説明

蒸気タービンロータおよびその製造方法、ならびに蒸気タービン

【課題】湿り蒸気に晒される軸継手のボルトおよびナットの隙間に湿り蒸気が浸入しないようにした。
【解決手段】湿り蒸気に晒される軸継手4に用いるボルト10の両端部に突起10,10を設け、このボルト10に結合する袋ナット11,12に突起用貫通孔11,12を開ける。ナットを締め込んだときに貫通孔11,12から突出した突起10,10相互間の長さを計測することによりボルトの締め代管理を行い、かつ、ボルト10およびと袋ナット11,12の隙間に湿り蒸気が浸入しないように孔11,12と突起の隙間をシール材16でシールする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、高圧ロータおよび低圧ロータをタービンケーシング内で軸継手により結合してなる蒸気タービンロータおよびその製造方法、ならびに蒸気タービンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の蒸気タービンとして、タービンケーシングを高圧タービンケーシングおよび低圧タービンケーシングに区分けし、各タービンケーシング内にそれぞれタービン静翼と、タービン動翼を備えたタービンロータとを収容することによって高圧蒸気タービンおよび低圧蒸気タービンを構成し、高圧蒸気タービンのロータ(高圧ロータ)と低圧蒸気タービンのロータ(低圧ロータ)をこれらの間(すなわち高圧タービンケーシングと低圧タービンケーシングの外部)で軸直結させたタイプの蒸気タービンが知られている。
【0003】
このように、タービンケーシングの外部で高圧、低圧の各蒸気タービンを結合すると、全体として長スパンになるため、高圧ロータおよび低圧ロータを組み合せて一つのケーシング内に収容させてスパンを短くした、いわゆる高低圧一体形のものが実施されている。
【0004】
この高低圧一体形蒸気タービンには、高圧ロータおよび低圧ロータを蒸気通路部で軸継手により一体的に結合するタイプのものがある。このタイプの蒸気タービンの場合、高圧ロータと低圧ロータとに異なる材料特性を用いることができるので、高圧ロータと低圧ロータとを一体に製作する一体形ロータや、高圧ロータと低圧ロータとを溶接接合する溶接ロータなどに比べてコストを低減することができる。
【0005】
このような軸継手による高圧ロータと低圧ロータの結合は、軸継手のフランジ面にて複数組のボルトとナットを締結させて行なわれる。ボルトとナットの締結に当たっては、ボルト・ナット間の締め代の管理が行なわれる。これにより、ボルト・ナット間の締めが不足してフランジ面間にガタが生じることや、逆にボルト・ナット間を締め過ぎてボルトに大きな張力が作用してボルトの強度が下がることを防ぎ、高圧ロータと低圧ロータを確実に結合させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−50334号公報
【特許文献2】特開平7−77004号公報
【特許文献3】特開2000−283171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、この種の高低圧一体形蒸気タービンは、蒸気条件によっては、高圧タービンの最終タービン段落を通過した作動蒸気が「湿り蒸気」になることがある。上述の通り軸継手は高圧ロータと低圧ロータとの間に位置するため、このような高低圧一体型蒸気タービンで高圧タービンの最終タービン段落を通過した作動蒸気が湿り蒸気となる場合、軸継手は湿り蒸気雰囲気中に晒されることになる。
【0008】
なお、高圧タービンの最終タービン段落を通過した作動蒸気が湿り蒸気となる場合については、蒸気タービンの設計により常時湿り蒸気となるもの、あるいは起動停止時や部分負荷運転時など一時的に湿り蒸気となるもののほか、長年の運転による経年変化等の理由により、当初(設計時)は乾き蒸気だったものが湿り蒸気となってしまう場合もある。
【0009】
どのような理由であれ、軸継手が湿り蒸気の雰囲気中に晒される場合、軸継手のボルト端部とこれに結合するネジ穴の開いた六角ナットとの隙間(すなわち、雄ネジと雌ネジの隙間)から内部に湿り蒸気が浸入し、そこに腐食成分が堆積する。この状態が長時間放置されるとボルト、ナットの応力腐食割れのリスクが高くなる。
【0010】
