説明

船舶用ハイブリッド推進装置

【課題】1つの推進レバーの操作で主機に駆動される可変ピッチプロペラと電動機で駆動される固定ピッチプロペラとの推進力の最適な分担が行え、かつ、船舶の運行時の燃費を向上することができる船舶用ハイブリッド推進装置を提供する。
【解決手段】主機1で可変ピッチプロペラ2を回転させる推進装置と、補機原動機12で駆動される発電機11で発電して電動機14で固定ピッチプロペラを駆動させる電気推進装置とを備えた船舶用ハイブリッド推進装置において、1つの操作レバー5で主機1の回転速度基準および可変ピッチプロペラ2の角度を設定し、主機1の回転軸で検出された馬力から電動機14の入力電力基準を決定し、この電動機14の入力電力基準値と実際の入力電力が一致するように電力制御を行って電動機14の回転速度を決定し、この決定された回転速度で固定ピッチプロペラ15を駆動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジン等の主機(原動機)で推進用プロペラを回転させる推進装置と、補機原動機で駆動される発電機で発電して電動機で推進用プロペラを駆動させる電気推進装置とを備えた船舶用ハイブリッド推進装置に関する。
【背景技術】
【0002】
推進用プロペラの推進効率を向上させるために、船体の船尾下部に二重反転型プロペラを設置した船舶がある(例えば、特許文献1参照)。
二重反転型プロペラは、推進方向側に配置された前プロペラと、推進方向と反対側に配置された後プロペラから成り、前プロペラと後プロペラを同一軸線上に配置し、後プロペラを前プロペラの回転方向と逆方向に回転させることで、前プロペラで生じる回転流のエネルギーを後プロペラで回収することができ、高い効率が得られる。
【0003】
以下、図8の制御回路図を参照して二重反転型プロペラを駆動する従来の船舶用ハイブリッド推進装置について説明する。
先ず、主機で推進用プロペラを回転させる推進装置の構成から説明する。
【0004】
1は主機原動機(以下、主機という)であり、2は主機1の主機軸8により直接駆動される可変ピッチプロペラである。3は後述する翼角設定器4から出力される翼角信号により前記可変ピッチプロペラ2の翼角を調整する変節装置である。
【0005】
5は操船者によって操作(操縦)され、その操作されたときの位置信号を出力し、前記可変ピッチプロペラ2の推進力の方向および大きさの指令を主機1の制御系に対して出力する推進指令手段である。この推進指令手段としては、推進レバー(操縦桿)が一般的であるが、レバーに替えて操作パネル等の押しボタンであってもよい。以下、推進指令手段として推進レバーを説明する。
【0006】
この推進レバー5は操作位置に対応した位置信号を回転速度設定器6および前記翼角設定器4に出力するように構成されている。回転速度設定器6は、入力した推進レバー5の位置信号に対応して主機1の回転速度基準を設定する。なお、この主機1に対する回転速度基準を後述する電動機側の回転速度基準と区別するために、第1の回転速度基準と呼ぶ。
【0007】
7は回転速度設定器6の設定値と主機軸8に近接して設けた回転速度検出器9で検出された主機1の回転速度とを入力して偏差が零となるように制御演算を行い、その演算結果を燃料調節信号として出力する回転速度制御器である。10はこの回転速度制御器7から出力された燃料調節信号に応じて主機1への燃料供給量を制御して主機1の回転速度を制御する主機燃料制御装置である。
【0008】
一方、前記翼角設定器4は、入力した推進レバー5の位置信号に対応する翼角信号を前記変節装置3に出力する。したがって、可変ピッチプロペラ2は、推進レバー5の位置信号に応じて、主機1を介して回転速度が制御され、かつ、翼角設定器4を介して可変ピッチの翼角が制御されることによって推進力が制御されるようになっている。
【0009】
次に、電動機により固定ピッチプロペラを駆動する電気推進装置の構成について説明する。
11は補機原動機12によって駆動される発電機であり、その出力はインバータ13に供給される。14は固定ピッチプロペラ15を駆動する電動機であり、前記インバータ13によって可変速駆動されるようになっている。なお、前記固定ピッチプロペラ15は前記可変ピッチプロペラ2と対向して同一軸線上に配置されるとともに、二重反転型プロペラとしての効果を得るために、その回転方向を可変ピッチプロペラ2の回転方向とは逆に設定してある。
【0010】
