説明

自己相補的なAAVが媒介する眼の障害を処置または予防するための干渉RNA分子の送達

本発明は、干渉RNA分子を患者の眼に送達することによって眼の障害を処置するための方法を提供する。特に、本発明の方法は、患者の眼に干渉RNA分子を送達することによって眼の障害に関連する遺伝子の発現を阻害できる自己相補的なアデノ随伴(scAAV)ウイルスベクターの使用を含む。本発明はまた、治療上有効な量の干渉RNA分子および眼に許容できる担体を有する自己相補的なアデノ随伴ウイルス(scAAV)ベクターを含む医薬組成物も提供し、この干渉RNA分子は眼の障害に関連する遺伝子の発現を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、米国特許法第119条(e)項の下、2007年10月1日に出願された米国仮特許出願第60/976,552号の利益を主張し、この米国仮特許出願の全体の内容は、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、自己相補的なアデノ随伴(self−complementary adeno−associated:scAAV)ウイルスベクターを介して、干渉RNA分子を患者の眼に送達する方法に関する。本発明は、本発明の干渉RNA分子−scAAVベクターをそれを必要とする患者に投与することによって、眼の障害を処置するための方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
RNA干渉(RNA interference:RNAi)とは、2本鎖RNA(double−stranded RNA:dsRNA)を用いて遺伝子発現を停止させるプロセスである。RNAiは、細胞中に存在する短い(すなわち<30ヌクレオチドの)2本鎖RNA(「dsRNA」)分子によって誘導される(非特許文献1)。これらの短いdsRNA分子は「短鎖干渉RNA(short interfering RNA)」または「siRNA」と呼ばれ、1ヌクレオチド分解能内でsiRNAとの配列相同性を共有するメッセンジャーRNA(messenger RNA;「mRNA」)の破壊をもたらす(非特許文献2)。siRNAの一方の鎖は、RNA誘導サイレンシング複合体(RNA−induced silencing complex:RISC)として公知であるリボ核タンパク質複合体に取込まれると考えられている。RISCはこのsiRNA鎖を用いて、取込まれたsiRNA鎖と少なくとも部分的に相補的であるmRNA分子を識別し、これらの標的mRNAを切断するか、またはその翻訳を妨げる。siRNAは多重代謝回転酵素と同様に再利用されていることが明らかであり、1個のsiRNA分子が約1000個のmRNA分子の切断を誘導できる。したがって、mRNAのsiRNA媒介型RNAi分解は、標的遺伝子の発現を阻害するための現在利用可能な技術よりも効果的である。
【0004】
RNAiは、疾患を処置および/または予防するための非常に興味深いアプローチを提供する。さまざまな伝統的治療アプローチに比べて、RNAiは以下を含むいくつかの主要な利点を有する:RNAiは疾患プロセスに関与する非常に特定的な遺伝子を高度に特異的に標的にできるため、オフターゲットの影響を低減または除去できる;RNAiは、高度に特異的なRNA分解を起こし、遺伝子サイレンシング効果を細胞間に広げる通常の細胞プロセスである;RNAiは、多くの抗体に基づく療法のように宿主の免疫応答を誘発しない。
【0005】
siRNAを用いた眼の疾患の標的遺伝子の特定的なインビボターゲティングおよびノックダウンは、siRNAを小柱網(trabecular meshwork:TM)標的組織に送達する際のある種の物理的制限を伴う。加えて、核酸は一般的に硝子体内半減期が短いため、干渉RNAを連続的に存在させるために繰り返し眼内注射を行なう必要があるかもしれない。これらの理由から、長期送達のための方法が必要とされる。
【0006】
いくつかの干渉RNA送達方法がインビボでの使用のためにテスト/開発されている。たとえば、siRNAは、食塩水中で「裸で」;ポリカチオン、カチオン性脂質/脂質トランスフェクション試薬、またはカチオン性ペプチドと複合化して;定めた分子結合体の構成要素として(例、コレステロール修飾されたsiRNA、TAT−DRBD/siRNA複合体);リポソームの構成要素として;および、ナノ粒子の構成要素として送達されてもよい。
【0007】
硝子体内または前房内に送達されたアデノウイルスshRNAを用いたTMのウイルス形質導入は可能なアプローチの1つだが、これはヒトでの使用においていくつかのネガティブな結果が得られており、その中には抗アデノウイルス応答による除去のため発現が一時的であることが含まれる。アデノ随伴ウイルス(AAV)は1本鎖DNAゲノムからなっており、毒性が僅かであるので遺伝子療法のためのウイルスベクターとして使用されている。残念ながら、AAVはTM細胞を効率的に形質導入しない。
【0008】
これらのアプローチは成功の程度にばらつきを示したため、インビボでsiRNA分子を送達してRNAiの治療上の可能性を達成しかつ高めるための新しい改善された方法がなおも必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Fire et al.,1998,Nature 391:806−811
【非特許文献2】Elbashir et al.,2001,Genes Dev,15:188−200
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の要旨)
本発明は、患者の眼における標的mRNAの発現を低減させる方法を提供し、この方法は(a)干渉RNA分子を含む自己相補的なアデノ随伴ウイルス(scAAV)ベクターを与えるステップと;(b)scAAVベクターを患者の眼に投与するステップとを含み、この干渉RNA分子は眼における標的mRNAの発現を低減できる。
【0011】
1つの局面において、患者は眼の障害、たとえば眼の血管新生、ドライアイ、眼の炎症状態、高眼圧または緑内障を有する。別の局面において、干渉RNA分子は眼の障害、たとえば眼の血管新生、ドライアイ、眼の炎症状態、高眼圧または緑内障に関連する遺伝子を標的とする。
