説明

色変換装置

【課題】入力画像データを多原色表示装置用の画像信号に変換して画像を表示させる際に消費電力を増加させることなく色変換時間を短縮し且つカラートラッキングを抑制する。
【解決手段】三刺激値XYZから多原色表示装置用のデータに色変換する色変換装置であって、三刺激値XYZを線形計画法により変換し、この結果と基底/非基底の組合せのうちの非基底(nn-3*2n-3種類)を学習データとして用いることにより分類モデルを構築し、対応する基底部分の3*3逆行列を3*3色変換マトリクスとして生成する第1の処理手段と、構築された前記分類モデルと前記逆行列を用い、入力の三刺激値XYZから最適な非基底の組合せを求め、それに対応する行列による計算を行う第2の処理手段と、を具備し、基底部分の3原色については所定の色変換マトリクス作成方法により色変換マトリクスを作成し、作成した色変換マトリクスを用いて色変換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色変換マトリクス作成方法及び色変換装置に係り、特に、入力された画像信号を4個以上の原色を有する多原色表示装置用の画像信号に変換するための色変換マトリクス作成方法及び色変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高忠実色再現について幾つかの文献がみられる。例えば非特許文献1及び非特許文献2によれば、電子商取引、デジタルアーカイブ、遠隔医療などの分野での高忠実色再現の重要性が指摘されている。
【0003】
一方、色再現の精度を劣化させる原因の一つとして、表示装置の色域の狭さがある。均等色度図(UCS)において、HDTVの色域は人間の可視領域に比べて狭い。したがって、HDTVで表示可能な色の範囲は、可視領域に対して狭く表示域が充分でないことは明らかである。
【0004】
現在、HDTVよりも色域が広い表示装置の研究が行なわれてきている。ここでいう広色域表示装置とは、色度図上での再現範囲が広いだけでなく、最高輝度を低下させずに広色域の色を再現可能とする表示装置のことである。既存の装置のように三原色で広色域表示装置の開発を行なうためには、高彩度かつ高輝度な原色が必要である。一般に発光デバイスは彩度が高くなるにつれ発光効率は下がる。このため、三原色を使った広色域表示装置は効率の悪いものになる。これは次の2つの条件を満たす原色を用いることで解決できる。すなわち、高彩度だがそれほど高輝度でない原色、および、高輝度だがそれほど高彩度でない原色が必要となる。しかし、この場合、4つ以上の原色が必要になる。
【0005】
このような多原色カラー表示装置の一例として、多原色による広色域ディスプレイの一つであるオリンパス社製の6原色リア投射型表示装置を挙げることができる。原色を4つ以上用いることで、三原色の場合より効率のよい広色域表示装置が実現可能になる。しかし、原色が増えることで新たな問題も発生する。色変換の自由度もその一つである。既存の三原色表示装置では色の三刺激値XYZと三原色RGBは3対3の関係であるため変換に自由度は存在せず、ユニークに相互変換が可能である。しかし、原色の数が増えると三刺激値と原色が3対4以上の関係になるため、三刺激値から各原色の信号値の変換に自由度が発生し一意に変換を行なうことができない。これは、あるXYZを表示するための原色の組み合わせが複数存在するということを示している。このため、発光効率が悪い原色の組み合わせも存在してしまう。
【0006】
【数1】

【0007】
一方、ある原色nの三刺激値とそれに対応する入力信号値には以下の式(2)に記載の関係を仮定する。
【0008】
【数2】

【0009】
ただし、Xn,Yn,Znは、最高輝度を出力した際の原色nの三刺激値であり、Snは原色nに対する入力信号値である。Snは0≦Sn≦1の値を取るため、原色nの最高輝度を1で正規化した値と考えることができる。以降Snを原色nの相対輝度と呼ぶことにする。式(1)および式(2)をまとめ、行列を用いて表すと、各原色の相対輝度値から三刺激値XYZの変換は次の式(3)で与えられる。
【0010】
【数3】

【0011】
さらに、式(3)よりXYZから各原色の相対輝度への変換は次の式(4)となる。
【0012】
【数4】

【0013】
ここで、式(4)において原色数が3の時、係数行列は正方行列となるため、逆行列が一意に決まり、問題なく変換を行うことができる。しかし原色数が4以上になると、係数が3×n(n>3)の行列になるため一意に逆行列を求めることができない。
【0014】
この問題に対処するための幾つかの研究が行われ、非特許文献4乃至非特許文献6に開示されている。
【0015】
非特許文献4では、色再現にCIE−XYZ等色関数を用いず、観測者ごとに等色関数を使い分ける方法や、マルチスペクトルカメラで推定された分光放射輝度の形状を再現する方法を提案している。等色関数の次元数を表示装置の次元数に合わせることや、自由度がない分光放射輝度を再現することで一意に色変換を行うことができる。しかし、個人ごとに等色関数を測定したり、マルチスペクトルカメラを用いたりするのは現実的な方法ではない。
【0016】
非特許文献5では、原色によって作られる色域を領域分割し優先順位をつけることで一意に色変換を行う方法を提案している。この方法は高速な変換を行うことができるという利点を持っているが、領域ごとの優先順位のみで自由度を解消しており、自由度の他の有効な利用法を考慮することができない。
【0017】
非特許文献6文献では、等輝度な3点による、線形補間法を用いることで、自由度がない変換を行うことができる。しかし、非特許文献5と同様に、自由度のほかの有効な利用法を考慮することができない。
【0018】
線形計画問題は制約条件下で目的関数zを最大、あるいは最小にする最適化問題であり、制約条件や目的関数が線形式として表される。この問題については、非特許文献7が参考となる。線形という条件の下で問題を代数的に扱うことができるため、非線形最適化問題に比べ単純に最適解を得ることができる。線形計画問題の標準形を式(5)に示す。
【0019】
【数5】

【0020】
一方、線形計画法には次の2つの基本定理が与えられている。すなわち、第1は「実行可能な解か存在するならば、必ず実行可能な基底解が存在する」、第2は「最適解が存在するならば、実行可能な基底解の中にも最適解が存在する」というものである。
【0021】
この定理を用いることで有限回の組み合わせ探索により最適解を得ることができる。しかし、変数の数が増えると組み合わせの数が多くなり処理に時間がかかる。そこで用いるのがシンプレックス法である。シンプレックス法では、相対費用係数を用い最適性を判断することで線形計画法の基本定理を効率よく利用し最適解を得ることができる。
【0022】
次に、色変換における線形計画法について記述する。線形計画法を色変換に用いるには各原色の相対輝度値からXYZへの変換式ならびに相対輝度値のとりうる範囲を制約条件とし、何らかの目的関数を設定すればよい。色変換の問題を線形計画法の標準形に直したものを次の式(6)に示す。
【0023】
【数6】

【0024】
式(5)と式(6)を比較すると、通常の線形計画問題と比べて2つの違いが存在する。1つは変数の取りうる範囲である。通常の線形計画問題は変数の取りうる範囲は0≦Xnであるが、色変換を行う上で、相対輝度の範囲は0≦Sn≦1となっており、このままではシンプレックス法を適用することができない。これは、Sn≦1に対し不足変数を導入し、Sn+a=1として制約条件に組み込んで解くか、上限法を用いることで対処可能である。この問題の参考書としては、非特許文献8がある。
