説明

荷電粒子ビーム描画装置および荷電粒子ビーム描画方法

【課題】描画中の荷電粒子ビームの異常を監視して早期に発見するとともに、定量的な判断に基づいて描画を停止させることができる荷電粒子ビーム描画装置および荷電粒子ビーム描画方法を提供する
【解決手段】荷電粒子ビーム描画装置の一つである電子ビーム描画装置1は、荷電粒子ビームである電子ビーム6を照射する電子銃3と、成形アパーチャとを有し、電子銃3と成形アパーチャとの間には、電子ビーム6の照射を受けて流入する電流を検出するとともに、開口部分から電子ビーム6の一部を通過させるよう構成された検出器7を有する。電子ビーム描画装置1では、成形アパーチャで成形された電子ビーム6を照射して試料上に電子ビーム描画をするとともに、検出器で検出される電流量の変化に基づいて、電子ビーム6の異常を感知し、異常発生を判断して試料への電子ビーム描画を停止するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム描画装置および荷電粒子ビーム描画方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体集積回路の高集積化に伴って、LSI(Large Scale Integration)のパターンは、より微細化および複雑化する傾向にある。このため、フォトリソグラフィ技術に代わり、荷電粒子ビームである電子ビームを用いてパターンを直接描画する、電子ビームリソグラフィ技術の開発が進められている。
【0003】
電子ビームリソグラフィ技術は、利用する電子ビームが荷電粒子ビームであるために、本質的に優れた解像度を有している。また、焦点深度を大きく確保することができるので、高い段差上でも寸法変動を抑制できるという利点も有している。このため、DRAMを代表とする最先端デバイスの開発に適用されている他、一部ASICの生産にも用いられている。さらに、ウェハにLSIパターンを転写する際の原版となるフォトマスクまたはレチクル(以下「マスク」という。)の製造現場においても、電子ビームリソグラフィ技術が広く一般に使われている。この電子ビームリソグラフィ技術の実施には電子ビーム描画装置が使用される。
【0004】
荷電粒子ビーム描画装置の一つである従来の電子ビーム描画装置は、電子ビームを照射するビーム照射手段である電子銃、第1成形アパーチャと第2成形アパーチャ、および成形偏向器などを有し、さらに電子ビームを集束するためのいくつかの電子レンズを有する。
【0005】
電子銃は、電子源であるカソードと、アース電極をもつアノードとを備える。また、カソードは、電子を放出するエミッタを有する。
【0006】
電子ビーム描画装置では、電子銃室内の電子銃の周囲は高真空となる。この状態で、カソードとアノードの間に高電圧(加速電圧)を印加するとともにエミッタを加熱する。すると、エミッタから熱電子が出射し、この熱電子が加速電圧により加速されて電子ビームとして放出される。
【0007】
電子銃から発射された電子ビームは、第1成形アパーチャに照射される。そして、電子ビーム描画装置では、第1成形アパーチャの像を第2成形アパーチャに結像するとともに、成形偏向器により偏向し、第1成形アパーチャ像と第2成形アパーチャとの光学的重なりにより電子ビームの寸法と形状を可変成形することができる。その結果、電流密度が均一で矩形や三角形等の基本単位図形状に成形された電子ビームを、電子ビーム描画装置の下部に配置された描画対象のマスク上で高精度に繋いでパターンを描画する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−70944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の電子ビーム描画装置では、上述のように、電子銃に高電圧を印加することが必要となる。しかしながら、その場合にカソードなどの電極表面に、バリや傷などの突起部、塵埃等の付着物など、放電要因があると、この放電要因に起因した偶発的な異常放電が発生することがある。また、電極間の絶縁体表面における不純物や付着物などが放電要因となって大きな沿面放電を生じることもある。
描画作業中の偶発的な放電などの異常の発生は、描画異常を引き起こし、描画中のマスクに不良を生じさせることになる。
【0010】
従来の電子ビーム描画装置では、描画動作中において、このような偶発的な放電現象の発生を定量的に捉えることはできなかった。特に、電子銃室内で行う評価については、エミッション電流をモニタする方法や真空度をモニタするなど、異常がないことを間接的に評価する方法しかなく、定量性のある十分な評価を行うことができなかった。
