説明

荷電分子を用いるリアルタイム酵素アッセイのための組成物、方法およびキット

酵素を検出するために特に有用な組成物、方法およびキットを開示する。酵素を定量するために特に有用な組成物、方法およびキットを開示する。酵素を特徴付けするために特に有用な組成物、方法およびキットを開示する。本出願は、(i)疎水性分子と、(ii)生理的pHにてミセル形成を促進することが可能な1つ以上の電荷平衡分子とを含む、ミセルを提供し、該疎水性分子は、該疎水性分子を該ミセル中に組み込むことが可能な疎水性部分と、色素部分と、必要に応じた電荷部分と、を含み、該疎水性分子および/または該電荷平衡分子は、酵素基質を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本出願は、米国特許法第119条(e)項に基づき、2004年12月30に申請された出願第60/641,177号の利益を主張するものであり、その出願内容は参考として本明細書において援用される。
【背景技術】
【0002】
酵素は化学反応の速度を高める分子である。酵素活性を検出、定量および/または特徴付けするための酵素アッセイは、生物学、医学および産業における重要な用途を有する。生体システムでは、酵素は、核酸の合成および複製、ポリペプチドの修飾および分解、代謝物の合成や他の多くの機能に関与している。医療検査では、酵素はヒト患者の健康または疾患の重要な指標物質である。産業上、酵素は多くの目的のために用いられ、例えば、洗濯用洗剤において用いられるプロテアーゼ、アミノ酸およびビタミンのような特殊化学薬品を製造するための代謝酵素並びに鏡像異性的に純粋な医薬品を調製するためのキラル性特異的酵素である。レポーター分子を用いたアッセイは、多くの生物学的および産業プロセスを媒介する酵素を検討および検出するための重要なツールである。レポーター分子を用いて酵素を分析するための多くの手法が開発されているが、安価かつ簡便に広範囲の酵素を検出および特徴付けするために使用可能な新規のアッセイデザインを見出す必要性が未だ多大に存在する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本明細書では、対象とする酵素または因子を検出、定量および/または特徴付けするのに特に有用な組成物、方法およびキットを示す。一部の実施形態において、当該組成物は、(i)疎水性成分、色素部分および任意の電荷部分を含む疎水性分子と、(ii)1つ以上の電荷平衡分子とを含む。疎水性成分は、その臨界ミセル濃度(CMC)以上にて水性溶媒中に含まれると、疎水性分子をミセルに取り込むことができる。電荷平衡分子はミセル形成を促進または助長するように作用する。特定の作用理論にとらわれるつもりはないが、電荷平衡分子はミセル形成を促進または助長するのに十分な疎水性分子と逆の電荷を含むと考えられる。一部の実施形態では、疎水性分子および/または電荷平衡分子は、各々他方から独立して対象とする酵素または因子に対する基質または推定基質を含み得る。一部の実施形態では、任意の電荷部分が酵素基質を含む。一部の実施形態では、疎水性分子と電荷平衡分子は同一基質を含む。一部の実施形態では、疎水性分子と電荷平衡分子は異なる基質を含む。基質に作用し得る酵素の非限定例には、キナーゼ、ホスファターゼ、スルファターゼ、ペプチダ一ゼおよびカルボキシラーゼが含まれる。
【0004】
一部の実施形態において、色素部分は蛍光部分でよい。組成物の基質が酵素または因子に作用されると、蛍光部分は蛍光シグナルを発生するように機能する。蛍光部分を含み得る好適な蛍光色素の非限定例には、フルオレセイン、スルホフルオレセインおよびローダミン色素のようなキサンテン色素、シアニン色素、bodipy色素並びにsquaraine色素が含まれる。他の蛍光色素を含む蛍光部分を用いてもよい。
【0005】
一部の実施形態では、疎水性分子および電荷平衡分子の両方が色素部分を含む。例えば、疎水性分子は蛍光部分を含み、電荷平衡分子は消光成分を含み得る。消光成分は、消光成分が蛍光部分に近接する場合に蛍光部分の蛍光を消光可能な任意の成分でよい。一部の実施形態では、疎水性分子が消光成分を含み、電荷平衡分子が蛍光部分を含み得る。
【0006】
一部の実施形態において、消光成分は別の消光分子としてミセルに含まれてもよい。消光分子は疎水性成分と蛍光部分の光シグナルを消光する消光成分とを含み得る。
【0007】
別の局面において、サンプル中の酵素活性を検出および/または特徴付けする方法が提供される。サンプルはミセルと接触させられ、蛍光シグナルが検出される。一部の実施形態において、当該ミセルは、(i)疎水性成分、色素部分および任意の電荷部分を含む疎水性分子と、(ii)1つ以上の電荷平衡分子とを含む。一部の実施形態では、疎水性分子および/または電荷平衡分子は、他方から独立して対象とする酵素または因子に対する基質または推定基質を含み得る。一部の実施形態では、任意の電荷部分が酵素基質を含む。一部の実施形態では、疎水性分子と電荷平衡分子は同一基質を含む。一部の実施形態では、疎水性分子と電荷平衡分子は異なる基質を含む。
【0008】
別の局面において、サンプル中の酵素活性を検出および/または特徴付けするのに用いられるキットが提供される。一部の実施形態において、当該キットは、(i)疎水性成分、色素部分および任意の電荷部分を含む疎水性分子と、(ii)1つ以上の電荷平衡分子とを含む。一部の実施形態では、疎水性分子および/または電荷平衡分子は、他方から独立して対象とする酵素または因子に対する基質または推定基質を含み得る。一部の実施形態では、任意の電荷部分が酵素基質を含む。一部の実施形態では、疎水性分子と電荷平衡分子は同一基質を含む。一部の実施形態では、疎水性分子と電荷平衡分子は異なる基質を含む。本発明の教示のこれらの特徴や他の特徴を以下に示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
前記概要および以下の種々の実施形態の記述は、単に例示的かつ説明的であって、本発明の教示を限定するものではない。本出願において、特に記載のない限り、単数形の使用は複数形を含む。また、「または」の使用は特に記載のない限り、「および/または」を意味する。同様に、「含む、包含する、含有する(comprise)」、「含む、包含する、含有する(comprises)」、「含む、包含する、含有する(comprising)」、「含む、包含する、含有する(include)」、「含む、包含する、含有する(includes)」および「含む、包含する、含有する(including)」は限定するものではないものとする。
【0010】
(5.1 定義)
本明細書で用いる場合、次の用語は以下の意味を有するものとする。
【0011】
「検出する」および「検出」は、その標準的な意味を有し、選択される酵素または酵素活性の検出、測定および特徴付けを包含するものとする。例えば、酵素活性は、酵素活性の阻害因子、活性化因子および調節因子を検出、スクリーニングまたは特徴付けする過程で「検出」され得る。
【0012】
「脂肪酸」は、その標準的な意味を有し、炭化水素鎖が飽和、単不飽和または多不飽和型である長鎖炭化水素カルボン酸を指すものとする。炭化水素鎖は、線状、分岐状または環状となり得て、あるいはこれらの特性の組合せを含み得て、また、非置換または置換され得る。通常、脂肪酸は構造式RC(O)OHを有し、式中、Rは、線状、分岐状、環状またはその組合せの構造を有するとともに6〜30個の炭素原子を含む、置換または非置換型の飽和、単不飽和または多不飽和型炭化水素である。
【0013】
「ミセル」は、その標準的な意味を有し、水または水溶性環境における両親媒性分子によって形成される凝集体を指し、両親媒性分子の極性末端または成分が水または水溶性環境と接触し、その非極性末端または成分が凝集体の内部に存在するようになる。ミセルは任意の形状または形態を呈することが可能であり、水または水溶性環境の一成分を取り囲まない非ラメラ「界面活性剤様」凝集体あるいは水または水溶性環境の一成分を取り囲む単ラメラまたは多重ラメラ「小胞様」凝集体、例えば、リポソーム、を含むが、これに限定されない。
【0014】
「消光する」とは、その標準的な意味を有し、特定の波長で測定される蛍光基または成分の蛍光強度の低下を指し、その低下が実現される機序は問わない。具体例として、消光は、分子衝突、FRETのようなエネルギー転移、PETのような光誘起電子移動、蛍光基または成分の蛍光スペクトル(色)の変化あるいは他の任意の機序(あるいは機序の組合せ)に起因し得る。低下量は重要ではなく、広範囲にわたって異なり得る。唯一の必要条件は、その低下が使用する検出システムにより検出可能であることである。従って、蛍光シグナルは、特定の波長におけるその強度が測定可能な量にて低下する場合、消光される。蛍光シグナルは、特定の波長におけるその強度が、少なくとも50%、例えば、50%,60%,70%,75%,80%,85%,90%,95%,96%,97%,98%,99%またはさらには100%低下する場合、「実質的に消光」される。
【0015】
ポリペプチド配列はN末端からC末端への方向(左から右方向に)で提供され、アミノ酸残基は標準的な三文字または一文字コードにより表される(例えば、Stryer,L.,Biochemistry,2nd Ed.,W.H.Freeman and Co.,San Francisco,CA,page 16(1981))。
【0016】
「ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド」は、核酸塩基が糖リン酸結合(糖−リン酸骨格)によって結合した、核酸塩基のポリマーまたはオリゴマーを指す。例示的なポリ−およびオリゴヌクレオチドには、2’デオキシリボヌクレオチドのポリマー(DNA)およびリボヌクレオチドのポリマー(RNA)が含まれる。ポリヌクレオチドは、すべてリボヌクレオチドから、すべて2’デオキシリボヌクレオチドから、あるいはその組合せから構成され得る。
【0017】
「ポリヌクレオチドアナログまたはオリゴヌクレオチドアナログ」は、核酸塩基が1つ以上の糖リン酸アナログを含む糖リン酸骨格によって結合した、核酸塩基のポリマーまたはオリゴマーを指す。典型的な糖リン酸アナログには、糖が2’−デオキシリボースまたはリボース以外であって、核酸塩基のポリマーが正荷電の糖−グアニジル間結合を有する、糖アルキルリン酸、糖ホスホルアミダイト、糖アルキル−または置換アルキルホスホトリエステル、糖ホスホロチオアート、糖ホスホロジチオアート、糖リン酸および糖リン酸アナログが含まれるがこれに限定されず、例えば、米国特許第6,013,785号および米国特許第5,696,253号(Dagani 1995,Chem.&Eng.News 4−5:1153;Dempey et al.,1995,J.Am.Chem.Soc.117:6140−6141も参照されたい)で述べられている。糖が2’−デオキシリボースである、このような正荷電アナログは「DNG」と称され、一方、糖がリボースである正荷電アナログは「RNG」と称される。ポリ−およびオリゴヌクレオチドアナログの定義内に具体的に含まれるのは固定核酸である(LNA;例えば、Elayadi et al.,2002,Biochemistry 41:9973−9981;Koshkin et al.,1998,J.Am.Chem.Soc.120:13252−3;Koshkin et al.,1998,Tetrahedron Letters,39:4381−4384;Jumar et al.,1998,Bioorganic&Medicinal Chemistry Letters 8:2219−2222;Singh and Wengel 1998,Chem.Commun.,12:1247−1248;WO 00/56746;WO 02/28875;およびWO 01/48190を参照;これらすべては参照してその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0018】
「ポリヌクレオチド模倣物またはオリゴヌクレオチド模倣物」は、1つ以上の糖リン酸骨格結合が糖−リン酸アナログに置換された、核酸塩基のポリマーまたはオリゴマーを指す。このような模倣物は、相補的ポリヌクレオチドもしくはオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドもしくはオリゴヌクレオチドアナログまたは他のポリヌクレオチドもしくはオリゴヌクレオチド模倣物とハイブリダイズ可能であり、1つ以上の次の結合を含む骨格を有し得る:米国特許第5,786,461号;米国特許第5,766,855号;米国特許第5,719,262号;米国特許第5,539,082号およびWO 98/03542(Haaima et al.,1996,Angewandte Chemie Int’l Ed.in English 35:1939−1942;Lesnick et al.,1997,Nucleosid.Nucleotid.16:1775−1779;D’Costa et al.,1999,Org.Lett.1:1513−1516も参照されたい。Nielsen,1999,Curr.Opin.Biotechnol.10:71−75も参照)で述べられているようなアルキルアミン側鎖を有する正荷電ポリアミド骨格;WO 92/20702および米国特許第5,539,082号で述べられているような非荷電ポリアミド骨格;米国特許第5,698,685号、米国特許第5,470,974号、米国特許第5,378,841号および米国特許第5,185,144号(Wages et al.,1997,BioTechniques23:1116−1121も参照)で述べられているような非荷電モルホリノ−ホスホルアミダート骨格;ペプチドベースの核酸模倣骨格(例えば、米国特許第5,698,685号を参照);カルバマート骨格(例えば、Stirchak&Summerton,1987,J.Org.Chem.52:4202を参照);アミド骨格(例えば、Lebreton,1994,Synlett.February,1994:137を参照);メチルヒドロキシルアミン骨格(例えば、Vasseur et al.,1992,J.Am.Chem.Soc.114:4006を参照);3’−チオホルムアセタール(thioformacetal)骨格(例えば、Joneset al.,1993,J.Org.Chem.58:2983を参照)およびスルファミン骨格(例えば、米国特許第5,470,967号を参照)。前述の引用文献はすべて参考として本明細書において援用される。
【0019】
「ペプチド核酸」または「PNA」は、核酸塩基がアミノ結合(非荷電ポリアミド骨格)によって結合されたポリ−またはオリゴヌクレオチド模倣物を指し、例えば、米国特許第5,539,082号、第5,527,675号、第5,623,049号、第5,714,331号、第5,718,262号、第5,736,336号、第5,773,571号、第5,766,855号、第5,786,461号、第5,837,459号、第5,891,625号、第5,972,610号、第5,986,053号、第6,107,470号、第6,451,968号、第6,441,130号、第6,414,112号および第6,403,763号のいずれか1つ以上の米国特許に述べられており、そのすべては参考として本明細書において援用される。「ペプチド核酸」または「PNA」という用語は、以下の文献で述べられているポリヌクレオチド模倣物の2つ以上のサブユニットを含む任意のオリゴマーまたはポリマーにも適用するものとする:Lagriffoul et al.,1994,Bioorganic&Medicinal Chemistry Letters,4:1081−1082;Petersen et al.,1996,Bioorganic&Medicinal Chemistry Letters,6:793−796;Diderichsen et al,1996,Tett.Lett.37:475−478;Fujii et al.,1997,Bioorg.Med.Chem.Lett.7:637−627;Jordan et al.,1997,Bioorg.Med.Chem.Lett.7:687−690;Krotz et al.,1995,Tett Lett.36:6941−6944;Lagriffoul et al,1994,Bioorg.Med.Chem.Lett.4:1081−1082;Diederichsen,U.,1997.Bioorganic&MedicinalChemistry 25 Letters,7:1743−1746;Lowe et al.,1997,J.Chem.Soc.Perkin Trans.1,1:539−546;Lowe et al.,1997,J.Chem.Soc.Perkin Trans.11:547−554;Loweet al.,1997,I.Chem.Soc.Perkin Trans.1 1 :5 55− 560;Howarth et al.,1997,I.Org.Chem.62:5441−5450;Altmann,K−H et al.,1997,Bioorganic&Medicinal Chemistry Letters,7:1119−1122;Diederichsen,U.,1998,Bioorganic&Med.Chem.Lett.,8:165−168;Diederichsen et al.,1998,Angew.Chem.mt.Ed.,37:302−305;Cantin et al.,1997,Tett.Lett.,38:4211−4214;Ciapetti et al.,1997,Tetrahedron,53:1167−1176;Lagriffoule et al.,1997,Chem.Eur.1.’3:912−919;Kumar et al.,2001,Organic Letters 3(9):1269−1272;およびWO 96/04000に開示されているthe Peptide−Based Nucleic Acid Mimics (PENAMs)of Shah et al.。これらはすべて参考として本明細書において援用される。
