説明

芳香族の分離方法およびこのために既存の装置を改修する方法

【課題】芳香族化合物と非芳香族化合物とを含む混合物から芳香族化合物を回収するための改良方法、およびこの方法のための既存の装置を改修する方法を提供する。
【解決手段】この改良された方法は、抽出蒸溜/液液抽出器の混成的操作、およびこれの変形を並行的に操作することにより芳香族化合物を回収する工程を包含する。この改良された芳香族回収方法に使用するために、既存の回収プロセスの装置を迅速にそして経済的に改修する方法もまた開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は化学的分離方法に関し、特に、芳香族化合物と非芳香族化合物との混合物から芳香族化合物を分離するための改良方法およびこの方法のための既存の装置を改修する方法に関する。
【0002】
(関連する出願)
本出願は改良された芳香族化合物分離方法と題する1997年9月3日出願の同時に係属する仮出願60/057889号の一部継続出願であり、あらゆる目的のために、その開示はすべて参照によって本記載に加入されている。
【0003】
(発明の背景)
ベンゼン、トルエンおよびキシレン(全体としては「BTX」)のような芳香族石油化学化合物は、各種のプラスチック、発泡体および繊維のための重要な構成単位として役立つ。これらの基礎的な化合物は伝統的に、ナフサの接触改質により、あるいはナフサまたは軽油を水蒸気分解して改質物および熱分解ガソリンのような流れを生成することにより製造されてきた。このような伝統的方法から得られるBTXには、沸点が近似する非芳香族化合物がかなりの量含まれ、非芳香族から芳香族を分離する手段として、単純な蒸溜が事実上排除される。
【0004】
従って、非芳香族化合物から芳香族化合物を分離するために種々の抽出技術を開発するよう努力が払われている。このような先行技術での抽出技術には、芳香族に対してより大きい親和性を示し、芳香族化合物と非芳香族化合物との混合物から芳香族を選択的に抽出する溶媒の使用が典型的に関与する。このような先行技術での抽出技術の1例は、シェルオイル社(Shell Oil Company)によって開発されたスルホラン法である。スルホラン法は、溶媒としてテトラヒドロチオフェン1,1ジオキサイド(すなわちスルホラン)を、そして共溶媒として水を使用する。この方法では、一体化され単一な設計の液液抽出と抽出ストリッピングとの組み合わせが用いられる。
【0005】
広汎に使用されているにもかかわらず、スルホラン法にはその設計によるいくつかの不都合がある。例えば、このような方法は利用できる生産能力に限界がある。これは、液液抽出を実施するために、溶媒/抽出物と抽残物物質との間で相分離が起きねばならないことによる。供給原料の芳香族の最大含有率は約80%〜90%に制限される。
【0006】
加えて、伝統的なスルホラン法の設計では、供給原料の選択範囲に制限がある。このことは、既存のスルホラン抽出装置が、供給原料が芳香族化合物を全体の濃度で約30%〜60%含有すると予想される場合に造られたということに由来する。新規な触媒における改良および連続触媒再生(「CCR」)の開発のため、改質物流の芳香族化合物含有率は著しく大きく、液液相分離、そしてそれによる簡単な抽出が可能になる含有率を越える。この二律背反を解消する試みの一つは、全芳香族化合物濃度を減少させ、相分離を促進させるために、非芳香族物質または抽残物物質を人為的に循環することであった。あるいは別に、溶媒系の選択性を増大しようとして共溶媒組成物を増加することができる。先行技術での設計に触媒および接触系での最近の発展を組み入れるこれらの試みはともに、操業効率およびこのプロセスの装置能力を顕著に減少させる。
【0007】
先行技術のスルホラン法に伴う別な欠点は、循環流れ中に存在する好ましくない成分が濃縮する点である。抽出溶媒は、芳香族化合物>ナフテン/オレフィン>パラフィンの順に抽出を有利にする族選択性、および炭素数の少ない成分を有利にする軽質/重質選択性を有する。従って、スルホラン法の設計では、抽出ストリッピング操作により、主抽出器に循環流として流れ、より重質な芳香族化合物とおきかわるより軽質の非芳香族化合物が容易に除去されるという理論を前提とする。
【0008】
実際には、この設計では少くとも二つの好ましくない効果、つまり(1)より重質な芳香族化合物を抽出された流れの中に回収するのが困難なこと、および(2)抽出ストリッパーおよび循環流系統に軽質不純物が蓄積すること、が生じる。このような先行技術における前者の好ましくない効果は、混合供給原料中の芳香族化合物の最重質の化学種を完全に除去しかつ回収することがこのような設計ではできないことである。例えば、先行技術での設計を用いてBTX範囲の供給原料を処理する操作では、ベンゼンの回収はほとんど完全に行えるであろうが、キシレンに対する溶媒の親和性が、ベンゼンに比べるとより低いため、供給原料中のキシレンが15%以上まで失なわれる結果となるであろう。この結果、供給原料中に存在するキシレンを一層完全に回収するための更なる回収方式が必要になる。
