葉酸受容体に対する自己抗体のためのアッセイ
本発明は、葉酸受容体に対する自己抗体を同定する。ヒト葉酸受容体に対するこれらの自己抗体を同定する方法もまた提供する。本発明はまた、神経管欠損症を伴う妊娠に観察されるような葉酸感受性異常または障害のリスクにある被験者を同定するための臨床条件において使用される診断方法および試験キットも企図する。さらに、不妊症、自然流産、男性不妊症、体外受精の失敗、神経障害および葉酸の吸収障害もまた、葉酸受容体に対するこれらの自己抗体に関連し得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、細胞表面の葉酸受容体(FR)に対する自己抗体に関する。特に、本発明は、哺乳動物、特にヒトにおけるFRに対する自己抗体を検出するためのアッセイに関する。本発明はまた、FRに対する自己抗体の存在の結果として葉酸の細胞取り込み障害に関連した疾患、障害または症状の予防に関するものであり、前記自己抗体は、出生異常(例えば神経管欠損症、すなわちNTD)、不妊症、自然流産、男性不妊症、体外受精の失敗、神経障害および葉酸の腸内吸収障害等の葉酸感受性異常を引き起こす。本発明はそのような葉酸感受性異常を診断する方法を提供する。本発明はさらに、女性におけるFRに対する自己抗体を検出するためのアッセイに関し、そしてNTD等の胎児の合併症を伴う妊娠のリスクにある女性に対する診断的スクリーニングを提供する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
葉酸は、正常な胚発生に不可欠であり、それはこれが高増殖性胚細胞に必要とされる核酸およびアミノ酸の合成のための1炭素代謝に関与するためである(Lucock, Mol. Genet. Metab. 71:121(2000))。母性栄養、特に神経管欠損症(NTD)の予防のための葉酸摂取に関しては、過去40年間に渡って非常に注目が置かれてきた。NTDの予防のための葉酸摂取に関する初期の研究(HibbardおよびSmithells, Obstet. Gynaecol. Br. Commonwealth 71:529(1964);HibbardおよびSmithells, Lancet 1, 1254(1965);Smithallら, Arch. Dis. Child 51:944(1976))は、近年の無作為的な比較試験によって立証されてきた。これらの研究は、受胎前後の葉酸補給を受けた女性におけるNTDの発生および再発が約70%減少したことを示す(Laurenceら, Br. Med. J.(Clin. Res. Ed.)282:1509(1981);MRC Vitamin Study Research Group, Lancet 338:131(1991);CzeizelおよびDudas, N. Engl. J. Med. 327:1832(1992))。
【0003】
しかし、NTDおよび/または他の出生異常を有する乳児を出産する多くの母親は、臨床的な葉酸欠乏の徴候を示さない。従って、細胞性代謝または葉酸の取り込みを害する遺伝的欠陥を同定するために、広範囲に及ぶ研究が進められてきた。これらの遺伝的欠陥の作用は、葉酸の薬理学的摂取によって修正することができる(Kirkeら, Lancet 348:1037(1996))。葉酸の薬理学的摂取は、血漿のビタミン濃度を上昇させ、そして母体から胎児への十分な葉酸の輸送を提供することにより葉酸取り込みおよび/または細胞内代謝の障害を回避させ、それによって葉酸感受性先天異常の発生を減少させる。これまでに、葉酸代謝経路に関わるいくつかの酵素をコードする多くの候補遺伝子がNTDと関連して同定されてきた。しかし、これらの遺伝子は少数の出生異常の原因となるだけである(van der Putら, Exp. Biol. Med.(Maywood), 226:243(2001))。
【0004】
母体および/または胎児の胎盤細胞、ならびに正常または低レベルの血中葉酸の存在下における胚細胞による葉酸取り込みの減少は、葉酸の取り込みに必要とされる膜タンパク質の量的または機能的欠陥によって引き起こされ得る。これらの膜タンパク質の発現を変化させる遺伝的異常で、明確に同定されているものはない(De Marcoら, Am. J. Med. Genet. 95:216(2000);Barberら, Am. J. Med. Genet. 76:310(1998))。
【0005】
葉酸の細胞内への取り込みは、2つの異なる経路によって媒介される:多くの細胞に存在する完全膜貫通性タンパク質である還元葉酸輸送体(RFC)(Henderson, Annu. Rev. Nutr. 10:319(1990))、およびグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)付加体によって原形質膜に固定されており、葉酸受容体複合体の飲食作用によって葉酸を吸収する葉酸受容体(FR)(Antony, Annu. Rev. Nutr. 16:501(1996))。FRのイソ型は3種であり(α、β、γ)、これらは組織において異なるレベルで発現し、そして葉酸に対して異なる親和性を有する。葉酸の細胞内取り込みは、各々の受容体イソ型の発現レベルに依存する(Rossら, Cancer 73:2432(1994))。
【0006】
胚形成の間における葉酸の細胞内取り込みへのFRおよびRFCの寄与は、Piedrahitaらが、マウスにおけるヒトFRαの相同分子種(Folbp1)が胚の器官形成に不可欠である一方、ヒトFRβの相同分子種であるマウスFolbp2は胚形成においていかなる機能も持たないようであることを示すまで、評価されなかった(Piedrahitaら, Nat. Genet. 23:228(1999))。ヌル欠損型(nullizygous)Folbp1ノックアウトマウス胚(Folbp1-/-)は、深刻な先天性異常を有し、そして妊娠日数10日以上は生存しない一方で、ヌル欠損型Folbp2-/-、ヘテロ接合体Folbp1+/-またはFolbp2+/-胚は、野生型胚と比較して発達および生存度における違いを示さなかった(Piedrahitaら)。RFC遺伝子のノックアウトはまた、胚に致命的であることが分かった(Zhaoら, J. Biol. Chem. 276:10224(2001))。葉酸を与えられたヘテロ接合体RFCの母畜は、正常な期間でヌル欠損型RFC(-/-)の子供を出産した。これらの研究は、葉酸取り込みのためのRFCおよびFR経路の双方が胎児の発達に不可欠であることを示唆した。
【0007】
FRαはヒト胎盤合胞体栄養細胞層において発現する。高濃度のFRαおよびFRβ双方のイソ型が母体の胎盤組織において見られる(Prasadら, Biochem. Biophys. Acta. 1223:71(1994))。ヒト胚発生におけるFRの不可欠な機能は、葉酸の細胞内取り込みを確実に行うことである。母体から胎児への葉酸の輸送がFRαによって媒介されることが報告されている(Clarkら, Hum. Reprod. Update 7:501(2001))。このことは、葉酸感受性出生異常(神経管欠損症等)の原因となる候補遺伝子としてのFRα遺伝子についての研究を促した。しかしながら、FR遺伝子の発現またはFRタンパク質の機能に影響するヌクレオチド多型または突然変異で、NTDの発生率の原因と一致したものは同定されていない(Barberら;De Marcoら)。代わりに、NTDを合併した妊娠をしたほんの少数の女性は、メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)等の葉酸依存性酵素をコードする遺伝子に多型を有することが分かった(Christensenら, Am. J. Med. Genet. 84(2):151-57(1999))。
【0008】
関連遺伝子(酵素またはFRをコードする)の突然変異が先天性の形態形成異常の重要な原因であることの証拠は遺伝学研究によっては提供されておらず、従って、NTDおよび他の葉酸感受性異常が自己免疫疾患である可能性がある。いくつかのタンパク質に対する自己抗体は、不妊症、流産および胎児異常と関連付けられてきた(Coulam, Early Pregnancy 4:19(2000);Clarkら, Hum. Reprod. Update 7:501(2001))。いくつかの以前の研究は、妊娠したラットに投与した場合、ウサギにおいて産生された、腎臓、心筋、精巣、胎盤および他のラット組織に対する自己抗体が、用量依存的な先天性疾患および胎児の再吸収を引き起こすことを示した(Brentら, Proc. Soc. Exp. Bid. Med. 106:523(1961);BarrowおよびTaylor, J. Exp. Zool. 176:41(1971);Brent, Proc. Soc. Exp. Biol. Med. 125:1024(1967))。これらの異常を引き起こすメカニズムは明確ではなかった。しかし、投与された抗体は卵黄嚢に濃縮され、これは、抗体が胚への栄養の送達を阻害することを示唆した(SlotnickおよびBrent, J. Immunol. 96:606(1966))。従って、FRの葉酸結合部位(da CostaおよびRothenberg, Biochim. Biophys. Acta. 1292:23(1996))をブロックする抗体が葉酸の細胞内取り込みを阻害し得ると考えられた。そのような阻害は次に、正常な胚発生および胎児の発育に不可欠な細胞内の葉酸恒常性を害するであろう。
【0009】
自然流産または誘発流産もしくは後期流産をしたことのある女性は、後の妊娠において先天性NTD合併症のリスクが上昇するという証拠がある(Evans, Brit. Med. J. 1:975,(1979);Carmiら, Am. J. Med. Genet. 51:93,(1994);Cuckle, Prenat. Diagn. 3:287,(1983))。
【0010】
NTDの原因は多様であり、そして化学療法薬(特に抗葉酸剤(Hernandez-Diazら, N Engl J Med. 343:1608-14,(2000))、抗てんかん薬(Danskyら, Neurology 42:32-42(1992)))、染色体異常(Seller, Clin Dysmorphol. 4:202-07(1995))、環境的要因(Finnellら, Ann NY Acad Sci. 919:261-77(2000))および遺伝的要因(De MarcoおよびMoroni, Am J Med Genet. 95:216-23(2000))を含む。妊娠初期からの葉酸補給によって、NTDの発生が約70%減少することを示した研究(MRC Vitamin Study Research Group, 前記)は、損傷を受けた細胞内葉酸依存性酵素経路または葉酸の細胞内取り込み阻害剤のどちらかを葉酸が回避する証拠を提供する。しかしながら、葉酸補給によってNTDの発生が約70%減少することを説明し得る酵素経路の機能低下についての証拠はない。葉酸感受性障害がFRに対する自己抗体による葉酸取り込みの阻害によるか否かもまた分かっていない。従って、妊娠を開始した女性には、穀物または薬理的な葉酸補給が神経管欠損症等の先天性疾患を予防するのに役立つか否かが分からない。
【0011】
本発明は、不妊症、自然流産、体外受精の失敗もしくは出生異常等の葉酸感受性障害または状態が、葉酸受容体に対する自己抗体によって葉酸の取り込みが阻害されることによるものであることの開示に関する。本発明は、哺乳動物、特にヒトにおける葉酸受容体に対する自己抗体を検出するための確実なアッセイを提供する。
【0012】
発明の要旨
本発明は、葉酸感受性異常が被験体の体液(血清等)中の葉酸受容体(FR)に対する自己抗体の存在によって引き起こされることの開示に関する。そのような葉酸感受性異常は、神経管欠損症(NTD)、不妊症、自然流産、男性不妊症、子宮内着床後の体外受精の失敗、神経障害(例えば認知症)または葉酸の腸内吸収障害を含むが、これらに限定されない。
【0013】
本発明の1つの態様は細胞表面におけるFRに対する自己抗体の同定に関し、この自己抗体は葉酸取り込みを遮断し、そして結果として細胞内葉酸欠乏を生じ、それゆえに細胞内代謝に影響を与える。従って、被験体由来の生体サンプル中の葉酸受容体に対する自己抗体の存在を検出する方法が、本発明によって提供される。
【0014】
本発明の別の態様は、被験体由来の生体サンプル中の葉酸受容体に対する遮断自己抗体の存在を検出する方法に関する。
【0015】
本発明のさらに別の態様は、被験体由来の生体サンプル中のFRに対する自己抗体を検出する試験キットに関する。
【0016】
本発明のなお別の態様は、被験体由来の生体サンプル中のFRに対する遮断自己抗体を検出する試験キットに関する。
【0017】
1つの態様において、本発明は、被験体由来の生体サンプル中のFRに対する自己抗体の存在を検出することによって、異常または障害のリスクがある被験体において葉酸感受性異常または障害を診断する方法を提供する。
【0018】
別の態様において、本発明は、女性由来の生体サンプル中のFRに対する母体の自己抗体の存在を検出することによって、神経管欠損症を合併した妊娠をするリスクがある女性をスクリーニングする方法を提供する。
【0019】
さらに別の態様において、本発明は、葉酸感受性異常または障害の予防のための方法を提供する。
【0020】
発明の詳細な説明
本発明は、神経管欠損症(NTD)、不妊症、自然流産、体外受精の失敗、神経障害(例えば認知症)または葉酸の腸内吸収障害等の葉酸感受性異常が、被験体の体液(血清等)中の葉酸受容体(FR)に対する自己抗体の存在によって引き起こされることの開示に関する。
【0021】
「試験群」または「指標群」は、各々の女性が中枢神経系の異常な胎児発達を伴う妊娠を以前にしたかもしくは現在している女性、または以前に先天性異常を有する乳児を出産した女性の群を意味する。「対照群」は、以前に正常な妊娠をした女性、NTDである乳児を出産したことのない女性、妊娠したことのない(未妊娠)女性または出産したことのない(未経産)女性を意味する。
【0022】
「診断」("diagnosing", "diagnosis")、「検出」または「スクリーニング」は、患者の病歴の評価、血清または被験体の他の体液における葉酸受容体に対する自己抗体の存在を検査および同定することを通して、葉酸感受性異常または障害の存在、特徴および原因を同定または決定する行為またはプロセスを意味する。
【0023】
「被験体(者)」は、人等のあらゆる哺乳動物被験体を意味する。好ましい被験体は、NTDである乳児を以前に出産した女性、NTDである受胎産物を伴う妊娠をした女性、自然もしくは誘発流産または後期流産をした女性である。別の好ましい被験体は、体外受精処置における卵子提供者(つまり女性)または精子提供者(つまり男性)である。「指標被験体」は、指標群または試験群内の被験体を意味する。
【0024】
「対照被験体」は、対照群内の被験体を意味する。あらゆる特定の理論に束縛されることを意図することなく、誘発流産または流産をした女性は、いかなる葉酸感受性発達異常もないが、FRに対する自己抗体を発現した可能性があると考えられている。従って、そのような女性もまた本発明において対照被験体として見なされる。
【0025】
「リスク」は、不妊症、自然流産、子宮内着床後の体外受精の失敗、神経障害(例えば認知症)または葉酸の腸内吸収障害等の葉酸感受性異常または障害を患う、それらが進行する、またはそれらを有する頻度または可能性を意味する。本発明による「リスク」はまた、NTD等の先天性出生異常を有する乳児の出産、または先天性出生異常を有する受胎産物を伴う妊娠の継続を暗示する。
【0026】
「予防」("prevention"または"prevent")は、障害もしくは異常の発生を防ぐために、または異常もしくは障害を有するリスクを有意に低減させるために、十分時間をかけて異常や障害を有するリスクが予測または判断され得ることを意味する。
【0027】
「生体サンプル」は、哺乳動物のあらゆる組織から採取された試験のための臨床的サンプルを意味し、好ましくは哺乳動物由来の体液、より好ましくはヒト由来の血清である。「対照サンプル」は、自己抗体についてのアッセイをされる被験体と同種または相同種であり、そして正常な生体状態(例えば葉酸受容体に対する自己抗体が検出されない)を有することが分かっている被験体から採取された生体サンプルを意味する。対照サンプルは、対照被験体から採取したサンプルを含む。
【0028】
「抗体」は、あらゆるクラスまたはサブクラスの免疫グロブリン、その一部またはその活性断片を指し、ここで、抗体の活性断片はその特異的結合能を保持する。本明細書で用いる「自己抗体」は、被験体内の被験体自身の体の成分に対する抗体(例えばIgG抗体)を指す。「自己免疫疾患」は、被験体の免疫系が誤って攻撃し、そして被験体自身の体細胞および/もしくは組織の破壊を導く障害または症状を指す。「葉酸受容体(FR)に対する自己抗体」は、FRの任意のイソ型(FRのαおよびβイソ型を含む)またはペプチド配列に対するあらゆる自己抗体を指す。本発明においては、FRに対する自己抗体もまた抗FR自己抗体と呼ぶ。
【0029】
「細胞膜葉酸受容体(FR)」または「細胞表面葉酸受容体(FR)」は、細胞の表面/膜におけるあらゆる葉酸受容体(FR)を指し、「循環葉酸受容体(FR)」は、被験体の体液中で循環する葉酸受容体のあらゆるイソ型またはその抗原成分を指す。「アポFR」は、結合するリガンド(つまり葉酸)のないあらゆる葉酸受容体を意味する。
【0030】
本明細書で用いる「葉酸結合能」は、膜またはマトリックスの単位体積当たり(例えばml当たり)の、膜またはマトリックスにおいてFRに結合した葉酸の定量的な量を意味する。
【0031】
本明細書で用いる「細胞」は、葉酸と結合しそして葉酸を吸収する組織培養細胞系のあらゆる細胞または特定の組織/臓器中のあらゆる細胞であってよく、それらは例えば哺乳動物の卵胞において卵子を囲む顆粒膜細胞、哺乳動物の卵管(つまりヒトのファローピウス管)を裏打ちする上皮細胞、哺乳動物子宮の子宮内膜の細胞、哺乳動物の胎盤の細胞、哺乳動物脳の脈絡叢の細胞、哺乳動物の腸粘膜またはあらゆる哺乳動物の培養細胞系(例えばKB細胞)である。
【0032】
「遮断自己抗体」は、抗原の抗原成分に結合して抗原の機能を遮断する自己抗体を指し、この場合、葉酸の細胞膜FRへの結合およびそれに続く葉酸の細胞による取り込みを遮断する。
【0033】
「葉酸補給剤」は、特に葉酸受容体に対する自己抗体による葉酸取り込み機構の遮断による細胞内葉酸欠乏を克服するために、被験体へ投与される葉酸またはフォリン酸を意味する。「薬理量」は、欠乏または障害を克服するための通常より非常に多い量を意味し、例えば本発明における葉酸補給剤の薬理量は成人女性に対し、少なくとも毎日0.8mgの葉酸であり、毎日4mg以下であることを指し得る。
【0034】
「標識」、「標識化」または「検出可能な標識化」は、検出可能なマーカーの結合を指し、例えば、放射性標識化合物、または標識化アビジン等の2次成分の結合により検出することができるビオチン等の、化合物もしくはポリペプチドに付着した成分を結合させることによる。ポリペプチド、核酸、炭水化物および他の生体または有機分子を標識する様々な方法が当技術分野で知られている。そのような標識は、当技術分野で知られているかまたは最近開発された、放射能、蛍光、色素、化学発光または他の読み取り(readout)等の様々な読み取りを有し得る。読み取りは、β-ガラクトシダーゼ、β-ラクタマーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼ等の酵素活性、3H、14C、35S、125Iもしくは131I等の放射性同位体、緑色蛍光タンパク質(GFP)等の蛍光タンパク質、またはFITC、ローダミンおよびランタノイド等の他の蛍光標識に基づくものであり得る。必要に応じて、これらの標識は、その用語が当技術分野において理解されているように、レポーター遺伝子の発現産物であり得る。
【0035】
本明細書で用いる「治療("treating"または"treatment")」は、症状の開始(つまり臨床徴候)後に、臨床症状を改善、抑制、軽減または除去することを意味する。効果的または有効な治療は、臨床的に目に見える改善を提供する。
【0036】
「特異的結合メンバー」は、沈降等によって、互いに非特異的に結合するようになるというよりむしろ、互いに特異的に結合することが可能な2つ以上の成分の群のメンバーを指す。特異的結合メンバーの例示は、抗原-抗体、受容体-リガンドおよび核酸-核酸の組合わせを含むが、これらに限定されない。
【0037】
第1の特異的結合メンバーの、少なくとも1つの他の特異的結合メンバーとの結合についての文章中における「特異的」、「特異的に」、「特異的に結合する」または「特異的結合反応」は、優先的かつ非特異的ではない結合を指す。好ましくは、特異的結合反応は特異的結合メンバーに特有であるが、そうでなくてもよい。
【0038】
「検出可能な結合」は、1つの特異的結合メンバーと少なくとも1つの他の特異的結合メンバーとの検出可能な特異的結合を指す。例えば、1つの特異的結合メンバーは、検出できるように標識することにより、検出可能な標識の存在が特異的結合事象を表示するようにする。そのような検出可能な結合の検出限界は、使用する検出可能な標識および用いる検出法または装置に関連している。「検出可能な標識」は、検出可能な標識の結合を指す。
【0039】
「組織」は、当技術分野において知られているように、細胞の集合体を指す。細胞の「培養物」は、当技術分野で知られているように、細胞の集合体であり、細胞のクローン集団または混合された細胞の集団であり得る。
【0040】
「サンプル」は、例えば細胞または細胞由来の細胞抽出物、組織、生体サンプル、組織抽出物を含むあらゆる身体サンプルを包含する。サンプルは、被験体または動物またはその一部分等の生物資源由来、あるいは細胞培養物由来であり得る。生物資源由来のサンプルは、正常もしくは異常な生物(NTD等の状態または病状を患う生物等)またはそれらの一部由来であり得、そして健康もしくは異常な(例えば罹患した)体液、組織または臓器を含むあらゆる液体、組織あるいは臓器由来であり得る。
【0041】
本発明は、被験体由来の生体サンプル(例えば女性の血清)中の、細胞表面の葉酸受容体(FR)またはそのあらゆるFRイソ型に対する自己抗体の同定に関する。特定のメカニズムに束縛されることを意図することなく、自己抗体は葉酸取り込みを遮断し、そして結果として細胞内葉酸欠乏を生じ、それゆえに細胞内代謝に影響を与えると考えられている。
【0042】
本発明の1つの実施形態は、被験体の生体サンプルにおいて、葉酸受容体(FR)に対する自己抗体または抗FR自己抗体の存在を検出する方法に関し、以下を含む:
a.生体サンプルを酸性化して、pHを約3.0〜約5.0、好ましくはpH約3.5にすることにより、抗FR自己抗体および内在性葉酸を、in vivoにおいて細胞膜から放出された後に循環している内在性FRから酸性条件下で解離させることにより、生体サンプル中のアポFRを生成し、
b.解離した内在性葉酸を、好ましくは解離した葉酸をデキストランまたはヘモグロビンでコートした活性炭へ吸着させることによって除去し、
c.次に生体サンプルを標識化葉酸(FA)と共にpH約8.0〜pH約8.9、好ましくはpH約8.6でインキュベートして、塩基性pH条件下で標識化FAを生体サンプル中に存在するアポFRに結合させることによって標識化FRの作製を可能にし、
d.ステップcの生体サンプルを標識化精製FRと共にインキュベートし、内在性FR濃度が低い可能性があり、従ってすべての自己抗体を検出するのに十分でないために、これらの追加のFRを生体サンプルに添加し、および塩基性pHにおいて、ステップaで内在性FRから解離した自己抗体が、低濃度の標識化内在性FR(つまりステップcの標識化FR)またはさらなる標識化精製FRのどちらかへ結合し、
