説明

船舶の電源装置

【課題】 互いに独立した2種類のバッテリを搭載している場合に、一方のバッテリに電圧降下を生じたときに、推進機のエンジン等の安定駆動状態を継続させる。
【解決手段】 電源装置70に、船外機等の燃料供給系12等を有するエンジン系統に電力を供給する推進機用バッテリ71と、航海灯等の舶用アクセサリ72に電力を供給する補機用バッテリ73とを設け、推進機用バッテリ71の電力供給系統と、補機用バッテリ73の電力供給系統とにダイオードD1及びD2で構成される異常時電力供給回路76を接続し、推進機用バッテリ71の充電電圧が補機用バッテリ73の充電電圧を下回ったときに、ダイオードD2を通じて補機用バッテリ73の電力をエンジン系統に供給することにより、エンジン系統での電力不足を補ってエンジンの安定駆動状態を継続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船外機等に電源を供給する船舶の電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の船舶の電源装置としては、例えば推進機用バッテリとアクセサリ用バッテリの2種類のバッテリを使用して、推進起用バッテリで推進機のスターターモータ等に電力を供給し、アクセサリ用バッテリで舶用アクセサリに電力を供給することにより、電力供給系統が互いに別系統とされているが、これら推進機用バッテリ及びアクセサリバッテリをオールタネーターの発電電力で充電するように構成されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
同様に、容量が大きな第1バッテリと容量の小さな第2バッテリとを船体に支持し、第1バッテリが推進機を所望の揺動位置で船体に固定する油圧式アクチュエータの電動油圧ポンプ、始動電動機、点火装置などの電気機器に電力を供給し、第2バッテリが照明などのアクセサリに電力を供給することにより、電力供給系統が互いに別系統とされているが、これら第1バッテリ及び第2バッテリを発電機によって充電するように構成されたものも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2001−128388号公報(段落番号「0013」、図1)
【特許文献2】特開2002−78225号公報(段落番号「0024」、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の船舶の電源装置としては、推進機用及びアクセサリ用の2種類のバッテリを備えているが、これらは電力供給系統が互いに別系統とされているので、一方のバッテリに電力不足が生じた場合に他方のバッテリで電力不足を補うことはできないという未解決の課題がある。最近の船外機等の推進機では燃料噴射式エンジンや直噴エンジンを採用する関係で、電力供給が断たれると、燃料噴射が停止し、エンジンが停止する。エンジンの運転中に推進機用バッテリが電圧降下又はその電力供給回路に断線が発生すると、エンジンは発電機からの電源供給に頼ることになり、電源が不安定化し、エンジンが停止してしまうことになる。
【0005】
そこで、本発明は、上記従来の船舶の電源装置の未解決の課題に着目してなされたものであり、2種類のバッテリを搭載している場合に、一方のバッテリに電圧降下を生じたときに、その電圧降下分を他方のバッテリで補うことにより、推進機のエンジン等の安定駆動状態を継続することができる船舶の電源装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に係る船舶の電源装置は、船舶の推進機に電力を供給する推進機用バッテリと、船舶の他の機器に電力を供給する補機用バッテリと、前記推進機用バッテリの電圧低下時に前記補機用バッテリから電力を供給する異常時電力供給回路とを備えたことを特徴としている。
この請求項1に係る発明では、推進機用バッテリが電圧低下状態となると、異常時電力供給回路で補機用バッテリから推進機用バッテリに対して電力供給を行うことにより、推進機用バッテリ側から推進機に供給する電力を確保して、推進機を安定駆動することができる。
【0007】
また、請求項2に係る船舶の電源装置は、船舶の推進機に電力を供給する推進機用バッテリと、船舶の他の機器に電力を供給する補機用バッテリと、前記推進機用バッテリの電圧低下時に前記補機用バッテリから電力を供給する異常時電力供給回路と、前記推進機用バッテリ及び補機用バッテリの電圧を個別に検出する電圧検出手段と、該電圧検出手段で検出した推進機用バッテリ及び補機用バッテリの電圧に基づいてバッテリ異常を検出したときに異常処理動作を行う異常処理部とを備えていることを特徴としている。
【0008】
この請求項2に係る発明では、上述した請求項1に係る発明の作用に加えて、推進機用バッテリ及び補機用バッテリの電圧を電圧検出手段で個別に検出するので、これらの検出電圧から個々のバッテリの電圧低下状態を把握することができると共に、推進機用バッテリ及び補機用バッテリを誤って並列接続した場合も検出することができ、これらのバッテリ異常が生じたときに、異常処理部で発電機での発電力を増加させて異常バッテリに対する充電能力を向上させたり、警報を発したりする異常処理動作を行う。
【0009】
さらに、請求項3に係る船舶の電源装置は、請求項2に係る発明において、前記異常処理部は、前記推進機用バッテリ及び補機用バッテリの何れかの電圧低下を検出したときに、該当するバッテリの電圧低下異常警報を行うように構成されていることを特徴としている。
この請求項3に係る発明では、異常処理部でバッテリ電圧の低下による異常を検出したときにバッテリの電圧低下異常警報を発するので、船舶の操縦者にバッテリ電圧の低下を確実に報知することができ、帰港時にバッテリの点検、交換等を確実に行うことができる。
【0010】
さらにまた、請求項4に係る船舶の電源装置は、請求項2に記載の発明において、前記異常処理部は、前記推進機用バッテリ及び補機用バッテリの電圧に基づいて両バッテリの並列接続異常を検出するように構成されていることを特徴としている。
この請求項4に係る発明では、推進機用バッテリ及び補機用バッテリの電圧を検出し、その電圧変動が一致しているときには、両者が誤って並列に接続されている並列接続異常であると判断することができ、バッテリの並列接続異常を正確に検出することができる。