【0011】
そのため、描画動作中にこうした放電による描画異常が発生した場合でも、描画作業を継続してしまうことが多かった。描画動作中に生じたマスク上の描画異常は、描画作業後の後工程で発覚することになる。したがって、描画異常が発見されるまでに時間がかかるとともに、描画異常の発生後に継続した作業と時間を含む工程ロスを発生させていた。
【0012】
本発明は、こうした点に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、放電などの描画中の荷電粒子ビームの異常を監視し、異常を早期に発見するとともに、定量的な判断をして異常発生時に描画を停止させることができる荷電粒子ビーム描画装置を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、描画中の荷電粒子ビームの異常を監視し、異常を早期に発見するとともに、定量的な判断をして異常発生時に描画を停止させることができる荷電粒子ビーム描画方法を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的および利点は、以下の記載から明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の態様は、荷電粒子ビームを照射するビーム照射手段と、ビーム照射手段の下流側に配置された成形アパーチャとを有し、成形アパーチャで成形された荷電粒子ビームを照射して試料上に荷電粒子ビーム描画するよう構成された荷電粒子ビーム描画装置であって、
荷電粒子ビーム照射手段と成形アパーチャとの間には、荷電粒子ビームの照射を受けて流入する電流を検出するとともに、開口部分から荷電粒子ビームの一部を通過させるよう構成された検出器を有し、
検出器で検出される電流量の変化に基づいて、荷電粒子ビームの異常を感知し、異常の感知に従い、試料への荷電粒子ビーム描画を停止するよう構成されたことを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置に関する。
【0015】
本発明の第1の態様において、ビーム照射手段と成形アパーチャとの間に配置されたブランキング電極と、ブランキング電極によるブランキングの実施データをメモリするメモリ手段をと有し、
メモリされたブランキングの実施データを参照し、検出器で検出された電流量の変化が、試料上での荷電粒子ビーム描画中に発生したことを判定し、試料への荷電粒子ビーム描画を停止するよう構成されることが好ましい。
【0016】
本発明の第1の態様において、検出器は、スリットにより分割された構造を有し、分割された検出器の各部それぞれに流入する電流量の変化を基に、荷電粒子ビームの異常を感知するよう構成されることが好ましい。
【0017】
本発明の第1の態様において、スリットにより分割された構造を有する検出器と成形アパーチャとの間に、アパーチャを配置することが好ましい。
【0018】
本発明の第2の態様は、ビーム照射手段から照射された荷電粒子ビームを下流側に配置された成形アパーチャで成形し、試料上に照射して荷電粒子ビーム描画を行う荷電粒子ビーム描画方法であって、
ビーム照射手段と成形アパーチャとの間に、荷電粒子ビームの照射を受けて流入する電流量を検出するとともに、開口部分から荷電粒子ビームの一部を通過させるよう構成された検出器を設け、
検出器で検出される電流量の変化を基に、荷電粒子ビームの異常を感知し、異常の感知に従い、試料への荷電粒子ビーム描画を停止するようにしたことを特徴とする荷電粒子ビーム描画方法に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、放電などの描画中の荷電粒子ビームの異常を監視し、異常を早期に発見するとともに、定量的に判断して異常発生時に描画を停止させることができる荷電粒子ビーム描画装置を提供することができる。
【0020】
また、本発明によれば、描画中の荷電粒子ビームの異常を監視し、異常を早期に発見するとともに、定量的に判断して異常発生時に描画を停止させることができる荷電粒子ビーム描画方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施の形態の電子ビーム描画装置の概略を示す模式的な構成図である。
【図2】デジタイザーで行われる電圧値の監視の結果を模式的に示す図である。
【図3】本実施の形態の電子ビーム描画装置を用いて行う電子ビーム描画方法を説明するフローチャートである。
【図4】本実施の形態の電子ビーム描画装置を用いて行う電子ビームの異常検出方法を説明するタイミングチャートである。