【0009】
この好ましくない効果は、循環流中における炭素数のより小さい化合物(例えばC5およびC6のナフテンおよびオレフィン)濃度の顕著な増大を生じ、このため、炭素数が最少の芳香族化合物の製品が汚染される可能性がある。この問題に取り組む試みの一つとして、このように好ましくない成分をストリッピングして循環流内に入れ、そして(あるいは)抽出部に循環するために上記の芳香族製品分溜器からのドラッグ(drag)流を用いるよう操業者によって一層の努力が払われている。両方の試みとも、系によるエネルギー消費を増大させ、また系の処理能力を減少させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、先行技術における芳香族化合物の回収方法を改良し、そして上記した不都合を回避するための回収方法および既存の回収プロセス装置を改修する方法が、依然として必要である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(発明の概要)
本発明によると、芳香族と非芳香族との混合物から芳香族化合物を分離するための改良方法、およびこの改良方法を用いるために既存の装置を改修する方法が提供される。一つの局面で、本発明の改良された分離方法には、芳香族化合物を回収するための主要な分離段階として抽出蒸溜操作が包含される。本発明のこの態様は、BTX留分を含有する供給原料に対して用いるのが好ましいが、これは、5〜12個の炭素原子を含む供給物留分に対しても用いることができる。
【0012】
先行技術でのスルホラン法およびこれに付属するシステムは、主としてその設計および運用の点で、三つの主要な領域つまり(1)主抽出器、(2)抽出ストリッパーおよび(3)抽出物の回収操作について問題があることが判明した。先行技術における方法の他の面に関して、別な改善が少しづつなされたが、本記載での主な改良はこれら三つの領域で実施される。
【0013】
本発明の改良された分離方法の第1の態様では、混成的な抽出/抽出蒸溜系が用いられる。混合炭化水素供給原料の一部は、プロセスの主抽出器、抽出ストリッパーおよび水洗操作と並行して操作される新規で別個な抽出蒸溜塔(「EDC」)に導入される。EDCの使用により芳香族化合物の回収および精製を単一の操作で行なうことが可能になる。共溶媒を必要に応じて使用すると、本発明の改良された芳香族化合物回収方法のこの態様の回収能力が、さらに改善される。
【0014】
本発明の改良された芳香族化合物回収方法の第2の態様では、炭化水素供給原料は、改質物スプリッター塔のようなハートカット(heartcut)分溜塔(「HFC」)から来る。この方法の更なる利点は、供給原料の留分を抽出操作と抽出蒸溜操作とで分離することにより得られる。供給原料からの芳香族化合物の回収をさらに改善するため、本発明の改良された芳香族化合物分離方法のこの態様では、共溶媒の使用が行なわれてよい。
【0015】
上述の第3の態様の一変形では、前溜塔(prefractionator)から、より重質な留分を含有する供給原料の側流が抜き出され、そしてEDCで処理される。塔頂物部分はシステムの伝統的な液液抽出部に供給される。第3の態様についてのこの変形に関する主要な利点は、より重質な芳香族化合物が一層完全に回収され、先行技術での設計に関係し、また先に詳述した芳香族の最大量に関する制限が回避されることである。
【0016】
本発明の改良された芳香族化合物分離方法の第4の態様では、炭化水素供給原料は処理するためにEDCに直接導入される。塔頂物の物質は引続いて凝縮され、そしてこの態様では抽残物抽出器として機能する液液抽出器に向けられる。実用的に重要であるのは、この態様では改変された抽出ストリッピング塔がEDCとして使用できることである。
【0017】
本発明にさらに従うに、既存のスルホラン系抽出システムを改修することにより改良された芳香族化合物分離法を得ることができる。この改修は、元来の液液抽出塔を気液用に転換し、そしてこれをEDCの塔頂部分として利用することにより達せられる。先行技術のシステムにおける抽出ストリッピング塔は、EDCの下方部分として使用される。先行技術システムにおける他の構成要素(例えば水洗塔)は、省くことができる。重要な点は、再設計された系の水力学的能力は、もとの設計の元来の能力を上回るであろうということである。
【0018】