e.生体サンプル中に存在する抗FR自己抗体と標識化FR(精製化または内在性FRのどちらか)との間の免疫複合体の形成を検出および定量し、それによって、免疫複合体を検出および定量するために、担体IgGの添加と共に硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、アルコールもしくはポリエチレングリコールによる免疫複合体の沈降によって、または免疫グロブリン結合剤(例えば、同様に検出可能に標識された抗IgGおよび/または抗IgM抗体)を添加し、それと共にインキュベートし、沈降させることによって、好ましくは、反応物にプロテインA膜懸濁液(例えば、ブドウ球菌(Staphylococcus)プロテインA膜懸濁液)を添加し、すべてのIgG(自己抗体を自己抗体-FR免疫複合体の形で含む)がプロテインA膜に結合するのに十分な時間に渡って低温で(例えば4℃で10分間)インキュベートすることによって、免疫複合体を分離することができ、それにより、免疫複合体の存在が、被験体が抗FR自己抗体を有することの指標となる。
【0043】
本発明の前記方法の例示は以下のステップを含む:
a.被験体の生体サンプルを酸性pH、好ましくは約pH3.5に酸性化し、
b.例えばデキストランでコートした活性炭を添加して酸性化サンプル中の解離した葉酸を吸着させることによって、酸性化サンプルから解離した葉酸を除去し、
c.可溶化FR、好ましくは非凝集化FRまたは単量体FRを被験体と同じ種である哺乳動物の細胞膜から精製し;そしてサンプルの酸処理により可溶化FRタンパク質に結合した内在性葉酸を解離させ、その後、活性炭処理し、pHを7.4まで上昇させた後、得られたアポFRを葉酸アフィニティマトリックスに結合させる。得られた精製FRを、酸性pH、好ましくはpH3.5でアフィニティマトリックスから溶出させ、pH約7.4に中和する。
【0044】
d.ステップcの精製FRを葉酸(FA)(アッセイによって視覚化または検出できるいくつかの方法で標識化(例えば放射性[3H]での標識化)されたもの)と共に中性pH、好ましくはpH7.4においてインキュベートして、標識化FA-FR抗原複合体(例えば[3H]FA-FR)を作製する。十分な標識化FR(例えばFRの濃度を10〜20%超過する標識化FA)を添加することにより溶液中のすべての精製FRを少なくとも1つの標識化FAと結合させ、溶液中には遊離のまたは結合していない過剰量の標識化FAがあるようにし、
e.ステップdの溶液を、塩基性pH、好ましくはpH8.9に、より好ましくはpH8.9の0.2Mベロナール溶液で調整し、
f.ステップeの溶液を第1試験管および第2試験管に等分し、10〜20倍高濃度の非標識化FA-FRを第2試験管に添加し、
g.等容量のステップbのサンプルをステップfの第1および第2試験管に添加し、そしてこの混合物を十分な時間に渡り低温で(例えば24時間4℃で)インキュベートすることにより、生体サンプル由来のFRに対する自己抗体が、生体サンプル中のより低濃度の可溶化FRに対してよりも、より高濃度の標識化FA-FRに選択的に結合するようにする。標識化FA-FRの自己抗体への結合が特異的な場合、この結合は第2試験管に含まれる過剰量の非標識化FA-FRによって競合阻害され、
h.ステップgにおけるインキュベーションの後に、得られた標識化FA-FRを標識化FA-FR-自己抗体複合体から分離し、それは例えば、反応物にプロテインA膜懸濁液、好ましくはブドウ球菌プロテインA膜懸濁液を添加し、そしてすべてのIgGがプロテインA膜に結合するのに十分な時間に渡り低温で(例えば4℃で10分間)インキュベートすること、あるいはさもなくば、抗IgGまたは抗IgM抗体(例えば硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、50%エタノール、ポリエチレングリコール中のヒトIgG(もしくはIgM)に対する、ウサギもしくはヤギにおいて生成した抗体)を添加することによるものであり、
i.ステップhで得られた産物を、ステップhの標識化FA-FR-自己抗体複合体(例えば、プロテインAまたは抗IgG(もしくは抗IgM)抗体によって結合された複合体)を沈殿させるのに十分な速度および時間に渡り(例えば6000RPMで3分間)遠心分離し、
j.上清画分を除去し、そしてペレットを洗浄液(例えば、0.05%Triton X-100を含む0.01Mリン酸ナトリウムバッファー、pH7.4)で3回洗浄し、
k.洗浄したペレットをシンチレーション溶液中に懸濁し、シンチレーションカウンターを用いて存在する放射能を測定し、
l.第1試験管および第2試験管由来のペレット中に存在する標識の量を比較する。第1試験管由来のペレットの標識(例えば放射能)が、第2試験管由来のペレットの標識より有意に大きい場合、試験される生体サンプルがFRに対する自己抗体を含むことを示唆する。自己抗体力価の定量的推定値は、標識化された結合受容体の量によって測定される。これは、実施例2に記載する方法によってFRに結合した標識化FAのモル当量となるであろう。
【0045】
本発明の別の実施形態は、被験体由来の生体サンプル中において葉酸のFRへの結合を遮断する自己抗体(つまり遮断自己抗体)の存在を検出する方法に関し、以下を含む:
a.FR結合マトリックスを得ること(例えば、3倍容量のバッファー中でヒト胎盤をホモジナイズし、遠心分離によって膜をペレット化し、次に同じバッファー中で3回洗浄することにより、胎盤膜を調製する)、
b.マトリックスにおけるFRに結合した葉酸を、前記マトリックスをpH約3.0〜pH約5.0、好ましくはpH約3.5で酸性化することにより解離して、マトリックスにおいてアポFRを作製し、
c.ステップbの解離した葉酸を除去し(例えば、酸性バッファー中でマトリックスを洗浄することによる)、
d.pH約7.0〜pH約8.6、好ましくはpH約8.6でマトリックスを再懸濁し、
e.単位体積当たりの葉酸結合能を測定し(例えば、マトリックスの一部に一定量の標識化葉酸を添加し、洗浄して遊離の標識化酸を除去し、そして単位体積当たりのマトリックス(例えばマトリックスの1ml当たり)においてFRに結合した葉酸の量を定量することによる)、
f.生体サンプルから遊離の葉酸を除去し(例えば、生体サンプルを酸性化し、そして酸性化生体サンプルをデキストランまたはヘモグロビンでコートした活性炭で処理することによる)、
g.対照サンプルを得、それによって対照サンプル中の遊離の葉酸が、対照サンプルの酸性化およびデキストランまたはヘモグロビンでコートされた活性炭で対照サンプルを処理することによって除去され、
h.ステップdの懸濁化マトリックスを、ステップfの前記生体サンプルと共にpH約8.6のバッファー中でインキュベートし、
i.ステップdの懸濁マトリックスを、ステップgの前記対照サンプルと共にpH約8.6のバッファー中でインキュベートし、
j.ステップhおよびステップiの前記マトリックスを洗浄(例えば冷バッファーで)し、そして両方の生体サンプルについて膜懸濁液の葉酸結合能を測定し、
k.ステップjの前記マトリックスを標識化葉酸と共にインキュベートし、
l.ステップhのマトリックスの、およびステップiのマトリックスへの標識化葉酸結合能を測定および定量し、それによって、ステップiの前記マトリックスへの標識化葉酸結合と比較した場合の、ステップhのマトリックスへの標識化葉酸結合の減少は、被験体においてFRへの葉酸の結合を遮断する自己抗体の存在を示唆する。
【0046】
好ましい実施形態において、本発明のFRは、前記のように、検出可能に標識化される。
【0047】
本発明によれば、FRに対する自己抗体を同定する方法は、精製したFR、好ましくは非凝集化FRまたは単量体FRを使用し、それは例えばヒトの胎盤等の哺乳動物の胎盤より単離される膜タンパク質から調製される。例えば実施例2を参照せよ。可溶化胎盤FRは、内在性葉酸を解離し、そしてSepharose 6B等のマトリックスに内在性葉酸を結合させることによりFRを精製した後、試薬抗原となる(Sadasivanら, Biochim. Bioph. Acta. 925:36-47(1987))。FRは、酸性pH、好ましくはpH3.5でマトリックスから溶出され、そしてpH約7.4に中和される。調製されたFRは、放射性アッセイまたはELISA等の非放射性アッセイのどちらかに用いられ得る。
【0048】
従って、本発明の特定の実施形態は、ELISAアッセイによって被験体の体液(例えば女性の血清)中の葉酸受容体(FR)に対する自己抗体を同定する方法に関する。企図される方法は、ELISAプレートのウェルを前記のステップcの精製された葉酸受容体タンパク質でコーティングすること;前記のステップa〜bに記載されるように調製された処理済みサンプルをウェル中に含まれる中和バッファーに添加すること;インキュベーション後にウェルを中性バッファーで洗浄し、次に2次ビオチニル化抗ヒトIgG抗体をウェルに添加すること;インキュベーション後にウェルを再び同じ洗浄バッファーで洗浄し、次にアビジン-ビオチン-アルカリホスファターゼ(またはペルオキシダーゼ)複合体を添加すること;およびさらなるインキュベーションの後に色素基質(p-ニトロフェニルホスフェート)を添加すること;発色強度を、マイクロタイタープレートリーダーにおいて405〜420nmでの吸光度を読むことにより定量することを含む。この技術はまた、2次ビオチニル化抗ヒトIgM抗体を使用した葉酸受容体に対するIgM自己抗体のアッセイにも用いることができる。
【0049】
別の特定の実施形態において、本発明は、放射性標識化FRの結合によって女性の血清中の葉酸受容体(FR)に対する自己抗体を同定する方法に関する。本発明によれば、自己抗体について試験をされる被験者由来の血清は、酸または酸性試薬によって酸性化され、血清のpHを約3.5に調整する。そのような酸または酸性試薬の例示は、グリシン-HClまたは他の酸性バッファーを含む。酸性pHにおいて、血清中の可溶性FRは循環自己抗体から解離される。酸性pHはまた、あらゆる血清受容体から内在性葉酸を解離する。次に、解離した葉酸は当業者に知られている技術(解離した葉酸を結合するための、デキストランでコートされた活性炭の添加等)によって血清から除去される。酸性化された血清は、精製されたFRからなる[3H]FA-FRと混合し、前記のように、過剰量の、好ましくは約10〜20%、より好ましくは約20%の放射性標識化葉酸([3H]FA)を用いて調製する。[3H]FA-FRは、血清と混合する前に酸性pHの溶液中、好ましくはpH約8.9の溶液中に存在する。より好ましくは、[3H]FA-FRはpH約8.9の0.2Mベロナール溶液中に存在する。調製されたFRおよび酸性化血清を混合する場合、得られるpHは8.6であり、そして被験者の血清中のFRに対する自己抗体は、血清中のより低濃度の可溶性FRよりも、より高濃度の放射性標識化FRに選択的に結合する。自己抗体-FR免疫複合体は、ブドウ球菌プロテインA膜に吸着する。この膜を3回洗浄し、そして次にシンチレーション溶液中に懸濁する。放射能をシンチレーションカウンターにて検出する。アッセイしたサンプル中の放射能を対照(前記の第2試験管)([3H]FA-FR複合体を過剰量の非標識化FA-FR複合体と共に含む)における放射能と比較する。対照サンプル中の非標識化FA-FR複合体は、好ましくは少なくとも[3H]FA-FR複合体の濃度の10倍以上の濃度である。血清中にFRに対する自己抗体が存在しない場合、第1および第2試験管双方におけるプロテインAは、血清中のFRに対する自己抗体ではない他のIgGまたは抗体に結合するだけであろう。FRに対するものではない自己抗体、IgGまたは抗体は、[3H]FA-FRで特異的に標識化されないであろうし、それゆえに[3H]FA-FRは洗い流されるであろう。従って、放射能は第1または第2試験管のどちらにおいても検出され得ない。血清中にFRに対する自己抗体が存在する場合、第1試験管内のプロテインAはこれらの自己抗体に特異的に結合するであろうし、そしてそのような自己抗体は洗浄後でもなおプロテインAに結合しているであろう一方で、第2試験管内の自己抗体-[3H]FA-FR複合体の形成における[3H]FA-FRは、過剰量の非標識化FA-FRによって競合阻害されるであろう。従って、第2試験管内のペレットは自己抗体-FA-FRと結合したプロテインAであろうし、それゆえに非常に低水準の放射能が検出される。従って、試験サンプル(第1試験管)由来のプロテインA膜の放射能が対照サンプル(第2試験管)のプロテインA膜の放射能より大きい、好ましくは5倍またはそれ以上大きい場合、FRに対する自己抗体が被験者に存在すると結論付けられる。FRに対する自己抗体の存在は、被験者が胎児の合併症を伴う妊娠のリスクまたは葉酸感受性異常のリスク(例えばNTD等の先天性出生異常を有する乳児の出産)にあることを示唆する。放射性標識化FRを使用したアッセイ方法の例示は、以下の実施例3で説明する。
【0050】
本発明のさらに別の実施形態は、ヒトまたは相同種由来の精製されたFR、好ましくは非凝集化FR、被験体由来の生体サンプルを処理(例えば酸性化)するための試薬、標識化葉酸、および精製されたFRと抗FR自己抗体との複合体を検出する少なくとも1つの指標物質を含む、被験体由来の生体サンプル中のFRに対する自己抗体を検出するための試験キットに関する。陽性の結果は、被験者におけるFRに対する自己抗体の存在を示唆し、それゆえに被験体が不妊症、自然流産、男性不妊症、体外受精処置の失敗、神経障害もしくは葉酸の吸収障害、またはNTD等の胎児の合併症を伴う妊娠をすることへのリスクが高いことを立証する。
【0051】
「試験キット」は市販のパッケージであり、アッセイに必要な物質を含む。
【0052】
本発明のなお別の実施形態は、ヒトまたは相同種由来のアポ-FR、被験者由来の生体サンプルを処理するための試薬、標識化葉酸、および反応物中に残留するアポ-FRを検出する少なくとも1つの指標物質を含む、被験者由来の生体サンプル中のFRによって葉酸の結合を遮断するFRに対する自己抗体を検出するための試験キットに関する。この試験キットの企図される成分および方法の原理は、図9で説明する。アポ-FRは、マトリックス(ヒトの胎盤膜等の膜、または炭化水素鎖もしくは他の疎水性マトリックスを介して)に結合した精製されたグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)-FR、あるいはマトリックスに共有結合的に結合したFRであり得る。標識化葉酸(FA)は、担体、例えば酵素または放射性標識または蛍光マーカーまたはビオチンに結合したFAを指す。得られた結合化FA(担体に結合している)が、試験する生体サンプルの不存在下または対照サンプルの存在下で実施される対照インキュベーションと比較して減少していることは、FRに対する遮断自己抗体の存在を示唆し、FRに対する遮断自己抗体の力価を提供する。図9Aおよび図9Bを参照せよ。
【0053】
従って、本明細書で提供される本発明の試験キットはまた、遮断自己抗体の力価を測定することができる。本発明の試験キットはまた、前記FRに対する遮断自己抗体の見かけの結合定数(Ka)を測定するために使用することができる。
【0054】
本発明によれば、葉酸の細胞内取り込みにおけるFRに対する自己抗体の生物学的作用は、2つのパラメーターの関数である:体液中の自己抗体の力価および細胞膜においてFRに結合する自己抗体の結合性(つまり結合定数、Ka)。自己抗体が高い結合定数(Kaが109〜1010L/mol)を有し、そして自己抗体の力価が高い(つまり、すべてのFRに結合するのに十分である)場合、これは葉酸の細胞内取り込みを遮断して、細胞内の葉酸欠乏をもたらすであろう。この抗体の作用のシナリオを回避するために、非常に大量の薬理量の葉酸を投与しなければならない。FRへの自己抗体の結合についての見かけのKaがより低い場合(例えば106〜107L/mol)、この力価が細胞膜におけるすべてのFRに結合するのに十分である場合であっても、はるかに低濃度の葉酸がFRへの結合について自己抗体と競合するのに十分となり得、それゆえに細胞内の葉酸欠乏を予防する。従って、FRへの結合についての自己抗体の自己抗体力価および見かけのKaの異なる組み合わせが、細胞内葉酸代謝における自己抗体の生物学的作用の予測となり得る。第3の要素もまた発生し得る:自己抗体の力価が非常に高い場合、葉酸の欠乏を伴わずに組織損傷を引き起こし得る急性の免疫反応となり得る。
【0055】
本発明の特定の実施形態において、試験キットにおけるFRはマトリックス、好ましくは疎水性マトリックス、より好ましくはヒトまたは相同種由来のFRを含む胎盤膜に結合している。
【0056】
本発明によれば、試験キットにおける指標物質は、酵素、放射性標識、蛍光マーカーまたはアビジンと複合体化したビオチンからなる群より選択される。
【0057】
1つの実施形態において、本発明は異常または障害のリスクにある被験者における葉酸感受性異常または障害を診断する方法に関し、前記の方法に従って、生体サンプル中のFRに対する自己抗体の存在を検出することを含む。
【0058】
別の実施形態において、本発明は神経管欠損症を伴う妊娠をするリスクがある女性をスクリーニングする方法に関し、前記の方法に従って、女性由来の生体サンプル中のFRに対する母体自己抗体の存在を検出することを含む。本方法は、前記の方法(例えば、放射性アッセイによってまたはELISAアッセイによってのどちらか)を用いて、女性の血清中のFRに対する自己抗体を同定することを含む。FRに対する自己抗体の検出または同定は、胎児の合併症を伴う妊娠をするリスクまたはNTD等の先天性異常を有する乳児を出産するリスクを回避するのに用いることができる。
【0059】
本発明によって、NTD等の葉酸感受性の先天性中枢神経系疾患の原因が同定されてきた。特に、本発明者らは、FRに対する母体自己抗体が、NTD等の中枢神経系疾患を有する乳児を出産する可能性を上昇させることを見出してきた。
【0060】
例えば、本発明によれば、以前に中枢神経系疾患を有する乳児を出産したかもしくはNTDを有する胎児を伴う妊娠をしたか、あるいは自然流産もしくは誘発流産または後期流産をしたかのいずれかの女性由来の血清は、前記のアッセイを用いてFRに対する自己抗体を解析することができる。本発明によれば、FRに対する自己抗体の同定は、妊娠時にビタミンの取り込みが起こることを確実にするために、女性が次回の妊娠を開始する前に葉酸またはフォリン酸についての処方を受けるべきであることを示唆する。
【0061】
本発明によれば、発明者らは、ラットにおけるFRに対する抗血清が胚および胎児の異常を誘導し得ることを発見してきた。本発明に従って、胚におけるNTD等の葉酸感受性の先天性中枢神経系疾患が、自己免疫疾患から生じることを発見してきた。特定のメカニズムによって束縛されることを企図することなく、葉酸感受性の先天性異常は生殖組織および胚における母体葉酸受容体に対する自己抗体によって引き起こされ、これは細胞内葉酸取り込みを阻害し、それゆえに正常な胚発生に不可欠な母体から胎児への葉酸の輸送に影響を及ぼす。
【0062】
本発明によれば、本発明に記載される、被験者の血清中の葉酸受容体に対する自己抗体を同定または検出するためのアッセイまたは方法は、女性が催奇形性異常(例えばNTD)を有する乳児を出産するリスクの強力な徴候を提供する。被験体はあらゆる哺乳動物被験体、特定的にはヒト、さらに特定的には以前にNTDを有する乳児を出産したか、もしくはNTDを有する胎児を伴う妊娠をしたかのどちらかの女性、あるいは自然流産もしくは誘発流産または後期流産をした女性であり得る。アッセイする生体サンプルは、血清または血漿である。特定のメカニズムに束縛されることを望むことなく、本発明において検出される自己抗体は、葉酸のその受容体への結合を阻害または遮断し、それゆえに初期胚による葉酸の取り込みを阻害すると考えられている。結果として、この阻害がNTDまたは他の葉酸感受性の先天性出生異常を導く。
【0063】
従って、前記のアッセイまたは方法を用いて、中枢神経系の異常な発達を伴う妊娠を以前にしたかもしくは現在しているかのどちらかの女性、またはNTD等の先天性異常を有する乳児を出産した女性において、FRに対する自己抗体について血清を調べることにより、本発明者らは、脊髄異常を有する乳児を出産した女性においてFRに対するそのような自己抗体を同定してきた。例えば、1つのアッセイにおいて、試験群の12名のうち9名(75%)の女性(図1の被験者#1〜9)からの血清は、それらの血清中にFRに対する自己抗体を有した。12名の女性からなる群は、各自が中枢神経系の異常な発達を伴う妊娠を以前にしたかまたは妊娠中であったかのどちらかであった。反対に、対照群における女性2名(図1の被験者#16および24)だけがその血清中にFRに対する自己抗体を有していたが、NTDを伴う妊娠はしていなかった。
【0064】
本発明の別の実施形態は、FRに対する自己抗体を検出する方法を提供し、これは哺乳動物被験体、好ましくはヒト被験者における不妊症、自然流産、体外受精の失敗、神経障害(例えば認知症)または葉酸の腸内吸収障害、特に葉酸の異常代謝もしくは取り込みに起因することの診断において有用となり得る。
【0065】
特定の実施形態において、本発明は不妊症、自然流産または男性不妊症のリスクを有する被験者を、被験者の血清中のFRに対する自己抗体を検出することによって診断する方法に関する。
【0066】
本発明によれば、FRはラットまたはヒト等の哺乳動物の卵胞において卵子を囲む顆粒膜細胞で発現する(図2)。顆粒膜細胞におけるFRへの自己抗体の結合は、成熟した卵子が卵管(つまりファローピウス管)内に放出されるのを阻害し、そして受精を阻害する。FRに対する自己抗体はまた、精子がファローピウス管の管足瓶嚢に到達することによる卵子の受精を阻止し得、それゆえに不妊症をもたらす。本発明によれば、ファローピウス管を裏打ちする上皮細胞もまた、FRに対する自己抗体が結合し得るFRを発現し(図3)、従って、子宮に進入する受精卵(胚盤胞の段階まで進んだもの)の進行を阻害する。FRに対する自己抗体はまた、上皮細胞による葉酸の取り込みを遮断することができ、従ってファローピウス管の機能を阻害することで不妊症の原因となる。ヒトのファローピウス管におけるFRの局在性は、Weitmanら, Cancer Res 52:6708(1992)によって示されている。
【0067】
本発明によれば、葉酸受容体はまた、ラットの子宮の上皮層においても発現する(図4)。FRの類似の発現は、ヒトの子宮内膜組織においても示された(Weitmanら)。FRに対する自己抗体はこれらの葉酸受容体に結合することができ、従ってこれらの細胞による葉酸の取り込みを遮断する。生じた葉酸欠乏は、胚盤胞の着床を阻害し、それゆえに不妊症または自然流産をもたらす。
【0068】
本発明によれば、葉酸受容体はまた、ラットの副睾丸の上皮細胞(図5)およびラットの精子細胞(示さない)においても発現する。Weitmanらは、ヒトの副睾丸の上皮細胞におけるFRの類似の発現を示した。FRへの自己抗体の結合は、精子細胞の成熟を阻害することができ、男性不妊症をもたらす。FRに対する自己抗体はこれらのFRに結合することができ、従ってかかる細胞による葉酸の取り込みを遮断する。生じた細胞内の葉酸欠乏は、副睾丸の機能を阻害し、それゆえに不妊症の原因となる。
【0069】
別の特定の実施形態において、本発明は、体外受精処置に失敗するリスクにある被験者を、被験者におけるFRに対する自己抗体を検出することによって診断する方法に関する。
【0070】
本発明によれば、FRは子宮内膜の上皮層において発現する。本発明に従って、FRに対する血清自己抗体は、葉酸の取り込みを阻止することにより、初期胚の生存能力を阻害し得る。
【0071】
