説明

臭化高分子化合物の製造方法、及びアニオン交換体の製造方法

【課題】耐熱性に優れたアニオン交換体の製造方法、及び前記アニオン交換体の製造に有用な臭化高分子化合物の高効率な製造方法を提供する。
【解決手段】臭化高分子化合物の製造方法であって、下記式(2)で表される構成単位を有する不飽和二重結合含有高分子化合物と臭化水素とを非極性溶媒の存在下反応させる工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れたアニオン交換体の製造方法、及び上記アニオン交換体の製造に有用な臭化高分子化合物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アニオン交換体としては、例えば、4級アンモニウム基やフォスフォニウム基等の、窒素や燐化合物をアニオン交換基とする種々のイオン交換基と、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリビニルアルコール、ポリビニル/アリルアミン等の構造単位との組み合わせから成る強塩基性アニオン交換体が知られている。これらの中でも、トリメチルアミノメチルスチレンを繰り返し単位とするアニオン交換体が、化学的安定性に優れており、非常に安価である等の理由から、広く使用されている。
【0003】
しかしながら、トリメチルアミノメチルスチレンを構成単位とするスチレン系アニオン交換体は室温より高温の条件下では化学的安定性が減少し、トリメチルアミンの脱離(中性塩分解容量の低下)や、メチル基の脱離(弱塩基化)が生じる場合があった。そのため、高温で使用する際、寿命が短い、あるいは使用温度の上限に制約がある、トリメチルアミンが溶出するためアミン臭がする、アニオン交換体からの溶出物が多い等、多くの課題が生じる場合もあった。
【0004】
上記アニオン交換体の耐熱性を向上させる方法として、例えばベンゼン環とイオン交換基をポリアルキレン鎖で結合した強塩基性アニオン交換体が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、上記ポリアルキレン鎖がエチレン鎖である場合には、ホフマン分解(E2脱離反応)が起こりやすく、耐熱性が劣ることがあった。そこで脱離しうる水素を除くため、イオン交換基のβ位にジメチル基を導入した1,1−ジメチルエチレン鎖を導入したアニオン交換体も報告されている。しかしながらこの場合、メチル基の立体障害によってトリメチルアンモニウム基の熱的安定性が低下するという課題があった(非特許文献1参照)。従って、トリメチルアミンの脱離反応を抑制するためには、少なくともアルキレン鎖は、プロピレン鎖以上であることが好ましい。しかしながら、アルキレン鎖によって、得られるアニオン交換体は疎水性樹脂となる。この結果、樹脂の水分含有率や膨潤度が低下し、製造上不利であった。
【0005】
【特許文献1】特開平4−349941号公報
【非特許文献1】J.Appl.Polym.Sci.,8.1659(1964)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、例えばトリメチルアミノメチルスチレンを構成単位とするスチレン系アニオン交換体のベンゼン環とイオン交換基との間をアルキル鎖で結合した、例えば下記式で表されるような構成単位を有する耐熱性アニオン交換体が提案されている。
【0007】
【化1】

(式中、Yはアンモニウムイオンに配位した対イオンを表す。Meはメチル基を表す。またbは2以上の整数である。)
上記耐熱性アニオン交換体の製造方法として、例えばp−クロロスチレンモノマーに臭化アルキル基を付加してp−(4−ブロモブチル)スチレンモノマーとした後、このp−(4−ブロモブチル)スチレンモノマーを重合してポリマー化し、さらにアミノ化反応をすることでイオン交換基を導入する方法等が提案されている。しかしながらこの方法では、例えばp−(4−ブロモブチル)スチレンモノマーを安価に入手できないこと等があった。また各工程における操作の面からもより簡便な方法とするよう、更なる改良が望まれていた。
【0008】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものである。即ち、本発明の目的は、耐熱性に優れたアニオン交換体の効率的な製造方法、及び前記アニオン交換体の製造に有用な臭化高分子化合物の高効率な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、p−クロロメチルポリスチレンにアルキレン鎖が導入された不飽和二重結合含有高分子化合物と臭化水素とを反応させることにより、末端に臭素を有する臭化高分子化合物を極めて収率よく製造できることを見いだし、本発明に到達した。本発明により得られる末端に臭素を有する臭化高分子化合物は、容易に4級アンモニウム塩に置換することが可能であり、4級アンモニウム塩に置換された化合物は、耐熱性に優れたアニオン交換体とすることが可能である。
【0010】
本発明の第1の要旨は、下記式(1)で表される構成単位を有する臭化高分子化合物を製造する臭化高分子化合物の製造方法であって、
【化2】

(式中、lは0以上の整数であり、nは1以上の整数であり、かつ1≦l+n≦8である。mは0または1であり、aは2以上の整数である。)
下記式(2)で表される構成単位を有する不飽和二重結合含有高分子化合物と臭化水素とを非極性溶媒の存在下反応させる工程を有することを特徴とする臭化高分子化合物の製造方法に存する(請求項1)。
【化3】

