説明

色変換プロファイルの作成方法、および、画像処理装置

【課題】 色変換を行う際に、黒色で表現すべきオブジェクトを適切に再現する技術を提供する。
【解決手段】第1の色空間における第1種表色値の複数の代表値に、第2の色空間における第2種表色値をそれぞれ対応付けた基準プロファイルを補正して補正プロファイルを作成する方法は、(a)第1種表色値で表現された画像データであって、黒色で表現すべきオブジェクトを含む画像データを取得する工程と、(b)オブジェクトを構成する複数の構成画素の複数の第1種表色値について、第1の色空間における分布状態を取得する工程と、(c)分布状態を用いて、複数の代表値の中から、補正対象代表値を決定する工程と、(d)補正対象代表値に対応付けられた第2種表色値を黒に近づけるように補正する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の色空間の表色値を他の色空間の表色値に変換する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
スキャナ、デジタルカメラなど対象物を表す画像データを生成する画像データ生成装置は、その装置に依存する色空間(機器依存色空間)における表色値で構成された画像データを生成する。一般的に、機器依存色空間における表色値を他の画像処理装置(例えば、プリンタ、ディスプレイ)にて適切に再現するために、機器依存色空間における表色値を、他の色空間における表色値に変換している。この変換には、機器依存色空間における表色値と、他の色空間における表色値との対応関係を記述した色変換プロファイルが用いられている。
【0003】
特許文献1は、RGB値を、プリンタの印刷データの生成に用いるCMYK値に変換するための色変換技術を開示している。この技術では、RGB値の彩度が、無彩色に近い所定範囲内にある場合には、当該RGB値を、無彩色を表すCMYK値に変換している。これによって、黒文字などの黒色で表現すべきオブジェクトをCMYK値で再現した場合における品位を向上している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−49628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、色変換を行う際に、黒色で表現すべきオブジェクトを適切に再現できる技術の向上が求められている。このような要求は、RGB値をCMYK値に変換する技術に限らず、任意の色空間から他の色空間への色変換を行う技術に共通する要求であった。
【0006】
本発明の主な利点は、色変換を行う際に、黒色で表現すべきオブジェクトを適切に再現するための新たな技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]第1の色空間における第1種表色値の複数の代表値に、第2の色空間における第2種表色値をそれぞれ対応付けた基準プロファイルを補正して補正プロファイルを作成する方法であって、(a)前記第1種表色値で表現された画像データであって、黒色で表現すべきオブジェクトを含む画像データを取得する工程と、(b)前記オブジェクトを構成する複数の構成画素の複数の前記第1種表色値について、前記第1の色空間における分布状態を取得する工程と、(c)前記分布状態を用いて、複数の前記代表値の中から、補正対象代表値を決定する工程と、(d)前記補正対象代表値に対応付けられた前記第2種表色値を黒に近づけるように補正する工程と、を含む、方法。
【0009】
上記構成によれば、黒色で表現すべきオブジェクトを構成する構成画素の第1種表色値の分布状態に応じて、補正対象代表値を決定する。そして、当該補正対象代表値に対応付けられた第2種表色値を黒に近づけるように補正するので、上記オブジェクトを第2種表色値で適切に表現することができる。
【0010】
[適用例2]適用例1に記載の方法であって、前記(d)工程において、前記分布状態に応じて前記第2種表色値を黒に近づける程度を変更する、方法。
上記構成によれば、分布状態に応じて第2種表色値の補正の程度を適切に変更できる。
【0011】
[適用例3]適用例1または適用例2に記載の方法であって、前記(b)工程は、複数の前記構成画素の少なくとも一部の前記第1種表色値を、前記第1の色空間に定められた複数の分類領域のいずれかに分類する工程であって、複数の前記分類領域のそれぞれは、複数の前記代表値のうち1つ以上の前記代表値を用いて構成されている、前記工程を含み、前記(c)工程は、前記(b)工程における前記分類の結果を用いて、前記分類領域を構成する前記代表値を前記補正対象代表値とするか否かを決定する工程を含む、方法。
上記構成によれば、構成画素の第1種表色値を第1の色空間における分類領域に分類し、分類結果に基づいて、補正対象代表値を適切に決定することができる。
【0012】
[適用例4]適用例3に記載の方法であって、前記(c)工程は、最も多くの前記第1種表色値が分類された前記分類領域を構成する前記代表値を、少なくとも前記補正対象代表値に決定する工程を含む、方法。
上記構成によれば、上記オブジェクトの再現に用いられる可能性が高い代表値に対応する第2種表色値を少なくとも補正することで、上記オブジェクトの第2種表色値での再現性を効率良く向上することができる。
【0013】
[適用例5]適用例3または適用例4に記載の方法であって、前記(c)工程は、(c+1)複数の前記分類領域のそれぞれについて、特定種の分類領域であるか否かを判定する工程であって、前記特定種の分類領域は、基準数を超える個数の前記第1種表色値が分類される前記分類領域である、前記工程と、(c+2)前記特定種の分類領域を構成する前記代表値を前記補正対象代表値に決定し、前記特定種の分類領域を構成しない前記代表値を前記補正対象代表値に決定しない工程と、を含む、方法。
上記構成によれば、補正をすることが有効な代表値を適切に補正対象代表値に決定することができる。
【0014】
[適用例6]適用例3ないし適用例5のいずれかに記載の方法であって、前記補正対象代表値の少なくとも一部は、複数の前記特定種の分類領域を構成し、前記(d)工程は、前記補正対象代表値が前記特定種の分類領域の構成に使用される頻度に応じた重み付けを用いて、前記補正対象代表値に対応付けられた前記第2種表色値を補正する工程を含む、方法。
上記構成によれば、第1種表色値の分類結果に応じて第2種表色値を適切に補正することができる。
【0015】
[適用例7]適用例3ないし適用例5のいずれかに記載の方法であって、前記(d)工程は、前記補正対象代表値によって構成される前記分類領域に分類された前記第1種表色値の個数に応じた重み付けを用いて、前記補正対象代表値に対応付けられた前記第2種表色値を補正する工程を含む、方法。
上記構成によれば、第1種表色値の分類結果に応じて第2種表色値を適切に補正することができる。
【0016】
[適用例8]適用例1ないし適用例7のいずれかに記載の方法であって、前記(c)工程において、前記第1の色空間における無彩色軸上に位置する前記代表値は、前記分布状態に拘わらず、前記補正対象代表値に決定されない、方法。
上記構成によれば、補正が必要な補正対象代表値を適切に決定することができる。
