荷電粒子線の光軸調整方法、及び荷電粒子線装置
【課題】本発明は、人為的な判断基準を定量化し、当該定量化された判断基準に基づいて、荷電粒子線の軸調整の要否判断を行う荷電粒子線の光軸調整方法、及び装置の提供を目的とする。
【解決手段】上記目的を達成するために、荷電粒子線を調節する光学素子の調整条件を変化させ、当該異なる調整条件にて複数の画像を取得し、取得された複数の画像の中から、その画質を許容できる画像、或いは許容できない画像を選択し、選択された画像に基づいて第1の画質評価値を取得し、当該取得された第1の画質評価値と、前記荷電粒子ビームの走査によって得られる画像から求められる第2の画質評価値とを比較し、当該第2の画質評価値が、第1の画質評価値以下、或いは当該第1の画質評価値を下回ったときに、光軸調整を行う方法、及び装置を提案する。
【解決手段】上記目的を達成するために、荷電粒子線を調節する光学素子の調整条件を変化させ、当該異なる調整条件にて複数の画像を取得し、取得された複数の画像の中から、その画質を許容できる画像、或いは許容できない画像を選択し、選択された画像に基づいて第1の画質評価値を取得し、当該取得された第1の画質評価値と、前記荷電粒子ビームの走査によって得られる画像から求められる第2の画質評価値とを比較し、当該第2の画質評価値が、第1の画質評価値以下、或いは当該第1の画質評価値を下回ったときに、光軸調整を行う方法、及び装置を提案する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線の光軸調整方法、及び荷電粒子線装置に係り、特に画像評価に基づいて、光軸調整の判断を行う光軸調整方法、及び荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子顕微鏡(走査形電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)や走査形イオン顕微鏡(Scanning Ion Microscope)等)における分解能評価手法として、以下のようなものが知られている。第一の方法は、特許文献1に開示されているように、カーボン上に金粒子を蒸着した試料を顕微鏡観察し、その観察画像上で目視確認できる粒子の最小2点間のギャップ距離で評価するGAP法である。第二の方法は、特許文献2に説明されているように、観察画像のデータを2次元フーリエ変換(Fourier Transform)することによって周波数解析を行い像分解能を評価するFFT法である。第三の方法は、特許文献3に開示されるように、観察画像データ内の局所的なコントラスト勾配から像分解能を評価する方法である。
【0003】
一方、走査電子顕微鏡に代表される荷電粒子線装置では、細く収束された荷電粒子線を試料上で走査して試料から所望の情報(例えば試料像)を得る。このような荷電粒子線装置では、レンズに対し光軸にずれがあるとレンズ収差が発生し試料像の解像度が低下するため、分解能の高い試料像を得るためには高精度な軸調整が必要である。軸調整では対物レンズの励磁電流等を周期的に変化させ、そのときの動きを最小とするように軸調整用の偏向器(アライナー)の動作条件を手動で調整したりする。
【0004】
このような調整を自動で行うための技術として特許文献4に開示の技術がある。この記載によれば対物レンズの2つの励磁条件間で変化する電子線照射位置の推移に基づいて、アライメントコイルの励磁設定値を変更する技術が開示されている。更に、特許文献5には、異なる光学条件で得られた2つの電子顕微鏡画像から両者の位置ずれ検出に基づいて焦点補正を行う技術が開示されている。
【0005】
また、荷電粒子線装置では、軸非対象収差があると、像の縦方向と横方向で焦点位置が異なり、ある方向に画像のぼけが生じてしまう。これらは、非点補正装置で調節することができ、自動軸調整同様に、調節を自動で行うことができる。通常の使用者は、自動調節後の像質が良好であることを目視確認する。もしも、良好ではない場合は、再度、調整を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−45265号公報
【特許文献2】特開平11−224640号公報
【特許文献3】特開2007−128913号公報
【特許文献4】特開2000−195453号公報
【特許文献5】特開2000−331637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
走査形電子顕微鏡では、光学系部品等の経時変化から生じる光学軸ずれや非点の発生が、光学状態を悪化させ、像のぼけを発生させる。特に、測長SEM等の測定器として用いられている走査型電子顕微鏡では、このようなぼけが計測寸法変化を発生させる要因となる。画像のぼけは、画像プロファイル(画像の断面波形)の変化をおよぼしてしまう。測長SEMでは、画像プロファイルから寸法を計測しているため、光学状態のずれは計測寸法変化を発生させてしまう。このような光学状態のずれを防ぐために、走査形電子顕微鏡の利用者は自動軸調整機能を用いて定期的に軸ずれを補正したり、非点を補正している。
【0008】
近年、半導体量産工場では、計測機器を含む半導体製造装置の自動化、すなわち無人化が経費削減と製造効率向上のために求められている。一方で、軸調整が行われる前、或いは軸調整が行われた後の画像を目視で確認し、軸調整の適否を確認したいという要求もある。
【0009】
特許文献1乃至3における像分解能評価手法は、SEM画像の画質(分解能)を評価する手法として、広く知られているものであるが、特許文献1に説明されているような手法では、選択されるギャップ位置によっては求められる分解能評価値が大きく変化してしまい、SEM使用者の主観が誤差要因となる可能性があった。また、特許文献2,3に説明された技術によれば、分解能の客観的な評価を行うことは可能であるが、評価値にSEM使用者の判断が入り込む余地がない。
【0010】
また、特許文献4,5の軸調整法でも、やはりSEM使用者の判断の入り込む余地はなく、SEM使用者の経験的な判断を、画質評価、或いは軸調整の要否の判断に反映させることが困難であった。
【0011】
以下に、人為的な判断基準を定量化し、当該定量化された判断基準に基づいて、荷電粒子線の軸調整の要否判断を行うことを目的とした荷電粒子線の光軸調整方法、及び装置を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、荷電粒子線を調節する光学素子の調整条件を変化させ、当該異なる調整条件にて複数の画像を取得し、取得された複数の画像の中から、その画質を許容できる画像、或いは許容できない画像を選択し、選択された画像に基づいて第1の画質評価値を取得し、当該取得された第1の画質評価値と、前記荷電粒子ビームの走査によって得られる画像から求められる第2の画質評価値とを比較し、当該第2の画質評価値が、第1の画質評価値以下、或いは当該第1の画質評価値を下回ったときに、光軸調整を行う方法、及び装置を提案する。
