説明

芳香族ポリアミドフィルムおよびその製造方法

【課題】 機械特性、耐熱性、表面特性、そして経済性に優れたフィルムを提供すること。
【解決手段】 芳香族ポリアミド、熱可塑性ポリマーおよび層状珪酸塩を構成成分とし、熱可塑性ポリマーを芳香族ポリアミド100質量部に対して50〜150質量部含有し、層状珪酸塩を芳香族ポリアミド100質量部に対して100〜200質量部含有する芳香族ポリアミドフィルムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリアミドフィルムおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリアミドフィルムは剛性や強度などの機械特性が他のフィルムより高く、薄膜化に非常に有利である。さらにポリイミドフィルムに次ぐ耐熱性も有しており、これらの特性を活かして、磁気テープ、プリンタリボン、コンデンサー、電気絶縁材、離型フィルム、耐熱テープ、太陽電池などの用途で活用が考えられている。しかし芳香族ポリアミドフィルムは生産性が悪くコストが高いことや湿度特性に劣るといった欠点がある。
【0003】
これらの欠点を補う方法として、芳香族ポリアミドとポリスチレン(PSt)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)などの比較的安価で湿度特性が良好である熱可塑性ポリマーとをアロイ化することが提案されており、例えば特許文献1にその方法が記載されている。しかし芳香族ポリアミドは極性の高い置換基を持つ、吸湿性の高いポリマーとは相溶するが、PMMA、PStなど吸湿性の低いポリマーとは、単純に混ぜ合わせただけでは実用特性を備えたフィルムは得られなかった。
【0004】
また非相溶のポリマー同士をアロイ化する方法として、特許文献2に層状珪酸塩をポリマー中に均一分散させ溶融成形する方法が提案されている。しかし芳香族ポリアミドフィルムは溶液製膜により製膜されるため、機械的な高剪断下での層状珪酸塩の分散化が難しく、また製膜工程で溶媒を除去する際にポリマー濃度や粘度が大きく変動することから層状珪酸塩の凝集が発生しやすいなどの課題がある。
【0005】
また特許文献3に、有機化層状珪酸塩を芳香族ポリアミドフィルム中に0.01〜50質量%分散させて、剛性および耐熱性を高めた芳香族ポリアミドフィルムの製造方法が記載されている。しかし有機化層状珪酸塩の含有量が該特許に例示されている範囲では、芳香族ポリアミドと溶液状態で非相溶であるポリマーとのアロイ化の際には、十分な相溶性が得られない。
【特許文献1】特開平3−237135号公報
【特許文献2】特開平3−215557号公報
【特許文献3】特開2000−336186号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は層状珪酸塩をフィルム中に分散させることで、芳香族ポリアミドと溶液状態で非相溶であるポリマーとの相溶性を改善し、機械特性、耐熱性、表面特性、そして経済性に優れたフィルムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明は、以下の特徴を有する。
【0008】
(1)芳香族ポリアミド、熱可塑性ポリマーおよび層状珪酸塩を構成成分とし、熱可塑性ポリマーを芳香族ポリアミド100質量部に対して50〜150質量部含有し、層状珪酸塩を芳香族ポリアミド100質量部に対して100〜200質量部含有する芳香族ポリアミドフィルム。
【0009】
(2)層状珪酸塩が、エチレンオキサイド基を含むアルキルアンモニウム塩で有機化処理された一次粒径が1〜7μmの有機化層状珪酸塩粒子である、上記(1)に記載の芳香族ポリアミドフィルム。
【0010】
(3)ヤング率が7GPa以上、表面粗さRaが10〜200nm以下、少なくとも一方向の200℃における熱収縮率が0.0〜0.7%、少なくとも一方向の250℃における熱収縮率が0.0〜1%である、上記(1)または(2)に記載の芳香族ポリアミドフィルム。
【0011】