【0012】
ベクターは、たとえば眼内注射、眼への局所適用、静脈内注射、経口投与、筋内注射、腹腔内注射、経皮適用または経粘膜適用によって投与されてもよい。
【0013】
本発明は、治療上有効な量の干渉RNA分子および眼に許容できる担体を有する自己相補的なアデノ随伴ウイルス(scAAV)ベクターを含む医薬組成物も提供し、この干渉RNA分子は眼の障害に関連する遺伝子の発現を低減できる。scAAVベクターはscAAVビリオン中にパッケージングされてもよい。
【0014】
特定の好ましい実施形態の以下のより詳細な説明および本特許請求の範囲から、本発明の特定の好ましい実施形態が明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(発明の詳細な説明)
本明細書中の事項は、例としておよび本発明の好ましい実施形態の例示的な考察の目的のためにのみ示されるものであり、本発明のさまざまな実施形態の原理および概念的局面を最も有用かつ容易に理解される説明であると考えられるものを提供するために示されている。このことに関して、本発明の構造的詳細を本発明の基本的な理解のために必要である以上に詳細に示すための試みはなされておらず、図面および/または実施例を伴う説明によって、本発明のいくつかの形態をどのようにして実際に実施できるかを当業者に明らかにするものである。
【0016】
以下の実施例において明瞭かつ明白に変更されていない限り、またはその意味を適用することによっていずれかの構成が無意味もしくは本質的に無意味にならない限り、以下の定義および説明はあらゆる今後の構成を統制することを意味して意図されるものである。その用語の構成が無意味または本質的に無意味になる場合には、定義をWebster’s Dictionaryの第3版または当業者に公知の辞書、たとえばOxford Dictionary of Biochemistry and Molecular Biology(Anthony Smith編、Oxford University Press、Oxford、2004)から取るべきである。
【0017】
別様に述べられていない限り、本明細書で用いられるすべてのパーセンテージは重量パーセントである。
【0018】
本明細書で用いられていて別様に示されていない限り、“a”および“an”という用語は「1つ」、「少なくとも1つ」または「1つまたは複数」を意味するものとする。文脈によって別様に要求されない限り、本明細書で用いられる単数形用語は複数を含み、複数形用語は単数形を含む。
【0019】
特定の実施形態において、本発明は患者の眼における標的mRNAの発現を低減させる方法を提供し、この方法は(a)眼の中で発現される遺伝子を標的とする干渉RNA分子を含む自己相補的なアデノ随伴ウイルス(scAAV)ベクターを与えるステップと;(b)scAAVベクターを患者の眼に投与するステップとを含み、この干渉RNA分子は眼における標的mRNAの発現を低減できる。特定の実施形態において、scAAVベクターはscAAVビリオン中にパッケージングされる。
【0020】
特定の実施形態において、本発明は患者の眼の障害を予防または処置する方法を提供し、この方法は(a)眼の障害に関連する遺伝子を標的とする干渉RNA分子を含む自己相補的なアデノ随伴ウイルス(scAAV)ベクターを与えるステップと;(b)scAAVベクターを患者の眼に投与するステップとを含み、この干渉RNA分子は眼の障害に関連する遺伝子の発現を低減できる。scAAVベクターはscAAVビリオン中にパッケージングされてもよい。特定の実施形態において、眼の障害は眼内圧(intraocular pressure:IOP)の上昇、たとえば高眼圧または緑内障に関連する。
【0021】
本明細書で用いられる「患者」という用語は、眼の障害を有するかまたは眼の障害を有する危険性のあるヒトまたはその他の哺乳動物を意味する。こうした障害に関連する眼の構造は、たとえば眼球、網膜、脈絡膜、水晶体、角膜、小柱網、虹彩、視神経、視神経乳頭、強膜、前区もしくは後区、または毛様体を含んでもよい。特定の実施形態において、患者は小柱網(TM)細胞、毛様体上皮細胞、または眼の別の細胞型に関連する眼の障害を有する。
【0022】
本明細書で用いられる「眼の障害」という用語は、眼の血管新生、ドライアイ、炎症状態、高眼圧および眼内圧(IOP)の上昇に関連する眼の疾患、たとえば緑内障に関連する状態を含む。
【0023】
本明細書で用いられる「眼の血管新生」という用語は、眼の血管新生促進状態および眼の血管新生状態を含み、たとえば眼の血管新生、眼の新血管新生、網膜浮腫、糖尿病性網膜症、網膜虚血に伴う後遺症、後区新血管新生(posterior segment neovascularization:PSNV)、および血管新生緑内障を含む。本発明の方法において用いられる干渉RNAは、たとえば眼の血管新生、眼の新血管新生、網膜浮腫、糖尿病性網膜症、網膜虚血に伴う後遺症、後区新血管新生(PSNV)、および血管新生緑内障の患者、またはこうした状態を発生させる危険性のある患者を処置するために有用である。「眼の新血管新生」という用語は、加齢黄斑変性、白内障、急性虚血性視神経障害(acute ischemic optic neuropathy:AION)、網膜振とう症、網膜剥離、網膜裂孔または網膜円孔、医原性網膜症およびその他の虚血性網膜症または視神経障害、近眼、網膜色素変性などを含む。
【0024】
本明細書で用いられる「炎症状態」という用語は、眼の炎症およびアレルギー性結膜炎などの状態を含む。
【0025】
