説明

芳香族ポリマー組成物の水酸基含有量の調整方法

【課題】電子部品材料、電気部品材料、機械部品材料等として有用な芳香族ポリマーの水酸基含有量を、簡便かつ迅速な方法で任意に制御する、芳香族ポリマー組成物の水酸基含有量の調整方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される化合物を、酸化還元酵素の存在下に酸化重合することで得られる、下記一般式(2)及び/又は(3)を繰返し単位として有するフェノールポリマーの中から、水酸基含有量の異なる二種類以上のフェノールポリマーを混合することを特徴とする芳香族ポリマー組成物の水酸基含有量の調整方法。
[化1]


(式中Rは、水素原子又はアルキル基あるいはアルコキシ基を表す。mは1〜4の整数を表し、m個のRは同一でも異なってもよい。kは1〜4の整数を表し、k個のRは同一でも異なってもよい。lは1〜3の整数を表し、l個のRは同一でも異なってもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二種類以上の水酸基含有量の異なる芳香族ポリマーを混合することにより、芳香族ポリマー組成物の水酸基含有量を調整する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール誘導体を重合して得られるフェノールポリマー、又はナフトール誘導体を重合して得られるナフトールポリマーは、エンジニアリングプラスチックとして有用であり、他のポリマー、添加剤等と混合することで、さらに機械的強度、耐熱性、電気的特性及び化学的特性に優れた樹脂とすることができる。このようにして得られた樹脂は、加工適性に優れており、電子部品材料、電気部品材料、機械部品材料等、広範な用途に用いられる。
【0003】
これらのフェノールポリマー又はナフトールポリマーを各種エンジニアプラスチックとして用いる場合には、一般的にこれらポリマーを変性するため、反応点となる水酸基の制御が極めて重要となる。
【0004】
一方、酵素を用いた化合物の重合は、酵素の高い基質特異性を利用した反応であることから目的物を効率よく製造でき、コスト低減に有利である。また、温和な条件下での反応であるため、消費するエネルギーが少なくてすみ、環境負荷を低くすることができるなど優れた方法である。
このような酵素を用いた化合物の重合で得られた芳香族ポリマーとしては、モノマーがその芳香環上の炭素原子間で結合し、その結果できた分子中にフェノール性水酸基を有するフェニレンユニット(以下、ヒドロキシフェニレンユニットと略記)又はナフタレンユニット(以下、ヒドロキシナフタレンユニットと略記)と、一方のモノマーの芳香環上の炭素原子と、他方のモノマーのフェノール性水酸基との間で結合が生じ、その結果できた分子中にフェノール性水酸基を有しないオキシフェニレンユニット又はオキシオキシナフタレンユニットの両方を構成単位とするものが知られている(特許文献1参照)。
しかしながら、用途に適した物性を有するように、該芳香族ポリマーのオキシフェニレンユニットとヒドロキシフェニレンユニットとの比、又はオキシナフタレンユニットとヒドロキシナフタレンユニットとの比を任意に制御できるものではなかった。
【0005】
そこで、酵素を用いて重合されたフェノールポリマーの水酸基含有量を調製する方法として、フェノール誘導体の重合条件を制御することにより、フェノールポリマーのオキシフェニレンユニットとヒドロキシフェニレンユニットとの比を制御する方法が提案されている(特許文献2及び3参照)。この方法は、フェノール誘導体を、有機溶媒と水との混合溶媒中で重合する際に、この混合比を変化させることで、ヒドロキシフェニレンユニットとオキシフェニレンユニットとの比率が異なるフェノールポリマーを得て、更に得られた重合反応生成物をアルコールと水との混合溶媒を加えて析出させることにより取り出す製造方法である。
【特許文献1】特開2000−044675号公報
【特許文献2】特開2000−041690号公報
【特許文献3】特開2002−155132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2及び3に記載の方法では、フェノールポリマーの収率が低いことから製造に時間を要するため、望まれる水酸基含有量を有するフェノールポリマーを迅速に製造することができず、また、重合反応を制御してヒドロキシフェニレンユニットとオキシフェニレンユニットとの比率を調整する為、精密な製造工程管理が必要であった。
【0007】
上記問題点に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、電子部品材料、電気部品材料、機械部品材料等として有用な芳香族ポリマーの水酸基含有量を、簡便かつ迅速な方法で任意に制御する、芳香族ポリマー組成物の水酸基含有量の調整方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、基質と酵素の組合せにより、得られるフェノール乃至ナフトールポリマーのヒドロキシフェニレンユニットとオキシフェニレンユニットとの比率を容易に変化させ、かつそのような異なる比率を有するフェノール乃至ナフトールポリマーを安定的に生産することができることを見出し、これら水酸基含有量の異なるフェノールポリマー又はナフトールポリマーを、その混合比を適宜調整して混合することで、ポリマー組成物の水酸基含有量を幅広い範囲に渡って任意に制御できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の第一の発明は、下記一般式(1)で表される化合物を、酸化還元酵素の存在下に酸化重合することで得られる、下記一般式(2)及び/又は(3)を繰返し単位として有するフェノールポリマーの中から、水酸基含有量の異なる二種類以上のフェノールポリマーを混合することを特徴とする芳香族ポリマー組成物の水酸基含有量の調整方法である。
【0010】
【化1】

