説明

落橋防止構造及び落橋防止装置

【課題】製作のため所定のスペースや施設を要し弾性体の成型に比較的時間を要するという従来技術が抱える諸問題を、解消する落橋防止構造及び落橋防止装置を提供する。
【解決手段】落橋防止構造は、落橋防止装置1と橋台3からなる支持躯体に設置された支持側固定具7と橋桁2に設置された桁側固定具6とを備え、該落橋防止装置1は複数のリング103がリング連結部で連結されたチェーン部材101と該チェーン部材101の両端に設けられる接続治具102a,102bを具備し、チェーン部材101のうち一部または全部が緩衝具を有する緩衝チェーン部材101aであり、該緩衝具は弾性体からなりリング連結部で隣接するリング間によって形成された間隙部にのみ装着され、チェーン部材101の一端側に設けられた接続治具102bが支持側固定具7に連結されるとともにチェーン部材101の他端側に設けられた接続治具102aが桁側固定具6に連結される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、地震などによって橋桁が橋台や橋脚などから落下するのを防止する落橋防止構造及び落橋防止装置に関するものであり、具体的には、落橋防止構造及び落橋防止装置に用いられるチェーン構造内に、弾性体から成る緩衝具が装着された落橋防止構造及び落橋防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
橋台や橋脚など橋桁を支持する構造物(以下、「支持躯体」という。)から橋桁が落下すること(以下、「落橋」という。)はかねてから問題視されていたが、兵庫県南部地震以来、従前にも増してこの落橋への対策が注目されるようになってきた。なお「落橋」という語は、橋梁における種々の損壊現象について広く用いられるものであるが、本書ではあくまで便宜上の理由から、支持躯体から橋桁が落下することを「落橋」とした。
【0003】
落橋を防止する対策として、十分な桁かかり長を設けることが挙げられる。桁かかりとは、橋桁が支持躯体上に載っている部分のことであり、この部分の長さ(橋桁と支持躯体とのラップ長)を桁かかり長という。この桁かかり長が長いほど橋桁は支持躯体から落ちにくいが、その分施工に掛かる費用は増加する。そこで「道路橋示方書・同解説(社団法人日本道路協会)」(以下、「道路橋示方書」)では、桁かかり長の最小値として「0.7+0.005×支間長(m)」と規定している。
【0004】
しかしながら、この道路橋示方書における桁かかり長の算出基準は、過去の地震規模を勘案して規定されたものであり、過去の経験からでは想定できない規模の地震に対して保証するものではない。そこで道路橋示方書では、桁かかり長を設けたうえ、さらに橋桁の変位を制限する変位制限装置や、落橋を直接的(構造的)に落橋を防止する落橋防止装置を、設置することで落橋に対する二重の備えを施すよう規定している。
【0005】
落橋防止装置は、橋桁と橋台等の間に、あらかじめチェーンやワイヤーロープなどの連結材を設置することで、地震時に外力を受けて移動しようとする橋桁を繋ぎとめ、いわば直接的に落橋防止する装置である。そのため、チェーンやワイヤーロープといった連結材は、地震時荷重にも耐えうる緊張力が要求される。しかしながら、地震時にこの連結材に作用する荷重は、静的な引張力に限らず、瞬間的に作用する衝撃力も含まれるため、「地震時荷重にも耐えうる緊張力」を設計することは困難を伴う。衝撃力は、静的な外力に較べると想定し難く、また材料等を設計する際の解析も困難だからである。
【0006】
想定以上の衝撃力が連結材に作用すると、例えばチェーンを構成するリングが塑性領域を超えて破断し、すなわちチェーンが切断され、その結果、落橋防止装置は落橋を防止するという目的を果たすことができなくなる。
【0007】
そこで、特許文献1では、リングのほかに緩衝材を加えてチェーンを構成し、この緩衝材である程度の衝撃力を吸収し、残りのエネルギーをリングで受け止める、という落橋防止構造を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−242019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1で示される落橋防止構造は、複数の連結リングを直線状に並べて金型中に配置し、未固化の原料を流し込んで弾性体を固化させたものである。すなわち完成形は、金型の形状に応じた例えば円柱状の弾性体が形成される。なお、緩衝材内に埋め込まれたリングとリングの間には隙間が設けられている。これによって、地震時に衝撃力を受けるとまずは緩衝材(弾性体)が衝撃力を負担し、これが破壊した後にリングが引張されてリング間が接触し、チェーンが引張されて初めてリングが荷重を負担する構造となっている。
