説明

色素化合物並びに該色素化合物を含有するインク

【課題】 耐候性に優れた色素化合物を提供すること。又、インク、特にインクジェット用インクとした場合、保存安定性に優れたインクを提供すること。
【解決手段】 下記一般式(1)で表わされることを特徴とする色素化合物。
【化1】


(一般式(1)中、A1はN、もしくはCR2を表わす。A1がNのとき、R1はアミノ基であり、A1がCR2のとき、R1はR2と共に芳香環を形成し、該芳香環は陰イオン性基をもつ。R3はアルキル基、アリール基、アラルキル基を表わす。Cyは置換もしくは未置換の芳香環を表わす。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素化合物並びに該色素化合物を含有するインクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット用記録液(インク)に使用される色素は、水溶性染料を用いるのが一般的であるが、水溶性染料を含有するインクにより形成された記録画像は、画像の保存安定性に劣るという問題がある。即ち、太陽光や各種照明光等による画像の変褪色(耐光性)や、大気中に微量に含まれる酸化性ガス(オゾン、NOX、SOX等)に対する画像の変褪色(耐ガス性)等に問題がある。
【0003】
これらの問題を解決すべく、インクジェット用水溶性染料としてピリドンアゾ系色素化合物が提案されている(特許文献1参照)。又、ヒドロキシアザインドリジンアゾ系染料が提案されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特表2003−510398号公報
【特許文献2】米国特許第2,432,419号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載の水溶性染料は、近年求められるような高い耐候性、特に耐光性を満足するものではない。又、特許文献2に記載のヒドロキシアザインドリジンアゾ系染料も、近年求められるような高い耐候性、特に耐ガス性を満足するものではない。又、インクとしての保存安定性も良好ではない。
【0005】
従って、本発明の目的は、これらの課題を解決し、耐光性、耐ガス性といった耐候性に優れた色素化合物を提供することである。又、本発明の別の目的は、インク、特にインクジェット用インクとした場合、保存安定性の良好なインクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的は、以下の本発明によって達成される。即ち本発明は、下記一般式(1)で表わされることを特徴とする色素化合物である。
【0007】
【化1】

【0008】
[一般式(1)中、A1はN、もしくはCR2を表わす。A1がNのとき、R1はアミノ基であり、A1がCR2のとき、R1はR2と共に芳香環を形成し、該芳香環は陰イオン性基をもつ。R3はアルキル基、アリール基、アラルキル基を表わす。Cyは置換もしくは未置換の芳香環を表わす。]
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐光性、耐ガス性が良好な色素化合物が提供される。又、本発明によれば、前記の色素化合物をインクの色材として用いることで、保存安定性が高く、しかも耐光性、耐ガス性に優れる画像を得ることができる良好なインク、特に、インクジェット記録用インクが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。
【0011】
本発明者らは、前記した従来技術の課題を解決すべく鋭意検討をおこなった。この結果、下記一般式(1)で表わされる色素化合物は、耐光性、耐ガス性が良好な画像を得ることが可能であることを見出した。さらに、下記一般式(1)で表わされる色素化合物をインクの色材として用いることで、保存安定性の良好なインクを提供可能であることができることを見出した。
【0012】
【化2】

