説明

芽胞形成細菌の芽胞耐久性迅速評価・測定方法

【課題】加熱処理や紫外線或いは放射線処理のような殺菌処理に対する芽胞形成細菌の芽胞の耐久性を、リアルタイムで迅速かつ正確に測定する方法、及び、該評価・測定方法の結果に基いて芽胞の効果的な殺菌・静菌条件を定め、必要最小限の殺菌条件で、効果的な芽胞の殺菌を行なう方法を提供すること。
【解決手段】カンチレバーを装備する原子間力顕微鏡等により、芽胞の硬度を測定することにより、リアルタイムで迅速かつ正確な細菌芽胞の耐久性の評価・測定を行なうことができる。本発明における細菌芽胞の耐久性の評価・測定において、原子間力顕微鏡による測定結果と、予め求めておいた芽胞の硬度と耐久性(耐熱性、UV耐性、放射線耐性、薬剤耐性等)との相関式(検量線)から、簡便な手段で、迅速に芽胞の耐久性を評価・測定を行うことができ、即時に、該芽胞の殺菌・静菌処理に対する適正な処理条件を定めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱処理や紫外線或いは放射線処理のような殺菌処理に対する芽胞形成細菌の芽胞の耐久性を迅速に評価・測定する方法及び該評価・測定方法の結果に基いて芽胞の殺菌・静菌条件を定め、芽胞の効果的殺菌或いは静菌を行なう方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品や医薬品或いは化粧品等の様々の分野における製品或いはその製造工程において、微生物の増殖による製品の変質や品質低下或いは食中毒等の発生が問題となることがある。この問題を回避するために、製品或いはその製造段階において、加熱処理や紫外線或いは放射線の照射或いは抗菌剤、殺菌剤のような薬剤処理による静菌或いは殺菌が行われている。最も一般的な方法としては、製品の製造に際して、低温(60℃以上)或いは100℃前後の加熱による殺菌処理が行われている。しかし、芽胞形成細菌のような細菌の種類によっては、耐熱性の芽胞の形成により、上記のような通常の殺菌処理では、滅菌できないものがある。
【0003】
芽胞形成細菌としては、Bacillus subtilis、Bacillus cereus、Bacillus megaterium、Geobacillus stearothermophilusのようなBacillus属の細菌や、Alicyclobacillus acidoterrestrisや、Alicyclobacillus acidiphilusのようなAlicyclobacillus属の細菌、或いは、Clostridium sporogenesのようなClostridium属の細菌が知られている。これらの細菌は、乾燥や高温等、環境が生育に適さない条件になると、芽胞と呼ばれる耐久器官を形成し、環境に対して抵抗性を示し、生き延びることができる。芽胞は、水分の少ない濃厚な原形質と核を厚い殻で覆っており、加熱処理や紫外線或いは放射線操作、又は、殺菌剤のような薬品処理に対して、強い抵抗性を示す。
【0004】
芽胞形成細菌の芽胞は、100℃の煮沸に対しても抵抗性を有することから、これらの菌を殺菌する為には、例えば、120℃15分のオートクレーブによる殺菌のような、高温、高圧下の処理が用いられている。また、芽胞形成細菌の芽胞の殺菌処理については、その殺菌効果を完全にするために、各種の方法が開示されている。例えば、特開2000−32965号公報には、芽胞に対する殺菌効果と高温処理による食品等の劣化を避けるために、高圧処理による殺菌方法が開示されている。更に、国際公開公報WO97/21361号公報には、80〜99℃に加熱した後、約340MPa〜約1020MPaの超高圧で加圧する方法が、特開2000−83633号公報、特開2002−191334号公報には、低酸性食品を約70℃或いは50℃に予備加熱し、圧力容器内で約300MPa以上の超高圧で加圧する方法が開示されている。
【0005】
また、特開2005−287383号公報には、4000気圧〜7000気圧の高圧殺菌処理と、印加電圧10kV以上の電気パルスとを作用させるパルス殺菌処理とを併用する耐熱性芽胞の殺菌方法が開示されている。これらの、高温と高圧による殺菌処理は、殺菌処理に対して耐久性を有する芽胞形成細菌の芽胞に対して、有効な殺菌処理を施すものであるが、一方で、かかる殺菌処理は、そのための設備が必要となるということだけでなく、かかる高温、高圧の処理による製品の品質への影響が避けられないという問題がある。したがって、上記のような殺菌処理手段を用いて、芽胞形成細菌の芽胞の殺菌処理を行なうに際しては、完全な殺菌効果を得るための殺菌条件を設定するとともに、高温、高圧の処理による製品の品質への影響を避けるための条件を設定する必要があり、したがって、必要最小限の殺菌条件で、効果的な殺菌を行なうことが可能な条件を設定することが必要となる。