【0011】
なおさらに、請求項5に係る船舶の電源装置は、請求項1乃至4の何れかの発明において、前記異常時電力供給回路は、前記補機用バッテリの正極側を前記推進機用バッテリの正極側に当該推進機用バッテリ及び補機用バッテリの一方から他方への電力の回り込みを防止する一対のダイオードを介して接続する構成を有することを特徴としている。
この請求項5に係る発明では、異常時電力供給回路が電力の回り込みを防止する一対のダイオードを介して推進機用バッテリ及び補機用バッテリを接続するだけの簡単な構成で、推進機用バッテリの電圧低下時に補機用バッテリの電力を供給することができる。
【0012】
また、請求項6に係る船舶の電源装置は、請求項1乃至4の何れかの発明において、前記異常時電力供給回路は、制御信号の入力によって前記補機用バッテリの正極側を前記推進機用バッテリの正極側に接続するリレースイッチを有することを特徴としている。
この請求項6に係る発明では、推進機用バッテリが正常であるときにはリレースイッチをオフ状態に制御することにより、推進機用バッテリに対する補機用バッテリからの電力供給を遮断し、推進機用バッテリの電圧低下時に、制御信号をリレースイッチに供給することにより、このリレースイッチをオン状態として、補機用バッテリの電力を推進機用バッテリに供給する。このため、補機用バッテリから推進機用バッテリへの電力供給系統にスイッチ接点が介装されるだけであるので、このスイッチ接点で電圧降下を生じることがなく、電力損失を軽減することが可能となる。
【0013】
さらに、請求項7に係る船舶の電源装置は、請求項2乃至4の何れかの発明において、前記異常時電力供給回路は、前記補機用バッテリの正極側を前記推進機用バッテリの正極側に接続するリレースイッチを有し、該リレースイッチが前記異常処理部から推進機用バッテリの電圧低下を検出したときに出力される制御信号によって駆動されるように構成されていることを特徴としている。
【0014】
この請求項7に係る発明では、補機用バッテリの電力を推進機用バッテリに供給するリレースイッチを異常処理部から推進機用バッテリの電圧低下を検出したときに出力される制御信号によってオン状態とするので、常時は補機用バッテリと推進機用バッテリが電気的に完全に分離され、推進機用バッテリの電圧低下時に初めて補機用バッテリから推進機用バッテリ側への電力供給が可能となる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、請求項1に係る発明によれば、推進機用バッテリが電圧低下状態となると、異常時電力供給回路で補機用バッテリから推進機用バッテリに対して電力供給を行うことにより、推進機用バッテリ側から推進機に供給する電力を確保して、推進機を安定駆動することができるという効果が得られる。
また、請求項2に係る発明によれば、請求項1に係る発明の効果に加えて、推進機用バッテリ及び補機用バッテリの電圧を電圧検出手段で個別に検出するので、これらの検出電圧から個々のバッテリの電圧低下状態を把握することができると共に、推進機用バッテリ及び補機用バッテリを誤って並列接続した場合も検出することができ、これらのバッテリ異常が生じたときに、異常処理部で発電機での発電力を増加させて異常バッテリに対する充電能力を向上させたり、警報を発したりする異常処理動作を行うことができるという効果が得られる。
【0016】
さらに、請求項3に係る発明によれば、異常処理部でバッテリ電圧の低下による異常を検出したときにバッテリの電圧低下異常警報を発するので、船舶の操縦者にバッテリ電圧の低下を確実に報知することができ、帰港時にバッテリの点検、交換等を確実に行うことができるという効果が得られる。
さらにまた、請求項4に係る発明によれば、推進機用バッテリ及び補機用バッテリの電圧を検出し、その電圧変動が一致しているときには、両者が誤って並列に接続されている並列接続異常であると判断することができ、バッテリの並列接続異常を正確に検出することができるという効果が得られる。
【0017】
なおさらに、請求項5に係る発明によれば、異常時電力供給回路が電力の回り込みを防止する一対のダイオードを介して推進機用バッテリ及び補機用バッテリを接続するだけの簡単な構成で、推進機用バッテリの電圧低下時に補機用バッテリの電力を供給することができるという効果が得られる。
また、請求項6に係る発明によれば、推進機用バッテリが正常であるときにはリレースイッチをオフ状態に制御することにより、推進機用バッテリに対する補機用バッテリからの電力供給を遮断し、推進機用バッテリの電圧低下時に、制御信号をリレースイッチに供給することにより、このリレースイッチをオン状態として、補機用バッテリの電力を推進機用バッテリに供給する。このため、補機用バッテリから推進機用バッテリへの電力供給系統にスイッチ接点が介装されるだけであるので、このスイッチ接点で電圧降下を生じることがなく、電力損失を軽減することが可能となるという効果が得られる。
【0018】
さらに、請求項7に係る発明によれば、補機用バッテリの電力を推進機用バッテリに供給するリレースイッチを異常処理部から推進機用バッテリの電圧低下を検出したときに出力される制御信号によってオン状態とするので、常時は補機用バッテリと推進機用バッテリが電気的に完全に分離され、推進機用バッテリの電圧低下時に初めて補機用バッテリから推進機用バッテリ側への電力供給が可能となるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面について説明する。
図1は本発明の第1の実施形態を示す概略構成図であり、図2は第1実施形態の船外機の概略構成を示す構成図、図3は第1の実施形態における電源装置の電気回路図である。
図1において、1は例えばパワーボート等の小型船舶であり、この小型船舶1にはオープンデッキタイプの船体2の船尾に船外機3を搭載し、前部にステアリングホイール4、シート5、リモコンレバー6、メインスイッチ及びスタートスイッチを有するスイッチパネル7及びメータパネル8等を配設した操縦席を備えている。
【0020】
船外機3は、図2に示すように、船体2の船尾2aにクランプブラケット21を介して上下、左右に揺動可能に支持されている。この船外機3は推進機22が配設された下部ケース23にエンジン3Eを搭載した構造のものである。推進機22は、垂直方向に延びるドライブシャフト24の下端に傘歯車機構25を介して推進軸26を連結し、この推進軸26の後端にプロペラ27を結合した構成となっている。