本明細書で用いられる「組換えAAV(recombinant AAV:rAAV)ベクター」という用語は、少なくとも1つの末端繰り返し配列を含有する組換えAAV由来核酸を意味する。自己相補的なAAV(scAAV)ベクターは、1つのrAAV TRから末端分解部位(terminal resolution site:TR)を除去し、変異端部における複製の開始を防ぐことによって生成された2本鎖ベクターゲノムを含有する。これらの構築物は、各端部に野生型(wild−type:wt)TRを、中央に変異TRを有する1本鎖の逆方向反復ゲノムを生じる。いくつかの自然発生するハイブリッドAAV血清型が公知であり、それはAAV−1、AAV−2、AAV−3A、AAV−3B、AAV−4、AAV−5、AAV−6、AAV−7、AAV−8、AAV−9、AAV−10、およびAAV−11を含む(Choi et al.,2005,Curr.Gene Ther.:299−310)。AAVのこれらの血清型または他の血清型のいずれかに基づいてscAAVベクターを生成できることが当業者に認識されるだろう。
【0026】
本明細書で用いられる「scAAVビリオン」という言い回しは、本明細書に記載される本発明に従って宿主細胞に感染して宿主細胞に干渉RNA分子を送達することのできる、scAAVベクターおよびタンパク質コートを含む完全なウイルス粒子を意味する。
【0027】
本明細書において提供されるものなどの干渉RNA分子を含むscAAVベクターおよびscAAVビリオンの生成については、Xuら(2005,Mol Ther 11:523−530)およびBorrasら(2006,J Gene Med :589−602)によってさらに論じられている。Xuらは、MDR1遺伝子発現を抑制するためにscAAVベクターを用いてsiRNAを多剤耐性のヒトの乳癌および口腔癌細胞に送達した。Borrasらは、ヒト小柱網(TM)細胞およびヒトTM灌流器官培養物の非常に効率的なscAAV形質導入を示した。加えて、Yokoi,K.ら(2007,Invest Ophthalmol Vis Sci,48:3324−3328)はタイプ2scAAVベクターを網膜下腔に注射して、網膜上皮細胞における緑色蛍光タンパク質の発現を観察した。
【0028】
本発明の方法は、RNA干渉を用いて患者の眼の特定の遺伝子の発現を低減させるために有用である。
【0029】
RNA干渉(RNAi)とは、2本鎖RNA(dsRNA)を用いて遺伝子発現を停止させるプロセスである。理論に束縛されることは望まないが、RNAiは、RNアーゼIII様酵素であるダイサーによって、長いdsRNAが短鎖干渉RNA(siRNA)に切断されることによって始まる。siRNAは、通常は長さが約19ヌクレオチドから28ヌクレオチド、または20ヌクレオチドから25ヌクレオチド、または21ヌクレオチドから22ヌクレオチドのdsRNAであり、しばしば2ヌクレオチドの3’オーバーハング、ならびに5’リン酸末端および3’ヒドロキシル末端を含有する。siRNAの一方の鎖は、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)として公知であるリボ核タンパク質複合体に取込まれる。RISCはこのsiRNA鎖を用いて、取込まれたsiRNA鎖と少なくとも部分的に相補的であるmRNA分子を識別し、これらの標的mRNAを切断するか、またはその翻訳を妨げる。したがって、RISCに取込まれるsiRNA鎖はガイド鎖またはアンチセンス鎖として公知である。他方のsiRNA鎖はパッセンジャー鎖またはセンス鎖として公知であり、これはsiRNAから取除かれ、標的mRNAと少なくとも部分的に相同である。原則として、siRNAのどちらの鎖もRISCに取込まれてガイド鎖として機能し得ることが当業者に認識されるであろう。しかし、siRNA設計(例、所望のガイド鎖の5’末端におけるsiRNA2本鎖安定性の減少)によって、所望のガイド鎖のRISCへの取込みを有利にできる。
【0030】
siRNAのアンチセンス鎖は、次の点においてsiRNAの活性誘導剤である。すなわち、アンチセンス鎖はRISCに取込まれることによって、RISCが切断または翻訳抑制のためにアンチセンスsiRNA鎖に対する少なくとも部分的な相補性を有する標的mRNAを識別することを可能にする。ガイド鎖と少なくとも部分的に相補である配列を有するmRNAをRISCを介して切断することにより、そのmRNAおよびこのmRNAがコードする対応タンパク質の定常状態レベルが減少する。代替的には、RISCは標的mRNAを切断することなく翻訳抑制を介して対応タンパク質の発現を減少させることもできる。
【0031】
干渉RNAは、標的mRNAの切断に対して触媒的な態様で作用するように見える。すなわち、干渉RNAは準化学量論的な量で標的mRNAの阻害に影響できる。アンチセンス療法と比較して、こうした切断状態下で治療効果を与えるために必要な干渉RNAはかなり少なくなる。
【0032】
特定の実施形態において、本発明は、干渉RNAを送達して標的mRNAの発現を阻害することによって、眼の障害を有する患者における標的mRNAレベルを減少させる方法を提供する。
【0033】
本明細書で用いられる「標的mRNAの発現を低減させる」という言い回しは、ある量の干渉RNA(例、siRNA)を投与または発現させて、mRNAの切断または翻訳の直接的阻害のいずれかによって、標的mRNAのタンパク質への翻訳を減らすことを意味する。本明細書で用いられる「阻害する」、「サイレンシング」、および「低減する」という用語は、本発明の方法において用いられる干渉RNAの不在下での標的mRNAまたは対応タンパク質の発現と比較したときの、標的mRNAまたは対応タンパク質の発現が測定可能なほどに減少することを示す。標的mRNAまたは対応タンパク質の発現の減少は一般的には「ノックダウン」と呼ばれ、非ターゲティング対照RNA(例、非ターゲティング対照siRNA)の投与または発現の後に存在するレベルと比較して報告される。本明細書の実施形態では、50%から100%の間を含む量の発現のノックダウンが予期される。しかし、本発明の目的のためにこうしたノックダウンレベルを達成することが必要なわけではない。
【0034】
ノックダウンは通常、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(quantitative polymerase chain reaction:qPCR)増幅を用いてmRNAレベルを測定するか、またはウエスタンブロットもしくは酵素結合免疫吸着検定法(enzyme−linked immunosorbent assay:ELISA)によってタンパク質レベルを測定することによって評価される。タンパク質レベルの分析によって、mRNA切断および翻訳阻害の両方の評価が得られる。ノックダウンを測定するためのさらなる技術には、RNA溶液ハイブリダイゼーション、ヌクレアーゼプロテクション、ノーザンハイブリダイゼーション、マイクロアレイによる遺伝子発現モニタリング、抗体結合、ラジオイムノアッセイ、および蛍光標識細胞分析が含まれる。
