説明

色素化合物及び該色素化合物を含むインク

【課題】インクジェットインク用に適した、発色性、透明性等の分光反射特性に優れ、堅牢性の高いマゼンタ色の色素化合物の提供。良好な色調を有し、保存安定性に優れた画像を与える水性インクの提供。
【解決手段】下記一般式(1)で表わされる色素化合物及び少なくとも1種の該化合物を含むことを特徴とする水性インク。


及びRはHあるいはアルキル基を、R及びRはH、アルキル基、ハロゲン原子等を、R及びRはH、アルキル基、OH基等を、Mはカウンターイオンを表わす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な色素化合物、及び該色素化合物を含有してなる水性インクに関する。
【背景技術】
【0002】
科学技術の進歩による生活様式の変化に伴い、色素の用途も、従来の繊維やプラスチック、皮革等の各種材料を染色或いは着色するだけのものに留まらず、その情報を記録若しくは表示する特性を活かし、様々な産業分野で利用されるようになっている。特に、近年におけるパーソナルコンピューターの急速な普及に伴い、文字や画像情報を記録するため、インクジェットプリンティングに代表されるハードコピー技術が発達してきた。
【0003】
インクジェット用記録液(インク)に使用される色素としては、水溶性染料が一般的であるが、水溶性染料を含有するインクにより形成された記録画像は、通常、画像の保存安定性に劣るという問題があった。これに対して、色素に顔料を用いると保存安定性に優れた画像の形成が可能である。このため、形成したインク画像の保存安定性を向上させることを目的として、水性媒体に顔料を分散してなるインクの開発が数多く行われている(特許文献1参照)。しかしながら、顔料を色素として用いたインクによって印字された画像は、保存安定性には優れるものの、顔料粒子の影響によって光の散乱を受けやすいため、染料を用いたインクの場合と比較して画像の色再現性や画像の透明性に劣るという別の問題があった。
【0004】
これらの問題を解決し、画像の色再現性及び透明性を保ちつつ、保存安定性をも満足した画像形成を可能とする目的で、光や空気中の酸化性ガス(NOX、SOX、オゾン等)に対する堅牢性が高い水溶性染料を、インクに用いる方法が提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、このような水溶性染料は、色調が十分ではなく、画像の更なる高画質化のためには、優れた色再現性を有する色素の開発が強く求められている。
【0005】
ここで、良好なマゼンタ色を有する色素としては、キサンテン系の染顔料が知られている。キサンテン系色素は、一般的に、可視部に2つの吸収帯(x−bandとy−band)をもつため、長波長側のx−bandと、より短波長側のy−bandの補色が観測される色調となる。そのため、理想的なマゼンタ色を有するキサンテン色素としては、両方の吸収帯がマゼンタ色の補色の吸収帯で重なっていることが必要である。そのようなキサンテン色素としては、例えば、C.I.Acid Red 289が挙げられるが、当該色素は、堅牢性、特に耐光性に劣るという問題がある。
【0006】
これまで、C.I.Acid Red 289の類似構造をもつ色素の開発が報告されている。例えば、C.I.Acid Red 289をクロロスルホン化した後、水溶性高分子四級アンモニウム塩とスルホンアミド化することで水溶性高分子染料を得る方法、並びにその染料を用いたインク液について開示されている(特許文献3参照)。又、C.I.Acid Red 289類縁体によるインクジェット記録液の製造方法の開示もある(特許文献4参照)。しかしながら、前者は水溶性高分子を用いるため、インクとしたときの色濃度がC.I.Acid Red 289と比べて劣り、後者は、水への溶解性や堅牢性の面で十分ではない。以上述べたように、良好なマゼンタ色を有する色素、特にキサンテン系の色素であって、画像の保存安定性が高い色素はこれまで知られていない。
【0007】
【特許文献1】特開2003−286433公報
【特許文献2】特開2003−192930公報
【特許文献3】特許第3263524号公報
【特許文献4】特開平9−255882号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、キサンテン色素でありながら、発色性、透明性等の分光反射特性に優れ、堅牢性の高い色素化合物を提供することにある。又、本発明の別の目的は、特に、インクジェット用インクとした場合に、良好な色調を有し、しかも保存安定性に優れた画像を与えることができる水性インクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、以下の本発明によって達成される。即ち、本発明は、下記一般式(1)で表わされることを特徴とする色素化合物である。

