説明

蒸着装置及び蒸着方法

【課題】大型の成膜対象物の表面に分布が均一な成膜を簡素な構成の装置で行うことができる技術を提供する。
【解決手段】本発明の蒸着装置1は、真空槽2と、真空槽2内に設けられ、溶融蒸発材料30を収容する細長形状の収容部12と、当該収容部12内の蒸発材料をその蒸発温度以上の温度で加熱する加熱手段13とを有する蒸発源10を有する。真空槽2内には、蒸発源10の収容部12の長手方向に対して直交する方向に基板4を搬送するための搬送経路5と、蒸発源10の収容部12の両側部に、蒸発材料31、32を移動させつつ収容部12の両端部にそれぞれ所定量の蒸発材料31、32を供給する第1及び第2の材料供給手段21、22とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば有機ELディスプレイや有機EL照明デバイス等の有機デバイスを作製するための蒸着技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の蒸着装置としては、例えば特許文献1〜3に記載されたようなものが知られている。
特許文献1に記載された発明は、点状の蒸発源であり、蒸発速度が遅いとともに、蒸発材料の利用効率が低く、生産効率が良くないという問題がある。
【0003】
一方、特許文献2に記載された発明は、構成が複雑でコスト高になるとともに、膜厚分布を調整する機構を有しておらず、膜厚分布の均一性を確保することが困難であるという問題がある。
さらに、特許文献3に記載された発明においては、大型基板に対して膜厚分布の均一性を確保することが困難であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−50236号公報
【特許文献2】特開昭62−290863号公報
【特許文献3】特開2010−144221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような従来の技術の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、大型の成膜対象物の表面に分布が均一な成膜を簡素な構成の装置で行うことができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた本発明は、真空槽と、前記真空槽内に設けられ、蒸発材料を収容する細長形状の収容部と、当該収容部内の蒸発材料を当該蒸発材料の蒸発温度以上の温度で加熱する加熱手段とを有する蒸発源と、前記真空槽内において前記蒸発源の収容部の長手方向に対して交差する方向に成膜対象物を搬送するための搬送経路と、前記蒸発源の収容部の両側部に設けられ、前記蒸発材料を移動させつつ前記収容部の両端部にそれぞれ所定量の蒸発材料を供給する第1及び第2の材料供給手段と、を有する蒸着装置である。
本発明では、前記第1及び第2の材料供給手段が、巻き付けられた細長形状の蒸発材料をその回転により繰り出して前記蒸発源の収容部の両端部に当該蒸発材料をそれぞれ供給するリール部材と、前記リール部材をそれぞれ回転させるためのモータとを有する場合にも効果的である。
本発明では、前記搬送経路の両側部近傍に設けられ、前記蒸発材料の蒸発速度をそれぞれ検出する第1及び第2の膜厚センサと、前記第1及び第2の膜厚センサにて得られた結果に基づいて前記第1及び第2の材料供給手段における蒸発材料の供給量をそれぞれ制御する制御手段とを有する場合にも効果的である。
本発明では、前記第1及び第2の材料供給手段が、固体の蒸発材料を溶融するための溶融用加熱手段をそれぞれ有するとともに当該溶融蒸発材料を連続的に前記蒸発源に供給するように構成され、さらに、前記蒸発源に、当該溶融蒸発材料を蒸発させるための蒸発用加熱手段が設けられている場合にも効果的である。
本発明では、前記制御手段が、前記リール部材の回転速度を制御するように構成されている場合にも効果的である。
本発明では、前記制御手段が、前記溶融用加熱手段に対する通電量を制御するように構成されている場合にも効果的である。