【発明の効果】
【0013】
上記構成によれば、画質を操作した結果得られる複数の画像から、測定等に耐え得る画像(或いは測定等に耐え得ない画像)を任意に選択することが可能となると共に、当該選択された画像を基準として、光軸調整の要否判断を行うことが可能となるので、SEM操作者が常時、荷電粒子線装置を監視せずとも、それと同等の条件で、光軸調整の要否判断を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】走査電子顕微鏡の基本構成図。
【図2】光軸調整のための画像評価しきい値取得手順と、当該画像評価しきい値による画像評価手順を説明するフローチャート。
【図3】鮮明なSEM画像の一例を説明する図。
【図4】ぼけているSEM画像の一例を説明する図。
【図5】許容可能なぼけの評価値を持つSEM画像の一例を説明する図。
【図6】FFTによる画像評価プロセスの一例を説明する図。
【図7】FFTによる画像評価結果の一例を説明する図。
【図8】光軸状態を評価するために取得された画像の一例を説明する図。
【図9】画像評価しきい値と、取得された画像の評価値との関係を示すグラフの一例を説明する図。
【図10】光軸状態を評価するために取得された画像の一例を説明する図。
【図11】試料側の原因によって、取得された画像の評価値にばらつきが存在する例を説明する図。
【図12】測定パターンのそばに設置された、像質評価用パターンの一例を説明する図。
【図13】パターンの測定結果と併せて像質評価値を表示した例を説明する図。
【図14】パターンの測定結果と像質評価値のグラフ。
【図15】GUI(Graphical User Interface)を使用して画像評価しきい値を設定する工程を説明するフローチャート。
【図16】光学素子を複数に変化させたときに得られる複数画像の表示例を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に説明する実施例では走査電子顕微鏡を例に採って説明するが、これに限られることはなく、走査イオン顕微鏡等の他の荷電粒子線装置への適用も可能である。
【実施例1】
【0016】
半導体デバイスの測定,検査装置の1つである測長SEM(Critical Dimension−SEM:CD−SEM)においては、自動的に光軸調整を行った上で、更に目視で像質を確認し、必要に応じて再調整等の対応を行うことが望ましい。しかしながら、長時間稼動する測定装置では、極力、無人運用を行うことが望ましい。
【0017】
そこで、以下に、SEM操作者の主観的な判断を定量化し、当該定量化された判断基準に基づいて、軸調整の要否を判断する手法、及びアルゴリズムを説明する。
【0018】
より具体的には、通常の測長SEMの寸法開始前にメンテナンスのために、自動軸調整が行われた後、目視で像質確認,再調整が必要かの判断、及び再調整の実行に人員が必要である。この例のような、人間の作業時間を要する良否判定と繰り返し作業を除去し、測長SEMの軸調整を無人運用するためのシステムを提案する。
【0019】
なお、判断基準の定量化のために、SEMの荷電粒子線を調整する光学素子を変化したときに得られる複数の画像から、任意の画像の選択を行う。当該工程では、段階的に光学素子条件を変化させたときに得られる画像の中から、任意の画像を選択する。SEMの操作者は、画像のぼけ具合に応じて、画像の適不適を判断することができるので、操作者の主観的な判断基準に基づく画像の選択を行うことが可能となる。
【0020】
また、以下の説明では、上記画像選択工程によって選択される画像は、ぼけが許容可能な画像の内、最もぼけている画像(以下の説明では極限ぼけ量を持つ画像)を選択する例について説明するが、これに限られることはなく、例えば、主観的にぼけが許容不可能な画像の内、最もぼけていない画像を選択することも可能である。この場合、当該画像から求められる画像評価値以下となったときに、光軸調整を行うようにすれば良い。また、画像評価値を取得するための画像は、ぼけを許容、或いは許容できない範囲内の臨界の画像を選択する必要はなく、例えばある程度のマージンを見込んで、極限ぼけ量を持つ画像よりぼけの少ない画像を選択するようにしても良い。また、この場合にある程度、マージンを含ませることを前提として、画像評価値に所定の値を加算,減算した上で、しきい値となる画像評価値を決定するようにしても良い。
【0021】
上述のように、操作者の主観的な判断のもと、選択された画像のぼけ具合の確認(画像評価量の算出)を行うために、本実施例ではFFT法を用いる。FFT法の評価値の大小によって、ぼけ量が多いと判断できる。この手法を用いて、事前に人為的に画像をぼかしておき、許容できる極限ぼけ量を持つ画像をFFT変換し評価値を求めておく。それをしきい値として登録しておけば、定期的な自動軸調整の際にはFFT法による評価を実施し、その評価値としきい値とを比較することにより、装置の自動調整後の像良否判定と再調整の人間の作業を除去できる。本実施例では、しきい値設定手段を提案し、電子顕微鏡の軸調整を無人運用するためのシステムを提案する。
【0022】
半導体量産のために保ちたい装置調整状態の水準は、製造している半導体デバイス,工程等によって異なってくる。ユーザーに任意のボケ量を選択させて、像質評価としきい値との比較による像質の良否判断と再調整実行を、自動調整シーケンスに加えた装置調整状態管理システムを提供する。ぼかし方法は、対物レンズの電流値を変更させて、焦点をずらす方式を提案するが、その他、アライナーや非点補正用コイルの電流値をずらして像をぼかす手段でも良い。また、試料に負電圧を印加して、試料に到達する電子ビームの到達エネルギーを抑制する所謂リターディング方式を採用するSEMの場合には、リターディング電圧を変化させることでフォーカス調整を行う所謂リターディングフォーカスによって、画像のぼかしの程度を変化させるようにしても良い。この場合、光学素子は、電界によって形成される静電レンズとなる。
【0023】
本実施例による走査電子顕微鏡装置によれば、無人で装置の光学状態を長期にわたって、ユーザーが選択した許容限界より良好な状態で保つことができる。その結果、人員による確認作業がなくなり、装置の無人運用が達成できる。
【0024】
以下、本実施例では、上述のような手法を用いて軸状態の良否判定に使用するしきい値の設定ができる測長SEMシステムを、図面を用いて説明する。
【0025】
図1は走査電子顕微鏡の概略構成図である。電子源1から、引出電極によって引き出された電子ビーム4は、加速電極2によって加速され、半導体ウェハ等の試料8に照射される。電子ビーム4は、試料に到達するまでに、コンデンサレンズ3による集束,走査偏向器5による偏向、及び対物レンズ6による集束作用を受けて、試料8にて走査される。
