説明

荷電粒子線照射装置

【課題】ワブラー法及びスキャニング法の双方によって荷電粒子線を照射することができる荷電粒子線照射装置を提供する。
【解決手段】荷電粒子線照射装置1は、荷電粒子線Rを走査するための走査電磁石3a,3bと、荷電粒子線Rをワブラー法で照射するためのワブラー照射手段5と、荷電粒子線Rをスキャニング法で照射するためのスキャニング照射手段6と、ワブラー照射手段5及びスキャニング照射手段6を制御する制御装置7と、を備えている。荷電粒子線照射装置1では、制御装置7によって、ワブラー照射手段5又はスキャニング照射手段6の何れか一方を作動させると共に、何れか他方を荷電粒子線Rの照射が妨げられないように退避状態とする。よって、ワブラー法による照射及びスキャニング法による照射のそれぞれを、その一方が他方に悪影響を及ぼすことなく実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線を被照射物に照射する荷電粒子線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の荷電粒子線照射装置としては、荷電粒子線を走査するための走査電磁石と、荷電粒子線をワブラー法で照射するためのワブラー照射手段と、を備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このようなワブラー法による荷電粒子線照射装置では、荷電粒子線を走査電磁石で円を描くように走査して拡散し、拡散した荷電粒子線を被照射物の形状に沿って整形して照射する。
【0003】
また、従来の荷電粒子線照射装置として、荷電粒子線を走査するための走査電磁石と、荷電粒子線をスキャニング法で照射するためのスキャニング照射手段と、を備えたものも知られている(例えば、特許文献2参照)。このようなスキャニング法による荷電粒子線照射装置では、走査電磁石で荷電粒子線を被照射物上にて走査しながら照射する。
【特許文献1】特開平11−28252号公報
【特許文献2】特開2006−34701号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述した各種の荷電粒子線照射装置は、機能上それぞれ独立した装置とされ、ワブラー法による照射又はスキャニング法による照射の一方のみが可能である。よって、上述した荷電粒子装置では、照射の自由度が低いという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、ワブラー法及びスキャニング法の双方によって荷電粒子線を照射することができる荷電粒子線照射装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る荷電粒子線照射装置は、荷電粒子線を被照射物に照射する荷電粒子線照射装置であって、荷電粒子線を走査するための走査電磁石と、荷電粒子線をワブラー法で照射するためのワブラー照射手段と、荷電粒子線をスキャニング法で照射するためのスキャニング照射手段と、ワブラー照射手段とスキャニング照射手段とを制御する制御手段と、を備え、制御手段は、ワブラー照射手段又はスキャニング照射手段の何れか一方を作動させると共に、何れか他方を荷電粒子線の照射が妨げられないように退避状態とすることを特徴とする。
【0007】
この荷電粒子線照射装置では、制御手段によってワブラー照射手段又はスキャニング照射手段の何れか一方が作動されると共に、何れか他方が荷電粒子線の照射を妨げないように退避状態とされる。つまり、例えば、荷電粒子線をワブラー法で照射する(以下、「ワブラー照射」という)場合、荷電粒子線が走査電磁石によって円を描くように走査されて拡散される。そして、制御手段でワブラー照射手段を作動され、例えば荷電粒子線が被照射物の形状に沿って整形されると共に、制御手段でスキャニング照射手段が退避状態とされる。一方、荷電粒子線をスキャニング法で照射する(以下、「スキャニング照射」という)場合、被照射物上において荷電粒子線が走査電磁石で走査される。このとき、制御手段でスキャニング照射手段が作動され、例えば荷電粒子線が収束されると共に、制御手段でワブラー照射手段が退避状態とされる。従って、本発明によれば、ワブラー法による照射及びスキャニング法による照射のそれぞれを、その一方が他方に悪影響を及ぼすことなく実現することができ、ワブラー法及びスキャニング法の双方で荷電粒子線を照射することが可能となる。