【図5】本実施の形態の電子ビーム描画装置の別の例が有する検出器を模式的に説明する平面図である。
【図6】本実施の形態の電子ビーム描画装置の別の例の主要部構造を説明する模式図である。
【図7】(a)〜(d)は、電子ビーム量が変動した場合にデジタイザーの各入力チャンネル(CH1〜CH4)で観測される電圧波形を模式的に示す図である。
【図8】(a)〜(d)は、照射される電子ビームの光軸変動に対応してデジタイザーの各入力チャンネルで観測される電圧波形を模式的に示す図である。
【図9】本実施の形態の電子ビーム描画装置に用いられる検出器の別の例の構造を模式的に説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本実施の形態の電子ビーム描画装置の概略を示す模式的な構成図である。
図1では、本実施の形態の電子ビーム描画装置1の主要部の構成を示している。
【0023】
図1に示すように、本実施の形態の電子ビーム描画装置1は、電子銃室2の内部に電子銃3を有する。電子銃3は、電子源であるカソード4と、アース電極をもつアノード5とを備える。カソード4は、電子を放出するエミッタ(図示されない)を有する。
電子銃室2内の電子銃1の周囲は高真空となる。この状態で、カソード4とアノード5の間に高電圧(加速電圧)を印加するとともにエミッタを加熱する。すると、エミッタから熱電子が出射し、この熱電子が加速電圧により加速されて電子ビーム6として放出される。
【0024】
本実施の形態の電子ビーム描画装置1は、電子銃3の下方側に、電子銃から発射される電子ビーム6を成形し、パターン描画を実現するための第1成形アパーチャ(図示されない)と第2成形アパーチャ(図示されない)などを備える。
【0025】
本実施の形態の電子ビーム描画装置1は、第1成形アパーチャ(図示されない)の上流側であって、電子銃3の直下に検出器7を有する。電子銃3から発射された電子ビーム6は、この検出器7に照射される。検出器7は、中央部分が開口するドーナツ状の形状を有する。電子銃3から発射された電子ビーム6は、この検出器7により制限され、検出器7の開口部を通過することにより集束される。
【0026】
同時に、検出器7では、電子ビーム6が照射されることにより流入する電流(Id)を検出する。検出器7に流入する電流(Id)は、描画作業中においても、本来安定した一定の量となる。
そして、描画に使用される電子ビームの電流量をIbeamとすると、IdはIbeamに比例し、Id∝Ibeamの関係が成り立つ。したがって、この関係を利用し、検出器7に流入する電流Idを評価することで、マスクなどの描画対象に照射され、描画に使用されるIbeamの変化を感知することができる。
【0027】
検出器7にはIVアンプ10が接続され、IVアンプ10にはデジタイザー11に接続され、デジタイザー11は制御コンピュータ12に接続する。したがって、検出器7で検出された、電子ビーム6による電流は、IVアンプ10に入って電流−電圧変換され、デジタイザー11により電圧値としてデジタルデータに変換されて、制御コンピュータ12に与えられる。すなわち、制御コンピュータ12は、IVアンプ10により電流電圧変換されて得られた電圧値を、デジタイザー11を介して監視することができる。
【0028】
図2は、デジタイザーで行われる電圧値の監視の結果を模式的に示す図である。
図2では、経過時間に対してデジタイザー11で感知される電圧値をプロットした結果を模式的に示す。図2に示すように、描画動作時において放電などの異常がない場合は、デジタイザー11で感知される電圧はほぼ一定の値となる。しかし、ある時間(T1)で、異常が発生し検出器7への電流流入が増大した場合、図2に例示するような、電圧値の正方向の急峻な上昇が観測される。観測される電圧値が、制御コンピュータ12により設定された異常判定値を超えた場合、放電等の異常が検出されたと判断される。
【0029】
尚、本実施の形態の電子ビーム描画装置1では、デジタイザー11の代わりにオシロスコープを用いることも可能である。
【0030】
また、本実施の形態の電子ビーム描画装置1は、検出器7の下流側、第1成形アパーチャ(図示されない)との間にブランキング電極13を有する。
ブランキング電極13では、ブランキングアンプ14からの出力を受けて、電子ビーム6のビーム軸を所定の光学軸からずらすように機能する。すなわち、描画対象に対して電子ビーム6が照射されるビームのON状態と、ビーム軸がずらされて電子ビーム6が照射されなくなるOFF状態とを制御する。
【0031】
