説明

芯線接触検出装置、電線ストリップ処理装置、芯線接触検出方法及び芯線接触検出プログラム

【課題】電線の被覆をストリップする際に、芯線とストリップ刃との接触をより簡易に検出できるようにすること。
【解決手段】電線Wの被覆をストリップ刃14A,14Bでストリップする際に、ストリップ刃14A,14Bと芯線との接触を検出する芯線接触検出装置40であって、芯線とストリップ刃14A,14Bとの接触によって生じる振動周波数を含む周波数域の振動を検知可能な振動検知部42A,42Bと、検知された振動の振幅が所定のしきい値を越えたときに、ストリップ刃14A,14Bと芯線との接触有りと判定する接触状態判定処理部50とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電線の被覆をストリップする際に、ストリップ刃と芯線との接触を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、電線の被覆はストリップ刃を用いてストリップされる。ストリップ刃が電線の被覆に食込む際、ストリップ刃が芯線に接触してしまうと、芯線に傷が付いてしまう。
【0003】
従来、電線の被覆をストリップする際において、ストリップ刃と芯線との接触を検出する技術として、特許文献1に開示のものがある。
【0004】
特許文献1では、電線の被覆をストリップする際に、ストリップ刃と電線の芯線との導通の有無を検出することで、ストリップ刃と電線の芯線との接触を検出している。
【0005】
【特許文献1】特開平6−253430号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示の技術では、ストリップ刃と電線の芯線との導通の有無を検出するためには、ストリップする部分以外で、検査用の電極を電線の芯線に電気的に接続する必要があり、その接続を如何に行うかが重要な問題となっていた。特に、所定長に調尺切断された電線に関して上記接触検出を行うためには、切断された電線それぞれに対して、検査用の電極を芯線に電気的に接続する必要があり、実現性には乏しいものとなっていた。
【0007】
そこで、本発明は、電線の被覆をストリップする際に、芯線とストリップ刃との接触をより簡易に検出できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、第1の態様に係る芯線接触状態検出装置は、電線の被覆をストリップ刃でストリップする際に、ストリップ刃と芯線との接触を検出する芯線接触検出装置であって、電線の芯線とストリップ刃との接触によって生じる振動周波数を含む周波数域の振動を検知可能な振動検知部と、前記振動検知部から入力される振動検知信号に基づいて、検知された振動の振幅が所定のしきい値を越えたときに、ストリップ刃と芯線との接触有りと判定する接触状態判定部と、を備える。
【0009】
第2の態様は、第1の態様に係る芯線接触検出装置であって、前記振動検知部として、100kHz〜300kHZの範囲内の共振周波数を持つ共振型AEセンサを用いるものである。
【0010】
第3の態様は、第1又は第2の態様に係る芯線接触検出装置であって、前記しきい値として、ストリップ刃が被覆に切込んでいく際に検知される振動の振幅よりも大きな値が設定されているものである。
【0011】
第4の態様は、第1〜第3のいずれかの態様に係る芯線接触検出装置であって、前記振動検知部は、ストリップ刃に接触した状態で取付可能に構成されているものである。
【0012】
第5の態様は、第1〜第4のいずれかの態様に係る芯線接触検出装置であって、被覆に切込む一対のストリップ刃のそれぞれに取付可能な2つの前記振動検知部を備えるものである。
【0013】
第6の態様は、電線の被覆に切込み可能な一対のストリップ刃と、前記一対のストリップ刃を接近及び離隔移動させる刃駆動部と、第1〜第5のいずれかの態様に係る芯線接触検出装置とを備えるものである。
【0014】
第7の態様は、電線の被覆をストリップ刃でストリップする際に、ストリップ刃と芯線との接触を検出する芯線接触検出方法であって、(a)ストリップ刃を電線の被覆に切込ませる工程と、(b)前記工程(a)において、電線の芯線とストリップ刃との接触によって生じる振動周波数を含む周波数域の振動を検知する工程と、(c)検知された振動の振幅が所定のしきい値を越えたときに、ストリップ刃と芯線との接触有りと判定する工程と、を備えるものである。
【0015】
