説明

花粉又は花粉荷粉砕組成物とその抽出エキス、及びそれらの製造方法

【課題】
食品、化粧品に用いられる花粉及び花粉荷の栄養成分を効率的に有効利用する手段を提供する。
【解決手段】
花粉又は花粉荷を微細に粉砕し、必要に応じて、水又は含水溶媒で抽出して、ポリフェノール類を含む栄養成分に富む花粉又は花粉荷粉砕組成物及びその抽出エキスを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、栄養成分の溶出量が増加した花粉又は花粉荷粉砕組成物及びその抽出エキスに関する。さらに本発明は花粉又は花粉荷粉砕組成物及びその抽出エキスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蜜蜂が後脚の花粉かご(ポーレンバスケット)に集め団子状にして巣へ持ち帰ったものを花粉荷(花粉団子)と呼び、この花粉荷は種々の栄養成分を含み又種々の効能を有することから、食品や化粧品に用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、チモシイ、トウモロコシ、ヘーゼル、ライムギ、ネコヤナギ、ハコヤナギ、フランスギクまたはマツの花粉を原料とする花粉エキスソフトカプセルが開示されており、当該カプセルは、前立腺炎や前立腺肥大症に対する抑制効果を有することが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、花粉、花粉荷及びその抽出エキスによって、コラーゲンまたはヒアルロン酸の産生を促進する事が記載されている。
【0005】
しかし、花粉はセルロース等から成る細胞壁に被われており、非常に耐久性に優れているため、ヒトが食しても花粉中の栄養成分を吸収しにくいと考えられる。非特許文献1には、ラットの動物実験で、カゼインと比較して、花粉荷の消化率が低い事が記述されている。この花粉荷を食品として用いる上での課題は、花粉中の栄養成分をより多く摂取する事である。
【0006】
この課題を解決する方法として、例えば、特許文献3には、回転羽根を有する粉砕機によって、花粉を粉砕する事を特徴とする、食用花粉の製造方法が記載されている。
【0007】
特許文献4には、高圧穀物膨張機により花粉の外殻皮(細胞壁)を破砕して内容物を噴出させ、外殻皮と共に粉砕した花粉を原料とする強壮食品の製造法が記載されている。
【0008】
また、特許文献5には、適宜な方法で粉砕した花粉にエタノールを加え、有効成分を抽出した花粉エキスの製造方法が記載されている。
【0009】
しかし、これら従来技術のうち、回転羽根を有する粉砕機での花粉荷の粉砕によれば、回転羽根によって花粉荷を粉砕できるが、花粉荷中の栄養成分の抽出量がどれだけ増えるかは不明である。実際に、回転羽根を有する粉砕機による花粉荷の粉砕を模倣し、ミキサーによる粉砕を行って花粉荷粉末を調製した。その結果、花粉荷からの水抽出液中の乾燥残分の増加は確認できなかった。
【0010】
また、高圧穀物膨張機による花粉外殻皮の粉砕は、概観上、炭化傾向(焦げ)が見られ、その色をマスキングするため、製剤化の際に糖衣コーティング等が必要となる。そのため製造コストが上がり、より多くのお客様に安価な製品を提供する事は困難である。エタノールなどの溶媒を使用する事で多くの成分を抽出する技術も同様に、安価な製品を提供する事は困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平9−278665号公報
【0012】
【特許文献2】特開2008−133270号公報
【0013】
【特許文献3】特公昭61−026336号公報
【0014】
【特許文献4】特公昭61−027031号公報
【0015】
【特許文献5】特公昭61−021059号公報
【0016】
【非特許文献1】Journal of Nutrition 113:2479−2484(1983)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上記従来技術と比較して、より一層花粉中に含まれる栄養成分の溶出量が増加した花粉又は花粉荷粉砕組成物及びその抽出エキスとそれらの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明によれば、花粉中に含まれる栄養成分の溶出量が増加した花粉又は花粉荷粉砕組成物及びそれらの抽出エキスは、花粉又は花粉荷を粉砕機を用いて粉砕し、必要に応じて、さらに水又は含水溶媒で抽出することによって得ることができる。
【0019】
本発明において、花粉及び花粉荷としては、アブラナ科、タデ科、ツバキ科、ハンニチバナ科、
