説明

芳香族ビニル化合物重合体の製造方法

【課題】ハーフメタロセン錯体を用いてなる重合用触媒を用いる場合に、触媒の活性低下が抑制された芳香族ビニル化合物重合体の製造方法を提供すること。
【解決手段】周期律表第3族またはランタノイド系列の遷移金属を含むハーフメタロセン錯体を用いてなる重合触媒の存在下、芳香族ビニル化合物を重合する芳香族ビニル化合物重合体の製造方法であって、該芳香族ビニル化合物のインデン含量が0.8質量ppm以下であることを特徴とする芳香族ビニル化合物重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ビニル化合物重合体の製造方法に関し、詳しくは、特定の触媒成分を用いて得られる芳香族ビニル化合物重合用触媒と、特定の芳香族ビニル化合物とを使用する芳香族ビニル化合物重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、オレフィン系重合体は成形材料等として重要であり、当該重合体やその製造方法に関して多くの技術開発が行われてきた。例えば、製造方法に関しては、チーグラーナッタ触媒等の固体触媒や金属錯体を利用する触媒について技術開発が行われ、その成果が報告されてきた。特に、金属錯体を利用する触媒は、生成物の均質性が高いという特性や、金属錯体の中心金属や配位子等を変えることでその反応性が変わるという特性が見出され、現在も開発が続けられている。
【0003】
前記金属錯体としては、例えばメタロセン錯体が挙げられ、これまでに、シクロペンタジエニル基やインデニル基等の環状配位子を2つ有する金属錯体、環状配位子を結合する架橋基を含む金属錯体(架橋型メタロセン錯体)、環状配位子を1つ有する金属錯体(ハーフメタロセン錯体)等が報告されている(以下、メタロセン錯体を利用する触媒をメタロセン触媒と省略することがある。)。
メタロセン触媒においては、環状配位子の選択や置換基の導入等により、重合時におけるモノマーと伸長中の重合鎖との位置関係を制御することができ、当該触媒を用いることで特定の立体規則性(アイソタクチック性やシンジオタクチック性等)を有する重合体を製造することができる。
また、メタロセン錯体中の中心金属に関しては、従来はチタン、ジルコニウム、ハフニウム等の4族遷移金属がよく用いられていたが、近年、スカンジウム、イットリウム、ランタン等の3族遷移金属やランタノイド金属を用いるメタロセン錯体を用いた重合反応が報告されている。
【0004】
ところで、シンジオタクチック構造を有する、芳香族ビニル化合物の重合体(以下、シンジオタクチックポリマーと省略することがある。)は、機械的強度、耐熱性、外観、耐溶剤性等に優れるという特徴があり、種々の用途において使用されている。
シンジオタクチックポリマーを製造する際の触媒に関しても、4族遷移金属以外の金属を利用するメタロセン触媒についての報告があり、例えば、特許文献1は、第3族金属原子またはランタノイド金属原子を含むハーフメタロセン錯体を含む重合触媒組成物およびそれを用いて得られるシンジオタクチシティーが高い重合体を開示する。しかしながら、この触媒は失活しやすいという問題を有しており、生産性の点で問題があった。
チタン化合物等を触媒として用いる重合方法において、精製スチレン系単量体を用いる技術としては、特許文献2及び3が知られているが、3族遷移金属やランタノイド金属の錯体を用いる場合に関する記載は存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2006/004068号パンフレット
【特許文献2】特表平11−508272号公報
【特許文献3】特開平7−233213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、ハーフメタロセン錯体を用いてなる重合用触媒を用いる場合に、触媒の活性低下が抑制された芳香族ビニル化合物重合体の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、周期律表第3族またはランタノイド系列の遷移金属を含有する特定の触媒成分と、特定の化合物の含量を低減した芳香族ビニル化合物とを用いた芳香族ビニル化合物重合体の製造方法によって、触媒の被毒を抑止し、上記目的が達成されることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち本発明は、
1.周期律表第3族またはランタノイド系列の遷移金属を含むハーフメタロセン錯体を用いてなる重合触媒の存在下、芳香族ビニル化合物を重合する芳香族ビニル化合物重合体の製造方法であって、該芳香族ビニル化合物のインデン含量が0.8質量ppm以下であることを特徴とする芳香族ビニル化合物重合体の製造方法、
2.前記重合触媒が、前記ハーフメタロセン錯体の他に有機アルミニウム化合物を用いてなるものである上記1に記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法、
3.前記重合触媒が、前記ハーフメタロセン錯体の他に非配位性アニオンとカチオンからなるイオン性化合物を用いてなるものである上記1又は2に記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法、
4.前記芳香族ビニル化合物のインデン含量が0.5質量ppm以下である上記1〜3のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法、
5.前記芳香族ビニル化合物のアセトフェノン含量が0.8質量ppm以下である上記1〜4のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法、
6.前記芳香族ビニル化合物のアセトフェノン含量が0.5質量ppm以下である上記5に記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法、
7.前記芳香族ビニル化合物のベンズアルデヒド含量が20質量ppm以下である上記1〜6のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法、
8.前記芳香族ビニル化合物のベンズアルデヒド含量が15質量ppm以下である上記7に記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法、
9.前記ハーフメタロセン錯体が、下記式(II)で表される上記1〜8のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法、
RMXa-1b (II)