第8の態様は、電線の被覆をストリップ刃でストリップする際に、電線の芯線とストリップ刃との接触によって生じる振動周波数を含む周波数域の振動を検知し、この振動検知信号に基づいてストリップ刃と芯線との接触の有無を判別するための芯線接触検出プログラムであって、コンピュータに、(a)前記振動検知信号に基づいて、検知された振動の振幅と所定のしきい値とを比較する処理と、(b)前記(a)における比較結果、検知された振動の振幅が所定のしきい値を越えたときに、ストリップ刃と芯線との接触有りと判定する処理と、を実現させるための芯線接触検出プログラムである。
【発明の効果】
【0016】
この第1の態様に係る芯線接触検出装置によると、ストリップ刃と芯線とが接触すると、振動検知部を通じて検知される振動の振幅が大きくなる。このため、検知された振動の振幅が所定のしきい値を越えたときに、ストリップ刃と芯線との接触有りと判定することで、電線の被覆をストリップする際に、芯線とストリップ刃との接触を簡易に検出できる。
【0017】
通常、金属で形成されるストリップ刃と、金属で形成される芯線とが接触することによって生ずる振動の周波数は、100kHz〜300kHZの範囲内で観測され易い。そこで、第2の態様のように、振動検知部として、100kHz〜300kHZの範囲内の共振周波数を持つ共振型AEセンサを用いることで、芯線とストリップ刃との接触をより確実に検出できる。
【0018】
また、通常、金属で形成されるストリップ刃と金属で形成される芯線とが接触することによって生ずる振動の振幅は、金属で形成されるストリップ刃と樹脂等で形成される芯線とが接触することによって生ずる振動の振幅よりも大きい。そこで、第3の態様のように、前記しきい値として、ストリップ刃が被覆に切込んでいく際に検知される振動の振幅よりも大きな値を設定することで、芯線とストリップ刃との接触をより適切に検出できる。
【0019】
第4の態様のように、振動検知部が、前記ストリップ刃に接触した状態で取付可能に構成されていると、ストリップ刃と芯線との接触によって生じた弾性波が、ストリップ刃を経由してより確実に振動検知部に伝搬される。このため、芯線とストリップ刃との接触をより確実に検出できる。
【0020】
第5の態様によると、被覆に切込む一対のストリップ刃のそれぞれに取付可能な2つの前記振動検知部を備えているため、いずれのストリップ刃が芯線に接触した場合でも、その接触をより確実に検出できる。
【0021】
第6の態様に係る電線ストリップ処理装置によると、ストリップ刃と芯線とが接触すると、振動検知部を通じて検知される振動の振幅が大きくなる。このため、検知された振動の振幅が所定のしきい値を越えたときに、ストリップ刃と芯線との接触有りと判定することで、電線の被覆をストリップする際に、芯線とストリップ刃との接触を簡易に検出できる。
【0022】
第7の態様に係る芯線接触検出方法によると、ストリップ刃と芯線とが接触すると、検知される振動の振幅が大きくなる。このため、検知された振動の振幅が所定のしきい値を越えたときに、ストリップ刃と芯線との接触有りと判定することで、電線の被覆をストリップする際に、芯線とストリップ刃との接触を簡易に検出できる。
【0023】
第8の態様に係る芯線接触検出プログラムによると、検知された振動の振幅を所定のしきい値と比較し、検知される振動の振幅が所定のしきい値を越えたときに、ストリップ刃と芯線との接触有りと判定することで、電線の被覆をストリップする際に、芯線とストリップ刃との接触を簡易に検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、実施の形態に係る電線ストリップ処理装置について説明する。
【0025】
図1は電線ストリップ処理装置10を示す概略側面図である。この電線ストリップ処理装置10は、電線ストリップユニット12と芯線接触検出装置40とを備えている。
【0026】
電線ストリップユニット12は、電線Wの端部の被覆Wbを皮剥ぎするための装置であり、一対のストリップ刃14A,14Bと、刃駆動部16と、電線保持部20と、被覆除去駆動部22とを備えている。
【0027】
一対のストリップ刃14A,14Bは、電線Wの被覆Wbに切込み可能な刃形状に形成されている。被覆Wbにはポリ塩化ビニル製などの部材が用いられる。ここでは、一対のストリップ刃14A,14Bの先端部が略V字状に凹むV字刃形状に形成されている(図2参照)。そして、そのV字刃形状部分が電線Wの被覆Wbに切込み可能に形成されている(図3参照)。なお、ストリップ刃14A,14Bの形状は上記例に限られず、例えば、略円弧状凹刃形状であってもよい。
【0028】
刃駆動部16は、一対のストリップ刃14A,14Bを接近及び離隔移動可能に構成されている。ここでは、刃駆動部16は、一対の刃支持部17A,17Bと、刃支持部17A,17Bを移動可能に支持するねじ部18と、ねじ部18を回転させるモータ19とを有している。