16は電気推進装置の推進指令手段としての推進レバーであり、前記推進レバー5と同様に構成され、推進レバー16の位置に対応した位置信号を回転速度設定器17に出力する。この回転速度設定器17は、入力した推進レバー16の位置信号に対応して電動機14の回転速度基準Nを設定し、出力するように構成されている。なお、この電動機14の回転速度基準Nを便宜上第2の回転速度基準と呼ぶ。
【0011】
18は回転速度制御器であり、回転速度設定器17から出力された第2の回転速度基準Nと電動機軸19に近接して設けた回転速度検出器20で検出された電動機14の回転速度Nとを入力し、回転速度基準N*と回転速度Nとが一致するように両信号の差を増幅して前記インバータ13を制御するように構成されている。
【0012】
以下、図8で示した従来の船舶用ハイブリッド推進装置の作用について説明する。
操船者は推進レバー5を操作することによって、そのレバーの位置に対応した位置信号すなわち、前進側のとき「正」、中立状態のとき「0」、後進側のとき「負」となる位置信号を出力している。翼角設定器4は推進レバー16の位置信号に対応した翼角信号を出力し変節装置3により可変ピッチプロペラ2の翼角は調整されている。
【0013】
このとき、回転速度設定器6から推進レバー5の位置信号に対応する回転速度設定値が回転速度制御器7に出力されるので、回転速度制御器7では推進レバー5の位置信号に対応する主機1の回転速度基準(第1の回転速度基準)と、回転速度検出器9により実測された主機1の回転速度との差が零になるように制御演算が行われて主機燃料制御装置10に出力される。この主機燃料制御装置10は、主機1ヘの燃料供給を制御することによって、主機1の回転速度を回転速度設定器6の回転速度設定値と等しくなるように制御されている。なお、上述した可変ピッチプロペラの制御に関する技術については、下記特許文献2に開示されている。
【0014】
一方、電気推進装置側では、発電機11は補機原動機12により駆動され発電電力をインバータ13に供給しているが、推進レバー16は推進レバー5よりも遅れて操作されるので、推進レバー5が操作された時点では推進レバー16はまだ操作されずに、中立状態「0」である。したがって、電動機14はまだインバータ13により可変速駆動されておらず、固定ピッチプロペラ15はまだ回転駆動していない。
【0015】
そして、主機1の馬力がある程度大きくなった時点で操船者が推進レバー16を操作すると、回転速度設定器17は推進レバー16の位置信号に対応した電動機14の回転速度基準N(第2の回転速度基準)を出力する。
【0016】
回転速度設定器17の特性は図9で示すようになっている。すなわち、入力した推進レバー16の位置信号と出力される回転速度基準Nとの関係は、前進側の最大値Dから中立状態の0点を通って後進側の最大値−D迄の間を直線的にNから−Nまで変化するように設定されている。
【0017】
回転速度制御器18は回転速度設定器17から出力された第2の回転速度基準Nと、回転速度検出器20から出力された回転速度Nとが一致するように両信号の差を増幅しインバータ13を制御するので、電動機14はこの回転速度基準Nと一致する回転数で固定ピッチプロペラ15を駆動する。
【0018】
図10は、従来例の船舶用ハイブリッド推進装置を運転する際のタイムチャートである。
時刻t1において、操船者が推進レバー5を中立状態から前進側に操作することにより、推進レバー5の位置信号は「正」となり、主機1の馬力は図10の特性Aで示すように増加する。これにより、馬力に比例して可変ピッチプロペラ2が推進力を発生する。
【0019】
次に、時刻t1より遅れた時刻t2で操船者が電気推進装置側の推進レバー16を中立状態から前進側に操作すると、同図の特性Bで示すように時刻t2から電動機14の回転速度が上昇し、電動機14の入力電力も増加する。電動機14で駆動される固定ピッチプロペラ15は、電動機14の入力電力に比例して推進力を発生する。可変ピッチプロペラ2と固定ピッチプロペラ15が発生する推進力によって同図の特性Cに示すように船体を加速させる。
【0020】
そして、操船者が推進レバー5および16の位置を適切に制御することによって可変ピッチプロペラ2が発生する推進力と、固定ピッチプロペラ15が発生する推進力とを適切な比率にし、可変ピッチプロペラ2によって発生した回転流のエネルギーを固定ピッチプロペラ15で推進力に変換して二重反転型プロペラとして高い推進効率を得ることができる。ある程度船速が上昇した段階で、更に加速する場合は、例えば時刻t3において操船者が推進レバー5と推進レバー16を更に前進側に操作して、位置信号を徐々に増加させ、船舶を加速させる。