体外受精処置において、卵子は腹腔鏡または経膣手術によって卵胞から採取される。いくつかの卵子を選択し、そしてペトリ皿に移して精子と受精する。培養して約2〜3日後、形成された胚盤胞を子宮内膜に着床させる。従って、体外受精を計画する場合、卵子および精子双方の提供者が、本発明に記載するように、FRに対する自己抗体を同定または診断するためのアッセイまたは方法を用いることにより、彼らの体液、好ましくは血清中のFRに対する自己抗体についての試験を受けるべきである。
【0072】
さらに別の特定の実施形態において、本発明は、神経障害(例えば認知症)へのリスクにある被験者を、被験者の体液中のFRに対する自己抗体を検出することによって診断する方法に関する。
【0073】
本発明によれば、FRを遮断する自己抗体は、葉酸の細胞内取り込みを阻害し得る。FRが脈絡叢において存在するため(図10を参照)、FRを遮断する自己抗体は、男性および女性において認知症等の葉酸感受性神経障害を引き起こし得る。
【0074】
なお別の特定の実施形態において、本発明は、本発明に記載するように、FRに対する自己抗体を同定または診断するためのアッセイまたは方法を用いて、被験者の体液中のFRに対する自己抗体を検出することによって、葉酸の吸収の阻害へのリスクにある被験者を診断する方法に関する。
【0075】
さらに、腸粘膜におけるFRの存在(図11を参照)は、FRを遮断する自己抗体が葉酸の吸収を阻害し得ることを示す。
【0076】
さらなる実施形態において、本発明は、被験者における葉酸感受性異常または障害(神経管欠損症(NTD)、不妊症、自然流産、男性不妊症、体外受精の失敗、神経障害および葉酸吸収の阻害を含むがこれらに限定されない)を予防する方法に関し、以下を含む:
a.前記の方法に従って、被験体由来の生体サンプルにおけるFRに対する自己抗体の存在を検出すること、および
b.被験体に薬理量の葉酸補給剤を投与すること。
【0077】
従って、本発明は、薬理量の葉酸補給によって、葉酸感受性異常または障害を有するリスクを予防または有意に減少させ得ることを提供する。
【0078】
本発明によれば、FRに対する抗血清によって誘導されるラットの胚の再吸収は、葉酸の投与によって予防することができる。例えば、本発明者らは、ラットのFRに対する抗血清(ラットのFRに対してウサギにおいて作製し、そして妊娠したラットに注入した抗血清など)の投与が、初期胚の再吸収を誘導し、そして脳および他の臓器に影響を与える異常を誘導し得、結果として胚発生および胎児の成熟の間の発達障害をもたらすことを見出した(da Costa ら, Birth Defects Research, Part A, 67(10)837, (2003))。
【0079】
本発明者らは、ラット等の被験体における胚の再吸収および形成異常を引き起こすのは抗FR抗体であることを見出した。本発明によれば、精製されたFR(例えば哺乳動物の胎盤(例えばラットの胎盤)由来のFRαおよびFRβ)は、葉酸結合マトリックスと結合した場合、抗血清由来の特異的な抗FR抗体を吸着する。FRに対する特異抗体を、FRを結合させた葉酸結合マトリックスによって除去する(da CostaおよびRothenberg)。この吸着した大量の抗血清をラット等の妊娠した哺乳動物に投与した場合、後日調べる胚において、再吸収または構造上の異常は起こらない。
【0080】
従って、FRに対する抗体による葉酸の取り込みの遮断は、胚の再吸収および形成異常をもたらす。本発明によれば、そのような胚の再吸収および形成異常は、フォリン酸等の薬理量の葉酸で被験体を前処理することによって予防することができる。例えば、妊娠したラットを、ある量(例えば約12mg/kgを3回に分けて)のフォリン酸を皮下注射することにより前処理した。フォリン酸による前処理は、大量(例えば約0.3ml)の抗血清を投与する1時間前に開始し、その翌日にフォリン酸を再度投与した。本明細書で用いる「大量」の抗血清は、常に48時間以内に胚の再吸収を100%もたらす用量を指す。妊娠したラットに前記の通りフォリン酸を投与する場合、胚は2日後に調べた場合には正常に見える。しかしながら、大量の抗血清(例えば約0.5ml)を投与する場合、フォリン酸は胚の損傷を予防せず、胚は短時間(例えば抗血清の投与後48時間)の内にすべて再吸収される。
【0081】
本発明によれば、FRを遮断する自己抗体は、葉酸の細胞内取り込みを阻害し得る。例えば、図6は、2つのヒトの細胞系およびヒトの胎盤膜において、葉酸受容体への葉酸の結合を遮断するFRに対する自己抗体の能力を明示する。さらに、図7は、37℃で培養液中のKB細胞(ヒトの細胞系)による葉酸の取り込みを遮断する、試験被験体の血清から単離されたFRに対する自己抗体の能力を示す。
【0082】
従って、有効量の薬理的葉酸をFRに対する自己抗体を有する女性に投与することによって、これらの女性におけるNTD等の胎児の合併症を伴う妊娠へのリスクが有意に低減する。葉酸を含有する穀物産物の補給がNTDの発生を約19%しか低減させない一方で、妊娠時に毎日0.8〜4mgの葉酸を摂取することによる補給は、NTDの発生率を約72%低減させることができることが示されている。本発明によれば、特定の理論によって束縛されることを企図することなく、これらの2つのアプローチの異なる結果は、薬理量の葉酸補給剤と比較して、穀物に存在する葉酸がより少量であることに起因すると考えられる。さらに、葉酸強化穀物は十分な量の葉酸を含まず、一方で、薬理的葉酸は胚発生の初期段階でNTDを予防するのに十分な量を提供すると考えられる。
【0083】
従って、本発明の特定の実施形態は、NTD妊娠のリスクを検出することができる方法を提供することにより、十分な量の薬理的葉酸を、これを必要とする被験者に投与することによって、この疾患を予防することができ、またはそのリスクを有意に低減させることができるようにする。
【0084】
特定の理論によって束縛されることを企図することなく、NTD合併症を伴う12名の女性のうち9名由来の血清がFRに対する自己抗体を含むことの発見は、FRに対する自己抗体が葉酸の取り込みを遮断することによって胚発生を阻害することへの実質的な証拠を提供すると考えられる。試験群において自己抗体を有する女性の割合(9/12すなわち75%)は、妊娠時に毎日の葉酸補給を開始することによりNTD妊娠の発生において約70%の低減を示した以前の研究と一致すると考えられる。葉酸を含有する穀物産物の補給は、NTDの発生を約19%しか低減させない(Honeinら, JAMA, 285(23):2981(2001))一方で、妊娠時に0.8〜4mgの葉酸を補給することで、NTDの発生率を約72%低減させることができることが報告された。これらの2つのアプローチの異なる結果は、薬理量の葉酸補給と比較して、穀物に存在する葉酸がより少量であることに起因すると考えられる。NTD発生の約70%がFRに対する自己抗体による葉酸の取り込みの阻害による一方、NTD発生の約30%が葉酸応答性ではなく、化学療法薬、特に抗葉酸剤、抗てんかん薬、染色体異常および環境的要因もしくは遺伝的要因等の他の十分に認識された原因の結果であり得ると考えられる。
【0085】
本発明によれば、体液中にFRに対する自己抗体を有することが確認された女性は、NTD胎児を伴う妊娠をする、またはNTD等の葉酸感受性の出生異常を有する乳児を出産するリスクが上昇する。従って、女性は異常形態発生を予防するために薬理量の葉酸補給剤を妊娠開始時に摂取するべきである。体液がFRに対する検出可能な自己抗体を有さない被験者は、FRに対する自己抗体に無関係の要因によるいくらかのリスクをまだ有し得る。葉酸の大量経口投与がNTD等の出生異常の発生の著しい低減化を達成し得るのに対し、葉酸強化穀物はNTDの発生を低いレベルで低減化するに過ぎない。しかしながら、妊娠を開始する女性はしばしば薬理量の葉酸補給剤を摂取せず、それゆえに必然的に異常形態発生のリスクが上昇し得る。従って、本発明はまず、彼女らの血清中にFRに対する自己抗体が検出される場合には、異常形態発生のリスクが高く、それゆえに薬理量の葉酸補給剤を摂取するべき女性を同定できるようにする。従って、本発明の特定の実施形態は、葉酸補給を必要とする女性を同定する正確な方法を提供し、それによって、妊娠を計画している者に対して、葉酸感受性異常または障害を有するリスクを予防するために薬理量の葉酸補給剤を摂取すべきか否かの明確な指針を提供する。従って、本提示の特定の実施形態は、葉酸補給を必要とする女性を同定する正確な方法を提供する。本方法は、本発明に記載するアッセイまたは方法を用いて、女性におけるFRに対する自己抗体を同定または検出すること、およびそのような自己抗体を有する女性に対して、葉酸感受性異常または障害を回避するために葉酸補給剤を摂取すべきであることを告知または警告することを包含する。それゆえに、本法の利点は、妊娠を開始する者に対して、葉酸感受性異常または障害を有するリスクを予防するために、薬理量の葉酸補給剤を摂取すべきか否かの明確な指針を提供する。前記の方法を用いて、妊娠を開始する女性の血清中のFRに対する自己抗体を検出するためのアッセイもまた、本発明によって包含される。
【0086】
本発明の特定の実施形態は、不妊症、自然流産、男性不妊症、体外受精の失敗、神経障害または葉酸の吸収障害等の葉酸感受性異常を、そのような異常に対するリスクを有する被験者の食事を増量した葉酸またはフォリン酸(好ましくは毎日約0.8mg〜約4mgの)で補給することによって予防することに関する。
【0087】
本発明によれば、体外受精処置の失敗のリスクのいくつかは予防することができる。例えば、FRに対する自己抗体が提供者となる予定の女性において見つかる場合、着床する受精卵に十分な葉酸を確保するために、女性は、この処置を開始する時に葉酸補給剤の摂取を開始するべきである。提供者となる予定の女性および男性の双方において自己抗体が見つかる場合、着床する受精卵に十分な葉酸を確保するために、両当事者は、この処置を開始する時に葉酸補給剤を摂取し始めるべきである。
【0088】
本発明のさらに別の実施形態は、循環自己抗体の力価および自己抗体によるFRの結合についての結合定数(Ka)の決定に関する(図8を参照)。
【0089】
本発明によれば、いかなる特定の理論に限定されることを企図することなく、NTD等の葉酸感受性の先天性異常は、動物またはヒト等の妊娠した哺乳動物の体内のFRに対する自己抗体によって引き起こされると考えられる。さらに、この効果は自己抗体力価依存性であると考えられる。
【0090】
「結合定数」または「Ka」は、抗原、好ましくはFRに対する自己抗体の親和性を意味する。Kaは定量的に表される。本発明によれば、高い値のKa(例えば1010L/mol)は、FRに対する自己抗体の高い親和性を示す。そのような場合、測定された高い値のKaを有する者、例えば妊娠中の女性に、FRに対する自己抗体による膜FRにおける葉酸結合部位の遮断を回避させるために、大量の葉酸(またはフォリン酸)の補給を提供することが不可欠となるであろう。例えば、本発明によれば、毎日4mgの葉酸摂取は、FRに結合した自己抗体を拡散または解離することによって、細胞内葉酸を提供するのに十分なまでに血漿葉酸濃度を上昇させることができる。逆に、FRへの自己抗体の結合についての低いKa値(例えば106L/mol)は、葉酸が膜葉酸受容体に対してより高い親和性を有するために、疾患または障害を引き起すことはないであろう。毎日少量の葉酸(例えば1mg/日)で血漿葉酸濃度を上昇させることは、葉酸受容体からFRに対する自己抗体を解離させ得る。
【0091】
本発明によれば、結合タンパク質(抗体等)とリガンド(抗原等、例えば葉酸受容体)との相互作用についてのKaを測定する方法は、実施例6に記載する。NTDを伴う妊娠をした指標被験者のうち3人および対照被験者のうち2人の血清中に存在する遮断自己抗体についてのKaの測定は、図8に示す。
【0092】
従って、高い(例えば1010L/molまたはそれより高い)Kaを有する高力価の自己抗体は、受胎産物を害してフォリン酸または葉酸の補給によって予防することができない重度の免疫反応を誘導し得る。反対に、低い(例えば106L/molまたはそれより低い)Kaを有する低力価の自己抗体は葉酸応答性となるであろうし、そして前記のように、フォリン酸または葉酸の補給がNTDおよび/または他の異常の予防に有効となり得る。実施例1もまた参照せよ。
【0093】
従って、特定の実施形態において、本発明は葉酸感受性異常の予防に関し、それは例えば、NTD等の異常を伴う妊娠のリスクを有する女性の食事に葉酸を補給することによって、または超音波検査で胎児を厳密にモニターする女性およびその産科医に報告することによるものである。本発明によれば、そのような改良した手段は、検出されたFRに対する遮断自己抗体のKaが109L/molまたはそれより大きい場合に採用されるべきである。
【0094】
さらなる実施形態において、本発明は、被験体の体液(例えば血清)中のFRに対する自己抗体を検出するための試験キットを提供する。「試験キット」は、市販のパッケージであり、アッセイに必要な材料を含むものを意味する。本発明の試験キットは、前記の精製されたFR、好ましくは非凝集化FR、被験体由来の血清サンプルを処理する(例えば酸性化)ための試薬、および被験体の血清由来のFRに対する自己抗体と精製されたFRとの複合体を検出する少なくとも1つの指標物質を含む。陽性の結果は、被験体におけるFRに対する自己抗体の存在を示唆し、それゆえに被験体が不妊症、自然流産、男性不妊症、体外受精処置の失敗、神経障害もしくは葉酸の腸内吸収障害を有する、またはNTD等の胎児の合併症を伴う妊娠をするリスクの増加を証明する。
【0095】
FRに対する血清中の遮断自己抗体の存在を検出するため、およびこれらの自己抗体のKaを測定するために必要な材料を含む別の試験キットもまた、本発明によって企図される。この試験キットの企図される成分および方法の原理は、図9に説明する。この試験キットは、マトリックス(膜、または炭化水素鎖もしくは他の疎水性マトリックスを介して)に結合した精製されたグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)-FR、あるいはマトリックスに共有結合的に結合したFR、担体(例えば、酵素もしくは放射性標識または蛍光マーカーあるいはビオチン)に結合した葉酸(FA)、および被験体の血清中の遮断自己抗体の存在を検出するために使用される少なくとも1つの指標物質を含む。担体に結合している得られた結合化FAが、FRに対する自己抗体を含む血清の不存在下で実施される対照インキュベーションと比較して減少していることは、FRに対する遮断自己抗体の存在を示唆し、そしてその力価を提供する。
【0096】
本開示において言及されるすべての出版物は、参照によって本明細書に組み入れられる。本開示で用いた用語および表現は、限定ではなく記載上の用語として使用され、そして示される特徴および記載される特徴のあらゆる等価物またはその一部分を除外するような用語および表現を使用することを意図するものではなく、様々な改変が本発明の範囲内であり得ることが理解される。
【0097】
本発明はさらに以下の特定の実施例によって説明され、これらは本発明の範囲を限定することを意図するものでは決してない。
【実施例】
【0098】
実施例1
妊娠したラットへのFRに対する抗血清の投与の効果
本研究において、(da Costaら, Birth Defects Research, Part A, 67(10)837, (2003))、ラットFRに対してウサギにおいて生成した、力価が決定された(titrated)容量の抗血清を、妊娠8日のラットの腹膜腔内に注入し、そして胚を異なる時期において調べた。妊娠8日のラットを選択したのは、これが顕著な成長および分化(つまり器官形成)の時期であるためである。妊娠8日はまた、神経襞が形成されるが融合し始めていない神経胚形成の時期である。FRの結合について高力価を有する抗血清(1mlの抗血清が12μgのFRを免疫沈降させる)を0.1〜1mlの用量で投与した。0.3〜1mlの抗血清の投与は、妊娠10日までにすべての移植胚の完全な再吸収をもたらし、;0.27mlおよび0.25mlのこの抗血清は約50%の胚の再吸収を誘導した。妊娠15日に調べた生存胚は、成長および発達異常を示した。いくつかの胚は内水頭症をもたらす中枢神経系の異常が生じ、;異常な心臓および口蓋発達もまた観察された。より少量の同じ抗血清(例えば0.1〜0.2ml)を妊娠8日ラットに投与した場合、妊娠17日に調べた胎仔に特定可能な異常は観察されなかった。1mlの正常なウサギ血清(NRS)を与えた対照ラットにおいて、胚の再吸収または発達異常はなかった。
【0099】
胚の再吸収および形成異常がFRに対する抗体によって特異的にもたらされることを証明するために、ラットの胎盤由来の精製されたFRαおよびFRβイソ型を、抗血清由来の特定の抗FR抗体を吸着するための葉酸結合マトリックスと結合した。約0.4mlおよび約0.3mlの吸着化抗血清を妊娠8日ラットに投与した場合、妊娠20日に調べたいかなる胚においても再吸収あるいは構造的異常は生じなかった。
【0100】
胚の再吸収および形成異常の原因が、FRに対する抗体による葉酸取り込みの遮断によってもたらされたのか否かを解明するために、妊娠8日のラットに、フォリン酸(12mg/kg)を3回に分けて皮下注射することによる前処理を、0.3mlの抗血清(常に48時間以内に胚の再吸収を100%もたらす用量)を投与する1時間前から開始し、そして翌日再び行った。2日後に調べた胚は、フォリン酸の投与後には正常に見えた。しかしながら、0.5mlの抗血清を投与した場合、フォリン酸の投与は胚への損傷を予防せず、10日までにすべてが再吸収された。胚組織の顕微鏡検査は、極度の不可逆的な免疫反応が胚を害したことを示唆する炎症の証拠を示した。しかしながら、抗血清を投与する前に抗炎症特性を有するステロイドであるデキサメタゾンを投与した場合、胚への損傷は予防された。
【0101】
実施例2
ヒトの胎盤由来の葉酸受容体の精製
1.材料および方法
27.6 Ci/mmolの比活性を有する[3H]葉酸(FA)は、Moravek Biochemicals(Brea, CA)より購入した。ZnSO4沈殿によってその純度が>95%であることを測定した後、これを-80℃で保存した。フェニルメチルスルフォニルフロリド(PMSF)、トラジロール(Trasylol)およびノリットA(Norit A)活性炭は、Sigma(St. Louis, MO)から購入した。エチレンジアミン四酢酸(EDTA)は、Fischer Scientificより入手した。Triton X-100および完全(complete)シンチレーション溶液、Cytoscintは、ICN Biochemicalsより購入した。Dcタンパク質アッセイキット、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)およびアクリルアミドは、Bio-Rad(Richmond, VA)より購入した。
【0102】
葉酸化合物の濃度は、それらの公開された吸光係数から決定した。タンパク質濃度は、改良されたビウレット法を用いるDc Bio-Rad タンパク質アッセイキットを用いて決定した。
【0103】
2.ヒトの胎盤由来のFRの精製
ヒトの胎盤は、分娩後、病院の産科より入手した。100gのヒトの胎盤を1.0mM PMSFおよび10mM EDTAを含む300mlの0.01Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4)中で、ポリトロンホモジナイザーを用いてホモジナイズした。得られた懸濁液を40,000×gで1時間、4℃で遠心分離した。ペレットを前記バッファー中に再懸濁した後に遠心分離することにより、3回洗浄した。洗浄した膜ペレットを可溶化バッファー(1.0mM PMSF、10mM EDTAおよび1%Triton X-100を含む0.01Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4))中に懸濁し、そしてタンパク質を37℃で2時間に渡り可溶化した。可溶化した後、懸濁液を40,000×gで1時間、4℃で遠心分離した。上清のpHを1N HClで3.5に低下させ、そして次に4%デキストランコート化活性炭を添加して、遊離した内在性葉酸を吸着させた。遠心分離によって活性炭を除去し、そしてアポFRを含む上清のpHを1 N NaOHを添加することにより7.4に上昇させた。この調製物を次に25℃で1時間、Sadasivanら, Biochim. Bioph. Acta. 925:36-47(1987)による論文において以前に記載されているように、エポキシ活性化Sepharose 6BにFAを結合させることにより調製される1mlの葉酸結合マトリックスと混合した。前記結合マトリックスを次に3000 rpm、5分間でペレット化し、そして以下のバッファーで洗浄した:1)1mM PMSF、10mM EDTAおよび0.1%Triton X-100を含む0.01Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4) 50ml×3回、2)1mM PMSF、10mM EDTAおよび0.1%Triton X-100を含む0.1Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4) 50ml×3回、3)1mM PMSF、10mM EDTA、0.1%Triton X-100および1M NaClを含む0.01Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4) 50ml×3回、ならびに4)1mM PMSF、10mM EDTAおよび0.1%Triton X-100を含む0.01Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4) 50ml×3回。
【0104】
1mM PMSF、10mM EDTAおよび0.1%Triton X-100を含む1mlの0.1Mグリシンバッファー(pH3.0)中で10分間インキュベートすることにより、FRを結合マトリックスから解離させた。前記マトリックスを遠心分離によってペレット化し、上清画分を1mlの0.2Mベロナール溶液で中和した。
【0105】
結合マトリックスからのFRの酸溶出のプロセスを3回繰り返し、そして各溶出液の葉酸結合能を[3H]FAを用いて前述の通り測定した(Luhrsら, Arch. Biochem. Biophys. 250:94-105(1986))。この調製物中のFRの純度を、SDS(10%)ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)により測定し、そしてこのゲルをクーマシーブリリアントブルーでタンパク質染色をした。FR調製物の純度はまた、精製されたFRで免疫したウサギにおいて生成された抗血清を用いたウエスタンブロットによっても測定された。
【0106】
3.非凝集化FRの作製
非凝集化FRは、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)付加体をタンパク質から除去することによって作製した。酵素(グリコシルホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼC)は、GPI付加体を加水分解して細胞膜からFRタンパク質を遊離する(アルカリホスファターゼおよびホスホリパーゼD等の他の酵素もまた、この目的に使用され得る)。次に、FRをマトリックスに結合した葉酸へ結合させることにより単離した。マトリックスを完全に洗浄した後、FRタンパク質を酸性化により遊離させた。マトリックスを遠心分離によって除去し、そして上清画分のpHを7.4まで上昇させた。このFRの調製物は凝集せず、そしてFRに対する自己抗体について血清をアッセイするためのELISAプレートのウェルをコートするために使用され得る。
【0107】
実施例3
血清中の葉酸受容体(FR)に対する自己抗体を同定するための手順