【0029】
ねじ部18は、所定方向(ここでは上下方向)に沿って配設されており、その中心軸周りに回転自在に支持されている。ねじ部18の一端側部分18aには、所定の螺旋方向に沿ったネジ溝が形成され、ねじ部18の他端側部分18bには、逆の螺旋方向に沿ったネジ溝が形成されている。
【0030】
モータ19は、サーボモータ等の回転量の駆動制御が可能なモータによって構成されており、その回転駆動力をねじ部18に伝達可能な態様で配設されている。ここでは、モータ19の駆動軸部がねじ部18に直接的に連結されている。そして、モータ19の回転駆動に応じて、ねじ部18が正逆両方向に回転可能に構成されている。
【0031】
一対の刃支持部17A,17Bは、長尺状部材に形成されており、それぞれの先端部にストリップ刃14A,14Bが固定支持されている。また、一方の刃支持部17Aの基端部には、ねじ部18の一端側部分18aと螺合可能な螺合部17Aaが形成されており、他方の刃支持部17Bの基端部には、ねじ部18の他端側部分18bと螺合可能な螺合部17Baが形成されている。
【0032】
そして、一対のストリップ刃14A,14Bの先端部を相対向させる姿勢で、一方の刃支持部17Aの螺合部17Aaがねじ部18の一端側部分18aに螺合されると共に、他方の刃支持部17Bの螺合部17Baがねじ部18の他端側部分18bに螺合されている。この状態で、モータ19を正方向或は逆方向に回転制御することで、一対のストリップ刃14A,14Bを接近移動或は離隔移動させることができる構成となっている。
【0033】
もっとも、刃駆動部としては上記構成に限られず、エアシリンダ、油圧シリンダ、リニアモータ等で駆動する構成であってもよく、また、一対のストリップ刃14A,14Bをそれぞれ別々に駆動する構成であってもよい。
【0034】
電線保持部20は、電線Wの端部を一対のストリップ刃14A,14B間に配設した姿勢で、当該電線Wを保持可能に構成されている。このような電線保持部20としては、例えば、エアシリンダ、油圧シリンダ等のアクチュエータの駆動により一対の把持爪を開閉駆動する周知のチャック機構等を採用することができ、要するに、電線を保持可能な構成を採用することができる。
【0035】
被覆除去駆動部22は、一対のストリップ刃14A,14Bと上記電線保持部20とを離間方向に移動させることで電線Wの端部の被覆Wbを除去する運動を付与する機構として構成されている。ここでは、被覆除去駆動部22は、エアシリンダ、油圧シリンダ等のアクチュエータ等により構成されており、上記電線保持部20を、一対のストリップ刃14A,14Bから離間させる方向に移動させるように構成されている。
【0036】
この電線ストリップユニット12は、ストリップ処理制御部28の制御下、次のようにして電線Wの端部の被覆Wbをストリップする。
【0037】
すなわち、一対のストリップ刃14A,14Bを離間移動させた状態で、一対のストリップ刃14A,14B間に電線Wの端部を配設するようにして、電線Wを電線保持部20で保持する(図2参照)。この状態で、刃駆動部16の駆動により一対のストリップ刃14A,14Bを接近移動させる。すると、一対のストリップ刃14A,14BのV字刃形状部分に囲まれた領域に芯線Waを配設した状態で、V字刃形状部分が被覆Wbに切込んでいく(図3参照)。このように、V字刃形状部分を被覆Wbに切込ませた状態で、被覆除去駆動部22の駆動により一対のストリップ刃14A,14Bと電線保持部20とを離間方向に移動させると、被覆WbのうちV字刃形状部分より先端側の部分が、電線保持部20で保持された電線W部分から除去され、電線Wの端部に芯線Waが露出するようになる。なお、ストリップ処理制御部28からは電線ストリップユニット12の動作タイミングを示す信号として動作ON信号が出力され後述する接触状態判定処理部50に入力される。
【0038】
ここで、一対のストリップ刃14A,14Bが被覆Wbに切込んだ際に、一対のストリップ刃14A,14Bが芯線Waに接触してしまうことがある(図4参照)。ストリップ刃14A,14Bが芯線Waに接触してしまうと、芯線に傷付き或は芯線切れ等が発生し、接触不良或は断線等の要因となり得る。
【0039】
芯線接触検出装置40は、上記のように電線Wの被覆Wbをストリップ刃14A,14Bでストリップする際に、ストリップ刃14A,14Bと芯線Waとの接触を検出する装置として構成されている。
【0040】
すなわち、芯線接触検出装置40は、振動検知部42A,42Bと、接触状態判定処理部50とを備えている。
