説明

色素増感太陽電池およびその製造方法

【課題】信頼性、生産性、美観性を向上させることができ、各種機器への組み込みの自由度を高めることのできる色素増感太陽電池およびその製造方法を提供する。
【解決手段】第1基板20と、第1基板20上に配置された第1電極10と、第1電極10上に配置され、半導体微粒子2と色素分子4を備える多孔質半導体層12と、多孔質半導体層12と接し、酸化還元電解質を溶媒に溶解した電解液14と、電解液14に接する触媒層と、触媒層上に配置された第2電極18と、第2電極18上に配置された第2基板22と、第1基板20と第2基板22との間に配置され、電解液14を封止する封止材16とを備え、封止材16の側端部に電解液14の注入用のスリット3を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感太陽電池(DSC:Dye-sensitized Solar Cells)およびその製造方法に係り、信頼性、生産性、美観性を向上させることができ、各種機器への組み込みの自由度を高めることのできる色素増感太陽電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、安価で高性能の太陽電池としてDSCが注目されている。DSCは、スイス・ローザンヌ工科大学のグレツェルが開発したもので、増感色素を表面に担持した酸化チタンを用いることで、光電変換効率が高く、製造コストが安いなどの利点を有することから、次世代の太陽電池として期待されている。この太陽電池は、内部に電解液を封入してあることから、湿式太陽電池とも呼ばれる。
【0003】
色素増感太陽電池は、ガラス基板上に色素分子を吸着させた多孔質半導体層等とを形成した作用極基板と、ガラス基板上に電極を形成した対極基板とを紫外線硬化樹脂等の封止材を介して貼り合わせた構造を備え、作用極基板または対極基板に注入口を穿設し、その注入口から酸化還元電解質を溶媒に溶解した電解液を毛細管現象を利用して注入していた(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−159514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術では、電解液の注入に毛細管現象を利用するので、作用極基板または対極基板に2ヶ所の穿孔が必要であり、電解液を浸透注入させた後には、2ヶ所の穿孔をガラス板などを接着して封止する必要があった。
【0006】
そのため、接着されたガラス板の分だけ電池素子が厚くなり、各種機器への組み込みの自由度が低下するという問題があった。
【0007】
また、外観上、封止したガラス板の部分が目立ってしまい、各種機器に組み込んだ際に美観を損なう虞があった。
【0008】
また、封止箇所が2ヶ所となるため、封止箇所が1ヶ所の場合に比して信頼性が低下するという不都合もあった。
【0009】
本発明の目的は、信頼性、生産性、美観性を向上させることができ、各種機器への組み込みの自由度を高めることのできる色素増感太陽電池およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明の一態様によれば、第1基板と、前記第1基板上に配置された第1電極と、前記第1電極上に配置され、半導体微粒子と色素分子を備える多孔質半導体層と、前記多孔質半導体層と接し、酸化還元電解質を溶媒に溶解した電解液と、前記電解液に接する触媒層と、前記触媒層上に配置された第2電極と、前記第2電極上に配置された第2基板と、前記第1基板と前記第2基板との間に配置され、前記電解液を封止する封止材とを備え、前記封止材の側端部に前記電解液を注入するためのスリットを備える色素増感太陽電池が提供される。
【0011】
本発明の他の態様によれば、第1基板上に第1電極を形成する工程と、前記第1電極上に半導体微粒子を備える多孔質半導体層を形成する工程と、前記多孔質半導体層を色素溶液に浸漬させて色素分子を吸着させる工程と、第2基板上に第2電極を形成する工程と、前記第2電極上に触媒層を形成する工程と、前記第1電極上に、スリットを有する封止材を形成する工程と、前記第1電極と、前記第2電極を前記封止材を介して貼り合わせる工程と、前記スリットを介して、前記第1電極と前記第2電極との間に、酸化還元電解質を溶媒に溶解した電解液を注入する工程と、前記スリットの端部を封止する工程とを有する色素増感太陽電池の製造方法が提供される。
【0012】
本発明の他の態様によれば、第1基板上に複数の第1電極を形成する工程と、前記第1電極上に半導体微粒子を備える多孔質半導体層を形成する工程と、前記多孔質半導体層を色素溶液に浸漬させて色素分子を吸着させる工程と、第2基板上に前記第1電極と対向する複数の第2電極を形成する工程と、前記第2電極上に触媒層を形成する工程と、複数の前記第1電極上に、それぞれスリットを有する複数の封止材を形成する工程と、複数の前記第1電極と、複数の前記第2電極とをそれぞれ複数の前記封止材を介して貼り合わせる工程と、第1基板上または前記第2基板上に、スクライブラインを形成する工程と、前記スクライブラインに沿ってブレークする工程と、前記スリットを介して、前記第1電極と前記第2電極との間に、酸化還元電解質を溶媒に溶解した電解液を注入する工程と、前記スリットの端部を封止する工程とを有する色素増感太陽電池の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、信頼性、生産性、美観性を向上させることができ、各種機器への組み込みの自由度を高めることのできる色素増感太陽電池およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)実施の形態に係る色素増感太陽電池の模式的平面パターン構成図、(b)図1(a)のA部分の拡大断面図。
【図2】図1(a)のI−I線に沿う模式的断面構造図。
【図3】図1(a)のII−II線に沿う模式的断面構造図。
【図4】図2、図3の多孔質半導体層の半導体微粒子の模式的構造図。
【図5】実施の形態に係る色素増感太陽電池の動作原理説明図。
【図6】実施の形態に係る色素増感太陽電池の電解液における電荷交換反応に基づく動作原理説明図。
【図7】実施の形態に係る色素増感太陽電池において、多孔質半導体層(12)/色素分子(32)/電解液(14)間のエネルギーポテンシャルダイヤグラム。