【0008】
また、ワブラー照射手段及びスキャニング照射手段を取り付ける筐体を備え、ワブラー照射手段は、荷電粒子線を被照射物の形状に沿って整形する荷電粒子線整形ユニットを有し、スキャニング照射手段は、荷電粒子線の到達深さを調整する到達深さ調整ユニットを有し、荷電粒子線整形ユニット及び到達深さ調整ユニットは、筐体に対して相互に付け替え可能とされていることが好ましい。この場合、荷電粒子線を照射する際、荷電粒子線整形ユニット及び到達深さ調整ユニットを相互に付け替えることで、ワブラー照射とスキャニング照射との双方を実現することができる。さらに、このように、荷電粒子線整形ユニット及び到達深さ調整ユニットが相互に付け替え可能とされているため、これらを荷電粒子線照射装置に常に搭載しておくことが不要となり、荷電粒子線照射装置の小型化が可能となる。
【0009】
このとき、荷電粒子線整形ユニットが筐体に取り付けられた際にオン又はオフとされる第1スイッチと、到達深さ調整ユニットが筐体に取り付けられた際にオン又はオフとされる第2スイッチと、の少なくとも一方を備え、制御手段は、第1及び第2スイッチの状態に基づいて走査電磁石を制御することが好ましい。この場合、筐体に取り付けられたユニットを第1及び第2スイッチで識別することができ、ワブラー照射とスキャニング照射を互いに切り替える際の誤操作や誤動作を防止すること(いわゆるインターロック)が可能となる。
【0010】
また、ワブラー照射手段は、形状可変な開口部が形成され該開口部に荷電粒子線を通過させて荷電粒子線の平面形状を整形するコリメータを有し、制御手段は、スキャニング照射手段を作動させる際、照射方向の上流側へコリメータを移動させると共に、コリメータの開口部を拡大させることが好ましい。これにより、スキャニング照射の際、広い照射野を確保することができ、コリメータを好適に退避状態とすることが可能となる。
【0011】
また、ワブラー照射手段は、荷電粒子線の線量分布を調整するフィルタを有し、フィルタには、荷電粒子線をそのまま通過させる通過部が形成されており、制御手段は、スキャニング照射手段を作動させる際、荷電粒子線が通過部を通過するようにフィルタを移動させることが好ましい。この場合、スキャニング照射の際、フィルタを移動させて荷電粒子線を通過部に通過させることで、フィルタを退避状態とすることができる。
【0012】
また、ワブラー照射手段は、走査電磁石の下流側に配置され荷電粒子線を拡散させる散乱体を有し、荷電粒子線が通過する経路のうち散乱体より上流側は、真空に封止されている場合がある。スキャニング照射では、荷電粒子線を収束させて照射することから、荷電粒子線の経路を真空に封止することが望ましい。これは、荷電粒子線の経路を真空とすると、荷電粒子線の拡散を抑制できるためである。他方、ワブラー照射では、荷電粒子線を拡散させて照射することから、上記のようにワブラー照射手段が散乱体を有する場合がある。ここで、通常、散乱体は、その大きさ(厚さ)等の構造上の点から真空中に配置するのが困難であるため、大気中に配置されるのが一般的である。そこで、本発明では、走査電磁石の下流側に散乱体を配置し、この散乱体より上流側の荷電粒子線の経路を真空に封止している。これにより、ワブラー照射時では散乱体で荷電粒子線を拡散でき、且つスキャニング照射時では荷電粒子線の拡散を抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ワブラー法及びスキャニング法の双方によって荷電粒子線を照射することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0015】
