説明

船舶用エンジン潤滑

トランクピストン船舶用エンジン潤滑(そのエンジンが重油により燃料供給される場合)が、少なくとも50質量%のグループII原料油を含む過半量の潤滑粘度の油、及び、夫々少量の、2未満の塩基度インデックス及び80%以上の炭酸化の程度を有するこのような清浄剤以外の過塩基化金属ヒドロカルビル置換ヒドロキシベンゾエート清浄剤及び少なくとも1質量%のヒドロカルビル置換カルボン酸、その酸無水物、エステル又はアミドを含む組成物により行なわれる。汚染重油の存在により生じられる、潤滑剤中のアスファルテン沈殿が、防止又は抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は中速4ストローク圧縮点火(ディーゼル)船舶用エンジンのためのトランクピストン船舶用エンジン潤滑組成物及びこのようなエンジンの潤滑に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶用トランクピストンエンジンは一般に海洋運転のために重油(“HFO”)を使用する。重油は石油留出物の最もヘビーな留分であり、過剰の脂肪族炭化水素(例えば、ヘプタン)に不溶性であるが、芳香族溶媒(例えば、トルエン)に可溶性である石油留出物の留分と定義される、15%までのアスファルテンを含む分子の複雑な混合物を含む。アスファルテンはシリンダー又は燃料ポンプ及びインジェクターにより汚染物としてエンジン潤滑剤に入ることができ、次いでアスファルテン沈殿が生じることができ、エンジン中で“ブラックペイント”又は“ブラックスラッジ”中で発現される。ピストン表面におけるこのような炭素質デポジットの存在はその後にピストン中に伝播するクラックの生成をもたらし得る絶縁層として作用し得る。クラックがピストン中を移動する場合、熱い燃焼ガスがクランクケースに入ることができ、おそらくクランクケース爆発をもたらす。
それ故、トランクピストンエンジン油(“TPEO”)がアスファルテン沈殿を防止又は抑制することが高度に望ましい。従来技術がこれを行なう方法を記載している。
WO 96/26995はディーゼルエンジン中の“ブラックペイント”を減少するためのヒドロカルビル置換フェノールの使用を開示している。WO 96/26996はディーゼルエンジン中の“ブラックペイント”を減少するための、油中水エマルションのための解乳化剤、例えば、ポリオキシアルキレンポリオールの使用を開示している。US-B2-7,053,027 は無分散剤TPEO中の耐磨耗添加剤と組み合わせての一種以上の過塩基化(overbased)金属カルボキシレート清浄剤の使用を記載している。
アスファルテン沈殿の問題は一層高い原料油飽和物レベルで一層深刻である。WO 2008/128656は潤滑剤中のアスファルテン沈殿を減少するための2未満の塩基度インデックス及び80%以上の炭酸化の程度を有する過塩基化金属ヒドロカルビル置換ヒドロキシベンゾエート清浄剤の使用による解決を記載している。グループII原料油(これはグループI原料油より高い原料油飽和物レベルを有する)を含む潤滑剤が例示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記解決は清浄剤の特別なクラスに制限される。今、本発明において、WO 2008/128656 の問題が異なる範囲の過塩基化金属カルボキシレート清浄剤について、グループII原料油中でそれと組み合わせて、ヒドロカルビル置換カルボン酸、酸無水物、エステル又はアミドを使用することにより解決されることが判明される。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第一の局面は重油により燃料供給される場合のエンジンの運転の際に、その使用におけるアスファルテン取扱を改良するためのトランクピストン船舶用エンジン潤滑油組成物であり、その組成物は50質量%以上のグループII原料油を含む、過半量の、潤滑粘度の油、及び、夫々少量の、
(A) 2未満の塩基度インデックス及び80%以上の炭酸化の程度(その炭酸化の程度は清浄剤中の合計の過剰な塩基に対するモル%として表される過塩基化金属ヒドロカルビル置換ヒドロキシベンゾエート清浄剤中に存在する炭酸塩の%である)を有するこのような清浄剤以外の過塩基化金属ヒドロカルビル置換ヒドロキシベンゾエート清浄剤、及び
(B) ヒドロカルビル置換カルボン酸、その酸無水物、エステル又はアミド(そのヒドロカルビル基又は少なくとも一つのヒドロカルビル基は少なくとも8個の炭素原子を含み、その酸、酸無水物、エステル又はアミドが潤滑油組成物の少なくとも1質量%を構成する)
を含み、又はこれらを混合することによりつくられる。
【0005】
本発明の第二の局面は、同じ量の清浄剤(A) が(B) の不在下で使用される場合の同様の運転と較べて、重油により燃料供給される、エンジンの運転中のアスファルテン取扱、及び組成物によるその潤滑を改良するための、中速圧縮点火船舶用エンジンのためのトランクピストン船舶用潤滑油組成物中の本発明の第一の局面で特定され、かつ記載された量のカルボン酸、酸無水物、エステル又はアミド(B) と組み合わせての清浄剤(A) の使用であり、その組成物は過半量の潤滑粘度の油を含み、かつ50質量%以上のグループII原料油を含む。
本発明の第三の局面は
(i) エンジンに重油を燃料供給し、そして
(ii)エンジンのクランクケースを本発明の第一の局面で特定された組成物で潤滑することを特徴とするトランクピストン中速圧縮点火船舶用エンジンの運転方法である。
本発明の第四の局面は中間速度の圧縮点火船舶用エンジンの燃焼チャンバーの表面のその潤滑及びエンジンの運転中にアスファルテンをトランクピストン船舶用潤滑油組成物中に分散させる方法であり、その方法が
(i) 本発明の第一の局面で特定された組成物を用意し、
(ii) その組成物を燃焼チャンバー中に用意し、
(iii) 重油を燃焼チャンバー中に用意し、そして
(iv) その重油を燃焼チャンバー中で燃焼することを含む。
【0006】
この明細書中、下記の用語及び表現は、使用される場合に、以下の特有の意味を有する。
“活性成分”又は“(a.i.)”は希釈剤又は溶媒ではない添加剤を表す。
“含む”又は同義語は記述された特徴、工程、又は整数もしくは成分の存在を明記するが、一つ以上のその他の特徴、工程、整数、成分又はこれらのグループの存在又は追加を排除しない。“からなる”又は“実質的にからなる”という表現或いは同義語は“含む”又はその同義語の中に含まれてもよく、“実質的にからなる”はそれが適用される組成物の特徴に実質的に影響しない物質の包含を許す。