【0035】
干渉RNA分子による標的遺伝子発現の低減は、ヒトまたはその他の哺乳動物において、眼の障害の症状の改善、たとえば緑内障標的遺伝子の阻害を示す眼内圧の低下を観察することによって推測できる。
【0036】
実施形態の1つにおいては、単一の干渉RNA分子が送達されて標的mRNAレベルを低下させる。他の実施形態においては、mRNAを標的とする2つまたはそれを超える干渉RNAが投与されて標的mRNAレベルを低下させる。複数の干渉RNAは同じscAAVベクターで送達されても、別個のベクターで送達されてもよい。
【0037】
本明細書で用いられる「干渉RNA」および「干渉RNA分子」という用語は、RISCと相互作用してRISCの媒介する遺伝子発現変化に関与することができるすべてのRNA分子またはRNA様分子を示す。RISCと相互作用できる他の干渉RNA分子の例には、短鎖ヘアピンRNA(short hairpin RNA:shRNA)、1本鎖siRNA、マイクロRNA(microRNA:miRNA)、およびダイサー−基質の27マーの2本鎖が含まれる。RISCと相互作用できる「RNA様」分子の例には、1つもしくは複数の化学修飾されたヌクレオチド、1つもしくは複数の非ヌクレオチド、1つもしくは複数のデオキシリボヌクレオチド、ならびに/または1つもしくは複数の非ホスホジエステル結合を含有するsiRNA、1本鎖siRNA、マイクロRNA、およびshRNA分子が含まれる。よってsiRNA、1本鎖siRNA、shRNA、miRNA、およびダイサー−基質の27マーの2本鎖は、「干渉RNA」または「干渉RNA分子」のサブセットである。
【0038】
本明細書で用いられる「siRNA」という用語は、別様に述べられていない限り2本鎖干渉RNAを示す。典型的には、本発明の方法で用いられるsiRNAは2本のヌクレオチド鎖を含む2本鎖の核酸分子であり、各々の鎖は約19ヌクレオチドから約28ヌクレオチド(すなわち、約19、20、21、22、23、24、25、26、27、または28ヌクレオチド)を有する。典型的には、本発明の方法で用いられる干渉RNAは約19ヌクレオチドから約49ヌクレオチドの長さである。2本鎖干渉RNAを示すときの「19ヌクレオチドから49ヌクレオチドの長さ」という言い回しは、アンチセンス鎖およびセンス鎖が独立に約19ヌクレオチドから約49ヌクレオチドの長さを有することを意味しており、そこにはセンス鎖およびアンチセンス鎖がリンカー分子によって接続された干渉RNA分子が含まれる。
【0039】
1本鎖干渉RNAは、2本鎖RNAほど効率的ではないがmRNAサイレンシングをもたらすことが見出されている。したがって、本発明の実施形態は1本鎖干渉RNAの投与も提供する。上述の2本鎖干渉RNAと同様に、1本鎖干渉RNAは約19ヌクレオチドから約49ヌクレオチドの長さを有する。1本鎖干渉RNAは5’リン酸を有するか、または5’位置にてインサイツもしくはインビボでリン酸化されている。「5’リン酸化」という用語は、たとえばポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドの5’末端において糖(例、リボース、デオキシリボースまたはその類似物)のC5ヒドロキシルにエステル結合を介して結合したリン酸基を有するポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを説明するために用いられる。
【0040】
1本鎖干渉RNAは化学的に、またはインビトロ転写によって合成されてもよいし、2本鎖干渉RNAに関して本明細書に記載されるものと同様にベクターまたは発現カセットから内因的に発現されてもよい。5’リン酸基はキナーゼを介して付加されてもよいし、RNAのヌクレアーゼ切断の結果として5’リン酸が得られてもよい。ヘアピン干渉RNAは、ステムループまたはヘアピン構造中に干渉RNAのセンス鎖およびアンチセンス鎖の両方を含む単一分子(例、単一のオリゴヌクレオチド鎖)である(例、shRNA)。たとえば、センス干渉RNA鎖をコードするDNAオリゴヌクレオチドが、短いスペーサーによって逆の相補的アンチセンス干渉RNA鎖をコードするDNAオリゴヌクレオチドに結合されているようなDNAベクターからshRNAが発現されてもよい。選択される発現ベクターに対して必要であれば、3’末端Tおよび制限酵素部位を形成するヌクレオチドが付加されてもよい。その結果得られるRNA転写物は、自身の上に折り返してステムループ構造を形成する。
【0041】
本明細書で用いられる「標的配列」および「標的mRNA」という言い回しは、本発明の方法で用いられる干渉RNAが認識できるmRNAまたはmRNA配列の部分を示し、これによって干渉RNAは本明細書に考察されるとおりに遺伝子発現を停止させることができる。
【0042】
標的mRNA配列内の干渉RNA標的配列(例、siRNA標的配列)は、利用可能な設計ツールを用いて選択される。siRNAに対する標的配列を選択するための技術は、たとえばTuschl,T.ら、“The siRNA User Guide”、2004年5月6日改訂、Rockefeller Universityウェブサイトにて入手可能;Technical Bulletin #506、“siRNA Design Guidelines”、Ambion Inc.、Ambionのウェブサイト;およびその他のウェブに基づく設計ツール、たとえばInvitrogen、Dharmacon、Integrated DNA Technologies、Genscript、またはProligoのウェブサイト上のものによって提供されている。最初のサーチパラメータは、35%から55%のG/C含有量および19ヌクレオチドから27ヌクレオチドのsiRNAの長さを含んでもよい。標的配列は、mRNAのコード領域に位置しても、5’または3’非翻訳領域に位置してもよい。標的配列を用いて、本明細書に記載されるものなどの干渉RNA分子を得ることができる。標的配列に対応する干渉RNAは、標的mRNAを発現する細胞のトランスフェクションの後に本明細書に記載されるとおりのノックダウンの評価を行なうことによって、インビトロでテストできる。干渉RNAは、当業者に公知の動物モデルを用いて、インビボでさらに評価されてもよい。
