説明

芳香族ポリアミド成形体およびその製造方法

【課題】本発明の目的は、機械特性、耐熱性および熱寸法安定性が改善された芳香族ポリアミドを含む成形体およびその製造方法を提供することにある。
【解決手段】本発明は、1重量部の窒化ホウ素ナノチューブ(A)および1〜2000重量部の下記式(1)
―NH―Ar―NH―OC―Ar―CO― (1)
(式(1)中、Ar、Arは同一または異なり、炭素数6〜20の2価の芳香族基を示す)
で表される繰り返し単位から主としてなる芳香族ポリアミド(X)を含む成形体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリアミドを含む成形体およびその製造方法に関する。更に詳しくは、窒化ホウ素ナノチューブを均一に含有し、機械的物性、耐熱性および熱寸法安定性が改善された成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
全芳香族ポリアミドは、剛直な芳香族環を連結させた構造をとり、耐熱性、機械特性、耐薬品性等に優れた素材として、繊維あるいはフィルム等の成形体の形態で電気絶縁材料、各種補強剤、防弾繊維等、幅広く利用されており工業的に極めて価値の高い素材の一つであるが、使用される用途に応じて樹脂に対してより高度な特性が要求されるようになってきた。
一方、熱可塑性樹脂の耐熱性、機械特性を向上させるため、カーボンナノチューブをナノスケールで分散させた組成物が提案されている(特許文献1参照)。
また近年、カーボンナノチューブと、構造的な類似性を有する窒化ホウ素ナノチューブも、従来にない特性を有する材料として注目を浴びている(特許文献2参照)。しかし、窒化ホウ素ナノチューブとポリマーからなる複合材料については報告されていない。
【特許文献1】特公平8−26164号公報
【特許文献2】特開2000−109306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、機械特性、耐熱性および熱寸法安定性が改善された芳香族ポリアミドを含む成形体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、芳香族ポリアミドと窒化ホウ素ナノチューブとを組み合わせると、得られる成形体の機械特性、耐熱性および熱寸法安定性が改善されることを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、1重量部の窒化ホウ素ナノチューブ(A)および1〜2000重量部の下記式(1)
―NH―Ar―NH―OC―Ar―CO― (1)
(式(1)中、Ar、Arは同一または異なり、炭素数6〜20の2価の芳香族基を示す)
で表される繰り返し単位から主としてなる芳香族ポリアミド(X)を含む成形体である。
【0005】
また本発明は、1重量部の窒化ホウ素ナノチューブ(A)、1〜2,000重量部の式(1)で表される繰り返し単位から主としてなる芳香族ポリアミド(X)および1〜100,000重量部の有機溶剤(B)を含有する組成物である。
【0006】
また本発明は、前記組成物を成形したのち、溶媒を除去することからなる成形体の製造方法を包含する。
【0007】
また本発明は、(i)1重量部の窒化ホウ素ナノチューブ(A)と1〜100,000重量部の有機溶剤(B)とを混合して混合液を得る工程、
(ii)混合液に芳香族ポリアミド(C)を、1重量部の窒化ホウ素ナノチューブ(A)に対して0.01〜100重量部添加して分散液を得る工程、および
(iii)分散液に式(1)で表される繰り返し単位から主としてなる芳香族ポリアミド(X)を添加する工程からなる組成物の製造方法を包含する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の成形体は、窒化ホウ素ナノチューブを含有しているため、機械特性、耐熱性および熱寸法安定性に優れる。本発明の組成物は、窒化ホウ素ナノチューブが高度に分散されているので、機械特性、耐熱性および熱寸法安定性に優れた成形体を製造することができる。本発明の組成物の製造方法によれば、該組成物を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳述する。
【0010】
<成形体>
本発明の成形体は、1重量部の窒化ホウ素ナノチューブ(A)および1〜2,000重量部の下記式(1)
―NH―Ar―NH―OC―Ar―CO― (1)
(式(1)中、Ar、Arは同一または異なり、炭素数6〜20の2価の芳香族基を示す)
で表される繰り返し単位から主としてなる芳香族ポリアミド(X)から構成される。
【0011】
(窒化ホウ素ナノチューブ(A))
