説明

荷電粒子ビーム描画装置及び荷電粒子ビーム描画方法

【課題】描画対象のうち輪郭領域よりもその位置精度を高く求められない内部領域へのショットは、輪郭領域へのショットにおけるセトリング時間よりも短いセトリング時間をもって行うことで、描画処理におけるスループットの向上を図ることのできる荷電粒子ビーム描画装置及び荷電粒子ビーム描画方法を提供する。
【解決手段】制御計算機31は、描画対象となる図形パターンPを複数の領域へと分割する分割部31bと、これらの領域を高い位置精度が求められる輪郭領域Psと、低い位置精度で足りる輪郭領域Psよりも内部に位置する内部領域Piとに分ける判断部31cと、内部領域Piに対してフラグを付加するフラグ付加部31dと、内部領域Piへのショットを行うに際して必要とされるセトリング時間を輪郭領域Psへのショットを行うに際して必要とされるセトリング時間よりも短くなるように演算する演算部31eとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム描画装置及び荷電粒子ビーム描画方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスに所望の回路パターンを形成するために、リソグラフィー技術が用いられる。リソグラフィー技術では、マスク(レチクルともいう。以下、「マスク」、或いは、「試料」と表わす)と称される原画パターンを使用したパターンの転写が行われる。この際、高精度なマスクを製造するために、優れた解像度を備える電子ビーム(電子線)描画技術が用いられる。
【0003】
マスクに電子ビーム描画を行う荷電粒子ビーム描画装置の一方式として、例えば以下のような可変成形方式を挙げることができる。すなわち、ここでは図示しないが、この可変成形方式は、第1成形アパーチャの開口と、第2成形アパーチャの開口とを通過することで成形された電子ビームによって可動ステージに載置された試料上に図形パターンが描画される。
【0004】
このような描画処理を行う際、荷電粒子ビーム描画装置では、電子ビームの起動制御のため、電界をもって制御する偏向器が用いられる。偏向器による電界の安定には、偏向器にもよるが概ね50nsec程度の時間が必要であり、描画処理においては、電子ビームの照射(ショット)と照射(ショット)との間にこの安定化のための時間を設けている。この時間をセトリング時間という。通常、同一のマスク内における1つの描画処理ではいずれのショットについても同じセトリング時間を採用している。
【0005】
このようにセトリング時間は電界を安定化させるに必要な時間であることから、セトリング時間が短いと電界は未だ不安定な状態にあり、このような状態のまま電子ビームを照射すると、図形パターンの位置にずれが生ずる。一方で位置ずれをなくすためにセトリング時間を長く設定すると、電界は安定するものの当該セトリング時間は描画処理の時間に直接影響するため、描画処理に長時間掛かることになる。従って必要以上にセトリング時間を長くすることはスループットの観点からは好ましくはない。
【0006】
従って、セトリング時間を如何に設定して描画処理のスループットを向上させるかは非常に大切となる。
【0007】
このセトリング時間の設定について、以下に示す特許文献1に開示される発明においては、次のように対処している。すなわち、電子ビームの最大面積より大きい形状のパターンを描画するに際し、パターンを周辺部分と内部部分とに仮想的に分割し、パターンの内部部分の描画時には、電子ビームを偏向して電子ビームの照射位置をずらしながら描画を行い、この電子ビームの照射位置をずらす際、電子ビームのブランキングを行わないようにし、電子ビームの偏向器に供給される電圧を作成する回路のセトリング時間をなくすことによって描画時間を短縮するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−260982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、内部部分の領域における内部図形は、同一サイズの整数倍となるように分割される。また、ショットサイズの大きさも内部部分の領域を最大ビームサイズより小さく、かつショット数が最小となるようにされる。
【0010】
一方、このように設定されると、内部部分の領域を最大ビームサイズで分割される可能性は低下するものと思われる。従って、内部部分の領域のショットの際に電子ビームのブランキングを行わないので、確かにスループットは向上するものと思われるが、内部部分の領域におけるショットの時間は最大ビームサイズでショットする場合に比べてより多くの時間が掛かることになりかねない。