【0021】
ここで、傘歯車機構25は、ドライブシャフト24に装着された駆動傘歯車25aと、推進軸26に回転自在に装着された駆動傘歯車25aに噛合された前進傘歯車25b及び後進傘歯車25cとから構成されている。
推進機22には、前後進切換装置28が配設されている。この前後進切換装置28は、電動モータ28aによって回転駆動され、上下方向に延長するシフトロッド28bと、このシフトロッド28bに連結されたドッグクラッチ28cとを有し、ドッグクラッチ28cによって前進歯車25b及び後進歯車25cの何れかを推進軸26に結合する前進状態及び後進状態の何れか又は両方とも結合しないニュートラル状態に切換制御する。
【0022】
エンジン3Eは、図2に示すように、水冷式4サイクル6気筒の燃料噴射式エンジンであり、クランク軸30を走行時に略垂直をなすように縦向きに配置して構成されており、このクランク軸30の下端に前記ドライブシャフト24の上端が連結されている。エンジン3Eは、シリンダブロック31に形成された気筒31a内にピストン32を挿入配置すると共に、ピストン32をコンロッド33を介してクランク軸30に連結した構造を有する。
【0023】
シリンダブロック31の船体前後方向に見て後側面にはシリンダヘッド34が締結されている。気筒31a及びシリンダヘッド34で形成された燃焼室34aには点火プラグ35が装着されている。また、各燃焼室34aに連通する排気ポート36及び吸気ポート37には、それぞれ排気バルブ38及び吸気バルブ39が配設されており、これら各バルブ38、39はクランク軸30と平行に配設されたカム軸40、41により開閉駆動される。なお、35aは点火コイル、35bはイグナイタである。
【0024】
また、排気ポート36には排気マニホールド42が接続されており、排気ガスが排気マニホールド42から下部ケース23を通って推進機22の後端から排出される。
さらに、各吸気ポート37には吸気管43が接続され、この吸気管43内には電子制御スロットルバルブ44が配設されている。また、シリンダヘッド34の各吸気ポート37に望む部分には燃料噴射弁45が挿入配置されており、この燃料噴射弁40の噴射口は吸気ポート37の開口を指向している。
【0025】
そして、燃料噴射弁45に船体2の船尾2aに配設された燃料供給系12から燃料が供給される。この燃料供給系12は、船体2の船尾2aに配設された燃料タンク12a内の燃料を燃料ポンプ12bによりエンジン側に配置されたベーパセパレータタンク12cに供給し、このタンク12c内の燃料を高圧ポンプ12dにより燃料噴射弁45に供給するように構成されている。
【0026】
エンジン3Eは例えばマイクロコンピュータで構成されるエンジン制御手段としてのエンジンコントロールユニット46を備えている。このエンジンコントロールユニット46は、クランク軸30の回転速度を検出するエンジン回転速度センサ47、吸気圧センサ48、スロットル開度センサ49、エンジン温度センサ50、気筒判別センサ51からの検出値が直接入力されると共に、船速センサ(図示せず)の船速検出値、リモコンレバー6で選択されたスロットル開度指令値等がローカルエリアネットワークを構成するバス15を介して入力され、さらにスイッチパネル7のスタートスイッチからスタート信号STがスタータリレー52に供給されて、始動回路53によってスタータモータ54が作動状態となったときに、エンジン回転速度センサ47で検出するエンジン回転速度及びその他の各検出値から予め記憶された運転制御マップに基づいて、燃料噴射弁45の燃料噴射量及び噴射時期、点火プラグ35の点火時期を制御して、エンジン3Eを始動すると共に、その後の回転速度制御を行う。また、クランク軸30にはオルタネータで構成される発電機55が連結されている。
【0027】
一方、前後進切換装置28の電動モータ28aは、例えばマイクロコンピュータで構成されるシフトコントロールユニット60によって回転駆動される。このシフトコントロールユニット60は、リモコンレバー6で前進位置、後進位置及びニュートラル位置の何れかが選択されると、これらに応じたシフト位置検出データがバス15を介して伝送され、シフト位置検出データが前進位置を表すときには、前進傘歯車25bを駆動傘歯車25aに噛合させるようにシフトロッド28bを回動させてドッグクラッチ28c作動させ、シフト位置検出データが後進位置を表すときには、後進傘歯車25cを駆動傘歯車25aに噛合させるようにシフトロッド28bを回動させてドッグクラッチ28cを作動させ、シフト位置検出データがニュートラル位置を表すときには、前進傘歯車25b及び後進傘歯車25cが共に駆動傘歯車25aから離間するようにシフトロッド28bを回動させてドッグクラッチ28cを作動させる。
【0028】
そして、燃料供給系12の燃料ポンプ12b及び高圧ポンプ12d、イグナイタ35b、エンジンコントロールユニット46、スタータリレー52及びシフトコントロールユニット60には、図3に示すように、電源装置70から電力が供給される。
この電源装置70は、燃料供給系12、イグナイタ35b、エンジンコントロールユニット46、スタータリレー52及びシフトコントロールユニット60等の推進機駆動系61に給電する比較的容量の大きな推進機用バッテリ71と、航海灯や計器盤などの個別に電源スイッチを有する舶用アクセサリ72に給電する比較的容量が小さい補機用バッテリ73とを有する。
【0029】
ここで、推進機用バッテリ71は、その負極側がアースされ、正極側がメインスイッチ74を介してスタータリレー52、イグナイタ35b等に直接接続されているが、燃料供給系12やエンジンコントロールユニット46及びシフトコントロールユニット60にはメインスイッチ74及び回り込み防止用のダイオードD1を介して接続されている。
また、補機用バッテリ73は、負極側がアースされ、正極側が電源スイッチを内蔵する舶用アクセサリ72に直接接続されていると共に、メインスイッチ74に連動するサブスイッチ75及び回り込み防止用のダイオードD2を介して燃料供給系12やエンジンコントロールユニット46及びシフトコントロールユニット60に接続されている。そして、回り込み防止用のダイオードD1及びD2で異常時電力供給回路76が構成されている。
【0030】
