説明

自然冷媒用熱交換器に用いられるアルミニウム合金押出材

【課題】腐食環境下でも充分な耐食性を有すると同時に、強度の向上を図って充分な高温耐圧強度を有する自然冷媒用熱交換器に用いられるアルミニウム合金押出材を提供する。
【解決手段】 Si:0.05〜0.6wt%、Mn:0.5〜1.8wt%を含有し、Mn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)を2.6〜36とし、かつFe:0.1〜0.9wt%、を含有し、Cu:0.1wt%以下に規制し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成を有する合金は、Mn%/Si%比が所定に規定されかつCuが0.1wt%以下に規制された結果、腐食環境下でも極めて良好な耐食性を示すことができ、しかも高い高温耐圧強度を示すとともに、熱履歴後も高い室温強度を示すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、冷媒として二酸化炭素(CO)で代表される自然冷媒を用いた冷凍サイクルを組んだ熱交換器、例えばカーエアコンにおける高温高圧となったガス冷媒を冷却するためのガスクーラー(コンデンサ)等の熱交換器の構造部材に適用されるアルミニウム合金押出材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年に至り、冷凍装置における脱フロン対策として、冷媒として自然冷媒、代表的には二酸化炭素を用いた冷凍装置の開発が進められている。このような二酸化炭素を冷媒とする冷凍装置を用いたエアコンにおいては、従来の一般的な冷媒であるフロンを用いた場合とは異なる新たな要請に応える必要がある。
【0003】
すなわち、二酸化炭素を冷媒とするエアコン装置では、フロンを用いた場合よりも作動圧力が高く、圧縮した時の冷媒温度も高くなる。例えばコンプレッサの下流側において圧縮された二酸化炭素冷媒を冷却するためのガスクーラーでは、入口の冷媒温度が120〜200℃という高温となることがある。したがって、二酸化炭素を冷媒とする場合は、フロンを冷媒とする場合よりも高温高圧での耐久性が優れていることが強く望まれる。
【0004】
ところで、従来一般の熱交換器において、例えば冷媒を流通させるための冷媒流通穴を有するチューブ材、特にアルミニウム合金チューブ材としては、安価でかつ押出し加工性に優れたJIS1050合金で代表される純アルミニウム系合金を用いることが多い。しかるに、このような純アルミニウム系合金は、150℃以上の高温状態での強度低下が著しいため、二酸化炭素を冷媒として用いる場合には、その強度低下を補うべく、フロンを用いた場合よりもチューブ肉厚を著しく大きくして、その高温耐圧強度を高めることが行なわれている。
【0005】
しかしながら上述のように熱交換器のチューブ材を著しく肉厚化すれば、当然のことながら熱交換器の重量の増大を招き、特に軽量性が要求される自動車用のエアコンとしては不適切なものになってしまう。
【0006】
このような問題を解決するための方法としては、チューブ、タンクなどに用いるアルミニウム合金に、材料強度の向上に寄与する元素、すなわち強化元素を添加してアルミニウム合金自体の強度、特に高温強度を高めて薄肉でも高温耐圧強度の高いチューブ、タンクなどの材料を得る試みがなされている。ここで、アルミニウム合金における強化元素としては種々のものがあるが、簡単に強化するための元素としては、固溶強化による強度向上に寄与するCuがあり、そこで、チューブ、タンクなどの材料のアルミニウム合金として従来よりもCuを多量に添加するものを用いる試みがなされている(特許文献1参照)。
【0007】
しかしながら、単純にCuを増量した場合には、次のような問題が生じることが判明した。すなわち前述のような120〜200℃もの高温の冷媒温度に曝されれば、Cuを多量に添加したアルミニウム合金では、粒界にCu―Al系金属間化合物が析出して、その粒界付近の固溶Cu量が減少して、Cu欠乏層が生じてしまう。このような材料が腐食環境に置かれれば、結晶粒界内のCu濃度の高い部分(Cuリッチ部)と粒界のCu欠乏層との間で電位差が生じて、粒界腐食が発生しやすくなる。そのため、Cuを多量に添加したアルミニウム合金では、良好な耐食性を保つことが困難であり、また押出チューブについては良好な押出性を得ることも困難である。
【0008】
一方、上述のようなCuの多量添加による粒界の腐食の問題を回避しつつ、強度向上を図るための方策としては、Cu添加をせずにSiを多く添加することも考えられ、特許文献2には不純物としてのCuを0.05%以下に規制し、Si:0.1〜1.2%含有させて、(Mn%/Si%)を0.7〜2.5に規制する熱交換器用アルミニウム合金押出材が提案された。
【特許文献1】特開平10−81930号公報