“過半量”は組成物の50質量%を超える量を意味する。
“少量”は組成物の50質量%未満を意味する。
“TBN”はASTM D2896により測定された全アルカリ価を意味する。
更にこの明細書中、
“カルシウム含量”はASTM 4951 により測定され、
“リン含量”はASTM D5185により測定され、
“硫酸塩灰分”はASTM D874 により測定され、
“硫黄含量”はASTM D2622により測定され、
“KV100”はASTM D445により測定された動粘度(100℃における)を意味する。
また、使用される種々の成分(必須のものだけでなく、最適のもの及び通例のもの)は、配合、貯蔵又は使用の条件下で反応してもよいこと、及び本発明がまたあらゆるこのような反応の結果として得られ、又は得られた生成物を提供することが理解されるであろう。
更に、本明細書に示される量、範囲及び比の上限及び下限は独立に組み合わされてもよいことが理解される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の特徴が今以下に更に詳しく説明されるであろう。
潤滑粘度の油
潤滑油は軽質蒸留鉱油から重質潤滑油までの粘度の範囲であってもよい。一般に、油の粘度は100℃で測定して、2mm2/秒から40 mm2/秒までの範囲である。
天然油として、動物油及び植物油(例えば、ヒマシ油、ラード油)、液体石油並びにパラフィン型、ナフテン型及び混合パラフィン-ナフテン型の水素化精製され、溶媒処理され、又は酸処理された鉱油が挙げられる。石炭又はシェールに由来する潤滑粘度の油がまた有益なベースオイルとして利用できる。
合成潤滑油として、炭化水素油及びハロ置換炭化水素油、例えば、重合オレフィン及び共重合オレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレン-イソブチレンコポリマー、塩素化ポリブチレン、ポリ(1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)、ポリ(1-デセン));アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ(2-エチルヘキシル)ベンゼン);ポリフェニル(例えば、ビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェノール);並びにアルキル化ジフェニルエーテル及びアルキル化ジフェニルスルフィド及びこれらの誘導体、類似体及び同族体が挙げられる。
【0008】
アルキレンオキサイドポリマー及び共重合体並びにこれらの誘導体(この場合、末端ヒドロキシル基がエステル化、エーテル化等により変性されていた)が既知の合成潤滑油の別のクラスを構成する。これらはエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドの重合により調製されたポリオキシアルキレンポリマー、並びにポリオキシアルキレンポリマーのアルキルエーテル及びアリールエーテル(例えば、1000の分子量を有するメチル-ポリイソ-プロピレングリコールエーテル又は1000〜1500の分子量を有するポリ-エチレングリコールのジフェニルエーテル)、並びにこれらのモノ-及びポリカルボン酸エステル、例えば、テトラエチレングリコールの酢酸エステル、混合C3-C8脂肪酸エステル及びC13オキソ酸ジエステルにより例示される。
合成潤滑油の別の好適なクラスはジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸)と種々のアルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール)のエステルを含む。このようなエステルの特別な例として、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2-エチルヘキシル)、フマル酸ジ-n-ヘキシル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、セバシン酸ジエイコシル、リノール酸二量体の2-エチルヘキシルジエステル、並びに1モルのセバシン酸を2モルのテトラエチレングリコール及び2モルの2-エチルヘキサン酸と反応させることにより生成された複雑なエステルが挙げられる。
【0009】
合成油として有益なエステルとして、C5-C12モノカルボン酸及びポリオール並びにポリオールエステル、例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール及びトリペンタエリスリトールからつくられたものがまた挙げられる。
シリコンをベースとするオイル、例えば、ポリアルキル-、ポリアリール-、ポリアルコキシ-又はポリアリールオキシシリコーンオイル及びシリケートオイルが合成潤滑剤の別の有益なクラスを構成する。このようなオイルとして、テトラエチルシリケート、テトライソプロピルシリケート、テトラ-(2-エチルヘキシル)シリケート、テトラ-(4-メチル-2-エチルヘキシル)シリケート、テトラ-(p-tert-ブチル-フェニル)シリケート、ヘキサ-(4-メチル-2-エチルヘキシル)ジシロキサン、ポリ(メチル)シロキサン及びポリ(メチルフェニル)シロキサンが挙げられる。その他の合成潤滑油として、リン含有酸の液体エステル(例えば、トリクレジルホスフェート、トリオクチルホスフェート、デシルホスホン酸のジエチルエステル)及びポリマーのテトラヒドロフランが挙げられる。
未精製油、精製油及び再精製油が本発明の潤滑剤中に使用し得る。未精製油は更に精製処理しないで天然又は合成源から直接得られたものである。例えば、レトルト操作から直接得られたシェール油、蒸留から直接得られた石油、又はエステル化方法から直接得られ、更に処理しないで使用されるエステル油が未精製油であろう。精製油は油が一つ以上の性質を改良するために一つ以上の精製工程で更に処理される以外は未精製油と同様である。多くのこのような精製技術、例えば、蒸留、溶剤抽出、酸又は塩基抽出、濾過及びパーコレーションが当業者に知られている。再精製油は精製油を得るのに使用される方法と同様の方法により得られるが、既に商用された油で始まる。このような再精製油はまた再生油又は再加工油として知られており、使用済み添加剤及び油分解生成物を除去するための技術を使用して付加的な加工にしばしばかけられる。
【0010】
本発明における原料油及びベースオイルに関する定義は米国石油協会(API)刊行物“エンジンオイルライセンシング及び認可システム”、工業サービス部門、第14編、1996年12月、補遺1、1998年12月に見られるものと同じである。前記刊行物は原料油を以下のとおりにカテゴリー化する。