[式(1)中、R1及びR2はそれぞれ独立に、水素原子及びアルキル基の何れかを表わし、R3及びR4はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、トリフルオロメチル基、直鎖アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基及び−COOM基から選択される何れかを表わす。R5及びR6はそれぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシル基、トリフルオロメチル基、ニトロ基、直鎖アルキル基及び−COOM基から選択される何れかを表わす。但し、R5及びR6が共に直鎖アルキル基である場合は、R3及びR4は水素原子ではない。Mは、カウンターイオンを表わす。]
【0010】
又、本発明は、上記一般式(1)で表わされる新規な色素化合物を含有してなることを特徴とする水性インク、特にインクジェット用インクを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、発色性、透明性等の分光反射特性に優れ、堅牢性の高い色素化合物が提供される。又、本発明によれば、上記優れた色素化合物をインク用の色材として用いることで、良好な色調を有する水性インクが提供される。更に、この水性インクは、例えば、良好な色調を有するインクジェット記録用のインクとして有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。本発明者らは、前記した従来技術の課題を解決すべく鋭意検討の結果、下記一般式(1)で表わされる色素化合物は、発色性、透明性等の分光反射特性に優れ、光や空気中の酸化性ガスに対する堅牢性の高い色素であることを見出して、本発明に至った。特に、本発明の色素化合物を用い、水性インクとした場合には、良好な色調を有するインクジェット記録に好適なインクの提供が可能となる。以下、下記一般式(1)について詳述する。
【0013】

[式(1)中、R1及びR2はそれぞれ独立に、水素原子及びアルキル基の何れかを表わし、R3及びR4はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、トリフルオロメチル基、直鎖アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基及び−COOM基から選択される何れかを表わす。R5及びR6はそれぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシル基、トリフルオロメチル基、ニトロ基、直鎖アルキル基及び−COOM基から選択される何れかを表わす。但し、R5及びR6が共に直鎖アルキル基である場合は、R3及びR4は水素原子ではない。Mは、カウンターイオンを表わす。]
【0014】
上記一般式(1)中のR1及びR2として選択できるアルキル基は、特に限定されるものではないが、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。R1とR2は、同一であっても、異なってもよいが、好ましいのは、R1及びR2が共に水素原子である場合である。
【0015】
上記一般式(1)中のR3乃至R6として選択できるものについて順次説明する。先ず、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。又、アルコキシ基としては、特に限定されるものではないが、例えば、下記の何れかの基が挙げられる。即ち、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基及びtert−ブトキシ基等から選択することができる。又、アリールオキシ基としては、特に限定されるものではないが、例えば、フェノキシ基、トリルオキシ基、キシリルオキシ基、ナフトキシ基等の基が挙げられる。又、アラルキルオキシ基としては、特に限定されるものではないが、例えば、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基、ナフチルメチルオキシ基等の基が挙げられる。更に、上記一般式(1)中のR3乃至R6として選択できる直鎖アルキル基は、特に限定されるものではないが、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基及びn−ペンチル基等の基が挙げられる。
【0016】
前記一般式(1)中のR3乃至R6は、上記に列挙した基等から、それぞれ独立に且つ任意に選択できるが、好ましい形態としては下記のものが挙げられる。先ず、R5とR6の少なくともどちらか一方が水素原子ではなく、上記に列挙した何れかの基である構造のものが好ましい。又、R3及びR4は、それぞれ独立に、水素原子或いはハロゲン原子、ヒドロキシル基、トリフルオロメチル基、メチル基、フェノキシ基及び−COOM基から選択された基の何れかである場合が好ましい。又、R5とR6が、共に直鎖アルキル基である場合には、R3とR4が、水素原子ではなく、上記に列挙した何れかの基である構造のものであることを要する。特に、一般式(1)中のR5及びR6が、トリフルオロメチル基、ニトロ基、メチル基及び−COOM基の何れかの基である場合が好ましい。更には、R3とR4が同一であり、且つ、R5とR6が同一である場合が好ましい。
【0017】
前記一般式(1)中のMは、カウンターイオンであるが、例えば、下記に挙げるもののイオンが該当する。即ち、水素原子、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;
アンモニウム、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム;
エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム;
n−プロピルアンモニウム、イソプロピルアンモニウム、ジイソプロピルアンモニウム;
n−ブチルアンモニウム、テトラn−ブチルアンモニウム、イソブチルアンモニウム;
モノエタノールアンモニウム、ジエタノールアンモニウム、トリエタノールアンモニウム等が挙げられる。上記した中でも好ましいのは、水素原子、リチウム、ナトリウム、カリウム及びアンモニウムのイオンである場合である。
尚、式中のMは、例えば、本発明の色素化合物を用いてインクジェット記録用の水性インクとした場合には解離してカウンターイオンとなると考えられるため「カウンターイオンを表わす」としたが、インク中で解離していないものを排除する意味ではない。
【0018】
本発明にかかる一般式(1)で表わされる色素化合物は、公知の方法に従って合成することができる。以下に合成スキームの一例を示す。
【0019】

