説明

芳香族ポリマーイオン交換膜及びその複合膜の酸性電解液フローエネルギー貯蔵電池への応用

本発明は酸性電解液フローエネルギー貯蔵電池に使用されるポリマーイオン交換膜を提供する。該ポリマーイオン交換膜は含窒素複素環含有芳香族ポリマー、特にポリベンズイミダゾール類ポリマーである。膜中の含窒素複素環が電解液中の酸と相互作用して、供与体−受容体のプロトン伝導ネットワークを形成することにより、膜のプロトン伝導性を保持する。該膜の製造条件が温和で、製造プロセスが簡単であるため、工業化に有利である。該膜は酸性電解液フローエネルギー貯蔵電池、特に全バナジウムフローエネルギー貯蔵電池に適用できる。該膜は優れた機械安定性と熱安定性を有し、全バナジウムレドックスフロー電池において優れたプロトン伝導性と優れたバナジウムイオン浸透バリア性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸性電解液フローエネルギー貯蔵電池セパレータに関し、具体的には、芳香族ポリマーイオン交換膜及びその複合膜の酸性電解液フローエネルギー貯蔵電池への応用に関する。
【背景技術】
【0002】
酸性電解液を含有するフローエネルギー貯蔵電池は新型電気化学エネルギー貯蔵技術であり、エネルギー変換効率が高く、システムの設計の融通性が高く、電力貯蔵容量が大きく、位置が自由に選定でき、深放電可能で、安全または環境にやさしく、維持費が低いなどの利点があるので、エネルギーを大規模に、かつ高効率的に貯蔵するのに好適な技術の一つである。特に全バナジウムフローエネルギー貯蔵電池は安全性が高く、安定性が良好で、効率が良好で、寿命が長くて(寿命>15年)、コストが低いなどの利点があるので、フローエネルギー貯蔵電池のうち最も有望で代表的なエネルギー貯蔵電池であると考えられる。
【0003】
イオン交換膜はフローエネルギー貯蔵電池の重要な一部であり、正極側の電解液と負極側の電解液を分離する機能と、正極側の電解液と負極側の電解液とのイオン伝導チャンネルの機能を発揮する。そのため、イオン交換膜が優れたイオン伝導性、イオン選択性及び化学安定性があることが要求される。Skyllas-kazacosらはある商業用膜を評価した結果、あるパーフルオロスルホン酸膜(例えばFlemion、Nationなど)が十分安定的な総合的性能がある以外、その他の膜(例えばSelemionCMV、CMS、AMV、DMV、ASS、DSVなど)が酸性のバナジウム溶液に対して十分安定ではない(J. Appl Electrochem、2004、34(2):137)ことを見出した。しかし、研究によると、商業用パーフルオロスルホン酸膜は強い機械強度と化学安定性があるが、全バナジウムフローエネルギー貯蔵電池に使用する時、バナジウムイオンの浸透率が高く、充放電過程中に、正極と負極の間で著しい水輸送現象が起きる。また、パーフルオロスルホン酸膜の製造プロセスが複雑で、製造条件が苛酷で、高価であるので、全バナジウムフローエネルギー貯蔵電池の実用化及び工業化を著しく制限する。
【0004】
含窒素複素環含有芳香族ポリマーイオン交換膜は優れた機械性能、熱安定性及び化学安定性があるので、様々な分野で広く注目されている。特に高温燃料電池において、酸がドープされた含窒素複素環含有芳香族類ポリマー膜は良好な応用展望がある。酸と含窒素複素環とはプロトンを伝導できる供与体−受容体の網状構造を形成することができるため、このような膜は通常良好なプロトン移動性がある。しかし、燃料電池が長期にわたって動作する過程において、膜の中にドープされた酸が漏れることがあるので、プロトン移動率を低下させて、電池性能を低下させてしまった。
【0005】
酸性電解液フロー電池は強い酸性環境にあるので、酸が膜の中から漏れるという問題が発生することがない。このようなポリマーは優れた機械安定性及び化学安定性があることから、フロー電池に適用することができる。
【発明の概要】
【0006】
本発明は芳香族ポリマーイオン交換膜及びその複合膜の酸性電解液フローエネルギー貯蔵電池への応用、特に全バナジウムフローエネルギー貯蔵電池への応用に関する。このような芳香族ポリマーに、酸と相互作用して供与体−受容体網状構造を形成することができる含窒素複素環を有する。該網状構造がプロトンを伝導して、膜のイオン伝導率を保持することができる。このような膜材料は優れた熱安定性、化学安定性及び良好なイオン伝導性があるため、様々な応用分野で使用されることができ、特に酸性電解液フローエネルギー貯蔵電池におけるイオン交換膜として使用するのに好適である。
【0007】
本発明に記載の含窒素複素環含有芳香族ポリマーはベンズイミダゾール、ビニルイミダゾール、ピリジン、ビニルピリジン、ピラゾール、ピリミジン、チアゾール、ベンゾチアゾール、オキサゾール、ベンゾオキサゾール、オキサジアゾール、キノリン、キノキサリン、チアジアゾール、プリンから選ばれる一種又は複数種のモノマーのホモポリマー又はコポリマーである。前記ポリマーの一部は下記式で表される。
【化1】