a)グループI原料油は90%未満の飽和物及び/又は0.03%より多い硫黄を含み、表E-1 に明記された試験方法を使用して80以上かつ120未満の粘度指数を有する。
b)グループII原料油は90%以上の飽和物及び0.03%以下の硫黄を含み、表E-1 に明記された試験方法を使用して80以上かつ120未満の粘度指数を有する。
c)グループIII原料油は90%以上の飽和物及び0.03%以下の硫黄を含み、表E-1 に明記された試験方法を使用して120以上の粘度指数を有する。
d)グループIV原料油はポリアルファオレフィン(PAO)である。
e)グループV原料油はグループI、II、III、又はIVに含まれない全てのその他の原料油を含む。
原料油に関する分析方法が以下に表示される。
【0011】
【表1】

【0012】
前記のように、本発明における潤滑粘度の油は50質量%以上のグループII原料油を含む。それは60質量%以上、例えば、70質量%、80質量%又は90質量%以上のグループII原料油を含むことが好ましい。潤滑粘度の油は実質的に全てのグループII原料油であってもよい。
過塩基化金属清浄剤 (A)
金属清浄剤は所謂金属“石鹸”(これは時折表面活性剤と称される、酸性有機化合物の金属塩である)をベースとする添加剤である。それらは一般に長い疎水性尾部を有する極性頭部を含む。過塩基化金属清浄剤(これらは中和された金属清浄剤を金属塩基(例えば、炭酸塩)ミセルの外層として含む)は、過剰の金属塩基、例えば、酸化物又は水酸化物を二酸化炭素の如き酸性ガスと反応させることにより多量の金属塩基を含むことにより用意されてもよい。
本発明において、過塩基化清浄剤(A) は過塩基化金属ヒドロカルビル置換ヒドロキシベンゾエート、好ましくはヒドロカルビル置換サリチレート清浄剤である。
“ヒドロカルビル”は炭素原子及び水素原子を含み、炭素原子を介して分子の残部に結合されている基を意味する。それはヘテロ原子、即ち、炭素及び水素以外の原子を含んでもよく、但し、それらがその基の実質的な炭化水素の性質及び特徴を変えないことを条件とする。ヒドロカルビルの例として、アルキル及びアルケニルが挙げられる。過塩基化金属ヒドロカルビル置換ヒドロキシベンゾエートは典型的には以下に示される構造を有する。
【0013】
【化1】

【0014】
式中、Rは線状又は分岐脂肪族ヒドロカルビル基、更に好ましくはアルキル基(直鎖アルキル基又は分岐鎖アルキル基を含む)である。そのベンゼン環に結合される一つより多いR基があってもよい。Mはアルカリ金属(例えば、リチウム、ナトリウム又はカリウム)又はアルカリ土類金属(例えば、カルシウム、マグネシウム、バリウム又はストロンチウム)である。カルシウム又はマグネシウムが好ましく、カルシウムが特に好ましい。COOM基はヒドロキシル基に対してオルト位、メタ位又はパラ位にあってもよい。オルト位が好ましい。R基はヒドロキシル基に対してオルト位、メタ位又はパラ位にあってもよい。
ヒドロキシ安息香酸は典型的にはフェノキシドのカルボキシル化、コルベ-シュミット方法により調製され、その場合、一般に未カルボキシル化フェノールと混合して得られるであろう(通常希釈剤中で)。ヒドロキシ安息香酸は硫化されなくてもよく、又は硫化されてもよく、化学的に変性されてもよく、かつ/又は付加的な置換基を含んでもよい。ヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸の硫化方法は当業者に公知であり、例えば、US 2007/0027057 に記載されている。
ヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸中、そのヒドロカルビル基はアルキル(直鎖又は分岐鎖アルキル基を含む)であることが好ましく、そのアルキル基は有利には5〜100個、好ましくは9〜30個、特に14〜24個の炭素原子を含む。
“過塩基化”という用語は一般に金属部分の当量数対酸部分の当量数の比が1より大きい金属清浄剤を記載するのに使用される。“低塩基化”という用語は金属部分対酸部分の当量比が1より大きく、かつ約2までである金属清浄剤を記載するのに使用される。
【0015】
“表面活性剤の過塩基化カルシウム塩”は油不溶性金属塩の金属陽イオンが実質的にカルシウム陽イオンである過塩基化清浄剤を意味する。少量のその他の陽イオンが油不溶性金属塩中に存在してもよいが、油不溶性金属塩中の陽イオンの典型的には少なくとも80モル%、更に典型的には少なくとも90モル%、例えば、少なくとも95モル%が、カルシウムイオンである。カルシウム以外の陽イオンは、例えば、陽イオンがカルシウム以外の金属である表面活性剤塩の過塩基化清浄剤の製造中の使用に由来してもよい。表面活性剤の金属塩はまたカルシウムであることが好ましい。
炭酸化過塩基化金属清浄剤は典型的には無定形ナノ粒子を含む。更に、結晶性方解石形態及びファーテライト形態の炭酸塩を含むナノ粒状材料の開示がある。
清浄剤の塩基度は全アルカリ価(TBN)として表されてもよい。全アルカリ価は過塩基化物質の塩基度の全てを中和するのに必要とされる酸の量である。TBN はASTM規格D2896 又は均等操作を使用して測定されてもよい。清浄剤は低TBN (即ち、50未満のTBN )、中間TBN (即ち、50〜150のTBN)又は高TBN (即ち、150より大きく、例えば、150-500のTBN )を有してもよい。本発明において、塩基度インデックス及び炭酸化の程度が使用されてもよい。塩基度インデックスは過塩基化清浄剤中の全塩基対全石鹸のモル比である。炭酸化の程度は清浄剤中の合計の過剰塩基に対するモル%として表される過塩基化清浄剤中に存在する炭酸塩の%である。
【0016】
過塩基化金属ヒドロカルビル置換ヒドロキシベンゾエートは当業界で使用される技術のいずれかにより調製し得る。一般方法は以下のとおりである。
1. 揮発性炭化水素、アルコール及び水からなる溶媒混合物中の、わずかに過塩基化された金属ヒドロカルビル置換ヒドロキシベンゾエート錯体を生成するためのモル過剰の金属塩基によるヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸の中和、
2. コロイド分散金属炭酸塩を生成するための炭酸化続いて後反応期間、
3. コロイド分散されない残留固体の除去、及び
4. プロセス溶媒を除去するためのストリッピング。
過塩基化金属ヒドロカルビル置換ヒドロキシベンゾエートは回分式方法又は連続過塩基化方法によりつくられる。