(4)芳香族ポリアミド溶液に層状珪酸塩を分散せしめて分散体とした後、この分散体に熱可塑性ポリマー溶液を加えて製膜溶液とし、この製膜溶液を用いて溶液製膜を行う、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の芳香族ポリアミドフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明は層状珪酸塩の添加、特に有機化層状珪酸塩の添加により、芳香族ポリアミドの分子鎖が層状珪酸塩の層間に取り込まれ、微小ドメインの移動を摩擦力により拘束することで、芳香族ポリアミドと溶液状態で相溶化しない熱可塑性ポリマーとの間の相分離を効果的に抑制し、アロイ化したフィルムを得るものである。本発明のフィルムは熱可塑性ポリマーの軟化流動点以上の温度でも流動せず、高温での熱収縮率も小さく、耐熱性に優れている。また熱可塑性ポリマーの単体フィルムに比較して高剛性であるため、フレキシブル回路基板などの用途に有用である。さらに安価な熱可塑性ポリマーを用いることができるため製造コストを下げることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の芳香族ポリアミドフィルムは、芳香族ポリアミドと熱可塑性ポリマーとのアロイフィルムであり(以下、本発明の芳香族ポリアミドフィルムをアロイフィルムということがある)、芳香族ポリアミド100質量部に対し熱可塑性ポリマーを50〜150質量部含んでいる。また、芳香族ポリアミド100質量部に対し層状珪酸塩を100〜200質量部含有している。
【0014】
層状珪酸塩が均一に分散した状態で芳香族ポリアミド中に含まれることにより、芳香族ポリアミドの分子鎖が層状珪酸塩の層間に取り込まれ、アロイ化した際に微小ドメインの移動が摩擦力により拘束され、相分離が効果的に抑制される。
【0015】
また、本発明の芳香族ポリアミドフィルムは、層状珪酸塩を芳香族ポリアミド溶液に分散させた後、熱可塑性ポリマー溶液を添加することで作製した製膜溶液から溶液製膜により得ることができる。
【0016】
本発明において用いる芳香族ポリアミドは、次の化学式(1)および/または化学式(2)の構造単位を50モル%以上含有しているものが好ましく、70モル%以上から成るものがより好ましい。
【0017】
【化1】

【0018】
【化2】

【0019】
ここで、Ar、Ar、Arの基としては、例えば、
【0020】
【化3】

【0021】
などが挙げられる。
【0022】
X、Yは−O−、−CH−、−CO−、−CO−、−S−、−SO−、−C(CH−などから選ばれるが、これらに限定されるものではない。さらに、これら芳香環上の水素原子の一部が、フッ素や臭素、塩素などのハロゲン基(特に塩素)、ニトロ基、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基(特にメチル基)、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などのアルコキシ基などの置換基で置換されていてもよく、また、重合体を構成するアミド結合中の水素が他の置換基によって置換されていてもよい。
【0023】
また、本発明に用いる芳香族ポリアミドは、上記の芳香環がパラ配向性を有している重合体が全芳香環の50モル%以上、より好ましくは70モル%以上であるとフィルムの剛性が高く、耐熱性も良好となるため好ましい。ここでパラ配向性とは、芳香環上の主鎖を構成する2価の結合手が互いに同軸または平行にある状態をいう。このパラ配向性が50モル%未満の場合、フィルムの剛性および耐熱性が不十分となる場合がある。
【0024】
また、本発明に用いる芳香族ポリアミドには、本発明の目的を阻害しない範囲で、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、有機の易滑剤、顔料、染料、無機または有機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、核生成剤などが添加されていてもよい。
【0025】
上記の芳香族ポリアミドを溶解する溶媒としてはN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチレンホスホルアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノンなどのアミド系極性溶媒を用いることが好ましい。
【0026】
本発明のフィルムは前述の芳香族ポリアミド100質量部に対して熱可塑性ポリマーを50〜150質量部含有している。熱可塑性ポリマーの量が50質量部より少ない場合は吸湿特性の改善および経済的メリットが少なくなり、また150質量部を超えると剛性および耐熱性が低下することがある。コストダウンと物性向上をより高いレベルで両立できることから、芳香族ポリアミド100質量部に対する熱可塑性ポリマーの含有量は80〜120質量部であることがより好ましい。ここで本発明に用いる熱可塑性ポリマーとは前述したアミド系極性溶媒に溶解する樹脂を意味し、特に限定されるものではないが、例えばポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリスルフィドスルホンなどが挙げられる。
【0027】
