説明

芝刈り車両

【課題】芝の育成状態を自動的に測定し、芝を管理する上で有益な情報を提供することができる付加価値の高い芝刈り車両を提供する。
【解決手段】芝刈り車両1は、走行経路に沿って芝の刈り取りを行うものであって、モータ24によって駆動される電動リール22を有する前側芝刈り機13a,13b及び後側芝刈り機14と、電動リール22によって刈り取られる前の芝の状態(例えば、芝の高さ、色、及び立ち具合)を検出する検出センサと、検出センサの検出結果に対して所定の処理を行って芝の育成状況を示す育成データを作成するデータ処理部と、データ処理部で作成された前記育成データを表示する表示装置27とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芝刈り車両に関する。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、芝刈り機を備える芝刈り車両は、車両の後側に位置する作業者によって操作される手押し式(ウォークビハインド式)芝刈り車両と、乗車した作業車によって運転される乗用型芝刈り車両とに大別される。一度の走行で芝を刈ることのできる面積は、通常、手押し式芝刈り車両よりも乗用型芝刈り車両の方が大きい。このため、手押し式芝刈り車両は広範ではない範囲(例えば、個人の庭等)の芝、またはゴルフ場におけるグリーンの精密な芝刈りのために用いられることが多く、乗用型芝刈り車両は広範な範囲(例えば、ゴルフ場におけるグリーンや競技場等)の芝を刈るために用いられることが多い。
【0003】
以下の特許文献1には、刈り跡を検出する複数の電極部を車両の底部に配設し、電極部が草・芝に接触して導通されたときと、電極部が草・芝に非接触の絶縁状態にあるときとの電圧変化を検出し、この検出結果を用いて未刈り地と既刈り地との境界である刈り跡境界を検出する乗用型芝刈り車両が開示されている。また、以下の特許文献2には、車両前方の所定範囲にストロボを照射しつつカメラで撮像し、撮像画像に対して所定の処理を施すことによって未処理作業地と処理済作業地との境界を検出する自動走行作業車両が開示されている。更に、以下の特許文献3には、ビデオカメラで捉えた植物からの反射情報(輝度情報画像)を解析処理して得られたヒストグラムから、植物の活力を「健康」,「注意」,「警告」,「病気」に分類し、人間に判り易い植物の活力変動を評価する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−74818号公報
【特許文献2】特開昭62−70916号公報
【特許文献3】特開2004−213627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、芝の育成状態等の判断、及び芝の高さの管理は、基本的には作業者の経験に基づいて行われる。つまり、作業者が芝の育成状態等を目視にて判断し、その育成状態等に応じて芝刈り車両に設けられた高さ調整機構を調整して芝を刈ることにより芝の高さが管理されている。しかしながら、芝刈り車両を操作する作業者の全てが芝の育成状態等を適切に判断し、その判断結果に応じた適切な管理ができる訳ではない。このため、芝の育成状態を自動的に検出し、その検出結果が作業者に提示できれば作業者にとって極めて有益であり、芝刈り車両の付加価値を高めることができると考えられる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、芝の育成状態を自動的に測定し、芝を管理する上で有益な情報を提供することができる付加価値の高い芝刈り車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の芝刈り車両は、走行経路に沿って芝の刈り取りを行う芝刈り車両(1、2)において、モータ(24)によって駆動される回転刃(22)を有する少なくとも1つの電動式芝刈り機(13a,13b、14)と、前記回転刃によって刈り取られる前の芝の状態を検出する検出センサ(D)と、前記検出センサの検出結果に対して所定の処理を行って芝の育成状況を示す育成データを作成するデータ処理部(37、40)と、前記データ処理部で作成された前記育成データを表示する表示部(27)とを備えることを特徴としている。
また、本発明の芝刈り車両は、前記検出センサが、前記電動式芝刈り機内における前記回転刃の前方に設けられており、芝の高さ、色、及び立ち具合の少なくとも1つを検出することを特徴としている。
また、本発明の芝刈り車両は、前記データ処理部で行われる前記所定の処理が、刈り取りが行われる場所毎の芝の状態を示す状態マップを、刈り取りが行われる日時毎に作成する処理であることを特徴としている。