【図8】実施の形態に係る色素増感太陽電池において、色素分子(32)/電解液(14)間のエネルギーポテンシャルダイヤグラムであって、図7のJ部分の拡大図。
【図9】比較例に係る色素増感太陽電池の模式的鳥瞰構成図。
【図10】実施の形態に係る色素増感太陽電池の製造方法で製造され、電解液を注入する前の状態における色素増感太陽電池を示す平面図。
【図11】実施の形態に係る色素増感太陽電池の製造工程の一工程であって、第1基板上に多孔質半導体層を形成した状態を示す模式的鳥瞰構成図。
【図12】実施の形態に係る色素増感太陽電池の製造工程の一工程であって、第1基板上にスリットを形成した封止材を塗布した状態を示す模式的鳥瞰構成図。
【図13】実施の形態に係る色素増感太陽電池の製造工程の一工程であって、封止材を介して第1基板と第2基板とを貼り合わせた状態を示す模式的鳥瞰構成図。
【図14】実施の形態に係る色素増感太陽電池の製造工程の一工程であって、容器に入れた電解液にスリットを浸漬させた状態を示す一部断面正面図。
【図15】実施の形態に係る色素増感太陽電池の製造工程の一工程であって、容器および対極基板と作用極基板との間の空間を大気圧以下に減圧した状態を示す一部断面正面図。
【図16】実施の形態に係る色素増感太陽電池の製造工程の一工程であって、注入工から電解液を注入した状態を示す一部断面正面図。
【図17】実施の形態に係る色素増感太陽電池の製造工程の一工程であって、スリットの外側端部に封止用の樹脂を滴下した状態を示す平面図。
【図18】実施の形態に係る色素増感太陽電池の製造工程の一工程であって、色素増感太陽電池全体を冷却させて、圧力差により樹脂をスリット内に侵入させた状態を示す平面図。
【図19】実施の形態に係る色素増感太陽電池の製造工程の一工程であって、樹脂を硬化させてスリットを封止した状態を示す平面図。
【図20】実施の形態に係る色素増感太陽電池の製造工程の一工程であって、対極基板と作用極基板との間の減圧状態を保持したまま、容器を電解液ごと大気圧に暴露した状態を示す一部断面正面図。
【図21】実施の形態に係る色素増感太陽電池の量産化製造工程の一工程であって、m×n個の色素増感太陽電池を作り込み、スクライブラインを形成した状態を示す平面図。
【図22】実施の形態に係る色素増感太陽電池の量産化製造工程の一工程であって、スクライブラインに沿って分離された一群の色素増感太陽電池を真空チャンバに収容した状態を示す一部断面正面図。
【図23】実施の形態に係る色素増感太陽電池の量産化製造工程の一工程であって、一群の色素増感太陽電池を電解液に浸漬させた状態を示す一部断面正面図。
【図24】実施の形態に係る色素増感太陽電池のスリットの構成例1を示す断面図。
【図25】実施の形態に係る色素増感太陽電池のスリットの構成例2を示す断面図。
【図26】実施の形態に係る色素増感太陽電池のスリットの構成例3を示す断面図。
【図27】実施の形態に係る色素増感太陽電池のスリットの構成例4を示す断面図。
【図28】電気二重層キャパシタ内部電極を例示する正面図。
【図29】リチウムイオンキャパシタ内部電極を例示する正面図。
【図30】リチウムイオン電池内部電極を例示する正面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、図面を参照して、実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0016】
又、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の実施の形態は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の実施の形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0017】
以下の実施の形態に係る色素増感太陽電池において、「透明」とは、透過率が約50%以上であるものと定義する。また「透明」とは、実施の形態に係る色素増感太陽電池において、可視光線に対して、無色透明という意味でも使用する。可視光線は波長約360nm〜830nm程度、エネルギー約3.45eV〜1.49eV程度に相当し、この領域で透過率が50%以上あれば透明である。
【0018】
(色素増感太陽電池)
実施の形態に係る色素増感太陽電池の模式的平面パターン構成は、図1(a)に示すように表され、図1(a)のA部分の拡大模式的断面構成は、図1(b)に示すように表される。また、図1(a)のI−I線に沿う模式的断面構造は、図2に示すように表され、II−II線に沿う模式的断面構造は、図3に示すように表される。
【0019】
実施の形態に係る色素増感太陽電池200は、図1〜図3に示すように、第1基板20と、第1基板20上に配置された第1電極10と、第1電極10上に配置され、半導体微粒子2と色素分子4(図4)とを備える多孔質半導体層12と、多孔質半導体層12と接し、酸化還元電解質を溶媒に溶解した電解液14と、電解液14に接する触媒層と、触媒層上に配置された第2電極18と、第2電極18上に配置された第2基板22と、第1基板20と第2基板22との間に配置され、電解液14を封止する封止材16とを備える。ここで、封止材16の側端部に電解液14の注入用のスリット3を備える。
【0020】
実施の形態に係る色素増感太陽電池200において、スリット3は、封止材16に1箇所配置される。
【0021】
また、実施の形態に係る色素増感太陽電池200において、スリット3は、封止材16に複数箇所配置されていても良い。
【0022】
また、実施の形態に係る色素増感太陽電池200において、スリット3は、樹脂の充填により封止される。
【0023】
実施の形態に係る色素増感太陽電池200に適用される作用極100は、図2および図3に示すように、第1基板20上に配置された第1電極10と、第1電極10上に配置された多孔質半導体層12とを備える。
【0024】
第1基板20および第2基板22は、例えば、ガラス基板などで形成することができる。また、フレキシブルなプラスチック基板を用いることもできる。この場合、多孔質半導体層を構成するTiOペーストとしては、200℃以下で焼成可能なものを用いる。
【0025】