【0017】
[適用例9]画像処理装置であって、第1の色空間における第1種表色値の複数の代表値に、第2の色空間における第2種表色値をそれぞれ対応付けた色変換プロファイルを格納する格納部を備え、複数の前記代表値は、第1の代表値と、前記第1の代表値から見て、前記第1の色空間における黒色点から遠ざかる方向に位置する第2の代表値とを含み、前記色変換プロファイルは、前記第1の代表値に対応付けられた第1の表色値であって前記第2種表色値である前記第1の表色値と、前記第2の代表値に対応付けられた第2の表色値であって前記第2種表色値である前記第2の表色値と、を含み、前記第2の表色値は、前記第2の色空間において前記第1の表色値より黒色点に近いことを特徴とする、画像処理装置。
【0018】
上記構成の画像処理装置によれば、黒色で表現すべきオブジェクトが第1種表色値で表現されている場合に、当該オブジェクトを第2種表色値で適切に再現することができる。
【0019】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、上記の方法により色変換テーブルを作成する作成装置、作成システム、上記の方法により作成された色変換テーブルを備える装置、これらの装置またはシステムの機能、または、上記作成方法を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体、等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施例における色変換テーブル作成システムの構成を示すブロック図。
【図2】コピープロファイルPFDについて説明する図。
【図3】プロファイル更新処理およびプロファイル補正処理の処理ステップを示すフローチャート。
【図4】画素分類処理と補正対象代表値決定処理の処理ステップを示すフローチャートである。
【図5】画素の分類について説明する説明図。
【図6】補正処理の処理ステップを示すフローチャート。
【図7】補正プロファイルの一例を説明する図。
【図8】比較例における色変換結果の一例(図8(a))と本実施例における色変換結果の一例(図8(b))とを示す図。
【図9】第3実施例における補正対象代表値決定処理の処理ステップを示すフローチャート。
【図10】分類領域の領域評価値について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
A.第1実施例:
A−1:色変換テーブル作成システム1000の構成
図1は、第1実施例における色変換テーブル作成システムの構成を示すブロック図である。色変換テーブル作成システム1000は、色変換テーブル作成装置としてのサーバ100と、クライアントとしての複合機200とを備えている。サーバ100と複合機200は、LAN(Local Area Network)500およびインターネット700を介して、通信可能に接続されている。
【0022】
サーバ100は、CPU110と、内部記憶装置(例えば、ROM、RAM)や外部記憶装置(例えば、ハードディスクドライブ)などの記憶装置140と、インターネット700などのネットワークに接続するためのインタフェースを含む通信部130と、を備えている。記憶装置140には、色変換テーブルを作成する機能をCPU110に実現させるコンピュータプログラムPMが格納されている。コンピュータプログラムPMは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体に記録された形態で提供され得る。この記録媒体は、CD−ROM、USBストレージなどの着脱可能な記録媒体、ROMやRAMなどの計算機の内部記憶装置、ハードディスクドライブなどの計算機に接続される外部記憶装置を含む。記憶装置140には、複合機200に格納されている後述するコピープロファイルPFDと、実質的に同一のコピープロファイルPFDが格納されていても良い。
【0023】
CPU110は、コンピュータプログラムPMを実行することにより、プロファイル作成部M20として機能する。プロファイル作成部M20は、スキャンデータ取得部M21と、基準プロファイル取得部M22と、画素分類部M23と、補正対象代表値決定部M24と、補正部M25と、を備えている。これらの各機能部M21〜M25が行う処理については後述する。
【0024】
複合機200は、CPU210と、内部記憶装置や外部記憶装置などの記憶装置240と、ネットワークに接続するためのインタフェースを含む通信部250と、操作パネルや各種のボタンを含む操作部260と、インクジェット式のプリンタ部270と、フラットベッド式のスキャナ部280と、を備えている。
【0025】
プリンタ部270は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)のインクを用いて、印刷媒体上にドットを形成することによって、画像の印刷を行う。この印刷は、画素データがプリンタCMYK値で表された画像データを用いて行われる。プリンタCMYK値は、用いられるインクの色、形成されるドットの大きさなどプリンタ部270固有の特性に依存するプリンタCMYK色空間における表色値である。以下では、画素データがプリンタCMYK値で表された画像データを印刷データとも呼ぶ。
【0026】
スキャナ部280は、原稿を載置するためのプラテンガラス20と、CIS(Contact Image Sensor)方式のイメージセンサ10とを備えている。イメージセンサ10は、CMOSなどの複数の光電変換素子11と、レンズ12と、赤緑青の各色の発光ダイオード(LED)を含む光源13とを備えている。複数の光電変換素子11は、主走査方向に一列に並んで配置されている。主走査方向は、副走査方向(図1)と垂直な方向であって、プラテンガラス20の原稿が載置される面と平行な方向(図1における手前から奥に向かう方向)である。
【0027】
イメージセンサ10は、図示しないステップモータの動力によって、副走査方向(図1)に沿った往復移動(副走査)を行うように構成されている。イメージセンサ10は、原稿の一端から他端に向かって副走査を行いつつ、光源13を点灯させ、原稿からの反射光の強度を、光電変換素子11を用いて電気信号として出力する。このとき、光源13では、赤色、緑色、青色のLEDが順次に点灯制御される。これら3色のLEDの1回ずつの点灯で、主走査方向に沿った1ライン分の画素のスキャナRGB値に相当する電気信号が出力される。スキャナ部280は、イメージセンサ10が出力する電気信号に基づいて、画素データがスキャナRGB値で表された画像データを生成する。ここで、スキャナRGB値は、光源13のLEDや光電変換素子11の特性などスキャナ部280固有の特性に依存するスキャナRGB色空間における表色値である。以下では、スキャナRGB値で表された画像データをスキャンデータとも呼ぶ。
【0028】
記憶装置240には、各種のプログラムやデータ(図示省略)とともに、スキャナRGB値を、プリンタCMYK値に変換するための色変換テーブルであるコピープロファイルPFDが格納されている。また、記憶装置240には、スキャンデータを格納する領域SCDが確保されている。
【0029】
