説明

苦味含有飲食品の苦味改善剤および渋味含有飲食品の渋味改善剤

【課題】飲食品に不要な呈味や香気を付与することなく、苦味、渋味含有飲食品の苦味、渋味刺激感緩和などの苦味、渋味改善をすること。
【解決手段】フタライド類を有効成分とする苦味、渋味含有飲食品の苦味、渋味改善剤。フタライド類を、飲食品に、香気としては感じない程度の微量添加することにより、様々な苦味、渋味含有飲食品の好ましくない苦味、渋味は改善し、好ましい苦味、渋味が増強または付与される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、苦味含有飲食品の苦味改善剤および渋味含有飲食品の渋味改善剤に関し、詳しくは、フタライド類を有効成分とする、苦味含有飲食品の苦味および渋味含有飲食品の渋味を好ましい方向に改善するための苦味改善剤および渋味改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
苦味を有する飲食品としては、例えば、苦味物質であるナリンギンを含有するグレープフルーツのような果実、にがうりのような野菜、コーヒーのような焙煎抽出物、あるいは、香料物質、ペプチドなどの化学物質や蛋白加水分解物などが苦味を有するものとして知られている。そして、グレープフルーツ果汁含有飲料やコーヒーの場合の苦味低減は、通常、各種甘味料を添加するなどして対処し、また、蛋白加水分解物の苦味除去は、イカ肝臓由来の酵素で処理する蛋白加水分解物の苦味または渋味改善法(特許文献1)などが提案されている。
【0003】
また、タンニンに代表される渋味成分が含有される飲食品、例えば、茶類飲料は、ポリフェノール類が多量に含有され、そのポリフェノール類が抗酸化能、活性酸素消去能を有するので健康飲食品として注目を浴びている。しかしながら、ポリフェノール類を多く含有させようとすると渋味が増し、香味的に満足されない場合があり、その渋味が緩和ないし除去され得る苦味または渋味改善が求められている。このような渋味の苦味または渋味改善方法としては、例えば、飲食品に甘蔗由来の抽出物を配合する方法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−115913号公報
【特許文献2】特開2002−34471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、苦味、渋味といった本来刺激的な呈味または感覚は、本来は食品にあまり多く望まれるものではなく、改善することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは飲食品の苦味、渋味改善に関し、鋭意研究を重ねた結果、チキンブロスのこく味、旨味などの増強にセリ科植物由来の成分が関与しており、それらがフタライド類であることを見いだした(J.Agric.Food Chem.,Vol.56,No.2,512−516,2008)。そこで、本発明者らは、フタライド類に、さらに様々な呈味改善効果があるのではないかと考え、さらに鋭意研究を重ねた。その結果、驚くべきことにフタライド類を、飲食品に、香気としては感じない程度の微量添加するだけで、様々な飲食品の好ましくない苦味、渋味は改善し、好ましい苦味、渋味が増強または付与されることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして本発明は、以下のものを提供する。
(1)フタライド類を有効成分とする苦味含有飲食品の苦味改善剤。
(2)フタライド類を有効成分とする渋味含有飲食品の渋味改善剤。
(3)渋味含有飲食品がカテキン類含有食品であることを特徴とする(2)に記載の渋味改善剤。
(4)苦味改善が苦味のマスキングであることを特徴とする(1)に記載の苦味改善剤。
(5)渋味改善が渋味のマスキングであることを特徴とする(2)または(3)に記載の渋味改善剤。
(6)フタライド類がセダネノライド、セダノライド、3−n―ブチルフタライドおよび3−ブチリデンフタライドから選ばれる1種以上であることを特徴とする(1)または(4)に記載の苦味改善剤。
(7)フタライド類がセダネノライド、セダノライド、3−n―ブチルフタライドおよび3−ブチリデンフタライドから選ばれる1種以上であることを特徴とする(2)、(3)、または(5)に記載の渋味改善剤。