ツツジ科、フトモモ科、イネ科、ヤナギ科、ミカン科、ウリ科、及びバラ科からなる群から選ば
れる少なくとも1種の科に属する植物に由来するものを好適に用いることができる。
【0020】
本発明において、花粉及び花粉荷由来植物としては、シスタス、茶、ナタネ、そば、スイカ、
トウモロコシ、ジャラ、マリ、ブルーベリー、ラズベリー、リンゴ、ナシ、チェリー、ヤナギ、オレンジ及びカルーナから選ばれる少なくとも1種の植物を用いることができる。
【0021】
次に、粉砕機としては、コミトロール、ダイサー、スライサー、ミル(ジェットミル、ピンミル、石臼式粉砕機、ビーズミル等)、ホモジナイザー、超音波破砕機等を用いることができ、特に高速で回転するインペラーの刃と、固定されたカッティングヘッド、又はマイクロカットヘッドによって切削するコミトロール粉砕機を用いるのがより好ましい。
【0022】
コミトロール粉砕機を用いる場合、粉砕工程は、例えば、花粉荷原料1重量部と水1〜20重量部をコミトロール機に投入後、混合し、高速回転する刃と、固定されたスクリーンφ25.4〜190 μmのマイクロカットヘッドでペースト化し、凍結乾燥後にミルで粉末化することで、花粉(粒径30〜100
μm)の粉砕を好適に実施することができる。理論上、スクリーンφ25.4 μmのマイクロカットヘッドを用いた粉砕工程によって、粒径25.4 μm以下の花粉荷粉砕組成物が得られる。
【0023】
花粉又は花粉荷粉砕組成物の抽出は、例えば、花粉又は花粉荷を粉砕した原料1重量部に対して、水又は含水溶媒を1〜20重量部を加え、10分〜24時間震盪し、遠心分離やフィルター濾過によって残渣を除くことによって、好適に実施することができる。
【0024】
当該抽出工程は、通常、水を用いて実施するのが好ましいが、含水溶媒を用いる場合は、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどのアルコール類(ジオール、トリオールを含む。)と水との混合溶媒を好適に用いることができる。
【0025】
本発明により得られた花粉又は花粉荷粉砕組成物及びそれらの抽出エキスは、食品、外用剤、及び化粧品として用いることができ、これらを含有する食品は、例えば、栄養補助、抗酸化、及びそれらによる抗老化を目的として用いることができる。このため、この食品には、これらの作用にもとづいて、美白、美肌、保湿、しわ予防などを目的とした美容用飲食品、又、前立腺の健康維持、抗アレルギー、抗メタボリック疾患、抗ストレスの目的で使用される飲食品が含まれる。
【0026】
当該食品としては、具体的には、ドリンク類、飲料類(清涼飲料、乳飲料、乳酸菌飲料、ヨーグルト飲料、炭酸飲料、酒類等)、スプレッド、ペースト、洋菓子、和菓子、氷菓、レトルト食品、即席食品、瓶詰・缶詰、ゼリー状食品、調味料、ブイヨン、養蜂産品(はちみつ、ローヤルゼリー、プロポリス、ハチノコなど)、乳製品、加工果実、加工野菜、穀類加工食品、漬物、漬物の素、魚肉製品、畜肉製品、珍味、乾物、惣菜類、冷凍食品、油脂食品等を挙げることができる。また、本発明の食品は、花粉又は花粉荷粉砕組成物及びそれらの抽出エキスを添加・配合して調製しうる、いわゆる健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、特定保健用食品、病者用食品・病者用組合せ食品(厚生労働省、特別用途食品の一種)又は高齢者用食品(厚生労働省、特別用途食品の一種)の形態としてもよく、その場合であれば、素錠、フィルムコート錠、糖衣錠、顆粒、粉末、タブレット、カプセル(ハードカプセルとソフトカプセルとのいずれも含む。)、チュアブルタイプ、シロップタイプ、ドリンクタイプ等とすることもできる。本発明に係る花粉又は花粉荷粉砕組成物及びそれらの抽出エキスを添加・配合した食品の調製は、それ自体公知の方法で行うことができる。
【0027】
本発明により得られる花粉又は花粉荷粉砕組成物及びそれらの抽出エキスを含む外用剤及び化粧品は、美白、美肌、保湿、しわ予防、更に脱毛症などを目的として用いることができる。 また、それらを含有する外用剤・化粧品の剤型は、水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水−油2層系、および水−油−粉末3層系等、幅広い剤型を採り得る。例えば皮膚外用剤が基礎化粧品である場合、その形態として、洗顔料、化粧水、乳液、クリーム、ジェル、エッセンス、美容液、パック、マスク等が挙げられる。また、皮膚外用剤がメークアップ化粧品であれば、その形態として、ファンデーション、口紅、頬紅、アイシャドウ、アイライナー、マスカラなどが挙げられる。その他の形態として、洗顔料、マッサージ用剤、クレンジング用剤、アフターシェーブローション、プレシェーブローション、シェービングクリーム、ボディソープ、石けん、シャンプー、リンス、ヘアートリートメント、整髪料、ヘアートニック剤、育毛剤、制汗剤、衛生用品等が挙げられる。
