にするという観点から、熱伝導率、熱容量及び熱膨張率が、いずれも小さいものが望ましい。また、同様の理由から、スキン層の厚さは薄いほうが望ましい。
【0008】
発泡材層33は、従来の発泡パネルにおける発泡材の層と同様の材料及び寸法のものを使用することができるが、高温側スキン層32と低温側スキン層32’との間の温度差を保持することにより、より高い起電力を熱電対回路34から取り出すという観点から、断熱性の高い材料からなるものを使用するのが望ましい。そのような材料の例には、ポリスチレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、及びポリメタクリルイミド(PMI)及びポリエーテルイミド(PEI)等のポリイミドなどの発泡材が含まれる。
スキン層の場合と同様の理由から、発泡材層の材料としては、熱伝導率、熱容量及び熱膨張率が、いずれも小さいものが望ましく、また発泡材層の厚さは薄いほうが望ましい。
【0009】
発泡材層33の内部に配置された熱電対回路34は、熱電対を構成する異種金属の線35及び36を交互に連続的に接合することにより形成される。異種金属によって構成される熱電対としては、軽量であってかつ高い起電力を取り出すことのできるものを使用するのが望ましい。そのような熱電対の例には、クロメル−アルメル、クロメル−コンスタンタン、鉄−コンスタンタン、銅−コンスタンタン、白金・10%ロジウム−白金、白金・13%ロジウム−白金、及び白金・30%ロジウム−白金が含まれる。
本発明における熱電対回路に使用する熱電対としては、パドル全体の製造コストを上げないような低価格なものが望ましく、また、高い起電力を発生させるためには、金属の素線が均一なほど良好であることから、均質に加工できるものであるのが望ましい。これらの観点から、本発明に使用する熱電対としては、銅−コンスタンタンが特に望ましい。
【0010】
熱電対回路34における異種金属の線35及び36の接合点37は、高温側スキン層32近傍及び低温側スキン層32’近傍に、交互に配置される。接合点37をこのように配置するのは、高温側スキン層32と低温側スキン層32’との間の温度差を利用した熱伝変換を効率的に行なうためである。接合点37をこのように配置する結果、熱電対回路34は、前記接合点を頂点とするジグザグ形状、正弦波形状などを有するものとなる。本発明による自己発電型パネルの一実施例の平面図である図3bに示すように、本発明において、熱電対回路34を、自己発電型パネル31の平面内に互いに平行に設けた複数の熱電対回路を直列に接続したものとして、さらに高い起電力を取り出すことができるようにすることができる。
なお、本発明のパネルから可能な限り高い起電力を取り出すことができるようにするためには、熱電対を配置して熱電対回路34を形成するにあたり、次のような事項に留意する必要があると考えられる。
(1) 異種金属を交互に連続的に接続した熱電対回路を、直列に配線すること。
(2) 熱電対回路の長さは、可能な限り長くすること。
(3) 異種金属の線の接合点は、スキン層の近傍に極力近づけること。
【0011】
本発明の自己発電型パネルは、次のような方法により製造することができる。
本発明による自己発電型パネル41の製造方法を示す工程図である図4を参照して、まず第1の工程において、熱電対を構成する異種金属の線45及び46を交互に連続的に溶接等により接合点47において接合して、熱電対回路44を形成する。このように形成した熱電対回路44を、次いで発泡材層43のブロックの表面に溶着するか、あるいは内部に挿入して固定する。このように熱電対回路44を備える発泡材層43のブロックを、複数個準備しておく。第2の工程において、このようにして準備した複数個の発泡材層のブロックを、一方のスキン層、例えば低温側スキン層42’の上に配置し、各ブロックの熱電対回路を相互に直列に接続する。最後に、第3の工程において、もう一方のスキン層(この例では高温側スキン層42)を発泡材層のブロックの上に配置し、高温側スキン層42と低温側スキン層42’との間に発泡材層43のブロックを挟むようにして、これらを相互に溶着する。
また、本発明の自己発電型パネルを製造するための他の方法としては、薄いフィルムの上に、異種金属を交互に連続的に極細線の状態に蒸着させ、フィルム上に熱電対回路を形成させ、このようにフィルム上に形成された熱電対回路を、発泡剤の内部に挿入する方法が考えられえる。
【0012】
このようにして製造した本発明の自己発電型パネルを、例えば太陽電池の支持部材として利用することができる。本発明による自己発電型パネルを利用した太陽電池システムの模式図である図5を参照して、自己発電型パネル51は、その上に太陽電池50が載置される太陽電池用の支持部材である。自己発電型パネル51は、パネルの外部にある負荷59を介して、熱電対回路54の両末端から起電力を取り出すことができるよう構成されている。本発明の自己発電型パネルを太陽電池の支持部材として使用することにより、太陽電池の軽量化及び高強度化を図ることが可能である。
【実施例】
【0013】
A.パネルの作製
次の手順により、自己発電型パネルを作製した。
まず、熱電対を構成する直径0.2mmの銅線及びコンスタンタンの線を、交互に連続的に溶接によって接合点において接合して、熱電対回路を形成した。このとき、連続する接合点の間隔は31.6mmとし、高温側または低温側スキン層の近傍で隣り合う接合点の間隔は10mmとした。