本発明において、窒化ホウ素ナノチューブとは、平均直径が0.4nm〜1μm、平均長さが数nm〜数μmの窒化ホウ素からなるチューブ状材料であり、理想的な構造としては6角網目の面がチューブ軸に平行に管を形成し、一重管もしくは多重管になっているものである。ここでいう平均直径とは、チューブが一重管の場合、その外径を意味し、チューブが多重管の場合、その最外管の外径を意味する。窒化ホウ素ナノチューブの平均直径およびアスペクト比は、電子顕微鏡による観察から求めることが出来る。例えばTEM(透過型電子顕微鏡)測定を行い、その画像から直接窒化ホウ素ナノチューブの平均直径および長手方向の平均長さを測定することが可能である。また組成物中の窒化ホウ素ナノチューブの形態は例えば繊維軸と平行に切断した繊維断面のTEM(透過型電子顕微鏡)測定により把握することが出来る。
【0012】
窒化ホウ素ナノチューブは、アーク放電法、レーザー加熱法、化学的気相成長法を用いて合成できることが知られている。また、ホウ化ニッケルを触媒として使用し、ボラジンを原料として合成する方法も知られている。また、カーボンナノチューブを鋳型として利用して、酸化ホウ素と窒素を反応させて合成する方法もが提案されている。本発明に用いられる窒化ホウ素ナノチューブは、これらの方法により製造されるものに限定されない。
また、窒化ホウ素ナノチューブは、不純物として窒化ホウ素フレーク、触媒金属等を含んでいても差し支えない。50%以上が窒化ホウ素ナノチューブであることが好ましく、80%以上が窒化ホウ素ナノチューブであることがより好ましい。窒化ホウ素ナノチューブは、強酸処理や化学修飾された窒化ホウ素ナノチューブも使用することができる。
(芳香族ポリアミド(X))
芳香族ポリアミド(X)は、下記式(1)で表される繰り返し単位から主としてなる芳香族ポリアミドである。
【0013】
―NH―Ar―NH―OC―Ar―CO― (1)
式(1)中、Ar、Arは同一または異なり、炭素数6〜20の2価の芳香族基を示す。Ar、Arの具体例として、メタフェニレン基、パラフェニレン基、オルトフェニレン基、2,6−ナフチレン基、2,7−ナフチレン基、4,4’−イソプロピリデンジフェニレン基、4,4’−ビフェニレン基、4,4’−ジフェニレンスルフィド基、4,4’−ジフェニレンスルホン基、4,4’−ジフェニレンケトン基、4,4’−ジフェニレンエーテル基、3,4’−ジフェニレンエーテル基、メタキシリレン基、パラキシリレン基、オルトキシリレン基等が挙げられる。
【0014】
これらの芳香族基の水素原子のうち1つまたは複数がそれぞれ独立にフッ素、塩素、臭素等のハロゲン基;メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数5〜10のシクロアルキル基;フェニル基等の炭素数6〜10の芳香族基で置換されていてもよい。なお、Arおよび/またはArの芳香族基が、2種以上の芳香族基から構成されていても差し支えない。これらのうちArとして、メタフェニレン基、パラフェニレン基、3,4’−ジフェニレンエーテル基が好ましい。Arとしてメタフェニレン基、パラフェニレン基が好ましい。
【0015】
好ましい芳香族ポリアミドとして、以下のものが挙げられる。(i)Arがパラフェニレン基および3,4’−ジフェニレンエーテル基であり、Arがパラフェニレン基である共重合体であって、その共重合比(Arのパラフェニレン基と3,4’−ジフェニレンエーテル基のモル比)が1:0.8〜1:1.2の範囲にある芳香族ポリアミド、(ii)ArとArがともにパラフェニレン基である芳香族ポリアミド、(iii)ArとArがともにメタフェニレン基である芳香族ポリアミド。式(1)で表される繰り返し単位は、全繰り返し単位の好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上である。
【0016】
芳香族ポリアミド(X)は、溶液重合法、界面重合法、溶融重合法など従来公知の方法にて製造することが出来る。重合度は芳香族ジアミン成分と芳香族ジカルボン酸成分の比率によりコントロールすることが出来、得られるポリマーの分子量としては98重量%濃硫酸に0.5g/100mLの濃度で溶かした溶液を30℃にて測定した固有粘度(η)が0.05〜20dL/gであることが好ましく、1.0〜10dL/gの間に有るものがより好ましい。
また芳香族ポリアミド(X)を重合する際の溶媒として、(i)N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム等の有機極性アミド系溶媒、(ii)テトラヒドロフラン、ジオキサン等の水溶性エーテル化合物、(iii)メタノール、エタノール、エチレングリコール等の水溶性アルコール系化合物、(iv)アセトン、メチルエチルケトン等の水溶性ケトン系化合物、(v)アセトニトリル、プロピオニトリル等の水溶性ニトリル化合物等があげられる。これらの溶媒は2種以上の混合溶媒として使用することも可能であり、特に制限されることはない。該溶媒は脱水されていることが望ましい。