【0020】
(5.2 組成物)
本明細書では、酵素を検出、定量および/または特徴付けするのに特に有用な組成物、方法およびキットを示す。通常、当該組成物は疎水性分子と1つ以上の電荷平衡分子とを含む。一部の実施形態では、疎水性分子は1つ以上の荷電化学基を含み、これらの化学基の存在はミセル形成を阻止または阻害することができる。一部の実施形態では、電荷平衡分子は疎水性分子を構成する化学基の逆電荷を有する化学基を含み、これらの化学基の存在はミセル形成を促進または助長するように作用することができる。
【0021】
一部の実施形態において、疎水性分子は、疎水性成分、色素部分および任意の電荷部分を含む。疎水性成分は、その臨界ミセル濃度以上にて水性溶媒中に含まれると、疎水性分子をミセルに取り込むことができる。一部の実施形態では、色素部分は蛍光部分でよく、蛍光シグナルを発生するように機能する。特定の作用理論にとらわれるつもりはないが、電荷平衡分子はミセル形成を促進または助長するのに十分な疎水性分子と逆の電荷を含み、これにより、蛍光部分がミセルに取り込まれ、そのシグナルが消光され得ると考えられる。疎水性成分、色素部分および任意の電荷部分は、それぞれの機能を果たすことを可能にする任意の様式で互いに結合され得る。
【0022】
疎水性分子および/または電荷平衡分子は、対象とする酵素または因子用の少なくとも1つの基質または推定基質を含む。一部の実施形態では、任意の電荷部分が酵素基質を含む。例えば、疎水性分子および/または電荷平衡分子は、各々独立して酵素基質を含み得る。一部の実施形態では、疎水性分子と電荷平衡分子は同一基質を含む。一部の実施形態では、疎水性分子と電荷平衡分子は異なる基質を含む。基質は1つの酵素もしくは因子および/または複数の酵素もしくは因子に作用され得る。基質が酵素または因子に作用されると、基質はミセルからの色素部分の解離を促進することができ、これにより、色素部分とミセルの相互作用によって生じる消光作用を低下または消失させる。この解離は、酵素認識部位の切断または荷電基のような化学基の付加、欠失もしくは置換によって生じ得て、これがミセルを不安定化することができ、ミセルからの色素部分の放出を促進する。ミセルからの色素部分の放出は消光作用を低下または消失させ、これにより、検出可能な光シグナルの増加が生じる。
【0023】
一部の実施形態では、疎水性分子および電荷平衡分子の両方が色素部分を含む。一部の実施形態では、疎水性分子は蛍光部分を含み、電荷平衡分子は消光成分を含み得る。消光成分は、消光成分が蛍光部分に近接する場合に蛍光部分の蛍光を消光可能な任意の成分でよい。一部の実施形態では、消光成分は別個の消光分子としてミセルに含まれ得る。一部の実施形態では、疎水性分子が消光成分を含み、電荷平衡分子が蛍光部分を含み得る。
【0024】
(5.3 疎水性成分)
疎水性成分は本明細書で述べる種々の分子をミセルに固着し、あるいは取り込むように作用する。疎水性成分の正確な数、長さ、大きさおよび/または組成は異なり得る。例えば、2つ以上の疎水性成分を用いる実施形態では、各疎水性成分は同一であるか、あるいは一部またはすべての疎水性成分が異なり得る。具体例として、一部の実施形態では、疎水性分子および電荷平衡分子は、各々疎水性成分を含み得る。この2つの疎水性成分は同一でよく、あるいは互いに異なってもよい。一部の実施形態では、疎水性分子の疎水性成分は、電荷平衡分子の疎水性成分と同じ長さ、大きさおよび/または組成でよい。一部の実施形態では、疎水性分子の疎水性成分は、電荷平衡分子の疎水性成分と長さ、大きさおよび/または組成が異なり得る。
【0025】
別の具体例として、一部の実施形態では、疎水性分子は2つの疎水性成分を含み得る。この2つの疎水性成分は同一でよく、あるいは互いに異なってもよい。一部の実施形態では、疎水性成分は長さ、大きさおよび/または組成が同じであり得る。一部の実施形態では、疎水性成分は、長さ、大きさおよび/または組成が異なり得る。2つの疎水性成分を含む分子のさらなる例示的実施形態が、2004年11月24日に申請された米国出願第10/997,066号、発明の名称「Ligand−containing micelles and uses thereof」に述べられており、その開示内容は参考として本明細書において援用される。
【0026】
一部の実施形態において、分子がその臨界ミセル濃度(CMC)以上のようにミセル形成閾値を超える濃度にて水環境に置かれる場合、疎水性成分は疎水性分子および/または電荷平衡分子をミセルに取り込み、あるいは組み込むのに十分な疎水性特性(例えば、長さおよび/または大きさ)の置換または非置換炭化水素を含む。別の実施形態では、疎水性成分は、6〜30個の炭素原子または6〜25個の炭素原子または6〜20個の炭素原子または6〜15個の炭素原子または8〜30個の炭素原子または8〜25個の炭素原子または8〜20個の炭素原子または8〜15個の炭素原子または12〜30個の炭素原子または12〜25個の炭素原子または12〜20個の炭素原子を含む、置換または非置換炭化水素を含む。炭化水素は線状、分岐状、環状またはその任意の組合せでよく、1つ以上の同じあるいは異なる置換基を任意で含み得る。例示的な直鎖状炭化水素基は、C6,C7,C8,C9,C10,C11,C12,C13,C14,C15,C16,C17,C18,C19,C20,C22,C24およびC26アルキル鎖を含む。
【0027】
一部の実施形態では、疎水性成分は完全に飽和される。一部の実施形態では、疎水性成分は、互いから独立してシスまたはトランス配置を呈し得る1つもしくはそれ以上の炭素−炭素二重結合および/または1つもしくはそれ以上の炭素−炭素三重結合を含み得る。場合により、疎水性成分は、1つもしくはそれ以上のシクロアルキル基あるいは1つもしくはそれ以上のアリール環またはアリールアルキル基、例えば、1つまたは2つのフェニル環を有し得る。
【0028】
一部の実施形態では、疎水性成分は環状芳香族パイ電子系を有さない非芳香族成分である。一部の実施形態では、疎水性成分が1つ以上の不飽和炭素−炭素結合を含む場合、これらの炭素−炭素結合はでない。別の実施形態では、疎水性成分の構造は蛍光部分と相互作用することができず、FRETまたはスタッキング相互作用によって蛍光部分の蛍光を消光する。前記実施形態の任意の2つ以上の組合せを含む実施形態も本明細書に包含される。最適化試験は、異なる疎水性成分を有する複数の疎水性および/または電荷平衡分子を作製することによって行うことができる。
【0029】
一部の実施形態では、組成物の分子は、エステル結合(または他の結合)によってグリセロールイル基(glycerolyl group)のC1およびC2炭素に結合した2つの疎水性成分を含む。この2つの疎水性成分は同一でよく、あるいは互いに異なってもよい。具体的な実施形態では、各疎水性成分は天然脂肪酸の炭化水素鎖または「尾部」に対応するように選択される。別の具体的な実施形態では、疎水性成分は天然リン脂質の炭化水素鎖または尾部に対応するように選択される。一般的に生じる脂肪酸の炭化水素鎖または尾部の非限定例を下記表1に示す。
【0030】
【表1】

一部の実施形態では、疎水性成分は疎水性側鎖を有するアミノ酸またはアミノ酸アナログを含む。アミノ酸またはアナログは、酵素を検出するために用いられるアッセイ条件下、組成物の分子をミセルに取り込むのに十分な疎水性を付与するように選択される。Alberts,B.,et al.,Molecular Biology of the Cell,4th Ed.,Garland Science,New York,NY,Figure 3.3(2002))に報告されているように、例示的な疎水性アミノ酸には、アラニン、グリシン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンおよびシステインが含まれる。例示的なアミノ酸アナログには、ノルバリン、アミノ酪酸、シクロヘキシルアラニン、ブチルグリシン、フェニルグリシンおよびN−メチルバリンが含まれる(「Amino Acids and Amino Acid Analogs」 section 2002−2003 Novabiochem catalogを参照)。
【0031】
ポリペプチドの疎水性は、各アミノ酸に疎水性値を割り当て、次に、その値をポリペプチド鎖に沿って平均化することによって計算することができる。一般的なアミノ酸の疎水性値を表2に示す。
【0032】
【表2】


1.Monera et al.J.Protein Sci1:219−329 (1995)(中性と考えられる(0値)グリシンに対して疎水性が最も高い残基(フェニルアラニン)が100値を付与されるように、値を正規化した)
2.Hoop TP and Woods KR:Prediction of protein antigenic determinants from amino acid sequences.Proc Natl Acad Sci USA 78:3824,1981.
3.Kyte J and Doolittle RF:A simple method for displaying the hydropathic character of a protien.J Mol Biol 157:105,1982。
【0033】
選択されるアミノ酸またはアミノ酸アナログの正確な数は、選択されるアミノ酸の配列および他の構成要素の存在に依存して異なる。一部の実施形態では、疎水性成分は同一のアミノ酸またはアミノ酸アナログを含む。例えば、疎水性成分は1〜10個のロイシン残基のポリ(ロイシン)を含み得る。一部の実施形態では、疎水性成分はアミノ酸またはアミノ酸アナログの混合物を含む。例えば、疎水性成分はロイシンとイソロイシンのようなアミノ酸の混合物を含むことができ、1〜10個のロイシン残基と1〜10個のイソロイシン残基を用いることができる。
【0034】
一部の実施形態では、疎水性成分はアミノ酸、アミノ酸アナログおよび炭化水素の混合物を含み得る。例えば、一部の実施形態では、疎水性成分はアミノ酸またはアミノ酸アナログの1〜10個の残基と2〜30個の炭素原子を含む炭化水素とを含み得る。
【0035】
疎水性成分は、それぞれの機能を果たすことを可能にする任意の様式で、疎水性分子および/または電荷平衡分子を構成する他の成分に結合することができる。例えば、疎水性分子が疎水性成分、色素部分および電荷部分を含む場合、これらの成分は互いに直接結合することができ、すなわち、互いに共有結合することができる。他の実施形態では、1つ、一部またはすべての成分が互いに間接的に結合することができ、すなわち、1つ以上の任意のリンカーによって結合できる。
【0036】
疎水性成分が色素部分(下記で考察)に結合している組成物の分子の実施形態では、蛍光シグナルを発生する芳香族または共役パイ電子系の一部である色素部分における原子を疎水性成分が全く含まないため、疎水性成分は色素部分と異なると理解されるであろう。従って、疎水性成分がキサンテン環のC4位(例えば、フルオレセインまたはローダミンのC4′位)に結合する場合、疎水性成分はキサンテン環の芳香族環原子を全く含まない。
【0037】
(5.4 色素部分)
本明細書で述べる組成物は少なくとも1つの色素部分を含む。一部の実施形態では、本明細書で述べるように酵素基質が修飾されると、色素部分は選択的に「オン」にされ得る蛍光部分を含む。蛍光部分は、蛍光シグナルを付与するとともに本明細書で述べる方法および原理に従って用いられ得る任意の構成要素を含み得る。
【0038】
一部の実施形態では、色素部分は消光成分を含む。消光成分は、消光成分が蛍光部分に近接する場合に蛍光部分の蛍光を消光可能な任意の成分でよい。ミセル内の蛍光部分の消光は様々に異なる様式で実現され得る。一実施形態では、消光作用は「自己消光」によって実現または惹起され得る。蛍光部分を含む分子が、その蛍光部分を互いに近接させるのに十分な濃度または十分に高いモル比にてミセル内に存在し、そのためその蛍光シグナルが消光される場合に自己消光は生じ得る。ミセルからの蛍光部分の放出は「自己消光」を低減または消失させ、その蛍光シグナルの増加を生じさせる。本明細書で用いるように、蛍光部分を含む任意の分子または分子断片がミセルから放出または除去される場合、蛍光部分はミセルから「放出」または「除去」される。
【0039】
一部の実施形態では、疎水性分子は少なくとも1つの色素部分を含む。一部の実施形態では、疎水性分子は蛍光部分を含む。一部の実施形態では、疎水性分子は自己消光可能な2つの色素部分を含む。
【0040】
一部の実施形態では、電荷平衡分子は少なくとも1つの色素部分を含む。一部の実施形態では、電荷平衡分子は蛍光部分を含む。一部の実施形態では、電荷平衡分子は自己消光可能な2つの色素部分を含む。
【0041】
一部の実施形態では、疎水性分子および電荷平衡分子は、各々少なくとも1つの色素部分を含み得る。一部の実施形態では、疎水性分子および電荷平衡分子は、各々同一の色素部分を含み得る。一部の実施形態では、疎水性分子および電荷平衡分子は、各々異なる色素部分を含み得る。一部の実施形態では、1つの分子が消光成分を含み、1つの分子が蛍光部分を含む。一部の実施形態では、疎水性分子は色素部分を含み、電荷平衡分子は自己消光可能な色素部分を含む。一部の実施形態では、電荷平衡分子が色素部分を含み、疎水性分子が自己消光可能な色素部分を含む。
【0042】
一部の実施形態では、消光成分は別個の消光分子として含まれ得る。消光分子は疎水性成分と、色素部分の光シグナルを消光する消光成分とを含み得る。消光成分は、これを含む疎水性分子および/または電荷平衡分子上の色素部分の蛍光を分子内で消光可能であるように配置され、あるいは消光成分は分子内消光が生じないように配置され得る。いずれの実施形態においても、消光成分はミセル中の近接する別の分子上の色素部分の蛍光を分子内で消光し得る。基質が特定の酵素に作用されると、基質は消光および蛍光部分の近接性を軽減することによって消光作用を「不活性化」し、これにより、測定可能な蛍光シグナルの増加が生じる。
【0043】
色素部分は、それぞれの機能を果たすことを可能にする任意の様式で、本明細書で述べる分子に結合することができる。例えば、疎水性分子が疎水性成分および色素部分を含む場合、これらの成分は互いに直接結合することができ、すなわち、互いに共有結合することができる。他の実施形態では、1つ、一部またはすべての成分が互いに間接的に結合することができ、すなわち、1つ以上の任意のリンカーによって結合できる。
【0044】
別の具体例として、疎水性分子が疎水性成分、色素部分および電荷部分を含む場合、これらの成分は互いに直接結合することができ、すなわち、互いに共有結合することができる。他の実施形態では、1つ、一部またはすべての成分が互いに間接的に結合することができ、すなわち、1つ以上の任意のリンカーによって結合できる。
【0045】