さらに本発明のアロイフィルムは層状珪酸塩を構成成分として含有している。この層状珪酸塩は、アルキルアンモニウム塩で有機化処理された有機化層状珪酸塩であることが好ましい。芳香族ポリアミド100質量部に対する層状珪酸塩や有機化層状珪酸塩の含有量は、100〜200質量部であることが、相溶性と表面平滑性が高いレベルで両立できるため、好ましい。100質量部未満では目的とする相溶性向上効果が得られがたく、剛性の低いフィルムとなり、200質量部を超えると層状珪酸塩により表面が荒れることがある。
【0028】
本発明で用いる層状珪酸塩としては、モンモリロナイト、サポナイト、パイデライト、ヘクトライト、スティプンサイトなどのスメクタイト系粘土鉱物や、バーミキュライト粘土鉱物、ハロサイト粘土鉱物、雲母などがある。これらの層状珪酸塩は天然のものでも化学的に合成されたものでもよく、また複数種の層状珪酸塩の混合物であってもよい。
【0029】
本発明に用いる層状珪酸塩は、上述したようにアルキルアンモニウム塩で有機化処理を施した有機化層状珪酸塩であると好ましく、例えば層状珪酸塩を水やケトン系有機溶媒などに十分溶媒和させた後、1〜10等量のアルキルアンモニウム塩を加えてイオン交換反応を行うなどの方法で施すことができる。
【0030】
本発明に用いるアルキルアンモニウム塩は、少なくとも1つのアルキル基の炭素数が4〜30であることが好ましく、より好ましくは6〜20である。炭素数が4未満であると有機化処理による層状珪酸塩の層間拡大効果が不十分で分散性が低下することがあり、炭素数が30を超えると層状珪酸塩の有機化処理が不十分となることがある。なかでもエチレンオキサイド基を含むアルキルアンモニウム塩であることが、より分散性に優れるという点で特に好ましい。これはエチレンオキサイド基特有の反応性が芳香族ポリアミドや有機極性溶媒との親和性を良好なものとし、有機化層状珪酸塩の分散性向上に寄与していると考えられる。
【0031】
本発明に用いる有機化層状珪酸塩の一次粒子の粒子径(以下、一次粒径と称する)は、好ましくは1〜10μmの範囲内、より好ましくは3〜7μmの範囲内である。ここで一次粒径とは、JIS−H7008(2002)において単一の結晶核の成長によって生成した粒子と定義される一次粒子の粒子径であり、有機化層状珪酸塩の面内の長径と短径の平均値とする。有機化層状珪酸塩の一次粒径が1μm未満の場合には機械特性や熱寸法安定性の向上が十分でなく、逆に10μmを超える場合にはフィルム欠点となってフィルムの伸度を低下させることがある。
【0032】
上記した有機化層状珪酸塩が均一に分散した状態で芳香族ポリアミド中に含まれることにより、芳香族ポリアミドの分子鎖が有機化層状珪酸塩の層間に取り込まれ、アロイ化した際の相分離が効果的に抑制され、得られたフィルムの機械特性や耐熱性が向上するものと考えられる。
【0033】
本発明のアロイフィルムは少なくとも一方向のヤング率が7GPa以上であると薄膜化しても取り扱いが容易となることから好ましく、8GPa以上であることがより好ましい。ヤング率は特に上限はないが、通常は20GPa以下とするのが他のフィルム物性を損なうことが無いため好ましい。
【0034】
本発明のアロイフィルムの表面粗さRaは10〜200nmであることが、例えばフレキシブル回路基板のベースフィルムとして使用する場合、金属層との良好な接着性が得られるため好ましく、より好ましくは30〜100nmである。Raが200nmを超えると、高温下での金属層の剥がれや膨れが発生することがあり、10nm未満の場合は加工時の作業性などが悪化することがある。
【0035】
本発明のアロイフィルムの少なくとも一方向の200℃における熱収縮率は0.0〜0.7%であることが高温での寸法安定性を維持する上で好ましい。より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.2%以下である。また、少なくとも一方向の250℃における熱収縮率は0.0〜1%であることが好ましく、0.5%以下がより好ましい。熱収縮率を上記範囲内とすることで、例えばフレキシブル回路基板のベースフィルムとして使用する場合、高温下でのシワなどの表面性悪化を抑制することができる。耐熱性を上記範囲内とする方法としては、パラ配向性の芳香環を有する重合体の割合を50モル%以上としてポリマーの耐熱性を高める方法に、本発明のように有機化層状珪酸塩を均一分散してポリマーの熱運動を抑制する方法を組み合わせることが好ましい。
【0036】
本発明において用いる芳香族ポリアミドは、例えば、次のような方法で重合されるが、これに限定されるものではない。
【0037】