[(II)式中、Rは少なくとも一つが飽和環である縮合多環式シクロペンタジエニルπ配位子を示し、Mは周期律表第3族またはランタノイド系列の遷移金属を示し、Xはσ配位子を示し、Yはルイス塩基を示す。aはMの価数、bは0、1または2を示す。]
10.前記有機アルミニウム化合物が、下記式(VII)で表されることを特徴とする上記2〜9のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法、
R’R’’R’’’Al (VII)
[(VII)式中、R’、R’’およびR’’’はそれぞれ独立に炭素数3〜5のアルキル基を示す。]
11.前記イオン性化合物が、置換又は無置換のトリアリールカルベニウムまたは置換又は無置換のアニリニウムから選ばれるカチオンと一般式(X)で表される非配位性アニオンからなるイオン性化合物であることを特徴とする上記3〜10のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法、
(BZ1234- (X)
[式中、Z1〜Z4は、それぞれ水素原子、ジアルキルアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基(ハロゲン置換アリール基を含む)、アルキルアリール基、アリールアルキル基、置換アルキル基及び有機メタロイド基又はハロゲン原子を示す。]
12.芳香族炭化水素溶媒及び脂肪族炭化水素溶媒から選択される不活性溶媒の存在下で重合を行う上記1〜11のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法、
13.上記1〜12のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法であって、芳香族ビニル化合物を重合する工程を含む、芳香族ビニル化合物から構成される繰り返し単位連鎖の立体規則性[rrrr]が80モル%以上である芳香族ビニル化合物重合体の製造方法、及び
14.上記1〜12のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法であって、芳香族ビニル化合物およびオレフィン系モノマーを重合する工程を含む、芳香族ビニル化合物から構成される繰り返し単位連鎖の立体規則性[rrrr]が80モル%以上である芳香族ビニル化合物重合体の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ハーフメタロセン錯体を用いてなる重合用触媒を用いる場合に、触媒の活性低下が抑制された芳香族ビニル化合物重合体の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は芳香族ビニル化合物重合体の製造方法に関し、周期律表第3族またはランタノイド系列の遷移金属を含むハーフメタロセン錯体を用いてなる重合触媒の存在下、芳香族ビニル化合物を重合する芳香族ビニル化合物重合体の製造方法であって、該芳香族ビニル化合物のインデン含量が0.8質量ppm以下であることを特徴とする。
【0010】
本明細書において「芳香族ビニル化合物重合体」とは、芳香族ビニル化合物単量体単位が1モル%以上である重合体をいい、具体的には、1種の芳香族ビニル化合物からなる単独重合体、2種以上の芳香族ビニル化合物からなる共重合体、芳香族ビニル化合物とその他の単量体(オレフィン)からなる共重合体を含むものである。
【0011】
本発明の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法における芳香族ビニル化合物としては、インデン含量が0.8質量ppm以下のものを用い、好ましくは0.5質量ppm以下のものを用いる。芳香族ビニル化合物中のインデン含量が上記範囲を超えると、重合触媒の被毒が著しく、効率のよい重合を行うことができない。
芳香族ビニル化合物のインデン含量を低減する方法としては蒸留による精製が挙げられる。圧力条件としては、常圧よりも減圧蒸留が好ましく、具体的には10kPaA以下が好ましく、4kPaA以下がより好ましい。
【0012】
また、上記芳香族ビニル化合物は、アセトフェノン含量が0.8質量ppm以下であると好ましく、0.5質量ppm以下であるとより好ましい。
さらに、上記芳香族ビニル化合物は、ベンズアルデヒド含量が20質量ppm以下であると好ましく、15質量ppm以下であるとより好ましく、12質量ppm以下であるとさらに好ましく、5質量ppm以下であると特に好ましい。
アセトフェノン含量やベンズアルデヒド含量が上記範囲内であると、触媒の被毒を効果的に抑制することができる。
芳香族ビニル化合物のアセトフェノン含量やベンズアルデヒド含量を低減する方法としては、芳香族ビニル化合物をアルミナや活性アルミナ(以下、アルミナ等と略記することがある。)で処理するアルミナ処理が挙げられる。アルミナ処理は、様々な条件で行うことができるが、通常はアルミナ等と芳香族ビニル化合物とを温度0〜50℃程度にて10分〜2時間程度接触させればよい。
【0013】
本発明における重合用触媒としては、上記ハーフメタロセン錯体、上記有機アルミニウム化合物、及び非配位性アニオンとカチオンからなるイオン性化合物を反応させて得られるものが好ましく用いられる。
【0014】
重合用触媒の調製においては、ハーフメタロセン錯体と有機アルミニウム化合物を接触させた後、その接触生成物とイオン性化合物とを接触することが好ましい。
本発明においては、前記ハーフメタロセン錯体に対するモル比が20〜500となる量の前記有機アルミニウム化合物が用いられることが好ましい。当該モル比が20以上であると、触媒を保存した後の重合反応において重合活性が低下しにくくなる。また、経済的な理由で当該モル比は500以下が好ましい。当該観点から、当該モル比は好ましくは50〜400であり、より好ましくは100〜300である。
本発明においては、好ましくは、前記ハーフメタロセン錯体に対するモル比が0.5〜3.0となる量の前記イオン性化合物が用いられる。当該モル比が0.5以上のときは、高い重合活性が得られる。また、経済的な理由で当該モル比は3.0以下が好ましい。当該観点から、当該モル比は好ましくは0.5〜2.5であり、より好ましくは0.5〜2.0である。
【0015】
重合用触媒を調製する場合には、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下、接触操作を行うことが望ましい。そして、触媒は、予め、触媒調製槽において調製したものを使用してもよいし、芳香族ビニル化合物の重合を行う重合反応器内において調製したものをそのまま使用してもよい。
【0016】
