説明

蒸気弁

【課題】 蒸気弁の弁棒の円滑な動作を確保すること
【解決手段】 図示していない弁座に接離される弁体1と、弁体1を移動させる弁棒3と、弁棒3を摺動自由に支持する円筒状のブッシュ5、6と、ブッシュ5、6が嵌合される貫通穴7が設けられた支持部材であるケーシング9とを備えて構成され、ブッシュ5、6は、貫通穴7に嵌め合わされる外側ブッシュ5a、6aと、外側ブッシュ5a、6aの内側に嵌め合わされる円筒状の内側ブッシュ5b、6bとを有し、外側ブッシュ5a、6aと内側ブッシュ5b、6bとが重なり合う一方の端部は、全周にわたって互いに溶接された溶接部29、31が設けられることで、残留応力によって内側ブッシュ5b、6bの内面に亀裂などの欠陥が生じるのを抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気弁に関し、特に蒸気弁の信頼性を向上する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービン発電設備に設置される主な蒸気弁は、主蒸気系統の主蒸気止め弁及び蒸気加減弁、再熱蒸気系統の再熱蒸気止め弁、インターセプト弁などから構成される。主蒸気止め弁及び再熱蒸気止め弁は危急時にタービンに流入する蒸気を遮断する目的で配置され、蒸気加減弁及びインターセプト弁はタービンに流入する蒸気量を調整し、タービンの制御を行なう目的で配置されている。
【0003】
蒸気弁は、弁体を移動させる弁棒と、弁棒を摺動自由に支持する円筒状のブッシュと、ブッシュが嵌合され貫通穴が設けられた支持部材とを備えて構成されている。
【0004】
ところで、蒸気タービン発電設備における蒸気は高温高圧であるため、ブッシュの内面に酸化スケールが付着することにより蒸気弁の開閉動作の円滑性が損なわれるおそれがある。
【0005】
そこで、ブッシュの母材に低合金鋼(Cr−Mo−V鋼)又は12Cr鋼を用い、内面にコバルト基合金(ステライト)の肉盛溶接層を形成することで、ブッシュ内面に酸化スケールが付着するのを抑制する技術が提案されている。(例えば、特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】特開平6−221105号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術は、ブッシュ内面にコバルト基合金を肉盛溶接していることから、コバルト基合金の肉盛溶接層には残留応力が生じ、この残留応力によりブッシュに亀裂などの欠陥が生じ、ブッシュと摺動する弁棒が円滑に動作しなかったり、弁棒がスティックして開閉不能になることについては配慮されていない。
【0008】
本発明は、蒸気弁の弁棒の円滑な動作を確保することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明の蒸気弁は、弁体を移動させる弁棒と、弁棒を摺動自由に支持する円筒状のブッシュと、ブッシュが嵌合される貫通穴が設けられた支持部材とを備えた蒸気弁において、ブッシュは、貫通穴に嵌合される外側ブッシュと、外側ブッシュの内側に嵌合され外側ブッシュと異なる材質の内側ブッシュとを有し、外側ブッシュと内側ブッシュとが重なり合う一方の端部は、周方向の一部又は全周にわたって互いに溶接により接合されていることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、外側ブッシュと内側ブッシュは全長にわたって溶接された構造でないから、線膨張係数の差により生じる変形を最小限に抑えることができる。すなわち、外側ブッシュ及び内側ブッシュは、溶接された端部以外の部分が自由に伸縮することができるので、ブッシュに熱膨張差に起因する亀裂などの欠陥が生じるのを抑制することができる。
【0011】
この場合、内側ブッシュの線膨張係数を外側ブッシュの線膨張係数よりも大きくすることが好ましい。蒸気弁は一般に高温環境下で用いられるから、熱膨張差によって内側ブッシュが外側ブッシュに押し付けられるので、内側ブッシュを外側ブッシュに強固に固定することができる。
【0012】
また、ブッシュの弁体側の端部を溶接接合すれば、蒸気が内側ブッシュと外側ブッシュとの間に流入するのを抑制することができる。
