説明

船尾ダクト試験方法及び装置

【課題】船尾ダクト模型を用いた試験において実船の船尾ダクトより船体に作用する力をより正確に反映できるようにする。
【解決手段】プロペラ3の前方に配した船尾ダクト模型4の左右両端部を、模型船1の船尾部2のボッシング部分5の両側部に、ダクトステー模型12と計測用構造体13とを介して取り付ける。計測用構造体13は、左右方向に延びる円柱形状として前後及び上下方向とねじり方向に作用する力と、前後及び上下方向の曲げ歪とねじり歪の歪量の相関関係が既知としてある円柱部14を有し、その前後及び上下方向の曲げ歪とねじり歪を計測する歪ゲージを備えてなる構成とする。船尾ダクト模型4に流体力が生じるときにダクトステー模型12を経て船体のボッシング部分5側へ実際に伝わる前後及び上下方向とモーメントの力を、計測用構造体13の円柱部14に生じる前後及び上下方向の曲げ歪とねじり歪の歪量を基に導出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の推進効率の向上化を図るために船体の船尾部におけるプロペラの前方に設ける船尾ダクトで生じる流体力の船体への作用を試験するために用いる船尾ダクト試験方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船舶の推進効率(推進性能)の向上化を図る手段の一つとして、船体の船尾部におけるプロペラの前方位置に、円環状、半円弧状、又は、底部が開放された門型等の種々の形状の船尾ダクトを配置して、該船尾ダクトにおける船体のボッシング部の側方に位置する個所を、船体のボッシング部分の両側部に、左右方向に延びるダクトステーを介してそれぞれ取り付けてなる船尾部構造とすることで、船舶の航行時に発生する船尾流れを該船尾ダクトにより整流させてから上記プロペラへ流入させるようにし、更には、上記船尾流れの中で上記船尾ダクトが発生する揚力の分力を、船舶の推進力に寄与させるようにする手法が従来提案されている(たとえば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【0003】
なお、上記船尾ダクトを船体のボッシング部分の両側部に取り付けるために用いられる上記ダクトステー(ストラット)は、通常、船舶の航走時に発生する船尾流れの中で抵抗にならないように上下に扁平な平板状としてある。
【0004】
ところで、上記のような船尾ダクトを船舶に装備して推進効率の向上化を図るためには、船舶の航走時に船尾流れの中に配置された船尾ダクトに生じる上記揚力を含む流体力を、設計の段階で把握することが必要である。そのため、上記船尾ダクトの設計を行う場合は、予め、所望の設計に対応する船尾ダクトの模型を製作し、該船尾ダクト模型を用いて、その装備対象となる船舶の航走時に船体船尾部における船尾ダクト設置個所に生じる船尾流れを模した水流の中で、上記船尾ダクト模型に生じる流体力を計測するようにしている。
【0005】
上記のような船尾ダクト模型に生じる流体力を計測する場合、従来は、以下の図4(イ)(ロ)又は図5(イ)(ロ)に示すような装置を用いるようにしている。
【0006】
すなわち、図4(イ)(ロ)に示す船尾ダクトの流体力計測用の装置は、船尾ダクトの装備対象となる実船の船体を模した模型船1を形成し、その船尾部2におけるプロペラ3の前方に設定された所定の船尾ダクト設置位置に、所要形状に設計された船尾ダクト模型4、たとえば、半円弧状の船尾ダクト模型4が配置してある。この際、上記船尾ダクト模型4には、上記模型船1の船尾部2におけるボッシング部分5の側方に位置する該船尾ダクト模型4における左右両側の下端部に、上記模型船1のボッシング部分5の両側部近傍位置まで左右方向に延びる上下に扁平なダクトステーの模型6を取り付けるようにしてある。
【0007】