[上記一般式(4)〜(6)中、R1乃至R6は、前記一般式(1)におけるR1乃至R6と同義である。]
【0020】
上記に例示したスキームでは、上段に示した第1の縮合工程と、下段に示した第2の縮合工程とによって、本発明の色素化合物(1)を合成する。先ず、上段に示した第1の縮合工程では、化合物(3)と化合物(4)とを、有機溶剤中(又は溶剤の非存在下)、縮合剤の存在下(又は縮合剤の非存在下)で加熱し縮合させる。次に、下段に示したように、上記第1の縮合工程で作製した化合物(5)を、上記に示した化合物(6)と再び加熱縮合させる。この結果、本発明にかかる色素化合物(1)が得られる。
【0021】
上記に例示した合成スキームの縮合反応において使用することができる好ましい有機溶剤について説明する。第1の縮合工程では、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール及びn−ブタノール等を、単独で、若しくは混合して使用することができる。第2の縮合工程では、下記に挙げるようなものを、単独で、若しくは混合して使用することができる。例えば、エチレングリコール、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン及びニトロベンゼン等を使用する。
【0022】
上記第1の縮合工程における反応温度は、60℃乃至100℃の範囲内、特には、70℃乃至90℃の範囲内であることが好ましい。又、第2の縮合工程における反応温度は、150℃乃至220℃の範囲内、特には、170℃乃至220℃の範囲内であることが好ましい。
【0023】
前記一般式(1)中におけるR3とR4とが同一の基であって、且つ、R5とR6とが同一の基である化合物の場合には、前記スキーム中の化合物(4)と(6)とは同一のものを用いることができる。従って、この場合は、化合物(3)より一段階の縮合工程で一般式(1)の色素化合物を得ることができる。その際における反応温度は、150℃乃至220℃の範囲内、特には、170℃乃至220℃の範囲内であることが好ましい。又、縮合剤としては、例えば、酸化マグネシウム、塩化亜鉛及び塩化アルミニウム等から選択して用いることができる。
【0024】
上記した反応によって得られる最終生成物は、通常の有機合成反応の後処理方法に従って処理した後、精製を行うことで、目的の用途に用いることができる。得られた反応生成物の同定は、下記に挙げる装置を用いて行った。即ち、1H及び13C核磁気共鳴分光分析[ECA−400、日本電子(株)製]、高速液体クロマトグラフィー[LC−20A、(株)島津製作所製]、LC/TOF MS[LC/MSD TOF、Agilent Technologies社製]、UV/Vis分光光度計[U−3310形分光光度計、(株)日立製作所製]である。
【0025】
本発明にかかる色素化合物は、鮮やかな色調を有し、その分光特性により着色用色材、好ましくは、画像情報の記録用材料として用いることができる。具体的には以下に詳述するインクジェット方式の記録用インクを始めとして、その他、印刷用インク、塗料又は筆記具用インク等の材料として、有効に用いることができる。特に、インクジェット方式の記録用インクの色材として有用である。
【0026】
次に、インクジェット用インクとして好適に用いることができる、本発明にかかる色素化合物を含有してなるインクについて説明する。本発明のインクは、前記一般式(1)で表わされる色素化合物及び水性媒体を含有する。インクジェット用インクとする場合は、インク100質量部中に、本発明にかかる色素化合物を0.2質量部以上10質量部以下の範囲で含有させることが好ましい。
【0027】
この場合に使用する水性媒体としては、水、又は水と水溶性有機溶剤との混合媒体が使用できる。この場合に使用する水溶性有機溶剤は、水溶性を示すものであれば特に制限はなく、例えば、アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、グリコールエーテル、含窒素極性溶剤、含硫黄極性溶剤等が挙げられる。これらの水溶性有機溶剤は、インクの保湿性維持や色材の溶解性向上、インクの記録紙への効果的な浸透等を考慮すると、水溶性有機溶剤の含有量を、インク全体の1質量%以上40質量%以下の範囲とすることが好ましい。より好ましくは、3質量%以上30質量%以下の範囲とする。又、インク中の水の含有量は、30質量%以上95質量%以下の範囲とすることが好ましい。このようにすれば、本発明にかかる色素化合物を含む色材のインク中における分散性、或いは溶解性を良好なものとできる。更に、インクジェット記録用とした場合に、安定したインク吐出のための粘度を有し、且つノズル先端における目詰まりを生じさせないようにすることができる。
【0028】
本発明にかかる色素化合物を水性媒体に分散させるための分散剤としては、イオン性界面活性剤や非イオン性界面活性剤、高分子界面活性剤のような化学合成された界面活性剤を用いることができる。その他、天然物由来及びこれを酵素等により改質したものも用いることができる。これら分散剤は、単独若しくは併用して用いることができ、分散剤の総含有量は、本発明にかかる色素化合物の分散安定性を良好に保つ目的から、インク全体の0.5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
【0029】
上記分散剤としてはその種類に特に制限はない。界面活性剤としては下記に挙げるような、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及び両性界面活性剤のイオン性界面活性剤や、非イオン性界面活性剤や、高分子界面活性剤を使用することができる。
【0030】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪族モノカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩;
