説明

色素増感型光電変換装置、増感色素分子及び含窒素へテロ環錯化合物

【課題】 広い吸収波長帯域を有し、また光励起電子の生成効率の向上を図ることができる、増感色素分子及び含窒素へテロ環錯化合物、及び優れたデバイス特性を有する色素増感型光電変換装置を提供すること。
【解決手段】 対向電極間に、含窒素へテロ環錯化合物を増感色素分子として担持させてなる半導体層と、電解質層とが設けられている、色素増感型光電変換装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感型光電変換装置、増感色素分子及び含窒素ヘテロ環錯化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、化石燃料に代わるエネルギー源として、太陽光を利用する様々な太陽電池が開発されている。例えば、有機材料を用いた太陽電池が長く検討されている。その中でも色素増感型太陽電池は、現在までに10%という高い光電変換効率が実現可能であり(Nature Vol.353, p737, 1991)、かつ、安価に製造できると考えられることから注目されている。
【0003】
現在、色素増感型太陽電池において、π−d軌道に吸収帯がある増感色素分子としては、例えばルテニウム錯体、ポルフィリン誘導体、フタロシアニン誘導体などが光機能材料として広く用いられている(例えば、後記の非特許文献1、非特許文献2又は非特許文献3参照。)。
【0004】
【非特許文献1】"A low cost, high efficiency solar cell based on dye sensitized colloidal TiO2 films" ; Nature, 353, 737-740 (1991) Brian O'Regan and Michael Gratzel
【非特許文献2】"Sensitization of Titanium Dioxide and Strontium Titanate Electrodes by Ruthenium(II) Tris (2,2'-bipyridine-4,4'-dicarboxylic acid) and Zinc Tetrakis (4-carboxyphenyl) porphyran : An Evaluation of Sensitization Efficiency for Component Photoelectrodes in a Multipanel Device" ; J. Phys Chem., 92, 1872-1878 (1988) Reza Dabestani, Allen J. Bard, Alan Campion, Marye Anne Fox, Thomas E. Mallouk, Stephen E. Webber, and J. M. White
【非特許文献3】"Characterization of dye-doped TiO2 films prepared by spray-pyrolysis" Appl. Surf. Sci. 113/114, 426-431 (1997) Hisao Yanagi, Yoshihiro Ohoka, Takashi Hishiki, Katsuhiro Ajito and Akira Fujishima
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来例による色素増感型太陽電池に用いられている増感色素分子の特徴としては、ある特定の波長における吸光度は大きいが、その吸収波長帯域は狭い。また、様々な吸収波長域を持つ光機能デバイスを作製するときには多種類の分子を混合する必要があり、それには適切な量の割合を見定めるのに困難を伴う。
【0006】
本発明は、上述したような問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、広い吸収波長帯域を有し、また光励起電子の生成効率の向上を図ることができる、増感色素分子及び含窒素へテロ環錯化合物、及び優れたデバイス特性を有する色素増感型光電変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は、対向電極間に、下記一般式(1)で表される含窒素へテロ環錯化合物を増感色素分子として担持させてなる半導体層と、電解質層とが設けられている、色素増感型光電変換装置に係るものである。
【0008】
【化1】

【0009】
また、前記一般式(1)で表される含窒素へテロ環錯化合物からなる増感色素分子に係るものであり、さらに、前記一般式(1)で表される含窒素へテロ環錯化合物に係るものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の増感色素分子によれば、従来例による増感色素分子に比べて、電荷分離の性能に優れ、より広い吸収波長帯域を有しており、また光励起電子の生成効率が向上している。
【0011】
そして、本発明の色素増感型光電変換装置は、前記半導体層に、上述したような優れた性能を有する増感色素分子を担持させてなるので、優れたデバイス特性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
超分子系の中には、一分子でありながら、複数の部位が互いに異なる役割を果たすものがある。本発明の増感色素分子もそういったものの一つであり、一分子中に、前記電子ドナー性を有する官能基と、電子アクセプター性を有する部位とを有する。なお、本発明の増感色素分子において、前記電子アクセプター性を有する部位とは、前記含窒素ヘテロ環錯化合物を構成するビピリジル骨格、ビピリミジン骨格及び前記酸性基に相当する。
【0013】
本発明の増感色素分子の電離状態を分子軌道計算により理論的に考察すると、基本的に最高占有軌道はπ電子的性質であり、前記電子ドナー性を有する官能基に局在している。一方、最低空軌道はπ−d混成軌道の性質を持ち、前記6配位が可能な金属元素と、前記含窒素ヘテロ環錯化合物を構成するビピリジン骨格及びビピリミジン骨格とに渡って位置している。
【0014】
このように、最高占有軌道と最低空軌道が空間的に異なる位置に局在していることは、光励起による効果的な電荷分離に寄与すると考えられる。また、光励起される電子が占める最高占有軌道が複数異なる位置に存在すること、かつ、光励起された電子が占める最低空軌道が分子骨格全体に渡って広がっていることは、光励起電流の生成効率を上昇させると考えられる。
【0015】
本発明に基づく増感色素分子は、下記一般式(2)で表される含窒素ヘテロ環錯化合物からなることが望ましい。
【0016】
【化2】