また、本発明の芝刈り車両は、温度及び湿度の少なくとも一方を検出する環境センサを備えており、前記データ処理部は、前記育成データに前記環境センサの検出結果を含める処理を行うことを特徴としている。
また、本発明の芝刈り車両は、前記電動式芝刈り機が、前記回転刃の回転軸が車両の進行方向に交差する左右方向に設定されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、回転刃によって刈り取られる前の芝の状態を検出センサで検出し、検出センサの検出結果に対して所定の処理を行って芝の育成状況を示す育成データを作成し、作成された前記育成データを表示部に表示しているため、芝を管理する上で有益な情報を提供することができる付加価値の高い芝刈り車両を提供することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態による芝刈り車両の外観を示す斜視図である。
【図2】前側芝刈り機13a,13bの内部構成を模式的に示す側面図である。
【図3】本発明の第1実施形態による芝刈り車両の動力系統及び制御系統の要部構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の第2実施形態による芝刈り車両の動力系統及び制御系統の要部構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態による芝刈り車両について詳細に説明する。尚、以下では芝刈り車両として乗用型芝刈り車両を例に挙げて説明するが、本発明は手押し式芝刈り車両にも適用可能である。
【0011】
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態による芝刈り車両の外観を示す斜視図である。図1に示す通り、本実施形態の芝刈り車両1は、フレーム10に支持される2つの前輪11a,11b及び1つの後輪12と、2つの前側芝刈り機13a,13b(電動式芝刈り機)及び1つの後側芝刈り機14(電動式芝刈り機)とを備えており、前輪11a,11b及び後輪12によって走行しつつ、走行経路に沿って前側芝刈り機13a,13b及び後側芝刈り機14により芝の刈り取りを行う。この芝刈り車両1は、エンジンの動力を用いて走行し、モータ等の動力を用いて芝を刈るハイブリッド式の芝刈り車両である。
【0012】
フレーム10の略中央上部には、作業者が着席するシート15が配設されている。このシート15の前方上部にはステアリングホイール16が設けられており、前方下部には後進アクセルペダル17、前進アクセルペダル18、及びブレーキペダル19が設けられている。シート15に着席した作業者によってステアリングホイール16が操作されることで芝刈り車両1の進行方向が定められ、後進アクセルペダル17、前進アクセルペダル18、及びブレーキペダル19が操作されることにより、芝刈り車両1の後退、前進、停止、及び走行速度が定められる。
【0013】
前輪11a,11bは、フレーム10の右側前方下部及び左側前方下部にそれぞれ配設されており、エンジンEに直結される油圧モータの動力によって駆動され、車両の左右方向に沿う回転軸の周りで回転可能にフレーム10に支持されている。後輪12は、フレーム10の中央後方下部に配設されており、3輪駆動時は前輪11a,11bと同様に油圧モータの動力によって駆動され、2輪駆動時はフリー回転する。但し、後輪12は、前輪11a,11bとは異なり、ステアリングホイール16の回転量に応じて左右方向に揺動可能に構成されている。後輪12の左右方向への揺動に合わせて後輪12の回転軸も揺動するため、ステアリングホイール16を回転させることにより芝刈り車両1の進行方向が変更される。尚、芝刈り車両1には、エンジンEの動力を利用してステアリングホイール16の操舵を補助する機構(所謂、パワーステアリング)が設けられている。
【0014】
ここで、前輪11a,11b及び後輪12には、ショルダーが緩やかな曲面に形成された幅広のタイヤが用いられる。これは、前輪11a,11b及び後輪12にかかる芝刈り車両1の車重及び応力を分散することによって、芝へのダメージを避けるためである。また、前輪11a,11b及び後輪12には、溝が形成されていないタイヤが用いられる。これは、踏みつけられる部分(溝が形成されていない部分)と踏みつけられない部分(溝が形成されている部分)とが生ずることによって、芝に縞状の模様が生ずるのを防止するためである。
【0015】