(式中、lは0以上の整数であり、nは1以上の整数であり、かつ1≦l+n≦8である。mは0または1であり、aは2以上の整数である。)
【0011】
本発明の別の要旨は、下記式(3−1)で表されるハロゲン含有アルケン及び金属マグネシウムから調製したグリニャール試薬と、
【化4】

(式中、Xは塩素または臭素原子を表す。pは0以上、7以下の整数である。)
下記式(4)で表される構成単位を有するクロロメチルポリスチレンとを反応させて、
【化5】

(式中、aは2以上の整数である。)
下記式(2−1)で表される構成単位を有する不飽和二重結合含有高分子化合物を得る工程と、
【化6】

(式中、pは0以上、7以下の整数である。aは2以上の整数である。)
前記不飽和二重結合含有高分子化合物と臭化水素とを非極性溶媒の存在下反応させ、下記式(1−1)で表される構成単位を有する臭化高分子化合物を得る工程と、
【化7】

(式中、pは0以上、7以下の整数である。aは2以上の整数である。)
前記臭化高分子化合物とアミン化合物とを反応させ、下記式(5)で表される構成単位を有するアニオン交換体を得る工程とを有することを特徴とするアニオン交換体の製造方法に存する(請求項2)。
【化8】

(式中、pは0以上、7以下の整数である。aは2以上の整数である。またR1、R2、及びR3は、同じ又は異なっていてもよい炭素数1から4のアルキル基、或いはアルカノール基を示し、Yはアンモニウム基に配位した対イオンを示す。)
【発明の効果】
【0012】
本発明の臭化高分子化合物の製造方法及びアニオン交換体の製造方法によれば、経済的に有利な条件で極めて収率よく臭化高分子化合物及びアニオン交換体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々に変更して実施することができる。
【0014】
本発明は、耐熱性に優れたアニオン交換体の製造方法、及び上記アニオン交換体の製造に有用な臭化高分子化合物の製造方法に関するものである。以下、臭化高分子化合物の製造方法、及びアニオン交換体の製造方法についてそれぞれ説明する。
【0015】
A.臭化高分子化合物の製造方法
本発明の臭化高分子化合物の製造方法は、アニオン交換体の製造等に有用な、下記式(1)で表される構成単位を有する臭化高分子化合物(以下、単に「臭化高分子化合物」という場合がある)を製造する方法であり
【0016】
【化9】

(式中、lは0以上の整数であり、nは1以上の整数であり、かつ1≦l+n≦8である。mは0または1であり、aは2以上の整数である。)
下記式(2)で表される構成単位を有する不飽和二重結合含有高分子化合物(以下、単に「不飽和二重結合含有高分子化合物」という場合がある)と臭化水素とを非極性溶媒の存在下反応させる工程を有することを特徴とする。
【0017】
【化10】

(式中、l、m、n及びaはそれぞれ式(1)のl、m、n及びaに準じ、lは0以上の整数であり、nは1以上の整数であり、かつ1≦l+n≦8である。mは0または1であり、aは2以上の整数である。)
【0018】
従来、末端に臭素を有する上記臭化高分子化合物を得るためには、上述したように、p−クロロスチレンモノマーに臭化アルキル基を付加してp−(4−ブロモブチル)スチレンモノマーとした後、このp−(4−ブロモブチル)スチレンモノマーを重合してポリマー化する方法が用いられていた。この方法では、原料が高価である等、生産コストの面で不利であり、またさらに操作の面からも改良が望まれていた。
【0019】
これに対し、本発明では先にスチレン系モノマーを重合させたクロロメチルポリスチレン(ポリマー)にアルキレン鎖を導入し、上記アルキレン鎖に臭化水素を付加して上記臭化高分子化合物を得る。この方法によれば、各工程の操作が簡便である。また末端にアルキレン鎖を有する化合物に臭化水素を付加した場合、通常、アルキル鎖の末端に臭素が導入された化合物と、アルキル鎖内に臭素が導入された異性体とが生成されるが、本発明によれば極めて高い収率で、末端に臭素が導入された上記臭化高分子化合物を得ることが可能である。これは、明確ではないが、上記アルキレン鎖を有するポリマーが固相であり、液相のみの反応と比較して、固液2相中での反応が緩慢であることが影響し、上記臭化高分子化合物が生成される確立が高くなる、と推測される。
【0020】
また本発明では、式(2)で表される化合物の式(2)におけるmが0である場合、上記アルキレン鎖を有する不飽和二重結合含有高分子化合物を得る方法として、ハロゲン含有アルケン及び金属マグネシウムから調製したグリニャール試薬と、p−クロロメチルポリスチレンとを反応させる方法を用いることができる。ここで、グリニャール試薬は通常禁水条件下で用いられ、一般的にポリマーとの反応には使用された例は少ない。しかしながら、本発明者らの鋭意検討によれば、上記グリニャール試薬とp−クロロメチルポリスチレンとを反応させることにより、アルキレン鎖を安定してp−クロロメチルポリスチレンに効率よく導入可能であることが確認された。したがって、本発明によれば、容易に入手可能なクロロメチルポリスチレンから、高い収率で効率よく臭化高分子化合物を得ることも可能である。
なお、式(2)で表される化合物の式(2)におけるmが1の場合、上記アルキレン鎖を有する不飽和二重結合含有高分子化合物得る方法として、クロロメチルポリスチレンと末端にカルボン酸を持つアルケンとを反応させる方法等を用いることが可能である。具体的には、Helv.Chim.Acta, 56, 1476(1973)に記載されている方法等を用いることができる。
【0021】
以下、上記不飽和二重結合含有高分子化合物に臭化水素を付加する工程、及びグリニャール反応を利用して上記不飽和二重結合含有高分子化合物を合成する工程、すなわちp−クロロメチルポリスチレンとハロゲン含有アルケンとをグリニャール反応させる工程についてわけて説明する。
なお上記各工程の工程前、工程中、及び工程後に、必要に応じてその他の工程を行ってもよい。
【0022】
[不飽和二重結合含有高分子化合物に臭化水素を付加する工程]
まず、上記不飽和二重結合含有高分子化合物に臭化水素を付加する工程について説明する。以下、本工程に用いられる不飽和二重結合含有高分子化合物、臭化水素、非極性溶媒、及び反応条件等や、得られる臭化高分子化合物についてわけて説明する。
【0023】
(不飽和二重結合含有高分子化合物)
本工程に用いられる不飽和二重結合含有高分子化合物は、下記式(2)で表される構成単位を有する化合物である。
【0024】
【化11】