また、第1基板20側から光を照射するため、第1基板20は、照射光(WL)に対して、透明であることが望ましい。なお、第1基板20の光が入射する側に反射防止膜などをコーティングしても良い。
【0026】
第1電極10は、例えば、FTO、ZnO、ITO、SnOなどの透明電極で形成される。第1基板20上に電極加工し、FTO付き基板、金属などのグリッド付き基板、或いは上記の複合基板としても良い。
【0027】
多孔質半導体層12は、TiO、ZnO、WO、InO、ZrO、Ta、Nb、SnOなどの材料を用いて形成されていても良い。特に、効率面から安価なTiO(アナターゼ型、ルチル型)が主に用いられる。
【0028】
また、図1(a)に示すように、封止材16の側端部には電解液14の注入口としてのスリット3が形成されている。
【0029】
このスリット3は、封止材16を所定の印刷パターンによって印刷して塗布することによって形成することができる。なお、封止材16の厚さは、例えば、約30μm〜約40μmとされる。
【0030】
また、スリット3の幅は、例えば、約100μm程度とされる。スリット3の形状は、図1に示す場合に限られず、種々の形状とすることができる。スリット3の形状の具体的な例については後述する。
【0031】
また、電解液14を注入した後、スリット3は、図1(b)に示すように、エポキシ樹脂等の充填により封止され。図1(b)には、スリット3内に侵入した樹脂3bと、スリット3の外側端部に配置される樹脂3aが示されている。樹脂3a・3bは、硬化されて、スリット3を封止する。
【0032】
図2および図3の多孔質半導体層12の半導体微粒子2の模式的構造は、図4に示すように表される。図4に示すように、多孔質半導体層12は、TiOなどからなる半導体微粒子2が互いに結合して複雑なネットワークを形成している。色素分子4は、半導体微粒子2の表面に吸着される。多孔質半導体層12内には、大きさ100nm以下の細孔が多数存在する。
【0033】
(動作原理)
実施の形態に係る色素増感太陽電池200の動作原理は、図5に示すように表される。
【0034】
下記の(a)〜(d)の反応が継続して起こることで、起電力が発生し、負荷24に電流が導通する。
【0035】
(a)色素分子32が光子(hν)を吸収し、電子(e)を放出し、色素分子32は酸化体DOになる。
【0036】
(b)Reで表される還元体の酸化還元電解質26が多孔質半導体層12中を拡散して、DOで表される酸化体の色素分子32に接近する。
【0037】
(c)酸化還元電解質26から色素分子32に電子(e)が供給される。酸化還元電解質26は、Oxで表される酸化体の酸化還元電解質28になり、色素分子32はDRで表される還元された色素分子30になる。
【0038】
(d)酸化還元電解質28は、第2電極18方向に拡散し、第2電極18より電子を供給されて、Reで表される還元体の酸化還元電解質26になる。
【0039】
酸化還元電解質26は、多孔質半導体層12中の入り組んだ空間を拡散しながら色素分子32の近傍に接近する必要がある。
【0040】
また、実施の形態に係る色素増感太陽電池200の電解液14における電荷交換反応に基づく動作原理は、図6に示すように表される。
【0041】
まず、外部から光照射されると光子(hν)が色素分子32と反応して、色素分子32は基底状態から励起状態へと遷移する。このとき発生した励起電子(e)がTiOからなる多孔質半導体層12の伝導帯へ注入される。多孔質半導体層12中を導通した電子(e)は、第1電極(透明電極)10から外部回路の負荷24を導通し、第2電極18へ移動する。第2電極18から電解液14中に注入された電子(e)は、電解液14中のヨウ素酸化還元電解質(I/I)と電荷交換される。ヨウ素酸化還元電解質(I/I)が電解液14内を拡散し、色素分子32と再反応する。ここで、電荷交換反応は、色素分子表面において、3I→I+2eに従って進行し、第2電極18において、I+2e→3Iに従って進行する。
【0042】
電解液14は、溶媒として、例えば、アセトニトリルを使用し、この場合の電解質として、例えば、ヨウ素は、電解液14中のヨウ素酸化還元電解質Iとして存在する。また、電解質として、例えば、ヨウ化物塩(ヨウ化リチウム、ヨウ化カリウムなど)は、電解液14中のヨウ素酸化還元電解質Iとして存在する。また、電解液14中には、逆電子移動抑制溶液として添加剤(例えば、TBP:ターシャルブチルピリジン)を適用しても良い。
【0043】
上記の溶質、添加剤を溶媒(アセトニトリル)に溶解させることによって、電解液14を構成することができる。なお、上記の材料は湿式DSCなどに適用可能なものであって、常温溶融塩(イオン性液体)や固体電解質を用いる場合には、構成材料が異なる。
【0044】
実施の形態に係る色素増感太陽電池200において、溶媒は、後述する電解質、添加剤を溶解する液体であり、高沸点、化学的安定性が高く、高誘電率(電解質が良く溶解する)、低粘度であること望ましい。例えば、アセトニトリル、炭酸プロピレン、yブチロラクトン、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどで構成されていても良い。
【0045】
色素は、レッドダイ(N719)、ブラックダイ(N749)などを適用することができる。
【0046】
第2電極18と電解液14との間には、図示は省略するが、触媒層が備わっている。触媒層は、例えば、Pt、炭素、若しくは、導電性高分子などで構成可能である。また、触媒層は、活性炭にTiO、ZnO、SnO、WO等の金属酸化物の微粒子を含んで構成されていても良い。TiO、ZnO、SnO、WO等の金属酸化物の微粒子は、白金(Pt)に比べて比較的安価であり、また白金(Pt)を成膜する際の真空成膜法を用いる必要がなく、後述するようにスクリーン印刷等の印刷法を適用して成膜可能であるので、製造コストを低廉化して、色素増感太陽電池の製造単価を大幅に引き下げることができる。
【0047】
さらに、触媒層は、活性炭に導電性高分子(PEDOT:PSSなど)を含むことで、粒子間の導電性を更に向上させることができ、この場合においても製造コストの低廉化を図りつつ、発電特性を向上させることができる。
【0048】
多孔質半導体層12は、例えば、スクリーン印刷技術、スピンコート技術、ディッピング、スプレーコート技術などを用いて形成することができる。
【0049】
