説明

舶用エンジン制御装置および方法

【課題】プロペラトルクが一定となる主機制御を行い、スラスト変動を抑え、推進効率を向上する。
【解決手段】主機関11の実回転速度Neを検出し、時間遅れロジック13および周期算出部15に入力する。周期算出部15において実回転速度Neの変動周期を検出し、時間遅れロジック13において実回転速度Neを4分の1周期分の遅延して負帰還する。目標回転速度Noとフィードバック信号の偏差を比例制御部14に入力し、周期算出部15で求められた周期から算出される実回転速度Neの変動角速度ωに対応するゲインで比例演算を行う。N/FI変換部12において目標回転速度Noに対応するフューエルインデックスFIoを算出し、比例制御部14からの出力と加算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の主機の運転を制御する舶用エンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶では、プロペラ回転速度を一定値に維持する回転速度一定制御が一般に採用される。すなわち船舶主機のガバナ制御では、PID制御により実回転速度が目標回転速度に維持される(特許文献1)。しかし、回転速度一定制御では、負荷変動に応じて燃料供給量(フューエルインデックス)が変動するため燃費が悪化する場合がある。このことから海象によっては、燃料供給量(フューエルインデックス)を一定値に固定するガバナ制御を行う場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−200131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、フューエルインデックスを一定にして、主機トルクを略一定に維持しても、プロペラ負荷が変動すると、プロペラトルクは一定に維持されないので、スラストに変動が発生し推進効率が低下する。
【0005】
本発明は、プロペラトルクが一定となる主機制御を行い、スラスト変動を抑え、推進効率を向上することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の舶用エンジン制御装置は、目標回転速度を与えフューエルインデックスを出力する舶用エンジン制御装置であって、主機関の実回転速度の変動周期に対して10%〜30%遅延したフィードバック信号を帰還するとともに、実回転速度の変動角速度に比例してフューエルインデックスを変動させることを特徴としている。
【0007】
フィードバック信号は、例えば実回転速度を時間遅れロジックで遅延された信号であり、目標回転速度とフィードバック信号の偏差は、例えば変動角速度に対応するゲインが設定される比例演算部を介して出力される。
【0008】
また目標回転速度に対応するフューエルインデックスを算出する目標回転速度/フューエルインデックス変換手段を更に備え、比例演算部からの出力は、目標回転速度に対応するフューエルインデックスに加算される。
【0009】
あるいは、舶用エンジン制御装置は、PI制御部を備え、目標回転速度とフィードバック信号の偏差がPI制御部に入力され、目標回転速度に対応するフューエルインデックスが、PI制御部のI演算部において生成・維持される。
【0010】
また、フィードバック信号は、実回転速度の微分演算により生成される構成でもよい。
【0011】
本発明の船舶は、上記舶用エンジン制御装置を備えたことを特徴としている。
【0012】
また本発明の舶用エンジン制御方法は、目標回転速度を与えフューエルインデックスを出力する舶用エンジン制御方法であって、主機関の実回転速度の変動周期に対して10%〜30%遅延したフィードバック信号を帰還するとともに、実回転速度の変動角速度に比例してフューエルインデックスを変動させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、プロペラトルクが一定となる主機制御を行い、スラスト変動を抑え、推進効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施形態のエンジン制御装置の構成を示す制御ブロック図である。
【図2】発明の原理および作用・効果を説明するためのグラフである。
【図3】第2実施形態のエンジン制御装置の構成を示す制御ブロック図である。
【図4】第3実施形態のエンジン制御装置の構成を示す制御ブロック図である。
【図5】第4実施形態のエンジン制御装置の構成を示す制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の第1実施形態である舶用エンジンの制御装置の構成を示す制御ブロック図である。
【0016】