上記式中、lは0以上の整数であればよく、通常0以上、好ましくは1以上である。また通常7以下であり、好ましくは5以下、より好ましくは4以下である。
またnは1以上の整数であればよく、通常1以上8以下、好ましくは1である。
なおl+nは1以上8以下とされる。
【0025】
またmは0または1とされる。
またさらに、aは上記構成単位の重合度を示し、2以上の整数であればよい。
なお、上記不飽和二重結合含有高分子化合物は1種のみを用いてもよく、また2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0026】
上記不飽和二重結合含有高分子化合物の製法については、特に限定されるものではないが、上記mが0の場合、ハロゲン含有アルケン及び金属マグネシウムから調製したグリニャール試薬と、p−クロロメチルポリスチレンとを反応させる方法を用いることができ、本発明においてはこの方法を用いることが好ましい。上記グリニャール試薬を用いた製法については、後で詳しく説明する。
【0027】
(臭化水素)
臭化水素源としては臭化水素ガスを用いる方法もあるが、一般的にガスとポリマーとの反応は進行しない、あるいは反応しにくいことが知られており、液体として容易に入手可能な臭化水素−酢酸溶液(またはプロピオン酸溶液)を後述する非極性溶媒との混合溶液として使用することが可能である。使用する臭化水素の量は、上記不飽和二重結合含有高分子化合物1モルに対して等モル以上あれば特に制限されるものではなく、通常1モル以上、好ましくは1.5モル以上、より好ましくは2モル以上である。また上限についても特に制限されるものではないが、通常10モル以下、好ましくは5モル以下、より好ましくは3モル以下である。臭化水素量が少なすぎると反応が長時間となる可能性がある。
【0028】
(非極性溶媒)
上記不飽和二重結合含有高分子化合物への臭化水素付加は、非極性溶媒中で行われる。用いられる非極性溶媒としては、例えば、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロペンタン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒の単独または混合物が挙げられる。上記の溶媒の中でもトルエンを用いることが、収率等の面から好ましい。
【0029】
その使用量は特に制限されるものではなく、不飽和二重結合含有高分子化合物及び臭化水素の量に合わせて適宜選択される。
【0030】
(その他の添加剤等)
また本反応には、ラジカル開始剤を用いることができ、例えば、過酸化ベンゾイル、AIBN、t−ブチルヒドロペルオキシド等の各種過酸化物、光、酸素等が挙げられ、これらのうち1種のみを用いてもよく、また2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
上記添加剤の使用量は特に制限されるものではなく、不飽和二重結合含有高分子化合物及び臭化水素の量に合わせて適宜選択される。
【0031】
(反応条件)
反応温度は通常−50℃以上、好ましくは−20℃以上である。また上限は50℃以下、好ましくは40℃以下である。特に好ましくは室温付近である。反応温度が低すぎると反応が長時間となる可能性があり、また反応温度が高すぎると選択性が低下する可能性がある。反応時間は、反応温度によって変動するが、通常は1時間以上、好ましくは5時間以上、より好ましくは30時間以上である。また反応時間が長引いてもとくに影響はみられないが、効率等の面から通常100時間以内、好ましくは80時間以内、より好ましくは40時間以内とする。
【0032】
(後処理)
反応終了後、洗浄操作により目的とする臭化高分子化合物を得ることができる。
(臭化高分子化合物)
本工程により得られる臭化高分子化合物は、下記式(1)で表される構成単位を有するものである。
【0033】
【化12】