【0013】
[一般式(1)中、A1はN、もしくはCR2を表わす。A1がNのとき、R1はアミノ基であり、A1がCR2のとき、R1はR2と共に芳香環を形成し、該芳香環は陰イオン性基をもつ。R3はアルキル基、アリール基、アラルキル基を表わす。Cyは置換もしくは未置換の芳香環を表わす。]
【0014】
先ず、前記一般式(1)で表わされる色素化合物について詳述する。
【0015】
一般式(1)中、A1はN、もしくはCR2を表わす。A1がNの場合、R1はアミノ基である。A1がNのとき、R1がアミノ基であることで、一般式(1)で表される色素化合物溶液の保存安定性が向上する。該アミノ基は置換基を有しても良く、置換基は、本発明の色素化合物の水溶性や保存安定性を著しく阻害するものでないことが好ましい。例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチルなどのアルキル基。フェニル基、ナフチル基などのアリール基。ベンジル基などのアラルキル基。アセチル基、ベンゾイル基などのアシル基。メシル基、p−トルエンスルホニル基、カルバモイル基、スルファモイル基、トリアジニル基、ベンゾチアゾリル基等が挙げられる。該アミノ基として好ましいのは、無置換アミノ基、N−メチルアミノ基、N−エチルアミノ基、N−ベンジルアミノ基。N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N−アセチルアミノ基、N−トリアジニルアミノ基等が合成の容易性、色素化合物の水溶性の点で好ましい。A1がCR2の場合、R1はR2と共に芳香環を形成し、該芳香環は陰イオン性基をもつ。該陰イオン性基としては、カルボン酸基、スルホン酸基、りん酸基等が挙げられる。又、該陰イオン性基とは、水素が遊離したもの、さらにカウンターイオンが付加したものも含む。好ましいカウンターイオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属。メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム。エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム。n−プロピルアンモニウム、イソプロピルアンモニウム、ジイソプロピルアンモニウム。n−ブチルアンモニウム、テトラn−ブチルアンモニウム、イソブチルアンモニウム。モノエタノールアンモニウム、ジエタノールアンモニウム、トリエタノールアンモニウム等のアンモニウムが挙げられる。特に、該陰イオン性基はスルホン酸基であることが好ましい。陰イオン性基がスルホン酸基であると、色素化合物の水溶性が増加し、インクとしての保存安定性が向上するためである。
【0016】
一般式(1)中のR3はメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチルなどのアルキル基、フェニル基、ナフチル基などのアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基を表わす。又、R3は更に置換基を有しても良い。該置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基等のアルコキシ基等が挙げられる。中でも、合成が容易であるという理由でメチル基が好ましい。
【0017】
又、本発明の色素化合物は、一般式(2)で表わされる色素化合物であることが、水性媒体中への溶解性が高いという理由で、より好ましい。
【0018】
【化3】

【0019】
[一般式(2)中、R3はアルキル基、アリール基、アラルキル基を表わす。Cyは置換もしくは未置換の芳香環を表わし、Mは水素原子もしくはカウンターイオンを表わす。]
【0020】
本発明の一般式(1)又は一般式(2)中のCyは置換もしくは未置換の芳香環を表わす。芳香環としては特に限定されるものではない。例えば、フェニル基、ナフチル基等の芳香族炭素環基、イミダゾリル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、ピロリル基、オキサジアゾリル基、チアジアゾリル基、ピラゾリル基、1,2,3−トリアゾリル基、1,2,4−トリアゾリル基。フリル基、チエニル基、ピリジル基、ピリミジニル基、ピラジニル基、ピリダジニル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾチアゾリル基等の芳香族複素環基が挙げられる。該芳香環には、アルキル基、カルボン酸基、もしくはスルホン酸基が置換していてもよい。特に、該芳香環には、カルボン酸基、もしくはスルホン酸基が置換していることが、水性媒体中への溶解性が向上するため好ましい。又、該カルボン酸基、もしくはスルホン酸基はCyのアゾ基の隣接位に置換していることが、耐ガス性がより良好であるという理由で好ましい。又、Cyは含窒素芳香族複素環、さらには含窒素芳香族5員複素環であることが、耐光性が良好であるという理由で好ましい。
【0021】
本発明の一般式(1)で表わされる色素化合物は、下記一般式(1’)等の互変異性体が存在する。本発明の色素化合物は、下記一般式(1’)等で表わされる互変異性体も含めて、一般式(1)で表わしている。
【0022】
【化4】

