説明

航空機のための液圧制動構造

【課題】構造の重量、性能、利用可能性及び信頼性の点から良好な妥協を提案する新規な制動構造を提供する。
【解決手段】ブレーキ(102)が取り付けられた複数の車輪を含む航空機のための液圧制動構造であって、各ブレーキが、2つの半空洞(102a,102b)を含み、構造が、複数のサーボバルブ(103)を含む第1の制動回路(N1)であって、各サーボバルブが、別個のブレーキの1又は複数の半空洞に動力を供給する、第1の制動回路と、複数のサーボバルブ(104)を含む第2の制動回路(N2)であって、各サーボバルブが、別個のブレーキの1又は複数の半空洞に動力を供給する、第2の制動回路とを具備し、各ブレーキに対して、少なくとも1つの半空洞には、前記半空洞のみに動力を供給するサーボバルブによって動力が供給される、制動構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半空洞を備えるブレーキを有する航空機のための液圧制動構造に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の製造業者が液圧制動構造の重量、性能、メンテナンス性又は利用可能性をさらに改良しようと試みているかどうかに応じて、様々なタイプの前記構造が公知である。4つのブレーキ付き車輪を有する航空機への適用について、これら様々なタイプの構造は、図1〜図4に概略的に図示される。
【0003】
図1に示される第1のタイプの構造Aは、2つの制動回路を具備し、このうちの一方は通常回路N(太い実線)であり、他方は緊急回路S(太い点線)である。4つのブレーキ2のそれぞれは、2つの空洞2a,2bを含み、各空洞には、制動回路のうちの1つのみによって動力が供給される。通常回路Nは4つのバルブ3、特にこの例ではサーボバルブ又はブレーキ制御バルブ(BCV)を含み、各バルブ3は、各ブレーキの空洞のうちの1つ、具体的には空洞2aに動力を供給する。この配置は、各ブレーキを独立に制御することを可能にし、制動距離を最小化するのに貢献する。緊急回路は、2つのみのサーボバルブ又はBCV4を含み、サーボバルブ又はBCV4のそれぞれは、互いに異なる2つのブレーキの2つの空洞2bに動力を供給し、それにより、緊急回路を使用するときに停止距離を損なうことになるけれども、緊急回路のコスト及び重量を最小化する。対をなすブレーキの制御機構は、制動力を、考慮している2つの車輪のそれぞれで、しかしながらこの2つの車輪の“ウィーカ(weaker)”のみで、最適化することができない。2つの車輪のうちの1つがスリップし始めたときに、共用のサーボバルブは、対をなす車輪の両方への制動力を低下させる。
【0004】
さらに、構造はパーキング回路P(太い一点鎖線)を含み、パーキング回路Pは、通常回路N又はパーキング回路Pへの空洞2aの接続を組織するシャトルバルブ6を介して、各ブレーキの空洞2aで終端する。構造はさらに、2つの戻り回路R(点線)を含む。通常回路N、緊急回路S及びパーキング回路Pへの流体の供給は、バルブ7,8,9によって制御される。
【0005】
この構造では、各ブレーキの2つの空洞は独立しており、通常回路からの流体を緊急回路からの流体と混合することを避けるように、排他的なやり方で作動され、それにより、両方の回路から入る流体の潜在的な混合を引き起こす場合のあるメンテナンス作業を避けるという利点を有する。しかしながら、このようにメンテナンスの努力を最小化する場合、各ブレーキが、使用されない1つの空洞を永続的に有するので、システムの重量に対して不利である。
【0006】
このような構造は、ほとんどの要素が余裕をもっていることを考えれば、故障に対して低い感度を有する。この余裕をもっている要素は、良好な制動性能(通常回路)又はわずかに減少された制動性能(緊急回路)を供給するのに適した2つの独立した制動回路であって、各制動回路が2つの独立したブレーキの空洞に動力を供給する、2つの独立した制動回路である。
【0007】