【0041】
振動検知部42A(又は42B)は、芯線Waとストリップ刃14A(又は14B)との接触によって生じる振動周波数を含む周波数域の振動を検知可能に構成されている。
【0042】
つまり、芯線Waとストリップ刃14A(又は14B)とが接触し芯線Waに傷等の破壊が生じてしまった場合、AE(Acoustic Emission)によってAE波が発生する。そこで、振動検知部42A(又は42B)は、芯線Waとストリップ刃14A(又は14B)との接触によるAE波の振動周波数を含む周波数域の振動を検知可能に構成されている。なお、本出願において、芯線Waとストリップ刃14A(又は14B)との接触によって生じる振動周波数とは、当該接触によって生じる主たる範囲の振動周波数、或は、当該接触によって生じる主たる特定の振動周波数を意味している。
【0043】
通常、芯線Waは金属で形成されており、また、ストリップ刃14A(又は14B)も金属で形成されている。そして、金属の破壊により発生するAE波は、100kHz〜300kHzの範囲内で減衰が少なく観測し易い。このため、振動検知部42A(又は42B)は、100kHz〜300kHzの範囲に対して部分的に或は全体的に重複する周波数域の振動を検知可能であることが好ましい。より好ましくは、振動検知部42A(又は42B)は、100kHz〜300kHzの範囲で感度よく振動を検知できることが好ましく、より具体的には、振動検知部42A(又は42B)は100kHz〜300kHZの範囲内の共振周波数を持つ共振型AEセンサであることが好ましい。さらに好ましくは、200kHzの共振周波数を持つ共振型AEセンサであることが好ましい。
【0044】
上記振動検知部42Aはストリップ刃14Aに接触するようにして取付固定されている。より具体的には、振動検知部42Aの検知面をストリップ刃14Aの一主面に接触させるようにして、振動検知部42Aが取付固定されている。また、同様に振動検知部42Bはストリップ刃14Bに接触するようにして取付固定されている。振動検知部42A,振動検知部42Bの取付固定は、ネジ締め、接着等種々の取付構造により行うことができる。また、振動検知部42A,振動検知部42Bの取付位置は、上記ストリップ作業を妨げない位置であればよい。振動検知部42A,42Bをストリップ刃14A,14Bに接触させた態様で取付固定することで、芯線Waとストリップ刃14A(又は14B)との接触によって生じるAE波の振動をより確実に検知することができる。
【0045】
この振動検知部42A,42Bからの振動検知信号は、例えば、検知された振動に応じた電圧を持つアナログ信号として接触状態判定処理部50に入力される。
【0046】
図5は接触状態判定処理部50のハードウエア構成を示すブロック図である。接触状態判定処理部50は、上記振動検知部42A,42Bから入力される検知信号に基づいて、検知された振動の振幅が所定のしきい値を越えたときに、ストリップ刃14A,14Bと芯線Waとの接触有りと判定する接触状態判定部としての処理を実行可能に構成されている。
【0047】
より具体的には、接触状態判定処理部50は、CPU52、ROM53、RAM54、外部記憶装置55等がバスライン51を介して相互接続された一般的なコンピュータによって構成されている。ROM53は基本プログラム等を格納しており、RAM54はCPU52が所定の処理を行う際の作業領域として供される。外部記憶装置55は、フラッシュメモリ或はハードディスク装置等の不揮発性の記憶装置によって構成されている。外部記憶装置55には、後述する芯線接触検出処理を行うための接触検出プログラム55aが格納されている。この接触検出プログラム55aに従って、主制御部としてのCPU52が演算処理を行うことにより、後述するようにストリップ刃14A,14Bと芯線Waとの接触を検出する各種機能が実現されるように構成されている。接触検出プログラム55aは、通常、予め外部記憶装置55に格納されるものであるが、CD−ROM或はDVD−ROM、外部のフラッシュメモリ等の記録媒体に記録された状態で提供され、或は、ネットワークを介した外部サーバからのダウンロードなどにより提供され、追加的又は交換的に外部記憶装置55に格納されるものであってもよい。
【0048】
また、外部記憶装置55には、上記芯線接触検出処理を行う際の基準となるしきい値が格納されている。このしきい値については後述する。
【0049】
また、この接触状態判定処理部50では、検知信号入力回路部56,出力回路部57a,入力回路部57b,入力部58,表示部56もバスライン51に接続されている。
【0050】