本発明の実施形態は、高圧ロータおよび低圧ロータを軸継手により一軸状に結合するように構成された高低圧一体形の蒸気タービンロータにおいて、湿り蒸気の雰囲気中に晒される可能性のある軸継手のボルト・ナット間のシールを確実に行うことができるようにした蒸気タービンロータおよびその製造方法、ならびに蒸気タービンを得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本実施形態によれば、高圧ロータおよび低圧ロータを軸継手により一軸状に結合するように構成された蒸気タービンロータにおいて、前記軸継手は、前記高圧ロータおよび低圧ロータの軸端部にそれぞれ形成したフランジをボルトおよびナットにより締結されるように構成され、前記ボルトは、両側に雄ネジを設けるとともにその先端部に突起を配するように構成され、前記ナットは、前記ボルトの雄ネジに結合する雌ネジを有するとともに前記ボルト先端部の前記突起を貫通させる突起用貫通孔を有する袋ナットに構成され、前記突起と前記突起用貫通孔との隙間がシール材によりシールされてなることを特徴とする。
【0012】
また、本実施形態によれば、高圧ロータおよび低圧ロータを軸継手により一軸状に結合して製造する際に、前記軸継手を、前記高圧ロータおよび低圧ロータの軸端部にそれぞれ形成したフランジをボルトおよびナットにより締結されるように構成し、前記ボルトを、両側に雄ネジを設けるとともにその先端部に軸方向への突起を配するように構成し、前記ナットを、前記ボルトの雄ネジに結合する雌ネジを有するとともに前記ボルト先端部の前記突起を貫通させる突起用貫通孔を有する袋ナットに構成し、かつ、前記ボルトの締め代が所定値か否かを、前記ボルトの両端に設けた突起相互間の長さを計測して判定し、前記突起相互間の長さが所定値のとき、前記突起と前記突起用貫通孔との隙間をシール材によりシールすることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る高低圧一体形蒸気タービンを概念的に描いた半裁縦断面図。
【図2】軸継手のフランジ部を拡大して示す断面図。
【図3】本実施形態に係る軸継手の拡大断面図。
【図4】本実施形態に係る軸継手に用いるスタッドボルトの拡大図。
【図5】本実施形態に係る軸継手に用いる袋ナットの拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態に係る高低圧一体形ロータを有する蒸気タービンについて説明する。
図1は本発明の実施形態に係る高低圧一体形蒸気タービンを概念的に描いた半裁縦断面図である。
図1に示す高低圧一体形蒸気タービン100は、高圧および低圧を一体に形成したタービンケーシング1内に高圧タービンロータ(以下、高圧ロータという)2と、低圧タービンロータ(以下、低圧ロータという)3とを軸継手4により一軸状に配設している。
【0015】
高圧ロータ2と低圧ロータ3とは、それぞれ一塊の鋼材からを削り出してシャフトとディスクと一体的に構成したタイプのもので、それぞれディスク211,221,231および311,321,331を軸方向に沿って形成し、各ディスク211,221,231,311,321,331にタービン動翼212,222,232,312,322,332を植設している。
【0016】
高圧ロータ2について説明すると、ディスク211、ディスク221,231の上流側に前記ケーシング1に固定されたタービン静翼213,223,233を配置して、タービン静翼213とタービン動翼212との対、タービン静翼223とタービン動翼222との対、タービン静翼233とタービン動翼232との対によりそれぞれタービン段落を構成している。
【0017】
同様に、低圧ロータ3では、ディスク311、ディスク321,331の上流側に前記ケーシング1に固定されたタービン静翼313,323,333を配置し、タービン静翼313とタービン動翼312との対、タービン静翼323とタービン動翼322との対、タービン静翼333とタービン動翼332との対によりそれぞれタービン段落を構成している。5,6はそれぞれ高圧ロータ側、低圧ロータ側に配置した軸受である。
【0018】
なお、図1に示す高低圧一体形蒸気タービン100は、模式的に表してあるため、高低圧蒸気タービンともタービン段落は3段ずつしか設けていないが、実際の場合にはもう少し多い段数を有していることは言うまでもない。
【0019】
このように構成された高低圧一体形蒸気タービン100に対して、図示しないボイラから出力された高温高圧の作動蒸気は、図示しない蒸気弁(蒸気止弁、蒸気加減弁)を通過した後、高圧タービンの蒸気室7に送られる。この蒸気室7に送られてきた作動蒸気は、高圧ロータ2の第1タービン段落(タービン静翼213とタービン動翼212)、第2のタービン段落(タービン静翼223とタービン動翼222)および最終タービン段落(タービン静翼233とタービン動翼232)でそれぞれ膨張仕事をして高圧ロータ2を回転駆動し、前記ケーシング1によって形成された軸継手収容空間部8に到る。このとき、高圧ロータ2の最終タービン段落を経て空間部8に到った作動蒸気の温度は、約250℃から150℃程度まで低下して湿り蒸気となる。
【0020】