実施の形態に係る色素増感太陽電池200において、多孔質半導体層(12)/色素分子(32)/電解液(14)間のエネルギーポテンシャルダイヤグラムは、図7に示すように表される。また、色素分子(32)/電解液(14)間のエネルギーポテンシャルダイヤグラムであって、図7のJ部分の拡大図は、図8に示すように表される。
【0050】
外部から光照射されると光子(hν)が色素分子32と反応して、色素分子32は基底状態HOMOから励起状態LUMOへと遷移する。このとき発生した励起電子(e)がTiOからなる多孔質半導体層12の伝導帯へ注入される。多孔質半導体層12中を導通した電子(e)は、第1電極(透明電極)10から外部回路の負荷24を導通し、第2電極18へ移動する。第2電極18から電解液14中に注入された電子(e)は、電解液14中のヨウ素・混合系酸化還元電解質と電荷交換される。ヨウ素・臭素混合系酸化還元電解質が電解液14内を拡散し、色素分子32と再反応する。
【0051】
電解液14の酸化還元準位EROと多孔質半導体層12のフェルミ準位E間の電位差が最大起電力VMAXである。最大起電力VMAXの値は、電解液14の酸化還元電解質により変化する。酸化還元電解質単独系(ヨウ素酸化還元電解質)の場合には、例えば、0.9V(I,N719)である。電解液14がヨウ素・臭素の混合系酸化還元電解質を含む場合には、図7に示すように、混合比率を調整することで混合系酸化還元電解質の酸化還元電位を、ヨウ素酸化還元電解質の酸化還元電位と臭素酸化還元電解質の酸化還元電位の間の任意の値に調整することができる。
【0052】
図7に示すように、電解液14の臭素酸化還元電解質の混合比が零の場合、酸化還元準位ERO=0.53V(I/I)であるのに対して、ヨウ素酸化還元電解質の混合比が零の場合、酸化還元準位ERO=1.09V(Br/Br)である。この間のギャップエネルギーEgaの値は、1.09−0.53=0.56Vである。
【0053】
HOMOレベルと酸化還元準位EROの電位差Eghの値が大きい場合には、最大起電力VMAXを得る上で、電圧ロスとなる。HOMOレベルと酸化還元準位EROの電位差Eghの値が低い場合には、電解液14から色素分子32への電子(e)の移動が阻害される。
【0054】
したがって、電子(e)を効率良く電解液14から色素分子32側に導通すると共に、最大起電力VMAXを得る上での電圧ロスを抑制するためには、酸化還元準位EROのレベルは色素分子32のHOMOレベルよりは上で、かつ電位差Eghをできるだけ小さくすることが望ましい。
【0055】
次に示すように、ヨウ素酸化還元電解質と臭素酸化還元電解質を混合することで得られるヨウ素・臭素混合系酸化還元電解質よりなる電解液では、ヨウ素酸化還元電解質を単独で用いた場合に比べて、臭素酸化還元電解質の添加量に応じて開放端電圧の値が増加する。これは、ヨウ素酸化還元電解質に比べて、臭素酸化還元電解質は酸化還元電位がポジティブ(正)であり、ヨウ素−臭素混合系酸化還元電解質の酸化還元電位が臭素酸化還元電解質の添加量に応じてポジティブ(正)側にシフトするためである。
【0056】
(比較例)
比較例に係る色素増感太陽電池の模式的鳥瞰構成は、図9に示すように表される。
【0057】
比較例に係る色素増感太陽電池200aは、図9に示すように、電解液の注入口24a・24bをガラス板23a、23bによって封止した構成を備える。ここで、特に、注入口24a・24bの一方は、正規の電解液の注入口であり、他方は、空気抜きの穴として使用される。
【0058】
比較例に係る色素増感太陽電池200aでは、電解液の注入に毛細管現象を利用するため、第1基板20に2ヶ所の注入口24a、24bが必要である(なお、注入口は第2基板22側に設けても良い)。電解液を浸透注入させた後、電解液の液漏れを防止するため、2ヶ所の注入口24a・24bを、例えば、約0.2mm程度の厚さのガラス板23a・23bを接着剤により接着して、封止する。このため、接着されたガラス板23a・23bの分だけ色素増感太陽電池200aが厚くなり、各種機器への組み込みの自由度が低下する。また、外観上、封止したガラス板23a・23bの部分が目立ち、各種機器に組み込んだ際に美観を損なう。また、封止箇所が2ヶ所となるため、ガラス板23a・23bの剥離等の可能性が高まる。
【0059】
実施の形態に係る色素増感太陽電池によれば、注入口を一箇所とすることができ、太陽電池自体が厚くなることもなく、信頼性、生産性、美観性を向上させることができ、リモコン、携帯電話機等の各種機器への組み込みの自由度を高めることができる。
【0060】
(製造方法)
図10〜図20を参照して、実施の形態に係る色素増感太陽電池の製造方法について説明する。
【0061】
なお、図10は、実施の形態に係る色素増感太陽電池の製造方法によって製造され、電解液14を注入する前の状態における色素増感太陽電池を示す平面図である。
【0062】
実施の形態に係る色素増感太陽電池の製造方法は、図10〜図20に示すように、第1基板20上に第1電極10を形成する工程と、第1電極10上に半導体微粒子を備える多孔質半導体層12を形成する工程と、多孔質半導体層12を色素溶液に浸漬させて色素分子4を吸着させる工程と、第2基板22上に第2電極18を形成する工程と、第2電極18上に触媒層を形成する工程と、第1電極10上に、スリット3を有する封止材16を形成する工程と、第1電極10と第2電極18とを封止材16を介して貼り合わせる工程と、スリット3を介して、第1電極10と第2電極18との間に、酸化還元電解質を溶媒に溶解した電解液14を注入する工程と、スリット3の端部を封止する工程とを有する。
【0063】
また、封止材16を形成する工程は、所定のスリットパターンを有する印刷パターンによって印刷して塗布する工程を有していても良い。
【0064】
また、電解液14を注入する工程は、電解液14を入れた所定の容器44および第1電極10と第2電極18との間の空間を大気圧Poよりも低い圧力Piに減圧する工程と、電解液14に、スリット3を浸漬する工程と、第1電極10と第2電極18との間の減圧状態を保持したまま、所定の容器44を電解液14ごと大気圧Poに暴露する工程とを有していても良い。
【0065】
また、スリット3の端部を封止する工程は、スリット3の外側端部に封止用の樹脂3aを滴下する工程と、圧力差により樹脂3aをスリット3内に侵入させる工程と、外側端部の樹脂3a・スリット3内に侵入した樹脂3bを硬化させる工程とを有していても良い。