金属塩基(例えば、金属水酸化物、金属酸化物又は金属アルコキシド)、好ましくは石灰(水酸化カルシウム)は、一つ以上の段階で仕込まれてもよい。仕込みはそれらに続く二酸化炭素仕込みのように、同じであってもよく、また異なってもよい。更なる水酸化カルシウム仕込みを添加する場合、先の段階の二酸化炭素処理は完全である必要がない。炭素化が進行するにつれて、溶解水酸化物が揮発性炭化水素溶媒と不揮発性炭化水素油の混合物に分散されたコロイド炭酸塩粒子に変換される。
炭酸化はアルコール促進剤の還流温度までの温度の範囲にわたって一つ以上の段階で行なわれてもよい。添加温度は同様であってもよく、又は異なっていてもよく、又は夫々の添加段階中に変化してもよい。温度が上昇され、必要により次いで低下されてもよい期間は、更なる炭酸化工程に先行してもよい。
【0017】
その反応混合物の揮発性炭化水素溶媒は約150℃以下の沸点を有する通常液体の芳香族炭化水素であることが好ましい。芳香族炭化水素が或る種の利益、例えば、改良された濾過速度を与えることがわかり、好適な溶媒の例はトルエン、キシレン、及びエチルベンゼンである。
アルカノールはメタノールであることが好ましいが、エタノールの如きその他のアルコールが使用し得る。アルカノール対溶媒の比、及び初期の反応混合物の含水量の正確な選択が、所望の生成物を得るのに重要である。
油が反応混合物に添加されてもよく。その場合、好適な油として、炭化水素油、特に鉱物起源のものが挙げられる。38℃で15〜30mm2/秒の粘度を有する油が非常に好適である。
二酸化炭素による最終処理後に、反応混合物が典型的には高温、例えば、130℃以上に加熱されて揮発性物質(水及びあらゆる残存アルコール及び炭化水素溶媒)を除去する。その合成が完結する場合、生の生成物は懸濁された沈降物の存在の結果として曇っている。それは、例えば、濾過又は遠心分離により清澄化される。これらの手段は溶媒除去の前、もしくは中間点、又は後に使用されてもよい。
生成物は一般に油溶液として使用される。反応混合物が揮発物の除去後に不十分な油を含んで油溶液を保持する場合、更なる油が添加されるべきである。これは溶媒除去の前、もしくは中間点、又は後に起こってもよい。
本発明において、(A) は
(A1)2以上の塩基度インデックス及び80%以上の炭酸化の程度、もしくは
(A2)2以上の塩基度インデックス及び80%未満の炭酸化の程度、又は
(A3)2未満の塩基度インデックス及び80%未満の炭酸化の程度
を有してもよい。
カルボン酸、その酸無水物、エステル又はアミド(B)
記述されたように、その酸、その酸無水物、エステル又はアミドは潤滑油組成物の少なくとも1質量%を構成する。それは1.5質量%から、例えば、10質量%まで、例えば、2〜10質量%、例えば、3〜6質量%を構成することが好ましい。(B)は混合物であってもよい。
酸はモノカルボン酸又はポリカルボン酸、好ましくはジカルボン酸であってもよい。そのヒドロカルビル基は8個から400個まで、例えば、8〜100個の炭素原子を有することが好ましい。
(B) として、ジカルボン酸の酸無水物が好ましい。
酸がジカルボン酸である場合、エステルはハーフエステル又はジエステルであってもよい。エステル基はアルキル、アリール、又はアラルキルを含んでもよく、アミド基は未置換であってもよく、又は1個以上のアルキル基、アリール基又はアラルキル基を有してもよい。
例示のモノカルボン酸及びジカルボン酸並びにこれらの酸無水物、エステル又はアミドの一般式は以下のように示されてもよく、
【0018】
【化2】

(I)
【0019】
(式中、R1 はC8 - C100 分岐又は線状ヒドロカルビル、例えば、ポリアルケニル基、アルキル基又はアルカリール基を表し、
X及びYは夫々独立にOR2 及びOR3 を表し、この場合、夫々のR2 及びR3 は独立に水素原子、又はアルキル基、アリール基もしくはアラルキル基を表し、或いはX及びYは一緒に-O- を表す)、かつ/又は以下のように示されてもよい。
R1CH2COR4 (II)
式中、R4 はOR5 又はNR6R7 を表し、この場合、夫々のR5 、R6 及びR7 は独立に水素原子又はアルキル基を表す。
ヒドロカルビル基はポリアルケニル基であることが好ましい。このようなポリアルケニル部分は200から3000まで、好ましくは350から950までの数平均分子量を有してもよい。
本発明の酸/誘導体の生成に使用される好適な炭化水素又はポリマーとして、ホモポリマー、共重合体又は低分子量炭化水素が挙げられる。このようなポリマーの一つのファミリーはエチレン及び/又は式H2C=CHR1 (式中、R1 は1〜26個の炭素原子を含む直鎖又は分岐鎖アルキル基である)を有する少なくとも一種のC3-C28アルファ-オレフィンのポリマーを含み、そのポリマーは炭素間不飽和、好ましくは高度の末端エテニリデン不飽和を含む。このようなポリマーはエチレンと上記式(式中、R1 が1個から18個までの炭素原子のアルキルであり、更に好ましくは1個から8個までの炭素原子、更に好ましくは1個から2個までの炭素原子のアルキルである)の少なくとも一種のアルファ-オレフィンの共重合体を含むことが好ましい。それ故、有益なアルファ-オレフィンモノマー及びコモノマーとして、例えば、プロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1、4-メチルペンテン-1、デセン-1、ドデセン-1、トリデセン-1、テトラデセン-1、ペンタデセン-1、ヘキサデセン-1、ヘプタデセン-1、オクタデセン-1、ノナデセン-1、及びこれらの混合物(例えば、プロピレンとブテン-1の混合物等)が挙げられる。このようなポリマーの例示はプロピレンホモポリマー、ブテン-1ホモポリマー、エチレン-プロピレンコポリマー、エチレン-ブテン-1コポリマー、プロピレン-ブテンコポリマー等であり、そのポリマーは少なくとも若干の末端不飽和及び/又は内部不飽和を含む。好ましいポリマーはエチレンとプロピレンの不飽和コポリマー及びエチレンとブテン-1の不飽和コポリマーである。本発明の共重合体は少量、例えば、0.5〜5モル%のC4 -C18 非共役ジオレフィンコモノマーを含んでもよい。しかしながら、本発明のポリマーはアルファ-オレフィンホモポリマー、アルファ-オレフィンコモノマーの共重合体及びエチレンとアルファ-オレフィンコモノマーの共重合体のみを含むことが好ましい。本発明に使用されるポリマーのエチレンモル含量は好ましくは0〜80%、更に好ましくは0〜60%の範囲である。プロピレン及び/又はブテン-1がエチレンとの一種以上のコモノマーとして使用される場合、このようなコポリマーのエチレン含量は15〜50%であることが最も好ましいが、それより高いか、又は低いエチレン含量が存在してもよい。