【0010】
しかしながら特許文献1で示される落橋防止構造は、いくつか問題を抱えている。すなわち、緩衝材は金型内に未固化の原料を流し込んで成型される(特に弾性体がゴムの場合は加硫工程も施す)ため、工場やヤードなど施行現場(落橋防止工の現場)以外の場所で作成することとなる。そのため、所定のスペースや施設を要するばかりでなく、弾性体の成型に比較的時間を要するという問題を抱えていた。
【0011】
また、緩衝材は、金型の形状に応じた円柱状や角柱状といった柱状あるいは棒状となり、比較的多量の材料を用いるため、材料費が嵩むうえ、それなりに重量があるため運搬や設置が困難であるという問題も抱えていた。
【0012】
さらに、緩衝材内に埋め込まれたリングとリングの間に隙間が設けることで、緩衝材からリングという順で衝撃力を負担させることができるわけであるが、緩衝材を形成した後ではリング間の隙間が適切に設けられているか否かを目視で確認することができない。つまり、製品の確認検査が困難であるという問題も抱えていた。
【0013】
本願発明の課題は、上記のような問題を解消する落橋防止構造及び落橋防止装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明の落橋防止構造は、橋桁を支持する支持躯体からの橋桁落下を防止し得る落橋防止構造において、落橋防止装置と、前記支持躯体に設置された支持側固定具と、前記橋桁に設置された桁側固定具と、を備え、前記落橋防止装置は、複数のリングがリング連結部で連結されたチェーン部材と、該チェーン部材の両端に設けられる接続治具を具備し、前記チェーン部材のうち一部または全部が、緩衝具を有する緩衝チェーン部材であり、前記緩衝具は、弾性体からなり、前記リング連結部で隣接するリング間によって形成された間隙部にのみ装着され、前記チェーン部材の一端側に設けられた接続治具が前記支持側固定具に連結されるとともに、前記チェーン部材の他端側に設けられた接続治具が前記桁側固定具に連結された構造である。
【0015】
本願発明の落橋防止構造は、チェーン部材のうちの緩衝チェーン部材の外周に、中空筒状の保護管が設置された構造とすることもできる。
【0016】
本願発明の落橋防止装置は、橋桁を支持する支持躯体からの橋桁落下を防止し得る落橋防止装置において、複数のリングがリング連結部で連結されたチェーン部材と、該チェーン部材の両端に接続された接続治具と、を備え、前記チェーン部材のうち一部または全部が、緩衝具を有する緩衝チェーン部材であり、前記緩衝具は、弾性体からなり、前記リング連結部で隣接するリング間によって形成された間隙部にのみ装着され、前記チェーン部材の一端側に接続された接続治具は、支持躯体に設置された支持側固定具に連結可能であり、前記チェーン部材の他端側に接続された接続治具は、橋桁に設置された桁側固定具に連結可能なものである。
【0017】
本願発明の落橋防止装置は、チェーン部材のうちの緩衝チェーン部材の外周に、中空筒状の保護管が設けられたものとすることもできる。
【0018】
本願発明の落橋防止装置は、緩衝具の表面に、間隙部を形成するリングの一部が嵌合可能な嵌合溝が設けられたものとすることもできる。
【発明の効果】
【0019】
本願発明の落橋防止構造及び落橋防止装置には、次のような効果がある。
(1)地震時など比較的大きな衝撃力が作用しても、弾性体から成る緩衝具で所定のエネルギーを吸収することができるので、リングに負担が掛からず破断し難い。その結果、リングだけで構成されるものに較べて大きな衝撃力に対しても落橋を防止することができる。
(2)従来に比べると、緩衝具の材料である弾性体の使用量が著しく少なくて済むので、経済性に優れる。また、重量が軽くなるので、運搬しやすく、設置も容易となり、施工性にも優れる。
(3)緩衝具は、工場等であらかじめ装着しておくこともできるし、施工現場(落橋防止工の現場)で装着することもできるので、現場条件等に応じて選択の幅が広がり、様々な現場で利用することができる。
