説明

苦汁の除塩方法

【課題】苦汁に含まれる各有用ミネラル分を残しながら、塩分(塩化ナトリウム)の除去を簡便かつ低コストで行える苦汁の除塩方法を提供する。
【解決手段】海洋深層水から塩を精製して得られた苦汁を、内部にボーメ度計が配された冷凍装置により静置状態で緩慢冷却しながら一部凍結させて苦汁に残存している塩を析出させ、苦汁のボーメが26度以下になったら非凍結状態の苦汁を冷凍装置から回収する。冷凍装置での冷却温度は、−25℃以下に設定し、苦汁の冷却は直冷式により行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水から塩分を除去した残りの母液である苦汁を冷凍して、さらに苦汁に残存している塩(塩化ナトリウム)を取り除く方法に関する。
【背景技術】
【0002】
苦汁には、マグネシウムやカリウムなど多種多様の有用ミネラルが豊富に含まれており、ダイエット効果、不足ミネラルの補給、農作物栽培の効率化ないし品質向上など、その有用性に着目して、近年では苦汁を希釈して飲料用としたり、食品、化粧品または農業用の添加物にするなど幅広い分野で有効利用されている。ここで苦汁(にがり)とは、「海水を煮詰めて製塩した後に残る母液」を意味し、その主成分は塩化マグネシウムである。
【0003】
とくに、海洋深層水から得られた苦汁が注目されている。この種の海洋深層水は、わが国において、主に高知県の室戸岬沖や富山湾で採取されており、富栄養性、清浄性などの優れた特長があるとされている。
【0004】
本出願人は、室戸海洋深層水で天然塩を製造販売しており、その副産物として苦汁が得られる。この苦汁を食品や農業用として使用する場合、なお多くの塩分が残存しており、実用化に問題がある。すなわち、そのまま飲食用に用いれば高血圧などの原因となり、肥料などの農業用に用いれば塩害などの原因となってしまう。
【0005】
苦汁からの塩分除去方法としては、一般的にはさらに苦汁を熱処理により濃縮して塩分を析出させることで除塩する方法が考えられる。これによれば、濃縮倍率の設定が容易である、短時間で除塩が可能であるなどの利点がある。ただし、熱処理を行うことでカリウムやカルシウムも減少してミネラルバランスが悪くなる、設備コストが高い、製品回収率が悪い、ボーメ度(濃縮度合い)が高すぎると商品製造段階で希釈する必要があり使い勝手が悪い等々の欠点がある。
【0006】
そこで、本発明者は、苦汁を冷却してその温度変化によりミネラルが析出する特性を活かした、冷凍方式による除塩方法を開発した。ここで、海水や苦汁などを冷却して除塩する方法として特許文献1および2がある。
【0007】
【特許文献1】特開2002−10754号(段落番号0013〜0015、表2、図1)
【特許文献2】特開平11−32726号(表1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、苦汁を冷却して部分的に凍結させ、凍結部分と非凍結液とを分離することで除塩している。しかし、ここでは凍結部分を使用しており、除塩はできるがそれに伴ってマグネシウムなどの有用ミネラルの含有量も低くなってしまい、依然として他のミネラル分と比べて塩分比率が高くミネラルバランスが良いとはいえない。二次冷凍水にあってはさらに塩分比率が高くなる。凍結部分と非凍結水との分離は冷却状態で行う必要があるが、特許文献1では苦汁を冷凍庫内で冷却しているので、多量の苦汁を処理するには装置の大型化を招き、設備コストやランニングコストが高くつく。
【0009】
特許文献2には、苦汁を冷却して硫酸マグネシウムを採取する方法が開示されているが、その具体的方法は不明であり、そもそも塩(塩化ナトリウム)を採取(除塩)する方法ではない。
【0010】
そこで本発明の目的は、苦汁に含まれる各有用ミネラル分を残しながら、塩分(塩化ナトリウム)の除去を簡便かつ低コストで行える苦汁の除塩方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の苦汁の除塩方法は、原海水を天日干しや煮詰めて製塩した後の母液である苦汁を、冷凍装置により静置状態で緩慢冷却しながら一部凍結させて苦汁に残存している塩を析出させ、この状態で残りの非凍結液を凍結部分から分離回収するにある。