【特許文献2】特開2005−256166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、押出チューブの場合において、Siを多く添加した場合には、強度は向上するものの、晶出したSiにより押出しダイスの寿命を極端に低下させてしまうという新たな問題が発生する。またこのようにSiを添加したアルミニウム合金では、前述のような120℃〜200℃の高温の冷媒温度に曝された場合、曝される前の室温強度と比較して著しい強度低下を招き、また120℃を越える温度域での高温強度も顕著に低下してしまう問題もある。
【0010】
この発明は以上の事情を背景としてなされたもので、腐食環境下でも充分な耐食性を有すると同時に、強度の向上を図って充分な高温耐圧強度を有する自然冷媒用熱交換器に用いられるアルミニウム合金押出材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この出願の発明者等がアルミニウム合金押出チューブ材やタンク材の耐食性や強度、熱履歴後の強度と、合金成分組成との関係について詳細に実験・検討を重ねた結果、合金元素としてのSi、Fe、Mn、Cuの添加量を適切に調整し、特にMn%/Si%比を規定すること、Cuを0.1wt%以下に規制すること、さらにTi、V、Cr及びZrを適量だけ添加することによって、充分な耐食性を確保しつつ、高い高温耐圧強度、熱履歴後の強度が得られることを見出した。また、Mgにおいては製造法に合った適量を添加することが可能で、Mgを添加することで、さらに高い高温耐圧強度を確保できることを見出し、この発明をなすに至ったものである。
【0012】
具体的には、請求項1の発明の自然冷媒用熱交換器に用いられるアルミニウム合金押出材は、Si:0.05〜0.6wt%、Mn:0.5〜1.8wt%を含有し、Mn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)を2.6〜36とし、かつFe:0.1〜0.9wt%、を含有し、Cu:0.1wt%以下に規制し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成を有する合金であることを特徴とするものである。
【0013】
また請求項2の発明の自然冷媒用熱交換器に用いられるアルミニウム合金押出材は、Si:0.05〜0.6wt%、Mn:0.5〜1.8wt%を含有し、Mn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)を2.6〜36とし、かつFe:0.1〜0.9wt%、を含有し、さらにTi:0.05〜0.3wt%、V:0.05〜0.3wt%のうち一種又は二種を含有し、Cu:0.1wt%以下に規制し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成を有する合金であることを特徴とする。
【0014】
さらに請求項3の発明の自然冷媒用熱交換器に用いられるアルミニウム合金押出材は、Si:0.05〜0.6wt%、Mn:0.5〜1.8wt%を含有し、Mn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)を2.6〜36とし、かつFe:0.1〜0.9wt%、を含有し、さらにMg:0.05〜0.4wt%、Cr:0.05〜0.2wt%、Zr:0.05〜0.2wt%のうち一種又は二種以上を含有し、Cu:0.1wt%以下に規制し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成を有する合金であることを特徴とする。
【0015】
さらにこの発明の自然冷媒用熱交換器に用いられるアルミニウム合金押出材は外面に犠牲材を設ける様にしても良い。
【0016】
以上の本発明の自然冷媒用熱交換器に用いられるアルミニウム合金押出材は、120〜200℃の高温の熱履歴を受けた後でも充分な強度を維持し得る様にすることができ、120〜200℃の環境下で使用しても良い。
【発明の効果】
【0017】
この発明の自然冷媒用熱交換器に用いられるアルミニウム合金押出材によれば、腐食環境下でも極めて良好な耐食性を示すことができ、しかも高い高温耐圧強度を示すとともに、熱履歴後も高い室温強度を示すことができる。したがって二酸化炭素で代表される自然冷媒を用いた熱交換器における冷媒流通用の材料として、薄肉化しても充分な耐久性を示すことができ、カーエアコン等の苛酷な腐食環境下に曝される熱交換器の材料として最適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次にこの発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブ材やタンク材などの成分限定理由について説明する。
Mn:0.5〜1.8wt%
Mnは、ろう付け加熱後に母相中に固溶し、強度を高めるよう機能する。
さらにMnの添加はアルミニウム合金の電位を貴にするため、チューブ材の外面にフィンを設ける場合においてチューブ材にMnを添加しておけば、フィンとの電位差を大きくして、外部耐食性を向上させることができる。これらの効果を確実に得るためには0.8wt%以上のMnを添加する必要があり、望ましくは0.9wt%以上のMnを添加する。また、Mn量が1.8wt%を越えれば、製造性の低下を避け得なくなるおそれがあり、したがってMn量の上限は1.8wt%とした。より好ましいMn量の上限は1.5wt%とした。