【0017】
この場合、溶解性を挙げるために重合前、途中、終了時に一般に公知の無機塩を適当量添加しても差し支えない。このような無機塩として例えば、塩化リチウム、塩化カルシウム等が挙げられる。
また、芳香族ポリアミドを製造する際、これらのジアミン成分と酸クロライド成分は、ジアミン成分対酸クロライド成分のモル比として好ましくは0.90〜1.10、より好ましくは0.95〜1.05で、用いることが好ましい。
【0018】
この芳香族ポリアミドの末端は封止されることもできる。末端封止剤を用いて封止する場合、その末端封止剤としては、例えばフタル酸クロライドおよびその置換体、アミン成分としてはアニリンおよびその置換体が挙げられる。一般に用いられる酸クロライドとジアミンの反応においては生成する塩化水素のごとき酸を捕捉するために脂肪族や芳香族のアミン、第4級アンモニウム塩を併用できる。反応の終了後、必要に応じて塩基性の無機化合物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム等を添加し中和反応する。
【0019】
反応条件は特別な制限を必要としない。酸クロライドとジアミンとの反応は、一般に急速であり、反応温度は例えば−25℃〜100℃好ましくは−10℃〜80℃である。このようにして得られる芳香族ポリアミドはアルコール、水といった非溶媒に投入して、沈殿せしめ、パルプ状にして取り出すことができる。これを再度他の溶媒に溶解して成形に供することもできるが、重合反応によって得た溶液をそのまま成形用溶液として用いることができる。
【0020】
成形体はフィルム状であることが好ましい。
【0021】
<組成物>
本発明の組成物は、1重量部の窒化ホウ素ナノチューブ(A)、1〜2,000重量部の下記式(1)
―NH―Ar―NH―OC―Ar―CO― (1)
(式(1)中、Ar、Arは同一または異なり、炭素数6〜20の2価の芳香族基を示す)
で表される繰り返し単位から主としてなる芳香族ポリアミド(X)および1〜100,000重量部の有機溶剤(B)を含有する。
本発明の組成物において、窒化ホウ素ナノチューブ(A)、芳香族ポリアミド(X)は、成形体の項で説明したものと同じである。
【0022】
有機溶剤(B)として、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチルカプロラクタム、ジメチルスルホキシド、N−アセチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド等、100%硫酸、りん酸、ポリりん酸、メタンスルホン酸等の酸溶媒が挙げられる。これらの有機溶剤は単独で用いても、2種以上を混合して用いることもできる。これらの有機溶剤は、窒化ホウ素ナノチューブ(A)を分散させるのに好ましい液体である。
【0023】
また、分散性を阻害しない範囲において(i)水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等の1価アルコール、(ii)エチレングリコール、プロピレングリコール等の2価アルコール、(iii)グリセリン等の3価アルコール、(iv)アセトン等のケトン類、(v)テトラヒドロフラン等の環状エーテル、(vi)1,2−ジクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素、(vii)クロロホルム等のハロアルカン、(viii)1−メチルナフタレン等の置換複素環化合物を含んでいてもさしつかえない。
該組成物は、1重量部の窒化ホウ素ナノチューブ(A)に対し、芳香族ポリアミド(X)を1〜2,000重量部、好ましくは4〜1,000重量部含有する。
本発明の組成物は、1重量部の窒化ホウ素ナノチューブ(A)に対して、有機溶剤(B)を、1〜100,000重量部、好ましくは4〜50,000重量部、さらに好ましくは9〜10,000重量部含有する。
【0024】
<組成物の製造方法>
本発明の組成物(ドープ)は、例えば、(i)芳香族ポリアミド(X)の溶媒溶液に、固体の窒化ホウ素ナノチューブ(A)を添加する、(ii)芳香族ポリアミド(X)の溶媒溶液と窒化ホウ素ナノチューブ(A)の溶媒溶液とを混合する、(iii)窒化ホウ素ナノチューブ(A)の溶媒溶液に固体の芳香族ポリアミド(X)を添加する、(iv)窒化ホウ素ナノチューブ(A)の溶媒溶液中で、芳香族ポリアミド(X)のIn-situ重合を行う等の方法により製造することができる。