更に、上記模型船1の船尾部2の船体における上記船尾ダクト模型4の頂部の真上となる位置に、上下方向の貫通孔7を穿設し、該貫通孔7に挿通させて配置した上下方向に延びるロッド部材8の下端部を、上記船尾ダクト模型4の頂部の上側に固定すると共に、該ロッド部材8の上端部を、上記模型船1の船尾部2の船体における上記貫通孔7の上側に設けたロードセル9に接続してなる構成としてある。なお、図4(ロ)における符号3aは、船尾部2におけるボッシング部分5に回転自在に保持させたプロペラシャフトである。
【0008】
これにより、上記模型船1を所要の実験水槽(図示せず)に浮かべた状態で図示しない駆動手段により前進させるか、又は、所要の回流水槽(図示せず)にて一様流を発生させた水面に上記模型船1を配置することにより、該模型船1の船尾部2で発生する相対的な船尾流れの水流中で上記船尾ダクト模型4に生じる流体力を、上記ロッド部材8を介して上記ロードセル9へ伝えることができるため、該ロードセル9にて、船舶の推進力に寄与することとなる上記船尾ダクト模型4が水流中で生じる図4(イ)中の矢印a方向の揚力と、上記船尾ダクト模型4の水流中での抵抗により生じる後向き(矢印b方向)及び上向き(矢印c方向)の力をそれぞれ計測するようにしてある。
【0009】
又、図5(イ)(ロ)に示す船尾ダクトの流体力計測用の装置は、図示しない回流水槽内に設置されたプロペラ3の前方に、所要形状に設計された船尾ダクト模型4、たとえば、半円弧状の船尾ダクト模型4を配置する。この際、上記船尾ダクト模型4には、図4(イ)(ロ)に示したものと同様に、上記プロペラ3の前方でそのプロペラシャフト(図示せず)を回転自在に保持する船体のボッシング部分に対応するシャフト支持部10の側方に位置する該船尾ダクト模型4における左右両側の下端部に、上記シャフト支持部10の両側部近傍位置まで左右方向に延びる上下に扁平なダクトステーの模型6を取り付けるようにしてある。
【0010】
更に、上下方向に延びるロッド部材8の下端部を、上記船尾ダクト模型4の頂部の上側に固定すると共に、該ロッド部材8の上端部を、上記回流水槽の所要の固定部11に設置したロードセル9に接続した構成としてある。
【0011】
かかる構成としてある流体力計測用の装置によれば、上記図示しない回流水槽で、船尾ダクトの装備対象となる船舶(実船)の航行時に該船舶における船尾ダクト設置個所で生じる船尾流れに対応する水流を発生させることにより、該船尾流れに対応する水流中で上記船尾ダクト模型4に生じる流体力を、上記ロッド部材8を介して上記ロードセル9へ伝えることで、該ロードセル9にて、船舶の推進力に寄与することとなる上記船尾ダクト模型4が水流中で生じる図5(イ)中の矢印a方向の揚力と、上記船尾ダクト模型4の水流中での抵抗により生じる後向き(矢印b方向)及び上向き(矢印c方向)の力をそれぞれ計測できるようにしてある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平9−175488号公報
【特許文献2】特開2006−347285号公報
【特許文献3】特開2004−130908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところが、上記図4(イ)(ロ)及び図5(イ)(ロ)に示した従来の船尾ダクトの流体力計測用の装置では、いずれも船尾ダクト模型4の頂部にロッド部材8を介してロードセル9を接続した構成としてあるため、該ロードセル9により上記船尾ダクト模型4に生じる流体力自体を計測するには有効であるが、実船にてプロペラの前方に船尾ダクトを装備することで該船尾ダクトより船体側へ伝えられる力を必ずしも反映した結果は得ることができないというのが実状である。
【0014】