【0020】
これらのポリマーはアルファ-オレフィンモノマー、もしくはアルファ-オレフィンモノマーの混合物、又はエチレンと少なくとも一種のC3 -C28 アルファ-オレフィンモノマーを含む混合物を、少なくとも一種のメタロセン(例えば、シクロペンタジエニル-遷移金属化合物)とアルモキサン化合物を含む触媒系の存在下で重合することにより調製されてもよい。この方法を使用して、ポリマー鎖の95%以上が末端エテニリデン型不飽和を有するポリマーが提供し得る。末端エテニリデン不飽和を示すポリマー鎖の比率はFTIR分光分析、滴定、又はC13 NMR により測定し得る。この後者の型の共重合体は式POLY-C(R1)=CH2 (式中、R1 はC1 -C26 アルキル、好ましくはC1 -C18 アルキル、更に好ましくはC1 -C8 アルキル、最も好ましくはC1 -C2 アルキル(例えば、メチル又はエチル)であり、かつPOLYはポリマー鎖を表す)を特徴とし得る。R1 アルキル基の鎖長はその重合における使用に選ばれた一種以上のコモノマーに応じて変化するであろう。ポリマー鎖の少量が末端エテニル、即ち、ビニル不飽和、即ち、POLY-CH=CH2を含むことができ、ポリマーの一部が内部モノ不飽和、例えば、POLY-CH=CH(R1) (式中、R1 は先に定義されたとおりである)を含むことができる。これらの末端不飽和共重合体は既知のメタロセン化学により調製されてもよく、また米国特許第5,498,809号、同第5,663,130号、同第5,705,577号、同第5,814,715号、同第6,022,929号及び同第6,030,930号に記載されたように調製されてもよい。
【0021】
ポリマーの別の有益なクラスはイソブテン、スチレン等のカチオン重合により調製されたポリマーである。このクラスからの普通のポリマーとして、ルイス酸触媒、例えば、三塩化アルミニウム又は三フッ化ホウ素の存在下の、約35質量%〜約75質量%のブテン含量、及び約30重量%〜約60重量%のイソブテン含量を有するC4製油所流の重合により得られたポリイソブテンが挙げられる。ポリ-n-ブテンをつくるのに好ましいモノマーの源は石油供給原料流、例えば、ラフィネートIIである。これらの供給原料が当業界で、例えば、米国特許第4,952,739号に開示されている。ポリイソブチレンが本発明の最も好ましい主鎖である。何とならば、それがブテン流からのカチオン重合(例えば、AlCl3又はBF3触媒を使用する)により直ぐに入手し得るからである。このようなポリイソブチレンは一般にポリマー鎖当り約1個のエチレン性二重結合(その鎖に沿って位置される)の量の残留不飽和を含む。好ましい実施態様は末端ビニリデンオレフィンを有する反応性イソブチレンポリマーを調製するために純粋なイソブチレン流又はラフィネートI流から調製されたポリイソブチレンを利用する。好ましくは、これらのポリマー(高度に反応性のポリイソブチレン(HR-PIB)と称される)は、少なくとも65%、例えば、70%、更に好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは、少なくとも85%の末端ビニリデン含量を有する。このようなポリマーの調製が、例えば、米国特許第4,152,499号に記載されている。HR-PIBは知られており、HR-PIBは、例えば、商品名グリッソパールTM(BASFから)及びウルトラビスTM(BP-アモコから)として商業上入手し得る。
使用し得るポリイソブチレンポリマーは一般に400から3000までの炭化水素鎖をベースとする。ポリイソブチレンをつくるための方法は知られている。ポリイソブチレンはハロゲン化(例えば、塩素化)、熱“エン”反応、又は以下に記載されるような、触媒(例えば、過酸化物)を使用する遊離基グラフト化により官能化し得る。
(B) を生成するために、炭化水素又はポリマー主鎖はポリマーもしくは炭化水素鎖の炭素-炭素不飽和の部位で選択的に、又は上記三つの方法もしくはこれらの組み合わせのいずれかをあらゆる順序で使用して鎖に沿ってランダムに、カルボン酸生成部分(酸部分又は酸無水物部分)で官能化し得る。
【0022】
ポリマー炭化水素を不飽和カルボン酸、酸無水物又はエステルと反応させる方法及びこのような化合物からの誘導体の調製が米国特許第3,087,936号、同第3,172,892号、同第3,215,707号、同第3,231,587号、同第3,272,746号、同第3,275,554号、同第3,381,022号、同第3,442,808号、同第3,565,804号、同第3,912,764号、同第4,110,349号、同第4,234,435号、同第5,777,025号、同第5,891,953号だけでなく、EP 0 382 450 B1、CA-1,335,895及びGB-A-1,440,219に開示されている。ポリマー又は炭化水素はハロゲン補助官能化(例えば、塩素化)方法又は熱“エン”反応を使用して主として炭素-炭素不飽和(また、エチレン性不飽和又はオレフィン性不飽和と称される)の部位でポリマー又は炭化水素鎖への官能性部分又は薬剤、即ち、酸部分、酸無水物部分、エステル部分等の付加をもたらす条件下でポリマー又は炭化水素を反応させることによりカルボン酸生成部分(酸又は酸無水物)で官能化されてもよい。
選択的官能化は、塩素又は臭素を60〜250℃、好ましくは110〜160℃、例えば、120〜140℃の温度で約0.5〜10時間、好ましくは1〜7時間にわたってポリマーに通すことにより、ポリマー又は炭化水素の重量を基準として、約1〜8質量%、好ましくは3〜7質量%の塩素、又は臭素まで不飽和α-オレフィンポリマーをハロゲン化、例えば、塩素化又は臭素化することにより達成し得る。ハロゲン化されたポリマー又は炭化水素(以下、主鎖と称す)はその後に必要とされる数の官能性部分を主鎖に付加し得る充分なモノ不飽和反応体、例えば、モノ不飽和カルボン酸反応体と、100〜250℃、通常約180℃〜235℃で、約0.5〜10時間、例えば、3〜8時間にわたって反応させられ、その結果、得られた生成物はハロゲン化主鎖1モル当り所望のモル数のモノ不飽和カルボン酸反応体を含むであろう。また、主鎖及びモノ不飽和カルボン酸反応体が混合され、塩素をその熱物質に添加しながら加熱される。
塩素化は通常モノ不飽和官能化反応体との出発オレフィンポリマーの反応性を増大することを助けるが、それは本発明における使用に意図されているポリマー又は炭化水素、特に高い末端結合含量及び反応性を有するこれらの好ましいポリマー又は炭化水素の一部では必要ではない。それ故、主鎖及びモノ不飽和官能性反応体、例えば、カルボン酸反応体は、高温で接触させられて初期の熱“エン”反応を行なわせることが好ましい。エン反応は知られている。