【特許文献1】特開2004-182096号公報
【特許文献2】特開2004-359059号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
前述した図8に示す従来の船舶用ハイブリッド推進装置において、可変ピッチプロペラ2と固定ピッチプロペラ15との推進力の分担比率には、二重反転型プロペラの最も推進効率の高い比率が存在するはずであるが、従来の船舶用ハイブリッド推進装置には、可変ピッチプロペラ2と固定ピッチプロペラ15の推進力の分担比率を自動的に適切に制御する装置が存在しなかったため、操船者が主機推進機側の推進レバー5および電気推進機側の推進レバー16の操作を適切に行って推進力の分担比率の調整を行う必要があった。推進力の分担が適切な比率に調整されない場合は、高効率な運転を行うことができず、船舶運行時の燃費も悪化する問題があった。
【0022】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたもので、1つの推進レバーの操作によって可変ピッチプロペラの推進力と固定ピッチプロペラとの推進力との最適な分担を行い、船舶運行時の燃費を向上することのできる船舶用ハイブリッド推進装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る船舶用ハイブリッド推進装置は、推進指令手段から出力される位置信号に基づいた第1の回転速度基準に従って回転速度が制御される主機と、前記主機により回転駆動される可変ピッチプロペラと、前記可変ピッチプロペラの翼角を制御する第1の変節装置と、前記推進指令手段から出力される位置信号に基づいて前記第1の変節装置に翼角信号を与える翼角設定器と、前記可変ピッチプロペラと同一直線上に接近させて配置され、当該可変ピッチプロペラとともに二重反転型プロペラを構成する固定ピッチプロペラと、前記固定ピッチプロペラを駆動する電動機と、前記電動機の回転速度を検出する回転速度検出器と、前記電動機を可変速駆動するインバータと、前記インバータに電力を供給する電源と、前記主機が出力する馬力を検出する馬力検出器と、前記馬力検出器から出力された馬力検出信号の増減に追従して増減するように設定された関数によって電動機入力電力基準を出力する関数回路と、前記電動機の入力電力を検出する電力検出器と、前記関数回路より出力された電動機入力電力基準と前記電動機の入力電力との偏差を零にするように制御演算を行いその結果を第2の回転速度基準として出力する電力制御器と、前記電力制御器から出力された第2の回転速度基準と前記回転速度検出器から出力された回転速度信号とが一致するように両信号の偏差を制御信号として前記インバータに与える回転速度制御器と、を備えたことを特徴とする。
【0024】
また、請求項3に係る船舶用ハイブリッド推進装置の発明は、推進指令手段から出力される位置信号に基づいた第1の回転速度基準に従って回転速度が制御される主機と、前記主機により回転駆動される第1の可変ピッチプロペラと、前記第1の可変ピッチプロペラ2の翼角を制御する第1の変節装置と、前記推進指令手段から出力される位置信号に基づいて前記第1の変節装置に翼角信号を与える翼角設定器と、前記第1の可変ピッチプロペラと同一直線上に接近させて配置され、当該第1の可変ピッチプロペラとともに二重反転型プロペラを構成する第2の可変ピッチプロペラと、前記第2の可変ピッチプロペラを駆動する電動機と、前記第2の可変ピッチプロペラの翼角を制御する第2の変節装置と、
前記電動機に電力を供給する交流電源と、前記主機が出力する馬力を検出する馬力検出器と、前記馬力検出器から出力される馬力検出信号の増減に追従して増減するように設定された関数によって電動機入力電力基準を出力する関数回路と、前記電動機の入力電力を検出する電力検出器と、前記関数回路より出力された電動機入力電力基準と前記電力検出器から出力された電動機の入力電力との偏差を零にするように制御演算を行いその結果を前記第2の変節装置に第1の翼角基準として出力する電力制御器と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
第1の発明に係る船舶用ハイブリッド推進装置によれば、主機で発生した馬力に応じて電動機の入力電力基準を決定し、この電動機の入力電力基準値と実際の入力電力が一致するように電動機の回転速度を決定するようにしたので、操船者は船舶の推進力を調節するために、1つの推進レバーのみを操作すればよく、主機による推進力と電動機による推進力のバランスがとれて二重反転型プロペラを効率的に運転することができ、船舶の運行にかかる燃費を向上させることができる。