本発明の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法においては、前記の重合用触媒の存在下で、芳香族ビニル化合物を原料として使用して重合を行う。
【0017】
本発明の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法においては、前記重合用触媒を用いて予備重合を行うことができる。その方法には特に制限はなく、公知の方法で行うことができる。予備重合に用いる芳香族ビニル化合物については特に制限はなく、前記したものを用いることができる。予備重合温度は、通常−20〜200℃、好ましくは−1℃〜130℃である。予備重合において、溶媒としては、不活性炭化水素、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、モノマーなどを用いることができる。
【0018】
本発明の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法において用いられる重合方式としては特に制限がないが、塊状重合や溶液重合等を好適に採用することができる。塊状重合法による場合は無溶媒であり、溶液重合法による場合に用いる溶媒としては、不活性溶媒が好適である。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素が挙げられる。重合温度は、通常、0〜200℃、好ましくは0〜120℃の範囲である。また、重合時の圧力は、通常、0.01〜30MPa、好ましくは0.01〜3MPaの範囲である。
【0019】
芳香族ビニル化合物としては、各種のものがあるが、下記一般式(I)で表されるものが好ましい。
【0020】
【化1】

【0021】
(式中、Rは水素原子、ハロゲン原子あるいは炭素数20個以下の炭化水素基を示し、mは1〜3の整数を示す。なお、mが複数のときは、各Rは同じでも異なってもよい。)
【0022】
芳香族ビニル化合物の具体例としては、例えば、スチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、p−n−プロピルスチレン、p−イソプロピルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−フェニルスチレン、o−メチルスチレン、o−エチルスチレン、o−n−プロピルスチレン、o−イソプロピルスチレン、m−メチルスチレン、m−エチルスチレン、m−n−プロピルスチレン、m−イソプロピルスチレン、m−n−ブチルスチレン、メシチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、3,5−ジメチルスチレン、4−ブテニルスチレン等のアルキルスチレン、p−クロロスチレン、m−クロロスチレン、o−クロロスチレン、p−ブロモスチレン、m−ブロモスチレン、o−ブロモスチレン、p−フルオロスチレン、m−フルオロスチレン、o−フルオロスチレン、o−メチル−p−フルオロスチレン等のハロゲン化スチレン、p−メトキシスチレン、o−メトキシスチレン、m−メトキシスチレン等のアルコキシスチレン、ビニル安息香酸エステル等を挙げることができる。上記芳香族ビニル化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
本発明の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法においては、原料として芳香族ビニル化合物のみを用いることが好ましいが、芳香族ビニル化合物とオレフィン系モノマーを組み合わせて共重合をしてもよい。
【0024】
上記オレフィン系モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、4−フェニル−1−ブテン、6−フェニル−1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ヘキセン、4−メチル−1−ヘキセン、5−メチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ペンテン、3,4−ジメチル−1−ペンテン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、ビニルシクロヘキサン、ヘキサフルオロプロペン、テトラフルオロエチレン、2−フルオロプロペン、フルオロエチレン、1,1−ジフルオロエチレン、3−フルオロプロペン、トリフルオロエチレン、3,4−ジクロロ−1−ブテン、ブタジエン、イソプレン、ジシクロペンタジエン、ノルボルネン、アセチレン等が挙げられ、中でも、エチレン、プロピレン、1−ヘキセン、1−オクテンが好ましい。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組合わせて用いてもよい。
【0025】
芳香族ビニル化合物およびオレフィン系モノマーを原料として共重合を行う方法において、得られる共重合体中の芳香族ビニル化合物単位の含有量は、1モル%以上であり、好ましくは5〜99モル%であり、より好ましくは40〜95モル%である。すなわち、オレフィン系モノマー単位の含有量は99モル%以下であり、好ましくは1〜95モル%であり、より好ましくは5〜60モル%である。オレフィン系モノマー単位の含有量が、上記範囲内であることで、芳香族ビニル化合物重合体の物性が向上する。
【0026】
重合用触媒の調製においては、ハーフメタロセン錯体として、下記式(II)で表されるものが好ましく使用される。
RMXa-1b (II)
[式(II)中、Rは少なくとも一つが飽和環である縮合多環式シクロペンタジエニルπ配位子を示し、Mは周期律表第3族またはランタノイド系列の遷移金属を示し、Xはσ配位子を示し、Xが複数ある場合には複数のXは同じでも異なっていてもよく、また、互いに任意の基を介して結合していてもよい。Yはルイス塩基を示し、Xと架橋していてもよい。aはMの価数、bは0、1または2を示す。]
【0027】
上記Xで表されるσ配位子としては、例えば、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、炭素数1〜20のアミド基、炭素数1〜20のシリル基、炭素数1〜20のホスフィド基、炭素数1〜20のスルフィド基、炭素数1〜20のアシル基等が挙げられる。Yで表されるルイス塩基としては、例えば、アミン類、エーテル類、ホスフィン類、チオエーテル類等が挙げられる。
【0028】