【0043】
たとえばHeLa細胞における内因性標的遺伝子発現のレベルを干渉RNAがノックダウンする能力は、以下のとおりにインビトロで評価できる。HeLa細胞を、トランスフェクションの24時間前に標準的な増殖培地(例、DMEMに10%ウシ胎児血清を補ったもの)にてプレート培養する。0.1nM〜100nMの範囲の干渉RNA濃度にて、たとえばDharmafect 1(Dharmacon、Lafayette、CO)を用いて、製造者の指示書に従ってトランスフェクションを行なう。SiCONTROL(商標)Non−Targeting siRNA #1およびsiCONTROL(商標)Cyclophilin B siRNA(Dharmacon)は、それぞれ負の対照および正の対照として用いられる。標的mRNAレベルおよびシクロフィリンB mRNA(PPIB,NM_000942)レベルは、たとえば好ましくは標的部位が重複したTAQMAN(登録商標)Gene Expression Assay(Applied Biosystems,Foster City,CA)を用いて、トランスフェクションの24時間後にqPCRによって評価される。トランスフェクション効率が100%のとき、正の対照siRNAはシクロフィリンB mRNAの本質的に完全なノックダウンを与える。したがって、シクロフィリンB siRNAでトランスフェクションされた細胞におけるシクロフィリンB mRNAレベルを参照して、標的mRNAノックダウンをトランスフェクション効率に対して修正する。標的タンパク質レベルは、たとえばウエスタンブロットによってトランスフェクションの約72時間後(実際の時間はタンパク質の代謝回転速度によって変わる)に評価されてもよい。培養細胞からのRNAおよび/またはタンパク質単離のための標準的な技術は当業者に周知である。非特異的なオフターゲットの影響がもたらされる機会を減らすために、標的遺伝子発現において所望レベルのノックダウンを生じる可能な最も低濃度の干渉RNAが用いられる。内在性標的遺伝子のノックダウンレベルに対する干渉RNAの能力を評価するために、ヒト角膜上皮細胞またはその他のヒトの眼の細胞系も用いられてよい。
【0044】
特定の実施形態において、干渉RNA分子−リガンド結合体は、眼の障害に関連する遺伝子を標的とする干渉RNA分子を含む。本発明の干渉RNAが標的とするように設計されているmRNA標的遺伝子の例は、網膜に影響する障害に関連する遺伝子、緑内障に関連する遺伝子、および眼の炎症に関連する遺伝子を含む。
【0045】
網膜の障害に関連するmRNA標的遺伝子の例は、チロシンキナーゼ、内皮(tyrosine kinase,endothelial:TEK);補体因子B(complement factor B:CFB);低酸素誘導因子1、αサブユニット(hypoxia−inducible factor 1,α subunit:HIF1A);HtrAセリンペプチダーゼ1(HtrA serine peptidase 1:HTRA1);血小板由来成長因子受容体β(platelet−derived growth factor receptor β:PDGFRB);ケモカイン、CXCモチーフ、受容体4(chemokine,CXC motif,receptor 4:CXCR4);インスリン様成長因子I受容体(insulin−like growth factor I receptor:IGF1R);アンジオポエチン2(angiopoietin 2:ANGPT2);v−fos FBJネズミ骨肉腫ウイルス癌遺伝子相同体(FOS);カテプシンL1、転写物変異体1(cathepsin Ll,transcript variant 1:CTSL1);カテプシンL1、転写物変異体2(CTSL2);細胞内接着分子1(intracellular adhesion molecule 1:ICAM1);インスリン様成長因子I(IGF1);インテグリンα5(integrin α5:ITGA5);インテグリンβ1(integrin β1:ITGB1);核性因子カッパ−B、サブユニット1(nuclear factor kappa−B,subunit 1:NFKB1);核性因子カッパ−B、サブユニット2(NFKB2);ケモカイン、CXCモチーフ、リガンド12(chemokine,CXC motif,ligand 12:CXCL12);腫瘍壊死因子アルファ―変換酵素(tumor necrosis factor−alpha−converting enzyme:TACE);およびキナーゼ挿入ドメイン受容体(kinase insert domain receptor:KDR)を含む。
【0046】
緑内障に関連する標的遺伝子の例は、炭酸脱水酵素II(carbonic anhydrase II:CA2);炭酸脱水酵素IV(CA4);炭酸脱水酵素XII(CA12);β1アドレナリン作用受容体(β1 andrenergic receptor:ADBR1);β2アドレナリン作用受容体(ADBR2);アセチルコリンエステラーゼ(acetylcholinesterase:ACHE);Na+/K+− ATPアーゼ;溶質運搬体ファミリー12(ナトリウム/カリウム/塩化物トランスポーター)、メンバー1(solute carrier family 12(sodium/potassium/chloride transporters),member 1:SLC12A1);溶質運搬体ファミリー12(ナトリウム/カリウム/塩化物トランスポーター)、メンバー2(SLC12A2);結合組織成長因子(connective tissue growth factor:CTGF);血清アミロイドA(serum amyloid A:SAA);分泌型frizzled関連タンパク質1(secreted frizzled−related