図1は本発明の一実施形態に係る荷電粒子線照射装置の斜視図である。図1に示すように、荷電粒子線照射装置1は、治療台11を取り囲むように設けられた回転ガントリ12に取り付けられ、該回転ガントリ12によって治療台11の回りに回転可能とされている。
【0016】
図2は、図1の荷電粒子線照射装置のワブラー照射時の概略構成図、図3は、図1の荷電粒子線照射装置のスキャニング照射時の概略構成図である。図2,3に示すように、荷電粒子線照射装置1は、患者13の体内の腫瘍(被照射物)14に対し、ワブラー法及びスキャニング法の双方の照射方法を使用して荷電粒子線Rを照射するものである。荷電粒子線Rとは、電荷をもった粒子を高速に加速したものであり、例えば陽子線、重粒子(重イオン)線等が挙げられる。なお、ワブラー法は、ブロードビーム法とも称される。
【0017】
図2,3に示すように、荷電粒子線照射装置1は、サイクロトロン2、走査電磁石3a,3b、モニタ4a,4b、ワブラー照射手段5、スキャニング照射手段6及び制御装置7を備えている。
【0018】
サイクロトロン2は、荷電粒子線Rを発生させる発生源である。このサイクロトロン2は、制御装置7に接続されており、供給される電流が制御される。走査電磁石3a,3bは、制御装置7から供給される電流に応じて磁場を変化させ、通過する荷電粒子線Rを走査する。走査電磁石3aは、X方向に荷電粒子線Rを走査し、走査電磁石3bは、Y方向に荷電粒子線Rを走査する。これらの走査電磁石3a,3bは、荷電粒子線Rの照射軸(以下、単に「照射軸」という)においてサイクロトロン2の下流側にこの順で配置されている。
【0019】
モニタ4aは、荷電粒子線Rのビーム位置を監視し、モニタ4bは、荷電粒子線Rの線量の絶対値と荷電粒子線Rの線量分布とを監視する。各モニタ4a,4bは、監視した監視情報を制御装置7に出力する。モニタ4aは、照射軸においてサイクロトロン2の下流側で走査電磁石3aの上流側に配置されている。モニタ4bは、照射軸において走査電磁石3bの下流側に配置されている。
【0020】
ワブラー照射手段5は、荷電粒子線をワブラー法で照射するためのものであり、筐体8に取り付けられて保持されている。このワブラー照射手段5は、散乱体21、リッジフィルタ22、ファインデグレーダ23及びマルチリーフコリメータ24を有している。
【0021】
散乱体21は、通過する荷電粒子線を、照射軸と直交する方向に広がりを持つ幅広のビームに拡散する。この散乱体21は、板状を呈し、例えば厚さ数mmの鉛で形成されている。散乱体21は、照射軸において走査電磁石3bの下流側でモニタ4bの上流側に配置されている。また、散乱体21は、スキャニング照射の際、制御装置7の制御で照射軸から離れるように移動し、荷電粒子線Rが通過しない状態とされる(図3参照)。つまり、散乱体21は、スキャニング照射時において、荷電粒子線Rの照射を妨げない状態である退避状態とされる。
【0022】
リッジフィルタ22は、荷電粒子線Rの線量分布を調整するものである。具体的には、リッジフィルタ22は、患者13の体内の腫瘍14の厚さ(照射方向の長さ)に対応するように、荷電粒子線Rに拡大ブラッグピーク(SOBP)を与える。
【0023】
図4は、図2のIV−IVに沿ってのリッジフィルタの断面図である。図4に示すように、リッジフィルタ22は、ステージ22aに複数のフィルタ部22bがマトリクス状に設けられて構成されている。これらのフィルタ部22bは、階段状に厚さの変化する金属棒が簾状に並べられてなり、異なるSOBPを金属棒の形状の相違によって形成する。このステージ22aには、荷電粒子線RにSOBPを与えずに荷電粒子線Rをそのまま通過させる開口であるブランク部(通過部)22cが設けられている。そして、リッジフィルタ22は、制御装置7の制御で移動され、荷電粒子線Rを通過させるフィルタ部22bが選択的に変更される。これにより、荷電粒子線RにおけるSOBPのピーク幅及び位置を調整することができる。
【0024】