また、本発明は、上述したいずれかの蒸着装置を用いた蒸着方法であって、前記第1及び第2の膜厚センサにて得られた蒸発速度の差が所定値を超えた場合に、前記第1及び第2の材料供給手段のうち、当該第1及び第2の膜厚センサのうち蒸発速度の大きい方の側の材料供給手段を動作させて当該材料供給手段における蒸発材料の供給量を増加させる工程を有するものである。
【0007】
本発明の場合、細長形状の収容部を有する蒸発源の両側部に第1及び第2の材料供給手段を設けるとともに、蒸発源の収容部の長手方向に対して交差する方向に成膜対象物を搬送するようにし、さらに、第1及び第2の材料供給手段から蒸発源の収容部の両端部にそれぞれ所定量の蒸発材料を供給して加熱手段で当該蒸発材料の蒸発温度以上の温度で加熱するようにしたことから、例えば金属等の蒸発材料を迅速且つ均一に溶融して高い蒸発速度で蒸発させることができるとともに、大型の成膜対象物に対して均一な膜厚で連続的な成膜を行うことができる。
そして、成膜対象物上に形成された均一な膜により成膜対象物の温度上昇が抑えられ、成膜対象物上に既に形成された膜への熱による影響を抑えることができる。
本発明において、第1及び第2の材料供給手段が、巻き付けられた細長形状の蒸発材料をその回転により繰り出して蒸発源の収容部の両端部に当該蒸発材料をそれぞれ供給するリール部材と、これらリール部材をそれぞれ回転させるためのモータとを有する場合には、簡易な構成で所定量の蒸発材料を蒸発源の収容部に供給することができるとともに、リール部材の回転速度を調整することにより、成膜対象物の搬送方向の両側において蒸発速度の調整を容易に行うことができる。
本発明において、搬送経路の両側部近傍に設けられ、蒸発材料の蒸発速度をそれぞれ検出する第1及び第2の膜厚センサと、これら第1及び第2の膜厚センサにて得られた結果に基づいて第1及び第2の材料供給手段における蒸発材料の供給量をそれぞれ制御する制御手段とを有する場合には、成膜を自動化することができるとともに、成膜対象物上における膜厚の均一性を向上させることができる。
本発明において、第1及び第2の材料供給手段が、固体の蒸発材料を溶融するための溶融用加熱手段をそれぞれ有するとともに当該溶融蒸発材料を連続的に前記蒸発源に供給するように構成され、さらに、蒸発源に当該溶融蒸発材料を蒸発させるための蒸発用加熱手段が設けられている場合には、第1及び第2の材料供給手段において溶融した溶融蒸発材料は第1及び第2の材料供給手段に留まることなく蒸発源の収容部に注入されるため、蒸発源において溶融蒸発材料が均一に充填され、高速で均一に蒸発する。
このように、本発明によれば、第1及び第2の材料供給手段において溶融蒸発材料が留まらないため、溶融蒸発材料の無駄な蒸発が抑えられ、これにより蒸着装置のトラブルのリスクやメンテナンスの回数を減らすことができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、大型の成膜対象物の表面に分布が均一な成膜を簡素な構成の装置で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】(a):本発明に係る蒸着装置の実施の形態の全体構成を示す断面図(b):同実施の形態における蒸発源の配置構成を示す平面図
【図2】(a)(b):同蒸着装置の動作を示す断面図
【図3】本発明の他の実施の形態の蒸着装置の全体構成を示す断面図
【図4】(a)〜(c):同実施の形態の蒸着装置の動作を示す断面図
【図5】本発明の他の実施の形態の蒸着装置の全体構成を示す断面図
【図6】(a)(b):同実施の形態の蒸着装置の動作を示す断面図(その1)
【図7】同実施の形態の蒸着装置の動作を示す断面図(その2)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
図1(a)は、本発明に係る蒸着装置の実施の形態の全体構成を示す断面図、図1(b)は、同実施の形態における蒸発源の配置構成を示す平面図である。
【0011】
図1(a)に示すように、本実施の形態の蒸着装置1は、図示しない真空排気系に接続された真空槽2を有している。
真空槽2内の例えば下部には、蒸発源10が設けられている。
【0012】