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。炭素数1〜20の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ヘキシル基、n−デシル基等のアルキル基、アリル基、イソプロペニル基等のアルケニル基、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、N,N−ジメチルアミノベンジル基等のアラルキル基等が挙げられる。炭素数1〜20のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、n−ノニルオキシ基、n−デシルオキシ基等が挙げられる。
【0029】
炭素数6〜20のアリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基等が挙げられる。炭素数1〜20のアミド基としては、例えば、N−メチルアミド基、N,N−ジメチルアミド基等が挙げられる。炭素数1〜20のシリル基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、トリメチルシリルメチル基、ビス(トリメチルシリル)メチル基等が挙げられる。炭素数1〜20のホスフィド基としては、例えば、ジフェニルホスフィド基等が挙げられる。炭素数1〜20のスルフィド基としては、例えば、フェニルスルフィド基等が挙げられる。炭素数1〜20のアシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等が挙げられる。
【0030】
Mは好ましくは周期律表第3族の金属であり、より好ましくはスカンジウムである。
一般式(II)中のRは、下記式(III)、(IV)および(V)のいずれかで表されるいずれかの縮合多環式シクロペンタジエニルπ配位子であることが好ましい。
【0031】
【化2】

【0032】
【化3】

【0033】
【化4】

【0034】
[式(III)〜(V)中、R1〜R33は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、炭素数1〜20のチオアルコキシ基、炭素数6〜20のチオアリーロキシ基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基又はアルキルシリル基を示し、R1〜R33は互いに同一でも異なっていてもよく、c、d、e及びfは1以上の整数を示す]
c、d、e及びfは、好ましくは1〜3の整数、より好ましくは2である。
【0035】
式(III)〜(V)において、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;ビニル基、プロペニル基、シクロヘキセニル基等のアルケニル基等が挙げられる。炭素数6〜20の芳香族炭化水素基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;トリル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、トリ−t−ブチルフェニル基等のアルキル置換フェニル基;フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、メチルナフチル基、アントラセニル基、フェナントニル基等が挙げられる。炭素数1〜20のチオアルコキシ基としては、例えば、チオメトキシ基等が挙げられる。炭素数6〜20のチオアリーロキシ基としては、例えば、チオフェノキシ基等が挙げられる。ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、アルキルシリル基の具体例については、一般式(I)に挙げたものと同一のものが挙げられる。
【0036】
式(III)の縮合多環式シクロペンタジエニルπ配位子の具体例としては、4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、1−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、1,2−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、1,3−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、1,2,3−トリメチル−4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、2―メチル−4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、1−エチル−4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、1−エチル−2−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、1−エチル−3−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、1−エチル−2,3−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、1,2−ジエチル−4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、1,2−ジエチル−3−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、1,3−ジエチル−4、5、6、7−テトラヒドロインデニル基、1,3−ジエチル−2−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、1,2,3−トリエチル−4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、2−エチル−4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、1−メチル−2―エチル−4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、1,3−ジメチル−2―エチル−4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、テトラヒドロペンタレニル基、1−メチルテトラヒドロペンタレニル基、2−メチルテトラヒドロペンタレニル基、1,2−ジメチルテトラヒドロペンタレニル基、1,3−ジメチルテトラヒドロペンタレニル基、1,2,3−トリメチルテトラヒドロペンタレニル基、ヘキサヒドロアズレニル基、1−メチルヘキサヒドロアズレニル基、2−メチルヘキサヒドロアズレニル基、1,2−ジメチルヘキサヒドロアズレニル基、1,3−ジメチルヘキサヒドロアズレニル基、1,2,3−トリメチルヘキサヒドロアズレニル基等が挙げられる。