図2,3に戻り、このリッジフィルタ22は、照射軸において散乱体21の下流側でモニタ4bの上流側に配置されている。また、リッジフィルタ22は、スキャニング照射の際、制御装置7の制御で移動され、荷電粒子線Rがブランク部(通過部)22cを通過するように配置される(図3参照)。つまり、リッジフィルタ22は、スキャニング照射時に退避状態とされる。
【0025】
ファインデグレーダ23は、通過する荷電粒子線Rのエネルギー損失を変化させて、患者13の体内における荷電粒子線Rの到達深さを調整する。具体的には、ファインデグレーダ23は、互いに積層された複数のブロック23aを有し、これらの重なり方を調節することで、荷電粒子線Rが通過する厚さを変化させる。これにより、荷電粒子線Rは、通過したブロック23aの厚さに応じてエネルギーを失い、到達深さが変化することとなる。
【0026】
このファインデグレーダ23は、照射軸においてリッジフィルタ22とモニタ4bとの間に配置されている。また、ファインデグレーダ23は、スキャニング照射の際、制御装置7の制御によって各ブロック23aが照射軸から離れるように移動され、荷電粒子線Rがブロック23aを通過しない状態とされる(図3参照)。つまり、ファインデグレーダ23は、スキャニング照射時に退避状態とされる。
【0027】
マルチリーフコリメータ(Multi Leaf Collimator:以下、「MLC」という)24は、照射方向と垂直な平面方向における荷電粒子線Rの形状(平面形状)を整形するものであり、複数の櫛歯を含む遮線部24a,24bを有している。遮線部24a,24bは、互いに突き合わせるように配置されており、これらの遮線部24a,24b間には、開口部24cが形成されている。このMLC24は、開口部24cに荷電粒子線Rを通過させることで、開口部24cの形状に対応する輪郭に荷電粒子線Rを切り取る。
【0028】
また、MLC24は、照射軸と直交する方向に遮線部24a,24bを進退させることで、開口部24cの位置及び形状を変化することが可能となっている。さらに、MLC24は、リニアガイド28で照射方向に沿って案内されており、照射方向に沿って移動可能になっている。
【0029】
このMLC24は、照射軸においてモニタ4bの下流側に配置されている。また、MLC24は、スキャニング照射の際、制御装置7の制御により、開口部24cが拡大されると共に照射方向の上流側へ移動される(図3参照)。ここでのMLC24では、スキャニング照射時において、最大開口面積となるように開口部24cが拡大されると共に、上流側の移動限まで移動される。すなわち、MLC24は、スキャニング照射時に退避状態とされる。
【0030】
また、ワブラー照射手段5は、スノートホルダ(荷電粒子線整形ユニット)25をさらに有している。スノートホルダ25は、ワブラー照射に際して患者13毎に予め作成され準備されるものである。このスノートホルダ25は、照射方向における筐体8の先端部8aに着脱可能とされ、また、後述のファインデグレーダホルダ32と相互に付け替え可能となっている。スノートホルダ25は、その内部にボーラス26と患者コリメータ27とを含んでいる。
【0031】
ボーラス26は、荷電粒子線Rの最大到達深さの部分の立体形状を、腫瘍14の最大深さ部分の形状に合わせて整形する。このボーラス26の形状は、例えば、腫瘍14の輪郭線と、X線CTのデータから求められる周辺組織の電子密度とに基づいて算出される。ボーラス26は、照射軸においてMLC24の下流側に配置されている。患者コリメータ27は、荷電粒子線Rの平面形状を腫瘍14の平面形状に合わせて最終的に整形するものである。この患者コリメータ27は、照射軸においてボーラス26の下流側に配置されており、MLC24の代わりとして用いられる。
【0032】
また、スノートホルダ25には、リミットスイッチ25aが設けられている。リミットスイッチ25aは、スノートホルダ25が筐体8に取り付けされた際、筐体8の取付孔8bに進入されることでON(オン)とされる。また、リミットスイッチ25aは、制御装置7に接続されており、スイッチ情報を制御装置7に出力する。
【0033】