しかし、単に窒化ホウ素ナノチューブ(A)と芳香族ポリアミド(X)とを混合するだけでは、分散性に優れた組成物を得ることは困難である。
【0025】
そこで本発明らは、窒化ホウ素ナノチューブ(A)の分散性を向上させる方法について検討したところ、窒化ホウ素ナノチューブ(A)の溶媒溶液に少量の芳香族ポリアミド(C)を分散剤として添加すると、窒化ホウ素ナノチューブ(A)の分散性が飛躍的に向上することを見出した。
すなわち、本発明によれば、(1)1重量部の窒化ホウ素ナノチューブ(i)と、1〜100,000重量部の有機溶剤(B)とを混合して混合液を得る工程、
(ii)混合液にポリマー(C)を、1重量部の窒化ホウ素ナノチューブ(A)に対して0.01〜100重量部添加して分散液を得る工程、
(iii)分散液に芳香族ポリアミド(X)を添加する工程、
からなる上記記載の組成物の製造方法が提供される。
【0026】
以下本方法を説明する。
【0027】
(混合液を得る工程)
1重量部の窒化ホウ素ナノチューブ(A)と、1〜100,000重量部の有機溶剤(B)とを混合して混合液を得る工程である。窒化ホウ素ナノチューブ(A)、有機溶剤(B)は、組成物の項で説明したものと同じである。
窒化ホウ素ナノチューブ(A)を有機溶剤(B)に混合する際には、特に限定されないが超音波や各種攪拌方法を用いることができる。攪拌方法としては、ホモジナイザーのような高速攪拌やアトライター、ボールミル等の攪拌方法も使用することができる。なかでも超音波処理装置が好ましい。
有機溶剤(B)は、1重量部の窒化ホウ素ナノチューブ(A)に対して1〜100,000重量部、好ましくは4〜50,000重量部、より好ましくは9〜10,000重量部使用する。
【0028】
(分散液を得る工程)
混合液に芳香族ポリアミド(C)を、1重量部の窒化ホウ素ナノチューブ(A)に対して0.01〜100重量部添加して分散液を得る工程である。
芳香族ポリアミド(C)は、窒化ホウ素ナノチューブ(A)の有機溶剤(B)中での分散剤として作用し、少量の芳香族ポリアミド(C)添加するによって窒化ホウ素ナノチューブ(A)の分散性が極めて向上する。また分散している状態を長期にわたって保持することができる。この理由については、明らかではないが窒化ホウ素ナノチューブ(A)の間に分散剤が均一に挿入された状態となり、窒化ホウ素ナノチューブ(A)の凝集が抑制されるものと推定される。
【0029】
芳香族ポリアミド(C)として好ましくは、下記式(1)
―NH―Ar―NH―OC―Ar―CO― (1)
(式(1)中、Ar、Arは同一または異なり、炭素数6〜20の2価の芳香族基を示す)
で表される繰り返し単位から主としてなる芳香族ポリアミドが挙げられる。
上記Ar、Arは、各々独立に炭素数6〜20の2価の芳香族基であるが、その具体例としては、メタフェニレン基、パラフェニレン基、オルトフェニレン基、2,6−ナフチレン基、2,7−ナフチレン基、4,4’−イソプロピリデンジフェニレン基、4,4’−ビフェニレン基、4,4’−ジフェニレンスルフィド基、4,4’−ジフェニレンスルホン基、4,4’−ジフェニレンケトン基、4,4’−ジフェニレンエーテル基、3,4’−ジフェニレンエーテル基、メタキシリレン基、パラキシリレン基、オルトキシリレン基等が挙げられる。
【0030】
これらの芳香族基の水素原子のうち1つまたは複数がそれぞれ独立にフッ素、塩素、臭素等のハロゲン基;メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数5〜10のシクロアルキル基;フェニル基等の炭素数6〜10の芳香族基で置換されていてもよい。なお、上記式(A)および/又(B)の構成単位が、2種以上の芳香族基からなる共重合体であっても差し支えない。
Arとして、メタフェニレン基、パラフェニレン基または3,4’−ジフェニレンエーテル基が好ましい。Arとして、メタフェニレン基またはパラフェニレン基が好ましい。
【0031】
すなわち本発明において好適に用いられるものとして具体的には、(i)Arがパラフェニレン基および3,4’−ジフェニレンエーテル基であり、Arがパラフェニレン基である共重合体であって、その共重合比(Arのパラフェニレン基と3,4’−ジフェニレンエーテル基のモル比)が1:0.8〜1:1.2の範囲にある芳香族ポリアミド、(ii)ArとArがともにパラフェニレン基である芳香族ポリアミド、(iii)ArとArがともにメタフェニレン基である芳香族ポリアミドを挙げることが出来る。
【0032】