図1(b)に示すように、蒸発源10は、基板搬送方向(Y軸方向)と直交するX軸方向に延びる細長形状の蒸発容器11を有し、この蒸発容器11には、後述する溶融した蒸発材料(以下「溶融蒸発材料」という。)30を収容するためのX軸方向に延びる細長形状の収容部12が設けられている。
【0013】
蒸発容器11は、例えばセラミックス等の絶縁性材料からなり、その周囲には、例えば抵抗加熱方式の加熱手段13が設けられている。この加熱手段13は、図示しない加熱用電源に接続され、後述する蒸発材料31、32の蒸発温度より高い温度で加熱するように構成されている。
【0014】
蒸発源10の両側部には、第1及び第2の材料供給手段21、22がそれぞれ設けられている。
本実施の形態の場合、第1及び第2の材料供給手段21、22は、同一の構成を有している。
【0015】
第1及び第2の材料供給手段21、22は、基板搬送方向と平行方向の回転軸23、24をそれぞれ有するリール部材25、26をそれぞれ有している。
各リール部材25、26には、それぞれ細長い形状に形成された固体の蒸発材料31、32が巻き付けられている。そして、例えば図示しないガイド部材によって蒸発材料31、32の先端部が蒸発容器11の収容部12内に位置するように位置決めされている。
【0016】
本発明の場合、蒸発材料31、32としては、例えば、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、銅(Cu)、インジウム(In)、錫(Sn)、リチウム(Li)、ビスマス(Bi)、鉛(Pb)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、バリウム(Ba)やこれらを含む合金を好適に用いることができる。
各リール部材25、26は、それぞれ隣接して配置されたモータ27、28によって回転するように構成されている。
ここで、各モータ27、28は、図示しない制御手段に接続され、この制御手段からの命令に基づいて後述するようにそれぞれの回転が制御されるようになっている。
【0017】
一方、真空槽2内の蒸発源10の上方には、ローラ等の搬送機構(図示せず)によって構成され上記基板搬送方向に延びる搬送経路5が設けられ、この搬送経路5に沿って複数の基板4が連続的に蒸発源10の上方を通過するように構成されている。
【0018】
図2(a)(b)は、同蒸着装置の動作を示す断面図である。
本実施の形態においては、まず、加熱手段13を駆動して蒸発容器11を蒸発材料31、32の蒸発温度以上の温度に加熱するとともに、図2(a)に示すように、リール部材25、26をそれぞれ蒸発源10側に回転させて各蒸発材料31、32の先端部を蒸発容器11の収容部12の底部に接触させる。
【0019】
これにより、各蒸発材料31、32が先端部から溶融し、さらに、収容部12内に留まった溶融材料によって各蒸発材料31、32が溶融するので(以下、「溶融蒸発材料」30という。)、リール部材25、26の回転を継続し、図2(b)に示すように、溶融蒸発材料30を蒸発容器11の収容部12内に充填させる。
【0020】
そして、溶融蒸発材料30が蒸発容器11の収容部12内に充填された後は、リール部材25、26の回転速度を遅くして例えば同一の一定速度に保持するとともに、基板4の搬送を開始し、基板4上への蒸着を行う(図2(b)参照)。
【0021】
そして、例えば予め定めたシーケンスに基づいてリール部材25、26の回転速度を調整して蒸発材料31、32の供給量を調整することにより、基板の両側において蒸着速度が均一になるようにする。
【0022】
この場合、一方の蒸発材料(例えば蒸発材料31)の供給量を増加させることにより、新たに液中に挿入した固体の蒸発材料31が溶融し、その挿入した部分の近傍において溶融蒸発材料30の温度が低下するため、第1の材料供給手段21側の蒸発材料の蒸気の量が減少し、第1の材料供給手段21側の蒸発速度を小さくすることができる。
【0023】
逆に、蒸発材料31の供給量を減少させることにより、新たに液中に挿入した固体の蒸発材料31の溶融量が減少し、その挿入した部分の近傍において溶融蒸発材料30の温度が上昇するため、第1の材料供給手段21側の蒸発材料の蒸気の量が増加し、第1の材料供給手段21側の蒸発速度を大きくすることができる。