N−アシルサルコシン塩、N−アシルグルタミン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩;
アルカンスルホン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、直鎖又は分岐鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸塩;
N−メチル−N−アシルタウリン塩;
アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、油脂硫酸エステル塩;
アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩等を使用することができる。
【0031】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルアミン塩類、塩化、臭化又はヨウ化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化、臭化又はヨウ化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化アルキルベンザルコニウム、塩化アルキルピリジニウム等を使用することができる。
【0032】
両性界面活性剤としては、例えば、アルキルベタイン、脂肪酸アミドプロピルベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン;
アルキル又はジアルキルジエチレントリアミノ酢酸、アルキルアミンオキシド等を使用することができる。
【0033】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル;
ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、脂肪酸ポリエチレングリコール、脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタン、脂肪酸アルカノールアミド等を使用することができる。
【0034】
高分子界面活性剤としては、例えば、ポリアクリル酸塩、スチレン−アクリル酸共重合物塩、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合物塩、スチレン−マレイン酸共重合物塩、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合物塩、ポリリン酸等の陰イオン性高分子;
ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアルキレングリコール等の非イオン性高分子等を使用することができる。
【0035】
一方、天然物由来及びこれを酵素等により改質した分散剤としては、下記に挙げるようなものを使用することができる。例えば、ゼラチン、カゼイン等のタンパク質;
アラビアゴム等の天然ゴム;
サポニン等のグルコキシド;
アルキルセルロース、カルボキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース等のセルロース誘導体;
リグニンスルホン酸塩;
セラック等の天然高分子や、レシチン、酵素分解レシチンといった食品用の界面活性剤が挙げられる。
【0036】
本発明にかかる色素化合物を用いてインクを製造する場合におけるインクのpHは特に限定されるものではないが、安全性等の面を考慮すると、pH4.0乃至11.0の範囲内のものが好ましい。又、インクジェット用インクを作製する場合には、インクの保湿性維持のために、尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン等の保湿性固形分もインク成分として用いてもよい。尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン等、保湿性固形分のインク中の含有量は、一般には、インクに対して0.1質量%以上20.0質量%以下の範囲が好ましい。より好ましくは3.0質量%以上10.0質量%以下の範囲である。
【0037】
更に、インクとする場合には、上記成分以外にも、必要に応じて、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤、水溶性ポリマー等、種々の添加剤を含有させてもよい。
【0038】
以上説明したようにして、本発明にかかる色素化合物を用いて調製されたインクは、熱エネルギーの作用により液滴を吐出させて記録を行うインクジェット記録方式にとりわけ好適に用いられる。本発明にかかる色素化合物の用途はこれに限定されることなく、インクジェット記録方法に適用するインクや、一般の筆記用具等の材料としても使用できることはいうまでもない。又、本発明にかかる色素化合物は、着色剤としての用途にとどまらず、光記録用色素やカラーフィルター用色素等の電子材料への応用にも十分に適用できる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明について更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。尚、文中「部」及び「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【0040】
実施例1
下記のようにして、前記一般式(1)で表わされる色素化合物を得た。
<合成例1>
前記一般式(1)においてR1乃至R4が共に水素原子であり、R5及びR6が何れも−COOMであり、Mがナトリウムである、下記構造で表される色素化合物(7)の製造。
【0041】