【0006】
従来、微生物(特に飲食品、医薬品に対して危害を及ぼす可能性のある微生物:食中毒菌、病原菌など)について、その耐久性(耐熱性、UV耐性、薬剤耐性など)を評価するには、例えば、対象となる加熱、UV及び薬剤に対し、個々の加熱条件、UV強度、薬剤濃度の試験区での生残菌率を求めなければならなかった。例えば、耐熱性の評価(加熱殺菌条件の設定)においては、(1)実際に対象となる微生物に対して複数の処理条件(耐熱性の場合は温度、時間)で処理した後に、(2)増殖試験を行い、(3)各処理条件での増殖の有無に関するデータを蓄積することにより、(4)適正な殺菌条件を設定する、という手順が用いられている。
したがって、これらの試験には、多くの試験区での生残菌率を求めなければならず、煩雑な実験を必要とすると同時に、熟練を要求された。
【0007】
上記のような芽胞形成細菌の芽胞の殺菌処理に対する耐久性試験における、殺菌処理の効果を判断する方法も、いくつか開示されている。例えば、殺菌処理の効果を判断する方法として、殺菌処理された芽胞の多角光散乱と殺菌処理されなかった多角光散乱とを比較することにより、殺菌処理の有効性を検出する方法が開示されている(特表2002−542836号公報)。また、個々の微生物の増殖活性をフローサイトメータのような電気的又は光学的測定方法で測定する方法が開示されている(特開2005−102645号公報)。
【0008】
また、耐熱性好酸性菌等の芽胞形成菌の検出自体としては、例えば、バニリンや、バニリン酸の存在下で芽胞形成菌の芽胞をインキュベーションすることにより、産生するグアイアコールをGC−MS分析等で分析する方法(特開平7−123998号公報;特開2004−201668号公報)、ω−シクロへキサン脂肪酸の有無をGC−MS分析等で分析する方法(特開平8−140696号公報)、ω−シクロへキサン脂肪酸の生合性に関与する酵素をコードする遺伝子の核酸をPCR法によって検出・同定する方法(特開平10−234376号公報)等が開示されている。しかしながら、これらの芽胞形成菌の検出方法を芽胞の耐久性の評価に適用したとしても、結局は、上記のように、(1)実際に対象となる微生物に対して複数の処理条件(耐熱性の場合は温度、時間;薬剤耐性の評価の場合には薬剤濃度、薬剤処理時間などの条件;UV耐性の評価であれば、照射強度、照射時間などの条件)で処理した後に、(2)増殖試験を行い、(3)各処理条件での増殖の有無に関するデータを蓄積することにより、(4)適正な殺菌条件を設定する必要があり、個々の殺菌処理条件に対して、増殖試験等を用いた煩雑な処理と、長時間の処理を必要とする。
【0009】
一方で、原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)を用いて、種々の試料の微細表面形状等を測定することが行なわれているが、原子間力顕微鏡を用いて、微生物試料の観察や、微生物の検出を行なう方法も開示されている。例えば、特開平10−14595号公報には、水系溶媒に微生物試料を分散させて原子間力顕微鏡のような走査型プローブ顕微鏡で微生物試料を観察する方法が開示されている。また、特開2006−55161号公報、特開2006−55162号公報、特開2006−158207号公報には、蛍光染色を必要としない顕微鏡観察手段と、原子間力顕微とを組合わせて、微生物の外形や、表面形状を観察して、検体中の微生物を迅速に検出し、計測する方法が開示されている。更に、特開平9−94099号公報には、酵母の出芽痕を、原子間力顕微鏡のような走査型プローブ顕微鏡で測定して酵母の活性度を迅速に測定する方法や、特開平9−117299号公報には、抗生物質で処理した試料と、処理しない試料との大腸菌の形態を比較して、抗生物質に対する感受性の相違を判定する方法が開示されている。
【0010】
原子間力顕微鏡の測定原理は、先端に先鋭な探針が形成された長さ数百μmの大きさのカンチレバーを用い、試料表面にそのカンチレバーを近づけて、カンチレバーに働く原子間力をカンチレバーのたわみに置き換えて検出するものであり、試料はスキャナにより3次元方向に高精度に走査され、カンチレバーは試料表面の微細な形状をトレースし、そのカンチレバーの動きをカンチレバー背面からの反射光の検出により検知して、試料の表面形状が測定されるようになっている。