任意の所定のアッセイでは、蛍光部分は可溶性または不溶性でよい。例えば、一部の実施形態では、放出蛍光部分のミセルからアッセイへの移動を容易にするように、蛍光部分はアッセイの条件下で可溶性である。別の実施形態では、自己消光が生じないという条件にて、蛍光部分が溶液外に沈殿し、それが発生した部位に局在化することができ、これにより、溶液中に認められるシグナルに比し、蛍光シグナルの増加を生じさせるように、蛍光部分はアッセイの条件下で不溶性である。
【0046】
消光作用はミセルを構成する他の成分によって達成または惹起することができる。これらの成分は消光が達成される機序にかかわらず、「消光成分」と称される。このような消光成分または消光分子については以下により詳細に述べる。消光成分を修飾してその消光作用を低下または消失させることにより、あるいは蛍光部分を消光成分との近接性から移動させることにより、蛍光部分の蛍光は実質的に回復され得る。消光または蛍光特性の変化を生じさせることが可能な任意の機序を、本明細書で述べるミセルおよび方法において用い得る。
【0047】
ミセル内で達成される消光の程度は、使用する検出システムによって測定可能であれば、奏功するために重大ではない。理解されるように、消光作用が大きいほど、消光作用の除去前の背景蛍光が弱くなるため、高度な消光が望ましい。理論上、測定可能な蛍光シグナルの完全な抑制に相当する100%の消光作用であれば理想的である。実際、任意の測定可能量で十分である。ミセルにおいて所望の程度の消光を付与するのに必要なミセル中の疎水性分子および/または電荷平衡分子および任意の消光分子の量および/またはモルパーセントは、特に蛍光部分の選択に依存して異なり得る。十分な消光度を得るためにミセルに含まれる任意の疎水性分子および/または電荷平衡分子および任意の消光分子(または任意の消光分子の混合物)の量および/またはモルパーセントは、経験的に決定され得る。
【0048】
典型的には、疎水性分子および/または電荷平衡分子の色素部分は蛍光色素を含み、次に蛍光色素は、第一の波長で光を吸収し、吸収事象に応答して第二の波長で蛍光を発する共鳴非局在化系または芳香環系を含む。広範囲のこのような蛍光色素分子が当該技術分野において公知である。例えば、蛍光色素は、種々のクラスの任意の蛍光化合物、例えば、キサンテン、ローダミン、フルオレセイン、シアニン、フタロシアニン、squaraine、bodipy色素、クマリン、オキサジンおよびカルボピロニン(carbopyronines)から選択することができる。
【0049】
一部の実施形態では、蛍光色素はキサンテン色素を含む。一般的に、キサンテン色素は3つの主要な特性を特徴とする:(1)親キサンテン環;(2)環外ヒドロキシルまたはアミン置換基;並びに(3)環外オキソまたはイミニウム(imminium)置換基。通常、環外置換基は親キサンテン環のC3およびC6炭素に位置するが、親キサンテン環がC5/C6およびC3/C4炭素のいずれかまたは両方に縮合したベンゾ基を含む「拡張」キサンテンも既知である。これらの拡張キサンテンでは、特徴的な環外置換基は拡張キサンテン環の対応位置に位置する。従って、本明細書で用いるように、一般的に、「キサンテン色素」は次の親環の1つを構成する。
【0050】
【化1】

上記親環において、A1はOHまたはNH2であり、A2はOまたはNH2+である。A1がOHであってA2がOである場合、親環はフルオレセイン型キサンテン環である。A1がNH2であってA2がNH2+である場合、親環はローダミン型キサンテン環である。A1がNH2であってA2がOである場合、親環はロドール(rhodol)型キサンテン環である。
【0051】
A1およびA2の窒素(存在する場合)の一方または両方並びに/あるいはC1,C2,C2″,C4,C4″,C5,C5″,C7″,C7およびC8位における1つ以上の炭素原子は、同一または異なる多様な置換基に独立して置換され得る。一実施形態において、典型的な置換基は、限定されないが、−X,−Ra,−ORa,−SRa,−NRaRa,perhalo(C1−C6)アルキル,−CX3,−CF3,−CN,−OCN,−SCN,−NCO,−NCS,−NO,−NO2,−N3,−S(O)2O−,−S(O)2OH,−S(O)2Ra,−C(O)R,−C(O)X,−C(S)Ra,−C(S)X,−C(O)ORa,−C(O)O−,−C(S)ORa,−C(O)SRa,−C(S)SRa,−C(O)NRaRa,−C(S)NRaRaおよび−C(NR)NRaRaを含み、各Xは独立してハロゲン(好ましくは−Fまたは−Cl)であり、各Raは独立して水素、(C1−C6)アルキル、(C1−C6)アルカニル、(C1−C6)アルケニル、(C1−C6)アルキニル、(C5−C20)アリール、(C6−C26)アリールアルキル、(C5−C20)アリールアリール、5−20員へテロアリール、6−26員へテロアリールアルキル、5−20員ヘテロアリール−ヘテロアリール、カルボキシル、アセチル、スルホニル、スルフィニル、スルホン、フォスフェイトまたはホスホナートである。概して、親環の蛍光を完全に消光する傾向がない置換基が好ましいが、一部の実施形態では、消光置換基が望ましい場合もある。親キサンテン環の蛍光を消光する傾向がある置換基は−NO2,−Brおよび−Iのような電子求引性基である。
【0052】
C1およびC2置換基並びに/あるいはC7およびC8置換基は、一体となって置換または非置換ブタ[1,3]ジエノまたは(C5−C20)アリールエノ(aryleno)架橋を形成することができる。例示を目的として、C1/C2およびC7/C8炭素に縮合した非置換ベンゾ架橋を含む例示的な親キサンテン環を以下に示す。
【0053】
【化2】

ベンゾまたはアリールエノ架橋は、1つ以上の位置において種々の異なる置換基、例えば、上記化学構造(Ia)〜(Ic)における炭素C1−C8について前述した置換基に置換され得る。複数の置換基を含む実施形態では、置換基はすべて同じでよく、あるいは一部またはすべての置換基が互いに異なってもよい。
【0054】
A1がNH2であり、かつ/あるいはA2がNH2+である場合、窒素原子は隣接する炭素原子を含む1つまたは2つの架橋に含まれ得る。架橋基は同じでも異なってもよく、通常、(C1−C12)アルキルジイル、(C1−C12)アルキルエノ(alkyleno)、2−12員へテロアルキルジイルおよび/または2−12員へテロアルキルエノ架橋から選択される。環外窒素を伴う架橋を含む非限定例の親環を下記に示す。
【0055】
【化3】

親環はC9位においても置換基を含む。一部の実施形態では、C9置換基はアセチレン、低級(例えば、1〜6個の炭素原子)アルカニル、低級アルケニル、シアノ、アリール、フェニル、ヘテロアリール、電子が豊富なヘテロアリールおよび前述の任意の基の置換形態から選択される。親環がC1/C2およびC7/C8位に縮合したベンゾまたはアリールエノ架橋を含む実施形態では、例えば、上記に示した環(Id),(Ie)および(If)のように、C9炭素は非置換であることが好ましい。
【0056】
一部の実施形態において、キサンテン色素が次の化学構造の1つを構成するように、C9置換基は置換または非置換フェニル環である。
【0057】
【化4】

3位、4位、5位、6位、および7位における炭素は、種々の異なる置換基、例えば、炭素C1−C8について前述した置換基に置換され得る。一部の実施形態では、C3位における炭素はカルボキシル(−COOH)または硫酸(−SO3H)基またはそのアニオンに置換される。A1がOHであってA2がOである化学式(IIa),(IIb)および(IIc)の色素は、本明細書でフルオレセイン色素と称され、A1がNH2であってA2がNH2+である化学式(IIa),(IIb)および(IIc)の色素は、本明細書でローダミン色素と称され、A1がOHであってA2がNH2+である(あるいは、A1がNH2であってA2がOである)化学式(IIa),(IIb)および(IIc)の色素は、本明細書でロドール色素と称される。
【0058】
上記化学構造で強調表示されるように、キサンテン環(または拡張キサンテン環)がフルオレセイン、ローダミンおよびロドール色素に含まれる場合、その炭素原子は番号付けが異なる。具体的には、その炭素原子の番号付けはプライム符号を含む。フルオレセイン、ローダミンおよびロドール色素に対する上記番号方式は利便性のために提示したが、他の番号方式を用いることもでき、また、これは限定するものではないということを理解されたい。色素の1つの異性体型が示されるが、限定するものではなく例示として、これらは他の互変異性型または幾何学的形態を含む他の異性体型にて存在し得るということも理解されたい。具体例として、カルボキシローダミンおよびフルオレセイン色素はラクトン型にて存在し得る。
【0059】
一部の実施形態では、蛍光色素はローダミン色素を含む。好適なローダミン色素の例には、限定的ではないが、ローダミンB、5−カルボキシローダミン、ローダミンX(ROX)、4,7−ジクロロローダミンX(dROX)、ローダミン6G(R6G)、4,7−ジクロロローダミン6G、ローダミン110(R110)、4,7−ジクロロローダミン110(dR110)、テトラメチルローダミン(TAMRA)および4,7−ジクロロ−テトラメチルローダミン(dTAMRA)が含まれる。さらなる好適なローダミン色素には、例えば、米国特許第6,248,884号、第6,111,116号、第6,080,852号、第6,051,719号、第6,025,505号、第6,017,712号、第5,936,087号、第5,847,162号、第5,840,999号、第5,750,409号、第5,366,860号、第5,231,191号および第5,227,487号;PCT公報WO 97/36960およびWO 99/27020;Lee et al., NUCL.ACIDS RES.20:2471−2483 (1992),Arden−Jacob,NEUE LANWELLIGE XANTHEN−FARBSTOFFE FUR FLUORESZENZSONDEN UND FARBSTOFF LASER,Verlag Shaker,Germany(1993),Sauer et al.,J.FLUORESCENCE 5:247−261(1995),Lee et al.,NUCL.ACIDS RES.25:2816−2822(1997)並びにRosenblum et al.,NUCL.ACIDS RES.25:4500−4504(1997)に記載されているローダミン色素が含まれる。特に好ましいローダミン色素のサブセットは4,7−ジクロロローダミンである。一実施形態では、蛍光部分は4,7−ジクロロ−オルトカルボキシローダミン色素を含む。
【0060】
一部の実施形態では、蛍光色素はフルオレセイン色素を含む。好適なフルオレセイン色素の例には、限定的ではないが、米国特許第6,008,379号、第5,840,999号、第5,750,409号、第5,654,442号、第5,188,934号、第5,066,580号、第4,933,471号、第4,481,136号および第4,439,356号;PCT公報WO99/16832並びにEPO公報050684に記載されているフルオレセイン色素が含まれる。特に好ましいフルオレセイン色素のサブセットは4,7−ジクロロフルオレセインである。好ましい他のフルオレセイン色素には、限定的ではないが、5−カルボキシフルオレセイン(5−FAM)および6−カルボキシフルオレセイン(6−FAM)が含まれる。一実施形態では、フルオレセイン成分は4,7−ジクロロ−オルトカルボキシフルオレセイン色素を含む。
【0061】
一部の実施形態では、蛍光色素は次の文献およびその文献に引用された文献に記載されているようなシアニン、フタロシアニン、squaraineまたはbodipy色素を含み得る:米国特許第6,080,868号、第6,005,113号、第5,945,526号、第5,863,753号、第5,863,727号、第5,800,996号および第5,436,134号;並びにPCT公報WO96/04405。
【0062】
一部の実施形態では、蛍光色素は、例えば、FRETまたは別の機序によって互いに協働して作用し、大きなストークスシフトを付与する色素のネットワークを含み得る。通常、このような色素ネットワークは蛍光ドナー成分および蛍光アクセプター成分を含み、蛍光アクセプターおよびドナーの両方として作用する付加成分を含み得る。互いに協働して作用し得る色素が選択されるのであれば、蛍光ドナーおよびアクセプター成分は前述の任意の色素を含み得る。具体的な実施形態では、蛍光色素は、フルオレセイン色素を含む蛍光ドナー色素と、フルオレセインまたはローダミン色素を含む蛍光アクセプター色素とを含む。好適な色素対またはネットワークの非限定例は、米国特許第6,399,392号、第6,232,075号、第5,863,727号および第5,800,996号に記載されている。
【0063】
一部の実施形態では、蛍光部分は蛍光ランタニド金属を含む。ランタニドの蛍光特性は、Lackowicz,1999,Principles of Fluorescence Spectroscopy,2nd Ed.,Kluwar Academic,NewYorkに記載されている。好適なランタニド金属の例には、限定的ではないが、ユーロピウム(Eu3+)およびテルビウム(Tb3+)が含まれる。一部の実施形態では、蛍光部分はキレート化ランタニドを含む。例示的なキレートには、限定的ではないが、テトライソフタルミド(tetraisophthalmide)(TIAM)が含まれる。一部の実施形態では、蛍光部分はTIAM(Tb)を含む。
【0064】
(5.5 電荷部分)
疎水性分子はさらに電荷部分を含むことができ、電荷部分が存在する場合、ミセル形成を阻止および/または阻害することができる。電荷部分は電荷を有することが可能な任意の化学基を含む。一部の実施形態では、電荷部分は酵素基質を含む化学基でよい。一部の実施形態では、電荷部分は色素部分を含む化学基でよい。一部の実施形態では、電荷部分は色素部分を疎水性分子に結合するために用いられる化学基でよい。
【0065】
一部の実施形態では、電荷部分は正味の負電荷を含む。一部の実施形態では、電荷部分は正味の正電荷を含む。電荷部分の好適例には、色素、アミノ酸、オリゴヌクレオチド並びにそのアナログおよび誘導体が含まれる。
【0066】
一部の実施形態では、電荷部分はアルギニンおよびリジンのような正荷電アミノ酸を含む。リジンおよびアルギニンは、生理的pHにて単一の正電荷を有する側鎖を含む。ヒスチジンのイミダゾール側鎖は約6のpKaを有し、そのため約6以下のpHにて完全な正電荷を有する。電荷部分はアスパラギン酸およびグルタミン酸のような負荷電アミノ酸を含み得る。アスパラギン酸およびグルタミン酸は単一の負電荷を有するカルボキシル側鎖を含む。システインは約8のpKaを有し、そのため8超のpHにて完全な負電荷を有する。電荷部分はリン酸化アミノ酸を含み得る。例えば、ホスホセリン残基はフォスフェイト基上に2つの負電荷を有する。
【0067】
一部の実施形態では、電荷部分はさらに非荷電アミノ酸、例えば、アラニン、アスパラギン、システイン、グルタミン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファンおよびバリンを含み得る(すなわち、生理的pH6〜9)。
【0068】
一部の実施形態では、電荷部分は非荷電アミノ酸アナログを含み得る。好適例には、2−アミノ−4−フルオロ安息香酸、2−アミノ−3−メトキシ安息香酸、3,4−ジアミノ安息香酸、4−アミノメチル−L−フェニルアラニン、4−ブロモ−L−フェニルアラニン、4−シアノ−L−プロリン、3,4−ジヒドロキシ−L−フェニルアラニン、エチル−L−チロシン、7−アザアトリプトファン(azaatryptophan)、4−アミノ馬尿酸、2 アミノ−3−グアニジノプロピオン酸、L−シトルリンおよび誘導体が含まれる。
【0069】
一部の実施形態では、電荷部分は正荷電アミノ酸アナログ、例えば、N−ω,ω−ジメチル−L−アルギニン、a−メチル−DL−オルニチン、N−ω−ニトロ−L−アルギニンおよび誘導体を含み得る。
【0070】
一部の実施形態では、電荷部分は負荷電アミノ酸アナログ、例えば、2−アミノアジピン酸、N−a−(4−アミノベンゾイル)−L−グルタミン酸、イミノ二酢酸、a−メチル−L−アスパラギン酸、a−メチル−DL−グルタミン酸、y−メチレン−DL−グルタミン酸および誘導体を含み得る。
【0071】
一部の実施形態では、電荷部分はオリゴヌクレオチドを含む。一部の実施形態では、電荷部分はデオキシリボヌクレオチド(DNA)を含む。一部の実施形態では、電荷部分はリボヌクレオチド(RNA)を含む。一部の実施形態では、電荷部分はDNAとRNAの組合せを含む。