(式中、nは正の整数であり、10≦n≦200であり、Rは下記式で表される基から選ばれる一種であり、
【化2】

【0008】
は水素原子、C〜Cアルキル基又はC〜Cアルケニル基から選ばれる一種である)
【0009】
本発明に記載の前記含窒素複素環含有芳香族ポリマーはホモポリマー又はコポリマーである。以下、ポリベンズイミダゾールを例として、その構造を詳細に説明する。
【0010】
前記ポリベンズイミダゾールホモポリマーは下記一般式で表される。
【化3】

【0011】
前記ポリベンズイミダゾールコポリマーは下記一般式で表される。
【化4】

【0012】
(式中、xは正の整数であり、10≦x≦200であり、R、R及びRは下記式で表される基から選ばれる一種であり、
【化5】

【0013】
とRは、水素原子、C〜Cアルキル基又はC〜Cアルケニル基から選ばれる一種であり、
【0014】
mとnは、それぞれ異なる構造単位のモル%であり、0<n≦0.8、0.2≦m<1、m+n=1である)
【0015】
前記ポリベンズイミダゾールホモポリマーは下記一般式で表されるポリアリールエーテルベンズイミダゾールイオン交換膜である。
【化6】

【0016】
(式中、Rは下記式で表される基から選ばれる一種であり、
【化7】

【0017】
は下記式で表される基から選ばれる一種である)
【化8】

【0018】
前記ポリベンズイミダゾールコポリマーは下記一般式で表されるピリジル基含有ポリベンズイミダゾール類コポリマーイオン交換膜である。
【化9】

【0019】
ポリマーはランダムコポリマーであり、xは正の整数であり、10≦x≦200であり、mとnは、それぞれ異なる構造単位のモル%であり、0<n≦0.8、0.2≦m<1、m+n=1であり、このようなポリマーの重量平均分子量は5000〜800000であり、Rは下記式で表される基から選ばれる一種であり、
【化10】

【0020】
は下記式で表される基から選ばれる一種である。
【化11】

【0021】
(式中、RとRは、それぞれ水素原子、C〜Cアルキル基又はC〜Cアルケニル基から選ばれる一種であり、RとRは、同じでも異なってもよい)
また、本発明に記載のコポリマーはランダムコポリマーであってもよく、ブロックコポリマーであってもよい。
【0022】
また、本発明に記載のコポリマーは含窒素複素環構造が異なるコポリマーであってもよく、例えばポリオキサジアゾールとポリベンズイミダゾールとのコポリマー、ポリトリアゾールとポリベンズイミダゾールとのコポリマー等が挙げられるが、以下の構造に限定されない。
【化12】