【0025】
もう1つ、色変換の問題に不足/余裕変数(dj)が存在しないという違いがある。通常の線形計画法では不足/余裕変数を非基底変数(=0)とすることで、初期実行可能基底解を求め、それを用いてシンプレックス法を進めていく。色変換で用いる線形計画法では、不足/余裕変数がないうえに、変数に上限値が与えられているため、0と1の、2種類の非基底変数の様々な組み合わせを探さなければならず、初期実行可能基底解を探すことが困難になる。このためには、2段階シンプレックス法を用いる必要がある。2段階シンプレックス法は、第一段階で初期実行可能基底解を見つけるか、あるいは存在しないという情報を得る。第二段階で初期実行可能基底解から最適解を見つけるか、あるいは解が有界ではない(どこまでも小さい解がある)という情報を得る。
【0026】
次に、消費電力を考慮した色変換について記述する。上述により制約条件が決まったため、あとは目的関数さえ与えれば色変換を行うことができる。多原色の色変換には自由度が存在するため、自発光型の表示装置では、消費電力を大きくする原色の組み合わせも存在する。線型計画法を用いて消費電力を最小にする原色の値を求めるには、原色nの相対輝度Snと消費電力Pnを次の式(7)のような線形式で表さなければならない。また、式(7)を満たす多原色表示装置の消費電力は式(8)となる。
【0027】
n=cn×Sn ・・・(7)
1+P2+・・・+Pn=c11+c22+・・・cnn ・・・(8)
上述の式(8)は式(6)の目的関数zと一致する。実際に消費電力が式(8)のような線形式となる階調制御の一方法として時間階調制御がある。また、その他の制御方法も非線形ではあるが、消費電力が高くなるにつれ、輝度も高くなるという特徴を持っている。線形計画法において目的関数の精度がそれほど正確でなくとも得られる基底解は制約条件を満たしている。このため、たとえ相対輝度と消費電力の関係を式(7)として近似しても、それほど問題はない。
【0028】
上述の線形計画法では、表示装置の消費電力を削減できるが、大型表示装置では色変換に要する処理時間が長い。例えば、SHIPP XYZ画像では、線形計画法により色変換を行うと、1枚のSHIPP画像について処理時間は3分10秒であった。一方、3原色の場合には、マトリクス計算のとき、色変換時間は14秒である。このように、3×3マトリクス計算に比べて線形計画法では色変換時間が著しく増加する。
【0029】
このような多原色表示装置に対する上述の色変換方式では、線形計画法を利用することにより表示装置の消費電力を増加させることなく色変換の目的は達せられるが、色変換時間が著しく増加するという課題がある。これを決定木を導入して解決することにより、表示装置の消費電力を増加させることなく色変換時間を短縮することが求められる。
【0030】
また、前述したように、電子商取引や遠隔医療などの場において、忠実に色を再現することが求められている(例えば非特許文献9参照)が、既存の画像システムでは、機器に依存した色再現を行っているため、ディスプレイに表示される色が機器によって異なって見える。
【0031】
この問題に対処するため、カラーマネージメントシステム(CMS)がある(例えば非特許文献10参照)。CMSにおいて、ディスプレイの色再現にはICC(International Color Consortium) プロファイル(例えば非特許文献3参照)を利用したShaper/Matrix Model(例えば非特許文献11参照。以下、S.M.Mと称する。)が用いられている。
【0032】
S.M.Mの色再現には各原色の最高輝度の三刺激値XYZを使用している。正確な色再現を行うためには、各原色の輝度の変化に対し、色度が一定であることが条件となっている。しかし、幾種類かのディスプレイ、例えば液晶を用いた一部のディスプレイに低輝度領域で色度がずれるカラートラッキングが生じる(図8参照)ため、正確な色再現ができない(例えば非特許文献12参照)。そこで、これまでに、カラートラッキングに対応した方式(以下、忠実色再現方式と記す)が報告されている(例えば非特許文献13参照)。
【0033】
しかしながら、上記の忠実色再現方式では、画素ごとに色変換マトリクスを作成しているため、多大な色変換時間を要する、という問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0034】
【非特許文献1】山口雅浩、羽石秀昭、大山永昭著「スペクトルに基づく高色再現映像システム−ナチュラルビジョン」映像情報メディア学会技術報告、26巻、58号、7〜12頁、2002年
【非特許文献2】「ヒューマンパーセプションに基づく高詳細カラーマネージメントシステムの開発−その美術館、博物館収蔵品の記録再現への応用」平成8、9年度IPA独創的情報技術育成事業成果報告
【非特許文献3】「International Color Consortium:“ICC Profile Specification Version 3.2”」1995(「国際カラーコンソーシアム、“ICCプロファイル仕様、第3.2版”」1995年)
【非特許文献4】寺地剛志、大澤健郎、山口雅浩、大山永昭著「6原色ディスプレイを用いた等色実験」カラーフォーラムJAPAN 2001、97〜100頁 2001年
【非特許文献5】Takeyuki AJITO、Kenro OHSAWA、Takashi OBI、Masahiro YAMAGUCHIand Nagaaki OHYAMA著「Color Conversion Method for Multiprimary Display UsingMatrix Switching」Optical Review、Vol.8、No.3、pp.191−197(2001)(アジトタケユキ、オオサワケンロウ、オビタカシ、ヤマグチマサヒロ、オオヤマナガアキ著「マトリックススイッテを使った多原色表示装置の色変換法」オプティカルレビュー誌、8巻、3号191〜197頁(2001年))
【非特許文献6】Hideto Motomura著「Color conversion for a multi−primarydisplay using linear interpolation on equi−luminance plane method(LIQUID)」Journal of the SID、11/2、pp.371−387(2003)(モトムラヒデオ著「等輝度面上の線形内挿法を使った多原色表示装置の色変換」SIDジャーナル誌、11巻、2号371〜387頁(2003年))
【非特許文献7】坂和正敏著「線形システムの最適化<一目的から多目的へ>」森北出版 1984年
【非特許文献8】G.B.Dantzig著「Upper bounds、 secondary constraints andblock triangularity in linear programming」Econometrica、23、pp.174−183(1955)(ジー.ビー.ダンツィッヒ著「線形プログラミングにおける上限、第2の制限、およびブロッタ三角形」エコノメトリカ、23巻、174〜183頁1955年)
【非特許文献9】香川周一,杉浦博明,"カラーマネージメント技術の現状と将来",三菱電機技報,vol.76,No.11,pp.739-742,(2002).