【0017】
また、本発明に基づく増感色素分子は、下記一般式(3)で表される含窒素ヘテロ環錯化合物からなっていてもよい。このように、前記一般式(1)における前記nの数を2以上とし、ポリマー化された前記含窒素ヘテロ環錯化合物とすれば、π−d軌道を更に広げることができ、吸収波長帯域をより長波長側にのばすことができ、上述したような、本発明による顕著な効果をより向上させることができる。但し、前記一般式(1)における前記nの上限値は、5〜6程度がより好ましい。一般的なπ共役系分子は、いくら長々と共役長が延びていても、エキシトン(光励起によって生成した電子−正孔対が作る電気的分極の広がった状態)はせいぜい5〜6ユニット程度で動き(電子移動は5〜6分子間では、その5〜6分子で一分子であるように自由に電子が動き)、5〜6分子ユニット以上の長さの分子は、その単位を通り越して電子移動する際には、電子をホッピングさせることが知られている。本発明に基づく増感色素分子においては、長波長吸収させるのみであれば前記nはより大きな数でもよいが、共役長を延ばし、その中で効率良く電子移動を起こし、色素増感型太陽電池等の色素増感型光電変換装置に好適な増感色素分子とするためにも、前記nは約5〜6以下とするのがより好ましい。
【0018】
【化3】

【0019】
前記一般式(1)、(2)及び(3)で表される含窒素へテロ環錯化合物において、R1、R2、R3及びR4のうち少なくとも1つは酸性基であり、前記酸性基としてはカルボキシル基、リン酸基又は硫酸基などが挙げられる。これにより、前記増感色素分子の前記半導体層への吸着(担持)を効果的に行うことができ、前記酸性基を介して前記半導体層と強固な結合状態を形成することができるので、耐久性に優れている。なお、R1、R2、R3及びR4のうち前記酸性基ではないものは、水素原子又は任意に適宜選択される官能基であってよい。
【0020】
また、前記一般式(1)、(2)及び(3)において、前記MがRu、Os、Co又はGaであることが望ましい。
【0021】
さらに、前記一般式(1)、(2)及び(3)において、前記電子ドナー性を持つ官能基は、増感色素分子内に電子を受け渡す機構を有し、かつエネルギーレベル的に前記含窒素ヘテロ環錯化合物を構成する前記ビピリジン骨格及び前記ビピリミジン骨格よりも高い準位であれば好適に用いることができる。具体的には、−CN(シアノ基)、下記構造式(1)で表されるカルバゾール基、下記構造式(2)で表されるジフェニルアミノ基等が挙げられる。
【0022】
【化4】