protein 1:sFRP1);グレムリン(gremlin:GREM1);リシルオキシダーゼ(lysyl oxidase:LOX);c−Maf;rho関連コイルドコイル含有プロテインキナーゼ1(rho−associated coiled−coil−containing protein kinase 1:ROCK1);rho関連コイルドコイル含有プロテインキナーゼ2(ROCK2);プラスミノーゲン活性化因子阻害因子1(plasminogen activator inhibitor 1:PAI−1);内皮分化、スフィンゴ脂質G−タンパク質共役受容体、3(endothelial differentiation,sphingolipid G−protein−coupled receptor,3:Edg3 R);ミオシリン(myocilin:MYOC);NADPHオキシダーゼ4(NADPH oxidase 4:NOX4);プロテインキナーゼCδ(Protein Kinase Cδ:PKCδ);アクアポリン1(Aquaporin 1:AQP1);アクアポリン4(AQP4);補体カスケードのメンバー;ATPアーゼ、H+輸送、リソソームV1サブユニットA(ATPase,H+ transporting,lysosomal V1 subunit A:ATP6V1A);ギャップ結合タンパク質α−1(gap junction protein α−1:GJA1);ホルミルペプチド受容体1(formyl peptide receptor 1:FPR1);ホルミルペプチド受容体様1(formyl peptide receptor−like 1:FPRL1);インターロイキン8(interleukin 8:IL8);核性因子カッパ−B、サブユニット1(NFKB1);核性因子カッパ−B、サブユニット2(NFKB2);プレセニリン1(presenilin 1:PSENl);腫瘍壊死因子アルファ―変換酵素(TACE);トランスフォーミング成長因子β2(transforming growth factor β2:TGFB2);一過性受容器電位カチオンチャネル、サブファミリーV、メンバー1(transient receptor potential cation channel,subfamily V,member 1:TRPV1);塩素イオンチャネル3(chloride channel 3:CLCN3);ギャップ結合タンパク質α5(GJA5);およびキチナーゼ3様2(chitinase 3−like 2:CHI3L2)を含む。
【0047】
眼の炎症に関連するmRNA標的遺伝子の例は、腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリー、メンバー1A(tumor necrosis factor receptor superfamily,member 1A:TNFRSF1A);ホスホジエステラーゼ4D、cAMP特異的(phosphodiesterase 4D,cAMP−specific:PDE4D);ヒスタミン受容体H1(histamine receptor H1:HRH1);脾臓チロシンキナーゼ(spleen tyrosine kinase:SYK);インターロイキン1β(IL1B);核性因子カッパ−B、サブユニット1(NFKB1);核性因子カッパ−B、サブユニット2(NFKB2);および腫瘍壊死因子アルファ―変換酵素(TACE)を含む。
【0048】
こうした標的遺伝子は、たとえば米国特許出願の公開番号第20060166919号、第20060172961号、第20060172963号、第20060172965号、第20060223773号、第20070149473号、および第20070155690号に記載されており、これらの開示はその全体にわたり引用により援用される。
【0049】
特定の実施形態において、本発明は患者の眼内圧を下げるための眼の医薬組成物を提供し、この医薬組成物は、眼に許容できる担体中に治療上有効な量の干渉RNA分子を発現できる自己相補的なアデノ随伴ウイルス(scAAV)ベクターを含み、この干渉RNA分子は眼の障害に関連する遺伝子の発現を低減できる。scAAVベクターはscAAVビリオン中にパッケージングされてもよい。
【0050】
本発明の医薬組成物は好ましくは、干渉RNAまたはその塩を最高で99重量%含み、生理学的に許容できる担体媒質、たとえば以下に記載されるものおよび水、緩衝液、食塩水、グリシン、ヒアルロン酸、マンニトールなどと混合された調合物である。
【0051】
本発明の干渉RNAを含むscAAVベクターまたは医薬組成物は、溶液、懸濁液またはエマルションとして投与されてもよい。以下は、本発明の方法において用いられ得る医薬組成物調合物の例である。
【0052】
【化1】

【0053】
【化2】

本明細書で用いられる「治療上有効な量」という用語は、哺乳動物において治療的応答を生じると判定される干渉RNAまたは干渉RNAを含む医薬組成物の量を示す。こうした治療上有効な量は、当業者によって本明細書に記載される方法を用いて容易に確定される。
【0054】
一般的に、本発明の干渉RNAの治療上有効な量によって、標的細胞の表面における細胞外濃度は100pMから1μM、または1nMから100nM、または5nMから約50nM、または約25nMとなる。この局所濃度を達成するために必要な用量は、送達方法、送達部位、送達部位と標的細胞または組織との間の細胞層の数、送達が局所的か全身的かなどを含む多数の因子によって変動する。送達部位における濃度は、標的細胞または組織の表面での濃度よりもかなり高くなってもよい。熟練した臨床医のルーチン的判断に従って、局所組成物が眼などの標的器官の表面に1日1回から4回送達されても、または延長された送達スケジュールによって、たとえば毎日、毎週、隔週、毎月、またはそれより長く送達されてもよい。調合物のpHは約pH4.0から約pH9.0、または約pH4.5から約pH7.4である。
【0055】