【0011】
上記のようなカンチレバーは、原子間力顕微鏡等に装備させることにより、試料の硬度の測定にも用いることができる。例えば、特開2006−162279号公報には、ダイヤモンド基板上に微粒子を分散させ、原子間力顕微鏡により微粒子の強度を測定する方法が開示されている。また、特開2004−300600号公報には、炭素繊維の強度や弾性率の測定に原子間力顕微鏡を用いることが記載されている(公報段落番号「0076」〜「0078」)。
【0012】
【特許文献1】特開平7−123998号公報。
【特許文献2】特開平8−140696号公報。
【特許文献3】特開平9−94099号公報。
【特許文献4】特開平9−117299号公報。
【特許文献5】特開平10−14595号公報。
【特許文献6】特開平10−234376号公報。
【特許文献7】特開2000−32965号公報。
【特許文献8】特開2000−83633号公報。
【特許文献9】特開2002−191334号公報。
【特許文献10】特開2004−201668号公報。
【特許文献11】特開2004−300600号公報。
【特許文献12】特開2005−102645号公報。
【特許文献13】特開2005−287383号公報。
【特許文献14】特開2006−55161号公報。
【特許文献15】特開2006−55162号公報。
【特許文献16】特開2006−158207号公報。
【特許文献17】特開2006−162279号公報。
【特許文献18】特表2002−542836号公報。
【特許文献19】WO97/21361号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
食品や医薬品或いは化粧品等の様々の分野における製品或いはその製造工程において、微生物の増殖による製品の変質や品質低下或いは食中毒等の発生が問題となることがあり、その対策のために、物理的或いは化学的殺菌処理が行なわれている。特に、環境に対して耐久性のある芽胞を形成する芽胞形成細菌のような細菌に対しては、その効果的な殺菌効果を得るために、過酷な殺菌処理条件が採用される。例えば、芽胞形成細菌の芽胞の殺菌には、高温と高圧による殺菌処理が施されている。しかし、一方で、かかる殺菌処理は、かかる高温、高圧の処理による製品の品質への影響が避けられないという問題がある。したがって、芽胞形成細菌の芽胞の殺菌に際しては、必要最小限の殺菌条件で、効果的な殺菌を行なうことが可能な条件を、迅速に設定することが必要となる。
【0014】
従来の芽胞の耐久性の評価方法では、前記のように、耐久性のそれぞれの項目、例えば、耐熱性、UV耐性、薬剤耐性等において、個々の加熱条件、UV強度、薬剤濃度の試験区で、生残菌率を求め、それらの生残菌率を外挿し、例えば、加熱処理ならば、生残菌数が10分の1になるのに至る加熱条件の加熱時間の長短で、加熱に対する耐久性を評価していた。したがって、対象となる芽胞について、まず純粋に細胞株を単離し、これを前培養して供試に必要な菌数を獲得し、それら多くの試験区での生残菌率を求める必要があった。したがって、煩雑な実験を必要とすると同時に、正確な評価をするためには、熟練を要し、また、時間的にも長時間を要した。
【0015】
そこで、本発明の課題は、加熱処理や紫外線或いは放射線処理のような殺菌処理に対する芽胞形成細菌の芽胞の耐久性を、迅速かつ正確に測定し、しかも、試料を従来法のような前処理を必要とせずにリアルタイムで評価・測定する方法を提供し、そして該評価・測定方法の結果に基いて芽胞の効果的な殺菌・静菌条件を定め、必要最小限の殺菌・静菌条件で、効果的な芽胞の殺菌・静菌を行なう方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、芽胞形成細菌の芽胞の構造と、物理的或いは化学的刺激に対する芽胞の耐久性等について、鋭意研究する中で、芽胞の硬度と芽胞の耐久性とに相関があることを見出し、そして、原子間力顕微鏡等を用いて測定した芽胞の硬度と芽胞の耐久性とに相関があることを見出した。更に、芽胞の耐久性(耐熱性、UV耐性、放射線耐性、薬剤耐性等)と硬度との相関式(検量線)を予め求めておくことにより、評価・測定対象の芽胞の硬度を測定した結果から、その耐久性を、迅速かつ正確に、しかも、簡便に、試料を従来法のような前処理を必要とせずにリアルタイムで評価・測定することが可能であることを見い出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、芽胞形成細菌の芽胞の硬度を測定することからなる芽胞の耐久性の評価・測定方法からなる。