【0011】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、描画対象となる図形パターンを輪郭領域と内部領域とに分け、輪郭領域よりもその位置精度を高く求められない内部領域へのショットは、輪郭領域へのショットにおけるセトリング時間よりも短いセトリング時間をもって行うことで、描画処理におけるスループットの向上を図ることのできる荷電粒子ビーム描画装置及び荷電粒子ビーム描画方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施の形態に係る特徴は、荷電粒子ビーム描画装置において、荷電粒子ビームを主偏向器、副偏向器を用いて偏向させ、移動可能なステージ上に載置される試料にパターンを描画する描画部と、荷電粒子ビームの偏向を制御する偏向制御部と、ステージの移動を制御するステージ制御部と、偏向制御部とステージ制御部に対する制御を行う制御計算機と、から構成される制御部と、を備え、制御計算機は、描画対象となる図形パターンを荷電粒子ビームにてショット可能な複数の領域へと分割する分割部と、図形パターンの分割の結果形成される領域を、高い位置精度が求められる図形パターンの輪郭を形成する輪郭領域と、低い位置精度で足りる輪郭領域よりも内部に位置する内部領域とに分ける判断部と、判断部の判断に基づいて、内部領域に対してフラグを付加するフラグ付加部と、フラグが付加された内部領域へのショットを行うに際して必要とされるセトリング時間を、輪郭領域へのショットを行うに際して必要とされるセトリング時間よりも短くなるように演算する演算部とを備える。
【0013】
また、荷電粒子ビーム描画装置において、演算部は、ショットの位置ずれが、荷電粒子ビームの最小解像寸法よりも小さくなるように内部領域のセトリング時間の設定を行うことが望ましい。
【0014】
また、荷電粒子ビーム描画装置において、分割部は、荷電粒子ビームを最も大きなサイズでショット可能な領域となるように、図形パターンを分割することが望ましい。
【0015】
また、荷電粒子ビーム描画装置において、分割部は、少なくとも内部領域をショットを最も大きなサイズでショット可能な領域となるように、図形パターンを分割することが望ましい。
【0016】
本発明の実施の形態に係る特徴は、荷電粒子ビーム描画方法において、描画対象となる図形パターンを荷電粒子ビームにてショット可能な複数の領域へと分割するステップと、分割された領域の図形パターンにおける位置を確認し、図形パターンの輪郭領域では高い位置精度が求められると判断し、輪郭領域よりも内部に位置する内部領域では低い位置精度で足りると判断するステップと、輪郭領域に対する荷電粒子ビームのセトリング時間を設定するステップと、内部領域に対してフラグを付加するステップと、フラグが付加された内部領域に対する荷電粒子ビームのセトリング時間を輪郭領域に対するセトリング時間よりも短く設定するステップとを備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、描画対象となる図形パターンを輪郭領域と内部領域とに分け、輪郭領域よりもその位置精度を高く求められない内部領域へのショットは、輪郭領域へのショットにおけるセトリング時間よりも短いセトリング時間をもって行うことで、描画処理におけるスループットの向上を図ることのできる荷電粒子ビーム描画装置及び荷電粒子ビーム描画方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態における荷電粒子ビーム描画装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態における制御計算機の内部構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態における描画前処理でのセトリング時間設定の流れを示すフローチャートである。
【図4】図形パターンの分割に関する概念図である。
【図5】図形パターンの分割に関する概念図である。
【図6】図形パターンを分割してショットする際の、内部領域における単独ショットに関する位置ずれを示す模式図である。
【図7】図形パターンを分割してショットする際の、内部領域における単独ショットに関する位置ずれを示す模式図である。
【図8】本発明の実施の形態における描画処理中でのセトリング時間設定の流れを示すフローチャートである。
【図9】セトリング時間と位置ずれとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施の形態における荷電粒子ビーム描画装置1の全体構成を示すブロック図である。なお、以下の実施の形態においては、荷電粒子ビームの一例として電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは電子ビームに限られるものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームであっても良い。
【0021】