すなわち、実船では、船尾ダクトを船体のボッシング部分の両側部にダクトステーを介して取り付けるようにしてあるため、船尾流れの水流中で上記船尾ダクトに生じる流体力は、ダクトステーを介して船体へ伝えられるようになる。したがって、上記船尾ダクトにおいてダクトステーの接続位置の上下の両側で生じる流体力が均等でない場合は、上記船尾ダクトに生じる流体力により、船体に対し、ボッシング部分におけるダクトステーの取付位置を通る左右水平方向の軸を中心とするモーメントが作用するようになるが、上記図4(イ)(ロ)及び図5(イ)(ロ)の装置では、船尾ダクト模型4よりダクトステーの模型6を介して模型船1の船体に作用するモーメントを計測することはできない。
【0015】
しかも、上記実船の船尾ダクトを船体側のボッシング部分に取り付けるために用いるダクトステーは上下に扁平な板状としてあるため、船尾ダクトに生じる流体力が該ダクトステーを介して船体側へ伝えられるときには、ダクトステーに上下方向の力や上記モーメントが作用することで該ダクトステーに上下曲げ方向やねじれ方向の撓みが生じ、このダクトステーの撓みにより上記船尾ダクトに生じる流体力の一部が消費される可能性があるが、上記図4(イ)(ロ)及び図5(イ)(ロ)の装置では、船尾ダクト模型4に生じる流体力をロッド部材8を介しロードセル9へ直接伝えて計測するようにしてあるため、該ロードセル9の検出結果には、上記実船におけるダクトステーの上下曲げ方向やねじれ方向の撓みによる影響を反映したものとはなっていない。
【0016】
しかし、船の推進効率(推進性能)の評価は、数%の差の領域で行われるものである。
【0017】
そこで、本発明者は、船尾ダクト模型を用いた試験により、実船における船尾ダクトより船体に作用する力をより正確に反映した計測結果を得ることができるようにするための工夫、研究を重ねた結果、本発明をなした。
【0018】
したがって、本発明の目的とするところは、船尾ダクト模型を用いて実船における船尾ダクトより船体に作用する力をより正確に反映した結果を得ることができ、よって、設計する船尾ダクトの推進効率に与える効果をより精度よく把握して評価することが可能な船尾ダクト試験方法及び装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に対応して、プロペラの前方に配置する船尾ダクト模型を模型船の船尾部船体の所要個所又は上記プロペラのプロペラシャフトを回転自在に保持する部分の両側部に取り付けるための左右方向のダクトステー模型と、上記模型船の船尾部船体の所要個所又は上記プロペラのプロペラシャフトを回転自在に保持する部分の両側部との取り合い部に、左右方向に延びる円柱部を備えて該円柱部に作用する前後方向及び上下方向及びねじり方向の力と前後方向の曲げ歪及び上下方向の曲げ歪及びねじり歪の歪量の相関関係が既知の計測用構造体を介在させて設けた状態で、船尾流れを模した水流中で上記船尾ダクト模型に生じる流体力を、上記各ダクトステー模型と各計測用構造体を介して模型船の船尾部船体の所要個所又は上記プロペラのプロペラシャフトを回転自在に保持する部分へ伝えるときに、上記各計測用構造体の円柱部に生じる前後方向の曲げ歪及び上下方向の曲げ歪及びねじり歪の歪量をそれぞれ計測して、該各計測用構造体の円柱部の各歪の歪量の計測値と、上記相関関係を基に、上記流体力を生じる船尾ダクト模型よりダクトステー模型を介して模型船の船尾部船体の所要個所又は上記プロペラのプロペラシャフトを回転自在に保持する部分側へ伝えられる力を求める船尾ダクト試験方法とする。
【0020】
