説明

蒸気タービン用鍛造合金、それを用いた蒸気タービンロータ

【課題】クリープ特性と疲労特性に優れた蒸気タービン用鍛造合金、それを用いた蒸気タービンロータを提供する。
【解決手段】蒸気タービン用鍛造合金は、重量で、Fe15〜45%,Cr14〜18%,Ti1.0〜1.8%,Al1.0〜2.0%,Nb1.25〜3.0%,C+N0.05%以下、残部Niからなる蒸気タービン用鍛造合金を、熱処理した後の結晶粒度番号が0〜2であって、前記熱処理が、異なる温度範囲での複数の溶体化熱処理を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主蒸気温度が675℃以上の蒸気タービン部品(例えばロータ)に用いるNiFe基鍛造合金に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭火力発電プラントの高効率化を目指して、蒸気温度が700℃以上の火力プラントの開発が進められている。これまでの蒸気タービン部品(例えば、ロータ,ボルト,ブレード)には、鉄系の材料である12Cr系フェライト鋼が用いられているが、使用環境として蒸気温度で650℃が限界であると言われている。それに代わって、700℃級の蒸気タービン部品には、析出強化型合金であるNi基系の材料が検討されている。
【0003】
蒸気タービン部品は、大型のものが多いため、求められる特性として、大型鋼塊製造性や熱間鍛造性、また熱膨張係数の比較的小さいフェライト鋼と組み合わせての適用が考えられるため、低熱膨張性も求められる。
【0004】
例えば、特許文献1に示すNi基合金(USC141)は、Ni基の中でも線膨張係数が小さく、クリープ強度も700℃級の蒸気タービンに使用されようとしている候補材の中でも、優れた強度を有している。
【0005】
また、特許文献2に示すFe−Ni基合金では、偏析元素であるNbを低減させ、γ′相生成元素であるAlを増やすことで、大型鋼塊製造性とクリープ強度を両立した材料であり、蒸気タービンの大型部材、例えばロータへの適用が期待される。
【0006】
材料の特性は、材料組成が同じでも、材料組織によって大きく異なる。結晶粒径が大きくなると、クリープ強度は高くなるが、疲労特性が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−157779号公報
【特許文献2】特開2005−2929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、クリープ特性と疲労特性に優れた蒸気タービン用鍛造合金、それを用いた蒸気タービンロータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の蒸気タービン用鍛造合金は、重量で、Fe15〜45%,Cr14〜18%,Ti1.0〜1.8%,Al1.0〜2.0%,Nb1.25〜3.0%,C+N0.05%以下、残部Niからなる蒸気タービン用鍛造合金を、熱処理した後の結晶粒度番号が0〜2であって、前記熱処理が、異なる温度範囲での複数の溶体化熱処理を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、クリープ特性と疲労特性に優れた蒸気タービン用鍛造合金、それを用いた蒸気タービンロータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】結晶粒度番号とクリープ破断時間との関係を示す図(クリープ条件;700℃,333MPa)。
【図2】結晶粒度番号と低サイクル疲労破断回数との関係を示す図(ひずみ範囲;0.8%,700℃)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、材料の結晶粒度(結晶粒径)が、クリープ強度と疲労特性に及ぼす影響を検討した。γ′相の溶体化温度を通常よりも高くすることで、結晶粒径(結晶粒度)を粗大化させた。
【0013】
結晶粒度番号が0〜2のNiFe鍛造合金を用いて、クリープ強度と疲労特性を調査した結果、同じクリープ条件でクリープ破断時間が、通常よりも約6倍長くなることがわかった。さらに、疲労特性は、同じ低サイクル疲労試験条件下において、大きな低下が見られなかった。
