説明

臼蓋カップ用設置器具

【課題】本発明は、臼蓋カップのレントゲン的外開角RI及びレントゲン的前開角RAを単独で調節可能であり、また手術中にRI及びRAが直接把握できる臼蓋カップ設置用器具を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の臼蓋カップ用設置器具は、円弧状ガイド10と、臼蓋カップ60の保持に使用され前記円弧状ガイド10で規定される平面12内において前記円弧状ガイド10の中心Oを回転中心として回転可能なロッド20と、前記円弧状ガイド10に固定され前記平面12内に伸びる主軸ガイド30と、前記主軸ガイド30に固定され前記主軸ガイド30と垂直な面32内に配置されたガイドバー40と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工股関節の臼蓋カップを寛骨臼に設置するための器具に関する。
【背景技術】
【0002】
病気や怪我により股関節が著しく変形したとき、股関節の機能を回復するために人工股関節への置換手術が行われている。人工股関節では、骨盤の臼蓋の代用として臼蓋カップが使用される。人工股関節の適正な可動範囲と、脱臼しにくさを達成するためには、臼蓋カップの設置方向が重要になる。
【0003】
健康な臼蓋は半球状であり、斜め下方向に開口している。詳細には、寛骨臼軸が、垂直方向(体軸)の下向きに対して、腹側に約10〜20°(この角度を「前開角(Anteversion)」と称する)、外側に約40〜50°(この角度を「外開角(Inclination)」と称する)だけ傾いている。臼蓋カップを設置する際は、臼蓋カップの中心軸を健康時の寛骨臼軸とほぼ一致させるのが望ましい。
【0004】
臼蓋カップの中心軸を所定の前開角及び外開角に設定するための、臼蓋カップ設置用器具が知られている(例えば特許文献1及び2参照)。
【0005】
特許文献1には、先端部に臼蓋コンポーネントのシェル(臼蓋カップ)を着脱自在に保持できる主軸と、主軸に固定されたT字状ハンドルと、T字状ハンドルに固定された前開き角調整ロッドとを備えた臼蓋カップ設置用器具が開示されている。この器具では、主軸とT字ハンドルの柄との角度によって外開角を設定でき、そしてT字ハンドルの柄と前開き角調整用ロッドとの角度によって前開角を設定できる。
【0006】
特許文献2に開示された人工股関節置換術用装置は、臼蓋カップ設置用器具を含んでいる(例えば、段落[0025]及び図25参照)。この器具の使用方法は、まず、臼蓋より上側の骨盤にパイロットピンを打ち込み、そのパイロットピンにA−Pプレートを取り付ける。そして、A−Pプレートに、前捻角(すなわち前開角)を規定するための前捻角プレートを固定する。さらに、前捻角プレートに、傾斜角(すなわち外開角)を規定するためのアングルガイドを固定する。そして、アングルガイドにポジショナーを取り付ける。ポジショナーの先端に固定されたソケット(臼蓋カップ)の中心線は、所定の前開角及び外開角になる。
【0007】
また、寛骨臼軸の外開角と前開角は、観察方法によって異なることが知られている(非特許文献1)。非特許文献1では、3つの観察方法(レントゲン的(radiographic)、手術的(operative)、及び解剖学的(anatomical))について研究している。以下に、各観察方法における外開角と前開角について、図9を参照して説明する。
【0008】
図9は、右下側から斜め上向きに観察した骨盤PEを示している。図中には、右側の寛骨臼ACの寛骨臼軸AX、体軸と平行で寛骨臼ACを通る軸(本明細書では、便宜的にこの軸を「体軸BX」と称する)、そして寛骨臼ACを通る3つの平面(冠状面CP、矢状面SP及び横断面TP)が図示されている。
なお、寛骨臼軸AXとは、寛骨臼ACの開口方向を示す軸である。詳しくは、寛骨臼ACが球体を切断した半球状であると見なしたときに、球体の中心点から切断面に垂直な軸が寛骨臼軸AXである。
【0009】
(1)レントゲン的観察方法
レントゲン的な観察方法では、冠状面CPに投影した寛骨臼軸AX(冠状面投影軸p−CPと称する)を用いて角度を測定する。体軸BXと冠状面投影軸p−CPとのなす角度がレントゲン的外開角(Radiographic Inclination:RI)である。寛骨臼軸AXと冠状面投影軸p−CPとのなす角度がレントゲン的前開角(Radiographic Anteversion:RA)である。