スキャニング照射手段6は、荷電粒子線をスキャニング法で照射するためのものであり、ワブラー照射手段5と同様に筐体8に取り付けられて保持されている。このスキャニング照射手段6は、収束体31a,31b及びファインデグレーダホルダ(到達深さ調整ユニット)32を有している。
【0034】
収束体31a,31bは、例えば荷電粒子線Rを絞って収束させるものであり、ここでは、電磁石が用いられている。収束体31aは、照射軸においてサイクロトロン2とモニタ4aとの間に配置され、収束体31bは、照射軸においてモニタ4aと走査電磁石3aとの間に配置されている。また、これらの収束体31a,31bは、ワブラー照射の際、制御装置7の制御によって電流が非供給にされて機能が停止され、荷電粒子線Rを収束せずにそのまま通過させる。つまり、収束体31a,31bは、ワブラー照射時に退避状態とされる。
【0035】
ファインデグレーダホルダ32は、照射方向における筐体8の先端部8aに着脱可能とされ、また、上述のスノートホルダ25と相互に付け替え可能となっている。このファインデグレーダホルダ32は、その内部にファインデグレーダ33を含んでいる。
【0036】
ファインデグレーダ33は、通過する荷電粒子線Rのエネルギー損失を変化させて、患者13の体内における荷電粒子線Rの最大到達深さを最終的に調整する。具体的には、ファインデグレーダ33は、所定の重なり方で互いに積層された複数のブロック33aを有しており、通過したブロック33aの厚さに応じて荷電粒子線Rのエネルギーを失わせ、荷電粒子線Rの最大到達深さを腫瘍14の最大深さ部分の形状に合わせる。なお、サイクロトロン2と収束体31aとの中間においてエネルギー損失を変化させる方法もあり、この場合には、ファインデグレーダ33は不要となる。
【0037】
このファインデグレーダホルダ32には、リミットスイッチ32aが設けられている。リミットスイッチ32aは、ファインデグレーダホルダ32が筐体8に取り付けされた際、筐体8の取付孔8cに進入されることでON(オン)とされる。また、リミットスイッチ32aは、制御装置7に接続されており、スイッチ情報を制御装置7に出力する。
【0038】
制御装置7は、例えばCPU、ROM、及びRAM等により構成されている。この制御装置7は、モニタ4a,4bから出力された監視情報、及びリミットスイッチ25a,32aから出力されたスイッチ情報に基づいて、サイクロトロン2、走査電磁石3a,3b、ワブラー照射手段5及びスキャニング照射手段6を制御する(詳しくは、後述)。
【0039】
また、荷電粒子線照射装置1では、荷電粒子線Rが通過する経路のうち散乱体21より上流側が、パイプ41で覆われ封止されており、このパイプ41内が、真空にされている。ここでは、例えば10−3[Pa]になるまでパイプ41内を真空ポンプ(不図示)で真空引きしている。
【0040】
次に、荷電粒子線照射装置1を用い、患者13の腫瘍14に対して荷電粒子線Rを照射する場合について説明する。
【0041】
荷電粒子線照射装置1では、ワブラー照射を行う場合、図2に示すように、まず、筐体8の先端部8aにスノートホルダ25を取り付ける。そして、制御装置7によってワブラー照射手段5を作動させる。具体的には、荷電粒子線Rが通過するように散乱体21が移動され、荷電粒子線Rがフィルタ部22bを通過するようにリッジフィルタ22が移動される。さらに、ファインデグレーダ23のブロック23aが調節されてその厚さが所定厚さとされ、MLC24の遮線部24a,24bが進退されて開口部24cが所定形状とされる。これと共に、制御装置7によって収束体31a,31bが退避状態にされる。
【0042】
続いて、サイクロトロン2から荷電粒子線Rを発生させる。発生された荷電粒子線Rは、走査電磁石3a,3bによって円を描くように走査されて拡散された後、リッジフィルタ22、ファインデグレーダ23、MLC24、ボーラス26及び患者コリメータ27によって整形及び調整される。これにより、腫瘍14の形状に沿った一様照射野でもって腫瘍14に荷電粒子線Rが照射されることとなる。
【0043】