【0024】
また、本実施の形態において、蒸発容器11の収容部12内における溶融蒸発材料30の量を一定に保つためには、例えば、次のような制御を行うとよい。
蒸発容器11の収容部12内における溶融蒸発材料30の量は、第1の材料供給手段21による蒸発材料31の供給量と、第2の材料供給手段22による蒸発材料32の供給量から溶融蒸発材料30の蒸発量を減じた値である。
ここで、第1及び第2の材料供給手段21、22による蒸発材料31、32の供給量は、それぞれの供給速度と各材料のサイズから算出する。
【0025】
以上述べた本実施の形態によれば、細長形状の収容部12を有する蒸発源10の両側部に第1及び第2の材料供給手段21、22を設けるとともに、蒸発源10の収容部12の長手方向に対して直交方向に基板4を搬送するようにし、さらに、第1及び第2の材料供給手段21、22から蒸発源10の収容部12の両端部にそれぞれ所定量の蒸発材料31、32を供給して加熱手段13で当該蒸発材料31、32の蒸発温度以上の温度で加熱するようにしたことから、例えば金属等の蒸発材料31、32を迅速に溶融して高い蒸発速度で蒸発させることができるとともに、大型の基板4に対して均一な膜厚で連続的な成膜を行うことができる。
【0026】
また、本実施の形態では、第1及び第2の材料供給手段21、22が、巻き付けられた細長形状の蒸発材料31、32をその回転により繰り出して蒸発容器11の収容部12の両端部にそれぞれ供給するリール部材25、26と、これらリール部材25、26をそれぞれ回転させるためのモータ27、28とを有することから、簡易な構成で蒸発材料31、32を所定量だけ蒸発源10の収容部12に供給することができるとともに、リール部材25、26の回転速度を調整することにより、基板搬送方向の両側において蒸発速度を調整することができる。
【0027】
図3は、本発明の他の実施の形態の全体構成を示す断面図であり、以下、上記実施の形態と対応する部分には同一の符号を付しその詳細な説明を省略する。
図3に示すように、本実施の形態の蒸着装置1Aは、加熱手段13が、加熱用電源14に接続され、この加熱用電源14に対する制御手段15からの命令に基づいて加熱を行うように構成されている。
【0028】
また、上述した各モータ27、28は、この制御手段15に接続され、制御手段15からの命令に基づいてそれぞれの回転が制御されるようになっている。
さらに、搬送経路5の両側部近傍には、蒸発材料31、32(溶融蒸発材料30)の蒸発速度をそれぞれ検出する第1及び第2の膜厚センサ41、42が設けられている。
【0029】
第1及び第2の膜厚センサ41、42は、制御手段15に接続され、後述するように、第1及び第2の膜厚センサ41、42にて得られた結果に基づいて第1及び第2の材料供給手段21、22における蒸発材料31、32の供給量をそれぞれ制御するように構成されている。
【0030】
図4(a)〜(c)は、本実施の形態の蒸着装置の動作を示す断面図である。
本実施の形態では、まず、加熱手段13を駆動して蒸発容器11を蒸発材料31、32の蒸発温度以上の温度に加熱するとともに、図4(a)に示すように、リール部材25、26をそれぞれ蒸発源10側に回転させて各蒸発材料31、32の先端部を蒸発容器11の収容部12の底部に接触させる。
【0031】
これにより、各蒸発材料31、32が先端部から溶融するので、リール部材25、26の回転を継続し、図4(b)に示すように、溶融蒸発材料30を蒸発容器11の収容部12内に充填させる。
【0032】
そして、溶融蒸発材料30が蒸発容器11の収容部12内に充填された後は、リール部材25、26の回転速度を遅くして例えば同一の一定速度に保持するとともに、基板4の搬送を開始し、基板4上への蒸着を行う(図4(b)参照)。
【0033】
蒸着中においては、第1及び第2の膜厚センサ41、42の測定結果を常時モニターしておき、その結果に応じて例えば以下のような制御を行う。