荷電粒子ビーム描画装置1は、試料に所定のパターンを描画する装置であり、特に可変成形型の描画装置の一例である。図1に示すように、荷電粒子ビーム描画装置1は、大きく描画部2と制御部3を備えている。描画部2は、電子鏡筒4と描画室6を備えている。
【0022】
電子鏡筒4内には、電子銃41と、この電子銃41から照射される荷電粒子ビーム(電子ビーム)EBの光路に沿って、照明レンズ42と、ブランキング偏向器43と、ブランキングアパーチャ44と、第1の成形アパーチャ45と、投影レンズ46と、成形偏向器47と、第2の成形アパーチャ48と、対物レンズ49と、副偏向器50と、主偏向器51とが順に配置されている。
【0023】
描画室6の中には、XYステージ61が配置される。XYステージ61上には、描画時には試料となるマスク等の試料Mが配置される。試料Mは、実際にはXYステージ61上に直接載置されるわけではなくXYステージ61と試料Mとの間に設けられる保持部材によって保持されるが、図1においては図示を省略する。
【0024】
ブランキング偏向器43は、例えば、2極、或いは、4極等の複数の電極によって構成される。また、成形偏向器47、副偏向器50、主偏向器51は、例えば、4極、或いは、8極等の複数の電極によって構成される。図1では、成形偏向器47、副偏向器50、主偏向器51、それぞれの偏向器ごとに1つの偏向アンプしか記載していないが、各電極にそれぞれ少なくとも1つの偏向アンプが接続される。
【0025】
制御部3は、制御計算機31と、偏向制御部32と、ブランキングアンプ33と、成形偏向アンプ34と、副偏向アンプ35と、主偏向アンプ36と、ステージ制御部37とを備えている。また、制御計算機31には、図1では図示を省略しているが、例えば、メモリ、磁気ディスク装置等の記憶装置や荷電粒子ビーム描画装置1と外部とを接続するための外部インターフェイス(I/F)回路とが備えられていても良い。
【0026】
制御計算機31は、主には後述する偏向制御部32とステージ制御部37に対する制御を行う。また、その他、荷電粒子ビーム描画装置1全体の制御も行う。制御計算機31は、図形パターンに対する電子ビームEBのショットを行う際に必要となる図形パターンの分割や電子ビームEBの照射量といったショットデータの生成を行い、偏向制御部32へと送信する。
【0027】
図2は、本発明の実施の形態における制御計算機31の内部構成を示すブロック図である。制御計算機31は、受信部31aと、分割部31bと、判断部31cと、フラグ付加部31dと、演算部31eと、送信部31fとから構成される。
【0028】
但し、図2においては、本発明の実施の形態を説明する上で必要な構成のみを示しており、荷電粒子ビーム描画装置1における制御計算機31に求められる役割を果たすために必要な他の構成はここでは図示を省略している。
【0029】
また、これらの各部は、プログラムといったソフトウェア、或いは、ハードウェアで構成されても良く、ソフトウェアとハードウェアとの組み合わせで構成されても良い。これら各部が上述したようにソフトウェアを含んで構成される場合、制御計算機31に入力される入力データ、或いは、演算された結果は、都度図示しないメモリに記憶される。
【0030】
なお、制御計算機31を構成する各部の働きについては、本発明の実施の形態におけるセトリング時間設定の流れを説明する際に併せて説明する。
【0031】
偏向制御部32は、制御計算機31にて生成されたショットデータを基に、成形偏向アンプ34、副偏向アンプ35、主偏向アンプ36に対して電子ビームEBの照射に当たって偏向制御を行う。
【0032】
制御計算機31、偏向制御部32、ステージ制御部37は、図示しないバスを介して互いに接続されている。また、偏向制御部32、ブランキングアンプ33、成形偏向アンプ34、副偏向アンプ35、主偏向アンプ36は、図示しないバスを介して互いに接続されている。なお、以下においては、成形偏向アンプ34、副偏向アンプ35、主偏向アンプ36を適宜まとめて「DAC(Digital to Analog Converter)アンプ」と表わす。
【0033】
ブランキングアンプ33は、ブランキング偏向器43に接続される。また、成形偏向アンプ34は、成形偏向器47に接続される。副偏向アンプ35は副偏向器50に、主偏向アンプ36は主偏向器51に接続される。ブランキングアンプ33、成形偏向アンプ34、副偏向アンプ35、主偏向アンプ36に対しては、偏向制御部32から、それぞれ独立した制御用のデジタル信号が出力される。デジタル信号が入力された成形偏向アンプ34、副偏向アンプ35、主偏向アンプ36は、それぞれのデジタル信号をアナログ電圧信号に変換し、増幅させて偏向電圧として接続された各偏向器に出力する。このようにして、各偏向器には、それぞれ接続されるDACアンプから偏向電圧が印加される。かかる偏向電圧によって電子ビームが偏向させられる。