【0011】
(式中Rは、水素原子又はアルキル基あるいはアルコキシ基を表し、mは1〜4の整数を表し、m個のRは同一でも異なってもよい。)
【0012】
【化2】

【0013】
(式中Rは、水素原子又はアルキル基あるいはアルコキシ基を表し、kは1〜4の整数を表し、k個のRは同一でも異なってもよい。)
【0014】
【化3】

【0015】
(式中Rは、水素原子又はアルキル基あるいはアルコキシ基を表し、lは1〜3の整数を表し、l個のRは同一でも異なってもよい。)
【0016】
また、本発明の第二の発明は、下記一般式(4)及び/又は(5)で表される化合物を、酵素の存在下に重合することで得られる、下記一般式(6)〜(9)で表されるものから選ばれる少なくとも一種を繰返し単位として有するナフトールポリマーの中から、水酸基含有量の異なる二種類以上のナフトールポリマーを混合することを特徴とする芳香族ポリマー組成物の水酸基含有量の調整方法である。
【0017】
【化4】

【0018】
(式中Rは、水素原子又はアルキル基あるいはアルコキシ基あるいはカルボキシ基を表し、nは1〜6の整数を表し、n個のRは同一でも異なってもよい。)
【0019】
【化5】

【0020】
(式中Rは、水素原子又はアルキル基あるいはアルコキシ基あるいはカルボキシ基を表し、nは1〜6の整数を表し、n個のRは同一でも異なってもよい。)
【0021】
【化6】

【0022】
(式中Rは、水素原子又はアルキル基あるいはアルコキシ基あるいはカルボキシ基を表し、pは1〜6の整数を表し、p個のRは同一でも異なってもよい。)
【0023】
【化7】

【0024】
(式中Rは、水素原子又はアルキル基あるいはアルコキシ基あるいはカルボキシ基を表し、qは1〜5の整数を表し、q個のRは同一でも異なってもよい。)
【0025】
さらに、本発明の第三の発明は、下記一般式(1)で表される化合物を、酸化還元酵素の存在下に酸化重合することで得られる、下記一般式(2)及び/又は(3)を繰返し単位として有するフェノールポリマーと、下記一般式(4)及び/又は(5)で表される化合物を、酵素の存在下に重合することで得られ、下記一般式(6)〜(9)で表されるものから選ばれる少なくとも一種を繰返し単位として有するナフトールポリマーの中から、水酸基含有量の異なる二種類以上のポリマーを混合することを特徴とする芳香族ポリマー組成物の水酸基含有量の調整方法である。
【0026】
【化8】

【0027】
(式中Rは、水素原子又はアルキル基あるいはアルコキシ基を表し、mは1〜4の整数を表し、m個のRは同一でも異なってもよい。)
【0028】
【化9】

【0029】
(式中Rは、水素原子又はアルキル基あるいはアルコキシ基を表し、kは1〜4の整数を表し、k個のRは同一でも異なってもよい。)
【0030】
【化10】

【0031】
(式中Rは、水素原子又はアルキル基あるいはアルコキシ基を表し、lは1〜3の整数を表し、l個のRは同一でも異なってもよい。)
【0032】
【化11】

【0033】
(式中Rは、水素原子又はアルキル基あるいはアルコキシ基あるいはカルボキシ基を表し、nは1〜6の整数を表し、n個のRは同一でも異なってもよい。)
【0034】
【化12】

【0035】
(式中Rは、水素原子又はアルキル基あるいはアルコキシ基あるいはカルボキシ基を表し、nは1〜6の整数を表し、n個のRは同一でも異なってもよい。)
【0036】
【化13】

【0037】
(式中Rは、水素原子又はアルキル基あるいはアルコキシ基あるいはカルボキシ基を表し、pは1〜6の整数を表し、p個のRは同一でも異なってもよい。)
【0038】
【化14】