医師は、術前計画において、患者のレントゲン写真に基づいて各患者に最適なRIとRAを決める。そして、臼蓋カップ設置後に再びレントゲン写真を撮影して、カップが所望のRIとRAで設置されているかどうかを確認する。
【0010】
(2)手術的観察方法
手術的な観察方法では、矢状面SPに投影した寛骨臼軸AX(矢状面投影軸p−SPと称する)を用いて角度を測定する。寛骨臼軸AXと矢状面投影軸p−SPとのなす角度が手術的外開角(Operative Inclination:OI)である。体軸BXと矢状面投影軸p−SPとのなす角度が手術的前開角(Operative Anteversion:OA)である。
特許文献1及び2の臼蓋カップ設置用器具において、各部品で設定する外開角及び前開角とは、OI及びOAのことである。
【0011】
(3)解剖学的測定方法
解剖学な観察方法では、横断面TPに投影した寛骨臼軸AX(横断面投影軸p−TPと称する)を用いて角度を測定する。横断面水平軸TH(横軸)と横断面投影軸p−TPとのなす角度が(Anatomical Anteversion:AA)である。体軸BXと寛骨臼軸AXとのなす角度が解剖学的外開角(Anatomical Inclination:AI)である。
【0012】
同じ外開角であっても、RI、OI及びAIは一致しない。同様に、同じ前開角であっても、RA、OA及びAAは一致しない。また、非特許文献1には、各測定方法で得られた角度の関係式が記載されているが、その関係は複雑である。よって、ある測定方法(例えばレントゲン的観察方法)における角度の変更が、他の測定方法(例えば手術的観察方法や解剖学的測定方法)における角度に、どの程度影響するのか、感覚的に理解することは困難である。
【特許文献1】特開2002−143190号公報
【特許文献2】特開2000−325274号公報
【非特許文献1】D. W. Murray "The definition and measurement of acetabular orientation", the Journal of Bone Joint Surgery (1993), 75-B, 228-32
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
一般的に、RAは患者の骨格によってばらつきがある。よって、手術中に、RIを変化させることなくRAのみを変更したいことがある。その要望に応えるため、特許文献1の臼蓋カップ設置用器具には、OAを変更可能な前開き角度調整用ロッドが備えられている。手術中にRAの変更を余儀なくされた医者は、前開き角度調整用ロッドを用いてOAを変更して、RAのみを変更しようとするかもしれない。しかしながら、実際には、OAを変更すると、RAのみならずRIも変更されてしまう。例えば、OIを45°に固定して、OAを15°から25°に変更すると、RAは10.5°から17.5°に変更され、RIは46°から48°に変更される。
特許文献2の臼蓋カップ設置用器具では、前捻角プレートを交換することでOAを変更できるが、同じ理由により、RAのみを変更することはできない。
【0014】
このように、従来の臼蓋カップ設置用器具に備えられた角度調節機構では、RAを変化させることなくRIを変更することはできない。同様に、RIを変化させることなくRAを変更することもできない。そのため、RIのみ、又はRAのみを調節するのが難しい。
【0015】
なお、OAと同時にOIを変更すれば、RAを変更せずにRIのみを変更することも可能である。そのためには、例えば特許文献1の臼蓋カップ設置用器具であれば、T字状ハンドルの柄を、体軸と垂直な方向から傾ける必要がある。しかしながら、従来の臼蓋カップ設置用器具では、T字状ハンドルの柄は体軸と垂直に使用するため、T字状ハンドルの柄の傾きを正確に設定する手段を備えていない。そして、視認によって、T字状ハンドルの柄を正確に傾けることは極めて困難である。
【0016】
また、T字状ハンドルの柄を、所望のRIが得られる角度に正確に傾けることができたとしても、それが手術する医師にとって必ずしも望ましいとは限らない。OIの基準となるべきT字状ハンドルの柄が傾いているので、医師は、臼蓋カップ設置用器具を見ただけでは臼蓋カップのRIをイメージしにくい。すなわち、医師は、臼蓋カップのRIが本当に適切に設置されているのか把握できないままに臼蓋カップを設置し、その後のレントゲン写真を確認したときに、やっと臼蓋カップのRIを把握することになる。