前側芝刈り機13a,13bは、前輪11a,11bの各々の前方において昇降可能に支持されており、下降して前輪11a,11bの前方で地面に接している状態で芝の刈り取りを行う。図2は、前側芝刈り機13a,13bの内部構成を模式的に示す側面図である。図1,図2に示す通り、前側芝刈り機13a,13bの各々は、前側ローラ21、電動リール22(回転刃)、後側ローラ23、及びモータ24を備える。
【0016】
前側ローラ21は、回転軸が車両の左右方向に設定されて、周方向に沿う溝が軸方向に複数形成された略円柱形状の部材であり、電動リール22の前方に配設される。この前側ローラ21は、電動リール22によって刈られる前の芝を揃わせるとともに、下降した状態にある前側芝刈り機13a,13bを地面上に支持するために設けられている。この前側ローラ21の左右両端部には、前側ローラ21と電動リール22との相対的な高さ位置の調整を行う高さ調整機構Jが設けられている。
【0017】
高さ調整機構Jは、鉛直方向に延びるボルトJ1と、ボルトJ1に嵌合するナットJ2とからなり、ナットJ2を回転させてボルトJ1に対するナットJ2の高さ位置を変えることにより、前側ローラ21と電動リール22との相対的な高さ位置の調整が可能である。これら前側ローラ21と電動リール22との相対的な高さ位置を調整することにより、例えば数mm〜十数mm程度の範囲で刈り取りピッチ(目標とする芝の間隔)の微調整が可能である。
【0018】
電動リール22は、芝を刈るための螺旋状の刃が側面に複数形成された略円柱形状の部材であって、回転軸が車両の左右方向に設定されており、モータ24によって駆動される。この電動リール22は、前側ローラ21と後側ローラ23との間に配設され、刈り取った後の芝の高さの分だけ前側ローラ21及び後側ローラ23よりも上方に配置されている。後側ローラ23は、前側ローラ21の様な溝が形成されていない略円柱形状の部材であり、上述した前側ローラ21と同様に、下降した状態にある前側芝刈り機13a,13bを地面上に支持するために設けられている。
【0019】
また、前側芝刈り機13a,13bの内部には、電動リール22によって刈り取られる前の芝の状態を検出する検出センサDが設けられている。この検出センサDは、前側芝刈り機13a,13bの内部における前側ローラ21の前方(電動リール22の前方)に設けられており、芝の高さ、芝の色、及び芝の立ち具合の少なくとも1つを検出する。芝の高さを検出するセンサとしては例えばタッチセンサが挙げられ、芝の色を検出するセンサとしてはカラーCCD(Charge Coupled Device:電荷結合素子)等の撮像素子が挙げられる。また、芝の立ち具体を検出するセンサとしては、芝に照明される照明光の反射率を検出するセンサ等が挙げられる。芝が寝ている状態では反射率が高くなり、立っている状態では反射率が低くなることを利用して芝の立ち具体を検出する。尚、以下では説明を簡単に説明するために、検出センサDが芝の高さを検出するセンサであるとする。
【0020】
フレーム10の前部には、中央部から右方向に延びる支持アーム25aと、中央部から左方向に延びる支持アーム25bとが設けられている。支持アーム25aは、その右端部において車両の前後方向における回転軸の周りで前側芝刈り機13aを揺動可能に支持しており、支持アーム25bは、その左端部において車両の前後方向における回転軸の周りで前側芝刈り機13bを揺動可能に支持している。このため、車両の左右方向に地面が傾斜していても、その傾斜に合わせて前側芝刈り機13a,13bを傾斜させることができる。
【0021】
支持アーム25a,25bには、アクチュエータとしての電動シリンダ26a,26bが取り付けられている。電動シリンダ26aが伸縮すると支持アーム25aの右端部が上下方向に移動し、これにより前側芝刈り機13aが昇降する。同様に、電動シリンダ26bが伸縮すると支持アーム25bの左端部が上下方向に移動し、これにより前側芝刈り機13bが昇降する。尚、図1では、前側芝刈り機13aが上昇しており、前側芝刈り機13bが下降している状態を図示してる。
【0022】
後側芝刈り機14は、前輪11a,11bと後輪12との間において昇降可能に支持されており、下降して後輪12の前方で地面に接している状態で芝の刈り取りを行う。この後側芝刈り機14は、前側芝刈り機13a,13bと同様に、前側ローラ21、電動リール22(回転刃)、後側ローラ23、及びモータ24を備えており、電動シリンダ26a,26bと同様の電動シリンダ等を備える不図示の昇降機構によって昇降される。尚、後側芝刈り機14も、前側芝刈り機13a,13bと同様に、車両の前後方向における回転軸の周りで揺動可能に支持されており、車両の左右方向における地面の傾斜に合わせて傾斜が可能である。