【0039】
(式中Rは、水素原子又はアルキル基あるいはアルコキシ基あるいはカルボキシ基を表し、qは1〜5の整数を表し、q個のRは同一でも異なってもよい。)
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、特定の水酸基含有量を有するフェノールポリマー又はナフトールポリマーを、簡便に幅広い範囲に渡って任意に得ることができる。また、基準品として予め製造され用意された、水酸基含有量の異なる2種類以上のフェノールポリマー又はナフトールポリマーを任意の割合で調合することによって、様々な水酸基含有量の芳香族ポリマー組成物を迅速に提供することができる。
さらに、本発明によれば、簡便に芳香族ポリマー組成物の水酸基含有量を幅広い範囲に渡って任意に調整できるため、加工適性に優れ、電子部品材料、電気部品材料、機械部品材料等としてより一層優れた物性の芳香族ポリマー組成物を安価に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明において、「水酸基含有量」とは、「芳香族ポリマーもしくは芳香族ポリマー組成物1kg中における水酸基の量(mol)」を言うものとする。
本発明は、フェノールポリマーの繰返し単位である一般式(2)で表されるオキシフェニレンユニットと一般式(3)で表されるヒドロキシフェニレンユニットの比、あるいはナフトールポリマーの繰返し単位である一般式(6)及び/又は(7)で表されるオキシナフタレンユニットと一般式(8)及び/又は(9)で表されるヒドロキシナフタレンユニットの比が異なる2種類以上のフェノールポリマー及び/又はナフトールポリマーを任意の割合で混合することによって、得られる芳香族ポリマー組成物中の水酸基含有量を任意の割合に調整することができる。
【0042】
◎調整方法1
本発明の芳香族ポリマー組成物の水酸基含有量の調整方法は、前記一般式(1)で表される化合物を、酸化還元酵素の存在下に酸化重合することで得られる、前記一般式(2)及び/又は(3)を繰返し単位として有するフェノールポリマーの中から、水酸基含有量の異なる二種類以上のフェノールポリマーを混合することを特徴とする。
ここで、Rは、水素原子又はアルキル基あるいはアルコキシ基を表し、m及びkは1〜4の整数を表し、lは1〜3の整数を表す。また、m個のRは同一でも異なってもよく、k個のRは同一でも異なってもよく、l個のRは同一でも異なってもよい。
【0043】
がアルキル基又はアルコキシ基である場合には、直鎖状、分岐状、環状のいずれでも良く、炭素数1〜4のアルキル基又はアルコキシ基であることが好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基及びシクロブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基、あるいは、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基及びtert−ブトキシ基等の炭素数1〜4のアルコキシ基を好ましいものとして挙げることができる。なかでも、メチル基及びメトキシ基が好ましい。
【0044】
がアルキル基又はアルコキシ基である場合には、その芳香環上の置換位置は特に限定されない。
また、Rがアルキル基又はアルコキシ基である場合には、mは1であること、すなわち、モノマーは芳香環上の一つの水素原子がアルキル基又はアルコキシ基で置換されたフェノールであることが好ましい。
【0045】
前記フェノールポリマーが有する一般式(2)及び(3)で表される構成単位の、該ポリマー中における結合順序は、特に限定されない。
【0046】
本発明で用いるフェノールポリマーにおいては、前記一般式(1)で表されるモノマー同志が結合する位置は特に限定されず、繰り返し単位が前記一般式(2)で表されるものである場合には、フェノール性水酸基の酸素原子と、フェノール性水酸基及びRが結合していない1位〜6位のいずれか一つの炭素原子がモノマー同士の結合に関与する。また、繰り返し単位が前記一般式(3)で表されるものである場合には、フェノール性水酸基及びRが結合していない1位〜6位のいずれか二つの炭素原子がモノマー同士の結合に関与する。
【0047】
本発明では、酸化還元酵素の存在下に前記一般式(1)で表されるモノマーを酸化重合することで得られるフェノールポリマーを用いる。このような製造方法で得られたフェノールポリマーは、その水酸基含有量が大きく変動することはなく安定しているため、二種類以上を混合して水酸基含有量の調整を行うにあたり好適である。
酸化還元酵素を用いた重合反応、重合反応後の後処理及び取り出し等の条件は特に限定されず、従来公知の方法に従って行うことができる。
【0048】
本発明で用いる酸化還元酵素は、酸化重合能を有する酵素であるが、なかでもオキシダーゼ又はペルオキシダーゼが好ましい。これらオキシダーゼ、ペルオキシダーゼは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
オキシダーゼとしては、例えば、ラッカーゼ、カテコールオキシダーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、ビリルビンオキシダーゼ、チロシナーゼ及びポリフェノールオキシダーゼ等を挙げることができ、これらの中でも、ラッカーゼが好ましい。本発明において、用いるオキシダーゼは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
ラッカーゼは、植物、動物及び微生物に広く存在することが知られており、種々の起源のものを用いることができるが、植物由来、微生物由来のラッカーゼが好ましい。
植物由来のラッカーゼとしては、漆の木由来のラッカーゼが好ましい。また、微生物由来のラッカーゼとしては、細菌、真菌(糸状菌及び酵母を含む)に由来するものが好ましいものとして挙げられるが、真菌のうち白色腐朽菌等の担子菌類や子のう菌類に由来するラッカーゼが、特に好ましいものとして挙げられる。
【0051】