炭化水素又はポリマー主鎖は種々の方法によりポリマー鎖に沿った官能性部分のランダム結合により官能化し得る。例えば、溶液中又は固体形態の、ポリマーが遊離基開始剤の存在下で、上記のように、モノ不飽和カルボン酸反応体でグラフト化されてもよい。溶液中で行なわれる場合、グラフト化は約100〜260℃、好ましくは120〜240℃の範囲の高温で起こる。遊離基開始グラフト化は初期の全油溶液を基準として、例えば、1〜50質量%、好ましくは5〜30質量%のポリマーを含む潤滑鉱油溶液中で行なわれることが好ましいであろう。
【0023】
使用し得る遊離基開始剤は過酸化物、ヒドロペルオキシド、及びアゾ化合物、好ましくは約100℃より高い沸点を有し、かつグラフト化温度範囲内で熱分解して遊離基を与えるものである。これらの遊離基開始剤の代表はアゾブチロニトリル、2,5-ジメチルヘキサ-3-エン-2,5-ビス-ターシャリー-ブチルペルオキシド及びジクメンペルオキシドである。開始剤は、使用される場合には、反応混合物溶液の質量を基準として典型的には0.005質量%〜1質量%の量で使用される。典型的には、前記モノ不飽和カルボン酸反応体物質及び遊離基開始剤は約1.0:1から30:1まで、好ましくは3:1から6:1までの質量比範囲で使用される。グラフト化は不活性雰囲気、例えば、窒素シール下で行なわれることが好ましい。得られるグラフト化ポリマーはポリマー鎖に沿ってランダムに結合されたカルボン酸(又は誘導体)部分を有することを特徴とする。勿論、ポリマー鎖の一部がグラフト化されないで残ることが理解される。上記遊離基グラフト化は本発明のその他のポリマー及び炭化水素に使用し得る。
【0024】
主鎖を官能化するのに使用される好ましいモノ不飽和反応体は、(i)モノ不飽和C4-C10ジカルボン酸((a)そのカルボキシル基は近接であり(即ち、隣接炭素原子に配置され)、かつ(b)前記隣接炭素原子の少なくとも一つ、好ましくは両方が前記モノ不飽和の一部である)、(ii)(i)の誘導体、例えば、酸無水物又は(i)のC1-C5アルコール誘導モノエステル又はジエステル、(iii)モノ不飽和C3-C10モノカルボン酸(その炭素-炭素二重結合はカルボキシ基と共役され、即ち構造-C=C-CO-のものである)、及び(iv)(iii)の誘導体、例えば、(iii)のC1-C5アルコール誘導モノエステル又はジエステルを含む、モノカルボン酸物質及びジカルボン酸物質、即ち、酸、又は酸誘導体物質を含む。また、モノ不飽和カルボン酸物質(i)-(iv)の混合物が使用されてもよい。主鎖との反応後に、モノ不飽和カルボン酸反応体のモノ不飽和が飽和されるようになる。こうして、例えば、無水マレイン酸が主鎖置換無水コハク酸になり、アクリル酸が主鎖置換プロピオン酸になる。このようなモノ不飽和カルボン酸反応体の例示はフマル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、クロロマレイン酸、無水クロロマレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、及び以上の低級アルキル(例えば、C1-C4アルキル)酸エステル、例えば、マレイン酸メチル、フマル酸エチル、及びフマル酸メチルである。
必要とされる官能性を与えるために、モノ不飽和カルボン酸反応体、好ましくは無水マレイン酸は、典型的にはポリマー又は炭化水素のモル数を基準として、約等モル量から約100質量%過剰まで、好ましくは5〜50質量%過剰までの範囲の量で使用されるであろう。未反応の過剰のモノ不飽和カルボン酸反応体は、必要とされる場合には、例えば、通常真空下の、ストリッピングにより最終分散剤生成物から除去し得る。
潤滑油組成物中に含まれる添加剤(A) 及び(B) の処理率は、例えば、1〜2.5質量%、好ましくは2〜20質量%、更に好ましくは5〜18質量%の範囲であってもよい。
【0025】
補助添加剤
本発明の潤滑油組成物は(A) 及び(B) とは異なり、かつこれらに追加する、更なる添加剤を含んでもよい。このような追加の添加剤として、例えば、無灰分散剤、その他の金属清浄剤、耐磨耗剤、例えば、亜鉛ジヒドロカルビルジチオホスフェート、酸化防止剤及び解乳化剤が挙げられる。
必須ではないが、添加剤を含む一種以上の添加剤パッケージ又は濃厚物を調製することが望ましいかもしれず、それにより添加剤(A) 及び(B) がベースオイルに同時に添加されて潤滑油組成物を生成し得る。潤滑油への一種以上の添加剤パッケージの溶解は溶媒により、また軽度の加熱を伴なわれる混合により促進されるかもしれないが、これは必須ではない。一種以上の添加剤パッケージは典型的には所望の濃度を得、かつ/又は一種以上の添加剤パッケージが前もって決められた量のベース潤滑剤と合わされる場合に最終配合物中で意図される作用を行なうのに適切な量の一種以上の添加剤を含むように配合されるであろう。こうして、添加剤(A) 及び(B) は、本発明によれば、その他の望ましい添加剤と一緒に少量のベースオイル又はその他の相溶性溶媒と混合されて、添加剤パッケージを基準として、適当な比率の添加剤の、例えば、2.5から90質量%、好ましくは5〜75質量%、最も好ましくは8〜60質量%の量の活性成分を含む添加剤パッケージ(残部はベースオイルである)を生成し得る。
トランクピストンエンジンオイルとしての最終配合物は典型的には30質量%、好ましくは10〜28質量%、更に好ましくは12〜24質量%の一種以上の添加剤パッケージを含んでもよい(残部はベースオイルである)。トランクピストンエンジンオイルは20〜60、例えば、25〜55の組成TBN(ASTM D2896を使用して)を有することが好ましい。
【実施例】
【0026】
本発明が以下の実施例により説明されるが、これらに何ら限定されない。
成分
下記の成分を使用した:
成分(A):
(A1) 350のTBN(2以上の塩基度インデックス;80%以上の炭酸化の程度)を有するサリチル酸カルシウム清浄剤
(A2) 225のTBN(2以上の塩基度インデックス;80%未満の炭酸化の程度)を有するサリチル酸カルシウム清浄剤
(A3) 65のTBN(2未満の塩基度インデックス;80%未満の炭酸化の程度)を有するサリチル酸カルシウム清浄剤
【0027】
成分(B):
(B1) オレイン酸
(B2) 450の数平均分子量を有するポリイソブテンから誘導されたポリイソブテンコハク酸
(B3) 数平均分子量950のポリイソブテンから誘導されたポリイソブテン無水コハク酸(“PIBSA”)(72%ai)