【非特許文献10】MD研究会 他 "図解カラーマネージメント実践ルールブック2005-2006",MD研究会,(株)ワークスコーポレーション,pp.52-53,(2005).
【非特許文献11】Dawn Wallner,"Building ICC profiles-the Mechanics and Engineering",(2000).
【非特許文献12】内海友香 他 "液晶ディスプレイにおける色調の輝度依存性に関する検討",映像情報メディア学会誌,vol.25,No.72,pp.13-18,(2001).
【非特許文献13】島津喬守,高矢昌紀,大橋剛介,下平美文,"ディスプレイにおけるカラートラッキングに対応した高忠実色再現方式",電子情報通信学会技術研究報告,vol.103,No.649,pp.37-40,(2004).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、入力画像データを、4個以上の原色を有する多原色表示装置用の画像信号に変換して画像を表示させる場合に、消費電力を増加させることなく色変換時間を短縮することができると共に、カラートラッキングを抑制することが可能な色変換マトリクス作成方法及び色変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0036】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明の色変換マトリクス作成方法は、XYZ表色系の三刺激値XYZを、多原色表示装置で表示可能な予め定めたn原色(n≧4)の中から選択した3原色の組合わせにおける3原色信号値に変換するための色変換マトリクスを、各原色の特性に基づいて作成する色変換マトリクス作成方法であって、所定階調の三刺激値XYZに対応する3原色信号値を所定の色変換マトリクスを用いて求めるステップと、求めた3原色信号値に対応する3原色階調値を前記多原色表示装置の中間調再現特性から求めるステップと、求めた3原色階調値に対応する三刺激値XYZを前記多原色表示装置のデバイスプロファイルから求めるステップと、求めた所定階調の三刺激値XYZの輝度を基準階調の三刺激値XYZの輝度に合わせた上で、前記所定階調の三刺激値XYZと前記基準階調の三刺激値XYZとの色差を求めるステップと、求めた色差が予め定めた閾値を越える場合、当該所定階調の三刺激値XYZに基づいて色変換マトリクスを作成して記憶すると共に、前記基準階調を当該所定階調に変更するステップと、前記所定階調を1階調又は複数階調変更するステップと、を含む処理を全階調について繰り返し実行する処理を、3原色全てについて且つ3原色の組合わせ全てについて実行すると共に、前記閾値は、3原色のうち最も短波長の原色については、他の原色の閾値よりも小さい値に設定されることを特徴とする。
【0037】
この発明によれば、求めた所定階調の三刺激値XYZの輝度を基準階調の三刺激値XYZの輝度に合わせた上で、所定階調の三刺激値XYZと基準階調の三刺激値XYZとの色差を求める。そして、求めた色差が予め定めた閾値を越える場合、当該所定階調の三刺激値XYZに基づいて色変換マトリクスを作成して記憶する処理を3原色全てについて且つ3原色の組合わせ全てについて実行する。このため、色差が閾値を越える階調について色変換マトリクスが原色毎に作成される。
【0038】
そして、色変換時には、作成された複数の色変換マトリクスの中から階調に応じた最適な色変換マトリクスを選択して色変換することにより、高精度で且つ高速な色変換が可能となる。
【0039】
また、閾値は、3原色のうち最も短波長の原色については、他の原色の閾値よりも小さい値に設定する。すなわち3原色のうち最も波長が短い原色については、他の原色よりも精度良く色変換できるように閾値を厳しく設定する。このため、短波長の原色を精度良く色変換することができ、色の見えを良好とすることができる。
【0040】
また、請求項2記載の発明の色変換装置は、XYZ表色系の三刺激値XYZからn原色(n≧4)の多原色表示装置用のデータに色変換する色変換装置であって、三刺激値XYZを線形計画法により変換し、この結果と基底/非基底の組合せのうちの非基底(nn-3*2n-3種類)を学習データとして用いることにより分類モデルを構築し、対応する基底部分の3*3逆行列を3*3色変換マトリクスとして生成する第1の処理手段と、構築された前記分類モデルと前記逆行列を用い、入力の三刺激値XYZから最適な非基底の組合せを求め、それに対応する行列による計算を行う第2の処理手段と、を具備し、前記基底部分の3原色については、前記請求項1記載の色変換マトリクス作成方法により色変換マトリクスを作成し、作成した色変換マトリクスを用いて色変換することを特徴とする。
【0041】
この発明によれば、線形計画法による色変換を離散分類問題とみなし、線形計画法による色変換結果を分類モデルで帰納学習させることで、分類と単純行列計算により色変換処理を行い、色変換時間を短縮することが可能となる。また、基底部分の3原色については、前記請求項1記載の色変換マトリクス作成方法により色変換マトリクスを作成し、作成した色変換マトリクスを用いて色変換するので、カラートラッキングを抑制することができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、入力画像データを、4個以上の原色を有する多原色表示装置用の画像信号に変換して画像を表示させる場合に、消費電力を増加させることなく色変換時間を短縮することができると共に、カラートラッキングを抑制することが可能な、という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】多原色表示装置の色変換方式の一例である。
【図2】決定木に基づく色変換の計算例を示す説明図である。
【図3】決定木を使った色変換の結果を-表す出力例である。
【図4】色変換装置の概略ブロック図である。
【図5】中間調再現特性の一例を示す線図である。
【図6】色変換マトリクス作成部で実行される色変換マトリクス作成処理のフローチャートである。
【図7】色変換部で実行される色変換処理のフローチャートである。