【0072】
一部の実施形態では、電荷部分はオリゴヌクレオチドアナログを含む。オリゴヌクレオチドアナログは、核酸塩基が1つ以上の糖リン酸アナログを含む糖リン酸骨格によって結合した、核酸塩基のポリマーまたはオリゴマーでよい。典型的な糖リン酸アナログには、限定的ではないが、糖が2’−デオキシリボースまたはリボース以外であって、核酸塩基のポリマーが正荷電の糖−グアニジル間結合を有する、糖アルキルリン酸、糖ホスホルアミダイト、糖アルキル−または置換アルキルホスホトリエステル、糖ホスホロチオアート、糖ホスホロジチオアート、糖リン酸および糖リン酸アナログが含まれる。
【0073】
一部の実施形態では、電荷部分はオリゴヌクレオチド模倣物を含む。オリゴヌクレオチド模倣物は、1つ以上の糖−リン酸骨格結合が糖−リン酸アナログに置換された、核酸塩基のポリマーまたはオリゴマーでよい。一部の実施形態では、電荷部分はアルキルアミン側鎖のような正荷電ポリアミド骨格を含む。一部の実施形態では、電荷部分は負荷電ポリアミド骨格を含む。一部の実施形態では、電荷部分は非荷電ポリアミド骨格を含む。非限定例には、モルホリノ−ホスホルアミダート骨格、ペプチドベースの核酸模倣骨格、カルバマート骨格、アミド骨格、メチルヒドロキシルアミン骨格、3’−チオホルムアセタール骨格およびスルファマート骨格が含まれる。一部の実施形態では、電荷部分は、核酸塩基がアミノ結合によって結合したペプチド核酸(PNA)を含む。
【0074】
一部の実施形態では、電荷部分はペプチドを含む。一部の実施形態では、ペプチドは酵素または因子に対する基質を含み得る。一部の実施形態では、ペプチドは30以下のアミノ酸残基、25残基、20残基、15残基、10残基または5残基の長さから成る。別の実施形態では、ペプチドは2〜30の範囲の残基、すなわち、2〜25残基または2〜20残基または2〜15残基または2〜10残基または2〜5残基または5〜30残基または5〜25残基または5〜20残基または5〜15残基または5〜10残基または10〜30残基または10〜25残基または10〜20残基または10〜15残基の長さを有する。さらに別の実施形態では、ペプチドセグメントは少なくとも2,3,4,5,6,7,8,9または10個のアミノ酸残基を含む。
【0075】
下記のように、一部の実施形態では、電荷部分は酵素または因子に対する基質を含み得る。
【0076】
(5.6 電荷平衡分子)
電荷平衡分子はミセル形成を促進または助長するように作用する。通常、電荷平衡分子はミセル形成を促進または助長するのに十分な疎水性分子と逆の電荷を含む。例えば、疎水性分子が1つ以上の荷電化学基(すなわち、電荷部分および色素部分)を含む場合、これらの基の存在はミセル中の疎水性分子を不安定化することができ、これにより、特定の酵素の非存在下、ミセルからの疎水性分子の放出を促進する。ミセルからの荷電疎水性分子の放出は、ミセル形成を促進または助長するために疎水性分子と逆の十分な電荷を含む電荷平衡分子を含むことによって阻止または最小化することができる。一部の実施形態では、疎水性分子は負に荷電され、電荷平衡分子は正に荷電され得る。一部の実施形態では、疎水性分子は正に荷電され、電荷平衡分子は負に荷電され得る。従って、電荷平衡分子を含むことにより、疎水性分子内の不安定化化学基の存在下、ミセルを形成することができる。
【0077】
電荷平衡分子は、適切な数の負および正荷電基を含むことにより、正味の負または正味の正電荷を有するように設計され得る。例えば、正味の正電荷(すなわち、正味電荷+2)となるように、電荷平衡分子は正荷電基を、または負荷電基より多くの数の正荷電基を含むように設計され得る。正味の負電荷(すなわち、正味電荷−2)となるように、電荷平衡分子は負荷電基を、または正荷電基より多くの数の負荷電基を含むように設計され得る。
【0078】
電荷平衡分子を設計する際、正味電荷は疎水性分子の電荷を含む多くの因子にある程度依存する。例えば、一部の実施形態では、疎水性分子は蛍光色素および電荷部分を含み、その両方ともミセル形成を不安定化または阻止することが可能な1つ以上の荷電化学基を含み得る。疎水性分子と逆の十分な電荷を含む電荷平衡分子を含むことにより、ミセル形成は促進または助長され得る。従って、電荷平衡分子の正味電荷は、疎水性分子を構成する荷電基の存在にある程度依存する。
【0079】
電荷平衡分子の総電荷は他の因子、例えば、疎水性分子と電荷平衡分子のモル比、アッセイ培地のpHおよびアッセイ培地中の食塩濃度にもある程度依存する。
【0080】
電荷平衡分子と疎水性分子のモル比は、ミセル形成を促進または助長することが可能な任意の比率でよい。一部の実施形態では、電荷平衡分子と疎水性分子のモル比は約1:1である。他の実施形態では、電荷平衡分子と疎水性分子のモル比は、約9:1,8:1,7:1,6:1,5:1,4:1,3:1,2:1である。他の実施形態では、電荷平衡分子と疎水性分子のモル比は、約1:9,1:8,1:7,1:6,1:5,1:4,1:3,1:2である。
【0081】
具体例として、疎水性分子の正味電荷が+2である場合、正味電荷−2を有する電荷平衡分子の等モル比を用いてミセル形成を促進または助長することができる。他の実施形態では、疎水性分子の正味電荷が+2である場合、正味電荷−1を有する電荷平衡分子を用いて、疎水性分子と電荷平衡分子のモル比1:2にてミセル形成を促進または助長することができる。別の具体例として、疎水性分子の正味電荷が−5である場合、正味電荷+18を有する電荷平衡分子の非同等モル比を用いてミセル形成を促進または助長することができる。
【0082】
電荷平衡分子の電荷に作用する別の因子は、アッセイ培地のpHおよび電荷平衡分子を構成する基のpKaである。例えば、一部の実施形態では、電荷平衡分子がpH7.6にて正電荷を有するように設計される場合、7.6超のpKaを有する側鎖を含むアミノ酸を選択することができ、すなわち、リジン(pKa10.5)およびアルギニン(pKa12.5)がpH7.6にて正電荷を有する。一部の実施形態では、電荷平衡分子がpH7.6にて負電荷を有するように設計される場合、7.6未満のpKaを有する側鎖を含むアミノ酸を選択することができ、すなわち、アスパラギン酸(pKa3.9)およびグルタミン酸(pKa4.3)がpH7.6にて負電荷を有する。異なるpHにおける一般的なアミノ酸のpKa値を表3に示す。
【0083】
【表3】


1 Garerett,R.H.and Grisham M.Biochemistry 2nd edition(1999)Saunders College Publishing.pKa値は温度、イオン強度およびイオン性基の微小環境に依存する。
【0084】
電荷平衡分子は電荷を有することが可能な任意の基を含む。基の非限定例には、金属イオン、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、アンモニウム基、金属イオン、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、オリゴヌクレオチドおよびその組合せが含まれる。
【0085】
一部の実施形態では、電荷平衡分子は金属イオンを含む。使用可能な金属イオンの非限定例には、マグネシウム、マンガン、ランタンおよびその任意の組合せが含まれる。
【0086】
一部の実施形態では、電荷平衡分子はオリゴヌクレオチドを含む。一部の実施形態では、電荷平衡分子はデオキシリボヌクレオチド(DNA)を含む。一部の実施形態では、電荷平衡分子はリボヌクレオチド(RNA)を含む。一部の実施形態では、電荷平衡分子はDNAとRNAの組合せを含む。
【0087】
一部の実施形態では、電荷平衡分子はオリゴヌクレオチドアナログを含む。オリゴヌクレオチドアナログは、核酸塩基が1つ以上の糖リン酸アナログを含む糖リン酸骨格によって結合した、核酸塩基のポリマーまたはオリゴマーでよい。典型的な糖リン酸アナログには、限定的ではないが、糖が2’−デオキシリボースまたはリボース以外であって、核酸塩基のポリマーが正荷電の糖−グアニジル間結合を有する、糖アルキルリン酸、糖ホスホルアミダイト、糖アルキル−または置換アルキルホスホトリエステル、糖ホスホロチオアート、糖ホスホロジチオアート、糖リン酸および糖リン酸アナログが含まれる。
【0088】
一部の実施形態では、電荷平衡分子はオリゴヌクレオチド模倣物を含む。オリゴヌクレオチド模倣物は、1つ以上の糖−リン酸骨格結合が糖−リン酸アナログに置換された、核酸塩基のポリマーまたはオリゴマーでよい。一部の実施形態では、電荷平衡分子はアルキルアミン側鎖のような正荷電ポリアミド骨格を含む。一部の実施形態では、電荷平衡分子は負荷電ポリアミド骨格を含む。一部の実施形態では、電荷平衡分子は非荷電ポリアミド骨格を含む。非限定例には、モルホリノ−ホスホルアミダート骨格、ペプチドベースの核酸模倣骨格、カルバマート骨格、アミド骨格、メチルヒドロキシルアミン骨格、3’−チオホルムアセタール骨格およびスルファマート骨格が含まれる。一部の実施形態では、電荷平衡分子は、核酸塩基がアミノ結合によって結合したペプチド核酸(PNA)を含む。
【0089】
一部の実施形態では、電荷平衡分子は荷電アミノ酸またはアミノ酸アナログを含む。一部の実施形態では、電荷平衡はアルギニンおよびリジンのような正荷電アミノ酸を含む。一部の実施形態では、電荷平衡分子は正荷電アミノ酸アナログ、例えば、N−ω,ω−ジメチル−L−アルギニン、a−メチル−DL−オルニチン、N−ω−ニトロ−L−アルギニンおよび誘導体を含み得る。
【0090】
一部の実施形態では、電荷平衡分子はアスパラギン酸およびグルタミン酸のような負荷電アミノ酸を含む。アスパラギン酸およびグルタミン酸は単一の負電荷を有するカルボキシル側鎖を含む。システインは約8のpKaを有し、そのため8超のpHにて完全な負電荷を有する。一部の実施形態では、電荷平衡分子はリン酸化アミノ酸またはアナログを含む。例えば、ホスホセリン残基はフォスフェイト基上に2つの負電荷を有する。一部の実施形態では、電荷部分は負荷電アミノ酸アナログ、例えば、2−アミノアジピン酸、N−a−(4−アミノベンゾイル)−L−グルタミン酸、イミノ二酢酸、a−メチル−L−アスパラギン酸、a−メチル−DL−グルタミン酸、y−メチレン−DL−グルタミン酸および誘導体を含み得る。
【0091】
一部の実施形態では、電荷平衡分子はさらに非荷電アミノ酸、例えば、アラニン、アスパラギン、システイン、グルタミン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファンおよびバリンを含み得る。一部の実施形態では、電荷平衡分子は非荷電アミノ酸アナログを含む。好適例には、2−アミノ−4−フルオロ安息香酸、2−アミノ−3−メトキシ安息香酸、3,4−ジアミノ安息香酸、4−アミノメチル−L−フェニルアラニン、4−ブロモ−L−フェニルアラニン、4−シアノ−L−プロリン、3,4−ジヒドロキシ−L−フェニルアラニン、エチル−L−チロシン、7−アザアトリプトファン、4−アミノ馬尿酸、2 アミノ−3−グアニジノプロピオン酸、L−シトルリンおよび誘導体が含まれる。
【0092】
一部の実施形態では、電荷平衡分子はペプチドを含み得る。一部の実施形態では、ペプチドは酵素または因子に対する基質を含み得る。一部の実施形態では、ペプチドは30以下のアミノ酸残基、25残基、20残基、15残基、10残基または5残基の長さから成る。別の実施形態では、ペプチドは2〜30の範囲の残基、すなわち、2〜25残基または2〜20残基または2〜15残基または2〜10残基または2〜5残基または5〜30残基または5〜25残基または5〜20残基または5〜15残基または5〜10残基または10〜30残基または10〜25残基または10〜20残基または10〜15残基の長さを有する。さらに別の実施形態では、ペプチドセグメントは少なくとも2,3,4,5,6,7,8,9または10個のアミノ酸残基を含む。一部の実施形態では、電荷平衡分子はペプチドE−E−I−Y−G−E−F(配列番号1)を含み得る。一部の実施形態では、電荷平衡分子はペプチドK−K−A−A−G−K−L(配列番号2)を含み得る。
【0093】
一部の実施形態では、電荷平衡分子は荷電タンパク質を含む。これらの実施形態では、荷電タンパク質の濃度はサンプル中の内因性荷電タンパク質の濃度より2,3,4,5,6,7,8,9または10倍高い。一部の実施形態では、電荷平衡分子の荷電タンパク質とサンプル中の内因性荷電タンパク質は同一タンパク質である。一部の実施形態では、電荷平衡分子の荷電タンパク質とサンプル中の内因性荷電タンパク質は異なるタンパク質である。使用可能な荷電タンパク質の非限定例には、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、ミエリンP2タンパク質およびカゼインが含まれる。
【0094】
一部の実施形態では、ミセルは2個以上の電荷平衡分子を含み得る。ミセル形成を促進または助長することが可能な電荷平衡分子の任意の組合せを用いることができる。一部の実施形態では、ミセルは電荷を有することが可能な同一基を含む電荷平衡分子を含み得る。一部の実施形態では、ミセルは電荷を有することが可能な異なる基を含む電荷平衡分子を含み得る。例えば、具体的な実施形態では、ミセルは金属イオンを含む電荷平衡分子およびタンパク質を含む電荷平衡分子を含み得る。
【0095】
(5.7 基質)
疎水性分子および/または電荷平衡分子は、酵素または因子に作用され得る基質または推定基質を含む。一部の実施形態では、任意の電荷部分が酵素基質を含む。一部の実施形態では、疎水性分子および/または電荷平衡分子は、各々他方と独立して対象とする酵素または因子に対する基質または推定基質を含み得る。一部の実施形態では、疎水性分子と電荷平衡分子は同一基質を含む。
【0096】
一部の実施形態では、疎水性分子は1つの基質を含む。一部の実施形態では、疎水性分子は2,3,4以上の基質を含み、その基質は同一であるか、あるいは異なってもよい。基質はそれぞれの機能を果たすことを可能にする任意の様式で結合され得る。一部の実施形態では、基質は互いに直接結合され得る。他の実施形態では、基質は1つ以上の結合基によって互いに間接的に結合され得る。さらに他の実施形態では、基質は色素部分または疎水性成分を通じて互いに間接的に結合され得る。
【0097】
一部の実施形態では、電荷平衡分子は1つの基質を含む。一部の実施形態では、電荷平衡分子は2,3,4以上の基質を含み、その基質は同一であるか、あるいは異なってもよい。基質はそれぞれの機能を果たすことを可能にする任意の様式で結合され得る。一部の実施形態では、基質は互いに直接結合され得る。他の実施形態では、基質は1つ以上の結合基によって互いに間接的に結合され得る。さらに他の実施形態では、基質は色素部分を通じて互いに間接的に結合され得る。
【0098】
一部の実施形態では、電荷平衡分子は1つの基質を含む。一部の実施形態では、電荷平衡分子は2,3,4以上の基質を含み、その基質は同一であるか、あるいは異なってもよい。基質はそれぞれの機能を果たすことを可能にする任意の様式で結合され得る。一部の実施形態では、基質は互いに直接結合され得る。他の実施形態では、基質は1つ以上の結合基によって互いに間接的に結合され得る。さらに他の実施形態では、基質は色素部分を通じて互いに間接的に結合され得る。
【0099】
基質は特定の酵素または因子に作用され得る基質または推定基質を含み得る。検出可能な蛍光の変化(例えば、増加)をもたらすことが可能であれば、基質/ミセル上の任意の種類の酵素または化学反応を用い得る。特定の酵素はミセルとアッセイ培地との界面において実質的に活性であることが好ましい。基質上の特定の酵素または化学反応の選択は、疎水性分子および/または電荷平衡分子の構造並びに他の因子にある程度依存し得る。
【0100】
一部の実施形態では、酵素または因子は基質に作用し、基質を切断する。これらの実施形態では、基質は化学試薬または切断酵素によって切断可能な切断部位を含む。具体例として、基質は、リパーゼ、ホスホリパーゼ、ペプチダーゼ、ヌクレアーゼまたはグリコシダーゼ酵素によって切断可能な切断部位を含む。基質は、切断酵素の特異性、親和性および/または反応速度を促進する付加残基および/または特性をさらに含み得る。特定の切断酵素の必要条件に依存し、このような切断酵素の「認識成分」は切断部位を含むことができ、あるいは切断部位は認識部位の外部にあってもよい。例えば、ある特定のエンドヌクレアーゼは、エンドヌクレアーゼによって結合された核酸分子の領域の上流または下流位置において切断する。
【0101】