(式中、nは正の整数であり、10≦n≦200であり、Rは下記式で表される基から選ばれる一種であり、
【化13】

【0023】
は水素原子、C〜Cアルキル基又はC〜Cアルケニル基から選ばれる一種である)
【0024】
本発明に記載の含窒素複素環含有芳香族ポリマーは求核重縮合反応により得られる[Progress in Polymer Science 34(2009)449-477]。
【0025】
本発明に記載のイオン交換膜は前記構造のポリマーを使用して溶液流延法により得られるものである。その製造方法は関連の特許又は文献報告を参照することができる。異なるポリマーはその溶解性に応じて適宜な溶剤を選択し、ポリマーを溶解してなるポリマー溶液を直接ガラス板又はそのほかの平板上に流延し、所定の温度で乾燥、揮発することにより、芳香族ポリマーイオン交換膜が得られる。芳香族ポリマーイオン交換膜を濃度0.1〜25mol/Lの強酸性溶液に浸漬し、浸漬時間が0.05〜1000時間で、溶液温度が5〜100℃で、芳香族ポリマーイオン交換膜の厚さが0.1〜200μmであり、酸をドープした後、ポリマーの繰り返し単位ごとに1以上の強酸分子を含む。
【0026】
前記のような含窒素複素環類ポリマー膜材料のほか、本発明は前記含窒素複素環類ポリマーに基づく複合膜材料にも関する。その複合膜材料は有機−無機複合膜材料と有機−有機複合膜材料を含む。
【0027】
本発明に記載の有機−無機複合膜材料の有機相は前記含窒素複素環類ポリマーであり、無機相は無機ナノ粒子で、シリカ、酸化チタン、酸化ジルコニウムなどの無機酸化物ナノ粒子を含み、且つ、リン酸ジルコニウム、ヘテロポリ酸などのそのほかの無機ナノ粒子も含むが、これらに限定されない。芳香族ポリマーに占める無機粒子の質量が0.1〜40%であるように、有機/無機複合イオン交換膜を製造する。イオン交換膜を濃度0.1〜25mol/Lの強酸性溶液に浸漬し、浸漬時間が0.05〜1000時間で、溶液温度が5〜100℃で、芳香族ポリマーイオン交換膜の厚さが0.1〜200μmであり、酸をドープした後、ポリマーの繰り返し単位ごとに1以上の強酸分子を含む。
【0028】
前記有機無機複合イオン交換膜の有機相は下記一般式で表されるポリベンズイミダゾール類高分子材料である。
【化14】

【0029】
(式中、nは正の整数であり、10≦n≦200であり、Rは下記式で表される基から選ばれる一種であり、
【化15】

【0030】
とRは、それぞれ水素原子、C〜Cアルキル基又はC〜Cアルケニル基から選ばれる一種であり、RとRは、同じでも異なってもよい)
本発明に記載の有機−無機複合膜材料は、汎用な溶液流延法により得られることができ、無機粒子は直接混合する方法により得られてもよく、その場ゾルゲル法により得られてもよく、これらに限定されない。
【0031】
本発明に記載の有機−有機複合膜材料は、含窒素複素環類ポリマーのほかに、もう一つの成分である含スルホン酸型ポリマー材料を含む。例えばパーフルオロスルホン酸ポリマー、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリプロピレン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリアリールエーテルスルホン、スルホン化ポリアリールスルホン、スルホン化ポリフェニレンエーテル、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリアーリルエーテルケトンから選ばれる一種又は複数種が挙げられる。芳香族ポリマーに占めるスルホン酸型ポリマーの質量が0.1〜50%であるように、有機/有機複合イオン交換膜を製造する。イオン交換膜を濃度0.1〜25mol/Lの強酸性溶液に浸漬し、浸漬時間が0.05〜1000時間で、溶液温度が5〜100℃で、芳香族ポリマーイオン交換膜の厚さが0.1〜200μmであり、酸をドープした後、ポリマーの繰り返し単位ごとに1以上の強酸分子を含む。このような複合膜は、スルホン酸基と含窒素複素環との相互作用により、イオンが互いに浸透することを効率的に回避することができ、膜の粒子選択性を向上できることを特徴とする。
【0032】
発明の効果
