説明

自走車用エンジンの環境試験装置

【課題】
耐圧、断熱構造で建設される専用の環境試験室を必要とすることなくエンジン試験を行うことができる自走車用エンジンの環境試験装置を提供する。
【解決手段】
供試体たるエンジン1を収容できる温度、湿度の調整機3を設けてなる密閉可能な収容器1と、前記エンジン1における空気の吸気口1aに接続する温度、湿度の調整機6、7を設けてなる吸気系と、前記エンジン1における燃焼ガスの排気口1bに接続する排気系と、前記吸気系および排気系の気圧調整とともに、前記エンジン1における燃焼ガスを排気するブロワ17とで構成することにより、耐圧、断熱構造で建設される専用の環境試験室を必要とすることなくエンジン試験を行うことができる構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自走車用エンジンの環境試験装置に関し、より詳しくは、環境試験室といった大なる空間を有する専用の試験室(建屋)を必要とすることなくエンジン試験を行うことができる自走車用エンジンの環境試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、環境試験装置によって行われる自走車用エンジンのエンジン試験は、供試体たるエンジンを単体もしくは車輌に搭載した状態で環境試験室内に設置するとともに、この環境試験室内を、温度、湿度、気圧の各調整手段によって所望の環境に調整し、さらにこの環境試験室内に検査者が立ち入ってエンジン試験が行われる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、環境試験室は、この室内に車輌を持ち込んでエンジン試験を行えるように大なる空間を有しているので、エンジン試験の開始に際し、環境試験室内の温度、湿度、気圧が所定の環境値に調整されるまでに長時間を要することから、エンジン試験が開始できるまでの待ち時間が非常に長かった。
【0004】
また上述のように、環境試験室内が所定の環境値に調整されるまでに長時間を要することで、省エネルギー化の推進が奨励される今日においては、省エネルギー化に逆行する施設となっていた。
【0005】
そして、環境試験室(建屋)は、高地相当気圧すなわち環境試験室内を減圧状態にして行うエンジン試験の場合において、環境試験室(建屋)が外気圧に耐えられるよう耐圧構造にしているとともに、夏場に行う寒冷地相当気温すなわち環境試験室内を低温状態にして行うエンジン試験や、冬場に行う熱帯地相当気温すなわち環境試験室内を高温状態にして行うエンジン試験の場合において、環境試験室内の気温が外気温の影響を受けないよう断熱構造にもなっているので、環境試験室の建設に掛かる建設費用が高額であった。
【0006】
さらには、環境試験室内でエンジン試験を行う検査作業者においても、被試験エンジンとともに、空気を薄くした高地相当気圧(減圧)、気温を低くした寒冷地相当気温(低温度)、気温を高くした熱帯地相当気温(高温度)などに調整した室内でエンジン試験を行わなければならないので、環境試験室内を出入りする検査作業者の安全対策を講じる必要があった。
【0007】
【特許文献1】登録実用新案第3014252号公報(第1〜9頁、図1〜4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、環境試験室といった大なる空間を有する専用の試験室(建屋)を必要とすることなくエンジン試験を行うことができるようにして、上述する環境試験室でのエンジン試験に起因する問題点を払拭した自走車用エンジンの環境試験装置を提供できるようにした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、本発明に係る自走車用エンジンの環境試験装置は、供試体たるエンジンを収容できる温度、湿度の各調整手段を設けてなる密閉可能な収容部材と、前記エンジンの空気吸気口に接続する温度、湿度の各調整手段を設けてなる吸気系と、前記エンジンの燃焼ガス排気口に接続する排気系と、前記吸気系および排気系の気圧を調整する気圧調整手段とで構成してなる自走車用エンジンの環境試験装置であって、前記収容部材内に設置した前記エンジンに対し、前記吸気系の各調整手段および前記気圧調整手段によって調整した空気を直接供給するとともに、エンジンより排出された排気ガスを、前記気圧調整手段によって前記吸気系と同じ気圧に調整した前記排気系を介して大気中に排出するように構成したものとしてある。
【0010】
また前記吸気系において、温度、湿度の調整手段を複数設けたり、さらにはエンジン方向に空気を送る送風機を設けて構成したものとしてある。
【0011】