基質の化学組成は、特に切断酵素の必要条件に依存する。例えば、切断酵素がプロテアーゼである場合、基質は特定のプロテアーゼによって認識されて切断されるペプチド(またはそのアナログ)を含み得る。切断酵素がヌクレアーゼである場合、基質は特定のヌクレアーゼによって認識されて切断されるオリゴヌクレオチド(またはそのアナログ)を含み得る。切断酵素がホスホリパーゼである場合、基質成分は特定のホスホリパーゼによって認識されて切断されるジアシルグリセロールフォスフェイト基を含み得る。
【0102】
種々の異なるタイプの切断酵素によって認識されて切断される配列および構造は周知である。これらの配列および構造はいずれも基質を構成し得る。切断は配列特異的であり得るが、一部の実施形態では、切断は非特異的であり得る。例えば、切断は配列非特異的ヌクレアーゼ、例えば、RNアーゼの使用を通じて達成され得る。
【0103】
対応する切断酵素による基質の切断は、ミセルから蛍光色素を放出することができ、その消光を低下または消失させ、測定可能な蛍光の増加を生じさせる。
【0104】
他の実施形態では、酵素または因子は、基質に対する化学的成分の付加、欠失または置換により、基質に作用する。これらの反応はミセル中の疎水性分子および/または電荷平衡分子を不安定化することができ、これにより、ミセルからのその放出を促進する。
【0105】
具体例として、一部の実施形態では、酵素または因子は基質に作用し、例えば、キナーゼ酵素による1つ以上の非リン酸化残基のリン酸化あるいはホスファターゼ酵素による1つ以上のリン酸化残基の脱リン酸化によって、基質の正味電荷を変化させる。プロテインキナーゼおよびホスファターゼ酵素によって修飾される基質の具体例を下記にさらに詳細に述べる。
【0106】
例示として、まず、検出、定量および/または特徴付けされる例示的酵素としてのプロテインキナーゼに関連して基質について下記にて考察する。重要な生化学的役割を果たすことに加え、プロテインキナーゼは、フォスフェイト基をヒドロキシル基に付加し、リン酸化基質を形成することによって基質の正味電荷の増加を生じさせる酵素を例示するのにも有用である。生理学的条件下、すなわち、pH6〜pH9にて基質のリン酸化は2個の負電荷の付加を生じさせ、−2の電荷の正味の変化となる。逆の反応をする酵素であるタンパク質ホスファターゼについても考察し、これは生理学的条件下、すなわち、pH6〜pH9にて基質における+2の電荷の純増を生じさせる。いずれの場合でも、基質上の正味電荷の振幅は増大する。例えば、上記のような基質のリン酸化時、基質上の正味負電荷の振幅は−2増大する。他方、ホスファターゼによる基質の脱リン酸化時、基質上の正味正電荷の振幅は+2増大する。
【0107】
一部の実施形態では、サンプル中の1つ以上のプロテインキナーゼを検出、定量および/または特徴付けするための基質が提供される。一般的に、プロテインキナーゼ基質は、プロテインキナーゼによってリン酸化されることが可能な基を有するアミノ酸側鎖を含む。一部の実施形態では、リン酸化可能基はヒドロキシル基である。通常、ヒドロキシル基はチロシン、セリンまたはスレオニン残基における側鎖の一部として付与されるが、リン酸化可能基なヒドロキシル基を含む他の任意の天然もしくは非天然アミノ酸側鎖または他の構成要素を用いることができる。リン酸化可能基は窒素原子でもよく、例えば、リジンのイプシロンアミノ基における窒素原子、ヒスチジンのイミダゾール窒素原子またはアルギニンのグアニジウム窒素原子でよい。リン酸化可能基はアスパラギン酸(asparate)またはグルタミン酸残基におけるカルボキシル基でもよい。
【0108】
プロテインキナーゼ基質は、検出、定量および/または特徴付けするために用いられるプロテインキナーゼの基質特異性に適合するように基質に識別特性を付与する、1つもしくはそれ以上のサブユニットまたは残基(リン酸化可能残基に加えて)を有するセグメント、典型的にはポリペプチドセグメントをさらに含み得る。
【0109】
過去数十年にわたり多種多様なプロテインキナーゼが特徴付けされ、多くのクラスが同定されている(例えば、S.K.Hanks et al.,Science 241:42−52(1988);B.E.Kemp and R.B.Pearson,Trends Biochem.Sci.15:342−346(1990);S.S.Taylor et al.,Ann.Rev.CellBiol.8:429−462(1992);Z.Songyang et al.,Current Biology 4:973−982(1994);およびChem.Rev.101:2209−2600,「Protein Phosphorylation and Signaling」(2001)を参照)。例示的なクラスのプロテインキナーゼには、cAMP依存性プロテインキナーゼ(プロテインキナーゼAファミリー、Aタンパク質またはPKAとも称される)、cGMP依存性プロテインキナーゼ、プロテインキナーゼC酵素(PKC、ジアシルグリセロールによって活性化されるカルシウム依存性PKCを含む)Ca2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼIまたはII、タンパク質チロシンキナーゼ(例えば、PDGFレセプター、EGFレセプターおよびSrc)、マイトジェン活性化タンパク質(MAP)キナーゼ(例えば、ERK1,KSS1およびMAPキナーゼI型)、サイクリン依存性キナーゼ(CDk、例えば、Cdk2およびCdc2)並びにレセプターセリンキナーゼ(例えば、TGF−β)が含まれる。種々のプロテインキナーゼに対する例示的なコンセンサス配列および/または酵素基質を下記表4に示す。当業者には理解されるように、これらの種々のコンセンサス配列および/または酵素基質を用いて、特定のキナーゼおよび/またはキナーゼファミリーに対する所望の特異性を有するプロテインキナーゼ認識成分を設計することができる。
【0110】
【表4】



a 例えば、B.E.Kemp and R.B.Pearson,Trends Biochem.Sci.15:342−346(1990);Z.Songyang et al.,Current Biology 4:973−982(1994);J.A.Adams,Chem Rev.101:2272(2001)およびその引用文献を参照;Xは任意のアミノ酸残基を意味し、「/」は代替残基を示し、Zはバリン、ロイシンまたはイソロイシンのような疎水性アミノ酸である。
b Graff et al.,J.Biol.Chem.266:14390−14398(1991)
c Lee et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.91:6413−6417(1994)
dStokoe et al.,Biochem.J.296:843−849(1993)。
【0111】
特定のキナーゼおよび/またはキナーゼファミリーに対する所望の特異性を有するプロテインキナーゼ基質は、例えば、Brinkworth et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 100(1):74−79(2003)に報告されている方法および/または例示的な配列を用いて設計することもできる。
【0112】
典型的には、プロテインキナーゼ基質はL−アミノ酸残基の配列を含む。しかし、異なる骨格または側鎖構造を有する任意の種々のアミノ酸も用いることができ、例えば、D−アミノ酸ポリペプチド、チオエーテルまたはスルホニル基によって結合したアルキル骨格成分、ヒドロキシ酸エステル(アミド結合をエステル結合に置換することに相当)、アルファ炭素を窒素に置換してアザアナログを形成、カルバマート基によって結合したアルキル骨格成分、ポリエチレンイミン(PEI)および第二級アミンから成るポリマーを生じさせるアミノアルデヒドを用いることができる。より詳細な骨格リストには、N−置換アミド(−CON(R)−置換−CONH−結合)、エステル(−CO2−)、ケト−メチレン(−COCH2−)メチレンアミノ(−CH2NH−)、チオアミド(−CSNH−)、ホスフィナート(−PO2RCH2−)、ホスホンアミダート(phosphonamidate)およびホスホンアミダートエステル(phosphonamidate ester)(−PO2RNH2)、レトロペプチド(−NHC(O)−)、トランスアルケン(−CR=CH−)、フルオロアルケン(例えば、−CF=CH−)、ジメチレン(−CH2CH2−)、チオエーテル(例えば、−CH2SCH2−)、ヒドロキシエチレン(−CH(OH)CH2−)、メチレンオキシ(−CH2O−)、テトラゾール(−CN4−)、レトロチオアミド(−NHC(S)−)、レトロ還元(retroreduced)(−NHCH2−)、スルホンアミド(−SO2NH−)、メチレンスルホンアミド(−CHRSO2NH−)、レトロスルホンアミド(−NHS(O2)−)並びにペプトイド(N−置換グリシン)と、例えば、M.D.Fletcher et al.,Chem.Rev.98:763(1998)による総説およびその引用文献に示されるようなマロナートおよび/またはジェム−ジアミノアルキルサブユニットを有する骨格が含まれる。ペプトイド骨格(N−置換グリシン)も用いることができる(例えば、H.Kessler,Angew.Chem.Int.Ed.Engl.32:543(1993);R.N.Zuckermann,Chemtracts−Macromol.Chem.4:80(1993);および Simon et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.89:9367(1992))。
【0113】
一部の実施形態では、プロテインキナーゼ基質は所定のプロテインキナーゼに対する認識配列を構成する残基をすべて含む。認識配列を構成する残基の総数はNと規定することができ、Nは1〜10の整数である。一部の実施形態では、Nは1〜15の整数である。他の実施形態では、Nは1〜20の整数である。これらの実施形態の具体例として、PKAに対するコンセンサス認識配列は−R−R−X−S/T−Zであり、故にN=5である。2,3または4以上の回数の認識配列の反復を用いて、2,3,4以上の非リン酸化残基を含むプロテインキナーゼ基質を供与することができる。
【0114】
他の実施形態では、プロテインキナーゼ基質は重複認識配列を含む。これらの実施形態では、1つの認識配列由来の1つ以上の残基が2つの認識配列の間で共有される。これらの実施形態の具体例として、p38βIIに対するコンセンサス認識配列はP−X−S−Pである。重複コンセンサス配列を有する認識成分は、2つの認識配列の間で−P−残基を共有することによって作製することができ、例えば、P−X−S−P−X−S−Pとなる。
【0115】
他の実施形態では、プロテインキナーゼ基質は認識配列を構成する残基のサブセットを含み得る。これらの実施形態では、1つ以上の残基が認識モチーフから除かれる。本明細書ではサブセットはN−uアミノ酸残基を含むものと定義付けされ、上述のようにNは認識配列を構成するアミノ酸残基の総数を表し、uは認識配列から除かれるアミノ酸残基の数を表す。一部の実施形態では、uは1〜9の整数である。他の実施形態では、uは1〜14の整数である。さらに別の実施形態では、uは1〜19の整数である。例えば、認識モチーフにおけるアミノ酸の総数が4である場合、3,2または1個のアミノ酸残基を含むサブセットを作製することができる。認識モチーフにおけるアミノ酸の総数が5である場合、4,3,2または1個のアミノ酸残基を含むサブセットを作製することができる。認識モチーフにおけるアミノ酸の総数が6である場合、5,3,2または1個のアミノ酸残基を含むサブセットを作製することができる。認識モチーフにおけるアミノ酸の総数が7である場合、6,5,4,3,2または1個のアミノ酸残基を含むサブセットを作製することができる。認識モチーフが8個のアミノ酸を含む場合、7,6,5,4,3,2または1個のアミノ酸残基を含むサブセットを作製することができる。認識モチーフにおけるアミノ酸の総数が9である場合、8,7,6,5,4,3,2または1個のアミノ酸残基を含むサブセットを作製することができる。認識モチーフが10個のアミノ酸を含む場合、9,8,7,6,5,4,3,2または1個のアミノ酸残基を含むサブセットを作製することができる。典型的には、N−1またはN−2アミノ酸残基を含むサブセットが作製される。
【0116】
認識配列に含める残基の数はプロテインキナーゼの特異性にある程度依存する。例えば、p38βIIのような一部のプロテインキナーゼは、リン酸化活性が生じるために認識配列を構成する残基のすべてが存在することを必要とする。PKCのような他のプロテインキナーゼは、1つ以上の残基が認識配列から除かれた認識配列をリン酸化することができる。他の実施形態では、1つ以上の非リン酸化残基(unphophosphorylated residue)をリン酸化するため、リン酸化残基を必要とするGSK3のようなプロテインキナーゼに非リン酸化残基を含む認識配列が用いられるように設計される。
【0117】
前記実施形態の様々な組合せを、本明細書で述べる組成物および方法において用いることができる。例えば、所定のプロテインキナーゼに対する、N残基を含む認識配列を含む認識成分を含むキナーゼ基質を選択することができる。他の実施形態では、一方の認識配列がN残基を含み、他方の認識配列がN−u残基を含む認識成分を含むキナーゼ基質を選択することができる。従って、プロテインキナーゼが存在する場合に検出可能な蛍光の増加があるのであれば、NおよびN−u認識配列の任意の組合せを有する認識成分を含む基質化合物を用いることができる。さらに、認識成分は、同一プロテインキナーゼに対するものでよく、あるいは異なるプロテインキナーゼに対するものでもよい。
【0118】
非リン酸化残基間の距離は、各選択認識配列における非リン酸化残基の位置に、また、選択認識配列が結合される様式に、ある程度依存する。プロテインキナーゼによってリン酸化され得る非リン酸化残基は隣接してよく、あるいはプロテインキナーゼによってリン酸化されない1,2,3以上の残基によって分離されてもよい。例えば、各々が認識配列−S−X−X−X−を含む2つの認識配列を互いに結合し、組成−S−X−X−X−S−X−X−X−を有する認識成分を形成することにより、非リン酸化残基が3残基によって分離された基質化合物を形成することができる。別の実施形態では、2つの認識配列間でアミノ酸残基を共有することにより、非リン酸化残基が2残基によって分離された基質化合物を形成することができ、例えば、認識配列−P−X−S−P−における−P−を共有し、認識成分−P−X−S−P−X−S−P−を形成することができる。従って、プロテインキナーゼの存在下、蛍光の増加が認められるのであれば、非リン酸化残基が隣接し、あるいは1つ以上の残基によって分離されたNおよびN−u認識配列の任意の組合せをキナーゼ基質において用いることができる。
【0119】
プロテインキナーゼ認識配列は、それぞれの機能を果たすことを可能にする任意の様式で結合され得る。一部の実施形態では、プロテインキナーゼ認識配列は互いに直接結合され得る。他の実施形態では、プロテインキナーゼ認識配列は、1つ以上の結合基によって互いに間接的に結合され得る。さらに別の実施形態では、プロテインキナーゼ認識成分は、蛍光部分または疎水性成分を通じて互いに間接的に結合され得る。
【0120】
一部の実施形態では、電荷平衡分子がキナーゼ基質を含む。一部の実施形態では、キナーゼ基質は総タンパク質、例えば、ミエリン塩基性タンパク質でよい。一部の実施形態では、ミエリン塩基性タンパク質は、PKA、PKC、MAPK、カルモジュリン依存性プロテインキナーゼ、ホスホリラーゼキナーゼ、Raf1、MEK、MEKKおよびその任意の組合せから選択されるキナーゼに作用される。
【0121】
別の局面において、サンプル中の1つ以上のタンパク質フォスフェイトを検出、定量および/または特徴付けするための基質が提供される。また、ホスファターゼはホスファターゼ候補物質でよく、候補物質のホスファターゼ活性を確認および/または特徴付けするために用いられる方法も提供される。
【0122】