(8)(1)、(4)、または(6)に記載の苦味含有飲食品の苦味改善剤を、フタライド類として10ppb〜1%含有することを特徴とする苦味改善剤組成物。
(9)(2)、(3)、(5)、または(7)に記載の渋味含有飲食品の渋味改善剤を、フタライド類として10ppb〜1%含有することを特徴とする渋味改善剤組成物。
(10)(1)、(4)、または(6)に記載の苦味改善剤を、フタライド類として0.01ppb〜10ppm添加することを特徴とする苦味含有飲食品の苦味改善方法。
(11)(2)、(3)、(5)、または(7)に記載の渋味改善剤を、フタライド類として0.01ppb〜10ppm添加することを特徴とする渋味含有飲食品の渋味改善方法。
(12)(8)に記載の苦味改善剤組成物を、フタライド類として0.01ppb〜10ppm添加することを特徴とする苦味含有飲食品の苦味改善方法。
(13)(9)に記載の渋味改善剤組成物を、フタライド類として0.01ppb〜10ppm添加することを特徴とする渋味含有飲食品の渋味改善方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、飲食品に不要な呈味や香気を付与することなく、苦味含有飲食品の苦味のマスキング、渋味含有飲食品の渋味のマスキングなどの苦味、渋味改善をすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明で用いるフタライド類は、セリ科の植物の精油中に特徴的に存在する独特のスパイシーな生薬臭を有する一群の化合物類で、フタライド骨格を有する化合物を意味する。具体的には、セダネノライド、セダノライド、3−n−ブチルフタライド、3−ブチリデンフタライド、リグステライド、クニジライド、イソクニジライド、ネオクニジライド、メチルセダノエート、3−ブチルヘキサヒドロフタライドなどを指す。これらの化合物のうち、特に好ましいものとして、セダネノライド、セダノライド、3−n−ブチルフタライドおよび3−ブチリデンフタライドを例示することができる。これらのフタライド類は合成品を使用しても良く、また、セリ科植物から水または溶剤抽出あるいは水蒸気蒸留などにより抽出物または精油を得、それらから各種の公知手段などにより精製することもできる。
【0010】
これらの化合物は、単独で使用しても良く、また、いくつかを組み合わせて使用しても良い。さらにまた、これらの化合物を含むセンキュウ、トウキ、ロベージ、セロリなどの精油やオレオレジンなどの抽出物をそのまま、あるいは調合香料の一部として配合した形態として使用することもできる。
【0011】
一方、セリ科植物の精油やオレオレジンは、天然原料であり、安全、安心面から、本発明の苦味、渋味改善剤として好ましいが、精油やオレオレジンには、前記のフタライド類の他、リモネン、ミルセン、β−カリオフィレン、α−セリネン、β−セリネン、γ−セリネンなどの炭化水素類などが含まれており、独特の青っぽい香気を有する。これらの、青っぽい香気は、通常の香料用途などのようにセリ科植物の風味を付与する目的で使用する場合は、好ましい風味であるが、本発明の苦味、渋味改善剤として使用する場合には、不必要に青っぽい風味を付与してしまうため、低減または除去することが好ましい。特にセリネン類はセリ科植物に特有の青っぽい香気が強いため、できるだけ低減または除去することが望ましい。これら炭化水素類のうちリモネン(沸点:176℃;大気圧)のように沸点の比較的低い物質は、通常の精留塔などを用いた蒸留(温度:50℃〜70℃、圧力:500Pa〜1000Pa)により留出させて低減させることが容易であるが、セスキテルペン炭化水素であるセリネン類(β―セリネン:沸点:260℃;大気圧)およびフタライド類(セダネノライド:沸点:367℃;大気圧)はいずれも香料化合物としては比較的沸点が高い部類に属し、通常の精留塔などを用いた蒸留では、いずれの化合物も釜残に残ってしまい、分離が困難である。したがって、簡便でコストのかからない方法によりセリ科植物の精油やオレオレジンから、セリネン類を除く方法が必要となる。
【0012】
セリ科植物の精油やオレオレジンからセリネンを含む炭化水素類を低減または除去する方法としては、各種クロマトグラフィーなども採用し得るが、簡便で、かつ、工業的に実施可能な方法として分子蒸留を挙げることができる。分子蒸留とは、高真空条件下での蒸留であって、蒸発した分子が他の分子と衝突を起こさず冷却面へ到達して凝縮するような蒸留による精製方法をいう。使用される装置あるいは器具については、かかる方法が適用できる装置であれば、特にその種類は問わないが、一般的に回分式又は連続式分子蒸留装置があり、形式により流下薄膜式分子蒸留装置、遠心薄膜式分子蒸留装置に分類される。これらの装置の中でも安定した薄膜状態を形成できる観点から遠心薄膜式分子蒸留装置、特に連続式遠心薄膜式分子蒸留装置を使用することが好ましい。
