説明

自己組織化により生成する機能性高分子超微粒子とその製法

【課題】微粒子自体が物質変換に関わるという機能を有した高分子超微粒子を得ることを目的とする。すなわち、本発明は医薬品、化粧品、染料、塗料などの製造に適用できる微粒子自体が物質変換に関わるなどの機能を有した高分子超微粒子を得ることを目的とする。
【解決手段】酸化還元系を形成する化合物を側鎖官能基として持つブロック共重合体を酸化剤と反応させることにより種々の化合物に対して変換機能をもつ数十ナノメートルの球状高分子超微粒子が得られることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬品、化粧品、染料、塗料などの製造に適用できる物質変換機能を有する高分子超微粒子に関する。

【背景技術】
【0002】
特開平2005−190732とか特開平2005−14419に見られるように、ミセル形成により高分子超微粒子を得る方法は、粒径分布の狭いナノスケールの高分子超微粒子を得る方法として従来から用いられている。しかし、従来法で得られる高分子超微粒子には、粒子自体が物質変換に関わるという機能はない。
【0003】
すなわち、従来のミセル形成法によって得られる高分子超微粒子には、以下のような課題が存在する。
1)合成法が限られている
2)粒子自身が各種機能を有するものではない
3)従って微粒子内での物質変換機能は有しない
4)微粒子内に物質を安定に保持できない
【0004】
【特許文献1】特許公開公報 特開平2005−190732
【特許文献2】特許公開公報 特開平2005−14419
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、微粒子自体が物質変換に関わるという機能性を有した高分子超微粒子を得ることを目的とする。すなわち、本発明は医薬品、化粧品、染料、塗料などの製造に適用できる物質変換機能を有する高分子超微粒子を得ることを目的とする。

【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、酸化還元系を形成する化合物を側鎖官能基として持つブロック共重合体を特定の酸化剤と反応させることにより種々の化合物に対して変換機能をもつ数十ナノメートルの球状高分子超微粒子が得られることを見出し、本発明を完成した。

【0007】
すなわち、下記一般式(1)で表されるブロック共重合体に特定の酸化剤を作用させることにより、該ブロック共重合体が凝集してミセルを形成してなる高分子超微粒子を得ることにより達成される。
一般式(1)
【化2】

一般式(1)中、R:エーテル基、エステル基、もしくは炭酸エステル基、R:重合開始剤残基、R:アルキル基、アリール基、エーテル基、エステル基、もしくは炭酸エステル基、m及びn:該ブロック共重合体における各ブロックの重合度

【0008】
また本発明の好ましい態様によれば、前記特定の酸化剤がCl、Br、Cu(NO、Cu(ClO、Fe(NO、Fe(ClOのうちのいずれかである、もしくはいずれかを含む組成物であることにより一般式(1)で示されるブロック共重合体が凝集してミセルを形成してなる高分子超微粒子が得られることにより達成される。

【0009】
さらに、前記ブロック共重合体中のポリスチレン誘導体1のセグメントと、4−ヒドロキシ−TEMPOとを反応させてなる一般式(1)で示されるブロック共重合体が特定の酸化剤を作用させることにより、凝集してミセルを形成してなる高分子超微粒子が得られることにより達成される。
【0010】
アルコールやアミン類、電子豊富な不飽和化合物に対して酸化剤や触媒といった反応試剤としての機能をもつことを特徴とする前記一般式(1)で表されるブロック共重合体に特定の酸化剤を作用させることにより、該ブロック共重合体が凝集してミセルを形成してなる高分子超微粒子を得ることにより達成される。

【0011】
高分子微粒子が構成するミセル内で物質転換に関わる種々の反応が起こることを特徴とする前記一般式(1)で表されるブロック共重合体に特定の酸化剤を作用させることにより、該ブロック共重合体が凝集してミセルを形成してなる高分子超微粒子を得ることにより達成される。

【0012】
高分子微粒子が構成するミセル内の反応によって生成した化合物を該ミセル内に保持できることを特徴とする前記一般式(1)で表されるブロック共重合体に特定の酸化剤を作用させることにより、該ブロック共重合体が凝集してミセルを形成してなる高分子超微粒子を得ることにより達成される。

【発明の効果】
【0013】
本発明により、物質変換機能を有する数十ナノメートルの球状高分子超微粒子を製造することができる。すなわち、該高分子超微粒子は微粒子内でさまざまな物質変換反応を起こすことが可能であるとともに、その反応によって生成する化合物を微粒子内に安定に保持できる。さらに該高分子超微粒子は、適当な酸化還元反応操作により元のブロック共重合体に再転換できるなど、従来の高分子では達成できない機能を持っている。