【0042】
2−アミノイソフタル酸(7.3g)と、前記スキームで示した化合物(3)(7.4g)とをスルホラン(20mL)中、塩化亜鉛(4.1g)の存在下、200℃で3時間加熱して反応させた。この溶液を冷却後、2M−塩酸50mLに注ぎ込み、析出した結晶を濾別した。得られた結晶を水洗し、2M−水酸化ナトリウム水溶液で溶解させてエタノールで晶析することで、上記色素化合物(7)を得た。得られたものが上記式で表される構造を有することは、前記した各装置を用い、NMR分析、質量分析、HPLC分析及びUV/Vis分光分析で確認した。以下に、分析結果を示した。
【0043】
[上記色素化合物(7)についての分析結果]
[1]1H NMR(400MHz、D2O、室温)の結果(図1参照):
δ[ppm]=6.76(s、2H)、6.82(d、2H)、7.05(d、2H)、7.24(dd、1H)、7.28(t、2H)、7.58(d、4H)、7.60−7.69(m、2H)、8.00(d、1H)
【0044】
[2]13C NMR(100MHz、D2O、室温)の結果:
δ[ppm]=98.0、116.3、117.0、126.5、127.4、129.5、129.9、130.3、130.4、131.2、131.9、132.1、135.2、141.5、156.4、158.2、159.2、175.1
【0045】
[3]質量分析の結果:
m/z=759.29(M−Na)-
m/z=368.018(M−2Na)2-
【0046】
[4]HPLC分析の結果:
純度=93.8面積%、保持時間13.2分(0.1mM TFA溶液−MeOH)
【0047】
[5]UV/Vis分光分析の結果:
λmax=547nm、ε=69523M-1cm-1(溶剤:H2O、室温中)
【0048】
<合成例2>
前記一般式(1)において、R1及びR2が水素原子、R3及びR4が4位のメチル基、R5及びR6がメチル基、Mがナトリウムである下記色素化合物(14)の製造。
【0049】