又、請求項2に対応して、プロペラの前方に配置する船尾ダクト模型を模型船の船尾部船体の所要個所又は上記プロペラのプロペラシャフトを回転自在に保持する部分の両側部に取り付けるための左右方向のダクトステー模型と、上記模型船の船尾部船体の所要個所又は上記プロペラのプロペラシャフトを回転自在に保持する部分の両側部との取り合い部に、左右方向に延びる円柱部を備えて該円柱部に作用する前後方向及び上下方向及びねじり方向の力と前後方向の曲げ歪及び上下方向の曲げ歪及びねじり歪の歪量の相関関係が既知としてある計測用構造体を介在させて設け、更に、上記各計測用構造体を、該各計測用構造体の円柱部に生じる前後方向の曲げ歪及び上下方向の曲げ歪及びねじり歪の歪量をそれぞれ計測するための歪ゲージを備えてなるものとした構成を有する船尾ダクト試験装置とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、以下のような優れた効果を発揮する。
(1)プロペラの前方に配置する船尾ダクト模型を模型船の船尾部船体の所要個所又は上記プロペラのプロペラシャフトを回転自在に保持する部分の両側部に取り付けるための左右方向のダクトステー模型と、上記模型船の船尾部船体の所要個所又は上記プロペラのプロペラシャフトを回転自在に保持する部分の両側部の取り合い部に、左右方向に延びる円柱部を備えて該円柱部に作用する前後方向及び上下方向及びねじり方向の力と前後方向の曲げ歪及び上下方向の曲げ歪及びねじり歪の歪量の相関関係が既知の計測用構造体を介在させて設けた状態で、船尾流れを模した水流中で上記船尾ダクト模型に生じる流体力を、上記各ダクトステー模型と各計測用構造体を介して模型船の船尾部船体の所要個所又は上記プロペラのプロペラシャフトを回転自在に保持する部分へ伝えるときに、上記各計測用構造体の円柱部に生じる前後方向の曲げ歪及び上下方向の曲げ歪及びねじり歪の歪量をそれぞれ計測して、該各計測用構造体の円柱部の各歪の歪量の計測値と、上記相関関係を基に、上記流体力を生じる船尾ダクト模型よりダクトステー模型を介して模型船の船尾部船体の所要個所又は上記プロペラのプロペラシャフトを回転自在に保持する部分側へ伝えられる力を求めるようにする船尾ダクト試験方法及び装置としてあるので、船尾ダクト模型が、船尾流れを模した水流中で流体力を生じるときに、該船尾ダクト模型よりダクトステー模型を介して模型船の船尾部船体の所要個所又は上記プロペラのプロペラシャフトを回転自在に保持する部分の両側部に実際に伝えられる力の前後方向成分、すなわち、船舶の推進力に寄与することとなる成分を計測でき、更に、上記模型船の船尾部船体の所要個所又は上記プロペラのプロペラシャフトを回転自在に保持する部分の両側部に実際に伝えられる力の上下方向成分及びモーメント成分も計測することができる。
(2)しかも、上記船尾ダクト模型が生じる流体力に基づいてダクトステー模型を介して上記模型船の船尾部船体の所要個所又は上記プロペラのプロペラシャフトを回転自在に保持する部分へ実際に伝えられる力の上下方向成分や、モーメント成分の計測結果には、実船で使用するダクトステーを模して上下に扁平な板状とするダクトステー模型に生じる上下曲げ方向やねじれ方向の撓みによる影響を内包したものとすることができる。したがって、上記船尾ダクト模型を用いて実船における船尾ダクトより船体に作用する力をより正確に反映した結果を得ることができて、設計する船尾ダクトの推進効率に与える効果をより精度よく把握して評価することを可能にできる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の船尾ダクト試験方法及び装置の実施の一形態を示すもので、(イ)は概略正面図、(ロ)は模型船の船尾部に適用した状態の全体構成を示す側面図である。
【図2】図1の船尾ダクト試験装置における計測用構造体の部分を拡大して示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の他の形態を示すもので、(イ)は概略正面図、(ロ)は回流水槽内に設置されたプロペラの前方のシャフト支持部に適用した状態の全体構成を示す側面図である。
【図4】従来の船尾ダクトの流体力計測用の試験装置の一例の示すもので、(イ)は概略側面図、(ロ)は(イ)のA−A方向矢視図である。