(4)衝撃具の装着状態は、極めて容易に目視確認できるので、確実に安全な落橋防止装置を提供できるし、落橋防止構造の施工検査も適確に実施することができる。
(5)緩衝チェーン部材の外周に保護管を設置すれば、急激な温度変化や強烈な太陽光等から緩衝具を保護することができるので、緩衝具の劣化を長期にわたって防止することができる。
(6)緩衝具の表面にリングの一部が嵌合する嵌合溝を設けると、一度装着された緩衝具は不測の事態でも外れ難くなり、より一層信頼の高い落橋防止構造、落橋防止装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本願発明の落橋防止構造が取付けられた橋梁を側面から見た全体図。
【図2】本願発明の落橋防止構造の詳細を示す部分側面図。
【図3】本願発明の落橋防止装置の一部を仮想的に切断した詳細図。
【図4】(a)は隣接するリング間に緩衝具を装着した詳細を説明する詳細図、(b)は(a)のX−X矢視の断面図、(c)は円柱体の表面に嵌合溝を設けた緩衝具を示す詳細図、(d)は球体の表面に嵌合溝を設けた緩衝具を示す詳細図。
【図5】(a)はキャップ材を説明する斜視図、(b)はキャップ材を保護管に取り付けた断面図、(c)は他例のキャップ材を説明する斜視図、(d)は他例のキャップ材を保護管に取り付けた断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[実施形態]
本願発明の落橋防止構造及び落橋防止装置の一実施形態を図に基づいて説明する。図1は本願発明の落橋防止構造が取付けられた橋梁を側面から見た全体図、図2は本願発明の落橋防止構造の詳細を示す部分側面図、図3は本願発明の落橋防止装置1の一部を仮想的に切断した詳細図である。
【0022】
(全体構成)
図1に示す橋梁は、3つの橋桁2からなる3スパンの橋梁であり、それぞれ橋桁2は橋台3や橋脚4によって支持されている。落橋防止装置1は、橋台3が橋桁2を支持する箇所(図では左側)に設置され、橋台3と橋桁2を連結している。そのほか、図に示すように落橋防止装置1を、橋桁2と橋脚4を連結するために、あるいは橋桁2と橋桁2同士を連結するために設置することもできる。また、橋桁2を支持し得る他の構造物と橋桁2を連結するために落橋防止装置1を設置することもできる。もちろん、本願発明の落橋防止装置1は、図1に示す3スパン橋梁に限らずあらゆる形式の橋梁に設置することができるし、橋桁2も、現場で施工する現場打ちコンクリートの桁、鋼製桁やPC桁といった工場製作の桁、など種々の桁で適用することができる。もちろん、新設橋に落橋防止装置1を設置することもできるし、既設橋に落橋防止装置1を取り付けることもできる。
【0023】
前記のとおり落橋防止装置1は、橋台3、橋脚4、その他の構造物など、橋桁2を支持し得る躯体(以下、「支持躯体」という。)に取り付けることができるが、本実施形態では便宜上、支持躯体のうち橋台3に取り付けた場合で説明する。さらに落橋防止装置1は、前記のとおり橋桁2と橋台3に限らず、橋桁2と他の支持躯体、橋桁2と橋桁2を連結するために設置することもできるし、橋軸直角方向断面に1箇所又は2以上の箇所に設置することもできるが、本実施形態では便宜上、橋桁2と橋台3との連結であって橋軸直角方向断面に1箇所設置した場合で説明する。
【0024】
図2に示すように橋桁2は、橋台3に設置された支承5に載せられており、落橋防止装置1によって橋台3に繋ぎとめられている。落橋防止装置1は、チェーン部材101、及びチェーン部材101の両端に設けられる接続治具によって構成される。この接続治具の一方は、橋桁2に設置された桁側固定具6に連結され、接続治具の他方は、橋台3に設置された支持側固定具7に連結される。なお、ここでは便宜上、チェーン部材101の端部のうち橋桁2に連結される接続治具を桁側接続治具102aとし、橋台3に連結される接続治具を支持側接続治具102bとする。つまり、桁側接続治具102aと桁側固定具6が連結され、支持側接続治具102bと支持側固定具7が連結されることで、落橋防止装置1は橋桁2と橋台3の間に設置される。
【0025】