【0026】
また、第2の発明に係る船舶用ハイブリッド推進装置によれば、主機で発生した馬力に応じて電動機駆動の可変ピッチプロペラの翼角基準を決定し、電動機の入力電力基準値と実際の入力電力とが一致するように可変ピッチプロペラの翼角を決定するようにしたので、操船者は船舶の推進力を調節するために、1つの推進レバーのみを操作すればよく、主機による推進力と電動機による推進力のバランスがとれて二重反転型プロペラを効率的に運転することができ、船舶の運行にかかる燃費を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、各図を通じて同一部品には同一符号を付けることにより、重複する説明は割愛する。
【0028】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態による二重反転型プロペラを駆動する船舶用ハイブリッド推進装置の構成例を示す図、図2は、本実施形態による船舶用ハイブリッド推進装置の関数回路の特性図、図3は本実施形態による船舶用ハイブリッド推進装置の運転動作を示す特性図である。
【0029】
まず、図1を参照して第1の実施形態の船舶用ハイブリッド推進装置の構成について説明する。
第1の実施形態が、図8の従来例と異なる部分は、従来2個使用していた推進指令手段である推進レバーを1個に集約して、主機1が発生する馬力に基づいて電動機14の入力電力基準Pを求め、この電動機入力電力基準Pと実際に電動機14に入力される電力Pとから電動機14の速度を制御して固定ピッチプロペラ15を駆動するようにし、唯一の推進レバーによる簡単な操作で主機1によって駆動される可変ピッチプロペラ2の推進力と、電動機によって駆動される固定ピッチプロペラ15の推進力とに最適な分担比率をもたせるようにしたことにある。
【0030】
このため、本実施形態では、従来電気推進装置側に設けられていた推進レバー16および回転速度設定器17を撤去し、その代わりに以下述べる要素を新たに備えるようにした。
まず、主機1が発生する馬力を検出するために、主機1と可変ピッチプロペラ2の間の主機軸8に馬力計21を設け、さらに、この馬力計21から入力した馬力信号の大きさに応じて予め電動機入力電力基準Pを設定した関数回路22を設けるようにした。
【0031】
この関数回路22は、二重反転型プロペラを効率的に運転するために、主機1の馬力から電動機14に入力すべき電力値を決定する関数を図2のような一次関数として予め設定しており、入力した主機1の馬力信号に比例した電動機入力電力基準Pを出力する。
【0032】
なお、図2は主機1の馬力信号と電動機14の入力電力とが比例関係にある場合を例に示したが、二重反転型プロペラを効率的に運転するための主機馬力と電動機入力電力との比率は二重反転型プロペラの総合出力によって異なることも考えられるので、最も効率的な比率を関数回路22に設定すればよい。
【0033】
また、実際に電動機14に入力される電力Pを検出するために、電動機14の入力電圧および入力電流をそれぞれ検出する変圧器23および変流器24を設け、これら変圧器23および変流器24の出力電気量に基づいて電動機の入力電力Pを演算する電力検出器25を設けるようにした。
【0034】
さらに、前記関数回路22から出力された電動機入力電力基準Pおよび前記電力検出器25から出力された電動機の入力電力Pを入力し、電動機入力電力基準Pから電動機の入力電力Pを減算して偏差を求める減算器26と、この減算器26から出力される偏差(P−P)を零にするために、例えばPI演算を行ってその演算結果を電動機14の回転速度基準Nとして出力する電力制御器27とを設け、さらに、この回転速度基準Nが電動機14の定格回転速度以内になるように制限するリミッタ28を設けるようにした。なお、電力制御器27から出力される回転速度基準Nを前述した回転速度設定器17から出力される第2の回転速度基準と区別するために、便宜上第3の回転速度基準Nと呼ぶ。
【0035】
このリミッタ28から出力された第3の回転速度基準Nは、従来例と同様に、回転速度制御器18に入力される。回転速度制御器18は、リミッタ28で制限された第3の回転速度基準Nと実測した回転速度Nとの差をインバータ13に入力する。
【0036】
以下、第1の実施形態の動作を説明する。
本実施形態による船舶用ハイブリッド推進装置を運転する際のタイムチャートの例を図3に示す。