【図5】従来の船尾ダクトの流体力計測用の試験装置の別の例を示すもので、(イ)は概略側面図、(ロ)は(イ)のB−B方向矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0024】
図1(イ)(ロ)及び図2は本発明の船尾ダクト試験方法及び装置の実施の一形態を示すもので、以下のようにしてある。
【0025】
すなわち、本発明の船尾ダクト試験方法の実施に用いる本発明の船尾ダクト試験装置は、図4(イ)(ロ)に示したと同様の船尾ダクトの装備対象となる実船の船体を模した模型船1の船尾部2におけるプロペラ3の前方に設定された所定の船尾ダクト設置位置に、所要形状、たとえば、半円弧状の船尾ダクト模型4を配置する。
【0026】
上記模型船1の船尾部2におけるボッシング部分5の側方に位置する上記船尾ダクト模型4における左右両側の下端部の内側には、実船に装備する船尾ダクトを船体に取り付けるために用いるダクトステーを模して上下方向に扁平な板状とし且つ上記模型船1のボッシング部分5の方向へ向けて左右方向に所要寸法延びるダクトステー模型12の外側端部となる一端部をそれぞれ取り付けると共に、該各ダクトステー模型12の内側端部となる他端部と、上記模型船1のボッシング部分5の両側部との取り合い部分に、計測用構造体13を介在させて設ける。
【0027】
上記各計測用構造体13は、図2に示す如く、左右方向に所要寸法延びる円柱部14の軸心方向の両端に、上記模型船1の船体におけるボッシング部分5の側部に取り付けるための船体取付座15と、対応する上記ダクトステー模型12の他端面に取り付けるためのステー取付座16を一体に設けてなり、且つ上記円柱部14の外周面における前後の2個所と上下の2個所に、それぞれ該円柱部14の前後方向と上下方向の曲げ歪を計測するための前後曲げ歪計測用歪ゲージ17a,17bと上下曲げ歪計測用歪ゲージ18a,18bを取り付け、更に、上記円柱部14の所要個所に、該円柱部14のねじり歪を計測するためのねじり歪計測用歪ゲージ19を取り付ける。
【0028】
具体的には、上記各計測用構造体13における円柱部14は、正確な径寸法及び軸心方向寸法とその材質を基に該円柱部14の剛性が既知となるようにしてある。これにより、円柱部14の一端に設けてある船体取付座15の位置を固定した状態で該円柱部14の他端に設けてあるステー取付座16に前後方向(図中に矢印Xで示す方向)の力が作用すると、その力の大きさと、該円柱部14の両端に前後の剪断方向に作用する力によって円柱部14に生じる前後方向の曲げ歪の歪量とを正確に換算できるようにしてある。又、船体取付座15の位置を固定した状態でステー取付座16に上下方向(図中に矢印Yで示す方向)の力が作用すると、その力の大きさと、該円柱部14の両端に上下の剪断方向に作用する力によって円柱部14に生じる上下方向の曲げ歪の歪量とを正確に換算できるようにしてある。更に、船体取付座15の位置を固定した状態でステー取付座16に対し円柱部14をねじる方向(図中に矢印Rで示す方向)の力が作用すると、その力の大きさと、該円柱部14の両端にねじる方向に作用する力によって円柱部14に生じるねじり歪の歪量とを、正確に換算できるようにしてある。
【0029】
なお、上記各計測用構造体13では、各歪ゲージ17a,17b,18a,18bを取り付ける部分を円柱形状の円柱部14としてあるため、上記各歪ゲージ17a,17bと18a,18bによる上記円柱部14に生じる前後方向と上下方向の曲げ歪の計測結果を基に、該円柱部14に作用する前後方向の力と上下方向の力を同様の計算式で換算できるようにしてある。又、上記ダクトステー模型12のように上下に扁平した板状の断面のもののねじり歪は計測自体が難しいと共に、その歪量を力に換算するための計算式も複雑になるが、上記各計測用構造体13では、ねじり歪を計測するためのねじり歪計測用歪ゲージ19を取り付ける部分を円柱形状の円柱部14とすることで、該円柱部14のねじり歪の歪量を、ねじり歪計測用歪ゲージ19で容易に且つ正確に計測できるようにしてあると共に、ねじり歪計測用歪ゲージ19の計測結果を基に、該円柱部14をねじる方向に作用している力を容易に換算できるようにしてある。