第2のタイプの公知の構造Bは、図2に示される。この図、並びに図3及び図4では、図1と共用されている要素には、明瞭性のために参照番号が付与されない。同じタイプの線を有する回路N,S,P,Rが示される。図2に図示された構造において、各ブレーキ2は、シャトルバルブ10を介して、通常制動回路によって又は緊急制動回路によって択一的に動力が供給される空洞を含む。上述の構造と同様に、通常回路Nは、ブレーキ付き車輪と同数のサーボバルブを有し、これに対して、緊急回路Sは、一対の車輪につき1つのみのサーボバルブを有する。1つのブレーキにつき1つのみの空洞を有することにより、前記空洞が通常回路及び緊急回路の両方で使用されるので、各ブレーキの使用を最適化することが可能になる。しかしながら、通常回路と緊急回路との間における流体の移送又は混合が、構造を使用する各サイクルの間に(特に着陸前の機能試験の間に)行われやすいように、かつエンジンの始動及び停止の両方又は一方の命令に応じて行われやすいように、空洞には、一方又は他方の制動回路によって二者択一的に動力が供給される。流体のこのような移送又は混合は、具体的には、航空機のタンク内での流体の高さ位置を再調整するために、かつ一方の流体から他方の流体に広がる場合のある化学的汚染の任意のリスクを防ぐために、定期的なメンテナンス作業を生じさせる。
【0008】
最後に、このような構造は、単一の制動空洞の使用により、かつ、共通の箇所(各シャトルバルブ10)であって、この共通の箇所の故障がブレーキ全体の使用を妨げる、共通の箇所により、上述の構造の故障の感度よりも少々高い感度を有する。
【0009】
第3の公知の構造Cは図3に示される。この構造では、各ブレーキ2は、1つのみの空洞を含む。この構造は、同時に作動される2つの同一の液圧回路を具備し、これらの液圧回路のそれぞれは、4つのブレーキのうちの2つのブレーキに動力を供給する(それぞれ、内側回路INTが内側の車輪のブレーキに動力を供給し、外側回路EXTが外側の車輪のブレーキに動力を供給する。)。したがって、これらの回路同士の間で流体が移送されるリスクがない。認証規則、具体的にはあらゆる種類の制動システムの単一の故障が制動距離を100%又はそれ以上増加させるべきでないという要求を満たすために、以下の条件が、液圧制動構造を寸法設定する際に考慮されることを必要とする。
・ 複数のブレーキは、2つの制動回路うちの1つが使用不能になった場合に、通常のエネルギの2倍を吸収することのできることを必要とし、2つのみのブレーキ付き車輪で着陸することを導く。これは、前記ブレーキの寸法超過を引き起こし、その結果として、前記ブレーキの重量の増加を引き起こす。
・ 2つの制動回路のそれぞれには、上述の状況を引き起こす故障の事例(最もありがちな故障は、航空機の液圧の発生の喪失である。)を減少させるように、他の装備と比べて比較的重量の重い液圧装備の一部分であるアキュムレータが概して設けられる。
【0010】
加えて、シャトルバルブ6を介して制動回路EXT及び制動回路INTと同じ空洞においてそれぞれに作動する2つの半回路Pext,Pintに、パーキング回路自体が分割される。この分割により、1つではなく2つのアキュムレータ11を設けることが特に必要となり、このことは、メンテナンスの努力(アキュムレータの圧力の確認)及び構造の重量を増加させる。
【0011】
このような構造は、制動回路にもブレーキ自体にも余裕がないことを考えれば、故障に対する著しい感度を有する。
【0012】
最後に、第4の公知の構造Dは図4に示される。この構造は、具備するブレーキ2の特有の特徴を有し、各ブレーキ2は、2つの半空洞2a,2bを含む。各半空洞には、2つの制動回路N1,N2のうちの対応する1つによって動力が供給される。二つの半空洞には、同時に動力が供給される。この例では、前記半空洞が同時に作動され、かつこれら半空洞自体がフル制動力を生成するのに十分でないおそれがあるという理由から、用語“2重空洞”よりもむしろ用語“半空洞”が使用される。各ブレーキの2つの半空洞は独立しており、それにより、制動回路同士の間での流体の任意の混合が避けられる。
【0013】
この例では、制動回路N1,N2のそれぞれは、2つのサーボバルブを含み、各サーボバルブは、2つの別個のブレーキの2つの半空洞に動力を供給する。この配置は、重量を増加させるものの、制動の最適化された車輪ごとの制御を可能にしない。