【0023】
[一般式(1′)中、A1はN、もしくはCR2を表わす。A1がNのとき、R1はアミノ基であり、A1がCR2のとき、R1はR2と共に芳香環を形成し、該芳香環は陰イオン性基をもつ。R3はアルキル基、アリール基、アラルキル基を表わす。Cyは置換もしくは未置換の芳香環を表わす。]
【0024】
次に、本発明の一般式(1)で表される構造を有する色素化合物の製造方法を説明する。本発明の一般式(1)で表される構造を有する色素化合物の製造方法は、下記の2工程によって製造することが好ましい。即ち、第1の工程では、先ず、下記一般式(3)で表わされる芳香族アミン化合物と下記一般式(4)で表わされる化合物を、溶媒の存在下、もしくは非存在下で縮合させることにより、下記一般式(5)で表わされる化合物を得る。この場合、適当な縮合剤を使用してもよい。
【0025】
【化5】

【0026】
[一般式(3)中、A1はN、もしくはCR2を表わす。A1がNのとき、R1はアミノ基であり、A1がCR2のとき、R1はR2と共に芳香環を形成し、該芳香環は陰イオン性基をもつ。]
【0027】
【化6】

【0028】
[一般式(4)中、R3はアルキル基、アリール基、アラルキル基を表わす。R4はアルキル基を表わす。]
【0029】
【化7】

【0030】
[一般式(5)中、A1はN、もしくはCR2を表わす。A1がNのとき、R1はアミノ基であり、A1がCR2のとき、R1はR2と共に芳香環を形成し、該芳香環は陰イオン性基をもつ。R3はアルキル基、アリール基、アラルキル基を表わす。]
【0031】
次いでおこなう第2の工程では、前記第1の工程で得られた一般式(5)で表わされる化合物を、下記一般式(6)で表わされるアニリン誘導体のジアゾ成分とカップリングさせる。そして、該カップリング工程により、一般式(1)で表わされる色素化合物を製造する。
【0032】
【化8】

【0033】
[一般式(6)中、Cyは置換もしくは未置換の芳香環を表わす。]
【0034】
上記した第1の工程においておこなう縮合反応は、一般式(3)で表わされる芳香族アミン化合物と一般式(4)で表わされる化合物を、無溶媒下、もしくはメタノール、エタノール、氷酢酸等の単独もしくは混合溶媒中で加熱還流する。これにより、一般式(5)で表わされる化合物を得る。かかる混合溶媒の使用量は特に制限されないが、通常、一般式(3)で表わされる芳香族アミン化合物に対して100質量倍以下とするのが好ましい。又、この場合、適当な縮合剤を用いても良い。縮合剤としては、例えば、ナトリウムアルコキシド、ピペリジン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン等が挙げられる。
【0035】
上記した第2の工程においておこなうカップリング反応は、公知の方法によりおこなうことができる。即ち、第2の工程では、一般式(5)で表わされる化合物と、一般式(6)で表わされるアニリン誘導体のジアゾ成分とをカップリングさせて、一般式(1)で表わされる色素化合物を得る。具体的なカップリング方法としては、例えば、下記のような方法が挙げられる。先ず、水溶媒中、一般式(6)で表わされるアニリン誘導体を、塩酸もしくは硫酸等の無機酸の存在下、亜硝酸ナトリウム等の亜硝酸塩と反応させて、対応するジアゾニウム塩に変換する。次に、このジアゾニウム塩を一般式(5)で表わされる化合物とカップリングさせ、一般式(1)で表わされる色素化合物を製造する。
【0036】
上記したような工程によって得られる最終生成物は、通常の有機合成反応の後処理方法に従って処理した後、精製を行なうことで目的の用途に用いる。
【0037】
尚、一般式(2)中のR、Cy、一般式(1′)中のA、R、R、Cy、一般式(3)中のA、R、一般式(4)中のR、一般式(5)中のA、R、R、一般式(6)中のCyは、それぞれ一般式(1)中の対応する記号と同様の意味である。
【0038】
上記の製造方法によって、一般式(1)で表される色素化合物を合成することができる。以下に、本発明の一般式(1)で表わされる色素化合物の具体例を示すが、下記の例に限定されるものではない。
【0039】
【化9】