【0023】
また、シート15の右側前方(ステアリングホイール16の右側)には、タッチパネル式の表示装置(例えば、液晶表示装置)27(表示部)が設けられている。この表示装置27は、作業者の指示を入力するとともに、芝刈り車両1の現在の状態を示す情報等の各種情報を表示するものである。前側芝刈り機13a,13b及び後側芝刈り機14の昇降、及びこれらに設けられた電動リール22の始動・停止は、作業者が表示装置27を操作することによって入力される指示に応じて制御される。表示装置27に表示される情報としては、芝刈り車両1の走行速度、前側芝刈り機13a,13b及び後側芝刈り機14の各々に設けられた電動リール22の回転速度、及び芝の育成状況を示す情報等の情報である。尚、ステアリングホイール16の下方であって、前進アクセルペダル18とブレーキペダル19との間には、芝刈り車両1の前方を照明する照明装置28が設けられている。
【0024】
図3は、本発明の第1実施形態による芝刈り車両の動力系統及び制御系統の要部構成を示すブロック図である。尚、図3においては、図1に示した構成に相当する構成については同一の符号を付してある。図3に示す通り、芝刈り車両1は油圧ポンプ31及びオルタネータ32を備えており、その動力系統は油圧ポンプ31から伝達される油圧によって駆動される走行系S1及びステアリング系S2と、オルタネータ32から供給される電流によって駆動されるワーク系S3とに大別される。尚、図3では、油圧ポンプ32から油圧が伝達される経路を太線の実線で表しており、オルタネータ32から電流が供給される経路を細線の実線で表している。また、制御系統に係る信号の経路を細線の破線で表している。
【0025】
油圧ポンプ31は、エンジンEの動力によって駆動され、走行系S1及びステアリング系S2を駆動する油圧を生成する。オルタネータ32は、エンジンEによって駆動される交流発電機32a、交流発電機32aからの交流電流を直流電流に変換する変換器(AC/DC)32b、及びダイオード32cを備えており、例えば電圧値が24[V]である直流電流を生成する。
【0026】
走行系S1は、油圧ポンプ31から伝達される油圧を前輪11a,11b及び後輪12の各々に伝達する油圧回路33を備えている。尚、前輪11a,11b及び後輪12には、各々の単位時間当たりの回転数(例えば、1分毎の回転数)を検出するセンサ34a,34b,34cがそれぞれ設けられている。これらセンサ34a〜34cの検出結果は、後述する制御装置37に出力される。ステアリング系S2は、油圧ポンプ31から伝達される油圧を、ステアリングホイール16の操舵を補助する機構であるパワーステアリングに伝達する油圧回路35を備えている。
【0027】
オルタネータ32から供給される電流は、ワーク系S3、照明装置28、昇圧回路36、及び制御装置37(データ処理部)に入力される。ワーク系S3は、図1に示した電動シリンダ26a,26b、前側芝刈り機13a,13b及び後側芝刈り機14の各々に設けられた電動リール22及びモータ24、スイッチ38a,38b、並びにモータドライバ39a〜39cを備える。スイッチ38a,38bは、その開閉状態が制御装置37によって制御され、オルタネータ32と電動シリンダ26a,26bとの間を電気的に遮断状態又は導通状態にする。尚、本スイッチは切替機構の構成素子の1例であって、半導体で構成されるシリンダドライバを用いてもよい。
【0028】
スイッチ38a,38bが閉状態(オン状態)になるとオルタネータ32からの直流電流が電動シリンダ26a,26bに供給され、これにより電動シリンダ26a,26bが駆動されて前側芝刈り機13a,13bが上昇又は下降する。尚、図3では図示を省略しているが、後側芝刈り機14を昇降させる電動シリンダにも、スイッチ38a,38bと同様のスイッチ(制御装置37によって開閉状態が制御されるスイッチ)が設けられている。
【0029】
モータドライバ39a,39b,39cは、制御装置37の制御の下で、前側芝刈り機13a,13b及び後側芝刈り機14に設けられたモータ24をそれぞれ駆動する。これにより、前側芝刈り機13a,13b及び後側芝刈り機14の各々に設けられたリール22の回転速度が制御される。昇圧回路36は、オルタネータ32からの直流電流の電圧を、10倍程度の電圧に昇圧する回路であり、昇圧された電圧は、モータドライバ39a,39b,39cの各々に入力される。
【0030】