【0026】
試料8上の走査領域18から放出された電子7(二次電子、及び/又は反射電子)は、検出器11によって検出され、当該検出器11から出力される検出信号は、増幅器12によって増幅され、画像記憶部13に記憶される。画像記憶部13に記憶された画像信号に基づいて、測長処理部14ではパターンの寸法測定が行われる。試料を載置するための試料ステージ9は、電子線光軸をZ方向としたときに、少なくともX−Y方向への移動が可能なように構成され、試料8上の所望の位置に、電子ビーム4が照射されるように構成されている。
【0027】
また、図1に例示する走査電子顕微鏡には、図示しない光軸調整用のアライナー(偏向器)が設けられており、対物レンズ6や、図示しない非点補正器等の光学素子への光軸調整を可能としている。更に、走査偏向器5と試料ステージ9は、それぞれ偏向制御部19、及びステージ制御部10によって、所定の制御が行われる。
【0028】
上記走査電子顕微鏡の各構成要素は、主制御部15に接続され、所定の制御が行われる。主制御部15には、コンピュータ部16が接続され、当該コンピュータ部16は、後述するような画像処理や演算等を行うためのプログラムに従って、演算処理が行われる。コンピュータ部16には、記憶媒体34,マウス20,キーボード21,表示部17が接続されており、操作者は、表示部17に表示された情報に基づいて、マウス20やキーボード21等の装置を用いた設定,選択を行うことができるように構成されている。
【0029】
測長処理部14では、画像記憶部13に記憶されたパターンの画像を用いた寸法測定が行われるが、その際にあらかじめ記憶手段に記憶しておいた装置間(異なるSEM間)での画像プロファイルの特徴量を合わせ込むためのフィルタパラメータ(関数)を読み出し、読み出したフィルタパラメータを用いて取得したパターンの画像から画像プロファイルを作成し、前記パターンの寸法計測が可能なように構成されている。
【0030】
図2は、光軸調整のための画像評価しきい値取得手順と、当該画像評価しきい値による画像評価手順を説明するフローチャートである。図2の左側の点線にて囲まれた工程は、画像評価しきい値を取得する工程であり、右側の点線にて囲まれた工程は、得られた画像評価しきい値に基づいて、光軸調整の要否判断を行う工程である。測長SEMの寸法開始前にメンテナンスのために、自動軸調整が行われた後、目視で像質確認が行うことが望ましい。例えば、図3のように画像が鮮明に見えた場合は軸状態が良好だと判断されて、通常の測長SEMの使用が開始する。しかしながら、図4のように、画像がぼけて見える場合、観察者は再度,自動軸調整処理を行う。像質に問題がないことを確認できるまで、繰り返される。
【0031】
このような、人間の作業時間を要する良否判定と繰り返し作業を除去し、測長SEMの無人化運用のために、本実施例では、この図2に例示する光軸調整のための画像評価しきい値取得と、当該画像評価しきい値による画像評価を提案する。
【0032】
以下、図2のシーケンスの各工程を説明する。
【0033】
まず、初期設定の説明をする。Q1では、しきい値が登録済みではないかを判断する。最初はNOのフローへ進む。
【0034】
(1)軸調整
軸調整を実施する。また、その他の像質補正として、非点補正や焦点合わせ等も同時に行う。
【0035】
(2)人為的な画像ぼかし処理
軸調整状態が良好であると目視で確認した後、対物レンズ6の電流量を変化させることによって人為的に画像をぼかす。その後、Q3のように、観察者は、それが許容できる極限ぼけ量を持つ画像であるかを目視で判断する。極限より、ぼけ具合がまだ余裕がある場合は、さらにぼかす作業を行う。逆に、ぼけ量が大きすぎた場合は、ぼけ量を再度調整する。極限ぼけ量を持つ画像として、図4の状態から、対物レンズを変化させ、像が若干ぼけた際の画像を図5にしめす。
【0036】
(3)FFTによる画質評価
極限ぼけ量を持つ画像を決定したら、次にその像質評価をFFT方式で評価する。FFT法では、2次元の濃淡画像に対し2次元フーリエ変換をして、周波数解析を行う。その画像評価手順は次のとおりである。まず、濃淡画像をディジタル画像にし、その画像を2次元フーリエ変換する。実部と虚部の平方和をとった上で、各画素の値の対数を取った画像がフーリエ変換後の画像である。この画像の輝度をある画像内の方向にとることにより、その方向の周波数スペクトルを得ることができる。その周波数スペクトル上で、特定周波数成分における信号強度を指標値として使用することによって、任意角度の像評価が可能である。この手順を図6に概要図で示している。
【0037】
本実施例では、4つの方向で特定周波数成分を抽出し、それらの平均を求める例を説明する。図6はその処理の流れを説明する図である。図6では、方向を0°,90°,180°,270°に設定し、それらの平均値を求めている。グラフで示すように、ある特定周波数での信号量Iを記録する。グラフでは、0°方向のスペクトル模式図を示している。結果を図7の表内1行目に示す。
【0038】
(4)しきい値の登録
ぼけ量の評価値を(3)にて説明した手法で求めた後、測長SEMの記憶部にしきい値(ITH)として登録する。本例の場合、図5から算出されるITHは、図7で算出されているように、22087である。このしきい値は、後述の工程(6)で使用する。
【0039】
以上で初期設定は終了である。なお、本実施例では、(2)で得られた値を直接、しきい値(画質評価値)として登録する例について説明するが、これに限られることはなく、所定値を加減算することで、画質評価値を算出するようにしても良いし、直接的な値ではなく、所定の数値範囲ごとに割り当てられる評価値を、画質評価値とするようにしても良い。
【0040】
(5)光軸調整の実行
初期設定が工程(4)で完了しているため、測長SEMの使用を開始するメンテナンス処理としての軸調整をする。この処理は(1)で行う内容と同じである。
【0041】
(6)FFT画像評価
自動軸調整が(5)で終了した後、自動画像取得をする。例えば、図8のような画像が取得されたとする。上記(3)の方式同様にFFT評価値(Ix)を求める。その結果を、図7の2行目に示している。その後、しきい値との差分を求める(Ix−ITH)。Q4の段階で、その差が正の値であれば軸状態は良いと判断され、通常のパターン寸法計測へ進む。もし、その差が負の値であれば再度、軸調整が実施される。図9に、図8評価値(Ix)と、図5で設定したしきい値(ITH)の結果をグラフとして示す。この場合、IxがITHよりも小さいことから、処理は工程(5)の自動軸調整へ戻る。図7の3行目の結果は図10のような画像で得られるが、そのように、ITH上回るまで、(6)とQ4は繰り返される。
【0042】