【0013】
一方、ブッシュを貫通穴の方向に2つに分割して形成し、貫通穴の端部から突出されたそれぞれの端部の外側ブッシュと内側ブッシュを接合し、貫通穴内に位置する端部を互いに間隔をあけて配置することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、蒸気弁の弁棒の円滑な動作を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。図1は本発明の一実施形態の蒸気弁の要部を示す構成断面図である。図示のように、本実施形態の蒸気弁は、図示していない弁座に接離される弁体1と、弁体1を移動させる弁棒3と、弁棒3を摺動自由に支持する円筒状のブッシュ5、6と、ブッシュ5、6が嵌合される貫通穴7が設けられた支持部材であるケーシング9とを備えて構成されている。弁体1、ケーシング9の材質には、例えば12%クロム鋼を用い、弁棒3にはインコロイ(ニッケル‐クロム‐鉄が主成分)が用いられている。弁棒3の表面には耐摩耗性を向上するために窒化処理が行われている。
【0016】
ブッシュ5は、貫通穴7の弁体1側に配置され、ブッシュ6は、貫通穴7のブッシュ5の反対側に、ブッシュ5に対向させて配置されている。また、ブッシュ5、6は、貫通穴7の内部に位置する端部が互いに間隔Lをあけて設けられ、間隔Lは、ブッシュ5、6が熱膨張した場合に互いの端部が衝突しない距離に設定されている。
【0017】
ブッシュ5、6は、貫通穴7に嵌め合わされる円筒状の外側ブッシュ5a、6aと、外側ブッシュ5a、6aの内側に嵌め合わされる円筒状の内側ブッシュ5b、6bとを有している。内側ブッシュ5b、6bの内径は弁棒3が摺動自由に移動可能な径に設定されている。外側ブッシュ5a、6aには、12Cr鋼が用いられ、内側ブッシュ5b、6bには、コバルト基合金(例えば、ステライト#6)が用いられている。
【0018】
貫通穴7の弁体1側の端部には、拡径部11が形成され、貫通穴7の拡径部11の反対側の端部には拡径部13が形成されている。また、外側ブッシュ5a、6aには、貫通穴7の拡径部11、13の形状に対応させて拡径部17、19が形成されている。貫通穴7の拡径部11、13の段差部に、外側ブッシュ5a、6aの拡径部17、19の段差部がそれぞれ係止されることにより軸方向の位置ぎめをするようにしている。また、外側ブッシュ5a、6aは、貫通穴7の端部から突出して設けられている。
【0019】
また、貫通穴7から突出した側の外側ブッシュ5a、6aと内側ブッシュ5b、6bが重なり合う端部には、全周にわたって互いに溶接された溶接部29、31が設けられている。
【0020】
本実施形態によれば、外側ブッシュ5a、6aと内側ブッシュ5b、6bは全長にわたって溶接された構造でないから、線膨張係数の差により生じる変形を最小限に抑えることができる。すなわち、外側ブッシュ5a、6a及び内側ブッシュ5b、6bは、溶接部29、31以外の部分が自由に伸縮することができるので、ブッシュ5、6に熱膨張差に起因する割れなどの欠陥が生じるのを抑制することができる。その結果、蒸気弁の耐久性及び信頼性を向上することができる。
【0021】
また、ブッシュ5の弁体1側の端部に溶接部29が設けられているので、外側ブッシュ5aと内側ブッシュ5bとの間に蒸気が流入するのを抑制することができる。また、内側ブッシュ5b、6b(ステライト#6)の線膨張係数を外側ブッシュ5a、6a(12Cr鋼)の線膨張係数よりも大きくしているので、高温環境下での熱膨張差によって内側ブッシュ5b、6bが外側ブッシュ5a、6aに押し付けられるので、内側ブッシュ5b、6bを外側ブッシュ5a、6aに強固に固定することができる。
【0022】
本実施形態においては、弁体1、外側ブッシュ5a、6a、ケーシング9には12%クロム鋼を用いているが、弁体1、外側ブッシュ5a、6a、ケーシング9の材質はこれに限るものではなく、耐食性、耐熱性を有するものであればよく、例えば、クロム−モリブデン−バナジウム鋼、9%クロム鋼などを用いることができる。
【0023】