このような、特に好ましいラッカーゼとしては、アスペルギルス(Aspergillus)属;ニューロスポラ(Neurospora)属;ピリキュラリア・オリザエ(P.oryzae)等のピリキュラリア(Pyricularia)属;トラメテス・ビローサ(T.villosa)、トラメテス・バーシカラー(T.versicolor)等のホウロクタケ(Trametes)属;リゾクトニア・ソラニ(R.solani)等のリゾクトニア(Rhizoctonia)属;コプリヌス・シネレウス(C.cinereus)等のコプリヌス(Coprinus)属;コリオルス・ヒルスツス(C.hirsutus)、コリオルス・バーシカラー(C.versicolor)等のコリオルス(Coriolus)属に由来するものが挙げられる。
また、市販されているラッカーゼとしては、例えば、「ラッカーゼダイワ EC−Y120」(商品名;大和化成株式会社製)等が挙げられる。
本発明において、これらのラッカーゼは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
ペルオキシダーゼとしては、前記と同様種々の起源のものを用いることできるが、植物由来、細菌由来あるいは担子菌由来のものが好ましく、西洋ワサビ由来又は担子菌由来のものが特に好ましい。このようなペルオキシダーゼとして、マンガンペルオキシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、大豆ペルオキシダーゼ、リグニンペルオキシダーゼが好ましく、マンガンペルオキシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼが特に好ましい。
また、本発明において、これらのペルオキシダーゼは、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0053】
マンガンペルオキシダーゼとしては、例えば、ファネロカエテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)、ファネロカエテ・ソルディダ(Phanerochaete sordida)、カイガラタケ(Lenzites betulinus)、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)、シイタケ(Lentinus edodes)等の担子菌類が生産するリグニン分解酵素を挙げることができる。これらのマンガンペルオキシダーゼは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
本発明において、酸化還元酵素としてマンガンペルオキシダーゼを用いる場合には、重合反応時に2価マンガンを用いる必要がある。
2価マンガンとしては、マンガンの酸化数が+2であるマンガン化合物を用いればよく、特に限定されない。このようなものとして、例えば、硫酸マンガンを挙げることができる。
また、2価マンガンの添加量は、用いる基質の種類に応じて適宜調整すればよい。
【0055】
これら酸化還元酵素の使用量は、用いる該酵素の酵素活性により適宜調整すればよい。
また、反応条件は、基質濃度、酸化還元酵素の種類及び濃度に応じて適宜調整すればよいが、反応温度は比較的低温に設定することができ、5〜70℃とすることが好ましく、20〜60℃とすることが特に好ましい。pHは酸化還元酵素の種類に応じて適宜調整すればよいが、pH3.0〜8.0が好ましく、pH3.5〜7.0がより好ましい。また反応時間は30分〜24時間が好ましく、1時間〜20時間がより好ましい。また、反応時の撹拌方法は特に限定されず、振盪、回転子又は攪拌翼を用いた攪拌のいずれでもよい。本工程は、前記の条件を満たす攪拌条件であれば、水浴中又は気流中のいずれでおこなってもよい。
【0056】
酸化還元酵素を用いたフェノールポリマーの製造方法は特に限定されないが、具体的には、例えば、前記一般式(1)で表される化合物を、水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中で、酸化還元酵素の存在下に酸化重合する工程と、得られた重合反応生成物を溶媒抽出する工程と、を有する製造方法が好適である。
特に、m、k、lが1で、Rが炭素数1〜4のアルキル基又はアルコキシ基であり、その置換位置がフェノール性水酸基に対して4位である場合には、該製造方法により、一般式(2)で表される繰返し単位の数と一般式(3)で表される繰返し単位の数との比が40/60〜60/40であり、質量平均分子量(Mw)が2000以下、好ましくは1800以下、より好ましくは1500以下で、質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.3以下であるフェノールポリマーが好適に得られる。
【0057】
さらにこの製造方法によれば、Rがメチル基で、mが1である場合、すなわち、モノマーがクレゾールである場合には、o−クレゾールから得られるフェノールポリマーは、前記一般式(2)で表される繰返し単位の数の方が前記一般式(3)で表される繰返し単位の数よりも多くなる。すなわち、オキシフェニレンユニットを多く有し、水酸基含有量の小さいフェノールポリマーが得られる。具体的には、ヒドロキシフェニレンユニットとオキシフェニレンユニットとの構成比率が40:60〜10:90であるフェノールポリマーが好適に得られる。
一方、m−クレゾールから得られるフェノールポリマーは、前記一般式(3)で表される繰返し単位の数の方が前記一般式(2)で表される繰返し単位の数よりも多くなる。すなわち、ヒドロキシフェニレンユニットを多く有し、水酸基含有量の大きいフェノールポリマーが得られる。具体的には、ヒドロキシフェニレンユニットとオキシフェニレンユニットとの構成比率が80:20〜50:50であるフェノールポリマーが好適に得られる。
これに対し、p−クレゾールから得られるフェノールポリマーは、ヒドロキシフェニレンユニットとオキシフェニレンユニットとの構成比率に大きな差は見られず、水酸基含有量が中程度のフェノールポリマーが得られる。具体的には、ヒドロキシフェニレンユニットとオキシフェニレンユニットとの構成比率が60:40〜40:60であるフェノールポリマーが好適に得られる。
このようにして、クレゾールの異性体をモノマーとして使い分けることにより、得られるフェノールポリマーの水酸基含有量を調整することができ、これら異なる水酸基含有量のフェノールポリマーを混合することで、芳香族ポリマー組成物の水酸基含有量を容易に調整することができる。