【0030】
したがって、上記各計測用構造体13の各ステー取付座16を対応する各ダクトステー模型12の他端面に、又、各船体取付座15を模型船1の船尾部2のボッシング部分5の両側面にそれぞれ取り付けた状態とすることで、上記船尾ダクト模型4に生じる流体力を、上記各ダクトステー模型12と、各計測用構造体13における各ステー取付座16、円柱部14、船体取付座15を順に経て上記模型船1の船尾部2のボッシング部分5へ伝えることができるようにしてあり、この際、上記模型船1の船尾部2のボッシング部分5に上記船体取付座15が固定された上記各計測用構造体13のステー取付座16に、上記船尾ダクト模型4に生じる流体力に基づく力が各ダクトステー模型12を介して伝えられると、該ステー取付座16に伝えられる力の前後方向成分と、上下方向成分と、各計測用構造体13の各円柱部14をねじる方向に作用する成分、すなわち、該各計測用構造体13の各円柱部14の軸心位置を通る左右水平方向の軸を中心とするモーメント成分のそれぞれの大きさについて、上記各計測用構造体13の各円柱部14に生じる前後方向の曲げ歪と、上下方向の曲げ歪と、ねじり歪の歪量との相関関係を各々得ることができるようにしてある。
【0031】
更に、上記各歪ゲージ17a,17b,18a,18b,19には、歪アンプ20を接続すると共に、該歪アンプ20より出力される電圧を記録するための記録計21を備えた構成としてある。
【0032】
その他、図4(イ)(ロ)に示したものと同一のものには同一符号が付してある。
【0033】
以上の構成としてある本発明の船尾ダクト試験装置を使用する場合は、図4(イ)(ロ)に示したものと同様に、上記模型船1を所要の実験水槽(図示せず)に浮かべた状態で図示しない駆動手段により前進させるか、又は、所要の回流水槽(図示せず)にて一様流を発生させた水面に上記模型船1を配置して、該模型船1の船尾部2で発生する相対的な船尾流れの水流中で上記船尾ダクト模型4に流体力を生じさせる。
【0034】
上記のようにして船尾ダクト模型4に流体力を生じさせると、この流体力は、該船尾ダクト模型4より各ダクトステー模型12と各計測用構造体13を介して上記模型船1の船尾部2のボッシング部分5へ伝えられるようになり、上記船尾ダクト模型4より各ダクトステー模型12を経て各計測用構造体13のステー取付座16へ実際に伝えられる力の前後方向成分と、上下方向成分と、各計測用構造体13の各円柱部14をねじる方向に作用する成分のそれぞれの大きさに応じた歪量で、上記模型船1の船尾部2のボッシング部分5に固定された該各計測用構造体13の船体取付座15との間で、各円柱部14に前後方向の曲げ歪と、上下方向の曲げ歪と、ねじり歪が生じるようになる。
【0035】
この際、上記各計測用構造体13の各円柱部14に生じる前後方向の曲げ歪の歪量は、それぞれ対応する前後曲げ歪計測用歪ゲージ17a,17bで計測され、又、各円柱部14に生じる上下方向の曲げ歪の歪量は、それぞれ対応する上下曲げ歪計測用歪ゲージ18a,18bで計測され、更に、各円柱部14に生じるねじり歪の歪量は、それぞれ対応するねじり歪計測用歪ゲージ19で計測され、それぞれの計測値が、歪アンプ20を経て記録計21に記録される。
【0036】
よって、上記記録計21に記録された各円柱部14に生じた前後方向の曲げ歪の歪量の計測値と、上下方向の曲げ歪の歪量の計測値と、ねじり歪の歪量の計測値を基に、上記した相関関係を基に、上記船尾ダクト模型4に生じた流体力に基づいて各ダクトステー模型12を介して上記模型船1の船尾部2のボッシング部分5へ伝えられる力の前後方向成分と、上下方向成分と、各計測用構造体13の各円柱部14の軸心位置を通る左右水平方向の軸を中心とするモーメント成分のそれぞれの大きさを計測することができるようになる。