すなわち、第1及び第2の膜厚センサ41、42にて得られた蒸発速度の差が所定値を超えた場合に第1及び第2の膜厚センサ41、42のうち蒸発速度の大きい方の側の材料供給手段を動作させるように予め制御手段15に記憶させておく。
【0034】
例えば、第1及び第2の膜厚センサ41、42のうち第1の膜厚センサ41にて得られた蒸発速度が第2の膜厚センサ42にて得られた蒸発速度より大きい場合には、第1の材料供給手段21を動作させる。
【0035】
すなわち、図4(c)に示すように、制御手段15からの命令により、第1の材料供給手段21のモータ27の回転速度を大きくしてリール部材25の回転速度を大きくし、蒸発材料31の供給量を増加させる。
【0036】
これにより、新たに液中に挿入した固体の蒸発材料31が溶融し、その挿入した部分の近傍において溶融蒸発材料30の温度が低下するため、第1の材料供給手段21側の溶融蒸発材料30の蒸発量が減少し、第1の材料供給手段21側の蒸発速度が小さくなる。
【0037】
逆に、モータ27の回転速度を小さくしてリール部材25の回転速度を小さくし、蒸発材料31の供給量を減少させることにより、新たに液中に挿入した固体の蒸発材料31の溶融量が減少し、その挿入した部分の近傍において溶融蒸発材料30の温度が上昇するため、第1の材料供給手段21側の蒸発材料の蒸気の量が増加し、第1の材料供給手段21側の蒸発速度が大きくなる。
【0038】
そして、第1及び第2の膜厚センサ41、42にて得られた蒸発速度の差が所定値以内になった時点において、制御手段15からの命令により、第1の材料供給手段21のモータ27の回転速度をそのまま保持する。
その後、蒸着が終了するまで第1及び第2の膜厚センサ41、42の測定結果を常時モニターしておき、その結果に応じて上述した制御を行う。
【0039】
また、本実施の形態において、蒸発容器11の収容部12内における溶融蒸発材料30の量を一定に保つためには、例えば、次のような制御を行うとよい。
【0040】
A.溶融蒸発材料30の量を一定の量に制御する。
蒸発容器11の収容部12内における溶融蒸発材料30の量は、第1の材料供給手段21による蒸発材料31の供給量と、第2の材料供給手段22による蒸発材料32の供給量から溶融蒸発材料30の蒸発量を減じた値である。
ここで、第1及び第2の材料供給手段21、22による蒸発材料31、32の供給量は、それぞれの供給速度と各材料のサイズから算出する。
【0041】
一方、溶融蒸発材料30の蒸発量については、第1及び第2の膜厚センサ41、42にて得られた蒸発速度の平均値から算出する。
この場合、第1及び第2の膜厚センサ41、42にて得られた蒸発速度の平均値と実際の蒸発速度との関係を予め求めておき、その関係から溶融蒸発材料30の蒸発量を算出する。
【0042】
さらに、リール部材25、26の回転速度即ち蒸発材料31、32の供給速度を同じ値で増加又は減少させる。例えば、溶融蒸発材料30の供給量が目標値より少ない場合には、リール部材25、26の回転による材料供給量ΔVだけ増加させ、溶融蒸発材料30の供給量が目標値より多い場合には、リール部材25、26の回転による材料供給量ΔVだけ減少させる。
【0043】
B.蒸発速度(成膜レート)を一定に制御する。
第1及び第2の膜厚センサ41,42、加熱手段13、加熱用電源14及び制御手段15のループにおいて、加熱手段13に対する電力を制御することにより、目標とする蒸発速度に対し、第1及び第2の膜厚センサ41,42にて得られた結果の平均値を追従させるようにする。この場合、第1及び第2の膜厚センサ41,42にて得られた結果の平均値が所定の範囲内となるように制御する。
【0044】
そして、第1及び第2の膜厚センサ41,42にて得られた結果が異なる場合、例えば、第1の膜厚センサ41にて得られた蒸発速度が第2の膜厚センサ42にて得られた蒸発速度より大きい場合には、第1の材料供給手段21のリール部材25の回転速度を速くして蒸発材料31の供給量を大きくするとともに、第2の材料供給手段22のリール部材26の回転速度を遅くして蒸発材料32の供給量を少なくなるように制御し、第1及び第2の膜厚センサ41,42における測定結果が第1及び第2の膜厚センサ41,42の平均値に近づくように蒸発速度のバランスを制御する。