【0058】
重合反応に用いる水溶液としては、緩衝液を好ましいものとして挙げることができ、例えば、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、マロン酸緩衝液、シュウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、酢酸緩衝液及びコハク酸緩衝液等が挙げられるが、なかでも、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液が好ましい。
【0059】
また、重合反応に用いる有機溶媒としては、種々のものを用いることができるが、アセトン又はアルコールが好ましく、なかでも、アセトン、イソプロパノールがより好ましい。これら有機溶媒は、単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
重合工程において、反応溶媒として水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒を用いる場合には、該混合溶媒中の有機溶媒の量がごく少量でも、重合反応を行うことができる。前記混合溶媒中の有機溶媒の量は、5体積%以下が好ましく、1体積%以下が特に好ましい。
【0060】
重合工程で得られた反応生成物は、目的物であるフェノールポリマーとその他の不純物との混合物なので、この混合物を含む反応液中からフェノールポリマーを溶媒抽出すると良い。
抽出に用いる溶媒は、有機溶媒が好ましい。具体的には、例えば、アセトン又はアルコールが好ましく、なかでも、アセトン、イソプロパノールがより好ましい。
【0061】
さらに、フェノールポリマーの製造に際しては、重合工程終了後引き続き、重合反応生成物を還元する工程を行うことができる。重合反応生成物中には、酸化反応によりフェノール性水酸基がカルボニル基に変換されたものが含まれていることがあるため、これらを還元することで、フェノールポリマーの収率をより向上させることができる。
この時用いる還元剤は特に限定されず、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、亜ジチオン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0062】
本発明においては、水酸基含有量の調整に用いる二種類以上のフェノールポリマーを得るためには、前記フェノールポリマーの製造方法において、異なる種類のモノマーを用いるか、同じ種類のモノマーを用いて重合反応条件等の製造条件を変えてフェノールポリマーを製造すればよい。例えば、モノマーとして前記のようにクレゾールを用いる場合は、メチル基の置換位置の異なる異性体を用いることで、水酸基含有量の異なるフェノールポリマーが得られる。
【0063】
本発明において、芳香族ポリマー組成物の水酸基含有量を調整するに際して、水酸基含有量の異なる二種類以上のフェノールポリマーを混合する方法は、特に限定されない。
具体的には、例えば、固体として取り出した水酸基含有量の異なる二種類以上のフェノールポリマーを混合しても良いし、水酸基含有量の異なる二種類以上のフェノールポリマーを各々溶媒中に溶解又は分散させたものを混合しても良い。さらに、固体として取り出したフェノールポリマーを、水酸基含有量の異なるフェノールポリマーを溶解又は分散させた溶媒中に添加しても良い。すなわち、混合方法は、混合時の温度、溶液又は分散液中のポリマー濃度等も含めて、混合するフェノールポリマーの物性及び混合されて水酸基含有量が調整されたフェノールポリマーの用途に応じて適宜選定すれば良い。
また、混合されたフェノールポリマーは、その用途に応じて、固体で用いても良いし、溶媒に溶解又は分散した状態で用いても良い。ただし、これらフェノールポリマーをさらに重合することは、水酸基含有量を任意に調整することが困難であるため、好ましくない。
【0064】
また、前記製造方法で得られた水酸基含有量既知のフェノールポリマーを、その混合比を適宜調整して混合することにより、芳香族ポリマー組成物の水酸基含有量を幅広い範囲に渡って任意に調整することができる。
調整できる水酸基含有量の範囲、すなわち、芳香族ポリマー組成物中のヒドロキシフェニレンユニットとオキシフェニレンユニットとの構成比率は、混合に用いるフェノールポリマーのヒドロキシフェニレンユニットとオキシフェニレンユニットとの構成比率によって決まる。すなわち、ヒドロキシフェニレンユニットとオキシフェニレンユニットとの構成比率の差が大きい二種類以上のフェノールポリマーを混合する方が、より幅広い範囲の構成比率を任意に選択して芳香族ポリマー組成物を得ることができる。
【0065】
◎調整方法2
また、本発明の芳香族ポリマー組成物の水酸基含有量の調整方法は、前記一般式(4)及び/又は(5)で表される化合物を、酵素の存在下に重合することで得られる、前記一般式(6)〜(9)で表されるものから選ばれる少なくとも一種を繰返し単位として有するナフトールポリマーの中から、水酸基含有量の異なる二種類以上のナフトールポリマーを混合することを特徴とする。
ここで、Rは、水素原子又はアルキル基あるいはアルコキシ基あるいはカルボキシ基を表し、n及びpは1〜6の整数を表し、qは1〜5の整数を表す。また、n個のRは同一でも異なってもよく、p個のRは同一でも異なってもよく、q個のRは同一でも異なってもよい。
【0066】
がアルキル基又はアルコキシ基である場合には、直鎖状、分岐状、環状のいずれでも良く、炭素数1〜4のアルキル基又はアルコキシ基であることが好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基及びシクロブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基、あるいは、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基及びtert−ブトキシ基等の炭素数1〜4のアルコキシ基を好ましいものとして挙げることができる。なかでも、メチル基及びメトキシ基が好ましい。
【0067】
がアルキル基又はアルコキシ基、あるいはカルボキシ基である場合は、その置換位置は、置換可能な水素原子が結合している芳香環上の炭素原子であれば特に限定されず、芳香環上の1位〜8位の炭素のいずれでも良い。