時刻t1において、操船者が推進レバー5を前進側に操作した場合、推進レバー5の位置信号は「正」となって、主機1の馬力は図3の特性Aのように増加する。これにより、主機1の馬力に比例して主機1により駆動される可変ピッチプロペラ2が推進力を発生する。
【0037】
一方、主機1の馬力が増加すると、その馬力信号を入力している関数回路22から出力される電動機入力電力基準Pも増加する(図3の特性B参照)。
電動機入力電力基準Pが増加すると、第3の回転速度基準Nが増加するので、インバータ13はこの制限された第3の回転速度基準Nと実測した回転速度Nとの差に基づいて電動機14を駆動する。この結果、固定ピッチプロペラ15を駆動する電動機14の回転速度Nも上昇する(図3の特性C参照)。
【0038】
電動機14の回転速度Nが上昇すると、電動機入力電力Pも増加し、電動機の出力基準Pに近づくこととなる。この結果、可変ピッチプロペラ2と固定ピッチプロペラ15の推進力が図3の特性Dで示すように船体を加速させる。ある程度船速が上昇した段階で、更に加速する場合は、操船者は例えば時刻t3で推進レバー5を更に前進側に操作して、位置信号を徐々に増加させ、船舶を加速させる。
【0039】
このように操船者が推進レバー5を操作した結果、主機1の馬力が変化し、二重反転型プロペラを効率的に運転できるように関数回路22で予め定めた関数に従って、電動機14の入力電力が制御される。
【0040】
以上述べたように、本発明の第1の実施形態によれば、主機1の馬力の大きさに応じて予め設定した関数回路22によって電動機14の入力電力基準Pを出力し、電動機14の入力電力基準値Pと実際の入力電力Pとを一致させるように制御を行って電動機14の回転速度基準Nを決定するようにしたので、操船者は船舶の推進力を調節するためには唯一の推進レバー5を操作すればよく、主機1による推進力と電動機14による推進力との比率は、二重反転型プロペラにとって効率的な運転を行うことができる比率となる。
【0041】
(第2の実施形態)
以下、図4を参照して本発明の第2の実施形態について説明する。
図4は、第2の実施形態による船舶用ハイブリッド推進装置の構成例を示す図である。
以下、図4を参照して第2の実施形態による二重反転型プロペラを駆動する船舶用ハイブリッド推進装置について説明する。
【0042】
第2の実施形態が第1の実施形態と構成上異なる部分は、図8で採用した回転速度設定器17を設けるとともに、この回転速度設定器17から出力された第2の回転速度基準あるいは前記電力制御器27から出力された第3の回転速度基準のいずれか一方を選択し当該選択された方の回転速度基準を前記回転速度制御器18に伝達する切替スイッチ29と、推進レバー5の位置信号に応じてこの切替スイッチ29に切替指令を与える切替回路30とを設けたことにある。なお、切替スイッチ29および切替回路30を合せて切替手段と呼ぶ。
【0043】
以下、第2の実施形態の動作を説明する。
回転速度設定器17は推進レバー5の位置信号を入力し、電動機14の回転速度基準N(第2の回転速度基準)を出力する。切替回路30は、推進レバー5の位置信号が前進側の「正」または中立状態の「0」の場合には、切替スイッチ29に対してリミッタ28と回転速度制御器18とを接続するように指令を出してリミッタ28と回転速度制御器18とを接続させ、リミッタ28から出力される第3の回転速度基準Nを回転速度制御器18へ伝達させる。
【0044】
一方、推進レバー5の位置信号が後進側の「負」である場合には、切替回路30は切替スイッチ29に対して回転速度設定器17と回転速度制御器18とを接続するように指令を出して回転速度設定器17と回転速度制御器18とを接続させ、回転速度設定器17から出力される第2の回転速度基準Nを回転速度制御器18へ伝達させる。
【0045】
切替スイッチ29がリミッタ28と回転速度制御器18とを接続している場合は、回転速度制御器7、主機燃料制御装置10、主機1、馬力計21、電力制御器27等からなる制御系に遅れ要素があるため、操船者の推進レバー5の操作に対して電動機14ヘの回転速度基準Nの応答は遅くなっている。
したがって、この状態で船舶が障害物を回避する際に後進操作を行った場合には、船舶速度の応答性が悪化する問題がある。
【0046】
しかしながら、第2の実施形態では、推進レバー5の位置信号が後進側の「負」である場合、切替回路30および切替スイッチ29からなる切替手段の働きにより回転速度設定器17と回転速度制御器18とを接続させて前述した遅れ要素をバイパスして第2の回転速度基準Nを回転速度制御器18へ伝達させるようにしたので、推進レバー5の操作に対する電動機14が発生する推進力の応答性が向上し、船舶の速度の応答性を向上させることができる。