また、クランク軸30に連結された発電機55の発電電力が全波整流回路77を介し、回り込み防止用ダイオードD3及びD4を介してメインスイッチ74と回り込み防止用のダイオードD1のアノードとの間の接続線及びサブスイッチ75と回り込み防止用のダイオードD2のアノードとの間の接続線に接続され、発電機55の発電電力によって推進機用バッテリ71及び補機用バッテリ73の充電を行うと共に、燃料供給系12の燃料ポンプ12b及び高圧ポンプ12d、イグナイタ35b、エンジンコントロールユニット46、スタータリレー52及びシフトコントロールユニット60に電力を供給する。
【0031】
次に、上記第1の実施形態の動作を説明する。
今、電源装置70の推進機用バッテリ71及び補機用バッテリ73の充電電圧Vp及びVsが共に所定の閾値電圧Vh以上で正常状態にあるものとする。この状態で、メインスイッチ74がオフ状態であるときには、これと連動するサブスイッチ75もオフ状態であるので、燃料供給系12の燃料ポンプ12b及び高圧ポンプ12c、イグナイタ35b、エンジンコントロールユニット46、スタータリレー52及びシフトコントロールユニット60等の推進機駆動系に対する給電が停止されていると共に、舶用アクセサリ72に対する給電も停止されている。
【0032】
この状態で、メインスイッチ74をオン状態とすると、これに連動するサブスイッチ75もオン状態となり、推進機用バッテリ71の電力がメインスイッチ74を介してスタータリレー52に直接供給されると共に、ダイオードD1を介して燃料供給系12の燃料ポンプ12b及び高圧ポンプ12dとイグナイタ35b等に供給され、さらにエンジンコントロールユニット46及びシフトコントロールユニット60に供給されて、これらが稼働状態となり、且つ補機用バッテリ73の電力が舶用アクセサリ72に供給される。
【0033】
したがって、舶用アクセサリ72で内蔵する電源スイッチをオン状態とすることにより、航海灯、計器盤等に電力を供給することができると共に、スタータスイッチを所要時間オン状態とすることにより、スタータリレー52がオン状態となって始動回路53に電力が供給され、これによってスタータモータ54が回転駆動されてクランク軸30が回転され、これと同時にエンジンコントロールユニット46でエンジン回転速度センサ47で検出するエンジン回転速度に応じてイグナイタ35bを制御して点火プラグ35の点火タイミングを制御することにより、エンジン3Eが始動される。
【0034】
このように、エンジン3Eが始動されると、発電機55で発電が行われ、その発電電力が全波整流回路77を介し、ダイオードD3及びD4を介して、推進機駆動系及び舶用アクセサリ72と推進機用バッテリ71及び補機用バッテリ73との間に供給されるので、発電電力が推進機用バッテリ71及び補機用バッテリ73の充電電圧以上となり、推進機駆動系及び舶用アクセサリ72の消費電力以上となると、その余剰分で推進機用バッテリ71及び補機用バッテリ73が充電される。
【0035】
この推進機用バッテリ71及び補機用バッテリ73の正常充電状態から例えば推進機用バッテリ71が劣化して、充電電圧が補機用バッテリ73の充電電圧より低下する状態となると、回り込み防止用のダイオードD2が導通状態となって、補機用バッテリ73の電力がダイオードD2を介して燃料供給系12の燃料ポンプ12b及び高圧ポンプ12dに供給されると共に、エンジンコントロールユニット46及びシフトコントロールユニット60に供給されるので、エンジン3Eが回転駆動中に、燃料供給系への電力供給が低下することなく、安定した電力を確保することができ、燃料噴射弁45からの燃料噴射を良好に維持することができる。また、点火プラグ35に対しては、発電機55で発電した発電電力がイグナイタ35bに供給されていることから点火プラグの点火タイミングの制御は通常通り行うことができ、エンジン3Eの駆動状態を継続することができる。
【0036】
また、推進機用バッテリ71とダイオードD1及びD3の接続点との間で断線が発生し、推進機用バッテリ71から推進機駆動系に電力供給が不能となった場合にも、補機用バッテリ73からダイオードD2を介して推進機駆動系に電力供給を行うことができ、エンジン3Eの回転駆動を正常状態に維持することができる。
このように、上記第1の実施形態によると、推進機用バッテリ71に電圧低下が生じたり、断線による燃料供給系12やコントロールユニット46及び60に対する電力供給不能状態となったりしたときには、補機用バッテリ72から燃料供給系12やコントロールユニット46及び60に電力をダイオードD1及びD2で構成される異常時電力供給回路76を介して供給することができ、少なくとも燃料噴射式エンジン3Eの回転駆動を維持することができる。
【0037】
次に、本発明の第2の実施形態を図4について説明する。
この第2の実施形態は、推進機用バッテリ71及び補機用バッテリ73の充電電圧を監視して、推進機用バッテリ71の電圧低下異常を検出したときに、警報を発する等の異常処理を行うようにしたものである。
すなわち、第2の実施形態では、図4に示すように、電源装置70の推進機用バッテリ71及び補機用バッテリ73の電圧がエンジンコントロールユニット46のA/D変換入力端子AD1及びAD2に入力され、このエンジンコントロールユニット46で推進機用バッテリ71及び補機用バッテリ73の電圧を監視して異常状態を検出し、異常状態を検出したときに、異常態様に応じた異常処理を行うように構成されていることを除いては前述した第1の実施形態と同様の構成を有し、図1との対応部分には同一符号を付し、その詳細説明はこれを省略する。
【0038】
エンジンコントロールユニット46では、図5に示す、電源異常制御処理を実行する。この電源異常制御処理は、先ず、ステップS1で、推進機用バッテリ71の電圧Vp及び補機用バッテリ73の電圧Vsを読込み、次いでステップS2に移行して、推進機用バッテリ71の電圧Vpが予め設定した閾値電圧Vpt以下に低下しているか否かを判定し、Vp>Vptであるときには、推進機用バッテリ71の電圧Vpが十分であり、推進機用バッテリ71が一応正常であるものと判断してステップS3に移行する。
【0039】
このステップS3では、補機用バッテリ73の電圧Vsが予め設定した閾値電圧Vst以下であるか否かを判定し、Vs>Vstであるときには、補機用バッテリ73の電圧Vsが十分であり、補機用バッテリ73が一応正常であるものと判断してステップS4に移行する。