【0040】
【表1】

【0041】
【化10】

【0042】
【表2】

【0043】
[同定方法]
得られた反応生成物の同定は、下記に挙げる装置を用いた分析方法によっておこなった。使用した分析装置は、H及び13C核磁気共鳴分光分析(ECA−400、日本電子(株)製)。高速液体クロマトグラフィー(LC−20A、(株)島津製作所製)。LC/TOF MS(LC/MSD TOF、Agilent Technologies社製)。UV/Vis分光光度計(U−3310形分光光度計、(株)日立製作所製)である。
【0044】
[インク]
本発明の色素化合物は、鮮やかな色調を有し、その優れた分光特性により、イエロー、マゼンタ、ブラック等の着色剤、好ましくは画像情報の記録用材料として用いることができる。具体的には、以下に詳述する、インクジェット用インクを始めとして、その他、印刷用インク、塗料又は筆記具用インクの材料(色材)として好適に用いることができる。
【0045】
次に、インクジェット用インクとして好適に用いることができる、本発明の色素化合物を含有するインクの製造方法について説明する。前記一般式(1)で表わされる色素化合物を液媒体に溶解もしくは(及び)分散させることで、インクとして利用可能なインク組成物を製造できる。液媒体としては水性媒体を用いることが好ましい。該水性媒体としては、水、もしくは水と水溶性有機溶剤との混合媒体を用いることが好ましい。該水溶性有機溶剤は、水溶性を示すものであれば特に制限はなく、例えば、アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、グリコールエーテル、含窒素極性溶剤、含硫黄極性溶剤等が挙げられる。該水溶性有機溶剤の含有量は、インクの保湿性維持や色材の溶解性向上、インクの記録紙への効果的な浸透等を考慮すると、インク全体の1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましい。又、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。インク中の水の含有量は、インク全体の30質量%以上であることが好ましく、95質量%以下であることが好ましい。このようにすれば、本発明の色素化合物を含む色材のインク中における分散性、或いは溶解性を良好なものとできる。特に、インクジェット記録用とした場合に安定したインク吐出に適した粘度を有し、且つ、ノズル先端における目詰まりを生じさせないようにすることができる。
【0046】
インクジェット用インクとする場合は、インクの保存安定性、記録画像の粒状性を考慮すると、インク100質量部中に、前記色素化合物を0.2質量部以上、10質量部以下含有することが好ましい。また、0.2質量部以上、5質量部以下であることがより好ましい。
【0047】
本発明の色素化合物を含むインクの構成成分としては、イオン性界面活性剤や非イオン性界面活性剤、高分子界面活性剤のような化学合成された界面活性剤を用いることができる。その他、天然物由来及びこれを酵素等により改質したものも用いることができる。これらの界面活性剤は、単独若しくは併用して用いることができる。インク中における界面活性剤の総含有量は、本発明の色素化合物の分散安定性を良好に保つ目的から、インク全体の0.5質量%以上、20質量%以下であることが好ましい。
【0048】
前記界面活性剤としてはその種類に特に制限はない。好ましくは、イオン性界面活性剤としては、脂肪族モノカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩。N−アシルサルコシン塩、N−アシルグルタミン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩。アルカンスルホン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、直鎖もしくは分岐鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸塩。N−メチル−N−アシルタウリン塩。アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、油脂硫酸エステル塩。アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩等のアニオン性界面活性剤。