本発明の改良された芳香族化合物回収方法にさらに従うに、改良された芳香族化合物回収システムを採用するために、先行技術的な設計によるグリコール系抽出システムもまた改修され得る。この改修を実施するために、新規な炭化水素供給原料が稀薄な溶媒とともにEDC塔に(主液液抽出塔でなく)供給される。EDCからの塔頂物流は非芳香族化合物を含有し、また伝統的な水洗段階をバイパスされてよい。液液抽出塔は気液蒸溜用に転換される。EDCからの塔頂物流は、この気液蒸溜用の塔に導入されてさらに処理される。塔頂物の抽出生成物は、追加的な洗浄段階を何ら設けることなく製品タンクに直接向けられる。
【0019】
改良された芳香族化合物回収方法およびこの方法のための既存の装置を改修する方法にさらに従うに、液液抽出システムで使用されるもともとの槽を、抽残物抽出器、新規なEDC、抽残物水洗手段および抽出回収操作に転換することにより、抽出蒸溜プロセスの改良が行なわれる。
【0020】
改良された芳香族化合物回収方法、並びにこの方法のための既存の装置およびその変形されたものを改修する方法に関する上記態様から得られる主な利益は、以下のように要約することができる。
【0021】
・これらの態様およびその変形では、処理能力および回収率のようなプロセス利得を提供するために、単独の抽出蒸溜操作または液液抽出を包含する混成的な組み合わせのいずれかが利用され、
【0022】
・本明細書に記載するすべての態様およびそれらの変形では、芳香族化合物(ドラッグ)流または抽残物循環流なしで操作が行なわれ、
【0023】
・本明細書に記載する各々の態様およびそれらの変形では、著しく有効な溶媒による抽出蒸溜操作、およびプロセス内に存在する場合には共溶媒の選択的な添加および(または)共溶媒比の制御が利用され、
【0024】
・本明細書に記載する態様およびその変形の多くでは、既存の装置に認められる制約を乗り越える有利性を得るため、および装置の効率を改善するために、供給原料流と中間生成物流とが分離され、
【0025】
・本明細書に記載する態様およびその変形の多くでは、保守作業を受け入れるために、システムを停止することなく液液抽出器操作をバイパスさせることができ、
【0026】
・本明細書中に記載する態様およびその変形の多くは、プロセスの連結操作および他の改修操作を行なえるように、システムの操作を比較的短期間中断することで実施されることができ、
【0027】
・本明細書中に記載する改修の態様およびその変形のすべてにおいて、構成変更が最少である元来のプロセス構成と比較する場合、20%〜100%の処理能力の増大が実現し、
【0028】
・本明細書中に記載する態様およびその変形の多くでは、複数のプロセス流が分離され、それらが最も好ましい処理操作に向けられ、軽質および重質の芳香族化合物の双方の回収率がより大きくなり、
【0029】
・本明細書中に記載するすべての態様およびそれらの変形では、回収のための条件が最適化され、それにより関連する操作費用が従来のシステム設計と比較して低下し、
【0030】
・本明細書に記載するすべての態様およびそれらの変形では、液液抽出操作が一層完全に利用され、それにより先行技術におけるプロセス設計と比較してより少ない溶媒保有量でよく、更に
【0031】
・本明細書に記載するすべての態様およびそれらの変形では、循環の回避、およびこれに関連する液液抽出操作からの軽質不純物の好ましくない蓄積のために、沸点が最低である抽出留分の純度を高い水準に保つことが一層容易となる。
【0032】
以上のことから、本発明の目的は、芳香族化合物を含有する供給原料に対して用いるための、そして、この供給原料からの芳香族化合物の回収率を著しく増加させることを可能とする一方、先行技術のプロセスおよび設計における不都合を回避できる、改良された芳香族化合物回収方法および既存の装置を改修する方法を提供することである。本発明のこれらのおよびその他の目的を達成する方法は、添付の図面とともに本発明に関する以下の詳細な説明を考察することで理解できるであろう。添付する図面とともに以下の詳細な説明を参照することによって、本発明の改良された分離方法およびこれのための既存の装置を改修する方法に関する一層完璧な理解が得られるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】先行技術のスルホラン系液液抽出回収システムの図式的表示である。
【図2】混成的な抽出/抽出蒸溜設計を利用する、本発明の改良された回収方法の第1の態様の図式的表示である。
【図3】前溜塔および供給原料留分の分離を利用する、本発明の改良された回収方法の第2の態様の図式的表示である。
【図4】抽出蒸溜塔への重質供給物を利用する、上記した第2の態様の変形の図式的表示である。
【図5】液液抽出器が抽残物抽出器として操作される混成的な設計を活用する、本発明の改良された回収方法の第3の態様の図式的表示である。