【0019】
Si:0.05〜0.6wt%
Siは、ろう付け加熱後に母相中に固溶し、強度を高めるよう機能する。その効果を十分に発揮するために、下限を0.05wt%とする必要がある。しかし、Mnの添加により生成されるAl−Mn−Si系金属間化合物を生成することによって、固溶Mn量及び固溶Si量が低下し、強度低下を招く。特に120〜200℃程度の高温の冷媒温度に曝された場合には、曝される前の室温強度と比較して著しい室温強度の低下が生じるため、上限を0.6wt%とする必要がある。
【0020】
上記のMn及びSiの含有範囲において、Mn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)を2.6〜36とすることにより、120〜200℃程度の高温の状況下に曝された場合に生じるAl−Mn−Si系金属間化合物の生成を抑制でき、結果的に固溶Mn量及び固溶Si量が低下することによって、起こる強度低下を抑えられる。Mn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)のさらに好ましい範囲は、4.6〜36である。
【0021】
Fe:0.1〜0.9%
Feは金属間化合物として晶出もしくは析出して、ろう付け後の強度を向上させる。また、押出材の場合、FeはAl−Mn−Fe系もしくはAl−Mn−Fe−Si系の金属間化合物を形成することにより押出性を向上させる。これらのFe添加の効果を得るためには、0.1%以上のFe量とする必要がある。一方、過剰にFeが含有されれば、Feを含む金属間化合物が表面に晶出して腐食速度を速め、また押出性を低下させてしまう。このような過剰なFeの含有による悪影響を回避するためには、Fe量は0.9%以下とする必要がある。
【0022】
Cu:0.1%以下
次にCuを0.1%以下に規制する理由について説明する。
Cuを0.1%を越えて添加すれば、ろう付け加熱後に120〜200℃の高温に曝された場合に、粒界にCu―Al系金属間化合物が析出して、その粒界付近の固溶Cu量が減少して粒界腐食感受性が高くなり、著しく耐食性が低下するとともに、強度も低下してしまう。このような現象を回避するためには、Cu量を0.1%以下に規制する必要がある。さらに、より好ましくは0.05%未満に規制すると良い。
【0023】
選択元素のTi、V、Mg、Cr、Zrについては以下のようになる。
Ti:0.05〜0.3%,V:0.05〜0.3%
Ti及びVは、強度及び耐食性を向上させるのに寄与する。特に高温強度の向上に効果的である。 Ti及びVによる強度アップは固溶によるもので、TiやVは拡散速度が非常に小さいため、新たな析出が起こりにくく、高温強度の低下を抑制できる。また、Cuを0.1%に規制することにより、高温に曝された時の粒界腐食感受性を抑制することが可能であるが、TiやVを添加することにより、さらに耐食性を向上させることが出来る。
【0024】
すなわち、アルミニウム合金中に添加されたTi及びVは、その濃度の高い領域と濃度の低い領域とに分かれ、それらが板厚方向に交互に積層状に分布する。そして、Ti及びV濃度の低い領域がTi及びV濃度の高い領域よりも優先的に腐食することにより腐食形態が層状となり、その結果、板厚方向への腐食の進行が妨げられ、耐孔食性及び耐粒界腐食性が向上する。
【0025】
このような高温強度、耐孔食性、耐粒界腐食性向上の効果を充分に得るためには、0.05%以上のTi及びVが必要である。
また、0.3%を越えた量のTi及びVを添加すると鋳造時にTi系及びV系の粗大な化合物が晶出し、押出工程での製造性を著しく低下させてしまうためTi量及びV量を0.3%以下とする必要がある。
【0026】
Mg:0.05〜0.4%
Mgは、強度向上に寄与する。Mg量が0.05%以下であると、強度向上に寄与しなくなる。Mgを0.4%以下に規定する理由は、0.4%を越えると押出の際に面圧が上がるため著しく製造性を低下させるとともに、ろう付けの際、Mgがフラックスと反応してろう付性が低下するためである。
【0027】
Cr:0.05〜0.2%,Zr:0.05〜0.2%
Cr及びZrは、強度向上に寄与する。Cr量及びZr量が0.05%以下であると、強度向上に寄与しなくなる。Cr及びZrを0.2%以下に規定する理由は、0.2%を越えると押出の際に面圧が上がるため著しく製造性を低下させるためである。
【0028】
なお以上のような各成分の残部はAlおよび不可避的不純物とすれば良い。
この発明のアルミニウム合金押出材を製造するにあたっては、先ず前述の成分を目標として常法によりアルミニウム合金溶湯を溶製して、常法にしたがって例えばビレットに鋳造すれば良く、特にその方法が限定されるものではない。このようにして得られた鋳塊(ビレット)を用いて押出材を製造するにあたっては、鋳塊に均質化処理を施しておくことが望ましい。その後は、少なくとも押出し前に均熱化処理を施した後、押出しを行なえば良い。