チェーン部材101は、多数のリング103を連結したものであり、緩衝チェーン部材101aと一般チェーン部材101bとで構成されている。緩衝チェーン部材101aは、後述するように、連結するリング103とリング103の間に弾性体からなる緩衝具8(図3)が装着されており、例えば地震時の衝撃力によってチェーン部材101が緊張されると、リング103間に挟まれた緩衝具8が衝撃力のエネルギーの一部を吸収することができる。一方、一般チェーン部材101bは、緩衝具8が装着されないもので、通常のリング103連結によるチェーン部材である。図2ではチェーン部材101を、緩衝チェーン部材101aと一般チェーン部材101bからなる構成としているが、チェーン部材101をすべて緩衝チェーン部材101aで構成することもできる。
【0026】
図2に示すように、緩衝チェーン部材101aには保護管104を設置することができる。緩衝具8は例えばクロロプレンゴム製であり、太陽光による熱、紫外線、あるいは火器等による熱、長期にわたる風雨などの影響によって劣化するおそれがある。そのため、緩衝チェーン部材101aに保護管104を設置し、緩衝具8を保護することができる。なお、本願発明の落橋防止装置1にとって保護管104の設置は必須ではなく、省略することも可能で、使用環境や使用期間などを考慮して保護管104の設置の可否を設計することが望ましい。
【0027】
桁側固定具6は、鋼製板等を組み合わせたいわゆるブラケット形式のもので、ボルト固定や溶接固定など従来の手法を用いて橋桁2に固定される。同様に、支持側固定具7も、鋼製板等を組み合わせたブラケット形式のもので、ボルト固定など従来の手法を用いて橋台3に固定される。もちろん、桁側固定具6及び支持側固定具7はブラケット形式のものに限らず、橋桁2や橋台3に固定することが可能で、且つチェーン部材101の接続治具(桁側接続治具102a、支持側接続治具102b)に連結可能であれば、従来から用いられている種々の形式を採用することができる。
【0028】
図2では、橋桁2と橋台3の間で、落橋防止装置1を撓ませて(サグを設けて)設置している。このサグを設けることによって、落橋防止装置1の機能が発揮されるまで、若干の橋桁2の変位を許容している。このように、落橋防止装置1にサグを設けて設置することもできるが、当初から緊張して(つまり直線状として)設置し、速やかに落橋防止装置1の機能を発揮させることもできる。設計上許容する橋桁2の変位量に応じて、落橋防止装置1のサグ量(あるいはその有無)を設計することが望ましい。
【0029】
以下、構成要素ごとに詳細に説明する。
【0030】
(チェーン部材)
チェーン部材101は、前記したように、リング103を多数連結したものである。図3に示すように、リング103は、隣接するリング103の輪の中に挿通されることで連結され、これを多数繰り返すことによってチェーン部材101が構成される。それぞれのリング103が隣接するリング103の輪の中に挿通されているため、チェーン部材101に引張力(図2では左右方向にかかる力)が作用すると、リング103の一部が隣接するリング103の一部と接触する。このリング103同士の連結部分(以下、「リング連結部」という。)で力を伝達することによって、チェーン部材101は緊張されるわけである。
【0031】
チェーン部材101に用いられるリング103は、許容荷重(チェーン部材101が破断する荷重)に応じてその寸法や規格が選択される。例えば、地震時に作用する荷重を825kNと想定した場合、リング径が38mm、内空(リング内の輪の長円寸法)が57mm×266mm、材料規格がSCM435H、のリング103を選択することができる。なおリング103の表面は、溶融亜鉛メッキなどの防錆加工を施すことが望ましい。
【0032】
図2に示すようにチェーン部材101は、緩衝チェーン部材101aと一般チェーン部材101bで構成されており、これらはシャックル9で連結されている。なお、緩衝チェーン部材101aを構成するリング103の大きさやチェーン長さ等(以下、「チェーン寸法」という。)は、緩衝具8の寸法や形状によって決定されるという一面を持ち、一方、一般チェーン部材101bのチェーン寸法は、チェーン部材101の据付全長によって決定されるという一面を持つ。そのため、緩衝チェーン部材101aと一般チェーン部材101bのチェーン寸法は、それぞれ同じとする場合もあるし、異なる場合もある。もちろん、緩衝チェーン部材101aと一般チェーン部材101bとの連結には、シャックル9に限らずリング103を用いることもできる。
【0033】
(緩衝チェーン部材)