【図6】本発明の改良された回収方法の一態様を実施するための先行技術のスルホラン系抽出システムの改修案の図示的表示である。
【図7A】先行技術のグリコール系抽出システムについての図式的表示である。
【図7B】本発明の改良された回収方法の一態様を実施するための先行技術のグリコール系抽出システムの改修案についての図式的表示である。
【図8】抽出装置の製造能力を約2倍にするための混成的な要素構成を利用する、本発明の改良された回収方法の第4の態様の図式的表示である。
【図9】本発明の改良された回収方法の一態様を実施するための先行技術のUDEX型の回収システムの改修案の図式的表示である。
【0034】
(実施態様に関する詳細な説明)
(プロセスの要約)
本発明は、改良された芳香族回収方法のおよびこの方法のための既存の装置を改修する方法の開発に関する。現在使用されている先行技術のプロセスおよびシステム(例えばスルホラン法、UDEX型のプロセスなど)と比較する時、本発明では、芳香族化合物循環(ドラッグ)流または抽残物循環流を必要とせずに操作され、また一層優れた溶媒系を高効率で活用して、全般的な装置の効率および処理能力の増大を生む方法およびこの方法を実施する既存の装置を改修する方法が提供される。操作の改変および関連する運転停止時間を最少にしつつ、先行技術におけるシステムに対して本発明が容易に採用されるということが重要である。
【0035】
(プロセスに関する説明)
改良された芳香族化合物回収方法の成功は、伝統的な回収プロセス(例、スルホラン法、UDEX型プロセスなど)のいろいろな局面に対する改善を発展させたことに基づいている。特に、改良された芳香族化合物回収プロセスは、その利点を生じさせるために、単独の抽出蒸溜操作または抽出蒸溜と液液抽出との混成的な組み合わせのいずれかを用いて実施される。
【0036】
先行技術のスルホラン系液液抽出回収システムを図1に示す。このような先行技術のシステムは、主抽出器10、抽出ストリッパー20、抽出物回収操作部30および水洗システム40からなる。本発明の改良された芳香族化合物回収法および既存の装置を改修する方法は、システムのこれらの主要素を分析しそして改善することにより開発された。例えば、これらの先行技術のシステムの抽出物回収操作部30内には典型的にみて水力学的能力にかなりの余剰があることが判明した。処理能力および効率を改良するように先行技術のシステムが変更されうる方法を決定する際に、本発明者らはこれらの4つの主構成要素の3つ、つまり主抽出器10、抽出ストリッパー20および水洗システム40に焦点を絞った。システムの抽出物回収操作部30は、制約的な面を典型的にもたないが、これの製造能力は、内部にある構成要素の1部またはすべてを、圧力降下のより小さい機器の組み合わせに変更することにより、容易に増大される。
【0037】
さらに一層重要であるのは、主抽出器10、抽出ストリッパー20および水洗システム40に対する変更であった。先行技術における回収システムでは、混合炭化水素は最初の処理のために主抽出器10に供給される。主抽出器10からの塔底物流は抽出ストリッパー20に供給される。主抽出器10からの塔頂物流は水洗システム40に供給される。水が図1の水洗システムに供給される。所望なら他の溶媒が使用できる。水洗システム40からの非芳香族の抽残物は、さらに処理されるために取り出されるかまたは貯蔵部に送入される。抽出ストリッパー20からの循環流は、追加的処理のために主抽出器10の下方部分に戻すよう循環される。抽出ストリッパー20からの塔底物流は抽出物回収操作部30に向けられる。芳香族化合物の回収を容易にするために、抽出物回収操作部30に水蒸気が添加される。抽出物回収操作部30の塔頂から芳香族化合物が抜き出され、また塔底流(稀薄溶媒)が主抽出器10の上方部に戻るように循環される。随意的なベンゼンドラッグ循環流および精製物循環流もまた示されている。
【0038】
次に図2を参照すると、本発明の芳香族化合物回収方法の第1の態様の図式的表示が示されている。先行技術の回収方法(図1)と異なることなく、改良された回収系は主抽出器10、抽出ストリッパー20、抽出物回収操作部30および水洗システム40からなる。しかしながら、先行技術の回収システム(図1)とは対照的に、本発明の改良された回収システムには別個な抽出蒸溜塔(「EDC」)50が含まれる。この混成的な抽出/抽出蒸溜の態様にあっては、炭化水素供給原料の一部が主抽出器10に向けられ、また炭化水素供給原料の一部が、上記に概説した抽出操作と並行して操作されるEDC50に向けられる。EDC50では芳香族化合物の回収および精製が単一の操作で実施される。抽出物回収操作部30から出る稀薄な溶媒の一部は、EDC50の上方部分に向けられる。EDC50からの塔底物流は、抽出ストリッパー20の塔底物流と一緒にされ、抽出物回収操作部30に供給される。EDC50からの塔頂物流は、さらに処理するために直接取り出されるか、あるいは貯蔵部に送られる。溶媒の効果は抽出蒸溜において一層顕著である(液液抽出と比較して)ので、共溶媒がEDC50の基底部に加えられ、あるいは稀薄溶媒と一緒にEDC50に加えられるのが有利である。共溶媒は水として例示されているが、好適な任意の共溶媒または共溶媒の組み合わせが、この態様で有利に使用されうる。