上記式中、l、m、n、及びaは、上述した不飽和二重結合含有高分子化合物の構成単位におけるl、m、n、及びaに準じる。
【0034】
[p−クロロメチルポリスチレンとハロゲン含有アルケンとをグリニャール反応させる工程]
次に、p−クロロメチルポリスチレンとハロゲン含有アルケンとをグリニャール反応させる工程(上記不飽和二重結合含有高分子化合物を合成する工程)について説明する。
本工程は、下記式(3)で表されるハロゲン含有アルケン(以下、ハロゲン含有アルケンという場合がある)及び金属マグネシウムから調製したグリニャール試薬と、p−クロロメチルポリスチレンとを反応させ、上記不飽和二重結合含有高分子化合物を得る工程である。
【0035】
【化13】

(式中、Xは塩素または臭素原子を表す。またl及びnはそれぞれ上記不飽和二重結合含有高分子化合物のl及びnに準じ、lは0以上の整数であり、nは1以上の整数であり、かつ1≦l+n≦8である。)
以下、本工程に用いられるハロゲン含有アルケン、p−クロロメチルポリスチレンや、グリニャール試薬の調製、グリニャール試薬とp−クロロメチルポリスチレンとの反応等について詳しく説明する。
【0036】
(p−クロロメチルポリスチレン)
本工程に用いられるp−クロロメチルポリスチレンは、下記式(4)で表される化合物である。
【0037】
【化14】

式中、aは、上記不飽和二重結合含有高分子化合物の構成単位におけるaに準じ、2以上の整数である。
【0038】
上記p−クロロメチルポリスチレンの合成方法としては、一般的な方法とすることができ、例えばポリスチレンをクロロメチルエーテルで適当なルイス酸触媒下でアルキル化させることや、クロロメチルスチレンモノマーを必要に応じてアゾイソブチロニトリル等の重合開始剤を用いて重合させることにより得ることが可能である。
【0039】
(ハロゲン含有アルケン)
本工程に用いられるハロゲン含有アルケンは、下記式(3)で表される化合物である。
【0040】
【化15】

式中、Xは塩素または臭素原子を表す。またl及びnは、上述した不飽和二重結合含有高分子化合物の構成単位におけるl及びnに準じる。
【0041】
上記式(3)で表される化合物として具体的には、3−クロロ−1−プロペン、4−クロロ−1−ブテン、5−クロロ−1−ペンテン、6−クロロ−1−ヘキセン、7−クロロ−1−ヘプテン、8−クロロ−1−オクテン、9−クロロ−1−ノネン、及び10−クロロ−1−デセン等のクロロアルケン;3−ブロモ−1−プロペン、4−ブロモ−1−ブテン、5−ブロモ−1−ペンテン、6−ブロモ−1−ヘキセン、7−ブロモ−1−ヘプテン、8−ブロモ−1−オクテン、9−ブロモ−1−ノネン、及び10−ブロモ−1−デセン等のブロモアルケン等が挙げられる。なお上記ハロゲン含有アルケンは1種のみを用いてもよく、また2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。上記の中でも反応性という観点から、3−クロロ−1−プロペンと3−ブロモ−1−プロペンが好ましい。
【0042】
(グリニャール試薬の調製)
グリニャール試薬は、金属マグネシウムと上記ハロゲン含有アルケンを反応させることにより得られる。上記反応は、通常、溶媒と金属マグネシウムとを攪拌し、上記溶媒に、ハロゲン含有アルケンを滴下することにより行われる。上記ハロゲン含有アルケンの使用量は、上記金属マグネシウムに対して通常0.3モル倍以上、好ましくは0.5モル倍以上、より好ましくは1モル倍以上、通常1.5モル倍以下、好ましくは1.4モル倍以下、より好ましくは1.3モル倍以下である。上記範囲を越えると、ウルツ型の反応がおきやすくなり、グリニャール試薬が効率よく調整できず、ハロゲン含有アルケン当たりの収率が低下する。
【0043】
また上記反応に用いる溶媒は、テトラヒドロフランの単独、あるいはテトラヒドロフランとt−ブチル−メチルエーテルまたはトルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素との混合溶媒が挙げられる。
【0044】
また反応温度は、通常、−50℃以上、好ましくは−10℃以上、上限は通常50℃、以下、好ましくは20℃以下である。上記より高い温度になると、ウルツ型の反応がおきやすくなり、ハロゲン含有アルケン当たりの収率が低下する。
【0045】
(グリニャール試薬と、p−クロロメチルポリスチレンとの反応)
次に、グリニャール試薬と、上記p−クロロメチルポリスチレンとの反応について説明する。グリニャール試薬とp−クロロメチルポリスチレンとの反応は、上記グリニャール試薬中にp−クロロメチルポリスチレンを加え、必要により触媒を共存させて、反応させる。触媒は特に使用しなくとも反応は進行するが、触媒を用いると反応が容易に進行したり、収率が上がる場合がある。本反応で触媒を使用する場合、ニッケルの二価錯体等のニッケル系触媒が挙げられ、具体的にはビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルクロリド、ビス(1、3−ジフェニルホスフィノプロパン)ニッケルクロリド、ニッケルアセチルアセトナート等が挙げられる。触媒は1種のみを用いてもよく、また2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。触媒の使用量は、通常、原料のp−クロロメチルポリスチレンに対して、0.001モル%以上、好ましくは0.1モル%以上、上限は通常10モル%以下、好ましくは3モル%以下である。
【0046】
また上記グリニャール試薬の使用量は、上記p−クロロメチルポリスチレンに対して、通常1モル倍以上、好ましくは1.1モル倍以上、より好ましくは1.5モル倍以上、通常50モル倍以下、好ましくは10モル倍以下、より好ましくは5モル倍以下である。上記p−クロロメチルポリスチレンの量が少なすぎると反応時間が長時間となる可能性がある。
【0047】
また反応温度は、通常、0℃以上、好ましくは10℃以上であり、上限は通常80℃以下、好ましくは70℃以下である。滴下方法については特に限定されないが、溶媒で満たしたクロロメチルポリスチレン中に調製されたグリニャール試薬を適当な時間をかけて滴下する方法、もしくは調整されたグリニャール試薬にクロロメチルポリスチレンを混合する方法のいずれでもよい。経済性の観点からは後者の方が好ましい。反応時間は特に制限されないが、通常は1時間以上、好ましくは10時間以上、より好ましくは30時間以上である。また反応時間が長引いてもとくに影響はみられないが、効率等の面から通常100時間以内、好ましくは80時間以内、より好ましくは50時間以内とされる。
【0048】
また反応混合物中からの不飽和二重結合含有高分子化合物の取り出しは、通常、以下のように行うことができる。反応終了後、反応混合物を水、酸性水溶液、塩化アンモニウム水溶液等の通常のグリニャール反応で用いられる後処理を行い、グリニャール試薬を分解した後、洗浄操作により、目的の不飽和二重結合含有高分子化合物を得ることができる。
【0049】
B.アニオン交換体の製造方法
次に、本発明のアニオン交換体の製造方法について説明する。本発明のアニオン交換体の製造方法は、下記式(5)で表される構成単位を有するアニオン交換体(以下、単に「アニオン交換体」という場合がある)を製造する方法であり
【化16】