【0066】
ここで、圧力差により樹脂3aをスリット3内に侵入させる工程は、色素増感太陽電池全体を冷却させる工程を有していても良い。
【0067】
また、圧力差により樹脂をスリット内に侵入させる工程は、第1電極10と第2電極18とを外部から押圧後開放する工程を有していても良い。
【0068】
また、外側端部の樹脂3a・スリット3内に侵入した樹脂3bを硬化させる工程は、紫外線照射工程を有していても良い。
【0069】
以下、実施の形態に係る色素増感太陽電池の製造方法を詳述する。
【0070】
(a)まず、図11に示すように、ガラス板等で構成される第1基板20上に、多孔質半導体層12を形成する。多孔質半導体層12は、例えば、スクリーン印刷法によって形成することができる。具体的には、例えば、第1電極(透明電極)10を形成した後の第1基板20の上に、形成すべき多孔質半導体層に対応する開口部を有するマスク部材を位置合わせしてセットし、TiO、ZnO、WO、InO、ZrO、Ta、Nb、SnOなどの微粒子を含むペーストをマスク部材上に塗布し、スキージによって開口部内に充填する。次に、マスク部材を取り除いた後に、所定の温度でペースト層を焼成することにより、多孔質半導体層12が形成される。
【0071】
(b)次に、色素溶液に、多孔質半導体層12を浸漬させることにより、多孔質半導体層12に色素を吸着させる。色素は、レッドダイ(N719)、ブラックダイ(N749)などを適用することができる。これにより、色素を吸着させた多孔質半導体層12が作成される。
【0072】
(c)次に、図12に示すように、第1基板20の縁部に沿って、スリット3を形成した封止材16を形成する。具体的には、封止材16は、例えば、所定のスリットパターンを有する印刷パターンによって印刷法によって塗布することができる。なお、スリット3の開口幅は100μm程度とすることができる。また、封止材16としては、紫外線硬化樹脂等を用いることができる。ここで、封止材16の一部にスリット3が開口されて、電解液14の注入口となる。
【0073】
(d)次に、図13に示すように、ガラス板等で構成される第2基板22上に第2電極(図示せず)を形成し、第2電極上に触媒層(図示せず)を形成した対極基板を、第1基板20上に第1電極10と多孔質半導体層12とを形成した作用極基板上に、封止材16を介して位置合わせして重ねる。
【0074】
(e)次に、封止材16に紫外線を照射して紫外線硬化樹脂を硬化させて、作用極基板と対極基板とを貼り合わせる。
【0075】
(f)次に、図14に示すように、電解液14を収容した容器44内に、スリット3を下側にした色素増感太陽電池本体を投入して、スリット3を電解液14に浸漬させる。
【0076】
(g)次に、図15に示すように、容器44および色素増感太陽電池本体の対極基板と作用極基板との間の空間の圧力Piを大気圧Poよりも低い圧力Piに減圧する。具体的には、真空チャンバ42内に、容器44および電池本体を収容して圧力Piに減圧する。
【0077】
(h)次に、図16に示すように、色素増感太陽電池本体の対極基板と作用極基板との間の減圧状態を保持したまま、容器44を電解液14ごと大気圧Poに暴露すると、圧力差により、電解液14がスリット3を介して色素増感太陽電池本体の対極基板と作用極基板との間に注入される。即ち、図20に示すように、色素増感太陽電池本体の対極基板と作用極基板との間を圧力Pi、電解液14に掛かる圧力を大気圧Poとした場合に、Po>Piの関係となるように圧力Piを調整することにより、電解液14が大気圧Poに押圧されて、スリット3を介して色素増感太陽電池本体の対極基板と作用極基板との間に注入される。
【0078】
(i)次に、図17に示すように、スリット3の外側端部に封止用の樹脂3aを滴下する。樹脂3aとしては、例えばエポキシ樹脂や紫外線硬化樹脂等を適用することができる。
【0079】
(j)次に、図18に示すように、色素増感太陽電池本体を室温以下に冷却すると、電解液14の収縮により、スリット3の外側端部に滴下された樹脂3aが大気圧Poに押圧されてスリット3内に侵入する。ここで、スリット3内に侵入した樹脂を3bで表している。
【0080】
(k)次に、樹脂3a・3bが例えばエポキシ樹脂である場合には硬化時間が経過するまで待ち、紫外線硬化樹脂である場合には滴下した樹脂に紫外線を照射して硬化させる。結果として、図19に示すように、電解液14が注入され、スリット3が封止された色素増感太陽電池200bが作成される。スリット3近傍の硬化された樹脂3a・3bの構成は、図1(b)に示した通りである。
【0081】
実施の形態に係る色素増感太陽電池の製造方法によれば、特に、スリットを印刷法により形成することができるので、製造コストを低廉化することができる。
【0082】
(量産化工程)
実施の形態に係る色素増感太陽電池の量産化製造工程の一工程であって、m×n個のDSCのセルD11〜Dmnを作り込み、スクライブラインを形成した状態は、図21に示すように表される。また、実施の形態に係る色素増感太陽電池の量産化製造工程の一工程であって、スクライブラインに沿って分離された一群の色素増感太陽電池を真空チャンバに収容した状態は、図22に示すように表され、一群の色素増感太陽電池を電解液に浸漬させた状態は、図23に示すように表される。
【0083】
実施の形態に係る色素増感太陽電池の量産化のための製造方法は、図21〜図23に示すように、第1基板20上に複数の第1電極1011・1012・…・10mnを形成する工程と、第1電極1011・1012・…・10mn上に半導体微粒子を備える多孔質半導体層1211・1212・…・12mnを形成する工程と、多孔質半導体層1211・1212・…・12mnを色素溶液に浸漬させて色素分子を吸着させる工程と、第2基板22上に第1電極1011・1012・…・10mnと対向する複数の第2電極1811・1812・…・18mn(図示省略)を形成する工程と、第1電極1011・1012・…・10mn上に、それぞれスリット3を有する複数の封止材1611・1612・…・16mnを形成する工程と、第1基板20と第2基板22を対向させて、複数の第1電極1011・1012・…・10mnと、複数の第2電極1811・1812・…・18mnとをそれぞれ複数の封止材1611・1612・…・16mnを介して貼り合わせる工程と、第1基板20上または第2基板22にスクライブラインSLを形成する工程と、スクライブラインSLに沿ってブレークする工程と、スリット3を介して、第1電極1011・1012・…・10mnと第2電極1811・1812・…・18mnとの間に、酸化還元電解質を溶媒に溶解した電解液14を注入する工程と、スリット3の端部を封止する工程とを有する。