【0039】
通常の操作では、共溶媒(例えば水)が稀薄溶媒と予備混合され、そしてEDC50の上方部分に供給される。共溶媒の濃度は、溶媒がEDC50内を下方に流れるにつれて減少する。従って、共溶媒の濃度はEDC50の上方部分で最大であり、またEDCの下方部分で最小である。EDC50内の共溶媒の濃度プロフィル及びそれによる増強効率を逆にするために、EDC50の下方部分に追加的な共溶媒を加えて、共溶媒の選択性を増大させることができる。先行技術のシステム(図1)の主抽出器10、抽出ストリッパー20および抽残物の水洗部40に関するボトルネック状態を緩和することによって、先行技術におけるシステムの設計を凌ぐ効率および製造能力の増大が達成される。
【0040】
本発明の芳香族化合物回収方法の第2の態様を図3に示す。この態様では、炭化水素供給原料が前溜塔(例えば改質物スプリッター塔)60に供給され、またこれから流出して来る。供給原料の留分を分離し、一つの流れを主抽出器10に供給し、また他の流れをEDC50に供給することにより、追加的な利点が得られる。特定的には、前溜塔60からの側流は、主抽出器10に供給され、また塔頂留分(より軽質な物質を含有する)はEDC50に供給される。第1の態様と同様に、この態様ではEDC50に対する共溶媒の選択的使用が行なわれてよい。より軽質な物質はEDC50内で一層容易に処理される(抽出器/ストリッパー操作部10,20および30と比べて)ので、この態様では効率および処理能力がかなり改良され、また供給原料の沸点範囲が狭められるのでEDC50の操作が改善される。あるいは別に、EDC50からの軽質の抽残物流をC5/C6異性化装置内で処理してもよく、またより重質な抽残物流をナフサ分解器への供給原料にあるいはガソリン配合工程に向けることもできる。
【0041】
すぐ上で述べた第2の態様の一変形を図4に示す。本発明の改良された芳香族化合物回収方法の第2の態様のこの変形にあっては、混合炭化水素供給原料(より重質な物質を含む)の側流が前溜塔60から抜き出され、処理のためにEDC50に供給される。第2の態様の第1の変形と同様に、側流は並行処理するためのシステムの主抽出器10、抽出ストリッパー20および抽出回収操作部30にも供給される。第2の態様のこの変形に関係する明白な利点は、より重質な芳香族化合物が供給物からEDC50に一層完全に(抽出器/ストリッパー部分と比較して)回収されるという事実に由来する。重質な物質は(より軽質な物質と比べて)芳香族化合物に富むので、先行技術のシステムが到達する芳香族化合物の最大限度(前記したもの)が回避される。この構成にかかわる別な利益は、EDC50でのカットポイント(cutpoint)を上げる(例えばBTX範囲の供給原料からトルエンを追い出す)ことにより、芳香族留分の中間カット(cut)の一部を抽残物中に選択的に追い出すという融通性が操業者に与えられることである。この特徴は、オクタン価要求および下流での制約条件に対して生産をバランスさせるために活かすことができる。
【0042】
改良された芳香族回収方法の第三の態様を図5に示す。この第3の態様では、混合炭化水素供給原料が処理のためにEDC50に直接供給される。EDC50から塔頂流が取り出され、凝縮され、続いてさらに処理するために主抽出器10に供給される。この態様では、主抽出器10は抽残物抽出器として操作される。主抽出器10からの塔底物流は、EDC50の上下に沿ういろいろな個所に選択的に供給され、ベンゼンに富む留分を回収するための最適の位置にこの留分が装入される。以下で一層詳細に論じるように、先行技術の設計および前記の諸態様の抽出ストリッパー20は、本態様のためにEDC50として働くように変更されてよく、あるいはEDC50として使用するための新規な槽に、抽出ストリッパー20がおきかえられてもよい。混合炭化水素の新規供給原料をEDC50内に直接供給することにより、EDC50から主抽出器10(抽残物抽出器として操作される)への循環流中に存在する芳香族化合物の量はかなり減少するが、キシレンの回収は確保されるであろう。主抽出器10(抽残物抽出器として働く)に供給される流れが、液液抽出器を最適に操作するように調整されるので、この態様では効率および処理能力の増加が更に達せられる。
【0043】