【0034】
なお、荷電粒子ビーム描画装置1には、上述したように電子ビームEBを取り囲むように成形偏向器47、副偏向器50、主偏向器51が4極、或いは、8極設けられており、電子ビームEBを挟んで各々一対(4極の場合は2対、8極の場合は4対)配置されている。そして成形偏向器47、副偏向器50、主偏向器51ごとにそれぞれDACアンプが接続されている。但し、図1には成形偏向器47、副偏向器50、主偏向器51に接続されているDACアンプをそれぞれ1つずつのみ示し、その他のDACアンプの表示を省略している。
【0035】
ステージ制御部37は、XYステージ61と制御計算機31とに接続し、XYステージ61の動きを検出するとともに、XYステージ61の上に載置される試料Mが所望の位置となるように描画処理に合わせてXYステージ61を移動させる。
【0036】
なお、図1に示す本発明の実施の形態における荷電粒子ビーム描画装置1には、本発明の実施の形態を説明する上で必要な構成のみを示している。従って、その他の構成、例えば、各レンズを制御する制御回路等が付加されていても良い。
【0037】
荷電粒子ビーム描画装置1は、以下のように動作して描画対象へ描画を行う。電子銃41(放出部)から放出された電子ビームEBは、ブランキング偏向器43内を通過する際、ブランキング偏向器43によってONの状態にされている場合に電子ビームEBがブランキングアパーチャ44を通過するように制御される。一方、OFFの状態では、電子ビームEB全体がブランキングアパーチャ44で遮蔽されるように偏向される(図1において破線で示している)。ブランキングアンプ33からの偏向電圧がOFFからONとなり、その後再度OFFになるまでにブランキングアパーチャ44を通過した電子ビームEBが1回の電子ビームのショットとなる。
【0038】
かかる電子ビームEBがブランキングアパーチャ44を通過する状態、ブランキングアパーチャ44によって遮蔽される状態を交互に生成する偏向電圧がブランキングアンプ33から出力される。そしてブランキング偏向器43は、ブランキングアンプ33から出力された偏向電圧によって、通過する電子ビームEBの向きを制御して、電子ビームEBがブランキングアパーチャ44を通過する状態、ブランキングアパーチャ44によって遮蔽される状態を交互に生成する。
【0039】
以上のようにブランキング偏向器43とブランキングアパーチャ44とを通過することによって生成された各ショットの電子ビームEBは、照明レンズ42により矩形、例えば、長方形の孔を持つ第1の成形アパーチャ45全体を照明する。ここで電子ビームEBをまず矩形、例えば長方形に成形する。そして、第1の成形アパーチャ45を通過した第1のアパーチャ像の電子ビームEBは、投影レンズ46により第2の成形アパーチャ48上に投影される。第1の成形アパーチャ45を通過した電子ビームEBの向きを制御するための偏向電圧が成形偏向アンプ34から印加された成形偏向器47によって、かかる第2の成形アパーチャ48上での第1のアパーチャ像は偏向制御され、ビーム形状と寸法を変化させることができる。
【0040】
第2の成形アパーチャ48を通過した電子ビームEBの照射位置を制御するための偏向電圧が副偏向アンプ35から副偏向器50に対して、さらに主偏向アンプ36から主偏向器51に対して出力される。第2の成形アパーチャ48を通過し第2のアパーチャ像とされた電子ビームEBは、対物レンズ49により焦点を合わせられ、連続的に移動するXYステージ61に配置された試料Mの所望する位置に照射される。
【0041】
次に、本発明の実施の形態におけるセトリング時間設定の流れを説明する。図3は、本発明の実施の形態における描画前処理での、すなわち、図形パターンデータ作成時でのセトリング時間設定の流れを示すフローチャートである。なお、本発明の実施の形態においては、描画対象となる図形パターンが、電子ビームEBの最大ショットサイズをもってしても一度では描画処理することができない場合を前提としている。また、試料Mに塗布されているレジストはポジであることを前提とする。
【0042】
まず描画対象となる図形パターンを分割部31bにおいて分割する(ST1)。分割部31bは、描画対象となる図形パターンに対して、電子ビームEBの最大ショットサイズをもってしても一度に描画することができないとの判断がなされる場合に、当該図形パターンをいくつかの領域に分割する。このように分割することにより、複数の領域が形成されるとともに、設定される図形パターンの全ての領域に対して所望の描画処理を施すことが可能となる。
【0043】
図形パターンを分割する際には、基本的に図形パターンの全領域を電子ビームEBをもって最も大きくショット可能なサイズに分割する。最大ショットサイズをもって電子ビームEBを照射することができればそれだけ描画処理のスループット向上に資するからである。
【0044】