【0047】
以上述べたように、第2の実施形態によれば、船舶の前進航行時は第1の実施形態と同様に、主機による推進力と電動機による推進力の比率は効率的な運転を行うことができる比率となるとともに、非常時の後進操作時においては迅速に後進に移行することができる。また、主機1を停止した状態で、電動機14による推進力のみで低速航行する場合、切替回路30を動作させずに切替スイッチ29を回転速度設定器17と回転速度制御器18とを接続する構成とすることにより、操船者が推進レバー5のみで電動機14の回転速度を調節することができる。
【0048】
(第3の実施形態)
以下、図5を参照して本発明の第3の実施形態について説明する。
図5は、第3の実施形態による船舶用ハイブリッド推進装置の構成例を示す図である。
以下、図5を参照して第3の実施形態による二重反転型プロペラを駆動する船舶用ハイブリッド推進装置について説明する。
【0049】
第3の実施形態が第1の実施形態と構成上異なる部分は、第1の実施形態では電動機14の回転速度を調節することによって固定ピッチプロペラ15の推進力を調節する構成であることに対し、本実施形態では電動機14の回転速度を制御せずにほぼ一定値にし、固定ピッチプロペラ15に替えて設けた第2の可変ピッチプロペラ31の翼角を調節することによって推進力を調節するように構成したことにある。
【0050】
このため、第3の実施形態では、電動機14で駆動される固定ピッチプロペラ15を第2の可変ピッチプロペラ31に置き換えるほか、インバータ13、回転速度検出器20、電力制御器27、リミッタ28、回転速度制御器18を撤去し、代わりに電動機14の電動機軸19に第2の変節装置32を設け、さらに減算器26の後段に電力制御器27、リミッタ28に替わる別の電力制御器33およびリミッタ34を設け、発電機11で直接電動機14に電力を供給するようにした。
【0051】
以下、第3の実施形態の動作を説明する。
発電機11は補機原動機12によってほぼ一定回転速度で駆動されているため、出力周波数はほぼ一定である。電動機14はインバータを介さずに発電機11から直接電圧を印加されるので、その回転速度はほぼ一定である。このときの電動機14の入力電力Pは、電力検出器25が変圧器23および変流器24から入力した電圧および電流に基づいて演算する。
第2の可変ピッチプロペラ31は電動機軸19を介して電動機14によって回転駆動される。
【0052】
本実施形態で設けた電力制御器33は、例えばPI制御器で構成され、関数回路22の電力基準Pから電力検出器25の電動機入力電力Pを減算して得た偏差(P−P)を零にするための制御演算を行い、その演算結果を翼角信号としてリミッタ34へ出力する。なお、電力制御器33から出力された翼角信号を後述する翼角設定器35から出力される翼角信号と区別するために、第1の翼角信号と呼ぶ。
【0053】
リミッタ34は電力制御器33から出力された翼角信号を第2の変節装置32の制御可能な範囲に制限して変節装置32に出力する。第2の変節装置32はこの翼角信号を受けて第2の可変ピッチプロペラ31の翼角を調整する。
【0054】
以上述べたように、第3の実施形態によれば、主機1の馬力から電動機14の入力電力基準を決定し、電動機14の入力電力基準値Pと実際の入力電力Pが一致するように電力制御を行って第2の可変ピッチプロペラ31の翼角を決定するようにしたので、操船者は推進力を調節するためには推進レバー5のみを操作すればよく、主機1による推進力と電動機14による推進力の比率は効率的な運転を行うことができる比率となる。
【0055】
(第4の実施形態)
以下、図6および図7を参照して本発明の第4の実施形態について説明する。
図6は、本実施形態による船舶用ハイブリッド推進装置の構成例を示す図である。
以下、図6を参照して第4の実施形態による二重反転型プロペラを駆動する船舶用ハイブリッド推進装置について説明する。
【0056】
第4の実施形態が第3の実施形態と構成上異なる部分は、推進レバー5の位置信号に応じて翼角基準を出力する翼角設定器35と、第2の実施形態(図4)で採用した切替スイッチ29および切替回路30から成る切替手段とを設けるようにしたことにある。なお、翼角設定器35から出力された翼角基準を第1の翼角基準と区別するために第2の翼角基準と呼ぶ。
【0057】
以下、第4の実施形態の動作を説明する。