式(1)で表される繰り返し単位は全繰り返し単位の好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上である。
これらの芳香族ポリアミドは溶液重合法、界面重合法、溶融重合法など従来公知の方法にて製造することが出来る。重合度は芳香族ジアミン成分と芳香族ジカルボン酸成分の比率によりコントロールすることが出来、得られるポリマーの分子量としては98重量%濃硫酸に0.5g/100mLの濃度で溶かした溶液を30℃にて測定した固有粘度(η)が0.05〜20dL/gであることが好ましく、1.0〜10dL/gの間に有るものがより好ましい。
芳香族ポリアミド(C)は、芳香族ポリアミド(X)と同じであることが好ましい。芳香族ポリアミド(C)は、1重量部の窒化ホウ素ナノチューブ(A)に対して、0.01〜100重量部、好ましくは0.1〜50重量部、さらに好ましくは0.1〜20重量部添加する。
【0033】
(芳香族ポリアミド(X)の添加工程)
分散液に芳香族ポリアミド(X)を添加する工程である。芳香族ポリアミド(X)は1重量部の窒化ホウ素ナノチューブ(A)に対して、1〜2,000重量部から(ii)で添加した分を引いた量、好ましくは4〜1,000重量部添加する。芳香族ポリアミド(X)は成形体の項で説明したものと同じである。
芳香族ポリアミド(X)は分散液に、溶融若しくは固体の状態で添加しても、また溶媒に溶解した状態で添加してもよい。溶媒に溶解して添加する場合には、使用する溶媒として、有機溶剤(B)と同じものが好ましい。
芳香族ポリアミド(X)は、超音波や各種攪拌方法を用いて分散液中で均一にさせることが好ましい。攪拌方法としては、ホモジナイザーのような高速攪拌やアトライター、ボールミル等の攪拌方法も使用することができる。なかでも超音波処理を行うことが好ましい。分散液と芳香族ポリアミド(X)とを混合する方法としては、特に限定はされないが、超音波や各種攪拌方法を使用することができる。
【0034】
(成形体の製造)
本発明は、前述の組成物を成形したのち、溶媒を除去することからなる成形体の製造方法を包含する。例えばフィルムの場合、ガラス、金属といった基板上にキャストして成形したのち、乾式製膜あるいは湿式製膜、乾式製膜と湿式製膜の併用によりフィルムを作製することが可能である。また繊維の場合は、湿式、乾式、乾式湿式の併用いずれを用いても良い。紡糸工程において、流動配向、液晶配向、せん断配向、又は延伸配向させる事により芳香族ポリアミドおよび窒素ホウ素ナノチューブの配向を高め機械特性を向上させる事が出来る。得られた成形体を延伸または、熱処理することによりさらに物性が向上する。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明方法をさらに詳しく具体的に説明する。ただしこれらの実施例により本発明の範囲が限定されるものではない。物性は以下の方法で測定した。
【0036】
(1)窒化ホウ素ナノチューブの平均直径と平均長さ
透過型電子顕微鏡(TEM)により50点以上窒化ホウ素ナノチューブを観察し、その直径と長さの平均をとることで窒化ホウ素ナノチューブの平均直径および平均長さとした。
(2)強伸度測定
強伸度は、50mm×10mmのサンプルを用い、引張速度5mm/分で行いオリエンテックUCT−1Tによって測定した。
(3)TEM(Transmission Electron Microscopy)
TEMは日立製作所 H−800を用いて測定した。またTEM写真から窒化ホウ素ナノチューブの径を測定しその平均を平均径として算出した。
(4)熱膨張係数
熱膨張係数は、TAインストルメント製TA2940を用いて50〜200℃の範囲で測定し、セカンドスキャンの値を熱膨張係数とした。
【0037】
<参考例1>(窒化ホウ素ナノチューブの合成)
窒化ホウ素製のるつぼに、1:1のモル比でホウ素と酸化マグネシウムを入れ、るつぼを高周波誘導加熱炉で1300℃に加熱した。ホウ素と酸化マグネシウムは反応し、気体状の酸化ホウ素(B)とマグネシウムの蒸気が生成した。この生成物をアルゴンガスにより反応室へ移送し、温度を1100℃に維持してアンモニアガスを導入した。酸化ホウ素とアンモニアが反応し、窒化ホウ素が生成した。1.55gの混合物を十分に加熱し、副生成物を蒸発させると、反応室の壁から310mgの白色の固体が得られた。続いて得られた白色固体を濃塩酸で洗浄、イオン交換水で中性になるまで洗浄後、60℃で減圧乾燥を行い窒化ホウ素ナノチューブ(以下、BNNTと略すことがある)を得た。得られたBNNTは、平均直径が27.6nm、平均長さが2,460nmのチューブ状であった。
【0038】
<実施例1>
(分散液の調製)