図4は、図形パターンP1の分割に関する概念図である。ここでは1つの図形パターンP1が縦6つ、横3つ、計18の領域に分かれるように分割されている。図4に示す1つ1つのブロックがそれぞれ1つの領域を示している。また、この領域の大きさは、電子ビームEBが最も大きくショット可能なサイズ(大きさ)となっている。
【0045】
図5は、図形パターンP2の分割に関する概念図である。図5にて示す図形パターンP2は、図4にて示す図形パターンP1とは異なり、その全領域を電子ビームEBの最大ショットサイズの大きさに分割できない場合である。このような場合、当該分割対象となる図形パターンにおいて最大限設定できるだけの最大ショットサイズの領域ができるように分割し、これらの領域以外の領域については、最大ショットサイズ以下の大きさの領域として分割される。例えば、図5の図形パターンP2において三角形の領域が設定されているが、このような領域が最大ショットサイズ以下の大きさの領域ということになる。
【0046】
なお、本発明の実施の形態においては前提外となるが、描画対象の領域が、電子ビームEBの最大ショットサイズよりも小さな領域であり、パターンが矩形、長方形または三角形である場合には、分割部31bによる分割は行われない。分割部31bによる分割が必要であるか否かについては、分割部31bにおいて判断されても、或いは例えば、制御計算機31内の図2において図示されない構成において判断されることとしても良い。
【0047】
次に、分割部31bにおいて分割され生成される各領域について、電子ビームEBを照射して描画するに当たって、判断部31cにおいてどの程度そのショットによる位置精度が求められるか、判断される(ST2)。本発明の実施の形態においては、形成された全ての領域に関する位置精度として、高い位置精度が求められる領域と、このような領域に比べればそれほど高い位置精度は求められない領域の2種類の領域に区分けする。
【0048】
具体的には、図形パターンPの輪郭を構成する領域に関しては、高い位置精度が求められる領域とする。図形パターンPの輪郭を構成する領域において高い位置精度を求められるのは、図形パターンPの輪郭を明確に(くっきりと)出す(形成する)必要があるからである。
【0049】
なお、図形パターンPの輪郭を構成する領域とは、いわば、図形パターンPの外側の周囲を形作る領域であるといえる。以下においては、当該領域を「輪郭領域」と表わす。図4、或いは、図5においては、斜線で示される領域を囲む、1つ1つ塗りつぶされていない領域で構成される領域であり、部号Psで示される領域である。図4、或いは、図5において、「輪郭領域」を表わす際、及び当該輪郭領域を構成する各領域を表わす際、いずれも符号Psを使用している。
【0050】
一方、図形パターンPを構成する領域であって輪郭領域Ps以外の領域、すなわち、図形パターンPの内部に生成される領域に関しては、輪郭領域Psのような高い位置精度は求められない。これは、たとえ位置精度が甘く、例えば電子ビームEBのショットがずれたとしてもそのずれ量によっては、得られるパターンに影響を及ぼさないことに起因する。
【0051】
本発明の実施の形態においては、このような考えを前提に、描画対象となる図形パターンPの全ての領域に対して高い位置精度を求めることによる描画処理のスループットの低下を避けるべく、図形パターンPの領域を高い位置精度が求められる領域、それほどの高い位置精度は求められない領域とに区分けする。そして、後者の領域に関しては位置ずれとの関係でそのずれ量が許容できる程度に電子ビームEBを照射することができるようにセトリング時間を短縮することとしている。
【0052】
また本発明の実施の形態においては、図形パターンPのうち後者の領域に含まれる領域として区分けされる領域は、当該領域の八方が分割された他の領域に囲まれていることが前提となる。基本的に電子ビームEBの最大ショットサイズに合わせた大きさに分割されて形成される領域であるため、分割されて形成される領域も矩形となる。但し、例えば当該矩形の領域の四方のみが他の領域に囲まれ、頂点の部分が他の領域と接していない場合には、当該頂点の部分は図形パターンの輪郭を構成することになる。従って、上述した通り本発明の実施の形態においては、図形パターンPのうち後者の領域に含まれる領域は当該領域の八方が分割された他の領域に囲まれている。
【0053】
図4、或いは、図5において斜線で示される領域は、このように図形パターンPの輪郭領域Psと同程度の位置精度は求められない領域である。以下、このような領域を「内部領域Pi」と表わす。なお、「内部領域Pi」を構成する各領域についても併せて符号Piを使用する。
【0054】