【0023】
以下、本発明に基づく含窒素ヘテロ環錯化合物の合成方法の一例について、図1を参照しながら説明する。
【0024】
<反応>
まず、構造式(3)で表されるジクロロ(p−シメン)ルテニウム(II)2量体を0.15mmol取り、これをジメチルホルムアミド50mlで溶解させる。溶解が確認できたところで、構造式(4)で表される2,2’−ビピリミジンを0.6mmol加え、これを窒素雰囲気下、60℃で4時間攪拌する。次に、構造式(5)で表される2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸を0.6mmol加えて、150℃、窒素雰囲気下で4時間還流する。次に、大過剰(162mmol)のチオシアン酸アンモニウムを加えて150℃、窒素雰囲気下で4時間還流する。
【0025】
<精製>
次に、上記のようにして処理した溶液を室温に戻し、溶媒をロータリーエバポレーターにて留去し、ここにイオン交換水を注ぎ、生じた固体をガラスフィルターにて収集する。ここで集めた固体をpH12とした水溶液で20mlずつ5回洗浄する。次に、蒸留水で洗浄し、更にジエチルエーテルで洗浄する。そして、固体を乾燥すれば、図1中の構造式(6)で表される本発明に基づく含窒素ヘテロ環錯化合物としての2,2’,4,4’−ビピリミジン{ルテニウム−4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン−(NCS)22を得ることができる。このような精製は、例えばSephadex LH−20ゲルろ過カラムにて行うことができ、溶離液はメタノールを用いることができる。
【0026】
また、前記一般式(1)における前記nを2以上とする場合、添加する構造式(4)で表される2,2’−ビピリミジンと、前記チオシアン酸アンモニウム塩とのモル量を適宜選択して増加させていけばよい。例えば、上述した反応において、構造式(4)で表される2,2’−ビピリミジンと、前記チオシアン酸アンモニウム塩とのモル量をそれぞれ倍にすると、前記nが3の分子が合成でき、これを3倍にすると、前記nが4の分子が合成できる。
【0027】
本発明に基づく色素増感型光電変換装置は、透明導電膜を備えた透明基板と、前記透明基板の対極をなす導電性基板との間に、前記半導体層と前記電解質層とが設けられ、光電変換によって前記透明導電膜と前記導電性基板との間に電気エネルギーを発生することができる。
【0028】
例えば、色素増感型太陽電池として構成されるのがよい。
【0029】
図2は、本発明に基づく色素増感型光電変換装置を色素増感型湿式太陽電池として構成したときの概略断面図である。
【0030】
色素増感型太陽電池1は、透明導電膜3を備えた透明基板2と、透明基板2の対極をなす導電膜6を有する基板5との間に、半導体層4と電解質層7とが設けられており、これらがケース8によって保護されている。そして、半導体層4は、例えば酸化物半導体からなり、かつ前記一般式(1)で表される含窒素ヘテロ環錯化合物からなる増感色素分子が担持されている。また、透明導電膜3と導電膜6は導線で接続されており、アンメータ(電流計)10及び仮想線で示す抵抗を有する電流回路9が形成されている。
【0031】
以下に、この色素増感型太陽電池1の動作メカニズムについて説明する。
【0032】
透明導電膜3を有する透明基板2側に太陽光が入射すると、この光エネルギーによって半導体層4中の前記一般式(1)で表される含窒素ヘテロ環錯化合物からなる増感色素分子にホールが発生し(HOMO位)、そこに電解質層7から電子が流れ込み、その後、電子は前記増感色素分子のLUMO位に渡る。この電子は前記増感色素分子を担持している半導体層4の伝導帯位(CB(conduction band)位)に渡る。これにより、透明導電膜3と導電膜6との間で電気エネルギーを取り出すことができる。
【0033】
色素増感型太陽電池1は、半導体層4が前記一般式(1)で表される含窒素ヘテロ環錯化合物からなる前記増感色素分子を担持しているので、吸収波長帯域が広く(400〜1000nm)、太陽光エネルギーから電気エネルギーに直接変換する変換効率を飛躍的に向上することができる。
【0034】
前記酸化物半導体は、公知のものを任意に用いることができ、Ti、Zn、Nb、Zr、Sn、Y、La、Ta等の金属酸化物や、SrTiO3、CaTiO3等のペロブスカイト系酸化物等を挙げることができる。
【0035】
前記酸化物半導体等からなる前記半導体層(半導体電極とも称される。)の形状は、特に制約されるものではなく、膜状、板状、柱状、円筒状等の各種形状であってよい。
【0036】
前記透明導電膜を有する前記透明基板としては、ガラスやポリエチレンテレフタレート(PET)等のプラスチック基板等の耐熱基板上に酸化インジウム、酸化錫、酸化錫インジウム等の薄膜を形成したもの、或いはフッ素ドープした導電性ガラス基板等が用いられる。この透明導電体基板の厚さは特に限定されるものではないが、通常0.3〜5mm程度である。
【0037】
前記酸化物半導体からなる前記半導体層は、半導体粒子の焼結等による多孔質として形成することが必要であり、例えば公知の方法(「色素増感太陽電池の最新技術」(シーエムシー))を参考にして、チタンイソプロポキシドを硝酸溶液中に溶解して、水熱反応を行い、安定な酸化チタンコロイド溶液を調製し、この溶液を粘結剤であるポリエチレンオキサイド(PEO)と混合し、遊星ボールミルで均一後、この混合物を例えばフッ素ドープ導電性ガラス基板(シート抵抗30Ω/□)にスクリーン印刷し、450℃で焼成することによって製造できる。
【0038】
前記一般式(1)で表される含窒素ヘテロ環錯化合物からなる前記増感色素分子を前記多孔質半導体層に担持させるには、例えば、この増感色素分子をジメチルホルムアミド等の適当な溶媒に溶解し、この溶液中に多孔質半導体層を浸漬し、多孔質半導体層の細孔中に色素が十分に含浸されて十分に吸着するまで放置した後、これを取り出して必要に応じて洗浄後、乾燥を施す。