【0014】
2つの制動回路N1,N2は、この例でも(2つの回路のうちの1つのみにしばしば実装されるパーキングブレーキ機能を除けば)同一であり、各回路は、2つのサーボバルブを有し、各サーボバルブは、2つの別個のブレーキの2つの半空洞に動力を供給する。制動性能を損わせることになるこのような配置は、制動システムの重量を最小化する。
【0015】
最後に、このような構造は、ほとんどの要素が余裕をもっていることを考えれば、故障に対して低い感度を有する。この余裕を持っている要素は、2つの独立した制動回路であり、この制動回路のそれぞれは、2つのブレーキ半空洞(1つのブレーキ付き車輪につき1つ)に動力を供給し、各ブレーキ半空洞は、ブレーキを対として制御することを条件として、最適ではないが一定の程度の制動性能を供給するのに適している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、構造の重量、性能、利用可能性及び信頼性の点から良好な妥協を提案する新規な制動構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的を達成するために、
ブレーキが取り付けられた複数の車輪を含む航空機のための液圧制動構造であって、
各ブレーキが、2つの半空洞を含み、
構造が、
・ 複数のサーボバルブを含む第1の制動回路であって、各サーボバルブが、別個のブレーキの1又は複数の半空洞に動力を供給する、第1の制動回路と、
・ 複数のサーボバルブを含む第2の制動回路であって、各サーボバルブが、別個のブレーキの1又は複数の半空洞に動力を供給する、第2の制動回路と、
を具備し、
各ブレーキに対して、両方の液圧回路が同時に作動するように、一方の半空洞には、第1の制動回路のサーボバルブによって動力が供給され、他方の半空洞には、第2の制動回路のサーボバルブによって動力が供給され、少なくとも1つの半空洞には、前記半空洞のみに動力を供給するサーボバルブによって動力が供給される、
液圧制動構造が提供される。
【0018】
したがって、構造Dにおける半空洞の原理が維持され、それにより、2つの液圧回路が全体的に独立することが可能になる。両方の半空洞が同時に使用され、しかしながら、各ブレーキの少なくとも一方の半空洞は、単一のサーボバルブによって制御され、それにより、動力が別のブレーキの別の半空洞と共に他方の半空洞に同時に供給されるときでさえ、関係する車輪の制動作用の最適化された調整を提供することが可能になる。したがって、適切な数のサーボバルブを使用しつつ、最適なやり方で制動作用を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
(原文記載なし)
【発明を実施するための形態】
【0020】
図5は、4つのブレーキ付き車輪を有する航空機への適用に関する、本発明の第1の具体的な実施を示す線図である。
【0021】
他の構造と共用の要素の参照番号には、100が増やされる。この例では、各ブレーキは、2つの半空洞102a,102bを含む。
【0022】
構造は、2つの液圧制動回路N1,N2を具備し、これら液圧制動回路N1,N2は、それぞれ半空洞102a,102bに動力を供給し、同時に作動する。
【0023】
制動回路N1は、4つのサーボバルブ103を含み、各サーボバルブは、半空洞102aのうちの1つのみに動力を供給する。制動回路N2は、2つのみのサーボバルブ104を含み、各サーボバルブは、半空洞102bのうちの2つに動力を供給する。したがって、本発明によれば、各ブレーキの半空洞のうちの少なくとも1つには、前記半空洞のみに動力を供給するサーボバルブによって動力が供給され、その結果、車輪ごとに制動作用を最適化することができる。構造は、パーキング回路Pを含み、このパーキング回路Pは、制動回路N1と同じ液圧動力供給部に付設され、シャトルバルブ106を介して同じ半空洞102aに動力を供給する。構造は、制動回路N1と制動回路N2とパーキング回路Pとをそれぞれ隔離するために、隔離バルブ107,108,109を含む。構造はさらに、サーボバルブ103,104からの戻り流体を収集するための2つの戻り回路Rを含む。