ブランキングアンプ14のブランキング電極13への出力は、ブランキングを制御する制御部(図示されない)の有するON/OFFデータ15に従って制御される。制御部(図示されない)の有するON/OFFデータ15とは、マスクなど描画対象への描画に対応するよう、電子ビーム6のビーム軸を制御して、電子ビーム6が照射されるビームのON状態と、電子ビーム6が照射されなくなるOFF状態との選択するためのブランキングの実施データである。このとき、本実施の形態の電子ビーム描画装置1は、メモリ手段16を有する。電子ビーム描画装置1において、メモリ手段16は、制御部(図示されない)からブランキングアンプ14に送られる電子ビームのON/OFFデータ15を別途メモリしておくことができる。
【0032】
尚、メモリ手段16は制御コンピュータ12の内部に組み込むことが可能であり、また外部メモリ手段として別に設けることも可能である。
メモリ手段16にメモリされた、電子ビームのON/OFFデータ15は、制御コンピュータ12により回収され、後述するように、電子ビーム描画装置1における描画を継続するか否かの判定に利用される。
【0033】
図3は、本実施の形態の電子ビーム描画装置を用いて行う電子ビーム描画方法を説明するフローチャートである。図3のフローチャートでは特に、本電子ビーム描画方法の主要部分である描画動作中の異常検出方法と描画停止の方法を説明する。以下、図3のフローチャートに沿って説明する。
【0034】
本実施の形態の電子ビーム描画装置1での動作開始とともに、制御コンピュータ12が動作を開始する(S1)。そして、制御コンピュータ12は、異常放電などの電子ビームの異常を判断するための異常判定値をデジタイザー11に設定し、デジタイザー11が監視をスタートするように指令する(S2)。
【0035】
デジタイザー11では、制御コンピュータ12からの指令を受けて、上述の異常判定値の設定を実施し、異常発生への監視をスタートさせる(S3)。そして、異常判定値に基づく監視を続け、放電などの異常を検出されたか否かの判定を繰り返す(S4)。デジタイザー11で放電などの異常が検出された場合、放電等の異常が検出されたことを制御コンピュータ12に報告する(S5)。
【0036】
制御コンピュータ12では、デジタイザー11から放電などの異常の検出報告を受け、その結果を記録する(S6)。そして、制御コンピュータ12では、電子銃3などを用いた描画動作を実行中であるか否かを判定する(S7)。描画動作が実行されていない場合は、デジタイザー11での監視と放電検出判定が継続される(S4)。
【0037】
描画動作が実行されている場合、制御コンピュータ12は、メモリ手段16の保有するメモリ情報を参照し、メモリ手段16から、例えば、参照時から過去5分間程度の電子ビームのON/OFFデータ15を回収する(S8)。そして、制御コンピュータ12では、回収された電子ビームのON/OFFデータ15から、放電検出時点において、マスクなどの描画対象への電子ビーム照射(描画)が実行されていたか否かを判定する(S9)。
【0038】
判定の結果、描画対象にビームが照射されていなかったと判断された場合、制御コンピュータ12では、ワーニング(警告)が発せられる(S10)。そして、そのまま、デジタイザー11での監視が継続される(S4)。
【0039】
判定の結果、放電検出時点で描画対象に電子ビーム照射されていたことが確認された場合は、描画対象上には描画の不良が発生していることになる。そこで、制御コンピュータ12では、アラームが発せられ(S11)、描画停止の指示がなされる(S12)。その結果、電ビーム描画装置1での描画作業は停止される。そして、マスクなど描画対象の搬出が指示され(S13)、不良の発生した描画対象は電子ビーム描画装置1から搬出される。こうして、描画異常の発生の後に、作業を継続して工程ロスが発生することを防ぐことができる。
【0040】
尚、本実施の形態の電子ビーム描画装置1を使用して、放電などの異常が検出されること無く電子ビーム描画が終了し、それにもかかわらず、後工程などで描画異常が検出されることがある。そのような場合、描画異常の発生要因が、検出器7より上流の、電子銃3の近傍の機器異常によるものでないことが判断できる。すなわち、その場合、描画異常の発生要因の絞り込みが容易となる。
【0041】
図4は、本実施の形態の電子ビーム描画装置を用いて行う電子ビームの異常検出方法を説明するタイミングチャートである。
【0042】
図4を参照して、本実施の形態の異常検出方法を構成する各工程の実施のタイミングを説明する。
【0043】
本実施の形態の電子ビーム描画装置1を用いて行う電子ビーム6の異常検出方法を実施するに際し、デジタイザー11での監視がスタートする。その後、電子ビーム描画装置1での描画動作が開始される。