さらに前記吸気系におけるエンジン吸気口の前段に、吸入用空気を一時貯留できる吸気貯留タンクを設けたり、また、前記排気系におけるエンジン排気口の後段に、排気ガスを一時貯留できる排気貯留タンクを設け、さらに前記吸気系と排気系を、調整バルブを介し接続した構成のものとしてある。
【発明の効果】
【0012】
本発明の自走車用エンジンの環境試験装置によれば、供試体たるエンジンへ、温度、湿度、気圧を調整した空気を直接供給し、またエンジンから排出される排気ガスにおいても、排気ガスの排出部をエンジンへ供給する空気と同じ気圧に調整し、さらに供試体たるエンジンにおいても、エンジン単体が収容できるスペースがある収容部材に収容してその内部の空気温度を調整しているので、従来のように、被試験エンジンに対し所定の環境を再現するための大なる空間を有する専用の環境試験室(建屋)を必要とすることなくエンジン試験を行うことができる。
【0013】
そして、耐圧構造および断熱構造で建設される環境試験室を必要としないことから、設備の小型化が可能になり、また、エンジンの環境試験設備を一般の建屋内に設置することもできるため、経済面における低コスト化ができる。そして、エンジンの環境試験設備の移設も容易に行うことができる。
【0014】
さらには、所定の環境を再現するための専用の環境試験室(建屋)を必要としないことから、検査作業者は、終始一定(普通)の空調下で検査作業を行えるため検査作業者の安全が確保できる。
【0015】
そして、エンジンへ供給する空気における温度、湿度、気圧の各調整を、吸気系内の通過中に調整してエンジンの空気吸入口に直接供給しているので、エンジン試験の開始における待ち時間は、吸気系を起動してからこの吸気系の入口に入った空気がエンジンの空気吸入口に到達するまでの僅かな時間だけであり、したがってエンジン試験の開始における待ち時間は無いに等しく、エンジン試験における作業効率が大となる。
【0016】
また、吸気系、排気系、収容部材の各内空気に対応する温度、湿度、気圧の各調整においても、吸気系および排気系では、エンジン試験に必要となる空気流通量に対して調整すればよく、また収容部材では、内部に設置された被試験エンジン周囲の空気に対して調整すればよいので、調整する空気量が小となり、したがって省エネルギー化を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の自走車用エンジンの環境試験装置を添付図面に示す具体例に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る自走車用エンジンの環境試験装置の一例を示す構成図であり、その構成においては、試験室26内の断熱材2aに囲まれた収容器2に収容された供試体たるエンジン1の吸気口1aに吸気系における一端を接続し、またエンジン1の排気口1bに排気系における一端を接続している。
【0018】
前述の収容器2の内部は、調整機3における冷却部3aを循環する冷媒、加熱部3bのヒータによってこの容器内における空気の温度、湿度を、被試験エンジン1の試験環境に適するように調整しており、この調整した空気は、送風部3cのブロワによって送気管4、排気管5を通り収容器2内部、調整機3を循環している。
【0019】
そして、エンジン1の吸気口1aに一端を接続している吸気系は、第一調整機6の吸気口6aから空気を取り入れて、さらに送風部6bのプロワによって強制的にエンジン1の吸気口1aへ送風(供給)している。
【0020】
その吸気口6aから取り入れられた空気は、送風部6bのブロワによって吸気系内を通過していく途中で、第一調整機6における冷却部6cを循環する冷媒、加熱部6dのヒータによって所定条件の温度、湿度の空気に調整され第二調整機7に入る。
【0021】
第二調整機7に入った空気は、この第二調整機7における冷却部7aを循環する冷媒、加熱部7bのヒータ、さらに加湿部7cにおいて加湿機8で発生させた水蒸気を噴霧することによって被試験エンジン1を試験する環境条件に合った空気に調整される。そしてこの空気は、吸気管9を通り空気を一時貯留させるためのタンク12に入る。
また空気調整は、吸気管9に配設する温度センサ10、湿度センサ11で行っている。
【0022】
そして、空気はこのタンク12からジョイント管14を介してエンジン1の吸気口1aからエンジン1内に入る。
このように、エンジン1に対しタンク12に一時貯留した空気を吸入させることでエンジン1内に入る空気量を一定にし、エンジン1運転時の脈動を防止するようにしている。
【0023】
また、エンジン1の排気口1bに一端を接続している排気系は、エンジン1から排出された排気(排気ガス)がブロワ17の排出口17aから試験室26外部の大気中に排出している。さらにこのブロワ17は、エンジン1から排出された排気(排気ガス)の排出とともに、吸気系と排気系の気圧を同じ気圧に調整する調整手段も兼ねる。
【0024】