調合物の治療上有効な量は、たとえば対象の年齢、人種および性別、標的遺伝子転写物/タンパク質の代謝回転速度、干渉RNAの効力、および干渉RNAの安定性などの因子に依存し得る。実施形態の1つにおいて、干渉RNAを含むscAAVベクターは標的器官に局所的に送達されて、治療的用量で小柱網、網膜または視神経乳頭などの標的mRNA含有組織に到達することによって、標的遺伝子が関わる疾患プロセスを改善する。
【0056】
標的mRNAに向けられた干渉RNAによる患者の治療処置は、作用の持続時間を増やして投薬の頻度を減らして患者コンプライアンスを大きくすることによって、および標的特異性を上げて副作用を減らすことによって、小分子処置を超えて有益になることが期待される。
【0057】
本明細書で用いられる「眼に許容できる担体」とは、たいていの場合、眼にほとんどまたはまったく刺激をもたらさず、必要であれば好適な保存状態を提供し、かつ本発明の1つまたは複数の干渉RNAを同質の用量で送達する担体を示す。本発明の実施形態の干渉RNAの投与に対して許容できる担体は、カチオン性脂質ベースのトランスフェクション試薬のTransIT(登録商標)−TKO(Mirus Corporation,Madison,WI)、LIPOFECTIN(登録商標)、Lipofectamine、OLIGOFECTAMINE(商標)(Invitrogen,Carlsbad,CA)またはDHARMAFECT(商標)(Dharmacon,Lafayette,CO);ポリエチレンイミンなどのポリカチオン;カチオン性ペプチド、たとえばTat、ポリアルギニンまたはPenetratin(Antpペプチド);ナノ粒子;またはリポソームを含む。リポソームは、標準的な小胞形成脂質およびコレステロールなどのステロールから形成され、たとえば細胞表面抗原に対する結合親和性を有するモノクローナル抗体などのターゲティング分子を含んでもよい。さらに、リポソームはペグ化リポソームであってもよい。
【0058】
本発明の干渉RNAを含むscAAVベクターまたは医薬組成物は、溶液、懸濁液、または生物侵食性(bioerodible)もしくは非生物侵食性の送達装置にて送達されてもよい。本発明の干渉RNAを含むscAAVベクターまたは医薬組成物は、たとえばエアロゾル投与、頬側投与、皮膚投与、皮内投与、吸入投与、筋内投与、鼻腔内投与、眼内投与、肺内投与、静脈内投与、腹膜内投与、経鼻投与、経眼投与、経口投与、経耳投与、非経口投与、パッチ投与、皮下投与、舌下投与、局所投与、または経皮投与を介して送達されてもよい。
【0059】
特定の実施形態において、干渉RNA分子による眼の障害の処置は、本発明の干渉RNAを含むscAAVベクターまたは医薬組成物を眼に直接投与することによって達成される。眼への局所投与は、以下を含む多くの理由によって有利である:全身的送達よりも用量を小さくでき、この分子が眼以外の組織で遺伝子標的をサイレンシングする機会が減る。
【0060】
多くの研究によって、干渉RNA分子の眼へのインビボ送達が成功し効果的であったことが示されている。たとえばKimらは、VEGF経路遺伝子を標的とするsiRNAの結膜下注射および全身的送達によって、マウスの眼の新脈管生成が阻害されたことを示した(Kim et al.,2004,Am.J.Pathol.165:2177−2185)。加えて、硝子体腔に送達されたsiRNAは眼全体に拡散でき、注射の5日後まで検出可能であることが研究によって示されている(Campochiaro,2006,Gene Therapy 13:559−562)。
【0061】
scAAVベクターのヒト小柱網(TM)細胞への効果的なインビボ形質導入も研究によって示されている。たとえばBorrasらは、scAAVベクターを用いて、解離HTM細胞および死後のドナーからのインタクトな組織におけるTMの形質導入を達成できたことを示した(Borras et al.,2006,J Gene Med :589−602)。
【0062】
本発明の干渉RNAを含むscAAVベクターまたは医薬組成物は、眼組織注射、たとえば眼周囲への注射、結膜への注射、テノン嚢下注射、前房内への注射、硝子体内注射、眼内注射、網膜下注射、結膜下注射、眼球後注射、または小管内注射によって;カテーテルまたはその他の配置装置、たとえば網膜ペレット、眼内挿入、坐薬、または多孔性、非多孔性もしくはゼラチン状の材料を含む移植片を用いた眼への直接適用によって;局所的な点眼薬または軟膏によって;または盲嚢中にあるか、強膜に近接して移植される(経強膜)か、強膜中に移植される(強膜内)か、もしくは眼の中に移植される徐放性装置(slow release device)によって、眼に直接送達されてもよい。前房内への注射は、薬剤が角膜を通って前房に入ることによって、小柱網への到達を可能にすることができる。小管内注射は、シュレム管を排出する静脈の集合チャネル(collector channels)に入るか、またはシュレム管に入ってもよい。
【0063】
眼への送達のために、本発明の干渉RNAを含むscAAVベクターまたは医薬組成物は、眼に許容できる保存剤、共溶媒、界面活性剤、増粘剤、浸透促進剤、緩衝液、塩化ナトリウム、または水と組合されて、水性で無菌の眼科用懸濁液または溶液を形成してもよい。溶液調合物は、本発明の干渉RNAを含むscAAVベクターまたは医薬組成物を、生理学的に許容できる等張性の水性緩衝液に溶解することによって調製されてもよい。さらにこの溶液は、本発明の干渉RNAを含むscAAVベクターまたは医薬組成物の溶解を助けるために、許容できる界面活性剤を含んでもよい。粘度上昇剤、たとえばヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどを本発明の組成物に加えることで、化合物の保持を改善してもよい。
【0064】
無菌の眼軟膏調合物を調製するために、本発明の干渉RNAを含むscAAVベクターまたは医薬組成物は、ミネラルオイル、液体ラノリン、または白色ワセリンなどの適切な媒体中の保存剤と組合される。無菌の眼ゲル調合物は、当該技術分野において公知の方法に従って、たとえばCARBOPOL(登録商標)−940(BF Goodrich,Charlotte,NC)などの組合せから調製される親水性塩基に干渉RNAを懸濁することによって調製されてもよい。たとえば、VISCOAT(登録商標)(Alcon Laboratories,Inc.,Fort Worth,TX)が眼内注射に用いられてもよい。本発明の他の組成物は、万一、干渉RNAが眼に浸透しにくい場合には、cremephorおよびTWEEN(登録商標)80(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、Sigma Aldrich,St.Louis,MO)などの浸透促進剤を含有してもよい。