【図8】カラートラッキングについて説明するための色度図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
線形計画法を用いて多原色色変換を行うと、変換速度が遅くなるという問題がある。線形計画法の色変換の利点を損なわず、色変換を行うためには、線形計画法による色変換の結果を帰納学習させる方法が考えられる。この場合、入力値をXYZ三刺激値、出力値を多原色の色信号としてモデルを構築するのが最も単純な方法である。しかし、連続値である多原色の色信号を精度良く出力するためのモデルを構築するのは難しい。そこで、本発明では、線形計画法による色変換の結果を離散値として扱い、これらを分類モデルに帰納学習させ、色変換を行う。
【0045】
高忠実色再現を保証しつつ、高速化を実現するためには、直接色信号を出力するモデルではなく、線形計画法の基底/非基底の組合せを利用すればよい。線形計画法を用いた色変換方式では、得られる解のうち(原色数−3)は最高に光らせる(階調:255、すなわち信号値Siが1.0、iは原色を示す数字、以下同じ)、あるいはまったく光らせない(階調:0、すなわち信号値Siが0)となる。これら両極端の解は、非基底解と呼ばれる。多原色色変換における線形計画法の最適解は、最適な非基底の組合せ(nn-3*2n-3)が決定されれば、これらの組合せを分類モデルの出力値とすることで、得られた出力値に適合した3*3の変換マトリクスを用いて、三原色システムとして扱うことが可能である。この方式によれば、単純に行列演算を行うだけで、線形計画方の利点を損なうことなく、忠実度を保ったまま高速に多原色色変換を行うことが可能になる。
【0046】
上述の線形計画法による結果を分類モデルで学習する。今回はクラス分類を行うためのモデルとして決定木を採用する。決定木は決して高速な分類モデルではないため、より高速化を行うためにはその他のモデルの導入も考える必要がある。また、決定木の実装としではルールベースのC4.5を用いるのが適切である。ルールは、X’<X<X”のように与えられるため、ルールベースのC4.5はXYZ空間の直方体による領域分割を行っていると考えられる。
【0047】
以上を取りまとめると、本発明による多原色表示装置の色変換装置は、図1に示すように、線形計画法による色変換結果を分類モデルに学習させる第1の処理手段と、分類モデルと行列計算に基づく色変換を行う第2の処理手段とを具備して構成され、線形計画法に基づく処理手段の計算処理の負荷を削減できるように構成したものである。
【0048】
線形計画法による色変換結果を分類モデルに学習させる処理部分は、入力値であるXYZと線形計画法を用いて色変換して得られる最適解のうちの前記非基底解の(nn-3*2n-3)の組合せを用い、数多くのXYZ対非基底の組合せの関係により分類モデルを帰納学習し、前記出力値に適合した3*3の色変換マトリクスを用いて前記出力値を3原色として取り扱うためのものである。
【0049】
分類モデルと行列計算に基づく色変換処理手段は、構築された分類モデルにより、入力のXYZから、最適な非基底解の組合せを出力し、その出力値に適合した3*3の色変換マトリクスを用いて色変換を行う。
【0050】
上述の発明について詳細に確認するため、実際の画像について具体的な計算処理を実行し、その色変換の処理時間を求める。処理はモデルの構築とモデルによる色変換に分けて考える。n原色表示装置(n≧4)において考え得る非基底解の組合わせ総数は(M=nn-3*2n-3)であり、多数のXYZに対し線形計画法による色変換を行い、得られた最適解が総数Mの中のどの組合わせであるかを出力し、これらの結果を学習データ利用して分類モデルを構築する。一方、本発明のモデルによる色変換を図2に示す。入力の(Xc,Yc,Zc)を分類モデルに入力することで、総数Mの非基底解の組合わせの中から、学習結果を反映した非基底解(S4,S5,S6)が得られ、残りの基底解(S1,S2,S3)は行列計算により求まる。さらに得られた信号値からトーンカーブを用いてディジタル信号としての階調値が求められる。
【0051】
多原色(n原色)色変換では、上述の背景技術において説明したように、式の数は3つ、変数の数はnである。このため、変数がn個、式が3個となり、自由度はn−3となる。以上のことから、非基底(0と上限値1)の組合せは、L=nn-3n-3通り存在することになる。最適解を求めるために線形計画法を解くということは、L通りの中から最適な一つの組合せを選ぶことと等しい。
【0052】
これは明らかに離散分類問題である。分類問題を解くためには様々な方法がある。SHIPPやXYZを取得可能なカメラにより撮影された画像から、あらかじめ線形計画法で色変換を計算しておく。このあらかじめ計算しておいた結果を訓練データとして利用し、モデルを学習させる必要がある。
【0053】
このような方法で色変換を行う手順は次のとおりである。第1に、もし可能ならば、L通りの逆行列をあらかじめメモリにロードしておく。第2に、構築したモデルにXYZを入力することにより、L通りのうちのひとつの組合せを求める。第3に、その組合せに対応する逆行列を用いて色変換を行う。
【0054】
上述の方法には2つの問題点がある。第1は、解を間違えること、すなわち上述のL通りの中から誤った組合せを出力することであり、第2は、解が求められないことである。第1の問題点は、最適解は得られないという問題を含むことはあるが、色変換という点では特に問題はない。L通りのどの組合せであれ、解が求められたのならば、色変換は可能である。第2の問題も、解が求められない場合は線形計画法に渡すことで解決可能である。
【0055】
そこで、本発明者らは分類手法のひとつである決定木を使って色変換の結果を学習させた。決定木を使ったのは、以下の3つの理由からである。
【0056】
第1に、出力クラスが離散値を扱うことができる。第2に線形領域分割的にクラス分類を行うことができる。第3に、学習結果として、分類するための規則を文章で出力することが可能であるため、プログラムに組み込みやすい。
【0057】
使った決定木パッケージはC4.5である。学習データ数は11102で、デフォルトのオプションで学習させた結果、ルール数が198となった。出力結果の一例を図3に示す