【0039】
前記対向電極としては、アルミニウム、銀、錫、インジウム等の従来の太陽電池における対極として公知なものを任意に用いることができるが、I3-イオン等の酸化型レドックスイオンの還元反応を促進する触媒能を持った白金、ロジウム、ルテニウム、酸化ルテニウム、カーボン等がより好ましい。これらの金属膜は導電材料表面に、物理蒸着又は化学蒸着することによって形成するのが好ましい。
【0040】
両電極間に介挿される前記電解質としては、従来より太陽電池の電解質として使用されていたものの中から任意に用いることができる。このようなものとして、例えばヨウ素とヨウ化カリウムをポリプロピレンカーボネート25質量%と炭酸エチレン75質量%との混合溶媒に溶解させたものがある。
【0041】
このような構造の太陽電池等の色素増感型光電変換装置は、両電極間を導線で接続し、電流回路を形成させ、透明導電膜側から太陽光又は擬似太陽光等を照射すると、高い光電変換効率で発電することが可能である。この光電変換効率は、膜厚、半導体層の状態、色素の吸着状態、電解質の種類などに左右されるので、これらの最適条件を選ぶことにより、さらに向上させることができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0043】
実施例1
<本発明に基づく含窒素ヘテロ環錯化合物(2,2’,4,4’−ビピリミジン{ルテニウム−4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン−(NCS)22)の合成>
図1に示すように、適当な大きさの容器に、ジクロロ(p−シメン)ルテニウム(II)2量体(Aldrich社製、商品番号343706、CAS[52462−29−0])を0.15mmol取り、これをジメチルホルムアミド50mlで溶解させた。溶解が確認できたところで、2,2’−ビピリミジン(Lancaster社製、商品番号1190、CAS[34671−83−5])を0.6mmol加え、これを窒素雰囲気下、60℃で4時間加温しながら攪拌した。次に、2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸(Ardrich社製、商品番号282812、CAS[6813−38−3])を0.6mmol加えて、150℃、窒素雰囲気下で4時間還流した。そして、大過剰(162mmol)のチオシアン酸アンモニウム(ナカライテスク社製、商品番号02626、CAS[1762−95−4])を加えて150℃、窒素雰囲気下で4時間還流した。
【0044】
<精製>
次に、上記のようにして処理した溶液を室温に戻して、溶媒をロータリーエバポレーターにて留去し、ここにイオン交換水を注いで生じた固体をガラスフィルターにて収集した。ここで集めた固体をpH12とした水溶液で20mlずつ5回洗浄した。次に、蒸留水で洗浄し、更にジエチルエーテルで洗浄した。そして、固体を乾燥して、図1中の構造式(6)で表される2,2’,4,4’−ビピリミジン{ルテニウム−4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン−(NCS)22を得た。なお、精製はSephadex LH−20ゲルろ過カラムにて行い、溶離液はメタノールを用いた。
【0045】
上記のようにして作製した本発明に基づく含窒素ヘテロ環錯化合物について、Maldi−tof−MSで測定した。図3に結果を示すように、不純物のピークも多く出たが、exact MS:1112.92の位置にピークが存在した。これは、上記のようにして作製した本発明に基づく含窒素ヘテロ環錯化合物に由来するピークである。
【0046】
上記のようにして作製した本発明に基づく含窒素ヘテロ環錯化合物について、分子軌道計算により分子軌道を理論的に考察すると、図4に示すように、基本的に最高占有軌道(HOMO)はπ電子的性質であり、各々のチオシアネ−ト基に局在していた。一方、最低空軌道(LUMO)はπ−d混成軌道の性質を持ち、ルテニウム金属と、含窒素ヘテロ環錯化合物を構成するビピリジン骨格及びビピリミジン骨格とに渡って位置していた。
【0047】
このように、最高占有軌道及び最低空軌道が空間的に異なる位置に局在していることは、光励起による効果的な電荷分離に寄与すると考えられる。また、光励起される電子が占める最高占有軌道が複数異なる位置に存在すること、かつ、光励起された電子が占める最低空軌道が分子骨格全体に渡って広がっていることは、光励起電流の生成効率を上昇させると考えられる。
【0048】
実施例2
<本発明に基づく含窒素ヘテロ環錯化合物(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン{ルテニウム−2,2’,4,4’−ビピリミジン−(NCS)23−4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)の合成>
ジクロロ(p−シメン)ルテニウム(II)2量体を0.15mmol、2,2’−ビピリミジンを1.2mmol、2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸を0.6mmol、チオシアン酸アンモニウム塩を324mmol用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、下記構造式(7)で表される4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン{ルテニウム−2,2’,4,4’−ビピリミジン−(NCS)23−4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンの合成を行った。
【0049】
【化5】