【0050】
3,5−ジメチルアントラニル酸(6.7g)と、前記スキームで示した化合物(3)(7.4g)とを、スルホラン(20mL)中で塩化亜鉛(4.1g)の存在下、200℃で3時間加熱した。この溶液を冷却後、2M−塩酸50mLに注ぎ込み析出した結晶を濾別した。この結晶を水洗し、2M−水酸化ナトリウム水溶液で溶解させてエタノールで晶析することで、上記色素化合物(14)を得た。得られたものが上記の構造を有することは、前記した各装置を用い、NMR分析、質量分析、HPLC分析及びUV/Vis分光分析で確認した。以下に分析結果を示す。
【0051】
[上記色素化合物(14)についての分析結果]
[1]1H NMR(400MHz、DMSO−d6、室温)の結果:
δ[ppm]=2.04(s、6H)、2.27(s、6H)、6.32(br S、2H)、6.89(br S、2H)、6.97(d、2H)、7.07(s、2H)、7.15(d、1H)、7.48−7.54(m、3H)、7.61(t、1H)、7.98(d、1H)
【0052】
[2]13C NMR(100MHz、DMSO−d6、室温)の結果:
δ[ppm]=18.2、20.6、97.0、115.3、117.7、127.7、128.8、128.9、129.1、129.3、129.4、132.0、132.1、132.3、134.1、134.4、134.8、146.7、156.2、157.3、159.9、170.5
【0053】
[3]質量分析の結果:
m/z=683.12(M−Na)-
m/z=330.09(M−2Na)2-
【0054】
[4]HPLC分析の結果:
純度=95.1面積%、
保持時間21.7分(0.1mM TFA溶液−MeOH)
【0055】
[5]UV/Vis分光分析の結果:
λmax=533nm、
ε=85395M-1cm-1(溶剤:H2O、室温中)
【0056】
上記した合成例1及び2で得られた実施例にかかる色素化合物(7)と、色素化合物(14)とについて、それぞれ紫外可視吸収スペクトルを測定した。又、比較として、市販のC.I.Acid Red 289についても紫外可視吸収スペクトルを測定した。図2に、これらの化合物について得られた紫外可視吸収スペクトルを示した。図2より、本発明の色素化合物である色素化合物(7)及び色素化合物(14)は、何れも良好なマゼンタ色の色素であることがわかった。
【0057】
<他の色素化合物の合成例>
上記した合成例に準じた方法で、前記一般式(1)中のR1乃至R6及びMが、それぞれ表1に示したものとなるように合成して、新規色素化合物(8)〜(18)を得た。得られた色素化合物(8)〜(18)の構造は、前記した色素化合物(7)と同様にして、NMR分析、質量分析、UV/Vis分光分析及びHPLC分析で確認した。
【0058】