(B4) 450の数平均分子量を有するポリイソブテンから誘導されたポリイソブテン無水コハク酸(“PIBSA”)(75%ai)
(B5) イソ-オクタデシル無水コハク酸
(B6) ビス(2-ヒドロキシプロピル)-2-ドデシルスクシネート
(B7) オレアミド
(B8) テトラエチレンペンタミン、ジ-イソ-オクタデシルアミド
ベースオイルI: XOMAPE600として知られているAPI グループIベースオイル
ベースオイルII: CHEV600Rとして知られているAPI グループIIベースオイル
HFO: 重油、ISO-F-RMK380
フェネート: 255のTBNを有するカルシウムフェネート清浄剤
スルホネート: 425のTBNを有するスルホン酸カルシウム清浄剤
【0028】
潤滑剤
上記成分の選択をブレンドして或る範囲のトランクピストン船舶用エンジン潤滑剤を得た。潤滑剤の幾つかが本発明の実施例であり、その他が比較目的のための参考例である。夫々がHFOを含んだ場合に試験された潤滑剤の組成を“結果”見出しの下の下記の表に示す。
試験
パネルコーカー試験
パネルコーカー試験を使用して試験潤滑剤の性能を評価した。その試験方法は金属コーム状装置を油を含むサンプ内で回転することにより試験下の油を加熱された金属プレートにスプラッシすることを伴なった。試験期間の終了時に、生成されたデポジットを質量により、またプレートの外観の目視検査により評価し得る。
日本、大阪の吉田化学機械社により供給される、パネルコーカーテスター、型式PK-Sを使用して試験を行なった。試験パネルを充分にきれいにし、次いで計量し、その後にそれらをその装置に挿入した。試験油を2.5%のHFOと混合し、得られる混合物225gをその装置のサンプに添加した。油の温度が100℃であり、試験パネルが320℃であった時に、金属コーム装置を自動的に回転させて油を試験プレートにスプラッシさせた。
その試験順序が120サイクルにわたって続き、夫々のサイクルは油がプレートにスプラッシされる15秒及びスプラッシのない45秒からなった。
試験の終了時に、プレートをn-ヘプタンで洗浄し、乾燥させ、再度計量し、目視検査した。デポジット質量を報告した。
光散乱
また、集中ビーム反射方法(“FBRM”)(これはアスファルテン凝集ひいては“ブラックスラッジ”生成を予測する)による光散乱を使用して潤滑剤をアスファルテン分散性について評価した。
【0029】
FBRM試験方法は2005年10月24日〜28日、東京、船舶工学に関する第7回国際シンポジウムで開示され、その会報中の、“種々の原料油によるTPEO適用におけるサリチレート清浄剤の利益”に公表された。更なる詳細が2007年5月21日〜24日、ウィーン、CIMAC 会議で開示され、その会報中の“中速船舶用エンジンの潤滑のための新規ベース液体の挑戦の会議−添加剤アプローチ”に公表された。後者の論文において、FBRM方法を使用することにより、90%より大きく、又はそれ以下の飽和物、及び0.03%より大きく、又はそれ以下の硫黄を含む原料油をベースとする潤滑剤系について性能を予測するアスファルテン分散性について定量的結果を得ることが可能であることが開示されている。FBRMから得られる相対的性能の予測が船舶用ディーゼルエンジンでエンジン試験により確かめられた。
FBRMプローブはレーザー光が移動してプローブ先端に達する光学繊維ケーブルを含む。その先端で、光学装置がレーザー光を小スポットに集中する。その光学装置は集中されたビームがプローブのウインドーとサンプルの間の円形通路をスキャンするように回転される。粒子がウインドーを過ぎて流れるにつれて、それらが走査通路と交差し、個々の粒子から逆散乱光を与える。
走査レーザービームは粒子より極めて早く移動する。これは粒子が有効に静止性であることを意味する。集中されたビームが粒子の一端に達するにつれて、逆散乱光の量の増加がある。その量は集中されたビームが粒子の他端に達するときに減少するであろう。
【0030】
その装置は増大された逆散乱の時間を測定する。一つの粒子からの逆散乱の時間の期間が走査速度により掛けられ、その結果が距離又は翼弦長さである。翼弦長さは粒子の端部の二つの位置の間の直線である。これは翼弦長さ寸法(ミクロン)の関数として測定された翼弦長さ(粒子)の数のグラフである、翼弦長さ分布として表される。測定が実時間で行なわれるので、分布の統計が計算され、追跡し得る。FBRMは典型的には1秒当りの翼弦の千分の10を測定し、しっかりした数x翼弦長さ分布をもたらす。その方法はアスファルテン粒子の粒子サイズ分布の絶対的測定を与える。
集中ビーム反射プローブ(FBRM)、型式ラセンテクD600Lは、メトラー・トレド(英国、レスター)により供給された。その装置を1μm〜1mmの粒子サイズ解像度を与える配置で使用した。FBRMからのデータを幾つかの方法で表示し得る。研究は1秒当りの平均カウントがアスファルテン分散性の定量的測定として使用し得ることを示唆していた。この値は平均サイズ及び凝集物のレベルの両方の関数である。この出願において、サンプル当り1秒の測定時間を使用して平均カウントレート(全サイズ範囲にわたって)を監視した。
試験潤滑剤配合物を60℃に加熱し、400rpmで撹拌した。その温度が60℃に達した時、FBRMプローブをサンプルに挿入し、測定を15分間にわたって行なった。重油(10%w/w)のアリコートを4枚羽撹拌機(400rpm)を使用する撹拌下で潤滑剤配合物に導入した。カウントレートが平衡値に達した時(典型的には一夜)、1秒当りの平均カウントについての値を計った。
結果
パネルコーカー試験
パネルコーカー試験の結果を下記の表に要約し、この場合、数値は特にことわらない限り活性成分の質量%である。
表1
【0031】
【表2】

【0032】
夫々の潤滑剤は44.6mMの石鹸を含み、30のTBN を有していた。また、夫々の潤滑剤は0.5質量%のHFO を含んでいた。
結果は本発明の実施例(例1)がPIBSA を欠いている相当する例(例X)そしてまたPIBSA を欠いているグループIベースオイル中の例(例Y)よりも極めて低いデポジット、即ち、改良されたアスファルテン分散性を生じたことを示す。
表2
【0033】
【表3】

【0034】
夫々の潤滑剤は42mMの石鹸を含み、30のTBN を有していた。また、夫々の潤滑剤は0.5質量%のHFO を含んでいた。
結果は清浄剤がフェネート/スルホネート組み合わせである場合にPIBSA の存在(例P)がアスファルテン取扱性能を低下することを示す。これは、清浄剤がサリチレートである場合に、その性能が改良されるという表1の知見とは対照的である。
光散乱
FBRM試験の結果を以下の表3に要約する。