【0037】
式(IV)の縮合多環式シクロペンタジエニルπ配位子の具体例としては、トリシクロ[6,4,0,0]ドデカジエニル基、2−メチルトリシクロ[6,4,0,0]ドデカジエニル基等が挙げられる。
【0038】
式(V)の縮合多環式シクロペンタジエニルπ配位子の具体例としては、1,2,3,4−テトラヒドロフルオレニル基、9−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル基、9−エチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル基、9−nプロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル基、1,2,3,8−テトラヒドロシクロペンタ[α]インデン、8−メチル−1,2,3,8−テトラヒドロシクロペンタ[α]インデン、8−エチル−1,2,3,8−テトラヒドロシクロペンタ[α]インデン、8−n−プロピル−1,2,3,8−テトラヒドロシクロペンタ[α]インデン、8−フェニル−1,2,3,8−テトラヒドロシクロペンタ[α]インデン、8−トリメチルシリル−1,2,3,8−テトラヒドロシクロペンタ[α]インデン、4a,5,6,7,8,9−ヘキサヒドロベンゾ[α]アズレニル基、10−メチル−4a,5,6,7,8,9−ヘキサヒドロベンゾ[α]アズレニル基、10−エチル−4a,5,6,7,8,9−ヘキサヒドロベンゾ[α]アズレニル基、10−n−プロピル−4a,5,6,7,8,9−ヘキサヒドロベンゾ[α]アズレニル基、10−フェニル−4a,5,6,7,8,9−ヘキサヒドロベンゾ[α]アズレニル基、10−トリメチルシリル−4a,5,6,7,8,9−ヘキサヒドロベンゾ[α]アズレニル基等が挙げられる。
【0039】
上記縮合多環式シクロペンタジエニルπ配位子の中で、式(V)で表される配位子が特に好ましく、脂環式6員環構造を有する配位子、すなわち下記式(VI)で表される配位子が、活性、錯体の安定性、製造コストの点で最も好ましい。
【化5】

【0040】
[式(VI)中、R34〜R46は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、炭素数1〜20のチオアルコキシ基、炭素数6〜20のチオアリーロキシ基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基又はアルキルシリル基を示し、R34〜R46は互いに同一でも異なっていてもよい。]
これらの置換基の具体例としては、式(III)〜(V)に関して例示したものが挙げられる。
【0041】
式(II)で表されるハーフメタロセン錯体の具体例としては、(1,3−ジメチルテトラヒドロペンタレニル)ビス(N,N−ジメチルアミノベンジル)スカンジウム、(トリシクロ[6,4,0,0]ドデカジエニルビス(N,N−ジメチルアミノベンジル)スカンジウム、(1,2,3,8−テトラヒドロシクロペンタ[α]インデニル)ビス(N,N−ジメチルアミノベンジル)スカンジウム、(8−メチル−1,2,3,8−テトラヒドロシクロペンタ[α]インデニル)ビス(N,N−ジメチルアミノベンジル)スカンジウム、(1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル)ビス(N,N−ジメチルアミノベンジル)スカンジウム、(9−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル)ビス(N,N−ジメチルアミノベンジル)スカンジウム、(9−エチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル)ビス(N,N−ジメチルアミノベンジル)スカンジウム、(9−n−プロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル)ビス(N,N−ジメチルアミノベンジル)スカンジウム、(9−トリメチルシリル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル)ビス(N,N−ジメチルアミノベンジル)スカンジウム、(4a、5,6,7,8,9−ヘキサヒドロベンゾ[α]アズレニル)ビス(N,N−ジメチルアミノベンジル)スカンジウム、(9−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル)ビス(トリメチルシリルメチル)スカンジウム、(9−エチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル)ビス(トリメチルシリルメチル)スカンジウム、(9−n−プロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル)ビス(トリメチルシリルメチル)スカンジウム、(9−トリメチルシリル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル)ビス(トリメチルシリルメチル)スカンジウム、(9−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル)ビス(アリル)スカンジウム、(9−エチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル)ビス(アリル)スカンジウム、(9−n−プロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル)ビス(アリル)スカンジウム、(9−トリメチルシリル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル)ビス(アリル)スカンジウム等が挙げられる。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組合わせて用いてもよい。
【0042】
重合用触媒の調製においては、有機アルミニウム化合物として、式(VII)で表されるものが好ましく使用される。
R’R’’R’’’Al (VII)
[(VII)式中、R’、R’’およびR’’’はそれぞれ独立に炭素数3〜5のアルキル基を示す。]
アルキル基の炭素数が2以下の場合は触媒活性が低下し、6以上の場合も触媒活性が低下する。
【0043】