【0050】
HOMO及びLUMOの軌道エネルギー測定
実施例1及び実施例2の含窒素ヘテロ環錯化合物について、密度汎関数法(B3LYP)によって分子軌道のエネルギーを算出した。基底はSV(これはd軌道を含む原子を計算するのに適切な基底である。)を用いた。なお、下記構造式(8)で表されるルテニウム錯体を比較例として用いた。
【0051】
【化6】

【0052】
結果を図5及び下記表1に示す。なお、軌道の番号付けは以下に従う。
占有軌道(HOMO):エネルギーの高い順に0、−1、−2…
空軌道(LUMO) :エネルギーの低い順に1、2、3…
【0053】
【表1】

【0054】
吸収波長の評価
実施例1及び実施例2の含窒素ヘテロ環錯化合物について、励起エネルギーの値から吸収波長の評価を行った。より正確な励起エネルギーはCI計算等により求める必要があるが、ここでは第一近似としてHOMO−LUMOの軌道エネルギー差(これは最低励起エネルギーに相当すると考えられる。)から算出した。結果を下記表2に示す。
【0055】
なお、励起エネルギーεと吸収波長λとの関係式は下記式(1)のように表される。
ε=hc/λ…式(1)
(但し、上記式(1)において、hはプランク定数、cは光速を示す。)
【0056】
上記式(1)において、h(プランク定数)は6.63×10-34Jsであり、また、c(光速)は3.00×108m/sである。例えば、励起エネルギー1eVの光の波長は、約1240nmに相当する。
【0057】
【表2】

【0058】
以上より明らかなように、実施例1及び実施例2の本発明に基づく含窒素ヘテロ環錯化合物は、最高占有軌道と最低空軌道が空間的に異なる位置に局在し、また、最高占有軌道が複数異なる位置に存在しかつ最低空軌道が分子骨格全体に渡って広がっているので、比較例のルテニウム錯体と比べて、最高占有軌道と最低空軌道のエネルギーギャップ(吸収波長帯)が長波長側にシフトし、より広い吸収波長帯域又は分子軌道分布を有すると共に、最高占有軌道とほぼ等しい準位の数が増加した。これにより、光電変換効率の上昇が期待できる。
【0059】
また、実施例1と実施例2を比較すると、本発明に基づく含窒素ヘテロ環錯化合物をポリマー化することにより、更に最高占有軌道と最低空軌道のエネルギーギャップが小さくなり、上述した効果をより向上させることができた。
【0060】
以上、本発明の実施の形態及び実施例について説明したが、上述の例は、本発明の技術的思想に基づき種々に変形が可能である。
【0061】
例えば、色素増感型光電変換装置の形態、構造や使用材料等は、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、適宜選択可能であることは言うまでもない。
【0062】
また、前記一般式(1)で表される本発明の含窒素環錯化合物において、前記MはRu以外にもOs、Co又はGaを用いることができる。これらの合成は、例えば(NH42MCl6と、[(C494N]+OH-で表されるTBAOHとを反応させた後、ビピリジル、ビピリミジル基のリガンドを配位させればよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施の形態による、本発明に基づく含窒素ヘテロ環錯化合物の製造方法の一例のフローチャートである。
【図2】同、色素増感型太陽電池の概略断面図である。
【図3】本発明の実施例による、本発明に基づく含窒素ヘテロ環錯化合物のMaldi−tof−MS測定結果を示すグラフである。
【図4】同、本発明に基づく含窒素ヘテロ環錯化合物の分子軌道計算による分子軌道の模式図である。
【図5】同、本発明に基づく含窒素ヘテロ環錯化合物の分子軌道のエネルギーを算出した結果を示すグラフである(密度汎関数法(B3LYP)による。基底はSVを用いた。)。
【符号の説明】
【0064】
1…色素増感型太陽電池、2…透明基板、3…透明導電膜、4…半導体層、5…基板、6…導電膜、7…電解質層、8…ケース、9…電流回路、10…アンメータ(電流計)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向電極間に、下記一般式(1)で表される含窒素へテロ環錯化合物を増感色素分子として担持させてなる半導体層と、電解質層とが設けられている、色素増感型光電変換装置。
【化1】