検知信号入力回路部56は、増幅回路、AD変換回路等によって構成されており、振動検知部42A,42Bによって得られた振動検知信号がアナログ信号で入力されると、これを増幅等した後、デジタル信号に変換するように構成されている。この検知信号入力回路部56でデジタル信号に変換された振動検知信号は、例えば、振幅値が経時的に並ぶデータとしてRAM54或は外部記憶装置55に記憶され、後述する接触検出処理に供される。
【0051】
出力回路部57aは、CPU52による制御下、他の機器への制御信号等を出力する出力回路である。入力回路部57bは、外部からの諸信号、ここでは、ストリップ処理制御部28からの動作ON信号が、本入力回路部57bを通じて入力される。
【0052】
入力部58は、各種スイッチ、タッチパネル等により構成されており、上記しきい値の入力設定指示の他、接触状態判定処理部50に対する諸指示を受付可能に構成されている。
【0053】
表示部59は、液晶表示装置、ランプ等により構成されており、CPU52による制御下、接触状態の判定結果等の諸情報を表示可能に構成されている。
【0054】
図6は接触状態判定処理部50の機能ブロック図である。同図に示すように、接触状態判定処理部50は、比較回路部52aと判定部52bとしての機能を備えている。これら各機能は、上記したようにCPU52が接触検出プログラム55aに従って所定の演算処理を行うことにより実現される。
【0055】
比較回路部52aは、入力された振動検知信号に基づいて、検知された振動の振幅と所定のしきい値とを比較する。この比較は、経時的に連続する振動の振幅データに対して順次なされる。そして、比較回路部52aは、その比較結果を判定部52bに与える。
【0056】
判定処理部は、上記比較回路部52aによる比較結果基づいて、検知された振動の振幅が所定のしきい値を越えたと判断されたときに、ストリップ刃14Aと芯線Waとの接触有りと判定し、その判定結果を出力する。判定結果は、表示部59への表示等に供される。ストリップ刃14Bと芯線Waとの接触の有無についても同様の機能によって実現される。
【0057】
なお、上記接触状態判定処理部50が行う一部或は全部の機能は、専用の論理回路等でハードウェア的に実現されてもよい。
【0058】
図7は接触状態判定処理部50による接触状態判定処理を示すフローチャートである。
【0059】
接触状態判定処理開始後、接触状態判定処理部50は、ステップS1において、電線ストリップユニット12からの駆動ON信号入力の有無を判定する。ステップS1において、駆動ON信号入力無しと判定されると、ステップS1の処理を繰返す。電線ストリップユニット12によってストリップ処理が開始され駆動ON信号が入力されると、ステップS1において、駆動ON信号入力有りと判定され、ステップS2に進む。
【0060】
ステップS2では、接触状態判定処理部50は、両ストリップ刃14A,14Bの振動振幅データを取得する。例えば、上記駆動ON信号入力時からストリップ処理が終了するまでの期間において、上記振動検知部42A,42Bからの振動検知信号をサンプリングして振動振幅データを取得する。ステップS2の後、ステップS3に進む。
【0061】
ステップS3では、接触状態判定処理部50は、一方のストリップ刃14Aの振動振幅データに関して、振幅の値が所定のしきい値を越えるか否かを判定する。振幅の値が所定のしきい値を越えないと判定された場合、ステップS4に進む。
【0062】
ステップS4では、接触状態判定処理部50は、他方のストリップ刃14Bの振動振幅データに関して、振幅の値が所定のしきい値を越えるか否かを判定する。振幅の値が所定のしきい値を越えないと判定された場合、ステップS1に戻り、上記処理を繰返す。
【0063】
ステップS3,S4において、振幅の値が所定のしきい値を越えると判定された場合、ステップS5に進む。
【0064】
ステップS5では、接触状態判定処理部50は、接触有りと判定し、その判定結果を出力する。判定結果に基づいて、表示部59において接触有る旨の表示がなされる。或は、判定結果に基づいて、ストリップ処理を停止させる旨の信号が電線ストリップユニット12に与えられる。これにより、電線ストリップユニット12側では、当該信号を受けてストリップ処理を一時的に停止するとよい。
【0065】
なお、ステップS3及びS4において、振幅の値と所定のしきい値とが同じ場合には、分岐先の処理のいずれに進んでもよい。
【0066】
また、ステップS3及びS4の処理は、逆の順で行われてもよく、或は、並列的に実行されてもよい。
【0067】
ここで、ストリップ処理時に現れる振動の振幅波形を示し、上記しきい値の好ましい設定例について説明する。