1)本発明は芳香族ポリマー膜を酸性電解液フローエネルギー貯蔵電池のイオン交換膜として使用する。該膜は酸性電解液を伝導媒質として使用し、酸とポリマーにおける含窒素複素環とは供与体−受容体構造を形成でき、且つグロッタスホッピング機構(Grotthuss hopping mechanism)によりプロトンを伝導する(図1参照)。プロトン伝導過程中に、極低水輸送率と超高イオン選択透過性を有するため、正極側、負極側の電解液分布の不均一及び自己放電現象が著しく低減され、電解液の使用寿命を効率的に延長することができ、本発明により製造されたイオン交換膜材料が良好な成膜性を有する。
2)本発明により製造されたイオン交換膜は優れた熱安定性、機械安定性及び酸化安定性を有する。
3)本発明に使用される膜材料は構造安定または低価で、酸性電解液フローエネルギー貯蔵電池の長期安定使用および大規模商業化開発に有利である。
4)本発明により製造されたイオン交換膜は優れたイオン伝導性を有する。
5)本発明により製造されたイオン交換膜は優れたイオン選択性を有するため、フローエネルギー貯蔵電池における両側の誘電体の交差汚染を回避することができる。
6)本発明により製造された有機無機複合イオン交換膜を酸性フローエネルギー貯蔵電池に使用すると、イオン伝導性を効率的に向上できるとともに、高いイオン選択性も保持できる。
7)本発明により製造された有機−有機複合イオン交換膜は膜の機械安定性と化学安定性を効率的に向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】含窒素複素環芳香族類ポリマーのプロトン伝導機構図である。
【図2】実施例1で製造されたポリマーイオン交換膜の全バナジウムフローエネルギー貯蔵電池の充放電曲線図である。
【図3】実施例2で製造されたポリマーの赤外線スペクトル図である。
【図4】実施例2で製造されたポリマーイオン交換膜の応力−歪み図である。
【図5】実施例2で製造されたポリマーイオン交換膜の全バナジウムフローエネルギー貯蔵電池の充放電曲線図である。
【図6】実施例6で製造されたポリマーの赤外線スペクトル図である。
【図7】実施例6で製造されたポリマーイオン交換膜の応力−歪み図である。
【図8】実施例6で製造されたポリマーイオン交換膜の全バナジウムフローエネルギー貯蔵電池の充放電曲線図である。
【図9】実施例10で製造されたポリマーのNMRスペクトル図である。
【図10】実施例10で製造されたポリマーイオン交換膜の熱重量曲線図である。
【図11】実施例10で製造されたポリマーイオン交換膜の全バナジウムフローエネルギー貯蔵電池の充放電曲線図である。
【図12】実施例13で製造されたポリマーイオン交換膜の全バナジウムフローエネルギー貯蔵電池の充放電曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0035】
比較例:
デュポン社製Nafion 115膜を使用して、全バナジウムフローエネルギー貯蔵電池を組み立て、触媒層が活性炭フェルトで、バイポーラ板が黒鉛板であり、有効膜面積が9cm-2で、電流密度が80mAcm-2で、電解液におけるバナジウムイオンの濃度が1.50molL-1で、HS0濃度が3molL-1である。電池の電流効率が94.8%で、電圧効率が88.9%で、エネルギー効率が84.5%である。
【0036】
実施例1
下記構造のポリベンズイミダゾール(重量平均分子量約50000)1gをΝ,Ν−ジメチルアセトアミドに溶解して、5質量%のポリマー溶液を調製した。溶液をガラス板に流延し、膜流延用ナイフで平たくした。80℃で20時間乾燥した後、膜をガラス板から取り外した。乾燥したポリマー膜を室温で4M硫酸に浸漬して5時間処理した。上記イオン交換膜を使用して、全バナジウムフローエネルギー貯蔵電池を組み立て、触媒層が活性炭フェルトで、バイポーラ板が黒鉛板で、有効膜面積が9cm-2で、電流密度が80mAcm-2で、電解液におけるバナジウムイオンの濃度が1.50molL-1で、HS0濃度が3molL-1である。電流効率が99.34%で、電圧効率が82.17%で、エネルギー効率が81.6%である。電池の充放電曲線を図2に示す。図2に示されるように、充電時間と放電時間はほぼ同じで、放電が非常に穏やかであることがわかる。商業用Nafion 115膜と比べて、ポリベンズイミダゾールイオン交換膜はエネルギー効率がほぼ同じである条件下、クーロン効率が5%向上した。膜のバナジウム浸透率が非常に低く、バナジウムイオンの相互浸透を効率的に回避することができ、クーロン効率が向上することがわかる。
【化16】