また、内側ブッシュ5b、6bには、耐酸化性(酸化スケール生成の抑制)と耐摩耗性(高温硬さの向上)を有するコバルト基合金を用い、弁棒3としては、インコロイを用いているが、内側ブッシュ5b、6b及び弁棒3はこれらに限るものではなく、耐酸化性と耐摩耗性を有するものであればよい。
【0024】
また、高温の条件下においてコバルト基合金であるステライト#6の耐磨耗性、耐酸化性及び強度を確保するためには所定の厚さ(例えば、2mm)の肉厚が必要となることから、内側ブッシュ5b、6bの製造方法としては同芯精度に優れ、コストの小さい遠心鋳造法を用いることができる。
【0025】
本実施形態においては、溶接部29、31は、アーク溶接又はプラズマ溶接などを用いることができる。この場合、ブッシュの変形を少なくするためには入熱量が少ない方が良いためプラズマ溶接を用いるのが好ましい。また、本実施形態では溶接部29、31は全周を溶接しているが、部分溶接を行ってもよく、外側ブッシュ5a、6aに対して内側ブッシュ5b、6bが貫通穴7の方向に動かないように固定できるものであればこれに限るものではない。
【0026】
本実施形態においては、ブッシュを貫通穴の方向に2つに分割して設けたものについて説明したが、1つのブッシュを貫通穴7に嵌合し、貫通穴7の両端部から突出して設けてもよい。この場合、外側ブッシュと内側ブッシュの溶接部は弁体側に設けることが好ましい。また、弁体1側の端部に拡径部を設けることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態の蒸気弁の要部を示す構成断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 弁体
3 弁棒
5、6 ブッシュ
5a、6a 外側ブッシュ
5b、6b 内側ブッシュ
7 貫通穴
9 ケーシング
11、13、17、19 拡径部
29、31 溶接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁体を移動させる弁棒と、該弁棒を摺動自由に支持する円筒状のブッシュと、該ブッシュが嵌合される貫通穴が設けられた支持部材とを備えた蒸気弁において、
前記ブッシュは、前記貫通穴に嵌合される外側ブッシュと、該外側ブッシュの内側に嵌合され前記外側ブッシュと異なる材質の内側ブッシュとを有し、前記外側ブッシュと前記内側ブッシュとが重なり合う一方の端部は、周方向の一部又は全周にわたって互いに溶接により接合されていることを特徴とする蒸気弁。
【請求項2】
請求項1に記載の蒸気弁において、
前記内側ブッシュの線膨張係数は、前記外側ブッシュの線膨張係数よりも大きいことを特徴とする蒸気弁。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の蒸気弁において、前記ブッシュは、前記弁体側の端部が接合されていることを特徴とする蒸気弁。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の蒸気弁において、
前記ブッシュは、前記貫通穴の方向に2つに分割して形成され、前記貫通穴の端部から突出されたそれぞれの端部の前記外側ブッシュと前記内側ブッシュが接合されていることを特徴とする蒸気弁。
【請求項5】
請求項4に記載の蒸気弁において、
前記ブッシュは、前記貫通穴内に位置する端部が互いに間隔をあけて配置されていることを特徴とする蒸気弁。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれか1項に記載の蒸気弁において、
前記支持部材の前記貫通穴の少なくとも一端部に拡径部が形成され、前記ブッシュには、前記拡径部に係止する拡径部が形成されていることを特徴とする蒸気弁。

【図1】
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【公開番号】特開2009−162132(P2009−162132A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−1221(P2008−1221)
【出願日】平成20年1月8日(2008.1.8)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】