【請求項2】
前記増感色素分子が、下記一般式(2)で表される含窒素ヘテロ環錯化合物からなる、請求項1に記載した色素増感型光電変換装置。
【化2】

【請求項3】
前記増感色素分子が、下記一般式(3)で表される含窒素ヘテロ環錯化合物からなる、請求項1に記載した色素増感型光電変換装置。
【化3】

【請求項4】
前記一般式(1)において、前記酸性基がカルボキシル基、リン酸基又は硫酸基である、請求項1に記載した色素増感型光電変換装置。
【請求項5】
前記一般式(1)において、前記MがRu、Os、Co又はGaである、請求項1に記載した色素増感型光電変換装置。
【請求項6】
前記一般式(1)において、前記電子ドナー性を有する官能基がチオシアネート基、シアノ基、カルバゾール基又はジフェニルアミノ基である、請求項1に記載した色素増感型光電変換装置。
【請求項7】
透明導電膜を備えた透明基板と、前記透明基板の対極をなす導電性基板との間に、前記半導体層と前記電解質層とが設けられ、光電変換によって前記透明導電膜と前記導電性基板との間に電気エネルギーを発生する、請求項1に記載した色素増感型光電変換装置。
【請求項8】
色素増感型太陽電池として構成されている、請求項1に記載した色素増感型光電変換装置。
【請求項9】
下記一般式(1)で表される含窒素へテロ環錯化合物からなる増感色素分子。
【化4】

【請求項10】
前記含窒素ヘテロ環錯化合物が下記一般式(2)で表される、請求項9に記載した増感色素分子。
【化5】

【請求項11】
前記含窒素ヘテロ環錯化合物が下記一般式(3)で表される、請求項9に記載した増感色素分子。
【化6】

【請求項12】
前記一般式(1)において、前記酸性基がカルボキシル基、リン酸基又は硫酸基である、請求項9に記載した増感色素分子。
【請求項13】
前記一般式(1)において、前記MがRu、Os、Co又はGaである、請求項9に記載した増感色素分子。
【請求項14】
前記一般式(1)において、前記電子ドナー性を有する官能基がチオシアネート基、シアノ基、カルバゾール基又はジフェニルアミノ基である、請求項9に記載した増感色素分子。
【請求項15】
対向電極間に、増感色素分子を担持させてなる半導体層と、電解質層とが設けられている、色素増感型光電変換装置における前記増感色素分子である、請求項9に記載した増感色素分子。
【請求項16】
前記色素増感型光電変換装置が、透明導電膜を備えた透明基板と、前記透明基板の対極をなす導電性基板との間に、前記半導体層及び前記電解質層が設けられ、光電変換によって前記透明導電膜と前記導電性基板との間に電気エネルギーを発生するよう構成されている、請求項15に記載した増感色素分子。
【請求項17】
前記色素増感型光電変換装置が、色素増感型太陽電池として構成されている、請求項15に記載した増感色素分子。
【請求項18】
下記一般式(1)で表される含窒素へテロ環錯化合物。
【化7】

【請求項19】
下記一般式(2)で表される、請求項18に記載した含窒素へテロ環錯化合物。
【化8】

【請求項20】
下記一般式(3)で表される、請求項18に記載した含窒素ヘテロ環錯化合物。
【化9】

【請求項21】
前記一般式(1)において、前記酸性基がカルボキシル基、リン酸基又は硫酸基である、請求項18に記載した含窒素ヘテロ環錯化合物。
【請求項22】
前記一般式(1)において、前記MがRu、Os、Co又はGaである、請求項18に記載した含窒素ヘテロ環錯化合物。
【請求項23】
前記一般式(1)において、前記電子ドナー性を有する官能基がチオシアネート基、シアノ基、カルバゾール基又はジフェニルアミノ基である、請求項18に記載した含窒素ヘテロ環錯化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−19111(P2006−19111A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−195121(P2004−195121)
【出願日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】