ここで、スノートホルダ25を筐体8に取り付けた際には、リミットスイッチ25aがONとされ、制御装置7によってスキャニング照射手段6が退避状態であるか否かが判定される。退避状態であると判定された場合、例えばサイン波の波形を有する電流が走査電磁石3a,3bに供給され、上述のようにサイクロトロン2から荷電粒子線Rが発生される一方、退避状態でないと判定された場合、走査電磁石3a,3bへの電流の供給が行われない。
【0044】
さらに、リミットスイッチ25aがONのとき、制御装置7によって走査電磁石3a,3bが制御される。具体的には、走査電磁石3a,3bに供給される電流がワブラー照射モードとされ、上述したように荷電粒子線Rが円を描くように走査される。
【0045】
また、荷電粒子線照射装置1では、スキャニング照射を行う場合、図3に示すように、まず、筐体8の先端部8aにファインデグレーダホルダ32を取り付ける。そして、制御装置7によってワブラー照射手段5を作動させる。具体的には、通過する荷電粒子線Rが収束するように収束体31a,31bが作動状態(ON)とされる。これと共に、制御装置7によってワブラー照射手段5が退避状態とされる。なお、前述のように、サイクロトロン2と収束体31aとの中間でエネルギー損失を変化させる方法では、ファインデグレーダホルダ32の取り付けは不要となる。
【0046】
続いて、サイクロトロン2から荷電粒子線Rを発生させる。発生した荷電粒子線Rは、走査電磁石3a,3bで腫瘍14上にて走査されると共に、リッジフィルタ22のブランク部22cを通過し、ファインデグレーダ33で荷電粒子線Rの最大到達深さが調整される。これにより、荷電粒子線Rは、腫瘍14上にて走査されつつ照射されることとなる。
【0047】
ここで、ファインデグレーダホルダ32を筐体8に取り付けた際には、リミットスイッチ32aがONとされ、制御装置7によってワブラー照射手段5が退避状態であるか否かが判定される。退避状態であると判定された場合、例えば矩形波又は三角波の波形を有する電流が走査電磁石3a,3bに供給され、上述のようにサイクロトロン2から荷電粒子線Rが発生される。一方、退避状態でないと判定された場合、走査電磁石3a,3bへの電流の供給が行われない。
【0048】
さらに、リミットスイッチ32aがONのとき、制御装置7によって走査電磁石3a,3bが制御される。具体的には、走査電磁石3a,3bに供給される電流がスキャニング照射モードとされ、上述したように荷電粒子線Rが腫瘍14上にて走査される。
【0049】
以上、本実施形態の荷電粒子線照射装置1では、荷電粒子線Rを照射するに際し、ワブラー照射手段5又はスキャニング照射手段6の何れか一方が作動されると共に、何れか他方が荷電粒子線Rの照射が妨げられないように退避状態とされる。従って、荷電粒子線照射装置1によれば、ワブラー照射及びスキャニング照射のそれぞれを、その一方が他方に悪影響を及ぼすことなく実現することができ、ワブラー法及びスキャニング法の双方によって荷電粒子線Rを照射することが可能となる。その結果、荷電粒子線照射装置1における照射の自由度を高めることができる。さらに、ワブラー照射及びスキャニング照射のそれぞれで走査電磁石3a、3bを兼用することができ、よって、これらの各照射を好適に行うことが可能となる。
【0050】
また、荷電粒子線照射装置1は、上述したように、スノートホルダ25及びファインデグレーダホルダ32が、筐体8に対して相互に付け替え可能に構成されている。そのため、荷電粒子線Rを照射する際、スノートホルダ25及びファインデグレーダホルダ32を相互に付け替えることで、ワブラー照射とスキャニング照射との双方を実現することができる。さらに、このように、スノートホルダ25及びファインデグレーダホルダ32が相互に付け替え可能に構成されているため、これらを荷電粒子線照射装置1に常に搭載しておくことが不要となり、荷電粒子線照射装置1の小型化が可能となる。
【0051】