【0017】
このように、従来の臼蓋カップ設置用器具ではRI及びRAを変更するのに適していないので、無理にRI及びRAを変更すると、手術中における臼蓋カップの角度(主に外開角)が把握できなくなる。その結果、臼蓋カップが望ましくない外開角で設置される恐れがある。
【0018】
そこで、本発明は、臼蓋カップのRI及びRAを単独で調節可能であり、また手術中にRI及びRAが直接把握できる臼蓋カップ設置用器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の臼蓋カップ用設置器具は、円弧状ガイドと、臼蓋カップの保持に使用され前記円弧状ガイドで規定される平面内において前記円弧状ガイドの中心を回転中心として回転可能なロッドと、前記円弧状ガイドに固定され前記平面内に伸びる主軸ガイドと、前記主軸ガイドに固定され前記主軸ガイドと垂直な面内に配置されたガイドバーと、を備えている。
本明細書において、円弧状ガイドで規定される平面を「ガイド平面」と称する。
【0020】
本発明の臼蓋カップ用設置器具は、円弧状ガイドによってガイド平面が決定される。このガイド平面と矢状面SPとのなす角度を、ガイドバーを用いてRIに一致させることができる。すなわち、ガイドバーの角度調節によって、RAを変更することなくRIを変更できる。
そして、ロッドをガイド平面内で回転させることにより、ロッドと冠状面投影軸p−CPとのなす角度を、RIに一致させることができる。すなわち、ロッドの角度調節によって、RIを変更することなく、RAを変更することができる。
【0021】
また、本発明の臼蓋カップ用設置器具では、ロッドの回転角度がRAと等しくなる。そして、ガイド平面と矢状面SPとのなす角度がRIと等しくなる。よって、医師は、レントゲン写真の撮影をする前に、臼蓋カップ用設置器具を確認するだけで臼蓋カップの角度を把握できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の臼蓋カップ設置用器具は、臼蓋カップのRAを変更することなく、RIを変更することができる。同様に、本発明の臼蓋カップ設置用器具は、臼蓋カップのRIを変更することなく、RAを変更することができる。よって、手術中に、RIのみ、又はRAのみを容易に調節できる。また、本発明の臼蓋カップ設置用器具は、ガイド平面とロッドとを確認することにより、手術中に臼蓋カップのRI及びRAが直接把握できるので、臼蓋カップを望ましくないRI及びRAで設置するのを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、「右」、「左」及び、それらの用語を含む別の用語)を用いる。それらの用語の使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が限定されるものではない。また、複数の図面に表れる同一符号の部分は同一の部分又は部材を示す。
【0024】
図1〜図3の臼蓋カップ設置用器具1は、円弧状ガイド10と、ロッド20と、主軸ガイド30と、ガイドバー40とを備えている。円弧状ガイド10は、ガイド平面12を規定する。ロッド20は、円弧状ガイド10の中心Oを回転中心として、ガイド平面12内で回転可能である。主軸ガイド30は、円弧状ガイド10に固定されており、ガイド平面12内に伸びている。ガイドバー40は、主軸ガイド30に固定されており、主軸ガイド30と垂直な面(「ガイド垂直面」と称する)32内に配置されている。臼蓋カップ60は、ロッド20の端部に保持されている。
【0025】
円弧状ガイド10は、中心Oに伸びるアーム16を備えている。また、円弧状ガイド10の円弧部分は、平行に並べた2枚の円弧状部材から構成されている。ロッド20は、2枚の円弧状部材の間に挿通され、そしてロッド20の端部でアーム16の中心Oの位置に軸支されている。これにより、ロッド20はガイド平面12内において、円弧状ガイド10の中心Oを回転中心として回転することができる。
【0026】