【0017】
本発明において、芽胞の耐久性の評価・測定には、芽胞形成細菌の芽胞の硬度が測定される。一般に、硬度の概念には、次のような4つの定義のものがある:(1)モース硬度(撞傷硬度:鉱物等の硬度表示によく用いられる。)、(2)ブリネル硬度(押込硬度)、(3)ショア硬度(反発硬度:硬度未知の材料の表面に、投下した鋼球又はダイアモンドの跳ね上がる高さによって硬度を示す方法。)、(4)水の硬度(水のカルシウムイオン、マグネシウムイオンの含量)。本発明において、芽胞の硬度は、原子間力顕微鏡によって測定することができる。すなわち、硬度未知の芽胞に先端に探針が形成されたカンチレバーを一定距離で押し込み、その反発する距離を測定し、その比(反発距離/押し込み距離)を硬度として表す。
【0018】
本発明において、芽胞形成細菌の芽胞の耐久性の評価・測定の好ましい対象としては、芽胞の熱及び/又は紫外線或いは放射線処理からなる物理的処理に対する耐久性の評価・測定、或いは、芽胞の殺菌剤又は静菌剤に対する耐久性の評価・測定に用いることができる。本発明において、芽胞形成細菌の芽胞の硬度は、原子間力顕微鏡を用いることができる。本発明において、評価・測定対象の芽胞の耐久性は、その芽胞の硬度の測定結果と、予め求めておいた芽胞の硬度と耐久性(耐熱性、UV耐性、放射線耐性、薬剤耐性等)との相関式(検量線)から、リアルタイムで、評価・測定を行うことができる。
【0019】
本発明においては、本発明の芽胞の耐久性評価・測定方法によって測定した各試料における結果に基いて、芽胞の殺菌・静菌条件を定め、該条件により、芽胞形成細菌の芽胞の殺菌・静菌を行なうことにより、製品の品質に対する殺菌・静菌処理の影響を極力抑えて、かつ、効果的な殺菌・静菌処理を行なうことができる。本発明の方法は、特に、芽胞の殺菌・静菌条件として、芽胞の加熱殺菌条件又は紫外線或いはγ線、電子線等の放射線照射条件を設定し、芽胞形成細菌の芽胞の殺菌を行なう場合、或いは、殺菌剤又は静菌剤による殺菌或いは静菌の条件を設定し、芽胞形成細菌の芽胞の殺菌・静菌を行なう場合、に効果的に用いることができる。
【0020】
すなわち具体的には本発明は、(1)芽胞形成細菌の芽胞の硬度を測定することからなる芽胞の耐久性評価・測定方法や、(2)芽胞の耐久性の評価・測定を、予め求めた芽胞の硬度と耐久性との関係の検量線を用いて行なうことを特徴とする上記(1)記載の芽胞の耐久性評価・測定方法や、(3)芽胞の耐久性の評価・測定が、芽胞の熱及び/又は紫外線或いは放射線処理からなる物理的処理に対する耐久性の評価・測定であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の芽胞の耐久性評価・測定方法や、(4)芽胞の耐久性の評価・測定が、芽胞の殺菌剤又は静菌剤に対する耐久性の評価・測定であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の芽胞の耐久性評価・測定方法からなる。
【0021】
また本発明は、(5)芽胞の硬度の測定を原子間力顕微鏡を用いて行なうことを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか記載の芽胞の耐久性評価・測定方法や、(6)上記(1)〜(5)のいずれか記載の芽胞の耐久性評価・測定方法によって測定した結果に基いて芽胞の殺菌・静菌条件を定めることを特徴とする芽胞形成細菌の芽胞の殺菌・静菌方法や、(7)芽胞の殺菌・静菌条件が、芽胞の加熱殺菌条件又は紫外線或いは放射線照射条件であることを特徴とする上記(6)記載の芽胞形成細菌の芽胞の殺菌・静菌方法や、(8)芽胞の殺菌・静菌条件が、殺菌剤又は静菌剤による殺菌或いは静菌の条件であることを特徴とする上記(6)記載の芽胞形成細菌の芽胞の殺菌・静菌方法からなる。
【発明の効果】
【0022】