図3において、X,Y,Zの値は細かい桁を捨てるため100倍して整数型にした。出力クラスは*が基底、1、0は非基底であり、左からLr,Lg,Lb,Rr,Rg,Rbとなっている。ここで、Lr,Lg,Lbはそれぞれ、短波長側のr、g、bの原色の色信号(相対輝度)、Rr,Rg,Rbはそれぞれ、長波長側のr,g,bの原色の色信号である。
【0058】
線形計画問題であるため、線形の最適解空間が構成されているはずであるが、結果としては、198通りの条件が出力された。一方、学習に用いた画像では暗い部分にノイズデータが含まれるため、最低出現頻度条件オプションを変えて上述の結果を学習させた結果、156のルールが生成された。
【0059】
色変換処理の高速化について述べたので、線形計画法と分類法で簡単に色変換の計算時間を比較する。線形計画法では、XYZの値が入力されると、多原色の信号値が出力される。一方、分類法を用いると、XYZが入力されたときの出力は、基底と非基底の組合せパターンである。多原色の信号値を求めるためには、さらに、得られたパターンから逆行列を求め、それを用いて行列の演算を行う必要がある。逆行列は、使う数が限られているため、あらかじめ用意しておけばよい。高速化の確認だけを行ったため、行列等は、乱数によって生成されたものを用い、計算の負荷は色変換と同等になるようにした。
【0060】
XYZを取得可能な撮像装置により撮影された画像の画素数に相当する回数、すなわち、1392*1040回だけランダムに計算したX,Y,Zを用い、線形計画法と分類法で色信号値の計算を行った。線形計画法における計算時間は42.5秒であった。一方、分類法による計算時間は、4.5秒であった。分類法を用いることで高速化が可能であるといえる。他の実例では、例えば4,096×3,072画素の解像度をもった、16×3ビットよりなるSHIPPの画像(ヨット)について、6原色表示の場合には色変換時間が320秒から21秒に短縮される。
【0061】
また、本実施形態では、3つの基底解(原色)S1、S2、S3について、カラートラッキングを抑制すると共に色変換時間を短縮することが可能な色変換を行う。なお、以下では、適用される多原色表示装置の原色の数を6とし、a1〜a6で表すこととする。
【0062】
このような3つの原色S1、S2、S3について色変換を行う色変換装置10の概略ブロック図を図4に示した。図4に示すように、色変換装置10は、色変換マトリクス作成部12、記憶部14、及び色変換部16を含んで構成されている。なお、本実施形態では、一例として3つの基底解がS1、S2、S3である場合について説明しているが、その他の組合わせ、例えばS2,S4,S6が基底解となる場合も当然あり得るのであり、その場合はその基底解について色変換装置10による色変換を行う。
【0063】
詳細は後述するが、色変換マトリクス作成部12は、記憶部14に記憶されたデバイスプロファイル(測色データ)や中間調再現特性(TRC)データ等に基づいて、色変換マトリクスの係数を求めることにより色変換マトリクスを作成する。
【0064】
色変換部16は、色変換マトリクス作成部12で作成された色変換マトリクスを用いて、入力された3つの原色S1、S2、S3の画像データ(3原色データ)を、カラートラッキングが抑制される画像データ(色変換データ)に変換して出力する。
【0065】
記憶部14には、6原色で表される画像を表示する多原色表示装置であってカラートラッキングが生じ得る表示装置のデバイスプロファイルや、6原色それぞれの中間調再現特性データ、後述する色変換マトリクス作成部12で実行される色変換作成処理のプログラム及び色変換部16で実行される色変換処理のプログラム等が予め記憶されている。
【0066】
デバイスプロファイルは、ここでは6原色a1〜a6の中から選択した3原色の全階調に対応する三刺激値XYZのデータである。6原色の中から3原色を選択する組合わせは63=20通りであるため、組合わせの数だけデバイスプロファイルが用意される。デバイスプロファイルは以下のようにして求める。例えば選択した3原色の階調値を原色毎に数階調刻み(例えば8階調刻み)で変化させて表示装置に入力し、その都度表示装置から出力された色を測色計で測色して各原色数階調刻みの三刺激値XYZを得る。それ以外の階調の三刺激値XYZについては線形補間等により得る。これにより、3原色全階調に対応する三刺激値XYZが得られる。なお、3原色全階調に対応する三刺激値XYZを測色により求めても良い。
【0067】
図5は、液晶プロジェクタのある原色の中間調再現特性(原色がRGB3原色の場合)の一例を示す。同図に示すように、中間調再現特性は、その表示装置のRGB階調値(入力値)とRGB信号値(出力値)との対応関係を示すものであり、RGBの各原色について予め求められる。中間調再現特性データは、同図に示すような中間調再現特性を表すデータ、すなわちRGB階調値とRGB信号値との対応関係を示すテーブルデータや式であり、原色毎に記憶部14に予め記憶される。なお、本実施形態では6原色の多原色表示装置用の色変換マトリクスを作成して色変換するため、6原色それぞれの中間調再現特性データが予め記憶部14に記憶される。
【0068】
ここで、従来におけるS.M.MにおけるXYZ表色系の画像データからRGB表色系の画像データへの色変換について説明する。S.M.Mでは、次式を用いて入力の三刺激値XYZを0〜1のRGB信号値(相対値)に変換する。
【0069】
【数7】

【0070】
ここで、色変換マトリクスの各係数XR、YR、ZR、XG、YG、ZG、XB、YB、ZBの値は、デバイスプロファイルより得られる各原色の最大階調である階調値255の場合の三刺激値XYZからバイアス成分である階調値0の三刺激値XYZを引いた値である。すなわち、XR、YR、ZRは、階調値255のRに対応する三刺激値XYZから階調値0のRに対応する三刺激値XYZを引いた値であり、XG、YG、ZGは、階調値255のGに対応する三刺激値XYZから階調値0のGに対応する三刺激値XYZを引いた値であり、XB、YB、ZBは、階調値255のBに対応する三刺激値XYZから階調値0のBに対応する三刺激値XYZを引いた値である。なお、以下では、デバイスプロファイルより得られる原色p(=R,G,B)の階調値n(=0〜255)の三刺激値XYZ、すなわち色変換マトリクスの各係数をXpn、Ypn、Zpnで表す。例えば上記のように階調値255の原色R,G,Bに対応する三刺激値XYZは、それぞれXR255、YR255、ZR255、XG255、YG255、ZG255、XB255、YB255、ZB255で表される。