まずジアミンと酸クロリドから芳香族ポリアミドを得る場合には、N−メチル−2−ピロリドンや、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなどのアミド系極性溶媒中で、溶液重合により合成される。このような溶液重合では低分子量物の生成を抑制するため、反応を阻害するような水やその他の物質の混入は避けるべきであり、効率的な攪拌手段をとることが好ましい。またモノマーの当量性は重要であるが、製膜性を損なう恐れのあるときは適当に調整することができる。また溶解助剤として塩化カルシウム、塩化リチウム、臭化リチウム、硝酸リチウムなどを添加してもよい。
【0038】
モノマーとして芳香族ジアミンと芳香族ジ酸クロリドを用いると塩化水素が副生するが、これを中和する場合には、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸カリウムなどの周期律表I族かII族のカチオンと水酸化物イオン、炭酸イオンなどのアニオンとからなる塩に代表される無機の中和剤、またエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、アンモニア、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンなどの有機の中和剤を使用すればよい。
【0039】
このとき中和剤として無機の炭酸塩を用いる場合には、塩化水素に対して93〜99モル%、特に94〜98.5モル%の中和剤で中和することが好ましく、また、中和時間は2時間以上が好ましく、特に3時間以上が好ましく、上限は10時間程度が適切である。塩化水素のモル濃度に対して過剰の炭酸塩で中和を行った場合は、過剰分の炭酸塩がポリマー溶液中に残存し、これが異物となって芳香族ポリアミドフィルムの機械特性や熱寸法安定性を低下させることがあり、逆に少な過ぎると塩化水素の中和が不充分でポリマー溶液の酸性度が強く製膜装置などを腐食させることがある。また塩化水素のモル濃度に対して等当量モル濃度の炭酸塩で中和を行った場合には、中和反応が完了するまでに長時間を要し、あまり長時間の中和を行っても期待したほどの効果が得られず、逆に生産性が悪くなる傾向がある。炭酸塩などによる塩化水素の中和は、それぞれ適切に決めるべきであるが、さらに残存する塩化水素を中和する場合には、有機の中和剤を用いることが好ましい。
【0040】
またフィルムの湿度特性を改善する目的で、塩化ベンゾイル、無水フタル酸、酢酸クロリド、アニリンなどを重合の完了したポリマー溶液に添加し、ポリマーの末端官能基を封鎖してもよい。
【0041】
本発明に用いる芳香族ポリアミドは、ポリマーの固有粘度(ポリマー0.5gを硫酸中で100mlの溶液として30℃で測定した値)は、0.5以上であることが好ましい。このようなポリマーの固有粘度の上限は特に限定されないが、製膜加工性の観点から5以下であることが好ましい。
【0042】
本発明に用いる芳香族ポリアミドの溶液としては、中和後のポリマー溶液をそのまま用いてもよいし、一旦単離したポリマーを再溶解したものを用いてもよい。
【0043】
次に製膜溶液の調製方法について説明する。本発明で用いる製膜溶液は、芳香族ポリアミド溶液に層状珪酸塩を分散せしめて分散体とした後、この分散体に熱可塑性ポリマー溶液を加えて、溶液の温度が25〜100℃、好ましくは30〜80℃で、30分以上、好ましくは1時間以上撹拌し、混合することで得られる。これより低い温度や撹拌時間が十分でないとフィルムにした時表面が荒れてしまう場合がある。有機化層状珪酸塩は芳香族ポリアミドの溶液側に添加することが好ましい。有機化層状珪酸塩と芳香族ポリアミドとの親和性がより良好であることから、熱可塑性ポリマー溶液に添加するよりも有機化層状珪酸塩の分散性が向上し、相分離抑制の効果が高くなる。その際、有機化層状珪酸塩は芳香族ポリアミド重合前の極性溶媒、あるいは一旦単離した芳香族ポリアミドポリマーを再溶解する場合はポリマー添加前の極性溶媒とあらかじめ混合し、有機化層状珪酸塩/有機溶媒の分散体とするのが分散性向上の点でより好ましい。このような分散体とすることにより、調整後のポリマー溶液に粉体で添加する場合よりも、速やかに芳香族ポリアミドの分子鎖が有機化層状珪酸塩の層間に取り込まれ、有機化層状珪酸塩の凝集を抑制することができる。また有機化層状珪酸塩/有機溶媒の分散体は、攪拌式分散機や、ボールミル、サンドミル、超音波分散機などで分散性を向上させておくことも有効である。
【0044】
次に、本発明の芳香族ポリアミドフィルムの製膜方法について説明する。
【0045】
上記のように調製されたブレンドポリマー溶液(製膜原液)を用いた製膜方法としては、乾湿式法、湿式法、半乾半湿式法の溶液製膜法が挙げられ、いずれの製膜方法でフィルム化してもよいが、生産性の観点から乾湿式法が好ましく、以下、乾湿式法を例にとって説明する。
【0046】