【0044】
電子ビーム描画装置1での描画動作の開始後、所定のタイミングと期間、電子ビーム6が描画対象に照射される、電子ビーム6のON動作がなされる。
一方、電子ビーム描画装置1での描画動作において、あるタイミングで放電現象などの異常が何回か発生することがある。図4では、4回の放電が発生する例が示されている。
【0045】
この異常な放電の発生は、デジタイザー11での監視開始後は、制御コンピュータ12に報告され、放電検出の結果として記録される。図4では、電子ビーム描画装置1において発生した4回の異常な放電のうち、デジタイザー11での監視開始後の3回の放電(図4の放電検出記録のチャートにおけるピーク(1)、(2)、(3)に対応)が、制御コンピュータ12に記録される。
【0046】
記録された3回の放電のうち、ピーク(2)に対応する放電は、描画動作開始後に発生した放電である。よって、メモリ手段16の保有するON/OFFデータ15が参照される。そして、電子ビーム6のOFF状態を確認した後、ワーニング(警告)が発せられる。ワーニング発生後も電子ビーム描画装置1における描画動作および電子ビーム6のON/OFF制御は継続される。
【0047】
記録された3回の放電のうち、ピーク(3)に対応する放電は、描画動作開始後に発生した放電である。よって、メモリ手段16の保有するON/OFFデータ15が参照される。そして、電子ビーム6のON状態の確認がなされ、アラームが発せられる。同時に電子ビーム描画装置1における描画動作は停止される。こうして、描画異常の発生後に描画作業を継続することが防止され、工程ロスの発生が防止される。
【0048】
次に、本実施の形態の電子ビーム描画装置の別の例について説明する。本実施の形態の電子ビーム描画装置の別の例では、上述の電子ビーム描画装置1の有する検出器7と異なる構造の検出器27を有する。すなわち、検出器27は、分割された構造を有し、分割された検出器27の各部それぞれに流入する電流量の変化に基づいて、電子ビームの異常を感知するよう構成されている。その場合、例えば、ドーナツ状の検出器をスリットにより分割して、各部が同一平面上にあるようにされた構造とすることが可能であり、また、各部間でビーム軸方向であるZ方向に段差を有する構造とすることも可能である。ただし、本実施の形態の別の例である電子ビーム描画装置21では、検出器とそれに接続するIVアンプ数が増えること以外、上述の電子ビーム描画装置1と同様の構造を有している。したがって、共通する部分については図1などを併用し、同じ符号を用いて説明する。
【0049】
図5は、本実施の形態の電子ビーム描画装置の別の例が有する検出器を模式的に説明する平面図である。
図5に示す、検出器27は、4つの電流検出部からなり、上述した電子ビーム描画装置1のドーナツ状の検出器7を4分割した構造を有する。検出器27は、検出器7と同様に配置され、電子ビーム描画装置21に組み込まれる。そして、電子ビーム6を集束するとともに、電子ビーム6の照射を受けて電流の検出を行う。尚、図5に示す検出器27は、4分割された構造を有するが、検出器の分割の数は4に限られることは無く、2以上の所望の分割数とすることが可能である。以下、検出器27について説明する。
【0050】
図5に示す検出器27は、第1電流検出部41、第2電流検出部42、第3電流検出部43、および第4電流検出部44(以下、第1電流検出部41、第2電流検出部42、第3電流検出部43、および第4電流検出部44をまとめて記述する場合は、4つの電流検出部41、42、43、44と記述する)からなる。検出器27の4つの電流検出部41、42、43、44は、一つのドーナツ状の検出器が、直交するスリット45、46によって4分割された構造を有する。検出器27のスリット45、46は互いに直交している。そして、スリット45は、電子ビーム描画装置1における光学系の光軸(Z方向)と直交する2軸方向(X方向およびY方向)のうちのY方向と一致する方向に伸びており、スリット46は、X方向と一致する方向に伸びている。
【0051】
直交するスリット45、46の交点と、4つの電流検出部41、42、43、44からなる検出器27全体の中心とは、実質的に一致している。したがって、4つの電流検出部41、42、43、44はそれぞれ同じ形状で実質的に同じ面積を有している。
検出器27は、電子ビーム描画装置1の光学系の光軸が、直交するスリット45,46の交点である、検出器27の中心を通るよう、電子ビーム描画装置21に取り付けられる。
【0052】