この湿り蒸気となった作動蒸気は、下流側の低圧ロータ3の第1のタービン段落(タービン静翼313とタービン動翼312)、第2のタービン段落(タービン静翼323とタービン動翼322)および最終タービン段落(タービン静翼333とタービン動翼332)でそれぞれ膨張仕事をして低圧ロータ3を回転駆動したのち、図示しない復水器に排気される。
【0021】
ところで、蒸気タービン100の高圧ロータ2と低圧ロータ3とを結合させる軸継手4は、図2で示すように、高圧ロータ2および低圧ロータ3のそれぞれのシャフト端部に形成したフランジ部2Fおよび3Fに円周方向に沿って複数個(シャフトの径によって異なるが、通常20数個程度)のボルト貫通穴9を開けており、このボルト貫通穴9に詳細を図4で示すスタッドボルト10を挿通し、その両側のネジ部に詳細を図5で示す袋ナット11,12をネジ込むように構成されている。なお、13は、低圧ロータ側のフランジ3Fの外周に形成した環状溝であり、この溝13に図示しないバランスウェイトを取付けて回転バランスをとるようにしている。この溝13は高圧ロータ側のフランジ2Fに設けるようにしてもよい。
【0022】
スタッドボルト10は、図4で示すように中間部を除いた両側に雄ネジ10,10を設けており、かつ、雄ネジ10,10の中心線上(軸方向)の最先端に突起10,10を設けている。なお、突起10,10の中心線に垂直な断面形状は円形や多角形など適宜設定できるが、最大の径方向幅はスタッドボルト10の直径よりも小さく設定されている。スタッドボルト10の一方の突起10から反対側の突起10までの長さ(軸方向長さ)はスタッドボルト生産時点で予め規定された長さLに揃えられており、スタッドボルト10に引張力や圧縮力を加えていない状態では、その長さはLに管理されているものとする。
【0023】
また、袋ナット11および12は、図5で示すように前記スタッドボルト10の雄ネジ10,10に組合される雌ネジ(ネジ穴)11,12を設けるとともに、このネジ穴11,12を閉塞する端面に前記突起10,10を貫通させる突起貫通孔11,12を設けている。図3において、14および15はそれぞれフランジ2Fと袋ナット11、フランジ3Fと袋ナット12間に介挿されるワッシャーである。
【0024】
次に、本実施形態における軸継手4の組み立て工程について説明する。
(1)まず、高低圧ロータ2,3のフランジ2F,3Fのボルト貫通穴9を位置決めしながら衝合面に形成したインロウ部を嵌合し、位置決めができたらボルト貫通穴9にスタッドボルト10を挿通する。
【0025】
(2)次に、スタッドボルト10の両側のネジ部10,10にワッシャー14,15を嵌めた後、袋ナット11,12を適当な工具を使ってほぼ均等にネジ込んでいく(締め込んでいく)。
【0026】
(3)図3のように袋ナット11,12の閉塞端面からスタッドボルト10の突起10,10がそれぞれ適当な長さに突出するまでネジ込んだら、両端の突起10,10相互間の長さLを測定する。このとき、スタッドボルト10には両側から引張力が作用するので、計測値Lは、初期状態すなわち引張力や圧縮力を加えない状態のときの長さLiよりも幾分伸張している(L>Li)。
【0027】
このときの測定値Lが予め設定した所定の長さLに達していない場合(L>L>Li)、さらに袋ナット11,12をネジ込み、再び両端の突起10,10相互間の長さLを測定する。このネジ込みおよび測定の工程を適当回数繰り返して、測定値Lが所定の長さにLにほぼ一致(L≒L)したら袋ナット11,12のネジ込みを停止し、その位置を保持する。
【0028】
このときのスタッドボルト10の突起10,10相互間の長さLは、未使用時の長さ(初期値)Liよりもδ分だけ伸張している(δ=LR−Li)。このスタッドボルト10が伸張した分の長さδを「ボルトの締め代」という。
【0029】
このボルトの締め代δはスタッドボルト10の引張力に応じた長さになることが予め分っているので、スタッドボルト10の長さがLになったことを計測で確認することができれば、軸継手4のスタッドボルト10および袋ナット11,12による締め付け力が所定値であること、すなわち、軸継手4のスダッドボルト10および袋ナット11,12が過不足無く締め込んであることが確認できる。
【0030】
(4)このようにして、軸継手4のスダッドボルト10および袋ナット11,12による締め付け力すなわち、ボルトの締め代が所定値であることが確認された時点でスタッドボルト10の突起10,10と袋ナット11,12の突起貫通孔11,12との間をシール(密閉)するように溶接材で溶接する。図3中の符号16が溶接によるシール部(シール材)である。この溶接によって、シールだけでなく、袋ナット11,12の緩み止めの効果も期待できる。
【0031】