本来、(6)とQ4に相当する評価と判断は、人為的に行われるものであるが、上述の手法によれば、Q1〜Q3の観察者による判断を行うだけで、その後の処理を自動化することが可能となる。
【0043】
なお、同等の画質であるにもかかわらず、FFT評価では撮像対象物の個体差によってばらつきが生じる。図11にその例をグラフで示す。このような、ばらつきを事前に良好な軸状態で調査しておき、(4)のしきい値の登録の際に、上乗せすることにより、サンプル起因のばらつきを考慮したしきい値の設定ができる。たとえば、前述の例のITHは22087+2759=24846と算出される。
【0044】
FFT変換による像質評価には全方向において、同等の輝度を持つパターンを使うことを推奨するが、特定方向のパターンを複数個用いても構わない。
【0045】
また、本実施例では、FFT法を用いた画質評価値算出を行っているが、これに限られることはなく、例えば、特許文献3に説明されているような分解能評価方法に基づいて得られる値を、画質評価値、或いは画質評価値を算出するための基準とすることも可能である。
【実施例2】
【0046】
以下に、他の実施例を図面を用いて説明する。
【0047】
本実施例では、測長SEMにおいて、各測定点の像質評価値を寸法結果の付属情報として出力することを目的とする。この方式により、各測定結果の妥当性を考慮することができる。
【0048】
図12に例示する様に、測定対象となるパターンに隣接して、丸いパターンを測定試料上に用意しておく。測長SEMでは、丸いパターンと測定対象が同じ視野(Field Of View:FOV)内に含まれるように、ビーム走査を行う。測長SEMで、画像処理による測定後、丸いパターンの領域のデータを切り出し、その部分のFFT評価をする。全測定点において、同様の処理を行うと、図13に示すように、寸法の結果と一緒に画質評価結果が出力される。これをプロットしたグラフが図14である。
【0049】
20点の内、1〜18点はおおよそ、100nmの寸法であるが、19点目は80nm、20点目は120nmである。これらのような特異点が装置起因で起こったのか、試料上の物理的な大きさが違うのかを切り分けるために、Ixが指標とすることができる。図14では、19点目のIx値は、他の箇所と同等であることが解る。したがって、像のぼけによる寸法の違いが生じている訳ではない。しかしながら、20点目のIx値は、他の点との差が大きい。したがって、像ぼけによる誤測定が生じたと判断し、データを除外するトリガーとなる。
【実施例3】
【0050】
以下に、更に他の実施例を図面を用いて説明する。
【0051】
実施例1及び2では、しきい値の設定を対物レンズ6の電流量を人間が変化させていたが、ここでは自動画像収集機能を使用して、装置が自動で電流量を振り、画面上に段階的に変化する画像をユーザーの確認のために並べ、画像取得条件の事前指定をおこなう。
【0052】
作業者は、任意の撮像箇所へ移動した後、焦点を合わせて画像を確認する。その後、焦点があっている状態で自動画像収集機能を起動する。そのシーケンスは図15に示す通りである。このシーケンスでは、自動的に対物電流値をある範囲まで、段階的に少しずらして、画像取得をすることを繰り返している。最大ずらし量zはソフトウェア内に事前に組み込まれており、その変化量の決定方法の提案は後述する。段階の数も組み込まれており、画面上に8画像程度になるように、電流ずらし量の1段階の量yはzを並べる画像枚数で割ることで求める。および電子線の操作方法やフレーム加算数と言った、画像取得条件はユーザーがGUIで事前指定できる。段階的に変化させて画像を画面上に並べることにより、ユーザーは対物電流ずらしと共に変化する像の具合を視覚的に比較することができる。画像を画面上にならべたGUIを図16に示す。この画像と共に、しきい値の表示も行い画像取得条件の事前指定を容易にすることができる。
【0053】
前述の最大ずらし量の決定方法について説明する。設定可能な対物電流値の全領域を使用するような設定をしてしまうと、細かな設定ができないため、不適切である。そのため、事前に、対物電流値をずらした際の像質の変化を調べておき、適切な範囲を決定する。さらに詳しく設定したい場合は、測長値と焦点ずれとの関係を任意のパターンで見出しておき、装置に求められる再現性を達成できるような範囲内で最大ずらし量を設定することもできる。
【符号の説明】
【0054】
1 電子源
2 加速電極
3 コンデンサレンズ
4 電子ビーム
5 走査偏向器
6 対物レンズ
7 放出された電子
8 試料
9 試料ステージ
10 ステージ制御部
11 検出器
12 増幅器
13 画像記憶部
14 測長処理部
15 主制御部
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線の光軸調整方法、及び荷電粒子線装置に係り、特に画像評価に基づいて、光軸調整の判断を行う光軸調整方法、及び荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子顕微鏡(走査形電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)や走査形イオン顕微鏡(Scanning Ion Microscope)等)における分解能評価手法として、以下のようなものが知られている。第一の方法は、特許文献1に開示されているように、カーボン上に金粒子を蒸着した試料を顕微鏡観察し、その観察画像上で目視確認できる粒子の最小2点間のギャップ距離で評価するGAP法である。第二の方法は、特許文献2に説明されているように、観察画像のデータを2次元フーリエ変換(Fourier Transform)することによって周波数解析を行い像分解能を評価するFFT法である。第三の方法は、特許文献3に開示されるように、観察画像データ内の局所的なコントラスト勾配から像分解能を評価する方法である。
【0003】
一方、走査電子顕微鏡に代表される荷電粒子線装置では、細く収束された荷電粒子線を試料上で走査して試料から所望の情報(例えば試料像)を得る。このような荷電粒子線装置では、レンズに対し光軸にずれがあるとレンズ収差が発生し試料像の解像度が低下するため、分解能の高い試料像を得るためには高精度な軸調整が必要である。軸調整では対物レンズの励磁電流等を周期的に変化させ、そのときの動きを最小とするように軸調整用の偏向器(アライナー)の動作条件を手動で調整したりする。
【0004】
このような調整を自動で行うための技術として特許文献4に開示の技術がある。この記載によれば対物レンズの2つの励磁条件間で変化する電子線照射位置の推移に基づいて、アライメントコイルの励磁設定値を変更する技術が開示されている。更に、特許文献5には、異なる光学条件で得られた2つの電子顕微鏡画像から両者の位置ずれ検出に基づいて焦点補正を行う技術が開示されている。