本実施形態の舶用エンジン制御装置10は、主機関11への燃料供給を制御するガバナシステムであり、主機関11のクランクシャフト(図示せず)は、推進用のプロペラ(図示せず)に連結される。舶用エンジン制御装置10では、目標値として目標回転速度Noが設定され、主機関11の出力である実回転速度Neがターニングギア等を用いた周知の方法により検出される。
【0017】
目標回転速度Noは、N/FI変換部12においてフューエルインデックスFIoに変換される。また、これに並行して本実施形態では時間遅れロジック13を介してフィードバックされる主機関11の実回転速度Neとの偏差が求められ、比例制御部14において比例演算が施される。
【0018】
本実施形態において、比例制御部14は、実回転速度Neの変動角速度ωに比例するゲインで比例演算を行い、時間遅れロジック13は、実回転速度Neの位相を略90°あるいは変動周期の約10〜30%遅延する。なお、比例制御部14のゲインおよび時間遅れロジック13の遅延時間は、実回転速度Neの変動に基づき周期算出部15で算出される実回転速度Neの周期Tに基づいて決定される。
【0019】
また、N/FI変換部12および比例制御部14からの信号は、加算されてアクチュエータ16に入力され、アクチュエータ16は、フューエルインデックスFIに対応する量の燃料を主機関11に供給する。
【0020】
次に図2を参照して本発明のプロペラトルク一定制御の原理について、フューエルインデックス一定制御と対比して説明する。
【0021】
なお、図2には、フューエルインデックス一定制御およびプロペラトルク一定制御における主機回転速度N(図2(a))、フューエルインデックスFIまたは主機トルクQe(図2(b))、プロペラトルクQpまたはスラスト(図2(c))、トルク係数Kq(図2(d))の時間変動がその平均値を100%として示される。また、図2では、0〜25秒の区間にフューエルインデックス一定制御における各物理量の変動が示され、30〜55秒の区間にプロペラトルク一定制御における各物理量の変動が示される。
【0022】
流体密度ρ、プロペラ径D、目標回転速度Noで各物理量を無次元化するとき、プロペラトルクQpは、トルク係数Kqと主機回転速度Nを用いて
Qp=Kq・N (1)
と表される。
【0023】
ここで、プロペラトルクQp、トルク係数Kq、主機回転速度Nを、それぞれの平均値Qpa、Kqa、Naと、変動成分△Qp、△Kq、△Nを用いて
Qp=Qpa+△Qp
Kq=Kqa+△Kq
N =Na +△N
と表し、(1)式を平均値周りに線形近似すると
△Qp=(∂Qp/∂Kq)・△Kq+(∂Qp/∂N)・△N
=Na・△Kq+2Kqa・Na・△N (2)
と近似できる。
【0024】
ここでトルク係数の平均値Kqaを1(100%)、すなわち平均プロペラトルクQpaを1(100%)とするとき、平均値周りにおいて平均回転速度Naは、実質的に目標回転速度No(=1)に等しいので、プロペラトルク変動成分△Qpは、(2)式から
△Qp=△Kq+2・△N (3)
と表わされる。
【0025】
また、エンジンやプロペラを含む回転部の慣性モーメントをI、主機トルクをQeとすると、オイラーの運動方程式は
dN/dt=(Qe−Qp)/I (4)
となる。ここで主機トルクQeをその平均値Qeaおよび変動成分△Qeに分離し、Qe=Qea+△Qeで表すとき、Qeaは実質的にQpaに等しいので(Qea=Qpa)、(4)式は
d△N/dt=(△Qe−△Qp)/I (5)
と表される。
【0026】
(フューエルインデックス一定制御)
主機トルクQeは、フューエルインデックスFIに略正比例し、係数を除けば実質的にフューエルインデックスFIに等しいとおけるので、フューエルインデックス一定制御では、△Qe=0と考えることができる(図2(b)左)。このとき、(5)式は
d△N/dt=−△Qp/I (6)
と表される。
【0027】
ここで波等の外乱による負荷変動を、トルク係数Kqの変動△Kqとして表し、△Kqに変動角速度ωの正弦波(図2(d)左)
△Kq=A・sin(ωt) (7)
を仮定すると(tは時間)、(3)式から
△Qp=A・sin(ωt)+2・△N (8)
となる。これを(6)式に代入するとオイラーの運動方程式は、
d△N/dt=−(A・sin(ωt)+2・△N)/I (9)
となる。
【0028】
ここで(9)式の定常解は、
△N=B・sin(ωt+θ) (10)
B=−A/√((ωI)+4)
θ=−tan−1(ωI/2)
と表される(図2(a)左)。
【0029】