また、Rがアルキル基又はアルコキシ基である場合には、nは1であること、すなわち、モノマーは芳香環上の一つの水素原子がアルキル基又はアルコキシ基で置換されたナフトールであることが好ましい。
【0068】
前記ナフトールポリマーが有する一般式(6)〜(9)で表される繰返し単位の、該ポリマー中における結合順序は、特に限定されない。
【0069】
本発明で用いるナフトールポリマーにおいては、前記一般式(4)又は(5)で表されるモノマー同志が結合する位置は特に限定されず、繰り返し単位が前記一般式(6)又は(7)で表されるものである場合には、フェノール性水酸基の酸素原子と、フェノール性水酸基及びRが結合していない1位〜8位のいずれか一つの炭素原子がモノマー同士の結合に関与する。また、繰り返し単位が前記一般式(8)又は(9)で表されるものである場合には、フェノール性水酸基及びRが結合していない1位〜8位のいずれか二つの炭素原子がモノマー同士の結合に関与する。
【0070】
本発明では、酵素の存在下に前記一般式(4)及び/又は(5)で表されるモノマーを重合することで得られるナフトールポリマーを用いる。このような製造方法で得られたナフトールポリマーは、その水酸基含有量が大きく変動することはなく安定しているため、二種類以上を混合して水酸基含有量の調整を行うにあたり好適である。
酵素を用いた重合反応は、特に限定されず、従来公知の方法に従って行うことができ、酵素としては、例えば、従来公知の酸化還元酵素等を用いることができる。また、重合反応後の後処理及び取り出し等の条件も特に限定されず、従来公知の方法に従って行うことができる。
【0071】
酵素を用いたナフトールポリマーの製造方法は特に限定されないが、具体的には、例えば、前記一般式(4)及び/又は(5)で表される化合物を、水又は水溶液中で、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中で重合する工程と、得られた重合反応生成物を溶媒抽出する工程と、を有する製造方法(製造方法1とする)、前記一般式(4)及び/又は(5)で表される化合物を、水又は水溶液中で、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中で、酸化還元酵素の存在下に酸化重合する工程を有する製造方法(製造方法2とする)、前記一般式(4)及び/又は(5)で表される化合物を、水又は水溶液中で、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中で、酸化還元酵素の存在下に酸化重合する工程と、得られた重合反応生成物を溶媒抽出する工程と、を有する製造方法(製造方法3とする)が好適である。
【0072】
特に、Rが水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基もしくはアルコキシ基、あるいはカルボキシ基であり、n、p、qが1である場合には、製造方法1〜3により、好ましくは質量平均分子量が3000以下のナフトールポリマーが、より好ましくは質量平均分子量が3000以下で、かつ一般式(6)及び/又は(7)で表される繰返し単位の数と、一般式(8)及び/又は(9)で表される繰返し単位の数との比が5/95〜30/70であるナフトールポリマーが好適に得られる。すなわち、製造方法1〜3により、オキシナフタレンユニットを多く有し、水酸基含有量の小さいナフトールポリマーが好適に得られる。
【0073】
ナフトールポリマーの製造に際しては、製造方法1〜3のように、反応溶媒として水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒を用いる場合には、該混合溶媒中の有機溶媒の量がごく少量でも、モノマーの重合反応を行うことができる。前記混合溶媒中の有機溶媒の量は、5体積%以下が好ましく、1体積%以下がより好ましい。
また、質量平均分子量が3000以下程度の低分子量のナフトールポリマーは、有機溶媒への溶解度が大きいため、ナフトールポリマーの製造に際して重合反応生成物の抽出を行う場合には、抽出溶媒として用いる有機溶媒量を少なくすることができ、低分子量のナフトールポリマーを効率よく抽出することができる。
【0074】
本調整方法において、ナフトールポリマーの製造に用いる酵素が酸化還元酵素の場合には、調整方法1で述べたものを用いれば良く、ここでは、その詳細については省略する。
また、その他の重合工程及び抽出工程の条件は特に限定されず、従来公知の方法に従って行うことができ、調整方法1で述べた方法を好ましく用いることができる。
【0075】
さらに、ナフトールポリマーの製造に際しては、調整方法1同様、重合工程終了後引き続き、重合反応生成物を還元する工程を行うことができる。重合反応生成物中には、フェノール性水酸基がカルボニル基に変換されたものが含まれていることがあるため、これらを還元することで、フェノールポリマーの収率をより向上させることができる。
この時用いる還元剤は特に限定されず、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、亜ジチオン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0076】
本発明においては、水酸基含有量の調整に用いる二種類以上のナフトールポリマーを得るためには、前記ナフトールポリマーの製造方法において、異なる種類のモノマーを用いるか、同じ種類のモノマーを用いて重合反応条件等の製造条件を変えてナフトールポリマーを製造すればよい。
【0077】
本発明において、芳香族ポリマー組成物の水酸基含有量を調整するに際して、水酸基含有量の異なる二種類以上のナフトールポリマーを混合する方法は、特に限定されず、混合するものがナフトールポリマーであること以外は、調整方法1で述べた方法をそのまま適用すれば良い。
【0078】
前記製造方法で得られた水酸基含有量既知のナフトールポリマーを、その混合比を適宜調整して混合することにより、芳香族ポリマー組成物の水酸基含有量を幅広い範囲に渡って任意に調整することができる。