【発明の効果】
【0028】
従来、花粉を粉砕した技術は知られているが、その具体的効果の報告がなく、そのため、既知の粉砕技術による効果が不明であった。また、エタノールなどの溶媒を使用する事で多くの成分を抽出する技術はあるが、エタノールを用いると製造コストが上がるため、安価に製品を提供する事は困難であった。本発明では、花粉荷中に含まれるポリフェノール類等の有用成分を5倍以上多く水に溶出させることができるので、低価格かつ吸収性に優れた花粉又は花粉荷粉砕組成物及びそれらの抽出エキスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は粉砕による収率の増加を示した説明図である。
【図2】図2は粉砕によるポリフェノール量の増加を示した説明図である。
【実施例】
【0030】
実施例1:花粉荷の粉砕
オーストラリア産マリ花粉荷50 kgに水50 kgを加え、コミトロール処理(φ25.4 μm)にて粉砕し、更に水50 kgを加えてペースト149.9 kg得る。ペーストを凍結乾燥後、パワーミルで粉砕し、花粉荷粉末46.2 kgを得た。
【0031】
実施例2:花粉荷の水抽出液の調製
実施例1で得られた花粉荷粉末0.2 gに対して水を1
ml加え、37℃で30分間ゆるやかに震盪した。震盪後、15000 rpm、25℃で10分間遠心分離することによって、沈澱を除き、上清を水抽出液として得た。
【0032】
比較例:未粉砕の花粉荷の水抽出液の調製
未粉砕のオーストラリア産マリ花粉荷0.2 gを実施例2と同様に処理して、水抽出液を得た。
【0033】
試験例1:収率の測定
実施例2及び比較例で得られた、水抽出液に含まれる水分を乾燥にて除去後、計量し、水抽出液に含まれる乾燥残分重量を求めた。収率は、花粉荷0.2 g当りの乾燥残分重量として、図1の結果を得た。
【0034】
試験例2:総ポリフェノールの測定
実施例2及び比較例で得られた、水抽出液を水で50倍に希釈した。その希釈液100 μlに、1 M NaOHを100 μl、蒸留水を750 μl加えた後、フォリン&チオカルト-フェノール試薬を50 μl加え、全量1 mlとして充分震盪した。30分間、室温で静置後、700 nmの吸光度を測定した。標準品には没食子酸を水で1 mg/mlに調整し用い、総ポリフェノール量は没食子酸当量として、図2の結果を得た。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
花粉又は花粉荷を微細に粉砕し、必要に応じて、水又は含水溶媒で抽出して得た花粉又は花粉荷粉砕組成物及びその抽出エキス。
【請求項2】
花粉又は花粉荷が、アブラナ科、タデ科、ツバキ科、ハンニチバナ科、ツツジ科、フトモモ科、イネ科、ヤナギ科、ミカン科、ウリ科、及びバラ科からなる群から選ばれる少なくとも1種の科に属する植物に由来するものである、請求項1に記載する組成物及びその抽出エキス。
【請求項3】
植物が、シスタス、茶、ナタネ、そば、スイカ、トウモロコシ、ジャラ、マリ、ブルーベリー、ラズベリー、リンゴ、ナシ、チェリー、ヤナギ、オレンジ及びカルーナからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項2に記載する組成物及びその抽出エキス。
【請求項4】
花粉又は花粉荷を、コミトロール粉砕機を用いて粉砕し、必要に応じて、さらに水又は含水溶媒で抽出することを特徴とする花粉又は花粉荷粉砕組成物及びその抽出エキスの製造方法。
【請求項5】
粉砕機のマイクロカットヘッドのオープニングがφ190 μm、好ましくはφ45.7 μm、より好ましくはφ25.4 μmであるコミトロール粉砕機を用いる請求項4記載の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−259346(P2010−259346A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111234(P2009−111234)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(598162665)株式会社山田養蜂場本社 (32)
【Fターム(参考)】