【0024】
図6に示される変更例では、回路N1は、3つのみのサーボバルブを含むことができ、これらのサーボバルブのうちの2つは、単一のそれぞれの半空洞202aに動力を供給する一方で、第3のサーボバルブは、2つの別個のブレーキの2つの半空洞202aに動力を供給する。したがって、回路N1は、回路N2と全く同じ数の装備を具備する。本発明によれば、各ブレーキの半空洞のうちの少なくとも1つには、前記半空洞のみに動力を供給するサーボバルブによって動力が供給されることを確保することが望ましい。したがって、図6で理解できるように、2つの頂部車輪(例えば、一方の主着陸装置によって支持される車輪)は、それぞれの半空洞202aを備えるブレーキを有し、各半空洞202aには、回路N1のそれぞれのサーボバルブ203によって動力が供給される一方で、対応する他方の半空洞202bの両方には、回路N2の単一のサーボバルブ204によって動力が供給される。底部車輪(他方の主着陸装置によって支持される車輪)に関して、これら底部車輪は、それぞれの半空洞202bを備えるブレーキを有し、各半空洞202bには、回路N2のそれぞれのサーボバブル204によって動力が供給される一方で、対応する他方の半空洞202aの両方には、回路N1の単一のサーボバルブ203によって動力が供給される。
【0025】
図6に示唆されるように、他の構成、例えば航空機が2つの主着陸装置にわたって分布される8つのブレーキ付き車輪を含む構成のために、本発明の設備を容易に一般化することができる。図6に示された4つのブレーキ付き車輪が左方の着陸装置のものであると考慮し、かつ右方の着陸装置のブレーキ付き車輪について同じパターンを再現するのには、十分であり、対応するサーボバルブが同じ制動回路N1,N2に接続される。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ(102;202)が取り付けられた複数の車輪を含む航空機のための液圧制動構造であって、
各ブレーキが、2つの半空洞(102a,102b;202a,202b)を含み、
構造が、
・ 複数のサーボバルブ(103;203)を含む第1の制動回路(N1)であって、各サーボバルブが、別個のブレーキの1又は複数の半空洞に動力を供給する、第1の制動回路と、
・ 複数のサーボバルブ(104;204)を含む第2の制動回路(N2)であって、各サーボバルブが、別個のブレーキの1又は複数の半空洞に動力を供給する、第2の制動回路と、
を具備し、
各ブレーキに対して、両方の液圧回路が同時に作動するように、一方の半空洞には、第1の制動回路のサーボバルブによって動力が供給され、他方の半空洞には、第2の制動回路のサーボバルブによって動力が供給され、少なくとも1つの半空洞には、前記半空洞のみに動力を供給するサーボバルブによって動力が供給される、
制動構造。
【請求項2】
各ブレーキについて、
一方の半空洞(202a;202b)には、前記半空洞にのみ電力を供給するサーボバルブ(203;204)によって動力が供給される一方で、
他方の半空洞(202b;202a)には、前記半空洞と別のブレーキの別の半空洞とに動力を供給するサーボバルブ(204;203)によって動力が供給される、
請求項1に記載の制動構造。
【請求項3】
制動構造が、
制動回路のうちの1つ(N1)と共用される液圧動力供給部を有し、
前記制動回路に付設される半空洞にのみ動力を供給する、
1つのみのパーキング回路(P)
を具備する、
請求項1に記載の制動構造。

【公開番号】特開2011−157065(P2011−157065A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−20445(P2011−20445)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(591131361)メシエ−ブガッティ (64)
【氏名又は名称原語表記】MESSIER BUGATTI
【Fターム(参考)】