この手順における原理およびステップは以下に要約される:
1.FRに対する自己抗体について試験される血清は、室温において0.1Mグリシン-HClでpH3.5に酸性化して、血清中の可溶化FR由来の内在性葉酸を解離させた。この酸性化はまた、血清中の自己抗体由来の免疫反応性可溶化FRも解離した。
【0108】
2.解離した葉酸は、デキストラン(分子量60,000〜90,000)でコートした活性炭に吸着させることにより溶液から除去した。
【0109】
3.ヒトの胎盤より単離した細胞膜から精製されたFR(実施例2に記載の通り)を、[3H]FAと共に0.1Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4)中でインキュベートすることにより、[3H]FA-FR放射性標識化抗原を作製した。十分な[3H]FAを添加して、FR濃度より10〜20%過剰に供給する。
【0110】
4.血清中のFRに対する自己抗体を同定するために、酸性化した血清(ステップ1より)を、1本目の試験管内の[3H]FA-FRを含む0.2Mベロナール溶液(pH8.9)に添加し;そして、2本目の試験管には、10〜20倍高濃度の非標識化FA-FRを[3H]FA-FRと共に添加した。反応のpHは約8.6であり、そしてこのサンプルを24時間4℃でインキュベートした。このpHにおいて、過剰量の遊離の[3H]FAは血清中のあらゆる可溶化アポFRに急速に結合し、次に自己抗体に結合する。自己抗体と放射性標識化FRとの複合体化が特異的である場合、この結合は第2の試験管中に含まれる過剰量の非標識化FA-FRによって競合阻害されるであろう。
【0111】
5.一晩のインキュベーションの後、すべてのIgGを結合するために十分なブドウ球菌プロテインA膜懸濁液をこの反応に添加し、そして4℃で10分間インキュベートした。
【0112】
6.サンプルを6000RPMで3分間遠心分離して、IgGを結合したプロテインAをペレット化した。
【0113】
7.上清画分を除去し、そしてペレット化した膜を、0.05%Triton X-100を含む0.01Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4)で3回洗浄した。
【0114】
8.洗浄したペレットをシンチレーション溶液または混合物中に懸濁して、放射能をシンチレーションカウンターで測定した。
【0115】
9.[3H]FA-FRサンプル中の放射能が、FRに結合した非標識化葉酸を含むアッセイよりも有意により高かったことは、試験した血清が自己抗体を含むことを示唆した。自己抗体の力価の定量的推定値は、受容体に結合した放射性標識化葉酸のモル量によって測定した。
【0116】
結果
FRに対する自己抗体は、試験群における12名の女性のうち9名(被験者#1〜#9)で検出された。自己抗体は、対照群(そのうち1名が妊娠していた)における2名の女性(被験者#16および#24)の血清中で同定された。対照群における残りの22名の女性由来の血清中で自己抗体は同定されず、18名は合計20の正常な妊娠をし、そして4名が妊娠しなかった。図1を参照せよ。
【0117】
実施例4
自己抗体-FR複合体の検出のための代替法
遊離の[3H]FA-FR抗原を自己抗体結合抗原から分離するためのプロテインA膜への代替法は、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、50%エタノール、ポリエチレングリコール、およびウサギまたはヤギにおいて生成したヒトIgG(もしくはIgM)に対する抗体による、免疫複合体の選択的な沈降を含む。
【0118】
実施例5
ELISAアッセイプロトコル
本発明の抗原(FR)を用いた自己抗体の検出のための生体サンプルの簡便な解析を容易にする試験キット。そのようなキットは、組換えまたは合成ペプチド、ならびに自己抗体を検出するための既に確立されたELISAおよびRIA技術の関連法を使用することができる。
【0119】
例えば、ELISAアッセイのために、キットは以下の成分を含み得る:
1.1以上の本発明のFR抗原;
2.酵素(例えば、ペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ);
3.コンジュゲートされた抗ヒト免疫グロブリン(動物:ヤギ、ウサギ等);
4.陽性対照および陰性対照。
【0120】
前記キットは、96穴プレート、比色試薬、ELISAリーダー、遮断試薬および洗浄バッファー等のバリエーションを含み得る。
【0121】
前記のキットは、あらゆる適切な実験必需品を含むように改変され得る。免疫沈降技術を用いることに加え、本発明は、FR自己抗体を検出することのできる他のあらゆる手順を使用して実施することができる。これらの手順の原理および実験的方法は、当業者によく知られている。アッセイは自己抗体に結合する天然型FRまたは組換えFRを使用することができる。全細胞および細胞溶解物の双方はまた、FR自己抗体を検出するためにも使用され得る。FRのアミノ酸配列は、自己抗体と反応するであろう免疫学的に反応性のあるエピトープを解明するために使用され得る。これらの配列は次に、組換えペプチドを用いて作製することができる。
【0122】
精製されたタンパク質またはタンパク質を産生する細胞の溶解物もまた、アッセイに使用され得る。さらに、本明細書に記載される実施例および実施形態は、説明を目的とするのみであり、そして様々な改良または改変が当業者に提案され、本明細書の精神および範囲内ならびに添付の特許請求の範囲に記載の範囲内に含まれるべきであることが理解されるべきである。
【0123】
実施例6
血清中のFRに対する遮断自己抗体の存在の測定
FRへの葉酸の結合における自己抗体の作用は、胎盤膜ならびに2つの培養細胞系(妊娠第1期のヒト胎盤由来のED27細胞およびヒト類表皮癌由来のKB細胞)を使用して測定した。胎盤膜は、ヒトの胎盤を3倍容量の0.01Mリン酸ナトリウムバッファー中でホモジナイズし、この膜を3000×gで遠心分離することでペレット化した後に同じバッファー中で3回洗浄することにより調製した。次にこの膜を0.1M酢酸中で5分間懸濁してFRに結合した葉酸を解離させ、3回洗浄して解離した葉酸を除去し、そして次に0.01Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4)中に再懸濁して、単位体積当たりの葉酸結合能を[3H]FAの結合により測定した。
【0124】
胎盤膜を使用して、200μlの1%膜懸濁液を活性炭処理済み試験血清と共に一晩4℃でインキュベートすることによって、FRへの[3H]FAの結合における自己抗体の作用を測定した。翌日、膜を氷冷PBSで洗浄し、そして1mlのPBS中の[3H]FA(125pg)を添加し、この懸濁液を30分間4℃でインキュベートした。次にこの膜を冷バッファーで洗浄し、1N NaOHで可溶化して放射能を測定した。
【0125】
ED27細胞およびKB細胞を各々3連で(in triplicate)、葉酸欠乏Dulbecco's Minimum Essential Mediumを10%ウシ胎仔血清および試験血清(双方とも活性炭で処理することにより遊離の内在性葉酸を除去した)と共に含むウェル1.83cm2中に20,000個の細胞となる密度でプレーティングし、一晩37℃でインキュベートした。翌日、ウェルの温度を4℃に低下させ、そして細胞を氷冷ハンクス平衡塩溶液(Hanks Balanced Salt Solution)(HBSS)で3回洗浄した。次に4℃の1mlのHBSS中の[3H]FA(125pg)をウェルに添加し、そしてインキュベーションを30分間継続した後、1mlの冷HBSSで3回洗浄した。次に細胞を500μlの1N NaOHで溶解し、放射能を測定した。このアッセイの結果を図6に示す。
【0126】
実施例7
培養物中の細胞による葉酸の取り込みを遮断するFRに対する自己抗体の存在の測定
KB細胞を用いた葉酸結合および細胞内取り込み実験のために、FRに対する自己抗体を結合するための結合マトリックスとして機能する胎盤膜を用いて、試験被験者の血清から自己抗体を単離した。FRに対する自己抗体を欠く対照被験者由来の血清も同様に処理した。10mlの各血清サンプルを胎盤膜と共に(1ml充填量)一晩4℃でインキュベートし、次に冷HBSSで何度も洗浄して血清中の非結合成分を除去した。膜上でFRに結合した自己抗体を、0.1%ウシ血清アルブミンを含む0.1M酢酸中で調製物を5分間懸濁することによって溶出させ、これをさらに2回繰り返した。画分をプールして、HBSSに対して一晩4℃で透析した。最終調製物を、一晩4℃での減圧透析によって濃縮した。
【0127】
KB細胞(20,000)を3.5cm2培養皿中に2連でプレーティングし、単離した自己抗体と共に一晩37℃でインキュベートした。対照血清も同様に処理し、KB細胞と共にインキュベートした。追加の対照として、KB細胞を単離した血清の画分を欠く培地中でインキュベートした。翌朝、細胞をHBSSで洗浄し、[3H]FA(125pg)を含む新鮮な培地をウェルに添加して、4℃でインキュベートした2連のセットと一緒に、15、30および60分間37℃でインキュベーションを継続した。次に細胞を4℃のHBSSで洗浄し、500μlの1N NaOHで溶解し、放射能を測定した。4℃および37℃での細胞の放射能における差は、[3H]FAの細胞内取り込みを示す。結果を図7に示す。
【0128】
実施例8
FRに対する遮断抗体による[3H]葉酸-FR複合体の結合についての結合定数(Ka)の測定
結合タンパク質(抗体等)とリガンド(抗原等)との相互作用についてのKaを測定するためのいくつかの方法がある。スキャッチャード・プロット(Scatchard, Ann. N.Y.Acad. Sci. 51:660,(1949))は、タンパク質とリガンドとの相互作用についてのKa値を測定するための多くの計算方法の1つである。BersonおよびYalowはこの方法を用いて、インスリンに対して生成した抗体によるこのホルモンの結合についてのKaを測定した(BersonおよびYalow, J. Clin. Invest. 38:1996, (1959))。
【0129】
アポFRを有する胎盤膜は、ヒトの胎盤を3倍容量の0.01Mリン酸ナトリウムバッファー中でホモジナイズし、この膜を3000×gで遠心分離することによりペレット化した後に同じバッファー中で3回洗浄することにより調製した。次にこの膜を0.1M酢酸中で5分間懸濁してFRに結合した葉酸を解離させ、3回洗浄して解離した葉酸を除去し、そして次に0.01Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4)中に再懸濁して、単位体積当たりの葉酸結合能を[3H]FAの結合により測定した。この膜調製物を、被験者の血清由来のFRに対する自己抗体と共に、一晩4℃でインキュベートした。次に[3H]FAを添加して、FRに結合した画分をFRの全葉酸結合能から差し引いて、自己抗体によって遮断された1リットル当たりのFRのpmolを得た。自己抗体が遮断した受容体の遊離のアポ受容体に対する割合は、スキャッチャード解析に用い、これは図8の挿入図に示す。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】図1は、指標被験者および対照被験者由来の血清中の葉酸受容体に対する自己抗体:以前にNTD妊娠をしたかまたは現在NTD妊娠をしている女性およびNTDの病歴のない女性由来の血清中のFRに対する自己抗体を検出する結合アッセイの結果を示す。青色棒線:指標被験者および対照被験者由来の血清を、[3H]葉酸-葉酸受容体とインキュベートしたもの。オレンジ色棒線:自己抗体への[3H]葉酸-葉酸受容体の結合を競合阻害する10倍過剰量の非標識化葉酸-葉酸受容体と共に前記のようにインキュベートしたもの。挿入図は、指標被験者および対照被験者について得られた平均値±標準誤差の値を表す。対照被験者1〜4は未妊婦であり、妊娠が確認できなかったために統計分析から除外された。P値はStudentのt検定を用いて決定した。図1A:*はこの測定に使用するには不十分な血清を示す。†被験者は血液採取の時点で妊娠していた。‡被験者10、11および12はNTDを合併した妊娠であり、葉酸受容体に対する自己抗体を欠如していた。図1B:被験者1〜4は未妊娠であり、5〜16は以前の妊娠がNTDを合併したものでなかった者、17〜24は血液採取の時点で妊娠していた者。§対照被験者16および24由来の血清は、葉酸受容体に対する自己抗体を含んでいた。
【図2】図2は、卵母細胞および顆粒膜細胞においてFRの発現が見られるラット由来の卵胞:ラットの卵胞において卵子を囲む顆粒膜細胞でFRが発現していることを示す。ラットFR(ラット胎盤から精製した)に対する抗体をウサギにおいて作製し、ラットの卵巣に存在するFRを特定するのに使用した。茶色/オレンジ色はFRを示す。aは卵母細胞、bは顆粒膜細胞。
【図3】図3は、上皮層および2つの胚においてFRの発現を示すラットの卵管(ヒトにおけるファローピウス管):ラットの卵管(ヒトにおけるファローピウス管)を裏打ちする上皮細胞が、自己抗体が結合し得るFRを発現し、従って、子宮への受精卵(胚盤胞の段階まで進んだもの)の進行を阻害する。自己抗体は上皮細胞による葉酸の取り込みを遮断することができ、そしてこれは、葉酸を必要とする細胞内代謝を阻害することによって不妊症の原因となる。FRに対する抗体はラットの生殖組織に存在する。茶色/オレンジ色はFRを示す。
【図4】図4は、子宮内膜層においてFRの発現を示すラットの子宮:葉酸受容体がラット子宮の子宮内膜層において高度に発現することを示す。ラットFR(ラット胎盤から精製した)に対する抗体をウサギにおいて作製し、ラットの子宮の子宮内膜に存在するFRを特定するのに使用した。茶色/オレンジ色はFRを示す。
【図5】図5は、ラットの副睾丸におけるFR発現:葉酸受容体がラットの副睾丸の上皮細胞で高度に発現することを示す。ラット胎盤から精製したラットFRに対する抗体をウサギにおいて作製し、ラットの副睾丸に存在するFRを特定するのに使用した。茶色/オレンジ色はFRを示す。
【図6】図6は、FRに対する遮断自己抗体を含む血清による、胎盤膜、KB細胞およびED27細胞におけるFRに結合する[3H]FAの遮断:ヒト胎盤膜および2つのヒト培養細胞系(ED27細胞およびKB細胞)への葉酸の結合を遮断するための、FRに対する自己抗体の能力を示す。各々の棒線における数字は、4℃において細胞膜でアポFRに結合する[3H]FAの自己抗体による遮断率を示す。その手順は実施例6に記載する。
【図7】図7は、KB細胞による[3H]FAの細胞内取り込みにおける、単離したFRに対する自己抗体の効果:培養したKB細胞による葉酸の取り込みを遮断するための、FRに対する自己抗体の能力を示す。FRに対する自己抗体は、実施例7に記載するように、2人の被験者の血清から単離した。KB細胞は、指標被験者(FR自己抗体を含む)(○)または対照被験者(FR自己抗体を欠如する)(△)のいずれかより単離した血清画分と共に、一晩37℃でプレインキュベートした。このインキュベーションの後、KB細胞による[3H]FAの取り込みを測定した。単離した血清画分を含まない対照インキュベーションは(◇)で示す。I棒線は標準誤差を示す。
【図8】図8は、葉酸受容体についての自己抗体の結合親和性の測定:5人の被験者の血清由来のFRに対する自己抗体の結合親和性定数(Ka)の図式的測定を示す。アポ葉酸受容体を有する胎盤膜を方法に記載するように調製し、自己抗体を含む血清と共に一晩4℃でインキュベートした。次に[3H]葉酸を添加し、葉酸受容体に結合した画分を葉酸受容体の全葉酸結合能から差し引いて、自己抗体によって遮断された(B)1リットル当たりの受容体のpmolを得た。自己抗体に遮断された受容体の遊離のアポ受容体に対する割合(B/F)は、スキャッチャード解析に用いて、見かけの結合定数(Ka)を算出し、これを挿入図に示す。
【図9】図9は、血清中のFRに対する遮断自己抗体の存在を検出する原理および手順を示す。
【図10】図10は、脳の脳室面および脈絡叢におけるFRの発現:ラット脳の脈絡叢で発現するFRを示す。FRに対するウサギポリクローナル抗血清を用いた脳組織の免疫組織化学。正常なウサギ血清(NRS)を陰性対照とした。茶色はFRに関するウサギ抗体の局在性を表す。vsは脳室面上皮、cpは脈絡叢。
【図11】図11は、小腸におけるFRの発現:ラットの腸粘膜において発現するFRを示す。ラットFRに対する抗体を含むウサギ血清による十二指腸(A)、空腸(B)および回腸(C)の免疫染色。免疫染色の強度が、十二指腸および空腸における細胞の表面で最も顕著であり(矢印で示す)、そして回腸の表面で実質的に減少しており、これは、小腸のこの領域におけるFRの発現が低減していることを示しているのに注目せよ。葉酸は主に近位小腸(十二指腸および空腸)において吸収される。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、細胞表面の葉酸受容体(FR)に対する自己抗体に関する。特に、本発明は、哺乳動物、特にヒトにおけるFRに対する自己抗体を検出するためのアッセイに関する。本発明はまた、FRに対する自己抗体の存在の結果として葉酸の細胞取り込み障害に関連した疾患、障害または症状の予防に関するものであり、前記自己抗体は、出生異常(例えば神経管欠損症、すなわちNTD)、不妊症、自然流産、男性不妊症、体外受精の失敗、神経障害および葉酸の腸内吸収障害等の葉酸感受性異常を引き起こす。本発明はそのような葉酸感受性異常を診断する方法を提供する。本発明はさらに、女性におけるFRに対する自己抗体を検出するためのアッセイに関し、そしてNTD等の胎児の合併症を伴う妊娠のリスクにある女性に対する診断的スクリーニングを提供する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
葉酸は、正常な胚発生に不可欠であり、それはこれが高増殖性胚細胞に必要とされる核酸およびアミノ酸の合成のための1炭素代謝に関与するためである(Lucock, Mol. Genet. Metab. 71:121(2000))。母性栄養、特に神経管欠損症(NTD)の予防のための葉酸摂取に関しては、過去40年間に渡って非常に注目が置かれてきた。NTDの予防のための葉酸摂取に関する初期の研究(HibbardおよびSmithells, Obstet. Gynaecol. Br. Commonwealth 71:529(1964);HibbardおよびSmithells, Lancet 1, 1254(1965);Smithallら, Arch. Dis. Child 51:944(1976))は、近年の無作為的な比較試験によって立証されてきた。これらの研究は、受胎前後の葉酸補給を受けた女性におけるNTDの発生および再発が約70%減少したことを示す(Laurenceら, Br. Med. J.(Clin. Res. Ed.)282:1509(1981);MRC Vitamin Study Research Group, Lancet 338:131(1991);CzeizelおよびDudas, N. Engl. J. Med. 327:1832(1992))。
【0003】
しかし、NTDおよび/または他の出生異常を有する乳児を出産する多くの母親は、臨床的な葉酸欠乏の徴候を示さない。従って、細胞性代謝または葉酸の取り込みを害する遺伝的欠陥を同定するために、広範囲に及ぶ研究が進められてきた。これらの遺伝的欠陥の作用は、葉酸の薬理学的摂取によって修正することができる(Kirkeら, Lancet 348:1037(1996))。葉酸の薬理学的摂取は、血漿のビタミン濃度を上昇させ、そして母体から胎児への十分な葉酸の輸送を提供することにより葉酸取り込みおよび/または細胞内代謝の障害を回避させ、それによって葉酸感受性先天異常の発生を減少させる。これまでに、葉酸代謝経路に関わるいくつかの酵素をコードする多くの候補遺伝子がNTDと関連して同定されてきた。しかし、これらの遺伝子は少数の出生異常の原因となるだけである(van der Putら, Exp. Biol. Med.(Maywood), 226:243(2001))。
【0004】
母体および/または胎児の胎盤細胞、ならびに正常または低レベルの血中葉酸の存在下における胚細胞による葉酸取り込みの減少は、葉酸の取り込みに必要とされる膜タンパク質の量的または機能的欠陥によって引き起こされ得る。これらの膜タンパク質の発現を変化させる遺伝的異常で、明確に同定されているものはない(De Marcoら, Am. J. Med. Genet. 95:216(2000);Barberら, Am. J. Med. Genet. 76:310(1998))。
【0005】
葉酸の細胞内への取り込みは、2つの異なる経路によって媒介される:多くの細胞に存在する完全膜貫通性タンパク質である還元葉酸輸送体(RFC)(Henderson, Annu. Rev. Nutr. 10:319(1990))、およびグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)付加体によって原形質膜に固定されており、葉酸受容体複合体の飲食作用によって葉酸を吸収する葉酸受容体(FR)(Antony, Annu. Rev. Nutr. 16:501(1996))。FRのイソ型は3種であり(α、β、γ)、これらは組織において異なるレベルで発現し、そして葉酸に対して異なる親和性を有する。葉酸の細胞内取り込みは、各々の受容体イソ型の発現レベルに依存する(Rossら, Cancer 73:2432(1994))。
【0006】
胚形成の間における葉酸の細胞内取り込みへのFRおよびRFCの寄与は、Piedrahitaらが、マウスにおけるヒトFRαの相同分子種(Folbp1)が胚の器官形成に不可欠である一方、ヒトFRβの相同分子種であるマウスFolbp2は胚形成においていかなる機能も持たないようであることを示すまで、評価されなかった(Piedrahitaら, Nat. Genet. 23:228(1999))。ヌル欠損型(nullizygous)Folbp1ノックアウトマウス胚(Folbp1-/-)は、深刻な先天性異常を有し、そして妊娠日数10日以上は生存しない一方で、ヌル欠損型Folbp2-/-、ヘテロ接合体Folbp1+/-またはFolbp2+/-胚は、野生型胚と比較して発達および生存度における違いを示さなかった(Piedrahitaら)。RFC遺伝子のノックアウトはまた、胚に致命的であることが分かった(Zhaoら, J. Biol. Chem. 276:10224(2001))。葉酸を与えられたヘテロ接合体RFCの母畜は、正常な期間でヌル欠損型RFC(-/-)の子供を出産した。これらの研究は、葉酸取り込みのためのRFCおよびFR経路の双方が胎児の発達に不可欠であることを示唆した。
【0007】
FRαはヒト胎盤合胞体栄養細胞層において発現する。高濃度のFRαおよびFRβ双方のイソ型が母体の胎盤組織において見られる(Prasadら, Biochem. Biophys. Acta. 1223:71(1994))。ヒト胚発生におけるFRの不可欠な機能は、葉酸の細胞内取り込みを確実に行うことである。母体から胎児への葉酸の輸送がFRαによって媒介されることが報告されている(Clarkら, Hum. Reprod. Update 7:501(2001))。このことは、葉酸感受性出生異常(神経管欠損症等)の原因となる候補遺伝子としてのFRα遺伝子についての研究を促した。しかしながら、FR遺伝子の発現またはFRタンパク質の機能に影響するヌクレオチド多型または突然変異で、NTDの発生率の原因と一致したものは同定されていない(Barberら;De Marcoら)。代わりに、NTDを合併した妊娠をしたほんの少数の女性は、メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)等の葉酸依存性酵素をコードする遺伝子に多型を有することが分かった(Christensenら, Am. J. Med. Genet. 84(2):151-57(1999))。