【0068】
図8及び図9はストリップを正常に行えた場合、つまり、芯線Waに傷、切断等を生じさせることなく、被覆Wbだけをうまく除去できた場合において、ストリップ処理開始後の時間tと振幅Aとの関係(振幅波形)を示している。図10〜図12はストリップ処理時に芯線Waに傷付きが発生した場合の振幅波形を示しており、図13はストリップ処理時にストリップ刃14A,14Bが芯線Waに噛み込んでしまった場合の振幅波形を示しており、図14はストリップ処理時に芯線Waが部分的に破断してしまった場合の振幅波形を示しており、図15はストリップ処理時に芯線Waが完全に破断してしまった場合の振幅波形を示している。なお、各図において、ストリップ刃14A,14Bが被覆Wbに切込んだ際に観測される波形部分を点線で、ストリップ刃14A,14Bが芯線Waに接触或は切込んでいく際に観測される波形部分を2点鎖線で囲っている。また、図16は図9においてストリップ刃14A,14Bが被覆Wbに切込んだ際に観測される波形部分を時間軸において拡大した図である。図17は図14においてストリップ刃14A,14Bが芯線Waに切込んでいく際に観測される波形部分を時間軸において拡大した図である。図18は図15においてストリップ刃14A,14Bが芯線Waに切込んでいく際に観測される波形部分を時間軸において拡大した図である。
【0069】
これらに示すように、ストリップ刃14A,14Bが芯線Waに接触或は切込んで行く際にはより大きい振幅が観測される。そこで、複数の実験結果から、ストリップ刃14A,14Bが芯線Waに接触或は切込んで行く際に観測されるであろう振幅の値を推測し、その値を上記処理におけるしきい値として設定して、ストリップ刃14A,14Bと芯線Waとの接触有無判定を有効に行うことができる。
【0070】
特に、上記各図から理解できるように、ストリップ刃14A,14Bが被覆Wbに切込んで行く際にも振幅は大きくなる。ところが、ストリップ刃14A,14Bが芯線Waに接触或は切込んで行く際にはより大きい振幅が観測される。つまり、ストリップ刃14A,14Bが芯線Waに接触或は切込んで行く際に観測される振幅の最大値は、ストリップ刃14A,14Bが被覆Wbに切込んで行く際に観測される振幅の最大値よりも大きくなっていることがわかる。
【0071】
そこで、上記しきい値としては、ストリップ刃14A,14Bが被覆Wbに切込んでいく際に検知される振幅の最大値よりも大きな値を設定するのが好ましいことがわかる。
【0072】
上記のようなしきい値は、実際には、芯線Wa、被覆Wbの材質、形状、ストリップ刃14A,14Bの材質、形状等によって左右されるため、実験的、経験的に、設定され得る。
【0073】
以上のように構成された芯線接触検出装置、電線ストリップ処理装置、芯線接触検出方法及び芯線接触検出プログラムによると、ストリップ刃14A,14Bと芯線Waとが接触すると、振動検知部42A,42Bを通じて検知される振動の振幅が大きくなる。このため、検知された振動の振幅が所定のしきい値を越えたときに、ストリップ刃14A,14Bと芯線Waとの接触有りと判定することで、それらの接触を簡易に検出できる。
【0074】
特に、従来技術の場合、ストリップ刃を他から絶縁する必要があったが、本実施形態では、そのような絶縁対策は不要であるという利点もある。
【0075】
また、振動検知部42A,42Bがストリップ刃14A,14Bに接触した状態で取付けられているため、ストリップ刃14A,14Bと芯線Waとの接触によって生じた弾性刃が、ストリップ刃14A,14Bを経由して確実に振動検知部42A,42Bに伝搬される。このため、芯線Waとストリップ刃14A,14Bとの接触をより確実に検出できる。
【0076】
もっとも、ストリップ刃14A,14Bのうちの一方のみに振動検知部を取付けて、上記接触の有無判定を行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】実施形態に係る電線ストリップ処理装置を示す概略側面図である。
【図2】ストリップ刃と電線とを示す説明図である。
【図3】ストリップ刃が電線に正常に切込んだ状態を示す説明図である。
【図4】ストリップ刃が芯線に接触した状態を示す説明図である。
【図5】接触状態判定処理部のハードウエア構成を示すブロック図である。
【図6】接触状態判定処理部の機能ブロック図である。
【図7】接触状態判定処理部による接触状態判定処理を示すフローチャートである。
【図8】ストリップ処理時(正常時)における振幅波形例を示す図である。
【図9】ストリップ処理時(正常時)における振幅波形例を示す図である。