多様なタンパク質ホスファターゼが同定されている(例えば、P.Cohen,ANN.REV.BIOCHEM.58:453−508(1989);MOLECULARBIOLOGY OF THE CELL,3rd edition Alberts et al.,eds.,Garland Publishing,NY(1994);およびCHEM.REV.101:2209−2600,「Protein Phosphorylation and Signaling」(2001)を参照)。セリン/スレオニンタンパク質フォスファターゼは、PKAのようなプロテインキナーゼの作用を逆転させる大きなクラスの酵素を表す。セリン/スレオニンタンパク質フォスファターゼは、I,IIA,IIBおよびIICと命名された4群に分類されている。タンパク質チロシンキナーゼも重要なホスファターゼのクラスである。ヒスチジン、リジン、アルギニンおよびアスパラートホスファターゼも公知である(例えば、P.J.Kennelly,CHEM REV.101:2304−2305(2001)およびその引用文献)。ホスファターゼは1種類のみまたは数種類のタンパク質に対して特異性が高い場合があるが、ホスファターゼは相対的に非特異性であって、広範囲のタンパク質標的に作用することができる場合もある。ホスファターゼによって脱リン酸化され得るペプチド配列の例は、上記P.J.Kennellyにおいて報告されている。
【0123】
基質は特定のホスファターゼまたはホスファターゼ群と反応するように設計され得る。ホスファターゼ認識配列における非リン酸化残基は、ホスファターゼによって脱リン酸化され得る任意の基でよい。一部の実施形態では、残基はホスホチロシン残基である。一部の実施形態では、残基はホスホセリン残基である。一部の実施形態では、残基はホスホスレオニン残基である。
【0124】
ホスファターゼ認識成分は、シグナル分子を修飾するために用いられるタンパク質ホスファターゼの基質特異性に適合するように認識部位に識別特性を付与する、1つもしくはそれ以上のサブユニットまたは残基(脱リン酸化可能残基に加えて)を有するセグメント、典型的にはポリペプチドセグメントをさらに含み得る。
【0125】
プロテインキナーゼまたはホスファターゼ認識成分は、リン酸化または脱リン酸化される基または残基を有するポリペプチドセグメントを含み得る。一部の実施形態では、このようなポリペプチドセグメントは、30以下のアミノ酸残基、25残基、20残基、15残基、10残基または5残基の長さのポリペプチドを有する。別の実施形態では、ポリペプチドセグメントは、3〜30の範囲の残基、すなわち、3〜25残基または3〜20残基または3〜15残基または3〜10残基または3〜5残基または5〜30残基または5〜25残基または5〜20残基または5〜15残基または5〜10残基または10〜30残基または10〜25残基または10〜20残基または10〜15残基の長さのポリペプチドを有する。さらに別の実施形態では、ポリペプチドセグメントは少なくとも3,4,5,6または7個のアミノ酸残基を含む。
【0126】
脱リン酸化可能な1つ以上のリン酸化残基を有することに加え、ホスファターゼ基質は、ホスファターゼによる脱リン酸化の結合特異性、親和性および/または速度を促進する付加アミノ酸残基(またはそのアナログ)を含むことができる。
【0127】
少なくとも1つの残基がリン酸化されるのであれば、特定のホスファターゼおよび/またはホスファターゼファミリーに対する所望の特異性を有するホスファターゼ基質は、例示的なプロテインキナーゼコンセンサス配列のために上記のように設計することができる。検出または特徴付けされるホスファターゼは当該技術分野で公知の任意のホスファターゼでよい。一部の実施形態では、フォスフェイトは、ホスファターゼ2C、アルカリホスファターゼまたはチロシンホスファターゼでよい。
【0128】
一部の実施形態では、サンプル中の1つ以上のスルファターゼを検出または特徴付けするための基質が提供される。多様なスルファターゼが同定されている。スルファターゼは1種類のみまたは数種類の基質に対して特異性が高い場合があるが、スルファターゼは相対的に非特異性であって、広範囲の基質に作用することができる場合もあり、限定されないが、これにはタンパク質、グリコサミノグリカン、スルホリピドおよびステロイド硫酸が含まれる。例示的なスルファターゼおよびスルファターゼ基質を下記の表5に示す。これらの基質を用いて、特定のスルファターゼおよび/またはスルファターゼファミリーに対する所望の特異性を有するスルファターゼ認識成分を設計することができる。
【0129】
【表5】


スルファターゼ基質は特定のスルファターゼまたはスルファターゼ群と反応するように設計することができ、あるいは基質特異性および他の触媒特性を判定するように、例えば、kcatまたはKm値を求めるように設計することができる。スルファターゼ認識成分における硫酸エステルは、スルファターゼによって脱硫酸化され得る任意の基でよい。
【0130】
脱硫酸化可能な1つ以上の硫酸エステルを有することに加え、スルファターゼ基質成分は、付加基、例えば、スルファターゼによる脱硫酸化の結合特異性、親和性および/または速度を促進するアミノ酸残基(またはそのアナログ)を含むことができる。
【0131】
一部の実施形態では、サンプル中の1つ以上のタンパク質ペプチダーゼを検出、定量および/または特徴付けするためのペプチダーゼ基質が提供される。他の実施形態では、ペプチド成分は特定のペプチダーゼまたはペプチダーゼ群と反応するように設計することができる。ペプチダーゼは、ペプチド結合の加水分解を触媒するヒドロラーゼクラスのサブクラスの酵素の任意のメンバーである。一般的に、ペプチダーゼは、ポリペプチド鎖の末端近傍のみに作用するエクソペプチダーゼと、ポリペプチド鎖の内部に作用するエンドペプチダーゼに分類される。検出されるペプチダーゼは当該技術分野で公知の任意のペプチダーゼでよい。また、ペプチダーゼはペプチダーゼ候補物質でもよく、候補物質のペプチダーゼ活性を確認および/または特徴付けするために用いられる方法が提供される。
【0132】
多様なペプチダーゼが同定されている。一般的に、ペプチダーゼはその触媒機構によって分類される:1)セリンペプチダーゼ(例えば、キモトリプシンおよびトリプシン);2)システインペプチダーゼ(例えば、パパイン);3)アスパラギン酸ペプチダーゼ(例えば、ペプシン);および4)金属ペプチダーゼ(例えば、サーモリシン)。
【0133】
ペプチダーゼは1種類のみまたは数種類のタンパク質に対して特異性が高い場合があるが、ペプチダーゼは相対的に非特異性であって、広範囲のタンパク質標的に作用することができる場合もある。従って、ペプチダーゼ基質成分の好適な選択によって特定のペプチダーゼを検出するように組成物を設計することができる。例示的ペプチダーゼおよび「−|−」で示される選択的切断部位を下記の表6に示す。これらの種々の切断部位を用いて、特定のペプチダーゼおよび/またはペプチダーゼファミリーに対する所望の特異性を有するペプチダーゼ基質成分を設計することができる。
【0134】
【表6】

Xaaは任意のアミノ酸を示す。
【0135】
ペプチダーゼ基質成分は特定のペプチダーゼまたはペプチダーゼ群と反応するように設計することができ、あるいは基質特異性および他の触媒特性を判定するように、例えば、kcatまたはKm値を求めるように設計することができる。
【0136】
加水分解可能な1つ以上のペプチド結合を有することに加え、ペプチダーゼ基質成分は、ペプチダーゼによる加水分解の結合特異性、親和性および/または速度を促進する付加アミノ酸残基(またはそのアナログ)を含むことができる。
【0137】
(5.8 方法)
本明細書で述べる組成物は、酵素および因子を検出、定量および/または特徴付けする中において、生物、医学および産業上の応用に多様な用途を見出す。一般に、本方法は、(i)疎水性成分、色素部分および任意の電荷部分を含む疎水性分子と、(ii)1つ以上の電荷平衡分子とを含む組成物を用いて、サンプル中の酵素を検出、定量および/または特徴付けする工程を含む。一部の実施形態では、電荷平衡分子は同一でよい。一部の実施形態では、電荷平衡分子は異なってよい。一部の実施形態では、疎水性分子および/または電荷平衡分子は、各々他方から独立して対象とする酵素または因子に対する基質または推定基質を含み得る。一部の実施形態では、任意の電荷部分が酵素基質を含む。一部の実施形態では、疎水性分子と電荷平衡分子は同一基質を含む。一部の実施形態では、疎水性分子と電荷平衡分子は異なる基質を含む。
【0138】
一部の実施形態では、本方法は、(i)色素部分によって生じるシグナルの増加につながる局面で、サンプル中に存在する場合、酵素または因子を基質に作用させるのに効果的な条件下、本明細書で述べる組成物にサンプルを接触させる工程と、(ii)シグナルを検出する工程とを含み、シグナルの増加はサンプル中の酵素の存在および/または量を示す。
【0139】
被験サンプルは使用者によって選択される任意の好適なサンプルでよい。サンプルは天然または人工でよい。例えば、サンプルは、血液サンプル、組織サンプル、細胞サンプル、口腔サンプル、皮膚サンプル、尿サンプル、水サンプルまたは土壌サンプルでよい。サンプルは有機生命体、例えば、真核生物、原核生物、哺乳動物、ヒト、酵母または細菌由来でよい。サンプルは、本発明の教示の基質との接触前、当該技術分野で公知の方法によって処理することができる。例えば、サンプルは、溶解工程、沈殿工程、カラムクロマトグラフィー工程、加熱工程などに供することができる。場合により、サンプルは、酵素基質、阻害因子、活性因子または調節因子をスクリーニングし、あるいは特徴付けるために用いられる、精製または合成・調製された酵素である。
【0140】
サンプルが複数の酵素、例えば、キナーゼおよびホスファターゼを含み、そのため一方の活性が他方の活性に干渉し得る場合、所望でない方の活性を不活化するために不活化因子(例えば、活性部位を対象とした不可逆阻害剤)をサンプルに加えることができる。
【0141】
通常、反応混合物は2000−2001 Sigma Catalogの「Biological Buffers(生物学的緩衝液)」セクションに記載されているような緩衝液を含む。例示的緩衝液には、MES、MOPS、HEPES、トリス(Trizma)、ビシン、TAPS、CAPSなどが含まれる。緩衝液は、所望のpHにし、これを維持するのに十分な量にて存在する。反応混合物のpHは、検出される酵素の活性のpH依存性と、本明細書で述べる種々の成分の電荷に従って選択される。例えば、pHは、2〜12,5〜9または6〜8でよい。反応混合物は、塩、ジチオスレイトール(DTT)のような還元剤並びに酵素に対して必要な任意の補助因子および/または補助基質を含むこともできる(例えば、プロテインキナーゼに対するATP、カルシウム依存性キナーゼに対するCa2+イオンおよびプロテインキナーゼAに対するcAMP)。一実施形態では、反応混合物は界面活性剤を含まず、あるいは界面活性剤を実質的に含まない。
【0142】
一部の実施形態では、本明細書で述べる組成物中の荷電基をマスキングするのを避けるのに役立つように、合理的に可能な限りに被験サンプルを低い濃度に希釈することが望ましい場合がある。被験サンプルは、検出可能な蛍光の増加を許容する任意の濃度に希釈することができる。一部の実施形態では、サンプルは、1倍、2倍、5倍、10倍、20倍、30倍、40倍、または50倍に希釈することができる。一部の実施形態では、サンプルの50倍超の希釈が望ましい場合がある。一部の実施形態では、サンプルはアッセイ反応混合物中で希釈することができる。
【0143】
一部の実施形態では、反応生成物中の荷電基をマスキングするのを避けるのに役立つように、合理的に可能な限りにイオン強度を低く維持し、そのためミセル形成が回避され、不安定化した状態に維持されることが望ましい場合がある。例えば、高塩濃度(例えば、1M NaCl)は不適切となり得る。加えて、やはり生成物の蛍光特性に有害に作用し得る反応混合物中のある種の他の構成要素の高濃度を避けることが望ましい場合がある。金属イオンのようなイオン種の作用に関する指針は、Surfactants and Interfacial Phenomena,2nd Ed.,M.J.Rosen,John Wiley&Sons,New York(1989)の特に第3章に見出すことができる。例えば、濃度5mMのMg2+イオンが後述の実施例において用いられるが、高濃度は不良な結果を示し得る。
【0144】
ミセル形成は様々な方法で検出することができ、これには界面活性剤中の分子の蛍光滴定および動的レーザー光散乱法が含まれる。加えて、ミセル形成および荷電基付加によるミセルの崩壊の直接的な視覚的証左は、フリーズフラクチャー電子顕微鏡法によって得ることができる。例えば、図1Aは疎水性分子C17OOOK(tet)RQGSFRA−アミドを含むミセルの電子顕微鏡写真である。この疎水性分子において、疎水性成分は炭素鎖(C17)を含み、色素部分(tet)はアミノ酸のリジン(K)を介して疎水性成分および任意のリンカーに結合している。「Tet」は、2’,7’,4,7−テトラクロロ−5−カルボキシフルオレセイン(2’,7’−ジクロロ−5−カルボキシ−4,7−ジクロロフルオレセイン)によって示される蛍光部分である。OOOは(ビス)エチレングリコール基を含む、任意のOスペーサーを表す。図1Aは、疎水性分子が筒状または管状ミセル(長さ200〜1000nm、直径20〜60nm)、球状体クラスター(5〜20個のミセル)および個々のミセルを形成可能であることを示す。図1Bはリン酸化疎水性分子C17OOOK(tet)RQGS(p)FRA−アミドを含むミセルの電子顕微鏡写真である。セリン残基における疎水性分子のリン酸化は2つの負電荷の付加を生じさせ、−2の電荷の正味の変化となる。脱リン酸化疎水性分子によって形成されるチューブ状のミセルと対照的に、リン酸化疎水性分子は微小球状体および球状体の微小クラスター(最大で5ミセル)を形成するのみである。これらの結果は、脱リン酸化疎水性分子がモノマーの大きな凝集体を形成し、リン酸化疎水性分子がモノマーをほとんど有さない、より小さな凝集体を形成することを示す。従って、疎水性分子への2つの負電荷の付加は、ミセルの崩壊および解凝集を生じさせる。
【0145】
図2は、正荷電MBP(+18)の添加がC16OOOK(Dye2)EEIYGEF−アミドを含む疎水性分子(−5)の蛍光を消光可能であることを示す例示的実施形態である。疎水性成分はC16炭素鎖であり、色素部分(Dye2)は任意のアミノ酸リジンを介して疎水性成分に結合した5−カルボキシ−2’,7’−ジピリジル−スルホンフルオレセインであり、単に例示的なリンカーである。OOOは任意のOスペーサーを表す。疎水性分子は−5の正味の負電荷を有し、Dye2が−2の電荷を有し、荷電基が−3の電荷を有する。正荷電MBPの濃度が溶液中にて上昇するにつれ、負荷電疎水性分子の相対的蛍光度は低下する。図2において、モル比が1:1未満での疎水性分子へのMPBの添加はミセル形成を促進し、これにより、蛍光色素の蛍光を消光する。モル比が1:1以上での疎水性分子へのMPBの添加はミセル形成を促進し、蛍光色素の蛍光のほぼ完全な消光となる。特定の作用理論にとらわれるつもりはないが、MPBはミセル形成を促進または助長するのに十分な疎水性分子と逆の電荷を含み、これにより、色素部分の蛍光を消光すると考えられる。
【0146】
本方法の特定の局面を実施するにあたり、疎水性分子(または疎水性分子並びに電荷平衡分子)は、検出され、あるいは基質、阻害因子、活性化因子または調節因子の活性に対して化合物をスクリーニング、検出、定量および/または特徴付けするために用いられる酵素を含むサンプルと混合される。酵素の基質との反応はミセルの正味の電荷の絶対振幅の増加(より荷電した化学種)を生じさせ、既反応ミセルの蛍光が未反応ミセルの蛍光より大きくなる。一部の実施形態では、基質の酵素との反応は基質を、(1)(1A)基質上に新たな負荷電基を付加もしくは生成することにより、または(1B)基質上の正荷電基を除去もしくは阻害することにより、正味の負荷電にし、あるいは(2)(2A)基質上に新たな正荷電基を付加もしくは生成することにより、または(2B)基質上の負荷電基を除去もしくは阻害することにより、正味の正荷電にする。
【0147】