【0071】
そして、図5に示すような中間調再現特性を表す中間調再現特性データを用いて、RGB信号値からRGB階調値を求める。すなわち、R用の中間調再現特性データを用いてRの信号値からRの階調値を求め、G用の中間調再現特性データを用いてGの信号値からGの階調値を求め、B用の中間調再現特性データを用いてBの信号値からBの階調値を求める。
【0072】
このように、S.M.Mでは、常に各原色の最高輝度(最大階調)の三刺激値XYZをマトリクス演算に使用しているため、カラートラッキングの影響が考慮されておらず、カラートラッキングが生じる表示装置では最適な色再現が得られない。
【0073】
本実施形態では、詳細は後述するが、各原色について階調値に応じて複数の色変換マトリクスを作成し、色変換時には、階調値に適した色変換マトリクスを選択して色変換する。これにより、カラートラッキングが生じる表示装置においても高速且つ高精度な色再現が可能となる。
【0074】
次に、色変換マトリクス作成部12において実行される色変換マトリクス作成処理について、図6に示すフローチャートを参照して説明する。
【0075】
まずステップ100では、色変換マトリクス作成部12は、後述する基準階調dを設定する。本実施形態では、一例として各原色を8ビットデータで表し、各々0〜255の256階調として、最大階調である255を基準階調として設定する。
【0076】
ステップ101では、6原色a1〜a6の中から選択した3原色の組合わせ20通りの中から1つの組合わせを選択する。なお、本実施形態では、説明を簡単にするために、最初に選択された3原色の組合わせがa1、a2、a3であり、その3原色がR、G、Bである場合について説明する。
【0077】
ステップ102では、色変換マトリクス作成対象の原色を設定する。本実施形態では、3原色a1、a2、a3(R,G,B)の各々について色変換マトリクスを作成するので、最初は例えばa1に設定する。
【0078】
ステップ104では、XYZ表色系の画像データをRGBの画像データに変換するための色変換マトリクスの初期色変換マトリクスを設定する。
【0079】
ここでは、一例として上記(9)式の色変換マトリクスの各係数を、基準階調である階調値255の原色R,G,Bに対応する三刺激値XR255、YR255、ZR255、XG255、YG255、ZG255、XB255、YB255、ZB255に設定する。これらの値は記憶部14に記憶されたデバイスプロファイルより得られる。
【0080】
ステップ106では、上記(9)式のXYZに、デバイスプロファイルより得られるR,G,B各々の階調eの三刺激値XYZの和を入れ、RGB信号値を求める。本実施形態では、最初の階調eは最大階調である255とする。すなわち、上記(9)式のXには(XR255+XG255+XB255)を入力し、Yには(YR255+YG255+YB255)を入力し、Zには(ZR255+ZG255+ZB255)を入力してRGB信号値を求める。
【0081】
ステップ108では、記憶部14に記憶された各原色の中間調再現特性データを用いてRGB信号値からRGB階調値を求める。すなわち、R用の中間調再現特性データを用いてRの信号値からRの階調値を求め、G用の中間調再現特性データを用いてGの信号値からGの階調値を求め、B用の中間調再現特性データを用いてBの信号値からBの階調値を求める。
【0082】
ステップ110では、ステップ108で求めたRGB階調値に対応する三刺激値XYZを記憶部14に記憶されたデバイスプロファイルより得る。
【0083】
ステップ112では、ステップ110で求めた階調eの三刺激値XYZと、基準階調dの三刺激値XYZとの色差を求める。前述したように最初の基準階調dは最大階調である255であるので、デバイスプロファイルより得られる階調255のRに対応する三刺激値XYZを比較対象の三刺激値XYZとし、これとステップ110で求めた階調eの三刺激値XYZとの色差を求める。なお、色差を求める際には、階調eの三刺激値XYZの輝度を基準階調dの輝度に合わせた上で、両者の三刺激値XYZをLab表色系のデータに変換してから色差を求める。すなわち、階調eの三刺激値XYZのYを基準階調の三刺激値XYZのYに置き換え、さらに階調eの三刺激値XYZのX、Zに所定係数を乗算することにより、階調eの三刺激値XYZの輝度を基準階調dの輝度に合わせる。ここで、所定係数は基準階調の三刺激値XYZのYを階調eの三刺激値XYZのYで除算した値である。具体的には、階調eの三刺激値をXe、Ye、Zeとし、基準階調dの三刺激値をXd、Yd、Zdとした場合、Xe'=Xe×(Yd/Ye)、Ye=Yd、Ze'=Ze×(Yd/Ye)として、三刺激値Xe'YeZe'と三刺激値XdYdZdとの色差を求める。なお、色差は、例えばCIE2000色差式(例えば下記非特許文献14参照)により求める。
【0084】
ステップ114では、求めた色差が予め定めた閾値を越えているか否かを判断する。忠実な色再現であるか否かの判断は人間が行うため、マトリクス変換を許容する判定基準である閾値には、例えば2つの色から人間の目で知覚される色の違いである色差(例えば下記非特許文献15参照)を用いることができる。また、具体的な閾値の値としては、その閾値を設定すれば、作成される色変換マトリクスの数と平均色差との関係から色変換時間及び平均色差が許容範囲内となる値(例えば0.2程度)を用いる。
【0085】
また、閾値は、例えば3原色のうち最も波長が短い原色については他の原色よりも小さい値(例えば1/2以下)に設定する。換言すれば、3原色のうち最も波長が短い原色については、他の原色よりも精度良く色変換できるように閾値を厳しく設定する。ここでは、RGBのうち最も短い波長はBであるので、他の原色R,Gについて閾値を例えば0.2に設定した場合には、Bの閾値は例えば0.1に設定する。このように閾値を設定するのは、3原色トータルで色差が同じであっても、短波長の原色を精度良く色変換する方が色の見えが良好となるためである。なお、閾値の設定は、3原色の組合わせに応じて適宜変更するようにしてもよい。