アルキルアミン塩類、塩化、臭化もしくはヨウ化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化、臭化もしくはヨウ化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化アルキルベンザルコニウム、塩化アルキルピリジニウム等のカチオン性界面活性剤。アルキルベタイン、脂肪酸アミドプロピルベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、アルキルもしくはジアルキルジエチレントリアミノ酢酸、アルキルアミンオキシド等の両性界面活性剤が挙げられる。非イオン性界面活性剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル。ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール。脂肪酸ポリエチレングリコール、脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタン、脂肪酸アルカノールアミド等が挙げられる。
【0049】
高分子界面活性剤としては、ポリアクリル酸塩、スチレン−アクリル酸共重合物塩、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合物塩、スチレン−マレイン酸共重合物塩、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合物塩、ポリリン酸等の陰イオン性高分子。ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアルキレングリコール等の非イオン性高分子等が挙げられる。
【0050】
天然物由来及びこれを酵素等により改質した界面活性剤としては、ゼラチン、カゼイン等のタンパク質。アラビアゴム等の天然ゴム。サポニン等のグルコキシド、アルキルセルロース、カルボキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース等のセルロース誘導体。リグニンスルホン酸塩。セラック等の天然高分子や、レシチン、酵素分解レシチンといった食品用界面活性剤が挙げられる。
【0051】
本発明の色素化合物を用いてインクを製造する場合におけるインクのpHは特に限定されるものではないが、4.0以上、11.0以下であるとインクとして扱いやすい。又、インクジェット用インクを作製する場合には、インクの保湿性維持のために、尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン等の保湿性固形分もインク成分として用いてもよい。尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン等、保湿性固形分のインク中の含有量は、一般には、インクに対して0.1質量%以上が好ましく、3.0質量%以上であることがより好ましい。又、20.0質量%以下が好ましく、10.0質量%以下がより好ましい
更に、インクとする場合には、前記成分以外にも、必要に応じて、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤、水溶性ポリマー等、種々の添加剤を含有させてもよい。
【0052】
以上説明した本発明の色素化合物を用いて調製されたインクは、熱エネルギーの作用により液滴を吐出させて記録をおこなうインクジェット記録方式にとりわけ好適に用いられる。また、他のインクジェット記録方法に適用するインクや、一般の筆記用具等の材料としても使用できる。さらに、本発明の色素化合物は、着色剤としての用途にとどまらず、光記録用色素やカラーフィルター用色素等の電子材料にも適用できる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明について更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。尚、文中「部」及び「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【0054】
[実施例1]
下記のようにして、前記一般式(1)で表わされる色素化合物の一具体例である、色素化合物(1a−1)を得た。
【0055】
<合成例1>
合成例1では、下記のようにして、化合物(7)の製造をおこなった。
【0056】
【化11】