【0029】
なお上記均質化処理および均熱化処理における加熱方法や加熱条件、加熱炉の構造等についても特に限定されるものではない。さらに上記押出しにおいては、押出し形状は特に限定されるものではないが、熱交換器の形状等に応じて適切な押出し形状が選定される。この押出しに際しては、材料の押出し性が良好であることから、ホロー形状のものを多孔ダイを用いて良好に押出しすることも可能である。また押出しに際しての押出し方法(方式)も特に限定されるものではなく、押出し形状等に合わせて適宜通常の方法を適用することができる。
【0030】
以上のようにして得られた上記押出材は、熱交換器用の材料として使用されるものであり、通常は冷媒(熱媒体)を流通させるタンク材やチューブ材として用いられる。
このような押出材は、熱交換器用部品として使用するに際して、他部材(例えばフィン材)と組付けて、ろう付けにより接合するのが一般的である。ここで、ろう付けに際にしての雰囲気や加熱温度、時間等の条件については特に限定されるものではなく、またろう付け方法も特に限定されない。このようにして得られる熱交換器は、タンク材やチューブ材が良好な押出性を有しているところから、効率的に製造することができるとともに、高耐圧特性を有しており、しかも良好な耐食性を有しているから、例えば厳しい腐食環境下で使用される自動車等においても、良好な耐久性を発揮することができる。特に、120〜200℃の環境下で使用される自然冷媒用熱交換器に用いられるアルミニウム合金押出材として最適である。
【0031】
なおこの発明の押出材は、これをそのまま熱交換器に使用しても良いが、場合によっては耐食性をより一層向上させるため、押出材の外表面に、押出材よりも電位が卑な材料からなる犠牲材を配置して犠牲材付き押出材とし、熱交換器に用いても良い。この場合の犠牲材としては、例えば金属Zn、Al−Zn合金等を用いることができる。またその犠牲材を押出材表面に形成するための具体的な方法、あるいは犠牲層の厚みなどは特に限定されるものではなく、従来の通常の熱交換器用の犠牲材付きアルミニウム合金材の場合と同様にすれば良い。
さらに、この発明の熱交換器用押出材は、冷媒流通穴として1つの穴を有するものに限られるものではなく、複数の冷媒流通穴を有する多穴チューブ形状としても良い。
【0032】
[実施例]
本発明例及び比較例の多穴チューブ材の作製
表1のNo.1〜No.21に示す成分組成のAl合金を常法により溶解・鋳造して、直径200mmのビレットを製造し、このビレットに610℃、4時間保持の条件で均質化処理を施し、長さ1000mmに切断して押出し用ビレットとした。これを再度500℃に加熱して、マンドレルダイスにて押出して5穴の多穴チューブ材を作製した。
【0033】
【表1】

【0034】
表1に示される様に本発明例であるNo.1〜No.14試験片のうち、No.1試験片にあってはSi含有量は0.05%、Fe含有量が0.1%、Cu含有量が0.04%、Mn含有量が1.8%、残部Al及び不可避不純物であり、Mn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)が36.0であった。
No.2試験片にあってはSi含有量は0.3%、Fe含有量が0.3%、Cu含有量が0.04%、Mn含有量が1.5%、残部Al及び不可避不純物であり、Mn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)が5.0であった。
No.3試験片にあってはSi含有量は0.1%、Fe含有量が0.3%、Cu含有量が0.1%、Mn含有量が1.2%、残部Al及び不可避不純物であり、Mn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)が12.0であった。
No.4試験片にあってはSi含有量は0.4%、Fe含有量が0.3%、Cu含有量が0.04%、Mn含有量が1.1%、残部Al及び不可避不純物であり、Mn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)が2.8であった。
No.5試験片にあってはSi含有量は0.35%、Fe含有量が0.3%、Cu含有量が0.04%、Mn含有量が0.9%、残部Al及び不可避不純物であり、Mn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)が2.6であった。
【0035】
No.6試験片にあってはSi含有量は0.2%、Fe含有量が0.9%、Cu含有量が0.04%、Mn含有量が1.1%、残部Al及び不可避不純物であり、Mn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)が5.5であった。
No.7試験片にあってはSi含有量は0.36%、Fe含有量が0.3%、Cu含有量が0.1%、Mn含有量が1.7%、残部Al及び不可避不純物であり、Mn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)が4.7であった。