上記ポリマー溶液を口金からドラムやエンドレスベルトなどの支持体上にキャストして、熱風乾燥によりキャスト薄膜中の有機溶媒を飛散させて乾燥を行う。
【0047】
このとき溶媒の乾燥速度は3〜30質量%/分で乾燥することが好ましい。脱溶媒速度が3質量%/分未満では生産性が悪く、また、脱溶媒速度が30質量%/分を超えると急激な溶媒蒸発でフィルム表面が荒れることがある。また乾燥温度は100〜210℃であることが好ましく、より好ましくは120〜180℃である。また乾燥時間は、2〜12分が好ましく、より好ましくは5〜10分である。
【0048】
次に乾式工程を終えたフィルムは支持体から剥離されて、湿式工程に導入され、脱塩、脱溶媒などが行なわれる。ここで湿式工程の溶媒は一般的に水系であるが、水の他に少量の無機や有機溶媒あるいは無機塩などを含んでいてもよい。なお溶媒温度は通常0〜100℃で使用される。さらに必要に応じて湿式工程中でフィルムを長手方向に延伸してもよい。
【0049】
この後、延伸、熱処理が行なわれてフィルムとなる。
【0050】
延伸温度は200〜400℃の温度範囲内で行うことがフィルムの機械特性向上に有効であり、より好ましくは220〜350℃、さらに好ましくは240〜300℃であり、幅方向の延伸倍率は0.9〜3倍の範囲内とすることが好ましい。幅方向の延伸倍率が0.9倍未満の場合には、製膜の安定性は向上するものの優れた機械物性のフィルムが得られ難い。また、幅方向の延伸倍率が3倍を超える場合には、フィルム破れが多発するなど製膜が不安定となり、帯電防止層にクラックが生じて帯電防止性が悪くなる懸念がある。幅方向の延伸倍率は、より好ましくは1〜2倍の範囲内である。なお延伸倍率とは、延伸後のフィルム幅を延伸前のフィルム幅で除した値で定義する。
【0051】
また、フィルムの延伸中あるいは延伸後に熱処理が行なわれるが、熱処理温度は200〜300℃の範囲内にあることがフィルムの寸法安定性を向上させる点で好ましい。
【0052】
さらに、延伸あるいは熱処理後のフィルムを徐冷することが、フィルムの平面性を向上させるために有効であり、50℃/秒以下の速度で冷却することが有効である。
【0053】
本発明の芳香族ポリアミドフィルムは単層構成のフィルムでも、複数層を有する積層構成のフィルムでもよく、積層構成のフィルムとする場合には、例えば、口金内での積層、複合管での積層や、一旦1層を形成しておいてその上に他の層を形成する方法などを用いればよい。
【0054】
本発明の芳香族ポリアミドフィルムは、機械特性と耐熱性に優れることから、フレキシブル回路基板用途や、離型フィルム、耐熱粘着ベースフィルム、太陽電池基板などの用途で好適に使用でき、特にその特長を活かしてフレキシブル回路基板用としての使用が好ましい。
【0055】
本発明の芳香族ポリアミドフィルムの少なくとも一方の面に金属層を設けてフレキシブル回路基板とする場合には、例えば次のような方法で製造することができる。
【0056】
まず金属層を形成する金属は、導電性に優れる金属から構成されていれば特に限定されないが、例えば、銅、アルミニウム、パラジウム、ニッケル、クロム、モリブデン、SUS、コバルト、亜鉛、金などから選ばれる単独あるいは複数の合金を挙げることができ、これらの中では電気特性に優れる点で銅が好ましい。
【0057】
本発明の芳香族ポリアミドフィルムに金属層を設ける方法としては、特に限定されないが、接着剤を介して銅箔などの金属層を貼り合わせるラミネート法でも、上記金属を蒸着、スパッタ、イオンプレーティング、化学気相成長法(CVD)などの気相で薄膜を形成した後、電解メッキ法で銅層などを形成するメッキ法でもよい。また、金属層は同種または異種の金属で多層構造を形成していてもよい。
【0058】
金属層の厚みは特に限定されないが、1〜20μmの範囲内が好ましい。金属層の厚みが1μm未満であるとピンホールが発生し易く、20μmを超えると高精細の配線パターンを形成し難くなる。
【実施例】
【0059】
本発明における物性の測定方法、効果の評価方法は次の方法に従って行った。
【0060】
(1)有機化層状珪酸塩の一次粒径の測定
日本電子データム社製電界放射走査電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて、倍率5万倍で試料を観察し、写真を用いて個々の一次粒子の長径と短径を測定し、その平均で一次粒径を求めた。さらに一次粒子100個について同様の一次粒径の測定を行い、用いた有機化層状珪酸塩の一次粒径の範囲を求めた。
【0061】
(2)ポリマーの分散性
フィルム表面を、LEICA社製光学顕微鏡DMLを用いて倍率50〜100倍で観察し、以下の基準でフィルムにしたときの両ポリマーの分散性を評価した。
【0062】
◎:凝集ポリマードメイン径が5μm未満のもの