【0057】
2−アミノベンズイミダゾール5.0gを20%発煙硫酸10gに完溶させ、100℃で6時間加熱した。冷却後、50gの氷水にゆっくりと滴下し、析出した結晶を濾別し、充分なエタノールで洗浄した。これを乾燥させることによって前記した構造の化合物(7)の粉末7.6gを得た。
【0058】
<合成例2>
合成例2では、下記のようにして、化合物(8)の製造をおこなった。
【0059】
【化12】

【0060】
化合物(7)7.6g、アセト酢酸エチル30g、N,N−ジメチルアニリン13gを撹拌し、150℃で4時間反応させた。冷却後、100mLのエタノールに加えて析出した結晶を濾別し、十分なエタノールで洗浄した。これを乾燥させることにより、前記構造を有する化合物(8)の白色粉末7.4gを得た。H NMR分析の結果より、該白色粉末はスルホン酸基の置換位置の異なる構造異性体2種をそれぞれ65%、44%含有する混合物であった。
【0061】
<合成例3>
合成例3では、下記のようにして、下記の構造を有する色素化合物(1a−1)を製造した。
【0062】
【化13】

【0063】
5−スルホアントラニル酸5.7g、35%の塩酸溶液0.95gを水100mLに加えて撹拌し、5℃以下まで冷却した。これに亜硝酸ナトリウム1.8gを添加して1時間撹拌した後、過剰の亜硝酸ナトリウムをアミド硫酸0.77gにより分解してジアゾ化液を得た。別途、合成例3で得た化合物(8)の白色粉末7.4g、炭酸水素ナトリウム10gを水100mLに加えて撹拌し、5℃以下まで冷却した。そして、得られたこの化合物(8)を含有する懸濁液に、先に得たジアゾ化液をゆっくりと滴下し、8時間撹拌した。その後、この水溶液を電気透析により脱塩し、乾燥させることによって色素化合物(1a−1)の黄色粉末12gを得た。H NMR分析結果より、該黄色粉末はスルホン酸基の置換位置の異なる構造異性体2種をそれぞれ56%、44%含有する混合物であった。得られたものが前記の構造を有することは、先に述べた装置及び条件で、NMR分析、質量分析、HPLC分析及びUV/Vis分光分析をおこなって確認した。以下に、得られた各分析結果を示す。
【0064】
[色素化合物(1a−1)についての分析結果]
[1]H NMR(400MHz、DMSO−d6、23℃)の結果
δ[ppm]=2.75(s、3H)、7.58(d、1H)、7.67(d、0.56H)、7.84(d、0.44H)、7.85(d、0.56H)、7.88(d、0.44H)、7.93(dd、1H)、8.30(d、0.44H)、8.41(d、1H)、8.68(d、0.56H)
色素化合物(1a−1)のDMSO−d6中、23℃、400MHzにおけるH NMRスペクトルを図1に示す。
[2]質量分析(ESI−TOF)の結果
m/z=549.97(M−Na)、263.49(M−2Na)2−、168.00(M−3Na)3−
[3]HPLCの結果
純度=97.0面積%、保持時間11.6分(35.4面積%)、保持時間11.9分(61.6面積%)(0.1mM TFA溶液−MeOH)
[4]UV/Vis分光分析の結果
λmax=452.0nm、ε=32462M−1cm−1(溶剤:HO、23℃中)
【0065】
[実施例2]
<インクの調製例1>
下記に示す成分を合計100部となるように混合後、十分に撹拌して溶解し、インク(A)を調製した。
・色素化合物(1a−1)…3.5部
・アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物であるアセチレノールEH(川研ファインケミカル(株)製)…1部
・エチレングリコール…7.5部
・グリセリン…7.5部
・尿素…7.5部
・イオン交換水…残部
【0066】
<インクの調製例2〜7>
インクの調製例1で使用した色素化合物(1a−1)をそれぞれ色素化合物(1a−6)、色素化合物(1a−9)〜(1a−11)、色素化合物(1b−1)、色素化合物(1b−11)に変更した。これ以外は、インクの調整例1と同様の操作をおこなって、インク(B)〜(G)を調製した。
【0067】
<比較用インクの調製例1〜4>
インクの調製例1で使用した色素化合物(1a−1)を、下記比較用色素化合物(9)〜(12)に変更した。これ以外は、インクの調整例1と同様の操作をおこなって、比較用インク(H)〜(K)を調製した。
【0068】
【化14】