実施例中、nはポリマーの構造単位数を表し、10≦n≦200である。
【0037】
実施例2
五酸化二リン3.4gをポリりん酸34gに溶解した後、500mlの三口フラスコに入れ、昇温、攪拌して透明溶液を形成した後、ビフェニルテトラアミン6mmol、4,4′−ジカルボキシジフェニルエーテル6mmolを添加し、攪拌しながら、200℃まで昇温し、20時間反応した後、降温し、5%の水酸化ナトリウム含有溶液に入れた。24時間放置した後、溶液が中性になるように、水で十分洗浄した。ろ過、オーブン乾燥した。得られたポリマーをDMSOに溶解させて、4wt%の溶液を調製し、得られた溶液をガラス板に流延させた後、膜流延用ナイフで平たくした。80℃で20時間乾燥した後、膜をガラス板から取り外した。乾燥したポリマー膜を室温で4M硫酸に浸漬して5時間処理して、厚さ約35μmの下記構造単位を有するポリベンズイミダゾールイオン交換膜が得られた。
【化17】


実施例中、nはポリマーの構造単位数を表し、10≦n≦200である。
ポリマーの赤外線スペクトル図を図3に示し、図3により、製造されたポリマーの構造が同定された。ポリマー膜の応力−歪み曲線を図4に示す。膜の延伸強度が121.9Mpaで、弾性率が3.5GPaであり、良好な機械性能を有する。実施例1に記載のポリマーと比べて、分子量が高く(重量平均分子量約120000)、化学安定性が高い。このようなポリマーはエーテル結合を導入することにより、ポリマーの溶解性と加工性能を効率的に向上することができる。
製造されたポリベンズイミダゾールイオン交換膜を使用して、全バナジウムフローエネルギー貯蔵電池を組み立て、触媒層が活性炭フェルトで、バイポーラ板が黒鉛板で、有効膜面積が9cm-2で、電流密度が80mAcm-2で、電解液におけるバナジウムイオンの濃度が1.50molL-1で、HS0濃度が3molL-1である。電流効率が99.2%で、電圧効率が80.6%で、エネルギー効率が80.2%である。電池の充放電曲線を図5に示し、図5に示されるように、充電時間と放電時間がほぼ同じであり、放電が非常に穏やかであり、膜のバナジウム浸透率が非常に低いであることがわかる。
【0038】
実施例3
ポリベンズイミダゾールの構造が下記式で表される構造で(重量平均分子量約50000)、ポリマー溶剤がメチルスルホン酸で、揮発温度が140℃である以外、実施例2と同様に操作する。
【化18】


実施例中、nはポリマーの構造単位数を表し、10≦n≦200である。
【0039】
実施例4
ポリベンズイミダゾールの構造が下記式で表される構造で(重量平均分子量約70000)、ポリマー溶剤がメチルスルホン酸で、揮発温度が140℃である以外、実施例3と同様に操作する。
【化19】


実施例中、nはポリマーの構造単位数を表し、10≦n≦200である。
【0040】
実施例5
ポリベンズイミダゾールの構造が下記式で表される構造で(重量平均分子量約40000)、ポリマー溶剤がメチルスルホン酸で、揮発温度が140℃である以外、実施例3と同様に操作する。
【化20】


実施例中、nはポリマーの構造単位数を表し、10≦n≦200である。
【0041】
実施例6
五酸化二リン3.4gをポリりん酸34gに溶解した後、500mlの三口フラスコに入れ、昇温、攪拌して透明溶液を形成した後、ビフェニルテトラアミン6mmol、2,6−ピリジンジカルボン酸1.2mmol、4,4′−ジカルボキシジフェニルエーテル4.8mmolを添加し、攪拌しながら、200℃まで昇温し、20時間反応した後、降温し、5%の水酸化ナトリウム含有溶液に入れた。24時間放置した後、溶液が中性になるように、水で十分洗浄した。ろ過、オーブン乾燥した。得られたポリマーをDMSOに溶解させて、4wt%の溶液を調製し、得られた溶液をガラス板に流延させた後、膜流延用ナイフで平たくした。80℃で20時間乾燥した後、膜をガラス板から取り外した。乾燥したポリマー膜を室温で4M硫酸に浸漬して5時間処理して、厚さ約35μmの20wt%のピリジン構造単位を含有するポリベンズイミダゾールイオン交換膜が得られ、ポリマーの重量平均分子量が約60000である。図6が製造されたポリマーの赤外線スペクトル図であり、図6により、製造されたポリマーの構造が同定された。膜の応力−歪み曲線を図7に示し、膜の延伸強度が90Mpaで、弾性率が3GPaで、良好な機械性能を有する。
【化21】


(式中、mとnは、それぞれ異なる構造単位のモル%であり、0<n≦0.8、0.2≦m<1、m+n=1である)
上記ポリベンズイミダゾールイオン交換膜を使用して、全バナジウムフローエネルギー貯蔵電池を組み立て、触媒層が活性炭フェルトで、バイポーラ板が黒鉛板で、有効膜面積が9cm-2で、電流密度が80mAcm-2で、電解液におけるバナジウムイオンの濃度が1.50molL-1で、HS0濃度が3molL-1である。電流効率が99.3%で、電圧効率が86.2%で、エネルギー効率が85.6%である。電池の充放電曲線を図8に示し、図8に示されるように、充電時間と放電時間がほぼ同じであり、放電が非常に穏やかであり、膜のバナジウム浸透率が非常に低いであることがわかる。実施例1、2と比べて、該ポリマーは良い溶解性を維持する上、ピリジル基を導入することにより、イオン交換膜のプロトン伝導性を効率的に向上することができる。電池性能において、電圧効率が大幅に向上され、実施例2におけるピリジル基を含まないポリマーイオン交換膜より5%向上した。
【0042】
実施例7
ポリマーを下記構造のポリベンズイミダゾールコポリマーに変更する以外、実施例6と同様に操作する。
【化22】