電子銃3から発射された電子ビーム6は、検出器27を照射する。このとき、検出器27の4つの電流検出部41、42、43、44のそれぞれに、電子ビーム6の照射量に応じた電流が流れ込む。
【0053】
図6は、本実施の形態の電子ビーム描画装置の別の例の主要部構造を説明する模式図である。
【0054】
電子ビーム描画装置21の主要部である検出器27では、4つの電流検出部41、42、43、44のそれぞれが、上述の電子ビーム描画装置1のIVアンプ10と同様のIVアンプ51、52、53、54と接続している。そして、4つのIVアンプ51、52、53、54は、1つのデジタイザー11の有する4つの入力チャンネル(CH1、CH2、CH3、CH4)にそれぞれ接続されている。
【0055】
検出器27の4つの電流検出部41、42、43、44のそれぞれで検出された、電子ビーム6による電流は、対応するIVアンプ51、52、53、54に入って電流−電圧変換される。そして、上述の電子ビーム描画装置1と同様に、電圧がデジタイザー11により監視される。
【0056】
正常な電子ビーム6の照射がなされている状態においては、電子ビーム6のビーム軸が電子ビーム描画装置21の光学系の光軸と一致する。その場合、検出器27の4つの電流検出部41、42、43、44に照射される電子ビーム量はそれぞれ同様の量となり、4つの電流検出部41、42、43、44それぞれに流れ込む電流量は等しい、安定した一定の量となる。
【0057】
しかし、電子ビーム描画装置21の描画動作時において、放電など検出器27に照射される電子ビーム6の量が変動する異常が生じた場合、または、電子ビーム6の光軸が変動する異常が発生した場合、4つの電流検出部41、42、43、44それぞれに流れ込む電流量は変動する。そして、デジタイザー11の各入力チャンネルで感知される電圧値は変動する。
【0058】
図7および図8は、本実施の形態の電子ビーム描画装置の別の例のデジタイザーで行われる電圧値の監視結果の例を示す図である。図7(a)〜図7(d)は、電子ビーム量が変動した場合にデジタイザー11の各入力チャンネル(CH1〜CH4)で観測される電圧波形を模式的に示す図である。図7(a)は入力チャンネル(CH1)の電圧波形を模式的に示し、図7(b)は入力チャンネル(CH2)の電圧波形を模式的に示し、図7(c)は入力チャンネル(CH3)の電圧波形を模式的に示し、図7(d)は入力チャンネル(CH4)の電圧波形を模式的に示す。
【0059】
図8(a)〜図8(d)は、電子ビーム6の光軸の変動が生じた場合にデジタイザー11の各入力チャンネル(CH1〜CH4)で観測される電圧波形を模式的に示す図である。図8(a)は入力チャンネル(CH1)の電圧波形を模式的に示し、図8(b)は入力チャンネル(CH2)の電圧波形を模式的に示し、図8(c)は入力チャンネル(CH3)の電圧波形を模式的に示し、図8(d)は入力チャンネル(CH4)の電圧波形を模式的に示す。
【0060】
図7(a)〜図7(d)に示すように、異常な放電などにより、検出器27に流れ込む電流量が増大した場合、デジタイザー11の各入力チャンネル(CH1〜CH4)で観測される電圧波形は、それぞれ同様の正方向に立ちあがるピークを有する波形となる。
【0061】
一方、図8(a)〜図8(d)に示すように、電子ビーム6の光軸が変動する異常が発生した場合、例えば、各入力チャンネル(CH1〜CH4)で観測される電圧波形は、正方向に立ちあがるピークと、負方向に立ちあがるピークとが混在することになる。すなわち、検出器27全体に流れ込む電流量は同様であるが、ビーム軸が変動して、電子ビーム6の照射位置がずれるような異常が発生した場合でも、4つの電流検出部41、42、43、44それぞれの電流量(対応する電圧値)を監視することにより、デジタイザー11では異常を検出することができる。
【0062】
したがって、図7(a)〜図7(d)に例示するような、4つの電流検出部41、42、43、44それぞれの電流量(対応する電圧値)が増大し、デジタイザー11において、対応するいずれかの電圧値が異常判定値を超えるような監視結果が得られた場合、上述の電子ビーム描画装置1の場合と同様に、描画停止の必要性の有無を判断することができる。
【0063】
また、図8(a)〜図8(d)に例示するような、4つの電流検出部41、42、43、44それぞれの電流量(対応する電圧値)が変動し、デジタイザー11において、対応するいずれかの電圧値が異常判定値を超えるような監視結果が得られた場合も、上述の電子ビーム描画装置1の場合と同様に、描画停止の必要性の有無を判断することができる。
したがって、上述の電子ビーム描画装置1では検出できなかった電子ビーム6の光軸の変動するような異常も、電子ビーム描画装置21では検出することができ、より正確な描画の停止の判断をすることができる。