【0014】
本発明で製造される高分子超微粒子は、該ブロック共重合体の組成比や分子量の選択により粒子の大きさを制御することができる。また、微粒子内でさまざまな物質変換を行うことができるとともに、それによって生成する化合物を微粒子内に安定に保持することが可能である。この技術は、有害物質を微粒子内に取り込むと同時に微粒子内で分解し、さらにそれらを微粒子内に保持して安定に廃棄できるという技術に応用できる。また、不安定で合成や使用が困難な機能性物質に対しても微粒子内で合成し粒子内に保持することで、これらの物質の機能を安定化させることができる。本発明の成果は、触媒、接着、吸着、脱臭、光エネルギー変換・蓄積、光捕集、磁性、誘電性など、さまざまな機能性物質に応用することが可能である。一方、条件の選択によっては生成する機能性物資を微粒子の外に放出することも可能である。このことから、この高分子超微粒子は医薬や農薬の分野でも重要な技術展開を図る道具として機能することが期待できる。

【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の高分子超微粒子は前記一般式(1)で表されるブロック共重合体に特定の酸化剤を作用させることにより生成するが、該ブロック共重合体は図1に示す反応経路で合成することができる。すなわち、下記一般式(2)で示されるスチレン誘導体に、ラジカル重合開始剤として4−メトキシ−TEMPOを作用させると、下記一般式(3)で示されるポリスチレン誘導体1が生成する。該ポリスチレン誘導体1にスチレン誘導体2を重合させることにより、下記一般式(4)で表されるブロック共重合体が得られる。該ブロック共重合体と4−ヒドロキシ− TEMPOを反応させることにより、前記一般式(1)で表されるブロック共重合体が得られる。ここでTEMPOは、安定ニトロキシルラジカルである2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルの略号である。
一般式(2)
【化3】

一般式(2)中、R:ハロベンジル、酸ハロゲン化物、カルボン酸、エステル、もしくは炭酸エステルを有する官能基

一般式(3)
【化4】

一般式(3)中、R:ハロベンジル、酸ハロゲン化物、カルボン酸、エステル、もしくは炭酸エステルを有する官能基R:開始剤残基

一般式(4)
【化5】

一般式(4)中、R:開始剤残基、R:アルキル基、アリール基、エーテル基、エステル基、もしくは炭酸エステル基、

【0016】
前記一般式(1)で表されるブロック共重合体を溶解させた塩素系溶液に特定の酸化剤を室温で添加し、5〜10分間程度撹拌すると本発明の高分子超微粒子が得られる。ここで特定の酸化剤としてはCl、Br、Cu(NO、Cu(ClO、Fe(NO、Fe(ClOのうちのいずれか、もしくはいずれかを含む組成物が用いられる。図2は、該ブロック共重合体が酸化剤により酸化されて微粒子を形成する反応を示す。

【0017】
本発明で得られる高分子超微粒子の特徴を以下に列挙する。
1)本発明で得られる高分子超微粒子は数十ナノメートルの球状粒子である
2)種々の反応が微粒子の内部で起こる
3)高分子超微粒子による反応によって生成した化合物を微粒子の内部に安定保持できる
4)高分子超微粒子がブロック共重合体に戻る

【0018】
ここで本発明の高分子微粒子の機能発現の例を図3に示すが、本発明の高分子微粒子の機能発現はこの例にとどまらない。図3は、本発明に基づく高分子微粒子がアミノ化合物に作用し、アミノ化合物のラジカルカチオン塩を生成するとともに、該高分子微粒子は前記一般式(1)で表されるブロック共重合体に戻ったことを示す。すなわち、該高分子微粒子が適当な酸化還元反応操作により元のブロック共重合体に再転換することを示す。