制御装置37は、表示装置27を介して入力される指示に応じて芝刈り車両1のワーク系S3の動作を制御するとともに、芝刈り車両1の現在の状態を示す情報(例えば、走行速度、電動リール22の回転速度を示す情報等)を表示装置27に表示する。具体的には、表示装置27を介して前側芝刈り機13a,13b及び後側芝刈り機14の昇降指示が入力された場合には、スイッチ38a,38b等のオン・オフ状態を制御する。また、表示装置27を介して前側芝刈り機13a,13b及び後側芝刈り機14に設けられた電動リール22の駆動指示がなされた場合には、モータドライバ39a〜39cに対して制御信号を出力して電動リール22の回転速度を制御する。
【0031】
ここで、制御装置37は、センサ34a〜34cの検出結果に基づいて、前側芝刈り機13a,13b及び後側芝刈り機14に設けられた電動リール22の回転速度を制御する。また、制御装置37は、前側芝刈り機13a,13bの昇降位置と後側芝刈り機14の昇降位置とが一致するように電動シリンダ26a,26b等を制御する。これらの制御を行うのは、芝刈り車両1の走行速度が一定になるよう運転しているにもかかわらず、地面の起伏等によって自然に走行速度が変化した場合であっても、高品質な芝の刈り取りを実現するためである。
【0032】
また、制御装置37は、検出センサDの検出結果に対して所定の処理を行って芝の育成状態を示す育成データを生成する。具体的には、刈り取りが行われる場所毎の芝の状態を示す状態マップを、芝の刈り取りが行われる日時毎に生成する。通常、芝刈り車両1を用いた芝の刈り取りは毎日又は数日おきに同じ場所で行われる。このため、制御装置37は、繰り返し芝が刈られる場所(領域)における前の芝の高さを芝刈りが行われる毎に検出センサDで検出し、その高さの面状分布(芝が刈られる場所における分布)を示す状態マップを生成する。この育成データが表示装置27に出力されることにより、芝の育成状況を示す情報が表示装置27に表示される。
【0033】
ここで、上記の検出センサDに加えて温度センサ及び湿度センサ(環境センサ)の少なくとも一方を設け、制御装置37が、温度センサや湿度センサで検出された温度や湿度を上記の育成データに含める処理を行うのが望ましい。かかる処理を行うことによって、芝の育成状態を示す育成データに対して温度や湿度を示す情報が付け加えられるため、作業者に対して更に有益な情報を提供することができる。
【0034】
次に、上記構成における芝刈り車両1の動作について簡単に説明する。芝刈り車両1上のシート15に着席した作業者が、エンジン始動のキー操作を行うとエンジンEが始動する。エンジンEが始動すると油圧ポンプ31が駆動され、走行系S1及びステアリング系S2を駆動するための油圧が生成される。また、また、エンジンEによりオルタネータ32が駆動され、これによって直流電流が生成される。オルタネータ32で生成された直流電流は、ワーク系S3、照明装置28、制御装置37、及び昇圧回路36に供給される。尚、昇圧回路36で昇圧された電圧はワーク系S3に供給される。
【0035】
作業者が後進アクセルペダル17、前進アクセルペダル18、及びブレーキペダル19並びにステアリングホイール16を操作し、芝を刈り取るべき位置まで芝刈り車両1を運転する。芝を刈り取るべき位置に到着し、まず作業者が表示装置27を操作して育成データの生成を指示する。次に、前側芝刈り機13a,13b及び後側芝刈り機14を下降させる旨の指示を行うと、制御装置37からスイッチ38a,38b等に対して制御信号が出力されて前側芝刈り機13a,13b及び後側芝刈り機14が下降する。これにより、芝刈り車両1の走行経路に沿って前側芝刈り機13a,13b及び後側芝刈り機14による芝の刈り取りが行われる。
【0036】
ここで、芝の刈り取り中は、制御装置37が、センサ34a〜34cの検出結果から前輪11a,11b及び後輪12の各々の移動距離を求めて芝刈り車両1の走行経路を求める。そして、求めた走行経路と検出センサDの検出結果とを対応付けて芝の高さの面状分布を示す状態マップを生成することにより育成データを生成する。また、制御装置37は、必要に応じて温度センサや湿度センサで検出された温度や湿度を上記の育成データに含める処理を行う。尚、芝刈り中は、センサ34cの検出結果から芝刈り車両1の走行速度を求め、得られた走行速度に応じて前側芝刈り機13a,13b及び後側芝刈り機13に設けられた電動リール22の回転数を変化させる制御が制御装置37によって行われる。
【0037】
芝の刈り取りが終了し、作業者が表示装置27に対して育成データの表示指示を行うと、制御装置37によって生成された状態マップが表示装置27に表示される。ここで、制御装置37によって生成された育成データのうち、直近に作成された所定数の育成データが制御装置37に記憶されている。このため、作業者が表示装置27に対して所定の指示を行うことにより、これら過去に作成された育成データを表示装置27に表示させることができる。