【0059】
上記表1中、R3及びR4として示した基の前に記載した数字は、置換位置を示す。この置換位置は、下記一般式(1)に示す数字の位置を意味する。
【0060】

【0061】
実施例2
<インクの調製例1>
前記式(7)で表される色素化合物3.5部、アセチレノール(川研ファインケミカル(株)製)1部、エチレングリコール7.5部、グリセリン7.5部、尿素7.5部を加えた後、全量が100部となるようにイオン交換水を加えた。そして、これらを十分に撹拌して溶解させ、インク(A)を作成した。
【0062】
<インクの調製例2>
実施例2で使用した色素化合物(7)を、下記式で示される色素化合物(14)に変更した以外は、同様の操作を行いインク(B)を調製した。
【0063】

【0064】
<インクの調製例3>
イオン交換水にC.I.Acid Red 289を3.5部、アセチレノール1部、エチレングリコール7.5部、グリセリン7.5部、尿素7.5部を加えた後、全量が100部となるようにイオン交換水を加えた。そして、これらを十分に攪拌して溶解させ、インク(C)を作成した。
【0065】
<インクの調製例4>
C.I.Pigment Red 122を20部、分散剤としてデモールN(花王(株)製)を12部、イオン交換水128部を混合した混合物を用意した。次に、該混合物を、直径0.5mmのジルコニアビーズ[(株)ニッカトー製]330部を使用して、ペイントシェーカー[(株)東洋精機製作所製]で18時間攪拌して分散処理を行った。この結果、固形分濃度12.5%の着色顔料分散液を得た。次に、得られた着色顔料分散液に、アセチレノール5部、エチレングリコール50部、グリセリン50部を加えた後、イオン交換水で色素濃度を3.5%に調整してインク(D)を調製した。
【0066】
実施例3
<評価>
上記実施例2で得たインク(A)〜(D)を、キヤノン(株)製バブルジェット(登録商標)プリンタPixus950iのインクカートリッジに充填し、上記インクジェットプリンタにて、下記のようにして評価用の記録物を作成した。即ち、記録物は、キヤノン(株)製写真光沢紙プロフェッショナルフォトペーパー(PR−101紙)に、各インクでそれぞれ2cm四方のベタ画像を印字後24時間自然乾燥することによって得た。
【0067】
[彩度]
上記の方法で得た各記録物について、反射濃度計Spectrolino(GretagMacbeth社製)にてL***表色系における光学濃度及び色度(L*、a*、b*)を測定し、下記のようにして評価した。先ず、記録物の彩度は、色特性の測定値に基づき、下記式によって算出した。
彩度(c*)=√{(a*2+(b*2
【0068】
上記のようにして得た各記録物の彩度(c*)の値を用いて、下記の基準で評価し、評価結果を表2に示した。そして、c*が50以上であれば、高品質な印字物が得られると判断した。
◎:c*≧70
○:70>c*≧50
×:c*<50
【0069】
[耐光性]
先のようにして得た記録物を、キセノン試験装置[XL−750、スガ試験機(株)製]に投入し、温度24℃、湿度60%の条件下、100klxの雰囲気下に168時間曝露した。曝露試験を行った印字物(記録物)の反射濃度を、試験前後でそれぞれ測定した。そして、得られた曝露試験前の初期マゼンタ画像濃度M0、曝露試験後のマゼンタ画像濃度Mfから、マゼンタ濃度残存率((Mf/M0)×100[%])を算出した。
【0070】
上記のようにして得られたマゼンタ濃度残存率を用いて、下記の基準で評価を行い、評価結果を表2に示した。そして、マゼンタ濃度残存率が70%以上であれば、良好な耐光性であると判断した。
◎:マゼンタ濃度残存率90%以上
○:マゼンタ濃度残存率70%以上、90%未満
×:マゼンタ濃度残存率70%未満
【0071】
[耐オゾン性]
得られた記録物をオゾンウェザーメーター(OMS−H、スガ試験機(株)製)にて、オゾン濃度10ppm、温度24℃、相対湿度60%の雰囲気下で印字物(記録物)を4時間曝露した。この曝露試験を行った印字物(記録物)の反射濃度を、試験前後でそれぞれ測定した。そして、得られた結果は、耐光性の場合と同様の基準で判断し、濃度残存率が70%以上であれば、良好な耐オゾン性であると判断した。得られた結果を表2に示した。表2中に、各インクを構成する色素の種類を合わせて示した。
【0072】

【0073】
表2に示した通り、本発明の色素化合物を用いたインク(A)及び(B)で作成した記録物は、彩度、耐光性及び耐オゾン性の何れの点でも従来の色素を含有するインク(C)及び(D)に比べて良好であった。このことから、本発明の色素化合物は、特に、インクジェット用マゼンタインクの着色剤として有用であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の活用例としては、本発明にかかる色素化合物は種々の用途に適用可能であり、本明細書で説明したインクの着色剤としての用途にとどまらず、光記録用色素やカラーフィルター用色素等の電子材料への応用にも十分に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明にかかる色素化合物(7)の重水中、室温、400MHzにおける1H NMRスペクトルを表わす図である。
【図2】本発明にかかる色素化合物(7)、色素化合物(14)とC.I.Acid Red 289の、水中、室温における紫外可視吸収スペクトル(濃度:2.0×10-5-1)を表わす図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表わされることを特徴とする色素化合物。

[式(1)中、R1及びR2はそれぞれ独立に、水素原子及びアルキル基の何れかを表わし、R3及びR4はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、トリフルオロメチル基、直鎖アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基及び−COOM基から選択される何れかを表わす。R5及びR6はそれぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシル基、トリフルオロメチル基、ニトロ基、直鎖アルキル基及び−COOM基から選択される何れかを表わす。但し、R5及びR6が共に直鎖アルキル基である場合は、R3及びR4は水素原子ではない。Mは、カウンターイオンを表わす。]
【請求項2】
前記一般式(1)において、R1とR2が共に水素原子で、R3とR4が同一であり、且つ、R5とR6が同一である請求項1に記載の色素化合物。
【請求項3】
前記一般式(1)において、Mが、水素原子、アルカリ金属及び置換されていてもよいアンモニウムから選択された何れかである請求項1又は2に記載の色素化合物。
【請求項4】
水性媒体及び色素化合物を含有するインクであって、該色素化合物が、請求項1乃至3の何れか1項に記載の色素化合物であることを特徴とするインク。
【請求項5】
インクジェット用である請求項4に記載のインク。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−94897(P2008−94897A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−275983(P2006−275983)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】