【実施例1】
【0019】
前記一般式(1)で表される化合物のうち、Rがメチレン基、Rがベンゾイル基、Rが水素原子のものについてについて、下記の操作により合成を行った。4−クロロメチルスチレン(19.5g)、過酸化ベンゾイル(390mg)、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピぺリジン−1−オキシル(360mg)をアンプルに入れて脱気後、真空中で封管した。その封管をオイルバス中で撹拌しながら125°Cで5時間重合を行い、液体窒素で重合を停止させた。生成物を塩化メチレンに溶解させたのち、メタノールに沈殿させて生成ポリマーを単離し、真空乾燥してクロロメチルスチレンポリマー(16.4g)を得た。このポリマー(2.39g)とスチレン(8.18g)をアンプルに入れ、上記操作と同様にして脱気封管し、125°Cで18時間重合を行った。生成物を塩化メチレンに溶解し、メタノールに沈殿後、真空乾燥してポリクロロメチルスチレンとポリスチレンのブロック共重合体(9.45g)を得た。この共重合体(1g)をジメチルホルムアミド溶液(7mL)に溶解し、この溶液を、別途に調整した4−ナトリウムオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピぺリジン−1−オキシルのジメチルホルムアミド溶液(4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピぺリジン−1−オキシル(543mg)と水素化ナトリウム(153mg)をジメチルホルムアミド溶液(10mL)中で混合、撹拌することにより合成)に0°Cで添加し、その後、室温で15時間反応させた。反応溶液をメタノールに滴下してポリマーを単離した。このポリマーを塩化メチレンに溶解し、メタノールへの再沈澱を繰り返すことにより、ポリマーを精製し、真空乾燥することにより、目的とする前記一般式(1)で表される化合物、すなわち一般式(1)中、Rがメチレン基、Rがベンゾイル基、RがHであるブロック共重合体を893mg得た。ここで該ブロック共重合体について、一般式(1)中のm:n = 0.2:0.8、ポリクロロメチルスチレンブロック及びポリスチレンブロックの数平均分子量はそれぞれ3万と5万であった。
【0020】
また該ブロック共重合体のミセル形成を以下の操作で行った。該ブロック共重合体6mgを分取し、窒素を通すことにより脱気した四塩化炭素3.5mL中に溶解したのち、ミクロポーラスフィルターを通して反応容器に入れた。該溶液に、塩素ガス(0.18mL)を室温で加え、5分間室温で放置したところミセルが形成された。ここで、ミセルの生成は光散乱測定および透過型電子顕微鏡により確認した。光散乱測定により、図4に示すように粒子径が約50nmのミセルの生成が確認された。また図5に示すように、透過型電子顕微鏡によってもミセルの生成を確認した。一方、共重合体が塩素によって酸化されて微粒子を形成する際に起こる反応生成物、すなわち図2の生成ポリマーの確認は、電子スピン共鳴測定および紫外可視吸収スペクトルにより行われ、転化率97%で該ブロック共重合体が該生成ポリマーに変換されていることが確認された。
【実施例2】
【0021】
前記ブロック共重合体で形成されるミセルの酸化機能の評価を、N,N,N’,N’−テトラメチルフェニレンジアミン(以下TMPDと略す)を用いて行った。実施例1で確認されたミセルを含む上記ミセル溶液に、TMPD(88mg)を四塩化炭素2mLに溶解した溶液(30μL)を添加した結果、即座に反応して、TMPDの1電子酸化体である紫色のWurster’s blue(テトラメチルフェニレンジアミンのラジカルカチオン塩のことで、下記一般式(5)で表される)が得られた。この化合物は四塩化炭素には不溶であり、かつ四塩化炭素中では数分間で分解するが、この反応で得られたものは、ミセル内に可溶化して12時間以上安定であった。Wurster’s blueを可溶化しているのが、この酸化反応によりもとに戻った一般式(1)の化合物であることの確認は、電子スピン共鳴測定、透過型電子顕微鏡観察および光散乱測定により行った。透過型電子顕微鏡観察によって得られた結果を図6に示す。また光散乱測定によって得られた結果を図7に示す。
一般式(5)
【化6】

【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に基づくブロック共重合体を製造する工程の例
【図2】ブロック共重合体が酸化されて微粒子を形成する反応例
【図3】本発明に基づく高分子超微粒子の機能発現の例
【図4】光散乱測定による粒径分布測定結果を示す図(実施例1)
【図5】高分子超微粒子の電子顕微鏡写真(実施例1)
【図6】Wurster’s blueを含む高分子超微粒子の電子顕微鏡写真(実施例2)
【図7】光散乱測定による粒径分布測定結果を示す図(実施例2)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるブロック共重合体に特定の酸化剤を作用させることにより、該ブロック共重合体が凝集してミセルを形成してなる高分子超微粒子。
一般式(1)
【化1】

一般式(1)中、R:アルキレン基、アリール基、エーテル基、エステル基、もしくは炭酸エステル基、R:重合開始剤残基、R:アルキル基、アリール基、エーテル基、エステル基、もしくは炭酸エステル基、m及びn:該ブロック共重合体における各ブロックの重合度

【請求項2】
請求項1に記載の特定の酸化剤がCl、Br、Cu(NO、Cu(ClO、Fe(NO、Fe(ClOのうちのいずれか、もしくはいずれかを含む組成物である請求項1に記載の高分子超微粒子。

【請求項3】
請求項1に記載のブロック共重合体が、ポリスチレン誘導体1とポリスチレン誘導体2とからなるブロック共重合体に、4−ヒドロキシ−TEMPOを反応させてなる請求項1及び請求項2に記載の高分子超微粒子。

【請求項4】
アルコールやアミン類、電子豊富な不飽和化合物に対して酸化剤や触媒といった反応試剤としての機能をもつことを特徴とする請求項1,2,3に記載の高分子超微粒子。

【請求項5】
高分子微粒子が構成するミセル内で物質転換に関わる種々の反応が起こることを特徴とする請求項1,2,3に記載の高分子超微粒子。

【請求項6】
高分子微粒子が構成するミセル内の反応によって生成した化合物を該ミセル内に保持できることを特徴とする請求項1,2,3に記載の高分子超微粒子。

【請求項7】
請求項1に記載の特定の酸化剤がCl、Br、Cu(NO、Cu(ClO、Fe(NO、Fe(ClOのうちのいずれか、もしくはいずれかを含む組成物である請求項1に記載の高分子超微粒子の製造方法。

【請求項8】
請求項1に記載のブロック共重合体が、ポリスチレン誘導体1とポリスチレン誘導体2とからなるブロック共重合体に、4−ヒドロキシ−TEMPOを反応させてなる請求項1及び請求項2に記載の高分子超微粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−112997(P2007−112997A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−255225(P2006−255225)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【Fターム(参考)】