すなわち、フューエルインデックス一定制御では、プロペラに(7)式で表される周期的な負荷変動が加わると、主機回転速度Nは慣性モーメントIに応じた位相θの遅れをもって(10)式のように変動する。このときプロペラトルクQpおよびスラストTh(=Kt・N、Kt:推力係数)は、(8)式のように変動し(図2(c)左)、推進効率が低下する。なお、ここで推力係数Ktはオフセット分の違いを除きトルク係数Kqと略同様(同位相で)に変動するものと仮定している。
【0030】
(プロペラトルク一定制御)
一方、プロペラトルクQpが一定であれば、△Qp=0であり(図2(c)右)、これを(3)式に代入すると
△N=−△Kq/2 (11)
が得られる。すなわち平均値の周りで線形近似が成り立つとき、プロペラトルクQpを一定にするには、主機回転速度Nをトルク係数Kqの変動△Kqに合わせて目標回転速度Noを中心に(11)式にしたがって変動させればよい(図2(a)右)。
【0031】
また、プロペラトルクQpが一定のとき(△Qp=0のとき)、(5)式は
d△N/dt=△Qe/I
と表され、主機トルクQeの変動成分△Qeは
△Qe=I・(d△N/dt) (12)
となる。
【0032】
ここでフューエルインデックス一定制御のときと同様に、トルク係数Kqに(7)式の周期変動を仮定するとき(図2(d)右)、プロペラトルクQpを一定にするための条件は、(11)式から
△N=−A・sin(ωt)/2
となり、主機回転速度Nをトルク係数の変動△Kqとは逆位相で、1/2の振幅で変動させればよいことが分かる(図2(a)右)。また、これは(12)式から、主機トルクQeを平均値Qeaの周りに
△Qe=−ω・I・A・cos(ωt)/2 (13)
で変動させることに対応する(図2(b)右)。
【0033】
前述したように、フューエルインデックスFIは、主機トルクQeと見なすことができる。したがって、負荷変動が(7)式で与えられるとき、目標回転速度Noに対応するフューエルインデックスFIoに(13)式の変動を付加すれば、プロペラトルクQpは一定に維持される(図2(c)右)。すなわち、第1実施形態では、図1に示されるように、時間遅れロジック13において実回転速度Neの位相を90°(4分の1周期)遅延させたものを負帰還させ、比例制御部14では変動角速度ωに対応するゲインでの増幅が行われる。
【0034】
以上のように第1実施形態によれば、プロペラトルクを一定に維持してスラストを一定に維持し、負荷変動による推進効率の低下を防止することができる。
【0035】
次に図3を参照して、本発明の第2実施形態である舶用エンジンの制御装置について説明する。なお、図3は第2実施形態の舶用エンジンの制御装置の構成を示す制御ブロック図である。
【0036】
第1実施形態の舶用エンジン制御装置10では、P制御のみを用い、目標回転速度Noに対応するフューエルインデックスFIoは、N/FI変換部12を通して生成された。しかし、第2実施形態の舶用エンジン制御装置20では、PI制御を用い、N/FI変換部12は用いられない。なお、その他の構成は第1実施形態と同様であり、同様の構成に関しては同一参照符号を用い、その説明を省略する。
【0037】
舶用エンジン制御装置20では、目標回転速度Noと、時間遅れロジック13を介した実回転速度Neのフィードバック信号の偏差が比例+積分制御部(PI制御部)17に入力される。入力された偏差は、比例+積分制御部(PI制御部)17において各演算が施されアクチュエータ16へ出力される。なお、目標回転速度Noに対応するフューエルインデックスFIoは、比例+積分制御部(PI制御部)17のI演算部において生成・維持される。このとき、積分時定数は変動周期の影響を受けない長めの時間に設定される。
【0038】
以上のように第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、プロペラトルクを一定に維持することができ、同様の効果を得ることができる。
【0039】
なお、第1、第2実施形態では、時間遅れロジックを用いて実回転速度を遅延させてフィードバックを行うとともに、比例演算部のゲインを実回転速度の変動角速度に対応して設定したが、実回転速度に微分演算を施してフィードバックする構成とすることもできる。
【0040】
例えば図4、5に微分演算を用いる第3および第4実施形態の舶用エンジンの制御装置22、25の制御ブロック図を示す。なお、以下の説明では第1、第2実施形態と同様の構成に関しては、同一参照符号を用い、その説明を省略する。
【0041】
図4の第3実施形態は、図1の第1実施形態に対応し、図5の第4実施形態は図3の第2実施形態に対応する。すなわち、第3実施形態では、目標回転速度Noに対応するフューエルインデックスFIoは、N/FI変換部12を通して生成され、実回転速度Neは微分演算ロジック21、比例制御部14を介してN/FI変換部12からのフューエルインデックスFIoに正帰還される。微分演算ロジック21では、実回転速度Neに微分演算が施され、比例制御部14では、微分信号が所定のゲインで増幅される。