【0086】
そして、ステップ110で求めた三刺激値XYZと、比較対象である基準階調dの三刺激値XYZとの色差が閾値を越えている場合にはステップ116へ移行し、そうでない場合にはステップ120へ移行する。
【0087】
ステップ116では、色変換マトリクスを更新し、更新した色変換マトリクスを記憶部14に記憶する。色変換マトリクスの更新は、現在の色変換マトリクスの係数XR,YR,ZRを、ステップ110で求めた階調eの三刺激値XeYeZeに更新することによって行う。
【0088】
そして、ステップ118では、基準階調dを現在の階調eに変更する。このように、色差が閾値を越えた場合に基準階調dを現在の階調eに変更し、色差が閾値以下である場合には、基準階調dは変更せずそのままとする。
【0089】
ステップ120では、原色Rの全階調についてステップ106〜118の処理が終了したか否か、具体的には階調eが0になったか否かを判断する。そして、原色Rの全階調についてステップ106〜118の処理が終了した場合には、ステップ124へ移行し、そうでない場合には、ステップ122へ移行する。
【0090】
ステップ122では、階調eを一つ下げてステップ106へ戻る。2回目のステップ106では、上記(1)式のXYZに入る三刺激値XYZのR成分を、階調を一つ下げた値にする。すなわち、上記(1)式のXには(XR254+XG254+XB254)を入力し、Yには(YR254+YG254+YB254)を入力し、Zには(ZR254+ZG254+ZB254)を入力する。以下同様に処理する。
【0091】
これを階調eが0になるまで実行すると、ステップ120が肯定判断され、ステップ124へ移行する。
【0092】
ステップ124では、ステップ101で選択した組合わせの3原色全てについてステップ102〜122の処理が終了したか否かを判断し、終了した場合にはステップ125へ移行し、終了していない場合には、ステップ102へ移行してG、Bについても上記と同様の処理を行う。なお、前述したように、RGBのうち最も短い波長であるBについて上記と同様の処理を行う際には、ステップ114の閾値をR,Gよりも小さい値に設定する。
【0093】
RGB全てについてステップ102〜122の処理が終了した場合には、ステップ125において、3原色の組合わせ20通り全てについてステップ101〜124の処理が終了したか否かを判断し、終了した場合にはステップ126へ移行し、終了していない場合には、ステップ101へ移行して他の3原色の組合わせについても上記と同様の処理を行う。
【0094】
ステップ126では、作成した全ての色変換マトリクスの係数を色変換部16へ出力して本ルーチンを終了する。色変換部16では、色変換マトリクス作成部12から出力された各原色の色変換マトリクスの係数を記憶しておく。
【0095】
このように、本実施形態では、階調eの三刺激値XYZの輝度を基準階調dの三刺激値XYZの輝度に合わせた上で両者の色差を求め、求めた色差が閾値以上の場合には色変換マトリクスを新たに作成する処理を、3原色の組合わせ全てにおける各原色の全階調について行う。これにより、3原色の組合わせ全てにおける各原色について色差が閾値以上となった数だけ色変換マトリクスが作成される。なお、以下では、色差が閾値以上となった階調値、すなわち色変換マトリクスの作成変更を行った階調値(色変換時に色変換マトリクスを変更する階調値)をマトリクス変更階調値と称する。
【0096】
次に、色変換部16において実行される3つの原色(基底解)S1、S2、S3の色変換を行う色変換装置10の色変換処理について、図7に示すフローチャートを参照して説明する。なお、本実施形態では、説明を簡単にするために、3原色S1、S2、S3がa1、a2、a3であり、これらがR、G、Bである場合について説明する。
【0097】
まず、ステップ200では、記憶部14に記憶された中間調再現特性データを用いて、RGB信号値からRGB階調値を求める。すなわち、R用の中間調再現特性データを用いてRの信号値からRの階調値を求め、G用の中間調再現特性データを用いてGの信号値からGの階調値を求め、B用の中間調再現特性データを用いてBの信号値からBの階調値を求める。
【0098】
ステップ202では、ステップ200で求めたRGB階調値に対応した色変換マトリクスを各原色について選択する。色変換マトリクスは、3原色がR,G,Bの場合に作成した色変換マトリクスの中から選択する。
【0099】
例えばRのマトリクス変更階調値が240、225、210・・・であったような場合において、ステップ200で求めたRの階調値が255〜241の範囲内の値であった場合は、マトリクス変更が行われる前の階調であるため、各原色の最大階調である階調値255の三刺激値XYZの値が係数である色変換マトリクスが選択される。また、ステップ200で求めたRの階調値が240〜226の範囲内であった場合は、マトリクス変更階調値が240の時に作成した色変換マトリクスを選択する。また、ステップ200で求めたRの階調値が225〜211の範囲内であった場合は、マトリクス変更階調値が225の時に作成した色変換マトリクスを選択する。以下同様であり、他の原色G、Bについても同様である。これにより、原色毎に、前述した色差が閾値以上となる階調値で色変換マトリクスが変更される。
【0100】
ステップ204では、選択した色変換マトリクスを用いて、三刺激値XYZをRGB信号値に変換する。具体的には、ここでは一例として図2に示す三刺激値(XC−X5,YC−Y5、ZC−Z5)を入力値とし、これをRGB信号値に変換する。すなわち、Rについて選択した色変換マトリクスの係数XR、YR、ZRと、Gについて選択した色変換マトリクスの係数XG、YG、ZGと、Bについて選択した色変換マトリクスの係数XB、YB、ZBと、を係数とする色変換マトリクスを用いて色変換する。
【0101】