このステップS4では、推進機用バッテリ71の電圧Vpと補機用バッテリ73の電圧Vsとの電圧偏差ΔVの絶対値|ΔV|が所定時間(例えば1分程度)継続して設定値ΔVx以下であるか否かを判定し、電圧偏差ΔVの絶対値|ΔV|が設定値ΔVx以下の状態を所定時間継続した場合には、推進機用バッテリ71と補機用バッテリ73の正極側が誤って直接接続された並列接続異常であると判断してステップS5に移行し、並列接続異常を表すガイダンス情報又は異常表示情報で構成される異常表示情報を例えばスイッチパネル7に設けた液晶表示器80に出力すると共に、警報信号を同様にスイッチパネル7の近傍に設けたスピーカ81に出力してから前記ステップS1に戻り、電圧偏差ΔVの絶対値|ΔV|が設定値ΔVxを超えているときには、推進機用バッテリ71の正極側と補機用バッテリ73の正極側とが絶縁された正常状態であると判断してそのまま前記ステップS1に戻る。
【0040】
一方、前記ステップS2の判定結果が、Vp≦Vptであるときには、推進機用バッテリ71の電圧Vpが不足しているものと判断してステップS6に移行し、推進機用バッテリ71の電圧Vpが“0”に近い断線閾値電圧Vpc以下であるか否かを判定し、Vp>Vpcであるときには推進機用バッテリ71の充電電圧不足等による電圧低下状態であると判断してステップS7に移行し、バッテリ電圧低下異常を表すガイダンス情報又は異常表示情報を液晶表示器80に出力すると共に、警報信号をスピーカ81に出力し、次いでステップS8に移行して、エンジン回転速度を増加させることにより発電機55での発電電力を推進機用バッテリ71に対して過充電電圧とならない程度の最大発電電力に増加させる発電電力増加処理を行ってから前記ステップS1に戻る。
【0041】
また、前記ステップS6の判定結果が、推進機用バッテリ71の電圧Vpが断線閾値電圧Vpc以下であるときには、推進機用バッテリ71からエンジンコントロールユニット46のA/D変換入力端子AD1との間の電力供給系に断線又は短絡が発生したものと判断してステップS9に移行し、断線又は短絡を表すガイダンス情報又は異常表示情報で構成される断線異常表示情報を液晶表示器80に出力すると共に、警報信号をスピーカ81に供給してから前記ステップS8に移行する。
【0042】
さらに、前記ステップS3の判定結果が、補機用バッテリ73の電圧Vsが閾値電圧Vst以下であるときには、補機用バッテリ73の電圧低下異常であると判断してステップS10に移行し、補機用バッテリ73の電圧低下異常を表すガイダンス情報又は異常表示情報を液晶表示器80に出力すると共に、警報信号をスピーカ81に出力してから前記ステップS1に戻る。
【0043】
この図5の処理において、ステップS1の処理及びエンジンコントロールユニット46のA/D変換入力端子とが電圧検出手段に対応し、ステップS2〜ステップS10の処理が異常処理部に対応している。
次に、上記第2の実施形態の動作を説明する。
今、推進機用バッテリ71の正極側及び補機用バッテリ73の正極側が絶縁され、各バッテリ71及び73の電圧Vp及びVsが閾値電圧Vpt及びVstを超えている正常状態である場合には、メインスイッチ74をオン状態とすることにより、サブスイッチ75もオン状態となって、エンジンコントロールユニット46に電源が投入され、このエンジンコントロールユニット46が作動状態となる。このため、エンジンコントロールユニット46で、エンジン3Eの燃料供給系、点火タイミング等を制御するエンジン制御処理を実行開始して、スタータスイッチをオン状態とすることにより、エンジン3Eを始動して、リモコンレバー6から入力されるスロットル開度指令値に応じてスロットル開度を制御する。
【0044】
これと同時に、エンジンコントロールユニット46で、図5に示す電源異常制御処理を実行する。このため、推進機用バッテリ71の電圧Vp及び補機用バッテリ73の電圧Vsが共に閾値電圧Vpt及びVstを超えているので、ステップS1からステップS2及びステップS3を経てステップS4に移行する。このステップS4で、推進機用バッテリ71の正極側と補機用バッテリ73の正極側とが絶縁されているので、推進機用バッテリ71の電力はスタータモータ、燃料供給系、エンジン駆動系等に供給される一方、補機用バッテリ73の電力は舶用アクセサリ72に供給されることになり、両バッテリ71及び73の出力電圧が略一致することはまれであって、所定時間継続して略一致することがないので、何ら異常表示を行ったり、警報を発することなくステップS1に戻る。
【0045】
しかしながら、船体2、船外機3等を購入したり、劣化したバッテリを交換したりする際に、推進機用バッテリ71の正極側と補機用バッテリ73の正極側とを誤って接続することにより、推進機用バッテリ71と補機用バッテリ73とを並列に接続した場合には、エンジンコントロールユニット46のA/D変換入力端子AD1及びAD2に入力される電圧Vp及びVsが等しくなり、その電圧変動が一致することから、電圧偏差ΔVの絶対値|ΔV|が略“0”となって、設定値ΔVx以下となるので、ステップS4からステップS5に移行して、バッテリ同士が並列接続されていることを表す並列接続異常表示情報が液晶表示器80に出力されて所定の警報表示が行われると共に、警報信号がスピーカ81に供給されて、警報が発せられ、操縦者にバッテリ並列接続異常を確実に報知することができる。したがって、操縦者がメインスイッチ75をオフ状態としてから電源装置70における推進機用バッテリ71及び補機用バッテリ73の接続状態を点検し、推進機用バッテリ71及び補機用バッテリ73の正極側を互いに絶縁するように接続し直すことにより、並列接続異常を解消することができる。
【0046】
また、メインスイッチ74をオン状態に維持しているときに、推進機用バッテリ71の出力電圧Vpが閾値電圧Vpt以下に低下したときには、前述した第1の実施形態と同様にダイオードD2を介して補機用バッテリ73の電力が燃料供給系やエンジンコントロールユニット46等に供給されると共に、図5の処理において、ステップS2からステップS6に移行し、推進機用バッテリ71の出力電圧Vpが断線閾値電圧Vpc以下であるか否かを判定し、Vp≦Vpcであるときには、推進機用バッテリ71側で断線又は短絡が発生したものと判断して、ステップS8に移行し、発電機55の発電電力を増加させる処理を行って、発電機55の発電電力によってエンジン3Eの駆動系、燃料供給系の電力を確保すると共に、補機用バッテリ73の充電電力を確保する。