(式中、pは0以上、7以下の整数である。aは2以上の整数である。またR1、R2、及びR3は、同じ又は異なっていてもよい炭素数1から4のアルキル基、或いはアルカノール基を示し、Yはアンモニウム基に配位した対イオンを示す。)
下記式(3−1)で表されるハロゲン含有アルケン及び金属マグネシウムから調製したグリニャール試薬と、
【化17】

(式中、Xは塩素または臭素原子を表す。pは0以上、7以下の整数である。)
下記式(4)で表される構成単位を有するクロロメチルポリスチレンとを反応させて、
【化18】

(式中、aは2以上の整数である。)
下記式(2−1)で表される構成単位を有する不飽和二重結合含有高分子化合物を得る工程と、
【化19】

(式中、pは0以上、7以下の整数である。aは2以上の整数である。)
前記不飽和二重結合含有高分子化合物と臭化水素とを非極性溶媒の存在下反応させ、下記式(1−1)で表される構成単位を有する臭化高分子化合物を得る工程と、
【化20】

(式中、pは0以上、7以下の整数である。aは2以上の整数である。)
前記臭化高分子化合物とアミン化合物とを反応させ、前記アニオン交換体を得る工程とを有することを特徴とする。
【0050】
本発明者らの鋭意検討によれば、上述したように、上記グリニャール試薬とp−クロロメチルポリスチレンとを反応させることにより、アルキレン鎖を安定してp−クロロメチルポリスチレンに効率よく導入可能である。また先にスチレン系モノマーを重合させたクロロメチルポリスチレン(ポリマー)にアルキレン鎖を導入し、上記アルキレン鎖に臭化水素を付加して上記臭化高分子化合物を得ることにより、操作を簡便なものとすることができる。また末端にアルキレン鎖を有する化合物に臭化水素を付加した場合、通常、アルキル鎖の末端に臭素が導入された化合物と、アルキル鎖内に臭素が導入された異性体とが生成されるが、上記不飽和二重結合含有高分子化合物に臭化水素を付加した場合、極めて高い収率で、末端に臭素が導入された臭化高分子化合物を得ることが可能である。またさらに、上記臭化高分子化合物はアミン化合物と反応させることにより、臭素をアンモニウムイオンに容易に置換することが可能である。以上のことから、本発明によれば、容易に入手可能なクロロメチルポリスチレンから、高い収率で効率よくアニオン交換体を得ることが可能である。
【0051】
ここで、上記ハロゲン含有アルケン及び金属マグネシウムから調製したグリニャール試薬と、上記クロロメチルポリスチレンとを反応させて上記不飽和二重結合含有高分子化合物を得る工程、及び上記不飽和二重結合含有高分子化合物と臭化水素とを非極性溶媒の存在下反応させ、上記臭化高分子化合物を得る工程については、上述した「A.臭化高分子化合物の製造方法」で説明した工程と同様とすることができる。なお、上記式(2−1)で表される構成単位を有する不飽和二重結合含有高分子化合物は、「A.臭化高分子化合物の製造方法」で説明した式(2)で表される構成単位を有する不飽和二重結合含有高分子化合物の式(2)中のmが0である場合と同一の化合物であり、また式(1−1)で表される構成単位を有する臭化高分子化合物は、「A.臭化高分子化合物の製造方法」で説明した式(1)で表される構成単位を有する臭化高分子化合物の式(1)中のmが0である場合と同一の化合物である。
以下、上記臭化高分子化合物とアミン化合物とを反応させる工程についてのみ説明する。
【0052】
[臭化高分子化合物とアミン化合物とを反応させる工程]
本工程は、下記式(1−1)で表される構成単位を有する臭化高分子化合物と、アミン化合物とを反応させ、
【0053】
【化21】