【0005】
また、荷電粒子線装置では、軸非対象収差があると、像の縦方向と横方向で焦点位置が異なり、ある方向に画像のぼけが生じてしまう。これらは、非点補正装置で調節することができ、自動軸調整同様に、調節を自動で行うことができる。通常の使用者は、自動調節後の像質が良好であることを目視確認する。もしも、良好ではない場合は、再度、調整を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−45265号公報
【特許文献2】特開平11−224640号公報
【特許文献3】特開2007−128913号公報
【特許文献4】特開2000−195453号公報
【特許文献5】特開2000−331637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
走査形電子顕微鏡では、光学系部品等の経時変化から生じる光学軸ずれや非点の発生が、光学状態を悪化させ、像のぼけを発生させる。特に、測長SEM等の測定器として用いられている走査型電子顕微鏡では、このようなぼけが計測寸法変化を発生させる要因となる。画像のぼけは、画像プロファイル(画像の断面波形)の変化をおよぼしてしまう。測長SEMでは、画像プロファイルから寸法を計測しているため、光学状態のずれは計測寸法変化を発生させてしまう。このような光学状態のずれを防ぐために、走査形電子顕微鏡の利用者は自動軸調整機能を用いて定期的に軸ずれを補正したり、非点を補正している。
【0008】
近年、半導体量産工場では、計測機器を含む半導体製造装置の自動化、すなわち無人化が経費削減と製造効率向上のために求められている。一方で、軸調整が行われる前、或いは軸調整が行われた後の画像を目視で確認し、軸調整の適否を確認したいという要求もある。
【0009】
特許文献1乃至3における像分解能評価手法は、SEM画像の画質(分解能)を評価する手法として、広く知られているものであるが、特許文献1に説明されているような手法では、選択されるギャップ位置によっては求められる分解能評価値が大きく変化してしまい、SEM使用者の主観が誤差要因となる可能性があった。また、特許文献2,3に説明された技術によれば、分解能の客観的な評価を行うことは可能であるが、評価値にSEM使用者の判断が入り込む余地がない。
【0010】
また、特許文献4,5の軸調整法でも、やはりSEM使用者の判断の入り込む余地はなく、SEM使用者の経験的な判断を、画質評価、或いは軸調整の要否の判断に反映させることが困難であった。
【0011】
以下に、人為的な判断基準を定量化し、当該定量化された判断基準に基づいて、荷電粒子線の軸調整の要否判断を行うことを目的とした荷電粒子線の光軸調整方法、及び装置を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、荷電粒子線を調節する光学素子の調整条件を変化させ、当該異なる調整条件にて複数の画像を取得し、取得された複数の画像の中から、その画質を許容できる画像、或いは許容できない画像を選択し、選択された画像に基づいて第1の画質評価値を取得し、当該取得された第1の画質評価値と、前記荷電粒子ビームの走査によって得られる画像から求められる第2の画質評価値とを比較し、当該第2の画質評価値が、第1の画質評価値以下、或いは当該第1の画質評価値を下回ったときに、光軸調整を行う方法、及び装置を提案する。
【発明の効果】
【0013】
上記構成によれば、画質を操作した結果得られる複数の画像から、測定等に耐え得る画像(或いは測定等に耐え得ない画像)を任意に選択することが可能となると共に、当該選択された画像を基準として、光軸調整の要否判断を行うことが可能となるので、SEM操作者が常時、荷電粒子線装置を監視せずとも、それと同等の条件で、光軸調整の要否判断を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】走査電子顕微鏡の基本構成図。
【図2】光軸調整のための画像評価しきい値取得手順と、当該画像評価しきい値による画像評価手順を説明するフローチャート。
【図3】鮮明なSEM画像の一例を説明する図。
【図4】ぼけているSEM画像の一例を説明する図。
【図5】許容可能なぼけの評価値を持つSEM画像の一例を説明する図。
【図6】FFTによる画像評価プロセスの一例を説明する図。
【図7】FFTによる画像評価結果の一例を説明する図。
【図8】光軸状態を評価するために取得された画像の一例を説明する図。
【図9】画像評価しきい値と、取得された画像の評価値との関係を示すグラフの一例を説明する図。
【図10】光軸状態を評価するために取得された画像の一例を説明する図。
【図11】試料側の原因によって、取得された画像の評価値にばらつきが存在する例を説明する図。
【図12】測定パターンのそばに設置された、像質評価用パターンの一例を説明する図。
【図13】パターンの測定結果と併せて像質評価値を表示した例を説明する図。
【図14】パターンの測定結果と像質評価値のグラフ。
【図15】GUI(Graphical User Interface)を使用して画像評価しきい値を設定する工程を説明するフローチャート。
【図16】光学素子を複数に変化させたときに得られる複数画像の表示例を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に説明する実施例では走査電子顕微鏡を例に採って説明するが、これに限られることはなく、走査イオン顕微鏡等の他の荷電粒子線装置への適用も可能である。
【実施例1】
【0016】
半導体デバイスの測定,検査装置の1つである測長SEM(Critical Dimension−SEM:CD−SEM)においては、自動的に光軸調整を行った上で、更に目視で像質を確認し、必要に応じて再調整等の対応を行うことが望ましい。しかしながら、長時間稼動する測定装置では、極力、無人運用を行うことが望ましい。
【0017】
そこで、以下に、SEM操作者の主観的な判断を定量化し、当該定量化された判断基準に基づいて、軸調整の要否を判断する手法、及びアルゴリズムを説明する。
【0018】
より具体的には、通常の測長SEMの寸法開始前にメンテナンスのために、自動軸調整が行われた後、目視で像質確認,再調整が必要かの判断、及び再調整の実行に人員が必要である。この例のような、人間の作業時間を要する良否判定と繰り返し作業を除去し、測長SEMの軸調整を無人運用するためのシステムを提案する。
【0019】
なお、判断基準の定量化のために、SEMの荷電粒子線を調整する光学素子を変化したときに得られる複数の画像から、任意の画像の選択を行う。当該工程では、段階的に光学素子条件を変化させたときに得られる画像の中から、任意の画像を選択する。SEMの操作者は、画像のぼけ具合に応じて、画像の適不適を判断することができるので、操作者の主観的な判断基準に基づく画像の選択を行うことが可能となる。