ロッド20は、手術中に所定の角度で固定されていなくてはならない。そのため、臼蓋カップ設置用器具1は、ロッド20を円弧状ガイド10に固定するためのロッド固定手段22を備えているのが好ましい。例えば、円弧状ガイド10に凹凸を設け、ロッド20に円弧状ガイド10の凹凸に嵌まるロッドホルダー221を取り付けてもよい。ロッドホルダー221はばねで円弧状ガイド10の凹凸に保持されていてもよい(図1及び図2参照)。ただし、ロッドホルダー221では固定力が弱いときには、ロッド20に取り付けたナット222を使用することもできる。ナット222を締めると、ナット222が円弧状ガイド10に固定され、結果としてロッド20を円弧状ガイド10に固定できる。
【0027】
図1及び図2に示すように、円弧状ガイド10は、ロッド20の回転角度を示す目盛(ロッド用目盛)14を有しているのが好ましい。ロッド用目盛14には、ロッド20が主軸ガイド30の軸30Xと垂直なときにはロッドホルダー221に設けられたライン221Lが「0°」を指し、ロッド20が軸30Xと平行なときにはライン221Lが「90°」を指すように、目盛がふられている。これにより、臼蓋カップ60のRAがロッド用目盛14直接表示される。なお、臼蓋カップ設置用器具1の用途から考えて、ロッド用目盛板14に必要な目盛りが例えば0°〜30°であれば、その角度範囲の目盛がふられていれば十分である。
【0028】
ガイドバー40は、手術中に所定の角度で固定されていなくてはならない。そのため、臼蓋カップ設置用器具1は、ガイドバー40を固定するためのガイドバー固定手段42を備えているのが好ましい。ガイドバー固定手段42は、例えば図1及び図2に示すように、主軸ガイド30の軸30Xに沿って伸びるねじ切り軸421と、ねじ切り軸421に螺合するナット422から構成することができる。ガイドバー40は、ねじ切り軸421を回転軸として回転でき、インジケータ44が所定の角度を指した状態でナット422を締めると、ガイドバー40はナット422とガイドバー用目盛板34との間で挟まれて、ガイドバー40をしっかりと固定できる。
【0029】
ガイドバー40は、ガイド垂直面32内で回転可能に取り付けることもできる。ガイドバー40を回転可能にする場合、ガイドバー40の角度は、主軸ガイド30に固定されたガイドバー用目盛板34から知ることができる。ガイドバー用目盛板34には、ガイドバー40がガイド平面12と垂直なときにはガイドバー40に設けられたインジケータ44が「0°」を指し、ガイドバー40がガイド平面12と平行なときにはインジケータ44が「90°」を指すように、目盛がふられている。これにより、臼蓋カップ60のRIがガイドバー用目盛34直接表示される。なお、臼蓋カップ設置用器具1の用途から考えて、ガイドバー用目盛板34に必要な目盛りが例えば0°〜60°であれば、その角度範囲の目盛がふられていれば十分である。
なお、ガイドバー40の角度を変更する必要がない場合には、ガイドバー40が回転しないように主軸ガイド30に固定してもよい。
【0030】
ロッド20は、先端に臼蓋カップ60を固定するためのカップ固定手段を備えることができる。例えば、カップ固定手段として、インナーロッド50(図4参照)を用いることができる。インナーロッド50は、ロッド20の内部に挿入して使用される。先端のねじ部52がロッド20の先端から突出して、雌ねじ穴を有する臼蓋カップ60にねじ止めされる。ハンドル54は、ねじ部52を臼蓋カップ60にねじ止めするときに、インナーロッド50を回転させるのに使用される。また、臼蓋カップ60を寛骨臼ACに打ち込むときに、ハンドル54をハンマーで叩いてもよい。
【0031】
なお、インナーロッド50を含むカップ固定手段によって臼蓋カップ30を保持するとき、臼蓋カップ30の中心が円弧状ガイド10の中心Oとほぼ一致しているのが好ましい。なお、本明細書において「臼蓋カップ30の中心」とは、臼蓋カップ30の開口縁部62(円形である)の中心を指している。
【0032】
本実施形態の臼蓋カップ用設置器具1の使用方法の概要を説明する。
臼蓋カップ用設置器具1を使用する際には、図9に示した寛骨臼軸AXと冠状面投影軸p−CPとで規定される平面(これを「レントゲン的基準面RS」と称する)に、図1〜図3に示したガイド平面12を一致させる。ロッド20はガイド平面12内で回転できるので、臼蓋カップ30を保持した状態でロッド20の回転角度を調節することにより、臼蓋カップのRAのみを変更できる。
【0033】
ガイド平面12をレントゲン的基準面RSと一致させるためには、主軸ガイド30の軸30X(図1、図2)が冠状面CP(図9)に垂直になるように、そしてガイドバー40(図1〜図3図)が横断面TP(図9)内に位置するように、臼蓋カップ用設置器具1を位置決めする。