(式中、mとnは、それぞれ異なる構造単位のモル%であり、0<n≦0.8、0.2≦m<1、m+n=1である。)
【0043】
実施例8
ポリマーを下記構造のポリベンズイミダゾールコポリマーに変更する以外、実施例7と同様に操作する。
【化23】


(式中、mとnは、それぞれ異なる構造単位のモル%であり、0<n≦0.8、0.2≦m<1、m+n=1である。)
【0044】
実施例9
ポリマーを下記構造のポリベンズイミダゾールコポリマーに変更する以外、実施例8と同様に操作する。
【化24】


(式中、mとnは、それぞれ異なる構造単位のモル%であり、0<n≦0.8、0.2≦m<1、m+n=1である。)
【0045】
実施例10
硫酸ヒドラジンとポリりん酸とを1:10のモル比で500mlの三口フラスコに添加し、160℃まで昇温し、恒温した後、硫酸ヒドラジンとの割合が1:1.2であるように4,4′−ジカルボキシアニソールを添加し、160℃で4時間反応し、降温した後、5%の水酸化ナトリウム含有溶液に入れた。24時間放置した後、溶液が中性になるように、水で十分洗浄した。ろ過、オーブン乾燥した。重量平均分子量約100000のポリマーが得られた。得られたポリマーをNMPに溶解させて、4%の溶液を調製し、得られた溶液をガラス板に流延させた後、膜流延用ナイフで平たくした。80℃で20時間乾燥した後、膜をガラス板から取り外した。乾燥したポリマー膜を室温で4M硫酸に浸漬して5時間処理して、厚さ約35μmのポリオキサジアゾール基イオン交換膜が得られた。図9が製造されたポリマーのNMRスペクトル図であり、製造されたポリマーの構造が同定された。膜の熱重量曲線が図10に示し、図10に示されるように、良好な熱安定性を有することがわかる。
該ポリマーイオン交換膜を使用して、全バナジウムフローエネルギー貯蔵電池を組み立て、触媒層が活性炭フェルトで、バイポーラ板が黒鉛板で、有効膜面積が6cm-2で、電流密度が50mAcm-2で、電解液におけるバナジウムイオンの濃度が1.50molL-1で、HS0濃度が3molL-1である。組み立てられたフロー電池の電流効率が97.9%で、電圧効率が83.6%で、エネルギー効率が81.9%である。電池の充放電曲線を図11に示し、図11に示されるように、充電時間と放電時間はほぼ同じであり、放電が非常に穏やかであり、膜のバナジウム浸透率が低いであることがわかる。ポリベンズイミダゾール類ポリマーイオン交換膜と比べて、このようなポリマー膜のプロトン伝導率が低い。
【化25】


実施例中、nはポリマーの構造単位数を表し、10≦n≦200である。
【0046】
実施例11
ポリマーをポリビニルイミダゾールに変更する以外、実施例10と同様に操作する。
【0047】
実施例12
ポリマーをポリオキサジアゾールとポリベンズイミダゾールとのコポリマーに変更する以外、実施例11と同様に操作する。
【化26】