図3に示すように、緩衝チェーン部材101aには緩衝具8は装着されている。図4(a)は、隣接するリング103間に緩衝具8を装着した詳細を説明する詳細図である。この図に示すように、隣接するリング103が連結される連結部103aには、一方のリング103と他方のリング103の間に隙間(以下、「間隙部」という。)が設けられている。この間隙部に、弾性体からなる緩衝具8が装着されている。
【0034】
隣接するリング103間に間隙部を設け、この間隙部に緩衝具8を設けることによって、チェーン部材101に緊張力が作用した際に、この緩衝具8が緩衝材となってエネルギーの一部(全部の場合もある)を吸収する。この点について、地震発生時を例に挙げて具体的に説明する。地震が発生すると瞬間的な動的荷重(衝撃力)が作用し、その衝撃力の水平成分によって橋桁2が橋台3から落下する方向(図2では右方向)へ移動する。橋桁2の移動が進むと、落橋防止装置1のチェーン部材101が引っ張られて直線状となり、さらに引張されるとチェーン部材101は伸びようとする。このとき、連結部103aでは隣接する双方のリング103同士が接触する方向に力が作用する。一方、リング103間の連結部103aには間隙部が設けられ、この間隙部には緩衝具8が装着されているので、この状態ではまだ隣接するリング103同士がいわば間接的に連結されており、つまり、双方のリング103間に挟まれた緩衝具8は圧縮力を受けることとなる。この圧縮力が更に増大していくと、弾性体からなる緩衝具8は、弾性域における変形によって(弾性域から塑性域に進み、遂には破断することもあり、この場合は緩衝具8が破断することによって)地震による衝撃力の一部が低減され、残りの衝撃力がチェーン部材101に作用し、これをリング103の強度によって抵抗する。
【0035】
このように緩衝具8は、リング103から荷重を受けて機能するものであり、リング103とは接触して設置されることが望ましい。例えば、図4(a)に示すように、連結部103aに設けられる間隙部を埋めるように緩衝具8を挿入して装着するとよい。図4(b)は、緩衝具8とリング103との密着状態を示す図であり、図4(a)のX−X矢視の断面図である。図4(b)から分かるように、隣接するリング103が交差する間隙部では、リング103を形成する棒部材103bが4本(一方の2本と他方の2本)、緩衝具8に接触している。
【0036】
緩衝具8がリング103と確実に接触するように、緩衝具8の表面に嵌合溝8a(図4(c))を設けることもできる。この嵌合溝8aは、リング103を形成する棒部材103bの一部がちょうど嵌合するような形状を呈している。図4(b)の断面図でも、4本の棒部材103bの一部を、それぞれ嵌合溝8aに嵌合させている。なお、図4(c)に示す緩衝具8は、円柱体の表面に楕円状に切り欠かれた2つの嵌合溝8aを備えた形状となっているが、この形状限らず、図4(d)に示すように球体の表面に嵌合溝8aを設けた形状や、そのほか角柱状のもの、多面体のもの、など任意の形状とすることができるし、嵌合溝8aも省略することができる。
【0037】
緩衝具8は、クロロプレンゴムなど様々な材質のゴム製とすることが可能で、そのほか種々の樹脂をはじめあらゆる弾性体材料を選択することができる。また、この緩衝具8はあらかじめ工場等で製作して現地(落橋防止装置1の設置現場)で装着することもできるし、現地の状況によっては、現地にて連結部103aの間隙部に未固化材料を流し込んで固化させ、すなわち現地で緩衝具8を製作設置することもできる。なお、緩衝具8の脱落を防止するため、後述するように緩衝チェーン部材101aの長さを一定に保つ(つまり緩みによる伸縮を抑制する)ことで緩衝具8をリング103に固定したり、接着剤等を用いて緩衝具8をリング103に接着したり、テープ等によって緩衝具8をリング103に取り付けたり、種々の手段を用いて緩衝具8を固定することが望ましい。
【0038】
(保護管)
保護管104は、太陽光による熱、紫外線、あるいは火器等による熱、長期にわたる風雨などの影響による劣化から、緩衝具8を保護するものであり、緩衝チェーン部材101aの外周を保護するよう設置される。図3に示すように保護管104の形状は、中空の円柱状(円筒状)を呈している。もちろん円筒状に限らず、中空の角柱形状とするなど任意の形状を選択できるが、中空であって緩衝チェーン部材101a全体の外周を覆うことのできる形状が望ましい。中空が望ましいとする理由は、材料費の軽減と、軽量化による施工の容易を図るためである。また、保護管104を設置することで、管内の緩衝チェーン部材101aの形状(姿勢)を保持し、緩衝具8の脱落防止を図ることができるという効果もある。