操船者が推進レバー5を操作すると、翼角設定器35は推進レバー5の位置信号を入力し、第2の可変ピッチプロペラ31の翼角基準を出力する。
【0058】
翼角設定器35の特性は図7で示すように、入力した推進レバー5の位置信号と翼角基準の関係は、前進側の最大値Dから中立状態の0点を通って後進側の最大値−D迄の間直線的にWから−Wまで変化するように定められている。
【0059】
切替回路30は、第2の実施形態と同様に、推進レバー5の位置信号が前進側の「正」または中立状態の「0」の場合には、切替スイッチ29をリミッタ34に接続させることによって、リミッタ34と第2の変節装置32とを接続させ、リミッタ34から出力される第1の翼角基準を第2の変節装置32へ伝達させる。
【0060】
一方、推進レバー5の位置信号が後進側の「負」である場合には、切替回路30は切替スイッチ29を翼角設定器35に接続させることによって、翼角設定器35と第2の変節装置32を接続させ、翼角設定器35から出力される第2の翼角基準を変節装置32へ伝達させる。
【0061】
切替スイッチ29がリミッタ34と変節装置32を接続している場合は、操船者による推進レバー5の操作に対して回転速度制御器7、主機燃料制御装置10、主機1、馬力計21、電力制御器33等の遅れ要素があるため、操船者の推進レバー5の操作に対して、第2の可変ピッチプロペラ31の翼角の応答が遅くなっている。
したがって、この状態で船舶が障害物を回避する場合などの後進操作を行った場合には、船舶の速度の応答性が悪化する問題がある。
【0062】
しかしながら、第4の実施形態では、推進レバー5の位置信号が後進側の「負」である場合、切替回路30および切替スイッチ29からなる切替手段の働きにより翼角設定器35と第2の変節装置32とを接続させて前述した遅れ要素をバイパスして、第2の翼角基準を第2の変節装置32へ伝達させるようにしたので、推進レバー5の操作に対する電動機14が発生する推進力の応答性が向上し、船舶の速度の応答性を向上させることができる。
【0063】
以上述べたように、第4の実施形態によれば、船舶の前進航行時は第3の実施形態と同様に、主機1による推進力と電動機14による推進力の比率は効率的な運転を行うことができる比率となるとともに、非常時の後進操作時においては迅速に後進に移行することができる。
【0064】
また、主機1を停止した状態で、電動機14による推進力のみで低速航行する場合、切替回路30を動作させずに切替スイッチ29を翼角設定器35と第2の変節装置32を接続する構成とすることにより、操船者が推進レバー5のみで第2の可変ピッチプロペラ31の翼角を調節することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の第1の実施形態による船舶用ハイブリッド推進装置を示す構成図。
【図2】本発明の第1の実施形態による船舶用ハイブリッド推進装置の関数回路の特性図。
【図3】本発明の第1の実施形態による船舶用ハイブリッド推進装置の運転動作を示す特性図。
【図4】本発明の第2の実施形態による船舶用ハイブリッド推進装置を示す構成図。
【図5】本発明の第3の実施形態による船舶用ハイブリッド推進装置を示す構成図。
【図6】本発明の第4の実施形態による船舶用ハイブリッド推進装置を示す構成図。
【図7】本発明の第4の実施形態による船舶用ハイブリッド推進装置の翼角設定器の特性図。
【図8】従来の船舶用ハイブリッド推進装置を示す構成図。
【図9】従来の船舶用ハイブリッド推進装置の回転速度設定器の特性図。
【図10】従来の船舶用ハイブリッド推進装置の推進時の動作を示す特性図。
【符号の説明】
【0066】
1…主機、2…可変ピッチプロペラ、3…第1の変節装置、4…翼角設定器、5…推進指令手段(推進レバー)、6…回転速度設定器、7…回転速度制御器、8…主機軸、9…回転速度検出器、10…主機燃料制御装置、11…発電機、12…補機原動機、13…インバータ、14…電動機、15…固定ピッチプロペラ、17…回転速度設定器、18…回転速度制御器、19…電動機軸、20…回転速度検出器、21…馬力計、22…関数回路、23…変圧器、24…変流器、25…電力検出器、26…減算器、27…電力制御器、28…リミッタ、29…切替スイッチ、30…切替回路、31…第2の可変ピッチプロペラ、32…第2の変節装置、33…電力制御器、34…リミッ夕、35…翼角設定器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
推進指令手段から出力される位置信号に基づいた第1の回転速度基準に従って回転速度が制御される主機と、