表3
【0035】
【表4】

【0036】
結果は、全ての場合に、(A) プラス(B) が(A) 単独よりも良好であることを示す。
再較正された装置中で表3のものとは別に行なわれた、FBRMの更なる結果を、以下の表4に要約する。
表4
【0037】
【表5】

【0038】
結果は、(B3)と組み合わせての (A)(A1、A2及びA3の夫々により代表される)が(A)単独よりも良好であり、また(B3)単独よりも良好であることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重油により燃料供給される場合のエンジンの運転の際に、その使用におけるアスファルテン取扱を改良するためのトランクピストン船舶用エンジン潤滑油組成物であって、その組成物が50質量%以上のグループII原料油を含む、過半量の、潤滑粘度の油、及び、夫々少量の、
(A) 2未満の塩基度インデックス及び80%以上の炭酸化の程度(その炭酸化の程度は清浄剤中の合計の過剰な塩基に対するモル%として表される過塩基化金属ヒドロカルビル置換ヒドロキシベンゾエート清浄剤中に存在する炭酸塩の%である)を有するこのような清浄剤以外の過塩基化金属ヒドロカルビル置換ヒドロキシベンゾエート清浄剤、及び
(B) ヒドロカルビル置換カルボン酸、その酸無水物、エステル又はアミド(そのヒドロカルビル基又は少なくとも一つのヒドロカルビル基は少なくとも8個の炭素原子を含み、その酸、酸無水物、エステル又はアミドが潤滑油組成物の少なくとも1質量%、例えば、少なくとも1.5質量%を構成する)
を含み、又はこれらを混合することによりつくられることを特徴とする前記組成物。
【請求項2】
(A) が
(A1)2以上の塩基度インデックス及び80%以上の炭酸化の程度、もしくは
(A2)2以上の塩基度インデックス及び80%未満の炭酸化の程度、又は
(A3)2未満の塩基度インデックス及び80%未満の炭酸化の程度
を有する、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
(B) が
【化1】

(I)
(式中、R1 はC8 - C100 分岐又は線状ヒドロカルビル、例えば、ポリアルケニル基、アルキル基又はアルカリール基を表し、
X及びYは夫々独立にOR2 及びOR3 を表し、この場合、夫々のR2 及びR3 は独立に水素原子又はアルキル基、アリール基もしくはアラルキル基を表し、或いはX及びYは一緒に-O- を表す)
として示され、かつ/又は
R1CH2COR4 (II)
(式中、R1は先に定義されたとおりであり、
R4 はOR5 又はNR6R7 を表し、この場合、夫々のR5 、R6 及びR7 は独立に水素原子又はアルキル基を表す)
として示される、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
(A) 中の金属がカルシウムである、請求項1から3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
(A) 中のヒドロカルビル置換ヒドロキシベンゾエートがサリチレートである、請求項1から4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
潤滑粘度の油が60質量%より多いグループII原料油を含む、請求項1から5のいずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
(B) 中のヒドロカルビル基が8個から400個まで、例えば、12〜100個、特に16〜64個の炭素原子を有する、請求項1から6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
酸又は誘導体(B) 中で、そのヒドロカルビル置換基がポリオレフィンから誘導される、請求項1から7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
(B) がコハク酸又は無水コハク酸である、請求項1から8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
(B) がポリイソブテンコハク酸又はその酸無水物である、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
20〜60のTBN、例えば、25〜55のTBN を有する、請求項1から10のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
同じ量の清浄剤(A) が(B) の不在下で使用される場合の同様の運転と較べて、重油により燃料供給される、エンジンの運転中のアスファルテン取扱、及び組成物によるその潤滑を改良するための、中速圧縮点火船舶用エンジンのためのトランクピストン船舶用潤滑油組成物中の請求項1で特定され、かつ記載された量のカルボン酸、酸無水物、エステル又はアミド(B) と組み合わせての請求項1記載の清浄剤(A) の使用であって、その組成物が過半量の潤滑粘度の油を含み、かつ50質量%以上のグループII原料油を含むことを特徴とする前記使用。
【請求項13】
(i) エンジンに重油を燃料供給し、そして
(ii)エンジンのクランクケースを請求項1から11のいずれかに記載の組成物で潤滑することを特徴とするトランクピストン中速圧縮点火船舶用エンジンの運転方法。
【請求項14】
中速圧縮点火船舶用エンジンの燃焼チャンバーの表面のその潤滑及びエンジンの運転中にアスファルテンをトランクピストン船舶用潤滑油組成物中に分散させる方法であって、その方法が
(i) 請求項1から11のいずれかに記載の組成物を用意し、
(ii) その組成物を燃焼チャンバー中に用意し、
(iii) 重油を燃焼チャンバー中に用意し、そして
(iv) その重油を燃焼チャンバー中で燃焼することを特徴とする前記方法。

【公表番号】特表2012−522879(P2012−522879A)
【公表日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−503915(P2012−503915)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【国際出願番号】PCT/EP2010/002132
【国際公開番号】WO2010/115595
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(500010875)インフィニューム インターナショナル リミテッド (132)
【Fターム(参考)】