【0013】
遠心薄膜式分子蒸留装置を使用し、炭化水素類を除くための条件としては温度90℃〜110℃、圧力10Pa〜30Paを例示することができる。この条件により、リモネンのような軽沸点の炭化水素類はもちろんのこと、セスキテルペン炭化水素であるセリネンも留去することができ、釜残としてフタライド類を得ることができる。分子蒸留に供する原料が精油である場合は、一回の分子蒸留で前記の釜残としてフタライド類を60%以上含有する本発明の苦味、渋味改善剤とすることができる。さらにまた、原料がオレオレジンなどの不揮発性成分を含む場合には、前記条件で、炭化水素類を除いた後、フタライド類を含む釜残を、再度分子蒸留に供し、温度140℃〜160℃、圧力10Pa〜30Paの条件でフタライド類を留出させ、留出部としてフタライド類を60%以上含有する本発明の苦味、渋味改善剤とすることができる。
【0014】
なお、かかる分子蒸留法それ自体は、一般に油脂などの精製に用いられる他、オレンジなどの精油の脱テルペン分画に用いられているが、セリ科植物の精油またはオレオレジンから、リモネンやセリネン類などの不必要な成分を低減または除去して苦味、渋味改善剤を精製するために適用されることは知られていない。
【0015】
本発明は、これらのフタライド類を有効成分とする苦味、渋味含有飲食品の苦味、渋味改善剤に関し、これらのフタライド類をフタライド類特有のスパイシーな生薬臭を感じさせないレベルの低含量で苦味、渋味含有飲食品に含有させることで、苦味、渋味含有飲食品の苦味、渋味を改善できる苦味、渋味改善剤に関する。
【0016】
次いで、以下に、本発明の個々の態様について例示しながら説明する。
【0017】
1つの実施態様では、本発明は、苦味がマスキングされた苦味含有飲食品である。苦味含有飲食品としては、例えば、炭酸飲料、柑橘類(グレープフルーツ、オレンジ、レモンなど)の果汁や果汁飲料や果汁入り清涼飲料、柑橘類の果肉飲料や果粒入り果実飲料、トマト、ピーマン、セロリ、ウリ、ニガウリ、ニンジン、ジャガイモ、アルパラガス、ワラビ、ゼンマイなどの野菜や、これら野菜類を含む野菜系飲料、野菜スープ、豆乳飲料、コーヒー飲料、緑茶飲料、ウーロン茶飲料、生薬やハーブを含む飲料などを挙げることができる。
【0018】
本発明の苦味含有飲食品において、フタライド類の配合割合は、最終製品に対して0.01ppb〜10ppm、より好ましくは、0.1ppb〜1ppmである。また、これらのフタライド類は実質上は製剤中に配合して、製剤を最終製品に添加する場合が多い。その場合、製剤の最終製品への添加量はおおよそ0.01%〜1%程度であるため、製剤中のフタライド類の配合量としては10ppb〜1%、より好ましくは、100ppb〜1000ppmである。以上の配合割合により、苦味含有飲食品は、苦味がマスキングされ、飲食しやすくなる。
【0019】
また別の本発明の実施態様では、本発明は、渋味がマスキングされた渋味含有飲食品、特に茶類飲料である。具体的には、緑茶、紅茶、ウーロン茶などの茶葉、茶葉抽出物を用いて製造された飲料を挙げることができる。上記茶類飲料は、その製造方法によってポリフェノール類の含有量がまちまちであり、従って、その渋味もまちまちであるが、フタライド類を、最終製品に対して0.01ppb〜10ppm、より好ましくは、0.1ppb〜1ppm配合することにより渋味をマスキングすることができる。また、これらのフタライド類は実質上は製剤中に配合して、製剤を最終製品に添加する場合が多い。その場合、製剤の最終製品への添加量はおおよそ0.01%〜1%程度であるため、製剤中のフタライド類の配合量としては10ppb〜1%、より好ましくは、100ppb〜1000ppmである。以上の配合割合により、渋味含有飲食品は、渋味がマスキングされ、飲食しやすくなる。
【0020】