次いで、幅10mm、長さ50mm、厚さ30mmの、表面(幅方向及び長さ方向からなる面)を平滑に成形したポリメタクリルイミド(PMI)からなる発泡材層のブロックの表面に、上記のように形成した熱電対回路を溶着して固定した。このような熱電対回路を備える発泡材層のブロックを、50個準備した。
次に、これら50個の発泡材層のブロックを、幅500mm、長さ500mm、厚さ3mmのCFRPからなる低温側スキン層の上に配置し、各ブロックの熱電対回路を相互に直列に接続した。さらに、低温側スキン層に使用したものと同一の材料からなる高温側スキン層を、発泡材層のブロックの上に配置し、高温側スキン層と低温側スキン層との間に発泡材層のブロックを挟むようにして、これらを相互に溶着した。
このようにして作製した自己発電型パネルを、その起電力について性能評価するための性能評価用サンプルパネルとした。なお、このサンプルパネルの寸法決定は、人工衛星打上げ時の振動・衝撃・音響環境に耐えうる強度をパネルが持つように構造解析を実施することにより行なった。
【0014】
B.パネルの性能評価
上記のようにして準備したサンプルパネルを、極低温、高真空環境を模擬可能な人工衛星の熱真空試験用スペースチャンバに設置した。
チャンバ内で、パネルの高温側スキン層に、太陽光による加熱を模擬するヒータを貼付して、50℃に温度制御した。一方、低温側スキン層は、極低温温度(約−173℃)に晒した。この状態において、熱電対列に発生する起電力を測定したところ、0.49Vの起電力が得られた。このサンプルパネルの重量は1.56kgであったことから、起電力/重量は0.314V/kgと評価され、軽量であってかつ利用可能な電力を供給することのできる自己発電型パネルが得られていることが確認された。
なお、上記サンプルパネルについては、さらに熱疲労試験を実施して、日陰、日照が交互に訪れる衛星軌道上の熱サイクルにも耐え得ることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明の活用例として、本発明による自己発電型パネルを、人工衛星の構造部材に利用することが考えられる。
また、本発明の他の活用例として、本発明による自己発電型パネルを、人工衛星に搭載される太陽電池の支持部材に利用することが考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】従来技術におけるハニカムパネルの断面図(a)及びハニカム部分の平面図(b)である。
【図2】従来技術における発泡パネルの断面図である。
【図3a】本発明による自己発電型パネルの一実施例の断面図である。
【図3b】本発明による自己発電型パネルの一実施例の平面図である。
【図4】本発明による自己発電型パネルの製造方法を示す工程図である。
【図5】本発明による自己発電型パネルを利用した太陽電池システムの模式図である。
【符号の説明】
【0017】
31 自己発電型パネル
32 高温側スキン層
32’ 低温側スキン層
33 発泡材層
34 熱電対回路
35、36 異種金属の線
37 接合点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温側スキン層、
低温側スキン層、
前記高温側スキン層と前記低温側スキン層とに挟まれた発泡材層、及び、
前記発泡材層の内部に配置された熱電対回路、
を備える自己発電型パネルであって、
前記熱電対回路は、熱電対を構成する異種金属を交互に連続的に接合してなり、該異種金属の接合点が、前記高温側スキン層近傍及び前記低温側スキン層近傍に交互に配置されており、該熱電対回路の両末端から起電力を取り出すことができるよう構成されていることを特徴とする、自己発電型パネル。
【請求項2】
前記熱電対回路は、前記接合点を頂点とするジグザグ形状を有する、請求項1に記載の自己発電型パネル。
【請求項3】
前記異種金属によって構成される熱電対は、クロメル−アルメル、クロメル−コンスタンタン、鉄−コンスタンタン、銅−コンスタンタン、白金・10%ロジウム−白金、白金・13%ロジウム−白金、及び白金・30%ロジウム−白金からなる群から選ばれる、請求項1または2に記載の自己発電型パネル。
【請求項4】
前記発泡材層は、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン及びポリイミドからなる群から選ばれる発泡材からなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の自己発電型パネル。
【請求項5】
太陽電池の支持部材である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の自己発電型パネル。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−108480(P2006−108480A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−294818(P2004−294818)
【出願日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【Fターム(参考)】