また、荷電粒子線照射装置1では、上述したように、スノートホルダ25にリミットスイッチ25aが設けられており、ファインデグレーダホルダ32にリミットスイッチ32aが設けられている。そして、制御装置7は、これらのリミットスイッチ25a,32aのスイッチ情報に基づいて、走査電磁石3a,3bを制御する。加えて、制御装置7は、かかるスイッチ情報に基づいて、ワブラー照射手段5又はスキャニング照射手段6の退避状態を判定する。これにより、ホルダ25,32のうちの何れが筐体8に取り付けられているかを識別し、ワブラー照射とスキャニング照射を互いに切り替える際の誤操作や誤動作を防止すること(いわゆるインターロック)が可能となる。その結果、意図しない照射方法で荷電粒子線Rが照射されるのを抑止でき、荷電粒子線照射装置1の安全性を高めることができる。
【0052】
また、上述したように、スキャニング照射の際、MLC24の開口部24cが拡大されると共に、このMLC24が照射方向の上流側へ移動される。このようにMLC24を退避状態にすることで、スキャニング照射時に広い照射野を確保することができる。
【0053】
また、上述したように、リッジフィルタ22には、荷電粒子線Rをそのまま通過させるブランク部22cが形成されている。よって、スキャニング照射の際、制御装置7でリッジフィルタ22を制御し、荷電粒子線Rがブランク部22cを通過するようにリッジフィルタ22を移動させることで、リッジフィルタ22を好適に退避状態とすることができる。
【0054】
ところで、スキャニング照射では、荷電粒子線Rを収束させて照射することから、荷電粒子線Rの経路を真空に封止することが望ましい。これは、荷電粒子線Rの経路を真空とすると、荷電粒子線Rの拡散を抑制できるためである。他方、ワブラー照射では、荷電粒子線Rを拡散させて照射することから、ワブラー照射手段5が散乱体21を有している。この散乱体21は、その厚さ方向にボリュームがあり、大きさ等の構造上の点で真空中に配置するのが困難であるため、大気中に配置されるのが一般的である。そこで、荷電粒子線照射装置1では、上述したように、走査電磁石3a,3bの下流側に散乱体21を配置し、この散乱体21よりも上流側の荷電粒子線Rの経路を真空に封止している。これにより、ワブラー照射時では散乱体21で荷電粒子線Rを拡散でき、且つスキャニング照射時では荷電粒子線Rの拡散を抑制することができる。その結果、スキャニング照射の際の走査電磁石3a,3bにおいては、拡散していない状態で荷電粒子線Rを走査することができ、スキャニング照射を高精度化することが可能となる。
【0055】
なお、荷電粒子線照射装置1におけるスキャニング法としては、照射領域がスポット状になるよう荷電粒子線Rを照射するスポットスキャニング法、荷電粒子線Rをジグザグに走査しつつ連続照射するラスタースキャニング法、荷電粒子線Rを平行に走査しつつ連続照射するラインスキャニング法等が挙げられる。本実施形態のようにサイクロトロン2を採用すると、荷電粒子線Rが連続的に発生されるため、スキャニング法としては、ラスタースキャニング法又はラインスキャニング法が好ましい。シンクロトロンを採用すると、荷電粒子線Rが断続(パルス)的に発生されるため、スキャニング法としてはスポットスキャニング法が好ましい。
【0056】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、各ホルダ25,32にリミットスイッチ25a,32aをそれぞれ設けたが、リミットスイッチ25a,32aの何れか一方のみを設けてもよい。また、リミットスイッチ25a,32aは、ホルダ25,32が筐体8に取り付けられた際にオンとされるものであるが、取り付けられた際にオフとされるものであってもよい。
【0057】
また、上記実施形態では、リッジフィルタ22にブランク部22cを通過部として設けたが、この通過部は、荷電粒子線Rを実質的にそのまま通過(透過)させるものであればフィルタ等であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施形態に係る荷電粒子線照射装置の斜視図である。
【図2】図1の荷電粒子線照射装置のワブラー照射時の概略構成図である。
【図3】図1の荷電粒子線照射装置のスキャニング照射時の概略構成図である。
【図4】図2のIV−IVに沿ってのリッジフィルタの断面図である。