【0064】
本実施の形態の電子ビーム描画装置21を用いて行う電子ビーム描画方法、特に放電などの異常の検出と描画動作の停止の方法は、図3のフローチャートに沿って説明した電子ビーム描画装置1を用いて行う方法と同様である。
【0065】
ただし、電子ビーム描画装置21を用いて行う電子ビーム描画方法では、対応する図3に示すフローチャートのステップ3(S3)で、検出器27の4つの電流検出部41、42、43、44それぞれの電流量(対応する電圧値)の監視がスタートする。次いで、ステップ4(S4)において、検出器27の4つの電流検出部41、42、43、44それぞれの電流量(対応する電圧値)の監視結果に基づいて放電検出されたか否かの判断がなされ、結果がステップ5(S5)において報告される。その後の制御コンピュータ12において実行される各工程は、上記した電子ビーム描画装置1を用いて行う方法と同様である。こうして、描画異常の発生の後に、作業を継続して工程ロスが発生することを防ぐことができる。
【0066】
尚、図3のフローチャートに沿って説明した、本実施の形態の電子ビーム描画装置1を用いて行う電子ビーム描画方法について、描画異常の検出や描画停止を行うために使用するのではなく、電子ビーム描画装置1の電子ビーム6の調整に使用することも可能である。
【0067】
例えば、図3のステップ3(S3)での、検出器27の4つの電流検出部41、42、43、44それぞれの電流量(対応する電圧値)の監視結果に基づいて、いずれかの電圧値が所定の設定値を超えた場合、その結果をステップ5(S5)で制御コンピュータ12に報告する。制御コンピュータ12では、その報告結果に基づいて、電子銃3から発射される電子ビーム6のビーム軸のずれを認識し、最適な条件となるようビーム軸調整を行う。尚、そうした使用をする場合、ステップ7(S7)以降の描画作業中か否かなどの判定は行わないようにすることが好ましい。
【0068】
次に、本実施の形態の電子ビーム描画装置21について、検出器27の下流側にアパーチャを備えた例について説明する。
【0069】
上述した電子ビーム描画装置21に用いられる検出器27は、中央部分に開口部を有し、2本の直交するスリット45、46により4分割されたドーナツ状の形状を有する。そして、電子ビーム描画装置21に組み込まれた場合に、開口部を通して電子ビーム6を通過させ、電子ビーム6を集束するとともに、電子ビーム6の照射を受けて電流の検出を行うよう構成されている。
【0070】
このとき、設けられたスリット45、46の影響により、電子ビーム6の集束がうまくなされない場合がある。
そこで、本実施の形態の電子ビーム描画装置21では、検出器27の下流側にアパーチャ50を設けることが可能である。アパーチャ50を設けたこと以外は同様の構造を有する。
【0071】
図9は、本実施の形態の電子ビーム描画装置において用いられる検出器とアパーチャの構造を模式的に説明する図である。
【0072】
アパーチャ50を有する本実施の形態の電子ビーム描画装置21では、検出器27の下流側、特に直下に、開口部55を有してドーナツ状の形状を備えるアパーチャ50が配置される。アパーチャ50と検出器27とは接触しないよう離間するようにして配置される。
【0073】
そして、図9に示すように、アパーチャ50の円形の開口部55の径は、検出器27の中央にある円形の開口部分の径より若干小さい。
【0074】
以下の構造を有することにより、検出器27に設けられたスリット45、46の影響により、電子ビーム6の集束がうまくなされない場合でも、検出器27を通過した電子ビーム6を所望の状態に集束することができる。例えば、アパーチャ50は、検出器27のスリット45、46から下流に漏れ出た電子ビームを十分に遮断し、所望の電子ビーム6の集束を実現することができる。
【0075】
したがって、アパーチャ50を備えた本実施の形態の電子ビーム描画装置21では、スリットにより4分割された4つの電流検出部41、42、43、44と、その下流に配置されたアパーチャ50を有することにより、電子ビームに照射による電流検出と所望の電子ビームの集束を実現することができる。
【0076】
尚、本実施の形態の電子ビーム描画装置21では、検出器27下流側にアパーチャ50を設ける代わりに、検出器27上にスリットのカバーを設けることも可能である。その場合、スリットのカバーは、電子ビーム6の照射を受けてチャージアップしないよう、導電体を用いて形成され、検出器の電流検出部と離間するように配置され、独自にアース接続されていることが好ましい。したがって、スリットのカバーは、絶縁性の柱などにより検出器27上で離間するよう固定されることが好ましい。