【0008】
関連遺伝子(酵素またはFRをコードする)の突然変異が先天性の形態形成異常の重要な原因であることの証拠は遺伝学研究によっては提供されておらず、従って、NTDおよび他の葉酸感受性異常が自己免疫疾患である可能性がある。いくつかのタンパク質に対する自己抗体は、不妊症、流産および胎児異常と関連付けられてきた(Coulam, Early Pregnancy 4:19(2000);Clarkら, Hum. Reprod. Update 7:501(2001))。いくつかの以前の研究は、妊娠したラットに投与した場合、ウサギにおいて産生された、腎臓、心筋、精巣、胎盤および他のラット組織に対する自己抗体が、用量依存的な先天性疾患および胎児の再吸収を引き起こすことを示した(Brentら, Proc. Soc. Exp. Bid. Med. 106:523(1961);BarrowおよびTaylor, J. Exp. Zool. 176:41(1971);Brent, Proc. Soc. Exp. Biol. Med. 125:1024(1967))。これらの異常を引き起こすメカニズムは明確ではなかった。しかし、投与された抗体は卵黄嚢に濃縮され、これは、抗体が胚への栄養の送達を阻害することを示唆した(SlotnickおよびBrent, J. Immunol. 96:606(1966))。従って、FRの葉酸結合部位(da CostaおよびRothenberg, Biochim. Biophys. Acta. 1292:23(1996))をブロックする抗体が葉酸の細胞内取り込みを阻害し得ると考えられた。そのような阻害は次に、正常な胚発生および胎児の発育に不可欠な細胞内の葉酸恒常性を害するであろう。
【0009】
自然流産または誘発流産もしくは後期流産をしたことのある女性は、後の妊娠において先天性NTD合併症のリスクが上昇するという証拠がある(Evans, Brit. Med. J. 1:975,(1979);Carmiら, Am. J. Med. Genet. 51:93,(1994);Cuckle, Prenat. Diagn. 3:287,(1983))。
【0010】
NTDの原因は多様であり、そして化学療法薬(特に抗葉酸剤(Hernandez-Diazら, N Engl J Med. 343:1608-14,(2000))、抗てんかん薬(Danskyら, Neurology 42:32-42(1992)))、染色体異常(Seller, Clin Dysmorphol. 4:202-07(1995))、環境的要因(Finnellら, Ann NY Acad Sci. 919:261-77(2000))および遺伝的要因(De MarcoおよびMoroni, Am J Med Genet. 95:216-23(2000))を含む。妊娠初期からの葉酸補給によって、NTDの発生が約70%減少することを示した研究(MRC Vitamin Study Research Group, 前記)は、損傷を受けた細胞内葉酸依存性酵素経路または葉酸の細胞内取り込み阻害剤のどちらかを葉酸が回避する証拠を提供する。しかしながら、葉酸補給によってNTDの発生が約70%減少することを説明し得る酵素経路の機能低下についての証拠はない。葉酸感受性障害がFRに対する自己抗体による葉酸取り込みの阻害によるか否かもまた分かっていない。従って、妊娠を開始した女性には、穀物または薬理的な葉酸補給が神経管欠損症等の先天性疾患を予防するのに役立つか否かが分からない。
【0011】
本発明は、不妊症、自然流産、体外受精の失敗もしくは出生異常等の葉酸感受性障害または状態が、葉酸受容体に対する自己抗体によって葉酸の取り込みが阻害されることによるものであることの開示に関する。本発明は、哺乳動物、特にヒトにおける葉酸受容体に対する自己抗体を検出するための確実なアッセイを提供する。
【0012】
発明の要旨
本発明は、葉酸感受性異常が被験体の体液(血清等)中の葉酸受容体(FR)に対する自己抗体の存在によって引き起こされることの開示に関する。そのような葉酸感受性異常は、神経管欠損症(NTD)、不妊症、自然流産、男性不妊症、子宮内着床後の体外受精の失敗、神経障害(例えば認知症)または葉酸の腸内吸収障害を含むが、これらに限定されない。
【0013】
本発明の1つの態様は細胞表面におけるFRに対する自己抗体の同定に関し、この自己抗体は葉酸取り込みを遮断し、そして結果として細胞内葉酸欠乏を生じ、それゆえに細胞内代謝に影響を与える。従って、被験体由来の生体サンプル中の葉酸受容体に対する自己抗体の存在を検出する方法が、本発明によって提供される。
【0014】
本発明の別の態様は、被験体由来の生体サンプル中の葉酸受容体に対する遮断自己抗体の存在を検出する方法に関する。
【0015】
本発明のさらに別の態様は、被験体由来の生体サンプル中のFRに対する自己抗体を検出する試験キットに関する。
【0016】
本発明のなお別の態様は、被験体由来の生体サンプル中のFRに対する遮断自己抗体を検出する試験キットに関する。
【0017】
1つの態様において、本発明は、被験体由来の生体サンプル中のFRに対する自己抗体の存在を検出することによって、異常または障害のリスクがある被験体において葉酸感受性異常または障害を診断する方法を提供する。
【0018】
別の態様において、本発明は、女性由来の生体サンプル中のFRに対する母体の自己抗体の存在を検出することによって、神経管欠損症を合併した妊娠をするリスクがある女性をスクリーニングする方法を提供する。
【0019】
さらに別の態様において、本発明は、葉酸感受性異常または障害の予防のための方法を提供する。
【0020】
発明の詳細な説明
本発明は、神経管欠損症(NTD)、不妊症、自然流産、体外受精の失敗、神経障害(例えば認知症)または葉酸の腸内吸収障害等の葉酸感受性異常が、被験体の体液(血清等)中の葉酸受容体(FR)に対する自己抗体の存在によって引き起こされることの開示に関する。
【0021】
「試験群」または「指標群」は、各々の女性が中枢神経系の異常な胎児発達を伴う妊娠を以前にしたかもしくは現在している女性、または以前に先天性異常を有する乳児を出産した女性の群を意味する。「対照群」は、以前に正常な妊娠をした女性、NTDである乳児を出産したことのない女性、妊娠したことのない(未妊娠)女性または出産したことのない(未経産)女性を意味する。
【0022】
「診断」("diagnosing", "diagnosis")、「検出」または「スクリーニング」は、患者の病歴の評価、血清または被験体の他の体液における葉酸受容体に対する自己抗体の存在を検査および同定することを通して、葉酸感受性異常または障害の存在、特徴および原因を同定または決定する行為またはプロセスを意味する。
【0023】
「被験体(者)」は、人等のあらゆる哺乳動物被験体を意味する。好ましい被験体は、NTDである乳児を以前に出産した女性、NTDである受胎産物を伴う妊娠をした女性、自然もしくは誘発流産または後期流産をした女性である。別の好ましい被験体は、体外受精処置における卵子提供者(つまり女性)または精子提供者(つまり男性)である。「指標被験体」は、指標群または試験群内の被験体を意味する。
【0024】
「対照被験体」は、対照群内の被験体を意味する。あらゆる特定の理論に束縛されることを意図することなく、誘発流産または流産をした女性は、いかなる葉酸感受性発達異常もないが、FRに対する自己抗体を発現した可能性があると考えられている。従って、そのような女性もまた本発明において対照被験体として見なされる。
【0025】
「リスク」は、不妊症、自然流産、子宮内着床後の体外受精の失敗、神経障害(例えば認知症)または葉酸の腸内吸収障害等の葉酸感受性異常または障害を患う、それらが進行する、またはそれらを有する頻度または可能性を意味する。本発明による「リスク」はまた、NTD等の先天性出生異常を有する乳児の出産、または先天性出生異常を有する受胎産物を伴う妊娠の継続を暗示する。
【0026】
「予防」("prevention"または"prevent")は、障害もしくは異常の発生を防ぐために、または異常もしくは障害を有するリスクを有意に低減させるために、十分時間をかけて異常や障害を有するリスクが予測または判断され得ることを意味する。
【0027】
「生体サンプル」は、哺乳動物のあらゆる組織から採取された試験のための臨床的サンプルを意味し、好ましくは哺乳動物由来の体液、より好ましくはヒト由来の血清である。「対照サンプル」は、自己抗体についてのアッセイをされる被験体と同種または相同種であり、そして正常な生体状態(例えば葉酸受容体に対する自己抗体が検出されない)を有することが分かっている被験体から採取された生体サンプルを意味する。対照サンプルは、対照被験体から採取したサンプルを含む。
【0028】
「抗体」は、あらゆるクラスまたはサブクラスの免疫グロブリン、その一部またはその活性断片を指し、ここで、抗体の活性断片はその特異的結合能を保持する。本明細書で用いる「自己抗体」は、被験体内の被験体自身の体の成分に対する抗体(例えばIgG抗体)を指す。「自己免疫疾患」は、被験体の免疫系が誤って攻撃し、そして被験体自身の体細胞および/もしくは組織の破壊を導く障害または症状を指す。「葉酸受容体(FR)に対する自己抗体」は、FRの任意のイソ型(FRのαおよびβイソ型を含む)またはペプチド配列に対するあらゆる自己抗体を指す。本発明においては、FRに対する自己抗体もまた抗FR自己抗体と呼ぶ。
【0029】
「細胞膜葉酸受容体(FR)」または「細胞表面葉酸受容体(FR)」は、細胞の表面/膜におけるあらゆる葉酸受容体(FR)を指し、「循環葉酸受容体(FR)」は、被験体の体液中で循環する葉酸受容体のあらゆるイソ型またはその抗原成分を指す。「アポFR」は、結合するリガンド(つまり葉酸)のないあらゆる葉酸受容体を意味する。
【0030】
本明細書で用いる「葉酸結合能」は、膜またはマトリックスの単位体積当たり(例えばml当たり)の、膜またはマトリックスにおいてFRに結合した葉酸の定量的な量を意味する。
【0031】
本明細書で用いる「細胞」は、葉酸と結合しそして葉酸を吸収する組織培養細胞系のあらゆる細胞または特定の組織/臓器中のあらゆる細胞であってよく、それらは例えば哺乳動物の卵胞において卵子を囲む顆粒膜細胞、哺乳動物の卵管(つまりヒトのファローピウス管)を裏打ちする上皮細胞、哺乳動物子宮の子宮内膜の細胞、哺乳動物の胎盤の細胞、哺乳動物脳の脈絡叢の細胞、哺乳動物の腸粘膜またはあらゆる哺乳動物の培養細胞系(例えばKB細胞)である。
【0032】
「遮断自己抗体」は、抗原の抗原成分に結合して抗原の機能を遮断する自己抗体を指し、この場合、葉酸の細胞膜FRへの結合およびそれに続く葉酸の細胞による取り込みを遮断する。
【0033】
「葉酸補給剤」は、特に葉酸受容体に対する自己抗体による葉酸取り込み機構の遮断による細胞内葉酸欠乏を克服するために、被験体へ投与される葉酸またはフォリン酸を意味する。「薬理量」は、欠乏または障害を克服するための通常より非常に多い量を意味し、例えば本発明における葉酸補給剤の薬理量は成人女性に対し、少なくとも毎日0.8mgの葉酸であり、毎日4mg以下であることを指し得る。
【0034】
「標識」、「標識化」または「検出可能な標識化」は、検出可能なマーカーの結合を指し、例えば、放射性標識化合物、または標識化アビジン等の2次成分の結合により検出することができるビオチン等の、化合物もしくはポリペプチドに付着した成分を結合させることによる。ポリペプチド、核酸、炭水化物および他の生体または有機分子を標識する様々な方法が当技術分野で知られている。そのような標識は、当技術分野で知られているかまたは最近開発された、放射能、蛍光、色素、化学発光または他の読み取り(readout)等の様々な読み取りを有し得る。読み取りは、β-ガラクトシダーゼ、β-ラクタマーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼ等の酵素活性、3H、14C、35S、125Iもしくは131I等の放射性同位体、緑色蛍光タンパク質(GFP)等の蛍光タンパク質、またはFITC、ローダミンおよびランタノイド等の他の蛍光標識に基づくものであり得る。必要に応じて、これらの標識は、その用語が当技術分野において理解されているように、レポーター遺伝子の発現産物であり得る。
【0035】
本明細書で用いる「治療("treating"または"treatment")」は、症状の開始(つまり臨床徴候)後に、臨床症状を改善、抑制、軽減または除去することを意味する。効果的または有効な治療は、臨床的に目に見える改善を提供する。
【0036】
「特異的結合メンバー」は、沈降等によって、互いに非特異的に結合するようになるというよりむしろ、互いに特異的に結合することが可能な2つ以上の成分の群のメンバーを指す。特異的結合メンバーの例示は、抗原-抗体、受容体-リガンドおよび核酸-核酸の組合わせを含むが、これらに限定されない。
【0037】
第1の特異的結合メンバーの、少なくとも1つの他の特異的結合メンバーとの結合についての文章中における「特異的」、「特異的に」、「特異的に結合する」または「特異的結合反応」は、優先的かつ非特異的ではない結合を指す。好ましくは、特異的結合反応は特異的結合メンバーに特有であるが、そうでなくてもよい。
【0038】
「検出可能な結合」は、1つの特異的結合メンバーと少なくとも1つの他の特異的結合メンバーとの検出可能な特異的結合を指す。例えば、1つの特異的結合メンバーは、検出できるように標識することにより、検出可能な標識の存在が特異的結合事象を表示するようにする。そのような検出可能な結合の検出限界は、使用する検出可能な標識および用いる検出法または装置に関連している。「検出可能な標識」は、検出可能な標識の結合を指す。
【0039】
「組織」は、当技術分野において知られているように、細胞の集合体を指す。細胞の「培養物」は、当技術分野で知られているように、細胞の集合体であり、細胞のクローン集団または混合された細胞の集団であり得る。
【0040】
「サンプル」は、例えば細胞または細胞由来の細胞抽出物、組織、生体サンプル、組織抽出物を含むあらゆる身体サンプルを包含する。サンプルは、被験体または動物またはその一部分等の生物資源由来、あるいは細胞培養物由来であり得る。生物資源由来のサンプルは、正常もしくは異常な生物(NTD等の状態または病状を患う生物等)またはそれらの一部由来であり得、そして健康もしくは異常な(例えば罹患した)体液、組織または臓器を含むあらゆる液体、組織あるいは臓器由来であり得る。
【0041】
本発明は、被験体由来の生体サンプル(例えば女性の血清)中の、細胞表面の葉酸受容体(FR)またはそのあらゆるFRイソ型に対する自己抗体の同定に関する。特定のメカニズムに束縛されることを意図することなく、自己抗体は葉酸取り込みを遮断し、そして結果として細胞内葉酸欠乏を生じ、それゆえに細胞内代謝に影響を与えると考えられている。
【0042】
本発明の1つの実施形態は、被験体の生体サンプルにおいて、葉酸受容体(FR)に対する自己抗体または抗FR自己抗体の存在を検出する方法に関し、以下を含む:
a.生体サンプルを酸性化して、pHを約3.0〜約5.0、好ましくはpH約3.5にすることにより、抗FR自己抗体および内在性葉酸を、in vivoにおいて細胞膜から放出された後に循環している内在性FRから酸性条件下で解離させることにより、生体サンプル中のアポFRを生成し、
b.解離した内在性葉酸を、好ましくは解離した葉酸をデキストランまたはヘモグロビンでコートした活性炭へ吸着させることによって除去し、
c.次に生体サンプルを標識化葉酸(FA)と共にpH約8.0〜pH約8.9、好ましくはpH約8.6でインキュベートして、塩基性pH条件下で標識化FAを生体サンプル中に存在するアポFRに結合させることによって標識化FRの作製を可能にし、
d.ステップcの生体サンプルを標識化精製FRと共にインキュベートし、内在性FR濃度が低い可能性があり、従ってすべての自己抗体を検出するのに十分でないために、これらの追加のFRを生体サンプルに添加し、および塩基性pHにおいて、ステップaで内在性FRから解離した自己抗体が、低濃度の標識化内在性FR(つまりステップcの標識化FR)またはさらなる標識化精製FRのどちらかへ結合し、
e.生体サンプル中に存在する抗FR自己抗体と標識化FR(精製化または内在性FRのどちらか)との間の免疫複合体の形成を検出および定量し、それによって、免疫複合体を検出および定量するために、担体IgGの添加と共に硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、アルコールもしくはポリエチレングリコールによる免疫複合体の沈降によって、または免疫グロブリン結合剤(例えば、同様に検出可能に標識された抗IgGおよび/または抗IgM抗体)を添加し、それと共にインキュベートし、沈降させることによって、好ましくは、反応物にプロテインA膜懸濁液(例えば、ブドウ球菌(Staphylococcus)プロテインA膜懸濁液)を添加し、すべてのIgG(自己抗体を自己抗体-FR免疫複合体の形で含む)がプロテインA膜に結合するのに十分な時間に渡って低温で(例えば4℃で10分間)インキュベートすることによって、免疫複合体を分離することができ、それにより、免疫複合体の存在が、被験体が抗FR自己抗体を有することの指標となる。
【0043】
本発明の前記方法の例示は以下のステップを含む:
a.被験体の生体サンプルを酸性pH、好ましくは約pH3.5に酸性化し、
b.例えばデキストランでコートした活性炭を添加して酸性化サンプル中の解離した葉酸を吸着させることによって、酸性化サンプルから解離した葉酸を除去し、
c.可溶化FR、好ましくは非凝集化FRまたは単量体FRを被験体と同じ種である哺乳動物の細胞膜から精製し;そしてサンプルの酸処理により可溶化FRタンパク質に結合した内在性葉酸を解離させ、その後、活性炭処理し、pHを7.4まで上昇させた後、得られたアポFRを葉酸アフィニティマトリックスに結合させる。得られた精製FRを、酸性pH、好ましくはpH3.5でアフィニティマトリックスから溶出させ、pH約7.4に中和する。
【0044】
d.ステップcの精製FRを葉酸(FA)(アッセイによって視覚化または検出できるいくつかの方法で標識化(例えば放射性[3H]での標識化)されたもの)と共に中性pH、好ましくはpH7.4においてインキュベートして、標識化FA-FR抗原複合体(例えば[3H]FA-FR)を作製する。十分な標識化FR(例えばFRの濃度を10〜20%超過する標識化FA)を添加することにより溶液中のすべての精製FRを少なくとも1つの標識化FAと結合させ、溶液中には遊離のまたは結合していない過剰量の標識化FAがあるようにし、
e.ステップdの溶液を、塩基性pH、好ましくはpH8.9に、より好ましくはpH8.9の0.2Mベロナール溶液で調整し、
f.ステップeの溶液を第1試験管および第2試験管に等分し、10〜20倍高濃度の非標識化FA-FRを第2試験管に添加し、
g.等容量のステップbのサンプルをステップfの第1および第2試験管に添加し、そしてこの混合物を十分な時間に渡り低温で(例えば24時間4℃で)インキュベートすることにより、生体サンプル由来のFRに対する自己抗体が、生体サンプル中のより低濃度の可溶化FRに対してよりも、より高濃度の標識化FA-FRに選択的に結合するようにする。標識化FA-FRの自己抗体への結合が特異的な場合、この結合は第2試験管に含まれる過剰量の非標識化FA-FRによって競合阻害され、
h.ステップgにおけるインキュベーションの後に、得られた標識化FA-FRを標識化FA-FR-自己抗体複合体から分離し、それは例えば、反応物にプロテインA膜懸濁液、好ましくはブドウ球菌プロテインA膜懸濁液を添加し、そしてすべてのIgGがプロテインA膜に結合するのに十分な時間に渡り低温で(例えば4℃で10分間)インキュベートすること、あるいはさもなくば、抗IgGまたは抗IgM抗体(例えば硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、50%エタノール、ポリエチレングリコール中のヒトIgG(もしくはIgM)に対する、ウサギもしくはヤギにおいて生成した抗体)を添加することによるものであり、
i.ステップhで得られた産物を、ステップhの標識化FA-FR-自己抗体複合体(例えば、プロテインAまたは抗IgG(もしくは抗IgM)抗体によって結合された複合体)を沈殿させるのに十分な速度および時間に渡り(例えば6000RPMで3分間)遠心分離し、
j.上清画分を除去し、そしてペレットを洗浄液(例えば、0.05%Triton X-100を含む0.01Mリン酸ナトリウムバッファー、pH7.4)で3回洗浄し、
k.洗浄したペレットをシンチレーション溶液中に懸濁し、シンチレーションカウンターを用いて存在する放射能を測定し、
l.第1試験管および第2試験管由来のペレット中に存在する標識の量を比較する。第1試験管由来のペレットの標識(例えば放射能)が、第2試験管由来のペレットの標識より有意に大きい場合、試験される生体サンプルがFRに対する自己抗体を含むことを示唆する。自己抗体力価の定量的推定値は、標識化された結合受容体の量によって測定される。これは、実施例2に記載する方法によってFRに結合した標識化FAのモル当量となるであろう。
【0045】
本発明の別の実施形態は、被験体由来の生体サンプル中において葉酸のFRへの結合を遮断する自己抗体(つまり遮断自己抗体)の存在を検出する方法に関し、以下を含む:
a.FR結合マトリックスを得ること(例えば、3倍容量のバッファー中でヒト胎盤をホモジナイズし、遠心分離によって膜をペレット化し、次に同じバッファー中で3回洗浄することにより、胎盤膜を調製する)、
b.マトリックスにおけるFRに結合した葉酸を、前記マトリックスをpH約3.0〜pH約5.0、好ましくはpH約3.5で酸性化することにより解離して、マトリックスにおいてアポFRを作製し、
c.ステップbの解離した葉酸を除去し(例えば、酸性バッファー中でマトリックスを洗浄することによる)、
d.pH約7.0〜pH約8.6、好ましくはpH約8.6でマトリックスを再懸濁し、
e.単位体積当たりの葉酸結合能を測定し(例えば、マトリックスの一部に一定量の標識化葉酸を添加し、洗浄して遊離の標識化酸を除去し、そして単位体積当たりのマトリックス(例えばマトリックスの1ml当たり)においてFRに結合した葉酸の量を定量することによる)、
f.生体サンプルから遊離の葉酸を除去し(例えば、生体サンプルを酸性化し、そして酸性化生体サンプルをデキストランまたはヘモグロビンでコートした活性炭で処理することによる)、
g.対照サンプルを得、それによって対照サンプル中の遊離の葉酸が、対照サンプルの酸性化およびデキストランまたはヘモグロビンでコートされた活性炭で対照サンプルを処理することによって除去され、
h.ステップdの懸濁化マトリックスを、ステップfの前記生体サンプルと共にpH約8.6のバッファー中でインキュベートし、
i.ステップdの懸濁マトリックスを、ステップgの前記対照サンプルと共にpH約8.6のバッファー中でインキュベートし、
j.ステップhおよびステップiの前記マトリックスを洗浄(例えば冷バッファーで)し、そして両方の生体サンプルについて膜懸濁液の葉酸結合能を測定し、
k.ステップjの前記マトリックスを標識化葉酸と共にインキュベートし、
l.ステップhのマトリックスの、およびステップiのマトリックスへの標識化葉酸結合能を測定および定量し、それによって、ステップiの前記マトリックスへの標識化葉酸結合と比較した場合の、ステップhのマトリックスへの標識化葉酸結合の減少は、被験体においてFRへの葉酸の結合を遮断する自己抗体の存在を示唆する。
【0046】
好ましい実施形態において、本発明のFRは、前記のように、検出可能に標識化される。