【0038】
以上説明した通り、本実施形態では、検出センサDで芝の状態を検出し、この検出結果に対して所定の処理を行って芝の育成状況を示す育成データを作成し、作成された育成データを表示しているため、芝を管理する上で有益な情報を作業者に対して提供することができる。また、本実施形態では、センサ34c等の検出結果に応じて、前側芝刈り機13a,13b及び後側芝刈り機13に設けられた電動リール22の回転速度を制御しているため、芝刈り車両1の走行速度が変化した場合であっても芝の高さが揃った高品質な芝の刈り取りが可能である。また、本実施形態の芝刈り車両1は、エンジンの動力により駆動される油圧ポンプの圧力を用いて走行し、電動モータ等の動力を用いて芝を刈るハイブリッド式の芝刈り車両であり、油圧ポンプの動力を用いて芝を刈る従来の芝刈り車両よりも油漏れのリスクを少なくすることができるため、従来よりも油による芝の枯れのリスクを低減することができる。
【0039】
〔第2実施形態〕
図4は、本発明の第2実施形態による芝刈り車両の動力系統及び制御系統の要部構成を示すブロック図である。尚、図4においては、図3に示したブロックと同じブロックについては同一の符号を付してある。この芝刈り車両2は、モータ等の動力を用いて走行するとともに芝を刈る電動式の芝刈り車両である。尚、本実施形態の芝刈り車両2の外観は、図1に示す第1実施形態による芝刈り車両1の外観とほぼ同様である。
【0040】
図4に示す通り、本実形態の芝刈り車両2は、図3中のエンジンE、油圧ポンプ31、及びオルタネータ32に代えてバッテリBを備える。また、図3中の走行系S1及びステアリング系S2に代えて走行系S11及びステアリング系S12を備えるとともに、制御装置37に代えて制御装置40(データ処理部)を備える。尚、図4では、バッテリBから電流が供給される経路を細線の実線で表しており、制御系統に係る信号の経路を細線の破線で表している。
【0041】
バッテリBは、走行系S11、ステアリング系S12、及びワーク系S3、並びに照明装置28、昇圧回路36、及び制御装置40に直流電流を供給する。尚、バッテリBは、例えば電圧値が48[V]である直流電流を生成する。走行系S11は、前輪11a,11b及び後輪12をそれぞれ駆動するモータ41a,41b,41cと、これらモータ41a〜41cをそれぞれ駆動するモータドライバ42a〜42cとを備えている。
【0042】
モータドライバ42a〜42cの各々にはバッテリBからの直流電流が供給されているとともに、制御装置40からの制御信号が入力されている。モータドライバ42a〜42cは、制御装置40の制御の下でモータ41a〜41cをそれぞれ駆動する。尚、本実施形態においても、前輪11a,11b及び後輪12には、各々の単位時間当たりの回転数(例えば、1分毎の回転数)を検出するセンサ34a,34b,34cがそれぞれ設けられている。
【0043】
ステアリング系S12は、モータ43、モータドライバ44、及びステアリングセンサ45を備えており、制御装置40の制御の下で、ステアリングホイール16の操舵を補助する。モータ43は、ステアリングホイール16に動力を伝達することにより、ステアリングホイール16の操舵を補助するパワーステアリングを実現する。モータドライバ44は、制御装置40から出力される制御信号に基づいてモータ43を駆動する。尚、このモータドライバ44にもバッテリBからの直流電流が供給されている。ステアリングセンサ45は、ステアリングホイール16の回転量を検出し、その検出結果を制御装置40に出力する。
【0044】
制御装置40は、図3に示した制御装置37と同様に、表示装置27を介して入力される指示に応じて芝刈り車両2のワーク系の動作を制御する。つまり、表示装置27を介し入力される指示に基づいて前側芝刈り機13a,13b及び後側芝刈り機14の昇降を制御するとともに、センサ34a〜34cの検出結果に基づいて前側芝刈り機13a,13b及び後側芝刈り機14に設けられた電動リール22の回転速度を制御する。
【0045】
また、制御装置40は、ステアリングセンサ45の検出結果に基づいてモータドライバ44を制御することによって、ステアリングホイール16の操舵を補助するパワーステアリングを実現する。更に、ステアリングセンサ45の検出結果に基づいて後輪12の左右方向への揺動量を制御するとともに、後進アクセルペダル17等の操作量に応じてモータドライバ42a〜42cを制御することにより、芝刈り車両2の前進、後退、停止、及び走行速度を制御する。