図6は、図形パターンP3を分割してショットする際の、内部領域Piにおける単独ショットに関する位置ずれを示す模式図である。図形パターンP3においては、内部領域Piに電子ビームEBの照射を行った場合、本来照射するべき位置から矢印の方向に位置がずれてしまっている。その結果、実際に照射されて形成された内部領域Piの位置と、本来照射するべき位置との間にずれが生じて、レジストが残っている。このように電子ビームEBの照射によって位置ずれが発生し、レジストが残ってしまう領域を以下、「欠陥領域D」と表わす(図6に示す図形パターンP3の欠陥領域は、「D1」と表わす)。
【0055】
当該欠陥領域Dは、その大きさによって欠陥として認識されてしまう場合と、欠陥領域Dが存在するが描画処理の欠陥とは認識されない場合とがある。この判断は、図形パターンを解像することができる最小の寸法である、最小解像寸法を基準に行われる。最小解像寸法よりも大きな寸法を持つ欠陥領域Dが存在する場合には、パターン形成後にもパターンが残ってしまうため、当該図形パターンは欠陥と認識されてしまう。一方、最小解像寸法を基準として当該寸法よりも小さな寸法を持つ欠陥領域Dの場合には、パターン形成はされないため、欠陥とは認識されないことになる。
【0056】
従って後述するように、欠陥領域Dが生じたとしても最小解像寸法よりも小さな寸法にとどまるのであれば、内部領域Piにおける位置ずれも許容できることになる。そこで内部領域Piのショットに関するセトリング時間を最小解像寸法との関係で設定することが考えられる。
【0057】
なお、ここで「単独」ショットと表わしているのは、図形パターンPにおいて内部領域Piのショットが1回行われる際の、当該ショットを示している。従って、当該単独ショットの前後は、輪郭領域Psに対するショットとなる。また、単独ショットが当該図形パターンにおける最後のショットである場合には、その前のショット、単独ショットが当該図形パターンにおける最初のショットである場合には、その後のショットがそれぞれ輪郭領域Psに対するショットである場合にも「単独ショット」となる。
【0058】
一方、図7は、図形パターンP4を分割してショットする際の、内部領域Piにおける連続ショットに関する位置ずれを示す模式図である。ここで「連続」ショットと表わしているのは、図形パターンPにおいて内部領域Piのショットが複数回連続して行われる際の、当該ショットを示している。例えば、図7に示す図形パターンP4のように、内部領域Piが2つの領域によって構成される場合、これら2つの内部領域Piを電子ビームEBが連続して照射する場合、当該照射(ショット)が連続ショットである。一般的に電子ビームEBがある領域にショットを打つ場合、前に打ったショットの履歴を引きずることが確認されている。従って、連続ショットが行われる場合、単独ショットの場合と比べて、欠陥領域D2の大きさは大きくなる傾向がある。
【0059】
図3に戻り、分割された領域のうち、位置精度があまり厳しく求められない内部領域Piに該当する各領域を示す情報には、フラグが付加される(ST3)。すなわち、このフラグの有無によって、描画対象となる図形パターンPのうち輪郭領域Psと内部領域Piとを区別する。判断部31cにおいて内部領域Piと判断された領域に関しては、フラグ付加部31dに判断部31cから当該内部領域Piに関する情報を送り、フラグを付加した後、再度判断部31cに送信する。
【0060】
なお、フラグを付加する方法については、上述した方法の他、例えば、判断部31cからフラグ付加部31dに対してフラグの送信を求め、該当する内部領域Piに付加する方法であっても良い。
【0061】
判断部31cにおいて、描画対象となる図形パターンが輪郭領域Ps、或いは、内部領域Piのいずれに該当するか判断された上で、さらに内部領域Piについてはフラグが付加された状態にて、これらの情報が演算部31eへと送信される。この状態で実際に描画処理が行われる。
【0062】
図8は、本発明の実施の形態における描画処理中でのセトリング時間設定の流れを示すフローチャートである。
【0063】
演算部31eにおいては、判断部31cから送られてきた情報の中でフラグの有無を基に電子ビームEBのセトリング時間を設定する。すなわち、演算部31eに送られてきた情報に対してフラグの有無を判断する場合に(ST11)、フラグが付加されていない領域の情報は輪郭領域Psに関する情報であることと判断できる(ST11のNO)。そこで、輪郭領域Psを構成する領域Psごとに電子ビームEBのセトリング時間を設定する(ST12)。
【0064】
ここで、輪郭領域Psに該当する各領域に対しては、高い位置精度を持った照射が必要である。従って、電子ビームEBの照射において位置がずれることは避けなければならない。そこで、これらのことを勘案し、演算部31eでは輪郭領域Psを構成する領域ごとに電子ビームEBのセトリング時間、照射量等を設定する。ここで設定されるセトリング時間は、通常描画処理が行われる際に設定されるセトリング時間であり、十分に電界が安定する時間である。従って、当該セトリング時間の後の電子ビームEBの照射は位置ずれが発生せず、設定された位置に確実にショットされる。