CPU210は、記憶装置240に格納されたプログラムを実行することにより、複合機200の全体を制御する装置制御部M35として機能するとともに、後述するプロファイル更新処理を実行するプロファイル更新部M30として機能する。プロファイル更新部M30は、後述する黒色オブジェクトを表すスキャンデータを作成するスキャンデータ作成部M31を備えている。
【0030】
装置制御部M35は、上述したコピープロファイルPFDを参照して、スキャナRGB値で表されたスキャンデータを、プリンタCMYK値で表された印刷データに変換することができる。この結果、装置制御部M35は、スキャナ部280によって読み取った原稿を表す画像を、プリンタ部270によって印刷する処理(コピー)を実行することができる。
【0031】
なお、色変換テーブル作成システム1000は、複合機200およびサーバ100と通信可能に接続された計算機300を備えても良い。計算機300はプロファイル更新部M40を備え、プロファイル更新部M40はスキャンデータ作成部M41を備えている。これらの機能部は、複合機200が備える同名の機能部M30、M31とそれぞれ同様の機能を有する。すなわち、後述するプロファイル更新処理は、複合機200によって行われても良いし、計算機300によって行われても良い。
【0032】
図2は、コピープロファイルPFDについて説明する図である。図2(a)は、コピープロファイルPFDを概念的に示している。コピープロファイルPFDは、図2(a)に示すように、番号1〜NまでのN個のスキャナRGB値のそれぞれに、そのスキャナRGB値が表す色を、プリンタCMYK色空間で表したCMYK値を対応付けた色変換テーブルである。なお、番号1〜NまでのN個のスキャナRGB値を、スキャナRGB値の代表値REV、あるいは、単に、代表値REVとも呼ぶ。本実施例では、スキャナRGB値における赤(R)、緑(G)、青(B)の各値は、8ビット(256階調)で表される。また、プリンタCMYK値におけるシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の各値は、8ビット(256階調)で表される。
【0033】
コピープロファイルPFDにおけるN個のスキャナRGB値の各R、G、B値は、0〜255の間にほぼ均等の間隔で設定された所定数n個の特定値のいずれかである。本実施例では、所定数nは33である。この場合、33個の特定値は、8×k(kは0≦k≦31の整数)で表される32個の値と255である。この場合、上述したコピープロファイルPFDにおけるスキャナRGB値の数Nは、35937(33×33×33)である。これらの35937個のスキャナRGB値を、スキャナRGB値の代表値REV、あるいは、単に、代表値REVとも呼ぶ。
【0034】
図2(b)には、スキャナRGB色空間SCPのうち、明度が比較的低い領域(R、G、Bの各値が32以下である領域)が示されている。代表値REVは、3次元直交座標系でスキャナRGB色空間SCPを表現した場合に、立方体で表される色域にほぼ等間隔格子状に配置される。例えば、代表値REV(0、0、0)は、スキャナRGB色空間SCPにおける座標(0、0、0)に位置し、代表値REV(4、4、4)は、スキャナRGB色空間SCPにおける座標(32、32、32)に位置し、代表値REV(1、3、4)は、スキャナRGB色空間SCPにおける座標(8、24、32)に位置する。また、図2(b)において、K点(座標(0、0、0)の位置)は、スキャナRGB色空間SCPにおける黒色点である。図示はされていないが、W点(座標(255、255、255)の位置)は、スキャナRGB色空間SCPにおける白色点である。K点とW点とを結ぶ線(図2(b)に示す一点破線GLは、その一部を示す)は、スキャナRGB色空間SCPにおける無彩色軸である。
【0035】
コピープロファイルPFDは、例えば、複合機200の製造者によって、周知の方法で作成されている。例えば、作成者は、プリンタ部270を用いて印刷されたカラーチャートを、スキャナ部280を用いて読み取ることで、スキャンデータを得る。この結果、作成者は、カラーチャートの印刷に用いられたプリンタCMYK値と、スキャンデータに含まれるスキャナRGB値とを対応付けた対応データを取得できる。作成者は、この対応データに基づいて、コピープロファイルPFDを作成する。
【0036】
・色変換テーブル作成システム1000による処理:
色変換テーブル作成システム1000は、コピープロファイルPFDを補正して、コピー時における黒色のオブジェクトの再現性を向上させた補正プロファイルを作成する。補正プロファイルの作成は、以下に説明するプロファイル更新処理およびプロファイル補正処理によって実現される。
【0037】
図3は、プロファイル更新処理およびプロファイル補正処理の処理ステップを示すフローチャートである。プロファイル更新処理は、複合機200または計算機300が、サーバ100を利用してコピープロファイルPFDを更新する処理である。プロファイル補正処理は、複合機200または計算機300からの要求に応じてサーバ100がコピープロファイルPFDを補正する処理である。以下では、複合機200からの要求がなされた場合を例に説明する。
【0038】
例えば、コピープロファイルを更新する指示を、ユーザから操作部260を介して受け付けると、複合機200のプロファイル更新部M30は、プロファイル更新処理を開始する。
【0039】
ステップS210では、複合機200のスキャンデータ作成部M31は、スキャナ部280を用いて、参照スキャンデータを生成する。参照スキャンデータは、黒色オブジェクトが印刷された原稿400(図1)を、スキャナ部280を用いて読み取ることによって得られるスキャンデータである。
【0040】
原稿400は、細線などの黒色線図オブジェクトBO1や、漢字や英数字などの黒色文字オブジェクトBO2を含んでいる。原稿400は、黒色の色材(インクやトナー)のみを用いて印刷されている。原稿400は、例えば、複合機200の製造者によって、ユーザに提供される。あるいは、原稿400を印刷するための印刷データが、複合機200の製造者によって、ユーザに提供されても良い。
【0041】
例えば、スキャンデータ作成部M31は、ユーザに原稿400をスキャナ部280のプラテンガラス20にセットするように促すメッセージを操作部260の操作パネルに表示する。スキャンデータ作成部M31は、原稿400を、スキャナ部280を用いて読み取って、原稿400を表すスキャンデータ(JPEG形式などに変換される前のRAWデータ形式の画像データ)を、参照スキャンデータとして取得する。
【0042】
ここで、原稿400上の黒色オブジェクトBO1、BO2が黒色であったとしても、参照スキャンデータにおいて、これらの黒色オブジェクトを構成する画素(以下、オブジェクト画素とも呼ぶ。)の画素値(スキャナRGB値)は、必ずしもスキャナRGB色空間SCPにおける黒色値(0、0、0)とはならない。例えば、上述したように、スキャナ部280による読み取りは、イメージセンサ10の副走査を行いつつ、赤色、緑色、青色のLEDが順次に点灯制御して行われる。すなわち、同じ画素の画素データ(スキャナRGB値)であっても、R値とG値とB値では取得のタイミングが異なっている。読み取り中は、イメージセンサ10は常に副走査方向に動いているので、厳密には、同じ画素の画素データであっても、R値とG値とB値は原稿400上の同じ位置についての値ではないことになる。このようなLEDの順次点灯による位置ずれなどに起因して、黒色オブジェクトを構成するオブジェクト画素の画素値は、黒色値とは限らず、様々な明度や彩度を有する値となる。