(式中、mとnは、それぞれ異なる構造単位のモル%であり、0<n≦0.8、0.2≦m<1、m+n=1である。)
【0048】
実施例13
ナノシリカ0.2gをDMSO 20mlに溶解した後、得られたものを250mlのコニカルフラスコに入れ、次に、1mlのTween 80を添加し、1時間攪拌して、透明溶液を形成した。実施例2に記載の構造のポリベンズイミダゾール2gを上記溶液に添加し、50℃〜100℃まで昇温し、溶液が透明になるまで攪拌した。溶液をガラス板に流延させた後、膜流延用ナイフで平たくした。80℃で20時間乾燥した後、膜をガラス板から取り外した。乾燥したポリマー膜を室温で4M硫酸に浸漬して5時間処理して、厚さ約35μmの複合イオン交換膜が得られた。
製造された複合膜を使用して、全バナジウムフローエネルギー貯蔵電池を組み立て、触媒層が活性炭フェルトで、バイポーラ板が黒鉛板で、有効膜面積が9cm-2で、電流密度が80mAcm-2で、電解液におけるバナジウムイオンの濃度が1.50molL-1で、HS0濃度が3molL-1である。電流効率が99.3%で、電圧効率が83.6%で、エネルギー効率が84.2%である。電池の充放電曲線を図12に示し、図12に示されるように、充電時間と放電時間がほぼ同じで、放電が非常に穏やかであり、膜のバナジウム浸透率が非常に低いことがわかる。実施例2と比べて、製造された10%シリカ含有ポリベンズイミダゾール複合イオン交換膜のエネルギー効率と電圧効率とも著しく向上した。実施例2で製造されたポリベンズイミダゾールイオン交換膜と複合膜を3M硫酸溶液に浸漬し、その膨潤率がそれぞれ29.85%と40.19%であり、10%向上した。シリカを導入することにより、膜の酸吸収性能を効率的に向上できるとともに、膜の全バナジウムフローエネルギー貯蔵電池体系における内部抵抗を低減し、電圧効率が向上する。
【0049】
実施例14
無機粒子を二酸化チタンに変更する以外、実施例13と同様に操作する。
【0050】
実施例15
無機粒子を二酸化ジルコニウムに変更する以外、実施例14と同様に操作する。
【0051】
実施例16
ポリベンズイミダゾールをΝ,Ν−ジメチルアセトアミドに溶解して、10質量%のポリマー溶液を調製した。得られたポリマー溶液を5%のNa型Nafion(登録商標)スルホン酸型樹脂を均一に混合した後、60℃で溶剤を揮発させて、ポリマー膜が得られた。ポリマー膜を160℃の真空オーブンに入れて、3時間熱処理した。離型した後、熱処理した膜を脱イオン水に100時間放置して洗浄し、残留不純物を除き、オーブン乾燥した。上記処理を経た膜を5M/Lの硫酸に浸漬し、室温で48時間酸処理した。
【0052】
実施例17
使用するスルホン化樹脂がスルホン化ポリアーリルエーテルケトンであること以外、実施例16と同様に操作する。
【0053】
実施例18
使用するスルホン化樹脂がスルホン化ポリアリールエーテルスルホンであること以外、実施例17と同様に操作する。
使用するスルホン化樹脂がスルホン化ポリフェニレンエーテルであること以外、実施例17と同様に操作する。
【0054】
実施例19
使用するスルホン化樹脂がスルホン化ポリプロピレンであること以外、実施例16と同様に操作する。
本発明のイオン交換膜材料は、含窒素複素環含有芳香族ポリマー、特にポリベンズイミダゾール類ポリマーを含み、且つ構造中の含窒素複素環が電解液中の酸と相互作用することができ、供与体−受容体のプロトン伝導ネットワークを形成することにより、膜のプロトン伝導性を保持することを特徴とする。このようなイオン交換膜の製造条件が温和で、製造プロセスが簡単で、工業化に有利である。本発明は特にこのような膜の酸性電解液フローエネルギー貯蔵電池への応用、特に全バナジウムフローエネルギー貯蔵電池への応用に関する。製造されたイオン交換膜は優れた機械安定性と熱安定性を有し、全バナジウムレドックスフロー電池において優れたプロトン伝導性と優れたバナジウムイオン浸透バリア性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリマーイオン交換膜及びその複合膜の酸性電解液フローエネルギー貯蔵電池への応用であって、前記芳香族ポリマーは、含窒素複素環含有芳香族ポリマーであり、該含窒素複素環含有芳香族ポリマーは、ベンズイミダゾール、ビニルイミダゾール、ピリジン、ビニルピリジン、ピラゾール、ピリミジン、チアゾール、ベンゾチアゾール、オキサゾール、ベンゾオキサゾール、オキサジアゾール、キノリン、キノキサリン、チアジアゾール、テトラプリンから選ばれる一種又は複数種のモノマーのホモポリマー又はコポリマーであることを特徴とする、芳香族ポリマーイオン交換膜及びその複合膜の酸性電解液フローエネルギー貯蔵電池への応用。
【請求項2】
芳香族ポリマーイオン交換膜が、含窒素複素環含有芳香族ポリマーであるポリベンズイミダゾール、ポリビニルイミダゾール、ポリピリジン、ポリビニルピリジン、ポリピラゾール、ポリピリミジン、ポリチアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリオキサゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリオキサジアゾール、ポリキノリン、ポリキノキサリン、ポリチアジアゾール、ポリテトラプリンから選ばれる一種又は複数種からなるイオン交換膜である、請求項1に記載の応用。
【請求項3】
前記芳香族ポリマーが、下記一般式で表されるポリベンズイミダゾールホモポリマーであるか、
【化27】


又は、前記芳香族ポリマーが、下記一般式で表されるポリベンズイミダゾールコポリマーである
【化28】


(式中、R、R及びRは下記式で表される基から選ばれる一種であり、
【化29】


とRは、水素原子、C〜Cアルキル基又はC〜Cアルケニル基から選ばれる一種であり、
xはポリマーの構造単位数を表し、10〜200の正の整数であり、
ポリマーの重量平均分子量は5000〜800000であり、コポリマーの構造中、mとnは、それぞれ異なる構造単位のモル%であり、0<n≦0.8、0.2≦m<1、m+n=1である)
、請求項1に記載の応用。
【請求項4】
前記ポリベンズイミダゾールホモポリマーが、下記一般式で表されるポリアリールエーテルポリベンズイミダゾールイオン交換膜である、請求項3に記載の応用。
【化30】