【0047】
本発明によれば、FRに対する自己抗体を同定する方法は、精製したFR、好ましくは非凝集化FRまたは単量体FRを使用し、それは例えばヒトの胎盤等の哺乳動物の胎盤より単離される膜タンパク質から調製される。例えば実施例2を参照せよ。可溶化胎盤FRは、内在性葉酸を解離し、そしてSepharose 6B等のマトリックスに内在性葉酸を結合させることによりFRを精製した後、試薬抗原となる(Sadasivanら, Biochim. Bioph. Acta. 925:36-47(1987))。FRは、酸性pH、好ましくはpH3.5でマトリックスから溶出され、そしてpH約7.4に中和される。調製されたFRは、放射性アッセイまたはELISA等の非放射性アッセイのどちらかに用いられ得る。
【0048】
従って、本発明の特定の実施形態は、ELISAアッセイによって被験体の体液(例えば女性の血清)中の葉酸受容体(FR)に対する自己抗体を同定する方法に関する。企図される方法は、ELISAプレートのウェルを前記のステップcの精製された葉酸受容体タンパク質でコーティングすること;前記のステップa〜bに記載されるように調製された処理済みサンプルをウェル中に含まれる中和バッファーに添加すること;インキュベーション後にウェルを中性バッファーで洗浄し、次に2次ビオチニル化抗ヒトIgG抗体をウェルに添加すること;インキュベーション後にウェルを再び同じ洗浄バッファーで洗浄し、次にアビジン-ビオチン-アルカリホスファターゼ(またはペルオキシダーゼ)複合体を添加すること;およびさらなるインキュベーションの後に色素基質(p-ニトロフェニルホスフェート)を添加すること;発色強度を、マイクロタイタープレートリーダーにおいて405〜420nmでの吸光度を読むことにより定量することを含む。この技術はまた、2次ビオチニル化抗ヒトIgM抗体を使用した葉酸受容体に対するIgM自己抗体のアッセイにも用いることができる。
【0049】
別の特定の実施形態において、本発明は、放射性標識化FRの結合によって女性の血清中の葉酸受容体(FR)に対する自己抗体を同定する方法に関する。本発明によれば、自己抗体について試験をされる被験者由来の血清は、酸または酸性試薬によって酸性化され、血清のpHを約3.5に調整する。そのような酸または酸性試薬の例示は、グリシン-HClまたは他の酸性バッファーを含む。酸性pHにおいて、血清中の可溶性FRは循環自己抗体から解離される。酸性pHはまた、あらゆる血清受容体から内在性葉酸を解離する。次に、解離した葉酸は当業者に知られている技術(解離した葉酸を結合するための、デキストランでコートされた活性炭の添加等)によって血清から除去される。酸性化された血清は、精製されたFRからなる[3H]FA-FRと混合し、前記のように、過剰量の、好ましくは約10〜20%、より好ましくは約20%の放射性標識化葉酸([3H]FA)を用いて調製する。[3H]FA-FRは、血清と混合する前に酸性pHの溶液中、好ましくはpH約8.9の溶液中に存在する。より好ましくは、[3H]FA-FRはpH約8.9の0.2Mベロナール溶液中に存在する。調製されたFRおよび酸性化血清を混合する場合、得られるpHは8.6であり、そして被験者の血清中のFRに対する自己抗体は、血清中のより低濃度の可溶性FRよりも、より高濃度の放射性標識化FRに選択的に結合する。自己抗体-FR免疫複合体は、ブドウ球菌プロテインA膜に吸着する。この膜を3回洗浄し、そして次にシンチレーション溶液中に懸濁する。放射能をシンチレーションカウンターにて検出する。アッセイしたサンプル中の放射能を対照(前記の第2試験管)([3H]FA-FR複合体を過剰量の非標識化FA-FR複合体と共に含む)における放射能と比較する。対照サンプル中の非標識化FA-FR複合体は、好ましくは少なくとも[3H]FA-FR複合体の濃度の10倍以上の濃度である。血清中にFRに対する自己抗体が存在しない場合、第1および第2試験管双方におけるプロテインAは、血清中のFRに対する自己抗体ではない他のIgGまたは抗体に結合するだけであろう。FRに対するものではない自己抗体、IgGまたは抗体は、[3H]FA-FRで特異的に標識化されないであろうし、それゆえに[3H]FA-FRは洗い流されるであろう。従って、放射能は第1または第2試験管のどちらにおいても検出され得ない。血清中にFRに対する自己抗体が存在する場合、第1試験管内のプロテインAはこれらの自己抗体に特異的に結合するであろうし、そしてそのような自己抗体は洗浄後でもなおプロテインAに結合しているであろう一方で、第2試験管内の自己抗体-[3H]FA-FR複合体の形成における[3H]FA-FRは、過剰量の非標識化FA-FRによって競合阻害されるであろう。従って、第2試験管内のペレットは自己抗体-FA-FRと結合したプロテインAであろうし、それゆえに非常に低水準の放射能が検出される。従って、試験サンプル(第1試験管)由来のプロテインA膜の放射能が対照サンプル(第2試験管)のプロテインA膜の放射能より大きい、好ましくは5倍またはそれ以上大きい場合、FRに対する自己抗体が被験者に存在すると結論付けられる。FRに対する自己抗体の存在は、被験者が胎児の合併症を伴う妊娠のリスクまたは葉酸感受性異常のリスク(例えばNTD等の先天性出生異常を有する乳児の出産)にあることを示唆する。放射性標識化FRを使用したアッセイ方法の例示は、以下の実施例3で説明する。
【0050】
本発明のさらに別の実施形態は、ヒトまたは相同種由来の精製されたFR、好ましくは非凝集化FR、被験体由来の生体サンプルを処理(例えば酸性化)するための試薬、標識化葉酸、および精製されたFRと抗FR自己抗体との複合体を検出する少なくとも1つの指標物質を含む、被験体由来の生体サンプル中のFRに対する自己抗体を検出するための試験キットに関する。陽性の結果は、被験者におけるFRに対する自己抗体の存在を示唆し、それゆえに被験体が不妊症、自然流産、男性不妊症、体外受精処置の失敗、神経障害もしくは葉酸の吸収障害、またはNTD等の胎児の合併症を伴う妊娠をすることへのリスクが高いことを立証する。
【0051】
「試験キット」は市販のパッケージであり、アッセイに必要な物質を含む。
【0052】
本発明のなお別の実施形態は、ヒトまたは相同種由来のアポ-FR、被験者由来の生体サンプルを処理するための試薬、標識化葉酸、および反応物中に残留するアポ-FRを検出する少なくとも1つの指標物質を含む、被験者由来の生体サンプル中のFRによって葉酸の結合を遮断するFRに対する自己抗体を検出するための試験キットに関する。この試験キットの企図される成分および方法の原理は、図9で説明する。アポ-FRは、マトリックス(ヒトの胎盤膜等の膜、または炭化水素鎖もしくは他の疎水性マトリックスを介して)に結合した精製されたグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)-FR、あるいはマトリックスに共有結合的に結合したFRであり得る。標識化葉酸(FA)は、担体、例えば酵素または放射性標識または蛍光マーカーまたはビオチンに結合したFAを指す。得られた結合化FA(担体に結合している)が、試験する生体サンプルの不存在下または対照サンプルの存在下で実施される対照インキュベーションと比較して減少していることは、FRに対する遮断自己抗体の存在を示唆し、FRに対する遮断自己抗体の力価を提供する。図9Aおよび図9Bを参照せよ。
【0053】
従って、本明細書で提供される本発明の試験キットはまた、遮断自己抗体の力価を測定することができる。本発明の試験キットはまた、前記FRに対する遮断自己抗体の見かけの結合定数(Ka)を測定するために使用することができる。
【0054】
本発明によれば、葉酸の細胞内取り込みにおけるFRに対する自己抗体の生物学的作用は、2つのパラメーターの関数である:体液中の自己抗体の力価および細胞膜においてFRに結合する自己抗体の結合性(つまり結合定数、Ka)。自己抗体が高い結合定数(Kaが109〜1010L/mol)を有し、そして自己抗体の力価が高い(つまり、すべてのFRに結合するのに十分である)場合、これは葉酸の細胞内取り込みを遮断して、細胞内の葉酸欠乏をもたらすであろう。この抗体の作用のシナリオを回避するために、非常に大量の薬理量の葉酸を投与しなければならない。FRへの自己抗体の結合についての見かけのKaがより低い場合(例えば106〜107L/mol)、この力価が細胞膜におけるすべてのFRに結合するのに十分である場合であっても、はるかに低濃度の葉酸がFRへの結合について自己抗体と競合するのに十分となり得、それゆえに細胞内の葉酸欠乏を予防する。従って、FRへの結合についての自己抗体の自己抗体力価および見かけのKaの異なる組み合わせが、細胞内葉酸代謝における自己抗体の生物学的作用の予測となり得る。第3の要素もまた発生し得る:自己抗体の力価が非常に高い場合、葉酸の欠乏を伴わずに組織損傷を引き起こし得る急性の免疫反応となり得る。
【0055】
本発明の特定の実施形態において、試験キットにおけるFRはマトリックス、好ましくは疎水性マトリックス、より好ましくはヒトまたは相同種由来のFRを含む胎盤膜に結合している。
【0056】
本発明によれば、試験キットにおける指標物質は、酵素、放射性標識、蛍光マーカーまたはアビジンと複合体化したビオチンからなる群より選択される。
【0057】
1つの実施形態において、本発明は異常または障害のリスクにある被験者における葉酸感受性異常または障害を診断する方法に関し、前記の方法に従って、生体サンプル中のFRに対する自己抗体の存在を検出することを含む。
【0058】
別の実施形態において、本発明は神経管欠損症を伴う妊娠をするリスクがある女性をスクリーニングする方法に関し、前記の方法に従って、女性由来の生体サンプル中のFRに対する母体自己抗体の存在を検出することを含む。本方法は、前記の方法(例えば、放射性アッセイによってまたはELISAアッセイによってのどちらか)を用いて、女性の血清中のFRに対する自己抗体を同定することを含む。FRに対する自己抗体の検出または同定は、胎児の合併症を伴う妊娠をするリスクまたはNTD等の先天性異常を有する乳児を出産するリスクを回避するのに用いることができる。
【0059】
本発明によって、NTD等の葉酸感受性の先天性中枢神経系疾患の原因が同定されてきた。特に、本発明者らは、FRに対する母体自己抗体が、NTD等の中枢神経系疾患を有する乳児を出産する可能性を上昇させることを見出してきた。
【0060】
例えば、本発明によれば、以前に中枢神経系疾患を有する乳児を出産したかもしくはNTDを有する胎児を伴う妊娠をしたか、あるいは自然流産もしくは誘発流産または後期流産をしたかのいずれかの女性由来の血清は、前記のアッセイを用いてFRに対する自己抗体を解析することができる。本発明によれば、FRに対する自己抗体の同定は、妊娠時にビタミンの取り込みが起こることを確実にするために、女性が次回の妊娠を開始する前に葉酸またはフォリン酸についての処方を受けるべきであることを示唆する。
【0061】
本発明によれば、発明者らは、ラットにおけるFRに対する抗血清が胚および胎児の異常を誘導し得ることを発見してきた。本発明に従って、胚におけるNTD等の葉酸感受性の先天性中枢神経系疾患が、自己免疫疾患から生じることを発見してきた。特定のメカニズムによって束縛されることを企図することなく、葉酸感受性の先天性異常は生殖組織および胚における母体葉酸受容体に対する自己抗体によって引き起こされ、これは細胞内葉酸取り込みを阻害し、それゆえに正常な胚発生に不可欠な母体から胎児への葉酸の輸送に影響を及ぼす。
【0062】
本発明によれば、本発明に記載される、被験者の血清中の葉酸受容体に対する自己抗体を同定または検出するためのアッセイまたは方法は、女性が催奇形性異常(例えばNTD)を有する乳児を出産するリスクの強力な徴候を提供する。被験体はあらゆる哺乳動物被験体、特定的にはヒト、さらに特定的には以前にNTDを有する乳児を出産したか、もしくはNTDを有する胎児を伴う妊娠をしたかのどちらかの女性、あるいは自然流産もしくは誘発流産または後期流産をした女性であり得る。アッセイする生体サンプルは、血清または血漿である。特定のメカニズムに束縛されることを望むことなく、本発明において検出される自己抗体は、葉酸のその受容体への結合を阻害または遮断し、それゆえに初期胚による葉酸の取り込みを阻害すると考えられている。結果として、この阻害がNTDまたは他の葉酸感受性の先天性出生異常を導く。
【0063】
従って、前記のアッセイまたは方法を用いて、中枢神経系の異常な発達を伴う妊娠を以前にしたかもしくは現在しているかのどちらかの女性、またはNTD等の先天性異常を有する乳児を出産した女性において、FRに対する自己抗体について血清を調べることにより、本発明者らは、脊髄異常を有する乳児を出産した女性においてFRに対するそのような自己抗体を同定してきた。例えば、1つのアッセイにおいて、試験群の12名のうち9名(75%)の女性(図1の被験者#1〜9)からの血清は、それらの血清中にFRに対する自己抗体を有した。12名の女性からなる群は、各自が中枢神経系の異常な発達を伴う妊娠を以前にしたかまたは妊娠中であったかのどちらかであった。反対に、対照群における女性2名(図1の被験者#16および24)だけがその血清中にFRに対する自己抗体を有していたが、NTDを伴う妊娠はしていなかった。
【0064】
本発明の別の実施形態は、FRに対する自己抗体を検出する方法を提供し、これは哺乳動物被験体、好ましくはヒト被験者における不妊症、自然流産、体外受精の失敗、神経障害(例えば認知症)または葉酸の腸内吸収障害、特に葉酸の異常代謝もしくは取り込みに起因することの診断において有用となり得る。
【0065】
特定の実施形態において、本発明は不妊症、自然流産または男性不妊症のリスクを有する被験者を、被験者の血清中のFRに対する自己抗体を検出することによって診断する方法に関する。
【0066】
本発明によれば、FRはラットまたはヒト等の哺乳動物の卵胞において卵子を囲む顆粒膜細胞で発現する(図2)。顆粒膜細胞におけるFRへの自己抗体の結合は、成熟した卵子が卵管(つまりファローピウス管)内に放出されるのを阻害し、そして受精を阻害する。FRに対する自己抗体はまた、精子がファローピウス管の管足瓶嚢に到達することによる卵子の受精を阻止し得、それゆえに不妊症をもたらす。本発明によれば、ファローピウス管を裏打ちする上皮細胞もまた、FRに対する自己抗体が結合し得るFRを発現し(図3)、従って、子宮に進入する受精卵(胚盤胞の段階まで進んだもの)の進行を阻害する。FRに対する自己抗体はまた、上皮細胞による葉酸の取り込みを遮断することができ、従ってファローピウス管の機能を阻害することで不妊症の原因となる。ヒトのファローピウス管におけるFRの局在性は、Weitmanら, Cancer Res 52:6708(1992)によって示されている。
【0067】
本発明によれば、葉酸受容体はまた、ラットの子宮の上皮層においても発現する(図4)。FRの類似の発現は、ヒトの子宮内膜組織においても示された(Weitmanら)。FRに対する自己抗体はこれらの葉酸受容体に結合することができ、従ってこれらの細胞による葉酸の取り込みを遮断する。生じた葉酸欠乏は、胚盤胞の着床を阻害し、それゆえに不妊症または自然流産をもたらす。
【0068】
本発明によれば、葉酸受容体はまた、ラットの副睾丸の上皮細胞(図5)およびラットの精子細胞(示さない)においても発現する。Weitmanらは、ヒトの副睾丸の上皮細胞におけるFRの類似の発現を示した。FRへの自己抗体の結合は、精子細胞の成熟を阻害することができ、男性不妊症をもたらす。FRに対する自己抗体はこれらのFRに結合することができ、従ってかかる細胞による葉酸の取り込みを遮断する。生じた細胞内の葉酸欠乏は、副睾丸の機能を阻害し、それゆえに不妊症の原因となる。
【0069】
別の特定の実施形態において、本発明は、体外受精処置に失敗するリスクにある被験者を、被験者におけるFRに対する自己抗体を検出することによって診断する方法に関する。
【0070】
本発明によれば、FRは子宮内膜の上皮層において発現する。本発明に従って、FRに対する血清自己抗体は、葉酸の取り込みを阻止することにより、初期胚の生存能力を阻害し得る。
【0071】
体外受精処置において、卵子は腹腔鏡または経膣手術によって卵胞から採取される。いくつかの卵子を選択し、そしてペトリ皿に移して精子と受精する。培養して約2〜3日後、形成された胚盤胞を子宮内膜に着床させる。従って、体外受精を計画する場合、卵子および精子双方の提供者が、本発明に記載するように、FRに対する自己抗体を同定または診断するためのアッセイまたは方法を用いることにより、彼らの体液、好ましくは血清中のFRに対する自己抗体についての試験を受けるべきである。
【0072】
さらに別の特定の実施形態において、本発明は、神経障害(例えば認知症)へのリスクにある被験者を、被験者の体液中のFRに対する自己抗体を検出することによって診断する方法に関する。
【0073】
本発明によれば、FRを遮断する自己抗体は、葉酸の細胞内取り込みを阻害し得る。FRが脈絡叢において存在するため(図10を参照)、FRを遮断する自己抗体は、男性および女性において認知症等の葉酸感受性神経障害を引き起こし得る。
【0074】
なお別の特定の実施形態において、本発明は、本発明に記載するように、FRに対する自己抗体を同定または診断するためのアッセイまたは方法を用いて、被験者の体液中のFRに対する自己抗体を検出することによって、葉酸の吸収の阻害へのリスクにある被験者を診断する方法に関する。
【0075】
さらに、腸粘膜におけるFRの存在(図11を参照)は、FRを遮断する自己抗体が葉酸の吸収を阻害し得ることを示す。
【0076】
さらなる実施形態において、本発明は、被験者における葉酸感受性異常または障害(神経管欠損症(NTD)、不妊症、自然流産、男性不妊症、体外受精の失敗、神経障害および葉酸吸収の阻害を含むがこれらに限定されない)を予防する方法に関し、以下を含む:
a.前記の方法に従って、被験体由来の生体サンプルにおけるFRに対する自己抗体の存在を検出すること、および
b.被験体に薬理量の葉酸補給剤を投与すること。
【0077】
従って、本発明は、薬理量の葉酸補給によって、葉酸感受性異常または障害を有するリスクを予防または有意に減少させ得ることを提供する。
【0078】
本発明によれば、FRに対する抗血清によって誘導されるラットの胚の再吸収は、葉酸の投与によって予防することができる。例えば、本発明者らは、ラットのFRに対する抗血清(ラットのFRに対してウサギにおいて作製し、そして妊娠したラットに注入した抗血清など)の投与が、初期胚の再吸収を誘導し、そして脳および他の臓器に影響を与える異常を誘導し得、結果として胚発生および胎児の成熟の間の発達障害をもたらすことを見出した(da Costa ら, Birth Defects Research, Part A, 67(10)837, (2003))。
【0079】
本発明者らは、ラット等の被験体における胚の再吸収および形成異常を引き起こすのは抗FR抗体であることを見出した。本発明によれば、精製されたFR(例えば哺乳動物の胎盤(例えばラットの胎盤)由来のFRαおよびFRβ)は、葉酸結合マトリックスと結合した場合、抗血清由来の特異的な抗FR抗体を吸着する。FRに対する特異抗体を、FRを結合させた葉酸結合マトリックスによって除去する(da CostaおよびRothenberg)。この吸着した大量の抗血清をラット等の妊娠した哺乳動物に投与した場合、後日調べる胚において、再吸収または構造上の異常は起こらない。
【0080】
従って、FRに対する抗体による葉酸の取り込みの遮断は、胚の再吸収および形成異常をもたらす。本発明によれば、そのような胚の再吸収および形成異常は、フォリン酸等の薬理量の葉酸で被験体を前処理することによって予防することができる。例えば、妊娠したラットを、ある量(例えば約12mg/kgを3回に分けて)のフォリン酸を皮下注射することにより前処理した。フォリン酸による前処理は、大量(例えば約0.3ml)の抗血清を投与する1時間前に開始し、その翌日にフォリン酸を再度投与した。本明細書で用いる「大量」の抗血清は、常に48時間以内に胚の再吸収を100%もたらす用量を指す。妊娠したラットに前記の通りフォリン酸を投与する場合、胚は2日後に調べた場合には正常に見える。しかしながら、大量の抗血清(例えば約0.5ml)を投与する場合、フォリン酸は胚の損傷を予防せず、胚は短時間(例えば抗血清の投与後48時間)の内にすべて再吸収される。
【0081】
本発明によれば、FRを遮断する自己抗体は、葉酸の細胞内取り込みを阻害し得る。例えば、図6は、2つのヒトの細胞系およびヒトの胎盤膜において、葉酸受容体への葉酸の結合を遮断するFRに対する自己抗体の能力を明示する。さらに、図7は、37℃で培養液中のKB細胞(ヒトの細胞系)による葉酸の取り込みを遮断する、試験被験体の血清から単離されたFRに対する自己抗体の能力を示す。
【0082】
従って、有効量の薬理的葉酸をFRに対する自己抗体を有する女性に投与することによって、これらの女性におけるNTD等の胎児の合併症を伴う妊娠へのリスクが有意に低減する。葉酸を含有する穀物産物の補給がNTDの発生を約19%しか低減させない一方で、妊娠時に毎日0.8〜4mgの葉酸を摂取することによる補給は、NTDの発生率を約72%低減させることができることが示されている。本発明によれば、特定の理論によって束縛されることを企図することなく、これらの2つのアプローチの異なる結果は、薬理量の葉酸補給剤と比較して、穀物に存在する葉酸がより少量であることに起因すると考えられる。さらに、葉酸強化穀物は十分な量の葉酸を含まず、一方で、薬理的葉酸は胚発生の初期段階でNTDを予防するのに十分な量を提供すると考えられる。
【0083】
従って、本発明の特定の実施形態は、NTD妊娠のリスクを検出することができる方法を提供することにより、十分な量の薬理的葉酸を、これを必要とする被験者に投与することによって、この疾患を予防することができ、またはそのリスクを有意に低減させることができるようにする。
【0084】
特定の理論によって束縛されることを企図することなく、NTD合併症を伴う12名の女性のうち9名由来の血清がFRに対する自己抗体を含むことの発見は、FRに対する自己抗体が葉酸の取り込みを遮断することによって胚発生を阻害することへの実質的な証拠を提供すると考えられる。試験群において自己抗体を有する女性の割合(9/12すなわち75%)は、妊娠時に毎日の葉酸補給を開始することによりNTD妊娠の発生において約70%の低減を示した以前の研究と一致すると考えられる。葉酸を含有する穀物産物の補給は、NTDの発生を約19%しか低減させない(Honeinら, JAMA, 285(23):2981(2001))一方で、妊娠時に0.8〜4mgの葉酸を補給することで、NTDの発生率を約72%低減させることができることが報告された。これらの2つのアプローチの異なる結果は、薬理量の葉酸補給と比較して、穀物に存在する葉酸がより少量であることに起因すると考えられる。NTD発生の約70%がFRに対する自己抗体による葉酸の取り込みの阻害による一方、NTD発生の約30%が葉酸応答性ではなく、化学療法薬、特に抗葉酸剤、抗てんかん薬、染色体異常および環境的要因もしくは遺伝的要因等の他の十分に認識された原因の結果であり得ると考えられる。
【0085】