【0043】
ステップS220では、プロファイル更新部M30は、生成された参照スキャンデータをサーバ100に対して送信する。サーバ100のプロファイル作成部M20のスキャンデータ取得部M21が参照スキャンデータを取得する(ステップS110)と、プロファイル補正処理が開始される。
【0044】
ステップS120では、プロファイル作成部M20の基準プロファイル取得部M22は、記憶装置140からコピープロファイルPFDを基準プロファイルとして取得する。基準プロファイル取得部M22は、複合機200に格納されているコピープロファイルPFDを複合機200から取得して、基準プロファイルとして取得しても良い。また、基準プロファイル取得部M22は、他の計算機、例えば、サーバ100とは異なるサーバから取得するように構成されても良い。
【0045】
ステップS130では、プロファイル作成部M20の画素分類部M23は、参照スキャンデータが表す画像(以下、黒色オブジェクト画像とも呼ぶ。)から黒色オブジェクトを抽出する。具体的には、画素分類部M23は、黒色オブジェクト画像を構成する複数の画素のそれぞれについて、黒色オブジェクトを構成するオブジェクト画素であるか否かを判断する。
【0046】
例えば、画素分類部M23は、注目画素が、以下の条件を全て満たす場合に、その注目画素をオブジェクト画素であると判断する。
(1)注目画素を中心とする3画素×3画素の9つの画素の輝度値の最小値が基準より小さい。
(2)注目画素を中心とする3画素×3画素の9つの画素の平均色差が基準より小さい。
(3)注目画素のエッジ強度が基準より大きい。
これらの条件は、例えば、参照スキャンデータのスキャナRGB値を、YIQ色空間における表色値(YIQ値)に変換した値を用いて行われる。(1)の条件は、変換後のYIQ値のY値(輝度成分値)を用いて判定される。(2)の条件は、変換後のYIQ値のI値およびQ値(色差成分値)を用いて判定される。(3)の条件は、変換後のYIQ値のY値にエッジ検出フィルタを適用して算出されるエッジ強度を用いて判定される。エッジ検出フィルタには、例えば、sobelフィルタが採用される。
【0047】
このオブジェクト画素の判断条件は、一例であり、他の様々な判断方法が採用される。例えば、周知の細線検出法によって細線を構成する画素であると判断されるか否か等の条件をさらに併用しても良い。または、より簡便に、明度が基準値より低い画素を全て、オブジェクト画素であると判断しても良い。
【0048】
ステップS140では、画素分類部M23は、オブジェクト画素を分類する画素分類処理を実行する。図4は、画素分類処理と補正対象代表値決定処理の処理ステップを示すフローチャートである。図5は、画素の分類について説明する説明図である。
【0049】
ステップS1401では、画素分類部M23は、分類領域を設定する。図5(a)は、分類領域について説明する図である。画素分類部M23は、64個の分類領域CA(x、y、z)(xは、0≦x≦3の範囲の整数、yは、0≦y≦3の範囲の整数、zは、0≦z≦3の範囲の整数)を設定する。各分類領域CA(x、y、z)は、8つの代表値REVを頂点として構成される立方体形状を有する。分類領域CA(x、y、z)を構成する8つの代表値REVは、REV(x、y、z)、REV(x+1、y、z)、REV(z、y+1、z)、REV(x、y、z+1)、REV(x+1、y+1、z)、REV(x、y+1、z+1)、REV(x+1、y、z+1)、REV(x+1、y+1、z+1)で表される。図5(a)には、図の煩雑を避けるため、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1の範囲の8個の分類領域(x、y、z)のみを図示した。実際には、図2(b)に示すスキャナRGB色空間SCPにおける0≦R≦32、0≦G≦32、0≦B≦32の範囲(この範囲を低明度範囲とも呼ぶ。)に隙間無く64個(4×4×4)の分類領域CA(x、y、z)が設定される。分類領域CA(x、y、z)は、単に、分類領域CAとも表す。
【0050】
本実施例では、オブジェクト画素のうち、画素値(スキャナRGB値)が0≦R≦32、0≦G≦1、0≦B≦32の範囲にある低明度オブジェクト画素を分類対象とする。本実施例では、比較的明度の高いRGB値については分類対象にしない。この結果、比較的明度の高いRGB値の範囲にある代表値REVは、黒に近づける補正対象代表値に決定されない。したがって、画像の色の再現性が損なわれる可能性を低減することができる。ステップS1402では、画素分類部M23は、1つの低明度オブジェクト画素を処理対象として選択する。
【0051】
ステップS1403では、画素分類部M23は、処理対象の低明度オブジェクト画素の画素値(スキャナRGB値)を、該画素値に応じて上述した64個の分類領域CAのいずれかに分類し、分類領域CAごとに分類された数をカウントする。例えば、分類領域CA(0、0、0)には、0≦R≦8、0≦G≦8、0≦B≦8、を満たすスキャナRGB値が分類される。ステップS1404では、画素分類部M23は、全ての低明度オブジェクト画素を選択したか否かを判断する。そして、画素分類部M23は、全ての低明度オブジェクト画素の画素値の分類が終了するまで、ステップS1402、S1403の処理を繰り返す。
【0052】
図5(b)には、低明度オブジェクト画素の画素値の分類結果T1の一例が示されている。分類結果T1に、64の分類領域ごとに分類された画素値の数(分類画素数)が対応付けられている。
【0053】
図3のステップS150では、プロファイル作成部M20の補正対象代表値決定部M24は、分類結果T1を用いて、候補代表値の中から、補正対象代表値を決定する補正対象代表値決定処理を実行する。本実施例における候補代表値は、代表値REVのうち、上述した低明度範囲(0≦R≦32、0≦G≦32、0≦B≦32)に存在する125個の代表値REVである(図2(b))。
【0054】
図4(b)のステップS1501では、補正対象代表値決定部M24は、1つの分類領域CAを選択する。ステップS1502では、補正対象代表値決定部M24は、選択された分類領域CAの分類画素数(図5(b))が第1の基準値Th1より大きいか否かを判断する。補正対象代表値決定部M24は、選択された分類領域CAの分類画素数が第1の基準値Th1より大きい場合には(ステップS1502:YES)、選択された分類領域CAを構成する代表値REV(候補代表値)の使用頻度評価値に1を加算する(ステップS1503)。補正対象代表値決定部M24は、選択された分類領域CAの分類画素数が第1の基準値Th1以下である場合には(ステップS1502:NO)、ステップS1504に処理を移行する。ここで、第1の基準値Th1は、低明度オブジェクト画素の数等を考慮して設定される設計値であるが、例えば、1000〜5000とされる。使用頻度評価値は、候補代表値ごとに設定される値であり、初期値は「0」にされている。