(式中、Rは下記式で表される基から選ばれる一種の基であり、
【化31】


nは正の整数であり、10≦n≦200であり、Rは下記式で表される基から選ばれる一種である
【化32】

【請求項5】
前記ポリベンズイミダゾールコポリマーが、下記一般式で表されるピリジル基含有ポリベンズイミダゾール類コポリマーイオン交換膜である、請求項3に記載の応用。
【化33】


(ポリマーはランダムコポリマーであり、mとnは、それぞれ異なる構造単位のモル%であり、0<n≦0.8、0.2≦m<1、m+n=1であり、このようなポリマーの重量平均分子量は5000〜800000であり、Rは下記式で表される基から選ばれる一種であり、
【化34】


は下記式で表される基から選ばれる一種であり、
【化35】


式中、RとRは、それぞれ水素原子、C〜Cアルキル基又はC〜Cアルケニル基から選ばれる一種であり、RとRは、同じでも異なってもよい)
【請求項6】
前記芳香族ポリマーイオン交換膜の厚さが、10〜200μmであり、芳香族ポリマーイオン交換膜を形成した後、芳香族ポリマーイオン交換膜を濃度0.1〜25mol/Lの硫酸、リン酸、硝酸又は塩酸である強酸性溶液に0.05〜1000時間浸漬し、ここで溶液温度が5〜100℃である、請求項1に記載の応用。
【請求項7】
前記複合膜が、無機粒子の質量が芳香族ポリマーの0.1〜40%であるように、芳香族ポリマーイオン交換膜に無機粒子であるシリカ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、リン酸ジルコニウムから選ばれる一種又は複数種をドープしてなる有機/無機複合イオン交換膜であり、芳香族ポリマーイオン交換膜の厚さが0.1〜200μmであり、
成膜した後、イオン交換膜を濃度0.1〜25mol/Lの硫酸、リン酸、硝酸又は塩酸である強酸性溶液に0.05〜1000時間浸漬し、ここで溶液温度が5〜100℃である、請求項1に記載の応用。
【請求項8】
前記有機無機複合イオン交換膜が、無機相と有機相からなり、無機相と有機相との質量比が(2〜30):100であり、
前記有機相が下記一般式で表されるポリベンズイミダゾール類高分子材料である、請求項7に記載の応用。
【化36】


(式中、nは正の整数であり、10≦n≦200であり、Rは下記式で表される基から選ばれる一種であり、
【化37】


ここで、RとRは、それぞれ水素原子、C〜Cアルキル基又はC〜Cアルケニル基から選ばれる一種であり、RとRは、同じでも異なってもよい)
【請求項9】
前記複合膜が、スルホン酸型ポリマーの質量が芳香族ポリマーの0.1〜50%であるように、芳香族ポリマーイオン交換膜にスルホン酸型ポリマーであるパーフルオロスルホン酸ポリマー、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリプロピレン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリアリールエーテルスルホン、スルホン化ポリアリールスルホン、スルホン化ポリフェニレンエーテル、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリアーリルエーテルケトンから選ばれる一種又は複数種をドープしてなる有機/有機複合イオン交換膜であり、芳香族ポリマーイオン交換膜の厚さが0.1〜200μmであり、
成膜した後、イオン交換膜を濃度0.1〜25mol/Lの硫酸、リン酸、硝酸又は塩酸である強酸性溶液に0.05〜1000時間浸漬し、ここで溶液温度が5〜100℃である、請求項1に記載の応用。
【請求項10】
前記酸性電解液フローエネルギー貯蔵電池が、全バナジウムフローエネルギー貯蔵電池、鉄・クロムフローエネルギー貯蔵電池、亜鉛・臭素フローエネルギー貯蔵電池、亜鉛・セリウムフローエネルギー貯蔵電池又は多硫化ナトリウム/臭素フローエネルギー貯蔵電池を含む、請求項1に記載の応用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2013−507742(P2013−507742A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533463(P2012−533463)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【国際出願番号】PCT/CN2010/074501
【国際公開番号】WO2011/044778
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(503190796)中国科学院大▲連▼化学物理研究所 (6)
【出願人】(512096919)大連融科儲能技術発展有限公司 (1)
【Fターム(参考)】