食品や医薬品或いは化粧品等の様々の分野における製品或いはその製造工程において、微生物の増殖による製品の変質や品質低下或いは食中毒等の発生が問題となることがあり、特に、殺菌処理に対する耐久性のある芽胞を形成する芽胞形成細菌のような細菌に対しては、その効果的な殺菌効果を得るために、例えば、高温、高圧のような過酷な殺菌処理条件が採用されている。しかし、一方で、かかる殺菌処理は、かかる過酷な殺菌処理条件による製品の品質への影響が避けられないという問題がある。そこで、本発明の芽胞の耐久性の評価・測定方法を採用することにより、芽胞形成細菌の芽胞の耐久性を、迅速かつ正確に、しかも、簡便に、試料を従来法のような前処理を必要とせずにリアルタイムで評価・測定することが可能となった。
【0023】
本発明の芽胞の耐久性の評価・測定方法におけるの芽胞の硬度は、原子間力顕微鏡を用いることができるが、該方法は、その測定に当たって、従来法のような前処理をほとんど必要とせず、試料の測定に際して、短時間かつ簡便に芽胞の耐久性を評価・測定することができる。したがって、本発明の方法により、それぞれの対象において、適切な殺菌・静菌条件を、迅速に設定することが可能となり、殺菌・静菌処理の適用対象において、殺菌・静菌処理条件による製品の品質への影響を極力抑制した、しかも、効果的な殺菌・静菌処理が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明は、芽胞形成細菌の芽胞の硬度を測定することからなる芽胞の耐久性評価・測定方法からなる。本発明において、芽胞の硬度は、原子間力顕微鏡によって測定することができ、原子間力顕微鏡自体は、既に、公知のものであり、市販されている顕微鏡である。
【0025】
本発明の芽胞の耐久性を評価・測定する方法は、概略、次のような手順で実施される:
(1)従来法による評価結果、或いは文献値により、芽胞の耐久性(耐熱性、UV耐性、放射線耐性、薬剤耐性等)が判っている芽胞形成細菌の芽胞について、硬度を測定し、予め芽胞の耐久性と硬度の関係について、相関式(検量線)を準備する。
(2)評価・測定対象となる芽胞形成細菌の芽胞について、試料を用意し、原子間力顕微鏡等で、試料の芽胞の硬度を測定し、測定値を得る。
(3)得られた測定値と、前記、相関式(検量線)とから、評価・測定対象とな芽胞形成細菌の芽胞の耐久性を評価・測定する。
【0026】
本発明において、原子間力顕微鏡を用いて、芽胞形成細菌の芽胞の硬度の測定を行なうに際し、測定対象試料を調製するには、概略、次のような手順で実施する:測定用芽胞の試料の調製法は、特に厳密な調製法は必要ではないが、一般に測定に必要な芽胞個数が試料中に存在していればよい。ある程度個数が存在していればそのまま測定試料に供することもできる。また個数を増やして試料に供する標準的な調製法としては、個々の芽胞形成細菌に適した液体或いは寒天培地に接種し、培養したものを試料として供すればよい。個々の適した培地、調製方法は公知の文献を参照することができる(文献1:近藤雅臣、渡部一仁編著「スポア実験マニュアル」技報堂出版、1995)。また、栄養細胞内に芽胞がある場合、超音波により芽胞を単離する方法、リゾチームで処理する方法など一般化された方法で処理してもよい。
【0027】
本発明において、原子間力顕微鏡を用いて、芽胞形成細菌の芽胞の硬度の測定を行なうには、次のような方法で実施する:原子間力顕微鏡により、硬度(硬さ)を測る方法には、2つの方法がある。ひとつはフォースカーブ法と呼ばれるものであり、カンチレバーを対象試料表面に一定の力でひっかけて、その状態を一定の距離を水平方向に移動させ、その時のカンチレバーの運動による仕事量から計算して他の試料との相対比較から硬さを求める方法である。もう一つはナノインデンテーション法と呼ばれるもので、一定のバネ係数を有するカンチレバーを試料にあて、一定距離打ち込み、どれ位の距離反発したかでその反発比を求める方法である。どちらも硬さとして求めることはできるが、後者のナノインデンテーション法が解析が簡便であるので本特許で推奨する方法である。
【0028】
本発明の芽胞の耐久性評価・測定方法は、食品や医薬品或いは化粧品等の様々の分野における製品或いはその製造工程における、芽胞形成細菌の芽胞の耐久性の評価・測定において適用することができる。本発明の方法を適用して、各分野の製品或いはその製造工程における殺菌・静菌処理の対象に対して、必要最小限の殺菌・静菌処理条件を、簡便、迅速に設定することができる。
【0029】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0030】
(供試菌株)
Bacillus subtilis (IFO3134株)、Bacillus coagulans(ATCC12245株)、Bacillus (Geobacillus) stearothermophilus(DSM5934株)を供試菌株として用いた。