図6は、本発明の改良された芳香族化合物回収方法の一態様を操作するための、先行技術のスルホラン回収型プロセスにおける改修を示す。この改修操作では、元の液液抽出器が気液用抽出器10に転換されて、EDCの上方部分として使用される。元の抽出ストリッパーはEDC50の下方の部分として使用するように転換される。EDC50用の再沸器52は既存の状態で使用され、また元の抽出ストリッパー用の凝縮器54は気液用抽出器10からの塔頂物蒸気を凝縮するために使用することができる。ある態様では、抽残物水洗器40はもはや必要でなく、また望むならシステムから除去あるいはバイパスされてよい。図6に示す改修案の明白な有利性は、直列になってEDC50として操作される気液用抽出器10および元の抽出ストリッパーの水力学的能力が、先行技術における元のシステムの水力学的能力よりかなり大きいことである。
【0044】
図7Aおよび7Bに示すように、先行技術のグリコール系抽出システムもまた、本発明の改良された芳香族化合物回収方法の一態様を実施するように、容易にまた経済的に改修されることができる。図7Aは、元のグリコール系回収システムを示す。このようなシステムでは、混合炭化水素溶媒、稀薄な溶媒および循環流が主(液液)抽出器10に供給される。主抽出器10の底部から取り出された濃厚な溶媒は、抽出ストリッピング/抽出物回収の組み合わせ的な塔20に供給される。この抽出ストリッピング/抽出物回収塔20からの蒸気抜き出し物から芳香族化合物が取り出され、そして洗浄される。稀薄な溶媒および循環流は主抽出器10に戻される。
【0045】
次に7B図を参照すると、本発明の改良された芳香族化合物回収方法の一態様を実施できるグリコール系改修回収システムが示される。改修された時、混合炭化水素供給原料および稀薄溶媒が処理のためにEDC50に供給される。元のシステムの抽出ストリッピング/抽出物回収の組み合わせ的な塔20(図7A)はEDC50に転換されている。非芳香族を含有する、EDC50からの塔頂物流は溶媒を事実上含まず、従って洗浄工程をバイパスすることができる。EDC50からの塔底物流は、元の液液抽出器から気液蒸溜用に変更されている抽出物回収操作部10に供給される。抽出物回収操作部10からの塔頂物流は芳香族製品であり、また洗浄工程を用いずに収集することができる。ここに述べる転換は特に簡単であり、また、元の抽出装置(図7A)には、新規なシステムに簡便に適合させることのできる二基の凝縮器およびアキュミュレーターが利用されているので、この転換は容易に実施される。元のストリッピング塔からの再沸器(図7A)および水洗塔(図示せず)もまた新規なシステム内に簡便に再使用されることができる。本明細書に述べた前記の諸方法と同様、操作の選択性を改善するために、共溶媒または共溶媒系をEDC50の基底部に加えてよく、あるいは稀薄溶媒と一緒にEDC50(図7B)に加えてもよい。
【0046】
図8には改良された芳香族回収方法の第4の態様を示す。この態様では、抽出器/抽出蒸溜塔の混成的な構成が用いられる。この態様では、混合炭化水素供給物と稀薄溶媒とが処理のためにEDC50に直接供給される。EDC50からの塔底物流は抽出物回収操作部20および30に供給される。芳香族製品は、抽出物回収操作部20および30の上方部分から取り出される。抽出物回収操作部20および30の底部からの稀薄溶液は、EDC50にそして抽残物抽出器10に供給される。EDC50の塔頂物流もまた抽残物抽出器10に供給される。抽残物抽出器10の塔頂物流は、水洗装置40に供給され、また水洗装置40からの非芳香族化合物は、さらに処理するために取り出されあるいは貯蔵部に送入される。
【0047】
本発明の芳香族化合物回収方法におけるこの態様を実施するために、先行技術であるスルホン法の元の槽の容易且つ簡便な改修もまた可能である。再構成を行うために、元の主抽出器10(図1)が抽残物抽出器10に転換される。抽出ストリッパー20および抽出回収操作30(図1)は抽出回収操作部20および30として並行的に操作されるように転換される。抽残物水洗装置40(図1)は抽残物水洗装置40のままであり、そして新規なDEC50が追加されている。図5にやはり示されており、また上記に一層詳細に記載されているように、このように転換された系を用いることにより、処理能力および効率のかなりの増大が実現される。新規な単一な分溜塔を追加することにより、図8に示される構成が装置能力をかなり(2倍の能力まで)増大することが重要である。次に図9を参照すると、本発明の改良された芳香族化合物回収方法の一態様を実施できる、改修されたUDEX型の芳香族化合物回収系が示されている。本明細書において、グリコールと水とを抽出溶媒として使用するBTX抽出法に対する商標名である「UDEX」という用語は、芳香族化合物と非芳香族化合物とを含有する混合物からの芳香族化合物の分離を実施するために二つの主要な塔が利用される回収システムを指すのに用いられる。