例えば、反応(1A)は、基質上でリン酸基をヒドロキシル基に加える(中性荷電基を、−2の電荷を有する基に変える)(例えば、プロテインキナーゼを用いる)ことにより、また、カルボン酸エステルまたはアミドを切断し、カルボキシル基を生成する(例えば、エステラーゼまたはアミダーゼを用いて、中性荷電基を、−1の電荷を有する基に変える)ことにより、達成することができる。反応(1B)は、正荷電アミノ酸を切断することによって達成することができ、あるいは、酵素認識部位におけるアミノ基またはヒドラジン基を、例えば、アセチル化酵素と反応させて中性アセチルエステル基を生成し、N−オキシダーゼ酵素と反応させて中性N−オキシドを生成し、アンモニアリアーゼと反応させてアンモニアを除去し、あるいは酸化的脱アミノを生じさせるオキシダーゼと反応させることによって達成することができる。反応(2A)は、例えば、基質におけるアミド基をアミダーゼで処理し、基質分子において正荷電アミノ基を生成することによって達成することができる。反応(2B)は、負荷電アミノ基を切断することによって達成することができ、あるいは、例えば、デカルボキシラーゼ酵素を用いてカルボン酸を除去し、またはカルボキシル基をメチルトランスフェラーゼと反応させてカルボン酸エステルを形成することによって達成することができる。このような変換を行うことが可能な様々な酵素は文献において公知である(例えば、C.Walsh,Enzymatic Reaction Mechanisms,WH Freeman and Co.,New York,(1979),the Worthington Product Catalog(Worthington Enzymes),Sigma Life Sciences Catalogおよび他の酵素市販業者の製品カタログを参照)。
【0148】
蛍光増加の原理は確定的でなく、本発明者らは特定の理論にとらわれることを望まないが、本発明の教示の蛍光基質分子および/または電荷平衡分子は疎水性成分に起因して反応混合物中にミセルを形成可能であり、そのため、蛍光色素がその近接性のために互いを消光すると考えられる。基質分子上の電荷が電荷平衡分子上の電荷によりオフセットされ、そのため、ミセル形成が相互電荷斥力により阻止されない場合、ミセル形成は特に好ましい。特定の作用理論にとらわれるつもりではないが、生理的pHでの水溶液中の逆荷電の電荷平衡分子と基質分子との間にイオン結合が形成され、ミセル形成を促進または助長することができると考えられる。例えば、図2は、様々な濃度の電荷平衡分子MBPの添加が、25mMトリス(pH7.6)中の疎水性分子C16OOOK(Dye2)EEIYGEF(10μM)の蛍光を消光することを示す。特定の作用理論にとらわれるつもりではないが、蛍光疎水性分子および電荷平衡分子はミセルを形成可能であり、そのため、蛍光色素がその近接性のために互いを消光すると考えられる。
【0149】
一部の実施形態では、電荷部分はペプチドE−E−I−Y−G−E−F(配列番号1)を含み、pH約7.6にて約−3の正味の電荷を有する。一部の実施形態では、疎水性分子はC16OOOK(Dye2)EEIYGEF−アミド構造を含み、ここで疎水性成分はC16炭素鎖であり、OOOは任意のOスペーサーを表し、Dye2は5−カルボキシ−2’,7’−ジピリジル−スルホンフルオレセインである。この例示的実施形態では、蛍光部分の5−カルボキシ−2’,7’−ジピリジル−スルホンフルオレセインは、アミノ酸のリジン(K)を介して疎水性成分および任意のリンカーに結合している。当業者には理解されるであろうように、示されたリジンは単に例示的なリンカーである。
【0150】
一部の実施形態では、電荷部分はペプチドK−K−A−A−G−K−L(配列番号2)を含み、pH約7.6にて約+3の正味の電荷を有する。一部の実施形態では、疎水性分子はC16OOOK(Dye2)KKKKAAGKL−アミド構造を含み、ここで疎水性成分はC16炭素鎖であり、OOOは任意のOスペーサーを表し、Dye2は5−カルボキシ−2’,7’−ジピリジル−スルホンフルオレセインである。この例示的実施形態では、蛍光部分の5−カルボキシ−2’,7’−ジピリジル−スルホンフルオレセインは、アミノ酸のリジン(K)を介して疎水性成分および任意のリンカーに結合している。当業者には理解されるであろうように、示されたリジンは単に例示的なリンカーである。
【0151】
有効であるために、疎水性分子および電荷平衡分子を含む複合体が酵素と反応して所望の修飾生成物を形成するのみならず、検出可能な蛍光増加が認められるように、生成物は疎水性分子および電荷平衡分子を含む化合物より蛍光性が高い必要もある。一般的に、十分に低いシグナル対ノイズ比が達成されるのであれば、蛍光の大きな変化は高いアッセイ感度を供する。従って、複数の疎水性分子および電荷平衡分子を試験し、最も好適な蛍光特性を有する複合体を見出すことが望ましい場合がある。
【0152】
本明細書で述べる組成物は酵素の検出において有用である。疎水性分子のC16OOOK(Dye2)EEIYGEF−アミドおよび電荷平衡分子の0もしくは、100μMATPのミエリン塩基性タンパク質を用いた、PKCβII,MAPキナーゼ1/Erk1およびMAPキナーゼ2/Erk2用のリアルタイムキナーゼアッセイを図3A〜Cに示す。疎水性分子および電荷平衡分子を含むミセルへの酵素の添加は、経時的に4倍超の蛍光増加を生じさせる。
【0153】
本発明の開示では、酵素の検出のみならず、(1)サンプル中の酵素活性をスクリーニングおよび/または定量する工程と、(2)選択基質に対する酵素または酵素混合物のkcatおよび/またはKmを測定する工程と、(3)酵素の基質を検出、スクリーニングおよび/または特徴付けする工程と、(4)酵素活性の阻害因子、活性化因子および/または調節因子を検出、スクリーニングおよび/または特徴付けする工程と、(5)選択酵素に対する基質特異性および/または基質コンセンサス配列もしくは基質コンセンサス構造を判定する工程とを含む方法も意図する。
【0154】
例えば、酵素活性のスクリーニングでは、特定の酵素活性を有する、もしくは、有する可能性があるサンプルが本発明の教示の基質と混合され、蛍光増加が生じたかを判定するために蛍光が測定される。スクリーニングは、スループット率を高めるため、マルチウェルまたはマルチ反応プレートもしくはデバイスにおいて多くのサンプルに対して同時に行うことができる。KcatおよびKmは、例えば、Fersht,Enzyme Structure and Mechanism,2nd Edition,W.H.Freeman and Co.,New York,(1985)で述べられているように、標準方法により求めることができる。
【0155】
一部の実施形態では、反応混合物は2つ以上の異なる酵素を含み得る。これは、例えば、複数の酵素を同時にスクリーニングし、ある酵素が特定の酵素活性を有するかを判定するのに有用となり得る。
【0156】
酵素の基質特異性は、異なる基質成分を有する、異なる基質分子と酵素を反応させることによって判定することができ、基質に対する酵素の活性は蛍光の増加に基づいて判定することができる。例えば、複数の異なるプロテインキナーゼ認識成分を有する、複数の異なる基質分子と酵素を反応させることにより、好ましいキナーゼの基質に対するコンセンサス配列を調製することができる。
【0157】
一部の実施形態では、本明細書で述べる組成物は酵素のKmATPを特徴付けるのに有用である。疎水性分子のC16OOOK(Dye2)EEIYGEF−アミドおよび電荷平衡分子のミエリン塩基性タンパク質を用いて、ATPの濃度を0〜500μMに上昇させた、PKCβII,MAPキナーゼ1/Erk1およびMAPキナーゼ2/Erk2のKmATPを図4A〜Cに示す。疎水性分子および電荷平衡分子を含むミセルへの濃度を上昇させたATPの添加は、蛍光増加を生じさせる。PKCβII,MAPキナーゼ1/Erk1およびMAPキナーゼ2/Erk2の見掛けKmATPを、それぞれ図4A〜Cに示す。
【0158】
本方法の実施のために必要ではないが、アッセイ混合物は、疎水性分子および/または電荷平衡分子の蛍光部分の蛍光を消光するように設計された、1つもしくはそれ以上の消光成分または消光分子を任意で含み得る。
【0159】
酵素活性の阻害因子、活性化因子および/または調節因子の、検出、スクリーニングおよび/または特徴付けは、このような既知の、あるいは潜在的な阻害因子、活性化因子および/または調節因子を含む反応混合物を形成し、阻害因子、活性化因子または調節因子が存在しない場合に認められる蛍光シグナルに対するシグナルの増減(存在する場合)の程度を判定することにより、行うことができる。異なる量のこれらの物質を試験し、Ki(阻害定数)、KH(ヒル係数)、Kd(解離定数)などのパラメータを求め、このような物質が酵素活性に対して有する作用の濃度依存性を特徴付けることができる。
【0160】
一部の実施形態では、本明細書で述べる組成物は酵素阻害剤を特徴付けるのに有用である。疎水性分子のC16OOOK(Dye2)EEIYGEF−アミドおよび電荷平衡分子のミエリン塩基性タンパク質を用いた、PKCβIIに対するスタウロスポリンおよびH98のIC50を図5A〜Bに示す。疎水性分子および電荷平衡分子を含むミセルへの濃度を上昇させた酵素阻害剤の添加は、蛍光の減少を生じさせる。PKCβIIに対するスタウロスポリンおよびH98の見掛けIC50を、それぞれ図5A〜Bに示す。
【0161】
蛍光シグナルの検出は任意の適切な方法で行うことができる。好都合には、本発明の教示の基質分子/電荷平衡分子は、リアルタイムでの連続モニタリングフェーズで用いられ、サンプル中に酵素活性が存在するかを、また、任意で酵素の量または特異的活性をユーザーが迅速に判定することができる。蛍光シグナルは少なくとも2つの異なる時点から測定され、通常、初速度(率)が求められるまで測定される。シグナルは連続的に、あるいは複数の選択時点においてモニタリングすることができる。あるいは、蛍光シグナルは、シグナルが一定量の時間後に測定されるエンドポイントの実施形態において測定することができ、シグナルは対照シグナル(反応開始前)、閾値シグナルまたは標準曲線と比較される。
【0162】
(5.9 キット)
本発明の教示の方法を実施するためのキットも提供される。一部の実施形態では、当該キットは、(i)疎水性成分および任意の電荷部分を含む疎水性分子と、(ii)1つ以上の電荷平衡分子とを含む。疎水性分子および/または電荷平衡分子は色素部分を含む。一部の実施形態では、疎水性分子および/または電荷平衡分子は、他方から独立して対象とする酵素または因子に対する基質または推定基質を含む。一部の実施形態では、任意の電荷部分が酵素基質を含む。一部の実施形態では、疎水性分子と電荷平衡分子は同一基質を含む。一部の実施形態では、疎水性分子と電荷平衡分子は異なる基質を含む。
【0163】
一部の実施形態では、キットは疎水性成分および色素部分を含む疎水性分子を含む。一部の実施形態では、キットは疎水性成分、電荷部分および色素部分を含む疎水性分子を含む。一部の実施形態では、疎水性分子は酵素基質を含む。一部の実施形態では、電荷部分が酵素基質を含む。一部の実施形態では、キットは電荷平衡分子をさらに含む。一部の実施形態では、電荷平衡分子は、金属イオン、荷電オリゴヌクレオチド、荷電オリゴヌクレオチドアナログ、オリゴヌクレオチド模倣物、荷電アミノ酸、荷電ペプチドまたは荷電タンパク質を含む。一部の実施形態では、キットは酵素基質を含む電荷平衡分子を含む。一部の実施形態では、疎水性分子と電荷平衡分子は同一基質を含む。一部の実施形態では、疎水性分子と電荷平衡分子は異なる基質を含む。
【0164】
キットは消光成分および/または消光分子を任意で含み得る。キットはミセルを形成するための付加構成要素を任意で含み得る。一部の実施形態では、キットは酵素反応を促進する反応混合物を調製するための緩衝液をさらに含む。緩衝液は乾燥形態または液状形態にて供され得る。特定の緩衝液の選択は、種々の因子、例えば、被検出酵素に至適なpH、基質分子および/または電荷平衡分子における蛍光部分の可溶性および蛍光特性並びに標的酵素が得られるサンプルのpHに依存し得る。通常、緩衝液は反応混合物において特定のpHを示すのに十分な量にて混合物に加えられる。一部の実施形態では、緩衝液は予め選択されたpHおよび緩衝液濃度を有する原液として供される。サンプルとの混合時、緩衝液は上記のように酵素アッセイに好適な最終pHを示す。反応混合物のpHは、所望の最終pHとなるように酸または塩基で滴定することもできる。キットは酵素活性に有益な他の成分、例えば、塩(例えば、KCl,NaClまたはNaOAc)、金属塩(例えば、CaCl2,MgCl2,MnCl2,ZnCl2またはZn(OAc)のようなCa2+、界面活性剤(例えば、TWEEN 20)および/または特定の酵素に有用となり得る他の成分をさらに含み得る。これらの他の成分は互いに別々に供され、あるいは乾燥または液状形態にて混合され得る。
【0165】
疎水性分子および/または電荷平衡分子は、緩衝液と共に、あるいは緩衝液とは別に、乾燥または液状形態にて供され得る。反応混合物中の溶解を促進するため、疎水性分子および/または電荷平衡分子は、反応混合物の他の成分と混和性の水溶液、成分的水溶液または非水性原液にて供され得る。例えば、水に加え、基質液はジメチルホルムアミド、ジメチルスルホナート、メタノールまたはエタノールのような共溶媒を、通常、1%〜10%(v:v)の範囲で含むこともできる。
【0166】
キットは、酵素の検出、定量および/または特徴付けに有用な付加化学物質を含むこともできる。例えば、プロテインキナーゼ活性の検出のため、キットは、キナーゼによって基質成分をリン酸化するために用いることができるリン酸供与基、例えば、ATP,GTP,ITP(イノシン三リン酸)または他のヌクレオチド三リン酸もしくはヌクレオチド三リン酸アナログを含むこともできる。
【0167】
種々の組成物および方法の実施は、本発明の教示の種々の局面を示す、次の非限定的実施例に照らして一層理解することができるが、実施例は本発明の教示の範囲を限定するものであると決してみなされるべきではない。
【実施例】
【0168】
(6.1 ミセルの低温電子顕微鏡観察(Microsopy))
フリーズフラクチャー電子顕微鏡観察のため、疎水性分子C17OOOK(tet)RQGSFRA−アミド リン酸化疎水性分子C17OOOK(tet)RQGS(p)FRA−アミドを各々、25mMトリス(pH7.6)、5mM MgClおよび5mM DTT中に溶解した。液体窒素で凍結したプロパン中にてサンプルを凍結した。おそらく低温凝固処理によって引き起こされる氷晶形成およびアーチファクトを避けるため、10,000ケルビン/秒の冷却速度を達成させた。低温凝固させたサンプルを処理前に2時間未満、液体窒素中にて保存した。JEOL JED−9000凍結エッチング機において割断工程を実施し、露出した割断面を角度25〜35Cにて30秒間Ptで、また、35秒間炭素でシャドウイングした(2kV/60〜70mA,1×10−5Torr)。濃縮したクロロホルム/メタノール(容積比1:1)で少なくとも5回、生成されたレプリカを洗浄した。洗浄したレプリカをJEOL 1000CXまたはPhilips CM 10電子顕微鏡で観察した。
【0169】
(6.2 電荷平衡分子の付加は疎水性分子の蛍光を消光する)
10μM疎水性分子C16OOOK(Dye2)EEIYGEF−アミド並びに25mMトリス(pH7.6)、5mM MgClおよび5mM DTTを含む反応溶液を調製した。様々な濃度の電荷平衡分子、ミエリン塩基性タンパク質(Upstate USA,Inc.カタログ番号:13−104)を加え(最終濃度0,2.5,5,10,20および50μM)、蛍光を測定した。その結果を図2に示す。
【0170】
(6.3 プロテインキナーゼ活性の検出)
20mMトリス緩衝液(pH7.6)、MgCl2(5mM)、DTT(5mM)並びにPKCβII(0.15ng/μl,Upstate USA,Inc.)、MAPキナーゼ1/Erk1(1.5ng/μl,Upstate USA,Inc.)またはMAPキナーゼ2/Erk2(1.5ng/μl,Upstate USA,Inc.)中に疎水性分子C16OOOK(Dye2)EEIYGEF−アミド(10μM)および10μM電荷平衡分子、ミエリン塩基性タンパク質(Upstate社 カタログ番号:13−104)を含む反応溶液(10μl)を調製した。この溶液を、384ウェルプレート、Corning384ウェル・黒色非結合面(NBS)マイクロウェルプレートのウェルにピペットで注入した(1ウェルあたり10μL)。キナーゼ反応を開始するため、ATP(0もしくは500μM)を加えた。キナーゼ反応を開始する為、ATP(0もしくは500μM)を加えた。Molecular Devices社(カリフォルニア州サニーベール)製Analyst GTを用いて、励起と放射をそれぞれ485,535nmに設定し、周囲温度で2時間、リアルタイムで2分ごとに蛍光を読み取った。PKCβII、MAPキナーゼ1/Erk1およびMAPキナーゼ2/Erk2に対する結果を、それぞれ図3A〜Cに示す。
【0171】
(6.4 プロテインキナーゼのKmATP)