【0014】
以下、本発明のNiFe基鍛造合金を説明する。
【0015】
(NiFe基鍛造合金)
Alは、Nb低減による強度低下を補い、組織安定性を向上させるため、1.0重量%以上含有させることが必要である。しかし、過度の含有は、γ′相の過度な増加による鍛造性の悪化を生じるため、2.0重量%以下とする。
【0016】
Tiは、γ′相を析出させる元素であり、また、高温でNi3Tiを安定にする元素であるため、過大な含有は好ましくなく、1.0〜1.8重量%とする。
【0017】
CとNは、前述のように、NbCの増加に伴う結晶粒の微細化を抑えるため、CとNとの総和で0.05重量%以下とする。
【0018】
Feは、有害析出相であるσ相およびδ相の析出を抑制するため、15〜45重量%とする。
【0019】
Nbは、γ′相の安定化元素であり、含有量が少なすぎると、有効な強度が得られないため、また過度の含有は偏析特性の悪化を招くため、1.25〜3.0重量%とする。
【0020】
Crは、過度の含有は有害析出相であるσ相の析出を促すが、耐酸化性を得るため、14〜18重量%とする。
【0021】
本発明のNi−Fe基超合金は、以上述べた成分と、残部のNiから構成される。これらの成分以外に、原料中、もしくは製造過程で混入する元素が不純物として含まれることがある。若干の不純物の混入は避けることができないことから、ここでは、不可避不純物と称している。
【0022】
次に、NiFe基鍛造合金の製造方法を説明する。
【0023】
(NiFe基鍛造合金の製造方法)
まず、上記組成からなるNiFe基鍛造合金について、2段階の溶体化熱処理を行う。
【0024】
1段目の溶体化熱処理は、1020℃〜1100℃で1〜10時間行う。1020℃未満であると、結晶粒の粗大化が進まない、もしくは長時間の熱処理が必要となり実用的ではない。一方、1100℃を超えると、結晶粒の粗大化速度が速くなるため、結晶粒径の制御が難しい。
【0025】
2段目の溶体化熱処理は、965℃〜995℃で1〜4時間行う。この温度範囲は、一般的にこの種のNi基合金で溶体化熱処理として行われる温度でよい。この温度範囲にすることで、γ′相を析出させずに炭化物のみを析出させ、時効熱処理時に、炭化物が結晶粒界に連続的に析出させることを防ぐことを目的とする。
【0026】
次に、時効熱処理を行う。時効熱処理の温度は、この種のNiFe基鍛造合金で時効熱処理で一般的に行われる温度でよい。好ましくは2回にわたる時効処理がよく,1回目は825〜855℃で10時間以内,2回目はそれ以下の温度で710〜740℃で10〜48時間である。
【0027】
次に、熱処理後の結晶粒度を説明する。
【0028】
(熱処理後の結晶粒度)
熱処理後の結晶粒度(結晶粒径)は、日本工業規格(JIS)における結晶粒度番号で0〜2、好ましくは1〜2の範囲である。結晶粒度番号は、その値が小さいほど、結晶粒度が大きいことを意味する。
【0029】
0より小さい結晶粒度番号、つまり結晶粒径が大きくなると、疲労特性が低下する傾向にあり、超音波透過性が悪くなるために欠陥検出性が低くなりやすい。
【0030】
一方、2より大きい結晶粒度番号、つまり結晶粒径が小さくなると、疲労特性やクリープ破断延性は維持、もしくは改善されるが、クリープ強度は従来と大きく変わらず、改善が見られない。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明する。
【0032】
真空誘導溶解(VIM)とエレクトロスラグ再溶解(ESR)のダブルメルトプロセスによって得られた素材を熱間鍛造し、供試材を作成した。
【0033】
表1に、供試材の組成を示す。
【0034】
【表1】

【0035】
(供試材の熱処理)
得られた供試材について、表2に示す温度条件で溶体化熱処理を2回行い、時効熱処理した後、結晶粒度番号を測定した。結晶粒度番号の測定は、JIS G0551に準拠した。
【0036】
1回目の溶体化熱処理の温度範囲が1020〜1100℃のものを本発明材A,B,Cとし、それ以外のものを比較材A,B,Cとした。
【0037】
【表2】

【0038】