【0077】
本実施の形態の電子ビーム描画装置21では、そのような構造のスリットのカバーを有することにより、検出器27では、通過する電子ビーム6がスリット45、46の影響を受けることが無くなり、所望の電子ビーム6の集束と、4つの電流検出部41、42、43、44での電流検出が可能となる。
【0078】
尚、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々変形して実施することができる。
【0079】
例えば、上記実施の形態では電子ビームを用いたが、本発明はこれに限られるものではなく、イオンビームなどの他の荷電粒子ビームを用いた場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0080】
1、21 電子ビーム描画装置
2 電子銃室
3 電子銃
4 カソード
5 アノード
6 電子ビーム
7、27 検出器
10、51、52、53、54 IVアンプ
11 デジタイザー
12 制御コンピュータ
13 ブランキング電極
14 ブランキングアンプ
15 ON/OFFデータ
16 メモリ手段
41 第1電流検出部
42 第2電流検出部
43 第3電流検出部
44 第4電流検出部
45、46 スリット
50 アパーチャ
55 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを照射するビーム照射手段と、前記ビーム照射手段の下流側に配置された成形アパーチャとを有し、前記成形アパーチャで成形された前記荷電粒子ビームを照射して試料上に荷電粒子ビーム描画するよう構成された荷電粒子ビーム描画装置であって、
前記荷電粒子ビーム照射手段と前記成形アパーチャとの間には、前記荷電粒子ビームの照射を受けて流入する電流を検出するとともに、開口部分から前記荷電粒子ビームの一部を通過させるよう構成された検出器を有し、
前記検出器で検出される電流量の変化に基づいて、前記荷電粒子ビームの異常を感知し、前記異常の感知に従い、前記試料への荷電粒子ビーム描画を停止するよう構成されたことを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項2】
前記ビーム照射手段と前記成形アパーチャとの間に配置されたブランキング電極と、前記ブランキング電極によるブランキングの実施データをメモリするメモリ手段をと有し、
前記メモリされた前記ブランキングの実施データを参照し、前記検出器で検出された電流量の変化が、前記試料上での荷電粒子ビーム描画中に発生したことを判定し、前記試料への荷電粒子ビーム描画を停止するよう構成されたことを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項3】
前記検出器は、スリットにより分割された構造を有し、前記分割された前記検出器の各部それぞれに流入する電流量の変化を基に、前記荷電粒子ビームの異常を感知するよう構成されたことを特徴とする請求項1または2に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項4】
前記検出器と前記成形アパーチャとの間に、アパーチャを配置したことを特徴とする請求項3に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項5】
ビーム照射手段から照射された荷電粒子ビームを下流側に配置された成形アパーチャで成形し、試料上に照射して荷電粒子ビーム描画を行う荷電粒子ビーム描画方法であって、
前記ビーム照射手段と前記成形アパーチャとの間に、前記荷電粒子ビームの照射を受けて流入する電流量を検出するとともに、開口部分から前記荷電粒子ビームの一部を通過させるよう構成された検出器を設け、
前記検出器で検出される電流量の変化を基に、前記荷電粒子ビームの異常を感知し、前記異常の感知に従い、前記試料への荷電粒子ビーム描画を停止するようしたことを特徴とする荷電粒子ビーム描画方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−114127(P2012−114127A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259599(P2010−259599)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(504162958)株式会社ニューフレアテクノロジー (669)
【Fターム(参考)】