参考例1で得られたBNNT100mgをN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略すことがある)50mlに添加して、3周波超音波洗浄器(アズワン製、出力100W、28Hz)で30分間、超音波処理を行い混合液を調製した。続いて、混合液に固有粘度1.35dl/gのポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)(以下、PMPIAと略すことがある)100mgに添加し、さらに1時間、超音波処理し、分散液を得た。
【0039】
(ドープの調製)
上記で調製した分散液をアイスバスで冷却し、固有粘度1.35dl/gのPMPIA 10gを冷却下添加し、分散させた後、熱をかけてPMPIAを溶解し、PMPIA、BNNTおよびNMPを含有するドープを調製した。
【0040】
(フィルムの製造)
得られたドープを、ドクターブレード200μを用いて、ガラス基板上にキャストした後、80℃で1時間、130℃で1時間乾燥させ、ガラス基板上に乾燥フィルムを得た。乾燥フィルムを氷水に浸漬し、ガラス基板から剥離させ、金枠に固定し、80℃で1時間、130℃で1時間乾燥することでフィルムを得た。フィルムの厚みは20μm、熱膨張係数は42ppm、引張弾性率は4.1GPa、強度は57.8MPaであった。フィルムの光学顕微鏡写真を図1に示す。窒化ホウ素ナノチューブの分散性が非常に高いことがいえる。
【0041】
<比較例>
NMP50gをアイスバスで冷却し、固有粘度1.35dl/gのPMPIA 10gを冷却下添加し、分散させた後、熱をかけてPMPIAを溶解し、ドープを調製した。ドープをドクターブレード200μを用いて、ガラス基板上にキャストした後、80℃で1時間、130℃で1時間乾燥させガラス基板上に乾燥フィルムを得た。乾燥フィルムを氷水に浸漬し、ガラス基板から剥離させ、金枠に固定し、80℃で1時間、130℃で1時間乾燥させフィルムを得た。得られたフィルムの厚みは20μm、熱膨張係数は49.0ppm、引張弾性率は3.7GPa、強度は43.7MPaであった。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施例1で得られたフィルムの光学顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1重量部の窒化ホウ素ナノチューブ(A)および1〜2,000重量部の下記式(1)
―NH―Ar―NH―OC―Ar―CO― (1)
(式(1)中、Ar、Arは同一または異なり、炭素数6〜20の2価の芳香族基を示す)
で表される繰り返し単位から主としてなる芳香族ポリアミド(X)を含む成形体。
【請求項2】
式(1)のArが、
【化1】

であり、
Arが、
【化2】

である請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
フィルム状である請求項1記載の成形体。
【請求項4】
1重量部の窒化ホウ素ナノチューブ(A)、1〜2,000重量部の下記式(1)
―NH―Ar―NH―OC―Ar―CO― (1)
(式(1)中、Ar、Arは同一または異なり、炭素数6〜20の2価の芳香族基を示す)
で表される繰り返し単位から主としてなる芳香族ポリアミド(X)および1〜100,000重量部の有機溶剤(B)を含有する組成物。
【請求項5】
(i)1重量部の窒化ホウ素ナノチューブ(A)と、1〜100,000重量部の有機溶剤(B)とを混合して混合液を得る工程、
(ii)混合液に芳香族ポリアミド(C)を、1重量部の窒化ホウ素ナノチューブ(A)に対して0.01〜100重量部添加して分散液を得る工程、および
(iii)分散液に下記式(1)
―NH―Ar―NH―OC―Ar―CO― (1)
(式(1)中、Ar、Arは同一または異なり、炭素数6〜20の2価の芳香族基を示す)
で表される繰り返し単位から主としてなる芳香族ポリアミド(X)添加する工程からなる請求項4に記載の組成物の製造方法。
【請求項6】
芳香族ポリアミド(C)が、芳香族ポリアミド(X)と同じ芳香族ポリアミドである請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
請求項4記載の組成物を成形したのち、溶媒を除去することからなる成形体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−138037(P2007−138037A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−334386(P2005−334386)
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】