(式中、pは0以上、7以下の整数である。aは2以上の整数である。)
下記式(5)で表される構成単位を有するアニオン交換体(以下、単にアニオン交換体という場合がある)を得る工程である。
【0054】
【化22】

(式中、pは0以上、7以下の整数である。aは2以上の整数である。またR1、R2、及びR3は、同じ又は異なっていてもよい炭素数1から4のアルキル基、或いはアルカノール基を示し、Yはアンモニウム基に配位した対イオンを示す。)
【0055】
(アミン化合物)
本工程に用いられるアミン化合物としては、下記式(6)で表されるアミン化合物が挙げられる。
【0056】
【化23】

式中、R1、R2、及びR3は、同じであってもよく、また異なっていてもよい。R1、R2、及びR3は、炭素数1から4のアルキル基、すなわちメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、或いは炭素数1から4のアルカノール基、すなわち、メタノール基、エタノール基、プロパノール基、ブタノール基とすることができる。
【0057】
上記アミン化合物の具体的な例としてはトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、ジメチルエタノールアミン等が挙げられる。これらを1種または、任意の組み合わせ及び比率で2種以上用いることができる。
【0058】
また上記アミン化合物の使用量は、上記臭化高分子化合物に対して、通常1.0モル倍以上、好ましくは1.05モル倍以上、通常3.0モル倍以下、好ましくは1.5モル倍以下である。上記アミン化合物の量が少なすぎると末端ハロゲノ基が残留する可能性があり、また多すぎるとアミンの処理やアミンの原単位が高くなる可能性がある。
【0059】
(反応条件)
上記臭化高分子化合物と上記アミン化合物との反応は、上記臭化高分子化合物に対してアミン化合物を滴下すること等により行うことができる。
好ましいアミン化合物の滴下速度は、上記臭化高分子化合物の構造単位に対し、1時間当たり0.5当量以下である。また最適な滴下速度はアミン種の反応性、濃度により異なるがアミン化合物の滴下速度は1時間当たり0.3当量以下である事が好ましい。より好ましくは1時間当たりのアミン化合物の滴下速度が0.25当量以下である事が好ましい。
【0060】
上記アミン化合物の滴下は滴下量の条件さえ満たせれば連続的に滴下または間欠的に滴下する事も可能であるが、連続的に滴下する事が好ましい。滴下されるアミン化合物は通常溶液で扱われるが、溶媒に溶解したアミンを使用することも可能である。また、ガス状のアミン化合物を連続的または間欠的に加えても同様の効果を期待することができる。
またアミンは一定速度で滴下しても良いが、反応初期と後期で滴下速度を変えることも可能である。反応温度は、反応様式、官能基の種類、溶媒の等により異なるが、通常は、0℃以上、好ましくは5℃以上、より好ましくは20℃以上とされ、また通常130℃以下、好ましくはアミン化合物またはアミン化合物を溶解した溶液の沸点以下、より好ましくは80℃以下とされる。
【0061】
上記臭化高分子化合物にアミン化合物を反応させる際には、上記臭化高分子化合物を膨潤させるため、溶媒を共存させるのが一般的である。用いられる溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、トルエン、ヘキサン等の炭化水素類、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン等の塩素系炭化水素類;ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;その他ジメチルホルムアミド、アセトニトリル等の溶媒が1種または2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。
【0062】
(アニオン交換体)
本工程により得られるアニオン交換体は、下記式(5)で表される構成単位を有する。
【0063】
【化24】