【0055】
ステップS1504では、補正対象代表値決定部M24は、全ての分類領域CAを選択したか否かを判断する。そして、補正対象代表値決定部M24は、64の全ての分類領域CAが選択されるまで、ステップS1501〜S1503の処理を繰り返す。64の全ての分類領域CAが選択されて上記処理が行われたときの使用頻度評価値が、最終的な各候補代表値の使用頻度評価値となる。1つの候補代表値は、複数の分類領域CAを構成する場合がある。例えば、図5(a)に示すように、代表値REV(1、1、1)は、8つの分類領域CAを構成している。この結果、代表値REV(1、1、1)の使用頻度評価値は、最大で「8」になり得る。
【0056】
ステップS1505では、補正対象代表値決定部M24は、1つの候補代表値を選択する。ステップS1506では、補正対象代表値決定部M24は、選択された候補代表値が無彩色軸上の代表値REVであるか否かを判断する。選択された候補代表値が無彩色軸上の代表値REVでない場合には(ステップS1506:NO)、補正対象代表値決定部M24は、選択された候補代表値の使用頻度評価値が第2の基準値Th2より大きいか否かを判断する(ステップS1507)。補正対象代表値決定部M24は、当該使用頻度評価値が第2の基準値Th2より大きい場合には(ステップS1507:YES)、選択された候補代表値を補正対象代表値に決定する(ステップS1508)。一方、補正対象代表値決定部M24は、選択された候補代表値が無彩色軸上の代表値REVである場合(ステップS1506:YES)、および、選択された候補代表値の使用頻度評価値が第2の基準値Th2以下である場合(ステップS1507:NO)には、選択された候補代表値を補正対象代表値に決定しない。ここで、第2の基準値Th2は、例えば、0に設定される。上述した基準値Th1、Th2は、適宜に適切な値に設定され得るが、最も多く画素値が分類された分類領域CAを構成する代表値REVが、少なくとも補正対象代表値に決定される値に設定されることが好ましい。
【0057】
ステップS1509では、補正対象代表値決定部M24は、全ての候補代表値を選択したか否かを判断する。そして、補正対象代表値決定部M24は、125個の全ての候補代表値が選択されるまで、ステップS1505〜S1508の処理を繰り返す。全ての候補代表値が選択されて上記処理が行われた時点で、全ての補正対象代表値が決定されている。
【0058】
図3のステップS160では、補正部M25は、基準プロファイル(S120)において、補正対象代表値に対応付けられたプリンタCMYK値を補正する補正処理を実行する。
【0059】
図6は、補正処理の処理ステップを示すフローチャートである。ステップS1601では、補正部M25は、1つの補正対象代表値を選択する。ステップS1602では、補正部M25は、選択された補正対象代表値に対応するプリンタCMYK値を黒色値に置き換える補正を行う。本実施例におけるプリンタCMYK値の黒色値は、(C、M、Y、K)=(0,0,0,255)である。
【0060】
ステップS1603では、補正部M25は、全ての補正対象代表値を選択したか否かを判断する。そして、補正部M25は、全ての補正対象代表値が選択されるまで、ステップS1601〜S1602の処理を繰り返す。この結果、全ての補正対象代表値が補正されると、補正部M25は、補正処理を終了する。図6において破線で囲んだステップS1602bの処理は、本実施例では実行されず、後述する第2、第3実施例において実行される。補正処理が終わると、基準プロファイルを補正した作成された補正プロファイルが完成する。
【0061】
図3のステップS170では、サーバ100のプロファイル作成部M20は、作成された補正プロファイルを、複合機200に対して送信する。補正プロファイルを複合機200に対して送信すると、プロファイル作成部M20は処理を終了する。
【0062】
複合機200のプロファイル更新部M30は、サーバ100から補正プロファイルを受信すると、取得した補正プロファイルを新たなコピープロファイルPFDとして記憶装置240に格納することにより、コピープロファイルPFDを更新する(ステップS230)。プロファイル更新部M30は、新たなコピープロファイルPFDを記憶装置240に格納すると処理を終了する。
【0063】
図7は、補正プロファイルの一例を説明する図である。図7において黒丸は、対応するプリンタCMYK値が黒色値に補正された補正対象代表値を表している。低明度範囲に存在する125個の候補代表値REVのうち、黒丸で示す補正対象代表値を除く代表値REVは、補正の対象とされていない代表値(非補正対象代表値)である。非補正対象代表値のうち、白丸で示す代表値REV(0、0、0)、REV(1、1、1)、REV(2、2、2)は、無彩色軸上にあることによって補正対象代表値とされなかった代表値REVである。
【0064】
この補正プロファイルでは、低明度範囲の代表値REVに対応付けられたプリンタCMYK値が均等に補正されるのではなく、低明度範囲の候補代表値REVのうちの一部の代表値REVに対応付けられたプリンタCMYK値が選択的に補正される。このために、図7に示す補正プロファイルにおいて、代表値REV(2、0、2)と代表値REV(3、1、2)と間に逆転した関係が生じている。すなわち、代表値REV(2、0、2)は、非補正対象代表値であるから、代表値REV(2、0、2)に対応するプリンタCMYK値は黒色値ではない。一方、REV(3、1、2)は、補正対象代表値であるから、REV(3、1、2)に対応するプリンタCMYK値は黒色値である。したがって、スキャナRGB色空間SCPにおいて、代表値REV(2、0、2)から見て、代表値REV(3、1、2)は、K点(代表値REV(0、0、0))から遠ざかる方向に位置している。それにも拘わらず、プリンタCMYK色空間において、代表値REV(3、1、2)に対応するプリンタCMYK値は、代表値REV(2、0、2)に対応するプリンタCMYK値より、黒色値に近い(本実施例では、黒色値そのものである)ということが起こり得る。
【0065】
また、上述したように無彩色軸上の代表値REVは、非補正対象代表値である。このために、無彩色軸上の代表値REV(1、1、1)と、補正対象代表値である代表値REV(3、1、2)と間にも同様の逆転した関係が生じている。すなわち、スキャナRGB色空間SCPにおいて、代表値REV(1、1、1)から見て、代表値REV(3、1、2)は、K点(代表値REV(0、0、0))から遠ざかる方向に位置している。それにも拘わらず、プリンタCMYK色空間において、REV(3、1、2)に対応するプリンタCMYK値は、代表値REV(1、1、1)に対応するプリンタCMYK値より、黒色値に近い(本実施例では、黒色値そのものである)。
【0066】