【0046】
更に、制御装置40は、図3に示した制御装置37と同様に、検出センサDの検出結果に対して所定の処理を行って芝の育成状態を示す育成データを生成する。また、検出センサDに加えて温度センサ及び湿度センサ(環境センサ)の少なくともで検出された温度や湿度を上記の育成データに含める処理を行う。そして、表示装置27の操作に応じて、過去に生成した育成データを表示装置27に表示させる。
【0047】
以上の構成の芝刈り車両2においても、検出センサDで芝の状態を検出し、この検出結果に対して所定の処理を行って芝の育成状況を示す育成データを作成し、作成された育成データを表示している。このため、芝を管理する上で有益な情報を作業者に対して提供することができる。また、本実施形態においても、センサ34c等の検出結果に応じた前側芝刈り機13a,13b及び後側芝刈り機13に設けられた電動リール22の回転速度をの制御が行われる。このため、芝刈り車両2の走行速度が変化した場合であっても芝の高さが揃った高品質な芝の刈り取りが可能である。
【0048】
また、本実施形態の芝刈り車両2は、モータ等の動力を用いて走行を行うとともに芝を刈る電動式の芝刈り車両であってエンジンが不要である。このため、軽量化が可能であり、轍の形成を防止することができるとともに芝へのダメージを軽減することができる。更に、本実施形態の芝刈り車両2は、走行系S11及びステアリング系S12を駆動するための油圧が不要であり、油漏れが生ずることがないため、漏れた油による芝の枯れが生ずることはない。
【0049】
以上、本発明の実施形態による芝刈り車両について説明したが、本発明は上記実施形態に制限されず、本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、上記実施形態では、車両の左右方向に回転軸が設定された電動リール22を備える芝刈り車両について説明したが、本発明は上下方向に回転軸が設定された電動リールを備える芝刈り車両に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0050】
1,2 芝刈り車両
13a,13b 前側芝刈り機
14 後側芝刈り機
22 電動リール
24 モータ
27 表示装置
37,40 制御装置
D 検出センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行経路に沿って芝の刈り取りを行う芝刈り車両において、
モータによって駆動される回転刃を有する少なくとも1つの電動式芝刈り機と、
前記回転刃によって刈り取られる前の芝の状態を検出する検出センサと、
前記検出センサの検出結果に対して所定の処理を行って芝の育成状況を示す育成データを作成するデータ処理部と、
前記データ処理部で作成された前記育成データを表示する表示部と
を備えることを特徴とする芝刈り車両。
【請求項2】
前記検出センサは、前記電動式芝刈り機内における前記回転刃の前方に設けられており、芝の高さ、色、及び立ち具合の少なくとも1つを検出することを特徴とする請求項1記載の芝刈り車両。
【請求項3】
前記データ処理部で行われる前記所定の処理は、刈り取りが行われる場所毎の芝の状態を示す状態マップを、刈り取りが行われる日時毎に作成する処理であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の芝刈り車両。
【請求項4】
温度及び湿度の少なくとも一方を検出する環境センサを備えており、
前記データ処理部は、前記育成データに前記環境センサの検出結果を含める処理を行う
ことを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の芝刈り車両。
【請求項5】
前記電動式芝刈り機は、前記回転刃の回転軸が車両の進行方向に交差する左右方向に設定されていることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の芝刈り車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−142844(P2011−142844A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5027(P2010−5027)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(000198330)株式会社IHIシバウラ (74)
【Fターム(参考)】