上記式中、pは0以上、好ましくは1以上、また通常7以下、好ましくは5以下、より好ましくは4以下の整数である。aは2以上の整数である。またR1、R2、及びR3は、同じ又は異なっていてもよい炭素数1から4のアルキル基、或いはアルカノール基を示し、Yはアンモニウム基に配位した対イオンを示す。
【0064】
上記アニオン交換体は公知の方法に準じて、種々の形状に成形することができる。本発明におけるアニオン交換体の好ましい平均粒子径は通常10μm以上、より好ましくは100μm以上である。また2mm以下、好ましくは1000μm以下、より好ましくは800μm以下である。これにより通液性や分離性を両立させることができる。
【0065】
上述した各工程の工程前、工程中、及び工程後に、必要に応じてその他の工程を行ってもよい。
【0066】
本発明のアニオン交換体は、種々の用途に供される。特に水の脱塩に好適に用いられる。脱塩方法は蒸気アニオン交換体を水または水溶液と接触させることにより行われる。接触の方法は従来の水処理方法が採用される。例えば流動床、撹拌タンク、バッチタンク、並流または向流カラムを用いるバッチ式、半バッチ式、連続式または半連続式方法で行うことができる。
【0067】
被処理水とアニオン交換体の接触時間は使用するアニオン交換体の交換容量やイオン交換体の量、被処理水中のアニオン性物質の量、接触温度等により広い範囲から選ばれる。被処理水の温度は、10℃から120℃の広い範囲から選ばれるが、特に本発明法に使用されるアニオン交換体は耐熱性に優れており従来のトリメチルアンモニウムメチルスチレンを構造単位とするアニオン交換体が容易に劣化する60℃以上の熱水中においても安定に存在し、長時間にわたりイオン交換能力を低下させることなく性能を発揮することができる。したがって、本発明の方法は60℃以上の熱水の処理に特に好適である。
【0068】
[本発明の利点]
本発明によれば、容易に入手可能な出発物質から、高純度、高収率、高選択的に目的物を得ることができる。また、簡便な操作で、効率よく臭化高分子化合物及びアニオン交換体を製造することができるため、歩留まりが高く、経済的に有利である。
【実施例】
【0069】
以下、本発明について、実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
[4−(3−ブテニル)ポリスチレンの合成]
(実施例1)
500mlガラス製3口フラスコにアリルマグネシウムクロライドTHF溶液150ml(1mol/L、東京化成品)を入れ、これに4−クロロメチルポリスチレン樹脂15.02g(ジビニルベンゼン4%架橋品)を室温、窒素下にて投入した。次に50℃に加温し、38時間攪拌させた。反応後、反応液を10℃以下まで冷却し、塩化アンモニウム水溶液150mlを加えた。これをろ過し、さらに樹脂を水150mlで2回、水:アセトン=1:1溶液200mlで1回、アセトン300mlで1回洗浄した。樹脂を真空乾燥して4−(3−ブテニル)ポリスチレン樹脂を収率84.3%で得た。なお、収率は元素分析により測定した。
得られた樹脂のNMR測定結果、及びIRの測定結果は以下のとおりであった。
13C−NMR(CD2Cl2):δ 139.2,128.7,115.3,36.5ppm
IR(KBr):1,640,990cm-1(−CH=CH2
【0071】
(実施例2)
1Lガラス製3口フラスコに4−クロロメチルポリスチレン樹脂30.18g(ジビニルベンゼン4%架橋品)、及びテトラヒドロフラン150mlを入れ、これにアリルマグネシウムクロライドTHF溶液300ml(1mol/L、東京化成品)を、室温、窒素下にて投入した。次に50℃に加温し、21時間攪拌させた。反応後、反応液を10℃以下まで冷却し、塩化アンモニウム水溶液300mlを加えた。これをろ過し、さらに樹脂を水300mlで2回、テトラヒドロフラン300mlで1回、塩化メチレン300mlで1回洗浄した。樹脂を真空乾燥して4−(3−ブテニル)ポリスチレン樹脂を収率84.3%で得た。なお、収率は元素分析により測定した。
【0072】
(実施例3)
500mLガラス製3口フラスコに4−クロロメチルポリスチレン樹脂5.54g(ジビニルベンゼン3%架橋品)、テトラヒドロフラン50mlを入れ、これにアリルマグネシウムクロライドTHF溶液137ml(1mol/L、東京化成品)を、室温、窒素下にて投入した。さらに室温下で20時間攪拌させた。反応後、反応液を10℃以下まで冷却し、塩化アンモニウム水溶液50mlを加えた。これをろ過し、さらに樹脂を水50mlで2回、テトラヒドロフラン50mlで1回、塩化メチレン50mlで1回洗浄した。樹脂を真空乾燥して4−(3−ブテニル)ポリスチレン樹脂を収率88.3%で得た。なお、収率は元素分析により測定した。
【0073】
[4−(4−ブロモブチル)ポリスチレンの合成]
(実施例4)
500mLガラス製3口フラスコに4−(3−ブテニル)ポリスチレン樹脂15.30g(前記、実施例1化合物;ジビニルベンゼン4%架橋品)、及びトルエン153mlを入れ、5℃以下 に冷却した後、30%臭化水素/酢酸溶液(東京化成品)38mlを滴下した。次に反応液を室温にして、さらに29時間攪拌した。反応後、反応液をろ過し、さらに樹脂をメタノール150mlで2回、アセトン300mlで1回洗浄した。樹脂を真空乾燥して4−(4−ブロモブチル)ポリスチレン樹脂を90.5%で得た。なお、収率は元素分析により測定した。
得られた樹脂のNMR測定結果、及びIRの測定結果は以下のとおりであった。
13C−NMR(CD2Cl2):δ 128.8,35.0,33.4,30.9ppm
IR(KBr):650cm-1(C−Br)
【0074】
(実施例5)
500mLガラス製3口フラスコに4−(3−ブテニル)ポリスチレン樹脂4.29g(前記、実施例3化合物;ジビニルベンゼン3%架橋品)、及びトルエン40mlを入れ、5℃以下に冷却した後、30%臭化水素/酢酸溶液(東京化成品)10mlを滴下した。次に反応液を室温にして、さらに27時間攪拌した。反応後、反応液をろ過し、さらに樹脂を水40mlで1回、塩化メチレン40mlで1回洗浄した。樹脂を真空乾燥して4−(4−ブロモブチル)ポリスチレン樹脂を97.4%で得た。なお、収率は元素分析により測定した。
【0075】
(4−[(6−ヘプテノイル)オキシメチル]ポリスチレンの合成)
(実施例6)
100mlガラス製3口フラスコに4−クロロメチルポリスチレン樹脂2.2g(ジビニルベンゼン2%架橋品)、6−ヘプテン酸セシウム塩2.7g、ヨウ化カリウム0.15g、及びN,N’−ジメチルホルムアミド20mlを入れ、50℃で10時間攪拌した。反応後、室温に戻してN,N’−ジメチルホルムアミド20mlで2回、メタノール20ml、1回塩化メチレン40mlで1回洗浄した。樹脂を真空乾燥して4−[(6−ヘプテノイル)オキシメチル]ポリスチレン樹脂を得た。これは分析することなく実施例7の材料として用いた。
【0076】
(4−[(7−ブロモヘプタノイル)オキシメチル]ポリスチレン樹脂)
(実施例7)
100mlガラス製3口フラスコに、実施例6で得られた4−[(6−ヘプテノイル)オキシメチル]ポリスチレン樹脂3.0g、及びトルエン30mlを入れ、5℃に冷却した後、30%臭化水素/酢酸溶液(東京化成品)3.4mlを滴下し、さらに5℃のまま7時間攪拌した。反応後、反応液をろ過し、さらに樹脂を水40mlで1回、塩化メチレン40mlで1回洗浄した。樹脂を真空乾燥して4−[(7−ブロモヘプタノイル)オキシメチル]ポリスチレン樹脂を得た。次に50mlガラス製3口フラスコに得られた樹脂を入れ、テトラヒドロフラン12ml、メタノール3ml、ナトリウムメトキシド0.3gを加え、50℃で10時間攪拌した。反応後、樹脂をメタノール30mlで洗浄し、得られたろ液より溶媒を留去して無色液体を得た。これを分析したところ、末端に臭素化された7−ブロモヘプタン酸メチルエステルと内部に臭素化された6−ブロモヘプタン酸メチルエステルであり、その比率は81.8:1であった。なお、収率は元素分析により測定した。
【0077】
(比較例1)
50mlガラス製3口フラスコに、6−ヘプテン酸ベンジルエステル1.8g、トルエン18mlを入れ、5℃に冷却した後、30%臭化水素/酢酸溶液(東京化成(株)製)2.7mlを滴下し、30分攪拌した。反応後、水20mlを加え、トルエン50mlで2回抽出し、重曹水20mlで2回、さらに飽和塩化ナトリウム水溶液20mlで洗浄し、有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒留去をして無色液体を得た。これを分析したところ、末端に臭素化された7−ブロモヘプタン酸ベンジルエステルと内部に臭素化された6−ブロモヘプタン酸ベンジルエステルであり、その比率は24.9:1であった。なお、収率は元素分析により測定した。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、高温で使用されるアニオン交換体を製造する際に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構成単位を有する臭化高分子化合物の製造方法であって、
【化1】