調整できる水酸基含有量の範囲、すなわち、芳香族ポリマー組成物中のヒドロキシナフタレンユニットとオキシナフタレンユニットとの構成比率は、調整方法1で述べたように、混合に用いるナフトールポリマーのヒドロキシナフタレンユニットとオキシナフタレンユニットとの構成比率の差が大きい二種類以上のナフトールポリマーを混合する方が、より幅広い範囲の構成比率を任意に選択して芳香族ポリマー組成物を得ることができる。
【0079】
◎調整方法3
さらに、本発明の芳香族ポリマー組成物の水酸基含有量の調整方法は、前記一般式(1)で表される化合物を、酸化還元酵素の存在下に酸化重合することで得られる、前記一般式(2)及び/又は(3)を繰返し単位として有するフェノールポリマーと、前記一般式(4)及び/又は(5)で表される化合物を、酵素の存在下に重合することで得られ、前記一般式(6)〜(9)で表されるものから選ばれる少なくとも一種を繰返し単位として有するナフトールポリマーの中から、水酸基含有量の異なる二種類以上のポリマーを混合することを特徴とする。
ここで、R及びR、k、l、m、n、p、qは前記と同一である。
【0080】
すなわち、調整方法1で述べた製造方法で得られたフェノールポリマーと、調整方法2で述べた製造方法で得られた、該フェノールポリマーの水酸基含有量とは異なる水酸基含有量を有するナフトールポリマーとを混合することにより、水酸基含有量の調整を行っても良い。
この時の、水酸基含有量の異なるフェノールポリマーとナフトールポリマーを混合する方法は、特に限定されず、混合するものがフェノールポリマーとナフトールポリマーであること以外は、調整方法1で述べた方法をそのまま適用すれば良い。そして、混合に用いるフェノールポリマーとナフトールポリマーの水酸基含有量の差が大きいほど、より幅広い範囲の水酸基含有量を任意に選択して芳香族ポリマー組成物を得ることができる。
【0081】
◎水酸基含有量の測定
水酸基含有量は、赤外線吸収スペクトルや核磁気共鳴スペクトル等の分光学的手法等の方法によって、ヒドロキシフェニレンユニットとオキシフェニレンユニット又はヒドロキシナフタレンユニットとオキシナフタレンユニットの比率から確認することができ、また、水酸基価滴定法等でも直接確認することができる。
【実施例】
【0082】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
(分析方法)
H−および13C−核磁気共鳴(NMR)スペクトルは、日本電子株式会社製JNM−LA300により測定した。また、赤外線スペクトルは日本分光株式会社製FT/IR−550により測定した。さらに、分子量は東ソー株式会社製GPC−8020により測定した。
【0083】
[調製例1]
◎ラッカーゼを用いたo−クレゾールの重合反応
500ml三角フラスコを用いて、50mMのクエン酸(和光純薬株式会社製特級試薬)緩衝液294mlをあらかじめ50℃に保温しておいた恒温槽中で攪拌し、この緩衝液の液温が50℃になってから、酵素触媒としてラッカーゼ粉末(大和化成株式会社製「ラッカーゼダイワ」)6.0gを加えて溶解させた。この溶液に、o−クレゾール(和光純薬株式会社製「o−クレゾール」)649mgをアセトン6mlに溶解した溶解液を添加して、50℃で20時間攪拌して、重合反応を行った。反応終了後、反応溶液から沈殿物を遠心分離にて回収し、さらに水で数回洗浄後、沈殿を回収し、これを凍結乾燥して、重合反応物646.7mgを得た。
【0084】
このようにして得られた重合反応物600mgに、アセトン40mlを加えて、室温にて2時間振盪攪拌した。これを15000rpmで20分間遠心分離を行い、アセトン抽出液からは、減圧濃縮によりアセトンを除去して、アセトン可溶成分370mgを得た。
【0085】
(アセトン可溶成分の分析)
アセトン可溶成分の分子量を測定したところ、重量平均分子量は1800であった。H−NMRにおける、8.2ppm付近のフェノール性水酸基由来のピークおよび6〜8ppm付近の芳香族由来のピークの面積比から求められる芳香族環対フェノール性水酸基の比は7.5:1であった。このことから、得られた重合反応物は、前記一般式(2)で表される繰返し単位の数と、前記一般式(3)で表される繰返し単位の数との比が、(2):(3)=85:15であるフェノールポリマー(以下、「フェノールポリマー(A)」と言う)であることがわかった。
【0086】
[調製例2]
◎ラッカーゼを用いたフェノールの重合反応
500ml三角フラスコを用いて、50mMのクエン酸(和光純薬株式会社製特級試薬)緩衝液294mlをあらかじめ50℃に保温しておいた恒温槽中で攪拌し、この緩衝液の液温が50℃になってから、酵素触媒としてラッカーゼ粉末(大和化成株式会社製「ラッカーゼダイワ」)6.0gを加えて溶解させた。この溶液に、フェノール(和光純薬株式会社製「フェノール」)565mgをアセトン6mlに溶解した溶解液を添加して、室温で6時間攪拌して、重合反応を行った。反応終了後、反応溶液から沈殿物を遠心分離にて回収し、さらに水で数回洗浄後、沈殿を回収し、これを凍結乾燥して、重合反応物486mgを得た。
【0087】
このようにして得られた重合反応物400mgに、アセトン40mlを加えて、室温にて2時間振盪攪拌した。これを15000rpmで20分間遠心分離を行い、アセトン抽出液からは、減圧濃縮によりアセトンを除去して、アセトン可溶成分32mgを得た。
【0088】
(アセトン可溶成分の分析)
アセトン可溶成分の分子量を測定したところ、重量平均分子量は1500であった。H−NMRにおける、8.2ppm付近のフェノール性水酸基由来のピークおよび6〜8ppm付近の芳香族由来のピークの面積比から求められる芳香族環対フェノール性水酸基の比は1:4であった。このことから、得られた重合反応物は、前記一般式(2)で表される繰返し単位の数と、前記一般式(3)で表される繰返し単位の数との比が、(2):(3)=25:75であるフェノールポリマー(以下、「フェノールポリマー(B)」と言う)であることがわかった。
【0089】
[実施例1〜4]
(水酸基含有量の異なる二種類のフェノールポリマーの混合)
調製例1で製造したo−クレゾール由来のフェノールポリマー(A)と、調製例2で製造したフェノール由来のフェノールポリマー(B)とを、表1に示す混合比で混合した。得られた芳香族ポリマー組成物中の一般式(2)で表される繰り返し単位の数と、前記一般式(3)で表される繰り返し単位の数との比を表1に示した。
【0090】
【表1】