【0045】
以上述べた本実施の形態によれば、基板4の搬送経路5の両側部近傍において、蒸発速度をそれぞれ検出する第1及び第2の膜厚センサ41、42が設けられ、これら第1及び第2の膜厚センサ41、42にて得られた結果に基づいて第1及び第2の材料供給手段21、22における蒸発材料31、32の供給量をそれぞれ制御するようにしたことから、上記実施の形態による効果に加え、成膜を自動化することができるとともに、基板4上における膜厚の均一性を向上させることができる。
【0046】
また、上述したように蒸発容器11の収容部12内における溶融蒸発材料30の量を一定に保つように制御することにより、蒸発容器11の収容部12から溶融蒸発材料30が溢れたり、蒸発容器11の収容部12内において溶融蒸発材料30がなくなることを防止することができる。
その他の構成及び作用効果については上述の実施の形態と同一であるのでその詳細な説明を省略する。
【0047】
図5は、本発明の他の実施の形態の蒸着装置の全体構成を示す断面図であり、以下、上記実施の形態と対応する部分には同一の符号を付しその詳細な説明を省略する。
図5に示すように、本実施の形態の蒸着装置1Bは、蒸発源10Bの両端部の上方に、蒸発材料31、32を溶融する第1及び第2の加熱手段51、52を有している。
【0048】
第1及び第2の加熱手段51、52は、蒸発源10Bの両端部の上方にそれぞれ配置されている。
第1及び第2の加熱手段51、52は、耐熱材料からなる例えば筒状の本体部53、54をそれぞれ有し、各本体部53、54内には、それぞれ内部を貫通する材料供給孔53a、54aが設けられている。これら本体部53、54は、それぞれ蒸発源10B側の部分を若干下方に傾斜させ、これにより材料供給孔53a、54aが蒸発源10Bに向って下方に傾斜するように配置されている。
そして、第1及び第2の加熱手段51、52の本体部53、54の蒸発源10B側の端部が、蒸発容器11Bの収容部12Bの両端部の上方近傍にそれぞれ配置されている。
【0049】
その一方、第1及び第2の加熱手段51、52の本体部53、54の材料供給孔53a、54aには、第1及び第2の加熱手段51、52側から蒸発材料31、32が挿入され、それぞれの先端部が材料供給孔53a、54aの内壁に接触するように位置決めされている。
【0050】
第1及び第2の加熱手段51、52の本体部53、54には、溶融用電源16に接続されたヒータ(溶融用加熱手段)55、56がそれぞれ設けられている。
また、第1及び第2の加熱手段51、52の本体部53、54には、これら本体部53、54の温度を測定するための温度センサ57、58がそれぞれ設けられている。
【0051】
そして、溶融用電源16及び温度センサ57、58は、上述した制御手段15に接続され、温度センサ57、58にて得られた結果に基づいて各ヒータ55、56を制御するように構成されている。
なお、第1及び第2の加熱手段51、52は、固体の蒸発材料31、32が溶融する温度で且つできるだけ低い温度で加熱するように構成されている。
【0052】
一方、本実施の形態の蒸発源10Bは、高抵抗の導電材料からなり細長形状の収容部12Bを有する蒸発容器11Bを有している。
蒸発容器11Bは、両端部にそれぞれ設けられた電極17、18を介して例えば交流電源からなる蒸発用電源14Bに接続され、これにより蒸発容器11B自体が蒸発用加熱手段として発熱するように構成されている。
なお、蒸発容器11Bは、固体の蒸発材料31、32が溶融する温度より高く、溶融蒸発材料30が蒸発する温度まで加熱されるようになっている。
【0053】
図6(a)(b)及び図7は、本実施の形態の蒸着装置の動作を示す断面図である。
本実施の形態では、まず、溶融用電源16を駆動しヒータ55、56に通電して第1及び第2の加熱手段51、52の本体部53、54を加熱する。
【0054】
この場合、温度センサ57、58にて得られた結果に基づいて各ヒータ55、56を制御することにより、第1及び第2の加熱手段51、52の本体部53、54を所定の温度に制御する。
【0055】