図8は、比較例における色変換結果の一例(図8(a))と、本実施例における色変換結果の一例(図8(b))と、を示す図である。上記実施例において説明したように、黒色に表現されるべきオブジェクトを読み取ったスキャンデータにおいて、当該オブジェクトを構成する画素の画素値(スキャナRGB値)は、LEDの順次点灯による位置ずれなどに起因して、黒色値になるとは限らず、様々な明度や彩度を有する値となる。このようなスキャンデータを、コピープロファイルを用いてプリンタCMYK値で構成された画像データに変換すると、印刷データにおいて、黒色で表現すべきオブジェクトを適切に再現できないおそれがあった。
【0067】
図8(a)は、比較例におけるコピープロファイル(補正前のコピープロファイルPFD)を用いて、黒文字を読み取ったスキャンデータを変換し、変換によって得られる印刷データを用いて黒文字を再現した画像PR1である。図8(b)は、本実施例におけるコピープロファイル(補正後のコピープロファイルPFD)を用いて、黒文字を読み取ったスキャンデータを変換し、変換によって得られる印刷データを用いて黒文字を再現した画像PR2である。これらの画像PR1、PR2において、四角形は、画素SPを表している。黒色の画素SPは、黒色画素を表し、グレーの画素は非黒色画素を表している。黒色画素は、プリンタCMYK色空間における黒色点との距離が所定のしきい値より小さいプリンタCMYK値を有する画素である。非黒色画素は、プリンタCMYK色空間における黒色点との距離が所定のしきい値以上であるプリンタCMYK値を有する画素である。
【0068】
図8に示すように、本実施例におけるコピープロファイルを用いた画像PR2では、比較例におけるコピープロファイルを用いた画像PR1と比較して、黒色画素の割合が増加する。特に、黒文字と背景との境目近傍の領域A1〜A5において、顕著に黒色画素の割合が増加している。このように、本実施例におけるコピープロファイルによれば、黒色で表現すべきオブジェクトをプリンタCMYK値で適切に再現することができる。また、本実施例におけるコピープロファイルを格納する画像処理装置である複合機200は、コピーにおいて、黒色で表現されるべきオブジェクトの再現品質を向上することができる。
【0069】
さらに、上記実施例では、低明度範囲の代表値REVの全てを補正対象代表値とすることなく、黒色で表現すべきオブジェクトを含むスキャンデータを印刷データに変換する際に使用される可能性が高い一部の代表値REVを補正対象代表値に決定している。すなわち、上記実施例では、黒色オブジェクトを含む原稿400を読み取って参照スキャンデータを取得している。そして、参照スキャンデータにおけるオブジェクト画素の画素値の分布状態を用いて、補正対象代表値を決定している。この結果、黒色で表現されるべきオブジェクトの再現品質を効果的に向上する一方で、他のオブジェクトの再現品質の低下を抑制することができる。例えば、完全な黒色ではないが、比較的黒色に近い暗い色で表現されるオブジェクトの階調の再現性の低下(暗部の色つぶれ)を抑制することができる。
【0070】
さらに、上記実施例では、無彩色軸上の代表値REVは、オブジェクト画素の画素値の分類結果T1に拘わらず、補正対象代表値に決定しない。基準プロファイルにおいて、無彩色軸上の代表値REVに対するプリンタCMYK値は、既に、K値がC、M、Y値より多めに設定してある。したがって、無彩色軸上の代表値REVについては、基準プロファイルが示すプリンタCMYK値を使用しても問題はなく、プリンタCMYK値を補正する必要がないためである。また、無彩色軸上の代表値REVを補正対象代表値に決定しないことによって、無彩色の再現性が損なわれる可能性を低減することができる。したがって、全体として色の再現性に優れたコピープロファイルを作成することができる。
【0071】
さらに、オブジェクト画素の画素値を複数の分類領域CAのいずれかに分類することによって、オブジェクト画素の画素値の分布状態を取得している。この結果、画素値の分布状態を適切に取得することができ、補正対象代表値を適切に決定することができる。この際、最も多くの画素値が分類された分類領域CAを構成する代表値REVは、少なくとも補正対象代表値に決定される。この結果、黒色で表現すべきオブジェクトの再現に用いられる可能性が高い代表値に対応するプリンタCMYK値を少なくとも補正するので、黒色で表現すべきオブジェクトのプリンタCMYK値での再現性を効率良く向上することができる。
【0072】
さらに、上記実施例では、第1の基準値Th1を超える個数の画素値が分類された分類領域CA(特定種の分類領域とも呼ぶ。)を構成する代表値REVを補正対象代表値に決定し、特定種の分類領域を構成しない代表値REVを補正対象代表値に決定しない。この結果、黒色で表現されるべきオブジェクトの再現品質を向上することと、他のオブジェクトの再現品質の低下を抑制することとが適切なバランスとなるように、補正対象代表値を適切に決定することができる。
【0073】
上記実施例における参照スキャンデータは、請求項における「黒色で表現すべきオブジェクトを含む画像データ」の例であり、上記実施例におけるスキャナRGB値は、請求項における第1種表色値の例であり、上記実施例におけるスキャナRGB色空間SCPは、請求項における第1の色空間の例である。上記実施例におけるプリンタCMYK値は、請求項における第2種表色値の例であり、上記実施例におけるプリンタCMYK色空間は、請求項における第2の色空間の例である。
【0074】
B.第2実施例:
第2実施例では、補正部M25は、補正部処理(図6)において、第1実施例におけるステップS1602に代えて、ステップS1602bの処理を行う。すなわち、補正部M25は、補正対象代表値に対応するプリンタCMYK値を補正する際に、単に黒色値に置き換えるのではなく、補正対象代表値の使用頻度評価値に応じて黒色値に近づくように補正を行う。
【0075】
具体的には、補正前のプリンタCMYK値を(Ci、Mi、Yi、Ki)とし、使用頻度評価値をLFとし、使用頻度評価値の最大値(本実施例では「8」)をLFmaxすると、補正後のプリンタCMYK値を(Cj、Mj、Yj、Kj)は、以下の式(1)〜(4)で表される。
Cj=Ci×{1−(LF/LFmax)} ...(1)
Mj=Mi×{1−(LF/LFmax)} ...(2)
Yj=Yi×{1−(LF/LFmax)} ...(3)
Kj=Ki+(255−Ki)×(LF/LFmax) ...(4)
【0076】
このように、補正部M25は、使用頻度評価値LFが大きいほど、(Cj、Mj、Yj、Kj)が(0、0、0、255)に近づくように、プリンタCMYK値を補正する。そして、補正部M25は、使用頻度評価値LFが最大値である場合には、プリンタCMYK値を黒色値に置換する補正を行う。
【0077】
以上説明した第2実施例によれば、使用頻度評価値に応じた重み付けを用いて、補正対象代表値に対応するプリンタCMYK値の補正を行うので、黒で表現すべきオブジェクトの表現に用いられ得る可能性に応じて、適切に補正対象代表値に対応するプリンタCMYK値の補正を行うことができる。
【0078】
補正対象代表値の使用頻度評価値は、第1実施例において説明したように、分類画素数が第1の基準値Th1より大きい分類領域を特定種の分類領域と呼ぶとき、補正対象代表値によって構成される特定種の分類領域の数を表す値、すなわち、補正対象代表値が特定種の分類領域の構成に使用される頻度を表す値である。このような使用頻度評価値を用いることによって、黒で表現すべきオブジェクトの表現に用いられ得る可能性が大きいほど、黒に近づく程度が大きくなるように、適切にプリンタCMYK値を補正することができる。