したがって以上の本発明例No.1〜No.7試験片にあってこの発明請求項1の条件を充足する。
【0036】
No.8試験片にあってはSi含有量は0.25%、Fe含有量が0.3%、Cu含有量が0.04%、Mn含有量が1.2%、Ti含有量が0.2%、残部Al及び不可避不純物であり、Mn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)が4.8であった。
No.9試験片にあってはSi含有量は0.25%、Fe含有量が0.3%、Cu含有量が0.04%、Mn含有量が1.2%、V含有量が0.2%、残部Al及び不可避不純物であり、Mn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)が4.8であった。
【0037】
No.10試験片にあってはSi含有量は0.25%、Fe含有量が0.3%、Cu含有量が0.04%、Mn含有量が1.2%、Mg含有量が0.2%、残部Al及び不可避不純物であり、Mn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)が4.8であった。
No.11試験片にあってはSi含有量は0.25%、Fe含有量が0.3%、Cu含有量が0.04%、Mn含有量が1.2%、Cr含有量が0.15%、残部Al及び不可避不純物であり、Mn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)が4.8であった。
No.12試験片にあってはSi含有量は0.25%、Fe含有量が0.3%、Cu含有量が0.04%、Mn含有量が1.2%、Zr含有量が0.15%、残部Al及び不可避不純物であり、Mn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)が4.8であった。
【0038】
No.13試験片にあってはSi含有量は0.25%、Fe含有量が0.3%、Cu含有量が0.04%、Mn含有量が1.1%、V含有量が0.25%、残部Al及び不可避不純物であり、Mn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)が5.5であった。
【0039】
したがって以上の本発明例No.8、No.9、No.13試験片にあってはこの発明請求項1の条件を充足すると共に、Ti:0.05〜0.3wt%、V:0.05〜0.3wt%のうち一種又は二種を含有するというこの発明請求項2の条件を充足する。
また以上の本発明例No.10〜No.12試験片にあってはこの発明請求項1の条件を充足すると共に、Mg:0.05〜0.4wt%、Cr:0.05〜0.2wt%、Zr:0.05〜0.2wt%のうち一種又は二種以上を含有するというこの発明請求項3の条件を充足する。
【0040】
また比較例であるNo.14〜No.20試験片の中で、No.14試験片にあってはSi含有量は0.2%、Fe含有量が0.2%、Cu含有量が0.05%、Mn含有量が1.1%、Ti含有量が0.35%、残部Al及び不可避不純物であり、Mn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)が5.5であった。
No.15試験片にあってはSi含有量は0.2%、Fe含有量が0.2%、Cu含有量が0.05%、Mn含有量が1.1%、V含有量が0.35%、残部Al及び不可避不純物であり、Mn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)が5.5であった。
【0041】
さらにNo.16試験片にあってはSi含有量は0.5%、Fe含有量が0.5%、Cu含有量が0.05%、Mn含有量が1.1%、Mg含有量が0.45%、残部Al及び不可避不純物であり、Mn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)が2.2であった。
またNo.17試験片にあってはSi含有量は0.2%、Fe含有量が0.2%、Cu含有量が0.05%、Mn含有量が1.1%、Cr含有量が0.25%、残部Al及び不可避不純物であり、Mn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)が5.5であった。
【0042】
さらにNo.18試験片にあってはSi含有量は0.2%、Fe含有量が0.2%、Cu含有量が0.05%、Mn含有量が1.1%、Zr含有量が0.25%、残部Al及び不可避不純物であり、Mn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)が5.5であった。
またNo.19にあってはSi含有量が0.8%、Fe含有量が0.5%、Cu含有量が0.15%、Mn含有量が1.1%、残部Al及び不可避不純物であり、Mn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)が1.4であった。
【0043】