主軸ガイド30の軸30Xが冠状面CPと垂直になると、ガイド平面12は冠状面CPと垂直になる。そして、ガイドバー40とガイド平面12とのなす角度(α°と表記する)により、ガイド平面12と横断面TPとのなす角度はα°に設定される。α=(90°−RI)に設定することで、ガイド平面12をレントゲン基準面RSに一致させることができる。また、ガイドバー40とガイド平面とのなす角度α°を調節することにより、RAを変更することなく臼蓋カップのRIのみを変更できる。
【0034】
次に、図5〜図7を参照しながら、本実施形態の臼蓋カップ用設置器具1の使用方法を具体的に説明する。図5〜図7は、右側の寛骨臼ACに臼蓋カップ60を配置する様子を示している。図5は、体の右側からの臼蓋カップ用設置器具1の位置、図6は体の腹側からの臼蓋カップ用設置器具1の位置をそれぞれ示している。
【0035】
(1)臼蓋カップ60の挿入
リーミング等の処理が完了した寛骨臼ACに、ロッド20の先端に固定された臼蓋カップ60を、体の右側から挿入する。
【0036】
(2)臼蓋カップ用設置器具の位置決め
主軸ガイド30の軸30Xが冠状面CPと垂直(図5では、体軸BXに垂直)になるように、臼蓋カップ用設置器具1の向きを調節する。そして、ガイドバー40が横断面TPと平行(図6では、体軸BXと垂直)になるように、臼蓋カップ用設置器具1の向きをさらに調節する。
【0037】
(3)臼蓋カップ60のRIの決定
ガイドバー40とガイド表面12とのなす角度αを調節する。これにより、ガイド表面12と矢状面SPとのなす角度(90°−α°)(臼蓋カップ60のRIに等しい)が決定される。この時点で、ガイド平面12は、レントゲン的基準面RSと一致する。
なお、術前計画でRIが決まっている場合には、「(1)臼蓋カップ60の挿入」の過程より前に、角度αを調節しておくこともできる。また、ガイドバー用目盛板34にはRIが直接表示されるので、RIを容易に設定できる。
【0038】
(4)臼蓋カップ60のRAの決定
ロッド20と冠状面CPとのなす角度RA(臼蓋カップのRAに等しい)を調節する。これにより、臼蓋カップ60のRAが決定される。なお、術前計画でRAが決まっている場合には、「(1)臼蓋カップ60の挿入」の過程より前に、角度RAを調節しておくこともできる。また、ロッド用目盛板14にはRAが直接表示されるので、RAを容易に設定できる。
【0039】
(5)臼蓋カップ60のRIおよびRAの微調整
臼蓋カップ60のRI及びRAの微調整が必要になったときには、ガイドバー40の角度とロッド20の角度を調節する。
RIを調節するときは、ガイドバー40の角度を調節する。ガイドバー用目盛板34を用いることで、ガイドバー40の角度を正確に調節できるので、RIの微調整に対応できる。なお、ガイドバー40の角度を変更しても、RAは変更されない。
RAを調節するときは、ロッド20の角度を調節する。ロッド用目盛板14を用いることで、ロッド20の角度を正確に調節できるので、RAの微調節に対応できる。なお、ロッド20の角度を変更しても、RAは変更されない。
【0040】
このように、本発明の臼蓋カップ用設置器具1は、本発明の臼蓋カップ用設置器具1は、ロッド20の角度によってロッド20と冠状面投射軸p−CPとのなす角度RAを調節できるので、臼蓋カップ60のRIを変化させずにRAを調節できるという利点を有する。また、ガイドバー40の角度によって、ガイド平面12と矢状面SPとのなす角度RIを調節できるので、臼蓋カップ60のRAを変化させずにRIのみを調節できるという利点も有する。
そして、RIの角度はガイド平面と矢状面SPとのなす角度から直接に知ることができ、そしてRAの角度はロッド20と冠状面CPとのなす角度から直接に知ることができるので、ガイドバー40とロッド20から臼蓋カップの角度を容易に把握できる。
また、RIの角度は、ガイドバー用目盛板34から正確に読み取ることができ、RAの角度は、ロッド用目盛14から正確に読み取ることができる。
【0041】
図5に示すように、円弧状ガイド10が患者の体外に配置されるように円弧状ガイド10の半径を設定することにより、患者の体内に挿入される部分を小さくできる。よって、最小侵襲法(MIS)にも好適な臼蓋カップ用設置器具が得られる。さらに、円弧状ガイド10が、患者を手術台に固定する固定器具と接触せずに使用できるように、円弧状ガイド10の半径を設定すると、より好ましい。