【0047】
また、ステップS6の判定結果が、Vp>Vpcであるときには、推進機用バッテリ71の劣化か発電機55の発電電力不足であると判断して、推進機用バッテリ異常表示情報を液晶表示器80に出力して推進機用バッテリ異常表示を行うと共に、警報信号をスピーカ81に出力して警報を発し、操縦者に報知し、その後、ステップS8に移行して発電機55での発電電力を増加する処理を行って、発電機55の発電電力によってエンジン3Eの駆動系、燃料供給系の電力を確保すると共に、補機用バッテリ73の充電電力を確保する。
【0048】
さらに、メインスイッチ74をオフ状態からオン状態とした時即ちエンジン始動時に推進機用バッテリ71の出力電圧Vpが閾値電圧より低下している場合には、スタータモータ54を回転駆動可能である場合には、エンジン3Eを始動して、エンジン3Eを稼働状態とすることができ、この状態で発電機55の発電電力を増加させて充電が可能となるが、スタータモータ54を回転駆動できない程度に推進機用バッテリ71の出力電圧Vpが低下しているときには、エンジン3Eの始動を行うことができず、図5の処理で、ステップS7に移行して、推進起用バッテリ異常表示を行うと共に、警報を発することから、運転者に推進機用バッテリ71の交換を促すことができる。このとき、エンジンコントロールユニット46には、補機用バッテリ73の出力電圧がダイオードD2を介して供給されているので、正常な処理を行うことができる。
【0049】
このように、推進機用バッテリ71の充電電圧Vpが閾値電圧Vpt以下に低下すると、バッテリ異常表示を行うと共に、警報を発するので、操縦者に推進起用バッテリ71の異常を確実に報知して、帰港時に推進機用バッテリ71の点検を行って、バッテリ交換等の修復作業の必要性を確実に認識させることができる。
なお、上記第2の実施形態においては、異常時電力供給回路76をダイオードD1及びD2で構成する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、ダイオードD1及びD2をそれぞれ半導体スイッチング素子に置換し、これらを推進機用バッテリ71の充電電圧に応じて何れか一方をオン状態となるように制御するようにしてもよい。
【0050】
次に、本発明の第3の実施形態を図6及び図7について説明する。
この第3の実施形態では、電源装置70をダイオードD1及びD2に代えてリレー接点を適用したものである。
すなわち、第3の実施形態では、図6に示すように、電源装置70における異常時電力供給回路76が、常閉接点tnc、常開接点tno及び可動接点tmを有するリレーc点85と、このリレーc点85の可動接点tmを切り換え駆動するリレーコイル86とを有する制御リレー87を備え、リレーc接点85の閉接点tncがメインスイッチ74の出力側に、常開接点tnoがサブスイッチ75の出力側に、可動接点tmが燃料供給系12及びエンジンコントロールユニット源入力端子ptにそれぞれ接続し、リレーコイル86がエンジンコントロールユニット46の出力側に接続した構成とされている。
【0051】
そして、エンジンコントロールユニット46で、図7に示すバッテリ異常制御処理を実行する。このバッテリ異常制御処理は、前述した第2の実施形態における図5の処理において、ステップS2及びS3間に、バッテリ異常フラグFSがバッテリ電圧低下状態を表す“1”にセットされているか否かを判定し、バッテリ異常フラグFSが“0”にリセットされているときに後述するステップS14にジャンプするステップS11と、その判定結果が、バッテリ異常フラグFSが“1”にセットされているときに、推進機用バッテリ71が閾値電圧Vptより高い電圧に設定された閾値電圧Vpth(>Vpt)を超えているか否かを判定するステップS12と、その判定結果が、Vp≦Vpthであるときに、バッテリ異常フラグFSを“0”にリセットするステップS13と、これに続く制御リレー87のリレーコイル86に対する所定値の電流の通電を遮断する制御を行うステップS14とが介挿され、ステップS2及びステップS6間に制御リレー87のリレーコイル85に所定値の電流を通電してリレーc接点85の可動接点tmを常開接点tnoに切り換えるステップS15が介挿され、さらにステップS6及びステップS7間にバッテリ異常フラグFSを“1”にセットするステップS16が介挿されていることを除いては図5と同様の処理を行い、図5に対応する処理には同一ステップ番号を付し、その詳細説明はこれを省略する。
【0052】
この図7の処理において、ステップS1の処理及びエンジンコントロールユニット46のA/D変換入力端子とが電圧検出手段に対応し、ステップS2〜ステップS16の処理が異常処理部に対応している。
次に、上記第3の実施形態の動作を説明する。
今、推進機用バッテリ71及び補機用バッテリ73の電圧Vp及びVsがそれぞれ閾値電圧Vpt及びVstを超えている正常状態にあるものとする。この状態で、メインスイッチ74をオン状態とすると、エンジンコントロールユニット46には電力が供給されておらず、制御リレー87のリレーコイル86が非通電状態であるので、リレーc接点85の可動接点tmが常閉接点tnc側に切り換えられた状態を維持する。このため、推進機用バッテリ71の電力がメインスイッチ74、リレーc接点85の常閉接点tnc及び可動接点tmを介してエンジンコントロールユニット46の電源入力端子ptに供給されることにより、このエンジンコントロールユニット46が作動状態となる。
【0053】
このため、エンジンコントロールユニット46でエンジン制御処理が実行開始されて、スタータスイッチがオン状態となると、エンジン3Eが始動されて、リモコンレバー6の選択位置に応じたスロットル開度で回転駆動される。