またNo.20にあってはSi含有量が0.5%、Fe含有量が0.2%、Cu含有量が0.15%、Mn含有量が0.90%、残部Al及び不可避不純物であり、Mn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)が1.8であった。
従来例であるNo.21にあってはSi含有量が0.5%、Fe含有量が0.4%、Cu含有量が0.15%、Mn含有量が1.1%、残部Al及び不可避不純物であり、Mn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)が2.2であった。
【0044】
したがって、No.14試験片にあってはTi含有量が0.35%であり、No.15試験片にあってはV含有量が0.35%であって、Ti:0.05〜0.3wt%、V:0.05〜0.3wt%のうち一種又は二種を含有するとするこの発明請求項2の条件を充足せず、また請求項1、3の条件も充足しない。
さらにNo.16試験片にあってはMg含有量が0.45%、No.17試験片にあってはCr含有量が0.25%、No.18試験片にあってはZr含有量が0.25%であり、Mg:0.05〜0.4wt%、Cr:0.05〜0.2wt%、Zr:0.05〜0.2wt%のうち一種又は二種以上を含有するとするこの発明請求項3の条件を充足せず、また請求項1、2の条件も充足しない。
【0045】
またNo.19にあってはSi含有量が0.8%、Cu含有量が0.15%であり、 Mn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)が1.4 であって、またNo.20にあってはCu含有量が0.15%、Mn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)が1.8 であって、Si:0.05〜0.6wt%、Mn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)を2.6〜36、Cu:0.1wt%以下とするこの発明各請求項の条件を充足しない。
従来例であるNo.21についてもCu含有量が0.15%、Mn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)が2.2であって、やはり Mn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)を2.6〜36、Cu:0.1wt%以下とするこの発明各請求項の条件を充足しない。
【0046】
実施例1:
表1に示す本発明例及び比較例の多穴チューブ材の表面を、サンドブラスト法によりRa10μm程度に粗面化した後、犠牲材として金属Znを溶射した。溶射方法はアーク溶射であり、溶射条件は、熱源温度4000℃、粒子速度75m/sとした。また金属Znの被覆量は約9g/mに制御した。このようにして金属Znを被覆した押出し多穴チューブを100mmの長さに切断した。
【0047】
一方、Znを2wt%添加したJIS3003合金にJIS4343合金を10%クラッドしたクラッドフィン(0.1mm)をコルゲート加工し、前記多穴チューブに組付け、図1に示す形状の組付け試験片を作成した。図1に示す組付け試験片はチューブ管1、2にフィン3を取り付けてなる。
次にこのようにして組付けた試験片について、窒素雰囲気中で、600℃×3分のろう付け加熱を行なった。その後さらに180℃×48hrの加熱履歴を与え、腐食試験片を作製した。
【0048】
これらの腐食試験片について、JIS H8601に準じてCASS試験を1500時間行なった。CASS試験後、試験片からフィンを切り離し、チューブの腐食生成物を除去後、光学顕微鏡を用いてチューブ材の孔食深さを測定した。また孔食部位については、チューブの断面を光学顕微鏡により観察した。
【0049】
表2中に、CASS試験結果および粒界腐食の有無を示す。また前述のようにして得られたチューブ材の強度を調べるとともに、ろう付性や押出性を評価したので、その結果も併せて表2中に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
本発明例のNo.1〜No.13の多穴チューブ材は、CASS試験1500時間後でも良好な耐食性を示した。これに対し比較例のNo.19、No.20及び従来例No.21では、チューブが貫通してしまった。さらに比較例のNo.14、No.15、No.17、No.18では、Ti、V、Cr、Zrの含有量が規定範囲を越えるため、押出しをすることができなかった。また、比較例のNo.16については孔食特性が低下するとともに、押出性やろう付性が低下した。
【0052】
実施例2:
表1に示す本発明例及び比較例の多穴チューブ材に窒素雰囲気中で600℃×3分のろう付け加熱を行ない、高温強度評価試験片を作製した。そして各高温強度特性評価試験片を、100℃、150℃、180℃の各温度に加熱して、それぞれ15分間保持した後、その温度で強度を測定した。その結果を表3に示す。