【0020】
また、以下の説明では、上記画像選択工程によって選択される画像は、ぼけが許容可能な画像の内、最もぼけている画像(以下の説明では極限ぼけ量を持つ画像)を選択する例について説明するが、これに限られることはなく、例えば、主観的にぼけが許容不可能な画像の内、最もぼけていない画像を選択することも可能である。この場合、当該画像から求められる画像評価値以下となったときに、光軸調整を行うようにすれば良い。また、画像評価値を取得するための画像は、ぼけを許容、或いは許容できない範囲内の臨界の画像を選択する必要はなく、例えばある程度のマージンを見込んで、極限ぼけ量を持つ画像よりぼけの少ない画像を選択するようにしても良い。また、この場合にある程度、マージンを含ませることを前提として、画像評価値に所定の値を加算,減算した上で、しきい値となる画像評価値を決定するようにしても良い。
【0021】
上述のように、操作者の主観的な判断のもと、選択された画像のぼけ具合の確認(画像評価量の算出)を行うために、本実施例ではFFT法を用いる。FFT法の評価値の大小によって、ぼけ量が多いと判断できる。この手法を用いて、事前に人為的に画像をぼかしておき、許容できる極限ぼけ量を持つ画像をFFT変換し評価値を求めておく。それをしきい値として登録しておけば、定期的な自動軸調整の際にはFFT法による評価を実施し、その評価値としきい値とを比較することにより、装置の自動調整後の像良否判定と再調整の人間の作業を除去できる。本実施例では、しきい値設定手段を提案し、電子顕微鏡の軸調整を無人運用するためのシステムを提案する。
【0022】
半導体量産のために保ちたい装置調整状態の水準は、製造している半導体デバイス,工程等によって異なってくる。ユーザーに任意のボケ量を選択させて、像質評価としきい値との比較による像質の良否判断と再調整実行を、自動調整シーケンスに加えた装置調整状態管理システムを提供する。ぼかし方法は、対物レンズの電流値を変更させて、焦点をずらす方式を提案するが、その他、アライナーや非点補正用コイルの電流値をずらして像をぼかす手段でも良い。また、試料に負電圧を印加して、試料に到達する電子ビームの到達エネルギーを抑制する所謂リターディング方式を採用するSEMの場合には、リターディング電圧を変化させることでフォーカス調整を行う所謂リターディングフォーカスによって、画像のぼかしの程度を変化させるようにしても良い。この場合、光学素子は、電界によって形成される静電レンズとなる。
【0023】
本実施例による走査電子顕微鏡装置によれば、無人で装置の光学状態を長期にわたって、ユーザーが選択した許容限界より良好な状態で保つことができる。その結果、人員による確認作業がなくなり、装置の無人運用が達成できる。
【0024】
以下、本実施例では、上述のような手法を用いて軸状態の良否判定に使用するしきい値の設定ができる測長SEMシステムを、図面を用いて説明する。
【0025】
図1は走査電子顕微鏡の概略構成図である。電子源1から、引出電極によって引き出された電子ビーム4は、加速電極2によって加速され、半導体ウェハ等の試料8に照射される。電子ビーム4は、試料に到達するまでに、コンデンサレンズ3による集束,走査偏向器5による偏向、及び対物レンズ6による集束作用を受けて、試料8にて走査される。
【0026】
試料8上の走査領域18から放出された電子7(二次電子、及び/又は反射電子)は、検出器11によって検出され、当該検出器11から出力される検出信号は、増幅器12によって増幅され、画像記憶部13に記憶される。画像記憶部13に記憶された画像信号に基づいて、測長処理部14ではパターンの寸法測定が行われる。試料を載置するための試料ステージ9は、電子線光軸をZ方向としたときに、少なくともX−Y方向への移動が可能なように構成され、試料8上の所望の位置に、電子ビーム4が照射されるように構成されている。
【0027】
また、図1に例示する走査電子顕微鏡には、図示しない光軸調整用のアライナー(偏向器)が設けられており、対物レンズ6や、図示しない非点補正器等の光学素子への光軸調整を可能としている。更に、走査偏向器5と試料ステージ9は、それぞれ偏向制御部19、及びステージ制御部10によって、所定の制御が行われる。
【0028】
上記走査電子顕微鏡の各構成要素は、主制御部15に接続され、所定の制御が行われる。主制御部15には、コンピュータ部16が接続され、当該コンピュータ部16は、後述するような画像処理や演算等を行うためのプログラムに従って、演算処理が行われる。コンピュータ部16には、記憶媒体34,マウス20,キーボード21,表示部17が接続されており、操作者は、表示部17に表示された情報に基づいて、マウス20やキーボード21等の装置を用いた設定,選択を行うことができるように構成されている。
【0029】
測長処理部14では、画像記憶部13に記憶されたパターンの画像を用いた寸法測定が行われるが、その際にあらかじめ記憶手段に記憶しておいた装置間(異なるSEM間)での画像プロファイルの特徴量を合わせ込むためのフィルタパラメータ(関数)を読み出し、読み出したフィルタパラメータを用いて取得したパターンの画像から画像プロファイルを作成し、前記パターンの寸法計測が可能なように構成されている。
【0030】
図2は、光軸調整のための画像評価しきい値取得手順と、当該画像評価しきい値による画像評価手順を説明するフローチャートである。図2の左側の点線にて囲まれた工程は、画像評価しきい値を取得する工程であり、右側の点線にて囲まれた工程は、得られた画像評価しきい値に基づいて、光軸調整の要否判断を行う工程である。測長SEMの寸法開始前にメンテナンスのために、自動軸調整が行われた後、目視で像質確認が行うことが望ましい。例えば、図3のように画像が鮮明に見えた場合は軸状態が良好だと判断されて、通常の測長SEMの使用が開始する。しかしながら、図4のように、画像がぼけて見える場合、観察者は再度,自動軸調整処理を行う。像質に問題がないことを確認できるまで、繰り返される。
【0031】
このような、人間の作業時間を要する良否判定と繰り返し作業を除去し、測長SEMの無人化運用のために、本実施例では、この図2に例示する光軸調整のための画像評価しきい値取得と、当該画像評価しきい値による画像評価を提案する。
【0032】
以下、図2のシーケンスの各工程を説明する。
【0033】
まず、初期設定の説明をする。Q1では、しきい値が登録済みではないかを判断する。最初はNOのフローへ進む。
【0034】
(1)軸調整
軸調整を実施する。また、その他の像質補正として、非点補正や焦点合わせ等も同時に行う。
【0035】
(2)人為的な画像ぼかし処理