本発明材A,本発明材B,本発明材Cは、1回目の溶体化熱処理をそれぞれ1020℃×3時間,1060℃×3時間,1100℃×3時間で行った後、2回目の溶体化熱処理を980℃×2時間で行った。その後、時効熱処理を840℃×8時間,740℃×24時間行った。
【0039】
比較材A,比較材Bは、1回目の溶体化熱処理をそれぞれ1140℃×3時間,1140℃×1時間で行った後、2回目の溶体化熱処理を980℃×2時間で行った。その後、時効熱処理を840℃×8時間,740℃×24時間行った。
【0040】
比較材Cは、1段目の溶体化熱処理を行わず、2段目の熱処理のみ行った。その後、時効熱処理を840℃×8時間,740℃×24時間行った。
【0041】
表2に示すとおり、溶体化熱処理を2回行い、1回目の温度を1020〜1100℃とした本発明材A,B,Cは、結晶粒度番号が2,1,0であった。比較材A,B,Cは−1,−0.7,3であった。
【0042】
溶体化熱処理の温度範囲を調整することで、熱処理後の結晶粒度番号を0〜2にすることができる。
【0043】
(クリープ試験)
本発明材A,B,Cと、比較材A,B,Cについて、700℃,333MPaの条件でクリープ試験を行った。
【0044】
結果を図1に示す。
【0045】
図1は、結晶粒度番号とクリープ破断時間との関係を示す図である。クリープ条件は700℃,333MPaである。従来、本材料においては、結晶粒度番号で3以下として粒度調整をした際の破断時間は200時間である。図1に示すように、結晶粒度番号が小さくなるにつれて破断時間が長くなる傾向にある。
【0046】
(低サイクル疲労試験)
次に、図2に試験片における低サイクル疲労試験の結果を示す。図2は、結晶粒度番号と低サイクル疲労破断回数との関係を示す図である。
【0047】
ひずみ範囲は、0.8%,700℃である。結晶粒度番号が1以上の場合、ほぼ横ばいであるが、0の場合、若干の低下傾向が見られ、0より小さい場合、破断回数が大きく低下している。
【0048】
したがって、図1,図2に示すとおり、クリープ強度については、結晶粒度番号で2以下であることが好ましく、疲労特性については、0以上、好ましくは1以上であることが好ましい。
【0049】
熱処理により、結晶粒度番号を0〜2、好ましくは1〜2に調整したNiFe基鍛造合金を用いることで、クリープ強度を低下させることなく疲労特性を改善することができる。
【0050】
本発明材は、上記特性を備えるため、主蒸気温度が675℃を超えるような蒸気タービン発電プラントの蒸気タービン部品(例えば、ロータ)に好適である。
【0051】
蒸気タービンは、大きく高圧タービン(中圧タービン),低圧タービンから構成される。例えば、蒸気温度700℃級の蒸気タービンでも、温度の低くなる低圧タービンでは、600℃以下となるため、鉄系の材料が用いられる一方、高圧タービン、一部の蒸気タービンの中圧タービンでは、蒸気温度が700℃を超えるため、Ni基、もしくはNi−Fe基合金がロータ,動翼,ケーシングボルトなどに用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量で、Fe15〜45%,Cr14〜18%,Ti1.0〜1.8%,Al1.0〜2.0%,Nb1.25〜3.0%,C+N0.05%以下、残部Niからなる蒸気タービン用鍛造合金を、熱処理した後の結晶粒度番号が0〜2であって、
前記熱処理が、異なる温度範囲での複数の溶体化熱処理を含むことを特徴とする蒸気タービン用鍛造合金。
【請求項2】
請求項1において、前記異なる温度範囲が1020〜1100℃と、965〜995℃であることを特徴とする蒸気タービン用鍛造合金。
【請求項3】
請求項1または2に記載の蒸気タービン用鍛造合金からなることを特徴とする蒸気タービンロータ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−46787(P2012−46787A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188982(P2010−188982)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】