【0048】
基本的なUDEX系では、混合炭化水素供給原料1が液液抽出器の塔10の中央または底部の部分に供給され、そして液液抽出器の塔10の上方部分に供給される稀薄溶媒2と向流的に混合される。稀薄溶媒2によって芳香物族化合物が抽出され、芳香族化合物が稀薄である抽残物流3が残り、これは液液抽出器の塔10の頂部から取り出される。抽出溶媒、芳香族化合物、および残留するいくらかの非芳香族を含有する濃厚溶媒4は、液液抽出器の塔10の底部から流出し、そしてストリッパー塔20の上方部分に向けられる。ストリッパー塔20では、流れは一般にフラッシュされ(単一段階または多段階で)、これからの蒸気はストリッパー塔20の下方の部分からくる蒸溜物と一緒になって循環流5中に入る。循環流5は塔の頂部に向かい、ストリッパー塔20から流出しそして凝縮され、またさらに処理するために液液抽出器の塔10に向けて戻される。ストリッパー塔20内のストリッピングされた稀薄溶媒7は、ストリッパー塔20の上方部分から流出され、そして芳香族を回収するためにストリッパー塔20の下方の部分に向けられる。
【0049】
ストリッパー塔20の下方の部分では、芳香族化合物が稀薄溶媒から蒸気抜き出し物6中へとストリッピングされ、凝縮され、引続いて高純度の芳香族化合物を生成するように洗浄工程または仕上工程で処理される。再沸器R1、及び望むならストリッパー20の底部に装入されるストリッピング蒸気によって、ストリッパー塔20に熱が供給される。ストリッピングされた稀薄な溶媒8をサイクルを繰り返すために、それを液液抽出器の塔10に循環する前に、熱交換または当技術分野で知られている他の方法によって冷却することができる。
【0050】
これらの基本的なシステムは、当初の不充分な設計および(または)更なる供給原料処理の必要性のため、しばしば効率的な処理能力以下で操業されている。さらに重要なことは、これらのUDEX型の回収システムは、広範囲の変更および一層慣例的な改修方法に伴う運転停止時間を必要とせずに、本発明の改良された芳香族化合物回収方法の一態様を実施するために、容易にそして迅速に改修され得るということである。加えて、いくつかの場合、必要となる簡単な変更は可逆的であり、システムおよびそれに関わる装置の融通性が増大する。
【0051】
改修される時、混合炭化水素供給原料の一部分1aが、芳香族化合物を非芳香族化合物から1段階の操作で分離する新規な抽出蒸溜塔(「EDC」)50に向けられる。稀薄溶媒8aは、EDC50の上方の部分に供給される。EDC50内の水の含有率は、水蒸気8aをEDC50に供給するのに先立ち、これを予め留出することにより、そして(あるいは)フラッシュによってEDC50内の過剰の水を除去することにより制御することができる。塔頂物流3aは凝縮され、そして望むならば部分的に還流され、また抽残物貯蔵部に直接向けられるか、あるいは液液抽出器の塔10の塔頂物流3と一緒にされ、抽残物の仕上段階でさらに処理される。EDC50の塔底物流7aは、芳香族化合物と溶媒とを主として含有するので、芳香族化合物を回収するためにストリッパー塔20の下方部分に向けられる。熱は再沸器R2によってEDC50に加えられる。
【0052】
所望なら、ストリッパー塔20の熱負荷は、側方再沸器(side reboiler)R1aを付加することによって再び均衡が図られる。この機器の付加により、ストリッパーの塔頂物蒸気をストリッパー塔20の中央部で発生させることができ、従って下方部分の蒸気および再沸器R1の負荷が減少する。この改修設計は、極めて短い運転停止期間を必要とする応用のために、あるいはUDEX装置に近接する使用されていない塔がある場合に特に好適である。
【0053】
以下の溶媒は、芳香族石油化学物質の回収に有用であることが判っており、また本明細書に記載する本発明の方法に対して有効に使用されることができる:テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコール、メトキシトリグリコールエーテル、ジグリコールアミン、ジプロピレングリコール、N−ホルミルモルホリン、N−メチルピロリドン、スルホラン、3−メチルスルホランおよびジメチルスルホキシドそれぞれの単独のもの、および(あるいは)水との混合物、並びに(または)溶媒相互の組み合わせおよび(あるいは)それと水との組み合わせ。
【0054】
【表1】

【0055】