そのエンジン1から排出された排気(排気ガス)は、ジョイント管21を介してタンク19に一時貯留され、続いて排気管22、ブロワ17を通過して排出口17aから排出されている。
そして、エンジン1から排出された排気(排気ガス)をタンク19に一時貯留させることで、ブロワ17による排気(排気ガス)の吸引で生じるエンジン1内における気圧変化を防止するようにしている。
【0025】
また、吸気系側にあるタンク12と排気系側にある排気管22を、調整バルブ25を介して調整管24で接続していて、この調整管24を配設することで、ブロワ17が排気(排気ガス)を吸引する際、エンジン1が吸気する空気をタンク12から吸引させ、吸気系と排気系の気圧を同じ気圧に調整している。
【0026】
気圧の調整は、吸気系側におけるタンク12の圧力センサ13、排気系側におけるタンク19の圧力センサ20の各センサによって吸気系側の吸気管9と排気系側の排気管22の管内気圧を計測し、その計測データを基にして調整管24の調整バルブ25と排気管22の調整バルブ23の開度とともに、インバータ18によるブロワ17の回転数制御によって行っている。
【0027】
また、図2、図3は、エンジン供給用空気調整部の構成例を示す図である。
図2の場合は、図1における第一調整機6の送風部6bと温湿度調整を行う冷却部6c、加熱部6dを分割し、また冷凍機15と冷却部6cを循環する冷媒の冷媒循環管16を、第二調整機7の冷却部7aを経由する形態にしたものである。
【0028】
図3の場合は、図2における第一調整機27の冷却部27aに対し、専用の冷凍機29と冷媒の冷媒循環管30を設けたものである。
【0029】
図2中の符号、27bは第一調整機27の加熱部、28はエンジン1の吸気口1aへ空気を送風するブロワ、28aは空気の吸気口である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る自走車用エンジンの環境試験装置の一例を示す構成図。
【図2】エンジン供給用空気調整部の構成例を示す図。
【図3】エンジン供給用空気調整部の構成例を示す図。
【符号の説明】
【0031】
1 エンジン
1a 吸気口
1b 排気口
2 収容器
2a 断熱材
3 調整機
3a 冷却部
3b 加熱部
3c 送風部
4 送気管
5 排気管
6 第一調整機
6a 吸気口
6b 送風部
6c 冷却部
6d 加熱部
7 第二調整機
7a 冷却部
7b 加熱部
7c 加湿部
8 加湿機
9 吸気管
10 温度センサ
11 湿度センサ
12 タンク
13 圧力センサ
14 ジョイント管
15 冷凍機
16 冷媒循環管
17 ブロワ
17a 排出口
18 インバータ
19 タンク
20 圧力センサ
21 ジョイント管
22 排気管
23 調整バルブ
24 調整管
25 調整バルブ
26 試験室
26a 外壁
27 第一調整調
27a 冷却部
27b 加熱部
28 ブロワ
28a 吸気口
29 冷凍機
30 冷媒循環管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供試体たるエンジンを収容できる温度、湿度の各調整手段を設けてなる密閉可能な収容部材と、前記エンジンの空気吸気口に接続する温度、湿度の各調整手段を設けてなる吸気系と、前記エンジンの燃焼ガス排気口に接続する排気系と、前記吸気系および排気系の気圧を調整する気圧調整手段とで構成してなる自走車用エンジンの環境試験装置であって、前記収容部材内に設置した前記エンジンに対し、前記吸気系の各調整手段および前記気圧調整手段によって調整した空気を直接供給するとともに、エンジンより排出された排気ガスを、前記気圧調整手段によって前記吸気系と同じ気圧に調整した前記排気系を介して大気中に排出するように構成してなる自走車用エンジンの環境試験装置。
【請求項2】
前記吸気系における温度、湿度の調整手段を複数設けて構成してなる請求項1に記載の自走車用エンジンの環境試験装置。
【請求項3】
前記吸気系に、エンジン方向に空気を送る送風機を設けて構成してなる請求項1に記載の自走車用エンジンの環境試験装置。
【請求項4】
前記吸気系におけるエンジン吸気口の前段に、吸入用空気を一時貯留できる吸気貯留タンクを設けて構成してなる請求項1に記載の自走車用エンジンの環境試験装置。
【請求項5】
前記排気系におけるエンジン排気口の後段に、排気ガスを一時貯留できる排気貯留タンクを設けて構成してなる請求項1に記載の自走車用エンジンの環境試験装置。
【請求項6】
前記吸気系と排気系を、調整バルブを介し接続してなる請求項1に記載の自走車用エンジンの環境試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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