ステップ206では、ステップ200と同様に、再度記憶部14に記憶された中間調再現特性データを用いて、RGB信号値からRGB階調値を求めて出力する。
【0102】
最終的に、入力の三刺激値XYZに対応する原色S1、S2、S3、S4、S5、S6の階調値は、図7に示す処理で求めた原色S1、S2、S3に対応する正確なRGB階調値と、非基底解である原色S4、S5、S6の階調値と、の合成により得られる。なお、図2に示す例の場合は、非基底解である原色S4、S5、S6は(0,1,0)となるので、すなわち原色S5のみを最高に光らせ、他は全く光らせないので、その階調値は(0,255,0)となる。
【0103】
このように、本実施形態では、基底解である3原色については、原色毎に、各階調値について三刺激値XYZの輝度を基準階調の輝度に合わせた上で、各階調値における三刺激値XYZと基準階調の三刺激値XYZとの色差を求め、この色差が閾値を越えている場合には色変換マトリクスを新たに作成して記憶する。そして、色変換時には、各原色の階調値に応じた色変換マトリクスを選択して色変換を行う。すなわち、各階調において最適な色変換マトリクスが選択された色変換されるので、カラートラッキングが生じる表示装置においても高速且つ高精度な色再現が可能となる。
【0104】
また、色変換マトリクスを作成する際の判断基準となる色差の閾値を、3原色のうち色の見えに影響する最も短い波長の原色については、他の原色よりも小さい値に設定して色変換マトリクスが多く作成される。このため、精度良く色変換することができ、色の見えを向上させることができる。
【0105】
なお、本実施形態では、最初に設定する基準階調を最大階調である255とした場合について説明したが、これに限らず、他の階調値、例えば中間階調である128を基準階調として設定してもよい。この場合、初期色変換マトリクスの係数は、XR128、YR128、ZR128、XG128、YG128、ZG128、XB128、YB128、ZB128とする。そして、例えば階調値128から階調値を一つずつ上げながら図3に示す処理、すなわち色差を閾値と比較して閾値を越えていれば色変換マトリクスを更新する処理を実行し、これを階調値255まで行った後、階調値127から階調値を一つずつ下げながら同様の処理を行えばよい。
【0106】
また、本実施形態では、階調を1階調ずつ変更しながら各階調について色差を判定する場合について説明したが、これに限らず、階調を2階調ずつ、3階調ずつ等、複数階調ずつ変更しながら色差を判定するようにしてもよい。
【0107】
(非特許文献14) G.Sharma、W.Wu、E.N.Dalal:"The CIEDE2000 Color-Difference Formula:Implementation Notes、 Supplementary Test Data、 and Mathematical Observations、"、Color Research and Application、vol.30、No.1 (2005).
(非特許文献15) 日本色彩学会:"新編 色彩科学ハンドブック[第2版]"、東京大学出版会 (1998).
【符号の説明】
【0108】
10 色変換装置
12 色変換マトリクス作成部
14 記憶部
16 色変換部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
XYZ表色系の三刺激値XYZを、多原色表示装置で表示可能な予め定めたn原色(n≧4)の中から選択した3原色の組合わせにおける3原色信号値に変換するための色変換マトリクスを、各原色の特性に基づいて作成する色変換マトリクス作成方法であって、
所定階調の三刺激値XYZに対応する3原色信号値を所定の色変換マトリクスを用いて求めるステップと、
求めた3原色信号値に対応する3原色階調値を前記多原色表示装置の中間調再現特性から求めるステップと、
求めた3原色階調値に対応する三刺激値XYZを前記多原色表示装置のデバイスプロファイルから求めるステップと、
求めた所定階調の三刺激値XYZの輝度を基準階調の三刺激値XYZの輝度に合わせた上で、前記所定階調の三刺激値XYZと前記基準階調の三刺激値XYZとの色差を求めるステップと、
求めた色差が予め定めた閾値を越える場合、当該所定階調の三刺激値XYZに基づいて色変換マトリクスを作成して記憶すると共に、前記基準階調を当該所定階調に変更するステップと、
前記所定階調を1階調又は複数階調変更するステップと、
を含む処理を全階調について繰り返し実行する処理を、3原色全てについて且つ3原色の組合わせ全てについて実行すると共に、前記閾値は、3原色のうち最も短波長の原色については、他の原色の閾値よりも小さい値に設定される
ことを特徴とする色変換マトリクス作成方法。
【請求項2】
XYZ表色系の三刺激値XYZからn原色(n≧4)の多原色表示装置用のデータに色変換する色変換装置であって、
三刺激値XYZを線形計画法により変換し、この結果と基底/非基底の組合せのうちの非基底(nn-3*2n-3種類)を学習データとして用いることにより分類モデルを構築し、対応する基底部分の3*3逆行列を3*3色変換マトリクスとして生成する第1の処理手段と、
構築された前記分類モデルと前記逆行列を用い、入力の三刺激値XYZから最適な非基底の組合せを求め、それに対応する行列による計算を行う第2の処理手段と、
を具備し、
前記基底部分の3原色については、前記請求項1記載の色変換マトリクス作成方法により色変換マトリクスを作成し、作成した色変換マトリクスを用いて色変換することを特徴とする色変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−187416(P2010−187416A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125365(P2010−125365)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【分割の表示】特願2006−100465(P2006−100465)の分割
【原出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】