本発明の苦味、渋味含有飲食品において、フタライド類の配合割合は、最終製品に対して0.01ppb〜10ppm、より好ましくは、0.1ppb〜1ppmである。また、これらのフタライド類は実質上は製剤中に配合して、製剤を最終製品に添加する場合が多い。その場合、製剤の最終製品への添加量はおおよそ0.01%〜1%程度であるため、製剤中のフタライド類の配合量としては10ppb〜1%、より好ましくは、100ppb〜1000ppmである。以上の配合割合により、苦味、渋味含有飲食品は、苦味、渋味の刺激感が緩和され、食塩に起因する刺激感を伴った苦味、渋味がマイルドな苦味、渋味に改善される。
【0021】
なお、飲食品の苦味、渋味改善において、フタライド類を添加すべき濃度は前述の通りであるが、上記範囲以上にフタライド類を添加しても、さらなる苦味、渋味改善に対する効果はあまりないため、上記範囲以上に添加する必要はない。ただし、所望により、例えばフタライド類に特有の香気を付与するために、フタライド類を上記範囲より多く添加することにはなんら問題はない。
【0022】
本発明を以下の実施例により更に具体的に述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0023】
実施例1 (炭酸水の苦味のマスキング)
十分脱気された純水に、本発明の苦味改善剤(苦味のマスキング剤)としてセダネノライドを下記表4に示す濃度で添加したのち、瓶内圧力294KPaで炭酸ガスを封入して本発明の炭酸水を得た。
香味比較
下記表1に、パネラー10名による本発明品添加および無添加品の炭酸水について香味比較評価を示した。
【0024】
【表1】

【0025】
表1に示した通り、セダネノライド無添加の炭酸水は苦味を有するが、セダネノライドを0.01ppb〜10ppm添加した炭酸水は、苦味がマスキングされていると判定された。セダネノダイドの添加量としては0.1ppb〜1ppm程度が特に良好であった。10ppm添加では苦味そのものはマスキングされるが、苦味とは別に、多少スパイシーな香気も感じられた。また、0.01ppbという低濃度でも苦味が若干弱くなったと感じたパネラーもおり、低濃度でも苦味のマスキング効果があることが判明した。
【0026】
実施例2 (グレープフルーツジュースの苦味のマスキング)
市販のグレープフルーツジュースに、本発明の苦味改善剤(苦味のマスキング剤)として3−n−ブチルフタライドを下記表2に示す濃度で添加したグレープフルーツジュースを得た。
香味比較
下記表2に、パネラー10名による本発明品添加および無添加品のグレープフルーツジュースについて香味比較評価を示した。
【0027】
【表2】

【0028】
表2に示した通り、3−n−ブチルフタライド無添加のグレープフルーツジュースは苦味を有するが、3−n−ブチルフタライドを0.01ppb〜10ppm添加したグレープフルーツジュースは、苦味がマスキングされていると判定された。3−n−ブチルフタライドの添加量としては0.1ppb〜1ppm程度が特に良好であった。10ppm添加では苦味そのものはマスキングされるが、苦味とは別に、多少スパイシーな香気も感じられた。また、0.01ppbという低濃度でも苦味が若干弱くなったと感じたパネラーもおり、低濃度でも苦味のマスキング効果があることが判明した。
【0029】
実施例3(緑茶飲料の苦味のマスキング)
中国産蒸青製法緑茶(2番茶)100gに60℃温水5000g(アスコルビン酸ナトリウム0.03%含有)を加え、時々攪拌しながら5分間抽出した後、ネル濾布にて固液分離し、抽出液4500g(Bx0.6°)を得た。抽出液にタンナーゼ(キッコーマン社製;5000U/g)0.04gを加え、40℃にて1時間静置し、ガレート体のカテキンを非ガレート体カテキンに分解(ガレート体カテキンは渋味が強く、非ガレート体カテキンは苦味が強い)した後、90℃にて1分間加熱して酵素失活し、20℃に冷却し、イオン交換水にてBx0.5°に調整し、苦味の強い緑茶抽出液を得た。これに本発明の呈味改善剤(苦味のマスキング剤)としてセダノライドを下記表3に示す濃度で添加した緑茶飲料を得た。
香味比較
下記表3に、パネラー10名による本発明品添加および無添加品の緑茶飲料について香味比較評価を示した。
【0030】
【表3】

【0031】
表3に示した通り、セダノライド無添加の緑茶飲料は苦味を有するが、セダノライドを0.01ppb〜10ppm添加した緑茶飲料は、苦味がマスキングされていると判定された。セダノライドの添加量としては0.1ppb〜1ppm程度が特に良好であった。10ppm添加では苦味そのものはマスキングされるが、苦味とは別に、多少スパイシーな香気も感じられた。また、0.01ppbという低濃度でも苦味が若干弱くなったと感じたパネラーもおり、低濃度でも苦味のマスキング効果があることが判明した。