【0069】
【化15】

【0070】
【化16】

【0071】
【化17】

【0072】
色素化合物(1a−1)と比較用色素化合物(11)の、水中、23℃における紫外可視吸収スペクトルを図2に示す。
【0073】
<評価>
前記インクの調製例1〜7で得たインク(A)〜(G)、前記比較用インクの調製例1〜4で得た比較用インク(H)〜(K)をそれぞれ、キヤノン(株)製インクジェットプリンタPixus iP8600インクカートリッジに充填した。そして、前記インクジェットプリンタにて、キヤノン(株)製写真光沢紙プロフェッショナルフォトペーパー(PR−101)に2cm四方のベタ画像を印字させて記録物を作成した。得られた記録物を24時間自然乾燥して、評価用の記録物とした。
【0074】
[耐光性]
得られた記録物をアトラスウエザオメータ(Ci4000、(株)東洋精機製作所製)に投入し、50時間曝露した。このときの測定条件は、Black Panel:50℃、Chamber:40℃、Rel. Humidity:70%、Irradiance(340nm):0.39W/mとした。照射前後の試験紙はSpectroLino(Gretag Machbeth社製)にて分析した。L表色系における光学濃度及び色度(L、a、b)を測定した。色差(ΔE)は色特性の測定値に基づき、下記式によって算出した。
色差(ΔE)=√{(a試験前−a試験後)+(b試験前−b試験後)+(c試験前−c試験後)
評価は以下の基準でおこなった。
◎:ΔEが5未満
○:ΔEが5以上、10未満
×:ΔEが10以上
【0075】
[耐ガス性]
得られた記録物をオゾンウェザーメーター(OMS−H、スガ試験機(株)製)にて、オゾン濃度10ppm、温度24℃、相対湿度60%の雰囲気下で記録物を4時間曝露した。そして、記録物の反射濃度を試験前後で測定した。得られた結果は耐光性の場合と同様の基準で判断した。色差(ΔE)は色特性の測定値に基づき、下記式によって算出した。
色差(ΔE)=√{(a試験前−a試験後)+(b試験前−b試験後)+(c試験前−c試験後)
【0076】
評価は以下の基準でおこなった。
◎:ΔEが5未満
○:ΔEが5以上、10未満
×:ΔEが10以上
【0077】
[保存安定性]
前記インクの調製例1〜7で得たインク(A)〜(G)、前記比較用インクの調製例1〜4で得た比較用インク(H)〜(K)をそれぞれ、ガラス製の密閉容器に入れ、60℃、1ヶ月間静止放置した。その後、UV/Vis分光分析により最大吸収波長における吸光度(Abs)を測定し、60℃、1ヶ月間静止放置前における値(Abs0)と比較した。
評価は以下の基準でおこなった。
◎:Abs/Abs0が0.95以上
○:Abs/Abs0が0.90以上、0.95未満
×:Abs/Abs0が0.90未満
【0078】
各インクに用いた色素の種類及び、耐光性、耐ガス性、及び保存安定性の評価結果を表3に示す。
【0079】
【表3】

【0080】
表3より、本発明の色素化合物を用いたインクは、耐光性、耐ガス性、及び保存安定性が良好であることから、インク用色素化合物として有用であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の活用例としては、本発明の色素化合物は種々の用途に適用可能である。即ち、着色剤としての用途にとどまらず、光記録用色素やカラーフィルター用色素等の電子材料への応用にも十分に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明にかかる色素化合物(1a−1)のDMSO−d6中、23℃、400MHzにおけるH NMRスペクトルを表わす図である。
【図2】本発明にかかる色素化合物(1a−1)と比較用色素化合物(11)の、水中、23℃における紫外可視吸収スペクトルを表わす図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表わされることを特徴とする色素化合物。
【化1】

[一般式(1)中、A1はN、もしくはCR2を表わす。A1がNのとき、R1はアミノ基であり、A1がCR2のとき、R1はR2と共に芳香環を形成し、該芳香環は陰イオン性基をもつ。R3はアルキル基、アリール基、アラルキル基を表わす。Cyは置換もしくは未置換の芳香環を表わす。]
【請求項2】
下記一般式(2)で表される請求項1に記載の色素化合物。
【化2】

[一般式(2)中、R3はアルキル基、アリール基、アラルキル基を表わす。Cyは置換もしくは未置換の芳香環を表わし、Mは水素原子もしくはカウンターイオンを表わす。]
【請求項3】
前記一般式(1)又は一般式(2)中のCyが、カルボン酸基もしくはスルホン酸基が置換している芳香環である請求項1又は2に記載の色素化合物。
【請求項4】
前記一般式(1)又は一般式(2)中のCyが、アゾ基の隣接位にカルボン酸基もしくはスルホン酸基をもつ芳香環である請求項1〜3のいずれか1項に記載の色素化合物。
【請求項5】
前記一般式(1)又は一般式(2)中のCyが、含窒素芳香族複素環である請求項1〜3のいずれか1項に記載の色素化合物。
【請求項6】
前記一般式(1)又は一般式(2)中のCyが、含窒素芳香族5員複素環である請求項1〜3のいずれか1項に記載の色素化合物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の色素化合物と、水性媒体とを含有することを特徴とするインク。
【請求項8】
インクジェット用である請求項7に記載のインク。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−269938(P2009−269938A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−118803(P2008−118803)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】