【0037】
このように、本発明の船尾ダクト試験方法及び装置によれば、プロペラ3の前方に設ける船尾ダクト模型4が、船尾流れの水流中で流体力を生じるときに、ダクトステー模型12を介して実際に模型船1の船尾部2におけるボッシング部分5へ伝えられる力の前後方向成分、すなわち、船舶の推進力に寄与することとなる成分を計測でき、更に、船尾ダクト模型4が生じる流体力に基づいてダクトステー模型12を介して実際に模型船1の船尾部2におけるボッシング部分5へ伝えられる力の上下方向成分及びモーメント成分も計測することができる。
【0038】
しかも、上記船尾ダクト模型4が生じる流体力に基づいてダクトステー模型12を介して実際に模型船1の船尾部2におけるボッシング部分5へ伝えられる力の上下方向成分や、モーメント成分の計測結果を、実船で使用するダクトステーを模した上下に扁平な板状としてあるダクトステー模型12に生じる上下曲げ方向やねじれ方向の撓みによる影響を内包したものとすることができる。
【0039】
したがって、上記船尾ダクト模型4を用いて実船における船尾ダクトより船体に作用する力をより正確に反映した結果を得ることができて、設計する船尾ダクトの推進効率に与える効果をより精度よく把握して評価することが可能になる。
【0040】
次に、図3(イ)(ロ)は本発明の実施の他の形態を示すもので、図5(イ)(ロ)に示したものと同様に、図示しない回流水槽内に設置されたプロペラ3の前方に、所要形状に設計された船尾ダクト模型4、たとえば、半円弧状の船尾ダクト模型4を配置すると共に、上記船尾ダクト模型4における左右両側の下端部を、図1(イ)(ロ)及び図2に示したものと同様のダクトステー模型12と計測用構造体13を介して上記プロペラ3の前方でそのプロペラシャフト(図示せず)を回転自在に保持する船体のボッシング部分に対応するシャフト支持部10の両側部に取り付けた構成としたものである。
【0041】
その他、図1(イ)(ロ)、図2及び図5(イ)(ロ)に示したものと同一のものには同一符号が付してある。
【0042】
本実施の形態によれば、上記図示しない回流水槽で、船尾ダクトの装備対象となる船舶(実船)の航行時に該船舶における船尾ダクト設置個所で生じる船尾流れに対応する水流を発生させることにより、該船尾流れに対応する水流中で上記船尾ダクト模型4に流体力を生じさせると、上記実施の形態と同様に、上記船尾ダクト模型4に生じる流体力に基づいてダクトステー模型12を介して実際に模型船1の船尾部2におけるボッシング部分5へ伝えられる力の前後方向成分と上下方向成分とモーメント成分も計測することができる。
【0043】
よって、本実施の形態によっても上記実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0044】
なお、本発明は上記実施の形態のみに限定されるものではなく、船尾ダクト模型4のサイズは、実船に装備することを望む船尾ダクトのサイズと模型の縮尺率等に応じて適宜設定してよい。又、船尾ダクト模型4の形状は、実船に装備することを望む船尾ダクトの形状に応じて、円環状や楕円状、底部が開放された門型、その他、半円弧状以外のいかなる形状であってもよい。
【0045】
又、実船で計画しているダクトステーの配置に応じて、ダクトステー模型12の配置や角度を適宜変更してもよい。更に、実船で2本以上のダクトステーを用いて船尾ダクトの取り付けを計画している場合は、その本数に応じて船尾ダクト模型4の取り付けに用いるダクトステー模型12の本数及び計測用構造体13の個数を適宜変更してもよい。更には、本発明の船尾ダクト試験方法及び装置は、実船で計画している船尾ダクトの船体への取付個所が船体におけるボッシング部分以外の場所である場合には、船尾ダクト模型4を、ボッシング部分5以外の適宜設定した船体所要個所を模した部分に取り付ける構成に適用してもよい。