【0042】
<変形例>
図8に示す臼蓋カップ用設置器具100は、主軸ガイド300を円弧状ガイド10のアーム16に形成している点で相違している。使用方法は、上述の「(1)臼蓋カップ60の挿入」〜「(5)臼蓋カップ60のRIおよびRAの微調整」の過程とほぼ同じである。ただし、過程(2)(図5)では主軸ガイド30が腹側に位置するのに対して、変形例では主軸ガイド300が背側に位置する。しかしながら、主軸ガイド300の軸300Xが冠状面CPと垂直になるように、臼蓋カップ用設置器具100の向きを調節する点は同様である。
【0043】
変形例の臼蓋カップ用設置器具100は、円弧状ガイド10を短くできるので、使用中に他の手術用器具(例えば患者を手術台に固定する固定器具)と接触しにくく、操作しやすいという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施の形態に係る臼蓋カップ用設置器具の概略斜視図である。
【図2】実施の形態に係る臼蓋カップ用設置器具の概略正面図である。
【図3】実施の形態に係る臼蓋カップ用設置器具の概略上面図である。
【図4】実施の形態に係る臼蓋カップ用設置器具で使用されるインナーロッドの概略斜視図である。
【図5】実施の形態に係る臼蓋カップ用設置器具の使用状態を示す概略斜視図である。
【図6】実施の形態に係る臼蓋カップ用設置器具の使用状態を示す患者腹部側からの概略図である。
【図7】実施の形態に係る臼蓋カップ用設置器具の使用状態を示す患者右側からの概略図である。
【図8】実施の形態に係る臼蓋カップ用設置器具の変形例を示す概略正面図である。
【図9】寛骨臼軸の外開角と前開角を説明する概略斜視図である。
【符号の説明】
【0045】
1,100 臼蓋カップ用設置器具、 10 円弧状ガイド、 12 ガイド平面、 14 ロッド用目盛、 16 円弧状ガイドのアーム、 20 ロッド、 22 ロッド固定手段、 221 ロッドホルダー、 221L ロッドホルダーのライン、 222 ナット、 223 ばね、 30,300 主軸ガイド、 30X 主軸ガイドの軸、 32 ガイド垂直面、 34 ガイドバー用目盛板、 40 ガイドバー、 42 ガイドバー固定手段、 421 ねじ切り軸、 422 ナット、 44 インジケータ、 50 カップ固定手段(インナーロッド)、 52 ねじ部、 54 ハンドル、 60 臼蓋カップ、 62 臼蓋カップの開口縁部、 AC 寛骨臼、 BX 体軸、 AX 寛骨臼軸、 CP 冠状面、 SP 矢状面、 TP 横断面、 p−CP 冠状面投影軸、 p−SP 矢状面投影軸、 p−TP 横断面投影軸、 PE 骨盤、 RS レントゲン的基準面、 O 円弧状ガイドの中心。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円弧状ガイドと、
臼蓋カップの保持に使用され、前記円弧状ガイドで規定される平面内において前記円弧状ガイドの中心を回転中心として回転可能なロッドと、
前記円弧状ガイドに固定され前記平面内に伸びる主軸ガイドと、
前記主軸ガイドに固定され前記主軸ガイドと垂直な面内に配置されたガイドバーと、
を備えた臼蓋カップ用設置器具。
【請求項2】
前記円弧状ガイドが、前記ロッドの回転角度を示す目盛を有することを特徴とする請求項1に記載の臼蓋カップ用設置器具。
【請求項3】
前記ロッドを任意の位置で前記円弧状ガイドに固定するためのロッド固定手段をさらに備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の臼蓋カップ用設置器具。
【請求項4】
前記ガイドバーが、前記垂直な面内で回転可能であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の臼蓋カップ用設置器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−247725(P2009−247725A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−101288(P2008−101288)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(504418084)日本メディカルマテリアル株式会社 (106)
【Fターム(参考)】