【0084】
ここで、色素増感太陽電池D11〜Dmnを作成する工程は、
(l)第1基板20上に所定の間隔で複数の第1電極1011・1012・…・10mnを形成する工程と、
(m)各第1電極1011・1012・…・10mn上に半導体微粒子を備える多孔質半導体層1211・1212・…・12mnを形成する工程と、
(n)各多孔質半導体層1211・1212・…・12mnを色素溶液に浸漬させて色素分子を吸着させる工程と、
(o)第2基板22上に各第1電極1011・1012・…・10mnと対向する複数の第2電極1811・1812・…・18mn(図示省略)を形成する工程と、
(p)第2電極上に触媒層を形成する工程と、
(q)第1基板20上に複数の第1電極1011・1012・…・10mnと色素分子を吸着させた複数の多孔質半導体層1211・1212・…・12mnとを形成した作用極基板上に、電解液14の注入口としてのスリット3を形成した封止材1611・1612・…・16mnをそれぞれ塗布する工程と、
(r)作用極基板と、第2基板22上に複数の第2電極1811・1812・…・18mn(図示省略)と触媒層(図示省略)を形成した対極基板とを各封止材1611・1612・…・16mnを介して貼り合わせる工程と、
(s)それぞれDSCのセルD11〜Dmn毎に分離するためのスクライブラインSLを第1基板20上または第2基板22上に形成する工程と、
(t)スクライブラインSLに沿ってブレークして、分離する工程と、
(u)各スリット3を介して、対極基板と作用極基板との間に、酸化還元電解質を溶媒に溶解した電解液14を注入する工程と、
(v)各スリット3の端部を封止する工程とを有する。
【0085】
図21は、前記工程(s)の段階を示している。
【0086】
前記工程(t)によって、第1基板20は、スクライブラインSLに沿ってブレークすることにより、短冊形状の第1基板バー201・202・…・20mが得られ、図22および図23に示すように、水平方向に、色素増感太陽電池D1〜Dnが連なった一群の色素増感太陽電池が得られる。図22において、第1基板バー20iは、短冊形状の第1基板バー201・202・…・20mの内の1個に対応し、色素増感太陽電池D1〜Dnは、第1基板バー20i上に搭載されているDSCセル列に対応する。
【0087】
なお、各色素増感太陽電池D1〜Dnは、封止材16〜16によって、作用極基板と対極基板とが貼り合わせられている。
【0088】
また、各封止材16〜16によって、電解液14の注入口としてのスリット3がそれぞれ形成されている。
【0089】
ここで、図22は、真空チャンバ300内に、色素増感太陽電池D1〜Dnが連なった一群の色素増感太陽電池を収容した状態を示す。
【0090】
真空チャンバ300は、筐体40と、内壁40と、雰囲気を導入する通気バルブ(リークバルブ)301と、図示しない真空ポンプに接続される吸気バルブ(真空バルブ)302と、電解液14を収容する容器44と、色素増感太陽電池の支持部48とを備える。
【0091】
色素増感太陽電池D1〜Dnが連なった一群の色素増感太陽電池は、真空チャンバ300の支持部48によって、スリット3が下側となるように支持されている。
【0092】
そして、この状態において、通気バルブ301を閉じ、真空バルブ302を開けると共に真空ポンプを稼働させて、チャンバ内を大気圧よりも低い圧力に減圧した状態とする。
【0093】
これにより、容器44および色素増感太陽電池D1〜Dnの対極基板と作用極基板との間の空間が大気圧以下に減圧される。
【0094】
次いで、図23に示すように、容器44に入れた電解液14に、各スリット3を浸漬させる。
【0095】
続いて、色素増感太陽電池D1〜Dnの各スリット3を電解液14に浸漬させた状態で、真空チャンバ300の通気バルブ301を開いてチャンバ内を大気圧に戻す。
【0096】
これにより、色素増感太陽電池D1〜Dnの対極基板と作用極基板との間の減圧状態が保持された状態で、容器44および電解液14が大気圧に暴露される。
【0097】
そして、色素増感太陽電池D1〜Dn側と、容器44側との圧力差により、電解液14が大気圧に押されて、各スリット3を介して色素増感太陽電池D1〜Dnの対極基板と作用極基板との間に注入される。
【0098】
この後、真空チャンバ300内から色素増感太陽電池D1〜Dnを取り出し、各スリット3を樹脂によって封止する。封止方法は、実施の形態に係る色素増感太陽電池の製造方法に示す方法と同様である。
【0099】
そして、対極基板または作用極基板に縦方向のスクライブラインを設けるなどして、各セルに分割することにより、複数の色素増感太陽電池D1〜Dnを作成することができる。
【0100】
実施の形態に係る色素増感太陽電池の製造方法によれば、信頼性、生産性、美観性を向上させることができ、各種機器への組み込みの自由度を高めることが可能な色素増感太陽電池を比較的容易且つ安価に得ることができる。
【0101】
(スリット構造)
図24〜図27を参照して、実施の形態に係る色素増感太陽電池のスリットの形状の構成例1〜構成例4について説明する。
【0102】
―構成例1―
まず、構成例1に係るスリット3は、図24に示すように、電解液PE1の注入側から多孔質半導体層12に向って、徐々に狭くなるテーパー形状を備えている。
【0103】
構成例1によれば、電解液PE1がより注入し易いと共に、封止用の樹脂も比較的容易にスリット3内に侵入して確実に封止することができる。
【0104】
―構成例2―
構成例2に係るスリット3は、図25に示すように、電解液PE1の注入側から多孔質半導体層12に向って、平行形状を備えるように、封止材16の対向する端部が平行となるように形成されている。
【0105】
構成例2によれば、電解液PE1が注入し易いと共に、封止用の樹脂も比較的容易にスリット3内に侵入して確実に封止することができる。