(式中、lは0以上の整数であり、nは1以上の整数であり、かつ1≦l+n≦8である。mは0または1である。aは2以上の整数である。)
下記式(2)で表される構成単位を有する不飽和二重結合含有高分子化合物と臭化水素とを非極性溶媒の存在下反応させる工程を有する
【化2】

(式中、lは0以上の整数であり、nは1以上の整数であり、かつ1≦l+n≦8である。mは0または1であり、aは2以上の整数である。)
ことを特徴とする臭化高分子化合物の製造方法。
【請求項2】
下記式(3−1)で表されるハロゲン含有アルケン及び金属マグネシウムから調製したグリニャール試薬と、
【化3】

(式中、Xは塩素または臭素原子を表す。pは0以上、7以下の整数である。)
下記式(4)で表される構成単位を有するクロロメチルポリスチレンとを反応させて、
【化4】

(式中、aは2以上の整数である。)
下記式(2−1)で表される構成単位を有する不飽和二重結合含有高分子化合物を得る工程と、
【化5】

(式中、pは0以上、7以下の整数である。aは2以上の整数である。)
前記不飽和二重結合含有高分子化合物と臭化水素とを非極性溶媒の存在下反応させ、下記式(1−1)で表される構成単位を有する臭化高分子化合物を得る工程と、
【化6】

(式中、pは0以上、7以下の整数である。aは2以上の整数である。)
前記臭化高分子化合物とアミン化合物とを反応させ、下記式(5)で表される構成単位を有するアニオン交換体を得る工程とを有する
【化7】

(式中、pは0以上、7以下の整数である。aは2以上の整数である。またR1、R2、及びR3は、同じ又は異なっていてもよい炭素数1から4のアルキル基、或いはアルカノール基を示し、Yはアンモニウム基に配位した対イオンを示す。)
ことを特徴とするアニオン交換体の製造方法。


【公開番号】特開2009−62452(P2009−62452A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−231492(P2007−231492)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】