式(VII)における炭素数3〜5のアルキル基としては、各種プロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基が挙げられる。
【0044】
上記有機アルミニウム化合物としては、例えば、トリ−n−プロピルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリ−n−ブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ−t−ブチルアルミニウム、トリ−n−ペンチルアルミニウムが挙げられる。これらの中で、優れた活性が得られることから炭素数4の置換基のみを有する有機アルミニウム化合物が好ましく、トリ−n−ブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムがより好ましい。
本発明においては、これらの有機アルミニウム化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合わせて用いてもよい。
【0045】
重合用触媒の調製においては、イオン性化合物として、上記ハーフメタロセン錯体、又は上記ハーフメタロセン錯体と有機アルミニウム化合物との接触生成物と反応してイオン性錯体を形成しうる非配位性アニオンとカチオンからなるイオン性化合物が使用される。当該化合物としては、非配位性アニオンと置換又は無置換のトリアリールカルベニウムとからなるイオン性化合物や、非配位性アニオンと置換又は無置換のアニリニウムからなるイオン性化合物が挙げられる。
【0046】
置換又は無置換のトリアリールカルベニウムとしては、例えば、一般式(VIII)
〔CR474849+ (VIII)
[式中、R47、R48及びR49は、それぞれフェニル基,置換フェニル基,ナフチル基及びアントラセニル基等のアリール基であって、それらは互いに同一であっても、異なっていてもよい。]
で表わされるトリアリールカルベニウムを挙げることができる。
上記置換フェニル基は、例えば、式(IX)
65-k50k (IX)
[式中、R50は、炭素数1〜10のヒドロカルビル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、チオアルコキシ基、チオアリーロキシ基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基及びハロゲン原子を示し、kは1〜5の整数である。kが2以上の場合、複数のR50は同一であってもよく、異なっていてもよい。]
で表わすことができる。
【0047】
式(VIII)で表される置換又は無置換のトリアリールカルベニウムの具体例としては、トリ(フェニル)カルベニウム、トリ(トルイル)カルベニウム、トリ(メトキシフェニル)カルベニウム、トリ(クロロフェニル)カルベニウム、トリ(フルオロフェニル)カルベニウム、トリ(キシリル)カルベニウム、〔ジ(トルイル),フェニル〕カルベニウム、〔ジ(メトキシフェニル),フェニル〕カルベニウム、〔ジ(クロロフェニル),フェニル〕カルベニウム、〔トルイル,ジ(フェニル)〕カルベニウム、〔メトキシフェニル,ジ(フェニル)〕カルベニウム、〔クロロフェニル,ジ(フェニル)〕カルベニウム等が挙げられる。
また、置換又は無置換のアニリニウムの具体例としては例えば、N,N−ジメチルアニリニウムが挙げられる。
【0048】
非配位性アニオンとしては、例えば、式(X)
(BZ1234- (X)
[式中、Z1〜Z4は、それぞれ水素原子、ジアルキルアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基(ハロゲン置換アリール基を含む)、アルキルアリール基、アリールアルキル基、置換アルキル基及び有機メタロイド基又はハロゲン原子を示す。]
で表される非配位性アニオンを挙げることができる。
【0049】
式(X)で表される非配位性アニオンの具体例としては、テトラキス(フルオロフェニル)ボレート、テトラキス(ジフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(トリフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(テトラフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(トリフルオロメチルフェニル)ボレート、テトラ(トルイル)ボレート、テトラ(キシリル)ボレート、(トリフェニル,ペンタフルオロフェニル)ボレート、〔トリス(ペンタフルオロフェニル),フェニル〕ボレート、トリデカハイドライド−7,8−ジカルバウンデカボレート等を挙げることができる。
【0050】
本発明で用いる非配位性アニオンとカチオンからなるイオン性化合物の具体例としては、トリ(フェニル)カルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリ(4−メチルフェニル)カルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリ(4−メトキシフェニル)カルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−ジエチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が挙げられる。
本発明において、非配位性アニオンとカチオンからなるイオン性化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合わせて用いてもよい。
【0051】
本発明で得られる芳香族ビニル化合物重合体は、シンジオタクチック構造を有することが好ましい。すなわち、該重合体に含まれる芳香族ビニル化合物から構成される繰り返し単位が連続している場合に、その繰り返し単位の芳香環が、高分子主鎖がつくる平面に対して、交互に配置している割合(シンジオタクチシティー)が高いことが好ましい。そして、シンジオタクチシティーは、芳香族ビニル化合物から構成される繰り返し単位連鎖の立体規則性[rrrr]で表すことができる。本発明の重合体において、立体規則性[rrrr]は、通常80モル%以上、好ましくは95モル%以上、より好ましくは98モル%以上である。80モル%未満であると、シンジオタクチック構造の特徴である耐熱性が低下する。