そして、図6(a)に示すように、リール部材25、26をそれぞれ蒸発源10B側に回転させて第1及び第2の加熱手段51、52の材料供給孔53a、54a内に蒸発材料31、32を挿入し、それぞれの先端部を材料供給孔53a、54aの内壁に接触させる。
【0056】
これにより、第1及び第2の加熱手段51、52の材料供給孔53a、54a内において各蒸発材料31、32が溶融し、溶融蒸発材料30が材料供給孔53a、54aからあふれ出して蒸発容器11Bの収容部12Bの両端部内にそれぞれ連続的に注入される。
【0057】
そして、溶融蒸発材料30が蒸発容器11Bの収容部12B内に充填された後は、リール部材25、26の回転速度を遅くして例えば同一の一定速度に保持するとともに、基板4の搬送を開始し、基板4上への蒸着を行う(図6(b)参照)。
蒸着中においては、第1及び第2の膜厚センサ41、42の測定結果を常時モニターしておき、その結果に応じて例えば以下のような制御を行う。
【0058】
すなわち、第1及び第2の膜厚センサ41、42にて得られた蒸発速度の差が所定値を超えた場合に第1及び第2の膜厚センサ41、42のうち蒸発速度の大きい方の側の材料供給手段を動作させるように予め制御手段15に記憶させておく。
【0059】
例えば、第1及び第2の膜厚センサ41、42のうち第1の膜厚センサ41にて得られた蒸発速度が第2の膜厚センサ42にて得られた蒸発速度より大きい場合には、第1の材料供給手段21を動作させる。
【0060】
この場合は、図7に示すように、温度センサ57にて得られた結果に基づき、制御手段15からの命令により、第1の材料供給手段21のモータ27の回転速度を大きくしてリール部材25の回転速度を大きくし、蒸発材料31の供給量を増加させる。
これにより、第1の材料供給手段21から蒸発容器11Bの収容部12Bへ注入される溶融蒸発材料30の量が増加する(符号30Bで示す)。
【0061】
第1の材料供給手段21から蒸発容器11Bの収容部12Bへ注入される溶融蒸発材料30の温度は、収容部12B内において蒸発している溶融蒸発材料30の温度より低いため、溶融蒸発材料30を注入した部分の近傍において溶融蒸発材料30の温度が低下し、その結果、第1の材料供給手段21側の溶融蒸発材料30の蒸発量が減少し、第1の材料供給手段21側の蒸発速度が小さくなる。
【0062】
そして、第1及び第2の膜厚センサ41、42にて得られた蒸発速度の差が所定値以内になった時点において、制御手段15からの命令により、溶融用電源16から第1の材料供給手段21のヒータ55への通電量を元に戻すとともに、第1の材料供給手段21のモータ27の回転速度をそのまま保持する。
その後、蒸着が終了するまで第1及び第2の膜厚センサ41、42の測定結果を常時モニターしておき、その結果に応じて上述した制御を行う。
【0063】
以上述べた本実施の形態によれば、第1及び第2の材料供給手段21、22が、固体の蒸発材料31、32を溶融するためのヒータ55、56をそれぞれ有するとともに、溶融蒸発材料30を連続的に蒸発源10Bに供給するように構成され、さらに、蒸発源10Bの蒸発容器11Bによって当該溶融蒸発材料30を蒸発させるように構成されていることから、第1及び第2の材料供給手段21、22において溶融した溶融蒸発材料30は第1及び第2の材料供給手段21、22に留まることなく蒸発源10Bの収容部12Bに注入され、蒸発源10Bにおいて溶融蒸発材料30が均一に充填されるので、均一な状態で高速に蒸発する。
【0064】
このように、本実施の形態によれば、第1及び第2の材料供給手段21、22において溶融蒸発材料30が留まらないため、溶融蒸発材料30の無駄な蒸発が抑えられ、これにより蒸着装置1のトラブルのリスクやメンテナンスの回数を減らすことができる。
【0065】
なお、本発明は上述の実施の形態に限られることなく、種々の変更を行うことができる。
例えば、上記実施の形態においては、リール部材に細長形状の固体の蒸発材料を巻き付け、モータによってリール部材を回転させることにより蒸発材料を移動させて蒸発源に供給するようにしたが、本発明はこれに限られず、蒸発材料を蒸発源に向って移動させることができれば、他の機構を採用することもできる。