【0039】
保護管104は、緩衝チェーン部材101aの姿勢を保持する点では、比較的硬質の材料を使用することが望ましく、耐候性等も考慮するとSTK400を使用することが望ましい。もちろんこれに限らず他の材料を使用することも可能であり、また敢えて緩衝チェーン部材101aの変形に追随することを目的にFRP製のジャバラ形式とすることもできる。なお、保護管104にSTK400などを使用する場合は、溶融亜鉛メッキなどの防錆加工を施すことが望ましい。
【0040】
保護管104を緩衝チェーン部材101aに設置する方法としては、保護管104をボルトで縫ってリング103内に貫通させることで固定する手法や、保護管104とリング103をなまし鉄線(番線)で繋ぎとめる手法など、従来から用いられる種々の手法を採用することができる。この場合、図5(a)に示すキャップ材104aを用いることもできる。図5(a)はキャップ材104aを説明する斜視図、図5(b)はこのキャップ材104aを保護管104に取り付けた断面図、また、図5(c)は他例のキャップ材104aを説明する斜視図、図5(d)は他例のキャップ材104aを保護管104に取り付けた断面図、である。
【0041】
キャップ材104aは、保護管104の両端(一方端のみでもよい)に嵌め込んで取り付けるものであり、保護管104内に緩衝チェーン部材101aを挿通した後に取り付けることを考えれば、図5(a)や図5(c)に示すように分割されていることが望ましい。また、キャップ材104aには、リング103の棒部材103bが通過できる貫通孔が設けられている。図5(b)ではこの貫通孔を1組(2本)分設けてあるが、図5(d)のように貫通孔を2組(4本)分とすることもできる。なおキャップ材104aは、ゴムや樹脂など容易に変形し得る弾性体が適しており、またキャップ材104aの分割数は2分割に限らず3以上の分割数とすることができる。
【0042】
キャップ材104aの断面積と保護管104の断面積によっては、キャップ材104aを保護管104の端面に嵌合させるだけで保護管104を固定することができる。あるいは、図5(b)や図5(d)に示すように、キャップ材104aを保護管104の端面に嵌合させた後、ボルト104bでキャップ材104aと保護管104を縫い付け、より確実に保護管104を固定させることもできる。この場合、保護管104の両端において、ボルト104bでキャップ材104aを締め付けると、緩衝チェーン部材101aの長さを一定に保つことができるので、前記した「緩衝具8の脱落」を防止することができる、といった効果を生ずる。保護管104を固定する手順を例示すると、保護管104内に緩衝チェーン部材101aを挿通し、保護管104の端面にキャップ材104aの分割片を取り付ける。このとき、棒部材103bを貫通孔に挿通しながらキャップ材104aを取り付け、次に残りのキャップ材104aの分割片も同様に取り付ける。他方側の保護管104端面にもキャップ材104aを取り付け、両端に取り付けられたキャップ材104aをボルト104bで保護管104に縫い付ける。なおボルト104bは、図5(b)のように保護管104を貫通する1本としてもよいし、図5(d)のように貫通しない複数本(図では4本)としてもよい。また、キャップ材104aにはあらかじめボルト104b用の貫通孔を設けることもできるし(図5(a))、ボルト104b用の孔を設けずに直接ボルト104bで縫い付けることもできる。いずれの場合も、保護管104にはあらかじめボルト104b用の孔を設けておくことが望ましい。取付け後のキャップ材104aをシーリングすれば、雨水等の侵入も防止することができて好適である。
【0043】
(接続治具)
接続治具は、落橋防止装置1を構成する一部であり、チェーン部材101の両端に設けられ、桁側固定具6に連結されるものが桁側接続治具102aで、支持側固定具7に連結されるものが支持側接続治具102bである。これら桁側接続治具102aと支持側接続治具102bには、図3に示すようにシャックル9を使用することができる。もちろんこれに限らず、チェーン部材101の端部リング103と、支持側固定具7や桁側固定具6とを連結することができるものであれば、従来から用いられている種々の治具を使用することができる。