【0065】
特定の実施形態において、本発明は、細胞中で本明細書に挙げられるとおりのmRNAの発現を低減させるための試薬を含むキットも提供する。このキットは、眼の障害に関連する遺伝子の発現を低減できる干渉RNA、および/またはscAAVベクター、および/またはscAAVベクター生成のために必要な構成要素(例、パッケージング細胞系、ならびにウイルスベクター鋳型を含むベクターおよびパッケージングのための付加的なヘルパーベクター)を含む。キットは、正および負の対照siRNAまたはshRNA発現ベクター(例、非ターゲティング対照siRNAまたは無関係のmRNAを標的とするsiRNA)も含んでいてもよい。キットは、意図される標的遺伝子のノックダウンを評価するための試薬(例、標的mRNAを検出するための定量的PCRに対するプライマおよびプローブ、および/またはウエスタンブロットのための対応タンパク質に対する抗体)も含んでいてもよい。代替的には、キットはsiRNA配列またはshRNA配列、ならびにインビトロ転写によってsiRNAを生成するかまたはshRNA発現ベクターを構築するために必要な指示書および材料を含んでもよい。
【0066】
容器媒体を厳重に閉じ込めて収容する適合された担体媒体と、干渉RNA組成物およびscAAVベクターを含む最初の容器媒体とをパッケージングされた組合せで含む、キット形式の医薬的組合せがさらに提供される。当業者に容易に明らかとなるとおり、こうしたキットは所望であれば、さまざまな従来の医薬キット構成要素の1つまたは複数、たとえば1つもしくは複数の医薬的に許容できる担体を有する容器、付加的な容器などをさらに含んでもよい。キットには、投与される構成要素の量、投与のための指針、および/または構成要素を混合するための指針を示す、挿入物またはラベルとしての印刷された指示書も含まれていてもよい。
【0067】
本明細書に引用される参考文献は、本明細書に示されるものの例示的手順またはその他の詳細の補足を与える程度まで、特定的に引用により援用される。
【0068】
当業者は本開示に照らして、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本明細書に開示される実施形態の明らかな修正を行ない得ることを認めるであろう。本明細書に開示されるすべての実施形態は、本開示に照らして過度の実験なしに作成および実行できる。本開示およびそれと同等の実施形態には、本発明のすべての範囲が示されている。本明細書は、本発明が権利を有する保護のすべての範囲を不当に狭くするものと解釈されるべきではない。
【0069】
前述の開示は本発明のある特定の実施形態を強調したものであり、それと同等のすべての修正形または代替形は、添付の特許請求の範囲に示されるとおりの本発明の精神および範囲内にあることが理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の眼における標的mRNAの発現を低減させる方法であって、
(a)干渉RNA分子を含む自己相補的なアデノ随伴ウイルス(scAAV)ベクターを与えるステップと;
(b)該scAAVベクターを該患者の眼に投与するステップと
を含み、該干渉RNA分子は該眼における該標的mRNAの発現を低減できる、方法。
【請求項2】
前記scAAVベクターはscAAVビリオン中にパッケージングされる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ベクターは、眼内注射、眼への局所適用、静脈内注射、経口投与、筋内注射、腹腔内注射、経皮適用、または経粘膜適用によって投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記干渉RNA分子は、siRNA、miRNA、またはshRNAである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記標的mRNAは眼の障害に関連する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記眼の障害は、眼の血管新生、ドライアイ、眼の炎症状態、高眼圧または緑内障に関連する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
治療上有効な量の干渉RNA分子および眼に許容できる担体を有する自己相補的なアデノ随伴ウイルス(scAAV)ベクターを含む医薬組成物であって、該干渉RNA分子は眼の障害に関連する遺伝子の発現を低減できる、医薬組成物。
【請求項8】
前記scAAVベクターはscAAVビリオン中にパッケージングされる、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記干渉RNA分子は、siRNA、miRNA、またはshRNAである、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記眼の障害は、眼の血管新生、ドライアイ、眼の炎症状態、高眼圧または緑内障に関連する、請求項7に記載の方法。

【公表番号】特表2010−540564(P2010−540564A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−527251(P2010−527251)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【国際出願番号】PCT/US2008/078380
【国際公開番号】WO2009/046059
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(508185074)アルコン リサーチ, リミテッド (160)
【Fターム(参考)】