【0066】
ただし、簡易な構成で所定量の蒸発材料を蒸発源の収容部に供給することができ、また、成膜対象物の搬送方向の両側において蒸発速度の調整を容易に行うことができる観点からは、上記実施の形態のように構成することが好ましい。
【0067】
また、図5に示す実施の形態においては、第1及び第2の膜厚センサ41、42のうち蒸発速度が大きい方の側の例えば第1の材料供給手段21について、溶融用電源16から第1の材料供給手段21のヒータ55への通電量を大きくするとともに、第1の材料供給手段21のモータ27の回転速度を大きくするようにしたが、本発明はこれに限られず、第1及び第2の膜厚センサ41、42のうち蒸発速度が大きい方の側の材料供給手段の溶融用加熱手段への通電量を大きくする動作又は材料供給手段のモータの回転速度を大きくする動作のいずれか一方のみを行うこともできる。
【0068】
さらに、上記実施の形態の蒸発源、第1及び第2の材料供給手段並びに第1及び第2の膜厚センサを搬送方向に複数配置することもできる。このような構成によれば、成膜対象物上に共蒸着膜を形成することができる。
加えて、本発明は、金属材料のみならず、有機材料についても適用することができるものである。
【符号の説明】
【0069】
1…蒸着装置
2…真空槽
4…基板(成膜対象物)
5…搬送経路
10…蒸発源
11…蒸発容器
12…収容部
13…加熱手段
21…第1の材料供給手段
22…第2の材料供給手段
25…リール部材
26…リール部材
27…モータ
28…モータ
30…溶融蒸発材料
31…蒸発材料
32…蒸発材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽と、
前記真空槽内に設けられ、蒸発材料を収容する細長形状の収容部と、当該収容部内の蒸発材料を当該蒸発材料の蒸発温度以上の温度で加熱する加熱手段とを有する蒸発源と、
前記真空槽内において前記蒸発源の収容部の長手方向に対して交差する方向に成膜対象物を搬送するための搬送経路と、
前記蒸発源の収容部の両側部に設けられ、前記蒸発材料を移動させつつ前記収容部の両端部にそれぞれ所定量の蒸発材料を供給する第1及び第2の材料供給手段と、
を有する蒸着装置。
【請求項2】
前記第1及び第2の材料供給手段が、巻き付けられた細長形状の蒸発材料をその回転により繰り出して前記蒸発源の収容部の両端部に当該蒸発材料をそれぞれ供給するリール部材と、前記リール部材をそれぞれ回転させるためのモータとを有する請求項1記載の蒸着装置。
【請求項3】
前記搬送経路の両側部近傍に設けられ、前記蒸発材料の蒸発速度をそれぞれ検出する第1及び第2の膜厚センサと、
前記第1及び第2の膜厚センサにて得られた結果に基づいて前記第1及び第2の材料供給手段における蒸発材料の供給量をそれぞれ制御する制御手段とを有する請求項1又は2のいずれか1項記載の蒸着装置。
【請求項4】
前記第1及び第2の材料供給手段が、固体の蒸発材料を溶融するための溶融用加熱手段をそれぞれ有するとともに当該溶融蒸発材料を連続的に前記蒸発源に供給するように構成され、さらに、前記蒸発源に、当該溶融蒸発材料を蒸発させるための蒸発用加熱手段が設けられている請求項3記載の蒸着装置。
【請求項5】
前記制御手段が、前記リール部材の回転速度を制御するように構成されている請求項2乃至4のいずれか1項記載の蒸着装置。
【請求項6】
前記制御手段が、前記溶融用加熱手段に対する通電量を制御するように構成されている請求項2乃至5のいずれか1項記載の蒸着装置。
【請求項7】
請求項3乃至請求項6のいずれか1項記載の蒸着装置を用いた蒸着方法であって、
前記第1及び第2の膜厚センサにて得られた蒸発速度の差が所定値を超えた場合に、前記第1及び第2の材料供給手段のうち、当該第1及び第2の膜厚センサのうち蒸発速度の大きい方の側の材料供給手段を動作させて当該材料供給手段における蒸発材料の供給量を増加させる工程を有する蒸着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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