軸調整状態が良好であると目視で確認した後、対物レンズ6の電流量を変化させることによって人為的に画像をぼかす。その後、Q3のように、観察者は、それが許容できる極限ぼけ量を持つ画像であるかを目視で判断する。極限より、ぼけ具合がまだ余裕がある場合は、さらにぼかす作業を行う。逆に、ぼけ量が大きすぎた場合は、ぼけ量を再度調整する。極限ぼけ量を持つ画像として、図4の状態から、対物レンズを変化させ、像が若干ぼけた際の画像を図5にしめす。
【0036】
(3)FFTによる画質評価
極限ぼけ量を持つ画像を決定したら、次にその像質評価をFFT方式で評価する。FFT法では、2次元の濃淡画像に対し2次元フーリエ変換をして、周波数解析を行う。その画像評価手順は次のとおりである。まず、濃淡画像をディジタル画像にし、その画像を2次元フーリエ変換する。実部と虚部の平方和をとった上で、各画素の値の対数を取った画像がフーリエ変換後の画像である。この画像の輝度をある画像内の方向にとることにより、その方向の周波数スペクトルを得ることができる。その周波数スペクトル上で、特定周波数成分における信号強度を指標値として使用することによって、任意角度の像評価が可能である。この手順を図6に概要図で示している。
【0037】
本実施例では、4つの方向で特定周波数成分を抽出し、それらの平均を求める例を説明する。図6はその処理の流れを説明する図である。図6では、方向を0°,90°,180°,270°に設定し、それらの平均値を求めている。グラフで示すように、ある特定周波数での信号量Iを記録する。グラフでは、0°方向のスペクトル模式図を示している。結果を図7の表内1行目に示す。
【0038】
(4)しきい値の登録
ぼけ量の評価値を(3)にて説明した手法で求めた後、測長SEMの記憶部にしきい値(ITH)として登録する。本例の場合、図5から算出されるITHは、図7で算出されているように、22087である。このしきい値は、後述の工程(6)で使用する。
【0039】
以上で初期設定は終了である。なお、本実施例では、(2)で得られた値を直接、しきい値(画質評価値)として登録する例について説明するが、これに限られることはなく、所定値を加減算することで、画質評価値を算出するようにしても良いし、直接的な値ではなく、所定の数値範囲ごとに割り当てられる評価値を、画質評価値とするようにしても良い。
【0040】
(5)光軸調整の実行
初期設定が工程(4)で完了しているため、測長SEMの使用を開始するメンテナンス処理としての軸調整をする。この処理は(1)で行う内容と同じである。
【0041】
(6)FFT画像評価
自動軸調整が(5)で終了した後、自動画像取得をする。例えば、図8のような画像が取得されたとする。上記(3)の方式同様にFFT評価値(Ix)を求める。その結果を、図7の2行目に示している。その後、しきい値との差分を求める(Ix−ITH)。Q4の段階で、その差が正の値であれば軸状態は良いと判断され、通常のパターン寸法計測へ進む。もし、その差が負の値であれば再度、軸調整が実施される。図9に、図8評価値(Ix)と、図5で設定したしきい値(ITH)の結果をグラフとして示す。この場合、IxがITHよりも小さいことから、処理は工程(5)の自動軸調整へ戻る。図7の3行目の結果は図10のような画像で得られるが、そのように、ITH上回るまで、(6)とQ4は繰り返される。
【0042】
本来、(6)とQ4に相当する評価と判断は、人為的に行われるものであるが、上述の手法によれば、Q1〜Q3の観察者による判断を行うだけで、その後の処理を自動化することが可能となる。
【0043】
なお、同等の画質であるにもかかわらず、FFT評価では撮像対象物の個体差によってばらつきが生じる。図11にその例をグラフで示す。このような、ばらつきを事前に良好な軸状態で調査しておき、(4)のしきい値の登録の際に、上乗せすることにより、サンプル起因のばらつきを考慮したしきい値の設定ができる。たとえば、前述の例のITHは22087+2759=24846と算出される。
【0044】
FFT変換による像質評価には全方向において、同等の輝度を持つパターンを使うことを推奨するが、特定方向のパターンを複数個用いても構わない。
【0045】
また、本実施例では、FFT法を用いた画質評価値算出を行っているが、これに限られることはなく、例えば、特許文献3に説明されているような分解能評価方法に基づいて得られる値を、画質評価値、或いは画質評価値を算出するための基準とすることも可能である。
【実施例2】
【0046】
以下に、他の実施例を図面を用いて説明する。
【0047】
本実施例では、測長SEMにおいて、各測定点の像質評価値を寸法結果の付属情報として出力することを目的とする。この方式により、各測定結果の妥当性を考慮することができる。
【0048】
図12に例示する様に、測定対象となるパターンに隣接して、丸いパターンを測定試料上に用意しておく。測長SEMでは、丸いパターンと測定対象が同じ視野(Field Of View:FOV)内に含まれるように、ビーム走査を行う。測長SEMで、画像処理による測定後、丸いパターンの領域のデータを切り出し、その部分のFFT評価をする。全測定点において、同様の処理を行うと、図13に示すように、寸法の結果と一緒に画質評価結果が出力される。これをプロットしたグラフが図14である。
【0049】
20点の内、1〜18点はおおよそ、100nmの寸法であるが、19点目は80nm、20点目は120nmである。これらのような特異点が装置起因で起こったのか、試料上の物理的な大きさが違うのかを切り分けるために、Ixが指標とすることができる。図14では、19点目のIx値は、他の箇所と同等であることが解る。したがって、像のぼけによる寸法の違いが生じている訳ではない。しかしながら、20点目のIx値は、他の点との差が大きい。したがって、像ぼけによる誤測定が生じたと判断し、データを除外するトリガーとなる。
【実施例3】
【0050】
以下に、更に他の実施例を図面を用いて説明する。
【0051】
実施例1及び2では、しきい値の設定を対物レンズ6の電流量を人間が変化させていたが、ここでは自動画像収集機能を使用して、装置が自動で電流量を振り、画面上に段階的に変化する画像をユーザーの確認のために並べ、画像取得条件の事前指定をおこなう。
【0052】
作業者は、任意の撮像箇所へ移動した後、焦点を合わせて画像を確認する。その後、焦点があっている状態で自動画像収集機能を起動する。そのシーケンスは図15に示す通りである。このシーケンスでは、自動的に対物電流値をある範囲まで、段階的に少しずらして、画像取得をすることを繰り返している。最大ずらし量zはソフトウェア内に事前に組み込まれており、その変化量の決定方法の提案は後述する。段階の数も組み込まれており、画面上に8画像程度になるように、電流ずらし量の1段階の量yはzを並べる画像枚数で割ることで求める。および電子線の操作方法やフレーム加算数と言った、画像取得条件はユーザーがGUIで事前指定できる。段階的に変化させて画像を画面上に並べることにより、ユーザーは対物電流ずらしと共に変化する像の具合を視覚的に比較することができる。画像を画面上にならべたGUIを図16に示す。この画像と共に、しきい値の表示も行い画像取得条件の事前指定を容易にすることができる。