【0031】
(芽胞の調製)
各供試菌株について、公知の文献(文献1:近藤雅臣、渡部一仁編著「スポア実験マニュアル」技報堂出版、1995、p21.)を参照し、芽胞を調製した。
【0032】
(耐熱性及びUV耐性の測定)
各供試菌株の芽胞の耐熱性について、定法により121℃におけるD値(分)を測定した。すなわち、アンプル管に芽胞を封入し、121℃で加熱したときに生残菌数が10分の1に減少するのに要する時間を求めた。また、UV耐性は、所定の条件でUVを照射したときに生残菌数が10分の1に減少するのに要する時間を測定した。
【0033】
(硬度の測定)
各供試菌株の芽胞について、カンチレバーを装備する原子間力顕微鏡(SPM9600島津製作所)を用いて、先端に探針が形成されたカンチレバーを芽胞表面に50nmの距離で押し込んだ際の反発距離を測定し、その比(反発距離/押し込み距離)を硬度として表した。
【0034】
(芽胞の硬度と耐熱性)
各供試菌株における芽胞の硬度と耐熱性の関係を表1に示す。これらをグラフに示したものは第1図のようになる。図に示されるように、各供試菌株の硬度と耐熱性の対数値との間に直線的な関係が得られた。
【0035】
【表1】

【0036】
(芽胞の硬度とUV耐性)
各供試菌株における芽胞の硬度とUV耐性の関係を表2に示す。これらをグラフに示したものは第2図のようになる。図に示されるように、各供試菌株の硬度とUV耐性の対数値との間に直線的な関係が得られた。
【0037】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施例において、カンチレバーを装備する原子間力顕微鏡を用いて測定した各供試菌株の硬度と耐熱性(121℃で加熱したときの芽胞生残数が10分の1に至る時間(分))との関係について示す図である。
【図2】本発明の実施例において、カンチレバーを装備する原子間力顕微鏡を用いて測定した各供試菌株の硬度とUV耐性(所定の条件でUVを照射したときの芽胞生残数が10分の1に至る時間(秒))との関係について示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芽胞形成細菌の芽胞の硬度を測定することからなる芽胞の耐久性評価・測定方法。
【請求項2】
芽胞の耐久性の評価・測定を、予め求めた芽胞の硬度と耐久性との関係の検量線を用いて行なうことを特徴とする請求項1記載の芽胞の耐久性評価・測定方法。
【請求項3】
芽胞の耐久性の評価・測定が、芽胞の熱及び/又は紫外線或いは放射線処理からなる物理的処理に対する耐久性の評価・測定であることを特徴とする請求項1又は2記載の芽胞の耐久性評価・測定方法。
【請求項4】
芽胞の耐久性の評価・測定が、芽胞の殺菌剤又は静菌剤に対する耐久性の評価・測定であることを特徴とする請求項1又は2記載の芽胞の耐久性評価・測定方法。
【請求項5】
芽胞の硬度の測定を原子間力顕微鏡を用いて行なうことを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の芽胞の耐久性評価・測定方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか記載の芽胞の耐久性評価・測定方法によって測定した結果に基いて芽胞の殺菌・静菌条件を定めることを特徴とする芽胞形成細菌の芽胞の殺菌・静菌方法。
【請求項7】
芽胞の殺菌・静菌条件が、芽胞の加熱殺菌条件又は紫外線或いは放射線照射条件であることを特徴とする請求項6記載の芽胞形成細菌の芽胞の殺菌・静菌方法。
【請求項8】
芽胞の殺菌・静菌条件が、殺菌剤又は静菌剤による殺菌或いは静菌の条件であることを特徴とする請求項6記載の芽胞形成細菌の芽胞の殺菌・静菌方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−183207(P2009−183207A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−26581(P2008−26581)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(391058381)キリンビバレッジ株式会社 (94)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】