【0079】
C.第3実施例:
図9は、第3実施例における補正対象代表値決定処理の処理ステップを示すフローチャートである。図10は、分類領域の領域評価値について説明する図である。第3実施例では、第1実施例における補正対象代表値決定処理(図4(b))に代えて、図9に示す補正対象代表値決定処理を行う。
【0080】
ステップS1501bでは、補正対象代表値決定部M24は、分類結果T1(図5(b)、図10(a))における分類画素数に応じて、64の分類領域CAのそれぞれに順位付けを行う。具体的には、補正対象代表値決定部M24は、図10(b)に示すように、分類画素数が多い順番に、64個の分類領域CAを並べ替える。すなわち、補正対象代表値決定部M24は、分類画素数が多いほど、高い順位を付与するように、64個の分類領域CAのそれぞれに順位付けを行う。
【0081】
ステップS1502bでは、補正対象代表値決定部M24は、順位に応じて各分類領域CAに評価値(領域評価値)を割り当てる。具体的には、図10(b)に示すように、補正対象代表値決定部M24は、分類画素数が1以上の分類領域CAについて、分類画素数が少ない分類領域CAほど小さい評価値を割り当て、分類画素数が多い分類領域CAほど大きい評価値を割り当てる。なお、分類画素数が同じ分類領域CAには、同じ評価値を割り当てる。
【0082】
ステップS1503bでは、補正対象代表値決定部M24は、1つの分類領域CAを選択する。ステップS1504bでは、補正対象代表値決定部M24は、選択された分類領域CAの評価値が第3の基準値Th3より大きいか否かを判断する。補正対象代表値決定部M24は、選択された分類領域CAの評価値が第3の基準値Th3より大きい場合には(ステップS1504b:YES)、選択された分類領域CAを構成する代表値REVの使用頻度評価値に、選択された分類領域CAの評価値を加算する(ステップS1505b)。補正対象代表値決定部M24は、選択された分類領域CAの評価値が、第3の準値Th3以下である場合には(ステップS1504b:NO)、ステップS1506bに処理を移行する。ここで、第3の基準値Th3は、適宜に設定される設計値であるが、例えば、0とされる。
【0083】
ステップS1506bでは、補正対象代表値決定部M24は、全ての分類領域CAを選択したか否かを判断する。そして、補正対象代表値決定部M24は、全ての分類領域CAが選択されるまで、ステップS1503b〜S1505bの処理を繰り返す。全ての分類領域CAが選択されて上記処理が行われたときの使用頻度評価値が、最終的な各候補代表値の使用頻度評価値となる。1つの候補代表値は、最大で8つの分類領域CAを構成する場合があり、使用頻度評価値は、これら複数の分類領域CAの評価値の和となり得る。
【0084】
ステップS1507bでは、補正対象代表値決定部M24は、1つの候補代表値を選択する。ステップS1508bでは、補正対象代表値決定部M24は、選択された候補代表値が無彩色軸上の代表値REVであるか否かを判断する。選択された候補代表値が無彩色軸上の代表値REVでない場合には(ステップS1508b:NO)、補正対象代表値決定部M24は、選択された候補代表値の使用頻度評価値が第4の基準値Th4より大きいか否かを判断する(ステップS1509b)。補正対象代表値決定部M24は、当該使用頻度評価値が第4の基準値Th4より大きい場合には(ステップS1509b:YES)、選択された候補代表値を補正対象代表値に決定する(ステップS1510b)。一方、補正対象代表値決定部M24は、選択された候補代表値が無彩色軸上の代表値REVである場合(ステップS1508b:YES)、および、選択された候補代表値の使用頻度評価値が第4の基準値Th4以下である場合(ステップS1509b:NO)には、選択された候補代表値を補正対象代表値に決定しない。ここで、第4の基準値Th4は、例えば、0に設定される。
【0085】
ステップS1511bでは、補正対象代表値決定部M24は、全ての候補代表値を選択したか否かを判断する。そして、補正対象代表値決定部M24は、全ての候補代表値が選択されるまで、ステップS1507b〜S1510bの処理を繰り返す。
【0086】
第3実施例では、第2実施例と同様に、補正部M25は、補正部処理(図6)において、第1実施例におけるステップS1602に代えて、ステップS1602bの処理を行う。すなわち、補正部M25は、第2実施例において説明した式(1)〜(4)を用いて、プリンタCMYK値の補正部M25を行う。ただし、使用頻度評価値の最大値LFmaxは、第2実施例とは異なり、上述した領域評価値を加算して求められる使用頻度評価値の最大値となる。
【0087】
以上説明した第3実施例によれば、第2実施例と同様に、使用頻度評価値に応じた重み付けを用いて、補正対象代表値に対応するプリンタCMYK値の補正を行うので、黒で表現すべきオブジェクトの表現に用いられ得る可能性に応じて、適切に補正対象代表値に対応するプリンタCMYK値の補正を行うことができる。
【0088】
補正対象代表値の使用頻度評価値は、分類画素数の数に応じて分類領域ごとに割り当てられた評価値を用いて算出される。このような使用頻度評価値を用いることによって、黒で表現すべきオブジェクトの表現に用いられ得る可能性が大きいほど、黒に近づく程度が大きくなるように、適切にプリンタCMYK値を補正することができる。
【0089】
D.変形例:
この発明は上記実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0090】
(1)上記第1実施例では、オブジェクト画素の画素値を、分類領域CAごとに分類した結果を用いて、補正対象代表値を決定しているが、これに限らず、オブジェクト画素の画素値のスキャナRGB色空間SCPにおける分布状態(以下、画素値分布状態とも呼ぶ。)を用いて、補正対象代表値を決定すれば良い。例えば、スキャナRGB色空間SCPにおいて、候補代表値から見て所定距離の範囲内に、オブジェクト画素の画素値が所定個数を超えて分布している場合には、補正対象代表値決定部M24は、その候補代表値を、補正対象代表値に決定しても良い。
【0091】
(2)上記第2、第3実施例では、使用頻度評価値に応じた重み付けを用いて、前記補正対象代表値に対応するプリンタCMYK値を補正しているが、これに限らず、上記画素値分布状態に応じて、プリンタCMYK値を黒に近づける程度を変更すれば良い。例えば、補正部M25は、補正対象代表値から見て所定距離の範囲内に分布しているオブジェクト画素の画素値の数に応じて、その補正対象代表値に対応するプリンタCMYK値を、補正しても良い。また、プリンタCMYK値を補正する式は、上述した式(1)〜(4)に限らず、プリンタCMYK値が黒に近づくように補正されれば良い。「プリンタCMYK値が黒に近づく」とは、プリンタCMYK色空間において、補正後のプリンタCMYK値と黒色点との距離が、補正前のプリンタCMYK値と黒色点との距離より小さくなることを言う。例えば、プリンタCMYK値(C、M、Y、K)と、黒色点(0、0、0、255)との距離は、SQRT{C+M+Y+(255−K)}で表される(SQRTは、平方根(ルート)を表す。)