【0012】
冷凍装置による苦汁の冷却は直冷式により行い、その際の冷却温度は−25℃以下に設定する。冷凍装置内にはボーメ度計を配しておき、苦汁のボーメが26度以下になったら非凍結状態の苦汁を冷凍装置から回収すればよい。原海水には海洋深層水が用いて好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の除塩方法によれば、静置状態で苦汁を冷却しているので、確実に塩のみを析出させてミネラルバランスを良好に保ちながら塩分濃度の低い苦汁が得られる。明確な理論は不明だが、苦汁を攪拌しながら急冷した場合は、先に氷のみが生成されて塩が円滑に析出せず、非凍結液中に塩分が多く残存してしまうからである。また、氷部分に他の有用ミネラルが含まれてしまう不具合も回避できることによる。
【0014】
この苦汁の冷却は直冷式により行っているので、冷凍装置のコンパクト化を図りながら、確実に凍結部分を凍結させたまま非凍結液を分離回収できるので、設備コストやランニングコストがかからず低コストで精製できる。冷却温度が−25℃以下に設定されていると、塩の析出を確実に担保できる。氷の生成量や塩の析出量など、苦汁の状態を直接視認することは困難であるが、冷凍装置にボーメ度計を配してあることで、ボーメ度を読み取るだけで容易に非凍結液の分離回収時期を確認できる。海洋深層水から得られた苦汁を使用すると、表層海水から得られた苦汁に比して清浄性、富栄養性が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明による苦汁の除塩方法は、図1に示す装置を使用して実施する。具体的には、外周壁に断熱材を使用した冷凍装置1と、冷凍装置1内の苦汁を冷却する冷凍機2と、冷凍装置1内に原液苦汁を供給する原液タンク3と、冷凍装置1から凍結しなかった非凍結液を回収する回収タンク4とを備えている。
【0016】
原液苦汁は原液タンク3から原液供給管7を介して冷凍装置1に供給され、冷凍装置1内の苦汁は冷凍機2で−25℃以下に冷却される。冷凍装置1内には冷凍機2につながる冷媒管8が螺旋状に配されており、冷媒管8を冷凍機2から送られる液体冷媒を循環させることで、苦汁を直接に冷却する。冷凍装置1内には攪拌羽の類は配しておらず、苦汁は静置状態で緩慢冷却される。
【0017】
苦汁の温度低下に伴って冷媒管8の周囲に針状の氷が付着し始めると同時に、冷凍装置1の下方から徐々に塩が析出してシャーベット状になり始める。これに伴ってボーメ度が低下していき、ボーメ度が26度以下になった時点で冷凍装置1内からこれの下部に配した回収管9を介して回収タンク4に非凍結液を回収する。このとき、回収管9の入口側にはメッシュ状の金属フィルター(図示せず)が配されており、氷や析出した塩が混入するのを防止しているので、非凍結液を的確に分離回収できる。符号11は、回収管9を開閉するための開閉弁である。原液供給管7にも、必要に応じて開閉弁12や供給ポンプ13が配されている。
【0018】
《比較試験1》
冷凍装置1内で苦汁を直接冷却する直冷式と、苦汁を容器に容れて冷凍庫内で間接冷却する方法とにより苦汁の除塩を行い、これらの方式によって得られた除塩苦汁中のナトリウム、カリウム、カルシウムおよびマグネシウムの含有量を原子吸光光度法により、phをガラス電極法により、ボーメをボーメ度計により、それぞれ分析した。この分析結果を表1に示す。
(実施例1)
0.75/Psの冷凍機2による冷却温度を−25℃に設定し、冷凍装置1内には40リットルの苦汁を投入して室温(20℃)から、徐々に7日間冷却した。このときの温度およびボーメ度の変化を図2に示す。苦汁の原海水としては、海洋深層水を釜茹でして塩を精製した後に残った母液を用いた。
(実施例2)
実施例1と同量の苦汁を冷凍装置1に投入して冷凍機2による冷却温度を−40℃に設定した。苦汁のボーメが26度以下になった時点で非凍結液を分離回収した。このときの温度およびボーメ度の変化も、実施例1とほぼ同様の変化を示した。
(比較例1)
キュービナーに苦汁を20リットル容れ、これを−25℃に設定した冷凍庫内で3日間冷凍した後、冷凍庫から取り出して凍結部分と非凍結液とを遠心分離機により分離して回収した。
(比較例2)