立体規則性[rrrr]とは、芳香族ビニル化合物重合体中のペンタッド(五連鎖)単位でのラセミ分率(モル%)であり、立体規則性分布を表す指標である。この立体規則性[rrrr]は、エイ・ザンベリ(A.Zambelli)等により「Macromolecules,6,925(1973)」で提案された方法に準拠し、13C−NMRスペクトルの測定によって算出することができる。具体的には、共重合体中のスチレン連鎖のフェニルC1炭素領域(146.3ppm〜144.5ppm)のうち、ノイズ(サテライトピークやスピニングサイドバンド)を除いたピークの分率で表される。
【0052】
本発明の芳香族ビニル化合物重合体は、GPC法により測定した分子量分布(Mw/Mn)が、通常1.7以上、好ましくは2.0〜5.0、より好ましくは2.0〜3.5である。
分子量分布は、ゲルパーミエイションクロマトグラフ(GPC)法により測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)から与えられる。GPCの測定は、例えば、GPCカラムShodex UT806L(GLサイエンス社製)を用いて、温度145℃、溶媒1,2,4−トリクロロベンゼン、流速1.0ml/分の条件で行うことができる。
また、本発明の製造方法により得られる芳香族ビニル化合物重合体の重量平均分子量は特に限定されないが、耐衝撃性の観点から、ポリスチレン換算の重量平均分子量で、通常、10,000〜3,000,000、好ましくは50,000〜900,000の範囲である。
また、重量平均分子量は、分子量の指標である極限粘度[η]を測定することにより求めることができる。実施例において、極限粘度[η]は、(株)離合社製粘度計(VMR−053U−PC・F01)、ウベローデ型粘度管(測時球容積:2〜3ml、毛細管直径:0.44〜0.48mm)、溶媒として1,2,4−トリクロルベンゼンを用いて、0.02〜0.16g/dLの溶液を145℃にて測定した。本発明の芳香族ビニル化合物重合体を極限粘度[η]で表すと、通常、0.1〜16dl/g(重量平均分子量で10,000〜3,000,000)、好ましくは0.2〜5.0dl/g(重量平均分子量で50,000〜900,000)の範囲である。
【実施例】
【0053】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0054】
製造例1 ジメチルアミノベンジルリチウムの合成
N,N−ジメチル‐o‐トルイジン(162ml、1.11mmol)のヘキサン(437ml)−ジエチルエーテル(140ml)溶液にn−BuLiのヘキサン溶液(2.6mol/L,440ml)を100分かけて滴下した。45時間撹拌した後、ろ過により沈殿をろ別した。得られた固体をヘキサンにより洗浄(200ml×3回)した後に、減圧乾燥してジメチルアミノベンジルリチウムを130g(収率83%)得た。
【0055】
製造例2 トリス(ジメチルアミノベンジル)スカンジウムの合成
無水ScCl3(20.7g,0.14mol)のテトラヒドロフラン(THF)懸濁液(160ml)を室温で1時間撹拌し、ここへ製造例1で合成したジメチルアミノベンジルリチウム(57.9g,0.41mol)のTHF溶液(250ml)を滴下し、40時間撹拌した。溶媒を留去した後にトルエンで抽出し、さらに再結晶により精製し、トリス(ジメチルアミノベンジル)スカンジウムを淡黄色の結晶として49gを得た。収率は80%であった。
【0056】
製造例3 9−エチル−1,2,3,4−テトラヒドロフルオレンの合成
フルオレン(60g,0.36mol)をエチレンジアミン350ml−THF350mlの混合溶液に溶解させた。この溶液に、10℃以下で金属リチウム(11.3g,1.62mol)を4時間かけて投入した。反応終了後、水を添加し、ジエチルエーテルにより抽出後、塩化ナトリウム水溶液にて洗浄した。ジエチルエーテル層に硫酸マグネシウムを入れ、冷蔵庫にて一晩乾燥させた。硫酸マグネシウムをろ別し、ジエチルエーテルを留去することによって、1,2,3,4−テトラヒドロフルオレンを58.7g得た。収率は96%であった。この1,2,3,4−テトラヒドロフルオレン(55.0g,0.32mol)をTHF400mlに溶解させた。この溶液を−78℃に冷却し、n−BuLiのヘキサン溶液(2.6mol/L,141ml)を90分かけて滴下した。室温まで昇温後、40時間撹拌した。再び、0℃まで冷却し、エチルブロミド(24.2ml,0.32mol)を加え、室温にて更に24時間撹拌した。反応終了後、水を添加することにより反応を停止し、エーテル抽出後、硫酸マグネシウムを用いて乾燥し、50.4gの9−エチル−1,2,3,4−テトラヒドロフルオレンを得た。収率は79%であった。
【0057】
製造例4 (9−エチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル)ビス(N,N−ジメチルアミノベンジル)スカンジウムの合成
製造例2で得られたトリス(ジメチルアミノベンジル)スカンジウム(35g,78mmol)のTHF溶液100mlに、製造例3で得られた9−エチル−1,2,3,4−テトラヒドロフルオレン(18.6g,94mmol)のTHF溶液60mlをいれ、70℃で12時間攪拌した。反応終了後、溶媒を除去し、ヘキサン150mlで3回洗浄後、トルエンで抽出し、さらに再結晶により精製し、(9−エチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル)ビス(N,N−ジメチルアミノベンジル)スカンジウムを淡黄色の結晶として19.6g得た。収率は49%であった。
【0058】
製造例5 スチレンの精製
インデン12質量ppm、アセトフェノン50質量ppm、ベンズアルデヒド50質量ppm及び水分130質量ppmを不純物として含む粗製スチレンを減圧脱気して、水分を2質量ppmにした。同様の変化は不活性ガスを通気しても達成できることも確認した。このような前処理を施した粗製スチレンを蒸留した後、100mlを焼成したアルミナ50gを充填したカラムを通して処理した。
ガスクロマトグラフィー分析によって、インデン(ID)の含有量が0.09質量ppmに、アセトフェノン(AP)の含有量が0.01質量ppmに、ベンズアルデヒド(BA)の含有量が0.18質量ppmに、それぞれ低下していることが確認された。
【0059】
実施例1
加熱乾燥した30mLのワインボトル型バイアル瓶に、窒素雰囲気下、室温で、製造例5で得られた精製スチレン5mL、トリイソブチルアルミニウム(TIBA)0.79μmolを加え、インナーキャップ及びアルミシールにより封印した。このワインボトル型バイアル瓶を60℃のウオーターバスに入れた。