【0106】
―構成例3―
構成例3に係るスリット3は、図26に示すように、電解液PE1の注入側から多孔質半導体層12に向って、徐々に広くなるテーパー形状を備えている。
【0107】
構成例3によれば、電解液PE1が注入し易いという利点がある。
【0108】
―構成例4―
構成例4に係るスリット3は、図27に示すように、スリット3内に配置される仕切り部材16aによって、2以上に分割されている。
【0109】
構成例4によれば、電解液PE1・PE2が注入し易いという利点があり、また、分割された各スリットの開口部の幅が小さくなるので、樹脂による封止を行い易いという利点がある。
【0110】
(電気二重層キャパシタ)
例えば、電気二重層キャパシタにおいて、電解液の注入口を第1基板と第2基板の間に挟まれた封止材の側端部に形成することができる。
【0111】
図28は、電気二重層キャパシタ内部電極の基本構造を例示している。電気二重層キャパシタ内部電極は、少なくとも1層の活物質電極110,112に、電解液のイオンのみが通過するセパレータ130を介在させ、引き出し電極132a,132bが活物質電極110,112から露出するように構成され、引き出し電極132a,132bは電源電圧に接続されている。引き出し電極132a,132bは、例えば、アルミ箔から形成され、活物質電極110,112は、例えば、活性炭から形成される。セパレータ130は、活物質電極110,112全体を覆うように、活物質電極110,112よりも大きいもの(面積の広いもの)を用いる。セパレータ130は、エネルギーデバイスの種類には原理的に依存しないが、特にリフロー対応が必要とされる場合には、耐熱性が要求される。耐熱性が必要ない場合にはポリプロピレン等を、耐熱性が必要な場合にはセルロース系のものを用いることができる。電気二重層キャパシタ内部電極には、電解液が含侵されており、セパレータ130を通して、電解液のイオンのみが充放電時に移動する。
【0112】
この構成において、電気二重層キャパシタを封止する封止材に、注入口としてのスリットを形成し、このスリットを介して電解液を注入することが可能となる。
【0113】
(リチウムイオンキャパシタ)
また、リチウムイオンキャパシタにおいて、電解液の注入口を第1基板と第2基板の間に挟まれた封止材の側端部に形成することができる。
【0114】
図29は、リチウムイオンキャパシタ内部電極の基本構造を例示している。リチウムイオンキャパシタ内部電極は、少なくとも1層の活物質電極111,112に、電解液のイオンのみが通過するセパレータ130を介在させ、引き出し電極133a,132bが活物質電極110,112から露出するように構成され、引き出し電極133a,132bは電源電圧に接続されている。正極側の活物質電極112は、例えば、活性炭から形成され、負極側の活物質電極111は、例えば、Liドープカーボンから形成される。正極側の引き出し電極132bは、例えば、アルミ箔から形成され、負極側の引き出し電極133aは、例えば、銅箔から形成される。セパレータ130は、活物質電極111,112全体を覆うように、活物質電極111,112よりも大きいもの(面積の広いもの)を用いる。リチウムイオンキャパシタ内部電極には、電解液が含侵されており、セパレータ130を通して、電解液のイオンのみが充放電時に移動する。
【0115】
この構成において、リチウムイオンキャパシタを封止する封止材にスリットを形成し、このスリットを介して電解液を注入することが可能となる。
【0116】
(リチウムイオン電池)
また、リチウムイオン電池において、電解液の注入口を第1基板と第2基板の間に挟まれた封止材の側端部に形成することができる。
【0117】
図30は、リチウムイオン電池内部電極の基本構造を例示している。リチウムイオン電池内部電極は、少なくとも1層の活物質電極111,113に、電解液のイオンのみが通過するセパレータ130を介在させ、引き出し電極133a,132bが活物質電極111,113から露出するように構成され、引き出し電極133a,132bは電源電圧に接続されている。正極側の活物質電極113は、例えば、LiCoOから形成され、負極側の活物質電極111は、例えば、Liドープカーボンから形成される。正極側の引き出し電極132bは、例えば、アルミ箔から形成され、負極側の引き出し電極133aは、例えば、銅箔から形成される。セパレータ130は、活物質電極111,113全体を覆うように、活物質電極111,113よりも大きいもの(面積の広いもの)を用いる。リチウムイオン電池内部電極には、電解液が含侵されており、セパレータ130を通して、電解液のイオンのみが充放電時に移動する。
【0118】
この構成において、リチウムイオン電池を封止する封止材にスリットを形成し、このスリットを介して電解液を注入することが可能となる。
【0119】
以上述べたように、本実施の形態によれば、信頼性、生産性、美観性が向上し、各種機器への組み込みの自由度を高めることができ、しかも量産化も容易な色素増感太陽電池およびその製造方法を提供することができる。
【0120】
[その他の実施の形態]
上記のように、実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述および図面は例示的なものであり、この発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0121】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態などを含む。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明の色素増感太陽電池は、特に、室内低照度環境下で、高効率にエネルギーハーベスティング、蓄電機能との融合により超小型な自立電源化、および意匠性に優れたカラフルデザイン化が可能であり、電源として適用することによって、様々なシステムに適用可能であり、例えば、無線センサノード駆動電源、モバイル電子機器補助電源などに適用可能である。
【符号の説明】
【0123】
2…半導体微粒子
3…スリット
3a、3b…樹脂
4…色素分子
10、1011・1012・…・10mn…第1電極
12、1211・1212・…・12mn…多孔質半導体層
14…電解液
16、16〜16、1611・1612・…・16mn…封止材