【0046】
計測用構造体13における円柱部14は、船尾ダクト模型4をダクトステー模型12を介して船体側へ取り付ける際の強度が得られ、且つ各歪ゲージ17a,17b,18a,18b,19の取り付けを行うことができる範囲内でできるだけ軸心方向の長さ寸法を短くすることが好ましいが、各構成寸法と剛性から作用する力と曲げ歪及びねじり歪が生じるときの歪量との換算ができるようにしてあれば、必要強度等に応じて適宜サイズを変更してもよい。
【0047】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0048】
1 模型船
2 船尾部
3 プロペラ
4 船尾ダクト模型
5 ボッシング部分(船体の所要個所)
10 シャフト支持部(プロペラシャフトを回転自在に保持する部分)
12 ダクトステー模型
13 計測用構造体
14 円柱部
17a,17b 前後曲げ歪計測用歪ゲージ(歪ゲージ)
18a,18b 上下曲げ歪計測用歪ゲージ(歪ゲージ)
19 ねじり歪計測用歪ゲージ(歪ゲージ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロペラの前方に配置する船尾ダクト模型を模型船の船尾部船体の所要個所又は上記プロペラのプロペラシャフトを回転自在に保持する部分の両側部に取り付けるための左右方向のダクトステー模型と、上記模型船の船尾部船体の所要個所又は上記プロペラのプロペラシャフトを回転自在に保持する部分の両側部の取り合い部に、左右方向に延びる円柱部を備えて該円柱部に作用する前後方向及び上下方向及びねじり方向の力と前後方向の曲げ歪及び上下方向の曲げ歪及びねじり歪の歪量の相関関係が既知の計測用構造体を介在させて設けた状態で、船尾流れを模した水流中で上記船尾ダクト模型に生じる流体力を、上記各ダクトステー模型と各計測用構造体を介して模型船の船尾部船体の所要個所又は上記プロペラのプロペラシャフトを回転自在に保持する部分へ伝えるときに、上記各計測用構造体の円柱部に生じる前後方向の曲げ歪及び上下方向の曲げ歪及びねじり歪の歪量をそれぞれ計測して、該各計測用構造体の円柱部の各歪の歪量の計測値と、上記相関関係を基に、上記流体力を生じる船尾ダクト模型よりダクトステー模型を介して模型船の船尾部船体の所要個所又は上記プロペラのプロペラシャフトを回転自在に保持する部分側へ伝えられる力を求めることを特徴とする船尾ダクト試験方法。
【請求項2】
プロペラの前方に配置する船尾ダクト模型を模型船の船尾部船体の所要個所又は上記プロペラのプロペラシャフトを回転自在に保持する部分の両側部に取り付けるための左右方向のダクトステー模型と、上記模型船の船尾部船体の所要個所又は上記プロペラのプロペラシャフトを回転自在に保持する部分の両側部との取り合い部に、左右方向に延びる円柱部を備えて該円柱部に作用する前後方向及び上下方向及びねじり方向の力と前後方向の曲げ歪及び上下方向の曲げ歪及びねじり歪の歪量の相関関係が既知としてある計測用構造体を介在させて設け、更に、上記各計測用構造体を、該各計測用構造体の円柱部に生じる前後方向の曲げ歪及び上下方向の曲げ歪及びねじり歪の歪量をそれぞれ計測するための歪ゲージを備えてなるものとした構成を有することを特徴とする船尾ダクト試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−105061(P2011−105061A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259782(P2009−259782)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】