複数のプロテインキナーゼの見掛けKmATPを求めるため、リアルタイムキナーゼアッセイを用いた。20mMトリス緩衝液(pH7.6)、MgCl2(5mM)、DTT(5mM)、10%Lipid Activator(Upstate USA,Inc)並びにPKCβII(0.15ng/μl,Upstate USA,Inc.)、MAPキナーゼ1/Erk1(1.5ng/μl,Upstate USA,Inc.)またはMAPキナーゼ2/Erk2(1.5ng/μl,Upstate USA,Inc.)中に疎水性分子C16OOOK(Dye2)EEIYGEF−アミド(10μM)および10μM電荷平衡分子、ミエリン塩基性タンパク質(Upstate USA,Inc.カタログ番号:13−104)を含む反応溶液(10μl)を調製した。この溶液を、384ウェルプレート、Corning384ウェル・黒色非結合面(NBS)マイクロウェルプレートのウェルにピペットで注入した(1ウェルあたり9μL)。キナーゼ反応を開始するため、8種類の濃度(0,5,10,20,50,100,200または500μM)にてATPを加えた。Molecular Devices社(カリフォルニア州サニーベール)製Analyst GTを用いて、励起と放射をそれぞれ485,535nmに設定し、周囲温度で2時間、リアルタイムで2分ごとに蛍光を読み取った。非線型フィッティングプログラムOrigin 6.1(OriginLab社、マサチューセッツ州)を用いて初速度をMichaelis−Menton式に適合させた。PKCβII、MAPキナーゼ1/Erk1およびMAPキナーゼ2/Erk2に対する結果を、それぞれ図4A〜Cに示す。
【0172】
(6.5 PKCβIIに対するスタウロスポリンおよびH89のIC50)
20mMトリス緩衝液(pH7.6)、MgCl2(5mM)、DTT(5mM)、10%Lipid Activator(Upstate USA,Inc)およびPKCβII(0.15ng/μl,Upstate USA,Inc.)中に疎水性分子C16OOOK(Dye2)EEIYGEF−アミド(10μM)および10μM電荷平衡分子、ミエリン塩基性タンパク質(Upstate USA,Inc.カタログ番号:13−104)を含む反応溶液(10μl)を調製した。この溶液を、384ウェルプレート、Corning384ウェル・黒色非結合面(NBS)マイクロウェルプレートのウェルにピペットで注入した(1ウェルあたり10μL)。最終濃度1%DMSO中、8種類の濃度(0.1,1,10,20,100,1000,5000または20000nM)での酵素阻害剤スタウロスポリン(Sigma社)または8種類の濃度(0.001,0.01,1,5,10,50または100μM)でのH89(Sigma社)を加えた。キナーゼ反応を開始するため、ATP(10μM)を加えた。Molecular Devices社(カリフォルニア州サニーベール)製Analyst GTを用いて、励起と放射をそれぞれ485,535nmに設定し、周囲温度で2時間、リアルタイムで2分ごとに蛍光を読み取った。スタウロスポリンおよびH89に対する結果を、それぞれ図4A〜Cに示す。
【0173】
本明細書で述べた文献および特許出願はすべて、各文献または特許出願が参考として援用されることが具体的かつ個別に示唆されたかの如く、参考として援用される。
【0174】
本明細書で用いたセクションの見出しは単に構成を目的としたものであり、本発明の要旨を限定するものと決して捉えるべきではない。
【0175】
本発明の教示については種々の実施形態と共に述べたが、本発明の教示がこのような実施形態に限定されるということではない。それとは逆に、当業者には理解されるように、本発明の教示は様々な代替例、変形例および同等例を包含する。種々の具体的な実施形態を示して説明したが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能であるということが理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0176】
下記に述べた図は単に例示を目的とするものであるということを当業者は理解するであろう。図は本発明の教示の範囲を決して限定するものではない。
【図1A】1A〜Bは、疎水性分子C17OOOK(tet)RQGSFRA−アミド(図1A)およびリン酸化疎水性分子C17OOOK(tet)RQGS(p)FRA−アミド(図1B)を含むミセルを示す電子顕微鏡写真図である。バーは100nmを表す。
【図1B】1A〜Bは、疎水性分子C17OOOK(tet)RQGSFRA−アミド(図1A)およびリン酸化疎水性分子C17OOOK(tet)RQGS(p)FRA−アミド(図1B)を含むミセルを示す電子顕微鏡写真図である。バーは100nmを表す。
【図2】20mMトリス(pH7.6)および5mM MgCl2中、様々な濃度(0,2.5,5,10,20,50μM)のミエリン塩基性タンパク質(MBP)の、疎水性分子C16OOOK(Dye2)EEIYGEF−アミド(10μM)の蛍光の消光に対する作用を示すグラフ図である。
【図3A】3A〜Cは、0および500μM ATPを含む25mMトリス(pH7.6)、5mM MgCl2中、疎水性分子C16OOOK(Dye2)EEIYGEF−アミド(10μM)を伴うMPB(10μM)に対するPKCβII(図3A)、MAPキナーゼ1/Erk1(図3B)およびMAPキナーゼ2/Erk2(図3C)の反応速度を示すグラフ図である。
【図3B】3A〜Cは、0および500μM ATPを含む25mMトリス(pH7.6)、5mM MgCl2中、疎水性分子C16OOOK(Dye2)EEIYGEF−アミド(10μM)を伴うMPB(10μM)に対するPKCβII(図3A)、MAPキナーゼ1/Erk1(図3B)およびMAPキナーゼ2/Erk2(図3C)の反応速度を示すグラフ図である。
【図3C】3A〜Cは、0および500μM ATPを含む25mMトリス(pH7.6)、5mM MgCl2中、疎水性分子C16OOOK(Dye2)EEIYGEF−アミド(10μM)を伴うMPB(10μM)に対するPKCβII(図3A)、MAPキナーゼ1/Erk1(図3B)およびMAPキナーゼ2/Erk2(図3C)の反応速度を示すグラフ図である。
【図4A】4A〜Cは、25mMトリス(pH7.6)および5mM MgCl2中、MPB(10μM)および疎水性分子C16OOOK(Dye2)EEIYGEF−アミド(10μM)を用いた、PKCβII(図4A)、MAPキナーゼ1/Erk1(図4B)およびMAPキナーゼ2/Erk2(図4C)の見掛けKmATPを示すグラフ図である。
【図4B】4A〜Cは、25mMトリス(pH7.6)および5mM MgCl2中、MPB(10μM)および疎水性分子C16OOOK(Dye2)EEIYGEF−アミド(10μM)を用いた、PKCβII(図4A)、MAPキナーゼ1/Erk1(図4B)およびMAPキナーゼ2/Erk2(図4C)の見掛けKmATPを示すグラフ図である。
【図4C】4A〜Cは、25mMトリス(pH7.6)および5mM MgCl2中、MPB(10μM)および疎水性分子C16OOOK(Dye2)EEIYGEF−アミド(10μM)を用いた、PKCβII(図4A)、MAPキナーゼ1/Erk1(図4B)およびMAPキナーゼ2/Erk2(図4C)の見掛けKmATPを示すグラフ図である。
【図5A】5A〜Bは、25mMトリス(pH7.6)、5mM MgCl2中、MPB(10μM)および疎水性分子C16OOOK(Dye2)EEIYGEF−アミド(10μM)を用いた、スタウロスポリン(図5A)およびH89(図5B)のPKCβIIの阻害を示すグラフ図である。
【図5B】5A〜Bは、25mMトリス(pH7.6)、5mM MgCl2中、MPB(10μM)および疎水性分子C16OOOK(Dye2)EEIYGEF−アミド(10μM)を用いた、スタウロスポリン(図5A)およびH89(図5B)のPKCβIIの阻害を示すグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)疎水性分子と、(ii)生理的pHにてミセル形成を促進することが可能な1つ以上の電荷平衡分子とを含む、ミセルであって、
該疎水性分子は、該疎水性分子を該ミセル中に組み込むことが可能な疎水性部分と、色素部分と、必要に応じた電荷部分と、を含み、
該疎水性分子および/または該電荷平衡分子は、酵素基質を含む、
ミセル。
【請求項2】
前記疎水性分子が負に荷電しており、前記電荷平衡分子が正に荷電している、請求項1に記載のミセル。
【請求項3】
前記疎水性分子が正に荷電しており、前記電荷平衡分子が負に荷電している、請求項1に記載のミセル。
【請求項4】
前記電荷部分が荷電アミノ酸を含む、請求項1に記載のミセル。
【請求項5】
前記電荷部分が荷電ペプチドを含む、請求項1に記載のミセル。
【請求項6】
前記電荷部分が荷電オリゴヌクレオチドを含む、請求項1に記載のミセル。
【請求項7】
前記荷電オリゴヌクレオチドが、DNA、RNAおよびその任意の組合せから選択される、請求項6に記載のミセル。
【請求項8】
前記電荷部分が荷電オリゴヌクレオチドアナログを含む、請求項1に記載のミセル。
【請求項9】
前記電荷部分が荷電オリゴヌクレオチド模倣物を含む、請求項1に記載のミセル。
【請求項10】
前記オリゴヌクレオチド模倣物がPNAである、請求項9に記載のミセル。
【請求項11】
前記電荷平衡分子が金属イオンである、請求項1に記載のミセル。
【請求項12】
前記電荷平衡分子が、マグネシウム、マンガン、ランタンおよびその任意の組合せから選択される、請求項1に記載のミセル。
【請求項13】
前記電荷平衡分子が荷電オリゴヌクレオチドを含む、請求項1に記載のミセル。
【請求項14】
前記荷電オリゴヌクレオチドが、DNA、RNAおよびその任意の組合せから選択される、請求項13に記載のミセル。
【請求項15】
前記電荷平衡分子が荷電オリゴヌクレオチドアナログを含む、請求項1に記載のミセル。
【請求項16】
前記電荷平衡分子が荷電オリゴヌクレオチド模倣物を含む、請求項1に記載のミセル。
【請求項17】
前記オリゴヌクレオチド模倣物がPNAである、請求項16に記載のミセル。
【請求項18】
前記電荷平衡分子が荷電アミノ酸である、請求項1に記載のミセル。
【請求項19】
前記電荷平衡分子が荷電ペプチドである、請求項1に記載のミセル。
【請求項20】
前記電荷平衡分子が荷電タンパク質であり、該荷電タンパク質の濃度がサンプル中の内因性荷電タンパク質の濃度よりも約2倍高い、請求項1に記載のミセル。
【請求項21】
前記荷電タンパク質と前記内因性荷電タンパク質とが同一のタンパク質である、請求項20に記載のミセル。
【請求項22】
前記荷電タンパク質と前記内因性荷電タンパク質とが異なるタンパク質である、請求項20に記載のミセル。
【請求項23】
前記荷電タンパク質が、ミエリン塩基性タンパク質、ミエリンP2タンパク質、カゼインおよびその任意の組合せから選択される、請求項20に記載のミセル。
【請求項24】
前記荷電タンパク質がミエリン塩基性タンパク質である、請求項20に記載のミセル。
【請求項25】
前記電荷部分が、配列E−E−I−Y−G−E−F(配列番号1)を含む、請求項24に記載のミセル。
【請求項26】
前記疎水性分子が前記酵素基質を含む、請求項1に記載のミセル。
【請求項27】
前記電荷平衡分子が前記酵素基質を含む、請求項1に記載のミセル。
【請求項28】
前記疎水性分子と前記電荷平衡分子とが各々もう一方とは独立して酵素基質を含む、請求項1に記載のミセル。
【請求項29】
前記酵素基質が同一である、請求項28に記載のミセル。
【請求項30】
前記酵素基質が異なる、請求項28に記載のミセル。
【請求項31】
前記酵素が、キナーゼ、ホスファターゼ、スルファターゼ、ペプチダーゼ、カルボキシラーゼおよびその任意の組合せから選択される、請求項1から30のいずれか1項に記載のミセル。
【請求項32】
前記酵素がキナーゼである、請求項31に記載のミセル。
【請求項33】
前記キナーゼが、PKA、PKC、MAPK、カルモジュリン依存性プロテインキナーゼ、ホスホリラーゼキナーゼ、Raf1、MEK、MEKKおよびその任意の組合せから選択される、請求項32に記載のミセル。
【請求項34】
前記疎水性成分が、6〜30個の炭素原子を含む炭化水素を含む、請求項1に記載のミセル。
【請求項35】
前記炭化水素が飽和アルキルまたは不飽和アルキルである、請求項34に記載のミセル。
【請求項36】
前記色素部分が蛍光部分である、請求項1に記載のミセル。
【請求項37】
前記蛍光部分が自己消光することが可能である、請求項36に記載のミセル。
【請求項38】
前記蛍光部分がキサンテン色素を含む、請求項37に記載のミセル。
【請求項39】
前記キサンテン色素が、フルオレセイン色素およびローダミン色素から選択される、請求項38に記載のミセル。
【請求項40】
請求項1に記載のミセルであって、
消光分子
をさらに含み、該消光分子は、疎水性成分と、前記蛍光部分の蛍光を消光可能な消光成分とを含む、ミセル。
【請求項41】
前記電荷平衡分子が消光成分をさらに含む、請求項1に記載のミセル。
【請求項42】
前記疎水性分子と前記電荷平衡分子との間の電荷比が約1:1である、請求項1に記載のミセル。
【請求項43】
前記疎水性分子と前記電荷平衡分子との間の電荷比が、約1:2、約1:3、約1:4、または約1:5である、請求項1に記載のミセル。
【請求項44】
サンプル中の酵素活性を検出および/または特徴付けするための方法であって、
(i)該サンプルを、請求項1〜43のうちのいずれか1項に記載のミセルと、該酵素が該サンプル中に存在する場合には前記色素部分によって生成されるシグナルの増加をもたらす様式で前記基質に対して作用するのを可能にするために有効な条件下で、接触させる工程;
(ii)該シグナルを検出する工程であって、該シグナルの増加は、該サンプルにおける該酵素の存在および/または量を示す、工程;
を包含する、方法。
【請求項45】
サンプル中の酵素活性を検出および/または特徴付けするためのキットであって、
(i)疎水性分子であって、該疎水性分子は、該疎水性分子を該ミセル中に組み込むことが可能な疎水性部分と、色素部分と、必要に応じた電荷部分と、を含む、疎水性分子;および
(ii)1つ以上の電荷平衡分子;
を含み、
該疎水性分子および/または該電荷平衡分子は、酵素基質を含む、
キット。
【請求項46】
電荷平衡分子をさらに含む、請求項45に記載のキット。
【請求項47】
前記電荷平衡分子が金属イオンである、請求項45に記載のキット。
【請求項48】
前記電荷平衡分子が荷電オリゴヌクレオチドを含む、請求項45に記載のキット。
【請求項49】
前記荷電オリゴヌクレオチドが、DNA、RNAおよびその任意の組合せから選択される、請求項45に記載のキット。
【請求項50】
前記電荷平衡分子が荷電オリゴヌクレオチドアナログを含む、請求項45に記載のキット。
【請求項51】
前記電荷平衡分子が荷電オリゴヌクレオチド模倣物を含む、請求項45に記載のキット。
【請求項52】
前記オリゴヌクレオチド模倣物がPNAである、請求項51に記載のキット
【請求項53】
前記電荷平衡分子が荷電アミノ酸である、請求項45に記載のキット。
【請求項54】
前記電荷平衡分子が荷電ペプチドである、請求項45に記載のキット。
【請求項55】
前記電荷平衡分子が荷電タンパク質である、請求項45に記載のキット。
【請求項56】
サンプル中の酵素活性を検出および/または特徴付けするためのキットであって、
請求項1〜43のうちのいずれか1項に記載のミセル;
を含む、キット。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【公表番号】特表2008−526207(P2008−526207A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−549642(P2007−549642)
【出願日】平成17年12月29日(2005.12.29)
【国際出願番号】PCT/US2005/047436
【国際公開番号】WO2006/074074
【国際公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(500069057)アプレラ コーポレイション (120)
【住所又は居所原語表記】850 Lincoln Centre Drive Foster City CALIFORNIA 94404 U.S.A.
【Fターム(参考)】