16a…仕切り部材
18…第2電極
20…第1基板
201・202・…・20m…第1基板バー
22…第2基板
24…負荷
26、28…酸化還元電解質
30、32…色素分子
40…筐体
401…内壁
42、300…真空チャンバ
44…容器
48…支持部
100…作用極
110、112、113…活物質電極
130…セパレータ
132a、132b…電極
200、200a、200b…色素増感太陽電池
301…通気バルブ
302…真空バルブ
11・D12・…・Dmn、D1〜Dn…DSCセル
SL…スクライブライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基板と、
前記第1基板上に配置された第1電極と、
前記第1電極上に配置され、半導体微粒子と色素分子を備える多孔質半導体層と、
前記多孔質半導体層と接し、酸化還元電解質を溶媒に溶解した電解液と、
前記電解液に接する触媒層と、
前記触媒層上に配置された第2電極と、
前記第2電極上に配置された第2基板と、
前記第1基板と前記第2基板との間に配置され、前記電解液を封止する封止材と
を備え、
前記封止材の側端部に前記電解液を注入するためのスリットを備えることを特徴とする色素増感太陽電池。
【請求項2】
前記スリットは、前記封止材に1または2以上配置されることを特徴とする請求項1に記載の色素増感太陽電池。
【請求項3】
前記スリットは、前記電解液の注入側から前記多孔質半導体層に向って、平行形状を備えることを特徴とする請求項2に記載の色素増感太陽電池。
【請求項4】
前記スリットは、前記電解液の注入側から前記多孔質半導体層に向って、徐々に狭くなるテーパー形状を備えることを特徴とする請求項2に記載の色素増感太陽電池。
【請求項5】
前記スリットは、前記電解液の注入側から前記多孔質半導体層に向って、徐々に広くなるテーパー形状を備えることを特徴とする請求項2に記載の色素増感太陽電池。
【請求項6】
前記スリットは、前記スリット内に配置される仕切り部材によって、2以上に分割されることを特徴とする請求項2〜5の何れか1項に記載の色素増感太陽電池。
【請求項7】
前記スリットは、樹脂の充填により封止されることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の色素増感太陽電池。
【請求項8】
第1基板上に第1電極を形成する工程と、
前記第1電極上に半導体微粒子を備える多孔質半導体層を形成する工程と、
前記多孔質半導体層を色素溶液に浸漬させて色素分子を吸着させる工程と、
第2基板上に第2電極を形成する工程と、
前記第2電極上に触媒層を形成する工程と、
前記第1電極上に、スリットを有する封止材を形成する工程と、
前記第1電極と前記第2電極とを前記封止材を介して貼り合わせる工程と、
前記スリットを介して、前記第1電極と前記第2電極との間に、酸化還元電解質を溶媒に溶解した電解液を注入する工程と、
前記スリットの端部を封止する工程と
を有することを特徴とする色素増感太陽電池の製造方法。
【請求項9】
第1基板上に複数の第1電極を形成する工程と、
前記第1電極上に半導体微粒子を備える多孔質半導体層を形成する工程と、
前記多孔質半導体層を色素溶液に浸漬させて色素分子を吸着させる工程と、
第2基板上に前記第1電極と対向する複数の第2電極を形成する工程と、
前記第2電極上に触媒層を形成する工程と、
前記第1電極上に、それぞれスリットを有する複数の封止材を形成する工程と、
前記第1基板と前記第2基板を対向させて、複数の前記第1電極と複数の前記第2電極とをそれぞれ複数の前記封止材を介して貼り合わせる工程と、
第1基板上または前記第2基板にスクライブラインを形成する工程と、
前記スクライブラインに沿ってブレークする工程と、
前記スリットを介して、前記第1電極と前記第2電極との間に、酸化還元電解質を溶媒に溶解した電解液を注入する工程と、
前記スリットの端部を封止する工程と
を有することを特徴とする色素増感太陽電池の製造方法。
【請求項10】
前記封止材を形成する工程は、所定のスリットパターンを有する印刷パターンによって印刷して塗布する工程を有することを特徴とする請求項8または9に記載の色素増感太陽電池の製造方法。
【請求項11】
前記ブレークする工程は、前記第1基板を短冊形状にブレークして第1基板バーを形成する工程を有し、
前記電解液を注入する工程は、前記基板バーに搭載された複数の色素増感太陽電池セルに同時に注入する工程を有することを特徴とする請求項9に記載の色素増感太陽電池の製造方法。
【請求項12】
前記電解液を注入する工程は、
電解液を入れた所定の容器および前記第1電極と前記第2電極との間の空間を大気圧より低い圧力に減圧する工程と、
前記電解液に、前記スリットを浸漬する工程と、
前記第1電極と前記第2電極との間の減圧状態を保持したまま、前記所定の容器を前記電解液ごと大気圧に暴露する工程と
を有することを特徴とする請求項8〜10の何れか1項に記載の色素増感太陽電池の製造方法。
【請求項13】
前記スリットの端部を封止する工程は、
前記スリットの外側端部に封止用の樹脂を滴下する工程と、
圧力差により前記樹脂を前記スリット内に侵入させる工程と、
前記樹脂を硬化させる工程と
を有することを特徴とする請求項8〜12の何れか1項に記載の色素増感太陽電池の製造方法。
【請求項14】
圧力差により前記樹脂を前記スリット内に侵入させる工程は、色素増感太陽電池全体を冷却させる工程を有することを特徴とする請求項13に記載の色素増感太陽電池の製造方法。
【請求項15】
圧力差により前記樹脂を前記スリット内に侵入させる工程は、前記第1電極と前記第2電極とを外部から押圧後開放する工程を有することを特徴とする請求項13に記載の色素増感太陽電池の製造方法。
【請求項16】
前記樹脂を硬化させる工程は、紫外線照射工程を有することを特徴とする請求項13に記載の色素増感太陽電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2013−98153(P2013−98153A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243260(P2011−243260)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】