【0044】
(固定具)
前記のとおり、桁側固定具6と支持側固定具7は、鋼製板等を組み合わせたいわゆるブラケット形式のものであり、ボルト固定等によって橋桁2や橋台3に固定される。図2では、桁側固定具6が橋桁2の側面に固定されているが、これに限らず橋桁2の底面など任意の場所に桁側固定具6を固定することもできる。同様に図2では、支持側固定具7が橋台3の前面側の壁面に固定されているが、これに限らず橋台3の側面側の壁面など任意の場所に支持側固定具7を固定することもできる。
【0045】
[その他の実施形態]
前記した実施形態では、落橋防止装置1を橋軸方向に向けて設置した場合で説明したが、これに代えて、あるいは加えて橋軸直角方向に向けて落橋防止装置1を設置することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本願発明の落橋防止構造及び落橋防止装置は、道路橋や鉄道橋、河川橋や高架橋など、種々の橋に利用することができる。また、橋桁と橋台など支持躯体と橋桁との連結に限られず、トンネル坑門や擁壁、あるいはビル等の建築構造物など、様々な構造物間に取り付けて応用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 落橋防止装置
2 橋桁
3 橋台
4 橋脚
5 支承
6 桁側固定具
7 支持側固定具
8 緩衝具
8a 嵌合溝
9 シャックル
101 チェーン部材
101a 緩衝チェーン部材
101b 一般チェーン部材
102a 桁側接続治具
102b 支持側接続治具
103 リング
103a (リング間の)連結部
103b (リングを形成する)棒部材
104 保護管
104a キャップ材
104b ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋桁を支持する支持躯体からの橋桁落下を防止し得る落橋防止構造において、
落橋防止装置と、前記支持躯体に設置された支持側固定具と、前記橋桁に設置された桁側固定具と、を備え、
前記落橋防止装置は、複数のリングがリング連結部で連結されたチェーン部材と、該チェーン部材の両端に設けられる接続治具を具備し、
前記チェーン部材のうち一部または全部が、緩衝具を有する緩衝チェーン部材であり、
前記緩衝具は、弾性体からなり、前記リング連結部で隣接するリング間によって形成された間隙部にのみ装着され、
前記チェーン部材の一端側に設けられた接続治具が前記支持側固定具に連結されるとともに、前記チェーン部材の他端側に設けられた接続治具が前記桁側固定具に連結された、ことを特徴とする落橋防止構造。
【請求項2】
請求項1記載の落橋防止構造において、
チェーン部材のうちの緩衝チェーン部材の外周に、中空筒状の保護管が設置された、ことを特徴とする落橋防止構造。
【請求項3】
橋桁を支持する支持躯体からの橋桁落下を防止し得る落橋防止装置において、
複数のリングがリング連結部で連結されたチェーン部材と、該チェーン部材の両端に接続された接続治具と、を備え、
前記チェーン部材のうち一部または全部が、緩衝具を有する緩衝チェーン部材であり、
前記緩衝具は、弾性体からなり、前記リング連結部で隣接するリング間によって形成された間隙部にのみ装着され、
前記チェーン部材の一端側に接続された接続治具は、支持躯体に設置された支持側固定具に連結可能であり、前記チェーン部材の他端側に接続された接続治具は、橋桁に設置された桁側固定具に連結可能である、ことを特徴とする落橋防止装置。
【請求項4】
請求項3記載の落橋防止装置において、
チェーン部材のうちの緩衝チェーン部材の外周に、中空筒状の保護管が設けられた、ことを特徴とする落橋防止装置。
【請求項5】
請求項3又は請求項4記載の落橋防止装置において、
緩衝具の表面に、間隙部を形成するリングの一部が嵌合可能な嵌合溝が設けられた、ことを特徴とする落橋防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−177255(P2012−177255A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40658(P2011−40658)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(508036743)株式会社横河ブリッジ (9)
【Fターム(参考)】