○:凝集ポリマードメイン径が5μm以上20μm未満のもの
△:凝集ポリマードメイン径が20μm以上100μm未満のもの
×:凝集ポリマードメイン径が100μm以上のもの
(3)引張りヤング率
オリエンテック社製ロボットテンシロンAMF/RTA-100を用いて、幅10mm、長さ150mmに切断したフィルムをチャック間距離50mmの装置にセットして、引張速度300mm/分、温度23℃、相対湿度65%の条件下で引張試験を行い、得られた荷重−伸び曲線の立ち上がり部の接線から引張りヤング率を求めた。
【0063】
(4)表面粗さRa
Digital Instruments社製原子間力顕微鏡NanoScopeIIIを用いて、以下の条件でガラス板または流延ベルトに接触していない表面について測定した。
【0064】
カンチレバー:シリコン単結晶
走査範囲:30μm×30μm
走査速度:0.5Hz
測定環境:温度23℃、相対湿度65%
(5)熱収縮率
フィルムを幅10mm、長さ250mmに切断し、両端から25mmの位置に印をつけ、所定の温度(200℃または250℃)に設定したオーブン中で10分間加熱後、室温に戻して寸法を測り、下記の計算式より算出した。
【0065】
熱収縮率=(L−L)/L×100(%)
:処理前の長さ 200mm
L:処理後の長さ(mm)
(6)銅張積層板(CCL)耐熱試験
フィルム上にエポキシ系接着剤(厚み10μm)を用いて銅箔(厚み18μm)をラミネートすることでCCLを作製した。
【0066】
得られたCCLを30mm四方に切断し、200℃および250℃における銅箔表面の気泡、膨れ、シワ、また銅箔の剥がれの有無を確認することで評価した。
【0067】
◎:200℃および250℃において銅箔表面の変化および銅箔の剥がれが見られなかった。
【0068】
○:200℃において表面の変化および剥がれが見られなかったが、250℃において微小な気泡、膨れ、シワあるいは若干の剥がれが見られた。
【0069】
△:200℃において微小な気泡、膨れ、シワあるいは若干の剥がれが見られた。
【0070】
×:200℃において大きな気泡、膨れ、シワあるいは剥がれが見られた。
【0071】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0072】
(実施例1)
脱水したNMPに、エチレンオキサイド基含有アルキルアンモニウム塩で有機化処理された有機化雲母(コープケミカル株式会社製“ソマシフ”MEE、平均一次粒径5〜7μm、以下MEEと略す)を芳香族ポリアミド100質量部に対して110質量部となるように添加攪拌して、有機化層状珪酸塩/有機溶媒の分散体を調製した。芳香族ポリアミドポリマーは脱水したN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略す)に、85モル%に相当する2−クロルパラフェニレンジアミンと15モル%に相当する4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを溶解させ、これに98.5モル%に相当する2−クロルテレフタル酸クロリドを添加して、30℃以下で約2時間の撹拌を行い、重合させた。この重合ポリマーを炭酸リチウム、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンにより中和することでポリマー溶液を得た。前述の有機化層状珪酸塩/NMP分散体に上記の重合ポリマー溶液から単離した芳香族ポリアミドポリマーを添加し、60℃で4時間攪拌することで、ポリマー溶液Aを得た。次にNMPを溶媒としたポリメチルメタクリレート(以下、PMMAと略す)ポリマー溶液Bを調整し、芳香族ポリアミド/PMMAのポリマー質量比が1/1となるようにポリマー溶液A、Bを混合し、60℃で4時間攪拌することで製膜溶液を得た。
【0073】
次に製膜方法を説明する。アプリケーターでポリマー溶液をガラス板上にキャストして、120℃の熱風オーブンで7分間乾燥させた後、自己支持性を得たゲルフィルムをガラス板から剥離した。次に、ゲルフィルムを金属枠に固定して、水槽内で10分間の残存溶媒や中和で生じた無機塩、有機アミンの水抽出を行った。最後に、水抽出後の含水フィルム両面の水分をガーゼで拭き取り、金枠に固定したまま300℃のオーブンで1分間熱処理して、最終厚み20μmのアロイフィルムを得た。
【0074】
このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。有機化層状珪酸塩の添加によりフィルム化した際の両ポリマーの相分離を抑制する効果が確認され、CCLとしても良好な特性を示した。
【0075】
(実施例2)