【0053】
前述の最大ずらし量の決定方法について説明する。設定可能な対物電流値の全領域を使用するような設定をしてしまうと、細かな設定ができないため、不適切である。そのため、事前に、対物電流値をずらした際の像質の変化を調べておき、適切な範囲を決定する。さらに詳しく設定したい場合は、測長値と焦点ずれとの関係を任意のパターンで見出しておき、装置に求められる再現性を達成できるような範囲内で最大ずらし量を設定することもできる。
【符号の説明】
【0054】
1 電子源
2 加速電極
3 コンデンサレンズ
4 電子ビーム
5 走査偏向器
6 対物レンズ
7 放出された電子
8 試料
9 試料ステージ
10 ステージ制御部
11 検出器
12 増幅器
13 画像記憶部
14 測長処理部
15 主制御部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子源から放出される荷電粒子ビームを偏向して、光軸調整を行う荷電粒子線装置の光軸調整方法において、
前記荷電粒子線を調節する光学素子の調整条件を変化させ、当該異なる調整条件にて複数の画像を取得するステップと、
取得された複数の画像の中から、その画質を許容できる画像、或いは許容できない画像を選択するステップと、
選択された画像に基づいて第1の画質評価値を取得するステップと、
当該取得された第1の画質評価値と、前記荷電粒子ビームの走査によって得られる画像から求められる第2の画質評価値とを比較し、当該第2の画質評価値が、前記第1の画質評価値以下、或いは当該第1の画質評価値を下回ったときに、前記光軸調整を行うことを特徴とする荷電粒子線装置の光軸調整方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記光学素子は、前記荷電粒子ビームを集束するための集束レンズ,当該荷電粒子線の非点補正を行うための非点補正器、或いは試料に印加される負電圧によって形成される静電レンズであることを特徴とする荷電粒子線装置の光軸調整方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記画質評価を行うためのパターンと、寸法測定を行うパターンとが同じ視野内に含まれるように、前記荷電粒子ビームを走査することを特徴とする荷電粒子線装置の光軸調整方法。
【請求項4】
荷電粒子源と、
当該荷電粒子源から放出される荷電粒子ビームを偏向して、光軸調整を行うアライメント偏向器と、当該アライメント偏向器を制御する制御装置を備えた荷電粒子線装置において、
前記荷電粒子線を調整する光学素子の調整条件を変化させたときに得られる複数の画像の内、任意の画像を選択する選択装置を備え、
前記制御装置は、前記選択装置にて選択された画像の第1の画像評価値を演算し、当該第1の画像評価値と、前記荷電粒子線を試料に走査したときに得られる画像から求められる第2の画像評価値とを比較し、当該第2の画質評価値が、前記第1の画質評価値以下、或いは当該第1の画質評価値を下回ったときに、前記光軸調整を行うよう前記アライメント偏向器を制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記光学素子は、前記荷電粒子ビームを集束するための集束レンズ,当該荷電粒子線の非点補正を行うための非点補正器、或いは試料に印加される負電圧によって形成される静電レンズであることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項1】
荷電粒子源から放出される荷電粒子ビームを偏向して、光軸調整を行う荷電粒子線装置の光軸調整方法において、
前記荷電粒子線を調節する光学素子の調整条件を変化させ、当該異なる調整条件にて複数の画像を取得するステップと、
取得された複数の画像の中から、その画質を許容できる画像、或いは許容できない画像を選択するステップと、
選択された画像に基づいて第1の画質評価値を取得するステップと、
当該取得された第1の画質評価値と、前記荷電粒子ビームの走査によって得られる画像から求められる第2の画質評価値とを比較し、当該第2の画質評価値が、前記第1の画質評価値以下、或いは当該第1の画質評価値を下回ったときに、前記光軸調整を行うことを特徴とする荷電粒子線装置の光軸調整方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記光学素子は、前記荷電粒子ビームを集束するための集束レンズ,当該荷電粒子線の非点補正を行うための非点補正器、或いは試料に印加される負電圧によって形成される静電レンズであることを特徴とする荷電粒子線装置の光軸調整方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記画質評価を行うためのパターンと、寸法測定を行うパターンとが同じ視野内に含まれるように、前記荷電粒子ビームを走査することを特徴とする荷電粒子線装置の光軸調整方法。
【請求項4】
荷電粒子源と、
当該荷電粒子源から放出される荷電粒子ビームを偏向して、光軸調整を行うアライメント偏向器と、当該アライメント偏向器を制御する制御装置を備えた荷電粒子線装置において、
前記荷電粒子線を調整する光学素子の調整条件を変化させたときに得られる複数の画像の内、任意の画像を選択する選択装置を備え、
前記制御装置は、前記選択装置にて選択された画像の第1の画像評価値を演算し、当該第1の画像評価値と、前記荷電粒子線を試料に走査したときに得られる画像から求められる第2の画像評価値とを比較し、当該第2の画質評価値が、前記第1の画質評価値以下、或いは当該第1の画質評価値を下回ったときに、前記光軸調整を行うよう前記アライメント偏向器を制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記光学素子は、前記荷電粒子ビームを集束するための集束レンズ,当該荷電粒子線の非点補正を行うための非点補正器、或いは試料に印加される負電圧によって形成される静電レンズであることを特徴とする荷電粒子線装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−182424(P2010−182424A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22102(P2009−22102)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
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