【図10】ストリップ処理時(不良時)における振幅波形例を示す図である。
【図11】ストリップ処理時(不良時)における振幅波形例を示す図である。
【図12】ストリップ処理時(不良時)における振幅波形例を示す図である。
【図13】ストリップ処理時(不良時)における振幅波形例を示す図である。
【図14】ストリップ処理時(不良時)における振幅波形例を示す図である。
【図15】ストリップ処理時(不良時)における振幅波形例を示す図である。
【図16】図9の振幅波形を部分的に時間軸において拡大した図である。
【図17】図14の振幅波形を部分的に時間軸において拡大した図である。
【図18】図15の振幅波形を部分的に時間軸において拡大した図である。
【符号の説明】
【0078】
10 電線ストリップ処理装置
12 電線ストリップユニット
14A,14B ストリップ刃
16 刃駆動部
42A,42B 振動検知部
50 接触状態判定処理部
55a 接触検出プログラム
W 電線
Wa 芯線
Wb 被覆

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線の被覆をストリップ刃でストリップする際に、ストリップ刃と芯線との接触を検出する芯線接触検出装置であって、
電線の芯線とストリップ刃との接触によって生じる振動周波数を含む周波数域の振動を検知可能な振動検知部と、
前記振動検知部から入力される振動検知信号に基づいて、検知された振動の振幅が所定のしきい値を越えたときに、ストリップ刃と芯線との接触有りと判定する接触状態判定部と、
を備える芯線接触検出装置。
【請求項2】
請求項1記載の芯線接触検出装置であって、
前記振動検知部は、100kHz〜300kHZの範囲内の共振周波数を持つ共振型AEセンサである、芯線接触検出装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の芯線接触検出装置であって、
前記しきい値として、ストリップ刃が被覆に切込んでいく際に検知される振動の振幅よりも大きな値が設定されている、芯線接触検出装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の芯線接触検出装置であって、
前記振動検知部は、ストリップ刃に接触した状態で取付可能に構成されている、芯線接触検出装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の芯線接触検出装置であって、
被覆に切込む一対のストリップ刃のそれぞれに取付可能な2つの前記振動検知部を備える、芯線接触検出装置。
【請求項6】
電線の被覆に切込み可能な一対のストリップ刃と、
前記一対のストリップ刃を接近及び離隔移動させる刃駆動部と、
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の芯線接触検出装置と、
を備える電線ストリップ処理装置。
【請求項7】
電線の被覆をストリップ刃でストリップする際に、ストリップ刃と芯線との接触を検出する芯線接触検出方法であって、
(a)ストリップ刃を電線の被覆に切込ませる工程と、
(b)前記工程(a)において、電線の芯線とストリップ刃との接触によって生じる振動周波数を含む周波数域の振動を検知する工程と、
(c)検知された振動の振幅が所定のしきい値を越えたときに、ストリップ刃と芯線との接触有りと判定する工程と、
を備える芯線接触検出方法。
【請求項8】
電線の被覆をストリップ刃でストリップする際に、電線の芯線とストリップ刃との接触によって生じる振動周波数を含む周波数域の振動を検知し、この振動検知信号に基づいてストリップ刃と芯線との接触の有無を判別するための芯線接触検出プログラムであって、コンピュータに、
(a)前記振動検知信号に基づいて、検知された振動の振幅と所定のしきい値とを比較する処理と、
(b)前記(a)における比較結果、検知された振動の振幅が所定のしきい値を越えたときに、ストリップ刃と芯線との接触有りと判定する処理と、
を実現させるための芯線接触検出プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−81770(P2010−81770A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−249854(P2008−249854)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000002358)新明和工業株式会社 (919)
【出願人】(593214888)株式会社昭和電気研究所 (2)
【Fターム(参考)】