MEEの添加量を芳香族ポリアミド100質量部に対して170質量部とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。MEEの添加量を増やすことにより両ポリマーの分散性が向上し、ポリマードメインが数μmオーダーまで低減された。またその結果、CCLとしての特性も向上した。
【0076】
(実施例3)
エチレンオキサイド基含有アルキルアンモニウム塩で有機化処理された有機化雲母(コープケミカル株式会社製“ソマシフ”S1MEE、平均一次粒径1〜3μm、以下S1MEEと略す)を芳香族ポリアミド100質量部に対して110質量部とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。MEEに比べて、よりポリマーの分散性に優れ、表面粗さが小さく、CCLとしての特性も非常に良好なフィルムが得られた。
【0077】
(実施例4)
S1MEEの添加量を芳香族ポリアミド100質量部に対して170質量部とすること以外は実施例3と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。過剰のS1MEEにより若干フィルム表面が荒れたものの、良好な物性のフィルムが得られた。
【0078】
(実施例5)
MEEをNMPにあらかじめ分散させることなく、芳香族ポリアミド溶液に直接添加すること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。実施例1のフィルムと比べると分散性に劣るものの、相分離抑制の効果は確認され、CCLとしても良好な特性が得られた。
【0079】
(実施例6)
MEEをPMMA溶液側のNMPに分散させること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。実施例1のフィルムと比べると分散性に劣るものの、相分離抑制の効果は確認され、CCLとしても良好な特性が得られた。
【0080】
(比較例1)
有機化層状珪酸塩を添加しないこと以外は実施例1と同様にしてアロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。5〜10mmオーダーで相分離を起こしており、機械特性、耐熱性に劣るフィルムとなった。
【0081】
(比較例2)
MEEの添加量を芳香族ポリアミド100質量部に対して60質量部とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。相分離抑制の効果は確認されたものの、50μm程度のポリマードメインが見られた。
【0082】
(比較例3)
MEEの添加量を芳香族ポリアミド100質量部に対して240質量部とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。過剰のMEEにより表面が荒れたフィルムとなった。
【0083】
(比較例4)
熱可塑性ポリマーの量を芳香族ポリアミド100質量部に対して200質量部とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。剛性、耐熱性に劣るフィルムとなった。
【0084】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリアミド、熱可塑性ポリマーおよび層状珪酸塩を構成成分とし、熱可塑性ポリマーを芳香族ポリアミド100質量部に対して50〜150質量部含有し、層状珪酸塩を芳香族ポリアミド100質量部に対して100〜200質量部含有する芳香族ポリアミドフィルム。
【請求項2】
層状珪酸塩が、エチレンオキサイド基を含むアルキルアンモニウム塩で有機化処理された一次粒径が1〜10μmの有機化層状珪酸塩粒子である、請求項1に記載の芳香族ポリアミドフィルム。
【請求項3】
ヤング率が7GPa以上、表面粗さRaが10〜200nm、少なくとも一方向の200℃における熱収縮率が0.0〜0.7%、少なくとも一方向の250℃における熱収縮率が0.0〜1%である、請求項1または2に記載の芳香族ポリアミドフィルム。
【請求項4】
芳香族ポリアミド溶液に層状珪酸塩を分散せしめて分散体とした後、この分散体に熱可塑性ポリマー溶液を加えて製膜溶液とし、この製膜溶液を用いて溶液製膜を行う、請求項1〜3のいずれかに記載の芳香族ポリアミドフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2009−185189(P2009−185189A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27310(P2008−27310)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】