表3中 注1)を付した引張強度(MPa)は、加熱温度履歴を与えない状態の室温強度を示す。また 注2)を付した室温強度低下量(MPa)は、加熱温度履歴を与えない状態の室温強度と180℃の加熱履歴を2000hr与えた後の室温強度との差を示す。
【0053】
【表3】

【0054】
表3に示すように、本発明例のNo.1〜No.13の多穴チューブ材では、保持温度100℃、150℃、180℃の各温度での高温強度の低下が少ないが、比較例のNo.19、No.20及び従来例のNo.21では、Mn%/Si%比が規定範囲から外れるため、保持温度100℃、150℃、180℃の各温度での高温強度の低下が大きくなった。
【0055】
実施例3:
表1に示す本発明例及び比較例の多穴チューブ材に対し、窒素雰囲気中で600℃×3分のろう付け加熱を行なった。さらに180℃において、24hr、500hr、2000hrの種々の時間の加熱履歴を与え、強度特性評価試験片を作製し、各加熱履歴後に室温まで放冷した状態での室温強度を測定した。その結果を表4に示す。
表4中 注1)を付した引張強度(MPa)は、加熱温度履歴を与えない状態の室温強度を示す。また 注2)を付した高温保持後強度低下量(MPa)は、加熱温度履歴を与えない状態の室温強度と180℃の加熱履歴を2000hr与えた後の室温強度との差を示す。
【0056】
【表4】

【0057】
表4に示すように、本発明例のNo.1〜No.13の多穴チューブ材では、180℃における24hrから2000hrの加熱履歴後でも室温強度の大きな低下が認められなかったが、比較例のNo.19、No.20及び従来例のNo.21では、Mn%/Si%比が規定範囲から外れるため、加熱履歴が長時間側で室温強度の低下が認められた。比較例のNo.16についてはろう付性が著しく低下したため、強度測定を行わなかった。
【0058】
なお、以上の表1及び表3及び表4に示される様に、本発明例の中でNo.4試験片にあってはMn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)が2.8であり、またNo.5試験片にあってはMn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)が2.6であって、いずれも4.6未満であることから、他の本発明例に比して180℃の温度履歴後の強度低下量及び高温保持後の強度低下量が大きくなった。
【0059】
さらに、以上の表1及び表2に示される様に、No.3試験片及びNo.7試験片にあってはCu含有量が0.1%であり、いずれも0.05%を超える結果、他の本発明例に比して CASS試験後の最大孔食深さが深くなった。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施例において作成した組付け試験片の概念図。
【符号の説明】
【0061】
1,2・・・チューブ管、3・・・フィン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si:0.05〜0.6wt%、Mn:0.5〜1.8wt%を含有し、Mn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)を2.6〜36とし、かつFe:0.1〜0.9wt%、を含有し、Cu:0.1wt%以下に規制し、残部がAlおよび不可避不純物からなることを特徴とする自然冷媒用熱交換器に用いられるアルミニウム合金押出材。
【請求項2】
Si:0.05〜0.6wt%、Mn:0.5〜1.8wt%を含有し、Mn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)を2.6〜36とし、かつFe:0.1〜0.9wt%、を含有し、さらにTi:0.05〜0.3wt%、V:0.05〜0.3wt%のうち一種又は二種を含有し、Cu:0.1wt%以下に規制し、残部がAlおよび不可避不純物からなることを特徴とする自然冷媒用熱交換器に用いられるアルミニウム合金押出材。
【請求項3】
Si:0.05〜0.6wt%、Mn:0.5〜1.8wt%を含有し、Mn含有量とSi含有量との比(Mn%/Si%)を2.6〜36とし、かつFe:0.1〜0.9wt%、を含有し、さらにMg:0.05〜0.4wt%、Cr:0.05〜0.2wt%、Zr:0.05〜0.2wt%のうち一種又は二種以上を含有し、Cu:0.1wt%以下に規制し、残部がAlおよび不可避不純物からなることを特徴とする自然冷媒用熱交換器に用いられるアルミニウム合金押出材。
【請求項4】
外面に犠牲材が設けられる請求項1〜請求項3のいずれか一に記載の自然冷媒用熱交換器に用いられるアルミニウム合金押出材。


【図1】
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【公開番号】特開2008−208416(P2008−208416A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−45590(P2007−45590)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】