【0091】
以上述べたように、水酸基含有量の異なる二種以上の芳香族ポリマーを混合することにより、得られる芳香族ポリマー組成物の水酸基含有量を幅広い範囲に渡って任意に調整できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の水酸基含有量調整方法により、芳香族ポリマー組成物の水酸基含有量を幅広い範囲に渡って任意に調整できるため、本発明は、エンジニアリングプラスチックの開発に有用である。
特に、少なくとも水酸基含有量の異なる2種類のフェノールポリマーを基準品として用意して、その基準品の混合比率を任意に調整することにより、幅広い範囲の水酸基含有量を有する芳香族ポリマー組成物を迅速に製造できる。この為、オーダーから生産まで素早く対応でき、オーダーメイド生産に特に適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物を、酸化還元酵素の存在下に酸化重合することで得られる、下記一般式(2)及び/又は(3)を繰返し単位として有するフェノールポリマーの中から、水酸基含有量の異なる二種類以上のフェノールポリマーを混合することを特徴とする芳香族ポリマー組成物の水酸基含有量の調整方法。
【化1】

(式中Rは、水素原子又はアルキル基あるいはアルコキシ基を表し、mは1〜4の整数を表し、m個のRは同一でも異なってもよい。)
【化2】

(式中Rは、水素原子又はアルキル基あるいはアルコキシ基を表し、kは1〜4の整数を表し、k個のRは同一でも異なってもよい。)
【化3】

(式中Rは、水素原子又はアルキル基あるいはアルコキシ基を表し、lは1〜3の整数を表し、l個のRは同一でも異なってもよい。)
【請求項2】
一般式(1)で表される化合物が、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾールからなる群より選ばれる二種以上である請求項1に記載の芳香族ポリマー組成物の水酸基含有量の調整方法。
【請求項3】
混合する前記フェノールポリマーの質量平均分子量が2000以下である請求項1又は2に記載の芳香族ポリマー組成物の水酸基含有量の調整方法。
【請求項4】
下記一般式(4)及び/又は(5)で表される化合物を、酵素の存在下に重合することで得られる、下記一般式(6)〜(9)で表されるものから選ばれる少なくとも一種を繰返し単位として有するナフトールポリマーの中から、水酸基含有量の異なる二種類以上のナフトールポリマーを混合することを特徴とする芳香族ポリマー組成物の水酸基含有量の調整方法。
【化4】

(式中Rは、水素原子又はアルキル基あるいはアルコキシ基あるいはカルボキシ基を表し、nは1〜6の整数を表し、n個のRは同一でも異なってもよい。)
【化5】

(式中Rは、水素原子又はアルキル基あるいはアルコキシ基あるいはカルボキシ基を表し、nは1〜6の整数を表し、n個のRは同一でも異なってもよい。)
【化6】

(式中Rは、水素原子又はアルキル基あるいはアルコキシ基あるいはカルボキシ基を表し、pは1〜6の整数を表し、p個のRは同一でも異なってもよい。)
【化7】

(式中Rは、水素原子又はアルキル基あるいはアルコキシ基あるいはカルボキシ基を表し、qは1〜5の整数を表し、q個のRは同一でも異なってもよい。)
【請求項5】
一般式(4)及び/又は(5)で表される化合物が、1−ナフトール及び/又は2−ナフトールである請求項4に記載の芳香族ポリマー組成物の水酸基含有量の調整方法。
【請求項6】
混合する前記ナフトールポリマーの質量平均分子量が3000以下である請求項4又は5に記載の芳香族ポリマー組成物の水酸基含有量の調整方法。
【請求項7】
下記一般式(1)で表される化合物を、酸化還元酵素の存在下に酸化重合することで得られる、下記一般式(2)及び/又は(3)を繰返し単位として有するフェノールポリマーと、下記一般式(4)及び/又は(5)で表される化合物を、酵素の存在下に重合することで得られ、下記一般式(6)〜(9)で表されるものから選ばれる少なくとも一種を繰返し単位として有するナフトールポリマーの中から、水酸基含有量の異なる二種類以上のポリマーを混合することを特徴とする芳香族ポリマー組成物の水酸基含有量の調整方法。
【化8】

(式中Rは、水素原子又はアルキル基あるいはアルコキシ基を表し、mは1〜4の整数を表し、m個のRは同一でも異なってもよい。)
【化9】

(式中Rは、水素原子又はアルキル基あるいはアルコキシ基を表し、kは1〜4の整数を表し、k個のRは同一でも異なってもよい。)
【化10】

(式中Rは、水素原子又はアルキル基あるいはアルコキシ基を表し、lは1〜3の整数を表し、l個のRは同一でも異なってもよい。)
【化11】

(式中Rは、水素原子又はアルキル基あるいはアルコキシ基あるいはカルボキシ基を表し、nは1〜6の整数を表し、n個のRは同一でも異なってもよい。)
【化12】

(式中Rは、水素原子又はアルキル基あるいはアルコキシ基あるいはカルボキシ基を表し、nは1〜6の整数を表し、n個のRは同一でも異なってもよい。)
【化13】

(式中Rは、水素原子又はアルキル基あるいはアルコキシ基あるいはカルボキシ基を表し、pは1〜6の整数を表し、p個のRは同一でも異なってもよい。)
【化14】

(式中Rは、水素原子又はアルキル基あるいはアルコキシ基あるいはカルボキシ基を表し、qは1〜5の整数を表し、q個のRは同一でも異なってもよい。)
【請求項8】
前記酵素又は酸化還元酵素が、オキシダーゼ及び/又はペルオキシダーゼである請求項1〜7のいずれか一項に記載の芳香族ポリマー組成物の水酸基含有量の調整方法。
【請求項9】
前記酵素又は酸化還元酵素が、マンガンペルオキシダーゼ、西洋わさびペルオキシダーゼ及びラッカーゼからなる群より選ばれる一種以上である請求項1〜7のいずれか一項に記載の芳香族ポリマー組成物の水酸基含有量の調整方法。

【公開番号】特開2007−166985(P2007−166985A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−369558(P2005−369558)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】