【0065】
なお、併せて輪郭領域Psに該当する各領域に対して照射される電子ビームEBの照射量等の条件についても設定する。
【0066】
一方、演算部31eに送られてきた情報に対してフラグの有無を判断する場合に(ST11)、フラグが付加されている場合には内部領域Piに関する情報であると判断できる。従って、この場合には、内部領域Piへの電子ビームEBを照射するに適したセトリング時間を設定する(ST13)。
【0067】
具体的には、輪郭領域Psに対して照射される電子ビームEBにおけるセトリング時間に対して短く、欠陥が発生しない時間を内部領域Piに対して照射される電子ビームEBにおけるセトリング時間として設定する。上述した通り、セトリング時間を短くすると、電界が十分に安定しない状態で電子ビームEBが照射されることになるため、照射される領域における位置精度は、電界が十分に安定した状態で照射された場合に比べて甘くなり、位置ずれが発生し易くなる。
【0068】
但し、本発明の実施の形態においては、内部領域Piにおいては、位置ずれが生じることよりも、セトリング時間を短くして描画処理全体に掛かる時間を短くし、結果として描画処理のスループットを向上させることとしている。従って、換言すれば本発明の実施の形態においては、欠陥が発生しないと判断されない程度に内部領域Piにおいて位置ずれが生じ、欠陥領域Dが発生することは前提であるといえる。
【0069】
しかしながら欠陥領域Dの大きさがあまりに大きいと、描画対象である試料Mに欠陥が発生することにもなりかねない。そこで、内部領域Piへの照射に関しては以下のようにセトリング時間を設定する。
【0070】
図9は、セトリング時間と位置ずれとの関係を示すグラフである。このグラフでは、横軸にセトリング時間を取り、縦軸に位置ずれ(図9のグラフでは「ポジションエラー」と表記されている)の量を取っている。セトリング時間は60nsecごとに、位置ずれについては、20nmごとに表示されている。
【0071】
例えば、最小解像寸法が20nmである場合、この20nmよりも大きな値を示す描画結果(パターン)はレジストが残ってしまい、試料Mが欠陥と判断されることになる。従って、欠陥領域Dの大きさが最小解像寸法よりも小さくなるようにセトリング時間を設定する必要がある。そこで図9に示すグラフを参考にすると、およそ50nsecをセトリング時間として確保することができれば、欠陥領域Dにレジストが残ったとしても最小解像寸法よりも小さく残るだけであることから、試料Mに欠陥は発生しない。
【0072】
そこで、内部領域Piにおける電子ビームEBの照射おけるセトリング時間は、最小解像寸法を基準に設定する。なお、フラグが付加されない輪郭領域Psに対する電子ビームEBの照射におけるセトリング時間は、内部領域Piにおけるそれよりも長くなる。すなわち、輪郭領域Psにおける位置ずれ量は、内部領域Piにおける位置ずれ量よりも少なければならず、図9に示すグラフを参照すると、輪郭領域Psに関するセトリング時間が内部領域Piに関するセトリング時間よりも長いことは明白である。
【0073】
輪郭領域Ps、或いは、内部領域Piのいずれについてもセトリング時間が設定されると、セトリング時間を含む電子ビームEBの照射に関する情報は、制御計算機31から偏向制御部32へと送信される(ST14)。これらの情報を受信した偏向制御部32では、これらの情報を基に各偏向器(DACアンプ)の制御計算を行う(ST15)。そして、計算に基づく制御信号を対象となる各偏向器へと送信する(ST16)。各偏向器は、これら送信された制御信号を基に電子ビームEBの偏向を行う。
【0074】
以上説明した通り、描画対象となる図形パターンを輪郭領域と内部領域とに分け、輪郭領域よりもその位置精度を高く求められない内部領域へのショットは、輪郭領域へのショットにおけるセトリング時間よりも短いセトリング時間をもって行うことで、描画処理におけるスループットの向上を図ることのできる荷電粒子ビーム描画装置及び荷電粒子ビーム描画方法を提供する。
【0075】
但し、内部領域への電子ビームの照射に関しては、セトリング時間を短く設定することになるため、位置ずれが生じ欠陥領域が発生してしまうことになる。単独ショットの場合には、内部領域へのショットに関してその前のショットの履歴を引きずることがあっても、その前のショットはいわゆる輪郭領域へのショットであり、セトリング時間は十分に確保されていることから電界も十分に安定した状態で電子ビームの照射が行われる。従って、履歴を引きずることによる欠陥領域の拡大は考慮する必要はないが、例えば、図7に示すような連続ショットの場合には、従前のショットの履歴を引きずることによる欠陥領域の拡大に対処する必要がある。
【0076】