これと同時に図7のバッテリ異常制御処理が実行開始され、推進機用バッテリ71が正常であるので、ステップS2からステップS11に移行し、制御リレー87のリレーコイル86に対する所定値の電流の通電を遮断状態に維持し、リレーc接点85の可動接点tmが常閉接点tnc側に切り換えられている状態を維持することになり、推進機用バッテリ71の電力が燃料供給系12、イグナイタ35b、エンジンコントロールユニット46、スタータリレー52、シフトコントロールユニット60等に供給され、これらが正常に動作される。このとき、推進機用バッテリ71の電力が制御リレー86のリレーc接点85の常閉端子tnc及び可動接点tmを介して燃料供給系12、イグナイタ35c、エンジンコントロールユニット46等に供給されるので、常閉端子tnc及び可動接点tm間で内部抵抗による電圧降下を生じることがなく、前述した第1及び第2の実施形態のようにダイオードD1を介して供給する場合に比較して電力損失を軽減して、推進機用バッテリ71の寿命を長期化することができる。
【0054】
また、補機用バッテリ73の電力が航海灯等の舶用アクセサリ72に供給される。
そして、発電機55の発電電圧が推進機用バッテリ71及び補機用バッテリ73の充電電圧Vp及びVsを超えると、ダイオードD3及びD4を介してスタータリレー52、燃料供給系12、イグナイタ35a、エンジンコントロールユニット46、シフトコントロールユニット60等に供給され、その余剰分で推進機用バッテリ71及び補機用バッテリ73が充電される。
【0055】
この推進機用バッテリ71の正常状態から、その出力電圧Vpが閾値電圧Vpt以下に低下するバッテリ電圧低下異常状態となると、図7の処理において、ステップS2からステップS15に移行して、制御リレー86のリレーコイル85に対して所定値の電流が通電され、これによってリレーc接点85の可動接点tmが常閉接点tnc側から常開接点tno側に切り換えられる。このため、今まで電力を供給していた推進機用バッテリ71に代えて補機用バッテリ73から電力が燃料供給系12、イグナイタ35c、エンジンコントロールユニット46、シフトコントロールユニット60等に供給され、燃料供給系12、イグナイタ35b、エンジンコントロールユニット46等で電圧不足を生じることを確実に防止して、良好なエンジン駆動状態を確保することができる。
【0056】
そして、推進機用バッテリ71の出力電圧Vpが断線閾値電圧Vpcを超えている場合にはステップS16でバッテリ異常フラグFSを“1”にセットしてからステップS7に移行して、液晶表示器81に推進機用バッテリ異常表示を行うと共に、スピーカ81で警報を発し、さらにステップS8でエンジン3Eの回転速度が増加されて発電機55の発電電力が増加されるので、推進機用バッテリ71及び補機用バッテリ73の充電を確実に行うことができる。また、推進機用バッテリ71の出力電圧Vpが断線閾値電圧Vpc以下であるときにはステップS9に移行して液晶表示器81に推進機用バッテリ断線異常表示を行うと共に、スピーカ81から警報を発してから発電機55の発電電力増加処理が行われる。
【0057】
この補機用バッテリ73からの電力供給状態でも、リレーc接点75を介して燃料供給系12、イグナイタ35c、エンジンコントロールユニット46等に点力が供給されるので、内部抵抗による電圧降下を生じることなく、電力損失を軽減することができる。
そして、推進機用バッテリ71の出力電圧Vpが断線閾値電圧Vpcを超えているバッテリ電圧低下異常状態で、発電機55からの発電電力によって推進機用バッテリ71の充電電圧Vpが上昇し、閾値電圧Vptを超える状態となると、図7の処理において、ステップS2からステップS11に移行し、バッテリ異常フラグFSが“1”にセットされているのでステップS12に移行して、推進機用バッテリ71の出力電圧Vpが閾値電圧Vptより高い閾値電圧Vpthより低い場合には、ステップS15に移行して、補機用バッテリ73による電力供給状態を維持する。
【0058】
その後、推進機用バッテリ71の充電電圧Vpが閾値電圧Vpthを超える状態となると、ステップS12からステップS13に移行して、バッテリ異常フラグFSが“0”にリセットしてからステップS14に移行して、制御リレー87のリレーコイル86を非通電状態に復帰し、リレーc接点85の可動接点tmを常閉接点tnc側に復帰させて、再度推進機用バッテリ71から燃料供給系12、イグナイタ35b、エンジンコントロールユニット46、シフトコントロールユニット60等に対する電力供給を再開させる。このように、推進機用バッテリ71の充電電圧Vpが断線や短絡ではなく単に閾値電圧Vptより低下した場合に、推進機用バッテリ71の充電電圧Vpが閾値電圧Vptより高い閾値電圧Vpthを超えたときに、推進機用バッテリ71による燃料供給系12、イグナイタ35b、エンジンコントロールユニット46、シフトコントロールユニット60等に対する電力供給を再開させるヒステリシス特性を持たせることにより、制御リレー87のリレーc接点86がハンチング状態となることを回避して、円滑な電力供給状態を確保することができる。
【0059】
この第3の実施形態においても、推進機用バッテリ71と補機用バッテリ73とが誤って並列に接続された場合には、前述した第2の実施例と同様にステップS4からステップS5に移行して、液晶表示器80に並列接続異常表示を行うと共に、スピーカ81から警報音を発する。
なお、上記第2及び第3の実施形態においては、推進機用バッテリ71の充電電圧Vpの低下時に、バッテリ異常表示を行うと共に、警報を発するようにした場合について説明したが、これに限定されるものではなく、バッテリ異常表示又は警報を省略するようにしてもよい。
【0060】
また、上記第2及び第3の実施形態においては、表示器として液晶表示器80を適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、CRTディスプレイ等の他の画像表示器や、発光ダイオード等の点灯によりバッテリの異常表示を行う表示器等の任意の表示器を適用することができる。同様に、スピーカ81に代えてブザーを適用することもできる。
【0061】
さらに、上記第2及び第3の実施形態においては、スピーカ81から警報音を発するようにした場合について説明したが、これに限定されるものではなく、音声合成回路を設けて、バッテリの異常状態に対応した音声情報を出力するようにしてもよい。
さらにまた、上記第1〜3の実施形態においては、船外機3が1機である場合について説明したが、これに限定されるものではなく、複数の船外機を搭載する場合には、補機用バッテリ73については1台でよいが、推進機用バッテリ71については船外機数に応じた推進機用バッテリ71を用意し、これら推進機用バッテリ71を個別に船外機3に接続すると共に、補機用バッテリ73の電力をダイオードD2又は制御リレーのリレーc接点を介して各船外機3に供給するようにすればよい。