なお、スタッドボルト10の突起10,10と袋ナット11,12の突起貫通孔11,12との間のシール部16は、溶接に限る必要はない。例えば、軸継手4が晒される湿り蒸気の温度(例えば、250℃程度の温度の蒸気)に耐え、かつ前記ロータ材を腐食させることのない成分を有するコーキング材(シーリング材)を採用するようにしてもよい。
【0032】
このように本実施形態によれば、スタッドボルト10に突起10,10を設け、袋ナット11,12に突起貫通孔11,12を設けたことにより、スタッドボルト10と袋ナット11,12の締め代の管理を確実に行なうことができる。そして、このように締め代を管理してスタッドボルト10と袋ナット11,12を締結した後、スタッドボルト10の突起10,10と袋ナット11,12の突起貫通孔11,12との間の隙間が閉塞され、また、フランジ2F,3Fと袋ナット11,12間はワッシャー14,15によって閉塞されるので、スタッドボルト10と袋ナット11,12によるネジ結合部(ネジ結合による応力集中部)は勿論のこと、フランジ2F,3Fのボルト貫通穴9にも低圧ロータ3の作動蒸気となる湿り蒸気が浸入することはない。したがって、これらの部分に湿り蒸気中に含まれる腐食成分が堆積することはなく、応力腐食割れを懸念する必要もなくなる。
【0033】
なお、以上述べた実施形態では、スタッドボルト10の突起10,10相互間の長さLを測定して、ボルトの締め代が所定値であるか否かを確認するようにしたが、突起10,10の袋ナット端面からの突出した長さそのものを測定してボルトの締め代が所定値であるか否かを確認するようにしてもよい。この場合、袋ナット11,12やワッシャー14,15の厚み寸法も予め規定値に管理しておく必要がある。
【0034】
このように、本発明の実施形態によれば、高圧ロータおよび低圧ロータを軸継手により一軸状に結合するように構成された高低圧一体形の蒸気タービンにおいて、ロータ間の軸継手が湿り蒸気の雰囲気中に晒されることとなってもボルト・ナット間のシールを確実に行うことができる。
【符号の説明】
【0035】
1…蒸気タービン、2…高圧ロータ、212,222,232…高圧タービン動翼、213,223,233…高圧タービン静翼、3低圧ロータ、312,322,332…低圧タービン動翼、313,323,333…低圧タービン静翼、4…軸継手、5,6…軸受、7…蒸気室、8…軸継手収容部、9…スタッドボルト貫通穴、10…スタッドボルト、10,10…雄ネジ、10,10…突起、11…袋ナット、11…雌ネジ、11…突起用貫通孔、12…袋ナット、12…雌ネジ、12…突起用貫通孔、13…バランスウェイト溝、14,15…ワッシャー、16…シール部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧ロータおよび低圧ロータを軸継手により一軸状に結合するように構成された蒸気タービンロータにおいて、
前記軸継手は、前記高圧ロータおよび低圧ロータの軸端部にそれぞれ形成したフランジをボルトおよびナットにより締結されるように構成され、
前記ボルトは、両側に雄ネジを設けるとともにその先端部に突起を配するように構成され、前記ナットは、前記ボルトの雄ネジに結合する雌ネジを有するとともに前記ボルト先端部の前記突起を貫通させる突起用貫通孔を有する袋ナットに構成され、前記突起と前記突起用貫通孔との隙間がシール材によりシールされてなることを特徴とする蒸気タービンロータ。
【請求項2】
前記突起と前記突起用貫通孔との隙間は、溶接によりシールされることを特徴とする請求項1記載の蒸気タービンロータ。
【請求項3】
前記突起と前記突起用貫通孔との隙間は、高圧ロータ側の最終タービン段落から排出される湿り蒸気温度に耐え、かつ、前記ロータ材を腐食させない成分によりシールされることを特徴とする請求項1記載の蒸気タービンロータ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項記載の蒸気タービンロータを製造する蒸気タービンロータの製造方法において、
前記ボルトの締め代が所定値か否かを、前記ボルトの両端に設けた突起相互間の長さを計測して判定し、前記突起相互間の長さが所定値のとき、前記突起と前記突起用貫通孔との隙間をシール材によりシールすることを特徴とする蒸気タービンロータの製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至3に記載の蒸気タービンロータを一体形のタービンケーシング内にタービン静翼とともに配置したことを特徴とする蒸気タービン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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