電子ビームを連続的に照射する場合には、欠陥領域の拡大を招くことになることから、例えば、連続ショットの中にリセットショットを混ぜることによって上記弊害を解消することができる。ここで「リセットショット」とは、セトリング時間が十分に確保され電界が安定した状態で照射される電子ビームのショットのことである。リセットショットが行われると位置ずれは発生しない。従って、連続ショットの中にこのようなリセットショットを含めることによって、一旦従前のショットの履歴を解消させることができる。履歴の解消によって、欠陥領域が発生しない状態から改めて描画を継続することが可能となるため、有効な手段である。
【0077】
また、内部領域に照射される電子ビームのセトリング時間を、輪郭領域へのショットに関するセトリング時間よりも短くするが、予定される連続ショットを全て行っても欠陥領域の大きさが最小解像寸法よりも小さくなるようにセトリング時間を設定する。このような方法を採用することによっても連続ショットが行われることによる弊害を解消することが可能となる。
【0078】
本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0079】
1 荷電粒子ビーム描画装置
2 描画部
3 制御部
31 制御計算機
31a 受信部
31b 分割部
31c 判断部
31d フラグ付加部
31e 演算部
31f 送信部
32 偏向制御部
33 ブランキングアンプ
34 成形偏向アンプ
35 副偏向アンプ
36 主偏向アンプ
Ps 輪郭領域
Pi 内部領域



【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを主偏向器、副偏向器を用いて偏向させ、移動可能なステージ上に載置される試料にパターンを描画する描画部と、
前記荷電粒子ビームの偏向を制御する偏向制御部と、前記ステージの移動を制御するステージ制御部と、前記偏向制御部と前記ステージ制御部に対する制御を行う制御計算機と、から構成される制御部と、を備え、
前記制御計算機は、
描画対象となる図形パターンを前記荷電粒子ビームにてショット可能な複数の領域へと分割する分割部と、
前記図形パターンの分割の結果形成される前記領域を、高い位置精度が求められる前記図形パターンの輪郭を形成する輪郭領域と、低い位置精度で足りる前記輪郭領域よりも内部に位置する内部領域とに分ける判断部と、
前記判断部の判断に基づいて、前記内部領域に対してフラグを付加するフラグ付加部と、
前記フラグが付加された前記内部領域へのショットを行うに際して必要とされるセトリング時間を、前記輪郭領域へのショットを行うに際して必要とされるセトリング時間よりも短くなるように演算する演算部と、
を備えることを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記ショットの位置ずれが、前記荷電粒子ビームの最小解像寸法よりも小さくなるように前記内部領域のセトリング時間の設定を行うことを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項3】
前記分割部は、前記荷電粒子ビームを最も大きなサイズでショット可能な領域となるように、前記図形パターンを分割することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項4】
前記分割部は、少なくとも前記内部領域を前記ショットを最も大きなサイズでショット可能な領域となるように、前記図形パターンを分割することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項5】
描画対象となる図形パターンを荷電粒子ビームにてショット可能な複数の領域へと分割するステップと、
分割された前記領域の前記図形パターンにおける位置を確認し、前記図形パターンの輪郭領域では高い位置精度が求められると判断し、前記輪郭領域よりも内部に位置する内部領域では低い位置精度で足りると判断するステップと、
前記輪郭領域に対する前記荷電粒子ビームのセトリング時間を設定するステップと、
前記内部領域に対してフラグを付加するステップと、
前記フラグが付加された前記内部領域に対する前記荷電粒子ビームのセトリング時間を前記輪郭領域に対する前記セトリング時間よりも短く設定するステップと、
を備えることを特徴とする荷電粒子ビーム描画方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−74130(P2013−74130A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212292(P2011−212292)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(504162958)株式会社ニューフレアテクノロジー (669)
【Fターム(参考)】