【符号の説明】
【0059】
1…荷電粒子線照射装置、3a,3b…走査電磁石、5…ワブラー照射手段、6…スキャニング照射手段、7…制御装置(制御手段)、8…筐体、14…被照射物、21…散乱体、22…リッジフィルタ(フィルタ)、22c…ブランク部(通過部)、24…MLC(コリメータ)、24c…開口部、25…スノートホルダ(荷電粒子線整形ユニット)、25a…リミットスイッチ(第1スイッチ)、32…ファインデグレーダホルダ(到達深さ調整ユニット)、32a…リミットスイッチ(第2スイッチ)、R…荷電粒子線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線を被照射物に照射する荷電粒子線照射装置であって、
前記荷電粒子線を走査するための走査電磁石と、
前記荷電粒子線をワブラー法で照射するためのワブラー照射手段と、
前記荷電粒子線をスキャニング法で照射するためのスキャニング照射手段と、
前記ワブラー照射手段と前記スキャニング照射手段とを制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記ワブラー照射手段又は前記スキャニング照射手段の何れか一方を作動させると共に、何れか他方を前記荷電粒子線の照射が妨げられないように退避状態とすることを特徴とする荷電粒子線照射装置。
【請求項2】
前記ワブラー照射手段及び前記スキャニング照射手段を取り付ける筐体を備え、
前記ワブラー照射手段は、前記荷電粒子線を前記被照射物の形状に沿って整形する荷電粒子線整形ユニットを有し、
前記スキャニング照射手段は、前記荷電粒子線の到達深さを調整する到達深さ調整ユニットを有し、
前記荷電粒子線整形ユニット及び前記到達深さ調整ユニットは、前記筐体に対して相互に付け替え可能とされていることを特徴とする請求項1記載の荷電粒子線照射装置。
【請求項3】
前記荷電粒子線整形ユニットが前記筐体に取り付けられた際にオン又はオフとされる第1スイッチと、前記到達深さ調整ユニットが前記筐体に取り付けられた際にオン又はオフとされる第2スイッチと、の少なくとも一方を備え、
前記制御手段は、前記第1及び第2スイッチの状態に基づいて前記走査電磁石を制御することを特徴とする請求項2記載の荷電粒子線照射装置。
【請求項4】
前記ワブラー照射手段は、形状可変な開口部が形成され該開口部に前記荷電粒子線を通過させて前記荷電粒子線の平面形状を整形するコリメータを有し、
前記制御手段は、前記スキャニング照射手段を作動させる際、照射方向の上流側へ前記コリメータを移動させると共に、前記コリメータの前記開口部を拡大させることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項記載の荷電粒子線照射装置。
【請求項5】
前記ワブラー照射手段は、前記荷電粒子線の線量分布を調整するフィルタを有し、
前記フィルタには、前記荷電粒子線をそのまま通過させる通過部が形成されており、
前記制御手段は、前記スキャニング照射手段を作動させる際、前記荷電粒子線が前記通過部を通過するように前記フィルタを移動させることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項記載の荷電粒子線照射装置。
【請求項6】
前記ワブラー照射手段は、前記走査電磁石の下流側に配置され前記荷電粒子線を拡散させる散乱体を有し、
前記荷電粒子線が通過する経路のうち前記散乱体より上流側は、真空に封止されていることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項記載の荷電粒子線照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−236867(P2009−236867A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−86554(P2008−86554)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】