本発明によれば、体液中にFRに対する自己抗体を有することが確認された女性は、NTD胎児を伴う妊娠をする、またはNTD等の葉酸感受性の出生異常を有する乳児を出産するリスクが上昇する。従って、女性は異常形態発生を予防するために薬理量の葉酸補給剤を妊娠開始時に摂取するべきである。体液がFRに対する検出可能な自己抗体を有さない被験者は、FRに対する自己抗体に無関係の要因によるいくらかのリスクをまだ有し得る。葉酸の大量経口投与がNTD等の出生異常の発生の著しい低減化を達成し得るのに対し、葉酸強化穀物はNTDの発生を低いレベルで低減化するに過ぎない。しかしながら、妊娠を開始する女性はしばしば薬理量の葉酸補給剤を摂取せず、それゆえに必然的に異常形態発生のリスクが上昇し得る。従って、本発明はまず、彼女らの血清中にFRに対する自己抗体が検出される場合には、異常形態発生のリスクが高く、それゆえに薬理量の葉酸補給剤を摂取するべき女性を同定できるようにする。従って、本発明の特定の実施形態は、葉酸補給を必要とする女性を同定する正確な方法を提供し、それによって、妊娠を計画している者に対して、葉酸感受性異常または障害を有するリスクを予防するために薬理量の葉酸補給剤を摂取すべきか否かの明確な指針を提供する。従って、本提示の特定の実施形態は、葉酸補給を必要とする女性を同定する正確な方法を提供する。本方法は、本発明に記載するアッセイまたは方法を用いて、女性におけるFRに対する自己抗体を同定または検出すること、およびそのような自己抗体を有する女性に対して、葉酸感受性異常または障害を回避するために葉酸補給剤を摂取すべきであることを告知または警告することを包含する。それゆえに、本法の利点は、妊娠を開始する者に対して、葉酸感受性異常または障害を有するリスクを予防するために、薬理量の葉酸補給剤を摂取すべきか否かの明確な指針を提供する。前記の方法を用いて、妊娠を開始する女性の血清中のFRに対する自己抗体を検出するためのアッセイもまた、本発明によって包含される。
【0086】
本発明の特定の実施形態は、不妊症、自然流産、男性不妊症、体外受精の失敗、神経障害または葉酸の吸収障害等の葉酸感受性異常を、そのような異常に対するリスクを有する被験者の食事を増量した葉酸またはフォリン酸(好ましくは毎日約0.8mg〜約4mgの)で補給することによって予防することに関する。
【0087】
本発明によれば、体外受精処置の失敗のリスクのいくつかは予防することができる。例えば、FRに対する自己抗体が提供者となる予定の女性において見つかる場合、着床する受精卵に十分な葉酸を確保するために、女性は、この処置を開始する時に葉酸補給剤の摂取を開始するべきである。提供者となる予定の女性および男性の双方において自己抗体が見つかる場合、着床する受精卵に十分な葉酸を確保するために、両当事者は、この処置を開始する時に葉酸補給剤を摂取し始めるべきである。
【0088】
本発明のさらに別の実施形態は、循環自己抗体の力価および自己抗体によるFRの結合についての結合定数(Ka)の決定に関する(図8を参照)。
【0089】
本発明によれば、いかなる特定の理論に限定されることを企図することなく、NTD等の葉酸感受性の先天性異常は、動物またはヒト等の妊娠した哺乳動物の体内のFRに対する自己抗体によって引き起こされると考えられる。さらに、この効果は自己抗体力価依存性であると考えられる。
【0090】
「結合定数」または「Ka」は、抗原、好ましくはFRに対する自己抗体の親和性を意味する。Kaは定量的に表される。本発明によれば、高い値のKa(例えば1010L/mol)は、FRに対する自己抗体の高い親和性を示す。そのような場合、測定された高い値のKaを有する者、例えば妊娠中の女性に、FRに対する自己抗体による膜FRにおける葉酸結合部位の遮断を回避させるために、大量の葉酸(またはフォリン酸)の補給を提供することが不可欠となるであろう。例えば、本発明によれば、毎日4mgの葉酸摂取は、FRに結合した自己抗体を拡散または解離することによって、細胞内葉酸を提供するのに十分なまでに血漿葉酸濃度を上昇させることができる。逆に、FRへの自己抗体の結合についての低いKa値(例えば106L/mol)は、葉酸が膜葉酸受容体に対してより高い親和性を有するために、疾患または障害を引き起すことはないであろう。毎日少量の葉酸(例えば1mg/日)で血漿葉酸濃度を上昇させることは、葉酸受容体からFRに対する自己抗体を解離させ得る。
【0091】
本発明によれば、結合タンパク質(抗体等)とリガンド(抗原等、例えば葉酸受容体)との相互作用についてのKaを測定する方法は、実施例6に記載する。NTDを伴う妊娠をした指標被験者のうち3人および対照被験者のうち2人の血清中に存在する遮断自己抗体についてのKaの測定は、図8に示す。
【0092】
従って、高い(例えば1010L/molまたはそれより高い)Kaを有する高力価の自己抗体は、受胎産物を害してフォリン酸または葉酸の補給によって予防することができない重度の免疫反応を誘導し得る。反対に、低い(例えば106L/molまたはそれより低い)Kaを有する低力価の自己抗体は葉酸応答性となるであろうし、そして前記のように、フォリン酸または葉酸の補給がNTDおよび/または他の異常の予防に有効となり得る。実施例1もまた参照せよ。
【0093】
従って、特定の実施形態において、本発明は葉酸感受性異常の予防に関し、それは例えば、NTD等の異常を伴う妊娠のリスクを有する女性の食事に葉酸を補給することによって、または超音波検査で胎児を厳密にモニターする女性およびその産科医に報告することによるものである。本発明によれば、そのような改良した手段は、検出されたFRに対する遮断自己抗体のKaが109L/molまたはそれより大きい場合に採用されるべきである。
【0094】
さらなる実施形態において、本発明は、被験体の体液(例えば血清)中のFRに対する自己抗体を検出するための試験キットを提供する。「試験キット」は、市販のパッケージであり、アッセイに必要な材料を含むものを意味する。本発明の試験キットは、前記の精製されたFR、好ましくは非凝集化FR、被験体由来の血清サンプルを処理する(例えば酸性化)ための試薬、および被験体の血清由来のFRに対する自己抗体と精製されたFRとの複合体を検出する少なくとも1つの指標物質を含む。陽性の結果は、被験体におけるFRに対する自己抗体の存在を示唆し、それゆえに被験体が不妊症、自然流産、男性不妊症、体外受精処置の失敗、神経障害もしくは葉酸の腸内吸収障害を有する、またはNTD等の胎児の合併症を伴う妊娠をするリスクの増加を証明する。
【0095】
FRに対する血清中の遮断自己抗体の存在を検出するため、およびこれらの自己抗体のKaを測定するために必要な材料を含む別の試験キットもまた、本発明によって企図される。この試験キットの企図される成分および方法の原理は、図9に説明する。この試験キットは、マトリックス(膜、または炭化水素鎖もしくは他の疎水性マトリックスを介して)に結合した精製されたグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)-FR、あるいはマトリックスに共有結合的に結合したFR、担体(例えば、酵素もしくは放射性標識または蛍光マーカーあるいはビオチン)に結合した葉酸(FA)、および被験体の血清中の遮断自己抗体の存在を検出するために使用される少なくとも1つの指標物質を含む。担体に結合している得られた結合化FAが、FRに対する自己抗体を含む血清の不存在下で実施される対照インキュベーションと比較して減少していることは、FRに対する遮断自己抗体の存在を示唆し、そしてその力価を提供する。
【0096】
本開示において言及されるすべての出版物は、参照によって本明細書に組み入れられる。本開示で用いた用語および表現は、限定ではなく記載上の用語として使用され、そして示される特徴および記載される特徴のあらゆる等価物またはその一部分を除外するような用語および表現を使用することを意図するものではなく、様々な改変が本発明の範囲内であり得ることが理解される。
【0097】
本発明はさらに以下の特定の実施例によって説明され、これらは本発明の範囲を限定することを意図するものでは決してない。
【実施例】
【0098】
実施例1
妊娠したラットへのFRに対する抗血清の投与の効果
本研究において、(da Costaら, Birth Defects Research, Part A, 67(10)837, (2003))、ラットFRに対してウサギにおいて生成した、力価が決定された(titrated)容量の抗血清を、妊娠8日のラットの腹膜腔内に注入し、そして胚を異なる時期において調べた。妊娠8日のラットを選択したのは、これが顕著な成長および分化(つまり器官形成)の時期であるためである。妊娠8日はまた、神経襞が形成されるが融合し始めていない神経胚形成の時期である。FRの結合について高力価を有する抗血清(1mlの抗血清が12μgのFRを免疫沈降させる)を0.1〜1mlの用量で投与した。0.3〜1mlの抗血清の投与は、妊娠10日までにすべての移植胚の完全な再吸収をもたらし、;0.27mlおよび0.25mlのこの抗血清は約50%の胚の再吸収を誘導した。妊娠15日に調べた生存胚は、成長および発達異常を示した。いくつかの胚は内水頭症をもたらす中枢神経系の異常が生じ、;異常な心臓および口蓋発達もまた観察された。より少量の同じ抗血清(例えば0.1〜0.2ml)を妊娠8日ラットに投与した場合、妊娠17日に調べた胎仔に特定可能な異常は観察されなかった。1mlの正常なウサギ血清(NRS)を与えた対照ラットにおいて、胚の再吸収または発達異常はなかった。
【0099】
胚の再吸収および形成異常がFRに対する抗体によって特異的にもたらされることを証明するために、ラットの胎盤由来の精製されたFRαおよびFRβイソ型を、抗血清由来の特定の抗FR抗体を吸着するための葉酸結合マトリックスと結合した。約0.4mlおよび約0.3mlの吸着化抗血清を妊娠8日ラットに投与した場合、妊娠20日に調べたいかなる胚においても再吸収あるいは構造的異常は生じなかった。
【0100】
胚の再吸収および形成異常の原因が、FRに対する抗体による葉酸取り込みの遮断によってもたらされたのか否かを解明するために、妊娠8日のラットに、フォリン酸(12mg/kg)を3回に分けて皮下注射することによる前処理を、0.3mlの抗血清(常に48時間以内に胚の再吸収を100%もたらす用量)を投与する1時間前から開始し、そして翌日再び行った。2日後に調べた胚は、フォリン酸の投与後には正常に見えた。しかしながら、0.5mlの抗血清を投与した場合、フォリン酸の投与は胚への損傷を予防せず、10日までにすべてが再吸収された。胚組織の顕微鏡検査は、極度の不可逆的な免疫反応が胚を害したことを示唆する炎症の証拠を示した。しかしながら、抗血清を投与する前に抗炎症特性を有するステロイドであるデキサメタゾンを投与した場合、胚への損傷は予防された。
【0101】
実施例2
ヒトの胎盤由来の葉酸受容体の精製
1.材料および方法
27.6 Ci/mmolの比活性を有する[3H]葉酸(FA)は、Moravek Biochemicals(Brea, CA)より購入した。ZnSO4沈殿によってその純度が>95%であることを測定した後、これを-80℃で保存した。フェニルメチルスルフォニルフロリド(PMSF)、トラジロール(Trasylol)およびノリットA(Norit A)活性炭は、Sigma(St. Louis, MO)から購入した。エチレンジアミン四酢酸(EDTA)は、Fischer Scientificより入手した。Triton X-100および完全(complete)シンチレーション溶液、Cytoscintは、ICN Biochemicalsより購入した。Dcタンパク質アッセイキット、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)およびアクリルアミドは、Bio-Rad(Richmond, VA)より購入した。
【0102】
葉酸化合物の濃度は、それらの公開された吸光係数から決定した。タンパク質濃度は、改良されたビウレット法を用いるDc Bio-Rad タンパク質アッセイキットを用いて決定した。
【0103】
2.ヒトの胎盤由来のFRの精製
ヒトの胎盤は、分娩後、病院の産科より入手した。100gのヒトの胎盤を1.0mM PMSFおよび10mM EDTAを含む300mlの0.01Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4)中で、ポリトロンホモジナイザーを用いてホモジナイズした。得られた懸濁液を40,000×gで1時間、4℃で遠心分離した。ペレットを前記バッファー中に再懸濁した後に遠心分離することにより、3回洗浄した。洗浄した膜ペレットを可溶化バッファー(1.0mM PMSF、10mM EDTAおよび1%Triton X-100を含む0.01Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4))中に懸濁し、そしてタンパク質を37℃で2時間に渡り可溶化した。可溶化した後、懸濁液を40,000×gで1時間、4℃で遠心分離した。上清のpHを1N HClで3.5に低下させ、そして次に4%デキストランコート化活性炭を添加して、遊離した内在性葉酸を吸着させた。遠心分離によって活性炭を除去し、そしてアポFRを含む上清のpHを1 N NaOHを添加することにより7.4に上昇させた。この調製物を次に25℃で1時間、Sadasivanら, Biochim. Bioph. Acta. 925:36-47(1987)による論文において以前に記載されているように、エポキシ活性化Sepharose 6BにFAを結合させることにより調製される1mlの葉酸結合マトリックスと混合した。前記結合マトリックスを次に3000 rpm、5分間でペレット化し、そして以下のバッファーで洗浄した:1)1mM PMSF、10mM EDTAおよび0.1%Triton X-100を含む0.01Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4) 50ml×3回、2)1mM PMSF、10mM EDTAおよび0.1%Triton X-100を含む0.1Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4) 50ml×3回、3)1mM PMSF、10mM EDTA、0.1%Triton X-100および1M NaClを含む0.01Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4) 50ml×3回、ならびに4)1mM PMSF、10mM EDTAおよび0.1%Triton X-100を含む0.01Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4) 50ml×3回。
【0104】
1mM PMSF、10mM EDTAおよび0.1%Triton X-100を含む1mlの0.1Mグリシンバッファー(pH3.0)中で10分間インキュベートすることにより、FRを結合マトリックスから解離させた。前記マトリックスを遠心分離によってペレット化し、上清画分を1mlの0.2Mベロナール溶液で中和した。
【0105】
結合マトリックスからのFRの酸溶出のプロセスを3回繰り返し、そして各溶出液の葉酸結合能を[3H]FAを用いて前述の通り測定した(Luhrsら, Arch. Biochem. Biophys. 250:94-105(1986))。この調製物中のFRの純度を、SDS(10%)ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)により測定し、そしてこのゲルをクーマシーブリリアントブルーでタンパク質染色をした。FR調製物の純度はまた、精製されたFRで免疫したウサギにおいて生成された抗血清を用いたウエスタンブロットによっても測定された。
【0106】
3.非凝集化FRの作製
非凝集化FRは、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)付加体をタンパク質から除去することによって作製した。酵素(グリコシルホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼC)は、GPI付加体を加水分解して細胞膜からFRタンパク質を遊離する(アルカリホスファターゼおよびホスホリパーゼD等の他の酵素もまた、この目的に使用され得る)。次に、FRをマトリックスに結合した葉酸へ結合させることにより単離した。マトリックスを完全に洗浄した後、FRタンパク質を酸性化により遊離させた。マトリックスを遠心分離によって除去し、そして上清画分のpHを7.4まで上昇させた。このFRの調製物は凝集せず、そしてFRに対する自己抗体について血清をアッセイするためのELISAプレートのウェルをコートするために使用され得る。
【0107】
実施例3
血清中の葉酸受容体(FR)に対する自己抗体を同定するための手順
この手順における原理およびステップは以下に要約される:
1.FRに対する自己抗体について試験される血清は、室温において0.1Mグリシン-HClでpH3.5に酸性化して、血清中の可溶化FR由来の内在性葉酸を解離させた。この酸性化はまた、血清中の自己抗体由来の免疫反応性可溶化FRも解離した。
【0108】
2.解離した葉酸は、デキストラン(分子量60,000〜90,000)でコートした活性炭に吸着させることにより溶液から除去した。
【0109】
3.ヒトの胎盤より単離した細胞膜から精製されたFR(実施例2に記載の通り)を、[3H]FAと共に0.1Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4)中でインキュベートすることにより、[3H]FA-FR放射性標識化抗原を作製した。十分な[3H]FAを添加して、FR濃度より10〜20%過剰に供給する。
【0110】
4.血清中のFRに対する自己抗体を同定するために、酸性化した血清(ステップ1より)を、1本目の試験管内の[3H]FA-FRを含む0.2Mベロナール溶液(pH8.9)に添加し;そして、2本目の試験管には、10〜20倍高濃度の非標識化FA-FRを[3H]FA-FRと共に添加した。反応のpHは約8.6であり、そしてこのサンプルを24時間4℃でインキュベートした。このpHにおいて、過剰量の遊離の[3H]FAは血清中のあらゆる可溶化アポFRに急速に結合し、次に自己抗体に結合する。自己抗体と放射性標識化FRとの複合体化が特異的である場合、この結合は第2の試験管中に含まれる過剰量の非標識化FA-FRによって競合阻害されるであろう。
【0111】
5.一晩のインキュベーションの後、すべてのIgGを結合するために十分なブドウ球菌プロテインA膜懸濁液をこの反応に添加し、そして4℃で10分間インキュベートした。
【0112】
6.サンプルを6000RPMで3分間遠心分離して、IgGを結合したプロテインAをペレット化した。
【0113】
7.上清画分を除去し、そしてペレット化した膜を、0.05%Triton X-100を含む0.01Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4)で3回洗浄した。
【0114】
8.洗浄したペレットをシンチレーション溶液または混合物中に懸濁して、放射能をシンチレーションカウンターで測定した。
【0115】
9.[3H]FA-FRサンプル中の放射能が、FRに結合した非標識化葉酸を含むアッセイよりも有意により高かったことは、試験した血清が自己抗体を含むことを示唆した。自己抗体の力価の定量的推定値は、受容体に結合した放射性標識化葉酸のモル量によって測定した。
【0116】
結果
FRに対する自己抗体は、試験群における12名の女性のうち9名(被験者#1〜#9)で検出された。自己抗体は、対照群(そのうち1名が妊娠していた)における2名の女性(被験者#16および#24)の血清中で同定された。対照群における残りの22名の女性由来の血清中で自己抗体は同定されず、18名は合計20の正常な妊娠をし、そして4名が妊娠しなかった。図1を参照せよ。
【0117】
実施例4
自己抗体-FR複合体の検出のための代替法
遊離の[3H]FA-FR抗原を自己抗体結合抗原から分離するためのプロテインA膜への代替法は、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、50%エタノール、ポリエチレングリコール、およびウサギまたはヤギにおいて生成したヒトIgG(もしくはIgM)に対する抗体による、免疫複合体の選択的な沈降を含む。
【0118】
実施例5
ELISAアッセイプロトコル
本発明の抗原(FR)を用いた自己抗体の検出のための生体サンプルの簡便な解析を容易にする試験キット。そのようなキットは、組換えまたは合成ペプチド、ならびに自己抗体を検出するための既に確立されたELISAおよびRIA技術の関連法を使用することができる。
【0119】
例えば、ELISAアッセイのために、キットは以下の成分を含み得る:
1.1以上の本発明のFR抗原;
2.酵素(例えば、ペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ);
3.コンジュゲートされた抗ヒト免疫グロブリン(動物:ヤギ、ウサギ等);
4.陽性対照および陰性対照。
【0120】
前記キットは、96穴プレート、比色試薬、ELISAリーダー、遮断試薬および洗浄バッファー等のバリエーションを含み得る。
【0121】
前記のキットは、あらゆる適切な実験必需品を含むように改変され得る。免疫沈降技術を用いることに加え、本発明は、FR自己抗体を検出することのできる他のあらゆる手順を使用して実施することができる。これらの手順の原理および実験的方法は、当業者によく知られている。アッセイは自己抗体に結合する天然型FRまたは組換えFRを使用することができる。全細胞および細胞溶解物の双方はまた、FR自己抗体を検出するためにも使用され得る。FRのアミノ酸配列は、自己抗体と反応するであろう免疫学的に反応性のあるエピトープを解明するために使用され得る。これらの配列は次に、組換えペプチドを用いて作製することができる。
【0122】
精製されたタンパク質またはタンパク質を産生する細胞の溶解物もまた、アッセイに使用され得る。さらに、本明細書に記載される実施例および実施形態は、説明を目的とするのみであり、そして様々な改良または改変が当業者に提案され、本明細書の精神および範囲内ならびに添付の特許請求の範囲に記載の範囲内に含まれるべきであることが理解されるべきである。
【0123】
実施例6
血清中のFRに対する遮断自己抗体の存在の測定
FRへの葉酸の結合における自己抗体の作用は、胎盤膜ならびに2つの培養細胞系(妊娠第1期のヒト胎盤由来のED27細胞およびヒト類表皮癌由来のKB細胞)を使用して測定した。胎盤膜は、ヒトの胎盤を3倍容量の0.01Mリン酸ナトリウムバッファー中でホモジナイズし、この膜を3000×gで遠心分離することでペレット化した後に同じバッファー中で3回洗浄することにより調製した。次にこの膜を0.1M酢酸中で5分間懸濁してFRに結合した葉酸を解離させ、3回洗浄して解離した葉酸を除去し、そして次に0.01Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4)中に再懸濁して、単位体積当たりの葉酸結合能を[3H]FAの結合により測定した。
【0124】
胎盤膜を使用して、200μlの1%膜懸濁液を活性炭処理済み試験血清と共に一晩4℃でインキュベートすることによって、FRへの[3H]FAの結合における自己抗体の作用を測定した。翌日、膜を氷冷PBSで洗浄し、そして1mlのPBS中の[3H]FA(125pg)を添加し、この懸濁液を30分間4℃でインキュベートした。次にこの膜を冷バッファーで洗浄し、1N NaOHで可溶化して放射能を測定した。
【0125】
ED27細胞およびKB細胞を各々3連で(in triplicate)、葉酸欠乏Dulbecco's Minimum Essential Mediumを10%ウシ胎仔血清および試験血清(双方とも活性炭で処理することにより遊離の内在性葉酸を除去した)と共に含むウェル1.83cm2中に20,000個の細胞となる密度でプレーティングし、一晩37℃でインキュベートした。翌日、ウェルの温度を4℃に低下させ、そして細胞を氷冷ハンクス平衡塩溶液(Hanks Balanced Salt Solution)(HBSS)で3回洗浄した。次に4℃の1mlのHBSS中の[3H]FA(125pg)をウェルに添加し、そしてインキュベーションを30分間継続した後、1mlの冷HBSSで3回洗浄した。次に細胞を500μlの1N NaOHで溶解し、放射能を測定した。このアッセイの結果を図6に示す。