【0062】
なおさらに、上記第1〜第3の実施形態においては、補機用バッテリ73の電力をスタータリレー52に対しては供給しないようにした場合について説明したが、これに限定されるものではなく、推進機用バッテリ71の充電電圧Vpが閾値電圧Vpt以下に低下している場合に、スタータスイッチがオン状態となっている間だけ補機用バッテリ73の充電電圧Vsをスタータリレー52に供給するようにしてもよい。
【0063】
また、上記第1〜第3の実施形態においては、船外機3のエンジン3Eとして、4サイクルの燃料噴射式エンジンを適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、直接噴射式エンジンや他の2サイクルエンジン等に本発明を適用することができる。
さらに、上記第1〜第3の実施形態においては、推進機用バッテリ71を1つのバッテリで構成する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、複数のバッテリを並列又は直列接続して推進機用バッテリを構成するようにしてもよい。
【0064】
またさらに、上記第1〜第3の実施形態においては、エンジンコントロールユニット46でバッテリ異常制御処理を行う場合について説明したが、これに限定されるものではなく、シフトコントロールユニット60にA/D変換入力端子AD1及びAD2を設けて、このシフトコントロールユニット60でバッテリ異常制御処理を行うようにしてもよい。
なおさらに、上記第1〜第3の実施形態にいては、エンジンコントロールユニット46とシフトコントロールユニット60とを設けた場合について説明したが、これらを1つのコントロールユニットで構成するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】第1の実施形態における船外機の構成を示す構成図である。
【図3】第1の実施形態における電源装置を示す回路図である。
【図4】本発明の第2の実施形態における電源装置を示す回路図である。
【図5】第2の実施形態のエンジンコントロールユニットにおけるバッテリ異常制御処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図6】本発明の第3の実施形態における電源装置を示す回路図である。
【図7】第3の実施形態のエンジンコントロールユニットにおけるバッテリ異常制御処理手順の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0066】
1 小型船舶
2 船体
3 船外機
3E エンジン
6 リモコンレバー
7 スイッチパネル
8 メータパネル
12 燃料供給系
12a 燃料タンク
12b 燃料ポンプ
12d 高圧タンク
35 点火プラグ
35b イグナイタ
44 スロットルバルブ
46 エンジンコントロールユニット
52 スタータリレー
54 スタータモータ
55 発電機
60 シフトコントロールユニット
71 推進機用バッテリ
72 舶用アクセサリ
73 補機用バッテリ
74 メインスイッチ
75 サブスイッチ
D1,D2 ダイオード
76 異常異常時電力供給回路
80 液晶表示器
81 スピーカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の推進機に電力を供給する推進機用バッテリと、船舶の他の機器に電力を供給する補機用バッテリと、前記推進機用バッテリの電圧低下時に前記補機用バッテリから電力を供給する異常時電力供給回路とを備えたことを特徴とする船舶の電源装置。
【請求項2】
船舶の推進機に電力を供給する推進機用バッテリと、船舶の他の機器に電力を供給する補機用バッテリと、前記推進機用バッテリの電圧低下時に前記補機用バッテリから電力を供給する異常時電力供給回路と、前記推進機用バッテリ及び補機用バッテリの電圧を個別に検出する電圧検出手段と、該電圧検出手段で検出した推進機用バッテリ及び補機用バッテリの電圧に基づいてバッテリ異常を検出したときに異常処理動作を行う異常処理部とを備えていることを特徴とする船舶の電源装置。
【請求項3】
前記異常処理部は、前記推進機用バッテリ及び補機用バッテリの何れかの電圧低下を検出したときに、該当するバッテリの電圧低下異常警報を行うように構成されていることを特徴とする請求項2記載の船舶の電源装置。
【請求項4】
前記異常処理部は、前記推進機用バッテリ及び補機用バッテリの電圧に基づいて両バッテリの並列接続異常を検出するように構成されていることを特徴とする請求項2記載の船舶の電源装置。
【請求項5】
前記異常時電力供給回路は、前記補機用バッテリの正極側を前記推進機用バッテリの正極側に当該推進機用バッテリ及び補機用バッテリの一方から他方への電力の回り込みを防止する一対のダイオードを介して接続する構成を有することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の船舶の電源装置。
【請求項6】
前記異常時電力供給回路は、制御信号の入力によって前記補機用バッテリの正極側を前記推進機用バッテリの正極側に接続するリレースイッチを有することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の船舶の電源装置。
【請求項7】
前記異常時電力供給回路は、前記補機用バッテリの正極側を前記推進機用バッテリの正極側に接続するリレースイッチを有し、該リレースイッチが前記異常処理部から推進機用バッテリの電圧低下を検出したときに出力される制御信号によって駆動されるように構成されていることを特徴とする請求項2乃至4の何れかに記載の船舶の電源装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−14524(P2006−14524A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−189639(P2004−189639)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(000176213)ヤマハマリン株式会社 (256)
【Fターム(参考)】