比較例1により回収した非凍結液を、再度キュービナーに容れて−25℃の冷凍庫で3日間冷凍し、比較例1と同様の方法で非凍結液を回収した。
(比較例3)
−40℃の冷凍庫で冷凍させた以外は、比較例1と同様にした。
(比較例4)
−40℃の冷凍庫で冷凍させた以外は、比較例2と同様にした。
【0019】
図2によれば、温度低下に伴ってボーメが徐々に低下し、最終的にボーメが25.3〜25.5度程度で一定になることがわかる。また、冷却温度が−24℃以下であれば、ボーメは26度以下となることもわかる。
【0020】
【表1】

【0021】
表1からも明らかなように、直冷式の実施例1、2では、有用ミネラルをそのまま残存させながらナトリウム量がほぼ半減しており、ミネラルバランスの良好な除塩苦汁が得られた。実施例1、2においてナトリウム以外のミネラル分が増加しているのは、一部の水分が氷となって分離され、苦汁が濃縮されたからである。
【0022】
これに対して各比較例では、あまり除塩できていないことがわかる。これは、析出した塩を除去することはできるが、遠心分離機での分離を冷凍庫外の常温環境で行っているので、その間に氷の一部が溶け、同時に氷に含まれている塩分も溶け出したからと考えられる。
【0023】
一度冷凍して分離した除塩苦汁を再度冷凍しても、一回目と二回目の除塩苦汁中のミネラル含有量に大差は認められなかった。−25℃で冷凍した苦汁と−40℃で冷凍した苦汁とのミネラル含有量にも大差はなかった。これは、−40℃でも塩の析出量や氷の生成量に大差が無いことが要因と考えられる。
【0024】
《比較試験2》
次に、苦汁を静置状態で緩慢冷凍した除塩苦汁と、攪拌しながら急冷した除塩苦汁とを対比した。分析項目は、先の比較試験1と同様である。この分析結果を表2に示す。
(実施例3)
冷凍装置1内に40リットルの苦汁を投入して冷凍機2を−40℃に設定し、ボーメが26度以下になった時点で非凍結液を回収した。
(比較例5)
実施例3での冷凍装置と同じ型の冷凍装置内に攪拌羽を設置して、苦汁を攪拌しながら急冷した以外は実施例3と同一条件で行い、苦汁の冷却開始と非凍結液の回収も実施例3と同じタイミングで平行して行った。
【0025】
【表2】

【0026】
表2からも明らかなように、攪拌急冷した比較例5ではあまり除塩できていないことがわかる。これは、冷凍中に先に水分のみ凍結して、塩が円滑に析出しなかったことが最大の原因である。また、その他のミネラルも実施例3と比べて低い値になっていることにより、攪拌により有用ミネラルが氷中に取り込まれていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明で使用する苦汁の冷凍設備の概略図
【図2】苦汁を冷凍した際の温度・ボーメ変化を示す図表
【符号の説明】
【0028】
1 冷凍装置
2 冷凍機
3 原液タンク
4 回収タンク
8 冷媒管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原海水を天日干しや煮詰めて製塩した後の母液である苦汁を、冷凍装置により静置状態で緩慢冷却しながら一部凍結させて苦汁に残存している塩を析出させ、
残りの非凍結液を、凍結部分から分離回収することで、塩を除去する苦汁の除塩方法。
【請求項2】
前記冷凍装置による苦汁の冷却は、直冷式により行う請求項1記載の苦汁の除塩方法。
【請求項3】
苦汁の冷却温度を、−25℃以下に設定してある請求項2記載の苦汁の除塩方法。
【請求項4】
冷凍装置内にボーメ度計を配してあり、
苦汁のボーメが26度以下になったら非凍結状態の苦汁を冷凍装置から回収する請求項3記載の苦汁の除塩方法。
【請求項5】
原海水が海洋深層水である請求項1ないし4のいずれかに記載の苦汁の除塩方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−51025(P2007−51025A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−237503(P2005−237503)
【出願日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【出願人】(398025432)室戸海洋深層水株式会社 (3)
【Fターム(参考)】