【0126】
実施例7
培養物中の細胞による葉酸の取り込みを遮断するFRに対する自己抗体の存在の測定
KB細胞を用いた葉酸結合および細胞内取り込み実験のために、FRに対する自己抗体を結合するための結合マトリックスとして機能する胎盤膜を用いて、試験被験者の血清から自己抗体を単離した。FRに対する自己抗体を欠く対照被験者由来の血清も同様に処理した。10mlの各血清サンプルを胎盤膜と共に(1ml充填量)一晩4℃でインキュベートし、次に冷HBSSで何度も洗浄して血清中の非結合成分を除去した。膜上でFRに結合した自己抗体を、0.1%ウシ血清アルブミンを含む0.1M酢酸中で調製物を5分間懸濁することによって溶出させ、これをさらに2回繰り返した。画分をプールして、HBSSに対して一晩4℃で透析した。最終調製物を、一晩4℃での減圧透析によって濃縮した。
【0127】
KB細胞(20,000)を3.5cm2培養皿中に2連でプレーティングし、単離した自己抗体と共に一晩37℃でインキュベートした。対照血清も同様に処理し、KB細胞と共にインキュベートした。追加の対照として、KB細胞を単離した血清の画分を欠く培地中でインキュベートした。翌朝、細胞をHBSSで洗浄し、[3H]FA(125pg)を含む新鮮な培地をウェルに添加して、4℃でインキュベートした2連のセットと一緒に、15、30および60分間37℃でインキュベーションを継続した。次に細胞を4℃のHBSSで洗浄し、500μlの1N NaOHで溶解し、放射能を測定した。4℃および37℃での細胞の放射能における差は、[3H]FAの細胞内取り込みを示す。結果を図7に示す。
【0128】
実施例8
FRに対する遮断抗体による[3H]葉酸-FR複合体の結合についての結合定数(Ka)の測定
結合タンパク質(抗体等)とリガンド(抗原等)との相互作用についてのKaを測定するためのいくつかの方法がある。スキャッチャード・プロット(Scatchard, Ann. N.Y.Acad. Sci. 51:660,(1949))は、タンパク質とリガンドとの相互作用についてのKa値を測定するための多くの計算方法の1つである。BersonおよびYalowはこの方法を用いて、インスリンに対して生成した抗体によるこのホルモンの結合についてのKaを測定した(BersonおよびYalow, J. Clin. Invest. 38:1996, (1959))。
【0129】
アポFRを有する胎盤膜は、ヒトの胎盤を3倍容量の0.01Mリン酸ナトリウムバッファー中でホモジナイズし、この膜を3000×gで遠心分離することによりペレット化した後に同じバッファー中で3回洗浄することにより調製した。次にこの膜を0.1M酢酸中で5分間懸濁してFRに結合した葉酸を解離させ、3回洗浄して解離した葉酸を除去し、そして次に0.01Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4)中に再懸濁して、単位体積当たりの葉酸結合能を[3H]FAの結合により測定した。この膜調製物を、被験者の血清由来のFRに対する自己抗体と共に、一晩4℃でインキュベートした。次に[3H]FAを添加して、FRに結合した画分をFRの全葉酸結合能から差し引いて、自己抗体によって遮断された1リットル当たりのFRのpmolを得た。自己抗体が遮断した受容体の遊離のアポ受容体に対する割合は、スキャッチャード解析に用い、これは図8の挿入図に示す。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】図1は、指標被験者および対照被験者由来の血清中の葉酸受容体に対する自己抗体:以前にNTD妊娠をしたかまたは現在NTD妊娠をしている女性およびNTDの病歴のない女性由来の血清中のFRに対する自己抗体を検出する結合アッセイの結果を示す。青色棒線:指標被験者および対照被験者由来の血清を、[3H]葉酸-葉酸受容体とインキュベートしたもの。オレンジ色棒線:自己抗体への[3H]葉酸-葉酸受容体の結合を競合阻害する10倍過剰量の非標識化葉酸-葉酸受容体と共に前記のようにインキュベートしたもの。挿入図は、指標被験者および対照被験者について得られた平均値±標準誤差の値を表す。対照被験者1〜4は未妊婦であり、妊娠が確認できなかったために統計分析から除外された。P値はStudentのt検定を用いて決定した。図1A:*はこの測定に使用するには不十分な血清を示す。†被験者は血液採取の時点で妊娠していた。‡被験者10、11および12はNTDを合併した妊娠であり、葉酸受容体に対する自己抗体を欠如していた。図1B:被験者1〜4は未妊娠であり、5〜16は以前の妊娠がNTDを合併したものでなかった者、17〜24は血液採取の時点で妊娠していた者。§対照被験者16および24由来の血清は、葉酸受容体に対する自己抗体を含んでいた。
【図2】図2は、卵母細胞および顆粒膜細胞においてFRの発現が見られるラット由来の卵胞:ラットの卵胞において卵子を囲む顆粒膜細胞でFRが発現していることを示す。ラットFR(ラット胎盤から精製した)に対する抗体をウサギにおいて作製し、ラットの卵巣に存在するFRを特定するのに使用した。茶色/オレンジ色はFRを示す。aは卵母細胞、bは顆粒膜細胞。
【図3】図3は、上皮層および2つの胚においてFRの発現を示すラットの卵管(ヒトにおけるファローピウス管):ラットの卵管(ヒトにおけるファローピウス管)を裏打ちする上皮細胞が、自己抗体が結合し得るFRを発現し、従って、子宮への受精卵(胚盤胞の段階まで進んだもの)の進行を阻害する。自己抗体は上皮細胞による葉酸の取り込みを遮断することができ、そしてこれは、葉酸を必要とする細胞内代謝を阻害することによって不妊症の原因となる。FRに対する抗体はラットの生殖組織に存在する。茶色/オレンジ色はFRを示す。
【図4】図4は、子宮内膜層においてFRの発現を示すラットの子宮:葉酸受容体がラット子宮の子宮内膜層において高度に発現することを示す。ラットFR(ラット胎盤から精製した)に対する抗体をウサギにおいて作製し、ラットの子宮の子宮内膜に存在するFRを特定するのに使用した。茶色/オレンジ色はFRを示す。
【図5】図5は、ラットの副睾丸におけるFR発現:葉酸受容体がラットの副睾丸の上皮細胞で高度に発現することを示す。ラット胎盤から精製したラットFRに対する抗体をウサギにおいて作製し、ラットの副睾丸に存在するFRを特定するのに使用した。茶色/オレンジ色はFRを示す。
【図6】図6は、FRに対する遮断自己抗体を含む血清による、胎盤膜、KB細胞およびED27細胞におけるFRに結合する[3H]FAの遮断:ヒト胎盤膜および2つのヒト培養細胞系(ED27細胞およびKB細胞)への葉酸の結合を遮断するための、FRに対する自己抗体の能力を示す。各々の棒線における数字は、4℃において細胞膜でアポFRに結合する[3H]FAの自己抗体による遮断率を示す。その手順は実施例6に記載する。
【図7】図7は、KB細胞による[3H]FAの細胞内取り込みにおける、単離したFRに対する自己抗体の効果:培養したKB細胞による葉酸の取り込みを遮断するための、FRに対する自己抗体の能力を示す。FRに対する自己抗体は、実施例7に記載するように、2人の被験者の血清から単離した。KB細胞は、指標被験者(FR自己抗体を含む)(○)または対照被験者(FR自己抗体を欠如する)(△)のいずれかより単離した血清画分と共に、一晩37℃でプレインキュベートした。このインキュベーションの後、KB細胞による[3H]FAの取り込みを測定した。単離した血清画分を含まない対照インキュベーションは(◇)で示す。I棒線は標準誤差を示す。
【図8】図8は、葉酸受容体についての自己抗体の結合親和性の測定:5人の被験者の血清由来のFRに対する自己抗体の結合親和性定数(Ka)の図式的測定を示す。アポ葉酸受容体を有する胎盤膜を方法に記載するように調製し、自己抗体を含む血清と共に一晩4℃でインキュベートした。次に[3H]葉酸を添加し、葉酸受容体に結合した画分を葉酸受容体の全葉酸結合能から差し引いて、自己抗体によって遮断された(B)1リットル当たりの受容体のpmolを得た。自己抗体に遮断された受容体の遊離のアポ受容体に対する割合(B/F)は、スキャッチャード解析に用いて、見かけの結合定数(Ka)を算出し、これを挿入図に示す。
【図9】図9は、血清中のFRに対する遮断自己抗体の存在を検出する原理および手順を示す。
【図10】図10は、脳の脳室面および脈絡叢におけるFRの発現:ラット脳の脈絡叢で発現するFRを示す。FRに対するウサギポリクローナル抗血清を用いた脳組織の免疫組織化学。正常なウサギ血清(NRS)を陰性対照とした。茶色はFRに関するウサギ抗体の局在性を表す。vsは脳室面上皮、cpは脈絡叢。
【図11】図11は、小腸におけるFRの発現:ラットの腸粘膜において発現するFRを示す。ラットFRに対する抗体を含むウサギ血清による十二指腸(A)、空腸(B)および回腸(C)の免疫染色。免疫染色の強度が、十二指腸および空腸における細胞の表面で最も顕著であり(矢印で示す)、そして回腸の表面で実質的に減少しており、これは、小腸のこの領域におけるFRの発現が低減していることを示しているのに注目せよ。葉酸は主に近位小腸(十二指腸および空腸)において吸収される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体の生体サンプル中の抗葉酸受容体(FR)自己抗体の存在を検出する方法であって、以下:
a.前記生体サンプルをpH約3.0〜pH約5.0に酸性化し、抗FR自己抗体と前記FRに結合した内在性葉酸とを解離させることによって、前記生体サンプルにおいてアポFRを作製すること、
b.解離した葉酸を除去すること、
c.前記生体サンプルを標識化葉酸(FA)と共にpH約8.0〜pH約8.9でインキュベートすること、
d.ステップcの前記生体サンプルを標識化精製FRと共にインキュベートすること、および
e.前記生体サンプル中に存在する前記抗FR自己抗体と前記標識化精製FRまたは標識済みアポFRとの間の免疫複合体の形成を検出および定量することであって、ここで前記免疫複合体の存在は、前記被験体が抗FR自己抗体を有することを示唆する
を含む、前記方法。
【請求項2】
被験体由来の生体サンプル中のFRへの葉酸の結合を遮断する自己抗体の存在を検出する方法であって、以下:
a.FR結合マトリックスを得ること、
b.前記マトリックスをpH約3.0〜pH約5.0に酸性化することによって、前記マトリックス上でFRに結合する葉酸を解離することおよび前記マトリックス上でアポFRを作製すること、
c.ステップbの解離した葉酸を除去するために、酸性バッファー中で前記マトリックスを洗浄すること、
d.pH約7.0〜pH約8.6のバッファー中に前記マトリックスを再懸濁すること、および標識化葉酸の結合によって単位体積当たりの葉酸結合能を測定すること、
e.前記生体サンプルから遊離の葉酸を除去すること、
f.対照サンプルを得ること、および前記対照サンプルから遊離の葉酸を除去すること、
g.ステップdの懸濁化マトリックスをステップeの前記生体サンプルと共に、pH約7.0〜pH約8.6のバッファー中でインキュベートすること、
h.ステップdの懸濁化マトリックスをステップfの前記対照サンプルと共に、pH約7.0〜pH約8.6のバッファー中でインキュベートすること、
i.ステップgおよびステップhの前記マトリックスを洗浄すること、
j.ステップiの前記マトリックスを標識化葉酸と共にインキュベートすること、
k.ステップgの前記マトリックスおよびステップhの前記マトリックスに対する標識化葉酸結合能を検出および定量することであって、ここで、ステップgにおける前記マトリックスに結合する前記標識化葉酸が、ステップhの前記マトリックスに結合する前記標識化葉酸と比較して減少することは、前記被験体においてFRへの葉酸の結合を遮断する自己抗体の存在を示唆する
を含む、前記方法。
【請求項3】
前記被験体がヒトである、請求項1および2に記載の方法。
【請求項4】
前記生体サンプルが血清である、請求項1および2に記載の方法。
【請求項5】
前記FRが検出可能に標識化されている、請求項1および2に記載の方法。
【請求項6】
前記免疫複合体が、請求項1の前記免疫複合体と免疫グロブリン結合試薬との間の第2の免疫複合体の形成によって検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記免疫グロブリン結合試薬がプロテインA膜懸濁液である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記免疫グロブリン結合試薬が検出可能に標識化された第2の抗体である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記免疫複合体が、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、アルコールまたはポリエチレングリコールを用いて前記免疫複合体を沈降させることによって検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記マトリックスが、ヒトまたは相同種由来のFRを含む胎盤膜である、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
被験体由来の生体サンプル中のFRに対する自己抗体を検出するための試験キットであって、ヒトまたは相同種由来の精製されたFR、前記生体サンプルを処理するための試薬、標識化葉酸、および前記精製FRと前記自己抗体との複合体を検出する少なくとも1つの指標物質を含む、前記キット。
【請求項12】
被験体由来の生体サンプル中のFRによって葉酸の結合を遮断するFRに対する自己抗体を検出するための試験キットであって、ヒトまたは相同種由来のアポFR、前記生体サンプルを処理するための試薬、標識化葉酸、および反応物中に残留する前記アポFRを検出する少なくとも1つの指標物質を含む、前記キット。
【請求項13】
前記キットが前記遮断自己抗体の力価をも測定できる、請求項11および12に記載の試験キット。
【請求項14】
前記キットが、前記FRに対する前記遮断自己抗体の見かけの結合定数(Ka)をも測定することができる、請求項11および12に記載の試験キット。
【請求項15】
前記FRがマトリックスに結合している、請求項11および12に記載の試験キット。
【請求項16】
前記マトリックスが疎水性マトリックスである、請求項15に記載の試験キット。
【請求項17】
前記マトリックスがヒトまたは相同種由来のFRを含む胎盤膜である、請求項15に記載の試験キット。
【請求項18】
前記指標物質が、酵素、放射性標識、蛍光マーカーまたはビオチンからなる群より選択される、請求項11および12に記載の試験キット。
【請求項19】
葉酸感受性異常または障害のリスクにある被験体における前記異常または障害を診断する方法であって、請求項1または2に記載の方法に従って生体サンプル中におけるFRに対する自己抗体の存在を検出することを含む、前記方法。
【請求項20】
神経管欠損症を合併した妊娠をするリスクにある女性をスクリーニングする方法であって、請求項1または2に記載の方法に従って、前記女性由来の生体サンプル中のFRに対する母体自己抗体の存在を検出することを含む、前記方法。
【請求項21】
被験体における葉酸感受性異常または障害を予防する方法であって、以下:
a.請求項1および2に記載の方法に従って、被験体由来の生体サンプル中のFRに対する自己抗体の存在を検出すること、および
b.被験体に薬理量の葉酸補給剤を投与すること
を含む、前記方法。
【請求項22】
前記葉酸感受性異常または障害が、神経管欠損症(NTD)、不妊症、自然流産、男性不妊症、体外受精の失敗、神経障害および葉酸の腸内吸収障害からなる群より選択される、請求項19〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項1】
被験体の生体サンプル中の抗葉酸受容体(FR)自己抗体の存在を検出する方法であって、以下:
a.前記生体サンプルをpH約3.0〜pH約5.0に酸性化し、抗FR自己抗体と前記FRに結合した内在性葉酸とを解離させることによって、前記生体サンプルにおいてアポFRを作製すること、
b.解離した葉酸を除去すること、
c.前記生体サンプルを標識化葉酸(FA)と共にpH約8.0〜pH約8.9でインキュベートすること、
d.ステップcの前記生体サンプルを標識化精製FRと共にインキュベートすること、および
e.前記生体サンプル中に存在する前記抗FR自己抗体と前記標識化精製FRまたは標識済みアポFRとの間の免疫複合体の形成を検出および定量することであって、ここで前記免疫複合体の存在は、前記被験体が抗FR自己抗体を有することを示唆する
を含む、前記方法。
【請求項2】
被験体由来の生体サンプル中のFRへの葉酸の結合を遮断する自己抗体の存在を検出する方法であって、以下:
a.FR結合マトリックスを得ること、
b.前記マトリックスをpH約3.0〜pH約5.0に酸性化することによって、前記マトリックス上でFRに結合する葉酸を解離することおよび前記マトリックス上でアポFRを作製すること、
c.ステップbの解離した葉酸を除去するために、酸性バッファー中で前記マトリックスを洗浄すること、
d.pH約7.0〜pH約8.6のバッファー中に前記マトリックスを再懸濁すること、および標識化葉酸の結合によって単位体積当たりの葉酸結合能を測定すること、
e.前記生体サンプルから遊離の葉酸を除去すること、
f.対照サンプルを得ること、および前記対照サンプルから遊離の葉酸を除去すること、
g.ステップdの懸濁化マトリックスをステップeの前記生体サンプルと共に、pH約7.0〜pH約8.6のバッファー中でインキュベートすること、
h.ステップdの懸濁化マトリックスをステップfの前記対照サンプルと共に、pH約7.0〜pH約8.6のバッファー中でインキュベートすること、
i.ステップgおよびステップhの前記マトリックスを洗浄すること、
j.ステップiの前記マトリックスを標識化葉酸と共にインキュベートすること、
k.ステップgの前記マトリックスおよびステップhの前記マトリックスに対する標識化葉酸結合能を検出および定量することであって、ここで、ステップgにおける前記マトリックスに結合する前記標識化葉酸が、ステップhの前記マトリックスに結合する前記標識化葉酸と比較して減少することは、前記被験体においてFRへの葉酸の結合を遮断する自己抗体の存在を示唆する
を含む、前記方法。
【請求項3】
前記被験体がヒトである、請求項1および2に記載の方法。
【請求項4】
前記生体サンプルが血清である、請求項1および2に記載の方法。
【請求項5】
前記FRが検出可能に標識化されている、請求項1および2に記載の方法。
【請求項6】
前記免疫複合体が、請求項1の前記免疫複合体と免疫グロブリン結合試薬との間の第2の免疫複合体の形成によって検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記免疫グロブリン結合試薬がプロテインA膜懸濁液である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記免疫グロブリン結合試薬が検出可能に標識化された第2の抗体である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記免疫複合体が、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、アルコールまたはポリエチレングリコールを用いて前記免疫複合体を沈降させることによって検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記マトリックスが、ヒトまたは相同種由来のFRを含む胎盤膜である、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
被験体由来の生体サンプル中のFRに対する自己抗体を検出するための試験キットであって、ヒトまたは相同種由来の精製されたFR、前記生体サンプルを処理するための試薬、標識化葉酸、および前記精製FRと前記自己抗体との複合体を検出する少なくとも1つの指標物質を含む、前記キット。
【請求項12】
被験体由来の生体サンプル中のFRによって葉酸の結合を遮断するFRに対する自己抗体を検出するための試験キットであって、ヒトまたは相同種由来のアポFR、前記生体サンプルを処理するための試薬、標識化葉酸、および反応物中に残留する前記アポFRを検出する少なくとも1つの指標物質を含む、前記キット。
【請求項13】
前記キットが前記遮断自己抗体の力価をも測定できる、請求項11および12に記載の試験キット。
【請求項14】
前記キットが、前記FRに対する前記遮断自己抗体の見かけの結合定数(Ka)をも測定することができる、請求項11および12に記載の試験キット。
【請求項15】
前記FRがマトリックスに結合している、請求項11および12に記載の試験キット。
【請求項16】
前記マトリックスが疎水性マトリックスである、請求項15に記載の試験キット。
【請求項17】
前記マトリックスがヒトまたは相同種由来のFRを含む胎盤膜である、請求項15に記載の試験キット。
【請求項18】
前記指標物質が、酵素、放射性標識、蛍光マーカーまたはビオチンからなる群より選択される、請求項11および12に記載の試験キット。
【請求項19】
葉酸感受性異常または障害のリスクにある被験体における前記異常または障害を診断する方法であって、請求項1または2に記載の方法に従って生体サンプル中におけるFRに対する自己抗体の存在を検出することを含む、前記方法。
【請求項20】
神経管欠損症を合併した妊娠をするリスクにある女性をスクリーニングする方法であって、請求項1または2に記載の方法に従って、前記女性由来の生体サンプル中のFRに対する母体自己抗体の存在を検出することを含む、前記方法。
【請求項21】
被験体における葉酸感受性異常または障害を予防する方法であって、以下:
a.請求項1および2に記載の方法に従って、被験体由来の生体サンプル中のFRに対する自己抗体の存在を検出すること、および
b.被験体に薬理量の葉酸補給剤を投与すること
を含む、前記方法。
【請求項22】
前記葉酸感受性異常または障害が、神経管欠損症(NTD)、不妊症、自然流産、男性不妊症、体外受精の失敗、神経障害および葉酸の腸内吸収障害からなる群より選択される、請求項19〜21のいずれか1項に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2006−521532(P2006−521532A)
【公表日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−551956(P2004−551956)
【出願日】平成15年11月7日(2003.11.7)
【国際出願番号】PCT/US2003/035690
【国際公開番号】WO2004/043233
【国際公開日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【出願人】(505166074)
【出願人】(505166096)
【出願人】(505166100)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成15年11月7日(2003.11.7)
【国際出願番号】PCT/US2003/035690
【国際公開番号】WO2004/043233
【国際公開日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【出願人】(505166074)
【出願人】(505166096)
【出願人】(505166100)
【Fターム(参考)】
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