【0092】
(3)上記実施例では、スキャナRGB色空間の表色値をプリンタCMYK色空間の表色値に変換するためのコピープロファイルを作成しているが、これに代えて、例えば、デジタルカメラの機器依存RGB色空間の表色値をCIELAB色空間の表色値に変換するためのICCプロファイルの作成に本発明を適用しても良い。一般的に言えば、第1の色空間における第1種表色値の複数の代表値に、第2の色空間における第2種表色値をそれぞれ対応付けたプロファイルの作成に本発明を適用することができる。
【0093】
(4)サーバ100は、原稿400を読み取って生成された参照スキャンデータを取得しているが、これに限らず、黒色で表現すべきオブジェクトを含むスキャンデータ(スキャナRGB値で表された画像データ)を取得すれば良い。
【0094】
(5)上記実施例の色変換テーブル作成システム1000は、複合機200のユーザがコピープロファイルを更新するために用いられているが、用途はこれに限られるものではない。例えば、複合機や、スキャナ、プリンタ、デジタルカメラ等の画像処理装置の製造者が、コピープロファイルを作成するために用いられても良い。また、上記実施例では、サーバ100がプロファイル補正処理を行っているが、複合機200や計算機300がプロファイル補正処理を行ってもよい。また、サーバ100は、1つの筐体の装置に限らず、複数の計算機を含む計算システム(例えば、いわゆるクラウドコンピューティングを実現する分散型の計算システム)によって構成されていても良い。
【0095】
(6)コピープロファイルPFDの代表値の数や、スキャナRGB色空間SCPにおける低明度範囲(0≦R≦32、0≦G≦32、0≦B≦32)などの細部の構成は、一例であり、適宜に変更されて良い。
【0096】
(7)上記実施例において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよく、逆に、ソフトウェアによって実現されていた構成の一部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0097】
100...サーバ、200...複合機、270...プリンタ部、280...スキャナ部、300...計算機、M20...プロファイル作成部、M30...プロファイル更新部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の色空間における第1種表色値の複数の代表値に、第2の色空間における第2種表色値をそれぞれ対応付けた基準プロファイルを補正して補正プロファイルを作成する方法であって、
(a)前記第1種表色値で表現された画像データであって、黒色で表現すべきオブジェクトを含む画像データを取得する工程と、
(b)前記オブジェクトを構成する複数の構成画素の複数の前記第1種表色値について、前記第1の色空間における分布状態を取得する工程と、
(c)前記分布状態を用いて、複数の前記代表値の中から、補正対象代表値を決定する工程と、
(d)前記補正対象代表値に対応付けられた前記第2種表色値を黒に近づけるように補正する工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記(d)工程において、前記分布状態に応じて前記第2種表色値を黒に近づける程度を変更する、方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の方法であって、
前記(b)工程は、複数の前記構成画素の少なくとも一部の前記第1種表色値を、前記第1の色空間に定められた複数の分類領域のいずれかに分類する工程であって、複数の前記分類領域のそれぞれは、複数の前記代表値のうち1つ以上の前記代表値を用いて構成されている、前記工程を含み、
前記(c)工程は、前記(b)工程における前記分類の結果を用いて、前記分類領域を構成する前記代表値を前記補正対象代表値とするか否かを決定する工程を含む、方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、
前記(c)工程は、最も多くの前記第1種表色値が分類された前記分類領域を構成する前記代表値を、少なくとも前記補正対象代表値に決定する工程を含む、方法。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の方法であって、
前記(c)工程は、
(c+1)複数の前記分類領域のそれぞれについて、特定種の分類領域であるか否かを判定する工程であって、前記特定種の分類領域は、基準数を超える個数の前記第1種表色値が分類される前記分類領域である、前記工程と、
(c+2)前記特定種の分類領域を構成する前記代表値を前記補正対象代表値に決定し、前記特定種の分類領域を構成しない前記代表値を前記補正対象代表値に決定しない工程と、
を含む、方法。
【請求項6】
請求項3ないし請求項5のいずれかに記載の方法であって、
前記補正対象代表値の少なくとも一部は、複数の前記特定種の分類領域を構成し、
前記(d)工程は、前記補正対象代表値が前記特定種の分類領域の構成に使用される頻度に応じた重み付けを用いて、前記補正対象代表値に対応付けられた前記第2種表色値を補正する工程を含む、方法。
【請求項7】
請求項3ないし請求項5のいずれかに記載の方法であって、
前記(d)工程は、前記補正対象代表値によって構成される前記分類領域に分類された前記第1種表色値の個数に応じた重み付けを用いて、前記補正対象代表値に対応付けられた前記第2種表色値を補正する工程を含む、方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の方法であって、
前記(c)工程において、前記第1の色空間における無彩色軸上に位置する前記代表値は、前記分布状態に拘わらず、前記補正対象代表値に決定されない、方法。
【請求項9】
画像処理装置であって、
第1の色空間における第1種表色値の複数の代表値に、第2の色空間における第2種表色値をそれぞれ対応付けた色変換プロファイルを格納する格納部を備え、
複数の前記代表値は、第1の代表値と、前記第1の代表値から見て、前記第1の色空間における黒色点から遠ざかる方向に位置する第2の代表値とを含み、
前記色変換プロファイルは、前記第1の代表値に対応付けられた第1の表色値であって前記第2種表色値である前記第1の表色値と、前記第2の代表値に対応付けられた第2の表色値であって前記第2種表色値である前記第2の表色値と、を含み、
前記第2の表色値は、前記第2の色空間において前記第1の表色値より黒色点に近いことを特徴とする、画像処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−26872(P2013−26872A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160532(P2011−160532)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】