【0042】
一方、第4実施形態では、実回転速度Neは第3実施形態と同様に微分演算ロジック21、比例制御部14を介して正帰還されるとともに、目標回転速度Noの入力側に負帰還され、その偏差が積分制御部24に入力される。すなわち、積分制御部24の積分時定数は変動周期の影響を受けない長めの時間に設定され、目標回転速度Noに対応するフューエルインデックスFIoは、積分制御部24のI演算において生成・維持される。比例制御部14から出力されるフィードバック信号は積分制御部24からの信号FIoに正帰還され、それらの和がアクチュエータ16に入力される。
【0043】
以上のように、第3、第4実施形態の構成においても、第1、第2実施形態と同様にプロペラトルク一定制御を実現できる。
【0044】
また、第1〜第4実施形態のプロペラトルク一定制御は、例えば、回転速度一定制御、フューエルインデックス一定制御、出力一定制御などと併用され、海象に応じて例えば自動または手動で選択的に切り替えられる。プロペラトルク一定制御は、波などによる負荷変動が、約20秒以下(より好ましくは10秒以下)の略一定の周期のときに適し、例えばそのような条件において選択される。また、第1、第2実施形態において、時間遅れロジックの遅れ時間を0にし、制御部の比例ゲインを1にすることで、プロペラトルク一定制御を出力一定制御に切り替えることも可能である。
【符号の説明】
【0045】
10、20、22、25 舶用エンジン制御装置
11 主機関
12 N/FI変換部
13 時間遅れロジック
14 比例制御部
15 周期算出部
16 アクチュエータ
17 比例+積分制御部(PI制御部)
21 微分演算ロジック
24 積分制御部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標回転速度を与えフューエルインデックスを出力する舶用エンジン制御装置であって、主機関の実回転速度の変動周期に対して10%〜30%遅延したフィードバック信号を帰還するとともに、前記実回転速度の変動角速度に比例して前記フューエルインデックスを変動させることを特徴とする舶用エンジン制御装置。
【請求項2】
前記フィードバック信号が前記実回転速度を時間遅れロジックで遅延された信号であり、前記目標回転速度と前記フィードバック信号の偏差が前記変動角速度に対応するゲインが設定される比例演算部を介して出力されることを特徴とする請求項1に記載の舶用エンジン制御装置。
【請求項3】
前記目標回転速度に対応するフューエルインデックスを算出する目標回転速度/フューエルインデックス変換手段を備え、前記比例演算部からの出力が、前記目標回転速度に対応するフューエルインデックスに加算されることを特徴とする請求項2に記載の舶用エンジン制御装置。
【請求項4】
PI制御部を備え、前記目標回転速度と前記フィードバック信号の偏差が前記PI制御部に入力され、前記目標回転速度に対応するフューエルインデックスが、前記PI制御部のI演算部において生成・維持されることを特徴とする請求項2に記載の舶用エンジン制御装置。
【請求項5】
前記フィードバック信号が、前記実回転速度の微分演算により生成されることを特徴とする請求項1に記載の舶用エンジン制御装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の舶用エンジン制御装置を備えることを特徴とする船舶。
【請求項7】
目標回転速度を与えフューエルインデックスを出力する舶用エンジン制御方法であって、主機関の実回転速度の変動周期に対して10%〜30%遅延したフィードバック信号を帰還するとともに、前記実回転速度の変動角速度に比例して前記フューエルインデックスを変動させることを特徴とする舶用エンジン制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−193641(P2012−193641A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57022(P2011−57022)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【特許番号】特許第4994505号(P4994505)
【特許公報発行日】平成24年8月8日(2012.8.8)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【出願人】(000175043)三井造船システム技研株式会社 (13)
【Fターム(参考)】