別の容器において、製造例4で得られた(9−エチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル)ビス(N,N−ジメチルアミノベンジル)スカンジウムのトルエン溶液40μl(0.5mM)とトリn−ブチルアルミニウム25μL(0.0313M)を25℃で接触させ、30分後にジメチルアニリニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート0.024μmolを25℃で接触させ触媒を調製した。当該触媒を25℃で保存し、所定の時間経過後に不純物含有スチレンが仕込まれた上記バイアル瓶に触媒を加え、重合反応を行った。
30分後に反応系にメタノールを加えて重合を停止し、得られたポリマーを200℃、3時間で乾燥した。
転化率は76.9質量%であった。また、得られたポリスチレンの立体規則性〔rrrr〕は99%であった。
【0060】
実施例2〜7及び比較例1
製造例5で得られた精製スチレンに対し、市販試薬のインデン(ID)、アセトフェノン(AP)及びベンズアルデヒド(BA)を所定量添加することにより不純物含有スチレンを調整した。使用するスチレンを変更した以外は、実施例1と同様にして不純物含有スチレンの重合反応を行った。実施例1の転化率に対する相対値で結果を評価した。
【0061】
実施例1〜7及び比較例1の結果を以下に示す。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、活性が高く、触媒調製後の活性低下が抑制された芳香族ビニル化合物重合体の製造方法が提供される。本発明の製造方法により、芳香族ビニル化合物重合体の生産性が向上する。本発明の製造方法は特に、量産スケールで重合を行う際に好ましく用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期律表第3族またはランタノイド系列の遷移金属を含むハーフメタロセン錯体を用いてなる重合触媒の存在下、芳香族ビニル化合物を重合する芳香族ビニル化合物重合体の製造方法であって、該芳香族ビニル化合物のインデン含量が0.8質量ppm以下であることを特徴とする芳香族ビニル化合物重合体の製造方法。
【請求項2】
前記重合触媒が、前記ハーフメタロセン錯体の他に有機アルミニウム化合物を用いてなるものである請求項1に記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法。
【請求項3】
前記重合触媒が、前記ハーフメタロセン錯体の他に非配位性アニオンとカチオンからなるイオン性化合物を用いてなるものである請求項1又は2に記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法。
【請求項4】
前記芳香族ビニル化合物のインデン含量が0.5質量ppm以下である請求項1〜3のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法。
【請求項5】
前記芳香族ビニル化合物のアセトフェノン含量が0.8質量ppm以下である請求項1〜4のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法。
【請求項6】
前記芳香族ビニル化合物のアセトフェノン含量が0.5質量ppm以下である請求項5に記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法。
【請求項7】
前記芳香族ビニル化合物のベンズアルデヒド含量が20質量ppm以下である請求項1〜6のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法。
【請求項8】
前記芳香族ビニル化合物のベンズアルデヒド含量が15質量ppm以下である請求項7に記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法。
【請求項9】
前記ハーフメタロセン錯体が、下記式(II)で表される請求項1〜8のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法。
RMXa-1b (II)
[(II)式中、Rは少なくとも一つが飽和環である縮合多環式シクロペンタジエニルπ配位子を示し、Mは周期律表第3族またはランタノイド系列の遷移金属を示し、Xはσ配位子を示し、Yはルイス塩基を示す。aはMの価数、bは0、1または2を示す。]
【請求項10】
前記有機アルミニウム化合物が、下記式(VII)で表されることを特徴とする請求項2〜9のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法。
R’R’’R’’’Al (VII)
[(VII)式中、R’、R’’およびR’’’はそれぞれ独立に炭素数3〜5のアルキル基を示す。]
【請求項11】
前記イオン性化合物が、置換又は無置換のトリアリールカルベニウムまたは置換又は無置換のアニリニウムから選ばれるカチオンと一般式(X)で表される非配位性アニオンからなるイオン性化合物であることを特徴とする請求項3〜10のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法。
(BZ1234- (X)
[式中、Z1〜Z4は、それぞれ水素原子、ジアルキルアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基(ハロゲン置換アリール基を含む)、アルキルアリール基、アリールアルキル基、置換アルキル基及び有機メタロイド基又はハロゲン原子を示す。]
【請求項12】
芳香族炭化水素溶媒及び脂肪族炭化水素溶媒から選択される不活性溶媒の存在下で重合を行う請求項1〜11のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法であって、芳香族ビニル化合物を重合する工程を含む、芳香族ビニル化合物から構成される繰り返し単位連鎖の立体規則性[rrrr]が80モル%以上である芳香族ビニル化合物重合体の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法であって、芳香族ビニル化合物およびオレフィン系モノマーを重合する工程を含む、芳香族ビニル化合物から構成される繰り返し単位連鎖の立体規則性[rrrr]が80モル%以上である芳香族ビニル化合物重合体の製造方法。

【公開番号】特開2012−57014(P2012−57014A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200367(P2010−200367)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】