【0032】
実施例4(緑茶飲料の渋味のマスキング)
国産緑茶(2番茶)100gに95℃温水5000g(アスコルビン酸ナトリウム0.03%含有)を加え、時々攪拌しながら5分間抽出した後、ネル濾布にて固液分離し、抽出液4500g(Bx0.7°)を得た。これをイオン交換水にてBx0.5°に調整し、渋味の強い緑茶抽出液を得た。これに本発明の呈味改善剤(渋味のマスキング剤)としてセダネノライドを下記表4に示す濃度で添加した緑茶飲料を得た。
香味比較
下記表4に、パネラー10名による本発明品添加および無添加品の緑茶飲料について香味比較評価を示した。
【0033】
【表4】

【0034】
表4に示した通り、セダネノライド無添加の緑茶飲料は渋味を有するが、セダネノライドを0.01ppb〜10ppm添加した緑茶飲料は、渋味がマスキングされていると判定された。セダネノライドの添加量としては0.1ppb〜1ppm程度が特に良好であった。10ppm添加では苦味そのものはマスキングされるが、苦味とは別に、多少スパイシーな香気も感じられた。また、0.01ppbという低濃度でも苦味が若干弱くなったと感じたパネラーもおり、低濃度でも苦味のマスキング効果があることが判明した。
【0035】
参考例1(精油の精密蒸留による精製)
市販のセロリシード精油(参考品1)として、成分組成が3−n−ブチルフタライド1.86%、セダネノライド5.4%およびセダノライド0.32%、リモネン66.2%、β−セリネン12.9%、その他13.3%(ガスクロマトグラフィー法により測定)の精油を使用した。参考品1(120.5g)を、以下の条件で減圧精密蒸留を行った。内温54℃、減圧度を1000Paから500Paまで徐々に減圧し、留出液の留出が止まったところで終了し、留出液および釜残部(参考品2)を得た。得られた留出液および釜残部の組成は以下の通りであった。留出部80.3g(3−n−ブチルフタライド1.43%、セダネノライド3.72%およびセダノライド0.27%、リモネン85.5%、β−セリネン3.5%、その他5.58%)。
釜残部(参考品2)40.8g(3−n−ブチルフタライド7.07%、セダネノライド20.5%およびセダノライド1.22%、リモネン0%、β−セリネン43.4%、その他27.81%)。
【0036】
上記の通り、精密蒸留では、リモネンがすべて留出し、留出部は85%以上がリモネンであった。一方、釜残部にはフタライド類が濃縮されたが、β−セリネンも釜残部に濃縮されてしまうことが認められた。
【0037】
実施例5(オレオレジンの分子蒸留による精製)
市販のセロリオレオレジン(参考品3)として、揮発性成分組成が3−n−ブチルフタライド5.0%、セダネノライド41.3%およびセダノライド2.5%、リモネン30.4%、β−セリネン8.2%、その他12.6%のオレオレジンを使用した。
【0038】
参考品3(362.6g)に米サラダ油72.9g(参考品3の20%)を加え良く混合し、遠心薄膜式分子蒸留装置に仕込み、15〜28Paの減圧条件下、3.6g/分の速度でフィードノズルより加熱伝熱面に流入させ、コンデンサーには、冷却水を流し、コールドトラップをドライアイス/アセトンで冷却し薄膜蒸留を行った。このときの処理液の加熱条件は、温度100℃、平均して0.1mmの薄膜状で約1.0秒間の加熱であった。蒸留後、コールドトラップ部25.1g、冷却水トラップ部10.6gおよび釜残部399.8gを得た。
【0039】
釜残部の揮発性成分組成:3−n−ブチルフタライド6.9%、セダネノライド58.3%、セダノライド3.0%、リモネン8.3%、β−セリネン13.2%、その他10.3%)。
【0040】
釜残部399.8gを再度遠心薄膜式分子蒸留装置に仕込み、15〜28Paの減圧条件下、3.6g/分の速度でフィードノズルより加熱伝熱面に流入させ、コンデンサーには、冷却水を流し、コールドトラップをドライアイス/アセトンで冷却し薄膜蒸留を行った。このときの処理液の加熱条件は、温度150℃、平均して0.1mmの薄膜状で約1.0秒間の加熱であった。蒸留後、留出部のみを本発明品1とした(収量54.7g)。
【0041】
本発明品1の成分組成:3−n−ブチルフタライド8.0%、セダネノライド65.5%、セダノライド3.5%、リモネン0.6%、β−セリネン10.9%、その他11.5%。なお、2回目の分子蒸留の釜残部(345.1g)にはほとんどガスクロマトグラフィーにより検出される揮発性成分は含まれていなかった。