上記の表は、選択的溶媒および本発明の改良された方法を用いた、沸点が近接する成分の改良された分離を示す。この例では、ヘプタン(軽質限界成分たる非芳香族化合物)とベンゼン(重質限界成分たる芳香族化合物)との間の相対揮発度が示される。一般に相対揮発度が大きくなるにつれ、芳香族化合物の回収率および純度が良好になる。相対揮発度のデータは、コンピュータモデルで使用され、芳香族化合物分離システムに関するプロセス設計およびエンジニアリング設計がなされる。
【0056】
本発明の方法および既存の装置を改修する方法の好ましい態様が、添付の図面に示され、また上記の詳細な説明中に記載されてきたが、本発明は、ここに開示された態様に限定されず、むしろ以下の請求の範囲によって示されまた規定される本発明の趣意から逸脱することなく、数々の再構成、変更および代替がなされることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合炭化水素供給原料を直接、溶媒を中に有する抽出蒸溜塔に供給し、
抽出蒸溜塔の塔頂物流を、該塔頂物流のいかなる部分も抽出蒸溜塔に循環することなく、溶媒を中に有する液液抽出器に供給し、
液液抽出器の塔底物流を、抽出蒸溜塔の長手方向に沿って、混合炭化水素供給原料の供給個所の下にある少くとも一つの位置に供給し、そして
液液抽出器と抽出蒸溜塔を経て、混合炭化水素供給原料から芳香族化合物を回収する
ことを含む、芳香族化合物および非芳香族化合物を含有する混合炭化水素供給原料から芳香族化合物を回収する方法であって、抽出蒸溜塔は液液抽出器と並行に操業される、前記方法。
【請求項2】
液液抽出器が抽残物抽出器として操作される、請求項1記載の回収する方法。
【請求項3】
芳香族化合物の回収率を増大するために、液液抽出器の塔底物流を抽出蒸溜塔に供給する位置が、抽出蒸溜塔内の所望とする組成プロフィルに合致するように予め決定される、請求項1記載の回収する方法。
【請求項4】
芳香族化合物の回収率を増大するために、該回収する方法に追加的な溶媒が供給される、請求項1記載の回収する方法。
【請求項5】
溶媒が、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコール、メトキシトリグリコールエーテル、ジグリコールアミン、ジプロピレングリコール、N−ホルミルモルホリン、N−メチルピロリドン、スルホラン、3−メチルスルホランおよびジメチルスルホキシドからなる群から選択される、請求項4記載の回収する方法。
【請求項6】
芳香族化合物の回収率および回収されたこの芳香族化合物の純度を増加するために、該回収する方法に共溶媒が供給される、請求項1記載の回収する方法。
【請求項7】
混合炭化水素供給原料を抽出蒸溜塔に直接供給し、
抽出蒸溜塔の濃厚な溶媒の塔底物流を抽出物回収操作部に供給し、
抽出物回収操作部の塔底物流を、抽残物抽出器に供給し、
抽出蒸溜塔の頂部流を該頂部流のいかなる部分も抽出蒸溜塔に循環することなく抽残物抽出器に供給し、そして
抽出物回収操作部の塔頂物流から、水洗をしないで、芳香族化合物を回収することを含む、芳香族化合物と非芳香族化合物とを含有する混合炭化水素供給原料から芳香族化合物を回収する方法であって、抽出蒸溜塔は抽残物抽出器と並行に操業される、前記方法。
【請求項8】
抽出物回収操作部が単一の槽からなる、請求項7記載の回収する方法。
【請求項9】
抽出物回収操作部が二つの槽からなる、請求項7記載の回収する方法。
【請求項10】
抽残物抽出器からの頂部流が洗浄される、請求項7記載の回収する方法。
【請求項11】
芳香族化合物の回収率を増加するために、該回収する方法の抽出蒸溜塔に溶媒が供給される、請求項7記載の回収方法。
【請求項12】
溶媒が、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコール、メトキシトリグリコールエーテル、ジグリコールアミン、ジプロピレングリコール、N−ホルミルモルホリン、N−メチルピロリドン、スルホラン、3−メチルスルホランおよびジメチルスルホキシドからなる群から選択される請求項11記載の回収方法。
【請求項13】
芳香族化合物の回収率およびこの回収された芳香族化合物の純度を増大するために該回収する方法の抽出蒸溜塔に共溶媒が供給される、請求項7記載の回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−155858(P2010−155858A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53225(P2010−53225)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【分割の表示】特願2000−508757(P2000−508757)の分割
【原出願日】平成10年9月2日(1998.9.2)
【出願人】(508338809)ジーティーシー テクノロジー エルピー (4)
【Fターム(参考)】