前記主機により回転駆動される可変ピッチプロペラと、
前記可変ピッチプロペラの翼角を制御する第1の変節装置と、
前記推進指令手段から出力される位置信号に基づいて前記第1の変節装置に翼角信号を与える翼角設定器と、
前記可変ピッチプロペラと同一直線上に接近させて配置され、当該可変ピッチプロペラとともに二重反転型プロペラを構成する固定ピッチプロペラと、
前記固定ピッチプロペラを駆動する電動機と、
前記電動機の回転速度を検出する回転速度検出器と、
前記電動機を可変速駆動するインバータと、
前記インバータに電力を供給する電源と、
前記主機が出力する馬力を検出する馬力検出器と、
前記馬力検出器から出力された馬力検出信号の増減に追従して増減するように設定された関数によって電動機入力電力基準を出力する関数回路と、
前記電動機の入力電力を検出する電力検出器と、
前記関数回路より出力された電動機入力電力基準と前記電動機の入力電力との偏差を零にするように制御演算を行いその結果を第2の回転速度基準として出力する電力制御器と、
前記電力制御器から出力された第2の回転速度基準と前記回転速度検出器から出力された回転速度信号とが一致するように両信号の偏差を制御信号として前記インバータに与える回転速度制御器と、
を備えたことを特徴とする船舶用ハイブリッド推進装置。
【請求項2】
請求項1の船舶用ハイブリッド推進装置において、
前記推進指令手段から出力される位置信号に基づいて前記電動機の第3の回転速度基準を出力する回転速度設定器と、
前記推進指令手段から出力される位置信号に基づいて前記電力制御器あるいは前記回転速度設定器のいずれか一方を選択し当該選択された方の回転速度基準を前記インバータに伝達する切替手段とを備え、
前記推進指令手段から出力される位置信号が船舶を前進させる信号である場合は、前記電力制御器を前記インバータの回転速度制御器に接続して前記第2の回転速度基準を前記インバータに伝達し、前記推進指令手段から出力される位置信号が船舶を後進させる位置信号である場合は、前記回転速度設定器を前記インバータの回転速度制御器に接続して前記第3の回転速度基準を前記インバータに伝達することを特徴とする船舶用ハイブリッド推進装置。
【請求項3】
推進指令手段から出力される位置信号に基づいた第1の回転速度基準に従って回転速度が制御される主機と、
前記主機により回転駆動される第1の可変ピッチプロペラと、
前記第1の可変ピッチプロペラ2の翼角を制御する第1の変節装置と、
前記推進指令手段から出力される位置信号に基づいて前記第1の変節装置に翼角信号を与える翼角設定器と、
前記第1の可変ピッチプロペラと同一直線上に接近させて配置され、当該第1の可変ピッチプロペラとともに二重反転型プロペラを構成する第2の可変ピッチプロペラと、
前記第2の可変ピッチプロペラを駆動する電動機と、
前記第2の可変ピッチプロペラの翼角を制御する第2の変節装置と、
前記電動機に電力を供給する交流電源と、
前記主機が出力する馬力を検出する馬力検出器と、
前記馬力検出器から出力される馬力検出信号の増減に追従して増減するように設定された関数によって電動機入力電力基準を出力する関数回路と、
前記電動機の入力電力を検出する電力検出器と、
前記関数回路より出力された電動機入力電力基準と前記電力検出器から出力された電動機の入力電力との偏差を零にするように制御演算を行いその結果を前記第2の変節装置に第1の翼角基準として出力する電力制御器と、
を備えたことを特徴とする船舶用ハイブリッド推進装置。
【請求項4】
請求項3の船舶用ハイブリッド推進装置において、
前記推進指令手段から出力される位置信号に基づいて前記第2の可変ピッチプロペラの第2の翼角基準を出力する翼角設定器と、
前記推進指令手段から出力される位置信号に基づいて前記電力制御器あるいは前記翼角設定器のいずれか一方を選択し当該選択された方の翼角基準を前記第2の変節装置に伝達する切替手段とを備え、
前記推進指令手段から出力される位置信号が船舶を前進させる信号である場合は、前記電力制御器を前記第2の変節装置に接続して前記第1の翼角基準を前記第2の変節装置に伝達し、前記推進指令手段から出力される位置信号が船舶を後進させる場合は、前記翼角設定器を前記第2の変節装置に接続して前記第2の翼角基準を前記第2の変節装置に伝達することを特徴とする船舶用ハイブリッド推進装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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