【0042】
実施例6(苦味、渋味マスキングパウダーの調製)
3−n−ブチルフタライド0.093g、セダネノライド0.27gおよびセダノライド0.016gに中鎖脂肪酸トリグリセライド19.6gおよびSAIB30gを混合溶解し油相部とした。他方、軟水680gにパインデックスNo.2を955g及びHLB15のショ糖脂肪酸エステル50gを加えて溶解し、85℃で15分間加熱殺菌した。この溶液を約40℃に冷却後、TK−ホモミキサー(特殊機化工業製)でかき混ぜながら先に調製した油相部50gを注加し、更に5000回転/分で5分間かき混ぜて乳化処理し、乳化液1690gを得た。この乳化液を噴霧乾燥機(NIRO社製:モービルマイナー)を用いて送風温度150℃、排風温度80℃で乾燥し、苦味、渋味マスキングパウダー900gを得た(本発明品2:3−n−ブチルフタライド0.0093%、セダネノライド0.027%およびセダノライド0.0016%含有)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フタライド類を有効成分とする苦味含有飲食品の苦味改善剤。
【請求項2】
フタライド類を有効成分とする渋味含有飲食品の渋味改善剤。
【請求項3】
渋味含有飲食品がカテキン類含有食品であることを特徴とする請求項2に記載の渋味改善剤。
【請求項4】
苦味改善が苦味のマスキングであることを特徴とする請求項1に記載の苦味改善剤。
【請求項5】
渋味改善が渋味のマスキングであることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の渋味改善剤。
【請求項6】
フタライド類がセダネノライド、セダノライド、3−n―ブチルフタライドおよび3−ブチリデンフタライドから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1または請求項4に記載の苦味改善剤。
【請求項7】
フタライド類がセダネノライド、セダノライド、3−n―ブチルフタライドおよび3−ブチリデンフタライドから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項2、請求項3、または請求項5に記載の渋味改善剤。
【請求項8】
請求項1、請求項4、または請求項6に記載の苦味含有飲食品の苦味改善剤を、フタライド類として10ppb〜1%含有することを特徴とする苦味改善剤組成物。
【請求項9】
請求項2、請求項3、請求項5、または請求項7に記載の渋味含有飲食品の渋味改善剤を、フタライド類として10ppb〜1%含有することを特徴とする渋味改善剤組成物。
【請求項10】
請求項1、請求項4、または請求項6に記載の苦味改善剤を、フタライド類として0.01ppb〜10ppm添加することを特徴とする苦味含有飲食品の苦味改善方法。
【請求項11】
請求項2、請求項3、請求項5、または請求項7に記載の渋味改善剤を、フタライド類として0.01ppb〜10ppm添加することを特徴とする渋味含有飲食品の渋味改善方法。
【請求項12】
請求項8に記載の苦味改善剤組成物を、フタライド類として0.01ppb〜10ppm添加することを特徴とする苦味含有飲食品の苦味改善方法。
【請求項13】
請求項9に記載の渋味改善剤組成物を、フタライド類として0.01ppb〜10ppm添加することを特徴とする渋味含有飲食品の渋味改善方法。















【公開番号】特開2011−103873(P2011−103873A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114365(P2010−114365)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【分割の表示】特願2009−259307(P2009−259307)の分割
【原出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【特許番号】特許第4562049号(P4562049)
【特許公報発行日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(000214537)長谷川香料株式会社 (176)
【Fターム(参考)】